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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡及び設定方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 10/06 20100101AFI20230920BHJP
   G01Q 20/02 20100101ALI20230920BHJP
【FI】
G01Q10/06
G01Q20/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020047892
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021148568
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】繁野 雅次
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩令
(72)【発明者】
【氏名】鹿倉 良晃
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 邦人
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168400(JP,A)
【文献】特開2018-165690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0146380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーのプローブにより試料の表面を走査する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記カンチレバー及び前記試料を、少なくともZ方向において相対的に移動可能な移動駆動部と、
前記移動駆動部を制御することで前記カンチレバーと前記試料とを所定の速度で接近させる接近動作を実行し、前記プローブと前記試料とが接触したと判定した場合に前記接近動作を停止させる制御装置と、
前記試料に加えることが許容される力の最大値でありユーザにより入力された第1の力と、前記プローブが前記試料表面に接触したと判定されたときに前記カンチレバーに加わる力でありユーザにより入力された第2の力とを記憶する記憶部と、
を備え、
前記所定の速度は、前記第1の力と前記第2の力とに基づいて予め算出され、
前記所定の速度は、前記プローブと前記試料との接触によって前記試料に加えられる力が予め設定された第1の力を超えないように設定される、
走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記所定の速度は、少なくとも、前記接近動作を停止させる制御が実行されてから接近動作が停止するまでのタイムラグに基づき設定される、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記記憶部は、前記表面における一以上の箇所と前記プローブとの間の吸着力を直接的又は間接的に計測された一以上の前記吸着力に基づく所定の距離を記憶し、
前記制御装置は、前記移動駆動部を制御し、前記カンチレバーと前記試料とを相対的に、前記記憶部に記憶された所定の距離だけ引離すことで前記プローブと前記試料とを離間させる
請求項1又は請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記制御装置は、前記プローブと前記試料との接触を検出した場合には前記接近動作を停止させ、
所定の定数をC、前記第1の力をFmax、前記カンチレバーのバネ定数をK、前記制御装置が前記接触を検出してから前記接近動作が停止するまでのタイムラグをT、前記接触が検出されたときに前記カンチレバーに加わる力である第2の力をFrefとする場合において、前記所定の速度は、以下の式で表される速度Vに基づいて設定される、請求項1又は請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
V=C×((Fmax-Fref)/K)/T
【請求項5】
前記制御装置は、
前記プローブと前記試料とを接触させてから前記プローブと前記試料とを引離す引離し動作を実行する制御部と、
前記引離し動作中において、前記プローブと前記試料とが離間したか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記プローブと前記試料とが離間したと判定された場合において前記カンチレバーの引き離しを指示した距離に基づいて前記吸着力を計測し、計測した前記吸着力に基づいて、前記所定の距離を設定する設定部と、
を備える、
請求項3に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
カンチレバーに取り付けられたプローブと試料とが接触するまで前記カンチレバーと前記試料とを所定の速度で接近させる接近動作と、前記接近動作後に前記カンチレバーと前記試料とを相対的に所定の距離だけ引離す引離し動作と、を実行可能な走査型プローブ顕微鏡の前記所定の速度及び前記所定の距離の設定方法であって、
