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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】複合体、分散液及び熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20230915BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20230915BHJP
   C07C 211/63 20060101ALN20230915BHJP
【FI】
C01B32/168
C01B32/174
C07C211/63
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019239288
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107306
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】内田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 幸英
(72)【発明者】
【氏名】秦 慎一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112319(JP,A)
【文献】特開2019-036599(JP,A)
【文献】特開2017-052751(JP,A)
【文献】特表2003-505339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H10N 10/01、10/085
C07C 211/63
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】
〔前記一般式(I)中、R及びRのいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは水素原子であり、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR同士及び複数のR同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、
Lは、炭素数1以上10以下のアルキレン基を表し、
nは0以上1以下の整数を表し、
Xはカウンターイオンを表す。〕
で表される複鎖型のカチオン性界面活性剤と、
カーボンナノチューブと、
を含む、複合体。
【請求項2】
下記一般式(II)
【化2】
〔前記一般式(II)中、R及びRのいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは水素原子であり、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR同士及び複数のR同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、
Lは、炭素数1以上10以下のアルキレン基を表し、
nは0以上1以下の整数を表す。〕
で表されるカチオン性基含有化合物と、
カーボンナノチューブと、
を含む、複合体。
【請求項3】
前記カチオン性基含有化合物は、下記一般式(I)
【化3】
〔前記一般式(I)中、R及びRのいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは水素原子であり、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR同士及び複数のR同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、
Lは、炭素数1以上10以下のアルキレン基を表し、
nは0以上1以下の整数を表し、
Xはカウンターイオンを表す。〕
で表される複鎖型のカチオン性界面活性剤の本体であり、当該カチオン性界面活性剤のクラフト点が25℃以下である、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記一般式(I)中、前記Xで表されるカウンターイオンが、ハロゲン化物イオンである、請求項1または3に記載の複合体。
【請求項5】
下記一般式(I)
【化4】
〔前記一般式(I)中、R及びRのいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは水素原子であり、
が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、Rは炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR同士及び複数のR同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、
Lは、炭素数1以上10以下のアルキレン基を表し、
nは0以上1以下の整数を表し、
Xはカウンターイオンを表す。〕
で表される複鎖型のカチオン性界面活性剤と、
カーボンナノチューブと、
溶媒とを含む、分散液。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の複合体を含む、熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、分散液及び熱電変換素子に関し、特に、複合体と、当該複合体の製造に用いることが可能な分散液と、当該複合体を用いた熱電変換素子とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換できる熱電変換素子が注目されている。熱電変換素子は、その発電効率を高めるために、複数のp型の熱電変換素子と、複数のn型の熱電変換素子とを交互に繋げて使用するのが一般的である。
【0003】
そして、近年、熱電変換素子に用いられる熱電変換材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)が注目されている。CNTは、軽くてフレキシブルであり、作製された時点ではn型の特性を有している。しかし、CNTは、大気中に曝露された瞬間に酸化されてp型に変化する。ここで、p型のCNTをn型に変換する技術が特許文献1及び2、並びに、非特許文献1及び2において提案されている。
【0004】
具体的には、特許文献1では、(a)周期表第13属元素又は周期表第15属元素を含み、且つπ電子共役系の分子構造を有するルイス酸、又は、(b)周期表第15属元素を含み、且つπ電子共役系の分子構造を有するルイス塩基をドーパントとして選択することが提案されている。特許文献2では、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含有するドーパント組成物が提案されている。非特許文献1では、コバルトセンをCNTにドーピングする技術が提案されている。非特許文献2では、1鎖型の界面活性剤であるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)をCNTにドーピングすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5768299号(国際公開第2014/133029号)
【文献】特許第6340077号(国際公開第2015/198980号)
【非特許文献】
【0006】
【文献】T. Fukumaru et al., "Development of n-type cobaltocene-encapsulated carbon nanotubes with remarkable thermoelectric property", scientific reports 5, Article number: 5, 7951 (2015).
