(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】結晶化ガラス及び化学強化ガラス並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 10/12 20060101AFI20230920BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C03C10/12
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2021511371
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011304
(87)【国際公開番号】W WO2020203200
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019072736
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 仁美
(72)【発明者】
【氏名】福士 恭基
(72)【発明者】
【氏名】李 清
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雄介
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-043834(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022035(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022034(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/167850(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/202885(WO,A1)
【文献】特公昭60-049145(JP,B2)
【文献】特開2012-091995(JP,A)
【文献】特開2004-309021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 10/12
C03C 21/00
C03C 3/00 - 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均曲率半径が5.0×10
2mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×10
3mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される3次元形状の結晶化ガラスであって、
前記結晶化ガラスは表面に圧縮応力層を有する化学強化ガラスであり、前記結晶化ガラスの表面圧縮応力値が500MPa以上かつ圧縮応力層深さが80μm以上であり、
前記最小のR形状の中心部に対し垂直に波長543nmの光を照射することで測定した1mm厚さ当たりのリタデーションの最大値が20nm/mm以下であり、
前記最大のR形状における厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下である結晶化ガラス。
【請求項2】
β-スポジュメン結晶を含有する結晶化ガラスである請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%表示で、
SiO
2を58~74%、
Al
2O
3を5~30%、
Li
2Oを1~14%、
Na
2Oを0~5%、
K
2Oを0~2%含有する請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%表示で、
SiO
2を58~74%、
Al
2O
3を5~30%、
Li
2Oを1~14%、
Na
2Oを0~5%、
K
2Oを0~2%、
SnO
2およびZrO
2のいずれか一種以上を合計で0.5~12%、及び
P
2O
5を0~6%含有する、請求項
1~3のいずれか1項に記載の
結晶化ガラス。
【請求項5】
厚さ0.8mm換算の光透過率が85%以上である請求項
1~4のいずれか1項に記載の
結晶化ガラス。
【請求項6】
表示装置のカバーガラスに用いられる請求項
1~5のいずれか1項に記載の
結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高く、強度と成形性に優れる3次元形状の結晶化ガラス及び化学強化ガラス並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器のディスプレイ装置のカバーガラス、インストルメントパネルやヘッドアップディスプレイ(HUD)等の車載表示部材のカバーガラスには優れた強度及び透明性が求められている。このようなカバーガラスには、例えば、薄くて強度の高い化学強化ガラスが用いられている。
【0003】
前記カバーガラスに用いられるガラスとして、操作性や視認性を高めるために、複数のR形状から構成される3次元形状のガラスが求められることがある。3次元形状のガラスの製造方法としては、例えば、平らなガラス板を加熱し、成形型を用いてプレスすることにより曲げ成形する(3次元成形ともよばれる)方法が挙げられる(特許文献1)。
【0004】
また、前記カバーガラスに用いられるガラスとして、結晶を含まない非晶質ガラスが用いられているが、より高強度の結晶化ガラスも提案されている(特許文献2)。結晶化ガラスは、ガラスを熱処理することにより、ガラス中に結晶を析出させたガラスである。
【0005】
3次元形状の結晶化ガラスを得る方法としては、例えば、非晶質ガラスから結晶を析出させながら曲げ成形する方法、非晶質ガラスを結晶化してから曲げ成形する方法、結晶化ガラスを研削等の方法で3次元形状に加工する方法、非晶質ガラスを曲げ成形してから結晶化する方法等が挙げられる(特許文献3及び4)。
【0006】
特許文献2には、第一の温度域内となるように板状ガラスの温度を保持し、前記板状ガラスから結晶を析出させながら、前記板状ガラスに作用する外力によって、前記板状ガラスの少なくとも一部を曲面形状へ変形させる変形工程を有する、曲面形状を有する結晶化ガラスの製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、結晶性ガラス平板の一の方向における一部を局所的に加熱して軟化させた状態で変形させる結晶性ガラス屈曲板を作製する工程と、成形型の上に前記結晶性ガラス屈曲板を載置し、加熱することにより前記結晶性ガラス屈曲板を変形させると共に結晶化させることにより前記結晶化ガラス屈曲板を得る結晶化工程とを備える、結晶化ガラス屈曲板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2014/167894号
【文献】国際公開第2019/022034号
【文献】日本国特開2017-190265号公報
【文献】日本国特開2014-141356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のように、曲げ成形して3次元形状を有するガラスを製造する方法では、特に湾曲部において、ガラスと成形型との接触ムラにより加熱時の熱ムラが生じ、成形後のガラスに応力差(リタデーション)が生じ易い。また、生産性を向上するために曲げ成形における冷却速度を速めると、成形後のガラスにおけるリタデーションが大きくなる。ガラス内のリタデーションが大きくなるとガラスが割れ易くなり、強度が低下する。
【0010】
また、3次元形状の結晶化ガラスを得る場合、結晶化後に成形するのが一般的であるが、ガラスの組成によっては成形時の加熱によりヘーズが悪化して、ガラスの透明性が低下するという問題がある。一方で、曲げ成形後に結晶化する方法では、結晶化のための加熱処理によって変形や透明性の低下が生じやすい問題がある。これらの事情により、カバーガラスに適した優れた透明性、強度及び形状安定性を備える3次元形状の結晶化ガラスは得られ難かった。
【0011】
本発明は、強度、透明性及び形状安定性に優れた3次元形状ガラス及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑みガラス組成等について鋭意研究を重ねた結果、強度、透明性及び形状安定性に優れた3次元形状ガラス及びその製造方法を見出し、本発明をなした。
【0013】
本発明は、平均曲率半径が5.0×102mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×103mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される3次元形状の結晶化ガラスであって、
以下の測定方法で測定されたリタデーションの最大値が20nm/mm以下であり、
前記最大のR形状における厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下である結晶化ガラスを提供する。
(測定方法)