前記試料に加えることが許容される力の最大値でありユーザにより入力された第1の力と、前記プローブが前記試料表面に接触したと判定されたときに前記カンチレバーに加わる力でありユーザにより入力された第2の力とに基づき、前記接近動作における前記所定の速度を算出する第1設定ステップであって、前記所定の速度は前記プローブと前記試料との接触によって前記試料に加えられる力が予め設定された第1の力を超えないように設定される第1設定ステップと、
前記試料の表面における一以上の箇所と前記プローブとの間の吸着力を直接的又は間接的に計測し、計測した一以上の前記吸着力に基づいて、前記所定の距離を設定する第2設定ステップと、
の少なくとも一方を含む設定方法。
【請求項7】
前記第1の力を設定させるためのユーザインタフェースを表示装置に表示させる表示制御部と、
前記プローブと前記試料との接触によって前記試料に加えられる力が、前記ユーザインタフェースにおいて設定された前記第1の力を超えないように前記所定の速度を設定する設定部と、
を有する請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査型プローブ顕微鏡及び設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンチレバーの先端に形成されたプローブを試料に接触させて連続的又は間欠的にプローブを走査させることで、試料表面の形状を測定する走査型プローブ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
前記試料表面の形状の測定時間は、試料表面に対してプローブを接近させる速度である接近速度や試料表面に接触しているプローブを引離す距離である引離し距離に依存する。接近速度をできるだけ速くすること及び引離し距離をできるだけ短くすること、の少なくともいずれかは、測定時間の短縮化に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-33373号公報
【文献】特開2011-209073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接近速度の設定によっては、プローブは所定の位置で停止できず試料表面を押し込みすぎてしまう可能性がある。また、引離し距離の設定によってはプローブと試料とが離れない可能性がある。したがって、接近速度や引離し距離の設定は、大きなマージンを含めてユーザによって設定される。そのため、現在において、測定時間を短縮できていないのが実情である。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、測定時間の短縮化に寄与する走査型プローブ顕微鏡及び設定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の一態様は、カンチレバーのプローブにより試料の表面を走査する 走査型プローブ顕微鏡であって、前記カンチレバー及び前記試料を、少なくともZ方向において 相対的に移動可能な移動駆動部と、前記移動駆動部を制御することで前記カンチレバーと前記試料とを所定の速度で接近させる接近動作を実行し、前記プローブと前記試料とが接触したと判定した 場合に前記接近動作を停止させる制御装置と、前記試料に加えることが許容される力の最大値でありユーザにより入力された第1の力と、前記プローブが前記試料表面に接触したと判定されたときに前記カンチレバーに加わる力でありユーザにより入力された第2の力とを記憶する記憶部と、を備え、前記所定の速度は、前記第1の力と前記第2の力とに基づいて予め算出され、前記所定の速度は、前記プローブと前記試料との接触によって前記試料に加えられる力が予め設定された第1の力を超えないように設定される、走査型プローブ顕微鏡である。
【0008】
(2)本開示の一態様は、前記記憶部は、前記表面における一以上の箇所と前記プローブとの間の吸着力を直接的又は間接的に計測された一以上の前記吸着力に基づく所定の距離を記憶し、前記制御装置は、前記移動駆動部を制御し、前記カンチレバーと前記試料とを相対的に、前記記憶部に記憶された所定の距離だけ引離すことで前記プローブと前記試料とを離間させる上述した(1)に記載の走査型プローブ顕微鏡である。
【0009】
(3)本開示の一態様は、カンチレバーに取り付けられたプローブと試料とが接触するまで前記カンチレバーと前記試料とを所定の速度で接近させる接近動作と、前記接近動作後に前記カンチレバーと前記試料とを相対的に所定の距離だけ引離す引離し動作と、を実行可能な走査型プローブ顕微鏡の前記所定の速度及び前記所定の距離の設定方法であって、前記試料に加えることが許容される力の最大値でありユーザにより入力された第1の力と、前記プローブが前記試料表面に接触したと判定されたときに前記カンチレバーに加わる力でありユーザにより入力された第2の力とに基づき、前記接近動作における前記所定の速度を算出する第1設定ステップであって、前記所定の速度は前記プローブと前記試料との接触によって前記試料に加えられる力が予め設定された第1の力を超えないように設定される第1設定ステップと、前記試料の表面における一以上の箇所と前記プローブとの間の吸着力を直接的又は間接的に計測し、計測した一以上の前記吸着力に基づいて、前記所定の距離を設定する第2設定ステップと、の少なくとも一方を含む設定方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aの概略構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係る斜面を有する試料Sとカンチレバー1との斜視図である。