【文献】X. Cheng et al., "A convenient and highly tunable way to n-type carbon nanotube thermoelectric composite film using common alkylammonium cationic surfactant", Journal of Materials Chemistry A, Issue 6(39), 19030 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来のCNTのn型化の技術は、実用上、十分ではない。さらに、非特許文献2で提案されている技術によれば、CNTのn型は数日程度しか持続しない。
【0008】
そこで、本発明は、CNTのn型が安定的に維持される技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、複鎖型のカチオン性界面活性剤と、CNTとを用いて製造された複合体によれば、CNTのn型を安定的に維持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の複合体は、下記一般式(I)
【0011】
【化1】
〔前記一般式(I)中、R1及びR2のいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、R1が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R2は水素原子であり、R2が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R1は炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR1同士及び複数のR2同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Lは、連結基を表し、nは0以上の整数を表し、Xはカウンターイオンを表す。〕で表される複鎖型のカチオン性界面活性剤(以下、「カチオン性界面活性剤(I)ともいう。」)と、カーボンナノチューブとを含む複合体であることを特徴とする。このような複合体(以下、「第1の複合体」ともいう。)によれば、CNTのn型が安定的に維持される複合体を提供することができる。
【0012】
また、本発明の他の複合体は、下記一般式(II)
【0013】
【化2】
〔前記一般式(II)中、R1及びR2のいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、R1が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R2は水素原子であり、R2が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R1は炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR1同士及び複数のR2同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Lは、連結基を表し、nは0以上の整数を表す。〕で表されるカチオン性基含有化合物(以下、「カチオン性基含有化合物(II)」ともいう。)と、カーボンナノチューブとを含む複合体であることを特徴とする。このような複合体(以下、「第2の複合体」ともいう。)によっても、CNTのn型が安定的に維持される複合体を提供することができる。
【0014】
ここで、上記式(II)で表されるカチオン性基含有化合物(II)は、上述したカチオン性界面活性剤(I)の本体を構成するものである。
【0015】
そして、本発明の複合体において、前記カチオン性界面活性剤(I)のクラフト点が、25℃以下であることが好ましい。カチオン性界面活性剤(I)のクラフト点が25℃以下であれば、カチオン性界面活性剤(I)の調製を室温で効率的に行うことができる。
【0016】
また、本発明の複合体において、前記一般式(I)中、前記Xで表されるカウンターイオンが、ハロゲン化物イオンであることが好ましい。前記Xで表されるカウンターイオンがハロゲン化物イオンであれば、複合体中に含まれる不純物を低減して、複合体の導電率を向上させることができる。
【0017】
さらに、本発明の複合体において、前記一般式(I)又は(II)中、前記Lで表される連結基が、炭素数1以上20以下のアルキレン基、及び、炭素数1以上20以下のアルキレン基に含まれるメチレン基(-CH2-)の少なくとも一つが-O-又は-C(=O)-に置換された基のいずれかの官能基であることが好ましい。前記Lで表される連結基が、炭素数1以上20以下のアルキレン基、及び、炭素数1以上20以下のアルキレン基に含まれるメチレン基(-CH2-)の少なくとも一つが-O-又は-C(=O)-に置換された基のいずれかの官能基であれば、カチオン性界面活性剤(I)とCNTとの相互作用を強めることで、CNTのn型を更に安定的に維持することができる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の分散液は、下記一般式(I)
【0019】
【化3】
【0020】
