(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】ろ過モジュールの運転方法およびろ過装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230920BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20230920BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20230920BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20230920BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20230920BHJP
B01D 71/16 20060101ALI20230920BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20230920BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230920BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230920BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20230920BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20230920BHJP
【FI】
C02F1/44 D
C02F1/44 C
C02F1/44 A
B01D61/00 500
B01D63/06
B01D71/34
B01D71/68
B01D71/16
B01D65/02 520
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/56
B01D65/02
B01D61/02 500
(21)【出願番号】P 2019187098
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】三原 孝太
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】水本 淑人
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢作
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-104483(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190166(WO,A1)
【文献】特開2018-143970(JP,A)
【文献】特開2014-065008(JP,A)
【文献】特開平11-104466(JP,A)
【文献】特表2018-500401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水が流入する第1の空間と、前記被処理水よりも高い浸透圧を有するドローソリューションが流入する第2の空間と、前記第1の空間と前記第2の空間とを区画する正浸透膜と、を有するろ過モジュールの運転方法であって、
前記正浸透膜を介して前記被処理水から前記ドローソリューションに前記被処理水に含まれる水を移動させる正浸透作用中に、前記被処理水および前記ドローソリューションの
両方に気体を供給することを特徴とする、ろ過モジュールの運転方法。
【請求項2】
前記正浸透作用中に、前記気体の供給を間欠的に行うことを特徴とする、請求項1に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項3】
前記正浸透作用中に、前記気体の供給を連続して行うことを特徴とする、請求項1に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項4】
前記気体が供給される側の前記正浸透膜の表面は、水接触角が90°未満であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項5】
前記正浸透膜は、管状であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項6】
前記正浸透膜は、半透膜層と、前記半透膜層を支持する多孔質の支持層と、を有する複合半透膜であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項7】
前記支持層は、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホンおよびセルローストリアセテートの少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項6に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項8】
前記半透膜層は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含むことを特徴とする、請求項6または請求項7に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項9】
前記正浸透膜は、セルローストリアセテートからなる半透膜層のみからなることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のろ過モジュールの運転方法。
【請求項10】
被処理水を収容する第1の空間と、前記被処理水よりも高い浸透圧を有するドローソリューションを収容する第2の空間と、前記第1の空間と前記第2の空間とを区画する正浸透膜と、を有するろ過モジュールと、
前記第1の空間に前記被処理水を供給する被処理水供給手段と、
前記第2の空間に前記ドローソリューションを供給するドローソリューション供給手段と、
前記被処理水中
および前記ドローソリューション中に気体を供給する気体供給手段と、
前記被処理水供給手段、前記ドローソリューション供給手段および前記気体供給手段を制御する制御部と、を備えることを特徴とする、ろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過モジュールの運転方法およびろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半透膜を備えるろ過モジュールを用いて流体中の物質を選り分ける膜分離(ろ過)技術が、省エネルギー、省資源、および環境保全等の観点から注目を集めている。半透膜としては、例えばナノフィルトレーション(Nano Filtration:NF)膜、逆浸透(Reverse Osmosis:RO)膜、および正浸透(Forward Osmosis:FO)膜が用いられる。このうち、正浸透膜は、自然の浸透圧差を駆動力として用いることから、海水淡水化のようなろ過技術に使用した場合にエネルギー消費量の低減が期待されるとともに、ろ過技術だけでなく浸透圧発電技術、濃縮技術等の分野でも幅広い応用が期待され、注目を集めている。
【0003】
正浸透膜を用いたろ過技術は、被処理水(Feed Solution:FS)と、FSよりも高い浸透圧を有するドローソリューション(Draw Solution:DS)とを正浸透膜を介して接触させ、被処理水とドローソリューションとの間に正浸透作用を生じさせることにより、被処理水に含まれる塩、および浮遊汚濁物質、たんぱく質、細菌、微生物、有機物、金属成分、土壌成分等の膜ファウラントを移動させず、被処理水に含まれる水をドローソリューションに移動させる技術である。
【0004】
正浸透膜をろ過運転に用いた場合、被処理水に含まれる膜ファウラントが正浸透膜に蓄積する、いわゆる膜ファウリングが発生するという問題がある。膜ファウリングが発生すると、正浸透膜を介した被処理水からドローソリューションへの水の移動速度が低下し、ろ過効率が低下するとともにエネルギーコストが上昇するだけでなく、正浸透膜を介した水の移動、すなわち正浸透作用そのものが困難になるおそれがある。そのため、正浸透作用を効率よく生じさせるには、膜ファウリングの発生を予防保全的に抑制すること、または発生した膜ファウリングを洗浄することにより、正浸透膜を清浄に保つことが重要である。
