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特許7350916イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法
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  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図1
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図2A
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図2B
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図3
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図4
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図5
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図6A
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図6B
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図7
  • 特許-イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-15
(45)【発行日】2023-09-26
(54)【発明の名称】イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/04 20060101AFI20230919BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20230919BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20230919BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20230919BHJP
   G01N 1/32 20060101ALI20230919BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20230919BHJP
【FI】
H01J37/04 B
H01J37/305 A
H01J37/30 Z
H01J37/20 A
G01N1/32 B
G01N1/28 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022032598
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2020503158の分割
【原出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2022081571
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 斉
(72)【発明者】
【氏名】高須 久幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 徹
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-036285(JP,A)
【文献】特表2009-517841(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003109(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/04
H01J 37/305
H01J 37/30
H01J 37/20
G01N 1/32
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室内の試料ステージに試料を載置し、回転中心を軸に前記試料ステージを回転させながら前記試料に非集束のイオンビームを照射することにより、前記試料を加工するイオンミリング装置のイオン源調整方法であって、
試料ステージ回転駆動源は、前記回転中心を含む範囲に鏡面部材が設置された前記試料ステージを、前記試料ステージの傾斜角を45°に傾けた状態で、前記回転中心を軸に回転させ、
イオン源は、前記鏡面部材に向けて前記イオンビームを照射し、