〔前記一般式(I)中、R1及びR2のいずれか一方は、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表し、R1が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R2は水素原子であり、R2が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R1は炭素数3以下のアルキル基を表し、複数のR1同士及び複数のR2同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Lは、連結基を表し、nは0以上の整数を表し、Xはカウンターイオンを表す。〕で表される複鎖型のカチオン性界面活性剤と、カーボンナノチューブと、溶媒とを含むことを特徴とする。本発明の分散液を用いれば、CNTのn型が安定的に維持される複合体を効率的に製造することができる。
【0021】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱電変換素子は、上述したいずれかの複合体を含むことを特徴とする。本発明の熱電変換素子によれば、安定したn型が維持される熱電変換素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、CNTのn型が安定的に維持される複合体を提供することができる。
また、本発明によれば、CNTのn型が安定的に維持される複合体を効率的に製造するために用い得る分散液を提供することができる。
そして、本発明によれば、安定したn型が維持される熱電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の複合体は、CNTのn型が安定的に維持されるため、n型の熱電変換材料として好適に用いることができる。
また、本発明の複合体は、特に限定されることなく、例えば本発明の分散液を用いて効率的に製造することができる。
そして、本発明の熱電変換素子は、本発明の複合体を含んでいるため、安定したn型を示す熱電変換素子として用いることができる。
【0024】
(複合体)
本発明の第1の複合体は、複鎖型のカチオン性界面活性剤(カチオン性界面活性剤(I))と、カーボンナノチューブとを含み、任意に、その他の成分を含み得る。また、本発明の第2の複合体は、カチオン性基含有化合物(II)と、カーボンナノチューブとを含み、任意に、その他の成分を含み得る。
【0025】
<カチオン性界面活性剤(I)>
本発明の第1の複合体に含まれるカチオン性界面活性剤(I)は、下記式(I)で表される。
【0026】
【化4】
【0027】
また、本発明の第2の複合体に含まれるカチオン性基含有化合物(II)は、下記一般式(II)で表される。
【0028】
【化5】
【0029】
なお、カチオン性基含有化合物(II)は、上記一般式(I)で表されるカチオン性界面活性剤(I)の本体を構成するものである。
【0030】
ここで、一般式(I)及び一般式(II)中、R1及びR2のいずれか一方は、置換基を有してもよい炭素数8以上16以下のアルキル基を表す。そして、R1が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R2は水素原子である。また、R2が置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基である場合には、R1は置換基を有していてもよい炭素数3以下のアルキル基を表す。また、複数のR1同士及び複数のR2同士は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。なお、本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、「無置換又は置換基を有する」の意味である。なお、上記炭素数8以上16以下のアルキル基、及び、上記炭素数3以下のアルキル基のそれぞれの炭素数には、置換基に含まれる炭素数が含まれるものとする。
【0031】
そして、一般式(I)及び一般式(II)中、R1、R2の、置換基を有していてもよい炭素数8以上16以下のアルキル基としては、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基などが挙げられる。
【0032】
また、置換基を有していてもよいアルキル基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子;シアノ基;メチル基;エチル基、プロピル基などの炭素数1~6のアルキル基;ビニル基、アリル基などの炭素数2~6のアルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基などの環状の脂肪族炭化水素基;フェニル基等の芳香族炭化水素基;などが挙げられる。なお、上記炭素数1~6のアルキル基、及び、上記炭素数2~6のアルケニル基のそれぞれの炭素数には、置換基に含まれる炭素数が含まれるものとする。
【0033】
一般式(I)及び(II)中、Lで表される連結基は、特に限定されないが、炭素数1以上20以下のアルキレン基、及び、炭素数1以上20以下のアルキレン基に含まれるメチレン基(-CH2-)の少なくとも一つが-O-又は-C(=O)-に置換された基のいずれかの官能基であることが好ましい。なお、官能基に含まれる水素原子は、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、又は、ハロゲン原子に置換されていてもよい。
【0034】
中でも、複合体の安定したn型と優れた導電率とを良好に維持する観点から、一般式(I)及び(II)中、Lで表される連結基は、炭素数10以下のアルキレン基であることが好ましく、炭素数5以下のアルキレン基であることがより好ましい。
【0035】
また、一般式(I)及び(II)中、nは、0以上の整数であればよいが、カチオン性界面活性剤(I)の合成を容易にする観点から、nは、1以下であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0036】
