(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】熱電変換素子、光検出器、画像素子及び光熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20230914BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20230914BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20230914BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20230914BHJP
H01L 31/0232 20140101ALI20230914BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H10N10/13
H10N10/857
H10N10/856
H10N10/851
H01L31/02 D
G01J1/02 R
(21)【出願番号】P 2019034731
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018037531
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018080180
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】久保 若奈
(72)【発明者】
【氏名】近藤 柾樹
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-027895(JP,A)
【文献】特開2012-119657(JP,A)
【文献】特表2013-542181(JP,A)
【文献】特開2016-096197(JP,A)
【文献】特開平07-111344(JP,A)
【文献】特開2004-104041(JP,A)
【文献】特開2011-095137(JP,A)
【文献】特開2014-211552(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0041705(US,A1)
【文献】特表2005-538573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/13
H10N 10/857
H10N 10/856
H10N 10/851
H01L 31/0232
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換膜と、
前記熱電変換膜の一部の内部
のみ又は表面
のみに配設された導電性ナノ構造体と、を備えた熱電変換素子。
【請求項2】
所定の間隔で離間して配置し、前記熱電変換膜で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極を備え、
前記導電性ナノ構造体が前記一対の電極のうちの一方の電極側寄り
のみに配設されている、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
熱電変換膜と、
熱電変換膜を挟むように、前記熱電変換膜の第1面及び第2面のそれぞれに設けられ、前記熱電変換膜で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極と、
前記熱電変換膜の第1面側
のみに配設された導電性ナノ構造体と、を備えた熱電変換素子。
【請求項4】
熱電変換材と、
前記熱電変換材を挟むように、前記熱電変換材の第1端面及び第2端面のそれぞれに設けられ、前記熱電変換材で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極と、
前記熱電変換材の第1端面側
のみに配設された導電性ナノ構造体と、を備えた熱電変換素子。
【請求項5】
熱電変換膜と、
前記熱電変換膜の一部の内部
のみ又は表面
のみに配設された導電性ナノ構造体と、
前記導電性ナノ構造体と共に、前記熱電変換膜を挟み込むように配置する金属薄膜と、からなる完全吸収メタマテリアル構造を備えた熱電変換素子。
【請求項6】
前記導電性ナノ構造体が複数備えられている、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
複数の導電性ナノ構造体が同じプラズモン共鳴波長を示すものからなる、請求項6に記載の熱電変換素子。
【請求項8】
複数の導電性ナノ構造体に異なるプラズモン共鳴波長を示すものが含まれている、請求項6に記載の熱電変換素子。
【請求項9】
前記複数の導電性ナノ構造体がランダムに配置されている、請求項
6、7又は8のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項10】
前記複数の導電性ナノ構造体が規則的に配置されている、請求項
6、7又は8のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項11】
前記導電性ナノ構造体が異方的形状を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項12】
前記熱電変換膜
または前記熱電変換材が有機材料からなる、請求項
1~11のいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項13】
前記熱電変換膜
または前記熱電変換材が無機材料からなる、請求項
1~11のいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱電変換素子を備えた光検出器。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱電変換素子を備えた画像素子。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱電変換素子を備えた光熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子、光検出器、画像素子及び光熱電変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼーベック効果を利用した熱電変換素子は、熱電変換材料の両端に温度差を与えることで電圧を発生させる。単体の熱電変換材料だけでは小さな電圧が発生するだけであるため、汎用的な電圧を得るために、熱電変換素子は通常、P型熱電半導体とN型熱電半導体を交互に並べて、両半導体の一端を高温部に接続し、他端を低温部に接続した形の熱電変換モジュールとして用いられる。また、実際の使用に際しては、高温部及び/又は低温部に高温熱源あるいは低温熱源からの熱を受けて用いられる。
