(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】複合中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20230920BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230920BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230920BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20230920BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230920BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230920BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/56
(21)【出願番号】P 2019036305
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-12-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三原 孝太
(72)【発明者】
【氏名】水本 淑人
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢作
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-113274(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024573(WO,A1)
【文献】特開2017-018878(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115455(WO,A1)
【文献】特開2016-055215(JP,A)
【文献】特開2019-018162(JP,A)
【文献】特開昭57-007202(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、前記筐体内に収容された複数の複合中空糸膜とを備え、
前記複合中空糸膜が、
多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層とを備え、
前記半透膜層が、前記支持層の外周面に接触しており、
前記多官能アミン化合物が、フェニレンジアミンであり、
前記多官能酸ハライド化合物が、トリメシン酸トリクロライドであり、
前記支持層が、ポリフッ化ビニリデンと親水性樹脂とを含み、
前記筐体の内径が、
18~50cmであって、
前記複合中空糸膜の有効長が、
1~2mであることを特徴とする複合中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記複合中空糸膜は、外径が0.1~2mmであり、内径が0.05~1.5mmである請求項1に記載の複合中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記筐体の内部の、前記複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面の面積に対する、前記複数の複合中空糸膜の合計断面積の比が、10~65%である請求項1又は請求項2に記載の複合中空糸膜モジュール。
【請求項4】
正浸透法に用いられる請求項1~3のいずれか1項に記載の複合中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記複合中空糸膜は、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率が、40~100%である請求項4に記載の複合中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記複合中空糸膜は、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度が、2~100LMHである請求項4又は請求項5に記載の複合中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記支持層の外周面に対する水の接触角が、90°以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の複合中空糸膜モジュール。
【請求項8】
耐圧強度が、0.1~3MPaである請求項1~7のいずれか1項に記載の複合中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半透膜を用いる膜分離技術が、省エネルギ、省資源、及び環境保全等の観点から、注目を集めている。この半透膜を用いる膜分離技術には、例えば、ナノフィルトレーション(Nano Filtration:NF)膜、逆浸透(Revers Osmosis:RO)膜、及び正浸透(Forward Osmosis:FO)膜等の、半透膜の機能を有する半透膜層を備える膜が用いられる。このような半透膜を用いる膜分離技術に用いられる膜としては、半透膜層だけではなく、半透膜層を支持する支持層も備えられる複合膜等が挙げられる。
【0003】
半透膜層と支持層とを備える複合膜としては、平膜状の複合膜だけではなく、例えば、中空糸膜状の複合膜等も挙げられる。また、複合膜等の分離膜を水処理等に用いる際、分離膜を筐体内に収容したモジュールとして用いる場合がある。このように、複合膜等の分離膜を、筐体内に収納したモジュールとして、水処理に用いる場合、平膜ではなく、中空糸膜であるほうが、設置面積あたりの膜の表面積を大きくできる。このため、中空糸膜が、より省スペースな水処理システムを提供できることから、好ましく用いられる。
【0004】
このような中空糸膜を備えたモジュールとしては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載のモジュール等が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、供給口または排出口に接続された芯管と、複数の中空糸膜からなる中空糸膜群と、前記芯管および前記中空糸膜群をそれらの両端で固定する樹脂壁とを備える中空糸膜エレメントであって、前記芯管は、前記中空糸膜群の一端である第1端の近傍のみに孔を有し、複数の前記中空糸膜は、互いに交差するように前記芯管の周りに螺旋状に巻回されており、前記中空糸膜同士の交差部であるクロスポイントを複数含むクロスポイント群を有し、少なくとも前記中空糸膜群の第1端の近傍に前記クロスポイント群が存在する中空糸膜エレメントと、該中空糸膜エレメントが少なくとも1本充填された容器とを備える中空糸膜モジュールが記載されている。
【0006】
特許文献2には、複数の中空糸膜で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、前記中空糸糸束の膜面積が1m2以上であり、そして、前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0~60%であるモジュールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/125755号
【文献】国際公開第2016/027869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、複合膜を筐体内に収容したモジュールとして水処理等に用いる場合、複合膜の透水性が高いだけではなく、モジュール全体としての水の透過速度が高いことが求められる。しかしながら、従来の中空糸膜モジュールの場合、モジュール全体として、充分に高い、水の透過速度が得られない場合があった。
【0009】
例えば、特許文献1によれば、中空糸膜の外側を通過する液の流速が速く、かつ、エレメント内で液の淀みが生じ難い中空糸膜モジュールを提供することができる旨が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜として、高い性能を有することが期待できる、架橋ポリアミドを含む半透膜層を備える複合中空糸膜を採用したとしても、モジュール全体として、充分に高い、水の透過速度が得られないと考えられる。特許文献1に記載の中空糸膜モジュールは、上述したように、複数の中空糸膜が、互いに交差するように芯管の周りに螺旋状に巻回されており、前記中空糸膜同士が交差する交差部を複数含む。この中空糸膜同士が交差する交差部等において、前記複合中空糸膜から前記半透膜層が剥離すると考えられる。このことから、特許文献1に記載の中空糸膜モジュールにおいて、前記複合中空糸膜を採用したとしても、モジュール全体として、充分に高い、水の透過速度が得られないと考えられる。
【0010】
特許文献2によれば、半径方向および長さ方向における平均厚みのばらつきが少ない分離活性層を有し、安定した高い性能を発揮する複合中空糸膜モジュールを提供することができる旨が開示されている。特許文献2に記載の複合中空糸膜モジュールは、前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けている。このように、分離活性層が支持層の内表面に形成されていることから、分離活性層の面積が不充分になり、モジュール全体として、充分に高い、水の透過速度が得られないと考えられる。また、特許文献2には、微細孔性中空糸支持膜の素材として、ポリスルホンやポリエーテルスルホンが好ましいと記載されている。ポリスルホンやポリエーテルスルホンは、親水性が充分に高いものではないことから、これらを好ましく用いる特許文献2に記載の複合中空糸膜モジュールは、透水性を高めることを目的としたのではなく、透水性のばらつきを減らすことを目的としていると考えられる。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされた発明であって、透水性能に優れた複合中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、種々検討した結果、以下の本発明により、上記目的は達成されることを見出した。
【0013】