そして、一般式(I)中、Xで表されるカウンターイオンとしては、ハロゲン化物イオンが好ましく、中でも、カチオン性界面活性剤(I)の合成をより容易とする観点から、ハロゲン化物イオンは、Cl-又はBr-であることが好ましく、Br-であることがより好ましい。
【0037】
〔クラフト点〕
ここで、カチオン性界面活性剤(I)のクラフト点は、特に限定されないが、25℃以下であることが好ましい。カチオン性界面活性剤(I)のクラフト点が25℃以下であれば、カチオン性界面活性剤(I)の調製を室温で効率的に行うことができる。なお、カチオン性界面活性剤(I)のクラフト点は、電気伝導度法に基づいて決定することができる。具体的には、カチオン性界面活性剤(I)を含む臨界ミセル濃度以上の界面活性剤水溶液を調製し、得られた界面活性剤水溶液における低温(3℃程度)~高温(40℃程度)までの電気伝導度を測定する。その際、界面活性剤水溶液の温度調整には、恒温槽を用いることが好ましい。そして、温度に対する電気伝導度の値をグラフ上にプロットし、飛躍的に電気伝導度の値が上昇した温度がクラフト点となる。なお、電気伝導度の測定には、ポータブル型電気伝導率計(HORIBA製、LAQUAact「ES-71」など)を使用することができる。また、カチオン性界面活性剤(I)のクラフト点は、一般式(I)中、R1、R2で表されるアルキル基の炭素数を調整することで制御することができる。
【0038】
〔臨界ミセル濃度〕
また、カチオン性界面活性剤(I)の臨界ミセル濃度は、60mM以下であることが好ましく、10mM以下であることがより好ましく、1mM以下であることが更に好ましく、0.5mM以下であることが特に好ましい。これは、カチオン性界面活性剤(I)の臨界ミセル濃度は界面吸着能に依存するためである。カチオン性界面活性剤(I)の臨界ミセル濃度が60mM以下であれば、複合体中でのカチオン性界面活性剤(I)やカチオン性基含有化合物(II)の分散性を更に良好にして、CNTのn型を更に安定的に維持することができる。なお、カチオン性界面活性剤(I)の臨界ミセル濃度は、一般式(I)中、R1、R2で表されるアルキル基の炭素数を調整することで制御することができる。そして、R1、R2で表されるアルキル基の炭素数が少ないほど、カチオン性界面活性剤(I)の臨界ミセル濃度は高くなる。ここで、カチオン性界面活性剤(I)の臨界ミセル濃度は、表面張力法によって決定することができる。具体的には、カチオン性界面活性剤(I)を含む希薄な第1の界面活性剤水溶液と、カチオン性界面活性剤(I)を含む濃厚な第2の界面活性剤水溶液とを、それぞれ約10サンプル程度調製し、それらを試料溶液とする。そして、表面張力計(KRUSS社製、多機能自動表面張力計「K100」など)を用い、クラフト点以上の温度条件下において、これら試料溶液の表面張力を測定する。そして、カチオン性界面活性剤(I)の濃度に対し、得られた表面張力の値をグラフ上にプロットすると、ある濃度以降において表面張力が変化しない挙動を示す。グラフ上で、表面張力が一定となる前の3,4点の近似曲線と表面張力が一定になった後の3,4点の近似直線の交点が、臨界ミセル濃度として決定される。
【0039】
<カチオン性界面活性剤(I)の製造方法>
本発明のカチオン性界面活性剤(I)の製造方法は、特に限定されず、例えば、下記式(III)で表されるアミン系化合物(以下、アミン系化合物(III)という。」と、ジハロゲン化炭化水素とを、溶媒中で反応させ、反応溶液を加熱還流した後、溶媒を除去し、乾燥することで、カチオン性界面活性剤(I)を得ることができる。
【0040】
【化6】
【0041】
なお、上記一般式(III)中、R1、R2は、一般式(I)、(II)中のR1、R2と同じである。
【0042】
ここで、アミン系化合物(III)としては、特に限定されず、例えば、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N‐ジメチルヘキサデシルアミン、N,N-ジメチル‐n‐オクチルアミンなどが挙げられる。
【0043】
また、本発明のカチオン性界面活性剤(I)の合成に用いるジハロゲン化炭化水素としては、特に限定されず、例えば、一般式(IV)で表されるジハロゲン化アルカン(以下、「ジハロゲン化アルカン(IV)」ともいう。)などが挙げられる。
X-Cn2n-X・・・(IV)
【0044】
上記一般式(IV)中、nは1以上の整数である。また、一般式(IV)中、Xは、一般式(I)中のXと同じである。
【0045】
ここで、カチオン性界面活性剤(I)の合成を効率的に行う観点から、使用するアミン系化合物(III)とジハロゲン化アルカン(IV)との量比(質量比)は、アミン系化合物(III):ジハロゲン化アルカン(IV)=2:1~5:4であることが好ましく、2:1~3:2であることがより好ましい。
【0046】
なお、カチオン性界面活性剤(I)の合成において、加熱還流条件は特に限定されず、例えば温度を20℃~30℃、加熱時間を24時間~96時間とすることができる。また、乾燥温度は、例えば60℃~80℃とすることができる。
【0047】
<カーボンナノチューブ>
本発明において、複合体を形成する材料として用いられるカーボンナノチューブは、通常、p型の熱電変換特性を示す。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0048】
ここで、CNTの平均直径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。CNTの平均直径が0.5nm以上であれば、CNTの凝集を抑制することができるため、複合体中でのCNTの分散性を高めることで、複合体の導電率を向上させることができる。また、CNTの平均直径が15nm以下であれば、複合体に対し、十分な機械的特性を付与することができる。