図3】本実施形態に係る接近速度Vの設定方法の流れを示す図である。
図4】本実施形態に係る第1の力FmaxとFrefとを設定するためのユーザインタフェースの一例を示す図である。
図5】本実施形態に係る第1の力FmaxとFrefとを設定するためのユーザインタフェースの一例を示す図である。
図6】本実施形態に係る退避距離Lの設定方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡を、図面を用いて説明する。
【0012】
本実施形態の走査型プローブ顕微鏡Aは、プローブを試料表面に接触させて試料表面を走査することで試料表面の形状を測定する。例えば、走査型プローブ顕微鏡Aは、間欠的測定方法を用いてプローブで試料表面を走査する。間欠的測定方法は、試料表面にプローブを接触させて、その試料表面をプローブで間欠的に走査する方法である。例えば、間欠的測定方法は、Sampling Intelligent Scanと呼ばれ得る。ただし、走査型プローブ顕微鏡Aは、間欠的測定方法に限定されない。走査型プローブ顕微鏡Aは、プローブと試料間との何らかの相互作用を一定に保ちながら、試料表面において連続的にプローブを走査させることで、試料表面の形状を測定してもよい。
【0013】
例えば、走査型プローブ顕微鏡Aは、プローブと試料とを常に接触させながら試料の表面を走査することで試料表面の形状を測定してもよい。例えば、走査型プローブ顕微鏡Aは、プローブと試料とを周期的に接触させながら試料の表面を走査することで試料表面の形状を測定してもよい。
【0014】
図1は、本実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aの概略構成の一例を示す図である。図1に示すように、カンチレバー1、移動駆動部2、変位検出部3、制御装置4、入力装置5及び表示装置6を備えている。
【0015】
カンチレバー1は、先端にプローブ1aを備える。カンチレバー1は、その基端が固定され、先端が自由端となっている。カンチレバー1は、小さいバネ定数Kを備える弾性レバー部材であり、先端のプローブ1aと試料Sの表面(以下、「試料表面」という。)が接触すると、先端のプローブ1aが試料表面を押圧する押し付け力に応じたたわみが生じる。
【0016】
カンチレバー1は、先端のプローブ1aと試料表面とが接触した場合に、その試料表面に傾きがある場合には、その試料表面の傾きと、先端のプローブ1a及び試料表面の接触点である支点の支点反力と、に応じたねじれやたわみが生じる。
【0017】
移動駆動部2は、プローブ1a及び試料Sを3次元方向に対して相対的に移動可能な微動機構である。移動駆動部2は、Z方向駆動装置21及びXYスキャナー22(スキャナー部)を備える。
【0018】
Z方向駆動装置21上には、試料台Hが載置されている。この試料台Hには、カンチレバー1のプローブ1aに対向配置するように試料Sが載置されている。Z方向駆動装置21は、試料台Hを水平面に垂直な方向(Z方向)に移動させる。例えば、Z方向駆動装置21は、圧電素子を有するスキャナーである。Z方向駆動装置21は、制御装置4からの制御により、試料台HをZ方向に移動させることで、試料表面をプローブ1aに接近させる動作、又はプローブ1aから試料Sを引き離す方向に動作させる動作を行う。
【0019】
XYスキャナー22は、制御装置4からの制御により、プローブ1aと試料Sとを、XY方向に対して相対的に移動させる。なお、図1において試料台Hの表面に平行な面は水平面であり、ここでは直交の2軸X,YによりXY平面と定義される。例えば、XYスキャナー22は、圧電素子である。Z方向駆動装置21及びXYスキャナー22は、相対的に3次元形状観察の走査が可能な構成であれば、配置関係は問わない。つまり、カンチレバー走査でも試料走査でも良い。
【0020】
変位検出部3は、カンチレバー1のたわみ量やねじれ量を検出する。例えば、変位検出部3は、光てこ式を用いてカンチレバー1のたわみ量とねじれ量とを検出する。
【0021】
変位検出部3は、光照射部31及び光検出部32を備える。
【0022】
光照射部31は、カンチレバー1の裏面(第1の面)F1に形成された図示しない反射面に対してレーザ光L1を照射する。ここで、裏面(第1の面)F1とは、カンチレバー1において、プローブ1aが配置されている表面(第2の面)F2と反対側の面である。
【0023】
