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特許7351473地中熱ヒートポンプシステムおよび地中熱ヒートポンプシステムの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】地中熱ヒートポンプシステムおよび地中熱ヒートポンプシステムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 30/06 20060101AFI20230920BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20230920BHJP
   F24F 11/46 20180101ALI20230920BHJP
   F24T 10/10 20180101ALI20230920BHJP
   F24T 50/00 20180101ALI20230920BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230920BHJP
   F24F 140/50 20180101ALN20230920BHJP
【FI】
F25B30/06 T
F24F5/00 101A
F24F11/46
F24T10/10
F24T50/00
F25B1/00 397B
F25B1/00 399Y
F24F140:50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019053332
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2019168216
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018057236
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギー熱利用技術開発/地中熱利用トータルシステムの高効率化技術開発及び規格化、および再生可能エネルギー熱利用のポテンシャル評価技術の開発/低コスト・高効率を実現する間接型地中熱利用熱回収ヒートポンプシステムの開発と地理地盤情報を利用した設計・性能予測シミュレーションツール・ポテンシャル評価システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 靖
(72)【発明者】
【氏名】葛 隆生
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-169533(JP,A)
【文献】特開2012-233669(JP,A)
【文献】特開2017-227416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 27/00
F25B 30/06
F24T 10/10 ~ 10/17
F24T 50/00
F24F 5/00
F24F 11/00 ~ 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中熱ヒートポンプと補助熱源機を含む複数の熱源機と、
前記複数の熱源機それぞれからの冷温水を合流させ、前記冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機と、
前記複数の熱源機と前記負荷処理機との間における前記冷温水の循環量を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、負荷変動に対し、任意の分配負荷に応答する高効率な前記地中熱ヒートポンプの部分負荷効率と前記補助熱源機の部分負荷効率を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせにより制御すべき出力を決定して制御し、
前記制御部は、前記負荷対象の負荷が、前記地中熱ヒートポンプにおける任意の一定出力以下の出力により処理可能である第1の場合には、前記地中熱ヒートポンプのみを運転させ、前記負荷対象の負荷が、前記一定出力よりも大きい出力により処理する必要がある第2の場合には、前記地中熱ヒートポンプを前記一定出力させるために必要な条件で運転させつつ、前記補助熱源機に不足分を出力させる地中熱ヒートポンプシステム。
【請求項2】
地中熱ヒートポンプと補助熱源機を含む複数の熱源機と、
前記複数の熱源機それぞれからの冷温水を合流させ、前記冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機と、
