(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】コーティング剤及びそれを用いた剥離紙原紙並びに剥離紙
(51)【国際特許分類】
C09D 129/04 20060101AFI20230915BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230915BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20230915BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20230915BHJP
C08F 8/14 20060101ALI20230915BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D7/63
D21H19/20 B
D21H27/00 A
C08F8/14
C08F8/46
(21)【出願番号】P 2019231174
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】香春 多江子
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181735(WO,A1)
【文献】特開2019-038935(JP,A)
【文献】特開2017-043872(JP,A)
【文献】特開2018-067661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
C09J 1/00 - 201/10
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
C08F 301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ビニルアルコール系重合体(A)及び酢酸ナトリウムを含有し、変性ビニルアルコール系重合体(A)は、けん化度が68モル%以上99.9モル%未満であり、粘度平均重合度が200以上5000未満であり、側鎖にエステル化剤由来の二重結合を0.01モル%以上0.50モル%未満有し、前記エステル化剤が炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体であり、高速液体クロマトグラフィーで測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W
0.05hが2.85分以上3.70分未満であり、
酢酸ナトリウムの含有量が変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であるコーティング剤。
【請求項2】
前記エステル化剤が、脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体、及び脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記エステル化剤が、炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体、及び炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記エステル化剤が、(i)イタコン酸及び/又はその誘導体、及び(ii)(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項5】
変性ビニルアルコール系重合体(A)が、さらにエチレン単位を主鎖に有し、該エチレン単位の含有率が変性ビニルアルコール系重合体(A)の全単量体単位に対して1モル%以上10モル%以下である、請求項1~4のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項6】
変性ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が72モル%以上99.0モル%未満である、請求項1~5のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項7】
変性ビニルアルコール系重合体(A)の高速液体クロマトグラフィーで測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W
0.05hが、2.99分以上3.40分未満である、請求項1~6のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のコーティング剤を基材に塗工してなる、剥離紙原紙。
【請求項9】
前記基材が、上質紙、中質紙、アルカリ性紙、グラシン紙、セミグラシン紙、板紙、及び白板紙からなる群より選ばれる1種以上である、請求項8に記載の剥離紙原紙。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の剥離紙原紙と、該剥離紙原紙の表面に形成される剥離層とを有する、剥離紙。
【請求項11】
前記剥離層が、付加型シリコーン(C)と白金(D)とを含有し、白金(D)の含有量が付加型シリコーン(C)100質量部に対して0.001質量部以上0.05質量部以下である、請求項10に記載の剥離紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、けん化度及び粘度平均重合度が特定の範囲にあり、さらに側鎖に特定の変性基を有し、高速液体クロマトグラフィーで測定した際に特定のピーク幅を有する変性ビニルアルコール系重合体(A)及び酢酸ナトリウムを含有するコーティング剤を基材に塗工してなる剥離紙原紙及びその製造方法に関する。また、本開示は、当該剥離紙原紙の表面に剥離層を形成した剥離紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)は、親水性かつ結晶性を有する特異な合成高分子であり、紙分野において、紙力増強剤、蛍光白色顔料の分散剤、無機物(炭酸カルシウム、クレー、シリカ等)のバインダーとして使用されている。また、PVAは造膜性に優れるため、紙に塗工することにより、ガスなどに対するバリア性や耐油性を付与できる。
【0003】
PVAが塗工された紙はバリア紙として用いられることがあり、バリア紙の代表例として、剥離紙原紙が挙げられる。剥離紙原紙は、通常、セルロース基材の表面にPVAを塗工することにより製造される。そして、この剥離紙原紙の表面に剥離層(シリコーン層)を形成することにより剥離紙が得られる。剥離紙におけるPVAは、高価なシリコーンや白金の基材中への浸透を抑制する目止め剤の役割を担っている。昨今、このような目止め性に加え、剥離層のシリコーンの硬化を促進したり、PVA層とシリコーン層の密着性を改良できる剥離紙原紙が求められている。
【0004】
特許文献1には、特定の条件を満たしたシリル基を有するPVAを塗工した剥離紙原紙が記載されている。特許文献2には、アセタール化反応によって側鎖に二重結合が導入されたPVAを塗工したセルロース基材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-194672号公報
【文献】特表2013-531136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のPVAは、シリコーンの硬化を促進させる効果、基材とシリコーン層の密着性を向上させる効果が不十分であった。特許文献2で用いられているアセタール化反応は、通常、塩酸や硝酸といった揮発性の高い酸を使用するため、そのような酸がアセタール化PVA中に残存すると塗工工程において機器の腐食の原因となり、改善が望まれていた。また、剥離層のシリコーンの硬化を促進させる効果も不十分であった。また、特許文献1、2においては、長期保管後のコーティング剤の保管安定性は検討されていなかった。さらに、コーティング剤のpHが低すぎる場合、該コーティング剤を使用する塗工機の腐食が問題となっていた。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、塗工機の酸腐食を抑制できるとともに、剥離紙原紙に塗工した際にシリコーンの目止め性に優れ、剥離層のシリコーンの硬化を促進させ、かつ基材と剥離層との密着性を向上させることができるコーティング剤、及びそれを用いた剥離紙原紙を提供することを目的とする。また、本開示は、当該剥離紙原紙を用いて得られる剥離紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、けん化度及び粘度平均重合度が特定の範囲にあり、さらに側鎖に特定の変性基を有し、高速液体クロマトグラフィーで測定した際に特定のピーク幅を有する変性ビニルアルコール系重合体(A)及び酢酸ナトリウムを含有するコーティング剤とすることによって、上記課題を解決できることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本開示は以下の発明を包含する。
[1]変性ビニルアルコール系重合体(A)及び酢酸ナトリウムを含有し、変性ビニルアルコール系重合体(A)は、けん化度が68モル%以上99.9モル%未満であり、粘度平均重合度が200以上5000未満であり、側鎖にエステル化剤由来の二重結合を0.01モル%以上0.50モル%未満有し、前記エステル化剤が炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体であり、高速液体クロマトグラフィーで測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W0.05hが2.85分以上3.70分未満であり、
酢酸ナトリウムの含有量が変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であるコーティング剤。
[2]前記エステル化剤が、脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体、及び脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、[1]に記載のコーティング剤。
[3]前記エステル化剤が、炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体、及び炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、[1]に記載のコーティング剤。
