(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】物標検知装置、システム、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20230920BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20230920BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2019044268
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115459(WO,A1)
【文献】特開2018-013358(JP,A)
【文献】特開2016-023949(JP,A)
【文献】特開2018-197697(JP,A)
【文献】特開平04-265882(JP,A)
【文献】特開2007-298305(JP,A)
【文献】特開昭55-082926(JP,A)
【文献】米国特許第06556327(US,B1)
【文献】米国特許第05608514(US,A)
【文献】特表平08-508382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出するにあたり、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせることにより、前記直流近傍の周波数成分を除去し
前記FMCWレーダの送受信装置と静止物標
との間の距離に対応する周波数成分を維持する差分信号算出部と、
前記差分信号を時間領域から周波数領域へと周波数変換し、
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離を計測する物標距離計測部と、
を備えることを特徴とする物標検知装置。
【請求項2】
前記差分信号算出部は、前記差分信号を算出するにあたり、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、受信開始時刻に対応する時刻をそれぞれ0及びt(≠0)とすることにより、前記直流近傍の周波数成分を除去し
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離に対応する周波数成分を維持する
ことを特徴とする、請求項1に記載の物標検知装置。
【請求項3】
前記物標距離計測部は、前記差分信号に対するサンプリング周波数及び前記差分信号に対する変調周波数を調整し、
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離に対する計測分解能及び計測範囲を調整する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の物標検知装置。
【請求項4】
前記物標距離計測部は、所定距離範囲内に含まれない
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離を破棄し出力せず、前記所定距離範囲内に含まれる
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離を採用し出力する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の物標検知装置。
【請求項5】
前記物標距離計測部は、前記静止物標の車両の有無を検知する
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の物標検知装置。
【請求項6】
前記ビート信号取得部は、前記FMCWレーダの中心周波数に対応する中心波長より短い距離を隔てた複数の前記FMCWレーダの前記ビート信号を取得する
ことを特徴とする、請求項5に記載の物標検知装置。
【請求項7】
前記物標距離計測部は、前記静止物標の車両が存在しないときでの前記ビート信号又は前記差分信号の強度を予め記憶し、前記静止物標の車両の有無を検知するときでの前記ビート信号又は前記差分信号の強度と比較し、前記静止物標の車両の有無を検知する
ことを特徴とする、請求項5又は6に記載の物標検知装置。
【請求項8】
前記物標距離計測部は、前記静止物標の車両が存在しないときでの
前記FMCWレーダの送受信装置と車両以外の前記静止物標
との間の距離を予め記憶し、前記静止物標の車両の有無を検知するときでの
前記FMCWレーダの送受信装置と車両又は車両以外の前記静止物標
との間の距離と比較し、前記静止物標の車両の有無を検知する
ことを特徴とする、請求項5から7のいずれかに記載の物標検知装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする物標検知システム。
【請求項10】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出するにあたり、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせることにより、前記直流近傍の周波数成分を除去し
前記FMCWレーダの送受信装置と静止物標
との間の距離に対応する周波数成分を維持する差分信号算出ステップと、
前記差分信号を時間領域から周波数領域へと周波数変換し、
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離を計測する物標距離計測ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための物標検知プログラム。
【請求項11】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出するにあたり、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせることにより、前記直流近傍の周波数成分を除去し
前記FMCWレーダの送受信装置と静止物標