各R形状の円弧上の1点以上について垂直に波長543nmの光を照射して複屈折測定装置を用いてリタデーションを測定する。ただし、測定サンプル中心部曲面の接線と測定対象面の接線がなす角度が90°以上となる場合は、測定しない。
【0014】
本発明は、表面に圧縮応力層を有し、平均曲率半径が5.0×102mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×103mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される3次元形状の化学強化ガラスであって、
表面圧縮応力値(CS0)が500MPa以上かつ圧縮応力層深さ(DOL)が80μm以上であり、
結晶を含有する結晶化ガラスであり、
前記最小のR形状の中心部に対し垂直に波長543nmの光を照射することで測定した1mm厚さ当たりのリタデーションの最大値が20nm/mm以下であり、
前記最大のR形状における厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下である化学強化ガラスに関する。
【0015】
本発明は、酸化物基準の質量%表示で
SiO2を58~74%、
Al2O3を5~30%、
Li2Oを1~14%、
Na2Oを0~5%、
K2Oを0~2%、
SnO2およびZrO2のいずれか一種以上を合計で0.5~12%、及び
P2O5を0~6%含有する非晶質ガラスを加熱して曲げ成形により、平均曲率半径が5.0×102mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×103mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される3次元形状の非晶質ガラスを得る工程、及び
前記3次元形状の非晶質ガラスを加熱処理により結晶化して3次元形状の結晶化ガラスを得る工程を含む、3次元形状の結晶化ガラスの製造方法に関する。
【0016】
本発明は、酸化物基準の質量%表示で
SiO2を58~74%、
Al2O3を5~30%、
Li2Oを1~14%、
Na2Oを0~5%、
K2Oを0~2%、
SnO2およびZrO2のいずれか一種以上を合計で0.5~12%、及び
P2O5を0~6%含有する非晶質ガラスを加熱して曲げ成形により、平均曲率半径が5.0×102mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×103mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される3次元形状の非晶質ガラスを得る工程、
前記3次元形状の非晶質ガラスを加熱処理により結晶化して3次元形状の結晶化ガラスを得る工程、
前記3次元形状の結晶化ガラスを化学強化する工程を含む、3次元形状の化学強化ガラスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の3次元形状ガラスによれば、平均曲率半径が5.0×102mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×103mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される3次元形状であって、前記最小のR形状に対し垂直に波長543nmの光を照射することで測定した1mm厚さ当たりのリタデーションの最大値が20nm/mm以下であることにより、割れにくく強度及び成形安定性に優れている。また、前記最大のR形状における厚さ0.8mm換算のヘーズ値が1.0%以下であることにより、透明性に優れている。
【0018】
本発明の3次元形状ガラスの製造方法によれば、特定の組成を有する非晶質ガラスを加熱して曲げ成形により3次元形状の非晶質ガラスとする工程の後に、加熱処理により結晶化する工程を含むことにより、成形時に生じるリタデーションを低減して強度を向上できる。また、成形時の加熱によるヘーズの悪化を抑制して優れた透明性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本発明の3次元形状ガラスの形状の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の3次元形状ガラスの形状の一例を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)は斜視図である。
【
図3】
図3は本発明の3次元形状ガラスの形状の一例を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)は斜視図である。
【
図4】
図4は、結晶化ガラスのX線回折パターンの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の3次元形状ガラスの製造方法の一実施態様を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。特段の定めがない限り、以下本明細書において「~」は、上記と同様の意味で使用される。
【0021】
本明細書においては、「非晶質ガラス」と「結晶化ガラス」とを合わせて「ガラス」という。本明細書において「非晶質ガラス」とは、粉末X線回折法によって、結晶を示す回折ピークが認められないガラスをいう。「結晶化ガラス」とは、「非晶質ガラス」を加熱処理して、結晶を析出させたものをいい、結晶を含有する。
【0022】
粉末X線回折測定は、CuKα線を用いて2θが10°~80°の範囲を測定し、回折ピークが現れた場合には、例えば、3強線法によって析出結晶を同定する。
【0023】
以下において、「化学強化ガラス」とは、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」とは、化学強化処理を施す前のガラスをいう。
【0024】
また、「化学強化ガラスの母組成」とは、化学強化用ガラスのガラス組成をいう。極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、化学強化ガラスの圧縮応力層深さ(DOL)より深い部分のガラス組成は化学強化ガラスの母組成である。
【0025】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準の質量%表示で表し、質量%を単に「%」と表記する。
【0026】
また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。本明細書において、ある成分を実質的に含有しないと記載されている場合、当該成分の含有量は、具体的には、例えば0.1%未満である。
【0027】
本明細書において「応力プロファイル」とはガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したものをいう。応力プロファイルにおいて、引張応力は負の圧縮応力として表される。
【0028】
「圧縮応力値(CS)」または「表面圧縮応力値(CS0)」は、ガラスの断面を薄片化し、該薄片化したサンプルを複屈折イメージングシステムで解析することによって測定できる。複屈折イメージングシステムとしては、例えば、株式会社東京インスツルメンツ製複屈折イメージングシステムAbrio-IMがある。また、「圧縮応力値(CS)」または「表面圧縮応力値(CS0)」は、散乱光光弾性を利用しても測定できる。この方法では、ガラスの表面から光を入射し、その散乱光の偏光を解析してCSを測定できる。散乱光光弾性を利用した応力測定器としては、例えば、折原製作所製散乱光光弾性応力計SLP-1000がある。
【0029】
本明細書において「圧縮応力層深さ(DOL)」とは、圧縮応力値(CS)がゼロとなる深さをいう。本明細書において「内部引張応力(CT)」とは、板厚tの1/2の深さにおける引張応力値をいう。
【0030】
本明細書において「リタデーション」とは、ガラス板の主面に対して垂直の方向から波長543nmの光を照射し、複屈折計を用いて測定し、厚さ0.55mmに換算した値をいう。複屈折計としては、例えば、株式会社フォトニックラティス製WPA-100、WPA-200がある。
【0031】
本明細書において「光透過率」は、波長380nm~780nmにおける可視光の平均透過率をいう。また、「ヘーズ値」はC光源を使用し、JIS K3761:2000に従って測定した値をいう。「厚さ0.8mm換算のヘーズ値」は、測定対象の厚さが0.8mmではない場合には、厚さが0.8mmになるように加工して測定したヘーズ値をいう。または、「厚さ0.8mm換算のヘーズ値」は、元の厚さで測定したヘーズ値と、加工して厚さを変えてから測定したヘーズ値とから計算で求めた、厚さ0.8mmの場合に相当するヘーズ値をいう。
【0032】
本明細書において「熱膨張係数」は、JIS R1618:2002に準じて昇温速度を10℃/minとして測定した、特段の記載がない限りは50℃から500℃における平均熱膨張係数をいう。また、「ガラス転移点」は、その熱膨張曲線から求められる値をいう。
【0033】
本明細書において「ビッカース硬度」は、JIS R1610:2003に規定されるビッカース硬さ(HV0.1)をいう。
【0034】
