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特許7349295パン類用液種及びそれを用いたパン類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】パン類用液種及びそれを用いたパン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20230914BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20230914BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20230914BHJP
   A21D 8/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D2/36
A21D8/04
A21D8/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019157709
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035338
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 高司
(72)【発明者】
【氏名】柴田 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】金井 幹法
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-024336(JP,A)
【文献】特開2017-112989(JP,A)
【文献】特公昭50-022100(JP,B1)
【文献】特開平11-056221(JP,A)
【文献】特開2021-019555(JP,A)
【文献】特開2021-019556(JP,A)
【文献】特開2004-321097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン類用液種の製造方法であって、
原料粉、イースト、及び水を混合して発酵させることを含み、
該原料粉が、粗蛋白量が8質量%以上の穀粉を原料とするα化穀粉を30質量%以上含み、
該水の配合量が、該α化穀粉1質量部あたり2.5質量部~15質量部且つ該原料粉100質量部あたり200質量部超~500質量部である、
方法。
【請求項2】
前記イーストが生イーストであり、その配合量が前記原料粉100質量部あたり1質量部~10質量部である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記α化穀粉がα化小麦粉である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記原料粉が非α化小麦粉を含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記原料粉における前記非α化小麦粉と前記α化穀粉との合計含有量が80質量%以上である、請求項記載の方法。
【請求項6】
前記発酵が温度0~40℃で0.5~48時間の発酵である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記α化穀粉のα化度が70%以上である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記α化穀粉が、粗蛋白量が8質量%以上の穀粉100質量部と水5~30質量部をエクストルーダーにて加圧加熱処理して得られたα化穀粉である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載のパン類用液種を用いることを特徴とする、パン類生地の製造方法。
【請求項10】
前記パン類生地に含まれる穀粉全量中における前記パン類用液種に含まれる原料粉の量が1~30質量%である、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類用液種及びそれを用いたパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液種法は、イースト発酵液(液種)に、小麦粉等の原料を加え生地を製造する製パン法であり、小麦粉を含む液種を用いるフラワーブリュー法、粉乳を含む液種を用いるアドミ法などの手法がある。液種法は、機械耐性があり老化が遅いパンを製造することができるという利点を有する。
【0003】
特許文献1には、フラワーブリュー製パン法において、蛋白質含量が6.5~10質量%の小麦粉を使用し、且つ液種として、製パンに使用する全小麦粉100質量部中の40~50質量部の小麦粉、0.01~0.07質量部のイースト、0~0.6質量部の食塩及び40~60質量部の水を用いて製造された液種を使用することを特徴とするイースト発酵食品の製造方法が記載されている。特許文献2には、α化穀粉を含む原料粉に、イースト、及び該原料粉100質量部あたり50~200質量部の水を添加して混捏し、発酵させることを含むパン類用発酵種の製造方法、ならびに当該発酵種を用いたパン類の製造方法が記載されている。
【0004】
モチモチ、且つしっとりした食感のパンを製造する方法として、湯種法、生地を多加水にする方法、原料粉にα化小麦粉を配合する方法などが知られている。しかしながら、これらの方法は、生地の作業性が悪い、製造に時間がかかる、又はパンの品質にばらつきが出るなどの欠点を抱える。これらの欠点を解消する方法として、特許文献3には、α化穀粉100質量部と水200~500質量部とを用いて調製した非発酵のペースト状生地と、非α化穀粉を含む材料を用いて調製した生地とを混合し、発酵させることを含むパン類の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-109781号公報
