(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】電荷輸送性ワニス
(51)【国際特許分類】
H10K 85/10 20230101AFI20230920BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20230920BHJP
C08K 5/18 20060101ALI20230920BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20230920BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230920BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20230920BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20230920BHJP
【FI】
H10K85/10
C08G61/12
C08K5/18
C08K5/42
C08L65/00
H10K50/15
H10K50/17
(21)【出願番号】P 2020559279
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048452
(87)【国際公開番号】W WO2020122113
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2018233157
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 陽介
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-151545(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050253(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217455(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/147155(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146957(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/15
H10K 50/10
C08L 65/00
C08K 5/18
C08K 5/42
C08G 61/12
H10K 85/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性物質と、下記式(I)で表される高分子化合物と、有機溶媒とを含むことを特徴とする電荷輸送性ワニス。
【化1】
(式中、R
a1~R
a8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシ基、またはエーテル結合、ケトン結合もしくはエステル結合を含んでいてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数6~20のアリール基を表すが、R
a4とR
a8とは、互いに結合して、単結合、メチレン基、-O-、または-NR
d1-基(R
d1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基を表す。)を形成していてもよく、
R
b1は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
R
b2は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい
、炭素数6~20のアリール基
または炭素数2~20のヘテロアリール
基を表し、
R
b1とR
b2とは、互いに結合して、それらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよく、
nは、2以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記高分子化合物が、下記式(II)で表される請求項1記載の電荷輸送性ワニス。
【化2】
(式中、R
a1~R
a3、R
a5~R
a7、R
b1、R
b2およびnは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項3】
前記高分子化合物が、下記式(III)で表される請求項2記載の電荷輸送性ワニス。
【化3】
(式中、R
a1~R
a3、R
a5~R
a7およびnは、前記と同じ意味を表す。R
c1~R
c8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、またはヒドロキシ基を表す。)
【請求項4】
前記R
a1~R
a3、R
a5~R
a7およびR
c1~R
c8が、水素原子である請求項3記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項5】
前記電荷輸送性物質が、アニリン誘導体である請求項1~4のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項6】
ドーパント物質を含む請求項1~5のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項7】
前記ドーパント物質が、アリールスルホン酸エステル化合物である請求項6記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜。
【請求項9】
請求項8記載の電荷輸送性薄膜を備える電子素子。
【請求項10】
請求項8記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である請求項10記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子は、ディスプレイや照明といった分野での実用化が期待されており、低電圧駆動、高輝度、高寿命等を目的とし、材料や素子構造に関する様々な開発がなされている。
この有機EL素子では複数の機能性薄膜が用いられるが、その中の1つである正孔注入層は、陽極と正孔輸送層または発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動および高輝度を達成するために重要な役割を果たす。
【0003】
この正孔注入層の作製方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別される。これらのプロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。
このため、特に、ディスプレイの分野においては、正孔注入層だけでなく、正孔輸送層、発光層等の上層の形成にもウェットプロセスがよく用いられる(特許文献1参照)が、この場合、正孔注入層等の下地層には上層塗布に用いられる溶剤に対する耐性が求められる。
【0004】
一方、有機EL素子に用いられる電荷輸送性薄膜の着色は、有機EL素子の色純度および色再現性を低下させる等の事情から、近年、有機EL素子用の電荷輸送性薄膜は、可視領域での透過率が高く、高透明性を有することが望まれている(特許文献2参照)。
このように、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスを用いた有機ELディスプレイの実用化に向けてその開発が精力的に行われており、溶剤耐性に優れるとともに、透明性も良好な電荷輸送性薄膜を与えるウェットプロセス用材料が常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-78181号公報
【文献】国際公開第2013/042623号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、溶剤耐性が良好な薄膜を与え、この薄膜を正孔注入層等に適用した場合に良好な特性を有する有機EL素子を実現できる電荷輸送性ワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、電荷輸送性物質および分子内にNH基を有する所定の高分子化合物を含む電荷輸送性ワニスが溶剤耐性に優れた薄膜を与え、この薄膜を正孔注入層等に適用した場合に良好な特性を有する有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 電荷輸送性物質と、下記式(I)で表される高分子化合物と、有機溶媒とを含むことを特徴とする電荷輸送性ワニス、
【化1】
(式中、R
a1~R
a8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシ基、またはエーテル結合、ケトン結合もしくはエステル結合を含んでいてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数6~20のアリール基を表すが、R
a4とR
a8とは、互いに結合して、単結合、メチレン基、-O-、または-NR
d1-基(R
d1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基を表す。)を形成していてもよく、
R
b1は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、
R
b2は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基、または水素原子を表し、
R
b1とR
b2とは、互いに結合して、それらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよく、
nは、2以上の整数を表す。)
2. 前記高分子化合物が、下記式(II)で表される1の電荷輸送性ワニス、
【化2】
(式中、R
a1~R
a3、R
a5~R
a7、R
b1、R
b2およびnは、前記と同じ意味を表す。)
3. 前記高分子化合物が、下記式(III)で表される2の電荷輸送性ワニス、
【化3】
(式中、R
a1~R
a3、R
a5~R
a7およびnは、前記と同じ意味を表す。R
c1~R
c8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、またはヒドロキシ基を表す。)
4. 前記R
a1~R
a3、R
a5~R
a7およびR
c1~R
c8が、水素原子である3の電荷輸送性ワニス、
5. 前記電荷輸送性物質が、アニリン誘導体である1~4のいずれかの電荷輸送性ワニス、
6. ドーパント物質を含む1~5のいずれかの電荷輸送性ワニス、
7. 前記ドーパント物質が、アリールスルホン酸エステル化合物である6の電荷輸送性ワニス、
8. 1~7のいずれかの電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜、
9. 8の電荷輸送性薄膜を備える電子素子、
10. 8の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子、