光検出部32は、上記反射面で反射されたレーザ光L2を受光する。光検出部32は、当該反射面で反射されたレーザ光L2を受光する4分割の受光面33を備える。カンチレバー1の反射面で反射されたレーザ光L2は、光検出部32の4分割された複数の受光面33に入射する。なお、例えば、カンチレバー1の反射面で反射されたレーザ光L2が受光面33の中心付近に入射するように、光検出部32の位置が調整される。
【0024】
以下に、本実施形態に係るカンチレバー1のたわみ量とねじれ量との検出方法について、図1及び図2を用いて、説明する。図2は、斜面を有する試料Sと、カンチレバー1との斜視図である。
【0025】
カンチレバー1は、プローブ1aと試料表面とが接触した場合にZ方向とY方向のいずれか一方、又は両方に変位が生じる。本実施形態において、Z方向に生じるカンチレバー1の変位をたわみ量と称し、Y方向に生じるカンチレバー1の変位をねじれ量と称する。例えば、初期条件では、プローブ1aに力が加わっていない状態で反射されたレーザ光L2の光検出部32の受光面33における入射スポット位置を、受光面33の中心位置Oとする。なお、プローブ1aに力が加わっていない状態とは、例えば、プローブ1aと試料表面とが接触していないため、接触時の力によるカンチレバーの無変形がない状態である。
【0026】
コンタクトモードにおいて、プローブ1aと試料表面とが接触すると、プローブ1aに力が加わることで、カンチレバー1にたわみ量やねじれ量が生じる。したがって、たわみ量やねじれ量が生じたカンチレバー1の反射面で反射されたレーザ光L2の反射スポット位置は、その中心位置Oから変位する。そのため、走査型プローブ顕微鏡Aは、光検出部32の受光面33における当該スポット位置の移動方向を捉えることによってプローブ1aに加わった力の大きさと方向を検出可能となる。
【0027】
例えば、図1において、カンチレバー1にねじれ量が発生した場合には、光検出部32の受光面33においてα方向のスポット位置の変化を捉えることができる。また、カンチレバー1にたわみ量が発生した場合には、受光面33でβ方向のスポット位置の変化を捉えることができる。
【0028】
ここで、中心位置Oからのスポット位置の変化量は、ねじれ量やたわみ量に依存する。
具体的には、カンチレバー1が+Z方向にたわんだ場合には、光検出部32の受光面33におけるレーザ光L2の反射スポットは、+β方向に変化する。また、カンチレバー1が-Z方向にたわんだ場合には、光検出部32の受光面33におけるレーザ光L2の反射スポットは、-β方向に変化する。一方、カンチレバー1が+Y方向にねじれ量が発生した場合には、光検出部32の受光面33におけるレーザ光L2の反射スポット位置は、+α方向に変化する。また、カンチレバー1が-Y方向にねじれ量が発生した場合には、光検出部32の受光面33におけるレーザ光L2の反射スポットは、-α方向に変化する。
【0029】
光検出部32は、受光面33の±Z方向におけるレーザ光L2の反射スポット位置に応じた第1検出信号を制御装置4に出力する。すなわち、第1検出信号は、カンチレバー1のたわみ量に応じたDIF信号(たわみ信号)である。また、光検出部32は、受光面33の±Y方向におけるレーザ光L2の反射スポット位置に応じた第2検出信号を制御装置4に出力する。すなわち、第2検出信号は、カンチレバー1のねじれ量に応じたFFM信号(ねじれ信号)である。
【0030】
次に、本実施形態に係る制御装置4について、説明する。図1に示すように、制御装置4は、判定部10、制御部11、測定部12、第1設定部13、第2設定部14及び表示制御部15を備える。
【0031】
判定部10は、光検出部32から出力される第1検出信号及び第2検出信号の少なくともいずれかに基づいて、プローブ1aが試料表面に接触したか否かを判定する。なお、以下の説明において、プローブ1aが試料表面に接触したか否かを判定する処理を「接触判定処理」と称する。例えば、判定部10は、光検出部32から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲を超えた場合に、プローブ1aが試料Sの表面に接触したと判定してもよい。例えば、判定部10は、光検出部32から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲を超えた場合に、プローブ1aが試料Sの表面に接触したと判定してもよい。
【0032】
判定部10は、光検出部32から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ1aが試料表面に対して離間したか否かを判定する。なお、以下の説明において、プローブ1aが試料表面に対して離間したか否かを判定する処理を「離間判定処理」と称する。
【0033】
制御部11は、移動駆動部2を制御することでプローブ1aと試料Sとの相対的な移動量を制御する。一例として、走査型プローブ顕微鏡Aは、試料表面における、予め設定された複数の測定点のみにおいて、プローブ1aを接触させることで、試料表面を間欠的に走査する。制御部11は、カンチレバー1と試料Sとを所定の速度である接近速度Vで接近させる接近動作を実行する。接近動作中において接触判定処理が実行され、制御部11は、プローブ1aが試料表面に接触したと判定された場合には、接近動作を停止させる。制御部11は、接近動作を停止させた後において、カンチレバー1と試料Sとを相対的に所定の距離である退避距離Lだけ引離すことでプローブ1aと試料Sとを離間させる引離し動作を実行する。制御部11は、予め設定された複数の測定点のそれぞれにおいて、接近動作と引離し動作とを行うことで試料表面を間欠的に走査する。接近速度V及び退避距離Lは、予め設定される。