また、「破壊靱性値」は、DCDC法(Acta metall.mater. Vol.43、pp.3453-3458、1995)を用いて測定できる。
【0035】
<3次元形状ガラス>
本発明に係る3次元形状ガラスには、3次元形状の結晶化ガラス及び3次元形状の化学強化ガラスが含まれる。本発明において、「3次元形状」とは、平均曲率半径が5.0×102mm以下である最小のR形状及び平均曲率半径が1.0×103mm以上である最大のR形状を含む複数のR形状から構成される形状をいう。本発明における3次元形状には、連続した曲線からなる湾曲形状、縦横方向に湾曲している形状、平面上に凹凸を有する形状のいずれもが含まれる。
【0036】
図1、
図2、
図3は、それぞれ本発明の3次元形状ガラスの一例を示す図である。これらの図は全体が均一な厚さの3次元形状ガラスを示しているが、3次元形状は、厚さの異なる部分を有する形状であってもよい。
【0037】
図1の3次元形状ガラス100は、略平面である中心部110の周囲に周辺部120を有し、中心部110と周辺部120の間に最小R形状を含み、略平面である中心部110に最大のR形状を含む。
【0038】
図2の(a)及び(b)は、内裏面の両端部に両端部に向かうにしたがって外表面から離間する方向に湾曲する一対の平均曲率半径がR1である最小のR形状を含み、上方向(図中)に湾曲する平均曲率半径がR2である最大のR形状を含む形状のガラスを表す。
【0039】
図3の(a)及び(b)は、内裏面の両端部に両端部に向かうにしたがって外表面から離間する方向に湾曲する一対の平均曲率半径がR1である最小のR形状を含み、下方向(図中)に湾曲する平均曲率半径がR2である最大のR形状を含む形状のガラスを表す。
【0040】
平均曲率は、面が平面からどのように偏っているかを表す物理的指標値である。平均曲率の数学的導出は周知であり、本明細書においては省略する。簡単には、面の平均曲率は、面上のある地点における曲面の法線ベクトルを中心に曲面を回転させて得られる回転体曲率の最大値と最小値の中間の値として定められる。また、面の平均曲率半径は、平均曲率の逆数として定められる。
【0041】
具体的な例を挙げると、半径がRの球の球面上の任意の地点における平均曲率は、1/Rである。また、底面の半径がRの円筒の側面上の任意の地点においては、最大曲率が1/R、最小曲率が0であるため、平均曲率は1/2Rである。したがって、面上のある地点における平均曲率の値は物理的形状を表す重要なパラメータである。平均曲率は公知の任意の手法により測定可能である。
【0042】
最小のR形状における平均曲率半径R1は、5.0×102mm以下であり、好ましくは1.0×102mm以下、より好ましくは5.0×101mm以下である。また、平均曲率半径R1は、1.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.5mm以上、さらに好ましくは5.0mm以上である。最小のR形状の曲げ角度は、1°以上が好ましく、10°以上がより好ましく、20°以上がさらに好ましい。また、最小のR形状の曲げ角度は、89°以下であることが好ましく、より好ましくは80°以下であり、さらに好ましくは75°以下である。
【0043】
最大のR形状の平均曲率半径R2は、1.0×103mm以上であり、好ましくは2.5×103mm以上、より好ましくは5.0×103mm以上である。また、平均曲率半径R2は、4.0×105mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0×105mm以下、さらに好ましくは1.0×105mm以下である。最大のR形状の曲げ角度は、0°超~10.0°であることが好ましく、より好ましくは0°超~8.0°、さらに好ましくは0°超~5.0°である。
【0044】
本発明に係る3次元形状ガラスの内部に残存する応力は、リタデーションを指標として用いて評価できる。例えば、複屈折測定装置を用いて測定される、所定の波長の第1の直線偏光の光に対する屈折率と、該第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光の光に対する屈折率との屈折率差(屈折率異方性)をΔnとし、本3次元形状ガラスの中心部の厚さをt[nm]とする。
【0045】
このとき、測定されるリタデーションΔn×t[nm]によって、残存応力のレベルを評価してもよい。また、リタデーションは、実際の3次元形状ガラスの中心部の厚さ(t[nm])をそのまま用いる場合に限らず、1mm厚さ当たりのリタデーションΔn×d[nm/mm]として評価してもよい。この場合、d=t[nm]/t[mm]で計算できる。
【0046】
本発明に係る3次元形状ガラスは、以下の測定方法で測定されたリタデーションの最大値が20nm/mm以下であり、好ましくは18nm/mm以下、より好ましくは16nm/mm以下である。リタデーション値は、少なくとも1の断面上において測定すればよい。
(測定方法)
各R形状の円弧上の1点以上について垂直に波長543nmの光を照射して複屈折測定装置を用いてリタデーションを測定する。ただし、測定サンプル中心部曲面の接線と測定対象面の接線がなす角度が90°以上となる場合は、測定しない。
【0047】
リタデーションの大きさは、ガラス中の応力に依存するものであり、リタデーションの最大値が小さいことは、ガラス中の応力差が小さいことを意味する。本発明の3次元形状ガラスは、リタデーションの最大値が20nm/mm以下であることにより、割れにくく、強度及び成形安定性に優れている。前記リタデーションの最大値の下限は特に限定されないが、通常1nm/mm以上である。
【0048】
本発明の3次元形状ガラスは、最大のR形状における厚さ0.8mm換算のヘーズ値が、1.0%以下であり、0.8%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.4%以下がさらに好ましく、0.3%以下が極めて好ましく、0.25%以下が最も好ましい。前記ヘーズ値が1.0%以下であることにより、優れた透明性を実現でき、携帯端末等の表示部のカバーガラス等に好適である。
【0049】
一方、結晶化率を下げなければヘーズを下げ難い場合には、機械的強度を高くする等のために、最大のR形状における厚さ0.8mm換算のヘーズ値は、0.05%以上が好ましく、0.08%以上がより好ましい。
【0050】
本発明に係る3次元形状ガラスは、最大のR形状における厚さ0.8mm換算の光透過率が85%以上であることが好ましく、87%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましく、89%以上が特に好ましい。前記光透過率が85%以上であると、携帯ディスプレイのカバーガラスに用いた場合に、画面が見え易くなる。光透過率は、高い程好ましいが、通常は91%以下、又は90%以下である。91%は一般的な非晶質ガラスと同等の透過率である。
【0051】
本発明に係る3次元形状ガラスは、結晶化ガラスであることから、非晶質ガラスと比較して強度が高く、ビッカース硬度が大きいため傷つきにくい。ビッカース硬度は、耐摩耗性のために700以上が好ましく、740以上がより好ましく、780以上がさらに好ましい。一方、ビッカース硬度が大きすぎると加工しにくくなる場合があるため、ビッカース硬度は1100以下が好ましく、1050以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。
【0052】
<結晶化ガラス>
本発明に係る結晶化ガラスは、上述の3次元形状ガラスに含まれるものであり、3次元形状の結晶化ガラスである。
本発明に係る結晶化ガラスのヤング率は、化学強化処理する際に反りを抑制できるために好ましくは80GPa以上、より好ましくは85GPa以上であり、さらに好ましくは87GPa以上、特に好ましくは90GPa以上である。ヤング率が高すぎると研磨等の加工が困難になるので、加工性をよくするために、ヤング率は130GPa以下が好ましく、125GPa以下がより好ましく、120GPa以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明に係る結晶化ガラスの破壊靱性値は、好ましくは0.8MPa・m1/2以上、より好ましくは1MPa・m1/2以上である。破壊靱性値が前記範囲であると、強化ガラスが破壊した際に破片が飛散しにくくなる。
【0054】
本発明に係る結晶化ガラスの50℃~500℃における平均熱膨張係数は、好ましくは30×10-7/℃以下、より好ましくは25×10-7/℃以下、さらに好ましくは20×10-7/℃以下、特に好ましくは15×10-7/℃以下である。50℃~500℃における平均熱膨張係数は、通常は、10×10-7/℃以上である。
【0055】
本発明に係る結晶化ガラスは、リチウムアルミノシリケート結晶を含有することが好ましい。リチウムアルミノシリケート結晶を含有する結晶化ガラスは、化学強化処理によって、析出結晶も強化されるので、高い強度が得られる。
【0056】
