(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】食品用構造強化剤、該構造強化剤を含有する食品原料、該食品原料を硬化させた食品、該食品の食味及び物性の改善方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/262 20160101AFI20230919BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20230919BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230919BHJP
A23G 1/40 20060101ALN20230919BHJP
A23C 13/14 20060101ALN20230919BHJP
A23L 21/10 20160101ALN20230919BHJP
A23L 29/256 20160101ALN20230919BHJP
A23L 29/281 20160101ALN20230919BHJP
A23L 29/231 20160101ALN20230919BHJP
A23L 19/00 20160101ALN20230919BHJP
【FI】
A23L29/262
A23G9/34
A23D9/00
A23G1/40
A23C13/14
A23L21/10
A23L29/256
A23L29/281
A23L29/231
A23L19/00 102A
(21)【出願番号】P 2021509351
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012517
(87)【国際公開番号】W WO2020196341
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019055344
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】中山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田口 英昭
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-236585(JP,A)
【文献】特開2017-131217(JP,A)
【文献】特開平07-143856(JP,A)
【文献】特開平04-218357(JP,A)
【文献】特開2013-183670(JP,A)
【文献】特開2012-223090(JP,A)
【文献】特開2014-132912(JP,A)
【文献】特開2006-008857(JP,A)
【文献】特開2007-222085(JP,A)
【文献】特開2006-160627(JP,A)
【文献】特開2013-074884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースを、質量比で40:60~4:96の割合で含有してなる、食品用構造強化剤。
【請求項2】
水不溶性長鎖状セルロースの直径が0.1μm以上である、請求項1に記載の食品用構造強化剤。
【請求項3】
水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの、食品中の合計含有量が、4.5質量%以上53質量%以下である、請求項1
又は2に記載の食品用構造強化剤。
【請求項4】
水不溶性長鎖状セルロースが、パルプセルロース及び/又は発酵セルロースである、請求項1
~3のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤。
【請求項5】
水不溶性短鎖状セルロースが、パルプセルロース及び/又は植物乾燥粉末である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤。
【請求項6】
食品が、融解した状態から硬化させるものである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤。
【請求項7】
融解した状態から硬化させる食品が、水を含有し、0℃以下で冷蔵されたものである、請求項
6に記載の食品用構造強化剤。
【請求項8】
水を含有し、0℃以下で冷蔵された冷菓が、ハードアイスクリーム、ソフトクリーム、及び氷菓から選ばれる1種以上である、請求項
7に記載の食品用構造強化剤。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤を含有する、食品原料。
【請求項10】
更に水を含有する、請求項
9に記載の食品原料。
【請求項11】
水の食品原料中における含有量が、2質量%以上98質量%以下である、請求項
10に記載の食品原料。
【請求項12】
請求項
9~
11のいずれか一項に記載の食品原料が、食品原料の硬化条件下で硬化された、食品。
【請求項13】
液状又はペースト状の状態から硬化して成型された食品であって、直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースを、質量比で40:60~4:96の割合で含有してなる食品。
【請求項14】
直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースを、質量比で40:60~4:96の割合で含有させることにより、構造が強化された食品。
【請求項15】
食品が、冷蔵保管される食品である、請求項12~14の何れか一項に記載の食品。
【請求項16】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品の製造方法。
【請求項17】
食品原料が、水を含有する、請求項
16に記載の食品の製造方法。
【請求項18】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させ
ることを含む、食品における構造強度の強化方法。
【請求項19】
直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースとを、質量比で40:60~4:96の割合で、食品原料と混合し、硬化させることを含む、食品における構造強度の強化方法。
