(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 13/03 20060101AFI20230919BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20230919BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20230919BHJP
C25D 3/46 20060101ALI20230919BHJP
C25D 3/64 20060101ALI20230919BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
H01R13/03 D
C25D7/00 H
C25D15/02 L
C25D15/02 J
C25D3/46
C25D3/64
H01R43/16
(21)【出願番号】P 2019196958
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-09-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・日本銅学会第58回講演大会、平成30年11月4日、東京理科大学第2会場 ・日本銅学会、第58回講演大会概要集、第91~92頁、平成30年11月3日 ・日本金属学会2019春期(第164回)講演大会、平成31年3月21日、講演番号S6.5 ・日本金属学会2019春期(第164回)講演大会、概要集、平成31年3月6日、S6.5 ・第226回継電器・コンタクトテクノロジ研究会、令和1年8月30日、機械振興会館 ・日本銅学会、日本銅学会誌「銅と銅合金」、第58巻、令和1年8月1日 ・日本銅学会第59回講演大会、令和1年10月20日、関西大学 千里山キャンパス第1会場 ・日本銅学会、第59回講演大会概要集、第67~68頁、令和1年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】呉 松竹
【審査官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107345307(CN,A)
【文献】特開2014-164965(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013163(WO,A1)
【文献】特開平04-126314(JP,A)
【文献】特開2006-265667(JP,A)
【文献】特表2011-513567(JP,A)
【文献】特開2018-129226(JP,A)
【文献】特表2018-526531(JP,A)
【文献】特開2018-199839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/00 -13/08
H01R 13/15 -13/35
H01R 43/027-43/08
C25D 5/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気接続用(または通電用)の金属製端子材と、前記金属製端子材の表面をめっきしたAg-グラフェン複合めっき膜と、を備え
、
前記Ag-グラフェン複合めっき膜の全体まで前記グラフェンが複合されることを特徴とするAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項2】
電気接続用(または通電用)の金属製端子材と、前記金属製端子材の表面をめっきしたAg-グラフェン複合めっき膜と、を備え、
前記Ag-グラフェン複合めっき膜の内部まで前記グラフェンは複合され、前記Ag-グラフェン複合めっき膜における前記グラフェンの含有量が0.5~30at%であることを特徴とする
Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項3】
前記Ag-グラフェン複合めっき膜の内部は、前記金属製端子の表面からめっき膜と基材との界面までの範囲を含むことを特徴とする請求項2に記載のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項4】
電気接続用(または通電用)の金属製端子材と、前記金属製端子材の表面をめっきしたAg-グラフェン複合めっき膜と、を備え、
前記金属製端子の材質は銅又は銅合金を含むことを特徴とする
Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項5】
グラファイトを浸漬した水溶液中で電解剥離法により、前記グラファイトから剥離した積層型グラフェンを製造するグラフェン製造工程と、製造された前記積層型グラフェンを含むめっき液に金属製端子材を浸漬することにより、前記金属製端子材を電気めっきするめっき工程と、を備えることを特徴とするAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法。
【請求項6】
前記めっき液は工業用シアン系浴又はノンシアン浴であることを特徴とする請求項5に記載のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載電装部材であるワイヤーハーネスの一般端子材料は銅合金表面に錫(Sn)めっきしたものが使用されているが、安全に関わる装置には金(Au)、パラジウム(Pd)のような貴金属めっき材が用いられている。また、EV/PHV用充電装置の端子電極材料として、すべでの金属の中に導電性が最も高い貴金属純銀(Ag)めっき材が用いられていた。銀系合金は、比較的やわらかく耐摩耗性が低いため、耐摩耗性を向上すべく固体潤滑剤であるMoS2や黒鉛、テフロン(登録商標)粒子など非金属材料を複合化する研究が報告されている。
【0003】
特許文献1には、硬化剤に加えて酸化グラフェンを更に使用することによって、高い硬度及び低い電気抵抗を両立できる銀めっき材料が記載されている。また、特許文献2には、銀又は銅とグラファイトを0.1質量%以上6質量%以下とカルシウム等を含み、相対密度が97%以上である電気接点材が記載されている。
【0004】
一方、非特許文献1には、銀板上にグラフェンを含むエタノール溶液を垂らして乾燥し、銀めっき材と摩耗試験を行うことで、グラフェンを潤滑剤として銀板の摩擦係数を1/10までに大幅に低減できることが記載されている。非特許文献2には、商用グラフェンシートを銀めっき液中に添加し、電気めっきにより表面に凹凸のある銀-グラフェンめっきを形成した。銀-グラフェンめっきは、GCr15鋼球に相手した摩耗試験において、銀めっきより低い摩擦係数と腐食電流を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-199839号公報
【文献】特開2015-99839号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Graphene as a lubricant on Ag for electrical contact applications”, Fang Mao, Urban Wiklund, Anna M. Andersson, Ulf Jansson. Journal of Materials Science, vol.50, pp.6518-6525,2015.