との間の距離に対応する周波数成分を維持する差分信号算出ステップと、
前記差分信号を時間領域から周波数領域へと周波数変換し、
前記FMCWレーダの送受信装置と前記静止物標
との間の距離を計測する物標距離計測ステップと、
を順に備えることを特徴とする物標検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCWレーダを利用して、静止物標を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダを利用して、物標を検知する技術が、特許文献1等に開示されている。FMCWレーダ及び超音波センサをそれぞれ利用して、駐車場内の中距離及び近距離の車両をそれぞれ検知する技術が、特許文献2等に開示されている。FMCWレーダを利用するにあたり、周波数掃引された送信信号と、物標から反射された受信信号と、の間のビート信号の周波数が低く/高く計測されるほど、物標距離が短く/長く計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-127529号公報
【文献】特開2017-134012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、近距離の物標を検知するために、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分を除去し、近距離に対応する周波数成分を維持する。ここで、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号は、特許文献1の数6の理論式により表される。よって、直流近傍の周波数成分の電圧値が理想値であるときには、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分を除去することができ、近距離の物標を検知することができる。しかし、物標距離の変化、機器の経年変化又は機器の温度変化等により、直流近傍の周波数成分の電圧値が変動値であるときには、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去することができず、近距離の物標をリアルタイムに検知することができない。そもそも、周波数掃引幅が電波法で規制されるため、最短計測距離が長めに規制されてしまい、近距離の物標を検知することは困難であると一般的には考えられている。
【0005】
特許文献2では、駐車場内の近距離の車両を検知するために、超音波センサを利用する。公知技術では、駐車場内の近距離の車両を検知するために、埋設型ループコイル又は画像監視カメラを利用する。しかし、超音波センサ、埋設型ループコイル又は画像監視カメラは、設置場所を選ぶため設置が困難である。一方で、FMCWレーダは、設置場所を選ばないため設置が容易である。しかし、上述したように、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去することができず、近距離の物標をリアルタイムに検知することができない。そもそも、上述したように、周波数掃引幅が電波法で規制されるため、最短計測距離が長めに規制されてしまい、近距離の物標を検知することは困難であると一般的には考えられている。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、(1)FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去し、近距離の物標をリアルタイムに検知し、(2)駐車場内の近距離の車両を検知するために、設置場所を選ばないため設置が容易であるFMCWレーダを利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出し、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去し、近距離の物標をリアルタイムに検知することとした。ここで、移動物標については、異なる送受信周期のビート信号が時間変化するため、単純に差分信号を算出するのみでも、近距離の物標をリアルタイムに検知することができる。しかし、静止物標については、異なる送受信周期のビート信号が時間変化しないため、単純に差分信号を算出するのみでは、近距離の物標をリアルタイムに検知することができない。
【0008】
そこで、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出するにあたり、直流近傍の周波数成分を除去し、静止物標距離に対応する周波数成分を維持することとした。例えば、異なる送受信周期のビート信号間において、受信開始時刻に対応する時間原点を異ならせたうえで、差分信号を算出してもよい。或いは、異なる送受信周期のビート信号間において、直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせたうえで、差分信号を算出してもよい。すると、静止物標についても、近距離の物標をリアルタイムに検知することができる。むろん、移動物標についても、近距離の物標をリアルタイムに検知することができる。
【0009】
具体的には、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出するにあたり、直流近傍の周波数成分を除去し静止物標までの距離である静止物標距離に対応する周波数成分を維持する差分信号算出部と、前記差分信号を周波数変換し、前記静止物標距離を計測する物標距離計測部と、を備えることを特徴とする物標検知装置である。
【0010】
また、本開示は、以上に記載の物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする物標検知システムである。