11. 前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である10の有機エレクトロルミネッセンス素子
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電荷輸送性ワニスは、分子内にNH基を有する所定の高分子化合物を含んでおり、このワニスを用いることで溶剤耐性に優れた電荷輸送性薄膜を得ることができ、さらに、使用する電荷輸送性物質の種類によっては、透明性に優れ、高屈折率な電荷輸送性薄膜を得ることができる。
この電荷輸送性薄膜は、有機EL素子をはじめとした電子素子用薄膜として、特に、上層にウェットプロセスで薄膜が積層される電子素子用薄膜として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明の電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性物質と、式(I)で表される高分子化合物と、有機溶媒とを含むことを特徴とする。なお、本発明において、電荷輸送性とは導電性と同義である。電荷輸送性ワニスとは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、それにより得られる固形膜が電荷輸送性を有するものでもよい。
【0011】
【0012】
式(1)において、Ra1~Ra8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシ基、またはエーテル結合、ケトン結合もしくはエステル結合を含んでいてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数6~20のアリール基を表すが、Ra4とRa8とは、互いに結合して、単結合、メチレン基、-O-、または-NRd1-基(Rd1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基を表す。)を形成していてもよい。
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1~20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等の炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、ビシクロブチル、ビシクロペンチル、ビシクロヘキシル、ビシクロヘプチル、ビシクロオクチル、ビシクロノニル、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基などが挙げられる。
【0014】
炭素数2~20のアルケニル基の具体例としては、エテニル、n-1-プロペニル、n-2-プロペニル、1-メチルエテニル、n-1-ブテニル、n-2-ブテニル、n-3-ブテニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-エチルエテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、n-1-ペンテニル、n-1-デセニル、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0015】
炭素数6~20のアリール基の具体例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリル、9-フェナントリル基等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、Ra1~Ra8としては、いずれも水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のヘテロアリール基、またはRa1~Ra3、Ra5~Ra7が、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のヘテロアリール基、かつ、Ra4とRa8とが互いに結合した単結合が好ましく、Ra1~Ra3、Ra5~Ra7が、水素原子、かつ、Ra4とRa8とが互いに結合した単結合がより好ましい。
したがって、式(I)で表される高分子化合物は、式(II)で表されるものが好ましく、式(II)-1で表されるものがより好ましい。
【0017】
【化5】
(式中、R
a1~R
a3、R
a5~R
a7は、上記と同じ意味を表す。)
【0018】
【0019】
一方、式(I)、式(II)および式(II)-1において、Rb1は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Rb2は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基、または水素原子を表し、Rb1とRb2とは、互いに結合して、それらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。
【0020】
炭素数2~20のヘテロアリール基の具体例としては、2-チエニル、3-チエニル、2-フラニル、3-フラニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル基等の含酸素ヘテロアリール基;2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、3-イソチアゾリル、4-イソチアゾリル、5-イソチアゾリル基等の含硫黄ヘテロアリール基;2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピラジル、3-ピラジル、5-ピラジル、6-ピラジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ピリミジル、6-ピリミジル、3-ピリダジル、4-ピリダジル、5-ピリダジル、6-ピリダジル、1,2,3-トリアジン-4-イル、1,2,3-トリアジン-5-イル、1,2,4-トリアジン-3-イル、1,2,4-トリアジン-5-イル、1,2,4-トリアジン-6-イル、1,3,5-トリアジン-2-イル、1,2,4,5-テトラジン-3-イル、1,2,3,4-テトラジン-5-イル、2-キノリニル、3-キノリニル、4-キノリニル、5-キノリニル、6-キノリニル、7-キノリニル、8-キノリニル、1-イソキノリニル、3-イソキノリニル、4-イソキノリニル、5-イソキノリニル、6-イソキノリニル、7-イソキノリニル、8-イソキノリニル、2-キノキサニル、5-キノキサニル、6-キノキサニル、2-キナゾリニル、4-キナゾリニル、5-キナゾリニル、6-キナゾリニル、7-キナゾリニル、8-キナゾリニル、3-シンノリニル、4-シンノリニル、5-シンノリニル、6-シンノリニル、7-シンノリニル、8-シンノリニル基等の含窒素ヘテロアリール基などが挙げられる。
その他、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基としては上記Ra1~Ra8で例示した原子および基と同様のものが挙げられる。
また、Rb1とRb2とが、互いに結合して、それらが結合する炭素原子とともに形成する環構造としては、その中のベンゼン環が、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、9H-フルオレン-9,9-ジイル基等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、Rb1およびRb2は、いずれも炭素数6~20のアリール基、またはRb1とRb2とが、互いに結合して、それらが結合する炭素原子とともに形成する、その中のベンゼン環が、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、9H-フルオレン-9,9-ジイル基が好ましく、Rb1とRb2とが、互いに結合した上記9H-フルオレン-9,9-ジイル基がより好ましい。
したがって、式(I)で表される高分子化合物は、式(III)で表されるものがより一層好ましく、式(III)-1で表されるものがさらに好ましい。
【0022】
【化7】
(式中、R
a1~R
a3、R
a5~R
a7は、上記と同じ意味を表す。)
【0023】
【0024】
なお、上記各式で示される高分子化合物の繰り返し単位において、ジフェニルアミノ骨格またはカルバゾール骨格における結合手の結合位置は特に限定されるものでないが、左右いずれの結合手ともに、ジフェニルアミノ骨格またはカルバゾール骨格のNHに対して、パラ位が好ましい。
【0025】
さらに、上記式(I)、(II)、(II)-1、(III)および(III)-1において、nは、2以上の整数を表すが、2~1000が好ましく、5~500がより好ましい。
また、式(III)および(III)-1において、Rc1~Rc8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、またはヒドロキシ基を表すが、水素原子が好ましい。
【0026】
本発明で用いる式(I)で表される高分子化合物の重量平均分子量Mwは、600~1000000が好ましく、600~200000がより好ましい。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる、ポリスチレン換算値である。
【0027】
本発明で用いる式(I)で表される高分子化合物としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
【0029】
なお、式(I)で表される高分子化合物は、式(Ia)で表される単量体と、式(Ib),(Ic)または(Id)で表される単量体とを、付加縮合反応等の公知方法(例えば、国際公開第2010/147155号に記載された方法)で重合させることで合成することができる。
【0030】
【化10】
(式中、R
a1~R
a8、R
b1およびR
b2は、上記と同じ意味を表す。)
【0031】
X0~X4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または擬ハロゲン基を表す。
擬ハロゲン基としては、(フルオロ)アルキルスルホニルオキシ基、芳香族スルホニルオキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては上記と同じものが挙げられる。
【0032】
Rb2'は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基もしくはヒドロキシ基で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Rb2"は、水素原子を表す。これらのハロゲン原子、アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基としては上記と同じものが挙げられる。
【0033】
本発明の電荷輸送性ワニス中における、上記高分子化合物の含有割合は、得られる薄膜の電荷輸送性に影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、得られる薄膜の耐溶剤性と電荷輸送性とのバランスを考慮すると、ワニスに含まれる固形分全体に占める割合が、0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、5~25質量%がより一層好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
