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特許7349988炭素質材料、その製造方法、電気化学デバイス用電極活物質、電気化学デバイス用電極および電気化学デバイス
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  • 特許-炭素質材料、その製造方法、電気化学デバイス用電極活物質、電気化学デバイス用電極および電気化学デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-14
(45)【発行日】2023-09-25
(54)【発明の名称】炭素質材料、その製造方法、電気化学デバイス用電極活物質、電気化学デバイス用電極および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/30 20170101AFI20230915BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230915BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20230915BHJP
   H01G 11/44 20130101ALI20230915BHJP
   H01G 11/34 20130101ALI20230915BHJP
【FI】
C01B32/30
C01B32/05
H01G11/24
H01G11/44
H01G11/34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020531343
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028094
(87)【国際公開番号】W WO2020017553
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018137129
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕美加
(72)【発明者】
【氏名】西浪 裕之
(72)【発明者】
【氏名】西村 修志
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092721(WO,A1)
【文献】特開2010-105836(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146044(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170754(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/167981(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136936(WO,A1)
【文献】特許第5202460(JP,B2)
【文献】特開2011-020907(JP,A)
【文献】特開2007-281346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01G 11/00-11/86
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が1500m/g以上1900m/g未満であり、
温度77.4Kで測定した窒素吸着等温線における窒素相対圧P/P=0.93のときの平均細孔径は1.84~2.05nmであり、
BJH法により測定される3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は65~90%であり、かつ、
MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は10~20%である、
炭素質材料。
【請求項2】
MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、MP法により測定される全マイクロ孔容積に占める割合は10~22%である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積が0.7~1.0cm/gである、請求項1または2に記載の炭素質材料。
【請求項4】
12kNの圧力で圧縮したときの粉体充填密度が0.60~0.73g/cmである、請求項1~3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項5】
前記炭素質材料は植物由来の炭素前駆体に基づくものである、請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項6】
前記植物由来の炭素前駆体は椰子殻由来である、請求項に記載の炭素質材料。
【請求項7】
温度77.4Kで測定した窒素吸着等温線における窒素相対圧P/P=0.93のときの平均細孔径は2.05nm未満である、請求項1~6のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料からなる電気化学デバイス用電極活物質。
【請求項9】
請求項8に記載の電気化学デバイス用電極活物質を含む電気化学デバイス用電極。
【請求項10】
請求項に記載の電気化学デバイス用電極を備える電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料、その製造方法、電気化学デバイス用電極活物質、電気化学デバイス用電極および電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスの1つである電気二重層キャパシタは、化学反応を伴わず物理的なイオンの吸脱着のみから得られる容量(電気二重層容量)を利用しているため、電池と比較して出力特性、寿命特性に優れている。また、電気化学デバイスの1つであるリチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタのエネルギー密度をより高めることができるハイブリッドキャパシタとして注目されている。近年では、これら電気化学デバイスの優れた特性と、環境問題への早急な対策といった点から、回生エネルギーの貯蔵用途として自動車への搭載などで注目されている。しかしながら、このような車載用の電気化学デバイスに要求される性能は厳しくなっており、民生用途と比較して厳しい使用条件下(たとえば温度環境)で高容量かつ高い耐久性を有することが求められる。
【0003】
このような要求に対し、活性炭の細孔分布および比表面積等を制御した種々の電気二重層キャパシタが報告されている。例えば、特許文献1には、特定の比表面積、平均細孔径、全細孔容積を有し、細孔径20Å以上のメソ孔の容積の比率が比較的高い活性炭からなる電極を用いる電気二重層コンデンサが開示されている。
【0004】
特許文献2には、特定のBET比表面積、細孔容積および平均細孔径を有する、平均細孔径が比較的大きい活性炭を用いる電気二重層キャパシタ用電極が開示されている。
【0005】
特許文献3には、特定のBET比表面積、粉体充填密度および平均粒子径を有する活性炭を用いる電気二重層キャパシタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3038676号公報
【文献】特開2017-171538号公報
【文献】特開2000-182904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者が特許文献1~3に記載の活性炭について検討したところ、体積あたりの静電容量が高く、耐久性に優れる電極を得るためには、さらなる改善が必要であることがわかった。例えば特許文献1に記載されるようなメソ孔の細孔容積の比率が高い活性炭の場合には、メソ孔が多すぎるために電極の嵩密度が低下し、体積あたりの静電容量が低下する場合があることがわかった。また、特許文献2に記載されるような細孔径が比較的大きい活性炭の場合、細孔径の大きさに起因して電極の嵩密度が低下し、体積あたりの初期の静電容量が低下する場合があることがわかった。特許文献3に記載される活性炭の場合には、マイクロ孔の細孔容積比率が高すぎるため、耐久性の低下および内部抵抗の上昇を招く可能性がある可能性があることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、体積あたりの高い静電容量を有すると共に、高い耐久性を有する、炭素質材料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、炭素質材料およびその製造方法について詳細に検討を行った。その結果、