[4]前記エステル化剤が、(i)イタコン酸及び/又はその誘導体、及び(ii)(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上である、[1]に記載のコーティング剤。
[5]変性ビニルアルコール系重合体(A)が、さらにエチレン単位を主鎖に有し、該エチレン単位の含有率が変性ビニルアルコール系重合体(A)の全単量体単位に対して1モル%以上10モル%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング剤。
[6]変性ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が72モル%以上99.0モル%未満である、[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング剤。
[7]変性ビニルアルコール系重合体(A)の高速液体クロマトグラフィーで測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W0.05hが、2.99分以上3.40分未満である、[1]~[6]のいずれかに記載のコーティング剤。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のコーティング剤を基材に塗工してなる、剥離紙原紙。
[9]前記基材が、上質紙、中質紙、アルカリ性紙、グラシン紙、セミグラシン紙、板紙、及び白板紙からなる群より選ばれる1種以上である、[8]に記載の剥離紙原紙。
[10][8]又は[9]に記載の剥離紙原紙と、該剥離紙原紙の表面に形成される剥離層とを有する、剥離紙。
[11]前記剥離層が、付加型シリコーン(C)と白金(D)とを含有し、白金(D)の含有量が付加型シリコーン(C)100質量部に対して0.001質量部以上0.05質量部以下である、[10]に記載の剥離紙。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、塗工機の酸腐食を抑制できるとともに、剥離紙原紙に塗工した際にシリコーンの目止め性に優れ、剥離層のシリコーンの硬化を促進させ、かつ基材と剥離層との密着性を向上させることができるコーティング剤、及びそれを用いた剥離紙原紙を提供することができる。また、本開示によれば、当該剥離紙原紙を用いて得られる剥離紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のコーティング剤は、変性ビニルアルコール系重合体(A)及び酢酸ナトリウムを含有し、変性ビニルアルコール系重合体(A)は、けん化度が68モル%以上99.9モル%未満であり、粘度平均重合度が200以上5000未満であり、側鎖にエステル化剤由来の二重結合を0.01モル%以上0.50モル%未満有し、前記エステル化剤が炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体であり、高速液体クロマトグラフィーで測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W0.05hが2.85分以上3.70分未満であり、酢酸ナトリウムの含有量が変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることを特徴とする。本開示のコーティング剤は、紙コーティング剤として特に好適に使用できる。
【0012】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、パラメータ(例えば、W0.05h)、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0013】
[変性ビニルアルコール系重合体(A)]
本開示の変性ビニルアルコール系重合体(A)(以下、「変性PVA(A)」と略記することがある)は、けん化度が68モル%以上99.9モル%未満であり、粘度平均重合度が200以上5000未満であり、側鎖にエステル化剤由来の二重結合を0.01モル%以上0.50モル%未満有し、前記エステル化剤が炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体であり、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略記することがある)で測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W0.05hが2.85分以上3.70分未満である。
【0014】
変性PVA(A)の粘度平均重合度は200以上5000未満であることが重要である。上記粘度平均重合度の下限は300以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましく、基材と剥離層との密着性を向上させる観点からは、600以上、700以上、900以上、1100以上又は1300以上が好ましい場合もある。上記粘度平均重合度の上限は4500未満が好ましく、4300未満がより好ましく、4000未満がさらに好ましく、変性PVA(A)の水不溶解分を少なくする観点からは、3800未満、3500未満、3300未満、3000未満、2800未満又は2700未満が好ましい場合もある。粘度平均重合度が200未満の場合は、生産性が低くなったり、変性PVA(A)の水不溶解分が多くなったりする。また、紙コーティング剤として用いた際に保管安定性が低下し、シリコーンの硬化に劣り、かつ基材と剥離層との密着性が低下する。一方、粘度平均重合度が5000以上の場合は、変性PVA(A)の水不溶解分が増加したり、紙コーティング剤として用いた際にシリコーンの硬化に劣り、かつ基材と剥離層との密着性が低下する。
【0015】
変性PVA(A)の粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定して得られる値である。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化した変性PVA(A)について、水中、30℃で測定した極限粘度[η](L/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求める。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0016】
変性PVA(A)のけん化度は、68モル%以上99.9モル%未満であることが重要である。上記けん化度の下限は69モル%以上が好ましく、70モル%超がより好ましく、71モル%以上がさらに好ましく、72モル%以上が特に好ましく、73モル%以上、75モル%以上、77モル%以上、78モル%以上又は80モル%以上が好ましい場合もある。上記けん化度の上限は99.7モル%未満が好ましく、99.0モル%未満がより好ましい。けん化度が68モル%未満の場合は、変性PVA(A)の水溶性が低下し、コーティング剤を調製するのが困難となる場合がある。また、剥離紙原紙の耐水性が低下することもある。さらに、けん化度が68モル%未満の変性PVA(A)を用いてコーティング剤を調製した場合、当該コーティング剤が曇点を有することになり、塗工及び乾燥時に相分離が生じ、均一な塗工面が形成できずに、シリコーンの目止め効果が低下することがある。一方、けん化度が99.9モル%以上の場合は、製造が困難である。けん化度はJIS K 6726:1994に準じて測定して得られる値である。
【0017】
変性PVA(A)は側鎖に所定のエステル化剤由来のエチレン性二重結合(以下、「側鎖の変性基」ともいう)を有するため、その反応性から様々な用途で特異な性能を発揮する。特に水溶性に優れ、製造直後及び長期保管後も水不溶解分が少なく、紙コーティング剤として用いた際に剥離層のシリコーンの硬化を促進させ、かつ基材と剥離層との密着性を向上させることができる。側鎖の変性基の含有率は、全単量体単位に対して0.01モル%以上0.50モル%未満であることが重要である。上記含有率の下限は0.03モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.08モル%以上がさらに好ましく、0.09モル%以上が特に好ましい。上記含有率の上限は0.45モル%以下が好ましく、0.43モル%以下がより好ましく、0.40モル%以下がさらに好ましく、0.38モル%以下が特に好ましく、変性PVA(A)の水不溶解分を少なくする観点から0.35モル%以下、0.33モル%以下又は0.30モル%以下が好ましい場合もある。側鎖の変性基の含有率が0.01モル%未満の場合は、その変性基に由来する効果が小さく、特に紙コーティング剤として用いた際にシリコーンの硬化に劣り、かつ基材と剥離層との密着性が低下する。一方、0.50モル%以上の場合は、変性PVA(A)の水不溶解分が増加したり、紙コーティング剤として用いた際にシリコーンの硬化に劣り、かつ基材と剥離層との密着性が低下する。
【0018】
本開示の効果を奏する限り、変性PVA(A)はその側鎖に他の変性基を含んでいてもよいが、他の変性基の含有率は、全単量体単位に対して5モル%未満が好ましく、1モル%未満がより好ましく、0.1モル%未満がさらに好ましく、0.01モル%未満が特に好ましい。
【0019】
HPLCで測定される変性PVA(A)のピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅を表すW0.05hは2.85分以上3.70分未満であることが重要である。上記W0.05hの下限は2.90分以上、2.95分以上又は2.99分以上であってもよい。上記W0.05hの上限は3.68分未満が好ましく、3.65分未満がより好ましく、3.63分未満がさらに好ましく、変性PVA(A)の水不溶解分を少なくする観点から3.60分未満、3.58分未満、3.55分未満、3.48分未満、3.45分未満、3.42分未満又は3.40分未満が好ましい場合もある。当該ピーク幅W0.05hは変性PVA(A)における側鎖の変性基の変性ムラを示しており、幅が広いほど変性ムラが大きいことを示す。なお、本明細書において変性ムラとは、それぞれの変性PVA(A)鎖に導入された側鎖の変性基量の偏りを意味し、側鎖の変性基がそれぞれの変性PVA(A)鎖に均一に導入されている場合、変性ムラは小さい。言い換えると、該ピーク幅W0.05hが狭いということは、それぞれの変性PVA(A)鎖において側鎖の変性基の含有率が同等である場合に変性ムラが小さいことを示す。ピーク幅W0.05hが上記した範囲内にあることで変性PVA(A)の製造直後及び長期保管後の水不溶解分が少なく、紙コーティング剤として用いた際に剥離層のシリコーンの硬化を促進させ、かつ基材と剥離層との密着性を向上させることができる。W0.05hが2.85分未満であると側鎖の変性基の変性ムラが非常に小さいことを意味する。
