(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】炭素材組成物、炭素材組成物の製造方法、負極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20230920BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20230920BHJP
C01B 32/21 20170101ALI20230920BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/05
C01B32/21
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2023537381
(86)(22)【出願日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2023004868
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022048746
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石渡 信亨
(72)【発明者】
【氏名】近藤 寿子
(72)【発明者】
【氏名】横溝 正和
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-158043(JP,A)
【文献】特開2015-185443(JP,A)
【文献】特開2014-67643(JP,A)
【文献】特開2010-251315(JP,A)
【文献】特開2016-85906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
C01B 32/05
C01B 32/21
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材(A)と炭素材(B)とを含む炭素材組成物であって、
前記炭素材(A)は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、前記細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、前記黒鉛の前記非晶質炭素質物又は前記黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たし、
前記炭素材(B)は、ペレット密度が1.80g/cm
3以上である、炭素材組成物。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
【請求項2】
前記炭素材(A)が、更に、下記式(2)を満たす、請求項1に記載の炭素材組成物。
y≧0.005 (2)
【請求項3】
前記細孔径が最小のピークのピークトップの細孔径が、500nm以下である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項4】
前記式(1)におけるxが、0.1~15である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項5】
前記炭素材(A)のタップ密度が、1.15g/cm
3以上である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項6】
前記炭素材(A)の比表面積が、3.0m
2/g以下である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項7】
前記炭素材(B)が、球形化黒鉛である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項8】
前記炭素材(B)の比表面積が、3.0m
2/g以上である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項9】
炭素材組成物100質量%中、前記炭素材(A)の含有率が、40質量%~90質量%であり、前記炭素材(B)の含有率が、10質量%~60質量%である、請求項1に記載の炭素材組成物。
【請求項10】
炭素材(A)と炭素材(B)とを混合する工程を含み、
前記炭素材(A)は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、前記細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たし、
前記炭素材(B)は、ペレット密度が1.80g/cm
3以上である、炭素材組成物の製造方法。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
【請求項11】
集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を含み、
前記活物質層が、請求項1~9のいずれか1項に記載の炭素材組成物を含む、負極。
【請求項12】
正極、負極及び電解質を含む二次電池であって、
前記負極が、請求項11に記載の負極である、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材組成物、炭素材組成物の製造方法、負極及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、充放電特性に優れた二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池として、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPF6やLiBF4等のリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用化されている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池の高性能化は広く検討されているが、近年、リチウムイオン二次電池の更なる高性能化が要求されている。例えば、特許文献1では、コート率あたりの粒子内の細孔容積や粒子内の空隙のピーク値を制御した負極材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されている負極材は、高密度で用いるとプレス時に破壊され、二次電池の初期効率が低下してしまうという課題を有する。また、一般的に用いられている負極材は、依然として極板が膨張するという課題を有する。
【0006】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高密度で用いてもプレス時に破壊されず、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できる炭素材組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、上記炭素材組成物を得るための炭素材組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従前、様々な種類の負極材が検討されてきたが、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できるような負極材が見出されていなかった。本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、後述する2種の炭素材を配合することで、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]炭素材(A)と炭素材(B)とを含む炭素材組成物であって、前記炭素材(A)は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、前記細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、前記黒鉛の前記非晶質炭素質物又は前記黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たし、前記炭素材(B)は、ペレット密度が1.80g/cm3以上である、炭素材組成物。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
[2]前記炭素材(A)が、更に、下記式(2)を満たす、[1]に記載の炭素材組成物。
y≧0.005 (2)
[3]前記細孔径が最小のピークのピークトップの細孔径が、500nm以下である、[1]又は[2]に記載の炭素材組成物。
[4]前記式(1)におけるxが、0.1~15である、[1]~[3]のいずれか1に記載の炭素材組成物。
[5]前記炭素材(A)のタップ密度が、1.15g/cm3以上である、[1]~[4]のいずれか1に記載の炭素材組成物。
[6]前記炭素材(A)の比表面積が、3.0m2/g以下である、[1]~[5]のいずれか1に記載の炭素材組成物。
[7]前記炭素材(B)が、球形化黒鉛である、[1]~[6]のいずれか1に記載の炭素材組成物。
[8]前記炭素材(B)の比表面積が、3.0m2/g以上である、[1]~[7]のいずれか1に記載の炭素材組成物。
[9]炭素材組成物100質量%中、前記炭素材(A)の含有率が、40質量%~90質量%であり、前記炭素材(B)の含有率が、10質量%~60質量%である、[1]~[8]のいずれか1に記載の炭素材組成物。
[10]炭素材(A)と炭素材(B)とを混合する工程を含み、前記炭素材(A)は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、前記細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たし、前記炭素材(B)は、ペレット密度が1.80g/cm3以上である、炭素材組成物の製造方法。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
[11]集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を含み、前記活物質層が、[1]~[9]のいずれか1に記載の炭素材組成物を含む、負極。
[12]正極、負極及び電解質を含む二次電池であって、前記負極が、[11]に記載の負極である、二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炭素材組成物は、二次電池の負極の活物質として用いる際に、高密度で用いてもプレス時に破壊されず、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できる。また、本発明の炭素材組成物の製造方法は、上記炭素材組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0011】