【0011】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出するにあたり、直流近傍の周波数成分を除去し静止物標までの距離である静止物標距離に対応する周波数成分を維持する差分信号算出ステップと、前記差分信号を周波数変換し、前記静止物標距離を計測する物標距離計測ステップと、を順にコンピュータに実行させるための物標検知プログラムである。
【0012】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出するにあたり、直流近傍の周波数成分を除去し静止物標までの距離である静止物標距離に対応する周波数成分を維持する差分信号算出ステップと、前記差分信号を周波数変換し、前記静止物標距離を計測する物標距離計測ステップと、を順に備えることを特徴とする物標検知方法である。
【0013】
これらの構成によれば、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去することができ、近距離の静止物標をリアルタイムに検知することができ、近距離の移動物標もリアルタイムに検知することができる。
【0014】
また、本開示は、前記差分信号算出部は、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、受信開始時刻に対応する時間原点を異ならせたうえで、前記差分信号を算出することを特徴とする物標検知装置である。
【0015】
この構成によれば、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出するにあたり、異なる送受信周期のビート信号間で位相を異ならせることにより、直流近傍の周波数成分を除去することができ、静止物標距離に対応する周波数成分を維持することができる。
【0016】
また、本開示は、前記差分信号算出部は、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、前記直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせたうえで、前記差分信号を算出することを特徴とする物標検知装置である。
【0017】
この構成によれば、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出するにあたり、異なる送受信周期のビート信号間で振幅を異ならせることにより、直流近傍の周波数成分を除去することができ、静止物標距離に対応する周波数成分を維持することができる。
【0018】
また、本開示は、前記物標距離計測部は、前記差分信号に対するサンプリング周波数及び変調周波数を調整し、前記静止物標距離に対する計測分解能及び計測範囲を調整することを特徴とする物標検知装置である。
【0019】
この構成によれば、差分信号のサンプリング周波数を低周波数に設定することにより、周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離及び遠距離で向上させることができる。そして、差分信号の変調周波数を低周波数/高周波数に設定することにより、つまり、計測範囲の下限を近距離/遠距離に設定することにより、周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離/遠距離で向上させることができる。
【0020】
また、本開示は、前記物標距離計測部は、所定距離範囲内に含まれない前記静止物標距離を破棄し出力せず、前記所定距離範囲内に含まれる前記静止物標距離を採用し出力することを特徴とする物標検知装置である。
【0021】
この構成によれば、近距離/遠距離のみを検知対象とするときに、又は、遠距離/近距離に雑音源があるときに、近距離/遠距離のみを採用し出力することができる。
【0022】
また、本開示は、前記物標距離計測部は、前記静止物標の車両の有無を検知することを特徴とする物標検知装置である。
【0023】
この構成によれば、駐車場内の近距離の車両を検知するために、設置場所を選ばないため設置が容易であるFMCWレーダを利用することができる。
【0024】
また、本開示は、前記ビート信号取得部は、前記FMCWレーダの中心周波数に対応する中心波長より短い距離を隔てた複数の前記FMCWレーダの前記ビート信号を取得することを特徴とする物標検知装置である。
【0025】
この構成によれば、あるFMCWレーダにおいてはハイトパターンのヌル点が生じるときであっても、他のFMCWレーダにおいてはハイトパターンのヌル点が生じることがないため、駐車場内の近距離の車両を確実に検知することができる。
【0026】
また、本開示は、前記物標距離計測部は、前記静止物標の車両が存在しないときでの前記ビート信号又は前記差分信号の強度を予め記憶し、前記静止物標の車両の有無を検知するときでの前記ビート信号又は前記差分信号の強度と比較し、前記静止物標の車両の有無を検知することを特徴とする物標検知装置である。
【0027】
この構成によれば、背景(空間、天井又は地面等)の信号強度と、車両の信号強度と、の相違を認識するため、駐車場内の近距離の車両を確実に検知することができる。
【0028】
また、本開示は、前記物標距離計測部は、前記静止物標の車両が存在しないときでの車両以外の前記静止物標距離を予め記憶し、前記静止物標の車両の有無を検知するときでの車両又は車両以外の前記静止物標距離と比較し、前記静止物標の車両の有無を検知することを特徴とする物標検知装置である。
【0029】
この構成によれば、背景(空間、天井又は地面等)の物標距離と、車両の物標距離と、の相違を認識するため、駐車場内の近距離の車両を確実に検知することができる。
【発明の効果】
【0030】
このように、本開示は、(1)FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去し、近距離の物標をリアルタイムに検知し、(2)駐車場内の近距離の車両を検知するために、設置場所を選ばないため設置が容易であるFMCWレーダを利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本開示の物標検知システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示の物標検知処理の手順を示す図である。