【0034】
本実施形態の接近動作及び引離し動作の一例を説明する。制御部11は、プローブ1aと試料表面とを接触させるための接触動作信号をZ方向駆動装置21に出力する。Z方向駆動装置21は、接触動作信号を受信すると、予め設定された接近速度Vで試料Sを上昇させる。これにより、カンチレバー1と試料表面とが接近する。判定部10は、接近動作中において、接触判定処理を実行する。制御部11は、接触判定処理によりプローブ1aが試料表面に接触したと判定された場合には、Z方向駆動装置21に対する接触動作信号の出力を停止する。これにより、Z方向駆動装置21は、試料Sを上昇させる接近動作を停止させる。接近動作は、カンチレバー1と試料Sとが接近速度Vで接近させる動作であればよく、予め設定された接近速度Vでカンチレバー1を下降させる動作であってもよい。接近動作は、カンチレバー1を下降させ、且つ、試料Sを上昇させる動作であってもよい。
【0035】
制御部11は、接触判定処理によりプローブ1aが試料表面に接触したと判定された場合には、プローブ1aから試料表面を引き離すため引離し動作信号をZ方向駆動装置21に出力する。Z方向駆動装置21は、引離し動作信号を受信すると試料Sを下降させる。これにより、制御部11は、試料Sをプローブ1aから引き離す方向に退避距離Lだけ動作させて、試料表面がプローブ1aに接触している状態から退避させる。
【0036】
制御部11は、XYスキャナー22に駆動信号を出力することで、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ1aを移動させる。
【0037】
測定部12は、プローブ1aと試料表面とが接触している状態で、試料表面の形状を測定する。例えば、測定部12は、接触判定処理によりプローブ1aが試料表面に接触したと判定された場合には、接近動作において試料Sがプローブ1aに対して相対的に移動した距離を測定する。これにより、測定部12は、試料Sの表面形状を測定する。例えば、測定部12は、プローブ1aと試料表面とが接触している状態における接触動作信号の電圧値に基づいて相対距離を算出してもよい。また、測定部12は、試料台Hの変位をセンサーにより直接計測するものであってもよい、試料台Hの高さをセンサーにより直接計測するものであってもよい。
【0038】
第1設定部13は、試料Sの表面形状が測定される前において、接近速度Vを設定する。第1設定部13は、接近動作が停止された際に、プローブ1aと試料Sとの接触によって試料Sに加えられる力が予め設定された第1の力Fmaxを超えないように設定される。第1の力Fmaxは、試料Sに加えることが許容される力の最大値である。第1の力Fmaxの情報は、予め制御装置4において格納されている。第1の力Fmaxは、例えば試料Sの材質、試料Sに対して許されるダメージ等に基づいて決定され得る。例えば、第1の力Fmaxの情報は、入力装置5によって制御装置4に対して出力される。
【0039】
第2設定部14は、試料Sの表面形状が測定される前において、退避距離Lを設定する。第2設定部14は、試料Sの表面における一以上の箇所とプローブ1aとの間の吸着力Fadを直接的又は間接的に計測する。第2設定部14は、計測した一以上の吸着力Fadに基づいて、退避距離Lを設定する。
【0040】
表示制御部15は、第1の力Fmaxと第2の力Frefとを設定するためのユーザインタフェースを有する設定画面100を表示装置6に表示させる。
【0041】
入力装置5は、制御装置4に接続されている。入力装置5は、ユーザからの入力を受け付けて、当該入力に係る情報(以下、「入力情報」という。)を制御装置4に出力する。例えば、入力装置5は、タッチパネル、キーボード等に代表されるハードウェアキー、マウス等のポインティングデバイスである。前記入力装置は、マイク等の音声による操作入力を受け付けてもよい。
【0042】
表示装置6は、制御装置4に接続されている。表示装置6は、制御装置4から出力される情報を表示画面に表示する。
【0043】
以下において、第1設定部13における接近速度Vの設定方法を説明する。
【0044】
第1設定部13は、以下の式(1)で表される速度Vxに基づいて設定される。第1設定部13は、以下の式で表される速度Vxを接近速度Vに設定してもよい。第1設定部13は、以下の式で表される速度Vx以下の任意の値を接近速度Vに設定してもよい。
【0045】
Vx=C×((Fmax-Fref)/K)/T…(1)
【0046】