【請求項20】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の食品用構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品における食味及び物性の改善方法。
【請求項21】
直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースとを、質量比で40:60~4:96の割合で、食品原料と混合し、硬化させることを含む、食品における食味及び物性の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用構造強化剤、該構造強化剤を含有する食品原料、該食品原料を硬化させた食品、該食品の食味及び物性の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリームなどの凍結された冷菓を嫌う人は意外と多い。その理由としては、知覚過敏でないとしても、喫食する季節や周囲の温度に関係なく、喫食時の冷たい刺激に嫌悪感を覚えたり、融けるのが速すぎたり、口腔内での融解に伴い、甘さや油様感などが口腔にべとつき、嫌悪感を覚えたりすることが挙げられる。
【0003】
これらの課題に対する解決手段としては以下が挙げられる。特許文献1、2には、ソフトクリームにおいて、粘性、食感、風味等の他の特性に悪影響を与えずに溶け落ち開始を十分遅らせる技術が開示されている。特許文献3には、冷菓において、粘性、食感、風味等の他の特性に悪影響を与えずに保形性を向上させる技術が開示されている。特許文献4には、甘味料の甘味の後引き感の改善剤、及び甘味の後引き感の改善方法に関する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の方法によれば、ソフトクリームは、硬化されることのない、もともと軟らかい状態で対面販売されるものであるところ、本技術によれば、植物由来の微小繊維状セルロースをソフトクリームに含ませることで、その溶け落ちを遅らせる効果を有するとされているものの、ソフトクリームの硬度を高めるわけではなく柔らかい状態であることに変わりはなく、口腔内でのソフトクリームの融解に伴う熱交換による冷たい刺激や、甘さや油様感などのべとつきを抑えられるものではなかった。特許文献3の方法によれば、ソフトクリーム以外の柔らかくなく、硬い性状を有するハードアイスクリームや氷菓についても、植物由来の微小繊維状セルロースを含ませることで、それらの溶け落ちを遅らせる効果を有するとされているものの、粘性、食感、風味等の他の特性に悪影響を与えずにと記載されている通り、ハードアイスクリームや氷菓の硬度を高めるわけではなく、口腔内での融解性には影響がないとされ、してみれば、口腔内でのハードアイスクリームや氷菓の融解に伴う熱交換による冷たい刺激や、甘さや油様感などのべとつきを抑えられるものではなかった。一方で、特許文献4の方法によれば、発酵セルロースを冷菓に含有させることで、甘味料の甘味の後引き感の改善がなされるとされているものの、ここでの甘味料とは高甘味度甘味料の甘味であり、ショ糖のような通常の甘味料や油脂に対する効果は記載されていない。
【0005】
以上の通り、アイスクリーム類を嫌う人らの、その理由の主体である、冷たい刺激の緩和や、甘さや油様感などの口腔へのべとつきの緩和をともになしえる技術は開発されておらず、解決すべき課題として残ったままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-132912号公報
【文献】特開2013-074883号公報
【文献】特開2013-074884号公報
【文献】特開2015-073501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、冷菓などの食品の喫食時の課題に挙げられる、冷たい刺激の緩和や、甘さや油様感などの口腔へのべとつきの緩和等を達成可能な、食品用構造強化剤、該構造強化剤を含有する食品原料、該食品原料を硬化させた食品、該食品の食味及び物性の改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて鋭意研究した結果、従来の技術にない、食品の構造強化による食味や食感への効果に着目し、上記課題を簡易に解決できることを新規に知見した。そして、本発明者らは上記の知見に基づいてさらに鋭意研究を進めることにより、下記の発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の[1]~[15]を提供するものである。
[1]直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースを、質量比で40:60~4:96の割合で含有してなる、食品用構造強化剤。
[2]長鎖状水不溶性セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの、食品中の合計含有量が、4.5質量%以上53質量%以下である、[1]に記載の食品用構造強化剤。
[3]水不溶性長鎖状セルロースが、パルプセルロース及び/又は発酵セルロースである、[1]又は[2]に記載の食品用構造強化剤。
[4]水不溶性短鎖状セルロースが、パルプセルロース及び/又は植物乾燥粉末である、[1]~[3]のいずれかに記載の食品用構造強化剤。
[5]食品が、融解した状態から硬化させるものである、[1]~[4]のいずれかに記載の食品用構造強化剤。
[6]融解した状態から硬化させる食品が、水を含有し、0℃以下で冷蔵されたものである、[5]に記載の食品用構造強化剤。
[7]水を含有し、0℃以下で冷蔵された冷菓が、ハードアイスクリーム、ソフトクリーム、及び氷菓から選ばれる1種以上である、[6]に記載の食品用構造強化剤。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の食品用構造強化剤を含有する、食品原料。
[9]更に水を含有する、[8]に記載の食品原料。
[10]水の食品原料中における含有量が、2質量%以上98質量%以下である、[9]に記載の食品原料。
[11][8]~[10]のいずれかに記載の食品原料が、食品原料の硬化条件下で硬化された、食品。
