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特許7349632レーザーアブレーション用のセルおよび分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】レーザーアブレーション用のセルおよび分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230915BHJP
【FI】
G01N27/62 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019121847
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021009039
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】593230855
【氏名又は名称】株式会社エス・テイ・ジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 岳史
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519393(JP,A)
【文献】特開2003-043013(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0180996(US,A1)
【文献】特開2004-212215(JP,A)
【文献】特開平04-104449(JP,A)
【文献】特表2016-513254(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0147373(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が収容される収容部と、
前記収容部の試料に照射されるレーザーが透過する窓部と、
前記収容部の一端側から他端側に向けて、レーザーが照射される前記試料の表面および前記窓部の表面に沿って平行に流れる第1のガスが導入される第1の導入部と、
前記第1のガスよりも前記窓部に近い側且つ前記試料から遠い側を、前記第1のガスに並行して流れる第2のガスが導入される第2の導入部と、
アブレーションされた試料とともに前記第1のガスおよび第2のガスが導出される導出部と、
を備えたことを特徴とするレーザーアブレーション用のセル。
【請求項2】
前記第2のガスに比べて粘性の低い前記第1のガス、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーザーアブレーション用のセル。
【請求項3】
前記第2のガスに対して流速が異なる前記第1のガス、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーアブレーション用のセル。
【請求項4】
前記窓部に対して前記第2のガスが流れる位置を調整可能な前記第2の導入部、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザーアブレーション用のセル。
【請求項5】
試料が収容される請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザーアブレーション用のセルと、
前記試料をアブレーションするレーザーアブレーション装置と、
アブレーションされて前記セルから送り出された試料が導入され、導入された試料を誘導結合プラズマ方式で質量分析を行う誘導結合プラズマ質量分析装置と、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーでアブレーションされる試料を収容するセルおよび前記セルを有する誘導結合プラズマ方式の分析装置に関し、特に、試料が固体の場合に好適なセルおよび分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン状や微粒子状の試料に高電圧をかけることによってプラズマ化させて、励起された原子からの光を観測、分析することで、元素の定性、定量を行う技術として、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式の分析技術が知られている。ICP方式の分析手法に関して、以下の非特許文献1に記載の技術が公知である。
【0003】
非特許文献1(Fernandez et al.)には、土中に含まれる銅や亜鉛、スズ、鉛の多元素同定を行うために誘導結合プラズマ方式で質量分析(MS:Mass Spectrometry)を使用する技術が記載されている。非特許文献1では、固体の試料をアブレーションしてエアロゾル化させる際に、フェムト秒のレーザーを使用することで、分析全体にかかる時間を短縮している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Beatriz Fernandez,他4名、”Direct Determination of Trace Elements in Powdered Samples by In-Cell Isotope Dilution Femtosecond Lase Ablation ICPMS”、Anal.Chem.,2008,80,6981-6994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
非特許文献1に記載の技術では、セルでアブレーションされた試料は、キャリアガスとしてのヘリウム(He)ガスで質量分析計に向けて搬送している。