(炭素材組成物)
本実施形態に係る炭素材組成物は、炭素材(A)と炭素材(B)とを含む。炭素材(A)は非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、上記細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たす。また、炭素材(B)は、ペレット密度が1.80g/cm3以上である。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
【0012】
炭素材(A)に対し炭素材(B)の方が選択的に高密度まで変形されるため、炭素材組成物は炭素材(B)を有することで炭素材(A)の破壊を抑制でき、高初期効率かつ低膨張である炭素材(A)の性能を活かすことができる。そのため、本実施形態に係る炭素材組成物は、上記炭素材(A)及び上記炭素材(B)の両者を含むことで、高密度で用いてもプレス時に破壊されず、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できる。
【0013】
(炭素材(A))
炭素材(A)は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、上記細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たす。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
【0014】
本実施形態に係る炭素材組成物は、上記炭素材(A)を含むことで、以下の理由で、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できる。
水銀圧入法で測定した細孔容積のうち、細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積は、炭素材(A)の内部に存在する細孔容積の指標となる。これを黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率に対して特定の範囲まで小さくすることにより粒子内の空隙が少なくなる。粒子内の空隙が少ないことで、従来の天然黒鉛のような粒子内の空隙が多い粒子と比較して、粒子がより緻密で、粒子の変形がより少ない状態でプレスできる。
【0015】
炭素材(A)は、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、好ましくは2つのピークを有する。細孔分布のピークは、粒子間の空隙と粒子内の空隙を示すもので、細孔分布のピークが1つの場合には、粒子間の空隙のみ存在することを意味する。細孔分布のピークのピークが2つ以上の場合には、粒子間の空隙だけでなく粒子内の空隙も存在することを意味し、全く空隙が無い粒子と比較して粒子自体が変形する余裕がある点で優れる。
【0016】
炭素材(A)は、細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、下記式(1)を満たす。
y≦-0.0084x+0.13 (1)
炭素材(A)が式(1)を満たすことで、黒鉛の細孔が非晶質炭素質物又は黒鉛質物で好適に被覆され、すなわち、少ない非晶質炭素質物又は黒鉛質物で被覆されているため、炭素材(A)の粒子の硬さを和らげることができる。
【0017】
式(1)をy≦αx+βと表し、コート率xをx軸、積算細孔容積yをy軸とした場合、αは式(1)の傾きを表し、βは式(1)のy切片を表す。
αは、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率と黒鉛の粒子内の空隙を埋める効率との関係から、-0.0084である。
βは、コート前の黒鉛の粒子内の空隙であることから、0.13であるが、式(1)におけるβの値を0.13から0.11とした場合でも式(1)を満たすことが好ましく、0.09とした場合でも式(1)を満たすことがより好ましく、0.07とした場合でも式(1)を満たすことが更に好ましい。
【0018】
炭素材(A)は、粒子内の空隙が最低限存在する必要があることから、更に、下記式(2)を満たすことが好ましい。
y≧0.005 (2)
【0019】
式(2)をy≧γと表した場合、γは、粒子自体が変形する余裕があることから、0.005が好ましく、式(2)におけるγの値を0.005から0.010とした場合でも式(2)を満たすことがより好ましく、0.015とした場合でも式(2)を満たすことが更に好ましい。
【0020】
炭素材(A)は式(1)に加えて式(2)を満たすことが好ましいが、その際の式(1)の右辺におけるβの値は、0.13に代えて0.11がより好ましく、0.09がさらに好ましく、0.07がよりさらに好ましく、式(2)の右辺におけるγの値についても、0.005に代えて0.010がより好ましく、0.015がさらに好ましい。
【0021】
炭素材(A)の細孔径が最小のピークのピークトップの細孔径は、粒子内の細孔が小さく、粒子内の鱗片同士がより緻密化し、極板の膨張を低減できることから、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下が更に好ましい。細孔径の下限は特に限定されないが、通常5nm以上である。
【0022】
炭素材(A)の積算細孔容積y(mL/g)は0.002~0.120が好ましく、0.003~0.090がより好ましく、0.005~0.070がさらに好ましく、0.010~0.050が特に好ましい。ここで、充放電時にリチウムイオンが電極内をスムーズに移動でき、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、0.002以上が好ましく、0.003以上がより好ましく、0.005以上が更に好ましく、0.010以上が特に好ましく、また、0.120以下が好ましく、0.090以下がより好ましく、0.070以下が更に好ましく、0.050以下が特に好ましい。
【0023】
本明細書において、細孔分布は、水銀圧入法で測定する。
具体的には、水銀ポロシメータを用い、0.2g前後の値となるように秤量した試料をパウダー用セルに封入し、25℃、50μmHg以下にて10分間脱気して前処理を実施する。次いで、4psiaに減圧して上記セルに水銀を導入し、圧力を4psiaから40000psiaまでステップ状に昇圧させた後、25psiaまで降圧させる。昇圧時のステップ数を80点以上とし、各ステップでは10秒の平衡時間の後、水銀圧入量を測定する。こうして得られた水銀圧入曲線からWashburnの式を用い、細孔分布を算出する。水銀の表面張力(γ)は、485dyne/cm、接触角(ψ)は、140°として算出する。得られた結果から、横軸を細孔径、縦軸を細孔容積とするグラフを作成する。このグラフから、ピークを確認し、細孔径が最小のピークと次のピークとの間(細孔径が小さい側の2つのピークの間)の極小値を確認し、この極小値以下の積算細孔容積を積算細孔容積(mL/g)とする。ピークとは、波形の頂点を示し、その高さ(頂点とその両隣の極小値との積算細孔容積の差)が0.002mL/g以上であるものをいう。
【0024】
炭素材(A)のコート率x(%)は0.1~15が好ましく、1~12がより好ましく、2~10がさらに好ましく、3~8がよりさらに好ましい。ここで、リチウムイオンを黒鉛からスムーズに移動でき、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、コート率x(%)は0.1以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上が更に好ましく、3以上が特に好ましい。また、黒鉛の割合が十分で、高容量化しやすいことから、コート率x(%)は15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、8以下が特に好ましい。
【0025】
本明細書において、コート率x(%)は、下記式(3)により算出する。即ち、黒鉛と非晶質炭素質物又は黒鉛質物との混合比率、焼成後の焼成収率により算出する。
コート率x(%)=([焼成後の試料の質量-黒鉛の質量]/[焼成後の試料の質量])×100 (3)
【0026】
上記混合比率、上記焼成収率が不明の場合、コート率x(%)は、黒鉛と非晶質炭素質物又は黒鉛質物との真密度の差を用いて推定する。
具体的には、炭素材中の黒鉛の結晶性をd002値により確認し、d002値が3.357Å以下の高結晶であれば、下記式(4)を用いてコート率x(%)を推定する。
コート率x(%)=596.72-264.02×真密度 (4)
【0027】
黒鉛の理論的なd002値は、3.354Åであり、結晶性の高い天然黒鉛は、d002値が理論値に近い値を示す。一方、人造黒鉛は、原料コークスの種類、黒鉛化温度により、d002値が大きく変動する。
【0028】
炭素材(A)のd002値は、黒鉛が高結晶で、十分な充放電容量を有することから、3.357Å以下が好ましく、3.356Å以下がより好ましく、3.354Åが更に好ましい。
【0029】
炭素材(A)のLcは、黒鉛が高結晶で、十分な充放電容量を有することから、900Å以上が好ましく、1000Å以上がより好ましい。Lcの上限値は特に限定されないが、測定精度の上限として通常1000Åである。
【0030】
本明細書において、d002値は、学振法によるX線回折法により測定した格子面(002面)の面間隔の値とし、Lcは、学振法によるX線回折法により測定した結晶子の大きさの値とする。X線回折の測定条件は、以下とする。
試料:測定対象に総量の約15質量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したもの
X線:CuKα線
測定範囲:20°≦2θ≦30°
ステップ角度:0.013°
試料調整:0.2mmの深さの試料板凹部に粉末試料を充填し平坦な試料面を作製
【0031】
本明細書において、真密度は、ブタノールを用いた液相置換法(ピクノメーター法)により測定した値とする。真密度の測定回数は5回とし、その平均値を用いる。
【0032】
炭素材(A)の真密度は、充填性、容量に優れることから、2.200g/cm3以上が好ましく、2.210g/cm3以上がより好ましく、2.220g/cm3以上が更に好ましい。黒鉛の理論的な真密度は、2.262g/cm3である。
【0033】
(炭素材(A)の物性)
