(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20230919BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230919BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230919BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230919BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230919BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
A61K31/047
A61K47/26
A61K9/08
A61K8/34
A61P17/14
A61Q7/00
(21)【出願番号】P 2019047593
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】大森 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 達俊
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188393(WO,A1)
【文献】特表2015-509376(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088213(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/004200(WO,A1)
【文献】Speed of Light Quadruple Bronzing Accelerator ID#677128,Mintel GNPD [online],2007年03月,[検索日 2023. 01. 26]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61Q
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
chiro-イノシトール、糖アルコール、及び水を含み、
前記糖アルコールが、キシリトー
ルである、外用組成物(ただし、セルフタンニング用組成物を除く)。
【請求項2】
前記chiro-イノシトールを0.001~20重量%含有する、請求項1に記載の外用組成物。
【請求項3】
前記糖アルコールを0.001~20重量%含有する、請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項4】
毛髪用又は頭皮用の外用組成物である、請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物の乾燥後の析出物の生成を抑制する方法であって、
外用組成物に、chiro-イノシトール及び水と共に、キシリトー
ルを配合する、
前記外用組成物の乾燥後の析出物の生成抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、chiro-イノシトール及び水を含み、乾燥後に析出物の生成を抑制できる外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イノシトール(1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサオール)は、シクロヘキサンの各炭素上の水素原子が1つずつヒドロキシ基に置換した構造を持ち、ビタミン様作用物質として知られている化合物である。イノシトールには、ヒドロキシ基の立体配置の組み合わせにより、9種類の立体異性体が存在しており、その内、myo-イノシトール(シス-1,2,3,5-トランス-4,6-シクロヘキサンヘキサオール)がイノシトール(イノシット)として、医薬品(医薬部外品を含む)の有効成分や添加物等として広く使用されている(非特許文献1~3参照)。
【0003】
一方、イノシトールの立体異性体の内、chiro-イノシトール(シス-1,2,4-トランス-3,5,6-シクロヘキサンヘキサオール)については、近年、優れた育毛作用があることが見出され、育毛剤等の外用組成物として利用できることが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、chiro-イノシトールを含む外用組成物の製剤技術については十分に検討がなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】医薬部外品原料規格2006統合版,薬事日報社,p.318
【文献】医薬品添加物規格2003,薬事日報社,p.101-102
【文献】医薬品添加物事典2000,薬事日報社,p.26
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
chiro-イノシトールを含む外用組成物について、効果、使用感、利便性等の向上を図るべく種々検討を行っていたところ、chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物は、毛髪や皮膚等の身体部位に塗布した後に乾燥すると、chiro-イノシトールが身体部位の表面で析出物になるという問題点があることを確認した。身体部位の表面でchiro-イノシトールが析出物になると、chiro-イノシトールによる所望の効果を十分に発揮できないだけでなく、使用感を損なうことにもなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物において、乾燥後に析出物の生成を抑制できる製剤技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物に糖アルコールを配合することによって、毛髪や皮膚等の身体部位に塗布した後に乾燥しても、身体部位の表面で析出物の生成を抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. chiro-イノシトール、糖アルコール、及び水を含む、外用組成物。