【文献】“Performance studies of Ag, Ag-graphite, and Ag-graphene coatings on Cu substrate for high-voltage isolation switch”, Wang Yan Lv, Ke Qin Zheng, Zeng Guang Zhang, Materials and Corrosion,vol.69. pp.1847-1853, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、銀めっき膜は、比較的軟らかく摩耗されやすいので、耐摩耗性を改善するために銀めっきに固体潤滑剤としてMoS2や黒鉛、テフロン(登録商標)粒子などの非金属材料を複合すると、導電性の低下を招くといった問題があった。一方、カーボンナノ材料であるグラフェンは銀よりも導電性が高く、優れた潤滑性と熱安定性を有するが、単体で使用不可能であり、製造コストなどで実用化が困難であるといった問題があった。本発明では、上記問題を解決し、高導電性の維持と耐摩耗性の向上を同時に実現するAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子及びその製造方法を提供する。その結果、自動車特に更なる拡大が予想されるEV/PHVの電子制御の高度化に伴うワイヤーハーネスの高性能化、高耐久性化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)電気接続用(または通電用)の金属製端子材と、前記金属製端子材の表面をめっきしたAg-グラフェン複合めっき膜と、を備えることを特徴とするAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
「Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子」とは、表面にAg-グラフェン複合めっき膜が被覆された金属製端子ということで、例えばAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子基板が好ましい。
(2)前記Ag-グラフェン複合めっき膜の内部まで前記グラフェンは複合され、前記Ag-グラフェン複合めっき膜における前記グラフェンの含有量が0.5~30at%であることを特徴とする(1)に記載のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
(3)前記Ag-グラフェン複合めっき膜の内部は前記金属製端子の表面からめっき膜と基材との界面までの範囲を含むことを特徴とする(2)に記載のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
である。
(4)前記金属製端子の材質は銅又は銅合金を含むことを特徴とする(1)~(3)の何れか1つに記載のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
金属製端子基材の材質が銅又は銅合金を含むことが好ましいのは、銅又は銅合金は高導電性と高強度であり、自動車端子・電子部品の電気接続材料として広く使用されているためである。また、導電性の金属材料であれば、アルミ合金や鉄鋼材料でもよい。
(5)グラファイトを浸漬した水溶液中で電解剥離法により、前記グラファイトから剥離した積層型グラフェンを製造するグラフェン製造工程と、製造された前記積層型グラフェンを含むめっき液に金属製端子材を浸漬することにより、前記金属製端子材を電気めっきするめっき工程と、を備えることを特徴とするAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法である。
(6)前記めっき液は工業用シアン系浴又はノンシアン浴であることを特徴とする(5)に記載のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性と耐摩耗性を高いレベルで実現するAg-グラフェン複合めっき膜が被覆された金属製端子及びその製造方法を提供する。その結果、自動車特に更なる拡大が予想されるEV/PHVの電子制御の高度化に伴うワイヤーハーネスの高性能化、高耐久性化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)Cu基板にAg-グラフェン複合めっき膜を行う製造方法、(b)その製造方法によるAg-グラフェン複合めっき膜Cu基板の代表的な4つの態様の概略図を示した図である。
【