炭素材(A)の体積基準平均粒径(d50)は1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましく、5~20μmがさらに好ましい。ここで、不可逆容量の増加や初期電池容量の損失を防ぐことから、炭素材(A)の体積基準平均粒径は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。また、極板作製時のスジ引き等の工程不良を抑制でき、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材(A)の体積基準平均粒径は50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。
【0034】
本明細書において、体積基準平均粒径(d50)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した体積基準のメジアン径の値とする。
具体的には、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液10mLに、試料0.01gを懸濁させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、上記測定装置における体積基準のメジアン径を測定する。
【0035】
炭素材(A)の比表面積(SA)は0.5~10.0m2/gが好ましく、0.8~6.5m2/gがより好ましく、1.0~5.0m2/gがさらに好ましく、1.0~3.0m2/gがよりさらに好ましい。ここで、リチウムイオンが出入りする部分が確保され、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材(A)の比表面積は0.5m2/g以上が好ましく、0.8m2/g以上がより好ましく、1.0m2/g以上が更に好ましい。また、電解液との副反応が抑制され、初期充放電効率の低減やガス発生量の増加を防ぎ、電池容量が向上することから、炭素材(A)の比表面積は10.0m2/g以下が好ましく、6.5m2/g以下がより好ましく、5.0m2/g以下がより好ましく、3.0m2/g以下が更に好ましく、2.0m2/g以下がよりさらに好ましい。
【0036】
本明細書において、比表面積(SA)は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法により測定した値とする。
具体的には、比表面積測定装置を用いて、試料に対して窒素流通下350℃、15分の予備減圧乾燥を行った後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法により測定する。
【0037】
炭素材(A)のタップ密度は1.15~1.40g/cm3が好ましく、1.17~1.35g/cm3がより好ましく、1.20~1.30g/cm3がさらに好ましい。ここで、極板作製時のスジ引き等の工程不良を抑制でき、充填性が上がるため圧延性が良好で高密度の負極シートが形成しやすく、電極体にしたときにリチウムイオンの移動経路の屈曲度が小さくなり、粒子間の空隙の形状が整うため電解液の移動がスムーズになり急速充放電特性が向上することから、炭素材(A)のタップ密度は1.15g/cm3以上が好ましく、1.17g/cm3以上がより好ましく、1.20g/cm3以上が更に好ましい。また、粒子の表面や内部に適度な空間を有するため粒子が固くなり過ぎず電極プレス性に優れ、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材(A)のタップ密度は1.40g/cm3以下が好ましく、1.35g/cm3以下がより好ましく、1.30g/cm3以下が更に好ましい。
【0038】
本明細書において、タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cm3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、試料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行って、そのときの体積と試料の質量から算出した密度の値とする。
【0039】
炭素材(A)のペレット密度からタップ密度を引いた数値は0.10~0.80g/cm3が好ましく、0.15~0.60g/cm3がより好ましく、0.20~0.40g/cm3がさらに好ましい。ここで、粒子が硬過ぎることなく、高密度までプレスできることから、上記差は0.10g/cm3以上が好ましく、0.15g/cm3以上がより好ましく、0.20g/cm3以上が更に好ましい。また、粒子が適度な硬さを有し、高密度にプレスしても電極表面の粒子が潰れ過ぎることなく、電解液の移動がスムーズとなることから、上記差は0.80g/cm3以下が好ましく、0.60g/cm3以下がより好ましく、0.40g/cm3以下が更に好ましい。
【0040】
本明細書において、ペレット密度からタップ密度を引いた数値は、下記式(5)により算出する。ペレット密度からタップ密度を引いた数値は、荷重をかけたときの詰まりやすさを表し、粒子の硬さの指標として用いることができる。
ペレット密度からタップ密度を引いた数値(g/cm3)=ペレット密度-タップ密度 (5)
【0041】
本明細書において、ペレット密度は、以下の方法により測定した値とする。
内径10mmの金型に、押し治具として直径10mm、長さ35mmのシャフト及び受け治具として直径10mm、長さ6mmのシャフトの2種類の治具を挿入後、挟み込んだ時の荷重と高さを測定可能な装置にセットし、油圧ポンプで15kgfの荷重を加え、治具高さを測定する。その後、押し治具のみを取り出して、炭素材0.6gを加え、再度押し治具を挿入する。金型を油圧ジャッキにセットし、圧力弁を締めて、0.9t/cm2まで緩やかに加圧し、2.4t/cm2まで速やかに加圧した後、3秒間保持し、油圧ジャッキから手を離して60秒待ち、圧力弁を緩めて減圧する。その後、挟み込んだ時の荷重と高さを測定可能な装置に再度セットし、油圧ポンプで15kgfの荷重を加え、加圧後の治具高さを測定する。併せて、加圧後の炭素材の質量を測定し、前述の治具高さの差分と質量から算出される密度を、ペレット密度とする。単位面積当たりの荷重は、油圧ジャッキの目盛り、油圧ジャッキのシリンダー径、金型の内径から算出する。
【0042】
炭素材(A)のペレット密度は1.30~1.79g/cm3が好ましく、1.40~1.70g/cm3がさらに好ましい。ここで、上記ペレット密度は1.30g/cm3以上が好ましく、1.40g/cm3以上がより好ましく、また、1.79g/cm3以下が好ましく、1.70g/cm3以下がより好ましい。
【0043】
炭素材(A)の円形度は0.88~0.99が好ましく、0.90~0.98がより好ましく、0.92~0.97がさらに好ましい。ここで、リチウムイオン拡散の屈曲度が下がり、粒子間の空隙中への電解液の移動がスムーズになり、急速充放電特性に優れることから、炭素材(A)の円形度は0.88以上が好ましく、0.90以上がより好ましく、0.92以上が更に好ましい。また、炭素材(A)の円形度は、炭素材同士の接触性を確保でき、サイクル特性に優れることから、0.99以下が好ましく、0.98以下がより好ましく、0.97以下が更に好ましい。
【0044】
本明細書において、円形度は、フロー式粒子像分析により円相当径の粒径分布を測定し、下記式(6)により算出する。
具体的には、分散媒としてイオン交換水を用い、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用い、超音波で分散させ分散液を得る。その後、フロー式画像解析装置を用いて、粒子の形状を撮影する。少なくとも1000個以上の粒子を撮影した画像から、円相当径が1.5μm~40μmの範囲の粒子の円形度を平均し、円形度とする。
[円形度]=[粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長]/[粒子投影形状の実際の周囲長] (6)
【0045】
(炭素材(A)の製造方法)
炭素材(A)の製造方法は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、細孔分布における細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積y(mL/g)と、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率x(%)とが、上記式(1)を満たすように製造できる方法であれば、特に限定されない。例えば、粒子内の細孔を緻密にし、効率的に積算細孔容積yを低減できることから、炭素材原料を造粒剤の存在下で球形化処理し、加圧処理し、非晶質炭素前駆体又は黒鉛質物前駆体を添着する方法が好ましい。具体的には、以下の工程(1)~工程(6)を含む製造方法が好ましい。
工程(1):炭素材原料の粒度を調整する工程
工程(2):炭素材原料と造粒剤とを混合する工程
工程(3):炭素材原料を球形化処理する工程
工程(4):造粒剤を除去する工程
工程(5):加圧処理する工程
工程(6):非晶質炭素質物又は黒鉛質物を添着する工程
【0046】
以下、工程(1)~工程(6)について説明するが、工程(1)~工程(6)以外の工程を各工程の前後に含んでもよく、工程(1)~工程(6)を含む製造方法に限定されるものでもない。
【0047】
(工程(1))
工程(1)は、炭素材原料の粒度を調整する工程である。
【0048】
炭素材原料は、黒鉛であり、結晶性が高く、容量に優れることから、天然黒鉛、人造黒鉛が好ましく、より結晶性が高く、より容量に優れ、製造時の熱処理が必要ないことから、天然黒鉛がより好ましい。黒鉛は、不純物が少ないものが好ましく、必要に応じて、精製処理を施して用いることが好ましい。
【0049】
天然黒鉛としては、例えば、土状黒鉛(Amorphous Graphite)、鱗状黒鉛(Vein Graphite)、鱗片状黒鉛(Flake Graphite)等が挙げられる。これらの天然黒鉛の中でも、黒鉛化度が高く、不純物が少ないことから、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛が好ましく、鱗片状黒鉛がより好ましい。
【0050】
人造黒鉛としては、例えば、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の有機物を2500℃以上に加熱して黒鉛化したものが挙げられる。
【0051】
炭素材原料のd002値は、黒鉛が高結晶で、十分な充放電容量を有することから、3.360Å以下が好ましく、3.357Å以下がより好ましい。d002値の下限は特に限定されないが、理論上3.354Å以上である。
【0052】
炭素材原料のLcは、黒鉛が高結晶で、十分な充放電容量を有することから、900Å以上が好ましく、1000Å以上がより好ましい。Lcの上限は特に限定されないが、測定上限が1000Åである。