BET比表面積が1500~1900m/gであり、
温度77.4Kで測定した窒素吸着等温線における窒素相対圧P/P=0.93のときの平均細孔径は1.84~2.05nmであり、
BJH法により測定される3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は65~90%であり、かつ、
MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は10~20%である、
炭素質材料
によって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の好適な態様を含む。
〔1〕BET比表面積が1500~1900m/gであり、
温度77.4Kで測定した窒素吸着等温線における窒素相対圧P/P=0.93のときの平均細孔径は1.84~2.05nmであり、
BJH法により測定される3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は65~90%であり、かつ、
MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は10~20%である、
炭素質材料。
〔2〕MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、MP法により測定される全マイクロ孔容積に占める割合は10~22%である、前記〔1〕に記載の炭素質材料。
〔3〕窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積が0.7~1.0cm/gである、前記〔1〕または〔2〕に記載の炭素質材料。
〔4〕12kNの圧力で圧縮したときの粉体充填密度が0.60~0.73g/cmである、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔5〕前記炭素質材料は植物由来の炭素前駆体に基づくものである、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔6〕前記植物由来の炭素前駆体は椰子殻由来である、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の炭素質材料からなる電気化学デバイス用電極活物質。
〔8〕前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の炭素質材料を製造する方法であって、
該方法は、炭素前駆体を、炭化し、水蒸気を含む賦活ガスを用いて一次賦活し、洗浄し、水蒸気を含む賦活ガスを用いて二次賦活して、炭素質材料を得る方法。
〔9〕前記〔7〕に記載の電気化学デバイス用電極活物質を含む電気化学デバイス用電極。
〔10〕前記〔9〕に記載の電気化学デバイス用電極を備える電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素質材料は、内部抵抗の低減に適したマイクロ孔分布を有すると共に、体積あたりの静電容量の低下をもたらす過大なメソ孔分布を有さない。そのため、本発明の炭素質材料を、電極活物質として使用すると、該電極活物質を含む電極を備える電気化学デバイスにおいて抵抗上昇が抑制され、静電容量維持率等の耐久性が向上する。また、電気化学デバイスの体積あたりの静電容量を高めることができる。
【0012】
一般に電気化学デバイスの場合、耐久試験後の性能を保障する必要がある。容量維持率が高く、耐久試験後に高い体積あたりの静電容量を示す材料を用いることにより、コスト面、セル性能面で優位なキャパシタセルが設計可能となる。そのため、本発明の炭素質材料(本発明の電気化学デバイス用電極活物質)を含む電極は、高耐久性が求められる電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等の電気化学デバイス用の電極として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シート状の電極組成物を示す図である。
図2】導電性接着剤が塗布された集電体(エッチングアルミニウム箔)を示す図である。
図3】シート状の電極組成物と集電体を接着しアルミニウム製タブを超音波溶接した分極性電極を示す図である。
図4】袋状の外装シートを示す図である。
図5】電気二重層キャパシタを示す図である。
図6】炭素質材料の比表面積と、全細孔容積に対する1~2nmの細孔幅を有するマイクロ孔の細孔容積の割合との関係を示す図である。
図7】炭素質材料の平均細孔径と、耐久試験前の-30℃測定における、炭素質材料の体積あたりの静電容量との関係を示す図である。
図8】炭素質材料の平均細孔径と、耐久試験後の-30℃測定における容量維持率との関係を示す図である。
図9】炭素質材料の、全細孔容積に占める1~2nmの細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積の割合(割合B)と、耐久試験前後の-30℃測定における、炭素質材料の体積あたりの静電容量との関係を示す図である。
図10】炭素質材料の、全細孔容積に占める1~2nmの細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積の割合(割合B)と、耐久試験後の-30℃測定における、炭素質材料の容量維持率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0015】
本発明の炭素質材料は、BET比表面積が1500~1900m/gであり、温度77.4Kで測定した窒素吸着等温線における窒素相対圧P/P=0.93のときの平均細孔径は1.84~2.05nmであり、BJH法により測定される3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は65~90%であり、かつ、MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合は10~20%である。
【0016】
本発明の炭素質材料のBET比表面積は、1500~1900m/gである。一般に、単位面積あたりの静電容量は一定である。そのため、BET比表面積が1500m/gより小さいと、単位質量あたりの静電容量が小さくなりすぎる。一方で、BET比表面積が1900m/gより大きいと、このような活性炭を用いて製造した電極の嵩密度が低下し、体積あたりの静電容量が小さくなりすぎる。BET比表面積は、単位質量あたりの静電容量と単位体積あたりの静電容量の両方を高めやすい観点から、好ましくは1550~1850m/g、より好ましくは1600~1800m/gである。なお、耐久性に関しては比表面積の他、平均細孔径、細孔分布、細孔容積が大きく影響するため、総合的に勘案する必要がある。
【0017】
本発明の炭素質材料において、温度77.4Kで測定した窒素吸着等温線における窒素相対圧P/P=0.93のときの平均細孔径は、1.84~2.05nmである。平均細孔径が1.84nmより小さいと、細孔内のイオンの移動抵抗が増加するため内部抵抗が増加し、耐久性が低下するため望ましくない。また、平均細孔径が2.05nmより大きいと、電極密度が低下するため望ましくない。上記平均細孔径は、高耐久性を保持しやすく、電極密度を高めやすい観点から、好ましくは2.05nm未満、より好ましくは2.00nm以下である。また同様の観点から、好ましくは1.85nm以上である。
【0018】
なお、上記のBET比表面積および平均細孔径は窒素吸着法により算出され、例えば実施例に記載する方法により測定することができる。
【0019】
本発明の炭素質材料において、BJH法により測定される3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合(以下において「割合A」とも称する)は、65~90%である。割合Aは次の式(a):
【数1】
により算出される。割合Aが90%より大きいと、電極の内部抵抗が高くなり、耐久性能が低下するため望ましくない。また、割合Aが65%より小さいと、嵩密度が低下し、体積あたりの静電容量が低下するため望ましくない。割合Aは、高耐久性を保持しやすく、静電容量を高めやすい観点から、好ましくは70~85%、より好ましくは72~83%である。
【0020】