【0003】
一方、光熱変換素子として、金属ナノ粒子における光の表面プラズモン共鳴吸収によって熱が発生する現象を利用するものが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、さらに、光熱変換素子において光の表面プラズモン共鳴吸収によって発生した熱を、熱電変換素子の高温部に伝達し、熱電変換素子においてその熱を電気に変換する、光熱発電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている光熱発電装置は、金属ナノ粒子を使って光エネルギーを熱エネルギーに変換する光熱変換素子と、さらに、光熱変換素子で発生した熱エネルギーの伝達を受けて電気エネルギーに変換する熱電変換素子(特許文献1においては「熱電変換部」と記載)とを別体として備えた装置である。この光熱発電装置において、熱電変換素子に着目すると、光熱変換素子が高温熱源に相当する。従って、この熱電変換素子が、高温部及び/又は低温部に高温熱源あるいは低温熱源からの熱を受けて用いられる点は従来の構成と同様である。
【0006】
このような従来構成の熱電変換素子に対して、本発明者は鋭意研究の結果、高温部や低温部が熱を受ける高温熱源あるいは低温熱源を備えない、従来の構成とは全く異なる構成の熱電変換素子に想到した。すなわち、本発明の熱電変換素子は、熱電変換膜自体にその一部に外部光を吸収して局所的に発熱する要素が備えられ、高温部を作り出せる(その結果として、それ以外の部分が低温部になる)熱電変換素子である。
【0007】
本発明は、高温熱源や低温熱源を外部に必要としない、従来の構成とは全く異なる構成の熱電変換素子並びに、それを備えた光検出器、画像素子及び光熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)本発明の第1の態様に係る熱電変換素子は、熱電変換膜と、前記熱電変換膜の一部の内部又は表面に配設された金属ナノ構造体と、を備えている。
【0010】
(2)上記態様において、所定の間隔で離間して配置し、前記熱電変換膜で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極を備え、前記導電性ナノ構造体が前記一対の電極のうちの一方の電極寄りに配設されている。
【0011】
(3)本発明の第2の態様に係る熱電変換素子は、熱電変換膜と、熱電変換膜を挟むように、前記熱電変換膜の第1面及び第2面のそれぞれに設けられ、前記熱電変換膜で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極と、前記熱電変換膜の第1面側に配設された導電性ナノ構造体と、を備えている。
【0012】
(4)本発明の第3の態様に係る熱電変換素子は、熱電変換材と、前記熱電変換材を挟むように、前記熱電変換材の第1端面及び第2端面のそれぞれに設けられ、前記熱電変換材で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極と、前記熱電変換材の第1端面側に配設された導電性ナノ構造体と、を備えている。
【0013】
(5)本発明の第4の態様に係る熱電変換素子は、熱電変換膜と、前記熱電変換膜の一部の内部又は表面に配設された導電性ナノ構造体と、前記導電性ナノ構造体と共に、前記熱電変換膜を挟み込むように配置する金属薄膜と、からなる完全吸収メタマテリアル構造を備えている。
【0014】
(6)上記態様において、前記金属ナノ構造体が複数備えられてもよい。
【0015】
(7)上記態様において、複数の金属ナノ構造体が同じプラズモン共鳴波長を示すものからなってもよい。
【0016】
(8)上記態様において、複数の金属ナノ構造体に異なるプラズモン共鳴波長を示すものが含まれていてもよい。
【0017】
(9)上記態様において、前記複数の金属ナノ構造体がランダムに配置されていてもよい。
【0018】
(10)上記態様において、前記複数の金属ナノ構造体が規則的に配置されていてもよい。
【0019】
(11)上記態様において、前記金属ナノ構造体が異方的形状を有してもよい。
【0020】
(12)上記態様において、前記熱電変換膜が有機材料からなってもよい。
【0021】
(13)上記態様において、前記熱電変換膜が無機材料からなってもよい。
【0022】
(14)本発明の第5の態様に係る光検出器は、本発明の熱電変換素子を備えている。
【0023】
(15)本発明の第6の態様に係る画像素子は、本発明の熱電変換素子を備えている。
【0024】
(16)本発明の第7の態様に係る光熱電変換素子は、本発明の熱電変換素子を備えている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱電変換素子によれば、高温熱源や低温熱源を外部に必要としない、従来の構成とは全く異なる構成の熱電変換素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。
【
図2】導電性ナノ構造体の形状を例示する模式図である。
【
図3】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例である。
【
図4】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例である。
【
図5】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例である。
【
図6】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例であり、(c)第3の例である。
【
図7】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例である。
【
図8】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例であり、(c)第3の例である。
【
図9】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図であり、(a)第1の例であり、(b)第2の例である。
【
図10】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した平面図である。
【
図11】本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した断面図である。
【
図12】メタマテリアル完全吸収構造を一端に有する本発明の熱電変換素子の概念図である。
【
