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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ラテックス組成物および膜成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 13/02 20060101AFI20230920BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20230920BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230920BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20230920BHJP
   C08K 3/18 20060101ALI20230920BHJP
   B29C 41/14 20060101ALI20230920BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20230920BHJP
   C08J 5/02 20060101ALI20230920BHJP
   B29K 9/00 20060101ALN20230920BHJP
   B29L 24/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
C08L13/02
C08K3/11
C08K3/22
C08K3/105
C08K3/18
B29C41/14
B29C41/36
C08J5/02 CEQ
B29K9:00
B29L24:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020500430
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2019004199
(87)【国際公開番号】W WO2019159780
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018026244
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/127862(WO,A1)
【文献】特開2018-009272(JP,A)
【文献】特開2002-161171(JP,A)
【文献】国際公開第00/073367(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/072835(WO,A1)
【文献】特開2009-138194(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146240(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/001764(WO,A1)
【文献】米国特許第06492446(US,B1)
【文献】米国特許第05014362(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0272794(US,A1)
【文献】国際公開第2015/146974(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/036665(WO,A1)
【文献】特表2016-525164(JP,A)
【文献】国際公開第2017/116227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 41/14
B29C 41/36
C08J 5/02
B29K 9/00
B29L 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、水溶性の金属化合物(B)と、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)とを含有するラテックス組成物であって、
前記金属化合物(B)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.1~0.5重量部であり、
前記金属化合物(C)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~4重量部であり、
前記金属化合物(B)と、前記金属化合物(C)との含有比率が、「水溶性の金属化合物(B):第4族金属化合物(C)」の重量比率で、1:2.6~1:5であり、
前記金属化合物(B)が、アルミニウム化合物であるラテックス組成物。
【請求項2】
前記金属化合物(B)が、アルミン酸ナトリウムである請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
前記金属化合物(C)が、二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムである請求項1または2に記載のラテックス組成物。
【請求項4】
前記金属化合物(C)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1.5~3重量部である請求項1~のいずれかに記載のラテックス組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のラテックス組成物からなる膜成形体。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のラテックス組成物をディップ成形する工程を備えるディップ成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス組成物、ならびに、該ラテックス組成物を用いて得られるディップ成形体などの膜成形体に係り、さらに詳しくは、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)の発生が抑制され、引張強度が高く、高い応力保持率を備え、かつ、ビーディング巻き不良の発生が抑えられたディップ成形体などの膜成形体を与えることのできるラテックス組成物、ならびに、このようなラテックス組成物を用いて得られるディップ成形体などの膜成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴムのラテックスに代表される天然ラテックスを含有するラテックス組成物をディップ成形して、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等の人体と接触して使用されるディップ成形体が知られている。しかしながら、天然ゴムのラテックスは、人体に即時型アレルギー(Type I)の症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、生体粘膜または臓器と直接接触するディップ成形体としては問題がある場合があった。そこで、ニトリルゴムなどの合成ゴムのラテックスを用いる検討がされている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、アクリロニトリル、カルボン酸、およびブタジエンのカルボキシル化ニトリルブタジエンランダム三元重合体を含み、全固形分量が15~25重量%のエマルジョンに、酸化亜鉛、硫黄および加硫促進剤を配合してなるラテックス組成物が開示されている。しかしながら、この特許文献1の技術では、即時型アレルギー(Type I)の発生を防止できる一方で、ディップ成形体とした場合に、ディップ成形体に含まれる硫黄や加硫促進剤が原因で、人体に触れた際に、遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状を発生させることがあった。