【
図3】本開示の物標検知処理の具体例を示す図である。
【
図4】本開示の物標検知処理の具体例を示す図である。
【
図5】本開示の物標距離計測部の構成を示す図である。
【
図6】本開示の静止物標距離の出力を示す図である。
【
図7】本開示の物標検知処理の結果を示す図である。
【
図8】本開示の車両検知システムの構成を示す図である。
【
図9】本開示の車両検知処理の手順を示す図である。
【
図10】本開示の車両検知処理の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0033】
本開示の物標検知システムの構成を
図1に示す。物標検知システムSは、物標検知装置1及びFMCWレーダ送受信装置2から構成される。物標検知装置1は、ビート信号取得部11、差分信号算出部12及び物標距離計測部13から構成され、
図2及び
図9に示す物標検出プログラムをインストールされる。FMCWレーダ送受信装置2は、PLL回路21、発振器22、分配器23、増幅器24、ローパスフィルタ25、送信アンテナ26、受信アンテナ27、増幅器28、増幅器29、ミキサ回路30、キャリブレータ31I、31Q、A/D変換器32及び位相変調器33から構成される。
【0034】
PLL回路21は、物標検知装置1の制御信号により、発振器22を制御する。発振器22は、PLL回路21の制御信号により、周波数掃引された送信信号を生成する。分配器23は、増幅器24及び増幅器29に対して、周波数掃引された送信信号を分配する。増幅器24は、周波数掃引された送信信号を増幅する。ローパスフィルタ25は、周波数掃引された送信信号から、必要な低周波数成分のみを通過させ、不要な高周波数成分を除去する。送信アンテナ26は、周波数掃引された送信信号を照射する。
【0035】
受信アンテナ27は、物標Tから反射された反射信号を受信する。増幅器28は、物標Tから反射された反射信号を増幅する。増幅器29は、周波数掃引された送信信号を増幅する。ミキサ回路30は、周波数掃引された送信信号LOと、物標Tから反射された反射信号RFと、の間のビート信号のI、Q成分IF I、IF Qを出力する。キャリブレータ31I、31Qは、物標検知装置1の制御信号DC CALにより、ビート信号のI、Q成分IF I、IF Qから直流近傍の周波数成分をある程度除去し、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL Qをダイナミックレンジ内に収める。A/D変換器32は、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL QをA/D変換し、ビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Qを出力する。位相変調器33は、物標検知装置1の制御信号DC CALにより、周波数掃引された送信信号及び物標Tから反射された反射信号の位相を変調し、ビート信号のI、Q成分IF I、IF Qから直流近傍の周波数成分をある程度除去し、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL Qをダイナミックレンジ内に収める。ただし、キャリブレータ31I、31Q及び位相変調器33は、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL Qをダイナミックレンジ内に収めるのみであり、ビート信号のI、Q成分IF I、IF Qから直流近傍の周波数成分を完全に除去するわけではない。むしろ、後述するように、差分信号算出部12が、ビート信号のI、Q成分IF I、IF Qから直流近傍の周波数成分を完全に除去するのである。
【0036】
本開示の物標検知処理の手順を
図2に示す。本開示の物標検知処理の具体例を
図3及び
図4に示す。ビート信号取得部11は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Qを取得する(ステップS1)。
【0037】
差分信号算出部12は、異なる送受信周期のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Q間の差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを算出するにあたり、直流近傍の周波数成分を除去し、静止物標距離に対応する周波数成分を維持する(ステップS2)。物標距離計測部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを周波数変換し、静止物標距離を計測する(ステップS4)。ステップS2、S4については、
図3及び
図4を用いて説明する。ステップS3については、
図5を用いて後述する。
【0038】
図3では、差分信号算出部12は、異なる送受信周期のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Q間において、受信開始時刻に対応する時間原点を異ならせたうえで、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを算出する(ステップS2-1)。
【0039】
具体的には、ビート信号取得部11は、第1送受信周期の受信開始時刻tR1から送信終了時刻tT1までのビート信号を取得する。そして、ビート信号取得部11は、直後の第2送受信周期の受信開始時刻tR2から送信終了時刻tT2までのビート信号を取得する。ここで、静止物標については、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化しない。そして、第1、2送受信周期のビート信号は、直流近傍のトレンド成分を含む。
【0040】