化学強化後の強度をより高くしたい場合は、本発明に係る結晶化ガラスは、β-スポジュメン結晶を含有する結晶化ガラスが好ましい。β-スポジュメン結晶は、LiAlSi2O6と表され、X線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ)が25.55°±0.05°、22.71°±0.05°、及び28.20°±0.05°に回折ピークを示すリチウムアルミノシリケート結晶である。
【0057】
図4にβ-スポジュメン結晶を含有する結晶化ガラスと強化後の結晶化ガラス(化学強化ガラス)とのX線回折パターンの例を示す。
図4において、実線は強化前の結晶化ガラス板について測定されたX線回折パターンであり、
図4中に黒丸で示したβ-スポジュメン結晶の回折線が認められる。点線で示したのは、化学強化後の結晶化ガラス(化学強化ガラス)板について測定されたX線回折パターンである。
【0058】
β-スポジュメン結晶を含有する結晶化ガラスは、他の結晶を含有する結晶化ガラスよりも化学強化によって表面圧縮応力値(CS0)が大きくなる傾向がある。β-スポジュメン結晶は結晶構造が緻密なので、化学強化のためのイオン交換処理によって析出結晶中のイオンがより大きいイオンに置換されたときの結晶構造変化に伴って発生する圧縮応力が大きく、化学強化の効果がより大きくなるためと考えられる。
【0059】
β-スポジュメン結晶は、結晶成長速度が大きいことが知られている。そこで、β-スポジュメン結晶を含有する結晶化ガラスは含有する結晶が大きくなりやすく、そのために透明性が低く、ヘーズ値が大きいことが多い。しかし、本発明に係る結晶化ガラスは、微小な結晶を多数含有し、透明性が高く、ヘーズ値が小さい。
【0060】
本発明に係る結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。一方、結晶化率は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下が特に好ましい。結晶化率を80%以下とすることにより透明性を向上できるとともに、加熱して曲げ成形等しやすい。
【0061】
結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0062】
本発明に係る結晶化ガラスの析出結晶の平均粒径は、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。析出結晶の平均粒径は、粉末X線回折強度からリートベルト法を用いて計算できる。
【0063】
本発明に係る結晶化ガラスは、酸化物基準の質量%表示で、SiO2を58~74%、Al2O3を5~30%、Li2Oを1~14%、Na2Oを0~5%、K2Oを0~2%を含有することが好ましく、また、SnO2およびZrO2のいずれか一種以上を合計で0.5~12%、及びP2O5を0~6%含有することがより好ましい。前記組成の中でもLi2Oを2~14%含有することがさらに好ましく、また、Na2O+K2Oが1~5%であることが特に好ましい。
【0064】
また、酸化物基準の質量%表示で、SiO2を58~70%、Al2O3を15~30%、Li2Oを2~10%、Na2Oを0~5%、K2Oを0~2%、SnO2を0.5~6%、ZrO2を0.5~6%、及びP2O5を0~6%含有し、Na2O+K2Oが1~5%の結晶化ガラスがさらに好ましい。
【0065】
すなわち、本発明に係る結晶化ガラスとしては、前記組成の非晶質ガラスを結晶化したものが好ましい。
【0066】
<化学強化ガラス>
本発明に係る3次元形状ガラスは化学強化されたガラスであることが好ましい。すなわち、本発明に係る化学強化ガラスは、上述の3次元形状ガラスに含まれるものであり、3次元形状の化学強化ガラスである。
本発明に係る化学強化ガラスの表面圧縮応力値(CS0)は、500MPa以上であると、撓み等の変形によって割れにくく、好ましい。本発明に係る化学強化ガラスの表面圧縮応力値は、600MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましく、1000MPa以上が特に好ましい。
【0067】
本発明に係る化学強化ガラスの圧縮応力層深さ(DOL)は、80μm以上であると表面に傷が生じた時も割れにくく、好ましい。DOLは、より好ましくは90μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上であり、特に好ましくは120μm以上である。
【0068】
また、圧縮応力値が50MPa以上となる最大深さ(以下において「50MPa深さ」ということがある。)が80μm以上であると、アスファルト等の硬い面上に落下したときにも割れにくくなるのでより好ましい。50MPa深さは、さらに好ましくは90μm以上であり、特に好ましくは100μm以上である。
【0069】
本発明に係る化学強化ガラスの内部引張応力(CT)は110MPa以下であると、強化ガラスが破壊した際に破片が飛散しにくくなるので好ましい。CTは、より好ましくは100MPa以下、さらに好ましくは90MPa以下である。一方でCTを小さくするとCSが小さくなり、充分な強度が得られ難くなる傾向がある。そのため、CTは50MPa以上が好ましく、55MPa以上がより好ましく、60MPa以上がさらに好ましい。
【0070】
本発明に係る化学強化ガラスの4点曲げ強度は、900MPa以上が好ましく、1000MPa以上がより好ましく、1100MPa以上がさらに好ましい。ここで4点曲げ強度は、40mm×5mm×0.8mmの試験片を用いて、下スパン30mm、上スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で測定する。10試験片の平均値を4点曲げ強度とする。
【0071】
本発明に係る化学強化ガラスの光透過率およびヘーズ値は、化学強化前の3次元形状ガラスとほぼ同じである。また、化学強化前の3次元形状ガラスと同様、β-スポジュメン結晶を含有することが好ましい。
【0072】
本発明に係る化学強化ガラスのビッカース硬度は、化学強化前の3次元形状ガラスより大きい傾向がある。本発明に係る化学強化ガラスのビッカース硬度は、720以上が好ましく、740以上がより好ましく、780以上がさらに好ましく、800以上がよりさらに好ましい。また、本発明に係る化学強化ガラスのビッカース硬度は、通常は950以下である。
【0073】
<3次元形状の結晶化ガラスの製造方法>
本発明に係る3次元形状の結晶化ガラスの製造方法は、以下の工程(1)及び(2)を含む。
(1)非晶質ガラスを加熱して曲げ成形により3次元形状の非晶質ガラスを得る工程
(2)前記3次元形状の非晶質ガラスを加熱処理により結晶化して3次元形状の結晶化ガラスを得る工程
以下、各工程について説明する。
【0074】
(1)非晶質ガラスを成形型上に設置して加熱する成形により3次元形状の非晶質ガラスを得る工程
工程(1)は、非晶質ガラスを曲げ成形して湾曲状に曲げることにより、3次元形状の非晶質ガラスを得る工程である。
【0075】
(非晶質ガラス)
非晶質ガラスのガラス組成は、酸化物基準の質量%表示で、SiO2を58~74%、Al2O3を5~30%、Li2Oを1~14%、Na2Oを0~5%、K2Oを0~2%、SnO2およびZrO2のいずれか一種以上を合計で0.5~12%、及びP2O5を0~6%含有する組成であることが好ましい。前記組成の中でもLi2Oを2~14%含有することがより好ましく、また、Na2O+K2Oが1~5%であることがより好ましい。
【0076】
また、酸化物基準の質量%表示で、SiO2を58~70%、Al2O3を15~30%、Li2Oを2~10%、Na2Oを0~5%、K2Oを0~2%、SnO2を0.5~6%、ZrO2を0.5~6%、及びP2O5を0~6%含有し、Na2O+K2Oが1~5%であるものがさらに好ましい。
【0077】
以下、これらのガラス組成を説明する。
【0078】
SiO2はガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、SiO2は化学的耐久性を上げる成分であり、リチウムアルミノシリケート結晶の構成成分であり、リチウムシリケート結晶の構成成分でもある。SiO2の含有量は58%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、64%以上がさらに好ましい。一方、SiO2の含有量が多すぎると溶融性が著しく低下するのでSiO2の含有量は74%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、68%以下がさらに好ましく、66%以下が特に好ましい。
【0079】
Al2O3は化学強化によって生じる圧縮応力を大きくするために有効な成分であり、必須である。また、Al2O3はリチウムアルミノシリケート結晶の構成成分である。Al2O3の含有量は5%以上が好ましく、β-スポジュメン結晶を析出させたい場合は15%以上がより好ましい。Al2O3の含有量は、さらに好ましくは20%以上である。一方、Al2O3の含有量が多すぎるとガラスの失透温度が高くなる。Al2O3の含有量は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0080】