【0020】
例えば、後述のように、変性PVA(A)を原料であるビニルアルコール系重合体(B)(以下、「PVA(B)」と略記することがある)にエステル化剤として特定の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体(例えば、イタコン酸及び/又はその誘導体、メタクリル酸及び/又はその誘導体)をエステル化して製造する場合、変性ムラを最小化するために、製造時にPVA(B)を溶液状で反応させること、すなわち均一系での反応が必須となり、PVA(B)をDMSO等の溶解可能な溶媒で溶解しエステル化させることになる。このような均一系では、側鎖の変性基の変性ムラが非常に小さい、すなわち、W0.05hが2.85分未満である変性PVA(A)が得られる。しかしながら、この場合、その後溶媒を除去回収する工程では溶媒が高沸点のため、工業スケールでの生産性、経済性が非常に悪いという問題が生じ製造が困難である。また、変性ムラが少なすぎると、同じ構造、変性率のPVA鎖の割合が多くなることに起因してPVA鎖同士の会合体が生じやすくなり、結果として変性PVA(A)中の水不溶解分が増加する。W0.05hが3.70分以上であると変性ムラが多いことを示し、局所的にエステル化が進行していることを意味するため、変性PVA(A)の水不溶解分が増加し、紙コーティング剤として用いた際にシリコーンの硬化に劣り、かつ基材と剥離層との密着性が低下する。
【0021】
W0.05hはJIS K 0124:2011中のシンメトリー係数の算出の際に用いられる値で定義される。W0.05hは、HPLCにおける測定ピークのベースラインからピーク高さの1/20の高さにおけるピーク幅を表す。
【0022】
本開示における変性PVA(A)のW0.05hの具体的な測定条件は、以下のとおりである。
試料濃度:5mg/mL
試料溶媒:水
注入量:30μL
検出器:蒸発光散乱検出器ELSD-LTII(株式会社島津製作所製)
カラム温度:45℃
移動相:A;イオン交換水、B;エタノール(99.5%)
移動相流量:0.4mL/分
カラム:Shimpack G-ODS(4)、内径4mm×長さ1cm、粒径5μm、株式会社島津製作所製
グラジエント条件:移動相Aとしてイオン交換水、及び移動相Bとしてエタノールを使用し、試料溶液注入前の時点においては、HPLCシステムのカラム内部は移動相A/移動相Bが体積比で95/5の混合溶媒で満たされた状態である。この状態で試料溶液を注入する。そして、試料溶液注入の直後から5分間、移動相A/移動相Bが体積比で95/5の液を流し、それから20分かけて移動相における移動相Bの割合を一定速度で増加させ、試料溶液注入から25分後に移動相Bの割合が100%となるようにする。
【0023】
ある実施形態では、本開示における変性PVA(A)としてはエチレン単位を主鎖に有する変性PVA(A)が挙げられる。エチレン単位を主鎖に有する変性PVA(A)を含むコーティング剤は、よりバリア性に優れ、目止め性に優れる点で好ましい。エチレン単位を主鎖に有する変性PVA(A)は、エチレン単位を主鎖に有するPVA(エチレン-ビニルアルコール共重合体)を、PVA(B)として用いることで得ることができる。エチレン単位を有するPVA(B)は、ビニルエステル系単量体とエチレンとを共重合させてエチレン-ビニルエステル共重合体を得てから、当該エチレン-ビニルエステル共重合体をけん化することにより得ることができる。エチレン単位を主鎖に有する変性PVA(A)において、エチレン単位の含有率の下限は変性PVA(A)の全単量体単位に対して1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、2.5モル%以上がさらに好ましい。エチレン単位の含有率の上限は変性PVA(A)の全単量体単位に対して10モル%以下が好ましく、8モル%以下がより好ましく、7モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位の含有率が10モル%以下であると、変性PVA(A)を水に溶解させたときに不溶物が生じにくい。
【0024】
(酢酸ナトリウム)
本開示のコーティング剤における酢酸ナトリウムの含有量は、変性PVA(A)100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが重要である。酢酸ナトリウムの含有量が変性PVA(A)100質量部に対して0.01質量部未満である場合、コーティング剤(塗工液)のpHが低くなりすぎるため、塗工機の酸腐食が問題となる。酢酸ナトリウムの含有量は0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。一方、酢酸ナトリウムの含有量が変性PVA(A)100質量部に対して10質量部を超える場合、基材と剥離層との密着性を向上させることができない。酢酸ナトリウムの含有量は8質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることがさらに好ましい。
【0025】
酢酸ナトリウムを添加する方法は特に限定されず、例えば、(i)酢酸ナトリウムの存在下で、エステル化剤とPVA(B)とを反応させる方法、(ii)変性PVA(A)と酢酸ナトリウムとを水に溶解させる方法などが挙げられる。中でも、上記(ii)の方法が好ましい。
【0026】
本開示のコーティング剤は、本開示の効果が阻害されない範囲で、共役二重結合を有し、該共役二重結合に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、又はその塩若しくはその酸化物(e1)(以下、「化合物(e1)」と略記する)、アルコキシフェノール(e2)及び環状ニトロキシルラジカル(e3)からなる群より選ばれる1種以上である化合物(E)を含んでいてもよい。
【0027】
化合物(e1)において、共役二重結合に結合した水酸基とは、共役している炭素-炭素二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基のことをいう。化合物(e1)としては、炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合とが交互につながった構造を有する共役ポリエンが挙げられる。共役ポリエンとしては、2個の炭素-炭素二重結合と1個の炭素-炭素単結合とが交互につながった構造を有する共役ジエン、3個の炭素-炭素二重結合と2個の炭素-炭素単結合とが交互につながった構造を有する共役トリエンなどが挙げられる。
【0028】
上記共役ポリエンには、複数の炭素-炭素二重結合からなる共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組含まれる共役ポリエンも含まれる。また、共役ポリエンは、直鎖状であってもよいし環状であってもよい。
【0029】
また、化合物(e1)には、上述した共役ポリエンだけでなく、ベンゼン等の芳香族炭化水素や、分子内のカルボニル基と共役した炭素-炭素二重結合を有するα,β-不飽和カルボニル化合物も含まれる。
【0030】
化合物(e1)において、水酸基は共役している炭素-炭素二重結合を構成する炭素原子に結合していればよく、結合位置は特に限定されず、水酸基の総数も2つ以上であればよい。共役二重結合を有する化合物が共役ポリエンの場合、不飽和炭素に水酸基が結合した化合物が挙げられる。共役二重結合を有する化合物が芳香族炭化水素である場合、芳香環を構成する炭素原子に水酸基が結合した化合物が挙げられる。共役二重結合を有する化合物がα,β-不飽和カルボニル化合物である場合、α位とβ位に水酸基が結合した化合物が挙げられる。
【0031】
化合物(e1)としては、芳香環を構成する炭素原子に水酸基が2つ以上結合した化合物、又はその塩若しくはその酸化物であることが好ましく、α,β-不飽和カルボニル化合物のα位とβ位に水酸基が2つ以上結合した化合物、又はその塩若しくはその酸化物であることも好ましい。中でも、芳香環を構成する炭素原子に水酸基が2つ以上結合した化合物、又はその塩若しくはその酸化物であることがより好ましい。
【0032】
芳香環を構成する炭素原子に水酸基が2つ以上結合した化合物としては、ポリフェノールが挙げられる。当該ポリフェノールとしては、ピロガロール、フロログルシノール、ヒドロキシキノール、ヘキサヒドロキシベンゼンなどのヒドロキシベンゼン;没食子酸などのフェノールカルボン酸;没食子酸アルキルエステルなどのフェノールカルボン酸エステル;エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキン-3-ガラートなどのカテキンが挙げられる。没食子酸アルキルエステルとしては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシルなどが挙げられる。
【0033】
これらの中でも、化合物(e1)は、フェノールカルボン酸又はフェノールカルボン酸エステルであることが好ましく、没食子酸又は没食子酸アルキルエステルであることがより好ましく、没食子酸アルキルエステルであることがさらに好ましい。
【0034】
また、α,β-不飽和カルボニル化合物のα位とβ位に水酸基が2つ以上結合した化合物としては、アスコルビン酸などが挙げられる。化合物(e1)は、アスコルビン酸であることも好ましい。
【0035】
本開示で用いる化合物(e1)は、上述した化合物の塩であってもよい。上述した化合物の塩とは、共役二重結合に結合した水酸基の水素原子が金属で置換された金属アルコキシドや、分子内のカルボキシ基の水素が金属で置換されたカルボン酸塩のことをいう。金属としては、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。共役二重結合に結合した水酸基を2つ以上有する化合物の塩としては、例えば、没食子酸ナトリウムなどの没食子酸塩;アスコルビン酸ナトリウムなどのアスコルビン酸塩が挙げられる。
【0036】