図3の中段では、差分信号算出部12は、第1送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R1に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T1に対応する時刻をt
Bとする。そして、差分信号算出部12は、直後の第2送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R2に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T2に対応する時刻をt
Bとする。さらに、差分信号算出部12は、以上のように受信開始時刻t
R1、t
R2に対応する時間原点を同一にしたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。
【0041】
すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号において、直流近傍の周波数成分を除去しているとともに、静止物標距離に対応する周波数成分も除去している。よって、物標距離計測部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を周波数変換しても、静止物標距離を計測することができない。
【0042】
図3の下段では、差分信号算出部12は、第1送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R1に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T1に対応する時刻をt
Bとする。そして、差分信号算出部12は、直後の第2送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R2に対応する時刻をt
Dとし、送信終了時刻t
T2に対応する時刻をt
B+t
Dとする。さらに、差分信号算出部12は、以上のように受信開始時刻t
R1、t
R2に対応する時間原点を異ならせたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。
【0043】
すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号において、直流近傍の周波数成分を除去しているものの、静止物標距離に対応する周波数成分を除去していない。よって、物標距離計測部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を周波数変換すれば、静止物標距離dSを計測することができる。
【0044】
ここで、受信開始時刻tR1、tR2に対応する時間原点を異ならせるためには、以下のようにすればよい。つまり、時間ずれtDを小さくし過ぎれば、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の振幅が小さくなるため、静止物標距離dSの計測精度が低くなる。一方で、時間ずれtDを大きくし過ぎれば、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の時間幅が短くなるとともに、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の交流成分が部分的に除去されるため、静止物標距離dSの計測精度が低くなる。そこで、時間ずれtDを小さくし過ぎないようにかつ大きくし過ぎないように設定すればよい。
【0045】
なお、移動物標については、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化する。よって、受信開始時刻tR1、tR2に対応する時間原点を同一にしたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出しても、移動物標距離を計測することができる。むろん、受信開始時刻tR1、tR2に対応する時間原点を異ならせたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出しても、移動物標距離を計測することができる。
【0046】
このように、
図3では、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去することができ、近距離の静止物標をリアルタイムに検知することができ、近距離の移動物標もリアルタイムに検知することができる。そして、
図3では、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出するにあたり、異なる送受信周期のビート信号間で位相を異ならせることにより、直流近傍の周波数成分を除去することができ、静止物標距離に対応する周波数成分を維持することができる。
【0047】
図4では、差分信号算出部12は、異なる送受信周期のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Q間において、直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせたうえで、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを算出する(ステップS2-2)。
【0048】
具体的には、ビート信号取得部11は、第1送受信周期の受信開始時刻tR1から送信終了時刻tT1までのビート信号を取得する。そして、ビート信号取得部11は、直後の第2送受信周期の受信開始時刻tR2から送信終了時刻tT2までのビート信号を取得する。ここで、静止物標については、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化しない。そして、第1、2送受信周期のビート信号は、直流近傍のトレンド成分を含む。
【0049】