キャリアガスは、一般的に、ガスの粒子径(原子量、分子量)が小さい方が、熱伝導性がよく、粘性が低い。アブレーションされた試料の微粒子は、アブレーション直後は高温になっているが、キャリアガスの分子量が大きく熱伝導性が悪いと、キャリアガスで運搬されるまでの間に、高温の微粒子同士が結合して、エアロゾルの試料の粒子径が大きくなる。試料の粒子径が大きくなると質量分析計で、ノイズのような信号が観測されてしまう問題がある。したがって、キャリアガスとしては原子量、分子量の小さいガスが好ましい。水素(H)ガスも使用可能であるが、セル内に酸素が存在するとアブレーション時の熱で爆発の恐れがあるため、不活性ガスであるHeが好適に使用される。
【0006】
しかしながら、Heガスは粘性が低いため、レーザーアブレーションに伴って飛散する微粒子において、飛散方向がHeガスの流れ方向に交差する方向に飛散する際に高速であるとHeガスで搬送されるまえに、レーザーが透過するセルの窓部(レーザーが透過可能な部材)に付着しやすい。窓部に微粒子が付着して蓄積していくと、堆積した微粒子によりレーザー光が堆積した微粒子に吸収され、レーザー光が窓部を通過できなくなっていく。
【0007】
本発明は、アブレーションされた試料による窓部の汚れを、従来に比べて抑制することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のレーザーアブレーション用のセルは、
試料が収容される収容部と、
前記収容部の試料に照射されるレーザーが透過する窓部と、
前記収容部の一端側から他端側に向けて、レーザーが照射される前記試料の表面および前記窓部の表面に沿って平行に流れる第1のガスが導入される第1の導入部と、
前記第1のガスよりも前記窓部に近い側且つ前記試料から遠い側を、前記第1のガスに並行して流れる第2のガスが導入される第2の導入部と、
アブレーションされた試料とともに前記第1のガスおよび第2のガスが導出される導出部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザーアブレーション用のセルにおいて、
前記第2のガスに比べて粘性の低い前記第1のガス、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のレーザーアブレーション用のセルにおいて、
前記第2のガスに対して流速が異なる前記第1のガス、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザーアブレーション用のセルにおいて、
前記窓部に対して前記第2のガスが流れる位置を調整可能な前記第2の導入部、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明の分析装置は、
試料が収容される請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザーアブレーション用のセルと、
前記試料をアブレーションするレーザーアブレーション装置と、
アブレーションされて前記セルから送り出された試料が導入され、導入された試料を誘導結合プラズマ方式で質量分析を行う誘導結合プラズマ質量分析装置と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1,5に記載の発明によれば、アブレーションされた試料による窓部の汚れを、従来に比べて抑制することができる。
請求項2に記載の発明によれば、第2のガスの粘性が小さい場合に比べて、粘性の高い第2のガスで窓部に向かう微粒子を捕捉して、窓部の汚れを抑制できる。
請求項3に記載の発明によれば、流速の異なる2つのガスの流れとすることで、一方で微粒子を搬送しつつ、他方で窓部に向かう微粒子を捕捉可能である。
請求項4に記載の発明によれば、第2のガスの流れる位置を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の実施例1の分析装置の全体説明図である。
図2図2は実施例1のレーザーアブレーション装置の要部説明図である。
図3図3は実施例1のセルの説明図である。
図4図4は実施例1の想定されるメカニズムの説明図であり、図4Aは第1ガスとしてArを使用した場合の説明図、図4Bは第1ガスとしてHeを使用した場合の説明図である。
図5図5はセルの導入部の変更例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1の分析装置の全体説明図である。
図1において、実施例1の分析装置1は、分析計の一例としての質量分析計2を有する。実施例1の質量分析計2は、誘導結合プラズマ方式の質量分析計(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometer)で構成されている。なお、分析計は、ICP-MSに限定されず、例えば、誘導結合プラズマ方式の発光分析計(ICP-OES:Inductively Coupled Plasma - Optical Emission Spectroscopy)を使用することも可能である。なお、ICP-MSやICP-OESは、従来公知のものを使用可能であり、例えば、特開2013-130492号公報等に記載されており、公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0017】
質量分析計2には、接続部の一例としての接続チューブ3の下流端が接続されている。接続チューブ3の上流端には、合流ジョイント4が接続されている。合流ジョイント4には、付加ガス供給部の一例としての付加ガスチューブ6の下流端が接続されている。実施例1では、付加ガスチューブ6には、付加ガス(メイクアップガス)の一例としてのアルゴン(Ar)ガスが供給される。なお、実施例1では、アルゴンガスは、一例として、0.5~1.2L/min程度の流量で供給される。
