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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】植物の免疫活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/44 20060101AFI20230915BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20230915BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20230915BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20230915BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20230915BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20230915BHJP
【FI】
A01N37/44
A01G7/06 A
A01P7/04 ZNA
A01P7/02
C12Q1/6876 Z
C12N15/29
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019135612
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021017431
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】有村 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】八須 匡和
(72)【発明者】
【氏名】堀戸 重臣
(72)【発明者】
【氏名】助川 聖
(72)【発明者】
【氏名】仲 千沙都
(72)【発明者】
【氏名】野永 葉子
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-001143(JP,A)
【文献】米国特許第04418225(US,A)
【文献】ダイズの防御システムを活性化させる人工ミント化合物の合成,大豆たん白質研究,2018年,Vol.21,p.29-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メントールとバリンとのエステル又はその塩を有効成分として含有し、植物としてのダイズの免疫を活性化する、植物の免疫活性化剤。
【請求項2】
害虫防除に用いられる、請求項1に記載の植物の免疫活性化剤。
【請求項3】
植物としてのダイズに請求項1又は2に記載の植物の免疫活性化剤を曝露させることを含む、植物の免疫活性化方法。
【請求項4】
害虫抵抗性を向上させる、請求項に記載の植物の免疫活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の免疫活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、以前、ペパーミントの香気成分を受容した植物では防御応答が活性化され、病害虫抵抗性が高まることを報告している(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0003】
また、ペパーミントには揮発性テルペンアルコールであるメントールが含まれており、メントール及びメントール誘導体は蚊に対する殺虫・忌避作用を示すことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
このようなメントールに代表されるモノテルペンアルコールは、毒性や刺激が非常に低いことが知られている。これらのことから、より安全性が高い植物の免疫活性化剤の開発に向けた、モノテルペンアルコールの応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-83736号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sukegawa et al.,Plant.J.;2018;96;910
【文献】Samarasekera et al.,Pest Management Science;2008;64;290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みて提案されたものであり、安全性が高い、新規の植物の免疫活性化剤及び植物の免疫活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的について鋭意研究した結果、モノテルペンアルコールとバリンとのエステルが、高い植物の免疫活性作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0009】
<1> メントールとバリンとのエステル又はその塩を有効成分として含有し、植物としてのダイズの免疫を活性化する、植物の免疫活性化剤。
【0011】
> 害虫防除に用いられる、<1>に記載の植物の免疫活性化剤。
【0012】
> 植物としてのダイズに<1>又は<2>に記載の植物の免疫活性化剤を曝露させることを含む、植物の免疫活性化方法。
【0013】
> 害虫抵抗性を向上させる、<>に記載の植物の免疫活性化方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性が高い、新規の植物の免疫活性化剤及び植物の免疫活性化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】メントール及び異なる種類のメントールアミノ酸エステルを接触させたダイズ葉における、PR1のmRNA量を示す図である。