図4の中段では、差分信号算出部12は、第1送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R1に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T1に対応する時刻をt
Bとする。そして、差分信号算出部12は、直後の第2送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R2に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T2に対応する時刻をt
Bとする。さらに、差分信号算出部12は、後述のように直流近傍以外の周波数成分の振幅を同一にしたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。
【0050】
すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号において、直流近傍の周波数成分を除去しているとともに、静止物標距離に対応する周波数成分も除去している。よって、物標距離計測部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を周波数変換しても、静止物標距離を計測することができない。
【0051】
図4の下段では、差分信号算出部12は、第1送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R1に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T1に対応する時刻をt
Bとする。そして、差分信号算出部12は、直後の第2送受信周期のビート信号について、受信開始時刻t
R2に対応する時刻を0とし、送信終了時刻t
T2に対応する時刻をt
Bとする。さらに、差分信号算出部12は、後述のように直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。
【0052】
すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号において、直流近傍の周波数成分を除去しているものの、静止物標距離に対応する周波数成分を除去していない。よって、物標距離計測部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を周波数変換すれば、静止物標距離dSを計測することができる。
【0053】
ここで、直流近傍以外の周波数成分の振幅を異ならせるためには、以下のようにすればよい。つまり、第1、2送受信周期のビート信号のうちのいずれかについて、直流近傍の周波数成分をハイパスフィルタ等により一旦粗く除去し、直流近傍以外の周波数成分に1以外の定数を乗算し、ハイパスフィルタ等により一旦粗く除去された直流近傍の周波数成分と、1以外の定数を乗算された直流近傍以外の周波数成分と、を加算すればよい。
【0054】
なお、移動物標については、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化する。よって、直流近傍以外の周波数成分の振幅に1以外の定数を乗算しないで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出しても、移動物標距離を計測することができる。むろん、直流近傍以外の周波数成分の振幅に1以外の定数を乗算したうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出しても、移動物標距離を計測することができる。
【0055】
このように、
図4では、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号から、直流近傍の周波数成分をリアルタイムに除去することができ、近距離の静止物標をリアルタイムに検知することができ、近距離の移動物標もリアルタイムに検知することができる。そして、
図4では、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出するにあたり、異なる送受信周期のビート信号間で振幅を異ならせることにより、直流近傍の周波数成分を除去することができ、静止物標距離に対応する周波数成分を維持することができる。
【0056】
なお、
図3及び
図4に示した処理のうち、いずれか一方を実行してもよく、両方ともに実行してもよい。ここで、
図3及び
図4に示した処理のうち、両方ともに実行するときには、一方の処理で物標を検知できなくても、他方の処理で物標を検知する可能性が高い。
【0057】
本開示の物標距離計測部の構成を
図5に示す。物標距離計測部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qに対するサンプリング周波数及び変調周波数を調整し、静止物標距離に対する計測分解能及び計測範囲を調整する(ステップS3)。
【0058】
具体的には、物標距離計測部13は、ミキサ回路131I、131Q、ローパスフィルタ132I、132Q、デシメータ/インタポレータ133I、133Q及び周波数変換器134から構成される。ミキサ回路131I、131Qは、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを所望の変調周波数で変調する。ローパスフィルタ132I、132Qは、差分信号のI、Q成分MOD I、MOD Qから、必要な低周波数成分のみを通過させる。デシメータ/インタポレータ133I、133Qは、差分信号のI、Q成分LPF I、LPF Qを所望のサンプリング周波数でサンプリングする。周波数変換器134は、差分信号のI、Q成分SAM I、SAM Qを周波数変換する。
【0059】
ここで、周波数計測分解能は、F
S/FFTである(F
Sはサンプリング周波数、FFTは周波数変換の次数。)。よって、距離計測分解能は、((F
S/FFT)×S
T×c
0)/(2×F
W)である(S
Tは掃引時間幅、c