【0004】
これに対し、たとえば、特許文献2では、少なくとも1種のベースポリマー、架橋剤、pH調整剤を含むラテックス組成物において、架橋剤として、3価金属または3価金属系化合物と、特定のポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体と、特定の水酸化物塩との混合物を用いる技術が開示されている。この特許文献2の技術によれば、硫黄および加硫促進剤である硫黄化合物を含まないため、即時型アレルギー(Type I)だけでなく、遅延型アレルギー(Type IV)の発生をも抑制できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5697578号公報
【文献】国際公開第2016/72835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、ディップ成形によりディップ成形体などの膜成形体を得る際には、ディップ成形型から脱型する際に、脱型のための掴み部として、ディップ成形型上に形成されたディップ成形層について、袖部に対して、ビーディング加工(袖巻き加工)がなされることが一般的である。特に、ディップ成形体を手袋用途などとする場合には、装着時に破れにくく、はめやすいものとするという点からも、このようなビーディング加工が好適に行われている。このような状況において、本発明者等が検討を行ったところ、上記特許文献2の技術によれば、即時型アレルギー(Type I)だけでなく、遅延型アレルギー(Type IV)の発生をも抑制できるものである一方で、得られるディップ成形体について、ビーディング加工を行った際に、破れが発生したり、ディップ成形層とディップ成形型との密着性が高すぎて、ビーディング巻き操作ができないという不具合があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)の発生が抑制され、引張強度が高く、高い応力保持率を備え、かつ、ビーディング巻き不良の発生が抑えられたディップ成形体などの膜成形体を与えることのできるラテックス組成物、ならびに、このようなラテックス組成物を用いて得られるディップ成形体などの膜成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴムのラテックスに、水溶性の金属化合物と、所定量の周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物とを配合することにより得られるラテックス組成物によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、水溶性の金属化合物(B)と、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)とを含有するラテックス組成物であって、
前記金属化合物(C)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~4重量部であるラテックス組成物が提供される。
【0010】
本発明において、前記金属化合物(B)が、アルミニウム化合物であることが好ましい。
本発明において、前記水溶性の金属化合物(B)が、アルミン酸ナトリウムであることが好ましい。
本発明において、前記水溶性の金属化合物(B)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.1~1.5重量部であることが好ましい。
本発明において、前記非水溶性の金属化合物(C)が、二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムであることが好ましい。
本発明において、前記非水溶性の金属化合物(C)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、1.5~3重量部であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、上記本発明のラテックス組成物からなる膜成形体が提供される。
さらに、本発明によれば、上記本発明のラテックス組成物をディップ成形する工程を備えるディップ成形体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)の発生が抑制され、引張強度が高く、高い応力保持率を備え、かつ、ビーディング巻き不良の発生が抑えられたディップ成形体などの膜成形体を与えることのできるラテックス組成物、ならびに、このようなラテックス組成物を用いて得られるディップ成形体および膜成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のラテックス組成物は、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、水溶性の金属化合物(B)と、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)とを含有し、
前記金属化合物(C)の含有量が、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~4重量部であるラテックス組成物である。
【0014】
<カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックス>
本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体を少なくとも含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体のラテックスであり、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)およびカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0015】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、エチレン性不飽和ニトリル単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0016】
