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  • 特許-石膏ボード廃材から金属を回収する方法 図1
  • 特許-石膏ボード廃材から金属を回収する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】石膏ボード廃材から金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/30 20220101AFI20230915BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20230915BHJP
   B03B 4/02 20060101ALI20230915BHJP
   B03B 9/06 20060101ALI20230915BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20230915BHJP
   B03C 1/005 20060101ALI20230915BHJP
   B03C 1/02 20060101ALI20230915BHJP
【FI】
B09B3/30 ZAB
B09B3/35
B03B4/02
B03B9/06
B03C1/00 B
B03C1/005
B03C1/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020016785
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021122768
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】平中 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-070915(JP,A)
【文献】特開2006-008448(JP,A)
【文献】特開2001-327927(JP,A)
【文献】特開平09-057195(JP,A)
【文献】特開2001-079493(JP,A)
【文献】特開2006-150288(JP,A)
【文献】国際公開第2017/176688(WO,A1)
【文献】特開2021-079393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
B03B 1/00-13/06
B03C 1/00、1/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏ボード廃材から磁性物質を回収する方法であって、
石膏ボード廃材を破砕して破砕物を得る破砕工程と、
破砕物をエアテーブル式の比重選別機にかけ、石膏が低比重成分側に、磁性物質が高比重成分側となるように設定して分離を行う分離工程と、
分離工程で得られた高比重成分を磁選機にかけ、前記磁性物質を吸引して回収する工程を含むことを特徴とする石膏ボード廃材からの磁性物質の回収方法。
【請求項2】
磁性物質がステンレスである請求項1記載の磁性物質の回収方法。
【請求項3】
石膏ボード廃材の破砕をせん断型破砕機で行う請求項1または2記載の磁性物質の回収方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の方法で石膏ボード廃材から磁性物質の回収を行うと共に、前記低比重成分側として回収された石膏は、加熱して半水石膏及び/又はIII型無水石膏とし、次いで水に溶解させた後に二水石膏粒子として析出させ、該二水石膏粒子を含む石膏スラリーを固液分離に供して二水石膏粒子を回収する石膏ボード廃材のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏ボード廃材に含まれる鉄やステンレス製のクギなどの磁性物質を効率的に回収する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
建物の解体、改装等に伴い大量の石膏ボード廃材が発生する。このため、石膏ボード廃材の処理が必要とされている。発明者らが提案した特許文献1では、石膏ボード廃材を破砕し、か焼により得られた石膏の粉粒体を石膏スラリーと混合槽で混合し、析出槽で二水石膏粒子を析出させる。次いで固液分離装置により石膏スラリーから二水石膏粒子を抽出し、ろ液は混合槽へ循環させる。
【0003】