【0005】
正浸透膜における膜ファウリングの発生を抑制する方法としては、例えば特許文献1では、浸透工程の前に塩素系殺菌剤をフィード溶液(上記「被処理水」に相当する。)およびドロー溶液(上記「ドローソリューション」に相当する。)の両方に添加する殺菌剤添加工程を設ける方法が提案されている。この方法では、フィード溶液およびドロー溶液を塩素の酸化力で殺菌することによってファウリングの抑制を図っている。
【0006】
また、特許文献2では、正浸透工程の前に被処理水を不活性ガスで曝気する曝気工程を設ける方法が提案されている。この方法では、不活性ガスで被処理水の溶存酸素濃度を低下させて微生物の繁殖の抑制を図っている。
【0007】
特許文献1および特許文献2で提案された方法は、いずれもバイオファウリングと呼ばれる、微生物に起因する膜ファウリングの発生を予防保全的に抑制するための方法である。
【0008】
一方で、既に発生した膜ファウリングを洗浄する方法については、逆浸透膜に関してはこれまでに検討が行われているものの、正浸透膜に関しては十分な検討はまだ行われていない。
【0009】
逆浸透膜について発生した膜ファウリングを洗浄する方法としては、例えば特許文献3では、被処理水を高圧ポンプで加圧して逆浸透膜モジュールに供給して透過水を得る逆浸透膜モジュールにおいて、高圧ポンプの停止後に圧力開放バルブを開けて正浸透作用で、膜に付着したファウリング物質を除去する方法が提案されている。さらに、同文献では、高圧ポンプの停止後に被処理水に酸またはアルカリを添加して正浸透作用による洗浄の効率を向上させる方法が提案されている。
【0010】
ところで、正浸透膜や逆浸透膜といった脱塩用途の膜ではなく、精密ろ過膜、限外ろ過膜等の被処理水中の懸濁物質を除去する分野に用いられる膜は、一般に、正浸透膜および逆浸透膜に比べて物理的強度が高いため、逆洗およびバブリングのような物理的洗浄方法が適用されている。
【0011】
精密ろ過膜、限外ろ過膜等を使用する場合、ろ過運転を停止し、その後、逆洗またはバブリングによる洗浄を行うというように、ろ過工程と洗浄工程とを独立して操業する方法が一般的である。例えば、特許文献4では、当該分野に用いられる中空糸膜モジュールについて、ろ過運転を停止してからバブリングにより洗浄を行う方法が提案されている。しかし、正浸透膜および逆浸透膜については、これまで逆洗およびバブリングのような物理的洗浄方法は積極的には検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6252297号公報
【文献】特許第6210034号公報
【文献】特開2015-016404号公報
【文献】特開2016-215089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のように、正浸透膜に関し、既に発生した膜ファウリングを洗浄する方法についてはこれまでに十分な検討が行われていない。
【0014】
ここで、例えば逆浸透膜について特許文献3で提案されている、被処理水に酸またはアルカリ等の薬液を注入する方法を、正浸透膜の膜ファウリングの洗浄に適用することも考えられる。しかし、この方法では、薬液を定期的に使用する必要があり、薬液そのものの費用および使用後の薬液の廃棄処理費用等のランニングコストがかかることや、薬液使用時にろ過モジュールの運転を停止する必要がありろ過モジュールの運転の効率が低下すること等、改善の余地がある。
【0015】
また、正浸透膜の膜ファウリングの発生を予防的に抑制する方法に関し、上述の特許文献1および特許文献2で提案されているように殺菌剤を溶液に添加する方法または不活性ガスで被処理水を曝気する方法の適用が考えられる。しかし、これらの方法では、正浸透運転の前に添加作業または曝気作業、すなわち準備作業を行わなくてはならない。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、正浸透運転前の準備作業を行うことなく膜ファウリングの発生を予防的に抑制すること、および薬液の使用もろ過モジュールの運転の停止も必要とせず、正浸透膜に発生した膜ファウリングを洗浄することが可能であり、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能なろ過モジュールの運転方法を提供することを目的とする。また、このろ過モジュールの運転方法を適用可能なろ過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
【0018】
本発明の一局面に係るろ過モジュールの運転方法は、被処理水が流入する第1の空間と、前記被処理水よりも高い浸透圧を有するドローソリューションが流入する第2の空間と、前記第1の空間と前記第2の空間とを区画する正浸透膜と、を有するろ過モジュールの運転方法であって、前記正浸透膜を介して前記被処理水から前記ドローソリューションに前記被処理水に含まれる水を移動させる正浸透作用中に、前記被処理水および前記ドローソリューションの両方に気体を供給する。
【0019】
上記のろ過モジュールの運転方法によれば、被処理水中に気体を供給することにより、正浸透運転前の準備作業を行うことなく膜ファウリングの発生を予防的に抑制することができるとともに、正浸透膜に膜ファウリングが発生したとしても、薬液の使用もろ過モジュールの運転の停止も必要とせず洗浄することができる。すなわち正浸透作用中に被処理水中に気体を供給するため、殺菌処理や曝気処理等の準備作業を行わなくても正浸透膜による正浸透作用の低下を抑制することができ、一方、正浸透作用が低下したとしても、薬液を使用せず、ろ過モジュールの運転を停止させることなく正浸透作用を回復させることができる。そのため、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0020】
上記の洗浄効果は、気体の供給により発生した気泡の移動により正浸透膜に付着した膜ファウラントを除去することにより得られると考えられる。また、上記の抑制効果は、上記気泡が被処理水に含まれる膜ファウラントと正浸透膜との間に介在し、正浸透膜への膜ファウラントの初期の付着を抑制することによって、その後の膜ファウラントの堆積が抑制されることにより得られると考えられる。
【0021】
本発明において、「正浸透作用」とは、正浸透膜を介して被処理水とドローソリューションとが接触し、被処理水とドローソリューションの浸透圧差に起因して被処理水に含まれる水がドローソリューションへ移動する作用をいう。
【0022】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記正浸透作用中に、前記気体の供給を間欠的に行ってもよい。
【0023】
この態様では、正浸透膜に一定の膜ファウリングが発生するまでの間、気体の供給が停止され、その後、正浸透作用中に気体を供給し膜ファウリングを洗浄する。これにより、ろ過モジュールの運転中における気体の供給量を低減することができる。
【0024】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記正浸透作用中に、前記気体の供給を連続して行ってもよい。
【0025】
この態様では、膜ファウリングの発生を予防的に抑制できるとともに、膜ファウリングが発生しても速やかに除去されるため、これにより正浸透作用の経時的な低下を抑制することができるため、より効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0026】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記気体が供給される側の前記正浸透膜の表面は、水接触角が90°未満であってもよい。
【0027】