共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3-ブタジエンおよびイソプレンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。これらの共役ジエン単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~68重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0017】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル単量体;などが挙げられる。これらのなかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもできる。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~5重量%であり、より好ましくは2~4.5重量%、さらに好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0018】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。これらのエチレン性不飽和ニトリル単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、エチレン性不飽和ニトリル単量体により形成されるエチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%である。エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0019】
共役ジエン単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体およびエチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、スチレン、アルキルスチレン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族単量体;フルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸-2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸-1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸-2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸-3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体;などを挙げることができる。これらのエチレン性不飽和単量体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0021】
本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0022】
上述した単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合する際には、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。これら重合副資材の添加方法は特に限定されず、初期一括添加法、分割添加法、連続添加法などいずれの方法でもよい。
【0023】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤;α,β-不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β-不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤などを挙げることができる。なかでも、アニオン性乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。これらの乳化剤は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部である。
【0024】
重合開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-α-クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.01~2重量部である。
【0025】
また、過酸化物開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などが挙げられる。これらの還元剤は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、過酸化物100重量部に対して3~1000重量部であることが好ましい。
【0026】
乳化重合する際に使用する水の量は、使用する全単量体100重量部に対して、80~600重量部が好ましく、100~200重量部が特に好ましい。
【0027】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0028】
さらに、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができ、これらは種類、使用量とも特に限定されない。
【0029】
乳化重合を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、3~95℃、好ましくは5~60℃である。重合時間は5~40時間程度である。
【0030】
以上のように単量体混合物を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上である。
【0031】
重合停止剤としては、特に限定されないが、たとえば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ハイドロキノン誘導体、カテコール誘導体、ならびに、ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸などの芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸およびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。重合停止剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.05~2重量部である。
【0032】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することで、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスを得ることができる。
【0033】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0034】
本発明で用いるカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0035】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスは、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエンおよびエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、スチレンを共重合してなる共重合体のラテックスであり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0036】
カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、1,3-ブタジエンにより形成されるブタジエン単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~68重量%である。ブタジエン単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0037】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものを用いることができる。カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~5重量%であり、より好ましくは2~4.5重量%、さらに好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0038】
カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、スチレンにより形成されるスチレン単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%である。スチレン単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0039】
共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン、エチレン性不飽和カルボン酸単量体およびスチレンと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のもの(ただし、スチレンを除く)の他、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどの1,3-ブタジエン以外の共役ジエン単量体などが挙げられる。カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0040】
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)の場合と同様の重合副資材を用い、同様の方法にて重合を行えばよい。
【0041】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0042】
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0043】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0044】
カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは80~98重量%であり、より好ましくは90~98重量%、さらに好ましくは95~97.5重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0045】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものを用いることができる。カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~10重量%であり、より好ましくは2~7.5重量%、さらに好ましくは2.5~5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0046】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられ、共役ジエン単量体としてはこれらの何れかを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものが挙げられる。カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0047】
本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)の場合と同様の重合副資材を用い、同様の方法にて重合を行えばよい。
【0048】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0049】
本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0050】
<水溶性の金属化合物(B)>
本発明のラテックス組成物は、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに加えて、水溶性の金属化合物(B)を含有する。本発明のラテックス組成物において、水溶性の金属化合物(B)は、架橋剤として作用する。
【0051】
本発明によれば、架橋剤として通常用いられる硫黄の代わりに、水溶性の金属化合物(B)を架橋剤として用いるものであり、さらには、架橋に際しては、硫黄を含有する加硫促進剤をも必要としないものであるため、即時型アレルギー(Type I)に加えて、硫黄や、硫黄を含有する加硫促進剤に起因する、遅延型アレルギー(Type IV)の発生をも有効に抑制できるものである。
【0052】
水溶性の金属化合物(B)としては、金属を含有し、水に対して溶解性を示す化合物であればよく、特に限定されないが、ナトリウム化合物、カリウム化合物、リチウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物、コバルト化合物などが挙げられるが、これらのなかでも、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)をより良好に架橋させることができるという点より、アルミニウム化合物、コバルト化合物などの原子価が3価以上の金属を含む水溶性の金属化合物が好ましく、原子価が3価の金属を含む水溶性の金属化合物が好ましく、アルミニウム化合物がより好ましい。
【0053】
アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、たとえば、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸アルミニウム・カリウム、アルミニウム・イソプロポキシド、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、亜硫酸アルミニウムナトリウムなどが挙げられる。なお、これらアルミニウム化合物は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。これらの中でも、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができるという点より、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0054】
本発明のラテックス組成物中における、水溶性の金属化合物(B)の含有割合は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.1~1.5重量部であり、好ましくは0.1~1.25重量部、より好ましくは0.1~1.0重量部である。水溶性の金属化合物(B)の含有割合を上記範囲とすることにより、ラテックス組成物としての安定性を良好なものとし、これにより、ラテックス組成物中における凝集物の発生を有効に抑制しながら、架橋を十分なものとするこができ、得られるディップ成形体などの膜成形体を、引張強度および応力保持率により優れたものとすることができる。
【0055】
<周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)>