なお、CNTの平均直径は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の直径を測定して求めることができる。
【0049】
また、CNTの平均長さは、0.1μm以上であることが好ましく、10μm以下であることが好ましい。CNTの平均長さが0.1μm以上10μm以下であれば、複合体中でCNTの分散性をより高めることで、複合体の導電性をより向上させることができる。
なお、CNTの平均長さは、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の長さを測定して求めることができる。
【0050】
そして、CNTのBET比表面積は、600m2/g以上であることが好ましい。CNTの比表面積が600m2/g以上であれば、導電性に優れた複合体を提供することができる。
なお、本発明において、「比表面積」とは、BET法を用いて測定したBET比表面積を指す。
【0051】
ここで、本発明で用いられるCNTの製造方法としては、特に限定されることなく、二酸化炭素の接触水素還元による方法、アーク放電法、化学的気相成長法(CVD法)、レーザー蒸発法、気相成長法、気相流動法、および、HiPCO法等が挙げられる。
【0052】
また、CNTは、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが、関係式:0.20<(3σ/Av)<0.60を満たすことが好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを使用すれば、CNTの配合量が少量であっても、複合体の導電性を高めることができる。
なお、本発明において、「CNTの平均直径(Av)」及び「CNTの直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0053】
本発明の複合体中に含まれるCNTの量は、特に限定されず、適宜設定することができる。ここで、本発明の複合体は、特に限定されないが、例えば後述する本発明の分散液を用いて効率的に製造することができる。その際、分散液を調製するにあたり、CNT100質量部に対してわずかでも上述したカチオン性界面活性剤(I)を混合することで、かかる分散液を用いて製造された複合体は、本発明による効果を十分に発揮し得る。
【0054】
そして、複合体中でのCNTの分散性を向上させると共に、複合体に良好な導電性を付与する観点からは、第1の複合体の場合には、当該第1の複合体中に含まれるCNT100質量部に対し、カチオン性界面活性剤(I)を10質量部以上含んでいることが好ましい。また、第2の複合体の場合には、当該第2の複合体中に含まれるCNT100質量部に対し、カチオン性基含有化合物(II)を10質量部以上含んでいることが好ましい。
さらに、第1の複合体の場合にはカチオン性界面活性剤(I)を、第2の複合体の場合にはカチオン性基含有化合物(II)を、それぞれCNT100質量部に対して100質量部以上300質量部含んでいれば、それらの複合体において、より良好な分散性や電気伝導性を確保することができると共に、本発明による効果を高めることができる。
【0055】
<その他の成分>
また、本発明の複合体には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記成分以外に、添加剤などを含有していてもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、分散剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、架橋剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料などを挙げることができる。
【0056】
(複合体の製造方法)
本発明の複合体の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述したカチオン性界面活性剤(I)と、CNTと、溶媒とを含む分散液を調製し、得られた分散液を、例えば、(i)平らなベルト上に流し、フィルムに成形し乾燥する、あるいは、(ii)多孔質基材を用いてろ過することにより得ることができる。なお、上記(i)の場合には、本発明の第1の複合体を得ることができる。また、上記(ii)の場合には、カチオン性界面活性剤(II)に含まれるカウンターイオンはろ液として除去され、カチオン性界面活性剤(I)の本体であるカチオン性基含有化合物(II)と、CNTとが、ろ物として得られる。そして、ろ物を乾燥させることにより、本発明の第2の複合体を得ることができる。なお、得られたろ物は、乾燥させる前に、水やアルコールなどを用いて洗浄してもよい。
【0057】
〔溶媒〕
ここで、分散液に用いる溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。そして、CNTの分散性を向上させる観点からは、溶媒として水を用いることが好ましい。
【0058】
なお、カチオン性界面活性剤(I)とCNTとを溶媒中で分散させる際の分散処理方法は、特に限定されず、例えば公知の混合装置を使用して行うことができる。混合装置としては、例えば、超音波分散機やジェットミルなどの、キャビテーション効果が得られる混合装置や、ビーズミル、ボールミル、三本ロールなどのロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、及びフィルミックスなどの、解砕効果が得られる混合装置などが挙げられる。
