(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】再精製パーム系油脂の製造方法、及び再精製パーム系油脂
(51)【国際特許分類】
C11B 3/02 20060101AFI20230919BHJP
A23D 9/04 20060101ALI20230919BHJP
C11B 3/10 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
C11B3/02
A23D9/04
C11B3/10
(21)【出願番号】P 2019178443
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
(72)【発明者】
【氏名】辻野 祥伍
(72)【発明者】
【氏名】関口 吉則
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-068541(JP,A)
【文献】特開2016-140260(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121865(WO,A1)
【文献】特開2010-104308(JP,A)
【文献】特開昭62-061635(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1075981(CN,A)
【文献】国際公開第2009/075278(WO,A1)
【文献】特開平07-011285(JP,A)
【文献】特開2017-139995(JP,A)
【文献】特開2016-123331(JP,A)
【文献】特開昭55-067518(JP,A)
【文献】特開2010-163569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A23D 7/00- 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
品質劣化した精製パーム系油脂を再精製する再精製パーム系油脂の製造方法において、
精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程を行う、
再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項2】
精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる前記工程において、
吸着剤との接触も同時に行われる、
及び/又は、
アルカリ土類金属の塩化物と接触させた後に、吸着剤と接触させる、
請求項1に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項3】
前記精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程において、
アルカリ土類金属の塩化物が、パーム系油脂に対して1~1000μmol/kg用いられる、
請求項1又は2に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項4】
前記精製パーム系油脂がRBDパーム系油脂である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項5】
前記精製パーム系油脂の過酸化物価が1以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再精製パーム系油脂の製造方法、及び再精製パーム系油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
パーム油やその分別油は、東南アジア等で生産される。通常は、パーム油やその分別油は、東南アジアで精製の後、輸入されるが、輸入や保管の間に劣化が起ることが知られている。特許文献1には、精製パーム油は輸送状態や保存温度の差異によって、酸価・過酸化物価・色調などの項目では殆ど差が無くても、風味上の差異を示すことがあり、風味の劣化を示すことがあるとされ、レシチンを添加してなるパーム油由来の精製油脂が提案されている。
【0003】
しかし、この方法では、冬場等の低温時の風味劣化を改善することしかできず、温暖な東南アジア等からの輸入時の風味劣化等に対応できないため、輸入・保管の間に品質劣化した精製パーム油をさらに再精製して風味等の品質向上を行っている。しかし、輸送・保管の劣化風味は、再精製を行って、改善されるものの、精製パーム油の製造時に比べると若干の異味・異臭等の風味が残る再精製パーム系油脂が得られる問題があった。また、パーム油は天然物から製造されるため、原料のばらつきに加え、流通・貯蔵時の保管状態によっては、風味品質のばらつきが多くなることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、品質劣化した精製パーム系油脂を再精製して得られた再精製パーム系油脂の風味を改善する製造技術を提供することを目的とする。また、風味の改善された再精製パーム系油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、品質劣化した精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させることによって上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するにいたった。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 品質劣化した精製パーム系油脂を再精製する再精製パーム系油脂の製造方法において、精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程を含む、再精製パーム系油脂の製造方法。
(2) 精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる前記工程において、吸着剤との接触も同時に行われる、及び/又は、アルカリ土類金属の塩化物と接触させた後に、吸着剤と接触させる、(1)の再精製パーム系油脂の製造方法。
(3) 前記精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程において、アルカリ土類金属の塩化物が、パーム系油脂に対して1~1000μmol/kg用いられる、(1)又は(2)の再精製パーム系油脂の製造方法。
(4) 前記精製パーム系油脂がRBDパーム系油脂である、(1)~(3)のいずれかの再精製パーム系油脂の製造方法。