本発明のラテックス組成物は、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスおよび水溶性の金属化合物(B)に加えて、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)を含有するものであり、特に、本発明のラテックス組成物は、このような周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)を、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~4重量部の割合にて含有するものである。
【0056】
本発明においては、ラテックス組成物中に、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)(以下、適宜、「第4族金属化合物(C)」とする。)を上記含有割合にて含有させることにより、ディップ成形型を用いてディップ成形体を得る際に、形成されるディップ成形層と、ディップ成形型との間の密着強度を低減することができ、これにより、ビーディング加工(袖巻き加工)性を向上せることができ、結果として、ビーディング巻き不良の発生を有効に抑制できるものである。
【0057】
特に、本発明者等が鋭意検討を行ったところ、架橋剤として、上述した水溶性の金属化合物(B)を使用した場合には、即時型アレルギー(Type I)に加えて、硫黄や、硫黄を含有する加硫促進剤に起因する、遅延型アレルギー(Type IV)の発生をも有効に抑制できるものの、ビーディング加工(袖巻き加工)性が十分でなく、ビーディング巻き不良が発生してしまうという課題があること、これに対し、第4族金属化合物(C)を上記含有割合にて含有させることにより、ディップ成形により形成されるディップ成形層と、ディップ成形型との密着強度を低減することができ(たとえば、ピール強度を、好ましくは10N以下、より好ましくは8N以下とすることができ)、ビーディング巻き不良の発生を有効に抑制できることを見出したものである。
【0058】
第4族金属化合物(C)としては、周期律表第4族遷移金属を含み、水に対して溶解性を示さない化合物(すなわち、水に対して溶解しない化合物)であればよく、特に限定されないが、二酸化チタン(TiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、二酸化ハフニウム(HfO)などの第4族遷移金属の酸化物;四臭化ハフニウム(HfBr)などの第4族遷移金属の臭化物;などが挙げられる。これらの中でも、ビーディング巻き不良の発生の抑制効果が高いという点より、第4族遷移金属の酸化物が好ましく、二酸化チタン(TiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)がより好ましい。
【0059】
本発明のラテックス組成物中における、第4族金属化合物(C)の含有割合は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~4重量部であり、好ましくは1~3.5重量部、さらに好ましくは1.5~3.0重量部である。第4族金属化合物(C)の含有割合が少なすぎても、また、多すぎても、ディップ成形型を用いてディップ成形体などの膜成形体を得る際に、ディップ成形により形成されるディップ成形層と、ディップ成形型との間の密着強度が高くなり、ビーディング巻き不良の発生の抑制効果が得られなくなる。
【0060】
また、本発明のラテックス組成物中における、水溶性の金属化合物(B)と、第4族金属化合物(C)との含有比率は、「水溶性の金属化合物(B):第4族金属化合物(C)」の重量比率で、好ましくは1:2.6~1:15、より好ましくは1:2.8~1:10、さらに好ましくは1:3~1:5である。
【0061】
また、本発明のラテックス組成物には、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックス、水溶性の金属化合物(B)、および第4族金属化合物(C)に加えて、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種のアルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに配合してもよい。アルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに配合することにより、ラテックス組成物としての安定性をより向上させることができる。
【0062】
糖類(d1)としては、単糖類、あるいは、2以上の単糖がグリコシド結合によって結合した多糖類であればよく特に限定されないが、たとえば、エリスロース、スレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、ガラクトース、イドース、エリスルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトースなどの単糖類;トレハロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラクトース、スクロース、パラチノースなどの二糖類;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオース、マンニノトリオース、ソラトリオース、メレジトース、プランテオース、ゲンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトスクロース、ラフィノースなどの三糖類;マルトテトラオース、イソマルトテトラオースなどのホモオリゴ糖;スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、パノースなどの四糖類;マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどの五糖類;マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどの六糖類;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
糖アルコール(d2)としては、単糖あるいは多糖類の糖アルコールであればよく、特に限定されないが、たとえば、グリセリンなどのトリトール;エリスリトール、D-スレイトール、L-スレイトールなどのテトリトール;D-アラビニトール、L-アラビニトール、キシリトール、リビトール、ペンタエリスリトールなどのペンチトール;ペンタエリスリトール;ソルビトール、D-イジトール、ガラクチトール、D-グルシトール、マンニトールなどのヘキシトール;ボレミトール、ペルセイトールなどのへプチトール;D-エリトロ-D-ガラクト-オクチトールなどのオクチトール;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、炭素数6の糖アルコールであるヘキシトールが好ましく、ソルビトールがより好ましい。
【0064】