本発明の一態様に係る複合中空糸膜モジュールは、筐体と、前記筐体内に収容された複数の複合中空糸膜とを備え、前記複合中空糸膜が、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層とを備え、前記半透膜層が、前記支持層の外周面に接触しており、前記筐体の内径が、10~200cmであって、前記複合中空糸膜の有効長が、0.3~3mである。
【0014】
このような構成によれば、透水性能に優れた複合中空糸膜モジュールを提供することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0015】
まず、複合中空糸膜モジュールに備えられる複合中空糸膜は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層を支持層上に備えることから、半透膜層を用いた分離を好適に行うことができると考えられる。また、前記支持層として、中空糸状の支持層を用いることによって、平膜にした場合より膜面積を広くすることができる。さらに、前記半透膜層が、前記支持層の外周面に接触していることから、前記半透膜層が、前記支持層の内周面に接触している場合より、前記半透膜層の面積を広くすることができる。これらのことから、複合中空糸膜モジュールに備えられる複合中空糸膜の面積、特に、半透膜層の面積を広くすることができる。よって、複合中空糸膜モジュールに備えられる複合中空糸膜は、半透膜層を用いた分離を好適に行うことができることから、優れた透水性を実現できると考えられる。
【0016】
さらに、有効長が0.3~3mである前記複合中空糸膜を、内径が10~200cmである筐体内に収容することによって得られた複合中空糸膜モジュールは、前記複合中空糸膜に備えられた半透膜層を用いた分離を好適に行うことができると考えられる。
【0017】
以上のことから、前記複合中空糸膜モジュールは、前記複合中空糸膜に備えられた半透膜層を用いた分離を好適に行うことができることから、前記複合中空糸膜の有する優れた透水性を好適に発揮することができる。よって、モジュール全体としての水の透過速度が高い、透水性能に優れた複合中空糸膜モジュールが得られると考えられる。また、前記複合中空糸膜モジュールは、例えば、正浸透法に用いた場合、溶質濃度の異なる2つの溶液を、前記複合中空糸膜を介して接触させることによって、溶質濃度差から生じる浸透圧差を駆動力として、溶質濃度の低い希薄溶液から、溶質濃度の高い濃厚溶液へと水を好適に透過させることができる。前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いると、例えば、優れた脱塩性能を発揮することができる。
【0018】
また、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、前記複合中空糸膜は、外径が0.1~2mmであり、内径が0.05~1.5mmであることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られる。このことは、前記複合中空糸膜モジュールに備えられる前記複合中空糸膜がより優れた透水性を発揮することができることによると考えられる。
【0020】
また、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、前記筐体の内部の、前記複合中空糸膜の長手方向に垂直な断面の面積に対する、前記複数の複合中空糸膜の合計断面積の比が、10~65%であることが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られる。このことは、前記複合中空糸膜モジュールに備えられる前記複合中空糸膜の有する優れた透水性をより好適に発揮することができることによると考えられる。
【0022】
また、前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いられることが好ましい。
【0023】
前記複合中空糸膜モジュールは、前記複合中空糸膜に備えられた半透膜層を用いた分離を好適に行うことができることから、前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に好適に用いることができる。前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いると、例えば、優れた脱塩性能を発揮することができる。
【0024】
また、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、前記複合中空糸膜は、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率が、40~100%であることが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、前記複合中空糸膜モジュールに備えられる前記複合中空糸膜が乾燥状態であっても、前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いることができる。前記複合中空糸膜モジュールを正浸透法で用いていると、前記複合中空糸膜が湿潤状態で用いられることが多い。しかしながら、前記複合中空糸膜モジュール内に液体を満たさずに輸送した後等の場合において、前記複合中空糸膜モジュールを正浸透法に用い始めた際には、前記複合中空糸膜が乾燥状態である場合もある。そういった場合でも、前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いることができる。このことから、前記複合中空糸膜モジュール内に液体を満たさずに輸送することも可能となる。
【0026】
また、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、前記複合中空糸膜は、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度が、2~100LMHであることが好ましい。
【0027】
このような構成によれば、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られる。このことは、前記複合中空糸膜モジュールに備えられる前記複合中空糸膜がより優れた透水性を発揮することができることによると考えられる。
【0028】
また、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、前記支持層の外周面に対する水の接触角が、90°以下であることが好ましい。
【0029】
このような構成によれば、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られる。このことは、以下のことによると考えられる。
【0030】
まず、親水化されている前記支持層の外周面上に、前記半透膜層が接触しているので、前記半透膜層が好適に存在することができると考えられる。また、前記支持層が好適に親水化されていると考えられる。これらのことから、前記複合中空糸膜モジュールに備えられる前記複合中空糸膜は、半透膜層を用いた分離をより好適に行うことができ、より優れた透水性を実現できると考えられる。このことから、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られると考えられる。
【0031】
また、外周面に対する水の接触角が、90°以下である支持層を用いて、前記複合中空糸膜を製造すると、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率が、40~100%である複合中空糸膜が製造できると考えられる。この点からも、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られると考えられる。
【0032】
また、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、耐圧強度が、0.1~3MPaであることが好ましい。
【0033】
このような構成によれば、耐久性の高い複合中空糸膜モジュールが得られる。よって、透水性能に優れるだけではなく、耐久性にも優れる複合中空糸膜モジュールが得られる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、透水性能に優れた複合中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る複合中空糸膜モジュールの一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る複合中空糸膜モジュールに備えられる複合中空糸膜の部分斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す複合中空糸膜の層構造の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す複合中空糸膜モジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0037】
[中空糸膜モジュール]
本発明の実施形態に係る複合中空糸膜モジュールは、複数の複合中空糸膜が筐体内に収容された複合中空糸膜モジュールである。すなわち、前記複合中空糸膜モジュールは、前記複数の複合中空糸膜と、前記複数の複合中空糸膜を収容する筐体とを備える複合中空糸膜モジュールである。前記複合中空糸膜は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層とを備え、前記半透膜層が、前記支持層の外周面に接触している。このような複合中空糸膜は、半透膜層を用いた分離を好適に行うことができる、前記架橋ポリアミドを含む半透膜層を備え、この半透膜層の面積を広くすることができる。そして、前記複合中空糸膜モジュールにおいて、前記複合中空糸膜の中でも、その有効長が0.3~3mであるものを用い、さらに、内径が10~200cmである前記筐体を用いることによって、前記複合中空糸膜に備えられた半透膜層を用いた分離を好適に行うことができる。すなわち、前記複合中空糸膜モジュールは、透水性能に優れている。
【0038】