図13】(a)は、基板上に金属平板電極、熱電変換膜、金属ナノ構造体を順に形成した構成であり、基板のメタマテリアル完全吸収構造を形成した側から光照射を行った場合を示す断面模式図であり、(b)は、基板上に金属ナノ構造体、熱電変換膜、金属平板電極を順に形成した構成であり、基板の下方から光照射を行った場合を示す断面模式図である。
【
図14】熱電変換素子サンプルを模式的に示した斜視図である。
【
図15】実施例1の熱電変換素子サンプルについて、(a)は短軸偏光の単色光照射下で発生した電流値の測定結果を示すグラフであり、(b)は長軸偏光の単色光照射下で発生した電流値の測定結果を示すグラフである。
【
図16】実施例2の熱電変換素子サンプルについて、(a)は、短軸偏光の単色光照射下における外部量子効率の波長依存性を示すグラフであり、(b)は、長軸偏光の単色光照射下外部量子効率の波長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
(熱電変換素子)
図1は、本発明の一実施形態にかかる熱電変換素子10を模式的に示した斜視図である。
熱電変換素子10は、熱電変換膜1と、熱電変換膜の一部の内部に配設された導電性ナノ構造体2と、を備えている。
図1に示した熱電変換素子10では、基板5を図示したが、本発明の熱電変換素子において、基板は必須ではなく、また、本発明の熱電変換素子を他の装置に備えて用いてもよい。
本発明の熱電変換素子では、熱電変換膜の一部に備える導電性ナノ構造体における光のプラズモン共鳴吸収によって発生する熱を利用して、熱電変換素子の両端部間に温度差を作りだし、ゼーベック効果によって熱電変換素子の両端部間に起電力を生ぜしめる。
本発明の熱電変換素子は、導電性ナノ構造体のプラズモン共鳴時に発生する局所熱を動力源として機能する熱電変換素子である。
本発明の熱電変換素子は、実際の使用の際に、従来の熱電変換素子あるいは熱電変換モジュールが備えている高温部や低温部、高温熱源や低温熱源を必要としない。
本発明の熱電変換素子は、熱電変換膜で発生した電流又は電圧は、所定の間隔で離間して配置する一対の電極によって取り出すことができる。一対の電極の具体的な配置例については後述する。
【0029】
図1に示す熱電変換素子10では、導電性ナノ構造体2は熱電変換膜1の一部の内部に配設されているが、熱電変換膜上に、すなわち、熱電変換膜の表面(一方の面)に導電性ナノ構造体2が配設された構成としてもよい。
導電性ナノ構造体2でプラズモン共鳴時に発生した局所熱は、導電性ナノ構造体2の四方八方に伝搬する。従って、導電性ナノ構造体2が熱電変換膜1の表面に配設された構成よりも、熱電変換膜1の内部に配設された構成(換言すると、熱電変換膜内に埋没された構成)の方が、熱伝搬効率の観点から好ましい。
【0030】
また、導電性ナノ構造体は、熱電変換膜の「一部にだけ」設けるが、これは、熱電変換膜中に温度差を設ける(高温部と低温部とを作る)必要があるために、熱電変換膜の全体に設けることはできない。この「一部」として、熱電変換膜の一端部を用いてもよい。この場合、その一端部が高温部となり、それ以外の部分が低温部となる。電流又は電圧を取り出す電極は、高温部近傍と、低温部のどこかに設ければよい。例えば、熱電変換膜を一方向に延在する形状である場合には、低温部の電極はその長手方向の「一端部」と反対側の他端部に設けてもよい。
【0031】
<導電性ナノ構造体>
導電性ナノ構造体の材料と用いることができる材料として公知のプラズモン共鳴を示す材料を用いることができる。
具体的に例示すれば、金・銀・銅・白金・アルミニウムなどの金属や、酸化インジウム錫などの金属酸化物が挙げられる。
【0032】
また、導電性ナノ構造体の構造と用いることができる構造として、プラズモン共鳴を示す構造であればよいが、熱電変換膜の一部に設ける構造なので、単なる平膜は一部にだけ設ける。
具体的に例示すれば、
図2にその一部を示すように、球、円板、楕円柱、楕円版、ロッド、直方体、立方体、パッチ(薄板)、円柱、中空シリンダー、ボウタイ(蝶ネクタイ)型、二量体・三量体・四量体・五量体等のn量体、星形、グレーティング、微小穴がランダムまたは規則的に配列した金属薄膜、などが挙げられる。形状に異方性を有するもの例えば、ロッドや直方体などは、偏光応答性を有する。
これらの形状にする方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、電子線描画法、光露光法、真空蒸着法、スパッタ法、合成法、自己集積化法などを用いることができる。
【0033】
図1に示す熱電変換素子10では、導電性ナノ構造体は複数備えられているが、単体(1つ)であっても構わない。
本明細書において、特に記載しない限り、「導電性ナノ構造体」は、単体(1つ)の導電性ナノ構造体の場合も、複数の導電性ナノ構造体(この場合、「導電性ナノ構造体群」ということがある)の場合の両方を意味する。また、
図1において、導電性ナノ構造体を複数備えた構成を図示しているが、一例として示しているだけであり、本実施形態には、導電性ナノ構造体が一つのものも含む。同様に、以下の図においても、導電性ナノ構造体が複数示されている場合でも、実施形態には導電性ナノ構造体が一つのものも含み、同様に、導電性ナノ構造体が一つだけ示されている場合でも、実施形態には導電性ナノ構造体が複数のものも含む。
【0034】
プラズモン共鳴波長は、導電性ナノ構造体の種類、サイズ、形状、数、密度などの態様によって決まる。従って、導電性ナノ構造体の態様を適切に制御することによって、熱電変換素子が駆動する波長域などの特性を制御することができる。例えば、可視光、遠赤外光など任意のプラズモン共鳴波長の導電性ナノ構造体を形成できる。
【0035】
本発明の熱電変換素子において、同じプラズモン共鳴波長を示す導電性ナノ構造体を複数備えた構成とすることにより、起電力を上げることができる。例えば、単体(1つ)の導電性ナノ構造体によって発生する局所熱によっては熱電変換素子の駆動ができない構成の場合には、駆動させるのに十分な局所熱を発生するように、複数の同じプラズモン共鳴波長を示す導電性ナノ構造体を備えてもよい。かかる構成をとることによって、狭帯応答性を向上させることができる。
あるいは、柔軟性を有するフレキシブルな熱電変換素子とするために、単体(1つ)の導電性ナノ構造体とするとその剛直性のためにフレキシブルさが損なわれる場合には、各導電性ナノ構造体間の離間距離を適切にした複数の導電性ナノ構造体とする構成としてもよい。
【0036】
本発明の熱電変換素子において、複数の導電性ナノ構造体(導電性ナノ構造体群)を備えた構成において、異なるプラズモン共鳴波長を示す導電性ナノ構造体を含む構成としてもよい。