正浸透作用中に、気体に接触して正浸透膜が乾燥すると、正浸透膜の透水性が低下し、正浸透作用の効率が低下する。しかし、この態様では、気体と正浸透膜との界面における正浸透膜の乾燥を抑制することができるため、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0028】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記正浸透膜は、管状であってもよい。
【0029】
この態様では、ろ過モジュールの被処理水およびドローソリューションの収容量に対する正浸透膜の表面積を、平膜等と比べて大きくすることができるため、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0030】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記正浸透膜は、半透膜層と、前記半透膜層を支持する多孔質の支持層と、を有する複合半透膜であってもよい。
【0031】
この態様では、比較的高い物理的強度を有する正浸透膜を使用するため、長期間に亘りろ過モジュールを使用することが可能である。
【0032】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記支持層は、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホンおよびセルローストリアセテートの少なくとも1種からなるものであってもよい。
【0033】
この態様では、優れた耐圧性能を有する正浸透膜を使用するため、長期間に亘りろ過モジュールを使用することが可能である。
【0034】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記半透膜層は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含むものであってもよい。
【0035】
この態様では、優れた水透過性能と脱塩性能とを両立した正浸透膜が得られる。水透過性能とは、被処理水からドローソリューションへより多くの水を透過させる性能をいい、脱塩性能とは、被処理水からドローソリューションに塩を水とともに移動させず、被処理水に塩を保持する性能をいう。
【0036】
上記のろ過モジュールの運転方法において、前記正浸透膜は、セルローストリアセテートからなる半透膜層のみからなるものであってもよい。
【0037】
この態様では、正浸透膜を半透膜層のみとしても、セルローストリアセテートからなるため十分な強度を確保することができ、ろ過モジュールをより簡単な構成とすることができる。
【0038】
本発明の他の一局面に係るろ過装置は、被処理水を収容する第1の空間と、前記被処理水よりも高い浸透圧を有するドローソリューションを収容する第2の空間と、前記第1の空間と前記第2の空間とを区画する正浸透膜と、を有するろ過モジュールと、前記第1の空間に前記被処理水を供給する被処理水供給手段と、前記第2の空間に前記ドローソリューションを供給するドローソリューション供給手段と、前記被処理水中および前記ドローソリューション中に気体を供給する気体供給手段と、前記被処理水供給手段、前記ドローソリューション供給手段および前記気体供給手段を制御する制御部と、を備える。
【0039】
上記のろ過装置によれば、上記のろ過モジュールの運転方法を適用可能であり、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、正浸透膜運転を停止することなく、正浸透膜に発生した膜ファウリングを洗浄すること、および被処理水中に既に存在する膜ファウラントに起因する膜ファウリングの発生を予防的に抑制することにより、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能なろ過モジュールの運転方法を提供することができる。また、このろ過モジュールの運転方法を適用可能なろ過装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るろ過装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るろ過モジュールの構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るろ過装置の全体構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態の変形例に係るろ過モジュールの構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例1の場合の正浸透運転開始からの経過時間と水の透過速度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2の場合の正浸透運転開始からの経過時間と水の透過速度との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1の場合の正浸透運転開始からの経過時間と水の透過速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0043】
[第1の実施形態]
〈ろ過装置およびろ過モジュール〉
図1は本発明の第1の実施形態に係るろ過装置の全体構成を示す模式図であり、
図2は本実施形態に係るろ過モジュールの構成を示す模式図である。まず、本実施形態に係るろ過モジュール10およびこれを備えたろ過装置1の構成について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0044】
(ろ過装置)
ろ過装置1は、ろ過モジュール10を用いて正浸透運転を行い、浮遊汚濁物質(Suspended Solids:SS)等の不純物(以下「膜ファウラント」という。)および塩を含有する被処理水(Feed Solution:FS)から、被処理水に含まれる水を、被処理水より高い浸透圧を有するドローソリューション(Draw Solution:DS)に移動させる装置である。
【0045】
図1に示すように、ろ過装置1は、ろ過モジュール10と、被処理水供給手段30と、被処理水排出手段33と、ドローソリューション供給手段40と、ドローソリューション排出手段43と、気体供給手段50と、制御部70と、を備えている。制御部70は、操作部および演算部を含むコンピュータを備え、被処理水供給手段30、ドローソリューション供給手段40および気体供給手段50を制御する。
【0046】
(ろ過モジュール)
図2に示すように、ろ過モジュール10では、第1のポート11aからケース11内にドローソリューションが導入され、第3のポート11cからケース11内に被処理水が導入される。ケース11内では、正浸透作用により、正浸透膜13を介して被処理水からドローソリューションに、被処理水に含まれる水の一部が移動する。被処理水からドローソリューションに水の一部が移動した後、ドローソリューションは第2のポート11bからケース11外に排出され、被処理水は第4のポート11dからケース外に排出される。
【0047】
ろ過モジュール10は、複数の正浸透膜13と、内部に正浸透膜13を収容する筒状のケース11と、正浸透膜13をケース11に対して固定する固定部材12と、を備えている。
【0048】
(ケースおよび固定部材)
ケース11は、一方向に延びる円筒状の側壁11eと、側壁11eの両端に設けられた一対の第1の端板11fおよび第2の端板11gと、を有している。ケース11の形状、素材は特に限定されず、例えば塩化ビニルやポリスルホン、ABS樹脂等の樹脂製のものを使用することができる。
【0049】
固定部材12は、ケース11内の2か所に設けられている。2つの固定部材12は、ケース11内において前記一方向において互いに離れた位置に配置されている。各固定部材12は、それぞれの位置において、側壁11eの内周面の全周に亘って側壁11eに接着されている。これにより、ケース11内の空間は、2つの固定部材12の間の中央空間S1と、第1の端板11fと固定部材12との間の第1の端部空間S2と、第2の端板11gと固定部材12との間の第2の端部空間S3と、に仕切られている。また、2つの固定部材12によって、中央空間S1と第1の端部空間S2との間、および中央空間S1と第2の端部空間S3との間は液密に封止される。固定部材12を構成する樹脂として、接着性を有する樹脂、具体的にはウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0050】