前記イオン源は、前記イオン源の位置を調整可能とするイオン源位置調整機構を介して前記試料室に取り付けられており、
前記イオン源位置調整機構により、前記回転中心を軸に回転する前記試料ステージ上の前記鏡面部材における前記回転中心近傍が、点状または円形状に光ってみえる状態に前記イオン源の位置を調整するイオン源調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記鏡面部材に代えて、前記イオンビームに反応して発光する発光部材を前記試料ステージに設置するイオン源調整方法。
【請求項3】
請求項において、
前記鏡面部材向けて前記イオンビームを照射するときの前記イオン源の射出条件は、前記試料を加工するときの前記イオン源の射出条件と等しくされるイオン源調整方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記発光部材に向けて前記イオンビームを照射するときの前記イオン源の射出条件は、前記試料を加工するときの前記イオン源の射出条件と等しくされるイオン源調整方法。
【請求項5】
観察窓を備える試料室と、
前記試料室に設置されるイオン源位置調整機構と、
前記イオン源位置調整機構を介して前記試料室に取り付けられ、非集束のイオンビームを射出するイオン源と、
回転中心を軸に回転する試料ステージと、
前記試料室外に設置される顕微鏡と、
制御部とを有し、
前記制御部は、前記回転中心を軸に前記試料ステージを回転させながら前記試料ステージに載置された試料に前記イオンビームを照射することにより、前記試料を加工し、
前記制御部は、前記試料の加工に先立ち、前記回転中心を含む範囲に鏡面部材が設置された前記試料ステージを、前記試料ステージの傾斜角を傾けた状態で、前記回転中心を軸に回転させ、前記イオン源より前記鏡面部材に向けて前記イオンビームを照射し、
前記イオン源位置調整機構は、前記観察窓を介して前記顕微鏡により観察される、前記回転中心を軸に回転する前記試料ステージ上の前記鏡面部材における前記回転中心近傍が、点状または円形状に光ってみえる状態に前記イオン源の位置を調整可能とされるイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項において、
前記鏡面部材に代えて、前記イオンビームに反応して発光する発光部材が前記試料ステージに設置されるイオンミリング装置。
【請求項7】
請求項において、
前記制御部は、前記鏡面部材設置された前記試料ステージを、前記試料ステージの傾斜角を45°傾けた状態で、前記回転中心を軸に回転させ、
前記制御部は、前記試料ステージを所望の傾斜角に傾けた状態で、前記試料を加工するイオンミリング装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記制御部は、前記発光部材が設置された前記試料ステージを、前記試料ステージの傾斜角を45°傾けた状態で、前記回転中心を軸に回転させ、
前記制御部は、前記試料ステージを所望の傾斜角に傾けた状態で、前記試料を加工するイオンミリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置及びイオンミリング装置のイオン源調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の内部構造を観察・分析するためには、目的とする内部構造を表面に露出させる必要がある。従来から割断や機械研磨により試料を作製する方法があるが、これらの方法は物理的な圧力を試料に印加することによる変形や傷の発生を避けることができない。イオンミリング装置は、試料(例えば、金属、半導体、ガラス、セラミックなど)の表面あるいは断面に、例えば数kVに加速させた非集束のアルゴンイオンビームを照射し、スパッタリング現象により無応力で試料表面の原子を弾き飛ばし、試料表面を平滑化することができる。これは、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に代表される電子顕微鏡により試料の表面あるいは断面を観察するための平滑加工を行うために優れた特性である。
【0003】
イオンミリング装置では真空雰囲気中で試料の加工を行うため、イオンビームを発生させるイオンビーム照射部は真空容器に取り付けられている。試料を加工すると加工面より発生する試料由来の微小粒子がイオンビーム照射部に付着するため、イオンミリング装置は定期的な清掃が必要になる。このため、真空容器からイオンビーム照射部を取り外し、メンテナンス後に再度取り付けることになるが、再取り付けの際、イオンビーム照射部に取り付け誤差が生じ、イオンビーム照射部から照射されるイオンビームの照射方向がそれまでのものと変わってしまうおそれがある。