図2】(a)純AgめっきCu合金基板の表面のFE-SEM画像(電流密度1.0A/dm
2、比較例3)、(b)本発明の一つの実施態様であるAg-グラフェン複合めっき膜Cu合金基板(電流密度1.0A/dm
2、実施例1)の表面のFE-SEM画像を、それぞれ示した図である。
【
図3】
図2(a)の純Agめっきの表面と同(b)のAg-グラフェン複合めっき膜の表面のラマン分光測定の結果を、それぞれ示した図である。
【
図4】(a)Ag-グラフェン複合めっき膜Cu合金基板(電流密度1.0A/dm
2等)とAgめっきCu合金基板等のXRD測定の結果、(b)(a)のCのピーク付近での拡大図を、それぞれ示した図である。
【
図5】(a)純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.0A/dm
2)、(b)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.2A/dm
2)、(c)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.0A/dm
2)、(d)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度2.0A/dm
2)のGD-OESの測定結果を、それぞれ示した図である。
【
図6】(a)めっき膜の導電率の測定方法の模式図、(b)純Agめっきの場合とAg-グラフェン複合めっき膜の場合の導電率の測定結果を、それぞれ示した図である。
【
図7】(a)純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.0A/dm
2)、(b)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.0A/dm
2)に対して、SEM画像、エネルギー分散型X線分析結果等を、それぞれ示した図である。
【
図8】(a)純Agめっき(電流密度0.5A/dm
2)、(b)純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.5A/dm
2)、(c)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.2A/dm
2)、(d)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.5A/dm
2)、(e)Ag-グラフェン複合めっき膜Cu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.5A/dm
2)のFE-SEM画像を、それぞれ示した図である。
【
図9】純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.0 A/dm
2)、とAg-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.0A/dm
2)の摩耗試験結果である。
【
図10】摩耗試験後の純AgめっきCu合金基板のめっき膜とAg-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜の摩耗痕全体と摩耗粉のFE-SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0012】
図1(a)には、Cu基板にAg-グラフェン複合膜めっきを行う製造方法を、同(b)には、その製造方法によるAg-グラフェン複合膜めっきの代表的な4つの態様の概略図をそれぞれ示した。グラフェンフレーク(Graphene flake)は電解剥離法によって製造することができる。なお、電解剥離とは高電場下でグラファイトを層状的に分解することである。
【0013】
図1(b)に示されたように、Ag-グラフェン複合めっき膜についてAgマトリックス中でのグラフェンの分散状態により、Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子にさまざまな性能を与えることができる。電気はグラフェン間を通って流れるため、Ag-グラフェン複合めっき膜金属製端子を高電導とするには、(2)のような高電導仕様を選択することが好ましい。一方、高潤滑のAg-グラフェン複合めっき膜金属製端子とするには、銅基板に対してグラフェンが滑りやすいように、(3)のような高潤滑仕様を選択することが好ましい。
【0014】