Cは所定の定数である。Kは、カンチレバー1のバネ定数である。Tは、接触判定処理によってプローブ1aが試料表面に接触したと判定されてから接近動作が停止されるまでのタイムラグである。第2の力Frefは、接触判定処理によってプローブ1aが試料表面に接触したと判定されたときにカンチレバー1に加わる力である。換言すれば、第2の力Frefは、接触判定処理によってプローブ1aが試料表面に接触したと判定されたときの押し付け力である。したがって、判定部10は、接触判定処理において、カンチレバー1に第2の力Frefが加わったときのたわみ量やねじれ量を検出することでプローブ1aが試料表面に接触したと判定している。
【0047】
例えば、移動駆動部2は圧電素子を用いたスキャナーを有している。圧電素子には不可避的な応答遅れが存在する。すなわち、当該圧電素子を用いて接近動作を行っている場合において、接近動作の停止(接近動作から直接引き離し動作に移行する場合を含む)を指示する信号を制御装置4から取得してから実際に停止するまでにおいてタイムラグを有する。このタイムラグの間も接近動作が継続されるため、最終的には、試料Sへのプローブ1aの押し付け力が第2の力Fref以上になり得る。よって、前記応答遅れを加味して接近速度Vを設定する必要があるが、現在においては、接近速度Vは、ユーザの経験に基づく判断等によって設定されている。したがって、接近速度Vは、最適な値に設定されていない場合がある。その結果、現在において、試料Sに過度な力が加えられることを防止しつつ、試料表面の形状を測定する測定時間を短縮化できていない。本実施形態の制御装置4は、移動駆動部2などによって発生する応答遅れを含むタイムラグTを加味して、押し付け力が予め設定された第1の力Fmaxを超えないように式(1)に基づいて設定する。これにより、制御装置4は、接近速度Vを最適な値に設定することができ、測定時間の短縮化に寄与することができる。タイムラグTは、移動駆動部2によって発生する応答遅れだけに限定されず、たとえば電子回路に起因する遅れ、検出系に起因する遅れ、制御系に起因する遅れ等の任意の遅れを含み得る。したがって、圧電素子が用いられていない場合等にも本実施形態により開示される思想を適用することができる。
【0048】
例えば、前述のように圧電素子の応答遅れがタイムラグTの主要因である場合、タイムラグTの間に接近速度Vは徐々に減少し0に近づく(この事象を「クリープ現象」ともいう)。一例においては、タイムラグTの間の接近速度Vは指数関数的に減少する。このように、Vが徐々に減少する場合、後述する「タイムラグTの間の接近速度Vが一定」の場合に比べて所定の定数Cを大きくすることができる。たとえば、この場合の所定の定数Cは0より大きく2以下に、好ましくは1より大きく2以下に設定されてよい。一方で、圧電素子の応答遅れが電子回路の応答遅れ等に比較して十分小さい場合、プローブ1aは一定速度で接近を続け、遅れて到達した停止指示を受けた瞬間にプローブ1aが停止するとみなすことができる。したがって、この場合、タイムラグTの間の接近速度Vは一定とみなすことができる。よって、この場合の所定の定数Cは1ちょうど、0より大きく1以下に、もしくは、0.9以上1以下に設定されてよい。
【0049】
以下において、第2設定部14における退避距離Lの設定方法を説明する。
【0050】
第2設定部14は、試料Sの表面形状が測定される前において、試料Sの吸着力Fadを直接的又は間接的に測定する。第2設定部14は、測定した吸着力Fadよりも大きな力が発生するカンチレバー1のたわみ量を計算する。第2設定部14は、計算したたわみ量を退避距離Lとして設定する。吸着力は、試料Sの表面の各位置に依存して変化することがある。そこで、第2設定部14は、試料Sの表面の複数箇所において、吸着力Fadを計測してもよい。そして、第2設定部14は、計測した複数箇所における吸着力Fadのうち、最大値である最大吸着力Fadmaxを抽出する。第2設定部14は、抽出した最大吸着力Fadmaxよりも大きな値となるカンチレバー1のたわみ量を計算し、そのたわみ量を退避距離Lとして設定してもよい。
【0051】
第2設定部14は、計測した複数箇所における吸着力Fadに対して統計的な処理を実施してもよい。例えば、第2設定部14は、計測した複数箇所における吸着力Fadのばらつきを求め、そのばらつきを考慮して最大吸着力Fadmaxを求めてもよい。例えば、最大吸着力Fadmaxは、計測した複数箇所における吸着力Fadの平均値に対して3σ又は5σを加算した値である。σは、標準偏差である。第2設定部14は、以下に示す式(2)より退避距離Lを求めてもよい。
【0052】
L=Fadmax/K…(2)
【0053】
一例として、第2設定部14は、退避距離Lを設定するにあたって、制御部11に対して信号を出力して、プローブ1aと試料Sとを接触させてからプローブ1aと試料Sとを引離す引離し動作を実行させる。この引離し動作中において、判定部10は、離間判定処理を実行する。第2設定部14は、引離し動作中において、離間判定処理によってプローブ1aが試料表面に対して離間したと判定された場合には、離間されたと判定されたとき、又は離間されたと判定される直前の、カンチレバー1の引離しを指示した距離Lx(以下、引離し距離Lx)に基づき吸着力Fadを計測してもよい。第2設定部14は、引離し距離Lxに対してバネ定数Kを乗算することで力に変換することができる。引離し距離Lxは、カンチレバー1のたわみ量であってもよい。第2設定部14は、引離し距離Lx以上の値を退避距離Lに設定してもよい。例えば、第2設定部14は、引離し距離Lxに対して所定の定数Cを加算又は乗算した値を退避距離Lに設定してもよい。第2設定部14は、試料Sの表面の複数箇所のそれぞれにおいて、引離し距離Lxを計測してもよい。第2設定部14は、計測した複数箇所における引離し距離Lxのうち、最大値である最大引離し距離Lxmaxを抽出する。第2設定部14は、抽出した最大引離し距離Lxmaxよりも大きな値を退避距離Lとして設定してもよい。