【0004】
特許文献1は、試料(ここでは基板)を基板ホルダに保持し、イオンビームの照射領域を横切るように往復運動を行わせ、イオンビーム照射部が基板にイオンビームを照射するイオンビーム照射装置を開示する。上述の課題に対し、イオンビーム照射部に正対する真空容器壁面に、照射されるイオンビームのビーム電流密度分布を測定するイオンビーム測定機構を設ける。イオンビーム測定機構によりイオンビーム中心位置を測定し、基板の往復運動のストローク中心位置をイオンビーム中心位置またはその位置に基づいて定まる所定位置に設定することにより、イオンビーム照射部に取り付け誤差が生じたとしても、基板へのイオン照射量の均一性を担保する。
【0005】
一方、近年の半導体デバイスにおいて集積度を飛躍的に高めるため、微細な立体構造を有するパターンを三次元に集積した半導体デバイスの開発が進んでいる。このような立体構造(三次元構造)パターンを集積したデバイスの製造管理のためには断面方向のパターンの評価が必要である。特許文献2は、このような立体構造パターンの深さ方向(あるいは高さ方向)の高精度な測定を実現するため、試料表面に傾斜面を形成し、パターンの深さ方向(高さ方向)の測定を行うことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-199554号公報
【文献】国際公開第2016/002341号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2では、試料表面に立体構造パターンの断面を露出させるための傾斜面を形成するために集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置を用いるとしている。しかしながら、集束イオンビーム装置は加工速度が遅く、また、加工範囲も狭いため試料表面に目的とする傾斜面を形成するには時間を要する。このため、発明者らは加工速度の速い、非集束のイオンビームを用いるイオンミリング装置により傾斜面を形成させることを検討した。
【0008】
非集束のイオンビームを試料の加工のために用いる場合、その加工速度は試料に照射されるイオンビーム強度、具体的には加速電圧で印加されたイオンの速度とイオンの数、およびイオンの照射角度に依存する。ここで、イオン源から放出されるイオンビームの強度は、理想的にはイオンビーム中心が最も高く、周辺に向けて次第に強度が漸減していく二項分布の形状を有すると考えられる。しかし、イオン源から放出されるイオンビームは、イオン源を構成する電極部品の汚れや、電極部品の消耗による生成されるイオン数の揺らぎや、環境における電場等の外乱の影響を受け、試料に照射されるイオンビーム強度を一定に保ち続けることが難しい。また、試料の組成や入射角度によるミリング速度の差に起因して凹凸が形成されてしまうため、試料に非集束のイオンビームを照射して加工を行う際、イオンミリング装置ではイオンビーム中心を軸として試料を回転させながらイオンビームを照射することにより、凹凸の形成を抑え、電子顕微鏡での観察や計測に適した平滑な加工面を得ることを可能にしている。
【0009】
本発明の課題を説明する。図2Aにはイオンミリング装置の主要部を示している。イオン源21、試料20を載置する試料ステージ22、回転中心R0を軸としてR方向に試料ステージ22を回転させる試料ステージ回転駆動源23を有している。イオン源21からのイオンビームは、イオンビーム中心B0を中心に放射状に広がった状態で、試料ステージ22の試料載置面に載置された試料20に照射される。本来、回転中心R0とイオンビーム中心B0とは一致することが前提であるが、イオン源21の取り付け誤差により、図2Aに示すように回転中心R0とイオンビーム中心B0とがεだけずれた状態になる場合がある。このとき、試料20の表面に形成される加工深度を図2Bに示す。波形25に示されるように、回転中心R0からεずれた位置である、イオンビーム強度が最も高くなるイオンビーム中心B0で加工深度が最も深くなり、そこから距離が離れるにつれて加工深度が小さくなる。これに対して、回転中心R0とイオンビーム中心B0とが一致する場合の加工深度を波形26として示す。このように、イオン源21の取り付け誤差により加工面の形状が本来意図した加工面よりもなだらかに、極端な場合は図2Bの波形25に示されるように加工面が波打ってしまうことが分かる。特に、微細な立体構造パターンの観察や計測を行うために試料に観察面、傾斜面を形成することを意図する場合には、このような加工面の形状の変化は無視できない。