【文献】特開2019-024336号公報
【文献】特開2017-112989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、老化が遅いパンを製造できるという液種法の利点を保ちつつ、しっとりした食感と、まろやかな酸味と甘みを併せ持った重厚な風味とを有するパン類を製造することを可能にする液種、及びそれを用いたパン類の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、イーストに、α化穀粉を含む原料粉と、従来の液種と比べて多量の水を加えて発酵させた液種を用いることで、しっとりしたくちどけの良い食感と、まろやかな酸味と甘みを併せ持った重厚な風味とを有し、且つ時間が経過しても老化による食感の低下が起こりにくいパン類が得られることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、原料粉、イースト、及び水を混合して発酵させることを含み、該原料粉が、粗蛋白量が8質量%以上の穀粉を原料とするα化穀粉を含み、該水の配合量が、該α化穀粉1質量部あたり2.5質量部~15質量部且つ該原料粉100質量部あたり200質量部超~500質量部である、パン類用液種の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により提供されるパン類用液種により、しっとりしたくちどけの良い食感と、まろやかな酸味と甘みを併せ持った重厚な風味とを有し、且つ時間が経過しても老化による食感の低下が起こりにくいパン類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、パン類とは、穀粉を主体とする生地を発酵させたものを加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)して得られる食品をいう。パン類としては、例えば、食パン(角型食パン、イギリスパン等)、ロールパン、菓子パン(あんパン、クリームパン等)や総菜パン(カレーパン等)、フランスパン(バゲット、バタール等)、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、クロワッサン、デニッシュ、イタリアパン(フォカッチャ、パネトーネ等)、ベルギーパン(ワッフル等)、中近東パン(ナン、ピタパン等)などのパン;ピザ;中華まん及び蒸しパン;イーストドーナツ等の発酵菓子、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明のパン類用液種(以下、本発明の液種ともいう)は、α化穀粉を用いて製造した多加水の液種である。本発明の液種は、α化穀粉を含む原料粉、イースト及び水を混合して、発酵させることで製造されるが、このとき、原料粉及びそれに含まれるα化穀粉の量と比べてかなり多量の水が使用される。液種におけるα化穀粉及び多量の水の使用によって、本発明の液種により製造されたパンは、しっとりしたくちどけの良い食感と、まろやかな酸味と甘みを併せ持った重厚な風味とを有し、且つ、経時耐性、すなわち時間が経過しても老化による食感の低下が起こりにくいという性質を有する。
【0012】
本発明の液種の製造に用いられる原料粉は、α化穀粉を含む。本発明の液種を用いて得られたパン類の食感、風味及び経時耐性の向上の観点からは、該原料粉における該α化穀粉の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。一方、該原料粉における該α化穀粉の含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは95質量%以下である。
【0013】
当該α化穀粉は、通常の穀粉(α化処理されていない非α化穀粉)をα化処理して得られた穀粉である。該穀粉の種類としては、小麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、大麦粉、米粉、コーンフラワー等、及びそれらのいずれか2種以上の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の液種を用いて得られたパン類の食感、風味及び経時耐性の向上の観点からは、当該α化穀粉は、粗蛋白量が8質量%以上の穀粉を原料とするとよい。好ましくは、該α化穀粉の原料穀粉の粗蛋白量は、9質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは11.5質量%以上である。このような粗蛋白量を有する原料穀粉の例としては、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、それらのいずれか2種以上の組合せなどの粗蛋白量が8質量%以上の小麦粉、ならびに当該小麦粉を含有し、全体として8質量%以上の粗蛋白量を有する穀粉が挙げられる。より好ましくは、該原料穀粉は、強力小麦粉、準強力小麦粉、又はそれらの組合せであるか、又は当該小麦粉を含有し、全体として9質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは11.5質量%以上の粗蛋白量を有する穀粉である。
【0014】
本明細書において、穀粉中の粗蛋白量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル(www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1368931.htm参照)に従って、燃焼法を用いて求めることができる。
【0015】