この構成では、異なるプラズモン共鳴波長が比較的近い波長の場合には、広帯域応答性が向上する。また、近くない所望波長の光を吸収するような、異なるプラズモン共鳴波長を示す導電性ナノ構造体群を備える構成とすることによって、特定の複数の波長の光に応答する熱電変換素子としてもよい。
異なるプラズモン共鳴波長を示す導電性ナノ構造体の選択によって、プラズモン共鳴波長スペクトルを任意に設計した熱電変換素子とすることができる。
【0037】
本発明の熱電変換素子において、導電性ナノ構造体が異方的形状を有するものを用いてもよい。
異方的形状として代表的な形状として、ナノロッドが挙げられる。
ナノロッドは、所定の縦横比(アスペクト比)を有する形状である。ナノロッド形状の導電性ナノ構造体(以下、「導電性ナノロッド構造体」ということがある)は、短軸と長軸に由来する二つの異なるプラズモン共鳴波長を有する。すなわち、それぞれの軸方向の自由電子振動に由来する共鳴モードを有する。導電性ナノロッド構造体を熱電変換膜に備えた熱電変換素子では、偏光方向が短軸又は長軸のいずれかに一致する光を吸収するので偏光応答性を有するものとなる。
また、複数の同じ導電性ナノロッド構造体を所定の複数の配向方向に並べてパターンとしてもよい。
【0038】
本発明の熱電変換素子において、複数の導電性ナノ構造体をランダムに配置してもよい。ランダム配置の導電性ナノ構造体群は容易に形成することができる。
「ランダムに配置」とは、後述する「規則的に配置」以外の配置を意味している。ランダムに配置する方法としては、例えば、有機熱電材料溶液に複数の導電性ナノ構造体を混ぜ合わせ、スピンコート法によって熱電変換材料を成膜する方法や、無機熱電材料をスパッタ・蒸着などで成膜する際に、導電性ナノ構造体の材料を同時スパッタ・蒸着して熱電変換膜内に導電性ナノ構造体を閉じ込めて熱電変換材料を成膜する方法が挙げられる。
【0039】
本発明の熱電変換素子において、複数の導電性ナノ構造体を規則的に配置してもよい。
規則的に配置する方法としては例えば、フォトリソグラフィによる、規則的な配置のパターニングが挙げられる。
規則的配置の導電性ナノ構造体群は、その規則性(例えば、周期性)ならではの応答特性を有する。
【0040】
導電性ナノ構造体のサイズについて、目安を例示するために直方体形状を例にとると、長さとしては1~10000nm、幅としては1~10000nm、高さとしては1~10000nmとすることができる。
【0041】
本発明の熱電変換素子において、複数の導電性ナノ構造体を備えた構成では、二個づつ、三個づつ、四個づつ等、n個づつが近接して相互作用を有する二量体、三量体、四量体等、n量体で構成された導電性ナノ構造体群とすることができる。
n量体では、熱がたまりやすいので、発生した局所熱を効率的に活用できる。
例えば、可視光のプラズモン共鳴吸収を利用する場合、相互作用する隣接の導電性ナノ構造体間の距離は、0nm超え、40nmにすることが好ましく、10nm以下にすることがより好ましい。また、赤外光のプラズモン共鳴吸収を利用する場合、相互作用する隣接の導電性ナノ構造体間の距離は、1nm以上、40nm以下にすることが好ましく、1nm以上、20nm以下にすることがより好ましい。
【0042】
<熱電変換膜>
熱電変換膜1の材料としては、公知の有機熱電変換材料、無機熱電変換材料を用いることができる。
具体的には、有機熱電変換材料としては、PEDOT:PSS(3,4-エチレンジオキシチオフェン:ポリ(4-スチレンスルホン酸塩))、P3HT(3-ヘキシルチオフェン)、ポニフェニレンビニレン等の導電性ポリマーや、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。また、無機熱電変換材料としては、金属酸化物系、テルル化合物系、シリコン化合物系、アンチモン化合物系などが挙げられる。
【0043】
熱電変換膜1の膜厚には特に制限はないが、目安を例示すれば、10nm~10000nmとすることができる。
【0044】
熱電変換膜の形成方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、塗布、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、蒸着法、スパッタ法などを用いることができる。無機系熱電変換材料による熱電変換膜の形成では例示した方法をすべて利用することができ、有機系熱電変換材料による熱電変換膜の形成では例示した方法のうち、スパッタ法以外の方法をすべて利用することができる。
塗布やスピンコート等のように、複数の導電性ナノ構造体を有機系熱電変換材料に混ぜることができる方法の場合には、混ぜた後に塗布、スピンコートを行うことにより、熱電変換膜の内部に導電性ナノ構造体が分散した構成とすることができる。
【0045】
<基板>
本発明の熱電変換素子では基板は必須ではないが、本発明の熱電変換素子では基を基板上に作製する場合、その基板としては例えば、ソーダライムガラスなどを用いることができる。
用途に応じて基板を選択できるが、全体としてフレキシブル(柔軟な)ものにしたい場合には、フレキシブルな基板として例えば、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマーなどを用いることができる。逆に全体として剛性な者にしたい場合には例えば、サファイア基板、石英基板、シリコン基板などを用いることができる。
【0046】
基板を用いず、熱電変換素子を自立膜とすることができる。
自立膜にする方法としては例えば、基板上に犠牲層を形成し、その上に熱電変換膜及び導電性ナノ構造体(必要に応じて電極も)を形成する。ここで、犠牲層を溶解すると、熱電変換素子が基板から剥離し、自立膜となる。
【0047】
<表面保護膜>
本発明の熱電変換素子において、導電性ナノ構造体を熱電変換膜の表面に形成した場合には、表面保護膜を形成してもよい。表面保護膜の材料としては、プラズモン共鳴波長を透過する材料であれば、電子デバイス等の表面保護膜として用いられている公知の材料のものを用いることができる。
かかる表面保護膜は、導電性ナノ構造体を熱電変換膜の内部に埋没される構成において、導電性ナノ構造体を形成した領域において導電性ナノ構造体が熱電変換膜から露出するように開口を形成して、その開口を保護するために設けてもよい。
【0048】
図3は、本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0049】
図3(a)に示す熱電変換素子20Aは、熱電変換膜1と、熱電変換膜1の一部の表面1Aに配設された導電性ナノ構造体12と、所定の間隔で離間して配置し、熱電変換膜1で発生した電流又は電圧を取り出す一対の電極3A、3B(以下、符号3Aを第1電極、符号3Bを第2電極と称する場合がある)とを備え、一対の電極3A、3Bは熱電変換膜1の一方の面1A上に設けられ、導電性ナノ構造体12が一対の電極3A、3Bのうちの一方の電極である第1電極3A寄りに配置している。また、熱電変換膜1は基板5上に形成されている。