【0010】
なお、図2Aの例ではイオンビーム中心B0が試料20の表面(あるいは試料ステージ22の試料載置面)に対して垂直になるようにイオンビームを照射しているが、試料ステージ22をC方向に傾斜させ、イオンビームが低入射角度で試料20表面に照射されるようにすることも可能である。これにより、広範な加工面を得ることが可能である。この場合も、試料ステージ22は、傾斜された状態で回転中心R0を軸に回転させながら試料20にイオンビームが照射されるため、回転中心R0とイオンビーム中心B0とがずれている(試料20の表面において、回転中心R0とイオンビーム中心B0とが交わらない)と、同様に回転中心R0とイオンビーム中心B0とのずれが加工面の形状変化として表れ、所望の観察面、傾斜面が得られなくなるおそれがある。
【0011】
従来装置のようにイオン源を真空容器に直接取り付ける構成を採用する場合、定期的な清掃のためイオン源を着脱可能とする必要があり、イオン源および試料室のイオン源装着部の機械加工公差を0にすることができない。したがって、イオン源を再度取り付けたときに位置ずれが生じることを避けることができない。このことは、図2A,Bを用いて説明したように、イオンミリング装置による加工精度のばらつきや加工面形状の再現性を低下させることにつながる。
【0012】
また、イオンビームはイオン源の射出口からの距離が長いほどイオンビーム径は広がり、電流・イオン密度は低下する。このため、特許文献1のようにイオンビーム測定位置が実際の試料加工位置から離れている場合、イオンビームの測定のためにイオン源に印加する電圧を、実際の加工を行うときの条件よりも高くして測定しなければならないということも考えられる。しかし、イオンビームの射出条件を変えてしまうとイオンビームのもつエネルギーが変化するため、ミリング速度が変わり、また、イオンの密度分布も変わってしまい、更には外乱の与える影響の大きさも変わってくるため、調整は実際の加工のときの射出条件と同じ条件で行うことが望ましい。このため、実際の加工時の射出条件で位置調整を行うために、イオンミリング装置のオペレータが、試料ステージ上に、例えば銅箔のような加工対象を取り付けた上で、実加工条件でのイオンビームを照射して銅箔上にビーム痕を残し、ビーム痕と回転中心R0とを一致させるよう、イオン源の位置調整を実施する場合もあった。しかし、このようなビーム痕による目視または顕微鏡観察下での調整は正確性に限界がある上に、何度もイオン源の脱着を繰り返して位置合わせをすることが必要になることが多く、リアルタイム性に欠けることからオペレータの調整負担は大きかった。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑み、イオン源脱着後のイオンビーム中心と試料回転中心を容易、かつ、正確に調整可能なイオンミリング装置、およびイオン源調整方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施の形態であるイオンミリング装置のイオン源調整方法は、試料室内の試料ステージに試料を載置し、回転中心を軸に試料ステージを回転させながら試料に非集束のイオンビームを照射することにより、試料を加工するイオンミリング装置のイオン源調整方法であって、試料ステージ回転駆動源は、回転中心を含む範囲に鏡面部材が設置された試料ステージを、試料ステージの傾斜角を45°に傾けた状態で、回転中心を軸に回転させ、イオン源は、鏡面部材に向けてイオンビームを照射し、イオン源は、イオン源の位置を調整可能とするイオン源位置調整機構を介して試料室に取り付けられており、イオン源位置調整機構により、回転中心を軸に回転する試料ステージ上の鏡面部材における回転中心近傍が、点状または円形状に光ってみえる状態にイオン源の位置を調整する
【0015】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0016】
イオンミリング装置の加工精度、または加工面形状の再現精度を高めることができる。また、イオンミリング装置のメンテナンス時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1のイオンミリング装置の要部構成図である。
図2A】本発明の課題を説明する図である。
図2B】本発明の課題を説明する図である。
図3】試料ステージの構成例を示す図である。
図4】イオン源の位置調整に係るブロック図である。
図5】実施例1のイオン源の位置調整フローである。
図6A】ターゲット板における導電体の形状の一例である。
図6B】ターゲット板における導電体の形状の別の一例である。
図7】実施例2のイオンミリング装置の要部構成図である。