Li2Oは、イオン交換により圧縮応力を形成させる成分であり、リチウムアルミノシリケート結晶の構成成分であり、必須である。Li2Oの含有量は、1%以上が好ましく、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは4%以上である。一方、Li2Oの含有量は、14%以下が好ましく、β-スポジュメン結晶を析出させたい場合はより好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下である。
【0081】
β-スポジュメン結晶を含有する結晶化ガラスとする場合には、Li2OとAl2O3の含有量比Li2O/Al2O3は0.3以下であると透明性が高くなるために好ましい。これは熱処理時に結晶化が急激に進行して結晶サイズが大きくなるためと考えられる。
【0082】
Na2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。Na2Oは必須ではないが、好ましくは含有量が0.5%以上、より好ましくは1%以上である。Na2Oは多すぎるとリチウムアルミノシリケート結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0083】
K2Oは、Na2Oと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。K2Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。またNa2OとK2Oとの合計の含有量Na2O+K2Oは1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0084】
K2Oは多すぎるとリチウムアルミノシリケート結晶が析出しにくくなるため、含有量は2%以下が好ましい。またNa2OとK2Oとの合計の含有量Na2O+K2Oが過剰であると熱処理時に結晶化の促進が阻害され、透明性が低下するおそれがある。透明性を高くするためには、当該合計の含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0085】
ZrO2およびSnO2は、いずれも必須ではないが、結晶化処理に際して結晶核を構成する成分であり、いずれか一種以上を含有することが好ましい。SnO2とZrO2との含有量の合計SnO2+ZrO2は、結晶核を生成するために0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。結晶核を多数形成して透明性を高めるためには、当該含有量の合計は3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましく、5%以上がよりさらに好ましく、6%以上が特に好ましく、7%以上が最も好ましい。また、ガラス中に未融物による欠点が生じにくいために、当該含有量の合計は12%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましく、8%以下が特に好ましい。
【0086】
β-スポジュメン結晶を析出させるためには、SnO2は、0.5%以上含有することが好ましい。SnO2の含有量は、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましい。SnO2の含有量は6%以下であると、ガラス中に未融物による欠点が生じにくく好ましい。SnO2の含有量はより好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下である。
【0087】
SnO2は、ソラリゼーション耐性を高める成分でもある。SnO2の含有量は、ソラリゼーションを抑制するために1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましい。
【0088】
一般的に、結晶化ガラスの結晶核形成成分としては、TiO2やZrO2が知られている。本発明者等の検討によれば、本組成においては、TiO2よりもZrO2の効果が高かった。また、SnO2を加えることで、結晶化ガラスの透明性が高くなった。
【0089】
ZrO2の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、ZrO2の含有量が6%以下であると溶融時に失透しにくくなり、化学強化ガラスの品質が低下するのを抑制できる。ZrO2の含有量は6%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、さらに好ましくは4%以下である。
【0090】
SnO2とZrO2とをともに含有する場合、その合計量に対するSnO2量の比SnO2/(SnO2+ZrO2)は透明性を高くするために0.3以上が好ましく、0.35以上がより好ましく、0.45以上がさらに好ましい。
【0091】
またSnO2/(SnO2+ZrO2)は、強度を高くするために0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。
【0092】
TiO2は、結晶化ガラスの結晶核形成成分となるので、含有してもよい。TiO2を含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上である。一方、TiO2の含有量が5%以下であると溶融時に失透しにくくなり、化学強化ガラスの品質が低下するのを抑制できるため5%以下が好ましい。TiO2の含有量はより好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。
【0093】
また、ガラス中にFe2O3が含まれる場合に、ガラスがTiO2を含有するとイルメナイト複合体とよばれる複合体が形成され、黄色または褐色の着色を生じやすい。Fe2O3はガラス中に不純物として普通に含まれるので、着色を防止するためにはTiO2の含有量は1%以下が好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.25%以下であり、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0094】
P2O5は、必須ではないが、ガラスの分相を促して結晶化を促進する効果があり、含有してもよい。P2O5を含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上である。
【0095】
一方、P2O5の含有量が多すぎると、化学強化ガラスの破砕性が悪化し、また耐酸性が著しく低下する。P2O5の含有量は、6%以下が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下である。耐酸性をさらに高くするためにはP2O5は実質的に含有しないことが好ましい。
【0096】
B2O3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。B2O3は必須ではないが、B2O3を含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。
【0097】
一方、B2O3の含有量が5%を超えると溶融時に脈理が発生し化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため5%以下が好ましい。B2O3の含有量は、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。耐酸性を高くするためには実質的に含有しないことが好ましい。
【0098】
MgOは、化学強化による圧縮応力を増大させる成分であり、強化ガラスが破壊した際に破片の飛散を抑制する成分であり、含有してもよい。MgOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するためにはMgOの含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0099】
CaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、溶融時の失透を防止し、かつ熱膨張係数の上昇を抑制しながら溶解性を向上させるため含有してもよい。CaOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。一方、イオン交換特性を高くするために、CaOの含有量は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0100】
SrOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、またガラスの屈折率を向上させて、結晶化後の残留ガラス相の屈折率と析出結晶の屈折率を近づけることにより結晶化ガラスの透過率を向上できるため含有してもよい。
【0101】
SrOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上である。一方、SrO含有量が多すぎるとイオン交換速度が低下するため、該観点からは、SrO含有量は3%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0102】
BaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、またガラスの屈折率を向上させて、結晶化後の残留ガラス相の屈折率とリチウムアルミノシリケート結晶相の屈折率を近づけることにより結晶化ガラスの透過率を向上できるため含有してもよい。
【0103】
BaOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上である。一方、BaO含有量が多すぎるとイオン交換速度が低下するため、該観点からは、BaO含有量は3%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0104】
ZnOは、ガラスの熱膨張係数を低下させ、化学的耐久性を増大させる成分である。また、ZnOはガラスの屈折率を向上し、結晶化後の残留ガラス相の屈折率とリチウムアルミノシリケート結晶相の屈折率を近づけることによって結晶化ガラスの透過率を向上するため含有してもよい。
【0105】
ZnOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するためにはZnOの含有量は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【0106】
Y2O3、La2O3、Nb2O5およびTa2O5は、いずれもガラスが破壊した際に破片が飛散することを抑制する効果があり、屈折率を高くするために、含有してもよい。これらの成分を含有させる場合、Y2O3、La2O3、Nb2O5の含有量の合計Y2O3+La2O3+Nb2O5は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスを失透しにくくするためには、Y2O3+La2O3+Nb2O5の含有量は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0107】
Y2O3、La2O3、Nb2O5およびTa2O5の合計の含有量Y2O3+La2O3+Nb2O5+Ta2O5は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスを失透しにくくするためには、Y2O3+La2O3+Nb2O5+Ta2O5は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0108】
CeO2は、ガラスを酸化する効果があり、SnO2を多く含有する場合に、SnO2が着色成分のSnOに還元することを抑制して着色を抑える場合があるため、含有してもよい。CeO2を含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeO2を酸化剤として用いる場合には、CeO2の含有量は、多すぎるとガラスが着色しやすくなるため、透明性を高くするためには1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0109】
さらに、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、Er2O3、Nd2O3が好適なものとして挙げられる。着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0110】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO3、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。As2O3は含有しないことが好ましい。Sb2O3を含有する場合は、Sb2O3の含有量は0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0111】
平均熱膨張係数が大きいと、冷却時に歪や割れを生じやすいため、非晶質ガラスの50~500℃における平均熱膨張係数は100×10-7/℃以下が好ましく、より好ましくは80×10-7/℃以下であり、さらに好ましくは60×10-7/℃以下である。非晶質ガラスの50~500℃における平均熱膨張係数が小さいと、成形時に型と非晶質ガラスとの熱膨張差が生じ、所望の形状に成形できなくなる。そのため、非晶質ガラスの50~500℃における平均熱膨張係数は10×10-7/℃以上が好ましく、より好ましくは30×10-7/℃以上であり、さらに好ましくは40×10-7/℃以上である。
【0112】
後述する曲げ成形の型材とガラスの熱膨張差が大きいと目的形状に合わせて補正率を考慮して型を設計する必要がある。非晶質ガラスの平均熱膨張係数が前記範囲であることにより、曲げ成形の型材にカーボンを用いた場合、ガラスと型との熱膨張差を低減でき、目的形状から補正率を計算して型を設計する必要性がなく、生産性を向上できる。
【0113】
非晶質ガラスは、例えば、次に示す方法で製造できる。なお、次に示す方法は、板状の非晶質ガラスを製造する場合の例である。
好ましい組成のガラスが得られるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等により溶融ガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。または、溶融ガラスをブロック状に成形して、徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0114】
平面ガラスの製造方法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が利用できる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、例えば、フュージョン法及びダウンドロー法も好ましい。
【0115】
(曲げ成形)
曲げ成形は、ガラスを加熱して湾曲状に成形し、結晶化させずに高温から急冷する工程である。曲げ成形の方法としては、例えば、自重成形法、真空成形法、プレス成形法等の既存の曲げ成形法が挙げられ、任意の方法を選択できる。また、2種以上の曲げ成形法を併用してもよい。
【0116】
自重成形法は、成形型上にガラス板を設置した後、該ガラス板を加熱し、重力により成形型になじませて、所定の形状に曲げ成形する方法である。
【0117】
真空成形法は、成形型上にガラス板を設置し、該ガラス板の周辺をシールした後、成形型とガラス板との空間を減圧して、ガラス板の表裏面に差圧を与えて曲げ成形する方法である。この際に、補助的に、ガラス板の上面側を加圧してもよい。
【0118】
プレス成形は、成形型(下型と上型)間にガラス板を設置し、ガラス板を加熱して、上下の成形型間にプレス荷重を加えて、所定の形状に曲げ成形する方法である。
【0119】
いずれにしても、ガラスを加熱した状態で力を加えて変形させる。
【0120】
曲げ成形の温度(以下、熱曲げ温度とも略す)が低いと、所望の形状に成形できないため曲げ成形温度は500℃以上が好ましく、より好ましくは600℃以上であり、さらに好ましくは700℃以上であり、750℃以上が最も好ましい。曲げ成形の温度が高いと、成形機の温度上限を超えることから1100℃以下が好ましく、より好ましくは1050℃以下であり、900℃以下が最も好ましい。
【0121】
曲げ成形の粘性(曲げ成形時の平衡粘性)が低いと、所望の形状に成形できないため曲げ成形粘性は108Pa・s以上が好ましく、より好ましくは109Pa・s以上であり、1010Pa・s以上が最も好ましい。曲げ成形の粘性が高いと所望の形状が維持しづらくなるため、曲げ成形粘性は1013Pa・s以下が好ましく、より好ましくは1012Pa・s以下であり、1011.5Pa・s以下が最も好ましい。
【0122】
結晶化処理温度と熱曲げ温度が近いと結晶の核生成や結晶成長が生じるため、それらの差は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上で、さらに好ましくは15℃以上である。結晶化処理の最高温度と熱曲げ温度の差は、曲げ成形による透過率低下を抑制するために、200℃以下が好ましく、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは130℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
【0123】
核生成温度と熱曲げ温度の差は、熱曲げ時に核生成を促進したい場合には、10℃以下が好ましい。一方、プロセス上結晶制御をする上では結晶化処理時に核生成を行うことが望ましく、その場合は、温度差を10℃以上にすることが好ましい。
【0124】
結晶化処理温度に対して、熱曲げ温度が高い場合には、曲げ成形によって透過率が低下する場合がある。曲げ成形による透過率低下は、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0125】
また、最終的なガラスの透明性を高く維持するためには、曲げ成形前の光透過率が高い方が有利であり、厚さ0.8mm換算の光透過率は85%以上であることが好ましい。厚さ0.8mm換算の光透過率はより好ましくは87%以上、特に好ましくは89%以上である。
【0126】