ヒドロキシ酸(d3)としては、ヒドロキシル基を有するカルボン酸であればよく、特に限定されないが、たとえば、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、3-メチリンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、セリンなどの脂肪族ヒドロキシ酸;サリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ヒドロキシプロパン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、リシノール酸などのモノヒドロキシ安息香酸誘導体、ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸などのジヒドロキシ安息香酸誘導体、没食子酸などのトリヒドロキシ安息香酸誘導体、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸などのフェニル酢酸誘導体、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等のケイヒ酸・ヒドロケイヒ酸誘導体などの芳香族ヒドロキシ酸;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、脂肪族α-ヒドロキシ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸がさらに好ましく、グリコール酸が特に好ましい。
【0065】
ヒドロキシ酸塩(d4)としては、ヒドロキシ酸の塩であればよく、特に限定されず、ヒドロキシ酸(d3)の具体例として例示したヒドロキシ酸の金属塩などが挙げられ、たとえば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩が挙げられる。ヒドロキシ酸塩(d4)としては、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。ヒドロキシ酸塩(d4)としては、ヒドロキシ酸のアルカリ金属塩が好ましく、ヒドロキシ酸のナトリウム塩が好ましい。また、ヒドロキシ酸塩(d4)を構成するヒドロキシ酸としては、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、脂肪族α-ヒドロキシ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸がさらに好ましく、グリコール酸が特に好ましい。すなわち、ヒドロキシ酸塩(d4)としては、グリコール酸ナトリウムが特に好適である。
【0066】
本発明のラテックス組成物中における、アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量は、水溶性の金属化合物(B)に対し、「水溶性の金属化合物(B):アルコール性水酸基含有化合物(D)」の重量比で、好ましくは1:0.1~1:50の範囲となる量であり、より好ましくは1:0.2~1:45の範囲となる量、さらに好ましくは1:0.3~1:30の範囲となる量である。アルコール性水酸基含有化合物(D)を上記割合にて含有させることにより、ラテックス組成物としての安定性をより適切に向上させることができる。
【0067】
なお、本発明のラテックス組成物中における、アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対する含有量としては、0.03~15重量部であることが好ましく、0.05~10重量部であることがより好ましい。
【0068】
本発明のラテックス組成物は、たとえば、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに、水溶性の金属化合物(B)と、第4族金属化合物(C)と、必要に応じて用いられるアルコール性水酸基含有化合物(D)を配合することにより得ることができる。カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに、水溶性の金属化合物(B)と、第4族金属化合物(C)とを配合する方法としては、特に限定されないが、得られるラテックス組成物中に、水溶性の金属化合物(B)および第4族金属化合物(C)を良好に分散させることができるという点より、水溶性の金属化合物(B)については、水またはアルコールに溶解し、水溶液またはアルコール溶液の状態で添加することが好ましく、また、第4族金属化合物(C)については、水またはアルコールに分散させ、水分散液またはアルコール分散液の状態で添加することが好ましい。さらに、アルコール性水酸基含有化合物(D)を使用する場合には、得られるラテックス組成物中に、水溶性の金属化合物(B)をより好適に分散させるという観点より、水溶性の金属化合物(B)およびアルコール性水酸基含有化合物(D)を水またはアルコールに溶解し、水溶液またはアルコール溶液の状態で添加することが好ましい。
【0069】
また、本発明のラテックス組成物には、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックス、水溶性の金属化合物(B)、および第4族金属化合物(C)、ならびに必要に応じて用いられるアルコール性水酸基含有化合物(D)に加えて、所望により、充填剤、pH調整剤、増粘剤、老化防止剤、分散剤、顔料、軟化剤等を配合してもよい。
【0070】
本発明のラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは10~40重量%、より好ましくは15~35重量%である。すなわち、本発明のラテックス組成物における、水の割合は、好ましくは60~90重量%であり、より好ましくは65~85重量%である。また、本発明のラテックス組成物のpHは、好ましくは8.0~12、より好ましくは8.5~11である。
【0071】
<膜成形体>
本発明の膜成形体は、本発明のラテックス組成物からなる膜状の成形体である。本発明の膜成形体の膜厚は、好ましくは0.03~0.50mm、より好ましくは0.05~0.40mm、特に好ましくは0.08~0.30mmである。
【0072】
本発明の膜成形体としては、特に限定されないが、本発明のラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形体であることが好適である。ディップ成形は、ラテックス組成物にディップ成形型を浸漬し、ディップ成形型の表面に当該組成物を沈着させ、次にディップ成形型を当該組成物から引き上げ、その後、ディップ成形型の表面に沈着した当該組成物を乾燥させる方法である。なお、ラテックス組成物に浸漬される前のディップ成形型は予熱しておいてもよい。また、ディップ成形型をラテックス組成物に浸漬する前、または、ディップ成形型をラテックス組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。
【0073】
凝固剤の使用方法の具体例としては、ラテックス組成物に浸漬する前のディップ成形型を凝固剤の溶液に浸漬してディップ成形型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ラテックス組成物を沈着させたディップ成形型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ないディップ成形体が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0074】
凝固剤としては、たとえば、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛等の硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;等が挙げられる。なかでも、塩化カルシウムおよび硝酸カルシウムが好ましい。