図8】実施例2のイオン源の位置調整フローである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係るイオンミリング装置の要部構成図である。真空状態を保持可能な試料室6、イオン源1、加工時に試料(図示せず)を設置する試料ステージ2、回転中心R0を軸としてR方向に試料ステージ2を回転させる試料ステージ回転駆動源3を有している。なお、図2Aに示したように、試料ステージ2は、イオンビームの入射角度を変えるための傾斜機構を有していてもよい。また、試料室6には、加工する試料を観察するための観察窓7が設けられている。
【0020】
ここで、イオン源1は、その位置をX方向、Y方向、およびZ方向に位置を微調整するイオン源位置調整機構5を介して試料室6に取り付けられている。これにより、イオン源1のイオンビーム中心B0の位置、具体的にはXY面(X方向及びY方向を含む面)上の位置及び動作距離(Z方向の位置、具体的にはイオン源1のイオンビーム放出位置から試料ステージ2までの距離を指す)、を微調整可能とされている。また、後述するように試料ステージ2の試料載置板は付け替え可能であって、イオン源1の位置調整を行う場合には試料載置板に代えて、イオンビームの電流を検出するための導電材4が回転中心R0を含む範囲に設置されるターゲット板が設置される。図1はこの状態を示している。
【0021】
イオン源位置調整機構5はイオン源1を固定する支持部と、イオン源位置調整機構5を試料室6に設置する基板と、基板に設けられ支持部をX方向、Y方向、Z方向に独立に移動可能なイオン源移動機構とを有する。イオン源移動機構としては例えば、マイクロメータに用いられるような精密なネジ機構を使うことでイオン源1の位置を各方向に微調整することができる。
【0022】
イオン源1に所定の電圧が印加されることにより、イオン源1からイオンビーム中心B0を中心に、放射状にイオンビームが射出され、試料ステージ2に設置した回転中心R0を含む範囲に導電材4が設けられたターゲット板を照射する。イオン源1から射出されるイオンビームは、イオンビーム中心B0で電流・イオン密度が高く、外側に向かって徐々に電流・イオン密度が低下する。また、イオン源1からの距離が長いほど電流・イオン密度が低下する。そこで、導電材4を用いてイオンビーム電流を検出し、イオンビーム電流が所望の大きさとなるようにイオン源位置調整機構5によりイオン源1の位置を微調整することにより、所望の加工精度、または加工面形状の再現精度を実現できる。
【0023】
図3に試料ステージ2の構成例を示す。導電材4を有するターゲット板30を設置した状態を示している。ターゲット板30は、その導電材4が導電材接続板31と接続されるように設置される。このとき、導電材4の中心は一点鎖線で示す回転中心R0と一致する位置とされる。イオン源からのイオンビームは導電材4を中心とする領域に照射されることになるが、イオン源1からイオンビームは放射状に射出されるため、イオン源1と導電材4との距離によっては導電材4以外にもイオンビームが照射される可能性がある。このような場合に、試料ステージの他の構成部品にイオンビームが照射されたことによる電流が導電材4に流れ込むことを防止するため、導電材4の周囲のターゲット板30は絶縁材とする。導電材接続板31は、試料を回転させる回転シャフト33に接続され、試料ステージ回転駆動源3により駆動される回転歯車34の動力により導電材4を回転させるが、導電材4が受ける電流の回転シャフト33への流れ込みを防止するため、導電材接続板31と回転シャフト33との間に絶縁材32を設けて、電流の流れを遮断する。また、導電材4が受ける電流は、導電材接続板31に接触する回転接触接点35及びビーム電流検出配線36により引き出され、電流値が検出される。なお、回転接触接点35及びビーム電流検出配線36は、ビーム電流検出配線コネクタ37により他の構成部品とは絶縁されている。
【0024】
図4に実施例1のイオンミリング装置におけるイオン源1の位置調整に係るブロック図を示す。特に発明を限定するものではないが、ここではイオン源1としてぺニング放電によるイオン源を用いた例を示す。カソード電極11a,11bの間に円筒型のアノード電極12が配置され、カソード電極11a,11bとアノード電極12との間には放電電圧Vが印加される。配管15よりアルゴンガスをイオン源1内に導入し、磁石13によりアノード電極12内に磁界を作用させることにより、アノード電極12内にイオンが発生する。発生したイオンは加速電圧Vが印加された加速電極14により加速され、イオン源1からイオンビームとして放出される。
【0025】