図1(b)に示された銅につき出発試料としてCu合金基板(20×50×0.3mm)を用意した。Cu合金基板に対して前処理としてアルカリ電解脱脂と酸化膜の除去を目的とした酸洗いを行い、それぞれの前処理後にはよく洗浄した。Agめっきには市販のノンシアン系Agめっき液をベースに市販の光沢剤を10ml/L加えたものを使用した。グラフェンはグラファイト(黒鉛)から電解剥離により作製し、有機分散剤を用いて超音波で分散した。作製したグラフェン分散液をAgめっき液に添加し(グラフェン分散液/Agめっき液=10mL/L)、電流密度2.0A/dm
2(実施例1)、1.5A/dm
2(実施例2)、1.0A/dm
2(実施例3)、0.5A/dm
2(実施例4)及び0.2A/dm
2(実施例5)で電気めっきを行い、5種類のAg-グラフェン複合めっき膜Cu合金基板を作製した(実施例1~5)。さらに、後述する攪拌強度が実施例1~5とは異なり電流密度1A/dm
2(実施例6)、電流密度1A/dm
2(実施例7)の2種類のAg-グラフェン複合膜めっきCu合金基板を作製した。一方、実施例1おいてグラフェン分散液を添加しないAgめっき液を用い、電流密度2.0A/dm
2(比較例1)、1.5A/dm
2(比較例2)、1.0A/dm
2(比較例3)、0.5A/dm
2(比較例4)及び0.2A/dm
2(比較例5)で電気めっきを行い、5種類の純AgめっきCu合金基板を作製した(比較例1~5)。なお、市販Agめっきとの比較のために、Agめっき膜の厚みはめっき膜の質量から5μmに合わせ、Agめっき後に変色防止処理を行った。
前述の電気めっきでは攪拌を行い、攪拌強度は4、6、8であった。攪拌強度は強度調整つまみの数字で、0が撹拌なし、10は最も強いことである。(実施例1~5の攪拌強度は6、実施例6で攪拌強度は4、実施例7では攪拌強度8であった)。
【0015】
電解剥離の条件は次のようであった。グラファイトを水溶液中に浸漬し、強力の電場作用および電気化学反応によりグラファイトを層状に分解し、積層型のグラフェンフレークを作製した。
【0016】
図2(a)には、純AgめっきCu合金基板(電流密度1.0A/dm
2、比較例3)の表面のFE-SEM画像を、同(b)には、Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板(電流密度2.0A/dm
2、実施例1)の表面のFE-SEM画像をそれぞれ示した。両方ともに平滑な膜が得られたが、同(b)Ag-グラフェン複合めっき膜の表面の一部1にはもやもやしたものが見られた。EDS点分析の結果、その部分にはほかの部分より多くの炭素(C)が検出されたため、グラフェン分散体の由来であったと推察される。
【0017】
図3には、
図1(a)の純Agめっき膜の表面と(b)のAg-グラフェン複合めっき膜の表面の両方のラマン分光測定の結果を示した。その測定条件は次のようであった。機種名:レーザーラマン分光光度計(NRS-3300)、測定範囲:254.896cm
-1~3899.87cm
-1、中心波数:2301.01cm
-1、励起波長:532.08nm、レーザ゛強度:7.9mW。グラフェンを入れたAgめっきは、純Agめっきとは明らかに違うピークが出た。グラファイトに特有なDバンドとGバンド(D/G<1)が検出され、特にグラフェンの証とした2Dバンドのピークも示されたため、Ag膜にはグラフェンが存在することが分かった。なお、Dバンドは欠陥構造に由来し、GバンドはC原子のsp
2結合の存在を示唆していた。
【0018】
図4(a)には、Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板(電流密度2.0A/dm
2等、実施例1)、AgめっきCu合金基板(電流密度1.0A/dm
2、比較例3)等のXRD測定の結果を、同(b)には、同(a)のCのピーク付近での拡大図をそれぞれ示した。XRD測定の測定条件は次のようであった。機種名:粉末X線回折測定装置(RINT-2000)、40kV/30mA、Cu/Kaであった。
【0019】
図4においてAg-C2.0とは、電流密度2.0A/dm
2すなわち実施例1、Ag-C0.2とは電流密度0.2A/dm
2すなわち実施例5のことである。Nano-Cとは電解剥離したグラフェン(以下の記載において同様)、Ag-1.0とは電流密度1.0A/dm
2すなわち比較例3のことである。
電流密度に関わらずAg、Cのピークが両方検出されたためグラフェンの添加に成功し、Ag-グラフェン複合めっき膜となっていることが確認できた。また、