0は光速、F
Wは掃引周波数幅。)。また、最長計測距離は、((F
S/2)×S
T×c
0)/(2×F
W)である。なお、最短計測距離は、一般的にc
0/(2×F
W)であるが、本開示は実質的に0である(
図7及び
図10を参照。)。
【0060】
よって、計測範囲を近距離に限定するならば、最長計測距離の数式中のサンプリング周波数FSを小さくすればよく、距離計測分解能を向上させることができる。しかし、計測範囲を遠距離に拡張するならば、最長計測距離の数式中のサンプリング周波数FSを大きくすればよいが、距離計測分解能を向上させることができない。そこで、計測範囲を遠距離に拡張するときに、距離計測分解能を向上させるために、計測範囲の下限を0から有限値へと変更したうえで、(計測範囲の下限からの)最長計測距離の数式中のサンプリング周波数FSを大きくし過ぎなければよい。そして、計測範囲の下限を0から有限値へと変更するために、ミキサ回路131I、131Qは、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを所望の変調周波数で変調し、ローパスフィルタ132I、132Qは、差分信号のI、Q成分MOD I、MOD Qから、必要な低周波数成分のみを通過させる。
【0061】
このように、差分信号のサンプリング周波数を低周波数に設定することにより、周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離及び遠距離で向上させることができる。そして、差分信号の変調周波数を低周波数/高周波数に設定することにより、つまり、計測範囲の下限を近距離/遠距離に設定することにより、周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離/遠距離で向上させることができる。
【0062】
本開示の静止物標距離の出力を
図6に示す。物標距離計測部13は、所定距離範囲内に含まれない静止物標距離を破棄し出力しない(ステップS5においてNO及びステップS6)。一方で、物標距離計測部13は、所定距離範囲内に含まれる静止物標距離を採用し出力する(ステップS5においてYES及びステップS7)。
【0063】
図6の左欄では、近距離のみを検知対象(
図8の車両V等。)とするとき、又は、遠距離に雑音源(
図8の空間、地面G又は天井R等。)があるときを示す。ここで、物標距離計測部13は、物標距離閾値d
Thより短距離の所定距離範囲内に含まれない静止物標距離d
S2を破棄し出力しない。一方で、物標距離計測部13は、物標距離閾値d
Thより短距離の所定距離範囲内に含まれる静止物標距離d
S1を採用し出力する。
【0064】
図6の右欄では、遠距離のみを検知対象(
図8の車両V等。)とするとき、又は、近距離に雑音源(
図8の空間、地面G又は天井R等。)があるときを示す。ここで、物標距離計測部13は、物標距離閾値d
Thより遠距離の所定距離範囲内に含まれない静止物標距離d
S1を破棄し出力しない。一方で、物標距離計測部13は、物標距離閾値d
Thより遠距離の所定距離範囲内に含まれる静止物標距離d
S2を採用し出力する。
【0065】
このように、近距離/遠距離のみを検知対象とするときに、又は、遠距離/近距離に雑音源があるときに、近距離/遠距離のみを採用し出力することができる。
【0066】
本開示の物標検知処理の結果を
図7に示す。物標Tは、初期段階では送信アンテナ26及び受信アンテナ27のアンテナ面近傍に存在し、中期段階では物標検知システムSから徐々に離れ、終期段階では物標検知システムSへと急速に近づく。
【0067】
すると、物標距離計測部13が計測した物標距離は、物標Tの上述の動作を再現している。特に、物標距離計測部13が計測した物標距離は、物標Tの距離0を再現している。これは、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号において、直流近傍の周波数成分が除去された後に、交流の周波数成分が残留していないからである。
【0068】
本開示の車両検知システムの構成を
図8に示す。物標距離計測部13は、静止物標の車両Vの有無を検知する。ビート信号取得部11は、FMCWレーダの中心周波数に対応する中心波長λ
Cより短い距離dを隔てた複数のFMCWレーダのビート信号を取得する。
【0069】
図8の第1段では、複数の物標検知システムS-1、S-2は、駐車場の地面Gに埋め込まれる。車両Vの駐車前では、送信信号は、空間に照射され、物標距離は、0となる(反射信号が反射されないため。)。車両Vの駐車時では、送信信号は、車両Vの底面に照射され、物標距離は、駐車場の地面Gから車両Vの底面までの距離となる。
【0070】
図8の第2段では、複数の物標検知システムS-1、S-2は、駐車場の天井Rに埋め込まれる。車両Vの駐車前では、送信信号は、駐車場の地面Gに照射され、物標距離は、駐車場の天井Rから地面Gまでの距離となる。車両Vの駐車時では、送信信号は、車両Vの上面に照射され、物標距離は、駐車場の天井Rから車両Vの上面までの距離となる。
【0071】
図8の第3段では、複数の物標検知システムS-1、S-2は、駐車場の車止めCに埋め込まれる。車両Vの駐車前では、送信信号は、空間に照射され、物標距離は、0となる(反射信号が反射されないため。)。車両Vの駐車時では、送信信号は、車両Vのタイヤに照射され、物標距離は、駐車場の車止めCから車両Vのタイヤまでの距離となる。
【0072】
図8の第4段では、複数の物標検知システムS-1、S-2は、ドライブスルーの販売窓Wに埋め込まれる。車両Vの進入前では、送信信号は、空間に照射され、物標距離は、0となる(反射信号が反射されないため。)。車両Vの進入時では、送信信号は、車両Vの側面に照射され、物標距離は、販売窓Wから車両Vの側面までの距離となる。
【0073】
このように、
図8では、物標距離は、かなり短距離である。しかも、車両Vの各部の材質は、鉄及び/又はアルミ等である。よって、反射強度は、かなり高強度である。すると、ハイトパターンのヌル点が生じやすく、車両Vの存在の失報が生じやすい。