放電電圧V及び加速電圧Vは電源部40により生成される。また、電源部40は電流計を有しており、電流計41は放電電流の計測、電流計42は導電材4で受けたイオンビーム電流を計測している。なお、放電電圧V及び加速電圧Vの値は、制御部45により設定される。
【0026】
また、イオン源1はイオン源位置調整機構5の支持部16に固定され、支持部16をX方向、Y方向、Z方向に独立に移動可能なイオン源移動機構17により、イオン源1の位置が微調整可能とされている。
【0027】
電源部40、イオン源移動機構17及び試料ステージ回転駆動源3は制御部45に接続されており、制御部45からイオンビーム射出条件を設定し、また、所定のフローに従い、イオン源の調整や試料の加工を実行する。さらに、制御部45は表示部46に接続されており、制御部45に対するオペレータからのユーザインタフェースとして機能するとともに、制御部45が収集したイオンミリング装置の動作状態を示すセンシングデータの表示なども行う。例えば、表示部46に表示されるセンシングデータとしては、電源部40からの放電電圧値V、放電電流値、加速電圧値V、イオンビーム電流値などが含まれる。
【0028】
図4に示したイオンミリング装置において、制御部45が実行するイオン源1の調整フローを図5に示す。
【0029】
ステップS51:制御部45は試料ステージ回転駆動源3により、試料ステージ2の回転を開始する。図4に示すように、イオン源1から射出されるイオンビームに対して導電材4の表面が垂直となるように試料ステージ2は設置されている。試料ステージ2を回転させることで、導電材4による電流の検出むらを抑制することができる。
【0030】
ステップS52:制御部45は電源部等を制御し、イオン源1からイオンビームを導電材4に照射する。このとき、電源部40がイオン源1に印加する放電電圧V及び加速電圧Vは試料を実際に加工するときに印加する電圧印加条件に従うものとする。これにより、試料を加工するときのイオンビームを精度よく再現することができる。
【0031】
ステップS53:電流計42によりイオンビーム電流を計測する。制御部45は電流計42が計測したイオンビーム電流値を取り込む。
【0032】
ステップS54:制御部45は、計測されるイオンビーム電流値があらかじめ定められた基準を満たすように、イオン源位置調整機構5を制御する。ここでは、イオン源位置調整機構5のイオン源移動機構17は制御部45によりモーター駆動されるものとし、まずX方向、続いてY方向に移動させて、イオンビーム電流値が最大となる位置にイオン源1のXY面上の位置を調整する。その後、必要に応じてZ方向に移動させることにより、イオンビーム電流値の値に基づき、イオン源1のイオンビーム中心B0のXY面上の位置及び動作距離(Z方向の位置)を微調整する。この調整例は一例であって、制御部45の備えるアルゴリズムにしたがって、イオン源1のイオンビーム中心B0のXY面上の位置及び動作距離(Z方向の位置)を微調整することができる。
【0033】
例えば、イオン源位置調整機構5によるZ方向の微調整に代えて、あるいはZ方向の微調整に加えて、イオン源1に印加する放電電圧値Vを調整するようにしてもよい。また、イオン源1の調整を行う際に目標とするイオンビーム電流値は、イオンビーム電流の最大値に限られず、例えば、前回加工実施時におけるイオンビーム電流値のように定めてもよい。
【0034】
また、試料ステージ2において導電材4の形状の異なるターゲット板30、またはターゲット板30に対して形状の異なる導電材4を取り換え可能にすることもできる。例えば、図6Aは導電材として回転中心R0を中心とする円形状の導電材60を配置した例である。さらに、同じ円形状であっても、複数の径の同心円形状の導電材を有するターゲット板を用いることも好ましい。これにより、イオンビームの径に合わせた検出範囲を持つ導電材を用いてイオン源の調整を行うことができる。一例としては、導電材4の直径をターゲット板に照射されるイオンビーム径より小さい導電材を用い、導電材4で検知するイオンビーム電流値が最大値となるようイオン源1をZ方向に微動させるような調整も可能である。
【0035】
一方、図6Bは導電材として円形状の導電材61と導電材61よりも径の大きい円環形状の導電材62とを、回転中心R0を中心に同心円状に配置した例である。このとき、導電材61で検出されるイオンビーム電流値と導電材62で検出されるイオンビーム電流値とが電源部40で独立して計測できるようにしておく。具体的には、試料ステージ2に導電材61と導電材62に対応する2系列のイオンビーム電流引き出し部を設け、電源部40でそれぞれのイオンビーム電流値を計測する。これにより、照射されるイオンビームプロファイル(二項分布に近似できるイオンビームの広がり具合)を含めて評価することが可能になり、イオンミリング装置の加工精度、または加工面形状の再現精度をより高めることが可能になる。