非晶質ガラスの50~500℃における平均熱膨張係数と曲げ成形に用いる型材の50~500℃における平均熱膨張係数との差の絶対値は150×10-7/℃以下であることが好ましく、より好ましくは100×10-7/℃以下であり、さらに好ましくは50×10-7/℃以下であり、30×10-7/℃以下が最も好ましい。
【0127】
曲げ成形に用いる型とガラスの熱膨張差が大きいとガラスの離型性が悪いため、ガラスの膨張率と型材の膨張率との差から求められる補正率を考慮した型設計が必要であり、生産性が低下する。前記差の絶対値が150×10-7/℃以下であることにより、曲げ成形に用いる型とガラスの熱膨張差を低減し、目的形状に合わせて型を設計する必要性がなく、生産性を向上できる。
【0128】
本発明における非晶質ガラスは、50~500℃における平均熱膨張係数がカーボンに近似していることから、カーボンを材質とするカーボン型を用いて曲げ成形することが好ましい。これにより、大幅な補正をしなくても、成形時に応力差が生じるのを抑制して強度を向上できるとともに、優れた寸法安定性及び成形精度を実現できる。
【0129】
本発明における非晶質ガラスの50~500℃における平均熱膨張係数が大きい場合には所望の形状が得られにくくなることから、好ましくは170×10-7/℃以下であり、より好ましくは160×10-7/℃以下であり、さらに好ましくは150×10-7/℃以下である。また、カーボン型を用いる場合には、熱膨張係数は60×10-7/℃以下が特に好ましい。熱膨張係数が低い場合には方からの離型性が悪くなるため好ましくは20×10-7/℃以上であり、より好ましくは30×10-7/℃以上であり、さらに好ましくは40×10-7/℃以上である。
【0130】
本発明における非晶質ガラスのガラス転移点と結晶化処理の最高温度との差は、成形時の結晶成長を抑制する観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上である。
【0131】
(2)前記3次元形状の非晶質ガラスを加熱処理により結晶化して3次元形状の結晶化ガラスを得る工程
工程(2)は、工程(1)で得られた3次元形状の非晶質ガラスを加熱処理することで3次元形状の結晶化ガラスを得る工程である。
工程(2)における加熱処理は、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、第一の処理温度より高温である第二の処理温度にて一定時間保持する2段階の加熱処理によることが好ましい。
【0132】
二段階の加熱処理による場合、第一の処理温度は、そのガラス組成において結晶核生成速度が大きくなる温度域が好ましく、第二の処理温度は、そのガラス組成において結晶成長速度が大きくなる温度域が好ましい。また、第一の処理温度での保持時間は、充分な数の結晶核が成長するように長く保持することが好ましい。多数の結晶核が生成することで、各結晶の大きさが小さくなり、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0133】
第一の処理温度は、例えば550℃~800℃であり、第二の処理温度は、例えば850℃~1000℃である。第一処理温度で2時間~10時間保持した後、第二処理温度で2時間~10時間保持する。
【0134】
上記手順で得られた3次元形状の結晶化ガラスを必要に応じて研削及び研磨処理する。結晶化ガラス板を所定の形状及びサイズに切断したり、面取り加工を行ったりする場合、化学強化処理を施す前に、切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0135】
<3次元形状の化学強化ガラスの製造方法>
本発明に係る3次元形状の化学強化ガラスの製造方法は、以下の工程(1)~(3)を含む。
(1)非晶質ガラスを加熱して曲げ成形により3次元形状の非晶質ガラスを得る工程
(2)前記3次元形状の非晶質ガラスを加熱処理により結晶化して3次元形状の結晶化ガラスを得る工程
(3)工程(2)で得られた前記3次元形状の結晶化ガラスを化学強化する工程
工程(1)及び(2)については、<3次元形状の結晶化ガラスの製造方法>において上述した工程(1)及び(2)と同様の工程である。以下、工程(3)について説明する。
【0136】
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に浸漬する等の方法で、ガラスを金属塩に接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)を大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)と置換させる処理である。
【0137】
化学強化処理の速度を速くするためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換する「Li-Na交換」を利用することが好ましい。またイオン交換により大きな圧縮応力を形成するためには、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換する「Na-K交換」を利用することが好ましい。
【0138】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
化学強化処理の処理条件は、ガラス組成や溶融塩の種類などを考慮して、時間及び温度等を適切に選択すればよい。
【0140】
本発明に係る化学強化ガラスは、例えば以下の2段階の化学強化処理によって得ることが好ましい。
【0141】
まず、1段階目の化学強化処理として、3次元形状の結晶化ガラスを350~500℃程度のNaイオンを含む金属塩(例えば、硝酸ナトリウム)に0.1~10時間程度浸漬する。これによって結晶化ガラス中のLiイオンと金属塩中のNaイオンとのイオン交換が生じ、例えば表面圧縮応力値(CS0)が200MPa以上で圧縮応力層深さが80μm以上の圧縮応力層が形成できる。一方、表面圧縮応力値(CS0)が1000MPaを超えると、CTを低く保ちつつ、DOLを大きくすることが困難になる。表面圧縮応力値は好ましくは900MPa以下であり、より好ましくは700MPa以下、さらに好ましくは600MPa以下である。
【0142】
次に、2段階目の化学強化処理として、350~500℃程度のKイオンを含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)に0.1~10時間程度浸漬する。これによって、前の処理で形成された圧縮応力層の、例えば深さ10μm程度以内の部分に、大きな圧縮応力が生じる。
【0143】
このような2段階の処理によれば、表面圧縮応力値(CS0)が600MPa以上の、好ましい応力プロファイルが得られやすい。
【0144】
はじめにNaイオンを含む金属塩に浸漬した後、大気中で350~500℃に1~5時間保持してから、Kイオンを含む金属塩に浸漬してもよい。保持温度は好ましくは325℃以上であり、より好ましくは340℃以上である。また、保持温度は好ましくは475℃以下であり、より好ましくは460℃以下である。
【0145】
大気中で高温に保持することで、はじめの処理によって金属塩からガラス内部に導入されたNaイオンがガラス中で熱拡散し、より好ましい応力プロファイルが形成される。
【0146】
または、Naイオンを含む金属塩に浸漬した後、大気中で保持するかわりに、350~500℃の、NaイオンとLiイオンとを含む金属塩(例えば、硝酸ナトリウムと硝酸リチウムとの混合塩)に0.1~20時間浸漬してもよい。
【0147】
NaイオンとLiイオンとを含む金属塩に浸漬することで、ガラス中のNaイオンと金属塩中のLiイオンとのイオン交換が生じ、より好ましい応力プロファイルが形成され、それによってアスファルト落下強度が高められる。
【0148】
このような2段階または3段階の強化処理を行う場合には、生産効率の点から、処理時間は合計で10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましい。一方、所望の応力プロファイルを得るためには、処理時間は合計で0.5時間以上必要である。処理時間はより好ましくは1時間以上である。
【0149】
本発明に係る3次元形状ガラスは、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等の表示装置に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラスにも有用である。自動車や飛行機等の内装等のカバーガラスとしても有用である。
【実施例】
【0150】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれによって限定されない。表において、空欄は未測定であることを示す。
【0151】
[評価方法]
【0152】
(ガラス転移点)
ガラス転移点は、熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製、TD5000SA)を用いて測定した。
【0153】
(リタデーション)