ここで、BJH法とは、CI法、DH法と同様に、一般にメソ孔の解析に用いられる計算方法であり、Barrett, Joyner, Halendaらによって提唱された方法である。本発明において、窒素吸着法によって測定した窒素吸脱着等温線に対し、BJH法を適用することによって、細孔容積を算出することができる。なお、本明細書において、メソ孔は2nm以上の細孔径を有する細孔であり、マイクロ孔は2nm以下の細孔径を有する細孔を表す。また、BJH法により測定される3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積は、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積から、BJH法により測定される3nm以上の細孔径を有する細孔の細孔容積を除して算出した細孔容積である。
【0021】
本発明の炭素質材料において、MP法により測定される1~2nmの細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積が、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積に占める割合(以下において「割合B」とも称する)は、10~20%である。割合Bは次の式(b):
【数2】
により算出される。割合Bが10%より小さいと、電極の内部抵抗が高くなり、耐久性能が低下するため望ましくない。また、割合Bが20%より大きいと、嵩密度が低下し、体積あたりの静電容量が低下するため望ましくない。割合Bは、耐久性を高めやすい観点から、好ましくは11%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは12.3%以上である。割合Bは、高耐久性を保持しやすく、静電容量を高めやすい観点から、好ましくは11~18%、より好ましくは12~15%である。1~2nmの細孔径を有する細孔は、マイクロ孔の中でも細孔径の大きい細孔である。本発明で規定する1.84~2.05nmという特定の平均細孔径を有する炭素質材料において、1nm以下の小さいマイクロ孔は、比較的存在させやすいが、上記平均細孔径を保ちつつ、1~2nmの比較的大きいマイクロ孔を多く存在させることは難しい。例えば1~2nmの比較的大きいマイクロ孔を多く存在させようとすると、3nm以上の細孔径を有するメソ孔も多くなりやすく、その結果、平均細孔径が上記範囲の上限を超えやすい。そのため、本発明の炭素質材料における、特定の平均細孔径を有し、かつ、上記割合Bが10~20%であるという特徴は、本発明の炭素質材料において、同程度の範囲の平均細孔径を有する通常の炭素質材料と比較して、1~2nmの細孔径を有する細孔が多く存在することを表している。本発明の炭素質材料においては、特定の平均細孔径を有するようにし、かつ、1~2nmの細孔径を有する特定の細孔の割合を高くすることにより、体積あたりの静電容量を高め、かつ、耐久性を高めるという効果を達成していると考えられる。
【0022】
本発明の炭素質材料において、MP法により測定される1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が、MP法により測定される全マイクロ孔容積に占める割合(以下において「割合C」とも称する)は、好ましくは10~22%、より好ましくは11~21%、さらに好ましくは11~20%である。割合Cは次の式(c):
【数3】
により算出される。割合Cが上記の下限値以上であると、電極の内部抵抗を低くしやすく、耐久性能を向上させやすい。また、割合Cが上記の上限値以下であると、嵩密度を高めやすく、体積あたりの静電容量を高めやすい。なお、割合Cが上記の範囲であることは、全マイクロ孔のうち、1~2nmの比較的大きいマイクロ孔が多く存在していることを表している。ここで、本明細書において、MP法により測定される全マイクロ孔容積とは、MP法により測定される2nm以下の細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積である。
【0023】
ここで、MP法とは、「t-プロット」(B.C.Lippens, J.H.de Boer, J.Catalysis, 4319(1965))を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積およびマイクロ孔の分布を求める方法であり、M.Mikhail, Brunauer, Bodorにより考案された方法である。本発明において、窒素吸着法によって測定した窒素吸着等温線に対し、MP法を適用することによって、細孔容積を算出することができる。
【0024】
本発明の炭素質材料の、窒素吸着等温線における相対圧P/P=0.93のときの窒素吸着量により算出した全細孔容積は、好ましくは0.7~1.0cm/g、より好ましくは0.72~0.95cm/g、さらに好ましくは0.75~0.90cm/gである。全細孔容積が上記範囲内であると、静電容量と抵抗のバランスがよいため望ましい。なお、上記全細孔容積は、窒素吸着法によって測定した窒素吸着等温線において、相対圧P/P=0.93における窒素吸着量から算出することができる。
【0025】
本発明の炭素質材料の、12kNの圧力で圧縮したときの粉体充填密度は、好ましくは0.60~0.73g/cm、より好ましくは0.62~0.72g/cm、さらに好ましくは0.63~0.71g/cmである。粉体充填密度が上記の下限値以上であると、空間容積が小さくなるため電極密度を高めやすく、初期の静電容量を高めやすい。また、粉体充填密度が上記の上限値以下であると、一定の空間容積が存在することにより内部抵抗を低下させやすく、耐久試験による静電容量の低下を抑制しやすく、耐久性を向上させやすい。
【0026】
上記粉体充填密度は、(株)三菱化学アナリテック製の粉体抵抗率測定ユニット MCP-PD51を用いて、炭素質材料を容器に充填した後、12kNの圧力下で圧縮することにより得られる。
【0027】
本発明の炭素質材料の平均粒子径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。また、本発明の炭素質材料の平均粒子径は、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上である。平均粒子径が上記の下限値以上であると、電極成形時に必要となるバインダー等の量を少なくすることができるため、電極重量あたりの静電容量の低下を抑制しやすい。また、平均粒子径が上記の上限値以下であると、電極層を薄膜化しやすいため、抵抗を小さくしやすい傾向にある。なお、平均粒子径は、例えば粒子径・粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社製「マイクロトラックMT3000」)を用いて測定することができる。
【0028】
本発明の炭素質材料中のカリウム元素含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらにより好ましくは120ppm以下である。カリウム元素の含有量が上記の上限値以下である場合、該炭素質材料を含む電気化学デバイスにおいて、短絡などの問題が生じにくくなる。炭素質材料中のカリウム元素含有量は、できるだけ少ないことが好ましく、その下限値は0ppm以上、例えば6ppm以上である。なお、カリウム元素の含有量は、例えば蛍光X線分析により測定することができる。
【0029】
本発明の炭素質材料の原料となる炭素前駆体は、賦活することによって活性炭を形成するものであれば特に制限されず、植物由来の炭素前駆体、鉱物由来の炭素前駆体、天然素材由来の炭素前駆体および合成素材由来の炭素前駆体などから広く選択することができる。有害不純物を低減する観点、環境保護の観点および商業的な観点からは、本発明の炭素質材料は、植物由来の炭素前駆体に基づくものであることが好ましく、言い換えると、本発明の炭素質材料の原料となる炭素前駆体が植物由来であることが好ましい。
【0030】
鉱物由来の炭素前駆体としては、例えば石油系および石炭系ピッチ、コークスが挙げられる。天然素材由来の炭素前駆体としては、例えば木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、ビスコースレーヨンなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維の炭化物が挙げられる。合成素材由来の炭素前駆体としては、例えばナイロンなどのポリアミド系、ビニロンなどのポリビニルアルコール系、アクリルなどのポリアクリロニトリル系、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリウレタン、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂の炭化物が挙げられる。