項2. 前記糖アルコールが、キシリトールである、項1に記載の外用組成物。
項3. 前記chiro-イノシトールを0.001~20重量%含有する、項1又は2に記載の外用組成物。
項4. 前記糖アルコールを0.001~20重量%含有する、項1~3のいずれかに記載の外用組成物。
項5. 毛髪用又は頭皮用の外用組成物である、項1~4のいずれかに記載の外用組成物。
項6. chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物の乾燥後の析出物の生成を抑制する方法であって、
外用組成物に、chiro-イノシトール及び水と共に、糖アルコールを配合する、
前記外用組成物の乾燥後の析出物の生成抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物を毛髪や皮膚等の身体部位に塗布しても、乾燥後に身体部位においてchiro-イノシトールの析出物の生成を抑制できるので、使用感を損ねることが無く、chiro-イノシトールによる所望の効果(育毛効果等)を有効に奏させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.外用組成物
本発明の外用組成物は、chiro-イノシトール、糖アルコール、及び水を含むことを特徴とする。以下、本発明の外用組成物について詳述する。
【0012】
[chiro-イノシトール]
chiro-イノシトールは、育毛作用等を有していることが知られている公知の成分である。
【0013】
本発明で使用されるchiro-イノシトールは、D体、L体、DL体のいずれであってもよいが、好ましくはD体である。
【0014】
また、本発明で使用されるchiro-イノシトールは、蕎麦、豆類、柑橘類等の天然物から抽出したもの、マメ科植物等から発酵法により生成して抽出したもの、化学合成したもの等のいずれであってもよい。
【0015】
本発明の外用組成物におけるchiro-イノシトールの含有量については、外用組成物の製剤形態や用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.001~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~10重量%、更に好ましくは1~5重量%、特に好ましくは1~2重量%が挙げられる。
【0016】
[糖アルコール]
本発明の外用組成物において、糖アルコールは、塗布後に乾燥した外用組成物においてchiro-イノシトールの析出物が生成するのを抑制する役割を果たす。
【0017】
本発明で使用される糖アルコールについては、薬学的又は香粧学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの糖アルコールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
これらの糖アルコールの中でも、乾燥後の析出物の生成をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくはキシリトールが挙げられる。
【0019】
本発明の外用組成物において、chiro-イノシトールと糖アルコールの比率としては、例えば、chiro-イノシトール100重量部当たり、糖アルコールが10~1000重量部が挙げられる。乾燥後の析出物の生成をより一層効果的に抑制するという観点から、chiro-イノシトール100重量部当たり、糖アルコールが好ましくは50~500重量部、更に好ましくは50~200重量部が挙げられる。
【0020】
本発明の外用組成物における糖アルコールの含有量としては、例えば0.001~20重量%が挙げられる。乾燥後の析出物の生成をより一層効果的に抑制するという観点から、本発明の外用組成物における糖アルコールの含有量として、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~9重量%、更に好ましくは1~9重量%が挙げられる。
【0021】
[水]
本発明の外用組成物において、水は基剤としての役割を果たす。本発明における水の含有量については、chiro-イノシトール、糖アルコール、及び後述する他の成分以外の残部であればよいが、例えば1~99.98重量%、好ましくは10~99重量%、より好ましくは40~98重量%、更に好ましくは40~60重量%が挙げられる。
【0022】
[1価低級アルコール]
本発明の外用組成物には、1価低級アルコールが含まれていてもよい。本発明で使用される1価低級アルコールの種類については、特に制限されないが、例えば、炭素数2~6の1価低級アルコール、より具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール等が挙げられる。これらの1価低級アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの1価低級アルコールの中でも、好ましくはエタノールが挙げられる。
【0023】
本発明の外用組成物に1価低級アルコールを含有させる場合、その含有量については、外用組成物の製剤形態や用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.1~98重量%、好ましくは5~50重量%、より好ましくは30~50重量%が挙げられる。