なお、本発明において、固形分とは、溶媒以外の成分を意味する。
【0034】
本発明の電荷輸送性ワニスが含む電荷輸送性物質は、従来有機ELの分野等で通常用いられている各種電荷輸送性物質から適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、オリゴアニリン誘導体、N,N′-ジアリールベンジジン誘導体、N,N,N′,N′-テトラアリールベンジジン誘導体等のアニリン誘導体;オリゴチオフェン誘導体、チエノチオフェン誘導体、チエノベンゾチオフェン誘導体等のチオフェン誘導体;オリゴピロール等のピロール誘導体などの各種正孔輸送性物質が挙げられるが、中でも、アニリン誘導体、チオフェン誘導体が好ましく、アニリン誘導体がより好ましく、透明性および屈折率の良好な電荷輸送性薄膜を得ることを考慮すると、国際公開第2015/050253号に記載された下記式(1)または(2)で示されるアニリン誘導体がより一層好ましい。
【0035】
また、電荷輸送性物質の分子量も特に限定されるものではないが、平坦性の高い薄膜を与える均一なワニスを調製する観点から、200~9000が好ましく、耐溶剤性の高い薄膜を得る観点から、300以上がより好ましく、400以上がより一層好ましく、平坦性の高い薄膜をより再現性よく与える均一なワニスを調製する観点から、8000以下がより好ましく、7000以下がより一層好ましく、6000以下がさらに好ましく、5000以下が最適である。
なお、薄膜化した場合に電荷輸送性物質が分離することを防ぐ観点から、電荷輸送性物質は分子量分布のない(分散度が1)ことが好ましい(すなわち、単一の分子量であることが好ましい)。
【0036】
【0037】
式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、これらハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のヘテロアリール基としては、上記式(I)で表される高分子化合物で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0038】
炭素数2~20のアルキニル基の具体例としては、エチニル、n-1-プロピニル、n-2-プロピニル、n-1-ブチニル、n-2-ブチニル、n-3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、n-1-ペンチニル、n-2-ペンチニル、n-3-ペンチニル、n-4-ペンチニル、1-メチル-n-ブチニル、2-メチル-n-ブチニル、3-メチル-n-ブチニル、1,1-ジメチル-n-プロピニル、n-1-ヘキシニル、n-1-デシニル、n-1-ペンタデシニル、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0039】
上記式(1)および(2)におけるPh1は、式(P1)で表される基を表す。
【0040】
【0041】
ここで、R3~R6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、これらの具体例としては、上記で説明した基と同様のものが挙げられる。
これらの中でも、R3~R6としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0042】
以下、Ph1として好適な基の具体例を挙げるが、これに限定されるわけではない。
【0043】
【0044】
上記式(1)におけるAr1は、それぞれ独立して式(B1)~(B11)のいずれかで表される基を表すが、特に、式(B1′)~(B11′)のいずれかで表される基が好ましい。
【0045】
【0046】
【0047】
ここで、R7~R27、R30~R51およびR53~R154は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい、ジフェニルアミノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、R28およびR29は、それぞれ独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、R52は、水素原子、Z4で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Z1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ2で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表し、Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Z3は、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表し、Z4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ5で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Z5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ3で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基を表す。これらハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基および炭素数2~20のヘテロアリール基の具体例としては、上記で説明した基と同様のものが挙げられる。
【0048】
特に、R7~R27、R30~R51およびR53~R154としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジフェニルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
R28およびR29としては、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基が好ましく、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基がより好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基がより一層好ましい。
R52としては、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基が好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14の含窒素ヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより一層好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい3-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい4-ピリジル基、Z4で置換されていてもよいメチル基がさらに好ましい。
【0049】
また、Ar4は、それぞれ独立して、ジ炭素数6~20のアリールアミノ基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。
炭素数6~20のアリール基の具体例としては、上記で説明した基と同様のものが挙げられる。
ジ炭素数6~20のアリールアミノ基の具体例としては、ジフェニルアミノ基、1-ナフチルフェニルアミノ基、ジ(1-ナフチル)アミノ基、1-ナフチル-2-ナフチルアミノ基、ジ(2-ナフチル)アミノ基等が挙げられる。
これらの中でも、Ar4としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、p-(ジフェニルアミノ)フェニル基、p-(1-ナフチルフェニルアミノ)フェニル基、p-(ジ(1-ナフチル)アミノ)フェニル基、p-(1-ナフチル-2-ナフチルアミノ)フェニル基、p-(ジ(2-ナフチル)アミノ)フェニル基が好ましく、p-(ジフェニルアミノ)フェニル基がより好ましい。
【0050】
以下、Ar1として好適な基の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【化19】
(式中、R
52は、上記と同じ意味を表す。)
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
上記式(1)におけるAr2は、それぞれ独立して、式(A1)~(A18)のいずれかで表される基を表す。
【0060】
【化24】
(式中、DPAは、ジフェニルアミノ基を表し、Ar
4、Z
1,Z
3~Z
5は上記と同じ意味を表す。)
【0061】
式(A16)において、R155は、水素原子、Z4で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基もしくは炭素数2~20のアルキニル基、またはZ1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基もしくは炭素数2~20のヘテロアリール基を表す。
式(A17)において、R156およびR157は、それぞれ独立して、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基を表す。
これらハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基および炭素数2~20のヘテロアリール基の具体例としては、これらの具体例としては、上記で説明した基と同様のものが挙げられる。
【0062】
特に、R155としては、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基が好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14の含窒素ヘテロアリール基、Z4で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基がより一層好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい3-ピリジル基、Z1で置換されていてもよい4-ピリジル基、Z4で置換されていてもよいメチル基がさらに好ましい。
また、R156およびR157としては、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基が好ましく、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基がより好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基がより一層好ましい。
【0063】
以下、Ar2として好適な基の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【化30】