本開示で用いる化合物(e1)は、上述した化合物の酸化物であってもよい。上述した化合物の酸化物とは、共役二重結合に結合した水酸基が酸化された化合物をいう。このような化合物としては、ベンゾキノン、デヒドロアスコルビン酸などが挙げられる。
【0037】
アルコキシフェノール(e2)を用いることにより、色相のより優れたコーティング剤組成物を得ることができる。ここで本開示におけるアルコキシフェノール(e2)とは、ベンゼン環の水素原子が少なくとも1個アルコキシ基で置換され、かつ少なくとも1個水酸基で置換された化合物のことをいう。他の水素原子は、メチル基、エチル基などのアルキル基やハロゲン基で置換されていてもよく、その数や結合位置も限定されない。アルコキシ基の炭素数は、通常、10以下であり、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましく、2以下であることが特に好ましい。アルコキシ基の炭素鎖は直鎖状であっても分岐鎖状であってもかまわないが、水への溶解性の点から直鎖状であることが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられ、中でもメトキシ基が好ましい。
【0038】
本開示で用いられるアルコキシフェノール(e2)は、ベンゼン環の水素原子が1個アルコキシ基で置換され、かつ1個水酸基で置換された化合物であることが好ましい。このとき、アルコキシ基の結合位置は特に限定されないが、得られるコーティング剤組成物において、水への不溶解分をより減らすことができる点から、オルト位又はパラ位であることが好ましく、パラ位であることがより好ましい。
【0039】
本開示で好適に用いられるアルコキシフェノール(e2)としては、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノールなどが挙げられる。中でも、メトキシフェノール、エトキシフェノールが好ましく、メトキシフェノールがより好ましい。
【0040】
本開示における環状ニトロキシルラジカル(e3)とは、炭素原子とヘテロ原子から形成された複素環を有し、ニトロキシルラジカル(=N-O・)の窒素原子が、その環の一部を形成する化合物のことをいう。当該環を構成するヘテロ原子としては、窒素原子の他に、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられる。環を形成する原子の数は、通常、5個又は6個である。環を形成する原子には、アルキル基、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、ハロゲン基などの置換基が結合していてもかまわない。置換基の個数や置換基の結合位置も特に限定されず、同一又は異なる原子に複数の置換基が結合していてもよい。得られるコーティング剤組成物において、水への不溶解分をより減らすことができる点から、上記環状ニトロキシルラジカル(e3)が、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)又はその誘導体であることが好ましい。TEMPOの誘導体としては、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルが好適に用いられる。
【0041】
化合物(E)の含有量は、コーティング剤組成物の色相が良好であり、水への不溶解分をより減らすことができる点から、変性PVA(A)100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部未満であることが好ましい。化合物(E)の含有量としては、水への不溶解分をより減らすことができる点から、変性PVA(A)100質量部に対して、0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましく、0.1質量部以上であることが特に好ましい。また、化合物(E)の含有量としては、剥離紙を長期保存しても、化合物(E)がPVA層とシリコーン層の界面でのブリードアウトの発生を抑制し、基材と剥離層との密着性に優れることから、変性PVA(A)100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることが特に好ましい。
【0042】
[変性PVA(A)の製造方法]
本開示の変性PVA(A)は、例えば、前記所定のけん化度、及び粘度平均重合度を有する市販のPVA(B)を、溶媒、及びエステル化剤の存在下、熱処理し変性させる熱処理変性工程を含み、前記溶媒が、アセトン、メタノール及び酢酸メチルからなる群より選ばれる1種以上であり、前記エステル化剤が、炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体である製造方法によって製造できる。また、原料として用いるPVA(B)は、例えば、ビニルエステル系単量体を重合してビニルエステル系重合体を得る重合工程、得られたビニルエステル系重合体をけん化してPVAを得るけん化工程を含む製造方法により製造できる。
【0043】
重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の公知の方法が挙げられ、工業的観点から、溶液重合法、乳化重合法及び分散重合法が好ましい。重合操作にあたっては、回分法、半回分法及び連続法のいずれの方式も採用できる。
【0044】
ビニルエステル系単量体としては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、バーサチック酸ビニル、桂皮酸ビニル、クロトン酸ビニル、デカン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、イソノナン酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、4-tert-ブチルベンゼン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられ、中でも工業的観点から酢酸ビニルが好ましい。
【0045】
重合工程において、本開示の趣旨を損なわない範囲で、ビニルエステル系単量体以外の他の単量体を共重合してもよい。他の単量体をビニルエステル系単量体と共重合することによって、得られる重合体の主鎖中に他の単量体単位の構造を有することができる。当該他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;(メタ)アクリル酸及びその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。このような他の単量体を共重合する場合、その含有率は通常5モル%以下である。なお、本明細書において、メタクリルとアクリルとを「(メタ)アクリル」と総称する。
【0046】
重合工程に用いる溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましい。アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられ、中でもメタノールが好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
重合工程に用いる重合開始剤は特に限定されず、重合方法に応じて公知の重合開始剤から選択できる。重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が挙げられる。
【0048】
アゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0049】
過酸化物系重合開始剤は、例えば、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジエトキシエチルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート化合物;t-ブチルペルオキシネオデカノエート、クミルペルオキシネオデカノエート等のペルオキシエステル化合物;アセチル(シクロヘキシルスルホニル)ペルオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-ペルオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。
【0050】
レドックス系重合開始剤としては、酸化剤と還元剤を組み合わせたものを使用できる。酸化剤としては、過酸化物が好ましい。還元剤としては、金属イオン、還元性化合物等が挙げられる。酸化剤と還元剤の組み合わせとしては、過酸化物と金属イオンとの組み合わせ;過酸化物と還元性化合物との組み合わせ;過酸化物と、金属イオン及び還元性化合物との組み合わせ等が挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)、過酢酸t-ブチル、過酸エステル(過安息香酸t-ブチル)等が挙げられる。金属イオンとしては、Fe2+、Cr2+、V2+、Co2+、Ti3+、Cu+等の1電子移動を受けることのできる金属イオンが挙げられる。還元性化合物としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール、ロンガリット、アスコルビン酸が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群より選択される1種以上の過酸化物と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群より選択される1種以上の還元剤との組み合わせが好ましく、過酸化水素と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群より選択される1種以上の還元剤との組み合わせがより好ましい。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド等の水溶性の重合開始剤を上記重合開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。これらの重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