凝固剤は、通常、水、アルコール、またはそれらの混合物の溶液として使用する。凝固剤濃度は、通常、5~50重量%、好ましくは10~35重量%である。
【0075】
また、ディップ成形体が、手袋である場合など、袖部に対してビーディング加工(袖巻き加工)が必要な場合には、乾燥により形成されたディップ成形層に対して、ビーディング加工を行い、ビーディング部(袖巻部)を形成する。本発明のディップ成形体は、上述した本発明のラテックス組成物を用いて形成されるものであるため、ディップ成形により形成されるディップ成形層と、ディップ成形型との間の密着強度を低減することができ、これにより、ビーディング加工時におけるビーディング巻き不良の発生を有効に抑制できるものである。そのため、本発明によれば、ビーディング部を有するディップ成形体を適切に得ることができるものである。
【0076】
なお、ビーディング加工は、ディップ成形層を、ディップ成形型から脱型する際に、脱型のための掴み部として、ディップ成形層の袖部に対して、その一部を、ディップ成形型から剥離する加工であり、ディップ成形層の袖部のうち、好ましくは10~50mmの幅、より好ましくは20~30mmの幅について、その剥離部分が巻かれた状態となるように剥離を行うものである。また、このようなビーディング加工をすることにより、得られるディップ成形体を手袋用途などとする場合には、装着時に破れにくく、はめやすいものとすることもできる。
【0077】
なお、ビーディング加工を施す前に、得られたディップ成形層を、水、好ましくは30~70℃の温水に、1~60分程度浸漬し、水溶性不純物(たとえば、余剰の乳化剤や凝固剤等)を除去してもよい。また、水溶性不純物の除去操作を行った後には、水溶性不純物の除去操作を行ったディップ成形層に対し、ビーディング加工を施す前に、乾燥を行うことが好ましい。この際の乾燥条件としては、特に限定されないが、20~100℃、より好ましくは30~80℃にて、好ましくは1~20分、より好ましくは1~10分の条件とすることが好ましい。
【0078】
また、得られたディップ成形層は、ビーディング加工を行った後に、通常、加熱処理を施し架橋する。ディップ成形層の架橋は、通常、80~150℃の温度で、好ましくは10~130分の加熱処理を施すことにより行われる。加熱の方法としては、赤外線や加熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、加熱空気による外部加熱が好ましい。
【0079】
そして、架橋したディップ成形層をディップ成形用型から脱着することによって、ディップ成形体が、膜状の膜成形体として得られる。脱着方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。なお、脱着後、更に60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理を行なってもよい。
【0080】
本発明のディップ成形体を含む本発明の膜成形体は、上述した本発明のラテックス組成物を用いて得られるものであるため、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)の発生をも抑制され、引張強度が高く、高い応力保持率を備え、かつ、ビーディング巻き不良の発生が抑えられたものであり、そのため、たとえば、人体と接触して用いられ、かつ、ビーディング部(袖巻部)を有していることが望まれるような用途に好適に用いることができ、特に、手袋用途、とりわけ、手術用手袋に好適である。あるいは、本発明のディップ成形体は、手袋の他にも、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;指サックなどにも用いることができる。
【実施例
【0081】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0082】
<ディップ成形層と手袋型との間のピール強度>
実施例および比較例にて作製したディップ成形層について、手袋型から脱型する前の段階において、温度125℃で5分間の条件にて乾燥(予備キュア)を行い、手袋型から脱型する前の段階において、万能型引張試験器にてディップ成形層と手袋型との間における180°剥離試験を実施することで、ディップ成形層と手袋型との間のピール強度を測定した。剥離速度は500mm/分とした。ピール強度が小さいほど、ディップ成形層と手袋型との密着力が低く、ビーディングが巻きやすく、ビーディング加工性に優れると判断できる。
【0083】
<ディップ成形層のビーディング巻き不良>
実施例および比較例にて作製したディップ成形層について、手袋型から脱型する前の段階において、温度60℃で5分間の条件にて乾燥(予備キュア)を行い、手袋型から脱型する前の段階において、手袋型に密着しているディップ成形層の端の部分を巻き上げるビーディング巻き操作を、手作業にて実施し、以下の基準で評価を行った。
なし:5回以内の巻き上げ操作で所望のビーディング巻き操作が完了した。
有り:所望のビーディング巻き操作が完了するまでに、6回以上の巻き上げ操作が必要であったか、あるいは、ビーディング巻き操作が全くできなかった。
【0084】
<引張強度>
実施例および比較例において得られた、手袋型から脱型した後のディップ成形体としてのゴム手袋から、ASTM D-412に準じてダンベル(Die-C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製した。次いで、得られた試験片を、引張速度500mm/分で引っ張り、破断時の引張強度を測定した。引張強度は高いほど好ましい。
【0085】
<応力保持率>
実施例および比較例において得られた、手袋型から脱型した後のディップ成形体としてのゴム手袋から、ASTM D-412に準じてダンベル(Die-C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製し、該試験片の両端に速度500mm/分にて引張応力をかけ、該試験片の標準区間20mmが2倍(100%)に伸張した時点で伸張を止めると共に引張応力M100(0)を測定し、また、そのまま6分間経過した後の引張応力M100(6)を測定した。そして、M100(0)に対するM100(6)の百分率(すなわち、M100(6)/M100(0)の百分率)を応力保持率とした。応力保持率は大きいほど、手袋の使用に伴うへたり(緩みやたるみ)が起きにくいため好ましい。
【0086】
<製造例1(カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)のラテックスの製造)>
攪拌機付きの耐圧重合反応容器に、1,3-ブタジエン63部、アクリロニトリル34部、メタクリル酸3部、連鎖移動剤としてt-ドデシルメルカプタン0.25部、脱イオン水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム1部、過硫酸カリウム0.3部、およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.005部を仕込み、重合温度を37℃に保持して重合を開始した。そして、重合転化率が70%になった時点で、重合温度を43℃に昇温し、継続して重合転化率が95%になるまで反応させ、その後、重合停止剤としてジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止した。そして、得られた共重合体のラテックスから、未反応単量体を減圧にして留去した後、固形分濃度とpHとを調整することで、固形分濃度40重量%、pH8.0のカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)のラテックスを得た。