石膏ボードは建材であり、建築や改装に際して使用された他の様々な建材が異物として石膏ボード廃材中に含まれていることが多い。また、建築後にも棚などを取り付けるためにクギやネジが打ち込まれる場合もあり、これも石膏ボード廃材に混入してくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2012/176688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石膏ボード廃材を前記したような方法でリサイクルする際、これら異物は事前に取り除く必要がある。例えば鉄やステンレスなどの重量異物は二水石膏析出槽内で沈降し、装置の安定運転を妨害する恐れがある。一方、このような鉄やステンレスは、それ自体がリサイクルの対象物として有価で扱われ、これを効率的に回収できれば有用である。
【0006】
当該異物は、比較的形状の大きなものであれば、粉砕前あるいは粉砕後に手作業でより分けることも可能であるが、クギやネジなどの小さなものを十分に取り除くことはできない。
【0007】
また様々な物質が含まれる混合物中から磁性物質を回収する方法としては、従来から磁選機が使用されている。しかしながら本発明者等の検討によれば、廃石膏粉に含まれる磁性物質を磁選機で回収しようとしても、特に広く使用されているオーステナイト系ステンレスなどの磁性の弱い物質は十分に回収できないという問題があった。さらにこの方法では、磁選機での回収物中に多量の石膏粉が混入することもあった。
【0008】
従って本発明の目的は、石膏ボード廃材から効率的に上記鉄やステンレス等の磁性物質を回収する方法を提供することにある。
【0009】
なお、オーステナイト系ステンレスは本来は非磁性であるが、破砕等により強い応力を受けると弱い磁性を帯び、本発明では磁性物質として扱う。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意を行い、石膏とステンレス等の金属との比重の差が大きい点に着目し、当該ステンレス等の異物を含む石膏ボード廃材を比重選別にかけた後で磁選機に供すると、効率的に分離回収ができることを見いだし本発明を完成した。
【0011】
即ち本発明は、石膏ボード廃材から磁性物質を回収する方法であって、
石膏ボード廃材を破砕して破砕物を得る破砕工程と、
破砕物をエアテーブル式の比重選別機にかけ、石膏が低比重成分側に、磁性物質が高比重成分側となるように設定して分離を行う分離工程と、
分離工程で得られた高比重成分を磁選機にかけ、前記磁性物質を吸引して回収する工程を含むことを特徴とする石膏ボード廃材からの磁性物質の回収方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の磁性物質の回収工程を含む、石膏ボード廃材のリサイクルの全体模式図。
図2】実施例で用いたエアテーブル式の比重選別機の模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図2に本発明を実施するための一例を示す。図1は、磁性異物の回収工程を含む石膏ボード廃材の処理工程を示す。受け入れた石膏ボード廃材中にはステンレスなどの磁性異物が混入している。また場合により、砂や砂利なども混入している。
【0014】
受け入れた石膏ボード廃材は、2軸のせん断型破砕機から成る1次破砕機2により破砕する。ステンレスなどの金属や砂利等を含むボードでも、せん断破砕機を用いると容易に破砕できる。またせん断型破砕機を用いると金属自体の破砕も容易なため、磁選機で回収しやすい大きさに破砕できる。
【0015】
1次破砕により石膏ボード廃材は、ステンレスのクギやネジ、砂や砂利などの小さな異物と破砕された石膏とから成る比較的細かい粉粒体と、石膏ボード廃材が塊状に破砕された大きめの塊状体(ボード片)とに分かれる。当該塊状体は繰り返し破砕にかけて細かくし、全量を後述する比重選別機にかけてもよいが、粉砕効率や各成分の分離効率の点で、いったん粉粒体と塊状体とが分離されるように篩にかけ、比重選別機にかけるまでは別々に扱うことが好ましい。
【0016】
当該篩は公知の篩を適宜選択して使用できるが、効率の点で乾式の振動篩が好ましい。篩4の目開きは、塊状体が篩下へ通過せず、かつ石膏粉による目詰まりが生じないように定める。例えば目開き6mmの篩では、石膏粉による目詰まりは生じず、かつ塊状体は篩下には見られなかった。目開きを2mmよりも小さくすると、石膏粉による目詰まりの可能性が増し、目開きを10mmよりも大きくすると塊状体が篩下に混入する可能性が増す。これらのことから、目開きは例えば2mm以上10mm以下とし、好ましくは4mm以上10mm以下とし、最も好ましくは4mm以上8mm以下とする。
【0017】