(式中、R
155は、上記と同じ意味を表す。)
【0070】
【0071】
なお、式(1)においては、得られるアニリン誘導体の合成の容易性を考慮すると、Ar1が全て同一の基であり、Ar2が全て同一の基であることが好ましく、Ar1およびAr2が全て同一の基であることがより好ましい。すなわち、式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(1-1)で表されるアニリン誘導体がより好ましい。
また、原料化合物として比較的安価なビス(4-アミノフェニル)アミンを用いて比較的簡便に合成できるとともに、有機溶媒に対する溶解性に優れていることからも、式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(1-1)で表されるアニリン誘導体が好ましい。
【0072】
【0073】
式(1-1)中、Ph1およびkは上記と同じ意味を表し、Ar5は、同時に、式(D1)~(D13)のいずれかで表される基を表すが、式(D1′)~(D13′)のいずれかで表される基であることが好ましく、特に、高透明性および高屈折率の電荷輸送性薄膜が得られることから、式(D11)で表される基がより好ましく、式(D11′-1)で表される基がより一層好ましい。
なお、Ar5の具体例としては、Ar1として好適な基の具体例として上述したものと同様のものが挙げられる。
【0074】
【化33】
(式中、R
28、R
29、R
52、Ar
4およびDPAは、上記と同じ意味を表す。)
【0075】
【化34】
(式中、R
28、R
29、R
52、Ar
4およびDPAは、上記と同じ意味を表す。)
【0076】
また、原料化合物として比較的安価なビス(4-アミノフェニル)アミンを用いて比較的簡便に合成できるとともに、得られるアニリン誘導体の有機溶媒に対する溶解性に優れていることから、式(1)で表されるアニリン誘導体は、式(1-2)で表されるアニリン誘導体が好ましい。
【0077】
【0078】
上記Ar6は、同時に、式(E1)~(E14)のいずれかで表される基を表すが、この場合も、高透明性および高屈折率の電荷輸送性薄膜が得られることから、式(E14)で表される基が好ましい。
【0079】
【化36】
(式中、R
52は、上記と同じ意味を表す。)
【0080】
上記式(2)におけるAr3は、式(C1)~(C8)のいずれかで表される基を表すが、特に(C1′)~(C8′)のいずれかで表される基が好ましい。
【0081】
【0082】
【0083】
上記式(1)におけるkは、1~10の整数を表すが、化合物の有機溶媒への溶解性を高める観点から、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がより一層好ましく、1が最適である。
上記式(2)におけるlは、1または2を表す。
【0084】
なお、R28、R29、R52およびR155~R157において、Z1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z2で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~10のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~10のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより好ましく、フッ素原子、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより一層好ましい。
【0085】
R28、R29、R52およびR155~R157において、Z4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z5で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより一層好ましく、フッ素原子、Z5で置換されていてもよいフェニル基がさらに好ましい。
【0086】
R28、R29、R52およびR155~R157において、Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより一層好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよいフェニル基がさらに好ましい。
【0087】
R28、R29、R52およびR155~R157において、Z5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~10のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~10のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基がより一層好ましい。
【0088】
R28、R29、R52およびR155~R157において、Z3は、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0089】
一方、R7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、Z2で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、フッ素原子、Z2で置換されていてもよいメチル基がより一層好ましい。
【0090】
R7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z4は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、Z5で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z5で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましい。
【0091】
R7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基が好ましく、ハロゲン原子、Z3で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましい。
【0092】
R7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z5は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルケニル基、Z3で置換されていてもよい炭素数2~3のアルキニル基が好ましく、ハロゲン原子、Z3で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、フッ素原子、Z3で置換されていてもよいメチル基がより一層好ましい。
【0093】
R7~R27、R30~R51およびR53~R154において、Z3は、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0094】
上記R52およびR155として好適な基の具体例としては、以下の基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、式(N1)が好ましい。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
上記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、より一層好ましくは4以下である。
また、上記アリール基およびヘテロアリール基の炭素数は、好ましくは14以下、より好ましくは10以下、より一層好ましくは6以下である。
【0102】
上記式(1)、式(1-1)、式(1-2)および式(2)で表されるアニリン誘導体は、上述した国際公開第2015/050253号に記載された方法で製造することができる。
【0103】
本発明の電荷輸送性ワニスは、得られる薄膜の用途に応じ、その電荷輸送能の向上等を目的としてドーパント物質を含んでいてもよい。
ドーパント物質としては、ワニスに使用する少なくとも1種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、無機系のドーパント物質、有機系のドーパント物質のいずれも使用できる。
また、無機系および有機系のドーパント物質は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
さらにドーパント物質は、ワニスから固体膜である電荷輸送性薄膜を得る過程で、例えば焼成時の加熱といった外部からの刺激によって、例えば分子内の一部が外れることによってドーパント物質としての機能が初めて発現または向上するようになる物質、例えばスルホン酸基が脱離しやすい基で保護されたアリールスルホン酸エステル化合物であってもよい。
【0104】
特に、本発明においては、無機系のドーパント物質としては、ヘテロポリ酸が好ましい。
ヘテロポリ酸とは、代表的に式(H1)で表されるKeggin型あるいは式(H2)で表されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【0105】
【0106】
ヘテロポリ酸の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、これらのヘテロポリ酸は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。
特に、1種類のヘテロポリ酸を用いる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。また、2種類以上のヘテロポリ酸を用いる場合、その2種類以上のヘテロポリ酸の1つは、リンタングステン酸またはリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
なお、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で示される構造から元素の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
すなわち、例えば、一般的には、リンタングステン酸は化学式H3(PW12O40)・nH2Oで、リンモリブデン酸は化学式H3(PMo12O40)・nH2Oでそれぞれ示されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)またはW(タングステン)もしくはMo(モリブデン)の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態および公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0107】
ヘテロポリ酸の使用量は、質量比で、電荷輸送性物質1に対して0.001~50.0程度とすることができるが、好ましくは0.01~20.0程度、より好ましくは0.1~10.0程度である。
【0108】
一方、有機系のドーパント物質としては、特にテトラシアノキノジメタン誘導体やベンゾキノン誘導体を用いることができる。