前記複数の熱源機と前記負荷処理機との間における前記冷温水の循環量を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、負荷変動に対し、任意の分配負荷に応答する高効率な前記地中熱ヒートポンプの部分負荷効率と前記補助熱源機の部分負荷効率を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせにより制御すべき出力を決定して制御し、
前記制御部は、地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房運転に伴い地盤と採放熱を行う場合において、負荷変動により生じる地盤との採放熱量とその変動周期特性と地盤の熱特性により定まる地中熱交換器の採放熱能力に依って生じる地盤の温度変化に応じて、変化する地盤と熱交換する熱源水温度が、ヒートポンプが高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる冷房および暖房の上限出力を制御すべき出力とする地中熱ヒートポンプシステム。
【請求項3】
前記制御部は、出力に見合う流量で前記複数の熱源機それぞれの流量を制御する請求項1または2に記載の地中熱ヒートポンプシステム。
【請求項4】
地中熱ヒートポンプと補助熱源機を含む複数の熱源機と、
前記複数の熱源機それぞれからの冷温水を合流させ、前記冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機と、を備える地中熱ヒートポンプシステムを運転する方法であって、
負荷変動に対し、任意の分配負荷に応答する高効率な前記地中熱ヒートポンプの部分負荷効率と前記補助熱源機の部分負荷効率を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせにより制御すべき出力を決定して制御し、
前記負荷対象の負荷が、前記地中熱ヒートポンプにおける任意の一定出力以下の出力により処理可能である第1の場合には、前記地中熱ヒートポンプのみを運転させ、前記負荷対象の負荷が、前記一定出力よりも大きい出力により処理する必要がある第2の場合には、前記地中熱ヒートポンプを前記一定出力させるために必要な条件で運転させつつ、前記補助熱源機に不足分を出力させる地中熱ヒートポンプシステムの運転方法。
【請求項5】
地中熱ヒートポンプと補助熱源機を含む複数の熱源機と、
前記複数の熱源機それぞれからの冷温水を合流させ、前記冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機と、を備える地中熱ヒートポンプシステムを運転する方法であって、
負荷変動に対し、任意の分配負荷に応答する高効率な前記地中熱ヒートポンプの部分負荷効率と前記補助熱源機の部分負荷効率を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせにより制御すべき出力を決定して制御し、
地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房運転に伴い地盤と採放熱を行う場合において、負荷変動により生じる地盤との採放熱量とその変動周期特性と地盤の熱特性により定まる地中熱交換器の採放熱能力に依って生じる地盤の温度変化に応じて、変化する地盤と熱交換する熱源水温度が、ヒートポンプが高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる冷房および暖房の上限出力を制御すべき出力とする地中熱ヒートポンプシステムの運転方法。
【請求項6】
出力に見合う流量で前記複数の熱源機それぞれの流量を制御する請求項4または5に記載の地中熱ヒートポンプシステムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱ヒートポンプ(GSHP)システムおよび地中熱ヒートポンプシステムの運転方法に関する。本発明は、例えば、冷温水循環流量の制御による2種類以上の熱源機を有するシステムの暖冷房出力制御に関する。本発明は、熱源システムおよび地中熱ヒートポンプと他の熱源機を組合せたハイブリッドGSHPシステムの制御に関するもので、この方法を用いることにより、例えば、効率の高い熱源機を運転可能な範囲で優先的に運転させることが可能となる。さらにこれをハイブリッドGSHPシステムに適応することにより、例えば、GSHPシステムの熱源水温度を長期的に低下(もしくは上昇)させる要因となる、過度な地中への採放熱を抑制しながら、最大限にGSHPシステムの省エネルギー効果を得ることが可能となる。その結果として、例えば、高効率なGSHPシステムの導入拡大に繋がり、CO2排出量の抑制や、省エネルギー効果をもたらす。