図4(b)から電流密度によるCのピーク強度の差はあまり見られず、これによりCの電着は電流密度による影響がほとんどないとわかる。特に、グラフェンの回折パターンから、ブロードピークを示すグラファイト原料よりC(002)結晶面が遥かに強いため、積層型のグラフェンになったと推察される。
【0020】
図5(a)には、純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.0A/dm
2、比較例3)、同(b)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.2A/dm
2、実施例5)、(c)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.0A/dm
2、実施例3)、(d)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度2.0A/dm
2、実施例1)のGD-OESの結果を示した図である。
GD-OESの測定条件は次のようであった。機種名:グロー放電発光表面分析装置(GD-OES、堀場GD-profiler 2-MN),測定面積:直径8mm.ガスフロー:窒素ガス。
【0021】
図5(a)に示した純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.0A/dm
2、比較例3)のGD-OESの結果に示された指示範囲2から、めっき膜の最表面のみにCを検出した。これは、Agめっき処理後に変色防止剤の由来だと思われる。一方、同(b)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.2A/dm
2、実施例5)、(c)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.0A/dm
2、実施例3)、(d)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度2.0A/dm
2、実施例1)のGD-OES測定結果を示す。
めっき表面と内部だけではなく、
図5(b)に示された指示範囲3から、複合めっき膜とCu基板の界面に多くのCが検出された。このことによって、導電性の高いグラフェンが一番最初にCu電極表面に電着していたことが分かった。その界面は複合めっき膜内部に含まれ、
図5(b)~(d)の横軸のスケールから、Agピークが消失するまで、スパッタ時間が8sec~12secの範囲を含むことが分かった。なお、界面にAgピークとCuピークは一部交差していることは、測定機器のデータ検出応答の差によるものである。
【0022】
図6(a)には、純AgめっきCu合金基板9の純Agめっき膜5、Ag-グラフェン複合膜Cu合金基板8の複合めっき膜6(複合めっき膜6はAgとグラフェン11を含んで複合されている)導電率の測定方法を示した。測定方法を簡潔に説明すると次のようである。機種名:抵抗計/シート抵抗測定器(ナプソンRT-70V/RG-7G)、 4端子法によりバルク抵抗式で5点測定し、その平均値を表1にまとめた(純AgめっきCu合金基板のめっき膜(Ag、比較例1~5)、Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(Ag@Nano-C、実施例1~5))。
【0023】
【0024】
図6(b)にはその測定方法によった実施例1~5、比較例1~5の導電率の測定結果を示した。なお、表1は実施例1~5及び比較例1~5のそれぞれの導電率を5回測定で平均した数値データを示した。また、表2は各材料の理論導電率である。
【0025】
【0026】
図7(a)には、純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.0A/dm
2、実施例3)に対するFE-SEM画像、エネルギー分散型X線分析結果等を示した。FE-SEM観察とエネルギー分散型X線分析の分析条件は次のようであった。装置名:電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子/JXA-8230)、加速電圧5.0 kV。エネルギー分散型X線分析(EDS)は、面分析およびマッピング分析を行った。また、面分析の際にx10,000倍拡大した写真の全面で分析した。
【0027】
それらから次のことが分かった。EDSスペクトルから、純Agめっきは強いAgのピークが検出された。また、マッピング分析結果から、めっき膜は全面にAg元素が均一に分布していることがわかる。
【0028】
一方、
図7(b)には、Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.0A/dm