テトラシアノキノジメタン誘導体の具体例としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)や、式(H3)で表されるハロテトラシアノキノジメタンなどが挙げられる。
また、ベンゾキノン誘導体の具体例としては、テトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン(F4BQ)、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、テトラブロモ-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)などが挙げられる。
【0109】
【0110】
式中、R500~R503は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表すが、少なくとも1つはハロゲン原子であり、少なくとも2つがハロゲン原子であることが好ましく、少なくとも3つがハロゲン原子であることがより好ましく、全てがハロゲン原子であることが最も好ましい。
ハロゲン原子としては上記と同じものが挙げられるが、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0111】
このようなハロテトラシアノキノジメタンの具体例としては、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,3,5,6-テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)等が挙げられる。
【0112】
テトラシアノキノジメタン誘導体およびベンゾキノン誘導体の使用量は、電荷輸送性物質に対して、好ましくは0.0001~100当量、より好ましくは0.01~50当量、より一層好ましくは1~20当量である。
【0113】
また、有機系ドーパント物質としては、下記式(a1)で表される1価または2価のアニオンと式(c1)~(c5)で表される対カチオンからなる、電気的に中性なオニウムボレート塩を用いることもできる。
【0114】
【化47】
(式中、Arは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基または置換基を有してもよい炭素数2~20のヘテロアリール基を表し、Lは、炭素数1~20のアルキレン基、-NH-、酸素原子、硫黄原子または-CN
+-を表す。)
【0115】
【0116】
式(a1)において、炭素数1~20のアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等が挙げられる。なお、アリール基、ヘテロアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0117】
上記式(a1)のアニオンの好適例としては、式(a2)で表されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0118】
【0119】
オニウムボレート塩の使用量は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質に対して、0.1~10程度とすることができる。
なお、上記オニウムボレート塩は、例えば、特開2005-314682号公報等に記載された公知の方法を参考に合成することができる。
【0120】
また、有機系のドーパント物質として、アリールスルホン酸化合物やアリールスルホン酸エステル化合物も好適に用いることができる。
【0121】
アリールスルホン酸化合物の具体例としては、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、p-スチレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸、p-ドデシルベンゼンスルホン酸、ジヘキシルベンゼンスルホン酸、2,5-ジヘキシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、6,7-ジブチル-2-ナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、3-ドデシル-2-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、4-ヘキシル-1-ナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、2-オクチル-1-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、7-へキシル-1-ナフタレンスルホン酸、6-ヘキシル-2-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、2,7-ジノニル-4-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、2,7-ジノニル-4,5-ナフタレンジスルホン酸、国際公開第2005/000832号記載の1,4-ベンゾジオキサンジスルホン酸化合物、国際公開第2006/025342号記載のアリールスルホン酸化合物、国際公開第2009/096352号記載のアリールスルホン酸化合物等が挙げられる。
【0122】
好ましいアリールスルホン酸化合物の例としては、式(H4)または(H5)で表されるアリールスルホン酸化合物が挙がられる。
【0123】
【0124】
A1は、OまたはSを表すが、Oが好ましい。
A2は、ナフタレン環またはアントラセン環を表すが、ナフタレン環が好ましい。
A3は、2~4価のパーフルオロビフェニル基を表し、pは、A1とA3との結合数を示し、2≦p≦4を満たす整数であるが、A3がパーフルオロビフェニルジイル基、好ましくはパーフルオロビフェニル-4,4’-ジイル基であり、かつ、pが2であることが好ましい。
qは、A2に結合するスルホン酸基数を表し、1≦q≦4を満たす整数であるが、2が最適である。
【0125】
A4~A8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基を表すが、A4~A8のうち少なくとも3つは、ハロゲン原子である。
【0126】
炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロピル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル、4,4,4-トリフルオロブチル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0127】
炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロビニル、パーフルオロプロペニル(アリル)、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
その他、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基の例としては上記と同様のものが挙げられるが、ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0128】
これらの中でも、A4~A8は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり、かつ、A4~A8のうち少なくとも3つは、フッ素原子であることが好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のフッ化アルキル基、または炭素数2~5のフッ化アルケニル基であり、かつ、A4~A8のうち少なくとも3つはフッ素原子であることがより好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、または炭素数1~5のパーフルオロアルケニル基であり、かつ、A4、A5およびA8がフッ素原子であることがより一層好ましい。
なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基であり、パーフルオロアルケニル基とは、アルケニル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基である。
【0129】
rは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数を表し、1≦r≦4を満たす整数であるが、2~4が好ましく、2が最適である。
【0130】
ドーパント物質として用いるアリールスルホン酸化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、本発明で用いるアニリン誘導体とともに用いた場合における有機溶媒への溶解性を考慮すると、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下である。
【0131】
以下、好適なアリールスルホン酸化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0132】
【0133】
アリールスルホン酸化合物の使用量は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質1に対して、好ましくは0.01~20.0程度、より好ましくは0.4~5.0程度である。
アリールスルホン酸化合物は市販品を用いてもよいが、国際公開第2006/025342号、国際公開第2009/096352号等に記載の公知の方法で合成することもできる。
【0134】
一方、アリールスルホン酸エステル化合物としては、国際公開第2017/217455号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、国際公開第2017/217457号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、特願2017-243631に記載のアリールスルホン酸エステル化合物等が挙げられ、具体的には、下記式(H6)~(H8)のいずれかで表されるものが好ましい。
【0135】
【化52】
(式中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。)
【0136】
式(H6)において、A11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基である。
A12は、-O-または-S-であるが、-O-が好ましい。
A13は、ナフタレンまたはアントラセンから誘導される(n+1)価の基であるが、ナフタレンから誘導される基が好ましい。
Rs1~Rs4は、それぞれ独立して、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0137】
直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~6アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ヘキシル基等が挙げられるが、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