前記複合中空糸膜モジュールとしては、具体的には、各複合中空糸膜の中空内部を開放した状態で、前記各複合中空糸膜を前記筐体に、封止剤等で封止した複合中空糸膜モジュール等が挙げられる。このような複合中空糸膜モジュールは、前記複合中空糸膜が前記筐体に封止されているので、前記複合中空糸膜が前記筐体に液密に固定されている。また、前記複合中空糸膜モジュールは、前記各複合中空糸膜と前記筐体とが封止剤によって直接接着されて封止されていてもよいし、前記各複合中空糸膜が封止剤によって筒状ケースに接着され、この筒状ケースが前記筐体に固定されることによって、前記各複合中空糸膜と前記筐体とが封止されていてもよい。また、前記複合中空糸膜モジュールは、例えば、前記複数中空糸膜を所定本数束ねて、この複合中空糸膜束を、所定長さに切断し、所定形状の筐体に収容(充填)し、その端部を、ポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を含む封止剤で、前記筐体に固定することによって、得られる。また、前記複合中空糸膜モジュールとしては、例えば、
図1に示す複合中空糸膜モジュール1等が挙げられる。なお、
図1は、本実施形態に係る複合中空糸膜モジュールの一例を示す概略図である。
【0039】
前記複合中空糸膜モジュール1は、
図1に示すように、筐体2と、複数の複合中空糸膜11と、下端部封止剤4と、上端部封止剤5とを備える。前記筐体2は、中空糸膜モジュールの筐体として用いることができるものであれば、特に限定されない。前記筐体2としては、具体的には、円筒状等の筒状体等が挙げられる。前記複数の複合中空糸膜11は、下端部及び上端部が、中空部を開口した状態で、下端部封止剤4及び上端部封止剤5によって、それぞれ前記筐体2に固定される。下端部封止剤4は、前記複数の複合中空糸膜11の下端部を前記筐体2に固定し、上端部封止剤5は、前記複数の複合中空糸膜11の上端部を前記筐体2に固定する。下端部封止剤4及び上端部封止剤5は、中空糸膜モジュールに用いられる封止剤であれば、特に限定されない。下端部封止剤4及び上端部封止剤5としては、具体的には、ポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を含む封止剤等が挙げられる。前記筐体2には、シェル側導入口6と、シェル側導出口7と、ボア側導入口8と、ボア側導出口9とを備える。前記シェル側導入口6及び前記シェル側導出口7は、前記筐体2の周面に設けられる。前記シェル側導入口6から前記筐体2内に液体を供給し、前記液体を前記筐体内2を通過した後、前記シェル側導出口7から排出することによって、前記液体が、前記筐体2と前記複数の複合中空糸膜11との間、すなわち、シェル側に供給される。また、前記ボア側導入口8及び前記ボア側導出口9は、前記筐体2の下端面及び上端面にそれぞれ設けられる。前記ボア側導入口8から前記筐体2内に液体を供給し、前記液体を前記筐体内2を通過した後、前記ボア側導出口9から排出することによって、前記液体が、前記複数の複合中空糸膜11の内部、すなわち、ボア側に供給される。
【0040】
前記複合中空糸膜モジュールを、例えば、FO法に用いた場合、すなわち、前記複合中空糸膜をFO膜として用いた場合で説明する。まず、シェル側に、供給溶液(Feed Solution:FS)を供給し、ボア側に、駆動溶液(Draw Solution:DS)を供給した場合、シェル側に供給された供給溶液の水は、ボア側に供給された駆動溶液によって、浸透圧差を駆動力として、ボア側に引き抜かれる。すなわち、溶質濃度の異なる、供給溶液と駆動溶液とを、複合中空糸膜を介して接触させることにより、溶質濃度差から生じる浸透圧差を駆動力として、溶質濃度の低い供給溶液から、溶質濃度の高い駆動溶液へと水を透過させる。前記供給溶液は、被処理液(原水)であり、具体的には、海水等が挙げられる。前記駆動溶液は、後述するが、具体的には、比較的高濃度の高分子水溶液等が挙げられる。また、前記複合中空糸膜モジュールは、シェル側に、駆動溶液を供給し、ボア側に、供給溶液を供給してもよい。また、前記複合中空糸膜モジュールによる膜分離(膜ろ過)は、クロスフローろ過方式であることが好ましい。このため、前記供給溶液及び前記駆動溶液は、クロスフローろ過方式となるように供給することが好ましい。
【0041】
[複合中空糸膜]
前記複合中空糸膜11は、
図2に示すように、中空糸状の膜である。また、前記複合中空糸膜11は、
図3に示すように、中空糸状の多孔質な支持層12と、半透膜層13とを備え、前記半透膜層13が、前記支持層12の外周面に接触している。なお、
図2は、本発明の実施形態に係る複合中空糸膜モジュールに備えられる複合中空糸膜の部分斜視図である。また、
図3は、
図2に示す係る複合中空糸膜11の一部Aを拡大して、複合中空糸膜11の層構造を示す。なお、
図3は、層の位置関係を表すものであって、層の厚みの関係を特に表してはいない概略図である。
【0042】
(半透膜層)
前記半透膜層13は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミド、すなわち、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含んで、半透膜の機能を奏する層であれば、特に限定されない。前記半透膜層13における前記架橋ポリアミドの含有量は、90~100質量%であることが好ましく、100%であることがより好ましい。すなわち、前記半透膜層13は、前記架橋ポリアミドのみからなることが好ましい。
【0043】
前記多官能アミン化合物は、アミノ基を分子内に2つ以上有する化合物であれば、特に限定されない。前記多官能アミン化合物としては、例えば、芳香族多官能アミン化合物、脂肪族多官能アミン化合物、及び脂環族多官能アミン化合物等が挙げられる。また、前記芳香族多官能アミン化合物としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及びo-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン及び1,3,4-トリアミノベンゼン等のトリアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン及び2,6-ジアミノトルエン等のジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸、キシリレンジアミン、及び2,4-ジアミノフェノール二塩酸塩(アミドール)等が挙げられる。また、前記脂肪族多官能アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロプレンジアミン、及びトリス(2-アミノエチル)アミン等が挙げられる。前記脂環族多官能アミン化合物としては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、及び4-アミノメチルピペラジン等が挙げられる。この中でも、芳香族多官能アミン化合物が好ましく、フェニレンジアミンがより好ましい。また、前記多官能アミン化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記多官能酸ハライド化合物(多官能酸ハロゲン化物)は、カルボン酸等の酸を分子内に2つ以上有する多官能有機酸化合物に含まれる酸からヒドロキシル基を2つ以上除去し、ヒドロキシル基が除去された酸にハロゲンが結びついた化合物であれば、特に限定されない。前記多官能酸ハライド化合物は、2価以上であればよく、3価以上であることが好ましい。また、前記多官能酸ハライド化合物としては、例えば、多官能酸フッ化物、多官能酸塩化物、多官能酸臭化物、及び多官能酸ヨウ化物等が挙げられる。この中でも、多官能酸塩化物(多官能酸クロライド化合物)が、最も容易に得られ、反応性も高いので好ましく用いられるが、これに限らない。また、以下、多官能酸塩化物を例示するが、多官能酸塩化物以外の多官能酸ハロゲン化物としては、下記例示の塩化物を、他のハロゲン化物に変えたもの等が挙げられる。
【0045】
前記多官能酸クロライド化合物としては、例えば、芳香族多官能酸クロライド化合物、脂肪族多官能酸クロライド化合物、及び脂環族多官能クロライド化合物等が挙げられる。前記芳香族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、及びベンゼンジスルホン酸ジクロライド等が挙げられる。また、前記脂肪族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルクロライド、及びアジポイルクロライド等が挙げられる。また、脂環族多官能クロライド化合物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、及びテトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。この中でも、芳香族多官能酸クロライド化合物が好ましく、トリメシン酸トリクロライドがより好ましい。また、前記多官能酸ハライド化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(支持層)
前記支持層12は、上述したように、中空糸状であって、多孔質であれば、特に限定されない。また、前記支持層12は、親水性樹脂を含むことによって、親水化されていてもよい。前記支持層12に含まれる親水性樹脂は、架橋されていることが好ましい。すなわち、前記支持層12は、中空糸状の多孔質な基材に、架橋された親水性樹脂を含むことが好ましい。架橋された親水性樹脂は、前記支持層12の全体に含まれていても、前記支持層12の一部に含まれていてもよいが、その場合、前記支持層12の外周面に含まれていることが好ましく、前記支持層12の外周面に含まれた上で、さらに前記支持層12の外周面以外の部分にも含まれていることがより好ましい。
【0047】
前記中空糸状の多孔質な基材は、中空糸膜を構成することができる素材からなる基材であれば、特に限定されない。前記支持層12に含まれる成分(中空糸状の多孔質な基材を構成する成分)としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリクロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリケトン、結晶性セルロース、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、及びアクリロニトリルスチレン(AS)樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、及びポリエーテルサルホンが、耐圧性能に優れる観点から好ましい。また、前記持層12に含まれる成分(中空糸状の多孔質な基材を構成する成分)としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