【0036】
実施例1におけるイオンミリング装置について、特にそのイオン源の位置調整を中心に説明したが、種々の変形が可能なものである。例えば、制御部45は電流計42で計測したイオンビーム電流値を表示部46に表示するに留め、オペレータが表示部46に表示されるイオンビーム電流値を確認しながらイオン源位置調整機構5のイオン源移動機構17による移動量、あるいはイオン源1の放電電圧Vを手動で調整するようにしても構わない。
【実施例2】
【0037】
図7は、実施例2に係るイオンミリング装置の要部構成図である。実施例2は、より簡易な機構でイオンビーム中心B0と回転中心R0との位置合わせを可能とするものである。ここで、実施例1と機能の等しい構成要素については同じ符号を用い、重複する説明は省略する。
【0038】
試料室6の上方に観察用の顕微鏡(光学顕微鏡)73が設置され、観察窓7から試料ステージ2の試料載置面が観察可能とされている。また、試料ステージ2の試料載置面には鏡面部材71が設けられている。鏡面部材としては、イオン源1のプラズマ発光を反射可能な部材であればよく、例えば一般的な鏡の他、ウェハでもよい。鏡面部材は試料ステージの試料載置板に試料の代わりに搭載すればよい。試料ステージ2は傾斜機構を有し、X方向に延在する軸72を中心としてC方向に傾斜可能である。軸72は、試料ステージ2の試料載置面において、回転中心R0と交わる位置にある。図7では、試料ステージ2が傾斜角Tで傾斜している状態を示している。なお、傾斜角Tは、イオンビーム中心B0と試料ステージ2の試料載置面の法線とのなす角として定義される。
【0039】
このような構成のイオンミリング装置において、イオン源1の位置調整を行う方法について、図8を用いて説明する。
【0040】
ステップS81:試料ステージ2をイオンビーム中心B0に対して傾斜角Tを45°に傾斜させる。ここで、試料ステージ2の傾斜機構は軸72を中心に傾斜させるため、イオンビーム中心B0と回転中心R0とが一致した状態であれば、試料ステージ2の傾斜を変えてもイオン源1との距離に変化は生じない。したがって、試料加工時に傾斜角Tが45°以外の所望の傾斜角としても差し支えない。
【0041】
ステップS82:試料ステージ回転駆動源3により、試料ステージ2の回転を開始させる。
【0042】
ステップS83:イオン源1からイオンビームを鏡面部材71に照射する。このとき、電源部40がイオン源1に印加する放電電圧V及び加速電圧Vは、試料を実際に加工するときに印加する電圧印加条件に従うものとする。これにより、試料を加工するときのイオンビームを精度よく再現することができる。
【0043】
ステップS84:観察用顕微鏡73により鏡面部材71を観察し、イオン源1の射出口から放出されるプラズマ発光輝度の中心位置を確認する。イオンビーム中心B0と回転中心R0とが一致した状態であれば、鏡面部材71の回転中心R0近傍が点状または円形状に光ってみえ、イオンビーム中心B0と回転中心R0とが一致していない状態であれば、試料ステージ2が回転していることにより円環状に光ってみえる。
【0044】
ステップS85:ステップS84で確認したイオン源1のプラズマ発光輝度中心位置が、試料ステージ2の回転中心R0と一致するよう、イオン源位置調整機構5によりイオン源1の位置を微調整する。
【0045】
なお、以上の例では試料ステージ2に鏡面部材71を設置するものとして説明したが、これに代えて、イオンビームの照射により発光する発光部材、例えば、レーザー発光素子、または蛍光体を塗布した試料を設置することでも同様の効果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1,21:イオン源、2,22:試料ステージ、3,23:試料ステージ回転駆動源、4,60,61,62:導電材、5:イオン源位置調整機構、6:試料室、7:観察窓、11a,11b:カソード電極、12:アノード電極、13:磁石、14:加速電極、15:配管、16:支持部、17:イオン源移動機構、20:試料、30:ターゲット板、31:導電材接続板、32:絶縁材、33:回転シャフト、34:回転歯車、35:回転接触接点、36:ビーム電流検出配線、37:ビーム電流検出配線コネクタ、40:電源部、41,42:電流計、45:制御部、46:表示部、71:鏡面部材、72:軸、73:顕微鏡。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8