炭素数2~20の1価炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル基等のアルキル基;フェニル、ナフチル、フェナントリル基等のアリール基などが挙げられる。
【0138】
特に、Rs1~Rs4のうち、Rs1またはRs3が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、残りが水素原子であるか、Rs1が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、Rs2~Rs4が水素原子であることが好ましい。この場合、炭素数1~3の直鎖アルキル基としては、メチル基が好ましい。
また、Rs5としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基またはフェニル基が好ましい。
【0139】
式(H7)において、A14は、置換されていてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基であり、この炭化水素基は、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20の炭化水素化合物からm個の水素原子を取り除いて得られる基である。
このような炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。
なお、上記炭化水素基は、その水素原子の一部または全部が、更に置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホ基等が挙げられる。
これらの中でも、A14としては、ベンゼン、ビフェニル等から誘導される基が好ましい。
【0140】
また、A15は、-O-または-S-であるが、-O-が好ましい。
A16は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基であり、この芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。
このような芳香族炭化化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。
中でも、A16としては、ナフタレンまたはアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0141】
Rs6およびRs7は、それぞれ独立して、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の1価脂肪族炭化水素基であり、Rs8は、直鎖状または分岐鎖状の1価脂肪族炭化水素基である。ただし、Rs6、Rs7およびRs8の炭素数の合計は6以上である。Rs6、Rs7およびRs8の炭素数の合計の上限は、特に限定されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
上記直鎖状または分岐鎖状の1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、イソプロペニル、1-メチル-2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基などが挙げられる。
これらの中でも、Rs6は水素原子が好ましく、Rs7およびRs8は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0142】
式(H8)において、Rs9~Rs13は、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基である。
炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
【0143】
炭素数1~10のハロゲン化アルキル基は、上記炭素数1~10のアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されるものではなく、その具体例としては、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル、3,3,3-トリフルオロプロピル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル、4,4,4-トリフルオロブチル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0144】
炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されるものではなく、その具体例としては、パーフルオロビニル、パーフルオロ-1-プロペニル、パーフルオロ-2-プロペニル、パーフルオロ-1-ブテニル、パーフルオロ-2-ブテニル、パーフルオロ-3-ブテニル基等が挙げられる。
【0145】
これらの中でも、Rs9としては、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基が好ましく、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数2~4のハロゲン化アルケニル基がより好ましく、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロペニル基がより一層好ましい。
Rs10~Rs13としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0146】
A17は、-O-、-S-または-NH-であるが、-O-が好ましい。
A18は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基であり、この芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。
このような芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。
これらの中でも、A18としては、ナフタレンまたはアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0147】
Rs14~Rs17は、それぞれ独立して、水素原子、または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基である。
1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、イソプロペニル、1-メチル-2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基などが挙げられるが、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0148】
Rs18は、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、またはORs19である。Rs19は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
Rs18の直鎖状または分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基としては、上記と同様のものが挙げられる。
Rs18が1価脂肪族炭化水素基である場合、Rs18は、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
Rs19の炭素数2~20の1価炭化水素基としては、前述した1価脂肪族炭化水素基のうちメチル基以外のもののほか、フェニル、ナフチル、フェナントリル基等のアリール基などが挙げられる。
これらの中でも、Rs19は、炭素数2~4の直鎖アルキル基またはフェニル基が好ましい。
なお、上記1価炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0149】
好適なアリールスルホン酸エステル化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0150】
【0151】
アリールスルホン酸エステル化合物の使用量は、物質量(モル)比で、電荷輸送性物質1に対して、好ましくは0.01~20程度、より好ましくは0.05~10程度である。
【0152】
本発明においては、透明性に優れ、高屈折率の電荷輸送性薄膜を作製することを考慮すると、ドーパント物質として、アリールスルホン酸化合物、アリールスルホン酸エステル化合物を用いることが好ましく、溶媒に対する溶解性や、消衰係数のより小さい薄膜を得ることを考慮すると、アリールスルホン酸エステル化合物を用いることがより好ましい。
【0153】
さらに、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、正孔輸送層への注入性の向上、素子の寿命特性等の改善を目的として、上記電荷輸送性ワニスは、有機シラン化合物を含んでいてもよい。その含有量は、電荷輸送性物質およびドーパント物質の合計質量に対して、通常1~30質量%程度である。
【0154】
電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、電荷輸送性物質および必要に応じて用いられるドーパント物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。
このような高溶解性溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5~100質量%とすることができる。
なお、電荷輸送性物質およびドーパント物質は、いずれも上記溶媒に完全に溶解していることが好ましい。
【0155】
また、ワニスに、25℃で10~200mPa・s、特に35~150mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50~300℃、特に150~250℃の高粘度有機溶媒を少なくとも1種類含有させることで、ワニスの粘度の調整が容易になり、その結果、平坦性の高い薄膜を再現性よく与える、用いる塗布方法に応じたワニス調整が可能となる。
高粘度有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
ワニスに用いられる溶媒全体に対する高粘度有機溶媒の添加割合は、固体が析出しない範囲内であることが好ましく、固体が析出しない限りにおいて、添加割合は、5~80質量%が好ましい。
【0156】
さらに、基板に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、その他の溶媒を、ワニスに使用する溶媒全体に対して1~90質量%、好ましくは1~50質量%の割合で混合することもできる。
このような溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、γ-ブチロラクトン、エチルラクテート、n-ヘキシルアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0157】