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に示すような地中熱ヒートポンプシステムのように、建築物等で発生する暖冷房負荷に対して、ヘッダーなどを介して、2種類以上の熱源機を並列に設置すると、暖冷房負荷に対して、負荷が小さい場合はいずれかの熱源機が、負荷が大きい場合は双方の熱源機が運転することで、時々刻々と変動する負荷に対して、熱供給を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5690650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の熱源システムにおいては、冷温水の循環流量が機器毎の定格出力に応じて一定流量(流量制御なしの成り行き)で運転されることが一般的であり、熱源機還り温度に応じて出力制御されることが一般的である。その結果、複数の熱源機の同時運転を行った場合には、定格出力に応じた循環流量に応じて負荷が分配されてしまう。そのため分配比はいつもほぼ熱源容量比となり、ハイブリッドGSHPシステムにおいてもGSHP負荷分配値に対し、GSHPに分配される負荷が小さくなり、結果として省エネルギー効果が小さくなる現象が発生する恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、地中熱ヒートポンプと補助熱源機を含む複数の熱源機と、前記複数の熱源機それぞれからの冷温水を合流させ、前記冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機と、前記複数の熱源機と前記負荷処理機との間における前記冷温水の循環量を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、負荷変動に対し、任意の分配負荷に応答する高効率な前記地中熱ヒートポンプの部分負荷効率と前記補助熱源機の部分負荷効率を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせにより制御すべき出力を決定して制御する地中熱ヒートポンプシステムである。
前記制御部は、地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房運転に伴い地盤と採放熱を行う場合において、負荷変動により生じる地盤との採放熱量とその変動周期特性と地盤の熱特性により定まる地中熱交換器の採放熱能力に依って生じる地盤の温度変化に応じて、変化する地盤と熱交換する熱源水温度が、ヒートポンプが高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる冷房および暖房の上限出力を制御すべき出力としてもよい。言い換えると、前記制御部は、前記地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房運転に伴い熱源水が地盤と採放熱を行う場合において、以下を実施する。まず、前記地中熱ヒートポンプが高い運転効率を維持できる上下限温度内に熱源水温度が納まる冷房および暖房の上限出力を、地中熱交換器の採放熱能力に依って生じる前記地盤の温度変化に応じて決定する。前記採放熱能力は、(1)負荷変動により生じる前記地盤との採放熱量とその変動周期特性と、(2)前記地盤の熱特性と、により定まる。そして制御部は、前記上限出力を考慮して前記制御すべき出力を決定する。
前記制御部は、出力に見合う流量で前記複数の熱源機それぞれの流量を制御してもよい。
前記制御部は、前記負荷対象の負荷が、前記地中熱ヒートポンプにおける任意の一定出力以下の出力により処理可能である第1の場合には、前記地中熱ヒートポンプのみを運転させ、前記負荷対象の負荷が、前記一定出力よりも大きい出力により処理する必要がある第2の場合には、前記地中熱ヒートポンプを前記一定出力させるために必要な条件で運転させつつ、前記補助熱源機に不足分を出力させてもよい。
【0006】
本発明の一態様は、地中熱ヒートポンプと補助熱源機を含む複数の熱源機と、前記複数の熱源機それぞれからの冷温水を合流させ、前記冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機と、を備える地中熱ヒートポンプシステムを運転する方法であって、負荷変動に対し、任意の分配負荷に応答する高効率な前記地中熱ヒートポンプの部分負荷効率と前記補助熱源機の部分負荷効率を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせにより制御すべき出力を決定して制御する地中熱ヒートポンプシステムの運転方法である。
地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房運転に伴い地盤と採放熱を行う場合において、負荷変動により生じる地盤との採放熱量とその変動周期特性と地盤の熱特性により定まる地中熱交換器の採放熱能力に依って生じる地盤の温度変化に応じて、変化する地盤と熱交換する熱源水温度が、ヒートポンプが高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる冷房および暖房の上限出力を制御すべき出力としてもよい。