【0054】
第2設定部14は、計測した複数箇所における引離し距離Lxに対して統計的な処理を実施してもよい。例えば、第2設定部14は、計測した複数箇所における引離し距離Lxのばらつきを求め、そのばらつきを考慮して最大引離し距離Lxmaxを求めてもよい。例えば、最大引離し距離Lxmaxは、計測した複数箇所における引離し距離Lxの平均値に対して3σ又は5σを加算した値である。
【0055】
退避距離Lは、プローブ1aを試料Sから離間させるために、カンチレバーのバネ定数と引離し距離Lxとの積により計算される力である。退避距離Lは、プローブ1aと試料Sとの間の吸着力より大きくなるように設定される必要がある。しかしながら、プローブ1aと試料Sとの間の吸着力は、試料表面の各位置に依存して変化する。そのため、最大吸着力の位置でも確実に引き離せるように、引離し距離Lは、ユーザらが経験に基づき余裕を持たせた値に設定されているのが実情である。したがって、予測を超えた大きな吸着力が発生する場合には、引離し距離Lが不足することとなり、プローブ1aと試料Sとが離間しない場合が起こり得る。本実施形態の制御装置4は、実際に吸着力を計測し、その吸着力の最大値を超える力が発生する引離し距離Lxを退避距離Lに設定する。これにより、制御装置4は、退避距離Lを最適な値に設定することができ、測定時間の短縮化にも寄与することができる。
【0056】
以下において、第1設定部13における接近速度Vの設定方法の流れを、図3を用いて説明する。
【0057】
表示制御部15は、第1の力Fmaxと第2の力Frefとを設定するためのユーザインタフェースである設定画面100を表示装置6に表示する(ステップS101)。図4は、設定画面100の一例を示す。設定画面100は、ユーザが入力装置5を操作することによって第1の力Fmaxを入力するための入力窓101を有している。設定画面100は、ユーザが入力装置5を操作することによって第2の力Frefを入力するための入力窓102を有している。設定画面100は、設定開始ボタン103を有している。ユーザは、入力窓101に対して第1の力Fmaxを入力し、入力窓102に対して第2の力Frefを入力する。そして、ユーザは、設定画面100において、入力装置5によって設定開始ボタン103を押下することにより、接近速度Vの設定を開始させることができる。
【0058】
設定開始ボタン103が押下されると、第1設定部13は、入力窓101に入力されている第1の力Fmax及び入力窓102に入力されている第2の力Frefを読み込む(ステップS102)。第1設定部13は、読み込んだ第1の力Fmax及び第2の力Frefを、式(1)に入力して速度Vxを演算する(ステップS103)。一例として、第1設定部13は、速度Vxを接近速度Vに設定する。これにより、第1設定部13は、タイムラグTの期間の間において、第1の力Fmaxから第2の力Frefを差し引いた力が試料Sに対して発生しない接近速度Vを設定することができる。
【0059】
設定画面100は、カンチレバー1の種類及びZ方向駆動装置21の種類を選択する選択画面を有してもよい。第1設定部13は、選択画面によってユーザに選択されたカンチレバー1の種類に応じてバネ定数Kを設定してもよい。第1設定部13は、選択画面によってユーザに選択されたZ方向駆動装置21の種類に応じてタイムラグTを設定してもよい。設定画面100は、図5に示すように、バネ定数Kを入力するための入力窓201を有してもよい。設定画面100は、図5に示すように、タイムラグTを入力するための入力窓202を有してもよい。設定画面100は、図5に示すように、定数Cを入力するための入力窓203を有してもよい。この場合には、第1設定部13は、ステップS102において、入力窓201に入力されているバネ定数K及び入力窓202に入力されているタイムラグTを更に読み込む。そして、第1設定部13は、読み込んだ第1の力Fmax、第2の力Fref、バネ定数K及びタイムラグTを、式(1)に入力して速度Vxを演算してもよい。
【0060】
以下において、第2設定部14における退避距離Lの設定方法の流れを、図6を用いて説明する。
【0061】
第2設定部14は、試料Sの表面形状が測定される前において、予め設定された試料表面における複数の測定箇所において、吸着力Fadを計測する。制御部11は、複数の測定箇所のうち、一つの測定箇所においてプローブ1aを接触させて(ステップS201)、引離し動作を実行する(ステップS202)。判定部10は、この引離し動作中において、離間判定処理を実行する。第2設定部14は、引離し動作中において、離間判定処理によってプローブ1aが試料表面に対して離間したと判定されたときのカンチレバー1と試料Sとの間の引離し距離Lxを吸着力Fadとして計測する(ステップS203)。制御装置4は、すべての測定箇所に対して吸着力Fadの計測が完了したか否かを判定する(ステップS204)。制御装置4は、すべての測定箇所に対して吸着力Fadの計測が完了していない場合には、吸着力Fadの計測が完了していない測定箇所の直上の位置にプローブ1aを移動させ(ステップS205)、ステップS201~ステップS203を実行する。