導電性ナノ構造体12が配置する熱発生部と第1電極3Aとの間の距離と、導電性ナノ構造体12が配置する熱発生部と第2電極3Bとの間の距離とが非対称になっているので、電極間に電圧が発生または電流が流れ得る。
【0050】
第1電極3A及び第2電極3Bとしては公知の電極材料のものを用いることができる。
【0051】
図3(a)に示す熱電変換素子20Aでは、導電性ナノ構造体12は第1電極3Aと第2電極3Bとの間の第1電極3A寄りに配置しているのに対して、
図3(b)に示す熱電変換素子20Bでは、導電性ナノ構造体12が第1電極3Aと第2電極3Bとを結ぶ方向において、第2電極3Bから遠い側の第1電極3Aの近傍に配置している点が異なる。
【0052】
プラズモニック構造体である導電性ナノ構造体で発生した局所熱は熱伝導率が高い媒体の方へ伝搬しやすい。そこで、
図3に示した構成のように、熱電変換膜以外に導電性ナノ構造体に接する媒体がある場合(
図3に示す構成では、空気。その他、基板など)、熱電と接する媒体(ガラス基板や空気など)には、その媒体が熱電変換膜の材料よりも熱伝導率が低いものとなるように、デバイス設計をすると、発生したプラズモン局所熱の多くが熱電変換に伝搬し、熱電変換に寄与する。
【0053】
本実施形態の熱電変換素子では、光検出機能が、電極、熱電変換膜、および導電性ナノ構造体の配置の設計に制限されないため、設計自由度の高い素子を開発できる。導電性ナノ構造体のみが光照射を受けられる自由空間に存在し、そしてそこに光が照射していれば、残りの部分を所定の部材に埋め込まれている構成とした場合でも、光検出を行うことが可能である。
【0054】
図4(a)及び
図4(b)に示す熱電変換素子30AA、30BBはそれぞれ、
図3(a)、
図3(b)に対応する構成であり、
図3(a)、
図3(b)に示した熱電変換素子30A、30Bとの違いは、熱電変換膜1と基板5との間に断熱層6を備える点である。
【0055】
導電性ナノ構造体12からなるプラズモニック構造を熱伝導率の低い断熱層6上に形成し、その上に熱電変換膜を形成する構成とすることにより、プラズモン局所熱が効率的に熱電材料に与えられるようにすることができる。
断熱層6としては、ポリマー、多孔質材料等の熱伝導率の低い材料のものを用いることができる。ポリマーとしては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリ塩化ビニル・ポリカーボネート・AS樹脂・エポキシ樹脂・ポリウレタン樹脂など、熱伝導率が低いポリマー材料を例示できる。また、多孔質膜材料としては、多孔質アルミナ・多孔質シリカ・多孔質チタニアなどを例示できる。
熱伝導率が低ければ無機・有機材料の種別は問わない。
【0056】
図5は、本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0057】
図5(a)に示す熱電変換素子30Aは、熱電変換膜1と、熱電変換膜1の一部の内部に配設された導電性ナノ構造体12Aと、所定の間隔で離間して配置し、熱電変換膜1で発生した電流又は電圧を取り出す一対の電極3A、3B(以下、符号3Aを第1電極、符号3Bを第2電極と称する場合がある)とを備え、一対の電極3A、3Bは熱電変換膜1の一方の面1A上に設けられ、導電性ナノ構造体12Aが一対の電極3A、3Bのうちの第1電極3A寄りに配置している。
【0058】
図5(a)に示す熱電変換素子30Aでは、導電性ナノ構造体12Aは第1電極3Aと第2電極3Bとの間の第1電極3A寄りに配置しているのに対して、
図5(b)に示す熱電変換素子30Bでは、導電性ナノ構造体12Aが第1電極3Aと第2電極3Bとを結ぶ方向において、第2電極3Bから遠い側の第1電極3Aの近傍に配置している点が異なる。
【0059】
プラズモニック構造である導電性ナノ構造体を熱電変換膜内に埋没するように形成する場合、形成した熱電変換材料層上に導電性ナノ構造体を形成し、さらに溶液塗布・スパッタ・蒸着などの手法により導電性ナノ構造体を挟み込むように熱電変換材料層を形成してデバイスを作製することができる。この場合、プラズモニック構造の光吸収を著しく妨げない程度、厚み数nmから数μm程度の範囲の熱電変換材料層を、プラズモニック構造上に形成するとよい。
【0060】
本実施形態の熱電変換素子では、光検出機能が、電極、熱電変換膜、および導電性ナノ構造体の配置の設計に制限されないため、設計自由度の高い素子を開発できる。導電性ナノ構造体のみが光照射を受けられる自由空間に存在し、そしてそこに光が照射していれば、残りの部分を所定の部材に埋め込まれている構成とした場合でも、光検出を行うことが可能である。
【0061】
図6は、本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0062】
図6(a)に示す熱電変換素子40Aは、熱電変換膜1と、熱電変換膜1の一部の表面1Aに配設された導電性ナノ構造体12と、所定の間隔で離間して配置し、熱電変換膜1で発生した電流又は電圧を取り出す一対の電極13A、13B(以下、符号13Aを第1電極、符号13Bを第2電極と称する場合がある)とを備え、一対の電極13A、13Bはそれぞれ、熱電変換膜1の異なる面1A、1B上に設けられ、導電性ナノ構造体12が一対の電極13A、13Bのうちの第1電極13A寄りに配置している。
導電性ナノ構造体12が配置する熱発生部と第1電極13Aとの間の距離と、導電性ナノ構造体12が配置する熱発生部と第2電極13Bとの間の距離とが非対称になっているので、電極間に電圧が発生または電流が流れ得る。
【0063】
第1電極13A及び第2電極13Bとしては公知の電極材料のものを用いることができる。
【0064】
図6(a)に示す熱電変換素子40Aでは、熱電変換膜1の膜面に直交する方向から平面視したときに、導電性ナノ構造体12Aは第1電極13Aと第2電極13Bとの間の第1電極13A寄りに配置しているのに対して、
図6(b)に示す熱電変換素子40Bでは、導電性ナノ構造体12Aが第1電極13Aと第2電極13Bとを結ぶ方向において、第2電極13Bから遠い側の第1電極13Aの近傍に配置している点が異なる。また、
図6(c)に示す熱電変換素子40Cでは、熱電変換膜1の膜面に直交する方向から平面視したときに、第1電極13Aと第2電極13Bとは重なるように配置する点が、
図6(a)に示す熱電変換素子40Aと異なる。
【0065】
図6(a)~(c)に示した熱電変換素子では、導電性ナノ構造体は熱電変換膜1の一部の一面上に設けたが、熱電変換膜1の一部の内部に設けてもよい。