出力に見合う流量で前記複数の熱源機それぞれの流量を制御してもよい。
前記負荷対象の負荷が、前記地中熱ヒートポンプにおける任意の一定出力以下の出力により処理可能である場合には、前記地中熱ヒートポンプのみを運転させ、前記負荷対象の負荷が、前記一定出力よりも大きい出力により処理する必要がある場合には、前記地中熱ヒートポンプを前記一定出力させるために必要な条件で運転させつつ、前記補助熱源機に不足分を出力させてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒートポンプを効率的に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る2種類以上の熱源機を有するシステムの例である。
図2】本発明に係る熱源機の負荷の分配の概念図((a)本実施形態の制御、(b)従来の制御)である。
図3】本発明の一実施形態に係るシステムにおけるヒートポンプの出入口温度差(上側のグラフ)と、それに対する圧縮機回転数(下側のグラフ)である。
図4】本発明の一実施形態に係るシステムにおける熱源水の循環流量分配による出力制御のフローである。
図5】本発明の実施例に用いたフィールド試験系統図である。
図6】本発明の実施例における二次側流量変化である。
図7】本発明の実施例における出力変化である。
図8】本発明の実施例における二次側HP温度変化である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1から図8を参照し、本発明の一実施形態に係る地中熱ヒートポンプシステムを説明する。なお本実施形態では、「地中熱ヒートポンプ」を「GSHP」ということがある。「地中熱交換器」を「GHEX」ということがある。
【0010】
図1に2種類以上の熱源機13を有するシステム(本文では地中熱ヒートポンプと空気熱源ヒートポンプのハイブリッドシステム)の概念図を、熱源機13の負荷の分配の概念図を図2に示す。
【0011】
[ハイブリッドGSHPシステム10の構成]
図1に示すように、ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステム(ハイブリッドGSHPシステム10)は、負荷対象の負荷(熱負荷)を賄う。ハイブリッドGSHPシステム10は、地中熱ヒートポンプ11(GSHP)と補助熱源機12(空気熱源ヒートポンプ、空気熱ヒートポンプ、ASHP)を含む複数の熱源機13と、複数の熱源機13それぞれからの冷温水を合流させ、冷温水を負荷対象に送り冷暖房を行う負荷処理機14と、複数の熱源機13と負荷処理機14との間における冷温水の循環量を制御する制御部15と、を備えている。図示の例では、GSHP11およびASHP12は1つずつであり、2つで負荷処理のための冷温水を製造している。また負荷処理機14は1つである。GSHP11は、地中熱交換器(GHEX16)との間で熱源水を循環させることで、地中との間で採放熱を行い熱源として利用する。
【0012】
ハイブリッドGSHPシステム10は、複数の熱源機13から負荷処理機14に供給される冷温水を集約する往きヘッダー17と、負荷処理機14を通過した冷温水を各熱源機13に分配して戻す還りヘッダー18と、を更に備えている。
負荷処理機14が暖房運転する場合、負荷処理機14にて温水にて加熱することから、還りヘッダー18における温水温度が、往きヘッダー17における温水温度よりも低くなる。負荷処理機14が冷房運転する場合、負荷処理機14にて冷水にて冷却することから、還りヘッダー18における冷水温度が、往きヘッダー17における冷水温度よりも高くなる。
【0013】
複数の熱源機13、負荷処理機14、GHEX16、往きヘッダー17、還りヘッダー18は、配管20を介して接続されている。冷温水は、複数の熱源機13、負荷処理機14、GHEX16、往きヘッダー17、還りヘッダー18を、配管20を通して循環する。
配管20としては、各熱源機13と往きヘッダー17とを接続する複数の第1配管21と、往きヘッダー17と負荷処理機14を接続する第2配管22と、負荷処理機14と還りヘッダー18とを接続する第3配管23と、還りヘッダー18と各熱源機13とを接続する第4配管24と、GSHP11とGHEX16とを接続する第5配管25および第6配管26と、を備えている。
【0014】
各配管20には、配管20内の冷温水の温度を測定する温度計31が設けられている。第1配管21および第2配管22には、配管20内の冷温水の流量を測定する流量計32が設けられている。第4配管24には、各ヒートポンプ13の流量を調整するポンプ33が設けられている。温度計31および流量計32の測定結果は、制御部15に送られる。ポンプ33は、制御部15により制御される。