【0018】
合流ジョイント4には、セル接続部の一例としてセル接続チューブ7の下流端が接続されている。セル接続チューブ7の上流端には、セル11が接続されている。セル11は、内部に試料Sが収容可能に構成されている。セル11には、搬送ガス供給部の一例としての搬送ガスチューブ12が接続されている。実施例1では、搬送ガスチューブ12には、搬送ガス(キャリアガス)の一例としてのヘリウム(He)ガスが供給される。なお、実施例1では、キャリアガスは、一例として、0.2 ~ 1.0L/min程度の流量で供給される。
【0019】
また、セル11の上方には、レーザーアブレーション装置21が配置されている。レーザーアブレーション装置21は、セル11の試料Sにレーザー光を照射して、試料Sをアブレーションする。
実施例1の分析装置1は、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置31を有する。コンピュータ装置31は、コンピュータ本体32と、表示部の一例としてのディスプレイ33と、入力部の一例としてのキーボード34およびマウス35を有する。コンピュータ本体32は、レーザーアブレーション装置21の駆動を制御する信号を出力すると共に、質量分析計2から検出結果を受信して、ディスプレイ33に表示可能である。
【0020】
(レーザーアブレーション装置の説明)
図2は実施例1のレーザーアブレーション装置の要部説明図である。
図2において、実施例1のレーザーアブレーション装置21は、レーザー光源の一例としてのフェムト秒レーザー22を有する。フェムト秒レーザー22は、レーザー光の一例として、パルス幅がフェムト秒オーダーのフェムト秒レーザー光22aを出力する。実施例1のフェムト秒レーザー22は、一例として、パルス幅が230fsのフェムト秒レーザー光22aを出力するが、パルス幅は、例示した数値に限定されず、変更可能である。
実施例1のフェムト秒レーザー22は、内部に図示しないシャッタが配置されており、フェムト秒レーザー光22aを出力する周波数(レーザー光22aが出力される間隔の逆数)を制御可能に構成されている。実施例1では、一例として、周波数を100Hz~1000Hzの間で制御可能である。すなわち、フェムト秒レーザー22からは、1000Hzでレーザー光22aを出力し、1000Hzの場合はシャッタを常時開放状態にしておき、100Hzの場合は、10発の内9発のフェムト秒レーザー光22aをシャッタで遮ることで、100Hzの出力とすることが可能である。
【0021】
フェムト秒レーザー光22aは、光学系の一例としてのガルバノ光学系23に導入される。実施例1のガルバノ光学系23は、第1のミラーの一例としての第1ガルバノミラー24と、第2のミラーの一例としての第2ガルバノミラー25とを有する。第1ガルバノミラー24は、フェムト秒レーザー22からのレーザー光22aを第2ガルバノミラー25に向けて反射し、第2ガルバノミラー25は第1ガルバノミラー24からのレーザー光22aを試料Sに向けて反射する。
第1ガルバノミラー24は、第1のミラー軸24aを中心として回転可能に支持されている。第1のミラー軸24aには、第1の駆動源の一例としての第1ガルバノモータ24bから駆動が伝達される。したがって、第1ガルバノモータ24bからの駆動に応じて、第1ガルバノミラー24は第1のミラー軸24aを中心に回転、傾斜して、レーザー光22aの反射方向を変化させる。
【0022】
第2ガルバノミラー25も、第1ガルバノミラー24と同様に、第2のミラー軸25a、第2の駆動源の一例としての第2ガルバノモータ25bを有し、レーザー光22aの反射方向を変化させる。なお、実施例1では、一例として、第1ガルバノミラー24は、試料Sの表面において、主としてガス流れ方向に沿ったX方向の照射位置を制御し、第2ガルバノミラー25は、主としてガス流れ方向に交差するY方向の照射位置を制御する。したがって、2つのガルバノミラー24,25の制御で、2次元的にレーザー光22aを走査することが可能である。実施例1では、一例として、20cm×20cmの範囲でレーザー光22aを照射可能に構成されている。
第2ガルバノミラー25とセル11との間には、光学部材の一例としてのレンズ26が配置されている。レンズ26は、レーザー光22aの焦点の位置が試料Sの表面となるように、通過するレーザー光22aを集光する。
【0023】
(セルの説明)
図3は実施例1のセルの説明図である。
図3において、実施例1のセル11は、試料Sが収容される収容部41を有する。
収容部41の上面には、レーザー光22aが透過可能な窓部42が配置されている。
収容部41の一端側(上流部)には、第1の導入部の一例としての第1のガス導入部51が形成されている。第1のガス導入部51には、第1のガス導入ホース52が接続されている。したがって、第1のガス導入ホース52を通じて、第1のガス導入部51から第1のガス53が収容部41に導入される。
【0024】
第1のガス導入部51の内側には、第2のガス導入部56が配置されている。実施例1の第2のガス導入部56は、左右方向に延びる円筒状の筒体により構成されている。第2のガス導入部56の筒体の内側には第2のガス導入ホース57が接続されている。したがって、第2のガス58が、第2のガス導入ホース57を通じて第2のガス導入部56から収容部41に導入される。第2のガス導入ホース57は第1のガス導入ホース52の内部を貫通して配置されている。したがって、2つのガス導入ホース52+57により、搬送ガスチューブ12が構成されている。