【0031】
植物由来の炭素前駆体としては、特に制限されないが、例えば椰子殻、珈琲豆、茶葉、サトウキビ、果実(例えば、みかん、バナナ)、藁、籾殻、広葉樹、針葉樹、竹が例示される。この例示は、本来の用途に供した後の廃棄物(例えば、使用済みの茶葉)、あるいは植物原料の一部(例えば、バナナやみかんの皮)を包含する。これらの植物原料を、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの植物原料の中でも、入手が容易で種々の特性を有する炭素質材料を製造できることから、椰子殻が好ましい。したがって、本発明の炭素質材料は、植物由来の炭素前駆体に基づくものであることが好ましく、椰子殻由来の炭素前駆体に基づくものであることがより好ましい。
【0032】
椰子殻としては、特に限定されないが、例えばパームヤシ(アブラヤシ)、ココヤシ、サラク、オオミヤシ等の椰子殻が挙げられる。これらの椰子殻を、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。椰子を、食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として利用した後に大量に発生するバイオマス廃棄物であるココヤシ及びパームヤシの椰子殻は、入手容易性の観点から、特に好ましい。
【0033】
本発明の炭素質材料、特に活性炭は、上記のような炭素前駆体を、炭化し、一次賦活し、洗浄し、さらに二次賦活して、炭素質材料を得ることを含む方法によって製造することができる。本発明は、炭素前駆体を、炭化し、水蒸気を含む賦活ガスを用いて一次賦活し、洗浄し、水蒸気を含む賦活ガスを用いて二次賦活して、炭素質材料を得る炭素質材料の製造方法も提供する。
【0034】
上記炭化および賦活の方式は、特に限定されないが、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、多段床方式、ロータリーキルンなどの公知の方式が採用できる。
【0035】
本発明の炭素質材料の製造方法において、まず炭素前駆体を炭化する。炭化方法としては特に限定されないが、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、一酸化炭素もしくは燃料排ガスなどの不活性ガス、これら不活性ガスの混合ガス、またはこれら不活性ガスを主成分とする他のガスとの混合ガスの雰囲気下、400~800℃程度の温度で炭素前駆体を焼成する方法が挙げられる。
【0036】
上記炭素前駆体を炭化した後、一次賦活を行う。賦活方法としては、ガス賦活法と薬品賦活法があるが、本発明では、不純物の残留が少ないという観点からガス賦活法が好ましい。ガス賦活法は、炭化された炭素前駆体を、賦活ガス(例えば、水蒸気、炭酸ガスなど)と反応させることにより行うことができる。
【0037】
一次賦活において、効率良く賦活を進行させる観点から、炭化の際に用いるものと同様の不活性ガスと水蒸気との混合物が好ましく、その際の水蒸気の分圧は10~60%の範囲であることが好ましい。水蒸気分圧が10%以上であると賦活を十分に進行させやすく、60%以下であると、急激な賦活反応を抑制し、反応をコントロールしやすい。
【0038】
一次賦活において供給する賦活ガスの総量は、炭素前駆体100質量部に対して、好ましくは50~10000質量部、より好ましくは100~5000質量部、さらに好ましくは200~3000質量部である。供給する賦活ガスの総量が上記範囲内であると、賦活反応をより効率良く進行させることができる。
【0039】
一次賦活における賦活温度は、通常700~1100℃、好ましくは800~1000℃である。賦活時間および昇温速度は特に限定されず、選択する炭素前駆体の種類、形状、サイズ、および所望の細孔径分布等により異なる。なお、一次賦活における賦活温度を高くしたり、賦活時間を長くすると、得られる炭素質材料のBET比表面積は大きくなる傾向がある。そのため、所望の範囲のBET比表面積を有する炭素質材料を得るために、賦活温度や賦活時間を調整すればよい。
【0040】
一次賦活後に得られる炭素質材料のBET比表面積が1000~1400m/g程度となるまで、一次賦活を行うことが好ましい。1000m以上であれば、続く洗浄において、含有する不純物を効率的に除去できる細孔を形成することができる。1400m以上の場合、二次賦活後に得られる炭素質材料のBET比表面積にもよるが、賦活に伴う変化幅が小さくなり、所望の細孔径、細孔分布の形成を困難にする。
【0041】
次に、一次賦活後に得られた炭素質材料を洗浄する。洗浄は、一次賦活後に得られた炭素質材料を、酸を含む洗浄液に浸漬することによって行うことができる。洗浄液としては、例えば鉱酸又は有機酸が挙げられる。鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸及び酒石酸、クエン酸等の飽和カルボン酸、安息香酸及びテレフタル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。洗浄液に用いる酸は、洗浄性の観点から、好ましくは鉱酸であり、より好ましくは塩酸である。なお、酸を用いて洗浄を行った後、さらに水等を用いて洗浄して余剰の酸の除去を行うことが好ましく、この操作によって二次賦活での賦活設備への負荷を軽減することができる。
【0042】
洗浄液は、通常、酸と水性溶液とを混合して調製することができる。水性溶液としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合物などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。
【0043】
洗浄液中の酸の濃度は特に限定されるものではなく、用いる酸の種類に応じて濃度を適宜調節して用いてよい。洗浄液の酸濃度は、洗浄液の総量に基づいて、好ましくは0.01~3.5質量%、より好ましくは0.02~2.2質量%、さらに好ましくは0.03~1.6質量%である。洗浄液中の酸の濃度が上記範囲内であると、炭素質材料中に含まれる不純物を効率的に除去できるため好ましい。
【0044】
洗浄液のpHは、特に限定されるものではなく、用いる酸の種類や除去対象等に応じて適宜調節してよい。
【0045】
炭素質材料を浸漬する際の洗浄液の温度は特に限定されないが、好ましくは0~98℃、より好ましくは10~95℃、さらに好ましくは15~90℃である。炭素質材料を浸漬する際の洗浄液の温度が上記範囲内であれば、実用的な時間かつ装置への負荷を抑制した洗浄の実施が可能となるため望ましい。
【0046】
炭素質材料を洗浄する方法としては、炭素質材料を洗浄液に浸漬させることができる限り特に限定されず、洗浄液を連続的に添加し、所定の時間滞留させ、抜き取りながら浸漬を行う方法でも、炭素質材料を洗浄液に浸漬し、所定の時間滞留させ、脱液した後、新たに洗浄液を添加して浸漬-脱液を繰り返す方法であってもよい。また、洗浄液の全部を更新する方法であってもよいし、洗浄液の一部を更新する方法であってもよい。炭素質材料を洗浄液に浸漬する時間としては、用いる酸、酸の濃度、処理温度等に応じて適宜調節することができる。
【0047】
洗浄の時間は特に限定されないが、反応設備の経済効率、炭素質材料の構造保持性の観点から、好ましくは0.05~4時間、より好ましくは0.1~3時間である。
【0048】
炭素質材料を洗浄液に浸漬する際の、洗浄液と炭素質材料との質量割合は、用いる洗浄液の種類、濃度及び温度等に応じて適宜調節してよい。洗浄液の質量に対する、浸漬させる炭素質材料の質量は、通常0.1~50質量%、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1.5~10質量%である。上記範囲内であれば、洗浄液に溶出した不純物が洗浄液から析出しにくく、炭素質材料への再付着を抑制しやすく、また、容積効率が適切となるため経済性の観点から望ましい。
【0049】
洗浄を行う雰囲気は特に限定されず、洗浄に使用する方法に応じて適宜選択してよい。本発明において洗浄は、通常、大気雰囲気中で実施する。
【0050】
洗浄は、1種の洗浄液で1回または複数回行ってもよいし、2種以上の洗浄液を組み合わせて複数回行ってもよい。
【0051】
洗浄によっては、炭素質材料に含まれる不純物を除去することができる。この不純物は、炭素質材料の原料となる炭素前駆体によってもたらされるものであり、例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ金属類;ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウム等のアルカリ土類金属類;および鉄、銅およびニッケル等の遷移金属類等が挙げられる。