【0059】
ここで、カチオン性界面活性剤(I)は、溶媒100質量部に対し、固形分換算で0.2質量部以上0.6質量部以下用いることが好ましい。また、CNTは、溶媒100質量部に対し、固形分換算で0.2質量部程度用いることが好ましい。
【0060】
また、本発明の分散液において、カチオン性界面活性剤(I)とCNTとの含有比は、質量比〔カチオン性界面活性剤(I):CNT〕で、1:2程度であることが好ましい。
【0061】
そして、上述した(ii)の方法において分散液のろ過に使用する多孔質基材としては、特に限定されることなく、ろ紙や、セルロース、ニトロセルロース、アルミナなどよりなる多孔質シートを挙げることができる。また、ろ過方法としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過などの既知のろ過方法を用いることができる。さらに、ろ物を乾燥する方法としては、公知の方法を採用できる。乾燥方法としては、真空乾燥法、熱風乾燥法などが挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温(25℃)程度である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、3~4時間程度である。
【0062】
ここで、本発明の第1及び第2の複合体において、CNTが安定したn型を示す理由は、カチオン性界面活性剤(I)の本体であるカチオン性基含有化合物(II)がCNTと良好に絡み合うことによりCNTの表面が保護され、これによりCNTの酸化が防止されることによると推察される。
【0063】
(熱電変換素子)
本発明の熱電変換素子は、本発明の複合体を備えることを特徴とする。本発明の熱電変換素子は、本発明の複合体(第1の複合体又は第2の複合体)を、例えば熱電変換材料層として備えることができる。その際、熱電変換材料層の厚みは特に限定されず、適宜設定すればよい。
【0064】
そして、本発明の複合体を熱電変換素子の熱電変換材料層として用いる場合、当該熱電変換材料層の厚みは、例えば20μm以上150μm以下とすることができ、100μm以下とすることが好ましい。熱電変換材料層の厚みを20μm以上とすれば、均一性や安定性に優れた熱電変換材料層とすることができる。また、熱電変換材料層の厚みを150μm以下、好ましくは100μm以下とすれば、熱電変換材料層が固くなり割れやすくなるのを防ぐことができる。
【0065】
ここで、本発明の熱電変換素子の構造は、特に限定されず、例えば、本発明の複合体をn型の熱電変換材料層として備えることができる。熱電変換素子は、例えば、基材上の熱電変換材料層に二つの電極を取り付けることで作製することができる。電極は特に限定されず、例えば特開2014-199837号公報に記載のものを用いることができる。また、熱電変換材料層と二つの電極の位置関係は、特に限定されない。例えば、熱電変換材料層の両端に電極が配置されていてもよいし、熱電変換材料層が二つの電極で挟まれていてもよい。
【0066】
そして、本発明の熱電変換素子は、複数の熱電変換素子を備える熱電変換モジュールに使用することができる。具体的な熱電変換モジュールとしては、例えば、複数の熱電変換素子を板状または円筒状に組み合わせてなる熱電変換モジュールであって、当該複数の熱電変換素子の少なくとも1つが本発明の熱電変換素子である。このような熱電変換モジュールは、本発明の熱電変換素子を備えているため、高効率の発電が可能である
【実施例
【0067】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
はじめに、実施例及び比較例における、ゼーベック係数S及び導電率σの測定方法、並びに、安定性の評価方法について説明する。
【0069】
<ゼーベック係数S及び導電率σ>
熱電特性評価装置(アドバンス理工社製、「ZEM-3」)を用いて、大気中、温度25℃、湿度50%の条件下で、実施例及び比較例で得られた膜体について、作製直後のゼーベック係数S及び導電率σを測定した。なお、ゼーベック係数Sの測定中の温度は345Kとした。膜体のゼーベック係数Sの値が負であれば、膜体はn型を示している。
【0070】
<安定性の評価>
実施例及び比較例で得られた膜体について、作製直後のゼーベック係数Sと、所定期間経過後のゼーベック係数Sとを比較した。両者のゼーベック係数Sの差が小さいほど、膜体は安定性に優れる。
【0071】
次に、実施例及び比較例で使用した2鎖型のカチオン性界面活性剤の合成例1~3について説明する。また、3鎖型のカチオン性界面活性剤の合成例を、合成例4として説明する。
【0072】
(合成例1)
<1,3-プロパンジアミニウム,N1,N3-ジドデシル-N1,N1,N3,N3-テトラメチルブロミド(1:2)の合成>
容量が200mLの二口フラスコに超脱水エタノール(和光純薬株式会社製)50mL、1,3-ジブロモプロパン(和光純薬株式会社製)5.0g(0.025mol)、及び、N,N-ジメチルドデシルアミン(東京化成工業株式会社製)11.6g(0.054mol)を加えて反応溶液を得た。この反応溶液を72時間かけて加熱還流を行った。加熱還流後、超脱水エタノールを除去するためにエバポレーターを用いた。超脱水エタノールを除去後、ヘキサン(和光純薬株式会社製)を適量入れ、ロータリーエバポレーター(BUCHI製、「R-200」)を用いて洗浄及び溶媒を除去する操作を行った。この操作を2~3回程度行った。二口フラスコ内の生成物から未反応のN,N-ジメチルドデシルアミンを除去するために、ヘキサンを加え、デカンテーションを行った。このデカンテーションは2回行った。デカンテーション後、ロータリーエバポレーターでヘキサンを除去した。その後、アセトン(和光純薬株式会社製)を加え、分散させた後、フィルターペーパー(ADVANTEC製、孔径:180mm)を用いてろ過し、得られたろ物はアセトンを用いて精製した。精製物を60℃で真空乾燥し、白色粉末を得た。