【0053】
炭素材原料の純度は、容量、電池の安全性に優れることから、99.0%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.9%以上が更に好ましく、100%が特に好ましい。
【0054】
本明細書において、純度は、十分に乾燥させた炭素材原料約10gを正確に秤量し、大気下815℃で10時間加熱し、加熱前後の炭素材原料の質量から算出した値とする。
【0055】
炭素材原料の体積基準平均粒径(d50)は1~150μmが好ましく、3~130μmがより好ましく、5~120μmがさらに好ましい。ここで、輸送性に優れることから、炭素材原料の体積基準平均粒径は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。また、生産性に優れることから、炭素材原料の体積基準平均粒径は150μm以下が好ましく、130μm以下がより好ましく、120μm以下が更に好ましい。
【0056】
炭素材原料の比表面積(SA)は、形状が制御できることから、1.0m2/g以上が好ましく、1.5m2/g以上がより好ましく、2.0m2/g以上が更に好ましく、不可逆容量の制御に優れることから、30.0m2/g以下が好ましく、20.0m2/g以下がより好ましく、10.0m2/g以下が更に好ましい。
【0057】
炭素材原料のタップ密度は0.60~1.40g/cm3が好ましく、0.70~1.30g/cm3がより好ましく、0.80~1.20g/cm3がさらに好ましい。ここで、輸送性に優れることから、炭素材原料のタップ密度は0.60g/cm3以上が好ましく、0.70g/cm3以上がより好ましく、0.80g/cm3以上が更に好ましい。また、粉砕時の制御がしやすいことから、炭素材原料のタップ密度は1.40g/cm3以下が好ましく、1.30g/cm3以下がより好ましく、1.20g/cm3以下が更に好ましい。
【0058】
炭素材原料の粒度の調整方法は、後述する体積基準平均粒径や比表面積となるように調整できれば特に限定されず、粉砕、解砕、分級を行えばよい。
粉砕、解砕、分級は、公知の方法を用いることができる。
【0059】
炭素材原料の粒度調整後の体積基準平均粒径(d50)は1~20μmが好ましく、2~15μmがより好ましく、3~12μmがさらに好ましい。ここで、球形化処理の制御がしやすいことから、粒度調整後の体積基準平均粒径は1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上が更に好ましく、また、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下が更に好ましい。
【0060】
炭素材原料の粒度調整後の比表面積(SA)は5.0~30.0m2/gが好ましく、7.0~25.0m2/gがより好ましく、9.0~20.0m2/gがさらに好ましい。ここで、リチウムイオンが出入りする部分が確保され、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、粒度調整後の比表面積は5.0m2/g以上が好ましく、7.0m2/g以上がより好ましく、7.5m2/g以上がさらに好ましく、9.0m2/g以上がよりさらに好ましく、10.0m2/g以上が特に好ましい。また、電解液との副反応が抑制され、初期充放電効率の低減やガス発生量の増加を防ぎ、電池容量が向上することから、粒度調整後の比表面積は30.0m2/g以下が好ましく、25.0m2/g以下がより好ましく、20.0m2/g以下が更に好ましい。
【0061】
炭素材原料の粒度調整後のタップ密度は0.40~1.40g/cm3が好ましく、0.450~1.30g/cm3がより好ましく、0.50~1.20g/cm3がさらに好ましい。ここで、球形化処理時の球形化度に優れることから、粒度調整後のタップ密度は0.40g/cm3以上が好ましく、0.45g/cm3以上がより好ましく、0.50g/cm3以上が更に好ましく、0.60g/cm3以上がよりさらに好ましく、0.70g/cm3以上がことさらに好ましく、0.80g/cm3以上が特に好ましい。また、粒度調整後のタップ密度は1.40g/cm3以下が好ましく、1.30g/cm3以下がより好ましく、1.20g/cm3以下が更に好ましい。
【0062】
(工程(2))
工程(2)は、炭素材原料と造粒剤とを混合する工程である。
【0063】
造粒剤は、炭素材原料を球形化処理するときに液体であることが好ましい。
また、造粒剤は、非晶質炭素となる有機化合物を含むことが好ましい。
更に、造粒剤は、有機溶剤を含まないもの、有機溶剤を含み、有機溶剤のうち少なくとも1種は引火点を有さないもの、引火点が5℃以上である有機溶剤を含むものが好ましい。
造粒剤が上記要件を満たすと、炭素材原料を球形化処理するときに、炭素材原料間を造粒剤が液架橋し、炭素材原料間に液架橋の毛管負圧と液の表面張力によって引力が生じ、効果的に炭素材原料同士の距離を短くできる。
【0064】
炭素材原料と造粒剤とを混合する方法としては、例えば、炭素材原料と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法、造粒剤を溶解した溶液に炭素材原料を添加して溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、1nm~4nmの微細孔を効率的に低減できることから、炭素材原料と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法が好ましい。
【0065】
造粒剤の添加量は、炭素材原料100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましく、1~80質量部がより好ましく、10~50質量部がさらに好ましい。ここで、炭素材原料間の付着力の低下による球形化度の低下を抑制でき、炭素材原料の装置への付着による生産性の低下を抑制できることから、造粒剤の添加量は、炭素材原料100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましく、また、1000質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、80質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。
【0066】
(工程(3))
工程(3)は、炭素材原料を球形化処理する工程である。
炭素材原料を球形化処理することで、急速充放電特性に優れる。
【0067】
炭素材原料を球形化処理する方法は、粒子の形状を制御しやすいことから、力学的エネルギーを付与して炭素材原料を球形化処理する方法が好ましい。
力学的エネルギーとしては、例えば、衝撃、圧縮、摩擦、せん断力等が挙げられる。これらの力学的エネルギーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
力学的エネルギーを付与して炭素材原料を球形化処理する方法は、力学的エネルギーを与える装置を用いればよい。
【0068】
炭素材原料を球形化処理するときの造粒剤の粘度は1~1000cPが好ましく、5~800cPがより好ましく、10~600cPがさらに好ましく、20~500cPがさらに好ましい。ここで、球形化処理するときのローターやケーシングとの衝撃力による球形化粒子からの再脱離を抑制でき、1nm~4nmの微細孔に造粒剤が入り込み非晶質炭素となることによって微細孔を低減でき、低温入出力特性や高温保存特性に優れることから、上記造粒剤の粘度は1cP以上が好ましく、5cP以上がより好ましく、10cP以上が更に好ましく、20cP以上が特に好ましく、また、1000cP以下が好ましく、800cP以下がより好ましく、600cP以下が更に好ましく、500cP以下が特に好ましい。
炭素材原料を球形化処理するときの造粒剤の粘度は、有機溶剤の量や球形化処理の温度により調整することができる。
【0069】
本明細書において、粘度は、レオメーターを用いて25℃で測定した値とする。せん断速度100s-1におけるせん断応力が0.1Pa以上の場合にはせん断速度100s-1で測定した値、せん断速度100s-1におけるせん断応力が0.1Pa未満の場合には1000s-1で測定した値、せん断速度1000s-1におけるせん断応力が0.1Pa未満の場合にはせん断応力が0.1Pa以上となるせん断速度で測定した値とする。
【0070】
炭素材原料を球形化処理する際、炭素材原料を、その他の物質の存在下で造粒してもよい。その他の物質としては、例えば、リチウムと合金化可能な金属、その酸化物、非晶質炭素、生コークス等が挙げられる。
【0071】
炭素材原料を球形化処理する際、球形化処理中に生成する微粉を炭素材表面に付着させながら球形化処理することが好ましい。球形化処理中に生成する微粉を炭素材表面に付着させながら球形化処理することにより、非晶質炭素質物又は黒鉛質物で炭素材を被覆した際に、効果的に炭素材内の空隙を低減できる。また、リチウムイオンの挿入及び脱離サイトとして利用できるエッジの量が増え、電解液が炭素材内の空隙に効率的に行き渡り、低温入出力特性やサイクル特性に優れる。
微粉は、球形化処理中に生成する微粉だけでなく、粒度を調整した微粉を別途添加してもよい。
【0072】
微粉を炭素材表面に効果的に付着させるため、炭素材粒子-炭素材粒子間、炭素材粒子-微粉粒子間、微粉粒子-微粉粒子間の付着力を強くすることが好ましい。
粒子間の付着力として、例えば、粒子間介在物を介さないファンデルワールス力や静電引力、粒子間介在物を介する物理的架橋力や化学的架橋力等が挙げられる。
【0073】
ファンデルワールス力は、体積基準平均粒径(d50)100μmを境に、小さくなるほど[自重]<[付着力]となる。そのため、炭素材原料の体積基準平均粒径が小さいほど粒子間の付着力が強く、微粉が炭素材に付着し、球形化した炭素材に内包された状態となりやすく好ましい。
【0074】
球形化処理装置に炭素材原料と造粒剤とを投入し、工程(2)と工程(3)とを同時に行ってもよい。
【0075】
(工程(4))
工程(4)は、造粒剤を除去する工程である。
造粒剤は、全部を除去してもよく、一部を除去してもよい。
有機溶剤を含む造粒剤を用いた場合、有機溶剤も除去することが好ましい。
【0076】
造粒剤の除去方法や有機溶剤の除去方法としては、例えば、溶剤により洗浄する方法、加熱して揮発・分解させる方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、生産性や除去効率に優れることから、加熱して揮発・分解させる方法が好ましい。
【0077】
(工程(5))
工程(5)は、加圧処理する工程である。
【0078】