【0015】
[HR-GSHPシステム10の制御]
本実施形態に示すハイブリッドGSHPシステム10のように、複数の熱源機13を有するシステムにおいては、一般的には高効率の熱源機13(GSHP11)を優先的に運転させ、優先的に運転した熱源機13の出力が負荷に対して不足する場合に、もう一方の熱源機13が稼働することとなる。2種類の熱源機13が同時に運転する場合、高効率の熱源機13を出力上限まで運転し、不足分の熱量のみをもう一方の熱源機13によって対応することが、効率の観点から最も良いと考えられる。
【0016】
しかしながら、従来の熱源システムでは冷温水の循環流量は機器毎の定格出力に応じて一定流量(流量制御なしの成り行き)で運転され、熱源機13の出力は一般的に温水(もしくは冷水)の出入口の温度差に応じて制御される。そのため、不足分の熱量のみをもう一方の熱源機13が対応するというような制御が実施されない。
【0017】
<従来の制御>
以下では、図2図3を用いて従来の熱源システムにおける運転方法の一例について説明する。図2図3では、図1の熱源システムを前提としており、ここではGSHP11とASHP12の定格出力は等しい。
図3に一般的なヒートポンプの温水(冷水)の出入口の温度差およびそれに対する圧縮機の回転数の一例を示す。この回転数はヒートポンプの出力に比例する。
【0018】
図2において、(a)は本出力制御あり、(b)は従来制御の場合の日負荷変動を処理するGSHP11とASHP12の出力分配の状態を示している。いずれも横軸は時間(時刻)を表し、1日分の時刻(0時から24時)を表している。縦軸は負荷対象の熱負荷を表している。図2(a)、(b)とも、各時刻における熱負荷(前提条件)は同等である。具体的には、4時から21時まで熱負荷が生じていて、そのうち、9時から16時までの時間帯(第1の時間帯)の熱負荷が他の時間帯(第2の時間帯)の熱負荷に比べて高い。第1の時間帯では、熱負荷がGSHP11の定格出力よりも高く、GSHP11、ASHP12の両ヒートポンプ13を稼働させる必要がある。第2の時間帯では、熱負荷がGSHP11の定格出力以下であり、GSHP11のみを稼働させれば足りる。
【0019】
図3における下側のグラフでは、縦軸がヒートポンプの圧縮機の回転数(圧縮機に対する電源の周波数)であり、ヒートポンプが制御される出力を示している。
【0020】
図3における上側のグラフでは、縦軸が各ヒートポンプ13の出入口における冷温水の温度を示している。このグラフにおける入口水温は、第4配管24(還りヘッダー18とヒートポンプ13との間)における冷温水の温度を示している。このグラフにおける出口水温は、第1配管21(ヒートポンプ13と往きヘッダー17との間)における冷温水の温度を示している。
【0021】
図3に示すように、圧縮機の回転数(ヒートポンプ13の出力)は出入口の温度差に応じて増減するため、1台のヒートポンプ13のみが稼働している場合は負荷の増大に伴う温度差の増大により圧縮機の回転数も増大し、ヒートポンプ13の定格出力で温度差は最大となる。図2の4時から8時においては、GSHP出力100%相当の負荷で定格出力の状態であり、(a),(b)どちらもGSHP11が出力100%、流量も100%で動いており、この状態である。
しかしながら、図2の9時から16時においては負荷が増大し、GSHP出力140%相当の負荷となっている。2種類目のヒートポンプ13の稼働が必要な範囲となると、(b)の従来制御では2台のヒートポンプとも一定流量(定格流量)であるため、2台のヒートポンプ13の稼働に伴い全体の循環流量が200%に増大するため、温度差が70%に減少し、圧縮機の回転数が減少する。そのまま1台のヒートポンプ13の定格出力を少し超えた140%程度の負荷が持続し、2台のヒートポンプ13が同出力で稼働し続けると、結果としてGSHPも温度差に比例して70%の低出力のまま運転を継続し、GSHPが100%運転している場合に比べると総合的な効率は低下する。
【0022】
<本実施形態に係る制御>
本実施形態においては、ヒートポンプ13毎の流量を定格出力に合わせた一定流量ではなく、各ヒートポンプ13を変流量制御とし、逆に温水(もしくは冷水)の出入口の温度差は一定になるように制御する。さらに各ヒートポンプ13の流量は、負荷配分したい流量に分配制御すれば、ヒートポンプ13毎に任意の負荷配分することが可能となる。