ケース11には、中央空間S1に開口するように第1のポート11aおよび第2のポート11bが設けられている。これにより、中央空間S1は、第1のポート11aおよび第2のポート11bを通して外部に連通している。第1のポート11aおよび第2のポート11bは、前記一方向において互いに離れた位置に設けられている。また、ケース11には、第1の端部空間S2に開口するように第3のポート11cが設けられ、第2の端部空間S3に開口するように第4のポート11dが設けられている。これにより、第1の端部空間S2は第3のポート11cを通して、また、第2の端部空間S3は第4のポート11dを通してそれぞれ外部に連通している。
【0051】
(正浸透膜)
正浸透膜13は、2つの固定部材12の間に架け渡されるように配置されている。すなわち、本実施形態に係るろ過モジュール10は、いわゆる中空糸膜型の両端支持タイプである。正浸透膜13の一端部は一方の固定部材12を貫通し、他端部は他方の固定部材12を貫通している。正浸透膜13は中空であるため、第1の端部空間S2と第2の端部空間S3とは正浸透膜13の内部空間によって連通している。すなわち、第1の端部空間S2と第2の端部空間S3と正浸透膜13の内部空間とは連通した一つの空間である第1の空間T1を構成する。また、中央空間S1のうち、正浸透膜13の内部空間を除いた空間は、一つの空間である第2の空間T2を構成する。
【0052】
第1の空間T1は被処理水が流入する空間であり、第2の空間T2はドローソリューションが流入する空間である。第1の空間T1と第2の空間T2とは、正浸透膜13および2つの固定部材12によって区画されている。第1の空間T1に収容された被処理水と第2の空間T2に収容されたドローソリューションとは、正浸透膜13を介して接触する。
【0053】
正浸透膜13は、多孔質の中空糸状の支持層13aと、支持層13aの外周面に形成された半透膜層13bと、を有する複合半透膜である。支持層13aは半透膜層13bを支持する。正浸透膜13は、管状であり、両端部において固定部材12に接着されている。
【0054】
(支持層)
支持層13aは、多孔質を形成することができる素材からなるものであれば、特に限定されない。支持層13aを構成する成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリクロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリケトン、結晶性セルロース、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、およびアクリロニトリルスチレン(AS)樹脂、三酢酸セルロース(セルローストリアセテート)等が挙げられる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、およびポリエーテルサルホン、セルローストリアセテートが、耐圧性能に優れる観点から好ましい。また、支持層13aを構成する成分としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
(半透膜層)
半透膜層13bは、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とからなる架橋ポリアミド、すなわち、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含んで、半透膜の機能を奏する層であれば、特に限定されない。
【0056】
半透膜層13bに用いられる多官能アミン化合物は、アミノ基を分子内に2つ以上有する化合物であれば、特に限定されない。多官能アミン化合物としては、例えば、芳香族多官能アミン化合物、脂肪族多官能アミン化合物、および脂環族多官能アミン化合物等が挙げられる。
【0057】
芳香族多官能アミン化合物としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、およびo-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼンおよび1,3,4-トリアミノベンゼン等のトリアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエンおよび2,6-ジアミノトルエン等のジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸、キシリレンジアミン、および2,4-ジアミノフェノール二塩酸塩(アミドール)等が挙げられる。
【0058】
脂肪族多官能アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロプレンジアミン、およびトリス(2-アミノエチル)アミン等が挙げられる。
【0059】
脂環族多官能アミン化合物としては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、および4-アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0060】
多官能アミン化合物としては、これらの中でも、芳香族多官能アミン化合物が好ましく、フェニレンジアミンがより好ましい。また、多官能アミン化合物として、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
半透膜層13bに用いられる多官能酸ハライド化合物(多官能酸ハロゲン化物)は、カルボン酸等の酸を分子内に2つ以上有する多官能有機酸化合物に含まれる酸からヒドロキシル基を2つ以上除去し、ヒドロキシル基が除去された酸にハロゲンが結びついた化合物であれば、特に限定されない。
【0062】
多官能酸ハライド化合物は、2価以上であればよく、3価以上であることが好ましい。多官能酸ハライド化合物としては、例えば、多官能酸フッ化物、多官能酸塩化物、多官能酸臭化物、および多官能酸ヨウ化物等が挙げられる。これらの中でも、多官能酸塩化物(多官能酸クロライド化合物)が、最も容易に得られ、反応性も高いので好ましく用いられるが、これに限定されない。以下、多官能酸塩化物を例示するが、多官能酸塩化物以外の多官能酸ハロゲン化物としては、下記例示の塩化物を、他のハロゲン化物に変えたもの等が挙げられる。
【0063】
多官能酸クロライド化合物としては、例えば、芳香族多官能酸クロライド化合物、脂肪族多官能酸クロライド化合物、および脂環族多官能クロライド化合物等が挙げられる。
【0064】
芳香族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、およびベンゼンジスルホン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0065】
前記脂肪族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルクロライド、およびアジポイルクロライド等が挙げられる。
【0066】
脂環族多官能クロライド化合物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、およびテトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0067】
多官能酸ハライド化合物としては、これらの中でも、芳香族多官能酸クロライド化合物が好ましく、トリメシン酸トリクロライドがより好ましい。また、多官能酸ハライド化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(被処理水供給手段および被処理水排出手段)
図1に示すように、被処理水供給手段30は、被処理水をろ過モジュール10に供給するものである。被処理水供給手段30は、被処理水ポンプ31と、被処理水配管32と、を有している。
【0069】