第2のガス導入部56は、筒体の中心軸56aを中心として回転可能に構成されている。また、第2のガス導入部56は、軸方向に沿ったスリット状のガス噴出し口56bが形成されている。第2のガス導入部56は、軸方向の両端でセル11の側壁に回転可能に支持されている。そして、セル11の外部に配置された操作部の一例としてのハンドルを操作することでガス噴出し口56bの位置を調整することができ、第2のガスを噴き出す向きを調整可能である。実施例1では、第2のガス58は、第1のガス53よりも窓部42に近い側、且つ、試料Sから遠い側を流れるように設定される。
【0025】
実施例1では、第1のガス53と第2のガス58が混ざることを抑制するために、ガス噴出し口56bの下側(窓部42から遠い側)に、斜め上方(窓部42に近づく側)に向けて、分離部材の一例としてのガスセパレータ61が支持されている。ガスセパレータ61は、フィルム状のプラスチックを折り曲げる等の加工をすることで形成可能である。
また、実施例1では、第1のガス53の一例としてのHeガスが使用され、第2のガス58の一例としてのArガスが使用される。HeガスはArガスに比べて粘性が低い。
前記収容部41の他端部(下流部)には、導出部66が形成されており、セル接続チューブ7に接続される。
【0026】
なお、前記フェムト秒レーザー22やガルバノ光学系23の制御、ガス53,58の流速の制御、ICP-MS2での測定等は、コンピュータ装置31で制御される。コンピュータ装置31は外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、コンピュータ装置31は、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリを有する。また、コンピュータ装置31は、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリを有する。また、コンピュータ装置31は、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置を有する。よって、コンピュータ装置31は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0027】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の分析装置1では、試料Sにおいて目的の分析位置に対して、ガルバノミラー24,25で位置調整がされて、レーザー光22aが照射される。ここで、実施例1のガルバノ光学系23は、2つのガルバノミラー24,25が、ガルバノモータ24b,25bでそれぞれ独立して制御される(2軸制御)。したがって、試料Sにおいて2次元上の任意の位置をアブレーションして、測定、分析することが可能である。
ここで、試料のアブレーションに伴って、試料Sの微粒子が試料Sから飛散、離脱して、収容室41内に浮遊する。レーザー光22aの周波数が低い(例えば、1000回/秒オーダー)では、浮遊した微粒子が窓部42に付着することも少なく、付着しても半年に1回程度の清掃で問題がない程度の量であった。しかしながら、フェムト秒レーザー22(1万回/秒オーダー)では、微粒子の飛散時の飛散速度も高速化すると共に、飛散する微粒子の回数が増え、これに伴って付着が目立つようになり、レーザー光22aを吸収してアブレーションに悪影響が出る恐れが出てきた。
【0028】
これに対して、実施例1では、アブレーションされた微粒子は、第1のガス53であるHeガスで搬送されて、質量分析計2で測定されると共に、アブレーション時に高速で飛散する微粒子は、窓部42の近傍を流される粘性の高い第2のガス58(Arガス)で捕捉される。したがって、窓部42に微粒子が付着、蓄積しにくい状態を保持できる。よって、窓部42の汚れを抑制できる。
図4は実施例1の想定されるメカニズムの説明図であり、図4Aは第1ガスとしてArを使用した場合の説明図、図4Bは第1ガスとしてHeを使用した場合の説明図である。
図4Aにおいて、Heガスを使用せず、Arガスのみを使用することも考えられるが、試料Sの近傍にもArガスを使用すると、飛散した試料Sの粒子がレーザー光22aが照射されたクレータ状になった試料Sの照射領域の外周部に付着しやすい問題がある。これは、レーザー照射で高温になって飛散する微粒子に対して、Arガスの熱伝導率が小さいために、高温のままの領域が狭い(クレータの近傍のみになる)と考えられる。したがって、飛散した微粒子が冷えて凝集し始める時期は、微粒子がクレータからあまり飛散しておらず、飛散した微粒子の密度が高い(密度は、半径の3乗に比例して小さくなる)ためと考えられる。したがって、凝集後の粒子の径も大きく、質量分析計2での測定精度も低下する問題がある。
一方で、Heガスのみとすると、Heガスは粘性が低いために、窓部42の近傍に飛んできた微粒子をHeの粘性で捕捉しきれず、窓部42に微粒子が付着、堆積しやすい問題が発生する。なお、試料Sの近傍がHeガスであると、熱伝導率が高いため、高温の領域が広くなると考えられる。したがって、高温の微粒子が冷えて凝集し始めるころには、微粒子の密度が低下して、凝集が少なく、粒子径も小さくなって測定精度も向上すると考察される。
【0029】
したがって、実施例1では、2つのガス53,58を使用することで、測定精度を向上させつつ、窓部42の汚れを抑制可能である。
なお、第2のガス58で捕捉された微粒子も質量分析計2に送られて測定される。