言い換えると、制御部15は、負荷対象の負荷が、GSHP11における定格出力以下の出力により処理可能である第1の場合には、GSHP11のみを運転させる。負荷対象の負荷を、GSHP11における定格出力よりも大きい出力により処理する必要がある第2の場合には、制御部15は、GSHP11を定格出力させるために必要な条件(冷温水の流量)で運転させつつ、ASHP12に不足分を出力させる。制御部15は、前記第2の場合には、ASHP12における冷温水の流量を調整することで、不足分を出力させる。言い換えると、制御部15は、各ヒートポンプ13における流量を制御することで、各ヒートポンプ13の出力を制御する。すなわち、制御部15は、出力に見合う流量で複数のヒートポンプ13それぞれの流量を制御する。このとき制御部15は、GSHP11およびASHP12におけるそれぞれの流量を、例えばポンプ33を制御すること等により制御する。
なお、GSHP11を定格出力させるために必要な条件で運転させる場合であっても、例えば、外部環境の影響などにより、定格出力よりも低い出力でしかGSHP11が運転されない場合がある。
【0023】
循環流量の分配割合を調節することによって、片方のヒートポンプ13の出力を一定に保ち、効率の高いヒートポンプ13を優先的に運転させたい場合には、2種類目のヒートポンプ13が稼働していても、1種類目のヒートポンプ13の出力を上限に近づけて運転することが可能となる。さらに、GSHPシステム10においては、長期的に運転可能で、かつ省エネルギー効果を最大限に得られるような採放熱量に調整しながら、適正なGSHP11の負荷分配出力を維持しながら運転することも可能となる。
【0024】
図4に制御フローを示す。まず2次側の熱負荷Q2の計算を行い(ステップS1)、1種類目の熱源機13であるGSHP11の出力最大値Qg2maxとの比較を行う(ステップS2)。Q2 の絶対値がQg2maxより大きい場合には(ステップS2:Yes)、1種類目の熱源機13の出力をQg2maxと設定し、残りの負荷を2種類目の熱源機13であるASHP12の負荷とする(ステップS3)。そしてそれぞれの負荷の割合より循環流量を分配する(ステップS4)。一方、Q2 の絶対値がQg2max以下である場合には(ステップS2:No)、GSHP11の出力をQ2としつつASHP12を停止させる(ステップS5)。
なお、制御フローにおけるQg2maxをGSHPシステム10におけるGSHP11の暖房負荷分配値Qg2hd、GSHP11の冷房負荷分配値Qg2cdに置き換えれば、GSHP11における適正な地中採放熱量に調整する出力制御も可能となる。
【0025】
[本実施形態に係るハイブリッドGSHPシステム10、運転方法のまとめ]
<構成要件>
本実施形態に係るハイブリッドGSHPシステム10は、建築物等で発生する暖冷房負荷に対して、2種類以上の熱源機13を有するシステムにおいて、各々の熱源機13の冷温水側の循環流量を調整することにより、片方の熱源機13の出力を一定に保ち、効率の高い熱源機13を運転可能な範囲で優先的に運転させることができる、熱源機13の暖冷房出力制御に関する。
【0026】
<作用効果>
本実施形態に係るハイブリッドGSHPシステム10は、建築物等で発生する暖冷房負荷に対して、1種類以上の熱源機13を併用するハイブリッドGSHPシステム10において、各々の熱源機13の冷温水側の循環流量を調整することにより、他の熱源と比較して効率の高いGSHP11の出力を一定に保つことにより、適正な採放熱量に調整することを可能とする。その結果、長期的に運転可能で、かつ省エネルギー効果を最大限に得られる条件で運転することができる。
【0027】
本実施形態に係るハイブリッドGSHPシステム10の運転方法は、建築物等で発生する暖冷房負荷に対して、2種類以上の熱源機13を有するシステムについて、各々の熱源機13の冷温水側の循環流量を調整することにより、各熱源機13の出力を任意の負荷配分で一定に保つ制御である。これにより、片方の熱源機13の出力を一定に保ち、効率の高い熱源機13を運転可能な範囲で優先的に運転させることも可能となる。
【0028】
その結果、他の熱源と比較して効率の高いGSHP11について、採放熱量を調整することが可能となる。その結果、長期的に運転可能な範囲で、かつ省エネルギー効果を最大限に得られる条件で運転できるようになる。そのため、ハイブリッドGSHPシステム10の導入の費用対効果を最大化することや、コスト回収年数を最小化することが可能となる。
なお、本実施形態ではハイブリッドGSHPシステム10の代表的な用途として空調における暖房・冷房を取り上げ、熱負荷を暖冷房負荷と称している。しかしながら、暖房以外の給湯、蒸気、生産用途向け等の加熱負荷、冷房以外の冷蔵、生産用途向け等の冷却負荷も同様に対象となる。
【0029】
<変形例>
前記実施形態では、補助熱源機12としてASHPを例示しているが、本発明はこれに限られない。補助熱源機12として、ヒートポンプ、チラー、ターボ冷凍機、主に化石燃料を駆動源とするボイラ、吸収式冷凍機等を採用することも可能である。