被処理水配管32は、一端がろ過モジュール10の第3のポート11cに接続されており、他端から被処理水を導入可能である。被処理水ポンプ31は、被処理水配管32の両端部の中間に設けられている。使用者が制御部70の操作部を操作することによって、制御部70の演算部は、被処理水ポンプ31による被処理水の供給の開始および停止の動作を制御するとともに、被処理水配管32に設けられた不図示のバルブの開度を調整する。これにより、被処理水の供給量が調整される。
【0070】
被処理水排出手段33は、一端がろ過モジュール10の第4のポート11dに接続された配管を有し、被処理水ポンプ31の動作に応じてろ過モジュール10から被処理水を外部に排出する。被処理水排出手段33を構成する配管の他端は、被処理水配管32の他端に接続して被処理水を循環させてもよい。
【0071】
(ドローソリューション供給手段およびドローソリューション排出手段)
ドローソリューション供給手段40は、ドローソリューションをろ過モジュール10に供給するものである。
図1に示すように、ドローソリューション供給手段40は、ドローソリューションポンプ41と、ドローソリューション配管42と、を有している。
【0072】
ドローソリューション配管42は、一端がろ過モジュール10の第1のポート11aに接続されている。ドローソリューションポンプ41は、ドローソリューション配管42の両端部の中間に設けられている。使用者が制御部70の操作部を操作することによって、制御部70の演算部は、ドローソリューションポンプ41によるドローソリューションの供給の開始および停止の動作を制御するとともに、ドローソリューション配管42に設けられた不図示のバルブの開度を調整する。これにより、ドローソリューションの供給量が調整される。
【0073】
ドローソリューション排出手段43は、一端がろ過モジュール10の第2のポート11bに接続された配管を有し、ドローソリューションポンプ41の動作に応じてろ過モジュール10からドローソリューションが排出される。ドローソリューション排出手段43を構成する配管の他端は、ドローソリューション配管42の他端に接続してドローソリューションを循環させてもよい。
【0074】
(気体供給手段)
気体供給手段50は、正浸透膜13における膜ファウリングの抑制または洗浄に用いられるものであり、被処理水に気体を供給する。
図1に示すように、気体供給手段50は、圧縮機51と、気体配管52とを有している。
【0075】
気体配管52は、一端が被処理水配管32のろ過モジュール10側の端部と被処理水ポンプ31が設けられた部分との間に接続されており、他端に圧縮機51が接続されている。圧縮機51は気体を圧縮し、気体配管52は圧縮された気体を被処理水配管32内の被処理水に供給する。使用者が制御部70の操作部を操作することによって、制御部70の演算部は、圧縮機51による被処理水への気体の供給の開始および停止の動作を制御するとともに、気体配管52に設けられた不図示のバルブの開度を調整する。これにより、被処理水への気体の供給量が調整される。なお、気体配管52の一端は、被処理水配管32に接続するのではなく、ケース11の第1の端部空間S2に開口するように設けられた専用のポート(不図示)に接続してもよい。この場合、第1の端部空間S2内の被処理水に気体を供給する。
【0076】
気体供給手段50によって被処理水に供給される気体は、エア(空気)に限られず、窒素などの不活性ガスでもよい。コストの観点からは、エアが好ましい。圧縮機51は、被処理水へのオイルの混入を防止する観点から、オイルフリーの圧縮機を用いることが好ましい。また、圧縮機51と気体配管52との間にオイルミストセパレータ等の気体浄化手段を設け、被処理水に導入する前に気体からオイルを除去し、気体供給による被処理水へのオイルの混入を抑制することがより好ましい。
【0077】
気体供給手段50によって被処理水に供給される気体の圧力は、被処理水がろ過モジュール10を通過するときの圧力損失以上の圧力とする。被処理水に供給される気体の圧力が当該圧力損失未満であると気体の供給が困難となるが、当該圧力損失以上とすることにより被処理水に気体を供給することができる。
【0078】
(被処理水およびドローソリューション)
被処理水(FS)は、水、または水と塩とを含む液体であり、膜ファウラントを含んでいてもよい。また、ドローソリューション(DS)は、水と塩とを含む液体であり、被処理水よりも高い浸透圧を有し、必要に応じて水と塩以外の物質を含んでもよい。ドローソリューションおよび被処理水は、ドローソリューションの浸透圧が被処理水の浸透圧よりも高い限りにおいてどのようなものでもよく、特に限定されない。
【0079】
被処理水は、具体的には、水、水に塩化ナトリウム、炭酸アンモニウムまたは炭酸カルシウム等の塩類を溶解させた溶液、水にスクロースまたはデキストロース等の糖類を溶解させた溶液、および水にポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール等の高分子化合物を溶解させた溶液等が挙げられる。より実用的な観点では、例えば、海水、産業排水、下水道水、および食品としての液体等も挙げられる。
【0080】
ドローソリューションは、具体的には、水に塩化ナトリウム、炭酸アンモニウムまたは炭酸カルシウム等の塩類を溶解させた溶液、水にスクロースまたはデキストロース等の糖類を溶解させた溶液、水にポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール等の高分子化合物を溶解させた溶液、磁性を有する分散液体、およびイオン液体等が挙げられる。より実用的な観点では、例えば、海水、産業排水、下水道水、および食品としての液体等も挙げられる。これらをドローソリューションとして使用することで、本来、廃棄物となる液体を実用物として利用することが可能となる。
【0081】
〈ろ過モジュールの運転方法〉
次に、ろ過装置1を用いたろ過モジュール10の運転方法について
図1および
図2を参照して説明する。
【0082】
ろ過装置1の被処理水ポンプ31およびドローソリューションポンプ41が停止した状態において、使用者が制御部70を操作することによって、被処理水ポンプ31およびドローソリューションポンプ41が作動する。これにより、被処理水供給手段30によって被処理水が第3のポート11cから供給され、ろ過モジュール10の第1の空間T1に流入する。また、ドローソリューション供給手段40によってドローソリューションが第1のポート11aから供給され、ろ過モジュール10の第2の空間T2に流入する。
【0083】
その後、被処理水が供給されつつ、第1の空間T1が被処理水により満たされると、被処理水は第3のポート11cから第4のポート11dに向かって正浸透膜13内を流動し、第4のポート11dから排出される状態となる。また、ドローソリューションが供給されつつ、第2の空間T2(正浸透膜13の内部空間を除いた中央空間S1)がドローソリューションにより満たされると、ドローソリューションは第1のポート11aから第2のポート11bに向かって流動し、第2のポート11bから排出される状態となる。このとき、被処理水ポンプ31によって被処理水に加えられる圧力がドローソリューションポンプ41によってドローソリューションに加えられる圧力から被処理水とドローソリューションの浸透圧差を引いた値よりも高い圧力となっている。このため、正浸透膜13を介して被処理水とドローソリューションとが接触し、被処理水とドローソリューションの浸透圧差に起因して被処理水に含まれる水がドローソリューションへ移動する状態、すなわち正浸透作用が生じる状態となる。このとき、被処理水は、正浸透膜13の外表面に対して平行に、ドローソリューションは正浸透膜13の内表面に対して平行に、それぞれ同じ方向に流動するため、このろ過モジュール10の運転方式はクロスフローろ過方式に該当する。なお、被処理水とドローソリューションは、それぞれ逆方向に流動させてもよい。この場合もクロスフローろ過方式に該当する。
【0084】
正浸透作用が生じる状態において、正浸透膜13を介して被処理水に含まれる水がドローソリューションに移動する。これにより、被処理水は、水が減少して塩および膜ファウラントの濃度が上昇する。被処理水が水である場合は、単に被処理水の量が減少する。一方、ドローソリューションは、水が増加して塩等の濃度が低下する。水が減少して塩等の濃度が上昇し、または量が減少した被処理水は第4のポート11dから被処理水排出手段33を構成する配管を介して外部に排出される。水が増加して塩等の濃度が低下したドローソリューションは第2のポート11bからドローソリューション排出手段43を構成する配管を介して外部に排出される。