加圧処理としては、例えば、等方的加圧処理、異方的加圧処理等が挙げられる。これらの加圧処理の中でも、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御できることから、等方的加圧処理が好ましい。
【0079】
加圧手段としては、例えば、水を加圧媒体とする静水圧等方的加圧処理、空気等のガスを加圧媒体とする空圧による等方的加圧処理、金型に充填して一軸プレスで一定方向に加圧する加圧処理等が挙げられる。
【0080】
加圧する圧力は50~300MPaが好ましく、100~280MPaがより好ましく、150~260MPaがさらに好ましい。ここで、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、加圧する圧力は50MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましく、150MPa以上が更に好ましく、また、300MPa以下が好ましく、280MPa以下がより好ましく、260MPa以下が更に好ましい。
【0081】
工程(5)は、工程(1)~工程(6)のどのタイミングで行ってもよいが、余分な造粒剤を除去した状態で効率的に加圧できることから、工程(4)と工程(6)との間が好ましい。
【0082】
(工程(6))
工程(6)は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を添着する工程である。
炭素材に非晶質炭素質物又は黒鉛質物を添着させることで、負極と電解液との副反応を抑制でき、高容量で、低温入出力特性や高温保存特性に優れる。
非晶質炭素質物とは、d002値が0.340nm以上の炭素のことをいう。
黒鉛質物とは、d002値が0.340nm未満の黒鉛のことをいう。
【0083】
炭素材に非晶質炭素質物又は黒鉛質物を添着する方法は、粒子内の空隙の量を制御しやすいことから、炭素材と非晶質炭素質物前駆体又は黒鉛質物前駆体とを混合し、非酸化性雰囲気下で加熱して、非晶質炭素質物前駆体を非晶質炭素化又は黒鉛質物前駆体を黒鉛化する方法が好ましい。
【0084】
炭素材と非晶質炭素質物前駆体又は黒鉛質物前駆体との混合方法としては、例えば、炭素材と非晶質炭素質物前駆体又は黒鉛質物前駆体とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法、非晶質炭素質物前駆体又は黒鉛質物前駆体を溶解した溶液に炭素材を添加して溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、1nm~4nmの微細孔を効率的に低減できることから、炭素材と非晶質炭素質物前駆体又は黒鉛質物前駆体とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法が好ましい。
【0085】
炭素材と非晶質炭素質物前駆体又は黒鉛質物前駆体との混合比率は、所望のコート率xになるよう適宜設定すればよい。
【0086】
加熱時の雰囲気は、非酸化性雰囲気下であれば特に限定されないが、酸化による微細孔生成を抑制できることから、窒素、アルゴン、二酸化炭素が好ましく、窒素がより好ましい。
酸素濃度は、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、1体積%以下が好ましく、0.1体積%以下がより好ましい。酸素濃度の下限は特に限定されず、通常0体積%以上である。
【0087】
加熱温度は、非晶質炭素質物前駆体の非晶質炭素化と黒鉛質物前駆体の黒鉛化とで異なる。
非晶質炭素質物前駆体を非晶質炭素化する場合の加熱温度は、黒鉛の結晶構造と同等の結晶構造に達しない温度であれば特に限定されないが、500~2000℃が好ましく、600~1800℃がより好ましく、700~1600℃がさらに好ましい。ここで、上記加熱温度は500℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、700℃以上が更に好ましく、また、2000℃以下が好ましく、1800℃以下がより好ましく、1600℃以下が更に好ましい。
黒鉛質物前駆体を黒鉛化する場合の加熱温度は、黒鉛の結晶構造と同等の結晶構造に達する温度であれば特に限定されないが、2100~3300℃が好ましく、2500~3200℃がより好ましく、2700~3100℃がさらに好ましい。ここで、上記加熱温度は2100℃以上が好ましく、2500℃以上がより好ましく、2700℃以上が更に好ましく、また、3300℃以下が好ましく、3200℃以下がより好ましく、3100℃以下が更に好ましい。
【0088】
加熱時間は0.1~1000時間が好ましく、1~100時間がより好ましい。ここで、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、加熱時間は0.1時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、また、1000時間以下が好ましく、100時間以下がより好ましい。
【0089】
非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体としては、例えば、タール、ピッチ、ナフタレンやアントラセン等の芳香族炭化水素類、フェノール樹脂やポリビニルアルコール樹脂等の熱可塑性樹脂類等が挙げられる。これらの前駆体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの前駆体の中でも、炭素構造が発達しやすく、少ない量で被覆できることから、タール、ピッチ、芳香族炭化水素類が好ましく、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、残炭率50%以上のものがより好ましく、残炭率60%以上のものが更に好ましい。
【0090】
非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体中の灰分は非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体100質量%中、0.00001~1質量%が好ましい。ここで、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、上記灰分は、非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体100質量%中、0.00001質量%以上が好ましく、また、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。
【0091】
非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体中の金属不純物含有率は0.1~1000質量ppmが好ましい。ここで、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、上記金属不純物含有率は0.1質量ppm以上が好ましく、また、1000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下が更に好ましい。
【0092】
本明細書において、金属不純物含有率は、非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体中のFe、Al、Si、Caの合計含有率を残炭率で除した値とする。
【0093】
非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体中のQi(キノリン不溶分)は、得られる炭素材(A)が式(1)を満たすように制御しやすいことから、非晶質炭素質物前駆体や黒鉛質物前駆体100質量%中、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。上記Qiの下限は特に限定されず、通常0質量%以上である。
【0094】
工程(1)~工程(6)を経て得られた炭素材は、炭素材(A)の体積基準平均粒径を所望の範囲にするため、必要に応じて、粉砕、解砕、分級を行ってもよい。
粉砕、解砕、分級は、公知の方法を用いることができる。
【0095】
(炭素材(B))
炭素材(B)は、ペレット密度が1.80g/cm3以上である。
【0096】
本実施形態に係る炭素材組成物は、上記炭素材(B)を含むことで、上記炭素材(A)と併用したときに電極を所定の密度までプレスした際に選択的に高密度化される。更に、上記炭素材(B)は、プレス時に変形しても表面積が増加しにくいため、炭素材(A)と炭素材(B)とを併用することにより、高密度で用いた際に極板の反応面積の増加を抑制する。
【0097】
炭素材(B)のペレット密度は1.80~2.262g/cm3が好ましい。ここで、プレス時の圧縮性に優れることから、炭素材(B)のペレット密度は1.80g/cm3以上であり、1.85g/cm3以上が好ましく、1.88g/cm3以上がより好ましく、1.90g/cm3以上が更に好ましく、また、2.262g/cm3以下が好ましい。
【0098】
炭素材(B)のペレット密度を1.80g/cm3以上とするためには、粒子内に適度な空隙を有し、鱗片が適度に積層しているとよいため、炭素材(B)は、鱗片球形化天然黒鉛であることが好ましい。
【0099】
(炭素材(B)の物性)
炭素材(B)のd002値は、黒鉛が高結晶であるほどプレス時の圧縮性に優れ、十分な充放電容量を有することから、3.360Å以下が好ましく、3.357Å以下がより好ましい。上記d002値の下限は特に限定されないが、理論値上3.354Å以上である。
【0100】
炭素材(B)のLcは、黒鉛が高結晶であるほどプレス時の圧縮性に優れ、十分な充放電容量を有することから、900Å以上が好ましく、1000Å以上がより好ましい。上記Lcの上限は特に限定されないが、測定の上限が1000Åである。
【0101】
炭素材(B)の体積基準平均粒径(d50)は1~50μmが好ましく、4~30μmがより好ましく、10~25μmがさらに好ましい。ここで、不可逆容量の増加や初期電池容量の損失を防ぐことから、炭素材(B)の体積基準平均粒径は1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。また、極板作製時のスジ引き等の工程不良を抑制でき、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材(B)の体積基準平均粒径は50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下が更に好ましい。
【0102】