【0052】
本発明において、上記洗浄後の炭素質材料中のカリウム元素含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらにより好ましくは120ppm以下である。本発明において、植物由来の炭素前駆体に基づく炭素質材料を用いる場合には、不純物としてカリウム元素が主成分となり得る。それゆえ、上記の場合には、洗浄後の炭素質材料のカリウム元素含有量が低下すると、他の不純物の含有量も低下するものと考えられる。なお、上記洗浄後の炭素質材料中のカリウム元素含有量はできるだけ少ないことが好ましく、その下限値は0ppm以上、例えば6ppm以上である。
【0053】
炭素質材料に含まれるアルカリ金属類やアルカリ土類金属類などの不純物が賦活の際に存在すると、細孔径の大きな細孔がより多くなる傾向がある。またアルカリ金属類やアルカリ土類金属類などの不純物が残留していると、キャパシタの性能に悪影響を及ぼす場合がある。本発明の製造方法においては、これらの不純物を一次賦活後にいったん除去してからさらに二次賦活を行うことにより、体積あたりの静電容量を低下させやすいメソ孔が多くなりすぎることを防止することができる。また、本発明の製造方法によれば、細孔径が2nm以下であるマイクロ孔の中でも比較的大きい細孔径である1~2nmの細孔径を有する細孔の割合を高めることができる。そのため、体積あたりの静電容量が高く、かつ、耐久性に優れる電気化学デバイスを与える炭素質材料を提供することができる。
【0054】
本発明において、洗浄後に得られた炭素質材料の二次賦活を行う。二次賦活は、上記一次賦活と同様の条件範囲で行うことができる。なお、二次賦活についても同様に、賦活温度を高くしたり、賦活時間を長くすると、得られる炭素質材料のBET比表面積は大きくなる傾向がある。そのため、所望の範囲のBET比表面積を有する炭素質材料を得るために、賦活温度や賦活時間を調整すればよい。
【0055】
二次賦活で得られる炭素質材料を、さらに洗浄し、二次賦活後の炭素質材料中に含まれる灰分、金属不純物を除去することが好適である。また、二次賦活後に得られる炭素質材料を、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で500~1500℃で熱処理をし、洗浄後の残留物の加熱除去や不要な表面官能基の除去さらに炭素の結晶化を高くして電気伝導度を増加させてもよい。
【0056】
本発明において、このようにして得られた炭素質材料を次に粉砕する。粉砕方法としては特に制限されないが、ボールミル、ロールミルもしくはジェットミル等の公知の粉砕方法、またはこれらの組み合わせを採用することができる。粉砕後の炭素質材料の平均粒子径は、特に制限されないが、電極密度の向上および内部抵抗の低減の観点から、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上である。
【0057】
本発明において、粉砕して得られた炭素質材料を分級してもよい。例えば、粒子径が1μm以下の粒子を除くことにより狭い粒度分布幅を有する活性炭粒子を得ることが可能となる。このような微粒子除去により、電極構成時のバインダー量を少なくすることが可能となる。分級方法は、特に制限されないが、例えば篩を用いた分級、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。経済性の観点から、乾式分級装置を用いることが好ましい。
【0058】
粉砕と分級とを、1つの装置を用いて実施することもできる。例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミルを用いて、粉砕および分級を実施することができる。さらに、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもできる。この場合、粉砕と分級とを連続して行うこともできるが、粉砕と分級とを不連続に行うこともできる。
【0059】
また、得られた炭素質材料は、用途に応じて、熱処理を施す、表面を化学的または物理的修飾する等の後処理を施してもよい。
【0060】
得られた炭素質材料を乾燥してもよい。乾燥は、炭素質材料に吸着している水分等を除去するための操作であり、例えば炭素質材料を加熱することにより、炭素質材料に吸着している水分等を除去することができる。加熱に加えて、または、加熱に代えて、例えば減圧、減圧加熱、凍結などの手段により乾燥を行い、炭素質材料に吸着している水分等を除去することができる。
【0061】
乾燥温度は、炭素質材料に吸着している水分の除去の観点から、100~330℃であることが好ましく、110~300℃であることがより好ましく、120~250℃であることがさらに好ましい。
【0062】
乾燥時間は、採用する乾燥温度にもよるが、炭素質材料に吸着している水分の除去の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、さらに好ましくは1時間以上である。また、経済性の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、さらに好ましくは6時間以下である。
【0063】
乾燥を、常圧または減圧雰囲気下で行うことが可能である。乾燥を常圧で行う場合、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下または露点-20℃以下の空気雰囲気下で行うことが好ましい。
【0064】
本発明の炭素質材料は、電気化学デバイス用電極活物質として使用するに適している。したがって、本発明は、本発明の炭素質材料からなる電気化学デバイス用電極活物質も提供する。なお、以下の説明において、本発明の炭素質材料が電気化学デバイス用電極活物質として用いられる場合には、「本発明の炭素質材料」は「本発明の炭素質材料からなる電気化学デバイス用電極活物質」でもある。さらに、本発明は、本発明の電気化学デバイス用電極活物質を含む電気化学デバイス用電極、および該電気化学デバイス用電極を備える電気化学デバイスも提供する。本発明の電気化学デバイス用電極は、本発明の炭素質材料(本発明の炭素質材料からなる電気化学デバイス用電極活物質)を、バインダー、必要に応じて他の活物質、および必要に応じて導電助材と混合し、得られた混合物を成形して製造することができる。
【0065】
本発明の炭素質材料は、内部抵抗の低減に適したマイクロ孔分布を有すると共に、体積あたりの静電容量の低下をもたらす過大なメソ孔分布を有さない。そのため、本発明の炭素質材料を電気化学デバイス用電極において活物質として使用すると、(同程度の比表面積を有する炭素質材料を用いた場合の)体積あたりの静電容量を保持したうえで、抵抗上昇が抑制され、容量維持率等の耐久性が向上し、耐電圧性が向上する。本発明の炭素質材料は、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどの電気化学デバイス用電極活物質として有用であり、本発明の炭素質材料(本発明の炭素質材料からなる電気化学デバイス用電極活物質)を含む電極は、高耐久性が求められる電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどの電気化学デバイス用電極として好適に利用できる。その際、当該電極は、本発明の炭素質材料以外にも、電極活物質となりうる物質を含有していてもよい。
【実施例
【0066】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0067】
まず、実施例および比較例における各物性値の測定方法、電極及び電極セルの作製方法、及び、耐久試験方法を以下に示す。
[BET比表面積]
日本ベル(株)製のBELSORP-miniを使用し、炭素質材料を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77.4Kにおける炭素質材料の窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線からBET式により多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧P/P=0.01~0.1の領域での直線から比表面積を算出した。
【0068】
[全細孔容積・平均細孔径]