【0085】
本実施形態では、正浸透運転中に気体供給手段50を用いて被処理水配管32中の被処理水に気体を供給する。被処理水に気体を供給すると被処理水中に気泡が発生する。この気泡は、ろ過モジュール10内において、膜ファウリングの原因となる被処理水中の膜ファウラントと正浸透膜13との間に介在し、正浸透膜13への膜ファウラントの付着そのものを抑制し、膜ファウリングの発生を抑制することができると考えられる。膜ファウリングが発生した状態では、気泡の移動により正浸透膜13から膜ファウリングを除去することができると考えられる。
【0086】
気体の供給は、正浸透運転中に、間欠的に行ってもよいし、連続して行ってもよい。気体の供給を「間欠的に行う」とは、例えば正浸透運転の開始から所定時間が経過した後気体の供給を開始し、所定の時間供給を行った後、所定の時間気体の供給を停止し、再度気体の供給を開始することをいう。すなわち、正浸透運転の開始から終了までの間に、気体の供給の開始を2回以上、気体の供給の停止を1回以上行うことをいう。1回目の気体の供給の開始は、正浸透運転の開始から所定時間が経過した後に限られず、正浸透運転の開始と同時に行ってもよい。気体の供給を間欠的に行う具体例として、正浸透運転の開始から30分毎に気体の供給を30秒間行うことが挙げられる。
【0087】
気体の供給を「連続して行う」とは、例えば正浸透運転の開始から終了まで停止することなく気体の供給を行うこと、正浸透運転の開始から所定の時間が経過した後気体の供給を開始し、正浸透運転の終了まで気体の供給を行うこと、および、正浸透運転の開始から所定の時間が経過した後気体の供給を開始し、所定の時間気体の供給を行った後、正浸透運転の終了まで気体の供給を停止することをいう。すなわち、正浸透運転の開始から終了までの間に気体の供給の開始を1回、気体の供給の停止を1回以下行うことをいう。
【0088】
本実施形態では、ろ過装置1において被処理水ポンプ31およびドローソリューションポンプ41の両方が作動し、かつ正浸透膜13を介して被処理水とドローソリューションとが接触した状態となった時点を、ろ過モジュール10を用いた「正浸透運転の開始」といい、被処理水ポンプ31およびドローソリューションポンプ41の少なくとも一方が停止した時点または正浸透膜13を介して被処理水とドローソリューションとが接触しなくなった時点を「正浸透運転の終了」という。
【0089】
正浸透運転中のろ過モジュール10では、正浸透膜13を介して被処理水とドローソリューションとが接触している状態となっている。そして、正浸透膜13を介して被処理水とドローソリューションとが接触していれば、ドローソリューションの浸透圧と被処理水ポンプ31から被処理水に加えられる圧力との合計が、被処理水の浸透圧とドローソリューションポンプ41からドローソリューションに加えられる圧力との合計よりも大きい限り、正浸透作用が生じて被処理水からドローソリューションへ水が移動する。また、第1の空間T1において被処理水が流動し、第2の空間T2内でドローソリューションが流動している場合だけでなく、正浸透運転を行っていない場合のように被処理水およびドローソリューションの少なくとも一方が停止している場合であっても、正浸透膜13を介して被処理水とドローソリューションが接触しており、上記の浸透圧とポンプから加えられる圧力との関係を満たす限り、被処理水からドローソリューションへ水が移動する正浸透作用が生じる。「正浸透作用中」とは、このように正浸透作用が生じている状態を指す。
【0090】
〈作用効果〉
次に、本実施形態に係るろ過膜モジュールの運転方法の特徴および作用効果について説明する。
【0091】
本実施形態に係るろ過モジュール10の運転方法では、被処理水中に気体を供給するため、正浸透運転前に殺菌処理や曝気処理等の準備作業を行わなくても膜ファウリングの発生を予防的に抑制することができるとともに、正浸透膜に膜ファウリングが発生したとしても、薬液の使用もろ過モジュールの運転の停止も必要とせず洗浄することができる。すなわち正浸透作用中に被処理水中に気体を供給するため、正浸透膜13を介した被処理水からドローソリューションへの水の移動速度の低下を抑制することができる。また、膜ファウリングにより低下した、正浸透膜13を介した被処理水からドローソリューションへの水の移動速度を回復させることができる。そのため、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0092】
この膜ファウリングの洗浄は、正浸透作用中に行うことが可能である。これは、正浸透膜13を備えるろ過モジュール10では、正浸透運転時を含めた正浸透作用中に、逆浸透膜のように被処理水に大きな圧力を加えないためである。なお、逆浸透膜では、逆浸透膜運転中に被処理水に大きな圧力を加えるため、逆浸透膜運転中に被処理水中に気体を供給することはできない。
【0093】
このように、本実施形態に係るろ過モジュール10の運転方法によれば、準備作業を行うことなく正浸透膜13による正浸透作用の低下を抑制することができ、一方、正浸透作用が低下したとしても、ろ過モジュール10の正浸透運転を停止させることなく正浸透膜13の正浸透作用を回復させることができる。そのため、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0094】
上記の洗浄効果は、気体の供給により発生した気泡の移動により正浸透膜13に付着した膜ファウリングを除去することにより得られると考えられる。また、上記の抑制効果は、上記気泡が被処理水に含まれる膜ファウラントに付着して移動することによって、膜ファウリングの発生が抑制されることにより得られると考えられる。
【0095】
また、本実施形態に係るろ過モジュール10の運転方法では、圧縮機51で圧縮した気体を使用するため、薬液による洗浄方法等と比較して低コストで膜ファウリングの洗浄または抑制を行うことができる。
【0096】
本実施形態に係るろ過モジュール10の運転方法において、気体の供給を間欠的に行う場合には、正浸透膜13に一定の膜ファウリングが発生するまでの間、気体の供給が停止され、その後、正浸透作用中に気体を供給し、膜ファウリングを洗浄する。これにより、正浸透運転中における気体の供給量を低減することができる。
【0097】
一方、気体の供給を連続して行う場合には、膜ファウリングの発生を予防的に抑制できるとともに、膜ファウリングが発生しても速やかに除去されるため、より効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0098】
ろ過モジュール10において、正浸透膜13は、半透膜層13bと、半透膜層13bを支持する多孔質の支持層13aと、を有する複合半透膜である。そのため、正浸透膜13は、比較的高い物理的強度を有し、耐久性に優れる。これにより、長期間に亘りろ過モジュール10を用いることが可能である。
【0099】
また、正浸透膜13は、管状である。そのため、ろ過モジュール10の被処理水およびドローソリューションの収容量に対する正浸透膜13の表面積を、平膜等と比べて大きくすることができる。これにより、より多くの被処理水をろ過することができるため、効率よく正浸透作用を生じさせることが可能である。
【0100】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るろ過モジュールの運転方法について説明する。本実施形態に係るろ過モジュールの運転方法は、基本的に上述の第1の実施形態と同様に実施されるが、ドローソリューションにも気体が供給される点で異なっている。以下、第1の実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0101】
図3に示すように、第2の実施形態で用いられるろ過装置1の気体供給手段50は、副気体配管53をさらに備えている。副気体配管53は、一端がドローソリューション配管42のろ過モジュール10側の端部とドローソリューションポンプ41が設けられた部分との間に接続されており、他端が気体配管52に接続されている。