得られた白色粉末が、下記式(A)で表される、2鎖型のカチオン性界面活性剤としての1,3-プロパンジアミニウム,N1,N3-ジドデシル-N1,N1,N3,N3-テトラメチルブロミド(1:2)(以下、「12-3-12(Br)」という。)であることをNMR測定により確認した。
【化7】
【0073】
(合成例2)
<1,3-プロパンジアミニウム,N1,N3-ジヘキサデシル-N1,N1,N3,N3-テトラメチルブロミド(1:2)の合成>
N,N-ジメチルドデシルアミンに替えて、N,N‐ジメチルヘキサデシルアミン(東京化成工業株式会社製)146g(0.054mol)を用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、白色粉末を得た。
得られた白色粉末が、下記式(B)で表される、2鎖型のカチオン性界面活性剤としての、1,3-プロパンジアミニウム,N1,N3-ジヘキサデシル-N1,N1,N3,N3-テトラメチルブロミド(1:2)(以下、「16-3-16(Br)という。」であることをNMR測定により確認した。
【化8】
【0074】
(合成例3)
<1,3-プロパンジアミニウム,N1,N1,N3,N3-テトラメチル-N1,N3-ジオクチルブロミド(1:2)の合成>
N,N-ジメチルドデシルアミンに替えて、N,N-ジメチル‐n‐オクチルアミン(東京化成工業株式会社製)8.5g(0.054mol)を用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、白色粉末を得た。
得られた白色粉末が、下記式(C)で表される、2鎖型のカチオン性界面活性剤としての、1,3-プロパンジアミニウム,N1,N1,N3,N3-テトラメチル-N1,N3-ジオクチルブロミド(1:2)(以下、「8-3-8(Br)という。」であることをNMR測定により確認した。
【0075】
【化9】
【0076】
(合成例4)
<3鎖型のカチオン性界面活性剤の合成>
2-プロパノール100mLに溶解した分子内に3級アミンを有するトリアミン1gに、過剰量の1-ドデシルブロミドを窒素雰囲気下で5時間還流しながら滴下した。反応は82℃にて45時間行い、反応溶媒を減圧下で蒸発させて残存した粘稠な固体をヘキサン及び1-ブタノールで洗浄した。さらにこの不溶物に過剰量の1-ドデシルブロミドを窒素雰囲気下にて5時間かけて、還流下、添加した。この際、反応は117℃で200時間以上行った。室温に冷却することで得られた白色沈殿物を濾過により回収した。これをヘキサンで、次いで熱アセトンで繰り返し洗浄し、減圧乾燥させることで、純度の高い3鎖型のカチオン性界面活性剤を得た。なお、3鎖型のカチオン性界面活性剤であることは、NMR測定により確認した。この3鎖型のカチオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度は、2鎖型のカチオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度よりも一桁低いものであった。
【0077】
(実施例1)
容量が50mLのトールビーカーに、CNT(名城ナノカーボン社製、「eDIPS-CNT」、製品名「EC-1.5」)60mgと、2鎖型のカチオン性界面活性剤として、濃度を3.2mMに調製した合成例1の12-3-12(Br)180mgと、水30mLとを加えた。次に、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier(登録商標)モデルSFX250、出力:45%、ホーンサイズ:1/2)を用いて15分間、分散処理を行った。分散処理は氷浴中で行った。得られた分散液をフィルターペーパー(ADVANTEC製、孔径:90mm)及び親水性メンブレンフィルター(ADVANTEC製、孔径:1.0μm)を用いて吸引ろ過し、ろ物として膜体を得た。膜体内に残存している12-3-12(Br)を除去するために、膜体を水4Lで洗浄し、室温(25℃)下で乾燥させた。それから、真空乾燥機(ヤマト科学株式会社製、「Vacuum Oven ADP-21」)を用いて温度60℃で3~4時間乾燥させ、膜体(1)を得た。得られた膜体(1)のゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2~4)
2鎖型のカチオン性界面活性剤として、表1に示す濃度に調製した合成例1の12-3-12(Br)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、膜体(2)~(4)を得た。膜体(2)~(4)について、実施例1と同様にゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
(実施例5~8)
2鎖型のカチオン性界面活性剤として、合成例1で得られた12-3-12(Br)に替えて、合成例2で得られた16-3-16(Br)を、表2に示す濃度で用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、膜体(5)~(8)を得た。膜体(5)~(8)について、実施例1と同様にゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
(実施例9~12)