波長543nmの光をガラスに照射し、複屈折測定装置(株式会社フォトニックラティス製、WPA-100)を用いて、各R形状における円弧上の1か所以上でリタデーション値を測定した。
【0154】
(ヘーズ値)
JIS K3761:2000に従って、ヘーズメータ(スガ試験機株式会社製、HZ-2)を用いて最大のR形状におけるヘーズ値を測定した。
【0155】
(熱膨張係数)
熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製、TD5000SA)を用いて、昇温速度を10℃/分として熱膨張曲線を得た。また、得られた熱膨張曲線から、50℃~500℃の平均線熱膨張係数[単位:×10-7/℃]を測定した。
【0156】
(析出結晶)
以下の条件で粉末X線回折を測定し、析出結晶(主結晶)を同定した。
測定装置:株式会社リガク製、SmartLab
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~80°
スピード:10°/分
ステップ:0.02°
【0157】
(平均曲率半径)
平均曲率半径は、gom社製の3次元計測機ATOS(型番:ATOS Triple scan III)により、初めに0.1mm間隔で断面方向に対するサンプル表面の高さ方向座標を測定し、その次に最小二乗法を用いて近似された円の一般式を求め、最後に平均曲率半径を算出した。
【0158】
[ガラスの製造]
<参考例1>
表1に酸化物基準の質量%表示で示す組成A~Iのガラスがそれぞれ800g得られるようにガラス原料を調合し、白金坩堝に入れて1400~1700℃の電気炉に投入して5時間溶融した。脱泡して均質化した溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点より30℃程度高い温度に1時間保持した後、0.5℃/分の冷却速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。得られたガラスブロックから、厚さ0.55mmのガラス板および、ガラス物性評価用の試験片を得た。ガラス板の表面は鏡面仕上げとした。
【0159】
得られたガラス板のガラス転移点、熱膨張係数を測定した結果を表1に示す。
【0160】
【0161】
組成B~Iは本発明に適した組成の例である。これらを加熱処理するとβ-スポジュメン結晶を含む結晶化ガラスが得られる。組成B~D、F、Gは熱膨張係数が40×10-7/℃~60×10-7/℃の範囲内であり、曲げ成形の型材にカーボンを用いた場合、ガラスと型との熱膨張差を低減でき、目的形状から計算して型を設計する必要性がなく、生産性を向上できる。
【0162】
<例1>
本発明の3次元形状ガラスの製造方法の一実施形態の概要図を
図5に示す。組成Aのガラス板13(80mm×50mm、角部がR形状のもの)について、ガラス端面から0.2mmの範囲についてC面取りをした。ここで、「角部がR形状」とは、プリフォームを真上から見た時に4ヶ所の角がR形状であることをいう。面取りは、600番の砥石(東京ダイア社製)を用い、端面の表面粗さ(面取り部分の算術平均表面粗さ)を450nmとした。
【0163】
曲率半径6.0mm、曲げ深さ4.0mmの屈曲面を成形できるように設計されたカーボン製の凹型11及び凸型12を準備し、凹型11のガラス接触面中央付近に、面取りしたガラス板13を載置した。
【0164】
ガラス板13を載置した凹型11と凸型12とが、成形装置(東芝機械株式会社製、ガラス素子成形装置:GMP-315V)の下軸と上軸とにそれぞれ固定された状態でガラス板13を予熱、変形および冷却した。
【0165】
このうち予熱工程は、室温から600℃まで15分間で昇温した。600℃において、ガラス板13の平衡粘性はおよそ1013Pa・sである。次に600℃から645℃まで5分間で昇温した。645℃におけるガラス板13の平衡粘性はおよそ1011.5Pa・sである。
【0166】
ガラス板13中央部の平衡粘性が1011Pa・s~1012Pa・sに保たれるように(温度を640~650℃に保持)した状態で凸型12を下方に移動し、凹型11を最大2000Nで3分間押圧した。その間、凸型12に設けられた貫通孔(不図示)から20L/minの窒素ガスを吹き込んでガラス板14が均一に成形されるようにした。
【0167】
次に、480℃まで20分かけて徐冷した。480℃におけるガラス板の平衡粘性は、およそ1021Pa・sである。次に、凸型12を2mm/secで上昇させ、退避させ、ガラス板14を室温まで放冷した。
【0168】
室温において、ガラス板14は最小のR形状における平均曲率半径6.0mm、曲げ深さ4.0mm、最大のR形状における平均曲率半径3.8×103mmであった。最大のR形状は、ガラス板14の内裏面及び外表面が略平行となる部分に含まれていた。
【0169】
ガラス板14の最小のR形状を有する面に対し、垂直に波長543nmの光を照射して、リタデーションを測定した。リタデーションの最大値は22nm/mmであった。
【0170】
<例2>
例1と同様にして、組成Bのガラス板13を面取り加工した。ガラス板13を例1と同様に曲げ成形して、最小のR形状の平均曲率半径6.0mm、曲げ深さ4.0mm、最大のR形状の平均曲率半径3.8×103mmのガラス板14を得た。最大のR形状は、ガラス板14の内裏面及び外表面が略平行となる部分に含まれていた。
【0171】
得られたガラス板14を凸型12に載置したまま、750℃にて4時間保持した後、900℃にて4時間保持することにより結晶化し、3次元形状の結晶化ガラス15を得た。
【0172】
得られた3次元形状の結晶化ガラス15について、例1と同様にして最大のR形状におけるリタデーションを測定した。最大のR形状におけるリタデーションの最大値は1.9nm/mmであった。また、最大のR形状におけるヘーズ値を測定した結果、0.29%であった。
【0173】
<例3>
例2と同様にして、組成Bのガラス板13を面取り加工した後、例2と同様に、加熱処理することにより結晶化して結晶化ガラス板を得た。得られた結晶化ガラス板を凸型12に載置して、例2と同様の条件にて曲げ成形し、3次元形状の結晶化ガラスを得た。
【0174】
得られた3次元形状の結晶化ガラスは最小のR形状における平均曲率半径12900mm、曲げ深さ4.2mm、最大のR形状における平均曲率半径5.7mmであった。また、最大のR形状におけるヘーズ値を測定した結果、3.0%であった。
【0175】
<例4~6>
ガラス組成、結晶化処理、成形タイミング、成形条件を表2に示す通りとした以外は例2と同様にして、3次元形状の結晶化ガラスを得た。
【0176】
得られた3次元形状のガラスを評価した結果を表2に示す。表2における「結晶化処理欄」は、2段の処理条件が記載されている場合は、上段に記載の温度及び時間で保持した後、下段に記載の温度及び時間で保持したことを意味する。例えば、上段に「750℃-4h」、下段に「920℃-4h」と記載した場合は、750℃にて4時間保持した後、920℃にて4時間保持したことを意味する。
【0177】
「成形タイミング」欄は、「結晶化前」と記載されている場合は、成形、結晶化の順で処理されたことを意味する。また、「結晶化後」と記載されている場合は、結晶化、成形の順で処理されたことを意味する。「Haze」は成型後、結晶化後のヘーズ値を示し、「ΔHaze」は成形後、結晶化後のヘーズ値(Haze)と成形前、結晶化前のヘーズ値の差を表す。「形状偏差」は目的形状からのずれを示す。
【0178】
得られた結晶化ガラスを評価した結果を表2に示す。例2、4は実施例、例1、3、5、6は比較例である。例2~6の析出結晶は、β-スポジュメン結晶であった。
【0179】
【0180】
表2に示すように、本発明の3次元形状ガラスである例2、4は、リタデーションの最大値が20nm以下であり、比較例である例1と比較して高い強度及び形状安定性(成形安定性)を示した。また、最大のR形状におけるヘーズ値が1.0%以下であり、透明性に優れていた。
【0181】
また、本発明で規定される組成範囲を満たす非晶質ガラスを曲げ成形後に結晶化して製造した例2、4は、結晶化後に曲げ成形した例3、6と比較して、成形時の加熱によるヘーズの悪化を抑制することができ、高い透明性を実現できた。
【0182】
本発明における好ましい組成範囲を満たす非晶質ガラスを曲げ成形後に結晶化して製造した例2、4は、形状偏差が小さく、目的形状に近いサンプルを得ることができた。
【0183】
したがって、本発明の3次元形状ガラスの製造方法によれば、成形時に生じる応力差を結晶化のための加熱処理により低減して強度を向上できるとともに、ヘーズの悪化を抑制して優れた透明性を実現できることがわかった。
【0184】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年4月5日出願の日本特許出願(特願2019-072736)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明によれば、強度、透明性及び形状安定性に優れた3次元形状ガラス及びその製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0186】
100 3次元形状ガラス
110 中心部
120 周辺部