【0087】
<実施例1>
<ラテックス組成物の調製>
まず、二酸化チタン(TiO)4.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.3部、水酸化カリウム0.0015部、および水4.5部を混合することで、二酸化チタン分散液を調製した。そして、混合容器中において、製造例1で得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)のラテックス250部(カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)換算で100部)に、アルミン酸ナトリウム0.5部、ソルビトール0.75部、グリコール酸ナトリウム0.75部を水溶させた混合水溶液を加えた。次いで、これに、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)100部に対して、二酸化チタンの添加量が1.5部となるように、上記にて調製した二酸化チタン分散液を添加した。そして、脱イオン水を加えて、固形分濃度を30重量%に調整することで、ラテックス組成物を得た。
【0088】
<ディップ成形層の形成>
硝酸カルシウム30部、ノニオン性乳化剤であるポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル0.05部および水70部を混合することにより、凝固剤水溶液を調製した。次いで、この凝固剤水溶液に、予め70℃に加温したセラミック製手袋型(表面が粗面化されたセラミック製手袋型)を5秒間浸漬し、引上げた後、温度70℃、10分間の条件で乾燥して、凝固剤を手袋型に付着させた。そして、凝固剤を付着させた手袋型を、上記にて得られたラテックス組成物に10秒間浸漬し、引上げた後、50℃の温水に90秒間浸漬して、水溶性不純物を溶出させて、手袋型にディップ成形層を形成した。
次いで、ディップ成形層を形成した手袋型について、手袋型から脱型する前の段階において、温度125℃で5分間の条件にて乾燥(予備キュア)を行った後、手袋型から脱型する前の段階において、上記した方法にしたがって、ディップ成形層と手袋型との間のピール強度の測定を行った。また、これとは別に、上記にて得られた、ディップ成形層を形成した手袋型について、手袋型から脱型する前の段階において、温度60℃で5分間の条件にて乾燥(予備キュア)を行った後、手袋型から脱型する前の段階において、上記した方法にしたがって、ディップ成形層のビーディング巻き不良の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
<ディップ成形体の形成>
温度125℃で5分間の条件にて乾燥(予備キュア)を行ったディップ成形層について、125℃で25分間の条件で加熱処理してディップ成形層を架橋させ、架橋したディップ成形層を手袋型から剥し、ディップ成形体(ゴム手袋)を得た。そして、得られたディップ成形体(ゴム手袋)について、上記方法にしたがって、引張強度および応力保持率の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0090】
<実施例2>
二酸化チタンの配合量を、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)100部に対して、3.0部となる量とした以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を調製し、ディップ成形層およびディップ成形体としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
<実施例3>
二酸化ジルコニウム(ZrO)4.5部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.3部、水酸化カリウム0.0015部、および水4.5部を混合することで、二酸化ジルコニウム分散液を調製した。そして、二酸化チタン分散液の代わりに、二酸化ジルコニウム分散液を、二酸化ジルコニウムの配合量が、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)100部に対して、1.5部となる量にて配合した以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を調製し、ディップ成形層およびディップ成形体としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
<比較例1>
二酸化チタン分散液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を調製し、ディップ成形層およびディップ成形体としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
<比較例2>
二酸化チタンの配合量を、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)100部に対して、5.0部となる量とした以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を調製し、ディップ成形層およびディップ成形体としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
<比較例3>
アルミン酸ナトリウム、ソルビトール、およびグリコール酸ナトリウムの混合水溶液の水溶液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を調製し、ディップ成形層およびディップ成形体としての評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】
【0095】
表1に示すように、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに、水溶性の金属化合物(B)と、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)とを配合し、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)の含有量を、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.5~4重量部の範囲としたラテックス組成物によれば、得られるディップ成形体(ディップ成形層)は、ディップ成形型との密着性が低減されており、ビーディング巻き不良の発生が抑えられたものであり、さらには、引張強度が高く、高い応力保持率を備えるものであった(実施例1~3)。
【0096】
一方、周期律表第4族遷移金属を含む非水溶性の金属化合物(C)を配合しない場合や、配合量が多すぎる場合には、得られるディップ成形体(ディップ成形層)は、ディップ成形型との密着性が高く、ビーディング加工性に劣り、ビーディング巻き不良が発生するものとなった(比較例1,2)。
また、水溶性の金属化合物(B)を配合しなかった場合には、得られるディップ成形体(ディップ成形層)は、引張強度および応力保持率に劣る結果となった(比較例3)。