[12][1]~[7]のいずれかに記載の食品用構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品の製造方法。
[13]食品原料が、水を含有する、[12]に記載の食品の製造方法。
[14][1]~[7]のいずれかに記載の食品用構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品における構造強度の強化方法。
[15][1]~[7]のいずれかに記載の食品用構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品における食味及び物性の改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される食品用構造強化剤、該構造強化剤を含有する食品原料、該食品原料を硬化させた食品、該食品の食味及び物性の改善方法によれば、冷菓などの食品の喫食時の課題に挙げられる、冷たい刺激の緩和や、甘さや油様感などの口腔へのべとつきの緩和等が達成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、比較例1で調製したア
イスクリームを凍結乾燥し、その切片を簡易走査型電子顕微鏡(100倍)で表面観察した写真。
【
図2】実施例1、比較例2で調製したア
イスクリームを凍結乾燥し、その切片を簡易走査型電子顕微鏡(100倍)で表面観察した写真。
【
図3】実施例1、比較例3で調製したア
イスクリームを凍結乾燥し、その切片を簡易走査型電子顕微鏡(100倍)で表面観察した写真。
【
図4】実施例1、試験例1で調製したア
イスクリームを凍結乾燥し、その切片を簡易走査型電子顕微鏡(100倍)で表面観察した写真。
【
図5】実施例2、測定例1で用いた、セルロース繊維を簡易走査型電子顕微鏡(2000倍)で表面観察した写真。
【
図6】実施例2、測定例2で用いた、セルロース繊維を簡易走査型電子顕微鏡(1000倍)で表面観察した写真。
【
図7】実施例2、測定例3で用いた、セルロース繊維を簡易走査型電子顕微鏡(1000倍)で表面観察した写真。
【
図8】実施例2、測定例4で用いた、セルロース繊維を簡易走査型電子顕微鏡(150倍)で表面観察した写真。
【
図9】実施例2、測定例5で用いた、セルロース繊維を簡易走査型電子顕微鏡(150倍)で表面観察した写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースを、質量比で40:60~4:96の割合で含有してなる、食品用構造強化剤、該構造強化剤を含有する食品原料、該食品原料を硬化させた食品、該食品の食味及び物性の改善方法に関する。
【0013】
本発明において、水不溶性長鎖状セルロースとは、水に不溶(20℃・0.10MPaでの1Lの水に対する溶解度が、0.1g以下)で、直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上であるものを指す。具体例としては、前記性状を満たすセルロースやセルロース含有組成物であれば何ら限定されるものではないが、植物由来のパルプセルロースや微生物が産生する発酵セルロースが、その可食性及び取り扱い容易性の観点から好ましく、さらには、発酵セルロースにあたっては、その産生効率の観点から、酢酸菌等の微生物が産生する発酵セルロースが好ましく、具体的には例えばナタデココ由来の発酵セルロース等が好ましい。また、前述の水不溶性長鎖状セルロースを含有する組成物の態様であってもよく、具体的には、微生物が産生する発酵セルロースをその構成成分として含有する組成物等であってもよく、これをそのままあるいは溶液中でホモジナイザー等を用いて前述の性状の範囲になるように微細化や解砕したものが挙げられる。尚、セルロースを化学的に部分的に解重合したようなセルロース(例えば結晶セルロース)は本発明の作用効果の奏効の観点からこれを含まないことが好ましい。尚、長鎖状とは、直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上であるものを便宜的に呼称したものであって、必ずしも一本鎖であったり、分岐鎖がなかったりするものではない。
【0014】
本発明において、水不溶性短鎖状セルロースとは、水に不溶で、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下であるものを指す。具体例としては、前記性状を満たすセルロースやセルロース含有組成物であれば何ら限定されるものではないが、植物由来のパルプセルロースが、その可食性および取り扱い容易性の観点から好ましく、また、前述の水不溶性短鎖状セルロースを含有する組成物の態様であってもよく、具体的には、乾燥植物粉末であってもよく、これをそのままあるいは溶液中で粉砕機等を用いて前述の性状の範囲になるように微細化したものが挙げられる。尚、セルロースを化学的に部分的に解重合したようなセルロース(例えば結晶セルロース)は本発明の作用効果の奏効の観点からこれを含まないことが好ましい。尚、短鎖状とは、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下であるものを便宜的に呼称したものであって、必ずしも一本鎖であったり、分岐鎖がなかったりするものではない。
【0015】
本発明において、セルロースの直径とは、セルロース鎖の平均的な直径を指し、セルロース繊維を一般的な簡易走査型電子顕微鏡(簡易SEM、例えば、日立製「Miniscope TM3000」)で観察することによって測定することができる。尚、最低でも30本のセルロース繊維をアトランダムに選択し、1本ずつ、繊維径(直径、μm)を測定し、30個の測定値について、平均値、最大値、最小値を求める。
【0016】
また、本発明において、セルロースのアスペクト比とは、矩形における長辺と短辺の比率を指したものであって、セルロース繊維を一般的な簡易走査型電子顕微鏡(簡易SEM、例えば、日立製「Miniscope TM3000」)で観察することによって測定し、セルロース繊維の長辺と短辺の比率から求めることができる。尚、最低でも30本のセルロース繊維をアトランダムに選択し、1本ずつ、アスペクト比(矩形における長辺(長さ、μm)と短辺(直径、μm)の比率)を測定し、30個の測定値について、平均値、最大値、最小値を求める。そして、水不溶性長鎖状セルロースの直径としては、その平均値又は最大値(好ましくは最大値)を採用し、不溶性短鎖状セルロースの直径としては、その平均値又は最小値(好ましくは最小値)を採用する。また、水不溶性長鎖状セルロースのアスペクト比としては、その最小値を採用し、水不溶性短鎖状セルロースのアスペクト比としては、その最大値を採用する。