また好ましくは、該α化穀粉はα化小麦粉である。好ましくは、該α化穀粉の原料粉は、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、又はそれらのいずれか2種以上の組合せを含む小麦粉であり、より好ましくは、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、又はそれらのいずれか2種以上の組合せであり、さらに好ましくは、強力小麦粉、準強力小麦粉、又はそれらの組合せであり、さらに好ましくは強力小麦粉である。
【0016】
穀粉のα化処理の方法としては、穀粉中の澱粉をα化させることができる方法であれば特に限定されないが、穀粉を湿熱処理する方法が挙げられる。湿熱処理の方法としては、例えば、穀粉に水を添加し加熱する方法、穀粉を吸水させた後加熱する方法などが挙げられ、より具体的な例としては、穀粉を高速撹拌機で均一加水しながら、蒸気を添加し加熱処理する方法、エクストルーダーを用いて穀粉と水とを加熱混練する方法、穀粉を入れた密閉型容器内に、必要に応じて攪拌しながら、過熱水蒸気又は飽和水蒸気を添加して該穀粉を加熱処理する方法、特開2009-34038号公報に記載の装置等を用いて飽和水蒸気雰囲気下で加熱処理する方法、などが挙げられる。該湿熱処理された穀粉は、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥などの方法で乾燥処理することができる。さらに乾燥後、必要に応じて適宜粉砕することができる。乾燥後のα化穀粉の粉砕処理には、ロール粉砕、ピンミル粉砕などの各種粉砕手段を必要に応じて採用することができる。
【0017】
当該α化穀粉は、α化度が好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。該α化穀粉のα化度が70%未満であると、本発明の液種を用いて得られたパン類において、食感及び風味が不充分になることがある。
【0018】
α化度が70%以上のα化穀粉は、例えば、穀粉100質量部と、水5~30質量部、好ましくは10~20質量部とを、エクストルーダー等で加圧加熱処理することによって調製することができる(例えば、特開2009-17802号公報参照)が、本発明で用いるα化穀粉の製法はこれに限定されない。
【0019】
本明細書において、穀粉のα化度とは、BAP法(β-アミラーゼ・プルラナーゼ法)で測定されたα化度をいう。BAP法によるα化度の測定は、既報(家政学雑誌32(9),653-659,1981)に準じて、以下の通りに実施することができる。
〔β-アミラーゼ・プルラナーゼ法によるα化度の測定法〕
(A)試薬
使用する試薬は、以下の通りである。
1)0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液
2)10N水酸化ナトリウム溶液
3)2N酢酸溶液
4)酵素溶液:β-アミラーゼ(ナガセケムテックス(株),#1500S)0.017g及びプルラナーゼ(林原生物化学研究所、No.31001)0.17gを上記0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液に溶かして100mLとしたもの。
5)失活酵素溶液:上記酵素溶液を10分間煮沸させて調製。
6)ソモギー試薬及びネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
(B)測定方法
1)サンプル穀粉(α化穀粉)をホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。この粉砕したサンプル穀粉0.08~0.10gをガラスホモジナイザーに取る。
2)これに脱塩水8.0mLを加え、ガラスホモジナイザーを10~20回上下させて分散を行う。
3)2本の25mL容目盛り付き試験管に上記2)の分散液を2mLずつとり、1本は0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
4)他の1本には、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mLを添加し、50℃で3~5分間反応させ、完全に糊化させる。その後、2N酢酸溶液1.0mLを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
5)上記3)及び4)で調製した試験区及び糊化区の試験液をそれぞれ0.4mLとり、それぞれに酵素溶液0.1mLを加えて、40℃で30分間酵素反応させる。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素溶液0.1mLを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
6)上記反応済液0.5mLにソモギー試薬0.5mLを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mLを添加・攪拌し、15分間放置する。
7)その後、脱塩水8.00mLを加えて攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
(C)α化度の算出
下式によりα化度を算出する。
α化度(%)=(試験溶液の分解率)/(完全糊化試験溶液の分解率)×100
=(A-a)/(A’-a’)×100
式中、A、A’、a、及びa’は下記の通りである。
A =試験区の吸光度
A’=糊化区の吸光度
a =試験区のブランクの吸光度
a’=糊化区のブランクの吸光度
【0020】