日本ベル(株)製のBELSORP-miniを使用し、炭素質材料を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77.4Kにおける炭素質材料の窒素吸着等温線を測定した。得られた吸着等温線における相対圧P/P=0.93における窒素吸着量から全細孔容積を求めた。また、平均細孔径は、このようにして求めた全細孔容積および先に記載したBET比表面積より、下記式に基づいて算出した。
【0069】
【数4】
【0070】
[BJH法によるメソ孔細孔容積]
日本ベル(株)製のBELSORP-miniを使用し、炭素質材料を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77.4Kにおける炭素質材料の窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線に対し、BJH法を適用し、メソ孔の細孔容積を算出した。なお、BJH法での解析にあたっては日本ベル(株)から提供されたt法解析用標準等温線『NGCB-BEL.t』を解析に用いた。
まず、BJH法により相対圧P/P=0.93の範囲で算出される3nm以上の細孔径を有する細孔の細孔容積を求めた。次に、3nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積は、上記のようにして算出した全細孔容積から、上記のようにして算出した3nm以上の細孔径を有する細孔の細孔容積を除して算出した。
【0071】
[MP法によるマイクロ孔細孔容積]
日本ベル(株)製のBELSORP-miniを使用し、炭素質材料を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77.4Kにおける炭素質材料の窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線に対し、MP法を適用し、マイクロ孔の細孔容積を算出した。なお、MP法での解析にあたっては日本ベル(株)から提供されたt法解析用標準等温線『NGCB-BEL.t』を解析に用いた。
1~2nmの細孔径を有する細孔の細孔容積は、MP法により得られた2nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積から1nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積を除して算出した。また、2nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積を全マイクロ孔容積として用いた。
【0072】
[粉体充填密度]
炭素質材料を120℃、減圧雰囲気下で(ゲージ圧として-95kPa以下)12時間以上かけて乾燥処理した後、測定容器(プローブシリンダー:内容積φ20mm×50mm)に約0.9g充填し、プローブピストンで12kNとなるまで圧縮して、炭素質材料の厚みを測定した。炭素質材料の重量と、12kN圧縮下での体積より、下記式に基づいて粉体充填密度を求めた。
【0073】
【数5】
【0074】
[平均粒子径]
炭素質材料をイオン交換水中に界面活性剤の存在下、超音波分散した後、日機装株式会社製「マイクロトラックMT3000」にて粒度分布を測定し、平均粒子径を求めた。
【0075】
[カリウム元素含有量]
カリウム元素の含有量は、以下の方法により測定した。まず、既知濃度の標準液からカリウム元素含有量についての検量線を作成する。ついで、粉砕した測定試料を115℃で3時間乾燥した後、分解容器に0.1g入れ、硝酸10mlを加え混ぜた後、マイクロウェーブ試料前処理装置(CEM社製「MARS6」)を用いて試料を溶解した。その溶解液を取り出し、25mlにメスアップして測定溶液を調製した後、ICP発光分光分析装置((株)島津製作所製「ICPE-9820」)にて分析した。得られた値と先に作成した検量線よりカリウム元素の濃度を求め、下記の式よりカリウム元素含有量(金属含有量)を求めた。
【数6】
【0076】
[試験用電極の作製]
電極構成部材である炭素質材料(電気化学デバイス用電極活物質)、導電助材およびバインダーを、事前に120℃、減圧(0.1kPa以下)の雰囲気にて16時間以上減圧乾燥を行い使用した。
炭素質材料、導電助材およびバインダーを、(炭素質材料の質量):(導電助材の質量):(バインダーの質量)の比が81:9:10となるように秤量し、混錬した。上記導電助材としては、デンカ(株)製の導電性カーボンブラック「デンカブラック粒状」を使用し、上記バインダーとしては、三井・デュポン フロロケミカル(株)製のポリテトラフルオロエチレン「6J」を使用した。混錬した後、さらに均一化を図る為、1mm角以下のフレーク状にカットし、コイン成形機にて400kg/cmの圧力を与え、コイン状の二次成形物を得た。得られた二次成形物をロールプレス機により160μm±5%(8μm)の厚みのシート状に成形した後、所定の大きさ(30mm×30mm)に切り出し、図1に示すような電極組成物1を作製した。そして、得られた電極組成物1を120℃、減圧雰囲気下で16時間以上乾燥した後、質量、シート厚みおよび寸法を計測し、以下の測定に用いた。
【0077】
[測定電極セルの作製]
図2に示すように、宝泉(株)製のエッチングアルミニウム箔3に日立化成工業(株)製の導電性接着剤2「HITASOL GA-703」を塗布厚みが100μmになるように塗布した。そして、図3に示すように、導電性接着剤2が塗布されたエッチングアルミニウム箔3と、先にカットしておいたシート状の電極組成物1とを接着した。そして、宝泉(株)製のアルミニウム製のシーラント5付きタブ4をエッチングアルミニウム箔3に超音波溶接機を用いて溶接した。溶接後、120℃で真空乾燥し、アルミニウム製の集電体を備える分極性電極6を得た。
【0078】
図4に示すように、宝泉(株)製のアルミニウム積層樹脂シートを長方形(縦200mm×横60mm)に切り出し2つ折にして、1辺(図4中の(1))を熱圧着して残る2辺が開放された袋状外装シート7を準備した。ニッポン高度紙工業(株)製のセルロース製セパレーター「TF-40」(図示せず)を介して上記の分極性電極6を2枚重ね合わせた積層体を作製した。この積層体を外装シート7に挿入して、タブ4が接する1辺(図5中の(2))を熱圧着して分極性電極6を固定した。そして、120℃、減圧雰囲気下で16時間以上真空乾燥させた後、アルゴン雰囲気(露点-90℃以下)のドライボックス内で電解液を注入した。電解液としては、キシダ科学(株)製の1.0mol/Lのテトラエチルアンモニウム・テトラフルオロボレートのアセトニトリル溶液を使用した。外装シート7内で積層体に電解液を含侵させた後、外装シート7の残る1辺(図5中の(3))を熱圧着して図5に示す電気二重層キャパシタ8を作製した。
【0079】
[静電容量測定]
得られた電気二重層キャパシタ8を菊水電子工業(株)製の「CAPACITOR TESTER PFX2411」を用いて、25℃および-30℃において、到達電圧3.0Vまで、電極表面積あたり50mAで定電流充電し、さらに、3.0Vで30分、定電圧下補充電し、補充電完了後、25mAで放電した。得られた放電曲線データをエネルギー換算法で算出し静電容量(F)とした。具体的には、充電の後電圧がゼロになるまで放電し、このとき放電した放電エネルギーから静電容量(F)を計算した。そして、電極体積あたりで割った静電容量(F/cc)を求めた。
【0080】
[耐久試験]
耐久試験は先に記述した静電容量測定後、60℃の恒温槽中にて3.0Vの電圧を印加しながら400時間保持した後で、上記と同様にして25℃および-30℃において静電容量測定を行った。耐久試験前後の静電容量から、下記の式に従いそれぞれの温度についての容量維持率を求めた。60℃の恒温槽中にて3.0Vの電圧の印加を開始後25時間慣らし運転を行った後を耐久試験前とし、400時間保持した後を耐久試験後とした。
【0081】
【数7】
【0082】
[実施例1]