【0017】
具体的には、水不溶性長鎖状セルロースの直径としては、その上限は3.5μm以下であればよいが、作用効果の奏効の観点から、3.0μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、2.0μm以下であることがさらに好ましい。一方で、直径の下限としては特に限定されるものではないが、通常0.1μm以上であることが好ましい。
【0018】
一方で、水不溶性短鎖状セルロースの直径としては、その下限は5.0μm以上であればよいが、作用効果の奏効の観点から、7.5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、12.5μm以上であることがさらに好ましい。一方で、直径の上限としては特に限定されるものではないが、通常50μm以下であることが好ましい。
【0019】
さらに、水不溶性長鎖状セルロースのアスペクト比の最小値としては、2.0以上であればよいが、作用効果の奏効の観点から、2.2以上であることが好ましく、2.4以上であることがより好ましく、2.6以上であることがさらに好ましい。一方、水不溶性短鎖状セルロースのアスペクト比の最大値としては、32.5以下であればよいが、作用効果の奏効の観点から、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることが最も好ましい。
【0020】
本発明において、食品とは、何ら制限されるものではないが、本発明の効果の奏効の観点から、融解や軟化した状態(例えば液状やペースト状。これを食品原料と呼ぶ。)を、何らかの方法で(例えば温度変化や水分の蒸発等の物理的変化や光照射や重合、架橋、水和等の化学的変化)硬化して成型される食品を指す。尚、硬化の度合いは食品によって異なり、非常に硬い状態からペースト状まで、様々な態様が含められる。具体的には、固体脂、こんにゃく、ゼリー、ババロア、プリン、羊羹、ういろう、生クリーム、ムース、冷凍食品、ハードアイスクリーム、ソフトクリーム、氷菓などが挙げられる。さらには、本発明の作用効果の奏効の観点から、水分を含有し、0℃以下で冷蔵されてなる、冷凍食品、ハードアイスクリーム、ソフトクリーム、氷菓が好ましい。特には、その低温下での喫食態様及び硬度の喫食適性の観点から、ハードアイスクリーム、氷菓が好ましい。
【0021】
尚、食品原料が水を含有する場合、その含有量としては、特に制限されるものではないが、下限としては通常2質量%以上が好ましく、中でも、本発明の作用効果の奏効の観点から、5質量%以上が好ましく、更には10質量%以上が好ましく、特には15質量%以上が好ましい。一方で上限としては、98質量%以下であればよいが、中でも本発明の作用効果の奏効の観点から、95質量%以下が好ましく、さらには92.5質量%以下が好ましく、特には90質量%以下が好ましい。
【0022】
本発明における食品用構造強化剤において、直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上である水不溶性長鎖状セルロースと、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下である水不溶性短鎖状セルロースの質量比は、乾燥状態で、通常40:60~4:96の範囲であればよい。具体的に、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースとの合計に対する水不溶性短鎖状セルロースの質量比の下限は、通常60%以上であるが、中でも67%以上であることが好ましく、79%以上であることがより好ましい。また、同質量比の上限は、通常96%以下であるが、中でも93%以下であることが好ましく、87%以下であることがより好ましい。
【0023】
尚、本発明の食品用構造強化剤における、前述の水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロース、あるいはそれらを含有する組成物の食品原料への添加態様としては、添加前にそれらの含有比率が特定範囲内になるように混合して、食品原料に添加する態様であってもよく、それらの含有比率が食品原料中で特定範囲内になるように別々に添加する態様であってもよい。食品原料への添加のタイミングは特に限定されず、食品原料が所望の性状、品質に調製できるよう、適宜調整すればよい。
【0024】
さらに、前述の水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロース、あるいはそれらを含有する組成物の性状は特に限定されるものではない。粉末状(但し、セルロースが凝集固結したりして本発明の作用効果を奏さなくなる場合を除く。)、分散液状(この場合、液状媒体の種類はセルロースがその使用に差し支えなく分散する限り、その種類は問わない。)、粉末状、固形状のいずれの態様であってもよい(即ち、本発明の作用効果が奏されるように、食品原料中でセルロースが適宜分散されればよい。)。
【0025】
上記した、食品原料への添加前に、それらセルロースの含有比率が特定範囲内になるように混合して、食品原料に添加する態様における食品用構造強化剤においても、それらセルロースの含有比率が食品原料中で特定範囲内になるように別々に添加する態様における食品用構造強化剤においても、その性状は上記と同様に、分散液状、粉末状、固形状のいずれの態様であってもよい。本発明の作用効果が奏されるセルロースの性状が保たれる(即ち、凝集固結したり、沈殿したりしない)限り、何ら制限されず、セルロースやこれを含有する組成物の特性に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