【0066】
本実施形態の熱電変換素子では、例えば、フレキシブルな熱電変換素子とすることによって、曲面や人体に装着できるウェアラブルな素子となる。この場合、装着する面の平面性や曲面性に左右されずに素子を活用できる。
【0067】
図7は、本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0068】
図7(a)に示す熱電変換素子50Aは、熱電変換膜1と、熱電変換膜1の一部の表面1Aに配設された導電性ナノ構造体12と、熱電変換膜1を挟むように、熱電変換膜1の第1面及び第2面のそれぞれに設けられ、熱電変換膜1で発生した電流又は電圧を取り出す一対の電極の電極23A、23B(以下、符号23Aを第1電極、符号23Bを第2電極と称する場合がある)と、熱電変換膜1の第1面側に配設された導電性ナノ構造体12と、を備える。導電性ナノ構造体12の配置についてより詳細に述べると、第1電極23A上に配置している。
なお、
図7では、使用例として、第1電極及び第2電極につながる配線と負荷も図示している。
【0069】
図7(a)に示す熱電変換素子50Aでは、光照射により導電性ナノ構造体12でプラズモン共鳴時に発生した局所熱は、第1電極23Aを介して熱電変換膜1の第1面側に伝わり、熱電変換膜1の第1面側と第2面側との間に温度差を作り出し、熱電変換膜1の第1面と第2面との間に起電力を生ぜしめる。
【0070】
図7(a)に示す熱電変換素子50Aでは、導電性ナノ構造体12は第1電極23A上に配置しているのに対して、
図7(b)に示す熱電変換素子50Bでは、導電性ナノ構造体12Aは熱電変換膜1の内部に配置し、光が照射される側の第1電極23Aaが透明電極である点が異なる。第1電極23Aaは透明電極として公知の材料のものを用いることができる。
【0071】
図7(b)に示す熱電変換素子50Bでは、導電性ナノ構造体12Aが配置する熱発生部と第1電極23Aaとの間の距離と、導電性ナノ構造体12Aが配置する熱発生部と第2電極23Bとの間の距離とが非対称になっているので、電極間に電圧が発生または電流が流れ得る。
【0072】
図7(a)及び
図7(b)に示した熱電変換素子は、熱電変換膜1の膜面に直交する方向から平面視したときに、第1電極、熱電変換膜及び第2電極が完全に重なっているが、それらのいずれかが平面視の大きさが異なって、重ならない部分がある構成であってもよい。
【0073】
本実施形態の熱電変換素子では、細長状の熱電変換素子とすることができるため、光検出部(面)の高密度集積化が可能になる。例えば、検出する光源に対向して、異なるプラズモン共鳴波長の複数の熱電変換素子を並べて、異なる波長の光を検出する光検出器とすることができる。
【0074】
図8は、本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0075】
図8(a)に示す熱電変換素子60Aは、熱電変換材11と、熱電変換材11を挟むように、熱電変換材11の第1端面11a及び第2端面11bのそれぞれに設けられ、熱電変換材11で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極33A,33B(以下、符号33Aを第1電極、符号33Bを第2電極と称する場合がある)と、熱電変換材11の第1端面11a側に配設された導電性ナノ構造体12と、を備えている。
導電性ナノ構造体12の配置についてより詳細に述べると、熱電変換材11の第1端面11aに配設し、その上に導電性ナノ構造体12を覆うように第1端面11a上に透明電極である第1電極33Aが形成されている。導電性ナノ構造体12は第1端面11aに接していてもいなくてもよい。第1電極33Aは透明電極として公知の材料のものを用いることができる。
なお、
図8では、使用例として、第1電極及び第2電極につながる配線と負荷も図示している。
【0076】
図8(a)に示す熱電変換素子60Aでは、導電性ナノ構造体12Aは熱電変換材11の外に配置しているが、熱電変換材11の内部の第1端面11a寄り(あるいは、第1電極33Aa寄り)の位置に配置してもよい。この場合、導電性ナノ構造体12Aの第1端面11aからの深さ位置は、照射される光が届く程度である必要がある。
導電性ナノ構造体12Aが熱電変換材11内において第1端面11a寄りに配置することにより、導電性ナノ構造体12Aが配置する熱発生部と第1電極33Aaとの間の距離と、導電性ナノ構造体12Aが配置する熱発生部と第2電極33Bとの間の距離とが非対称になり、電極間に電圧が発生または電流が流れ得る。
【0077】
<熱電変換材>
熱電変換材の材料としては、上述の熱電変換膜の材料と同じものを用いることができる。
熱電変換材は、端面に電極を形成できる形状のものであれば、その形状に制限はない。バルク形状のものとして、
図8に示す丸棒(丸ロッド)状や円以外の断面を有する棒状、板状、柱状のものなどを例示できる。
【0078】
図8(a)に示す熱電変換素子60Aでは、導電性ナノ構造体12Aが熱電変換材11の第1端面11a上あるいは第1電極33Aa内に配置しているのに対して、
図8(b)に示す熱電変換素子60Bでは、導電性ナノ構造体12が第1電極33Aa上に配置している点が異なる。
図8(b)では、第1電極を透明電極としているが、透明電極でも金属電極でもどちらでもよい。
【0079】
また、
図8(c)に示す熱電変換素子60Cでは、第1電極33A上に他の層7を挟んでその層7の上に導電性ナノ構造体12が形成されている点で、
図8(a)に示す熱電変換素子60Aと異なる。他の層7としては、熱伝導率が高い材料からなるのが好ましい。具体的には、金属・カーボン素材(カーボンナノチューブや人工黒鉛など)・シリコン・水晶・ガラスなどを例示できる。
【0080】
本実施形態の熱電変換素子では、電流検出部が光入射面の奥行き方向に設置されるため、光検出部(面)の高密度集積化が可能になる。例えば、検出する光源に対向する平面に複数ピクセルが配置する多眼センサすなわち、本実施形態の熱電変換素子が複数並んで配置する多眼センサとすることができる。
【0081】
図9は、本発明の他の実施形態にかかる熱電変換素子を模式的に示した斜視図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0082】
図9(a)に示す熱電変換素子70Aは、長軸が並んで配置する複数の丸棒状の熱電変換材21A、21B、・・・と、熱電変換材21A、21B、・・・を挟むように、熱電変換材21A、21B、・・・の第1端面21Aa、21Ba、・・・及び第2端面21Ab、21Bb、・・・のそれぞれに設けられ、熱電変換材21A、21B、・・・で発生した熱を電流又は電圧として取り出すための一対の電極43A,43B(以下、符号43Aを第1電極、符号43Bを第2電極と称する場合がある)と、熱電変換材21A、21B、・・・の第1端面21Aa、21Ba、・・・側に配設された導電性ナノ構造体12と、を備えている。