前記親水性樹脂は、前記中空糸状の多孔質な基材に含ませることによって、前記支持層12を親水化させることができる樹脂であれば、特に限定されない。前記親水性樹脂としては、例えば、セルロース、セルロースアセテート及びセルローストリアセテート等の酢酸セルロース系ポリマー、ポリビニルアルコール及びポリエチレンビニルアルコール等のビニルアルコール系ポリマー、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイド等のポリエチレングリコール系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸系ポリマー、及び、ポリビニルピロリドン等のポリビニルピロリドン系ポリマー等が挙げられる。この中でも、ビニルアルコール系ポリマーやポリビニルピロリドン系ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンがより好ましい。また、前記親水性樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記親水性樹脂としては、グリセリン及びエチレングリコール等の親水性の単分子を含んでいてもよく、これらの重合体であってもよく、これらを上記樹脂との共重合成分として含むものであってもよい。
【0049】
前記親水性樹脂の架橋は、前記親水性樹脂が架橋されて、前記親水性樹脂の水に対する溶解性が低下していればよく、例えば、水に溶解しないように不溶化させる架橋等が挙げられる。前記親水性樹脂の架橋としては、前記親水性樹脂としてポリビニルアルコールを用いた場合、例えば、ホルムアルデヒドを用いたアセタール化反応やグルタルアルデヒドを用いたアセタール化反応等が挙げられる。また、前記親水性樹脂としてポリビニルピロリドンを用いた場合、例えば、過酸化水素水との反応等が挙げられる。前記親水性樹脂の架橋は、その架橋度が高いと、複合中空糸膜を長期間にわたって使用しても、前記複合中空糸膜からの親水性樹脂の溶出を抑制できると考えられる。このため、前記半透膜層と前記支持層との剥離等を、長期間にわたって抑制できると考えられる。
【0050】
前記支持層12は、前記支持層12の気孔が、外表面から内周面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造、すなわち、内表面から外表面に向かって漸次的に小さくなる傾斜構造を有することが好ましい。前記支持層12の気孔が、外表面から内周面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造とは、外表面に存在する気孔が、内周面に存在する気孔より小さく、前記支持層12の内部の気孔は、前記外周面に存在する気孔と同等以上であって、前記内周面に存在する気孔と同等以下である構造である。
【0051】
前記複合中空糸膜11において、前記半透膜層13が、上述したように、前記支持層12の外周面に接触して設けられている。この外周面は、いわゆる緻密面である。
【0052】
前記支持層12は、前記外周面(緻密面)に対する水の接触角が、90°以下であることが好ましく、65°以下であることがより好ましく、10~65°であることがさらに好ましい。前記支持層12の外周面に対する水の接触角を調整することによって、前記複合中空糸膜11の透水性能、特に乾燥状態における透水性能を調整することができる。外周面に対する水の接触角が、90°以下である支持層を用いて、前記複合中空糸膜を製造すると、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率が、40~100%である複合中空糸膜が製造できると考えられる。この点からも、透水性能により優れた複合中空糸膜モジュールが得られると考えられる。また、前記接触角が大きすぎると、前記支持層の親水化が不充分であり、前記支持層上に、前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。これは、以下のことによると考えられる。前記半透膜層を形成する際、まず、前記支持層の前記緻密面側に、前記半透膜層を構成する架橋ポリアミド重合体の原料である多官能アミン化合物の水溶液を接触させる。このとき、前記外周面(緻密面)に対する水の接触角が、90°以下であれば、前記支持層の前記緻密面側に、前記多官能アミン化合物の水溶液が充分にしみ込む。この状態で、前記支持層の前記緻密面側に、前記架橋ポリアミド重合体の原料である多官能酸ハライド化合物の有機溶媒を接触させた後、乾燥させると、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物とが界面重合して、前記支持層の前記緻密面に接触するように、前記架橋ポリアミド重合体を含む半透膜層が形成される。その一方で、前記外周面(緻密面)に対する水の接触角が大きすぎると、前記多官能アミン化合物の水溶液が、前記支持層の前記緻密面側に充分にしみ込めず、上記界面重合を好適に行うことができない傾向がある。このため、前記支持層上に、前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。また、このような、前記外周面(緻密面)に対する水の接触角が大きすぎる場合、前記半透膜層が形成されても、その半透膜層は、前記支持層からの剥離が発生しやすい傾向もある。
【0053】
前記支持層12は、前記外周面に対する水の接触角が、上述したように、90°以下になるように親水化されていることが好ましいが、前記支持層12は、全体が親水化されていることがより好ましい。
【0054】
なお、前記支持層が親水化されているか否かは、支持層をIR(Infrared Spectroscopy)分析及びXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析等をすることによって、判断することができる。例えば、前記支持層の内表面、外表面、及び前記支持層を切り出した内部の面のそれぞれに対して、上記分析を行うことによって、それぞれの位置に親水性樹脂が存在するか否かがわかる。そして、支持層の全体にわたって、親水性樹脂が存在するようであれば、支持層の全体が親水化されていることがわかる。すなわち、前記支持層の内表面、外表面、及び内部の全てに、親水性樹脂の存在が確認できれば、支持層の全体が親水化されていることがわかる。
【0055】
前記支持層12は、その分画粒子径が、0.001~0.3μmであることが好ましく、0.001~0.2μmであることがより好ましく、0.001~0.1μmであることがさらに好ましい。すなわち、前記外周面(緻密面)に存在する気孔は、前記支持層の分画粒子径が上記範囲内になる気孔であることが好ましい。前記分画粒子径が大きすぎると、前記緻密面に存在する気孔が大きく、前記緻密面上に前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。すなわち、前記緻密面全体を、前記半透膜層で覆うことができず、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。前記複合中空糸膜を、例えば、正浸透(FO)膜として用いると、充分な脱塩性能を得られにくい傾向がある。一方で、前記分画粒子径が小さすぎると、半透膜層による分離を好適に行うことができ、例えば、脱塩性能を充分に発揮できるものの、透過流束が低下する傾向がある。よって、前記分画粒子径が上記範囲内であると、半透膜層による分離と透過性とを両立できる。なお、分画粒子径は、支持層の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、支持層によって透過を阻止する割合(支持層による阻止率)が90%となるときの粒子の径等が挙げられる。
【0056】
前記支持層12は、前記内周面に形成されている気孔の平均径が、1~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましく、1~20μmであることがさらに好ましい。この平均径が小さすぎると、前記支持層の傾斜構造における、前記支持層の気孔が、外周面から内周面に向かって大きくなる度合が低すぎて、透過性が不充分になる傾向がある。また、この平均径が大きすぎると、前記支持層の強度が不充分になる傾向がある。
【0057】
前記支持層12は、耐圧強度が0.3MPa以上5MPa未満であることが好ましく、0.3MPa以上4MPa未満であることがより好ましく、0.3MPa以上3MPa未満であることがさらに好ましい。この耐圧強度は、支持層の外側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力及び支持層の内側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力のうちの、低い方の圧力である。なお、支持層の外側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力とは、例えば、支持層の外側から圧力をかけていき、支持層が潰れたときの圧力である。また、支持層の内側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力とは、例えば、支持層の内側から圧力をかけていき、支持層が破裂したときの圧力である。前記耐圧強度が低すぎると、複合中空糸膜を用いた実用運転において、複合中空糸膜の耐久性が不充分になる傾向がある。前記耐圧強度は、高いほど好ましいが、高すぎる耐圧強度は、実用上、不要である場合がある。
【0058】
なお、前記支持層12の製造方法は、上記のような構成の中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記中空糸膜の製造方法としては、多孔性の中空糸膜を製造する方法等が挙げられる。このような多孔性の中空糸膜の製造方法としては、相分離を利用する方法が知られている。この相分離を利用する中空糸膜の製造方法としては、例えば、非溶剤誘起相分離法(Nonsolvent Induced Phase Separation:NIPS法)や、熱誘起相分離法(Thermally Induced Phase Separation:TIPS法)等が挙げられる。