(5) 前記精製パーム系油脂の過酸化物価が1以上である、(1)~(4)のいずれかの再精製パーム系油脂の製造方法。
(6) (1)~(5)のいずれかの製造方法を経た、再精製パーム系油脂。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、風味が良好な再精製パーム系油脂を得ることができる。また、再精製工程において、着色等が抑制されるため、色度も良好な再精製パーム系油脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、本明細書において、「A(数値)~B(数値)」は「A以上B以下」を意味し、割合は特に記載がない場合は質量割合を意味する。
【0010】
なお、本発明において、「精製パーム系油脂」は、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる再精製が完了する前のパーム系油脂を意味し、「再精製パーム系油脂」は、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる再精製を経たパーム系油脂を意味する。
【0011】
なお、本発明において過酸化物価(POV)は日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」に準拠して測定する値である。酸価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価」に準拠して測定する値である。なお、色調は、試験油の色度を、ロビボンド比色法(133.4mmセル)を使用して、黄の色度(Y値)、赤の色度(R値)を測定したものである。
【0012】
<再精製パーム系油脂の製造方法>
本発明の製造方法は、精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程を行う。
【0013】
[精製パーム系油脂]
本発明で用いる精製パーム系油脂は、パームから採油されたパーム油及びその分別油の精製油である。精製パーム系油脂を得るための精製条件としては、パーム系油脂で通常用いられている、アルカリ脱酸を経ないフィジカル精製を用いることができる(RBDパーム系油脂)。また、アルカリ脱酸工程を経るアルカリ精製を用いてもよい(NBDパーム系油脂)。また、精製パーム系油脂は品質劣化している。品質劣化の程度は特に限定するものではないが、輸入及び/又は保管等による品質劣化の程度が挙げられる。また、酸化劣化が進んだ精製パーム系油脂は、品質改善効果がより期待できる。例えば、精製パーム系油脂は、過酸化物価が1以上であることが好ましく、過酸化物価が5以上であることがより好ましく、過酸化物価が10以上であることがさらに好ましい。また、精製パーム系油脂は、過酸化物価が30以下であることが好ましく、過酸化物価が5以上であることがより好ましく、過酸化物価が10以上であることがさらに好ましい。
【0014】
[アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程]
本発明で用いるアルカリ土類金属の塩化物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等から選ばれる塩化物を用いることができる。
【0015】
これらの塩化物は、精製パーム系油脂に効率的に接触させるために、水溶液、又は微粒子で接触させることが好ましい。例えば、水溶液で添加して、撹拌しながら減圧等により水分を除去して微粒子とすることができる。水溶液の添加量は特に限定するものではないが、添加する水分量が多いと水分除去の負荷が高くなるため、精製パーム系油脂に対して、水分量が5質量%以下になるように水溶液の添加量を調整することが好ましい。水溶液の添加量は0.0001~3質量%がより好ましく、0.01~2質量%がさらに好ましい。また、水溶液の濃度(水溶液中のアルカリ金属の塩化物の濃度)は、添加する水分量にあわせて調整することができる。例えば、水溶液の濃度は、0.001~5質量%が好ましく、0.001~0.5質量%がより好ましい。なお、水溶液の濃度は、アルカリ金属の塩化物の無水物としての濃度である。例えば、塩化マグネシウム(6水和物)を溶解した水溶液であっても、塩化マグネシウム(無水物)として水溶液の濃度を算出する。
【0016】
アルカリ土類金属の塩化物の使用量は、例えば、精製パーム系油脂に対して1~1000μmol/kg用いることが好ましく、精製パーム系油脂に対して2~400μmol/kg用いることがより好ましく、精製パーム系油脂に対して4~200μmol/kg用いることがさらに好ましく、4~100μmol/kg用いることが最も好ましい。また、接触する温度は、精製パーム系油脂が液状である範囲であればよく、15~150℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、70~130℃であり、さらに好ましくは、90~120℃である。また、接触時間は、1分以上あればよく、3~60分が好ましく、5~30分がより好ましい。
【0017】
精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させた後に、これらの塩化物は、吸着、ろ過、水洗等で除去する。吸着で除去する場合、精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程において、吸着剤も用い、吸着剤と共に除去する、及び/又はアルカリ土類金属の塩化物と接触させた後に、吸着剤と接触させて除去することができる。通常、油脂の精製では、白土(酸性白土、活性白土等を含む)、活性炭等の吸着剤を用いた脱色工程を経るため、精製パーム系油脂を、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程は、脱色工程と同時、もしくは脱色工程より前に行うことで、アルカリ土類金属の塩化物の除去と脱色工程を同時に行えるので好ましい。脱色工程における白土等の使用量は、通常の油脂を精製する条件でよく、例えば、活性白土を用いる場合は、精製パーム系油脂に対して、活性白土を0.1~5質量%使用することが好ましく、活性白土を0.2~3質量%使用することがより好ましく、0.5~1.5質量%使用することがさらに好ましいい。
【0018】
[その他の再精製工程]
本発明において、上記アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程のほか、必要に応じて油脂に用いられる精製工程のいずれかを上記アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程の前後に行うことができる。例えば、アルカリ脱酸工程、水洗工程、脱色工程、脱臭工程などが挙げられる。