本発明における、前記食品用構造強化剤の効果物質である水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの食品原料への添加量は、特に制限されるものではなく、効果が奏される添加量に適宜調整すればよいが、通常、食品原料全体中の合計含有量として、下限としては4.5質量%以上であればよい。中でも、本発明の作用効果の奏効の観点から、7.5質量%以上が好ましく、さらには11.5質量%以上が好ましい。一方で上限としては、53質量%以下であればよいが、中でも本発明の作用効果の奏効の観点から、33質量%以下が好ましい。尚、水不溶性長鎖状セルロースは、現状において、低濃度の水懸濁液などの湿潤状態のものが市販されているが、これをより高濃度の水懸濁液等や乾燥状態で使用できるようになれば、被添加食品における添加割合が低減でき、被添加食品の態様や品質への影響が小さくなると思料されることから、上記の添加量の範囲は、より広い範囲に調整できると考えられ、必ずしも上記数値範囲に限定されるものではない。
【0027】
尚、本発明における構造強化とは、上述した構造強化剤を添加した食品原料を、これが硬化する条件(食品によって異なる。例えばアイスクリームでは水分の低温条件での凍結。)で硬化させた場合に、硬化した食品全体の構造的な強度が強化することを指す。構造的な強度の測定は、一般的な粘弾性測定装置(例えば、山電社製「Rheoner」(アタッチメント:楔形(上部幅30mm×先端幅1mm))を用いることによって評価できる。ただし、分析機器による測定値と官能的な感触とは必ずしも一致しないことが一般的に知られているため、官能評価によっても評価するほうがよい。
【0028】
本発明には、前述の本発明の構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品の製造方法も含まれる。構造強化剤、食品原料、混合方法、硬化方法等の詳細は上述したとおりである。
【0029】
さらには、本発明には、前述の本発明の構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品における、構造強度の強化方法も含まれる。構造強化剤、食品原料、混合方法、硬化方法等の詳細は上述したとおりである。
【0030】
また、本発明には、前述の本発明の構造強化剤と食品原料とを混合し、硬化させることを含む、食品における、食味及び物性の改善方法も含まれる。構造強化剤、食品原料、混合方法、硬化方法等の詳細は上述したとおりである。
【0031】
本発明の食品用構造強化剤による構造強度の向上の理由は、必ずしも明らかではないが、前記した
図1~4の観察結果によれば、食品原料中に不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースが特定比率で含有され、これが食品原料中で略均一に分散することによって、食品原料由来の構造形成成分の間に、不溶性短鎖状セルロースが存在することで、その構造物の空隙の中に格子状、筋交状の構造を形成し、かつ、水不溶性長鎖状セルロースが、格子状、筋交状の構造によってより小さくなった構造物の空隙を壁状(面状)に埋めることによって、相乗的に構造強度の向上がなされるものと思われる。
【0032】
さらに、この構造強度の強化と、食味及び物性の改善効果との関係は、必ずしも明らかではないが、以下の実施例の結果によれば、比較的硬い構造を有するアイスクリームや氷菓や固体脂などの食品においては、構造が強化されることによって、本発明の構造強化された食品が、口腔内で崩壊や融解しづらくなり、これによって、食品が本来含有する甘みや油様感の起因となる成分の溶出が抑えられ口腔内でのべとつきが抑えられるものと思われる。崩壊や融解による食品粒の表面積の急激な拡大が抑えられ、軽い口当たりに感じられたり、凍結や冷蔵による冷やされた水分を含有する食品においては、冷たい刺激を感じにくくなったりするものと思われる。
【0033】
一方で、比較的軟らかい構造を有するソフトクリームや生クリームなどの食品においては、構造が強化されることによって、その緻密な構造が保持されることによって、微細気泡の保持量(オーバーラン)が増大し、非常に滑らかで、ふわふわとしたホイップ性に優れた柔らかい食感となり、これによって、食品が本来含有する甘みや油様感の起因となる成分の接触が抑えられ口腔内でのべとつきが抑えられるものと思われる。さらには、同様の理由により、食品粒の表面積の急激な拡大が抑えられ、軽い口当たりに感じられたり、凍結や冷蔵による冷やされた水分を含有する食品においては、冷たい刺激を感じにくくなったりするものと思われる。
【0034】
さらに、アイスクリームやソフトクリーム等に比べて中間的な硬さを有するゼリーやこんにゃく等では、構造が強化されることによって、本発明の構造強化された食品が、口腔内で崩壊や離水しづらくなり、これによって、食品が本来含有する甘みや油様感の起因となる成分の溶出が抑えられ口腔内でのべとつきが抑えられるものと思われる。崩壊による食品粒の表面積の急激な拡大や離水による成分溶出が抑えられ、軽い口当たりに感じられたり、凍結や冷蔵による冷やされた水分を含有する食品においては、冷たい刺激を感じにくくなったりするものと思われる。
【実施例】
【0035】
[実施例1]性状が異なるセルロースの併用効果の検証
ここでは、性状が異なるセルロースの併用効果について、アイスクリームで検証を行った。水不溶性長鎖状セルロースの代表として、ナタデココ(Style One製、シロップ漬け、セルロース固形分1.5質量%、ホモジナイザー「ヒスコトロン」(マイクロテックニチオン社製)でシロップごと5分間解砕してセルロース分散液として用いた)、水不溶性短鎖状セルロースの代表としてNPファイバー(日本製紙製、乾燥粉状)を選択し、試験に供した。食品原料としては、表1に示す組成の原料をよく攪拌、混合してアイスクリーム原料(食品原料)を調製し、これに、表2に示す配合比で、前記セルロースを添加、混合、分散し、アイスクリームメーカー(Haier社製「Ice Deli」)にて、アイスクリーム製造モードで、アイスクリーム原料を50分攪拌冷却した。これを-20℃で12時間以上静置保管した。アイスクリームの硬度は、粘弾性測定装置(山電社製「Rheoner」(アタッチメント:楔形(上部幅30mm×先端幅1mm))を用い、1.000mm/秒で破断応力を測定した。融解耐性については、50mL容量のファルコンチューブ(Falcon社製)内にアイスクリーム原料を10mL移し入れ、そのまま-20℃で3時間以上静置保管した後、同ファルコンチューブの底部5mmを水平に切断し、常温にて放置、融け落ちた液量を測定して、融解性を評価した。また、アイスクリームの構造の変化については、簡易走査型電子顕微鏡(簡易SEM、日立製「Miniscope TM3000」)を用いて、凍結乾燥したアイスクリームの切片表面を適宜倍率にて観察した。さらに、食感(硬さ、融解性)、食味(口腔内での冷たい刺激、べたつき、コク(乳感、味の厚み))について以下の評価基準で官能評価を行い評価した。結果を表2に示す。