図2】メントール及びメントールバリンエステルを接触させたダイズ葉における、PR1のmRNA量の経時変化を示す図である。
図3】メントール脂肪酸エステルを接触させたダイズ葉における、PR1のmRNA量を示す図である。
図4】メントール及びメントールバリンエステルを接触させたダイズ葉における、ナミハダニ産卵数を示す図である。
図5】メントール及びメントールバリンエステルを接触させたダイズ葉における、ハスモンヨトウによる被食面積を示す図である。
図6】メントール及びメントールバリンエステルを接触させた場合の、ハスモンヨトウの体重を示す図である。
図7】メントールバリンエステルの紫外線に対する安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤は、モノテルペンアルコールとバリンとのエステル又はその塩を有効成分として含有する。
【0018】
<モノテルペンアルコール>
エステルを構成するモノテルペンアルコールは特に限定されず、例えば、メントール、チモール、カルバクロール、テルピネオール、リナロール、ヒノキチオール、ゲラニオール、ネロール、テルピネン-4-オール、シトロネロール、ラバンジュロール、ボルネオール、又はペリルアルコール等が挙げられる。また、エステルを構成するモノテルペンアルコールが異性体を有する場合、異性体の種類は限定されない。
【0019】
エステルを構成するモノテルペンアルコールはメントールであることが好ましい。また、メントールには多数の異性体が存在することが知られているが、入手容易性の観点から、エステルを構成するモノテルペンアルコールはl-メントール又はd-メントールであることがより好ましく、l-メントールであることが更に好ましい。
【0020】
<バリン>
エステルを構成するバリンの異性体の種類は限定されず、D体、L体、DL体のいずれであってもよい。なお、経済性や入手容易性の観点から、エステルを構成するバリンはL体であることが好ましい。
【0021】
<エステル>
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤に含有されるエステルは、モノテルペンアルコールとバリンとのエステルである。エステルの異性体の種類は限定されない。また、エステルは、農芸化学的に許容可能な塩の形態であってもよい。例えば、エステルは、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩の形態であってもよく、酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩の形態であってもよい。
【0022】
<植物の免疫活性化剤>
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤を用いて植物の免疫を活性化することにより、害虫による食害、病害等を低減する防御遺伝子の発現を誘導することができる。したがって、本実施形態に係る植物の免疫活性化剤は、植物の害虫防除や病害低減を目的として用いることができる。
【0023】
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤は、モノテルペンアルコールとバリンとのエステル又はその塩に加えて、農芸化学的に許容可能な担体(固体担体、液体担体、又はガス担体)、界面活性剤、安定化剤、その他の製剤用補助剤等の他の成分を含有していてもよい。
【0024】
固体担体としては、カオリナイト、アタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、セリサイト、タルク、酸性白土、珪藻土等の鉱物;トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉、小麦粉、大豆粉、木粉等の植物性有機物;クマロン樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル、ケトン樹脂等の合成高分子化合物;等が挙げられる。
【0025】
液体担体としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸アミル、エチレングリコールアセテート等のエステル類;ベンゼン、トルエン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、ケロシン、ホワイトオイル等の脂肪族炭化水素類;ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;大豆油、綿実油等の植物油類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;等が挙げられる。
【0026】
ガス担体としては、LPG(液化石油ガス)、空気、窒素ガス、炭酸ガス、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0027】
界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、多価アルコールエステル類、リグニンスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0028】
安定化剤としては、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、TCP(リン酸トリクレジル)等が挙げられる。
【0029】