重合工程において、必要に応じて重合度調整剤(連鎖移動剤)を用いてもよい。重合度調整剤としては、アルデヒド類が好ましい。アルデヒド類としては、例えばアセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド等が挙げられる。中でも、得られる変性PVA(A)の水溶性、及び変性PVA(A)を紙コーティング剤として用いた際の保管安定性の観点から、炭素数2~4のアルデヒドが好ましく、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド又はブチルアルデヒドがより好ましく、入手性の面からアセトアルデヒドがさらに好ましい。重合度調整剤の使用量はビニルエステル系単量体に対して、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。ある好適な実施形態としては、重合度調整剤(例えば、プロパンチオール、プロピルアルデヒド等の末端にプロピル基を導入する変性剤)を用いずにビニルエステル系単量体を重合する重合工程、得られたビニルエステル系重合体をけん化してPVA(B)を得るけん化工程、及び前記熱処理変性工程を含む変性PVA(A)の製造方法が挙げられる。
【0052】
重合工程におけるビニルエステル系単量体の重合率は特に限定されないが、20%以上90%未満が好ましく、25%以上80%未満がより好ましく、30%以上60%未満がさらに好ましい。重合率が20%以上であると生産性が高く、90%未満であると、変性PVA(A)を紙コーティング剤として用いた際の性能が良好になる傾向がある。
【0053】
重合工程で得られたビニルエステル系重合体をけん化する方法は特に限定されず、公知のけん化方法を採用できる。例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒やp-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解反応又は加水分解反応が挙げられる。この反応に使用できる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類:ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、メタノール又はメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒としてけん化する方法が簡便であり好ましい。
【0054】
けん化工程によって得られるPVA(B)を、特定の溶媒及び特定のエステル化剤の存在下、熱処理し変性させる熱処理変性工程を経ることで、側鎖にエステル化剤由来の二重結合が導入され、かつHPLCで測定されるピークにおける、ベースラインから5%の高さ位置でのピーク幅W0.05hが特定の範囲内の値である変性PVA(A)を得ることができる。
【0055】
本開示において用いられるエステル化剤は、炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体である。前記炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸及び/又はその誘導体としては、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和トリカルボン酸、及び/又はそれらの誘導体等が挙げられる。エステル化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのカルボン酸及び/又はその誘導体は塩として用いることもできる。前記誘導体としては、不飽和モノカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和モノカルボン酸エステル、不飽和ジカルボン酸モノエステル、不飽和ジカルボン酸ジエステル等が挙げられる。
【0056】
前記不飽和モノカルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2-ペンテン酸、4-ペンテン酸、2-ヘプテン酸、2-オクテン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸等の炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和モノカルボン酸;ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、4,8,12,15,19-ドコサペンタエン酸(イワシ酸)、ドコサヘキサエン酸等の炭素-炭素二重結合を2個以上有する脂肪族不飽和モノカルボン酸;ケイ皮酸等の芳香族不飽和モノカルボン酸等の炭素-炭素二重結合を1個以上有する不飽和モノカルボン酸が挙げられる。前記不飽和ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。前記不飽和トリカルボン酸としては、アコニット酸等が挙げられる。前記不飽和モノカルボン酸無水物としては、例えば、無水(メタ)アクリル酸等が挙げられる。前記不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。前記不飽和モノカルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル等が挙げられる。前記不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチル等のマレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸モノアルキルエステル、メサコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。前記不飽和ジカルボン酸ジエステルとしては、例えば、マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等のイタコン酸ジアルキルエステル等が挙げられる。
【0057】
前記エステル化剤の中でも、脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体(酸無水物、エステル)、及び脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(酸無水物、モノエステル、ジエステル)からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体(酸無水物、エステル)、及び炭素-炭素二重結合を1個有する脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(酸無水物、モノエステル、ジエステル)からなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、炭素-炭素二重結合を1個有する炭素数3~10の脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体、及び炭素-炭素二重結合を1個有する炭素数4~10の脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上がさらに好ましく、炭素-炭素二重結合を1個有する炭素数3~6の脂肪族不飽和モノカルボン酸及び/又はその誘導体、及び炭素-炭素二重結合を1個有する炭素数4~6の脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上が特に好ましく、イタコン酸及び/又はその誘導体、及び(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体からなる群より選ばれる1種以上が最も好ましい。前記エステル化剤が、α位の炭素が炭素-炭素二重結合を有する脂肪族不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体(酸無水物、エステル)であることも好ましい態様である。
【0058】
前記エステル化剤が、下記一般式〔I〕で表される脂肪族不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体(酸無水物、エステル)であることもまた好ましい。
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、又はカルボキシ基を表し、Xは置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、又は炭素-炭素間の単結合を表す。)
【0059】
R1、R2及びR3のアルキル基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましく、1~2であってもよい。Xのアルキレン基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基が挙げられる。アルキレン基の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましく、1~2であってもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、メルカプト基等が挙げられる。R1、R2及びR3のアルキル基は無置換であってもよい。Xのアルキレン基は無置換であってもよい。一般式〔I〕で表される脂肪族不飽和カルボン酸の誘導体としては、一般式〔I〕で表される脂肪族不飽和カルボン酸の2分子が脱水縮合してできるカルボン酸無水物であってもよい。
【0060】
エステル化剤の使用量はPVA(B)100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上6質量部以下がより好ましい。
【0061】
熱処理する温度はPVA(B)とエステル化剤の反応を促進する観点から、通常50℃~200℃であり、70~180℃が好ましく、80~160℃がより好ましい。反応時間は通常10分~24時間である。
【0062】
また、PVA(B)は粉末状であることがW0.05hの値を前述の範囲に調整することが容易となるため好ましい。熱処理変性工程を特定の溶媒の存在下で行うことでW0.05hの値を前述の範囲に調整することが容易となるため好ましい。溶媒としては、アセトン、メタノール、及び酢酸メチルが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒としては、製造直後及び長期保管後も水不溶解分がより少なく、変性PVA(A)を紙コーティング剤として用いると、剥離層のシリコーンの硬化を促進させ、かつ基材と剥離層との密着性を向上させることができる点から、メタノール及び酢酸メチルからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、製造直後及び長期保管後の水不溶解分が顕著に少ない点から、メタノール及び酢酸メチルの混合溶媒がより好ましい。PVA(B)をメタノール及び酢酸メチルにより適度に可塑化することがW0.05hの値の調整に特に寄与する。