炭素材(B)の比表面積(SA)は3.0~11.0m2/gが好ましく、4.0~9.0m2/gがより好ましく、5.0~8.0m2/gがさらに好ましい。ここで、リチウムイオンが出入りする部分が確保され、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材(B)の比表面積は3.0m2/g以上が好ましく、4.0m2/g以上がより好ましく、5.0m2/g以上が更に好ましい。また、電解液との副反応が抑制され、初期充放電効率の低減やガス発生量の増加を防ぎ、電池容量が向上することから、炭素材(B)の比表面積は11.0m2/g以下が好ましく、9.0m2/g以下がより好ましく、8.0m2/g以下が更に好ましい。
【0103】
炭素材(B)のタップ密度は0.70~1.30g/cm3が好ましく、0.80~1.20g/cm3がより好ましく、0.90~1.10g/cm3がさらに好ましい。ここで、極板作製時のスジ引き等の工程不良を抑制でき、充填性が上がるため圧延性が良好で高密度の負極シートが形成しやすく、電極体にしたときにリチウムイオンの移動経路の屈曲度が小さくなり、粒子間の空隙の形状が整うため電解液の移動がスムーズになり急速充放電特性が向上することから、炭素材(B)のタップ密度は0.70g/cm3以上が好ましく、0.80g/cm3以上がより好ましく、0.90g/cm3以上が更に好ましい。また、粒子の表面や内部に適度な空間を有するため粒子が固くなり過ぎず電極プレス性に優れ、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材(B)のタップ密度は1.30g/cm3以下が好ましく、1.20g/cm3以下がより好ましく、1.10g/cm3以下が更に好ましい。
【0104】
炭素材(B)の円形度は0.88~0.99が好ましく、0.90~0.98がより好ましく、0.92~0.97がさらに好ましい。ここで、リチウムイオン拡散の屈曲度が下がり、粒子間の空隙中への電解液の移動がスムーズになり、急速充放電特性に優れることから、炭素材(B)の円形度は0.88以上が好ましく、0.90以上がより好ましく、0.92以上が更に好ましい。また、炭素材同士の接触性を確保でき、サイクル特性に優れることから、炭素材(B)の円形度は0.99以下が好ましく、0.98以下がより好ましく、0.97以下が更に好ましい。
【0105】
炭素材(B)の積算細孔容積は0.030~0.140mL/gが好ましく、0.040~0.130mL/gがより好ましく、0.050~0.100mL/gがさらに好ましい。ここで、プレス時に適度に変形しやすいことから、炭素材(B)の積算細孔容積は0.030mL/g以上が好ましく、0.040mL/g以上がより好ましく、0.050mL/g以上が更に好ましい。また、炭素材(B)の積算細孔容積は0.140mL/g以下が好ましく、0.130mL/g以下がより好ましく、0.120mL/g以下がさらに好ましく、0.100mL/g以下がより更に好ましく、0.090mL/g以下がことさらに好ましく、0.070mL/g以下が特に好ましい。
【0106】
(炭素材(B)の製造方法)
炭素材(B)の製造方法は、ペレット密度が1.80g/cm3以上を満たすように製造できる方法であれば、特に限定されないが、高結晶で圧縮性に優れることから、炭素材(B)として鱗片球形化天然黒鉛を用いることが好ましい。
【0107】
炭素材(B)の原料は、黒鉛が好ましく、結晶性が高く、容量に優れることから、天然黒鉛、人造黒鉛がより好ましく、より結晶性が高く、より容量に優れ、製造時の熱処理が必要ないことから、天然黒鉛が更に好ましい。黒鉛は、不純物が少ないものが好ましく、必要に応じて、精製処理を施して用いることが好ましい。
【0108】
天然黒鉛としては、例えば、土状黒鉛、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛等が挙げられる。これらの天然黒鉛の中でも、黒鉛化度が高く、不純物が少ないことから、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛が好ましく、鱗片状黒鉛がより好ましい。
【0109】
人造黒鉛としては、例えば、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の有機物を2500℃以上に加熱して黒鉛化したものが挙げられる。
【0110】
球形化処理する方法は、粒子の形状を制御しやすいことから、力学的エネルギーを付与して球形化処理する方法が好ましい。
力学的エネルギーとしては、例えば、衝撃、圧縮、摩擦、せん断力等が挙げられる。これらの力学的エネルギーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
力学的エネルギーを付与して球形化処理する方法は、力学的エネルギーを与える装置を用いればよい。
【0111】
球形化処理する際、原料をその他の物質の存在下で造粒してもよい。その他の物質としては、例えば、リチウムと合金化可能な金属、その酸化物、生コークス等が挙げられる。
【0112】
(炭素材組成物の組成)
炭素材(A)の含有率は、炭素材組成物100質量%中40~90質量%が好ましく、45~85質量%がより好ましく、55~75質量%がさらに好ましい。ここで、極板の膨張を低く抑制できることから、炭素材組成物100質量%中、炭素材(A)の含有率は40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、55質量%以上が更に好ましい。また、二次電池の初期効率を高く維持できることから、炭素材(A)の含有率は90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更に好ましい。
【0113】
炭素材(B)の含有率は、炭素材組成物100質量%中10~60質量%が好ましく、15~55質量%がより好ましく、25~45質量%がさらに好ましい。ここで、二次電池の初期効率を高く維持できることから、炭素材組成物100質量%中、炭素材(B)の含有率は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。また、極板の膨張を低く抑制できることから、炭素材(B)の含有率は60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。
【0114】
本実施形態に係る炭素材組成物は、炭素材(A)及び炭素材(B)以外に、その他の物質を含んでもよい。その他の物質としては、例えば、リチウムと合金化可能な金属、その酸化物、導電材等が挙げられる。
その他の物質の含有率は、炭素材(A)及び炭素材(B)の本来の機能を損なわないことから、合計で20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0115】
(炭素材組成物の物性)
炭素材組成物の体積基準平均粒径(d50)は1~50μmが好ましく、4~30μmがより好ましく、10~25μmがさらに好ましい。ここで、不可逆容量の増加や初期電池容量の損失を防ぐことから、炭素材組成物の体積基準平均粒径は1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。また、極板作製時のスジ引き等の工程不良を抑制でき、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材組成物の体積基準平均粒径は50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下が更に好ましい。
【0116】
炭素材組成物の比表面積(SA)は1.0~11.0m2/gが好ましく、2.0~9.0m2/gがより好ましく、3.0~8.0m2/gがさらに好ましい。ここで、リチウムイオンが出入りする部分が確保され、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材組成物の比表面積は1.0m2/g以上が好ましく、2.0m2/g以上がより好ましく、3.0m2/g以上が更に好ましい。また、電解液との副反応が抑制され、初期充放電効率の低減やガス発生量の増加を防ぎ、電池容量が向上することから、炭素材組成物の比表面積は11.0m2/g以下が好ましく、9.0m2/g以下がより好ましく、8.0m2/g以下が更に好ましい。
【0117】
炭素材組成物のタップ密度は0.70~1.40g/cm3が好ましく、0.80~1.30g/cm3がより好ましく、0.90~1.10g/cm3がさらに好ましい。ここで、極板作製時のスジ引き等の工程不良を抑制でき、充填性が上がるため圧延性が良好で高密度の負極シートが形成しやすく、電極体にしたときにリチウムイオンの移動経路の屈曲度が小さくなり、粒子間の空隙の形状が整うため電解液の移動がスムーズになり急速充放電特性が向上することから、炭素材組成物のタップ密度は0.70g/cm3以上が好ましく、0.80g/cm3以上がより好ましく、0.90g/cm3以上が更に好ましい。また、粒子の表面や内部に適度な空間を有するため粒子が固くなり過ぎず電極プレス性に優れ、急速充放電特性や低温入出力特性に優れることから、炭素材組成物のタップ密度は1.40g/cm3以下が好ましく、1.30g/cm3以下がより好ましく、1.10g/cm3以下が更に好ましい。
【0118】
炭素材組成物の円形度は0.88~0.99が好ましく、0.90~0.98がより好ましく、0.92~0.97がさらに好ましい。ここで、リチウムイオン拡散の屈曲度が下がり、粒子間の空隙中への電解液の移動がスムーズになり、急速充放電特性に優れることから、炭素材組成物の円形度は0.88以上が好ましく、0.90以上がより好ましく、0.92以上が更に好ましい。また、炭素材同士の接触性を確保でき、サイクル特性に優れることから、炭素材組成物の円形度は0.99以下が好ましく、0.98以下がより好ましく、0.97以下が更に好ましい。
【0119】
炭素材組成物の積算細孔容積は0.003~0.120mL/gが好ましく、0.005~0.090mL/gがより好ましく、0.010~0.070mL/gがさらに好ましい。ここで、適度にプレス時に変形しやすいことから、炭素材組成物の積算細孔容積は0.003mL/g以上が好ましく、0.005mL/g以上がより好ましく、0.010mL/g以上が更に好ましく、また、0.120mL/g以下が好ましく、0.090mL/g以下がより好ましく、0.070mL/g以下が更に好ましい。
【0120】
炭素材組成物のペレット密度は1.40~1.80g/cm3が好ましく、1.50~1.70g/cm3がより好ましく、1.55~1.60g/cm3がさらに好ましい。ここで、適度にプレス時に変形しやすいことから、炭素材組成物のペレット密度は1.40g/cm3以上が好ましく、1.50g/cm3以上がより好ましく、1.55g/cm3以上が更に好ましく、また、1.80g/cm3以下が好ましく、1.70g/cm3以下がより好ましく、1.60g/cm3以下が更に好ましい。