【0059】
NIPS法とは、ポリマーを溶剤に溶解させた均一なポリマー原液を、ポリマーを溶解させない非溶剤と接触させることで、ポリマー原液と非溶剤との濃度差を駆動力とした、ポリマー原液の溶剤と非溶剤との置換により、相分離現象を起こさせる方法である。NIPS法は、一般的に、溶剤交換速度によって、形成される細孔の孔径が変化する。具体的には、溶剤交換速度が遅いほど、細孔が粗大化する傾向がある。また、溶剤交換速度は、中空糸膜の製造においては、非溶剤との接触面が最も速く、膜内部に向かうにしたがって、遅くなる。このため、NIPS法で製造した中空糸膜は、非溶剤との接触面付近は緻密であって、膜内部に向かって、徐々に細孔を粗大化した非対称構造を有するものが得られる。
【0060】
また、TIPS法とは、ポリマーを、高温下では溶解させることができるが、温度が低下すると溶解できなくなる貧溶剤に、高温下で溶解させ、その溶液を冷却することにより、相分離現象を起こさせる方法である。熱交換速度は、一般的に、NIPS法における溶剤交換速度より速く、速度の制御が困難であるため、TIPS法は、膜厚方向に対して、均一な細孔が形成されやすい。
【0061】
また、前記中空糸膜(前記支持層)の製造方法としては、前記中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、この製造方法としては、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、中空糸膜を構成する樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製する工程(調製工程)と、前記製膜原液を中空糸状に押し出す工程(押出工程)と、押し出された中空糸状の製膜原液を凝固させて、中空糸膜を形成する工程(形成工程)とを備える方法等が挙げられる。
【0062】
(複合中空糸膜)
前記複合中空糸膜は、前記複合中空糸膜に備えられる支持層が、前記半透膜層を支持し、さらに、この半透膜層による分離を阻害しないようにする上記支持層であれば、特に限定されない。すなわち、前記複合中空糸膜は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層と支持層とを備え、前記支持層が、半透膜層の機能を好適に奏するような支持層であればよい。また、前記支持層としては、下記実施例に記載の架橋ポリアミドを含む半透膜層でなくても、それぞれの半透膜層の機能を好適に奏するような支持層であればよい。
【0063】
前記複合中空糸膜の外径R1は、0.1~2mmであることが好ましく、0.2~1.5mmであることがより好ましく、0.3~1.5mmであることがさらに好ましい。前記外径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の内径も小さくなりすぎる場合があり、この場合、中空部分の通液抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。そして、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な流量で駆動溶液を流すことができなくなる傾向がある。また、前記外径が小さすぎると、外側にかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向もある。さらに、前記外径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の膜厚が薄くなりすぎる場合があり、この場合、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記外径が大きすぎると、複数の複合中空糸膜を筐体に収容した中空糸膜モジュールを構成した際、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなるので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。前記外径が大きすぎると、内側からかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の外径が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れた、半透膜による分離を好適に行うことができる。
【0064】
前記複合中空糸膜の内径R2は、0.05~1.5mmであることが好ましく、0.1~1mmであることが好ましく、0.2~1mmであることがさらに好ましい。前記内径が小さすぎると、中空部分の通液抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。そして、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な流量で駆動溶液を流すことができなくなる傾向がある。また、前記内径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の外径も小さくなりすぎる場合があり、この場合、外側にかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記複合中空糸膜の外径も大きくなりすぎる場合があり、この場合、複数の複合中空糸膜を筐体に収容した中空糸膜モジュールを構成した際、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなくので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。そして、前記内径が大きすぎと、前記複合中空糸膜の外径も大きくなりすぎる場合があり、この場合、内側からかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記複合中空糸膜の膜厚が薄くなりすぎる場合があり、この場合、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の内径が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れた、半透膜による分離を好適に行うことができる。
【0065】
また、前記複合中空糸膜の膜厚Tは、0.02~0.3mmであることが好ましく、0.05~0.3mmであることがより好ましく、0.05~0.25mmであることがさらに好ましい。前記膜厚が薄すぎると、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、支持層における内部濃度分極が起こりやすくなり、半透膜による分離を阻害する傾向もある。すなわち、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、駆動溶液と供給溶液との接触抵抗が増大するため、透過性が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の膜厚が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れ、半透膜による分離も好適に行うことができる。
【0066】
前記半透膜層13の膜厚は、下記界面重合で形成される厚みである。具体的には、前記半透膜層の膜厚は、1~10000nmであり、1~5000nmであることがより好ましく、1~3000nmであることがさらに好ましい。前記膜厚が薄すぎると、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な脱塩性能を発揮できず、塩逆流速度が上昇する等のように、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。このことは、半透膜層が薄すぎて、半透膜層の機能を充分に奏することができなかったり、半透膜層が支持層上を充分に覆うことができないこと等によると考えられる。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。このことは、半透膜層が厚すぎて、透水抵抗が大きくなるため、水が透過しにくくなることによると考えられる。
【0067】
前記支持層12の膜厚は、前記複合中空糸膜の膜厚と前記半透膜層13の膜厚との差分であり、具体的には、0.02~0.3mmであり、0.05~0.3mmであることがより好ましく、0.05~0.25mmであることがさらに好ましい。なお、支持層の膜厚は、半透膜層が、支持層と比較して非常に薄いため、複合中空糸膜の膜厚とほぼ同じである。前記膜厚が薄すぎると、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、支持層における内部濃度分極が起こりやすくなり、半透膜による分離を阻害する傾向もある。すなわち、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、駆動溶液と供給溶液との接触抵抗が増大するため、透過性が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の膜厚が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れ、半透膜による分離も好適に行うことができる。
【0068】
前記複合中空糸膜は、半透膜を用いる膜分離技術に適用可能である。すなわち、前記複合中空糸膜は、例えば、NF膜、RO膜、及びFO膜等として用いることができる。この中でも、前記複合中空糸膜は、FO法に用いられるFO膜であることが好ましい。
【0069】