【0019】
各工程の精製条件は、通常の油脂の精製で用いる条件で行うことができる。例えば、脱色工程においては、上記アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程で述べた条件を用いることができ、必要に応じて、活性炭等を併用して行うことができる。また、脱臭工程は、脱色工程の後に行うことが好ましい。
【0020】
脱臭工程の条件は、特に限定するものではないが、例えば、脱臭温度180~280℃、真空度100~800Pa、水蒸気量0.3~10質量%(対油脂)、脱臭時間30~120分の範囲が挙げられる。脱臭温度は200~270℃が好ましく、230~260℃がより好ましく、240~250℃がさらに好ましい。真空度は、200~600Paが好ましく、300~500Paがより好ましい。水蒸気量は、1~8質量%(対油)が好ましく、1~5質量%(対油)がより好ましく、1~3質量%(対油)がさらに好ましい。脱臭時間は40~120分が好ましく、40~80分がより好ましい。
【0021】
なお、脱臭工程において、脱臭処理の終了時に、クエン酸を添加してもよい。クエン酸を添加することで、酸化安定性が高まる。クエン酸は、脱臭油脂に対して10~50ppm添加することが好ましく、26~50ppm添加することがより好ましい。なお、クエン酸はそのままでは油中に分散・溶解しないので、5~20質量%の水溶液として添加することが好ましい。
【0022】
<再精製パーム系油脂>
本発明の再精製パーム系油脂は、上記<再精製パーム系油脂の製造方法>で述べた製造工程を経た再精製パーム系油脂であり、アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程を経たものである。品質劣化で生じる成分は多種多様であり、また、風味はごく微量の成分でも影響を与えるため、再精製パーム系油脂の風味に影響を与える微量成分が特定できないため、プロダクト・バイ・プロセスの形式でしか再精製パーム系油脂を特定することができない。
【0023】
本発明の再精製パーム系油脂は、従来の精製パーム系油脂あるいは再精製パーム系油脂と同様な用途に用いることができ、また、従来と同様に、他の油脂や添加物とブレンドして用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
<分析方法>
各試験における分析は、以下の方法に従って実施した。
【0026】
(酸価:AV)
酸価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価」に準拠して測定した。
【0027】
(過酸化物価:POV)
過酸化物価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」に準拠して測定した。
【0028】
(生風味)
風味を下記の基準に基づき専門パネラー10名で評価した。なお、評価は各サンプルをそれぞれ数g、口に含み評価した。表1,2に評価の平均点を示した。風味は弱いほど良好なため、点数の大きい方が良好である。
5:風味の強さが、再精製油9より弱い。
4:風味の強さが、再精製油9と同等である。
3:風味の強さが、再精製油1より弱く、再精製油9より強い。
2:風味の強さが、再精製油1と同等である。
1:風味の強さが、再精製油1より強い。
【0029】
<再精製パーム系油脂>
(再精製油1)
RBDパーム油(インドネシア産)に、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)を1質量%添加して脱色処理(110℃、20分、減圧)を行った後、活性白土を濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、圧力400Pa、蒸気量 対油脂4.3質量%、90分)し、再精製油1を得た。
【0030】
(再精製油2)
RBDパーム油(インドネシア産)に、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)と水を各1質量%添加して脱色処理(80℃、20分、大気圧→110℃、20分、減圧)を行った後、活性白土を濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、蒸気量 対油脂3.6質量%、90分)し、再精製油2を得た。
【0031】
(再精製油3)
RBDパーム油(インドネシア産)に、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)と水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を各1質量%添加して脱色処理(80℃、20分、大気圧→110℃、20分、減圧)を行った後、活性白土を濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、蒸気量 対油脂3.4質量%、90分)し、再精製油3を得た。
【0032】
(再精製油4,5)
RBDパーム油(インドネシア産)に、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)と0.014質量%濃度の塩化カルシウム水溶液を各1質量%添加して脱色処理(80℃、20分、大気圧→110℃、20分、減圧)を行った後、活性白土を濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、蒸気量 対油脂3.0質量%又は対油脂4.2質量%、90分)し、再精製油4,5を得た。
【0033】
(再精製油6~9)
RBDパーム油(インドネシア産)に、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)と0.0039、0.0197、0.0393、0.1967質量%濃度の塩化マグネシウム水溶液を各1質量%添加して脱色処理(80℃、20分、大気圧→110℃、20分、減圧)を行った後、活性白土を濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、90分)し、再精製油6~9を得た。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
表1に示されるように、再精製油1~3は、生風味が悪かった。一方、表2、3に示されるように、再精製油4~9は生風味が良好であった。