製剤用補助剤としては、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ポリエチレングリコール、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤は、上記のほかに、植物ホルモン剤、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、肥料等を更に含有していてもよい。
【0031】
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤の剤形は特に制限されない。剤形としては、粉剤、粒剤、粉粒剤、水和剤、錠剤、水溶剤、乳剤、懸濁剤、液剤、油剤、ペースト剤、エアゾール剤等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る植物の免疫活性化剤は、希釈せずにそのまま用いてもよく、必要に応じて希釈して用いてもよい。
【0033】
<植物の免疫活性化方法>
本実施形態に係る植物の免疫活性化方法は、上述した本実施形態に係る植物の免疫活性化剤を植物に曝露させることを含む。本実施形態に係る植物の免疫活性化方法を用いることにより、植物における免疫を活性化させることができる。したがって、本実施形態に係る植物の免疫活性化方法を用いることで、免疫が活性化された植物を生産することができる。
【0034】
本実施形態に係る植物の免疫活性化方法を用いて植物の免疫を活性化することにより、害虫による食害、病害等を低減することができる。
【0035】
対象植物は特に限定されず、例えば、穀類(稲、小麦等)、豆類(大豆、小豆等)、芋類(馬鈴薯、サツマイモ等)、果実類(リンゴ、ブドウ等)、葉菜類(キャベツ、ホウレンソウ等)、果菜類(トマト、ナス等)、根菜類(大根、ニンジン等)、花卉類(キク、バラ等)、特用作物(綿、麻等)等が挙げられる。
【0036】
植物への施用部位は特に制限されず、植物の種類、施用目的等に応じて適宜選択することができる。施用部位としては、例えば、植物の葉が挙げられる。
【0037】
植物への施用方法も特に制限されず、植物の種類、植物の免疫活性化剤の剤形、施用目的等に応じて適宜選択することができる。施用方法としては、例えば、葉への噴霧又は散布等が挙げられる。植物への施用は、一回だけ行ってもよく複数回行ってもよい。
【実施例
【0038】
(メントールアミノ酸エステルの合成)
l-メントールとL-アミノ酸とのエステル(本明細書において、「メントールアミノ酸エステル」ともいう)の合成は、Haradaらの論文(Harada et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.;1964;37;191)に記載されている方法に従って行った。まず、1モル当量のL-アミノ酸、1.3モル当量のp-トルエンスルホン酸一水和物、及び1.5モル当量のl-メントールをトルエンに懸濁し、還流冷却器が備えられたDean-Stark装置を用いて、110℃で3日間加熱した。酢酸エチルで希釈した後に、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、次いで飽和食塩水で洗浄して、硫酸ナトリウムで乾燥した。その後、濾過及び減圧濃縮を行い、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、メントールアミノ酸エステルを得た。
【0039】
(メントール脂肪酸エステルの合成)
l-メントールと脂肪酸とのエステル(本明細書において、「メントール脂肪酸エステル」ともいう)の合成は、Sakakuraらの論文(Sakakura et al.,J.Am.Chem.Soc.;2007;129;14775)に記載されている方法に従って行った。まず、1モル当量のl-メントール及び0.005モル当量のジメチルアミノピリジンを無溶媒で混合し、次いで、1.1モル等量の各脂肪酸無水物(酢酸(AA)、酪酸(BA)、及びオクタン酸(OA))を添加して、室温で24時間撹拌した。酢酸エチルで希釈した後に、1M 塩酸水溶液及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、次いで飽和食塩水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、濾過及び減圧濃縮を行い、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、メントール脂肪酸エステルを得た。
【0040】
(試験例1)
メントールアミノ酸エステルがpathogenesis-related protein 1(PR1)遺伝子のmRNA発現に及ぼす影響を確認した。なお、PR1遺伝子は、植物の免疫を活性化し、ハスモントウやナミハダニによる食害に対する防御的機能を果たす遺伝子であることが知られている(Meur et al.,Physiol.Plant.;2008;133;765、Sukegawa et al.,Plant.J.;2018;96;910、等参照)。
【0041】
メントール及びメントールアミノ酸エステルを、終濃度が1μMとなるように10mM MESならびに1%エタノールを含有する水溶液に溶解し、2週間生育させたダイズ葉に3枚1組あたり3mLスプレー処理した。また、コントロール溶液(10mM MESならびに1%エタノール水溶液)も同様にスプレー処理した。
【0042】