フィリピン産ココナツのヤシ殻を原料とするチャー(比表面積:370m/g)に対し、プロパン燃焼ガス+水蒸気(水蒸気分圧:25%)を用いて、850℃で下記比表面積となるまで一次賦活を行い、比表面積が1185m/g、カリウム元素含有量7949ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥して、カリウム元素含有量が150ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この一次洗浄粒状活性炭を、次いで、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、950℃で下記比表面積となるまで二次賦活し、比表面積1715m/g、平均細孔径1.97nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1729m/g、平均細孔径1.98nm、カリウム元素含有量8ppmの炭素質材料(1)を得た。また、炭素質材料(1)を用いて、前述した電極の作製方法に従い、電極組成物(1)を得て、これを用いて分極性電極(1)を作製した。さらに、分極性電極(1)を用いて電気二重層キャパシタ(1)を作製した。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同様にして、比表面積が1206m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量83ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、930℃で下記比表面積となるまで二次賦活し、比表面積1682m/g、平均細孔径1.85nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1697m/g、平均細孔径1.85nm、カリウム元素含有量9ppmの炭素質材料(2)を得た。また、炭素質材料(2)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(2)、分極性電極(2)および電気二重層キャパシタ(2)を作製した。
【0084】
[実施例3]
実施例1と同様にして、比表面積が1163m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量70ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、950℃で下記比表面積となるまで二次賦活し、比表面積1530m/g、平均細孔径1.84nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1547m/g、平均細孔径1.85nm、カリウム元素含有量16ppmの炭素質材料(3)を得た。また、炭素質材料(3)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(3)、分極性電極(3)および電気二重層キャパシタ(3)を作製した。
【0085】
[実施例4]
実施例1と同様にして、比表面積が1181m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量16ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、970℃で下記比表面積となるまで二次賦活を行い、比表面積1565m/g、平均細孔径1.84nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1588m/g、平均細孔径1.85nm、カリウム元素含有量5ppmの炭素質材料(4)を得た。また、炭素質材料(4)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(4)、分極性電極(4)および電気二重層キャパシタ(4)を作製した。
【0086】
[実施例5]
実施例1と同様にして、比表面積が1360m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量22ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、970℃で下記比表面積となるまで二次賦活を行い、比表面積1865m/g、平均細孔径1.93nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1871m/g、平均細孔径1.93nm、カリウム元素含有量11ppmの炭素質材料(5)を得た。また、炭素質材料(5)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(5)、分極性電極(5)および電気二重層キャパシタ(5)を作製した。
【0087】
[実施例6]
実施例1と同様にして、比表面積が1058m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量32ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、950℃で下記比表面積となるまで二次賦活を行い、比表面積1530m/g、平均細孔径1.84nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1538m/g、平均細孔径1.84nm、カリウム元素含有量13ppmの炭素質材料(6)を得た。また、炭素質材料(6)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(6)、分極性電極(6)および電気二重層キャパシタ(6)を作製した。
【0088】
[比較例1]
実施例1と同様にして、比表面積が1165m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量25ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、930℃で下記比表面積となるまで二次賦活を行い、比表面積1470m/g、平均細孔径1.81nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1480m/g、平均細孔径1.81nmの炭素質材料(7)を得た。また、炭素質材料(7)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(7)、分極性電極(7)および電気二重層キャパシタ(7)を作製した。
【0089】
[比較例2]
実施例1と同様にして、比表面積が1243m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量61ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、970℃で下記比表面積となるまで二次賦活を行い、比表面積2180m/g、平均細孔径2.17nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積2184m/g、平均細孔径2.17nm、カリウム元素含有量8ppmの炭素質材料(8)を得た。また、炭素質材料(8)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(8)、分極性電極(8)および電気二重層キャパシタ(8)を作製した。
【0090】
[比較例3]
実施例1と同様にして、比表面積が1350m/gの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、実施例1の一次洗浄と同様に酸水洗、乾燥して、カリウム元素含有量23ppmの一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭をさらに、プロパン燃焼ガス(水蒸気分圧15%)を用い、970℃で下記比表面積となるまで二次賦活を行い、比表面積2020m/g、平均細孔径2.04nmの二次賦活粒状活性炭を得た。得られた二次賦活粒状活性炭に対し、実施例1の二次洗浄と同様に酸水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、二次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積2027m/g、平均細孔径2.06nm、カリウム元素含有量18ppmの炭素質材料(9)を得た。また、炭素質材料(9)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(9)、分極性電極(9)および電気二重層キャパシタ(9)を作製した。
【0091】
[比較例4]
フィリピン産ココナツのヤシ殻を原料とするチャー(比表面積:370m/g)に対し、プロパン燃焼ガス+水蒸気(水蒸気分圧:25%)を用いて、850℃で下記比表面積となるまで一次賦活を行い、比表面積が1135m/g、平均細孔径1.72nm、カリウム元素含有量7636ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1143m/g、平均細孔径1.72nm、カリウム元素含有量29ppmの炭素質材料(10)を得た。また、炭素質材料(10)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(10)、分極性電極(10)および電気二重層キャパシタ(10)を作製した。
【0092】