前記複合中空糸膜は、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率が、高いことがこのましい。この比率が、具体的には、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。この比率は、高ければ高いほどよいが、基本的には、誤差を除けば、100%が上限である。すなわち、前記比率は、40~100%であることが好ましく、50~100%であることがより好ましく、60~100%であることがさらに好ましい。前記比率が低すぎると、前記複合中空糸膜の疎水性が比較的高いことを示し、正浸透法において、透水性能が低くなる傾向がある。このことは、供給溶液(FS)及び駆動溶液(DS)の少なくとも一方が、前記支持層との親和性が低く、前記半透膜層まで浸透しにくいためであると考えられる。さらに、このことから、複合中空糸膜モジュールを製造する際や運搬する際も、複合中空糸膜を乾燥させないほうがよく、すなわち、前記複合中空糸膜を湿潤状態にしておくほうがよく、例えば、複合中空糸膜モジュール内に液体を満たすことが求められる。このため、輸送コストが増大する。前記複合中空糸膜モジュールに備えられる前記複合中空糸膜の前記比率が上記範囲内であれば、乾燥状態であっても、前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いることができる。前記複合中空糸膜モジュールを正浸透法で用いていると、前記複合中空糸膜が湿潤状態で用いられることが多い。しかしながら、前記複合中空糸膜モジュール内に液体を満たさずに輸送した後等の場合において、前記複合中空糸膜モジュールを正浸透法に用い始めた際には、前記複合中空糸膜が乾燥状態である場合もある。そういった場合でも、前記複合中空糸膜モジュールは、正浸透法に用いることができる。このことから、前記複合中空糸膜モジュール内に液体を満たさずに輸送することも可能となる。
【0070】
前記比率は、種々の方法で調整することができ、例えば、前記複合中空糸膜モジュールに備えられる支持層の外周面に対する水の接触角を90°以下となるように、前記支持層を親水化させる方法等が挙げられる。
【0071】
なお、正浸透法における、湿潤状態での水の透過速度及び乾燥状態での水の透過速度としては、25℃における水の透過速度等が挙げられる。
【0072】
乾燥状態での水の透過速度としては、例えば、以下の方法により測定される透過速度等が挙げられる。まず、測定対象物である複合中空糸膜を乾燥させる。この乾燥は、複合中空糸膜を乾燥できれば、特に限定されないが、例えば、60℃の送風定温乾燥器での24時間以上の乾燥等が挙げられる。この乾燥状態の複合中空糸膜を用い、正浸透法を用いて、複合中空糸膜を1分間に透過した透水量を測定する。例えば、複合中空糸膜を介して、一方に、供給溶液(FS)として、イオン交換水を、他方に、駆動溶液(DS)として、0.6MのNaCl水溶液を配置し、ろ過を行い、複合中空糸膜を1分間に透過した透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得る。
【0073】
湿潤状態での水の透過速度としては、例えば、以下の方法により測定される透過速度等が挙げられる。まず、測定対象物である複合中空糸膜を湿潤状態にする。この湿潤状態にする処理(湿潤処理)は、複合中空糸膜を好適に湿潤状態にすることができれば、特に限定されない。具体的には、複合中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に20分間浸漬させ、その後、20分間純水で洗浄するといった湿潤処理を施す。この湿潤状態にした中空糸膜を、乾燥状態の中空糸膜の代わりに用いること以外、上記乾燥状態での水の透過速度の測定方法と同様の方法により、湿潤状態での水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得る。
【0074】
前記複合中空糸膜は、正浸透法において、湿潤状態での水の透過速度が、2~100LMHであることが好ましく、3~100LMHであることがより好ましく、3~80LMHであることがさらに好ましい。前記透過速度が低すぎると、前記複合中空糸膜を用いて複合中空糸膜モジュールにしたとき、モジュールとしての透水性能が不充分になる傾向がある。一方で、前記透過速度が高すぎると、半透膜層による分離が不充分となり、例えば、脱塩性能が不充分となる傾向がある。
【0075】
(複合中空糸膜の製造方法)
前記複合中空糸膜の製造方法は、上述の複合中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記製造方法としては、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。前記製造方法としては、前記支持層の外周面(緻密面)側に、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させる工程(第1接触工程)と、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させた前記支持層の外周面(緻密面)側に、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液をさらに接触させる工程(第2接触工程)と、前記多官能アミン化合物の水溶液及び前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液を接触させた前記支持層を乾燥させる工程(乾燥工程)とを備える。
【0076】
前記第1接触工程は、前記支持層の外周面(緻密面)側に、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させる。そうすることによって、前記多官能アミン化合物の水溶液が、前記支持層に外周面(緻密面)側からしみ込む。
【0077】
前記多官能アミン化合物の水溶液は、前記多官能アミン化合物の濃度が、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%未満であることがより好ましい。前記多官能アミン化合物の濃度が低すぎると、形成された半透膜層にピンホールが形成される等、好適な半透膜層が形成されない傾向がある。このため、半透膜層による分離が不充分になる傾向がある。また、前記多官能アミン化合物の濃度が高すぎると、前記半透膜層が厚くなりすぎる傾向がある。そして、前記半透膜層が厚くなりすぎると、得られた複合中空糸膜の透過性が低下する傾向がある。
【0078】
前記多官能アミン化合物の水溶液は、前記多官能アミン化合物を水に溶解させた溶液であり、必要に応じて、塩類、界面活性剤、及びポリマー等の添加剤を加えてもよい。
【0079】
前記第2接触工程は、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させた前記支持層の外周面(緻密面)側に、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液をさらに接触させる。そうすることによって、前記支持層に外周面(緻密面)側にしみ込まれた前記多官能アミン化合物の水溶液と前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液との界面が形成される。そして、前記界面において、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物との反応が進行する。すなわち、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物との界面重合が起こる。この界面重合によって、架橋ポリアミドが形成される。
【0080】
前記多官能酸ハライド化合物の有機溶剤溶液は、前記多官能酸ハライド化合物の濃度が、0.01~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましい。前記多官能酸ハライド化合物の濃度が低すぎると、形成された半透膜層にピンホールが形成される等、好適な半透膜層が形成されない傾向がある。このため、半透膜層による分離、例えば、脱塩性能が不充分になる傾向がある。また、前記多官能酸ハライド化合物の濃度が高すぎると、前記半透膜層が厚くなりすぎる傾向がある。そして、前記半透膜層が厚くなりすぎると、得られた複合中空糸膜の透過性が低下する傾向がある。
【0081】
前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液は、前記多官能酸ハライド化合物を有機溶媒に溶解させた溶液である。前記有機溶媒としては、前記多官能酸ハライド化合物を溶解し、水に溶解しない溶媒であれば、特に限定されない。前記有機溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、及びドデカン等のアルカン系飽和炭化水素等が挙げられる。前記有機溶媒としては、上記例示の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記有機溶媒としては、1種単独で用いる場合は、例えば、n-ヘキサン等が挙げられ、2種以上を組み合わせて用いる場合、例えば、ノナン、デカン、及びドデカンの混合溶剤等が挙げられる。前記有機溶媒には、必要に応じて、塩類、界面活性剤、及びポリマー等の添加剤を加えてもよい。
【0082】
前記乾燥工程は、前記多官能アミン化合物の水溶液及び前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液を接触させた前記支持層を乾燥させる。前記第2接触工程において、前記多官能アミン化合物の水溶液と前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液との接触による界面重合により得られた架橋ポリアミド重合体が、前記支持層の前記緻密面上を覆うように形成されている。この支持層を乾燥させることにより、形成された架橋ポリアミド重合体が乾燥され、架橋ポリアミド重合体を含む半透膜層が形成される。
【0083】
前記乾燥は、形成された架橋ポリアミド重合体が乾燥されれば、その温度等は特に限定されない。乾燥温度としては、例えば、50~150℃であることが好ましく、80~130℃であることが好ましい。前記乾燥温度が低すぎると、乾燥が不充分になる傾向があるだけではなく、乾燥時間が長くなりすぎ、生産効率が低下する傾向がある。また、前記乾燥温度が高すぎると、形成された半透膜層が熱劣化し、半透膜による分離を好適には行いにくくなる傾向がある。例えば、脱塩性能が低下したり、透水性が低下する傾向がある。また、乾燥時間としては、例えば、1~30分間であることが好ましく、1~20分間であることがより好ましい。前記乾燥時間が短すぎると、乾燥が不充分になる傾向がある。また、前記乾燥時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向がある。また、形成された半透膜層が熱劣化し、半透膜による分離を好適には行いにくくなる傾向もある。例えば、脱塩性能が低下したり、透水性が低下する傾向がある。