2、実施例3)に対して、FE-SEM画像、エネルギー分散型X線分析結果等を示した。それらから次のことが分かった。FE-SEM画像には黒い部分が観察される。その黒い部分をEDS分析した結果、Agピークのほかに、強いCのピークも検出され、Agめっき膜にCが確実に入っていると考えられる。また、面分析の結果からCの濃度が17.6at%となり、Agめっき膜にグラフェンを複合できたことが分かった。また、電流密度によるCのピークに大きな差は見られなかった。これは導電性のグラフェンが泳動電着により同時にAgめっき膜に入つたからと考えられる。また、テスターで測ったところグラフェンの有無でAgめっきの導電性は変化なしのことが確認された。
Cの濃度が17.6at%であることはEDS半定量分析による結果である。
Ag-グラフェン複合めっき膜におけるグラフェンの含有量は、導電性維持と耐摩耗性改善の観点から、0.2~60at%が好ましく、0.5~30at%がさらに好ましい。なお、at%とは原子濃度を意味する単位である。
【0029】
図8には、(a)純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度0.5A/dm
2、比較例4)、(b)純AgめっきCu合金基板のめっき膜(電流密度1.5A/dm
2、比較例2)、(c)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.2A/dm
2、実施例5)、(d)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度0.5A/dm
2、実施例4)、(e)Ag-グラフェン複合膜めっきCu合金基板の複合めっき膜(電流密度1.5A/dm
2、実施例2)のFE-SEM画像を示した。
図8(a)と(b)からめっき膜は電流密度に関わらず平滑であり、
図8(c)~(e)から電流密度が小さいほど平滑であることが分かった(なお、電流密度が大きいと突起が目立った)。
【0030】
図9には、純銀めっき膜と銀―グラフェン複合めっき膜の摩耗試験結果の一例を示す。Ag-NanoC複合めっき膜(すなわちAg-グラフェン複合めっき膜)は、Raman分光測定結果のピークが一番大きかった撹拌強度4(実施例6)のめっき膜を使用した。グラフより、Ag-NanoC複合めっき膜(すなわちAg-グラフェン複合めっき膜)は初期の摩擦係数は純Agめっき膜よりも圧倒的に低く、摩耗における凝着現象を大幅に抑制したことがわかる。また、摩擦係数の安定領域においてもAg-NanoC複合めっき膜は摩擦係数が低く、摩耗しにくくなっていることが分かる。また、摩耗試験の条件は次のようであった。評価装置:直線往復式摩擦摩耗試験機(Optimal Instruments-SRV-4)、荷重5N、摺動距離200μm、周波数1Hz、25℃、乾式(潤滑油なし)。相手材(Emboss)は市販の硬質Agめっき材、凸部分は半径5mmのものを用いた。
【0031】
図10は、摩耗試験後に純銀めっき膜と銀―グラフェン複合めっき膜の摩耗痕の全体及び高倍FE-SEM画像である。銀―グラフェン複合めっき膜は、純Agめっき膜より摩耗痕が小さく、表面も平滑である。高倍画像から、純Agめっき膜は凝着摩耗方式の特徴である亀裂模様の摩耗粉になるが、銀―グラフェン複合めっき膜は潤滑性のある削り摩耗に変わった。すなわち、複合化されたグラフェンは固体潤滑作用を果たし、Agめっき膜特有な凝着現象を有効に抑制し、の耐摩耗性を改善できたことが確認された。なお、
図10において「Ag-Nano C」とは、銀―グラフェン複合めっき膜のことである。また「Ag-Nano C(攪拌4)」の「攪拌4」とは攪拌強度が4(すなわち実施例6)、「Ag-Nano C(攪拌8)」の攪拌8」とは攪拌強度が8(すなわち実施例7)」のことである。さらに「1944回」とは摩耗試験が行うサイクル回数のことである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
自動車特に更なる拡大が予想されるEV/PHVの電子制御の高度化に伴うワイヤーハーネスの高性能化、高耐久性化を実現することができる。
【符号の説明】
【0033】
1: グラフェン分散体由来と推察された表面の部分
2、3: GD-OESの結果に示された指示範囲
4:突起
5:純Agめっき膜
6:Ag-グラフェン複合めっき膜
7:抵抗率測定器
8:Ag-グラフェン複合めっき膜Cu合金基板
9:純AgめっきCu合金基板
10:銅合金基板
11:グラフェン