【0036】
官能評価は、訓練された官能検査員10名によって行った。尚、前記官能検査員は、下記A)~C)の識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味や食感といった品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜した。
A)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
B)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
C)粘度がわずかに異なる3種類の醤油(2つが同一粘度、1つが低粘度)の計3つのサンプルから粘度が異なる醤油を正確に識別する3点識別試験。
【0037】
前記の何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準サンプルの評価を行い、評価基準の各スコアについて標準化を行った上で、10名によって客観性のある官能検査を行った。各評価項目の評価は、各項目の5段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか一つ選択する方式で評価した。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値から算出した。尚、備考については以下の評価基準以外にパネラーが感じたフリーコメントを記した。
【0038】
<評価基準1>食感(硬さの程度)
5:硬い。
4:やや硬い。
3:どちらでもない。
2:やや柔らかい。
1:柔らかい。
【0039】
<評価基準2>食感(融解性)
5:溶けにくい。
4:やや溶けにくい。
3:どちらでもない。
2:やや溶けやすい。
1:溶けやすい。
【0040】
<評価基準3>食味(冷たい刺激の程度)
5:口腔内での冷たい刺激が弱く好ましい。
4:口腔内での冷たい刺激がやや弱くやや好ましい。
3:どちらでもない。
2:口腔内での冷たい刺激がやや強くやや好ましくない。
1:口腔内での冷たい刺激が強く好ましくない。
【0041】
<評価基準4>食味(べたつきの程度)
5:口腔内でのべたつきが弱く、乾いた感じで軽く好ましい。
4:口腔内でのべたつきがやや弱く、乾いた感じでやや軽くやや好ましい。
3:どちらでもない。
2:口腔内でのべたつきがやや強く、湿った感じでやや重くやや好ましくない。
1:口腔内でのべたつきが強く、湿った感じで重く好ましくない。
【0042】
<評価基準5>食味(コク(乳感、味の厚み)の程度)
5:口腔内でコク(乳感、味の厚み)を強く感じ、好ましい。
4:口腔内でコク(乳感、味の厚み)をやや強く感じ、やや好ましい。
3:どちらでもない。
2:口腔内でコク(乳感、味の厚み)をやや弱く感じ、やや水っぽくやや好ましくない。
1:口腔内でコク(乳感、味の厚み)を弱く感じ、水っぽく好ましくない。
【0043】
<評価基準6>食感、食味の総合評価
5:食感、食味ともに優れる。
4:食感、食味ともにやや優れる。
3:どちらでもない。
2:食感、食味ともにやや劣る。
1:食感、食味ともに劣る。
【0044】
【0045】
【0046】
尚、上表において、ナタデココ浸漬用シロップ(組成:砂糖、ソルビトール、酸味料、酸化防止剤(V.C)、香料)を、比較例1、2に商品原料として配合した理由は、長鎖状セルロースであるシロップ中で解砕したナタデココを添加する際に(比較例3、試験例1)、シロップも同時に添加されるため、すべての比較例、試験例で味と濃度をそろえるためである。なお、長鎖状セルロースである解砕ナタデココを乾燥物として回収し、添加しようとすると、これが凝集してその性状や特性を失い、湿潤しても再生しないため、このような手法は採用しなかった。
【0047】
表2に示す結果から、セルロース無添加(比較例1)に対して、長鎖状セルロースのみを添加(硬化物中に0.67質量%)(比較例3)、短鎖状セルロースのみを添加(硬化物中に4.29質量%)(比較例2)した場合においては、破断応力が増大したものの、食感における硬さの程度はそれほど差があるようには感じられなかった。さらに、融解耐性の向上も認められず、官能評価における食感、食味の評価も差異は小さく、前記セルロースをそれぞれ単独で添加した場合における、顕著な変化は認められなかった。これらに対して、長鎖状セルロースと短鎖状セルロースを併用した場合(試験例1)は、破断応力が最も高値を示し、かつ官能評価において、顕著に硬くなったことが認められた。さらに、融解耐性も測定値及び官能評価結果ともに、高いことが確認された。また、食味における冷たい刺激や甘みや油様感のべとつきが顕著に抑制されており、一方でコク(乳感や味の厚み)が強化されていることが分かった。
【0048】
これら硬化物の凍結乾燥品の切片を簡易SEM観察(×100倍)したところ、セルロース無添加(比較例1、
図1)に対して、長鎖状セルロースのみを添加(硬化物中に0.67質量%)(比較例3、
図3)した場合は、氷結晶の空隙が埋まっている様子が観察された。一方、短鎖状セルロースのみを添加(硬化物中に4.29質量%)(比較例2、
図2)した場合は、氷結晶の空隙が格子や筋交を張り巡らせたような様子が観察された。これらに対して、長鎖状セルロースと短鎖状セルロースを併用した場合(試験例1、
図4)は、氷結晶の空隙が埋まっている様子が観察された。これらのことから、長鎖状セルロースと短鎖状セルロースを併用した場合においては、食品原料由来の構造形成成分の間に、不溶性短鎖状セルロースが存在することで、その構造物の空隙の中に格子状や筋交状の構造を形成し、かつ、水不溶性長鎖状セルロースが、格子状、筋交状の構造の形成によってより小さくなった構造物の空隙を壁状(面状)に埋めることによって、相乗的に構造強度の向上がなされたものと考えられた。