【0084】
上記のような製造方法によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜を好適に製造することができる。
【0085】
(筐体)
前記筐体は、中空糸膜モジュールの筐体として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、前記筐体の内径は、10~200cmであることが好ましく、10~100cmであることがより好ましく、10~50cmであることがさらに好ましい。また、前記筐体の高さは、0.3~3mであることが好ましく、0.3~2mであることがより好ましく、0.5~1.5mであることがさらに好ましい。この筐体が大きすぎる場合、取扱性が悪く、メンテナンス時にかかるコストが大きくなる傾向がある。さらに、前記筐体が大きすぎると、駆動溶液(DS)の滞留時間が長くなるため、供給溶液(FS)から透過された水により、駆動溶液(DS)が薄まり、透水性能が低下する傾向がある。また、前記筐体が小さすぎる場合、実用上、充分な流量を確保することができず、結果として、中空糸膜モジュールを多数用意することになり、設備上でも運転上でもかかるコストが大きくなる傾向がある。また、前記筐体に収容する前記複合中空糸膜の有効長は、0.3~3mであることが好ましく、0.3~2mであることがより好ましく、0.5~1.5mであることがさらに好ましい。
【0086】
前記複合中空糸膜モジュールは、前記複合中空糸膜の充填率が、10~65%であることが好ましく、10~60%であることがより好ましく、20~55%であることがさらに好ましい。前記充填率が低すぎると、複合中空糸膜モジュールの透水性能が充分に得られない傾向がある。一方で、前記充填率が高すぎると、複合中空糸膜モジュールの優れた透水性能が長期間にわたって維持されにくい傾向がある。このことは、運転中に、前記複合中空糸膜同士の接触が増えるため、前記複合中空糸膜の外周面側に備えられている半透膜層が損傷してしまうことによると考えられる。よって、前記充填率が上記範囲内であると、複合中空糸膜モジュールの透水性能が優れ、この優れた透水性能を長期間にわたって維持できる。
【0087】
前記複合中空糸膜の充填率は、筐体内部の、複合中空糸膜の長手方向(繊維方向)に垂直な断面の面積に対する、複数の複合中空糸膜の合計断面積の比である。具体的には、
図4に示すように、前記筐体2の中空部分の、複合中空糸膜11の長手方向(繊維方向)に垂直な断面の面積に対する、複数の複合中空糸膜11の合計断面積の比である。なお、複合中空糸膜11の断面積は、中空部分の断面積だけではなく、膜自体を含めた断面積であり、複合中空糸膜11の外径から算出される断面積である。そして、前記充填率の算出方法は、例えば、前記筐体2に収容されている複合中空糸膜の本数(本)と1本の前記複合中空糸膜11の断面積(m
2/本)との積、すなわち、前記筐体2内で前記中空糸膜11が占有している面積を、前記筐体2の内径から算出した面積、すなわち、前記筐体2の内面積で除することによって、前記充填率を算出することができる。なお、
図4は、
図1に示す中空糸膜モジュールの概略断面図である。
【0088】
前記複合中空糸膜モジュールは、耐圧強度が、0.1~3MPaであることが好ましく、0.1~2.5MPaであることがより好ましく、0.1~2.3MPaであることがさらに好ましい。この耐圧強度は、複合中空糸膜モジュールの外部又は内部から圧力をかけたときに、運転が維持できる最大圧力である。例えば、複合中空糸膜の外側から圧力をかけたときに複合中空糸膜の形状を維持できる最大圧力及び複合中空糸膜の内側から圧力をかけたときに複合中空糸膜の形状を維持できる最大圧力のうちの、低い方の圧力である。なお、複合中空糸膜の外側から圧力をかけたときに複合中空糸膜の形状を維持できる最大圧力とは、例えば、複合中空糸膜の外側から圧力をかけていき、複合中空糸膜が潰れたときの圧力である。また、複合中空糸膜の内側から圧力をかけたときに複合中空糸膜の形状を維持できる最大圧力とは、例えば、複合中空糸膜の内側から圧力をかけていき、複合中空糸膜が破裂したときの圧力である。前記耐圧強度が低すぎると、供給溶液(FS)及び駆動溶液(DS)を循環したときに、複合中空糸膜モジュールに備えられる筐体又は複合中空糸膜が破損しやすい傾向がある。高すぎる耐圧強度は、実用上、不要である場合がある。また、前記耐圧強度は、高すぎると、過剰な耐圧強度を満たすためにコストが増大するだけではなく、耐圧性能を優先しすぎて、透水性能が低下する傾向がある。
【0089】
前記複合中空糸膜モジュールは、半透膜を用いる膜分離技術に適用可能である。すなわち、前記複合中空糸膜モジュールは、例えば、NF法、RO法、及びFO法等に用いることができる。この中でも、前記複合中空糸膜モジュールは、FO法に用いられることが好ましい。前記複合中空糸膜モジュールをFO法に用いた際の供給溶液(FS)及び駆動溶液(DS)としては、例えば、以下のような溶液が挙げられる。
【0090】
供給溶液(FS)は、正浸透法に用いられる供給溶液であれば、特に限定されない。供給溶液(FS)は、具体的には、駆動溶液(DS)の浸透圧より、浸透圧の低い希薄溶液等が挙げられる。より具体的には、水、塩化ナトリウム、炭酸アンモニウム、及び炭酸カルシウム等の塩類を溶解させた溶液、スクロース及びデキストロース等の糖類を溶解させた溶液、及び、ポリプロピレングリコール及びポリエチレングリコール等の高分子化合物を溶解させた溶液等が挙げられる。より実用的な観点では、供給溶液(FS)としては、例えば、海水、産業排水、下水道水、食品としての液体等が挙げられ、これらを供給溶液(FS)として使用し、水を引き抜くことが考えられる。
【0091】
駆動溶液(DS)は、正浸透法に用いられる駆動溶液であれば、特に限定されない。駆動溶液(DS)は、具体的には、供給溶液(FS)の浸透圧より、浸透圧の高い濃厚溶液等が挙げられる。駆動溶液(DS)としては、より具体的には、塩化ナトリウム、炭酸アンモニウム、及び炭酸カルシウム等の塩類を溶解させた溶液、スクロース及びデキストロース等の糖類を溶解させた溶液、及びポリプロピレングリコール及びポリエチレングリコール等の高分子化合物を溶解させた溶液、磁性を有する分散液体、及びイオン液体等が挙げられる。この中でも、本実施形態に係る複合中空糸膜モジュールに使用する駆動溶液(DS)は、親水性が高く(水との相溶性が高く)、かつ、何かしらの外部刺激によって、水との相溶性が低下し、分離する性質を有するものが好ましい。この外部刺激とは、具体的には、温度、pH、磁力、及び光等が挙げられる。この中でも、温度による、水との相溶性の変化がある駆動溶液が好ましい。
【0092】
前記複合中空糸膜モジュールは、上述したように、正浸透法に用いることができ、具体的には、造水処理方法及びエネルギー製造方法等に用いることができる。
【0093】
前記造水方法としては、例えば、前記駆動溶液を用いて、前記供給溶液から前記駆動溶液に水を引き抜く工程と、前記駆動溶液と引き抜いた水とを分離・再生工程とを含む。これらの工程から、前記供給溶液から前記駆動溶液に引き抜いた水を、前記駆動溶液と分離することによって、水が得られる。また、その際、駆動溶液として、上述したような、外部刺激によって水との相溶性が低下する駆動溶液を用いることによって、前記分離・再生工程での、水の分離が容易になる。また、駆動溶液として、温度によって水との相溶性が低下する駆動溶液を用いることによって、前記分離・再生工程での、水の分離がより容易になる。
【0094】
前記エネルギー製造方法としては、例えば、前記駆動溶液を加圧した空間で、前記供給溶液から前記駆動溶液に水を引き抜き、前記駆動溶液側において、引き抜いた水による体積増加させる工程と、前記体積増加分によりタービンを回転させてエネルギーを取り出す工程とを含む。
【0095】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
[実施例1]
(複合中空糸膜の作製)
複合中空糸膜の支持層として、外圧式中空糸膜モジュール(株式会社クラレ製のピューリアGS)に備えられている中空糸膜を用いた。
【0097】
なお、この支持層の外周面に対する水の接触角は、以下のようにして測定した。
【0098】
支持層の外周面に水滴を滴下し、その瞬間の画像を撮影した。そして、水滴表面が外周面に接する場所における、水滴表面と外周面とのなす角を測定した。この角が、水の接触角である。測定装置としては、協和界面科学株式会社製のDrop Master 700を用いた。上記測定方法により得られた、外周面に対する水の接触角は、45°であった。
【0099】
前記支持層の外表面側に、半透膜層を形成した。
【0100】
具体的には、まず、前記支持層を、エタノール50質量%水溶液に20分間浸漬させ、その後、30分間純水に浸漬させることによって、湿潤処理を施した。この湿潤処理を施した湿潤状態の支持層を、他の支持層と接触しないように、枠に固定した。そして、この支持層を、芳香族多官能アミン化合物であるm-フェニレンジアミンの2質量%水溶液が支持層の外周面側に接触するように、m-フェニレンジアミンの2質量%水溶液に2分間浸漬させた。そうすることによって、支持層の外周面側から、m-フェニレンジアミンの2質量%水溶液をしみ込ませた。その後、支持層にしみ込まなかった余分なm-フェニレンジアミンの2質量%水溶液を除去した。
【0101】
そして、この支持層を、芳香族酸ハライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液が支持層の外周面側に接触するように、トリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液に1分間浸漬させた。そうすることによって、前記支持層の外周面側にしみ込まれたm-フェニレンジアミン水溶液と、トリメシン酸トリクロライドのヘキサン溶液との界面が形成される。そして、この界面において、m-フェニレンジアミンとトリメシン酸トリクロライドとの界面重合が進行し、架橋ポリアミドが形成される。
【0102】