図9(a)に示す熱電変換素子70Aでは、複数の丸棒状の熱電変換材21A、21B、・・・は絶縁材料層22に分散して配置する構成であり、熱電変換材21A、21B、・・・の第1端面21Aa、21Ba、・・・、及び、絶縁材料層22の第1端面22a上に、複数の導電性ナノ構造体12が離間して配置され、複数の導電性ナノ構造体12を覆うように、透明電極である第1電極43Aが形成されている。
【0083】
丸棒状の熱電変換材21A、21B、・・・はそれぞれ、筒状部材に熱電変換材料を充填したものであってもよい。
【0084】
図9(a)に示す熱電変換素子70Aでは、複数の導電性ナノ構造体12が熱電変換材21A、21B、・・・の第1端面21Aa、21Ba、・・・以外に、絶縁材料層22の第1端面22a上にも配設されている構成であったのに対して、
図9(b)に示す熱電変換素子70Bでは、導電性ナノ構造体12a、12b、12c、12d、12e,12fがそれぞれ、熱電変換材21A、21B、・・・の第1端面21Aa、21Ba、・・・上にのみ配設され、絶縁材料層22の第1端面22a上には配設されていない点が異なる。熱電変換材21A、21B、・・・の第1端面21Aa、21Ba、・・・のそれぞれに配設された導電性ナノ構造体12a、12b、12c、12d、12e,12fについて、互いにプラズモン共鳴波長が異なるようにサイズや形状を制御したものを用いることによって、異なる波長の光を検出するものとすることができる。
【0085】
図9(a)及び(b)に示す熱電変換素子において、各熱電変換素子要素について、
図8(a)~(c)のいずれかの構成を採用することができる。
【0086】
図9(b)に示す熱電変換素子においては、複数の丸棒状の熱電変換材を備え、各熱電変換材ごとに異なるプラズモン共鳴波長を有する導電性ナノ構造体を備える構成とすることで異なる波長の光を検出可能としたが、
図10に示す熱電変換素子100のように、複数の熱電変換膜31a、31b、31cを備え、各熱電変換膜ごとに異なるプラズモン共鳴波長を有する導電性ナノ構造体を備える構成とすることで同様に、異なる波長の光が検出可能となる。
【0087】
図11は、本発明の一実施形態にかかる熱電変換素子200を模式的に示した断面図である。上記実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略することがある。また、上記実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0088】
熱電変換素子200は、熱電変換膜201と、熱電変換膜201の一部の内部又は表面に配設された導電性ナノ構造体202と、導電性ナノ構造体202と共に、熱電変換膜201を挟み込むように配置する金属薄膜204と、からなる完全吸収メタマテリアル構造200を備えている。
導電性ナノ構造体202及び金属薄膜204は、電極として用いることもできる。
【0089】
本明細書において、完全吸収とは、80%以上の光吸収特性を有することをいうものとする。メタマテリアル完全吸収構造とは、入射光を80%以上の光を閉じ込めることができるものである。
【0090】
熱電変換素子200において、メタマテリアル完全吸収構造は入射光を100%近く閉じ込めることができ、導電性ナノ構造体202と金属薄膜204との間に高い熱が生じる。
そのため、導電性ナノ構造体202と金属薄膜204との間に挟まれた熱電変換膜の一端が加熱されて温度差が生じ、ゼーベック効果によって熱電変換素子の両端間には起電力が発生する。
熱電変換素子200は、導電性ナノ構造体のプラズモン共鳴時に発生する局所熱を動力源として機能する熱電変換素子である。
熱電変換素子200は、実際の使用の際に、従来の熱電変換素子あるいは熱電変換モジュールが備えている高温部や低温部、高温熱源や低温熱源を必要としない。
【0091】
<金属薄膜>
金属薄膜204の材料としては、特に限定するものではないが、金・銀・銅・白金・アルミニウムなどの金属を挙げることができる。
金属薄膜204を電極としても用いる場合には、金属平板電極ということがある。
【0092】
金属薄膜204はその表面は平坦な膜あるいは平板であることが好ましいが、メタマテリアル完全吸収構造を形成できれば、それに限定されない。
【0093】
金属薄膜204の膜厚としては、特に限定するものではないが、目安を例示すると、数nm~数100nmである。
【0094】
メタマテリアル完全吸収構造の金属薄膜は、電極としても機能するため、熱電変換素子に新たに電極を形成する必要はない。
【0095】
図12に、メタマテリアル完全吸収構造を一端に有する本発明の熱電変換素子の概念図を示す。
光照射は、メタマテリアル完全吸収構造の導電性ナノ構造体の表面に行われる。完全吸収特性の励起により、メタマテリアル完全吸収構造の金属薄膜(金属平板電極)と導電性ナノ構造体との間に入射光が閉じ込められ、高い熱が発生する。熱電変換素子の両端には温度差が生じ、両端にそれぞれ配置する電極間には起電力が生じる。
【0096】
本実施形態の熱電変換素子では基板は必須ではないが、上述の基板を用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いて、
図12に示したような熱電変換素子とすることもできる(図中に基板は不図示)。
【0097】
メタマテリアル完全吸収構造は、特にQ値の高いプラズモン4重極子モードを励起する。4重極子モードは狭帯域で寿命が長く、局所熱の元となる熱電子の発生効率が高いことで知られる。そのため、他の単純なプラズモニック構造と比較し、より大きな局所熱が生成し、かつ、熱電変換膜への熱電子注入機構の効率も高くなるため、4重極子モードが励起される金属薄膜(金属平板電極)と導電性ナノ構造体との間に熱電変換膜が挿入されることが重要である。4重極子モードによって、熱電子の注入および局所熱の熱電素子への伝搬が、効率よく行われるためである。
【0098】
図13に、基板上に、本発明のメタマテリアル完全吸収構造の一例として金属ナノ構造体-熱電変換膜-金属平板電極の構造を配設した構成を示す。
図13(a)は、基板上に金属平板電極、熱電変換膜、金属ナノ構造体を順に形成した構成であり、基板のメタマテリアル完全吸収構造を形成した側から光照射を行った場合を示す断面模式図であり、
図13(b)は、基板上に金属ナノ構造体、熱電変換膜、金属平板電極を順に形成した構成であり、基板の下方から光照射を行った場合を示す断面模式図である。