【0121】
(炭素材組成物の製造方法)
本実施形態に係る炭素材組成物の製造方法は、前述した炭素材(A)と前述した炭素材(B)とを混合する工程を含む。
混合方法は、所望の組成になるように炭素材(A)と炭素材(B)とを混合できれば、特に限定されない。
【0122】
炭素材(A)の体積基準平均粒径(d50)と炭素材(B)の体積基準平均粒径(d50)との比Rd50([炭素材(B)の体積基準平均粒径(d50)]/[炭素材(A)の体積基準平均粒径(d50)])は、0.1~10が好ましく、0.2~5がより好ましく、0.5~2が更に好ましい。ここで、上記比Rd50は0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましく、また、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
比Rd50が上記範囲内であると、炭素材(A)同士の間隙に炭素材(B)を、または、炭素材(B)同士の間隙に炭素材(A)を存在させることができる。その結果、炭素材(A)の周囲に炭素材(B)が存在することで炭素材(A)の形状を維持したまま炭素材(B)が選択的に変形し、高密度で用いてもプレス時に破壊されることなく、高初期効率と低膨張とを両立できる。また、充放電によるリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う炭素材(A)と炭素材(B)との体積変化を、炭素材(A)と炭素材(B)とにより形成された間隙が吸収する。そのため、炭素材(A)と炭素材(B)との体積変化に伴う導電パス切れを抑制し、サイクル特性向上、急速充放電特性、高容量化を実現できる。
【0123】
炭素材(A)の比表面積(SA)と炭素材(B)の比表面積(SA)との比RSA([炭素材(B)の比表面積(SA)]/[炭素材(A)の比表面積(SA)])は、0.01~100が好ましく、0.1~10がより好ましく、0.2~5が更に好ましい。ここで、上記比RSAは0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、また、100以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましく、3以下が特に好ましい。
比RSAが上記範囲内であると、リチウムイオンが出入りする部分が確保され、急速充放電特性や低温入出力特性に優れ、電解液との副反応が抑制され、初期充放電効率の低減やガス発生量の増加を防ぎ、電池容量が向上する。
【0124】
炭素材(A)の積算細孔容積と炭素材(B)の積算細孔容積との比RCPV([炭素材(B)の積算細孔容積]/[炭素材(A)の積算細孔容積])は、1~50が好ましく、3~40がより好ましく、5~20が更に好ましい。ここで、上記比RCPVは1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
比RCPVが上記範囲内であると、極板作製時に炭素材(A)に対して炭素材(B)が選択的に変形し、高密度で用いても高初期効率と低膨張とを両立できる。
【0125】
(負極)
本実施形態に係る負極は、集電体と該集電体上に形成された活物質層とを含み、活物質層が、本実施形態に係る炭素材組成物を含む。本実施形態に係る炭素材組成物が、負極の活物質としての作用効果を有する。
【0126】
負極の製造方法は、集電体上に活物質層が形成できれば特に限定されないが、安価で生産性に優れることから、本実施形態に係る炭素材組成物と結着樹脂とを配合したスラリーを集電体上に塗布して乾燥する方法が好ましい。スラリーには、更に、増粘剤を配合してもよい。
【0127】
本実施形態に係る炭素材組成物と結着樹脂とを配合したスラリーを集電体上に塗布して乾燥した後に、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を高め、活物質層の単位体積あたりの電池容量を大きくすることが好ましい。
【0128】
活物質層の密度は1.2~2.0g/cm3が好ましく、1.5~1.8g/cm3がより好ましい。ここで、電極の厚さの増大による電池の容量の低下を抑制できることから、活物質層の密度は1.2g/cm3以上が好ましく、1.5g/cm3以上がより好ましい。また、電極内の空隙の減少により空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり、急速充放電特性の低下を抑制できることから、活物質層の密度は2.0g/cm3以下が好ましく、1.8g/cm3以下がより好ましい。
【0129】
(二次電池)
本実施形態に係る二次電池は、正極、本実施形態に係る負極及び電解質を含む。
正極及び本実施形態に係る負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であることが好ましい。
【0130】
(正極)
正極は、公知の正極を用いることができる。
【0131】
(電解質)
電解質は、公知の電解質を用いることができる。
【0132】
(セパレータ)
本実施形態に係る二次電池は、正極と負極との間にセパレータを介在させることが好ましい。ただし、本実施形態に係る二次電池は、電解質として固体電解質を用いるものを何ら排除するものではない。
セパレータは、公知のセパレータを用いることができる。
【0133】
本実施形態に係る炭素材組成物は、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できる。そのために、二次電池の負極の活物質として好適に用いることができ、非水系二次電池の負極の活物質としてより好適に用いることができ、リチウムイオン二次電池の負極の活物質として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0135】
(体積基準平均粒径の測定方法)
界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名「ツィーン20」)の0.2質量%水溶液10mLに、試料0.01gを懸濁させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(機種名「LA-920」、株式会社堀場製作所製)に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、上記測定装置における体積基準のメジアン径を測定し、体積基準のメジアン径を体積基準平均粒径とした。
【0136】
(比表面積の測定方法)
比表面積測定装置(機種名「Macsorb HM-1210」、株式会社マウンテック製)を用いて、試料に対して窒素流通下350℃、15分の予備減圧乾燥を行った後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法により比表面積を測定した。
【0137】
(タップ密度の測定方法)
粉体密度測定器(機種名「タップデンサーKYT-3000」、株式会社セイシン企業製)を用い、直径1.6cm、体積容量20cm3の円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行って、そのときの体積と試料の質量から算出した密度の値をタップ密度とした。
【0138】
(積算細孔容積yの測定方法)
水銀ポロシメータ(機種名「オートポア9520」、マイクロメリテックス社製)を用い、0.2g前後の値となるように秤量した炭素材をパウダー用セルに封入し、25℃、真空下(50μmHg以下)にて10分間脱気して前処理を実施した。次いで、4psia(約28kPa)に減圧して上記セルに水銀を導入し、圧力を4psia(約28kPa)から40000psia(約280MPa)までステップ状に昇圧させた後、25psia(約170kPa)まで降圧させた。昇圧時のステップ数を80点以上とし、各ステップでは10秒の平衡時間の後、水銀圧入量を測定した。こうして得られた水銀圧入曲線からWashburnの式を用い、細孔分布を算出した。水銀の表面張力(γ)は、485dyne/cm、接触角(ψ)は、140°として算出した。得られた結果から、横軸を細孔径、縦軸を細孔容積とするグラフを作成した。このグラフから、ピークを確認し、細孔径が最小のピークと次のピークとの間(細孔径が小さい側の2つのピークの間)の極小値を確認し、この極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)とした。
【0139】
(コート率xの算出方法)
黒鉛と非晶質炭素質物又は黒鉛質物との混合比率、焼成後の焼成収率により、下記式(3)によりコート率xを算出した。
コート率x(%)=([焼成後の試料の質量-黒鉛の質量]/[焼成後の試料の質量])×100 (3)
【0140】
(ペレット密度の測定方法)
内径10mmの金型に、押し治具として直径10mm、長さ35mmのシャフト及び受け治具として直径10mm、長さ6mmのシャフトの2種類の治具を挿入後、挟み込んだ時の荷重と高さを測定可能な装置(粉体抵抗測定システム、日東精工アナリテック株式会社製)にセットし、油圧ポンプで15kgfの荷重を加え、治具高さを測定した。その後、押し治具のみを取り出して、炭素材0.6gを加え、再度押し治具を挿入した。金型を油圧ジャッキ(ハイプレッシャージャッキ、アズワン株式会社製)にセットし、圧力弁を締めて、0.9t/cm2まで緩やかに加圧し、2.4t/cm2まで速やかに加圧した後、3秒間保持し、油圧ジャッキから手を離して60秒待ち、圧力弁を緩めて減圧した。その後、挟み込んだ時の荷重と高さを測定可能な装置に再度セットし、油圧ポンプで15kgfの荷重を加え、加圧後の治具高さを測定した。併せて、加圧後の炭素材の質量を測定し、前述の治具高さの差分と質量から算出される密度を、ペレット密度とした。単位面積当たりの荷重は、油圧ジャッキの目盛り500kgf、油圧ジャッキのシリンダー径22mm、金型の内径から算出した。
【0141】
(負極シートの作製)
実施例・比較例で得られた炭素材組成物を負極活物質として用い、活物質層密度1.65±0.03g/cm3の活物質層を有する極板を作製した。具体的には、実施例・比較例で得られた炭素材組成物50.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を50.00±0.02g(固形分換算で0.50g)及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン1.00±0.05g(固形分換算で0.50g)を、ハイブリッドミキサー(株式会社キーエンス製)で5分間撹拌し、30秒脱泡して、スラリーを得た。