特に、実施例1のように、第1のガス53がHeガスで、第2のガス58がArガスの場合、2つのガス53,58の間の粘性が大きく異なるため、元々混ざりにくい。したがって、2つのガスが混合されて測定結果に悪影響を及ぼすことが少ない。特に、第2のガスはArガスであり、セルの下流側で付加されるメイクアップガスもArガスであるため、混ざっても少量であれば問題はほとんどない。あるいは、混ざる量を実験等で予め測定しおいて、メイクアップガスの量を混ざる量に応じて増減させることも可能である。
また、セル11内を流れるガス53,58の流量が、質量分析計2において適切な流量に対して不足する場合もある。すなわち、セル11内のガス53,58の流量が、質量分析計2における適切な流量とは限らない。従って、セル11から流出した流量に対して、メイクアップガスで不足分の流量を補って、質量分析計2での適切な流量にすることが可能である。特に、メイクアップガスは、流量の調整が容易であり、質量分析計2での測定結果や感度を見ながら自由に流量を調整することも可能である。
【0030】
また、実施例1では、ガス噴出し口56bの向きを調整可能である。したがって、第2のガス58のガス種や第1のガス53との組み合わせ(粘性や熱伝導性の差の大きさ等)、ガスの流速、測定される試料Sの種類やアブレーションのしやすさ、飛散しやすさ、付着しやすさ等に応じて、第2のガス58を噴出する向きを調整可能である。
【0031】
(変更例)
図5はセルの導入部の変更例の説明図である。
前記実施例において、図3に示すように第2のガス導入部56のガス噴出し口56bの向きを調整可能な構成を例示したが、これに限定されない。
図5に示すように、第1のガス導入部51′の上方に平行に第2のガス導入部56′を平行して固定支持することも可能である。
【0032】
(そのほかの変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H09)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、試料Sとして、1つの試料の場合を例示したが、2つ以上とすることも可能である。
(H02)前記実施例において、ガルバノ光学系23は、2軸制御の構成を例示したが、3軸以上の構成とすることも可能である。なお、ガルバノ光学系23の照射範囲や領域、照射方法等については、実施例に例示した具体的な範囲に限定されず、実験目的や用途、測定対象等に応じて任意に変更可能である。したがって、ガルバノ光学系23を使用しない、公知の光学系を使用可能である。
【0033】
(H03)前記実施例において、具体的な形状については、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。例えば、セル11の収容部41の形状等は任意に変更可能である。
(H04)前記実施例において、第1のガスとしてHeガスを使用することが好ましいが、これに限定されない。分析対象の試料の種類や要求される精度等に応じて、例えば、水素ガスやネオンガス等に変更可能である。
また、第1のガスとしてArガスを使用することも可能である。すなわち、第1のガスと第2のガスのガス種を同一のものを使用することが可能である。このとき、第1のガスはアブレーションされた試料を搬送すると共に、第2のガスは窓部42に試料が付着しにくくするために、第1のガスと第2のガスとの流速に差を持たせて層流で流すことで、窓部42への試料の付着が低減可能である。
また、第2のガスとしてArガスを例示したが、これに限定されない。例えば、XeガスやKrガス、Rnガス等を使用することも可能である。この時、第1のガスは第2のガスに比べて粘性が低いことが好ましい。一般に、分子量(や原子量)が小さいほうが、粘性が低くなり、熱伝導性が高くなる。したがって、第2のガスとして、第1のガスに比べて分子量(や原子量)が大きなガスを使用することが好ましい。
【0034】
(H05)前記実施例において、例示したセル11は、2次元上を走査可能なレーザーアブレーション装置21を有する分析装置1で好適に使用可能であるが、1次元上を操作可能なレーザーアブレーション装置に使用することも可能である。
(H06)前記実施例において、2つのガスを使用する構成を例示したが、3つ以上のガスを使用する構成、すなわち、試料Sの近傍を流れる第1のガスと、窓部42の近傍を流れる第2のガスの間に、第3のガスや第4のガスが流れる構成とすることも可能である。
【0035】
(H07)前記実施例において、試料をアブレーションするレーザーとしてフェムト秒レーザーを例示したがこれに限定されない。例えば、Nd:YAGレーザー等の試料をアブレーション可能な任意のレーザーにも適用可能である。
(H08)前記実施例1において、第2のガスの放出方向を可変とする構成は設けることが望ましいが、第2のガス導入部56が固定された構成とすることも可能である。
(H09)前記実施例1において、ガスセパレータ61は、フィルム状のプラスチックで構成する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、金属板、金属箔等で構成することも可能であり、ICP分析に影響を与えない任意の材料を使用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…分析装置、
2…誘導結合プラズマ質量分析装置、
11…セル、
21…レーザーアブレーション装置、
22a…レーザー光、
41…収容部、
42…窓部、
53…第1のガス、
51…第1の導入部、
58…第2のガス、
56…第2の導入部、
66…導出部、
S…試料。
図1
図2
図3
図4
図5