【0102】
制御部70は、圧縮機51による被処理水への気体の供給の開始および停止の動作を制御するとともに、気体配管52に設けられた不図示のバルブの開度を調整するだけでなく、圧縮機51によるドローソリューションへの気体の供給の開始および停止の動作を制御するとともに、副気体配管53に設けられた不図示のバルブの開度を調整し、ドローソリューションへの気体の供給量を制御することも可能である。また、制御部70は、被処理水への気体の供給とドローソリューションへの気体の供給とを独立して制御することが可能である。また、ドローソリューションに気体を供給しても、ドローソリューションと被処理水との間で正浸透作用が生じる圧力差が確保されるように、ドローソリューションおよび被処理水への気体の供給量、被処理水ポンプ31から被処理水に加えられる圧力、ならびにドローソリューションポンプ41からドローソリューションに加えられる圧力が設定されている。
【0103】
第2の実施形態では、正透過運転中において、ドローソリューションにも気体が供給される。ドローソリューションは、膜ファウラントを含んでいてもよく、ドローソリューションへの気体の供給は、被処理水への気体の供給と同様に、連続して行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。また、ドローソリューションへの気体の供給のタイミングおよび気体の供給量は、被処理水およびドローソリューションに含まれる膜ファウラントの量に応じて、独立して調整してもよい。被処理水およびドローソリューションに含まれる膜ファウラントが多く、膜ファウリングが発生しやすい場合には、気体の供給頻度および供給量を増やすことが好ましい。
【0104】
正浸透運転が可能であるろ過モジュール10は、排水の濃縮や食品の濃縮等の用途において、膜ファウラントの濃度が高い液体または粘度が高い液体を、被処理水またはドローソリューションとして使用することが想定される。ドローソリューションにも気体を供給することにより、このような用途において正浸透膜のドローソリューション側でも膜ファウリングの洗浄効果または抑制効果を得ることができ、効率よく正浸透運転を行うことが可能であると考えられる。
【0105】
[変形例]
(ろ過モジュールの変形例)
図4は、上記の実施形態の変形例に係る平膜型のろ過モジュールの模式図である。上記実施形態に係るろ過モジュールの運転方法において、平膜型のろ過モジュール10を使用してもよい。
【0106】
平膜型のろ過モジュール10は、ケース11と、ケース11の内部に配置された平膜型の正浸透膜13と、を有する。ケース11は、互いに向かい合う一対の第1の側板11hおよび第2の側板11iと、第1の側板11hおよび第2の側板11iの周縁同士を接続する筒部11jと、を有する。ケース11の内部には、互いに向かい合う一対の第1の側板11hおよび第2の側板11iを除き、筒部11jの内周面の全体に亘って固定部材12が設けられている。正浸透膜13は、第1の側板11hおよび第2の側板11iに平行に、固定部材12に正浸透膜13の外周全体が支持されるように配置されている。すなわち、ケース11内の空間は、固定部材12と正浸透膜13によって、正浸透膜13に対して一方側に位置する第1の空間T1と正浸透膜13に対して他方側に位置する第2の空間T2と、に仕切られている。正浸透膜13の支持層13aは第1の空間T1側、半透膜層13bは第2の空間T2側に配置されている。
【0107】
また、ケース11には、第1の空間T1に開口するように第3のポート11cおよび第4のポート11dが設けられており、第2の空間T2に開口するように第1のポート11aおよび第2のポート11bが設けられている。平膜型のろ過モジュール10を用いても、上記実施形態に係るろ過モジュール10の運転方法を実施することができる。
【0108】
(正浸透膜の変形例)
正浸透膜13は、管状、平膜状のいずれの形状とも、乾燥すると透水性が低下し、ろ過性能が低下する。正浸透膜13の水との接触角が90°以上であると、被処理水またはドローソリューションに導入された気体と接触した部分において正浸透膜13が乾燥するおそれがある。このような乾燥に起因する正浸透膜13の透水性の低下を抑制するため、正浸透膜13の表面は、水との接触角が90°未満であることが好ましく、85°以下がより好ましく、80°以下が最も好ましい。被処理水にのみ気体を供給する場合には、正浸透膜13の被処理水に接触する側の面のみ水との接触角が上記角度を満たせばよい。また、上記角度は、正浸透膜13が正浸透作用を生じる前の時点で満たしていればよく、正浸透作用中にも満たしていることが好ましい。
【0109】
正浸透膜13の水との接触角は、支持層13a、半透膜層13bのいずれも親水性樹脂を用いて親水化された材料を用いることにより上記角度を満たすものとすることができる。正浸透膜13の水との接触角は、後述する実施例に記載するように所定の測定装置を用いて測定することができる。
【0110】
支持層13aは、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホンおよびセルローストリアセテートの少なくとも1種からなるものが好ましい。この場合、正浸透膜13は、優れた耐圧性能を有するため、長期間に亘りろ過モジュール10を使用することが可能である。
【0111】
上記のろ過モジュールの運転方法において、半透膜層13bは、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含むものが好ましい。この場合、優れた水透過性能と脱塩性能とを両立した正浸透膜13を得ることができる。
【0112】
また、半透膜層13bが単独で、十分な強度を有している場合には、支持層13aと組み合わせず、半透膜層13b単独で正浸透膜13として使用してもよい。例えば、三酢酸セルロースを用いる場合には、三酢酸セルロースは、支持層13aを使用しなくても十分な強度を有しているため、単独の使用が可能である。
【0113】
(その他の変形例)
以上の説明では、ろ過モジュール10内の正浸透膜13の支持層13a側の空間を第1の空間T1として被処理水を流入させ、半透膜層13b側の空間を第2の空間T2としてドローソリューションを流入させる例について説明した。しかし、正浸透膜13の支持層13a側の空間を第2の空間T2としてドローソリューションを流入させ、半透膜層13b側の空間を第1の空間T1として被処理水を流入させてもよい。この場合も、同様に正浸透運転を行うことが可能である。
【0114】
また、上記の実施形態では、被処理水ポンプ31およびドローソリューションポンプ41の両方が作動している状態で、気体供給手段50を用いた被処理水またはドローソリューションへの気体の供給を行ったが、これに限られない。例えば、正浸透作用が生じている状態であれば、被処理水ポンプ31およびドローソリューションポンプ41の少なくとも一方が停止した状態において気体の供給を行ってもよい。
【0115】
また、以上の説明では、ろ過装置1において、制御部70を用いて被処理水供給手段30、ドローソリューション供給手段40、および気体供給手段50を制御する例について説明した。しかし、ろ過装置1から制御部70を省略し、使用者が被処理水供給手段30、ドローソリューション供給手段40、および気体供給手段50をそれぞれ手動で制御してもよい。
【実施例】
【0116】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例により制限されるものではなく、前後記の趣旨に適合する範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に包含される。
【0117】
本発明者らは、本発明のろ過モジュールの運転方法の試験として、ろ過モジュールを使用して膜ファウリングの洗浄試験および抑制試験を行った。
【0118】
ろ過モジュールは、中空糸膜型の両端支持タイプとした。ろ過モジュールのケースは内径10mmのナイロン製チューブを用い、ケース内部をエポキシ樹脂からなる固定部材で封止し、固定部材は正浸透膜の端部が開放されるように設けた。