【0063】
熱処理変性工程における溶媒の使用量に特に制限はないが、PVA(B)100質量部に対し1質量部以上100質量部未満であることが好ましく、3質量部以上70質量部未満がより好ましく、5質量部以上50質量部未満がさらに好ましく、5質量部以上30質量部未満が特に好ましい。溶媒の使用量がPVA(B)100質量部に対して1質量部以上であると、局所的な反応が起こることによる変性ムラの発生を抑制し、W0.05hの値が適度に小さくなったり、水不溶解分が低減したりしやすい。一方、溶媒の使用量がPVA(B)100質量部に対して100質量部未満であるとPVA(B)同士が熱処理時に融着し熱の伝わり方が不均一になることによる変性ムラの発生を抑制し、W0.05hの値が適度に小さくなったり、水不溶解分が低減したりしやすい。
【0064】
また、熱処理変性工程において、化合物(e1)、アルコキシフェノール(e2)及び環状ニトロキシルラジカル(e3)からなる群より選ばれる1種以上である化合物(E)の存在下で、特定のエステル化剤とPVA(B)とを反応させて変性PVA(A)を得ることもできる。
【0065】
変性PVA(A)は、側鎖に特定のエステル化剤に由来するエチレン性二重結合を有していながらも、W0.05hにより表される変性ムラが特定の範囲にあるため、水溶液とした場合の水不溶解分が少ない。具体的には、変性PVA(A)を製造後、空気中60℃下に1時間放置した後に作製した水溶液における変性PVA(A)の水不溶解分(ppm)は、3000ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましく、1900ppm以下がさらに好ましく、1500ppm以下がよりさらに好ましく、1000ppm以下が特に好ましく、500ppm以下が最も好ましい。変性PVA(A)の水不溶解分(ppm)は、少なければ少ないほどよいが、0ppm以上であってもよく、0ppmを超えるものであってもよい。水不溶解分の測定方法は、後記する実施例に記載の通りである。
【0066】
(その他の成分)
本開示に用いられるコーティング剤には、本開示の効果が阻害されない範囲で、変性PVA(A)及び酢酸ナトリウム以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル系エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョンなどの水性分散性樹脂;小麦、コーン、米、馬鈴薯、甘しょ、タピオカ、サゴ椰子などから得られる生澱粉;酸化澱粉、デキストリンなどの生澱粉分解産物;エーテル化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉などの澱粉誘導体;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体;グルコース、フルクトース、異性化糖、キシロースなどの単糖類;マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、パラチノース、還元麦芽糖、還元パラチノース、還元乳糖などの二糖類;水飴、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳糖オリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、カップリングシュガー、シクロデキストリン化合物などのオリゴ糖類;プルラン、ペクチン、寒天、コンニャクマンナン、ポリデキストロース、キサンタンガムなどの多糖類;アルブミン、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、アニオン変性PVA、アルギン酸ナトリウム、水溶性ポリエステル等が挙げられる。
【0067】
また、前記他の成分として、顔料も挙げられる。顔料としては、一般に塗工紙製造分野で使用される無機顔料(クレー、カオリン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、タルクなど)及び有機顔料(プラスチックピグメントなど)が挙げられる。
【0068】
さらに、前記他の成分として、例えば、粘度調整剤、密着性向上剤、消泡剤、可塑剤、耐水化剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透剤、界面活性剤、填料、澱粉及びその誘導体、ラテックスなどが挙げられる。
【0069】
上記コーティング剤におけるこれらの他の成分の含有量は、通常、変性PVA(A)100質量部に対して、50質量部以下であり、5質量部以下であってもよく、0.1質量部以下であってもよく、0質量部であってもよい。
【0070】
(剥離紙原紙)
本開示の剥離紙原紙は、側鎖にエステル化剤由来の二重結合を有する変性PVA(A)と、酢酸ナトリウムとを特定量含有するコーティング剤を基材に塗工してなるものである。本開示の剥離紙原紙は、透気速度が小さくシリコーンの目止め性に優れている。また、このような剥離紙原紙を用いることにより、剥離層における付加型シリコーンの硬化を促進させることができるとともに、剥離層との密着性を向上させることもできる。
【0071】
本開示において、目止め層の目止め効果を判断する手法として、JIS P 8117(2009年)に準じて王研式透気度試験機(水柱式)を用いて測定した透気度を用いることができる。透気度は、2000sec以上であることが好ましく、2700sec以上であることがより好ましく、3000sec以上であることがさらに好ましく、10000sec以上であることが特に好ましく、30000sec以上であることが最も好ましい。透気度が2000sec以上であると目止め効果が優れる。なお、透気度の値(秒数;sec)が小さいほど、透気速度が大きいことを意味する。
【0072】
(剥離紙原紙の製造方法)
本開示の剥離紙原紙は、変性PVA(A)及び酢酸ナトリウムを含有するコーティング剤を基材に塗工してなる剥離紙原紙である。剥離紙原紙の製造方法は特に限定されないが、エステル化剤とPVA(B)とを反応させて変性PVA(A)を得る第1工程と、第1工程で得られた変性PVA(A)と、酢酸ナトリウムとを水に溶解させてコーティング剤を得る第2工程と、第2工程で得られたコーティング剤を基材に塗工する第3工程とを備える方法が好適である。
【0073】
第1工程は、変性PVA(A)の製造方法において述べたとおりである。
【0074】
第2工程において、第1工程で得られた変性PVA(A)と、酢酸ナトリウムとを水(溶媒)に溶解させてコーティング剤を得る。変性PVA(A)と、酢酸ナトリウムとを溶解させる溶媒には、水以外の他の溶媒が含まれていてもかまわない。他の溶媒としては、親水性溶媒が挙げられる。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、セロソルブ類、カルビトール類、アセトニトリルなどのニトリル類などが挙げられる。また、コーティング剤には、クレイなどの水に不溶な無機粒子が含まれていてもよい。コーティング剤における、水以外の他の溶媒の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
コーティング剤における固形分濃度は、2~30質量%であることが好ましい。固形分濃度が2質量%以上の場合、コーティング剤の紙への染み込みが少なくなり、シリコーン目止め効果がより優れる。固形分濃度は4質量%以上であることがより好ましい。一方、固形分濃度が30質量%以下であると、コーティング剤を紙に塗布した際にレベリングしやすく、塗工面の状態が良好となりやすい。固形分濃度は25質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
第2工程で得られるコーティング剤のpHは、3.0以上7.0以下であることが好ましい。コーティング剤のpHが上記範囲にあることにより、塗工機の腐食がより一層低減される。コーティング剤のpHは、3.5以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましい。コーティング剤のpHは、6.8以下であることがより好ましい。pHは公知の測定装置を用いて測定できる。測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製「LAQUAtwin」が挙げられる。
【0077】
第3工程において、第2工程で得られたコーティング剤を基材である紙に塗工する。紙としては、広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ等の化学パルプやGP(砕木パルプ)、RGP(リファイナーグランドパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)等の機械パルプ等を抄紙して得られる公知の紙又は合成紙を用いることができる。また、上記紙としては、上質紙、中質紙、アルカリ性紙、グラシン紙、セミグラシン紙、又は段ボール用、建材用、白ボール用、チップボール用等に用いられる板紙、白板紙等も用いることができる。なお、紙中には、有機及び無機の顔料、並びに紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤等の抄紙補助薬品が含まれてもよい。また、紙は各種表面処理が施されたものであってもよい。
【0078】
コーティング液の塗工は、一般の塗工紙用途設備で行うことができるが、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、トランスファーロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、カーテンコーター、ワイヤーバーコーター等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、基材上に一層又は多層に分けてコーティング剤を塗工できる。また、塗工後の乾燥方法としては、例えば、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方法を適宜採用できる。塗工量は固形分換算で0.3~5.0g/m2であることが好ましい。塗工量が0.3g/m2以上であると、シリコーンの目止め効果がより優れる。塗工量は0.5g/m2以上であることがより好ましい。一方、塗工量が5.0g/m2以下であると、目止め層が基材上で平面を作り過ぎず、表面積がある程度大きくなり、その後シリコーン層を形成させる際にシリコーン層との密着性が充分に得られやすい。塗工量は3.0g/m2以下であることがより好ましい。