スプレー処理後、1日間インキュベートしたダイズ葉100mgから、Sepasol-RNA I Super G(ナカライテスク社)を用いてトータルRNAの抽出を行った。その後、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡社)を用いて、cDNAの合成を行った。合成したcDNAについて、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡社)を用いたリアルタイムPCR法により、PR1、及び内因性コントロールとしてactinの遺伝子を増幅した。リアルタイムPCRは、CFX Connect Real-Time PCR detection system(Bio-Rad社)を用いて、95℃で60秒間の初期変性を行った後、95℃で15秒間の変性反応及び60℃で30秒間の伸長反応を45サイクル行った。PR1のmRNA発現量は、actinのmRNA発現量により補正した。使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
【0043】
【表1】
【0044】
同様の実験を5回行い、平均値と標準偏差値を求めた。結果を図1に示す。
【0045】
図1に示されるように、メントールとバリンとのエステル(本明細書において、「メントールバリンエステル」又は「ment-Val」ともいう)を曝露すると、PR1のmRNA発現量が増加した。この結果より、メントールバリンエステルが、植物の免疫を活性化することがわかった。
【0046】
(試験例2)
試験例1と同様にメントール及びメントールバリンエステルをダイズ葉に曝露後、24、48、72、98、120時間インキュベートした後に、ダイズ葉100mgからcDNAを合成し、PR1のmRNA発現量の測定を行った。cDNAの合成及びリアルタイムPCRは、試験例1と同様の方法を用いて行った。
【0047】
同様の実験を3回行い、平均値と標準偏差値を求めた。結果を図2に示す。なお、図2における「*」は、コントロール溶液の曝露後、各時間が経過した例(cont)と比較して、統計学的に有意であることを示す。
【0048】
図2に示されるように、メントールを曝露させた場合のPR1のmRNA量は、曝露後24時間及び48時間経過時において有意に増加していた。また、メントールバリンエステルを曝露させた場合のPR1のmRNA量は、曝露後24時間、48時間に加えて72時間経過時においても有意な増加が確認された。これらの結果より、メントールに比べてメントールバリンエステルの方が、PR1のmRNA量の増加を長時間持続できることがわかった。
【0049】
(試験例3)
上記で合成したメントール脂肪酸エステルを、試験例1と同様にダイズ葉に曝露した。1日間インキュベートしたダイズ葉100mgからcDNAを合成し、PR1のmRNA発現量の測定を行った。cDNAの合成及びリアルタイムPCRは、試験例1と同様の方法を用いて行った。
【0050】
同様の実験を3回行い、平均値と標準偏差値を求めた。結果を図3に示す。なお、図3における「ns」はコントロールと比較して統計学的に有意でないことを示す。
【0051】
図3に示されるように、いずれのメントール脂肪酸エステルで処理した場合においても、PR1のmRNA量の増加は示されなかった。
【0052】
(試験例4)
メントールバリンエステルが植物の害虫抵抗性に及ぼす影響を確認した。試験例1と同様にスプレー処理後、24時間インキュベートしたダイズ葉から葉ディスク(1.8cm)を作製した。葉ディスク上にナミハダニ雌成虫を接触させ、3日後の産卵数をカウントした。また、同様にスプレー処理及びインキュベートしたダイズ葉に、24時間絶食させたハスモンヨトウ3令幼虫(1.8~2.0mg)を2時間接触させ、食害された葉の面積(被食面積)を、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて解析した。
【0053】
同様の実験を5回行い、平均値と標準偏差値を求めた。ナミハダニの産卵数に関する結果を図4に、ハスモンヨトウによる被食面積に関する結果を図5に示す。なお、図4及び図5における「*」は、コントロール溶液を曝露した例(cont)と比較して、統計学的に有意であることを示す。
【0054】
図4に示されるように、メントールバリンエステルを曝露させることで、産卵数の有意な減少が確認された。また、図5に示されるように、メントールバリンエステルを曝露させることで、被食面積の有意な減少が確認された。これらの結果より、メントールバリンエステルが植物に害虫抵抗性をもたらすことがわかった。
【0055】
(試験例5)
メントールバリンエステルの毒性を確認するために、毒性試験を行った。人工飼料(インセクタLFS、日本農産工業社)3gに、コントロール水溶液、1μMメントール水溶液及び1μMメントールバリンエステル水溶液を500μl添加したものを、ハスモンヨトウ3令幼虫(1.8~2.0mg)に4日間与えた。その後、ハスモンヨトウ幼虫の体重の測定を行った。
【0056】
同様の実験を5回行い、平均値と標準偏差値を求めた。結果を図6に示す。
【0057】
図6に示されるように、コントロール溶液を与えた場合と、メントール溶液及びメントールバリンエステル溶液を与えた場合とでは体重差は示されず、試験例4で示されたメントールバリンエステルによる植物の害虫抵抗性は、害虫に対する毒性によるものではないことがわかった。
【0058】
(試験例6)
メントールバリンエステルの紫外線に対する安定性試験を行った。0.5μMメントール水溶液及び0.5μMメントールバリンエステル水溶液に紫外線を照射し(254nm、3mW/cm)、ヘキサン・酢酸エチル(4:1)溶液を用いて、薄層クロマトグラフィー(TLC)により展開した。結果を図7に示す。
【0059】
図7に示されるように、8時間紫外線を照射した場合でも、メントールバリンエステルの安定性への影響はないことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007349709000001.app