[比較例5]
比較例4と同様にして比表面積が1428m/g、平均細孔径1.76nm、カリウム元素含有量9821ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1434m/g、平均細孔径1.76nm、カリウム元素含有量15ppmの炭素質材料(11)を得た。また、炭素質材料(11)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(11)、分極性電極(11)および電気二重層キャパシタ(11)を作製した。
【0093】
[比較例6]
比較例4と同様にして比表面積が1663m/g、平均細孔径1.80nm、カリウム元素含有量11590ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1685m/g、平均細孔径1.80nm、カリウム元素含有量25ppmの炭素質材料(12)を得た。炭素質材料(12)の各種物性を測定した。また、炭素質材料(12)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(12)、分極性電極(12)および電気二重層キャパシタ(12)を作製した。
【0094】
[比較例7]
比較例4と同様にして比表面積が1901m/g、平均細孔径1.83nm、カリウム元素含有量13289ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積1921m/g、平均細孔径1.83nm、カリウム元素含有量12ppmの炭素質材料(13)を得た。また、炭素質材料(13)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(13)、分極性電極(13)および電気二重層キャパシタ(13)を作製した。
【0095】
[比較例8]
比較例4と同様にして比表面積が2098m/g、平均細孔径1.96nm、カリウム元素含有量14107ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積2107m/g、平均細孔径1.96nm、カリウム元素含有量6ppmの炭素質材料(14)を得た。また、炭素質材料(14)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(14)、分極性電極(14)および電気二重層キャパシタ(14)を作製した。
【0096】
[比較例9]
比較例4と同様にして比表面積が2200m/g、平均細孔径2.07nm、カリウム元素含有量15664ppmの一次賦活粒状活性炭を得た。その後、塩酸(濃度:0.5規定、希釈液:イオン交換水)を用いて、温度85℃で30分酸洗した後、残留した酸を除去するため、イオン交換水で十分に水洗、乾燥した後、700℃熱処理を実施し、一次洗浄粒状活性炭を得た。この粒状活性炭を平均粒子径が6μmになるように微粉砕し、比表面積2220m/g、平均細孔径2.07nm、カリウム元素含有量13ppmの炭素質材料(15)を得た。また、炭素質材料(15)を用い、実施例1と同様にして、電極組成物(15)、分極性電極(15)および電気二重層キャパシタ(15)を作製した。
【0097】
上記のようにして得た炭素質材料(1)~(15)の各種物性を、上記方法に従い測定した。また、割合A~Cを算出した。その結果を表1および表2に示す。また、上記のようにして得た電気二重層キャパシタ(1)~(15)についても、各種測定を実施した。その結果を表3に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
<電気二重層キャパシタの初期性能、および耐久試験後の性能評価>
電気二重層キャパシタの性能評価として耐久試験を行う場合、一般的には、常温(25℃)での容量や抵抗の評価を加速試験の前後で行い、その変化を測定する。しかしながら、常温での評価では劣化現象を確認する為に長期にわたる試験が必要となる。そこで、低温下で容量や抵抗の評価を行うことにより、常温で評価を行う場合と比較して、劣化現象を早期に比較・確認することが可能である。
特に、低温下で測定比較を行う場合には、低温であるために電解液の粘性が増加し、電極材、電極界面の劣化および/または電解液の劣化などが、容量や抵抗等の評価により顕著に反映されるためと考えられる。このような観点から本発明においては、劣化現象を明確に比較、検討するため、耐久試験(60℃、3Vの負荷を所定時間)を実施し、その後の劣化状態を-30℃での評価を中心に比較した。
【0102】
表3に示すように、実施例1~6において、本発明の炭素質材料を用いた分極性電極(1)~(6)を用いてそれぞれ作製された電気二重層キャパシタ(1)~(6)は、比較例1~9の炭素質材料(7)~(15)を用いて作製した電気二重層キャパシタ(7)~(15)と比較して、25℃および-30℃のいずれでも、耐久試験後の体積あたりの静電容量が高く、かつ、容量維持率も良好な値を示す。
【0103】
以下において、図を用いて実施例および比較例で得られた結果について説明する。
【0104】
図6は、炭素質材料の比表面積と、全細孔容積に対する1~2nmの細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積の割合との関係を示す。ガス賦活された活性炭の場合、賦活の進行に伴い、比表面積の増加、細孔径の拡大がなされるが、図6に示すように、一次洗浄後に二次賦活および二次洗浄を行った実施例1~6は、一次賦活のみである一般的な製造方法(通常賦活)によって作成した比較例4~9と比べ、比較的低い比表面積で1~2nmの細孔容積の全細孔容積に占める割合を高めていることが分かる。
【0105】
図7は、炭素質材料の平均細孔径と、耐久試験前後の-30℃測定における、炭素質材料の体積あたりの静電容量との関係を示す。さらに図8は、炭素質材料の平均細孔径と、耐久試験後の-30℃測定における容量維持率との関係を示す。
【0106】
図7および図8に示すように、平均細孔径が1.84~2.05nmの範囲に含まれる実施例1~6においては、初期体積あたりの静電容量(耐久試験前の静電容量)はほぼ同等ながら、耐久試験後の静電容量維持率が高く、耐久試験後も高い体積あたりの静電容量を示すことが分かる。一方、比較例1のように、平均細孔径が1.85nmより小さいと、初期静電容量は高いものの、耐久試験後の静電容量が低く、容量維持率が低下する。また、比較例2および3のように、平均細孔径が2.05nmより大きいと、容量維持率は高いものの、初期静電容量が低い為、耐久試験後の体積あたりの静電容量も低い値となってしまうことが分かる。
【0107】
図9は、炭素質材料の、MP法により測定される、全細孔容積に占める1~2nmの細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積の割合(割合B)と、耐久試験前後の-30℃測定における、炭素質材料の体積あたりの静電容量との関係を示す。さらに図10は、MP法により測定される、炭素質材料の、全細孔容積に占める1~2nmの細孔径を有するマイクロ孔の細孔容積の割合(割合B)と、耐久試験後の-30℃測定における静電容量維持率との関係を示す。
【0108】
図9および図10に示すように、割合Bが10~20%の範囲に含まれる実施例1~6においては、初期の静電容量(耐久試験前の静電容量)が高く、さらに耐久試験における静電容量の低下が少ないため容量維持率が高いことが分かる。一方、比較例1のように、割合Aが10%より低いと、耐久試験後の容量低下が著しく、容量維持率が悪くなる。また、比較例2および3のように、割合Aが20%より高いと、容量維持率は高いものの、初期静電容量が低くなってしまうことが分かる。
【0109】
上記のように、本発明の電気化学デバイスの好ましい一実施形態である電気二重層キャパシタについて、細孔拡大に伴う初期容量の低下を抑制し、耐久試験後においても十分な静電容量を保持でき、低温領域においても、十分な静電容量を保持できるため、寒冷地のような劣化が促進される状況においても十分な性能を発揮することができることが示された。
【0110】
以上より、本発明の炭素質材料を、電極において電気化学デバイス用電極活物質として使用すると、体積あたりの静電容量が高く、優れた耐久性を有する電気化学デバイスを得ることができることが明らかである。
【符号の説明】
【0111】
1 電極組成物
2 導電性接着剤
3 エッチングアルミニウム箔
4 タブ
5 シーラント
6 分極性電極
7 外装シート
8 電気二重層キャパシタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10