【0079】
目止め効果を高めるために、コーティング液を塗工後、乾燥させ、その効果を損なわない限りにおいて、平滑化処理を行うことができる。平滑化処理としては、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、マルチニップカレンダー、ソフトカレンダー、ベルトニップカレンダーなどが好適に採用される。
【0080】
(剥離紙)
本開示の他の好適な実施形態としては、上記剥離紙原紙と、当該該剥離紙原紙の表面に形成される剥離層とを有する剥離紙が挙げられる。本開示の剥離紙としては、前記剥離層が、付加型シリコーン(C)と白金(D)とを含み、白金(D)の含有量が、付加型シリコーン(C)100質量部に対して0.001質量部以上0.05質量部以下であることが好ましい。白金(D)の含有量が前記範囲にあることで、シリコーン硬化性に優れた剥離紙を得ることができる。白金(D)の量が0.001質量部以上の場合、付加型シリコーン(C)の硬化が進行しやすく、高温での処理が不要となる。白金(D)の含有量は、付加型シリコーン(C)100質量部に対して0.002質量部以上であることが好ましく、0.004質量部以上であることがより好ましい。一方、白金(D)の含有量が0.05質量部以下であると、コストを抑えられるため経済的に有利である。白金(D)の量は、付加型シリコーン(C)100質量部に対して0.03質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以下であることがより好ましい。
【0081】
(付加型シリコーン(C))
本開示に用いる付加型シリコーン(C)は、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン(c1)と1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノ水素ポリシロキサン(c2)とが白金触媒の存在下でヒドロシリル化反応することにより得られるものである。
【0082】
SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン(c1)は、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基などの炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである。該オルガノポリシロキサンは、例えば主鎖がジオルガノシロキサンの繰返し単位であり、末端がトリオルガノシロキサン構造であるものが例示され、分岐や環状構造を有するものであってもよい。末端や繰返し単位中のケイ素に結合するオルガノ基としては、メチル基、エチル基、フェニル基などが例示される。具体例としては、両末端にビニル基を有するメチルフェニルポリシロキサンが挙げられる。
【0083】
1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノ水素ポリシロキサン(c2)は、末端及び/又は繰返し構造中において、2個以上のSiH基を含有するオルガノポリシロキサンである。該オルガノポリシロキサンは、例えば主鎖がジオルガノシロキサンの繰返し単位であり、末端がトリオルガノシロキサン構造であるものが例示され、分岐や環状構造を有するものであってもよい。末端や繰返し単位中のケイ素に結合するオルガノ基としては、メチル基、エチル基、オクチル基、フェニル基などが例示され、これらの2個以上が水素に置換されたものである。
【0084】
本開示に用いる付加型シリコーン(C)は、溶剤型、無溶剤型、エマルジョン型の中から適宜選択されるが、環境負荷低減や塗工性の観点から、無溶剤型の付加型シリコーンが好適に採用される。無溶剤型の付加型シリコーン(C)としては、SP7015、SP7259、SP7025、SP7248S、SP7268S、SP7030、SP7265S、LTC1006L、LTC1056Lなどの東レダウコーニング社製のシリコーン;KNS-3051、KNS-320A、KNS-316、KNS-3002、KNS-3300、X-62-1387などの信越シリコーン社製のシリコーン;DEHESIVE920、DEHESIVE921、DEHESIVE924、DEHESIVE927、DEHESIVE929などの旭化成ワッカーシリコーン社製のシリコーン;KF-SL101、KF-SL201、KF-SL202、KF-SL301、KF-SL302などの荒川化学工業社製のシリコーン;TPR6600、SL6625などのモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のシリコーンなどが挙げられる。これらのシリコーンは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
(白金(D))
シリコーンの硬化には通常白金触媒が用いられるが、本開示に用いる白金触媒の種類は特に限定されない。ヒドロシリル化反応によって付加型シリコーン(C)を硬化するものが好適に用いられる。例えば、SP7077R、SRX212などの東レダウコーニング社製の白金触媒、CATA93Bなどの荒川化学工業社製の白金触媒などが挙げられる。これらの白金触媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。白金触媒中の白金をICP発光分光分析装置等で定量することで白金(D)の量が求められる。
【0086】
(剥離紙の製造方法)
本開示の剥離紙の製造方法は特に限定されないが、変性PVA(A)及び酢酸ナトリウムを含有するコーティング剤を基材上に塗工し、当該基材上に目止め層を形成した後に、付加型シリコーン(C)と白金(D)の含有量が上記の範囲になるように調製した塗工液を、目止め層上に塗工して剥離層を形成する方法が好適に採用される。剥離層を形成する塗工液の塗工量は、特に限定されないが、固形分量で0.1~5g/m2であることが好ましい。塗工量が0.1g/m2以上であると剥離性が優れる。塗工量は、固形分量で0.3g/m2以上であることがより好ましい。塗工量が5g/m2以下であると、付加型シリコーン(C)及び白金(D)を含む剥離層と目止め層との密着性がより良好となる。塗工量は、固形分量で3g/m2以下であることがより好ましい。塗工方法は種々の方法が用いられるが、ブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーターなどが好適である。
【0087】
本開示の剥離紙における剥離層には、本開示の効果を阻害しない範囲で、付加型シリコーン(C)及び白金(D)以外の他の成分が含まれていても構わない。他の成分の含有量としては、剥離層全量100質量部に対して、通常30質量部以下であり、10質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよい。他の成分としては、例えば、粘度調整剤;密着性向上剤;消泡剤;可塑剤;耐水化剤;防腐剤;酸化防止剤;浸透剤;界面活性剤;無機顔料、有機顔料等の着色剤;填料;澱粉及びその誘導体、セルロース及びその誘導体等の糖類;ラテックスなどが挙げられる。
【0088】
本開示は、本開示の効果を奏する限り、本開示の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例】
【0089】
以下、本開示を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、「部」及び「%」はそれぞれ質量部及び質量%を示し、ppmは質量ppmを示す。
【0090】
[PVAの粘度平均重合度]
PVAの粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定した。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](L/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。なお、エステル化剤由来の二重結合を有する変性PVAの粘度平均重合度は、PVAとエステル化剤との反応後に再沈精製して単離された変性PVAについて測定した値である。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0091】
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS K 6726:1994に準じて測定した。なお、エステル化剤由来の二重結合を有する変性PVAのけん化度は、エステル化剤との反応後に再沈精製して単離された変性PVAについて測定した値である。
【0092】
[変性PVA(A)の側鎖の変性基の含有率]
変性PVA(A)の側鎖の変性基の含有率の測定及び算出は以下の方法で行った。まず、変性PVA(A)の10質量%水溶液を調製した。次に、この水溶液を、500gの酢酸メチル/水=95/5の溶液中に5g滴下し変性PVA(A)を析出させ、回収し乾燥させ、単離された変性PVA(A)をDMSO-d6に溶解し、400MHzの1H-NMRを用いて測定することで、ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2~4.0ppm(積分値〔P〕)、側鎖の変性基由来のプロトンのピークは5.0~6.5ppm付近に何箇所か帰属され、任意のものを使用することができ(積分値〔Q〕)、各ピークから以下の式により側鎖の変性基の含有率を求めた。
側鎖の変性基の含有率(モル%)=〔Q〕/〔P〕×100
【0093】
[変性PVA(A)の水溶液における水不溶解分(a)]
変性PVA(A)を製造後、空気中60℃下に1時間放置したのちに、変性PVA(A)の4質量%水溶液を100g作製し、200メッシュ(JIS標準篩のメッシュ換算では、目開き75μm;前記篩の目開きは、JIS Z 8801-1-2006の公称目開きWに準拠)の金網で全量ろ過し(ろ過前の金網の質量をa(g)とする)、金網ごと105℃で3時間乾燥した(絶乾後の金網と金網上に残存した物質の合計質量をb(g)とする)。下記式を用いて水不溶解分(ppm)を求めた。