【0074】
そこで、複数の物標検知システムS-1、S-2が、FMCWレーダの中心周波数に対応する中心波長λCより短い距離dを隔てて設置される。複数の物標検知システムS-1、S-2のうち、あるシステムにおいてはハイトパターンのヌル点が生じるときであっても、他のシステムにおいてはハイトパターンのヌル点が生じることがない。
【0075】
このように、駐車場内の近距離の車両Vを検知するために、設置場所を選ばないため設置が容易であるFMCWレーダを利用することができる。そして、ハイトパターンのヌル点を回避することができ、駐車場内の近距離の車両Vを確実に検知することができる。
【0076】
本開示の車両検知処理の手順を
図9に示す。まず、物標距離計測部13は、静止物標の車両Vが存在しないときでのビート信号又は差分信号の強度を予め記憶しておく(ステップS11)。次に、物標距離計測部13は、静止物標の車両Vが存在しないときでの車両V以外の静止物標距離を予め記憶しておく(ステップS12)。
【0077】
図8の第1段では、車両Vの駐車前では、信号強度は、ほぼ0であり、物標距離は、0となる。
図8の第2段では、車両Vの駐車前では、信号強度は、車両Vの駐車時より低く、物標距離は、駐車場の天井Rから地面Gまでの距離となる。
図8の第3段では、車両Vの駐車前では、信号強度は、ほぼ0であり、物標距離は、0となる。
図8の第4段では、車両Vの進入前では、信号強度は、ほぼ0であり、物標距離は、0となる。
【0078】
そして、物標距離計測部13は、静止物標の車両Vの有無を検知するときでのビート信号又は差分信号の強度を計測する(ステップS13)。さらに、物標距離計測部13は、静止物標の車両Vの有無を検知するときでの車両V又は車両V以外の静止物標距離を計測する(ステップS14)。すると、物標距離計測部13は、記憶強度と計測強度とを比較し(ステップS15)、静止物標の車両Vの有無を検知することができる(ステップS17、S18)。さらに、物標距離計測部13は、記憶距離と計測距離とを比較し(ステップS16)、静止物標の車両Vの有無を検知することができる(ステップS17、S18)。
【0079】
図8の第1段では、車両Vの駐車時では、信号強度は、車両Vの駐車前より高く、物標距離は、駐車場の地面Gから車両Vの底面までの距離となる。
図8の第2段では、車両Vの駐車時では、信号強度は、車両Vの駐車前より高く、物標距離は、駐車場の天井Rから車両Vの上面までの距離となる。
図8の第3段では、車両Vの駐車時では、信号強度は、車両Vの駐車前より高く、物標距離は、駐車場の車止めCから車両Vのタイヤまでの距離となる。
図8の第4段では、車両Vの進入時では、信号強度は、車両Vの進入前より高く、物標距離は、販売窓Wから車両Vの側面までの距離となる。
【0080】
よって、車両Vの駐車時では、計測強度が記憶強度と低い相関を有し(ステップS15においてYES)、計測距離が記憶距離と低い相関を有し(ステップS16においてYES)、車両Vが存在することが検知される(ステップS17)。一方で、車両Vの駐車前では、計測強度が記憶強度と高い相関を有し(ステップS15においてNO)、計測距離が記憶距離と高い相関を有し(ステップS16においてNO)、車両Vが存在しないことが検知される(ステップS18)。なお、強度相関及び距離相関のうち、両方が高いときのみならず、一方のみが高いときであっても、車両Vが存在しないことが検知される。
【0081】
車両検知が続行されるときには(ステップS19においてYES)、ステップS13~S18の処理が実行される。車両検知が続行されないときには(ステップS19においてNO)、ステップS13~S18の処理が中止される。なお、背景強度及び背景距離が時間変化することを考慮して、記憶強度及び記憶距離を更新してもよい。また、ハイトパターンのヌル点が生じることを考慮して、強度相関及び距離相関を評価してもよい。
【0082】
このように、背景(空間、天井R又は地面G等)の信号強度と、車両Vの信号強度と、の相違を認識するため、駐車場内の近距離の車両Vを確実に検知することができる。そして、背景(空間、天井R又は地面G等)の物標距離と、車両Vの物標距離と、の相違を認識するため、駐車場内の近距離の車両Vを確実に検知することができる。
【0083】
本開示の車両検知処理の結果を
図10に示す。車両Vは、初期段階では駐車場に存在せず、中期段階では車止めCに近づき、終期段階では車止めCに触れる。
【0084】
すると、物標距離計測部13が計測した車両距離は、車両Vの上述の動作を再現している。特に、物標距離計測部13が計測した車両距離は、車両Vの距離0を再現している。これは、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号において、直流近傍の周波数成分が除去された後に、交流の周波数成分が残留していないからである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示の物標検知装置、システム、プログラム及び方法は、駐車場内の近距離の車両又は物流センタ内の近距離の荷物等を検知する用途において、適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
S、S-1、S-2:物標検知システム
T:物標
V:車両
C:車止め
G:地面
R:天井
W:販売窓
1:物標検知装置
2:FMCWレーダ送受信装置
11:ビート信号取得部
12:差分信号算出部
13:物標距離計測部
21:PLL回路
22:発振器
23:分配器
24:増幅器
25:ローパスフィルタ
26:送信アンテナ
27:受信アンテナ
28:増幅器
29:増幅器
30:ミキサ回路
31I、31Q:キャリブレータ
32:A/D変換器
33:位相変調器
131I、131Q:ミキサ回路
132I、132Q:ローパスフィルタ
133I、133Q:デシメータ/インタポレータ
134:周波数変換器