図13(b)の場合は、基板としては透明性が高いものを用いることが好ましい。
金属ナノ構造体が基板上に作製され、基板下部から光照射する場合が考えられる。金属ナノ構造体が応答波長を決定するため、光照射は必ず、金属ナノ構造体側より行う。
【0099】
導電性ナノ構造体(例えば、金属ナノ構造体)のサイズと形状の適切な設計により、紫外から赤外域まで、幅広い波長域から応答波長を選択できる。
【0100】
(光検出器)
本発明の光検出器は、本発明の熱電変換素子を備えたものである。
すなわち、本発明の光検出器は、導電性ナノ構造体が有するプラズモン共鳴波長の光を検出する光検出器である。
【0101】
(画像素子)
本発明の画像素子は、本発明の熱電変換素子を備えたものである。
すなわち、本発明の画像素子は、導電性ナノ構造体が有するプラズモン共鳴波長の光に反応する画像素子(イメージセンサ)である。
【0102】
(光熱電変換素子)
本発明の光熱電変換素子は、本発明の熱電変換素子を備えたものである。
すなわち、本発明の光熱電変換素子は、導電性ナノ構造体が有するプラズモン共鳴波長を例えば、太陽光の波長になるように設計して、太陽光のプラズモン共鳴吸収により発生した熱を利用して電気エネルギーを取り出す光熱電変換素子である。
【0103】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の効果を奏する範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0105】
〔実施例1〕
(熱電変換素子サンプルの作製)
1.導電性ナノ構造体の形成
ガラス基板を洗浄して乾燥後、プラズマ処理装置内でプラズマ洗浄処理を行った。その後、ガラス基板に電子線レジストZEP520A(日本ゼオン株式会社製)を0.1ml滴下し、スピンコート膜を形成した。得られた基板を電子線描画装置に入れ、それぞれ縦60nm×横150nmのナノ構造体(約3600万個)の描画パターンを基板の一端部に描画した。
電子線描画装置から基板を取り出し、現像液に浸した後、基板を真空蒸着装置に入れ、銀を40nm蒸着して、描画パターン上に銀ナノロッド構造体群を形成した。次いで、基板を真空蒸着装置から取り出し、アニソールに浸しレジストを剥離した。次いで、基板をアセトンに浸して超音波をかけた後、純水に浸し、ブロアーで乾かした。
2.熱電変換膜の形成
PEDOT:PSSにエチレングリコールを3v%添加し、作製した銀ナノロッド構造体群に、調製したPEDOT:PSSを0.1ml滴下し、スピンコートを行った。次いで、基板を加熱して、PEDOT:PSS膜を形成した。
3.電極の形成
基板両端に幅2mmの銀を蒸着し、銀電極を形成した。
図14は、得られた熱電変換素子サンプルを模式的に示した斜視図である。
【0106】
得られた熱電変換素子サンプルを用いて、銀ナノロッドの短軸偏光及び長軸偏光の単色光照射下でPEDOT:PSS薄膜中に発生した電流値を測定した。
図15(a)、(b)のそれぞれに、短軸偏光の単色光照射下の測定結果、長軸偏光の単色光照射下の測定結果を示す。それぞれのグラフにおいて、横軸は波長(nm)、左側縦軸は電流(μA)、右側縦軸は銀ナノロッドの透過率である。
なお、左側縦軸の電流(μA)は、自然電位で流れている電流に対して逆方向に、プラズモン励起起因の電流が流れ得るため、420nmの単色光での電流値をゼロとしてそれに対する相対電流として示した。測定は、400nm~900nmで20nm間隔の波長の光を用いた。
【0107】
測定は、光強度が10mW/cm
2の単色光を振って、各単色光(
図4中の+印)ごとに銀ナノロッド構造体群に光照射してPEDOT:PSS薄膜に流れた電流を測定したものである。
【0108】
顕微分光装置により得た透過スペクトルに基づくと、作製した銀ナノロッド構造体の短軸方向のプラズモン共鳴波長は623nmであり、また、長軸方向のプラズモン共鳴波長は900nmであった。
一方、短軸偏光の光照射では
図15(a)のグラフが示す通り、PEDOT:PSS薄膜中に生じた電流値は、波長600nmで最大となり、また、長軸偏光の光照射では
図15(b)のグラフが示す通り、PEDOT:PSS薄膜中に生じた電流値は、波長900nmで最大となり、銀ナノロッド構造体群の銀ナノロッド構造体を含まないPEDOT:PSS薄膜では、電流が検出されなかったことから、PEDOT:PSS薄膜中に生じた電流は銀ナノロッド構造体のプラズモンが誘起したものであることがわかる。
また、
図15のグラフが示す通り、得られた電流値の波長依存性は、銀ナノロッドの透過スペクトルと類似する挙動を示した。
【0109】
〔実施例2〕
実施例2の熱電変換素子サンプルは、熱電変換膜の形成工程において、エチレングリコールを混合せず、かつ、PEDOT:PSS膜厚が180nmになるようにスピンコートスピードを調整した以外は、実施例1と同様な方法で作製した。
【0110】
図16(a)に、
図15(a)と同様の測定を行った後、その測定結果に基づいて算出された外部量子効率(EQE)の波長依存性を示すグラフ、
図16(b)に、
図15(b)と同様の測定を行った後、その測定結果に基づいて算出された外部量子効率(EQE)の波長依存性を示すグラフを示す。
図16(a)及び
図16(b)において、横軸は波長であり、左側縦軸は外部量子効率であり、右側縦軸は消失率である。
【0111】
図16(a)に基づくと、外部量子効率の最大値は短軸方向のプラズモン共鳴波長において1.06×10
-3%であった。
【0112】
実施例1及び実施例2は、銀ナノロッド構造体群がPEDOT:PSS膜の内部に配置する構成であったが、銀ナノロッド構造体群をPEDOT:PSS膜の表面に形成した構成について、同様に短軸方向のプラズモン共鳴波長における外部量子効率の最大値を得たところ、1.82×10-2%であり、上述の例よりも一桁大きかった。
さらにまた、熱電変換膜としてPEDOT:PSS膜に変えて、Bi2Te3膜を用いて、銀ナノロッド構造体群をそのBi2Te3膜の表面に形成した構成について、同様に短軸方向のプラズモン共鳴波長における外部量子効率の最大値を得たところ、1.16%であり、さらに二桁大きかった。
【符号の説明】
【0113】
1、 熱電変換膜
11、21A 熱電変換材
2、12、12A、12a、12b、12c、12d、12e、12f 導電性ナノ構造体
3A、3B、13A、13B、23A、23Aa、23B、33A、33Aa、33B、43A、43B 電極
5 基板
6 断熱層
10、30A、30B、30AA、30BB、40A、40B、40C、50A、50B、60A、60B、60C、70A、70B、100、200 熱電変換素子
201 熱電変換膜
202 導電性ナノ構造体
204 金属薄膜
220 完全吸収メタマテリアル構造