水不溶解分(ppm)=1000000×(b-a)/4
【0094】
[変性PVA(A)の水溶液における水不溶解分(b)]
変性PVA(A)を製造後、空気中60℃下に6ヶ月間放置したのちに、変性PVA(A)の4質量%水溶液を100g作製し、200メッシュ(JIS標準篩のメッシュ換算では、目開き75μm;前記篩の目開きは、JIS Z 8801-1-2006の公称目開きWに準拠)の金網で全量ろ過し(ろ過前の金網の質量をa(g)とする)、金網ごと105℃で3時間乾燥した(絶乾後の金網と金網上に残存した物質の合計質量をb(g)とする)。下記式を用いて水不溶解分(ppm)を求めた。
水不溶解分(ppm)=1000000×(b-a)/4
【0095】
[変性PVA(A)のHPLCで測定されるW0.05h]
本開示における変性PVA(A)のW0.05hは以下のように測定した。
試料溶液調製:
耐圧試験管(φ18mm、長さ18cm)に試料25mgに水5mLを正確に加えて蓋を閉め、アルミブロック式マグネティックスターラーで撹拌した。このとき、変性PVA(A)のけん化度が80モル%未満の場合は1時間、20℃下で撹拌し溶解した。変性PVA(A)のけん化度が80モル%以上の場合は2時間、90℃下で撹拌し溶解した。
HPLC測定条件:
試料濃度:5mg/mL
試料溶媒:水
注入量:30μL
検出器:蒸発光散乱検出器ELSD-LTII(株式会社島津製作所製)
カラム温度:45℃
移動相:A;イオン交換水、B;エタノール(99.5%)
移動相流量:0.4mL/分
カラム:Shimpack G-ODS(4)、内径4mm×長さ1cm、粒径5μm、株式会社島津製作所製
グラジエント条件:移動相Aとしてイオン交換水、及び移動相Bとしてエタノールを使用し、試料溶液注入前の時点においては、HPLCシステムのカラム内部は移動相A/移動相Bが体積比で95/5の混合溶媒で満たされた状態である。この状態で試料溶液を注入する。そして、試料溶液注入の直後から5分間、移動相A/移動相Bが体積比で95/5の液を流し、それから20分かけて移動相における移動相Bの割合を一定速度で増加させ、試料溶液注入から25分後に移動相Bの割合が100%となるようにした。
【0096】
[実施例1]
PVA(A1)の製造
1Lのナスフラスコに粘度平均重合度800、けん化度72モル%の粉体のPVA(B)100部にメタノール5部、酢酸メチル15部、エステル化剤としてイタコン酸4部を加えた後、よく振り混ぜた後、110℃下4時間熱処理を行った。その結果、変性PVA(A)として粘度平均重合度が800であり、けん化度が72モル%であり、イタコン酸由来の二重結合を0.10モル%有し、W0.05hの値が3.20分であるPVA(A1)を得た。また、PVA(A1)の水不溶解分(a)は200ppmであり、水不溶解分(b)は450ppmであった。
【0097】
PVA(A1)の6質量%水溶液を調製し、この水溶液に変性PVA(A)100質量部に対する酢酸ナトリウムの含有量が1.3質量部となるように酢酸ナトリウムを添加することでコーティング剤を得た。このコーティング剤を、ワイヤーバーを用いて、透気度100秒のグラシン紙に塗工量が乾燥質量で約1g/m2となるように塗工した。塗工後、100℃5分間乾燥させることで塗工紙を得た。得られた塗工紙をスーパーカレンダーにて、70℃、400kg/cm2で2回処理することで剥離紙原紙を得た。
【0098】
[コーティング剤のpH]
剥離紙原紙の作製に用いたコーティング剤のpHを測定した。pHが低いほど塗工液が強酸性溶液であるため、塗工機の腐食が問題となる。pHとしては、3.5以上を合格とした。結果を表2に示す。
【0099】
[剥離紙原紙の透気度評価]
剥離紙原紙の透気度を、JIS P 8117(2009年)に準じて王研式透気度試験機を用いて測定することでシリコーンの目止め性の指標とした。透気度としては、2000sec以上を合格とした。結果を表2に示す。
【0100】
[シリコーン硬化性の評価]
付加型シリコーン(C)として東レダウコーニング社製のLTC1056Lを、白金触媒としてSRX212を用い、付加型シリコーン(C)と白金(D)との比が100/0.007になるように混合した塗工液を、得られた剥離紙原紙上に塗工固形分量1.5g/m2となるようにブレードコーターで塗工した。こうすることによって剥離紙原紙上にシリコーン層を形成させた。そして、110℃で熱処理してシリコーンが硬化するまでの時間を計測した。ここで、シリコーンが硬化するまでの時間とは、所定時間間隔でシリコーン層を指で強く10回擦り、シリコーン層が全く剥がれなくなるまでに要した時間(秒)のことをいう。結果を表2に示す。
【0101】
[剥離層の密着性評価]
付加型シリコーン(C)として東レダウコーニング社製のLTC1056Lを、白金触媒としてSRX212を用い、付加型シリコーン(C)と白金(D)との比が100/0.009になるように混合した塗工液を、得られた剥離紙原紙上に塗工固形分量1.5g/m2となるようにブレードコーターで塗工し、110℃で90秒熱処理し、剥離紙原紙上に剥離層(シリコーン層)が形成された剥離紙を得た。得られた剥離紙を下記の指標で評価した。結果を表2に示す。
A:40℃、90%RHの条件下で、1週間放置した後、シリコーン層を指で強く擦った。その結果、シリコーン層は剥がれなかった。同じ条件下で、さらに1週間放置した後、シリコーン層を指で強く擦った。その結果、シリコーン層は剥がれなかった。
B:40℃、90%RHの条件下で、1週間放置した後、シリコーン層を指で強く擦った。その結果、シリコーン層は剥がれなかった。しかしながら、同じ条件下で、さらに1週間放置した後にシリコーン層を指で強く擦ったらシリコーン層は剥がれた。
C:40℃、90%RHの条件下で、1週間放置した後、シリコーン層を指で強く擦った。その結果、シリコーン層は剥がれた。
【0102】
[実施例2~9及び比較例1~3]
PVA(A2)~PVA(A12)の製造
使用するPVA(B)の粘度平均重合度、けん化度及びエチレン単位の含有率、使用溶媒の種類及び使用量、エステル化剤の種類及び使用量、及び熱処理温度を表1に記載のとおり変更した以外は実施例1と同様にしてPVA(A2)~PVA(A12)を製造した。側鎖の変性基の含有率及びW0.05hの測定結果並びに製造条件を表1に示し、水不溶解分の測定結果を表2に示す。また、酢酸ナトリウムの量を表2に変更する以外は、実施例1と同様にして、コーティング剤、剥離紙原紙及び剥離紙を製造した。実施例1と同様にしてコーティング剤のpH、剥離紙原紙及び剥離紙の性能を評価した。結果を表2に示す。
【0103】
[比較例4]
PVA(A13)の製造
熱処理時に溶媒を使用しなかった以外は実施例1と同様にしてPVA(A13)を製造した。側鎖の変性基の含有率及びW0.05hの測定結果並びに製造条件を表1に示し、水不溶解分の測定結果を表2に示す。また、酢酸ナトリウムの量を表2に変更する以外は、実施例1と同様にして、コーティング剤、剥離紙原紙及び剥離紙を製造した。実施例1と同様にしてコーティング剤のpH、剥離紙原紙及び剥離紙の性能を評価した。結果を表2に示す。
【0104】
[比較例5]
PVA(A14)の製造
イタコン酸1部をメタノール200部に溶解させた溶液に、粘度平均重合度700、けん化度70モル%のPVA(B)100部を加えて膨潤させた後、減圧下40℃の温度で24時間乾燥を行った。次いで窒素雰囲気下にて120℃で4時間加熱処理を行った後、テトラヒドロフランを用いてソックスレー洗浄し、PVA(A14)を得た。側鎖の変性基の含有率及びW0.05hの測定結果並びに製造条件を表1に、水不溶解分の測定結果を表2に示す。また、酢酸ナトリウムの量を表2に変更する以外は、実施例1と同様にして、コーティング剤、剥離紙原紙及び剥離紙を製造した。実施例1と同様にしてコーティング剤のpH、剥離紙原紙及び剥離紙の性能を評価した。結果を表2に示す。
【0105】
[比較例6]
PVA(A15)の製造
エステル化剤によるPVA(B)のエステル化を行わず、粘度平均重合度1700、けん化度88モル%のPVA(B)をそのままPVA(A15)として使用した。水不溶解分の測定結果を表2に示す。また、酢酸ナトリウムの量を表2に変更する以外は、実施例1と同様にして、コーティング剤、剥離紙原紙及び剥離紙を製造した。実施例1と同様にしてコーティング剤のpH、剥離紙原紙及び剥離紙の性能を評価した。結果を表2に示す。なお、比較例6では変性基を導入していないため、HPLCにおける測定では、ムラが無いように測定されW0.05hは2.80であった。
【0106】
[比較例7]
実施例1で使用したPVA(A2)を使用し、酢酸ナトリウムの量を表2に変更する以外は、実施例1と同様にして、コーティング剤、剥離紙原紙及び剥離紙を製造した。実施例1と同様にしてコーティング剤のpH、剥離紙原紙及び剥離紙の性能を評価した。結果を表2に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
実施例のコーティング剤は、塗工機の酸腐食を抑制できるようなpHが得られた。一方、比較例1のコーティング剤は変性PVAに含まれる水不溶解分が多いために塗工できなかった。比較例2~5のコーティング剤は、製造直後で既に変性PVAに含まれる水不溶解分が多く、長期保管後には水不溶解分が数倍になってしまうものもみられ、比較例7のコーティング剤は、pHが低くなりすぎていた。また、実施例のコーティング剤は、剥離紙原紙に塗工した際に透気速度が小さくシリコーンの目止め性に優れていた。一方、比較例2、4~5のコーティング剤は、剥離紙原紙に塗工した際に十分なシリコーンの目止め性が得られなかった。さらに、実施例のコーティング剤を用いた剥離紙は、シリコーン硬化性、及び基材と剥離層との密着性に優れていた。一方、比較例2~6のコーティング剤を用いた剥離紙は、基材と剥離層との密着性に劣っていた。比較例6の剥離紙は、シリコーン硬化性も劣っていた。
【0110】
上記結果から、本開示のコーティング剤は、塗工機の酸腐食を抑制できるとともに、剥離紙原紙に塗工した際にシリコーンの目止め性に優れ、剥離層のシリコーンの硬化を促進させ、かつ基材と剥離層との密着性を向上させることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示のコーティング剤は、剥離紙原紙及び剥離紙の製造に特に有用である。