2鎖型のチオン性界面活性剤として、合成例1で得られた12-3-12(Br)に替えて、合成例3で得られた8-3-8(Br)を、表3に示す濃度で用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、膜体(9)~(12)を得た。膜体(9)~(12)について、実施例1と同様にゼーベック係数S及び導電率を測定した。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
(実施例13)
2鎖型のカチオン性界面活性剤に替えて、合成例4で得られた3鎖型のカチオン性界面活性剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、膜体(13)を得た。得られた膜体(13)のゼーベック係数Sは負の値を示し、膜体(13)はn型を示した。
【0085】
(比較例1~3)
2鎖型のカチオン性界面活性剤に替えて、1鎖型のカチオン性界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、「CTAB」という。)を表4に示す濃度で用いた。それ以外は実施例1と同様の操作を行い、膜体(C1)~(C3)を得た。膜体(C1)~(C3)のゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
(比較例4~6)
2鎖型のカチオン性界面活性剤に替えて、1鎖型のカチオン性界面活性剤としてのドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、「DTAB」)という。)を表5に示す濃度で用いた。それ以外は、実施例1と同様の操作を行い、膜体(C4)~(C6)を得た。膜体(C4)~(C6)のゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
(比較例7~9)
2鎖型のカチオン性界面活性剤に替えて、1鎖型のカチオン性界面活性剤としてのオクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、「OTAB」という。)を表6に示す濃度で用いた。それ以外は、実施例1と同様の操作を行い、膜体(C7)~(C9)を得た。膜体(C7)~(C9)のゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
(比較例10)
2鎖型のカチオン性界面活性剤を用いなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行うことで膜体(C10)を得た。膜体(C10)のゼーベック係数S及び導電率σを測定した。結果を表7に示す。
【0092】
【表7】
【0093】
次に、上述した実施例で得られた膜体の安定性を調べるために、以下の実験を行った。
(実施例14)
実施例3で得られた膜体(3)を、表8に示す期間放置し、放置期間経過後の膜体(3)のゼーベック係数Sを測定した。結果を表8に示す。なお、放置期間0日とは、膜体(3)を作製してから12時間~24時間経過後のゼーベック係数Sを指す。
【0094】
【表8】
【0095】
(実施例15)
実施例5で得られた膜体(5)を、表9に示す期間放置し、放置期間経過後の膜体(5)のゼーベック係数Sを測定した。結果を表9に示す。なお、放置期間0日とは、膜体(5)を作製してから12時間~24時間経過後のゼーベック係数Sを指す。
【0096】
【表9】
【0097】
(実施例16)
実施例12で得られた膜体(12)を、表10に示す期間放置し、放置期間経過後の膜体(12)のゼーベック係数Sを測定した。結果を表10に示す。
【0098】
【表10】
【0099】
(比較例11~20)
実施例3で得られた膜体(3)に替えて、比較例1~10で得られた膜体(C1)~(C10)を用いた以外は実施例14と同様にして放置期間経過後の膜体(C1)~(C10)のゼーベック係数Sを測定した。その結果、放置期間0日(即ち、膜体(C1)~(C10)を作製してから12時間~24時間)では、それらの膜体のゼーベック係数Sは負の値を示していたが、いずれの膜体も、放置後数日以内にゼーベック係数Sが正の値に変化した(即ち、いずれの膜体も、作製直後はn型を示していたが、数日以内にp型に戻った)。
【0100】
表に示す結果より、次のことがわかる。
実施例1~12のゼーベック係数Sの結果から、2鎖型のカチオン性界面活性剤を用いることで、n型を示す膜体が得られることがわかる。これに対し、比較例10のゼーベック係数Sの結果から、2鎖型のカチオン性界面活性剤を用いない場合には、得られる膜体は、p型を示すことがわかる。
また、実施例1~12の結果から、2鎖型のカチオン性界面活性剤に含まれるアルキル鎖が長いほど、膜体の導電率σは高いことがわかる。
また、実施例13の結果から、3鎖型のカチオン性界面活性剤を用いることで、n型を示す膜体が得られることがわかる。なお、3鎖型のカチオン性界面活性剤を用いる場合には、使用する3鎖型のカチオン性界面活性剤の量が少ない場合でも、得られる複合体ではn型が安定的に維持される。また、3鎖型のカチオン性界面活性剤を使用すれば、従来よりも界面活性剤の使用量をかなり少なくしても、得られる複合体のn型を安定的に維持することができる。
また、実施例14~16の結果から、2鎖型のカチオン性界面活性剤を用いることで、得られる膜体のn型を長期にわたって安定的に維持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、CNTのn型が安定的に維持される複合体を提供することができる。
また、本発明によれば、CNTのn型が安定的に維持される複合体の製造に用い得る分散液を提供することができる。
そして、本発明によれば、安定したn型が維持される熱電変換素子を提供することができる。