【0119】
正浸透膜として、多孔質の中空糸状の支持層と、支持層の外周面に形成された半透膜層と、を有する複合半透膜を用いた。正浸透膜の外径は1000μm、内径は600μmであった。ろ過モジュールは、正浸透膜を5本有し、ろ過モジュールにおける各正浸透膜の有効長(ろ過に有効な部分)は10cmであり、膜面積(外周面の有効長部分の面積)の合計は0.00157m2であった。
【0120】
正浸透膜の水との接触角は次の方法で測定した。半透膜層については、試験を行う前の正浸透膜の状態で測定し、支持層については半透膜層が形成される前の中空糸状の状態で測定した。正浸透膜または中空糸状の半透膜層の外周面に水滴を滴下し、その瞬間の画像を撮影した。そして、水滴表面が当該外周面に接する場所における、水滴表面と外周面とのなす角を測定した。この角を、正浸透膜と水との接触角とした。測定装置としては、協和界面科学株式会社製のDrop Master 700を用いた。
【0121】
被処理水は、浸透圧が10barの下水道水とした。ドローソリューションは、浸透圧50bar、濃度2.0M(2.0mol/L)のNaCl水溶液を用いた。
【0122】
これらの液体を、それぞれポンプを用いて循環させ、これらの液体の浸透圧差を駆動力として正浸透運転を行った。正浸透膜の外側(半透膜層側)における液体の流速は29cm/sの膜面線速、正浸透膜の内側(支持層側)における液体の流速は12cm/sの膜面線速とした。液体の流動方向は、正浸透膜の内側と外側とで一致させた。
【0123】
正浸透膜を介した被処理水からドローソリューションへの水の透過速度(以下単に「水の透過速度」ともいう。)は、次の方法で測定した。ドローソリューションの重量の時間変化を測定し、この測定結果を被処理水からドローソリューションに移動した水の重量の時間変化とみなし、水の透過速度を算出した。具体的には、ドローソリューションの重量を3分毎に計測し、水の比重を1として、使用した正浸透膜の膜面積1m2当たり、1時間当たりの被処理水からドローソリューションへの水の移動量を算出し、水の透過速度JwFO[LMH]とした。JwFOの単位「LMH」は、「L/m2/h」すなわち「L/(m2・h)」を意味する。
【0124】
(実施例1)
実施例1では、正浸透膜として、支持層がポリフッ化ビニリデン、半透膜層がポリアミドからなるものを用いた。支持層および半透膜層のいずれも親水化を行っていないものを用いた。支持層の水との接触角は90°であり、半透膜層の水との接触角は70°であった。
【0125】
正浸透膜の外側(半透膜層側)に被処理水、正浸透膜の内側(支持層側)にドローソリューションを流した。液体に供給する気体はエア(空気)とし、正浸透膜の外側の被処理水にエアを供給した。すなわち、正浸透膜の外側を、被処理水を収容する第1の空間、正浸透膜の内側を、ドローソリューションを収容する第2の空間とし、第1の空間の被処理水にエアを供給した。実施例1の第1の空間と第2の空間の配置は、
図2に示す上述の第1の実施形態とは逆である。
【0126】
エアの供給は、正浸透運転開始から30分毎に30秒間行った。正浸透運転は120分行い、エアの供給は、ポンプによる液体の流動を止めることなく4回行った。
【0127】
その結果、エアを供給すると、正浸透膜の外側表面に蓄積した、被処理水に含まれる膜ファウラントが剥離する様子が目視で確認できた。また、
図5に示すように、膜ファウラントの蓄積により低下した水の透過速度(JwFO)が回復することも確認できた。4回のエア供給のそれぞれにおいて水の透過速度は初期状態の約90%レベルまで同等に回復した。
【0128】
なお、このように、膜ファウリングの洗浄効果または抑制効果を得ることが可能な圧力でエアを供給した場合であっても、正浸透膜を損傷させないことが確認された。以下の実施例でも同様である。
【0129】
(実施例2)
実施例2では、正浸透運転開始から終了まで停止することなく被処理水へのエアの供給を行った。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
【0130】
その結果、
図6に示すように、水の透過速度(JwFO)の低下が抑制され、安定した水の透過速度が得られた。これは、正浸透膜への膜ファウラントの蓄積すなわち膜ファウリングが抑制されたためと考えられる。
【0131】
(比較例1)
比較例1では、被処理水およびドローソリューションへのエアの供給を全く行わなかった。それ以外の条件は、実施例1と同様とした。
【0132】
その結果、
図7に示すように、時間の経過とともに水の透過速度(JwFO)が低下し、120分後には初期状態の約15%レベルまで大幅に低下することが確認できた。比較例1との対比により、実施例1および実施例2のろ過モジュールの運転方法が膜ファウリングの洗浄または抑制に有効であることが確認できた。
【0133】
(比較例2)
比較例2では、エアの供給を正浸透膜の外側(半透膜層側)の被処理水へは行わず、正浸透膜の内側(支持層側)のドローソリューションに行った。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
【0134】
その結果、正浸透運転の開始から一定時間が経過した後、急激な透過速度の低下が生じた。これは、エアを供給した正浸透膜の内側(支持層)の水との接触角が90°であり、エアの供給によって正浸透膜が時間経過とともに部分的に乾燥し、ドローソリューションが正浸透膜の内側表面(支持層)に接触しない部分が生じたこと、および被処理水へのエアの供給を行わなかったため、正浸透膜の外側表面(半透膜層)に膜ファウリングが発生したことによるものと考えられる。
【0135】
(実施例3)
実施例3では、正浸透膜として、支持層が親水性樹脂を用いて親水化されているポリフッ化ビニリデン、半透膜層が親水化されていないポリアミドからなるものを用いた。支持層の水との接触角は40°であり、半透膜層の水との接触角は70°であった。
【0136】
また、エアの供給は、正浸透膜の外側(半透膜層側)の被処理水および正浸透膜の内側(支持層側)のドローソリューションに行った。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
【0137】
その結果、エアを供給すると、正浸透膜の外側表面に蓄積した被処理水の膜ファウラントが剥離する様子が目視で確認できた。また、膜ファウラントの蓄積により低下した水の透過速度が回復することも不図示のデータにより確認できた。
【0138】
ドローソリューションのみにエアを供給した比較例2では、水の透過速度についてのデータが得られなかったのに対して、被処理水とドローソリューションの両方にエアを供給した実施例3で水の透過速度についてのデータが得られたのは、支持層が親水化され、水との接触角が40°であり、エアを供給しても支持層に乾燥する部分が生じず、正浸透膜の内側表面(支持層)全体にドローソリューションが接触したためと考えられる。
【0139】
(実施例4)
実施例4では、正浸透膜として、実施例3と同じものを使用した。また、正浸透膜の外側(半透膜層側)にドローソリューション、正浸透膜の内側(支持層側)に被処理水を流した。エアの供給は、正浸透膜の内側の被処理水に行った。すなわち、正浸透膜の内側を、被処理水を収容する第1の空間、正浸透膜の外側を、ドローソリューションを収容する第2の空間とし、第1の空間の被処理水にエアを供給した。実施例4の第1の空間と第2の空間の配置は、
図2に示す上述の第1の実施形態と同様である。それ以外の条件は実施例1と同様とした。
【0140】
その結果、エアを供給すると、正浸透膜の内側表面(親水化された支持層の内周面)に蓄積した被処理水の膜ファウラントが剥離する様子が目視で確認できた。また、膜ファウラントの蓄積により低下した水の透過速度が回復することも確認できた。この結果から、複合半透膜の支持層側に被処理水、半透膜層側にドローソリューションを流した場合でも、膜ファウリングの洗浄効果が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0141】
10 :ろ過モジュール
13 :正浸透膜
13a:支持層
13b:半透膜層
T1 :第1の空間
T2 :第2の空間