なお、石膏ボード廃材に含まれる紙は、破砕機にかけても比較的大きな形状を保つため、このような篩にかけた場合、当該紙成分は、通常は篩上成分となる。
【0018】
本発明においては上記篩を通過した成分(篩下成分)を、エアテーブル式の比重選別機に供給する。比重選別機12の構造は図2に示す。即ち、多孔板、スクリーン等から成り、水平面から傾斜し、かつ風が通るデッキ(盤面)28に、上記の篩下成分を載せる。送風機30によりデッキ28の下から上へ風を通し、石膏を揺動させる。また加振機32によりデッキ28を振動させる。加振する方向を図2の黒矢印で示し、デッキ28上の混合物に、斜め上側への衝撃が加わるように加振する。
【0019】
従来、石膏ボード廃材の破砕物の分離にエアテーブル式の比重選別機を用いる際には、高比重成分側に石膏が、低比重成分側に紙が分離されるように設定して、石膏と紙の分離を行うことが行われてきたが、本発明においては、石膏が低比重成分側に、磁性物質が高比重成分側となるように選別機の設定をして分離を行う。なお、前記のように篩にかけることにより紙は篩上成分として分離されているため、低比重成分側に混入する紙は1%以下である。また、石膏ボード廃材中に前記した砂や砂利が含まれる場合には、当該砂や砂利も高比重成分側となるように設定することが好ましい。
【0020】
上記のように設定したエアテーブル式の比重選別機において、比重が小さい石膏は、気流により揺動し、デッキ28の振動の影響を余り受けず、デッキ28の下側へ移動する。これに対して、重量成分(ステンレス等の金属や砂利など)は振動によりデッキ28から跳ね上げられ、デッキ28の上側へ移動する。また石膏の微粉は風に乗って上方へ移動し、図示しない集塵機により集塵する。このようにして石膏と、ステンレス等の金属や砂利等の重量成分とが簡易に分離される。
【0021】
このようなエアテーブル式の比重選別機は一般に市販されており、適宜のものを使用できる。例えば、ジェイテック株式会社製のT-10型やBX-110型等、MM Nagata Coal Tech株式会社製のNCTAT013、富士鋼業株式会社製のVS1500H型、原島電機工業製のMH-510シリーズやMH-310シリーズ、株式会社松岡エンジニアリング製のGSシリーズ、GSDシリーズ、原田産業株式会社製のSH型、SHB型等のエアテーブル式比重選別機が使用できる。
【0022】
重量成分として回収された側の成分には、上述のステンレス等の各種金属からなる磁性物質と、少量の石膏や砂、砂利等の非磁性の物質が含まれた混合物となっているのが通常である。本発明においては、この混合物を磁選機にかけて磁性物質を回収する。本発明においては、上記したエアテーブル式比重選別機により大部分の石膏粉が分離されているため、ステンレスなどの磁性の弱い物質でも磁選機で容易に回収ができる。なお、石膏ボード廃材には、強磁性物質である鉄製金具などが含まれている場合もあり、このうち最初から小さかった部材や、前記破砕により小さくなり篩を通過するような大きさになったものも、当然ここで磁選機により回収される。
【0023】
当該磁選機は公知の磁選機を適宜使用すれば良く、例えば市販のものとしては、吊下げ式磁選機、ドラム式磁選機、プーリー式磁選機等が使用できる。ステンレスなどの磁性の弱い物質を分離するには、分離する物質と磁石との距離ができるだけ小さい方がより効率よく分離できる。このため、吊下げ式磁選機よりも、ドラム式およびプーリー式磁選機の方がより好適である。磁石は、永久および電磁タイプどちらでも使用可能である。
【0024】
このようにして回収した磁性物質は、通常はそのほとんどがステンレス製のネジやクギ(の粉砕物)であり、そのままリサイクルに供すればよいが、必要に応じて、さらなる分離操作を行って、構成される各々の成分に分離する操作を行ってもよい。
【0025】
なお、エアテーブル式比重選別機にて分離された石膏は他の成分をほとんど含まないため、そのまま石膏として再利用することも可能であるが、好ましくは、前記特許文献1等に記載の方法で、か焼して半水石膏及び/又はIII型無水石膏に変換し、これを水に溶解させた後に二水石膏粒子として析出させて石膏スラリーとし、これを固液分離に供して二水石膏粒子を回収することがより好ましい。
【0026】
具体的には、石膏をか焼機14で例えば130℃程度に加熱し、半水石膏及び/又はIII型無水石膏に変化させる。半水石膏及び/又はIII型無水石膏と石膏スラリーを混合槽16で混合し、析出槽18で二水石膏粒子を析出させる。混合槽16と析出槽18は一体でも別体でも良く、析出槽18は1個の槽としても、複数段を直列に配置した槽としても良い。上記石膏スラリーは、析出槽で生じたものを循環して用いており、そこに含まれる石膏粒子が種結晶となることで析出する二水石膏粒子が大きく良質なものとなる。