【0049】
この相乗的な構造強度の強化と、食味及び物性の改善効果との関係は、必ずしも明らかではないが、融解耐性も向上していることから、構造が強化されることによって、本発明の構造強化された食品が、口腔内で崩壊や融解しづらくなり、これによって、食品が本来含有する甘みや油様感の起因となる成分が水分とともに溶出することが抑えられ口腔内でのべとつきが抑えられたものと思われた。さらに、崩壊や融解による食品粒の表面積の急激な拡大が抑えられ、軽い口当たりに感じられたり、冷たい刺激を感じにくくなったりしたものと思われた。一方で、水分の溶出が抑えられることで、甘みや油様感の起因となる成分が、濃厚なまま舌に接触することで、コク(乳感、味の厚み)がべとつきなく強く感じられたものと思われた。
【0050】
[実施例2]水不溶性セルロースの性状の分析
実施例1において、水不溶性長鎖状セルロースの代表として、ナタデココ(Style One製、シロップ漬け、セルロース固形分1.5質量%、ホモジナイザー「ヒスコトロン」(マイクロテックニチオン社製)でシロップごと5分間解砕してセルロース分散液として用いた)、水不溶性短鎖状セルロースの代表としてNPファイバー(日本製紙製、乾燥粉状)を選択し、試験に供したが、これらセルロースおよび他のセルロースの性状について分析を行った。
【0051】
表3に示す各セルロース又はセルロース含有組成物について、粉末状のセルロースはカーボンテープに貼り付け、湿潤状のセルロースは70℃で乾燥し、得られたシート状セルロースの切片を、簡易SEM(150~2000倍)を用いて画像を撮影した。撮影した画像において、目視で30本のセルロース繊維をアトランダムに選択し、1本ずつ、繊維径(直径、μm)を測定し、アスペクト比(矩形における長辺(長さ、μm)と短辺(直径、μm)の比率)を測定した。一種のセルロースにつき、30個の測定値について、平均値、最大値、最小値を求めた。尚、セルロース含量については、商品スペックとしてわかっているものについてはその値を採用した。商品スペックからはセルロース含量が不明であるナタデココシロップ漬けについては、解砕前のナタデココを流水中に十分に浸漬することでシロップを水置換した後、乾燥して固形分を測定してセルロース含量とした。また、商品スペックからはセルロース含量が不明であるコーン(とうもろこし)の芯の乾燥粉末については、一般的な食物繊維含有量の測定方法である、プロスキー変法を用いて測定した。
【0052】
図5,6,7,8,9に観察画像を、表3に測定結果を示す。
【0053】
【0054】
結果、測定例1~3の湿潤状のセルロースは、比較的直径が小さく、アスペクト比の最小値が比較的大きいことから、水不溶性長鎖状セルロースであることがわかった。一方で、測定例4、5の乾燥状セルロース又はセルロース含有組成物は、比較的直径が大きく、アスペクト比が小さいことから、水不溶性短鎖状セルロースであることが分かった。尚、セルロース含有組成物の代表として選択したコーン(トウモロコシ)の芯の乾燥粉末については、乾燥粉末1gを水100mLに懸濁し、よく攪拌して水溶性成分を十分に溶出させた後、残渣を0.45μmの水性フィルターを用い、吸引ろ過にて回収し、乾熱乾燥機で十分に乾燥させた後、乾燥粉末塊をミキサー(ワンダークラッシャーWC-3L、大阪ケミカル販)にて再度均一になるまで粉砕し、SEM観察に供し、繊維状物(不溶性食物繊維が60質量%であり、水溶性成分は溶出させていることから、これら繊維状物は主にセルロースであると推定された)を上述の通り測定した。
【0055】
[実施例3]各種セルロースを併用した場合の本発明の効果の検証
実施例2で性状を測定した各種の水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの併用効果について、実施例1と同様にアイスクリームを調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0056】
【0057】
結果、実施例1で検証したセルロースの種類の組合せ以外の種類の組み合わせにおいても、試験例1と同様の結果が得られ、性状をほぼ同じくするセルロースであれば、本発明の効果は普遍的に奏されることが分かった。
【0058】
具体的には、水不溶性長鎖状セルロースの性状としては、通常、直径が3.5μm以下で、アスペクト比が2.0以上であればよいこと、水不溶性短鎖状セルロースの性状としては、通常、直径が5.0μm以上で、アスペクト比が32.5以下であればよいことが分かった。
【0059】
[実施例4]水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの配合比率の範囲の検証
実施例1、3においては、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの併用比率を、質量比で13:87~17:83の範囲で行った。そこでここでは、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの併用比率の範囲の検証を行った。水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの配合比率を変化させた以外は、実施例1と同様にアイスクリームを調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
結果、不溶性長鎖状セルロースと不溶性短鎖状セルロースの配合比率は、質量比として、通常40:60~4:96の範囲内であれば本発明の効果が奏されることが分かった。
【0062】
[実施例5]食品原料中における、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの合計含有量の範囲の検証