また、電荷輸送性物質として、上述した式(1)または(2)で表されるアニリン誘導体を用いる場合、当該アニリン誘導体が、例えばカルバゾールの9位の窒素原子上に置換基を有する場合のように分子内にNH構造を有しない場合、好ましくは全ての窒素原子上に置換基を有している場合、下記に示される低極性溶媒のみを用いてワニスを調製することが容易になる。
低極性溶媒の具体例としては、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール等の脂肪族アルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、4-メトキシトルエン、3-フェノキシトルエン、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル、フタル酸ジメチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、マレイン酸ジブチル、マロン酸ジイソプロピル、シュウ酸ジブチル、酢酸ヘキシル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0158】
電荷輸送性ワニスの粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度に応じて適宜定まるものではあるが、通常、25℃で1~50mPa・sである。
また、電荷輸送性ワニスの固形分濃度は、ワニスの粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1~10.0質量%程度であり、ワニスの塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5~5.0質量%程度、より好ましくは1.0~3.0質量%程度である。
【0159】
電荷輸送性ワニスの調製法としては、特に限定されるものではないが、例えば、式(I)の高分子化合物や電荷輸送性物質等の固形分を高溶解性溶媒に溶解させ、そこへ高粘度有機溶媒を加える手法や、高溶解性溶媒と高粘度有機溶媒を混合し、そこへ式(I)の高分子化合物や電荷輸送性物質を溶解させる手法、低極性溶媒を使用可能な電荷輸送性物質や高分子化合物である場合は、低極性溶媒に固形分を溶解させる手法などが挙げられる。
【0160】
特に、電荷輸送性ワニスの調製の際、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る観点から、電荷輸送性物質、高分子化合物、ドーパント物質等を有機溶媒に溶解させた後、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いて濾過することが望ましい。
【0161】
以上説明した電荷輸送性ワニスは、これを用いることで容易に電荷輸送性薄膜を製造できることから、電子素子、特に有機EL素子を製造する際に好適に用いることができる。
この場合、電荷輸送性薄膜は、上述した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布して焼成して形成することができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられ、塗布方法に応じてワニスの粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0162】
また、塗布後の電荷輸送性ワニスの焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面および高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができるが、用いるドーパント物質の種類によっては、ワニスを大気雰囲気下で焼成することで、電荷輸送性を有する薄膜が再現性よく得られる場合がある。
【0163】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、100~260℃程度の範囲内で適宜設定されるものではあるが、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140~250℃程度が好ましく、145~240℃程度がより好ましいが、上述した式(1)または式(2)で表されるアニリン誘導体を電荷輸送性物質として用いる場合、200℃以下という低温焼成でも、良好な電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。
なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0164】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層または正孔注入輸送層として用いる場合、その厚さは、通常3~300nm、好ましくは5~200nmである。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0165】
上記電荷輸送性薄膜を有機EL素子に適用する場合、有機EL素子を構成する一対の電極の間に、上述の電荷輸送性薄膜を備える構成とすることができる。
有機EL素子の代表的な構成としては、以下(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層あるいは電子注入輸送層がホール(正孔)ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。さらに、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0166】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」および「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
「電子注入層」、「電子輸送層」および「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料を含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0167】
本発明の電荷輸送性ワニスから作製された電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層等の陽極と発光層との間に設けられる機能膜として用い得るが、上述のとおり、耐溶剤性に優れていることから、通常、塗布により上層が作製される正孔注入層に好適である。
【0168】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いてEL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔注入層を有するOLED素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
陽極基板上に、上記の方法により、上記電荷輸送性ワニスを用いて正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/ホールブロック層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成する代わりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物を用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0169】
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属、またはこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0170】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5”-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2’:5’,2”-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類などが挙げられる。
【0171】
発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0172】
電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0173】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物などが挙げられるが、これらに限定されない。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0174】
正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1’-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1’-ペンテン-5’-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルシスキノキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0175】
発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【実施例】
【0176】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)MALDI-TOF-MS:ブルカー社製、autoflex III smartbeam
(2)1H-NMR:日本電子(株)製 JNM-ECP300 FT NMR SYSTEM
(3)基板洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(4)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS-A100
(5)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET-4000
(6)素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(7)素子の電流密度の測定:(株)イーエッチシー製 多チャンネルIVL測定装置
(8)屈折率(n)の測定:ジェー・エー・ウーラムジャパン製 多入射角分光エリプソメーターVASE
(9)消衰係数(k)の測定:ジェー・エー・ウーラムジャパン製 多入射角分光エリプソメーターVASE
【0177】
[1]電荷輸送性物質の製造
[合成例1]アニリン誘導体Aの合成
アニリン誘導体Aは、下記のスキームに従い、国際公開第2015/050253号に記載された方法で合成した。
1H-NMR(300MHz,THF-d8)δ[ppm]:8.08(d,J=7.7Hz,2H),7.99(d,J=7.7Hz,8H),7.60-7.64(m,19H),7.42-7.47(m,6H),7.28-7.36(m,19H),7.09-7.21(m,6H),7.00(m,8H).