その後、架橋ポリアミドが形成させた支持層を、90℃の乾燥機にて10分間乾燥させた。そうすることによって、前記支持層の外周面側に、前記外周面に接触するように半透膜層が形成された。この半透膜層が形成されていることは、走査型電子顕微鏡の観察からもわかった。具体的には、前記支持層に半透膜層が形成された複合中空糸膜の外表面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS-3000N)を用いて観察した。この得られた画像から、前記複合中空糸膜の外表面側に、半透膜層が好適に形成されていることがわかった。なお、形成された半透膜層は、厚みが300nmであった。また、支持層の厚みが0.2mmであった。
【0103】
(複合中空糸膜)
上記の製造方法により、支持層と半透膜層とを備えた複合中空糸膜が得られた。この複合中空糸膜は、外径が1.0mmであり、内径が0.6mmであり、膜厚が0.2mmであった。なお、複合中空糸膜の膜厚と支持層の膜厚とは、ほぼ同じである。これは、半透膜層が、支持層と比較して非常に薄いため、その厚みは誤差範囲内になることによる。
【0104】
[評価]
上記のように得られた複合中空糸膜を、以下に示す方法により、評価を行った。
【0105】
(乾燥状態の複合中空糸膜の透水性:乾燥状態での水の透過速度)
得られた複合中空糸膜を、60℃の温風乾燥機にて、24時間乾燥し、複合中空糸膜内部の水分を完全に乾燥させた。
【0106】
その後、この乾燥状態の複合中空糸膜を正浸透(FO)法に用い、水の透過速度を測定した。具体的には、得られた乾燥状態の複合中空糸膜を介して、模擬駆動溶液(模擬DS)としての0.6MのNaCl水溶液と、模擬供給溶液(模擬FS)としてのイオン交換水とを配置して、ろ過を行った。そのとき、複合中空糸膜の半透膜層側に模擬DSを、複合中空糸膜の支持層側に模擬FSを流した。模擬FSから模擬DSへの透水量は、模擬FSと模擬DSとのそれぞれの重量変化から算出した。そして、この算出した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、水の透過速度(JwFOdry)(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、乾燥状態の複合中空糸膜の透水性として評価した。
【0107】
(湿潤状態の複合中空糸膜の透水性:湿潤状態での純水の透過速度)
得られた複合中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に1分間浸漬し、その後、純水に30分間浸漬させた。この膨潤状態の複合中空糸膜を正浸透(FO)法に用いて、上記乾燥状態での水の透過速度と同様の方法により、湿潤状態での純水の透過速度(JwFOwet)(L/m2/時:LMH)を測定した。この透過速度を、湿潤状態の複合中空糸膜の透水性として評価した。
【0108】
(複合中空糸膜における湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率:乾燥状態での水の透過速度/湿潤状態での水の透過速度)
上記にようにして算出された、乾燥状態での水の透過速度を、湿潤状態での水の透過速度で除することによって、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率(乾燥状態での水の透過速度/湿潤状態での水の透過速度:JwFOdry/JwFOwet)を算出した。
【0109】
(複合中空糸膜モジュールの作製)
前記複合中空糸膜を用いて、
図1に示す複合中空糸膜モジュールを作製した。複合中空糸膜モジュールに備えられる複合中空糸膜は、その上端部と下端部の中空部分が開口されたものであって、上部、下部ともに中空糸開口部分以外は、エポキシ系樹脂で封止した。中空糸膜は、有効長1mであった。また、中空糸膜モジュールの筐体は、その内径が20cmであった。そして、この中空糸膜は、中空糸膜モジュールの筐体に、充填率が40%となるように収容した。
【0110】
[評価]
(複合中空糸膜モジュールの耐圧強度)
得られた複合中空糸膜モジュールに対して、筐体内の圧力が0.1MPaずつ上昇するように、ボア側及びシェア側に交互に加水し、その加水を、複合中空糸膜モジュールの筐体の破損による水漏れ、又は、複合中空糸膜の破損によるシェル-ボア間の水漏れが発生するまで続けた。これらの水漏れが発生する直前の圧力を、複合中空糸膜モジュールの耐圧強度とした。
【0111】
(乾燥状態の複合中空糸膜モジュールの透水性:乾燥状態での水の透過速度)
得られた複合中空糸膜モジュールを、60℃の温風乾燥機にて、24時間乾燥し、複合中空糸膜内部の水分を完全に乾燥させた。
【0112】
その後、この乾燥状態の複合中空糸膜モジュールを正浸透(FO)法に用い、水の透過速度を測定した。具体的には、得られた乾燥状態の複合中空糸膜を介して、模擬駆動溶液(模擬DS)としての0.6MのNaCl水溶液と、模擬供給溶液(模擬FS)としてのイオン交換水とを配置して、ろ過を行った。そのとき、複合中空糸膜モジュールのシェア側に模擬DSを、複合中空糸膜モジュールのボア側に模擬FSを流した。模擬FSから模擬DSへの透水量は、模擬FSと模擬DSとのそれぞれの重量変化から算出した。そして、この算出した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、水の透過速度(JwmodFOdry)(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、乾燥状態の複合中空糸膜モジュールの透水性として評価した。
【0113】
(湿潤状態の複合中空糸膜モジュールの透水性:湿潤状態での純水の透過速度)
得られた複合中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に1分間浸漬し、その後、純水に30分間浸漬させた。この膨潤状態の複合中空糸膜を正浸透(FO)法に用いて、上記乾燥状態での水の透過速度と同様の方法により、湿潤状態での純水の透過速度(JwmodFOwet)(L/m2/時:LMH)を測定した。この透過速度を、湿潤状態の複合中空糸膜モジュールの透水性として評価した。
【0114】
(複合中空糸膜モジュールにおける湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率:乾燥状態での水の透過速度/湿潤状態での水の透過速度)
上記にようにして算出された、乾燥状態での水の透過速度を、湿潤状態での水の透過速度で除することによって、湿潤状態での水の透過速度に対する、乾燥状態での水の透過速度の比率(乾燥状態での水の透過速度/湿潤状態での水の透過速度:JwmodFOdry/JwmodFOwet)を算出した。
【0115】
評価結果等は、表1に示す。
【0116】
[実施例2]
複合中空糸膜の支持層として、外圧式中空糸膜モジュール(株式会社クラレ製のピューリアGS)に備えられている中空糸膜の代わりに、外圧式中空糸膜モジュール(株式会社クラレ製のピューリアGL)に備えられている中空糸膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複合中空糸膜モジュールを得た。
【0117】
なお、この支持層の外周面に対する水の接触角は、45°であった。また、形成された半透膜層は、厚みが280nmであった。また、支持層の厚みが0.25mmであった。また、得られた複合中空糸膜は、外径が1.25mmであり、内径が0.75mmであり、膜厚が0.25mmであった。なお、複合中空糸膜の膜厚と支持層の膜厚とは、ほぼ同じである。これは、半透膜層が、支持層と比較して非常に薄いため、その厚みは誤差範囲内になることによる。
【0118】
評価結果等は、表1に示す。
【0119】
[実施例3]
複合中空糸モジュールの筐体の内径を28cm、複合中空糸膜の有効長を0.6m、充填率を25%にした以外は、実施例1と同様にして、複合中空糸膜モジュールを得た。
【0120】
評価結果等は、表1に示す。
【0121】
[実施例4]
複合中空糸モジュールの筐体の内径を18cm、複合中空糸膜の有効長を1.8m、充填率を49%にした以外は、実施例1と同様にして、複合中空糸膜モジュールを得た。
【0122】
評価結果等は、表1に示す。
【0123】
[比較例1]
半透膜層を形成させる面を、支持層の外表面から支持層の内表面に変更した複合中空糸膜を用いた以外、実施例1と同様にして、複合中空糸膜モジュールを得た。
【0124】
評価結果等は、表1に示す。
【0125】
[比較例2]
複合中空糸モジュールの内径を9cm、複合中空糸膜の有効長を3.3mにした以外は、実施例1と同様にして、複合中空糸膜モジュールを得た。
【0126】
評価結果等は、表1に示す。
【0127】
【0128】
表1から、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミドを含む半透膜層を、中空糸状の多孔質な支持層の外周面に接触するように備えた複合中空糸膜を、有効長が0.3~3mとなるように、内径が10~200cmの筐体に収容した複合中空糸膜モジュールの場合(実施例1~4)は、このような複合中空糸膜モジュール以外の場合(比較例1,2)と比較して、モジュールとしての湿潤状態における水の透過速度が高かった。また、モジュールとしての膨潤状態における水の透過速度に対する、乾燥状態における水の透過速度の比率が、比較例1,2と比較して、特に低くはなかったことから、モジュールとしての乾燥状態における水の透過速度も高いことがわかった。すなわち、実施例1~4に係る複合中空糸膜モジュールは、乾燥状態でも、高い透水速度(水の透過速度)を維持できることがわかった。
【0129】
以上のことから、実施例1~4に係る複合中空糸膜モジュールは、透水性能に優れた複合中空糸膜モジュールであることがわかった。
【0130】
これに対して、半透膜層を支持層の内周面に接触するように備えた複合中空糸膜を用いた場合(比較例1)、モジュールとしての湿潤状態における水の透過速度を充分に高めることができなかった。
【0131】
また、内径が10cm以下の細い筐体を用いた場合、複合中空糸膜の有効長を3.3mと長くして、充填率を40%にしても(比較例2)、モジュールとしての湿潤状態における水の透過速度を充分に高めることができなかった。
【符号の説明】
【0132】
1 複合中空糸膜モジュール
2 筐体
4 下端部封止剤
5 上端部封止剤
6 シェル側導入口
7 シェル側導出口
8 ボア側導入口
9 ボア側導出口
11 複合中空糸膜
12 支持層
13 半透膜層