【0030】
前記実施形態では、制御の基準となる任意の一定出力を定格出力としていたが、本発明はこれに限られない。任意の一定出力としては、例えば、以下に示す出力が挙げられる。
(1)2種類以上の熱源機を有するシステムにおいて、最も効率の高い熱源機に運転制約がない場合は、最も効率の高い熱源機の「定格出力」を「任意の一定出力」とする。
(2)1種類以上の補助熱源機を併用するハイブリッドGSHPシステムにおいては、他の熱源機に比べ効率の高いGSHPが「熱源水温度が高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる上下限出力」を「任意の一定出力」とする。すなわち、GSHPは高効率でも運転制約があるので、一定出力は「定格出力」とは限らない。
(3)部分負荷効率が高い熱源機の場合は、「最も高い負荷効率の出力比率範囲の出力」を「任意の一定出力」とする。
【0031】
[上記(1)の例(第1事例)]
上記(1)の例を以下に示す。本例に係るヒートポンプは、定格出力100kWのヒートポンプで以下の表1に示すような特性を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
このように「定格出力=最高効率点=最適出力」である場合、負荷率が下がるに連れて部分負荷効率も下がっていく。このヒートポンプ100kWを2台と他熱源機100kW(COP=3.0)2台を組み合わせて使う場合、ヒートポンプのCOPは他熱源機のCOPより常に高く、かつ、ヒートポンプは定格出力運転時のCOPが最も高く、低い負荷時に部分負荷効率が高くないため、負荷100~200kWのヒートポンプ2台運転時には、1台目のヒートポンプの「定格出力」を「任意の一定出力」とする運転制御となる。
具体的には、以下の表2に示す出力制御となる。
【0034】
【表2】
【0035】
[上記(3)の例1(第2事例)]
上記(3)の例1を以下に示す。本例に係るヒートポンプは、定格出力100kWのヒートポンプで以下の表3に示すような特性を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
この場合、40~80%の部分負荷効率が一律に高い。このヒートポンプ100kWと他熱源機100kW(COP=3.8)を組み合わせて使う場合、ヒートポンプ定格出力(100%)運転時のCOPは他熱源の方が良い。したがって、任意の一定出力は高効率で運転できる80kW以下とし、下記流量制御する。
【0038】
【表4】
【0039】
この場合、0~20~40~60~80kWにおける制御流量は0~57~115~172~229L/minと変化させ、229L/min一定ではない。本例では高効率ヒートポンプの定格出力はあくまで100kWであり、この場合定格出力になるよう制御するわけではないため、「定格出力=任意の一定出力」ではない。本例のように「定格出力≠最適出力」ではない場合もあり、特にヒートポンプは部分負荷効率が高く、一般的に「定格出力≠最適出力」となる。
【0040】
ただし、本例でも他熱源機のCOPが悪ければ(COP=3.0)、「定格出力≠最適出力」ではなくてもヒートポンプを優先させた方が良いので以下のように上記(1)の例に該当する下記表5に示す制御となる。
【0041】
【表5】
【0042】
[上記(3)の例2(第3事例)]
上記(3)の例2を以下に示す。本例に係るヒートポンプは、定格出力100kWのヒートポンプで以下の表6に示すような特性を示す。
【0043】
【表6】
【0044】
この場合、20~90%の部分負荷効率が高いが一律ではない。40%で最高効率点となっており、40%以上では負荷率が上がるに連れて部分負荷効率は下がっていく。
このヒートポンプ100kWを2台と他熱源機100kW(COP=3.0)2台を組み合わせて使う場合、ヒートポンプのCOPは他熱源機のCOPより常に高く、かつ、出力40%運転時のCOPが最も高いので、「高効率なヒートポンプの部分負荷効率と他熱源の部分負荷効率(本例では一律3.0)を計算し、もっとも効率の良い分配負荷の組み合わせを決定」すると以下の例示のようになる。すなわち、本例では負荷が40~100kWでは1台目を40kWで出力一定に固定し、2台目の出力を変動させるのが良いが、110kW以上では2台目の効率がかなり落ちるため、下記の表7に示すように、2台の出力を同等にして変動させた方が効率が良くなる。
【0045】
【表7】
【0046】
[上記(2)の例1(第4事例)]
第1事例のヒートポンプおよび補助熱源機を使用している場合で、他の熱源機に比べ効率の高いGSHPにおいて「熱源水温度が高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる上限出力」が120kWの場合、以下の表8に示すような運転制御となる。