【0027】
析出槽18から石膏スラリーを送液ポンプ20で送液し、好ましくは篩22により紙粉を篩い分けし、篩下のスラリーをフィルタープレス等の固液分離装置24で処理する。固液分離装置24では二水石膏粒子とろ液とに分離する。当該固液分離装置24の種類は任意である。ろ液は混合槽へと循環させ、同時に、二水石膏粒子に同伴するなどして系外へ取り出される水量に相当する量の新たな水を加える。
【0028】
一方、前記した篩処理で分離された塊状体は、以下のような手順で処理した後に前記篩4における篩下成分と同様に処理すればよい。
【0029】
前述したように石膏ボード廃材には強磁性物質である鉄製の金具などが含まれている場合があり、前記破砕により十分に小さくされなかったものは、この塊状体(篩上成分)に混入している。そこで、この篩上成分はいったん磁選機にかけて当該鉄を除去することが好ましい。また篩上に残るような大きさのものは目視でも確認しやすいため、適宜、手選別を併用してもよい。なおこの段階での磁選では、磁性物質と多量の石膏の混合物であるため、ステンレスなどの磁性の弱い物質は回収されにくく、実質的に鉄のみが回収される。
【0030】
磁選機6により鉄を除いた後、2次破砕機8により1次破砕後の塊状体を2次破砕する。2次破砕機8には、ハンマー破砕機、ロール破砕機、ピンロール破砕機等が好ましく、2次破砕により塊状体は粉粒体に破砕され、石膏と紙及びステンレス等の混合物となる。
【0031】
2次破砕による破砕物を、篩10により、篩下の石膏及び各種金属等と、篩上の紙片とに分離する。紙片は石膏の粉粒体及び金属成分よりも平面視でのサイズが大きいので、篩10により分離できる。篩10の種類は任意で、振動篩などに限らず、ピンロール破砕機に附属のスクリーンなどでも良い。篩10の目開きは篩4と同様に、2mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは4mm以上10mm以下とし、最も好ましくは4mm以上8mm以下とする。
【0032】
換言すれば、2次破砕は石膏成分のほぼ全量が上記のような目開きの篩において篩下成分となるようにすることが好ましい。この点で、せん断破砕機による1次破砕では細かくできなかった塊状体の2次破砕はハンマー破砕機で行うことが好ましく、さら細かくするために、その破砕物をさらにロール破砕機、ピンロール破砕機で破砕することが好ましい。
【0033】
そしてこのようにして得られた篩下成分を前記した篩4における篩下成分と同様にエアテーブル式の比重選別機および磁選機で処理すれば、効率的にステンレスなどの磁性の弱い磁性物質が回収できる。これら処理は篩4における篩下成分と別々に行ってもよいが、効率の点で、区別することなく同じものとして扱うことが好ましい(各々の篩分け後に混合してしまってもよい)。
【実施例
【0034】
廃石膏ボードをせん断式2軸破砕機で1次破砕した後、目開き6mmで篩処理し、篩下を比重選別機に投入した。また、篩上を吊下げ式磁選機に通過させた後、ハンマー破砕機、ロール破砕機で2次破砕した後、目開き6mmで篩処理し、篩下を比重選別機に投入した。比重選別機は、原田産業株式会社製のSH-10を使用し、金属類に加え砂利なども高比重側に、石膏は低比重側に分離されるように設定した。上記2系統の篩下を合わせ5t/hで投入し連続処理した。
【0035】
比重選別機で分離して得られた高比重成分をプーリー式磁選機に投入し、磁性物質を分離した。プーリー式磁選機は、株式会社イー・エム・エス社製の磁力1万ガウスを使用した。24時間連続運転を行った結果、上記プーリー式磁選機によって分離した金属回収量は30kgであった。回収した金属のほとんどが弱磁性のステンレスであった。また、磁選機による回収物中の石膏含有量は0.1%以下であった。
【比較例】
【0036】
比重選別機へ供するまでの処理は実施例と同じ処理を行った篩下分を、比重選別機で処理せずに5t/hでドラム式磁選機に投入した。24時間連続運転を行った結果、金属回収量は2kgであった。回収した金属の約半分がステンレスであった。また、磁選機による回収物中の石膏含有量は15%であった。
【符号の説明】
【0037】
2 1次破砕機
4 篩
6 磁選機
8 2次破砕機
10 篩
11 磁選機
12 エアテーブル式比重選別機
14 か焼機
16 混合槽
18 析出槽
20 送液ポンプ
22 篩
24 固液分離装置
28 デッキ
30 送風機
32 加振機
図1
図2