得られたスラリーを、集電体である厚さ10μmの銅箔上に、負極材料が10.00±0.20mg/cm2付着するように、ダイコーターを用いて幅10cmに塗布して乾燥後、幅5cmにカットし、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.65±0.03g/cm3になるよう調整し、負極シートを得た。
【0142】
(正極シートの作製)
正極活物質としてのニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム(LiNiMnCoO2)85質量%、導電材としてのアセチレンブラック10質量%及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%を、N-メチルピロリドン中で混合して、スラリーを得た。
得られたスラリーを、集電体である厚さ15μmのアルミニウム箔上に、正極材料が22.5±0.2mg/cm2付着するように、ブレードコーターを用いて塗布し、130℃で乾燥させた。更に、ロールプレスを行い、正極材料の密度が2.60±0.05g/cm3になるよう調整し、正極シートを得た。
【0143】
(シート状の二次電池の作製)
得られた負極シート、ポリエチレン製のセパレータ、得られた正極シートを、順に積層した。得られた積層物を筒状のアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(体積比30:30:40)にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を注入した後、真空封止し、シート状の非水系の二次電池を作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状の二次電池を挟んで加圧した。
【0144】
(二次電池の膨れの測定方法)
充放電サイクルを経ていないシート状の二次電池に対して、25℃で、電圧範囲4.1V~3.0V、電流値0.2Cにて3サイクル、電圧範囲4.2V~3.0V、電流値0.2Cにて(充電時には4.2Vにて定電圧充電を更に2.5時間実施)2サイクル、初期充放電を行った。この時点で、固定するためのガラス板を外し、接触式厚み計(株式会社ミツトヨ製)を用いて、1つの二次電池に対し、厚みを9点測定し、その平均をサイクル前の厚みとした。その後、再度ガラス板で挟んだ後、45℃の恒温槽にて0.8C-CCCV充電-0.8C-CC放電1.5Vカットの条件で25回充放電しサイクル試験を実施した。その後、SOC(States Of Charge)0%の状態の二次電池に対し、サイクル前と同じ箇所の厚みを9点測定し、その平均をサイクル後の厚みとした。サイクル前の厚みとサイクル後の厚みとの差からサイクル中の二次電池の膨れを算出した。
【0145】
(コイン型電池の作製)
得られた負極シートを、直径12.5mmの円盤状に打ち抜き負極とし、リチウム金属箔を直径14mmの円盤状に打ち抜き対極とした。両極の間には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(体積比30:70)にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、2016コイン型電池を作製した。
【0146】
(二次電池の初期効率の測定方法)
得られたコイン型電池を、0.05Cの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に5mVの一定電圧で電流密度が0.005Cになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.1Cの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行った。このときの充電容量に対する放電容量の比((放電容量/充電容量)×100)を初期効率(%)とした。
【0147】
[製造例1]炭素材(A-1)の製造
体積基準平均粒径が100μmの鱗片状天然黒鉛を粉砕し、体積基準平均粒径が11μmの黒鉛を得た。得られた黒鉛100質量部と造粒剤12質量部とを混合した後、球形化処理を行い、更に熱処理により造粒剤を除去し、球形化黒鉛(体積基準平均粒径16μm、比表面積15m2/g、タップ密度0.96g/cm3)を得た。得られた球形化黒鉛をゴム製容器に充填し、ゴム製容器を密閉して等方的加圧処理を行った後、解砕・分級処理し、球形化黒鉛粉末を得た。得られた球形化黒鉛粉末と非晶質炭素質物前駆体としてピッチ(灰分0.02質量%、金属不純物含有率20質量ppm、Qi1質量%)とを混合し、炉内圧力を10torr以下に減圧処理して窒素で大気圧まで復圧し、更に、窒素を流通させて炉内の酸素濃度を0.01体積%以下にして不活性ガス中で1300℃の熱処理を施した。得られた焼成物を解砕・分級処理し、炭素材(A-1)を得た。
得られた炭素材(A-1)の評価結果を、表1に示す。
【0148】
[製造例2]炭素材(A-2)の製造
球形化黒鉛粉末と非晶質炭素質物前駆体との混合比を変更した以外は、製造例1と同様に操作を行い、炭素材(A-2)を得た。
得られた炭素材(A-2)の評価結果を、表1に示す。
【0149】
[製造例3]炭素材(A-3)の製造
球形化黒鉛粉末と非晶質炭素質物前駆体との混合比を変更した以外は、製造例1と同様に操作を行い、炭素材(A-3)を得た。
得られた炭素材(A-3)の評価結果を、表1に示す。
【0150】
[製造例4]炭素材(A-4)の製造
体積基準平均粒径が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理し、球形化黒鉛(体積基準平均粒径16μm、比表面積6.9m2/g、タップ密度1.00g/cm3)を得た。得られた球形化黒鉛と非晶質炭素質物前駆体としてタール(灰分0.01質量%以下、金属不純物含有率60質量ppm、Qi0.1質量%以下)とを混合し、炉内圧力を10torr以下に減圧処理して窒素で大気圧まで復圧し、更に、窒素を流通させて炉内の酸素濃度を0.01体積%以下にして不活性ガス中で1300℃の熱処理を施した。得られた焼成物を解砕・分級処理し、炭素材(A-4)を得た。
得られた炭素材(A-4)の評価結果を、表1に示す。
【0151】
[製造例5]炭素材(B-1)の製造
体積基準平均粒径が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理し、ペレット密度1.96g/cm3の炭素材(B-1)を得た。
得られた炭素材(B-1)の評価結果を、表2に示す。
【0152】
[製造例6]炭素材(B-2)の製造
体積基準平均粒径が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理し、ペレット密度1.95g/cm3の炭素材(B-2)を得た。
得られた炭素材(B-2)の評価結果を、表2に示す。
【0153】
[製造例7]炭素材(B-3)の製造
体積基準平均粒径が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理し、球形化黒鉛(体積基準平均粒径13μm、比表面積7.8m2/g、タップ密度0.90g/cm3)を得た。得られた球形化黒鉛と黒鉛質物前駆体としてピッチ(灰分0.1質量%、Qi0.2質量%以下)とを混合し、ゴム製容器に充填し、ゴム製容器を密閉して等方的加圧処理を行った。その後、不活性ガス中で1000℃で熱処理し、不活性ガス中で3000℃で黒鉛化処理を施した。得られた黒鉛化物を解砕・分級処理し、炭素材(B-3)を得た。
【0154】
[製造例8]炭素材(B-4)の製造
体積基準平均粒径が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理し、球形化黒鉛(体積基準平均粒径8μm、比表面積11m2/g、タップ密度1.00g/cm3)を得た。得られた球形化黒鉛と黒鉛質物前駆体としてピッチ(灰分0.1質量%、Qi0.2質量%以下)とを混合し、ゴム製容器に充填し、ゴム製容器を密閉して等方的加圧処理を行った。その後、不活性ガス中で1000℃で熱処理し、不活性ガス中で3000℃で黒鉛化処理を施した。得られた黒鉛化物を解砕・分級処理し、炭素材(B-3)を得た。
【0155】
[実施例1]
炭素材(A-1)70質量%と炭素材(B-1)30質量%とを混合し、炭素材組成物を得た。
得られた炭素材組成物の評価結果を、表4に示す。
【0156】
[実施例2~7]
炭素材の種類及び含有率を表3のように変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、炭素材組成物を得た。
得られた炭素材組成物の評価結果を、表4に示す。
【0157】
[比較例1~5]
炭素材の種類及び含有率を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、炭素材組成物を得た。
得られた炭素材組成物の評価結果を、表4に示す。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
表4からも分かるように、本実施形態に係る実施例1~7の炭素材組成物を用いた負極を含む二次電池は、比較例1~5の炭素材組成物を用いた負極を含む二次電池と比較して、初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できた。この結果は、緻密で低膨張な炭素材(A)とペレット密度が高い炭素材(B)とを組み合わせたことによるものと考えられる。
【0163】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2022年3月24日出願の日本特許出願(特願2022-048746)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の炭素材組成物は、高密度で用いてもプレス時に破壊されず、二次電池の初期効率を高く維持でき、かつ、極板の膨張を低く抑制できる。そのため、二次電池の負極の活物質として好適に用いることができ、非水系二次電池の負極の活物質としてより好適に用いることができ、リチウムイオン二次電池の負極の活物質として特に好適に用いることができる。
【要約】
本発明は、非晶質炭素質物又は黒鉛質物を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを有し、細孔径が最小のピークと次のピークとの間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、黒鉛の非晶質炭素質物又は黒鉛質物のコート率をx(%)としたときに、y≦-0.0084x+0.13を満たす炭素材(A)と、ペレット密度が1.80g/cm3以上である炭素材(B)と、を含む、炭素材組成物。