すなわち、地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房運転に伴い地盤と採放熱を行う場合において、地中熱交換器の採放熱能力は、負荷変動により生じる地盤との採放熱量とその変動周期特性と、地盤の熱特性と、により定まる。
一例をあげると、自然地中温度が18℃(関東レベル)、地盤の有効熱伝導率λeが1.6程度で、半年24時間連続で冷房放熱、同じく半年24時間連続で暖房採熱する場合、冷房期においてはヒートポンプ入口の熱源水の冷房時上限温度が30℃ならば、地中熱交換器の放熱能力は26W/m程度となる。この場合、長さ100m地中熱交換器を56本施工可能ならば、26W/m×5600m≒145kWの合計放熱量が可能である。
このような地中熱交換器能力において、第1事例のヒートポンプおよび補助熱源機を使用する場合、他の熱源機に比べ効率の高いGSHPを優先的に使用するが、第1事例のようなCOP=5足らずの場合、145kWの放熱可能量にて運転可能な冷房出力は120kW程度となる。したがって、「熱源水温度が高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる上限出力」は120kWとなり、以下の表8に示すような運転制御となる。
【0047】
【表8】
【0048】
[上記(2)の例2(第5事例)]
第3事例のヒートポンプおよび補助熱源機を使用している場合で、他の熱源機に比べ効率の高いGSHPにおいて「熱源水温度が高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる上限出力」が120kWの場合、以下の表9に示すような運転制御となる。
すなわち、上記第4事例と同様の地中熱交換器能力において、第3事例のヒートポンプおよび補助熱源機を使用する場合、他の熱源機に比べ効率の高いGSHPを優先的に使用するが、第3事例のようなCOP=5足らずの場合、145kWの放熱可能量にて運転可能な冷房出力は120kW程度となる。したがって、「熱源水温度が高い運転効率を維持できる上下限温度内に納まる上限出力」は120kWとなり、以下の表9に示すような運転制御となる。
【0049】
【表9】
【実施例
【0050】
上記に説明した制御運転を北海道大学構内に設置したフィールド試験装置により検証を行った。図5にフィールド試験系統図を、表10に試験装置構成機器概要を示す。
【0051】
【表10】
【0052】
フィールド試験装置は複数台のGSHP11と、ASHP12(補助熱源機、空気熱源ヒートポンプ)と、GHEX16と、任意に設定した暖房・冷房負荷を模擬できる模擬負荷装置(模擬負荷タンク、負荷処理機14)と、で構成される。
【0053】
表11に設定負荷を示す。
【0054】
【表11】
【0055】
模擬負荷装置の暖房負荷設定値を12 kWに設定した。通常の運転であれば、GSHP11とASHP12の暖房時の定格流量は同じとなっているため双方の出力は6 kWとなるが、本制御技術によって設定負荷に対してGSHP11からの出力が8 kW、ASHP12からの出力が4 kWに分配されるかを検証した。
【0056】
結果として、図6に二次側循環流量の経時変化を、図7に暖房負荷設定値とGSHP11、ASHP12の暖房出力の経時変化を、図8にヒートポンプ13の二次側温度の経時変化を示す。
【0057】
図6に示すように、循環流量はGSHP11側(LV2-hp2)が約24 L/min、ASHP12側(LV2-ahp2)が約10~12 L/minとなり、負荷の設定条件とほぼ同様に循環流量もGSHP11がASHP12の約2倍となっていることが確認できた。
【0058】
図7に示すように、暖房出力についてはGSHP11が約6~6.5 kW、ASHP12が約4~5.5 kWであり、設定条件と比較するとややGSHP11が小さく、ASHP12が大きくなる結果となった。これは図8に示すようにASHP12の二次側送水温度がGSHP11よりも高いことが要因として挙げられる。二次側送水温度はGSHP11とASHP12双方とも40℃設定としていたが、制御の違いが送水温度の違いとなったと考えられる。
【0059】
しかしながら、概ね二次側循環流量は設定負荷に応じて分配され、それにより出力も分配されていることが確認でき、本制御の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0060】
10 ハイブリッド地中熱ヒートポンプシステム
11 地中熱ヒートポンプ
12 補助熱源機
13 熱源機
14 負荷処理機
15 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8