本発明の液種の製造に用いられる原料粉はさらに、該α化穀粉以外の他の穀粉及び/又は澱粉類を含んでいてもよい。当該他の穀粉としては、通常の穀粉(α化処理されていない非α化穀粉)が挙げられ、該穀粉の例としては、小麦粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、コーンフラワーなどが挙げられる。該小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、及びこれらの2種以上の組合せが挙げられる。該小麦粉は、熱処理小麦粉を含んでいてもよいが、得られたパン類生地の弾力及び伸展性、ならびに得られたパン類の風味の観点からは、非熱処理小麦粉であることが好ましい。該澱粉類としては、例えば、小麦澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、米澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等、及びそれらの加工澱粉(α化澱粉でないことが好ましい)などが挙げられる。該原料粉は、上記に挙げた他の穀粉及び澱粉類のいずれか1種又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0021】
好ましくは、当該原料粉は、該α化穀粉以外の他の穀粉として小麦粉(α化処理されていない非α化小麦粉)を含み、該原料粉における該非α化小麦粉の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。また、該原料粉における該非α化小麦粉と上記α化穀粉との合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0022】
本発明の液種の製造に使用される水は、水道水、天然水、精製水など、パン類生地の製造に通常使用することができる水であれば、特に限定されない。使用する水の温度は、特に限定されないが、0~40℃程度であればよく、好ましくは5~30℃程度である。当該水は、予め加温する必要はなく、室温又は周囲温度で使用することができる。
【0023】
本発明においては、液種の製造に多量の水を使用する。本発明の液種の製造に用いられる水の量は、上記原料粉100質量部あたり200質量部超~500質量部であり、且つ該原料粉に含まれるα化穀粉1質量部あたり2.5質量部~15質量部である。水の量が上述の範囲より少ない場合、本発明の液種を用いて得られたパン類の食感、風味及び経時耐性が充分に向上しない。一方で、水の量が多すぎても、パン生地の製造の際にダマができたり、作業性が低下したりすることによって、やはり得られたパン類の食感、風味及び経時耐性が不充分になることがある。好ましくは、該α化穀粉1質量部あたりの水の量は2.5質量部~12.5質量部であり、より好ましくは4.0~10.5質量部である。一方、該原料粉100質量部あたりの水の量は、好ましくは220~450質量部、より好ましくは250~450質量部である。
【0024】
本発明の液種の製造に使用されるイーストとしては、パン類の製造に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば生イースト、ドライイースト、インスタントイーストなどが挙げられる。本発明の液種の製造に使用されるイーストの量は、イーストの形態や種類によって調整すればよい。例えば、生イーストの場合、該液種の原料粉100質量部に対して1~10質量部が好ましく、ドライイーストの場合、該液種の原料粉100質量部に対して0.5~5質量部が好ましい。
【0025】
本発明の液種の製造においては、上記α化穀粉を含む原料粉と、イースト及び水を混合して、混合液を調製する。該混合は、常温下で製パンや調理に使用される通常のミキサーを用いて行うことができ、混合の時間は、好ましくは1~5分程度である。次いで、該混合液を発酵させて液種を得る。該発酵は、温度0~40℃、好ましくは2~30℃、より好ましくは4~25℃で、0.5時間~48時間、好ましくは2~36時間行えばよい。さらに好ましい発酵条件は、4~25℃で8~24時間である。発酵の温度が0℃未満であるか、時間が0.5時間未満である場合、発酵が充分に進まず、製造したパン類の食感と風味が不足することがある。他方、発酵の温度が40℃を超えるか、時間が48時間を超える場合、過発酵となって、やはり製造したパン類の品質が低下しやすい。
【0026】
以上の手順で本発明の液種を製造することができる。得られた液種は、パン類の製造に使用される。本発明の液種を用いてパン類を製造する場合、該液種をパン類生地に配合すればよい。
【0027】
例えば、本発明においては、パン類生地の原料粉(例えば穀粉及びその他の副原料)に本発明の液種及び水を添加し、混捏してパン類生地を製造してもよい。あるいは、予め該パン類生地の原料粉と水とを混捏して粗生地を調製してから、該粗生地に本発明の液種を添加し、さらに混捏してパン類生地を製造してもよい。パン類生地が中種法で製造される場合は、本発明の液種を本捏工程で生地に添加するのが好ましい。
【0028】
当該パン類生地の原料粉に含まれる穀粉の例としては、小麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、大麦粉、コーンフラワー、米粉等、及びそれらのいずれか2種以上の組合せが挙げられる。これらの穀粉は、好ましくは非α化穀粉(α化処理されていない穀粉)であり、より好ましくは、非α化小麦粉を主体とする非α化穀粉である。該小麦粉としては、パン類の製造に通常用いる小麦粉、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、及びそれらのいずれか2種以上の組合せが挙げられるが、中でも、強力粉、準強力粉、中力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、及びそれらのいずれか2種以上の組合せが好ましい。該小麦粉は、熱処理小麦粉を含んでいてもよいが、得られたパン類生地の弾力及び伸展性、ならびに得られたパン類の風味の観点からは、非熱処理小麦粉であることが好ましい。
【0029】