MALDI-TOF-MS m/Z found:1404.68([M]
+calcd:1404.56).
【化54】
【0178】
[2]電荷輸送性ワニスの調製
合成例1で得られたアニリン誘導体A0.178gと、国際公開第2017/217455号に記載された方法に従って合成した下記式で表されるアリールスルホン酸エステルB0.157g(ドーパント物質/電荷輸送性物質=1.0 モル比)との混合物に、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル3.98g、マロン酸ジイソプロピル2.39g、フタル酸ジメチル1.59gを加えて室温で撹拌して溶解させて得られた溶液に、国際公開第2010/147155号の合成例4の手法で合成した下記式で示される高分子化合物C(Mw2800、分散度Mw/Mn=1.77)0.084g(固形分に占める割合20質量%)を添加した後、孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して電荷輸送性ワニスを得た。
【0179】
【0180】
[実施例1-2~1-4]
高分子化合物Cの添加量を、それぞれ0.037g(固形分に占める割合10質量%)、0.144g(固形分に占める割合30質量%)、0.223g(固形分に占める割合40質量%)とし、ワニス中に占める固形分の割合が5質量%となるように溶媒の重量を調整した以外は、実施例1-1と同様にして電荷輸送性ワニスを得た。
【0181】
[比較例1-1]
高分子化合物Cを添加せず、ワニス中に占める固形分の割合が5質量%となるように溶媒の重量を調整した以外は、実施例1-1と同様にして電荷輸送性ワニスを得た。
【0182】
[3]薄膜の製造および膜物性評価
(1)光学物性
[実施例2-1~2-4および比較例2-1]
実施例1-1~1-4および比較例1-1で得られたワニスを、それぞれスピンコーターを用いて石英基板に塗布した後、大気焼成下、120℃で1分間乾燥した。次に、乾燥させた石英基板を大気雰囲気下、200℃で15分間焼成し、石英基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
得られた薄膜付き石英基板を用いて、波長550nmにおける屈折率nおよび消衰係数kの測定を行った。結果を表1に示す。
【0183】
【0184】
表1に示されるように本発明の電荷輸送性ワニスから得られた薄膜は、高い屈折率を有し、また、高分子化合物Cを含まない比較例2-1の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜に比べて消衰係数が低いことがわかる。
【0185】
(2)溶剤耐性
[実施例3-1および比較例3-1]
実施例1-1および比較例1-1で調製したワニスを、それぞれスピンコーター(500rpm,5秒→2000rpm,20秒)を用いてITO基板に塗布した後、120℃で1分乾燥し、さらに200℃で15分焼成して電荷輸送性薄膜を作製した。なお、ITO基板としては、インジウム錫酸化物(ITO)が表面上に膜厚50nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。
【0186】
上記で作製した各電荷輸送性薄膜上に、トルエン450mlを滴下した後、5分間静置した。次いで、2000rpm,20秒の条件で基板を回転させることで溶媒を除去し、さらに150℃で5分間乾燥して溶媒を完全に除去した。
トルエン塗布前後の膜厚から残膜率を算出した。結果を表2に示す。
【0187】
【0188】
表2に示されるように、実施例3-1で作製した電荷輸送性薄膜は、高分子化合物Cを含んでいるワニスから作製されているため、トルエン塗布後の膜減りが少なく、溶剤耐性に優れていることがわかる。なお、比較例3-1で作製した薄膜では、トルエン滴下後に5nm程度の膜荒れが発生したが、実施例3-1の薄膜では膜荒れは発生しなかった。
【0189】
[4]単層素子の作製および特性評価
[実施例4-1]
実施例3-1と同様の手法で電荷輸送性薄膜を作製した。この上に、蒸着装置(真空度4.0×10-5Pa)を用いてアルミニウム薄膜を形成して単層素子を得た。蒸着は、蒸着レート0.2nm/秒の条件で行った。アルミニウム薄膜の膜厚は80nmとした。
【0190】
[比較例4-1]
比較例3-1と同様の手法で作製した電荷輸送性薄膜を用いた以外は、実施例4-1と同様にして単層素子を作製した。
【0191】
上記で作製した各単層素子について、駆動電圧5Vでの電流密度を測定した。結果を表3に示す。
【0192】
【0193】
表3に示されるように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示すことがわかる。