【0024】
[その他の成分]
本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、生理活性を有する成分を含有していてもよい。このような薬理成分としては、例えば、chiro-イノシトール以外の育毛剤、清涼化剤、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、殺菌剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、皮膚保護剤、血行促進成分、植物抽出物、ビタミン類、アミノ酸類、ムコ多糖類等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、外用組成物に使用される他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、多価アルコール、賦形剤、安定剤、矯臭剤、分散剤、希釈剤、乳化剤、経皮吸収促進剤、pH調整剤、保存剤、着色剤、油分(油脂、鉱物油など)、保湿剤、増粘剤、ポリマー、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、清涼剤、消臭剤、顔料、染料、香料、糖類、有機酸、有機アミン等が挙げられる。
【0026】
[剤型等]
本発明の外用組成物の剤型については、特に制限されないが、例えば、液状又は半固形状(ゲル状、クリーム状、軟膏状、ペースト状等)、好ましくは液状が挙げられる。
【0027】
本発明の外用組成物は、外用医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品等の製品として使用できる。特に、chiro-イノシトールには優れた育毛効果を奏することが知られているので、本発明の外用組成物は、頭髪又は頭皮用の外用組成物(頭髪又は頭皮用の外用医薬品、及び頭髪又は頭皮用の化粧品)として好適に使用できる。
【0028】
本発明の外用組成物を外用医薬品(医薬部外品を含む)にする場合、その製剤形態については、特に制限されないが、例えば、ジェル剤、クリーム剤、ローション剤、乳液剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、リニメント剤、軟膏剤、パック剤、ヘアブリーチ等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の外用組成物を化粧品にする場合、その製剤形態については、特に制限されないが、例えば、育毛料、ヘアトニック、ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアフォーム、ヘアブロー、ヘアリキッド、スカルプエッセンス、染毛料、ヘアリキッド等の頭髪又は頭皮用の化粧品;ゲル、クリーム、乳液、化粧水、ローション、パック、軟膏等の皮膚用化粧品;ボディーシャンプー、ヘアシャンプー、リンス等の皮膚洗浄料等が挙げられる。
【0030】
2.析出抑制方法
本発明の析出抑制方法は、chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物の乾燥後の析出物の生成を抑制する方法であって、当該外用組成物に糖アルコールを配合することを特徴とする。
【0031】
当該析出抑制方法において、使用する糖アルコールの種類、chiro-イノシトール、糖アルコール、及び水の含有量、必要に応じて配合される他の成分の種類や含有量、外用組成物の剤型等については、前記「1.外用組成物」の場合と同様である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
試験例1:シャーレ上での乾燥後の析出物の生成の有無の確認試験(1)
表1に示す組成の外用組成物(液剤)を調製した。得られた各外用組成物0.1gをシャーレに滴下して、室温で24時間乾燥させた。その後、析出物の生成の程度を目視にて確認し、以下の判定基準に従って、析出物(白い結晶)の生成の程度を評価した。
<析出物の生成の程度の判定基準>
○:析出物が全く認められない。
△:析出物の生成が僅かに認められる。
×:析出物の生成が明らかに認められる。
【0034】
得られた結果を表1に示す。chiro-イノシトール及び水を含む場合には乾燥後に析出物の生成が認められたが(比較例1及び2)、キシリトールを更に配合した場合には、乾燥による析出物の生成を抑制できていた(実施例1~5)。
【0035】
【0036】
試験例2:人毛での乾燥後の析出物の生成の有無の確認試験
表2に示す組成の外用組成物(液剤)を調製した。得られた各外用組成物5gに人毛試料0.8gを3分間浸漬した後に取り出して、60℃で24時間乾燥させた。その後、人毛試料の外観を目視にて観察し、前記試験例1と同様の判定基準で、析出物(白い結晶)の生成の程度を評価した。
【0037】
得られた結果を表2に示す。chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物を人毛に塗布すると乾燥後に析出物の生成が認められたが(比較例1)、更にキシリトールを含む外用組成物では、乾燥後の析出物の生成を抑制できていた(実施例1)。
【0038】
【0039】
試験例3:シャーレ上での乾燥後の析出物の生成の有無の確認試験(2)
表3に示す組成の外用組成物(液剤)を調製し、前記試験例1と同様の方法で、各外用組成物の乾燥後の析出物(白い結晶)の生成の程度を評価した。
【0040】
得られた結果を表3に示す。この結果からも、chiro-イノシトール及び水を含む外用組成物にキシリトールを配合することによって、乾燥後の析出物の生成を抑制できることが確認された。
【0041】