当該パン類生地の原料粉に含まれる副原料としては、パン類の製造に通常用いられる副原料、例えばイースト(生イースト、ドライイースト等);イーストフード;ベーキングパウダー;砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖等の糖類;卵又は卵粉;加工もしくは未加工の澱粉類(α化澱粉でないことが好ましい);脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油等の油脂類;乳化剤、膨張剤、増粘剤、甘味料、香料、着色料、アスコルビン酸等の添加剤;食塩等の無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素類;食物繊維、などを適宜使用することができる。本発明のパン類生地の製造に使用される水は、水道水、天然水、精製水など、パン類生地の製造に通常使用することができる水であれば、特に限定されない。又は水の代わりに牛乳、豆乳等のミルクを使用することもできる。
【0030】
当該パン類生地における本発明の液種の配合量は、最終的に得られるパン類生地に含まれる全ての穀粉(上記パン類生地の原料粉に含まれる全穀粉及び本発明の液種の原料粉に含まれる全穀粉を含む)の全量中における本発明の液種の原料粉中の全穀粉量が、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~25質量%、さらに好ましくは3~20質量%となる量である。該液種の配合量が少ないと、得られたパン類の食感及び風味が不足することがある。他方、該液種の配合量が多すぎると、パン類生地の弾力が弱くなることで製パン性が低下し、かつ得られたパン類が、ボリュームが小さく、食感が低下しかつ酸味が強すぎるものになる。
【0031】
本発明によるパン類の製造方法においては、パン類生地に本発明の液種を配合すること以外は、パン類生地の製造の手法は特に限定されず、例えば、ストレート法、中種法、速成法、液種法、冷凍生地法などの各種常法に従って行うことができる。例えば中種法の場合、本発明の液種は、中種、本捏のどちらの段階で添加してもよいが、本捏の段階で添加することが好ましい。次いで、該液種を配合したパン類生地を、常法に従って、発酵させ、さらに成形、ホイロして、その後加熱することで、パン類を製造することができる。加熱の方法としては、焼成、蒸し、揚げ(油ちょう)などが挙げられる。あるいは、本発明で得られたパン類生地を、そのまま、又は発酵もしくは成形した状態、又は半焼成した状態で冷蔵又は冷凍保存し、必要に応じて解凍及び加熱してパン類を製造してもよい。
【実施例
【0032】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0033】
試験例1 パンの製造-1
(1)α化小麦粉の製造
表1記載の粗蛋白量を有する小麦粉100質量部に10~20質量部の水を添加し、エクストルーダーにて加圧加熱処理してα化小麦粉1~6(いずれもα化度85%)を調製した。
【0034】
(2)液種の製造
表2の配合で、小麦粉(強力粉、粗蛋白量11.8質量%)と(1)で製造したα化小麦粉1~6のいずれかを混合し、これに水(約25℃)、及び生イースト(オリエンタル酵母工業(株)製、「レギュラー」)を添加してパン用ミキサーにて低速で混合した(低速2分高速1分、温度24℃)。得られた混合液を発酵させて[室温条件(温度20℃湿度75%)で45分間発酵→冷蔵保管(4℃で18時間)]、液種1~6を製造した。対照としてα化小麦粉を用いずに液種を製造した。
【0035】
(3)パンの製造
(2)で製造した液種を用いて表3の製法に従ってコッペパンを製造した。
【0036】
(4)パンの評価
(3)で製造したパンの食感、風味、及び経時耐性を評価した。食感(しっとり感、くちどけ)、及び風味については焼成後2時間後のサンプルで評価した。経時耐性については、焼成後20℃で26時間保管したサンプルと、焼成2時間後のサンプル(保管前)とを比較した。評価は、訓練した10人のパネラーにより下記評価基準に従って行い、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
<評価基準>
食感
(しっとり感)
5点:非常にしっとりとした食感である
4点:しっとりとした食感である
3点:ややしっとりとした食感である
2点:ややパサついた食感である(対照の液種を用いた場合と同等)
1点:パサついた食感である
(くちどけ)
5点:非常にくちどけが良好である
4点:くちどけが良好である
3点:問題のないくちどけである
2点:ややくちどけに劣る(対照の液種を用いた場合と同等)
1点:くちどけに劣る
風味
5点:まろやかな酸味と甘みを充分に有し、かつ酸味と甘みのバランスが非常に良く、非常に優れた風味である
4点:まろやかな酸味と甘みを有し、酸味と甘みのバランスが良く、優れた風味である
3点:酸味と甘みのバランスは悪くなく、やや優れた風味である
2点:酸味と甘みのバランスがやや悪く、やや劣った風味である(対照の液種を用いた場合と同等)
1点:、酸味と甘みのバランスが悪く、劣った風味である。
経時耐性(食感)
5点:保管前とほとんど変わらない
4点:保管前と比較してわずかに劣る
3点:保管前と比較してやや劣る
2点:保管前と比較してかなり劣る
1点:保管前と比較して非常に劣る
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
試験例2 パンの製造-2
(1)液種の製造
試験例1(2)と同様の手順で液種を製造した。α化小麦粉としては試験例1(1)で製造したα化小麦粉5を用い、液種の材料における小麦粉、α化小麦粉、及び水の配合は表4~5のとおり変更した。得られた液種を用いて、試験例1(3)及び(4)と同様の手順でコッペパンを製造し、評価した。結果を表4~5に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】