実施例1、3においては、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの食品原料中の合計含有量を、17.25~17.75質量%の範囲で行った。そこでここでは、本発明の食品用硬化剤である、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの食品原料中における合計含有量の範囲の検証を行った。水不溶性長鎖状セルロースの種類と、水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの合計含有量を変化させた以外は、実施例1と同様にアイスクリームを調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表6に示す。
【0063】
【0064】
結果、不溶性長鎖状セルロースと不溶性短鎖状セルロースの食品原料中の合計配合量は、下限としては、通常4.5質量%以上であればよいことがわかった。
【0065】
[実施例6]他の食品における本発明の効果の検証1
実施例1、3~5においては、硬化物の対象としてアイスクリーム(牛乳ベース)を選択し、本発明の効果を検証した。そこでここでは、アイスクリーム(牛乳ベース)以外の表7に示すアイスクリーム原料でも本発明の効果が奏されるか否かを検証した。表7の配合比で各種アイスクリーム原料を調製し、実施例1と同様にアイスクリームを調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表8に示す。
【表7】
【0066】
【0067】
結果、アイスクリームの組成にかかわらず、本発明の効果が、不溶性長鎖状セルロースと不溶性短鎖状セルロースの併用で奏されることが分かった。
【0068】
[実施例7]他の比較的硬い性状を有する食品における本発明の効果の検証
実施例1、3~6においては、硬化物の対象としてアイスクリームを選択し、本発明の効果を検証した。ここでは、アイスクリーム以外の、硬化すると比較的硬い性状を有する表9に示す食品原料における効果の検証を行った。表9の配合比で各種食品原料を調製し、表9の調製方法で各種食品を調製し、実施例1と同様に官能評価を行った(ただし、凍結させないものは、<評価基準3>食味(冷たい刺激の程度)について、評価しなかった)。結果を表10に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
結果、油脂分を含まない氷菓においても、アイスクリームの場合と同様の本発明の効果が奏されることが分かった。さらに、冷凍、凍結しない本質的に水分を含まない(水不溶性長鎖状セルロースを添加する場合には同時に水分が添加されるが、攪拌混合してセルロースが油脂分に移行した後、離水した水分を除去したため、水分を含まない)固体脂、チョコレートにおいても、冷たい刺激以外の本発明の効果が奏されることが分かった。
【0072】
[実施例8]他の比較的軟らかい性状を有する食品における本発明の効果の検証
実施例7においては、硬化物の対象として比較的硬い性状を有する食品原料における本発明の効果を検証した。そこでここでは、硬化しても比較的軟らかい性状を有する表11に示す食品原料における効果の検証を行った。表11の配合比で各種食品原料を調製し、表11の調製方法で各種食品を調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表12に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
結果、比較的軟らかい性状を有する、ソフトクリーム、生クリームにおいては、硬化の条件は5℃~-6℃程度と比較的温度が高く、積極的な硬化操作を行わないため、硬度の強化は認められなかった。ただし、ソフトクリーム、生クリームともに、気泡の抱き込み量が明らかに高いホイップ性の高い状態が認められるとともに、それ以外の本発明の効果が奏されることが確認された。これは、硬化剤の硬化作用により、その緻密な構造が保持され、微細気泡の保持量(オーバーラン)が増大し、非常に滑らかで、ふわふわとしたホイップ性に優れた柔らかい食感が奏されたものと思われた。さらに、このことによって、食品が本来含有する甘みや油様感の起因となる成分の接触が抑えられ口腔内でのべとつきが抑えられるものと思われた。また、同様の理由により、食品粒の表面積の急激な拡大が抑えられ、軽い口当たりに感じられたり、冷蔵や軽い冷凍による冷やされた水分を含有する食品においては、冷たい刺激を感じにくくなったりしたものと思われた。
【0076】
[実施例9]中間的な硬さを有する食品における本発明の効果の検証
実施例7では、比較的硬い性状を有する食品、実施例8では、比較的軟らかい性状を有する食品における、本発明の効果の検証を行った。そこでここでは、それらの中間的な硬さを有する表13に示す食品について、本発明の効果の検証を行った。表13の配合比で各種食品原料を調製し、表13の調製方法で各種食品を調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表14に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
結果、アイスクリームや氷菓、固体脂、チョコレートのような比較的硬い性状を有する食品と、ソフトクリームや生クリームのような比較的軟らかい性状を有する食品との、中間的な硬さを有する、ゼリー状食品(寒天系、ゼラチン系、ペクチン系、こんにゃく)においても、本発明の効果が奏されることが分かった。本発明の効果の奏効により、構造が強化されることによって、これら食品が、口腔内で崩壊や離水しづらくなり、これによって、食品が本来含有する甘みや油様感の起因となる成分の溶出が抑えられ口腔内でのべとつきが抑えられるものと思われた。崩壊による食品粒の表面積の急激な拡大や離水による成分溶出が抑えられ、軽い口当たりに感じられたり、冷蔵による冷やされた水分を含有する食品においては、冷たい刺激を感じにくくなったりしたものと思われた。
【0080】
以上、本発明において、一定の性状を有する水不溶性長鎖状セルロースと水不溶性短鎖状セルロースの一定比率における併用によって、食品用構造強化剤が得られる。これを食品原料に添加し、硬化させることによって、食品の様々な食味及び物性の改善を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によって、従来の冷菓などの食品に対する、喫食忌避を回避させたり、喫食態様を変化させたりすることを通じて、食品産業の発展に貢献できる。