【0062】
制御装置4は、すべての測定箇所に対して吸着力Fadの計測が完了した場合には、すべての測定箇所の吸着力Fadに基づいて最大吸着力Fadmaxを演算する(ステップS206)。そして、制御装置4は、カンチレバー1において最大吸着力Fadmaxよりも大きな力を発生し得るたわみ量を退避距離Lとして設定する(ステップS207)。
【0063】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0064】
上記移動駆動部2は、チューブ型圧電素子であってもよいし、ボイスコイル型のモータであってもよい。また、Z方向駆動装置21は、積層型の圧電素子であってもよい。
【0065】
上記制御装置4は、カンチレバー1と試料Sとを接近速度Vで接近させる接近動作を実行する。ただし、プローブ1aと試料Sとの間の距離が所定値よりも大きい場合には、制御装置4は、接近速度Vよりも早い速度でカンチレバー1と試料Sと接近させてもよい。制御装置4は、プローブ1aと試料Sとの距離が所定値以下の場合には、第1設定部13で設定された接近速度Vで接近動作を実行してもよい。
【0066】
本実施形態の走査型プローブ顕微鏡Aは、第1設定部13及び第2設定部14の少なくともいずれかを有していればよい。走査型プローブ顕微鏡Aは、第1設定部13による接近速度Vの設定と、第2設定部14による退避距離Lの設定との少なくともいずれかを行うことで、測定時間を短縮化することができる。
【0067】
本実施形態の接近速度Vの設定方法は、プローブ1aを試料Sに接近させる動作を有するすべての走査型プローブ顕微鏡に対して適用可能である。したがって、本実施形態の接近速度Vの設定方法は、間欠的測定方法を用いる走査型プローブ顕微鏡だけに適用されるものでなく、プローブ1aを試料Sに接近させてプローブ1aのたわみやねじれから接触の有無を判定する装置のすべてに適用可能である。
【0068】
本実施形態の退避距離Lの設定方法は、プローブ1aと試料Sとを離間させる動作を有するすべての走査型プローブ顕微鏡に対して適用可能である。したがって、本実施形態の退避距離Lの設定方法は、間欠的測定方法を用いる走査型プローブ顕微鏡だけに適用されるものでなく、引離し動作を有するすべての走査型プローブ顕微鏡に適用可能である。
【0069】
上記判定部10における離間判定処理は、公知の技術を用いてもよい。例えば、判定部10は、特願2017-63530に開示されている離間判定処理を用いてもよい。例えば、判定部10は、引離し動作中において、所定の振幅におけるカンチレバー1の振動を、当該カンチレバーの共振周波数で検出した場合に、プローブ1aが試料表面に対して離間したと判定してもよい。なお、所定の振幅とは、カンチレバー1のフリー状態の位置を基準として、プローブ1aが試料表面に接触している状態におけるカンチレバー1の変位よりも小さい範囲である。例えば、離間判定処理とは、カンチレバー1の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ1aから引き離す方向に動作させた場合において、カンチレバー1の共振周波数近傍での、たわみ方向の振幅の変化率が所定値以上であるか否かを判定する処理であってもよい。ここで、たわみ方向の振幅の変化率が所定値以上である場合とは、たわみ方向の振幅が急激に増加する場合を示す。なお、離間判定処理とは、カンチレバー1の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ1aから引き離す方向に動作させた場合において、所定の振幅におけるカンチレバー1の振動の周波数が当該カンチレバーの共振周波数であるか否かを判定する処理としてもよい。
【0070】
上記判定部10は、カンチレバー1の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ1aから引き離す方向に動作させた場合において、カンチレバー1の振動周波数が当該カンチレバーの共振周波数であり、且つカンチレバー1の振幅の変化率が所定値以上であると判定した場合には、プローブ1aが試料表面に対して離間したと判定してもよい。一方、判定部10は、カンチレバー1の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ1aから引き離す方向に動作させた場合において、カンチレバー1の振動の周波数が当該カンチレバーの共振周波数ではない、又はカンチレバー1の振幅の変化率が所定値未満であると判定した場合には、プローブ1aと試料表面とが接触している(離間していない)と判定してもよい。
【0071】
制御装置4は、試料表面の形状を測定するために引離し動作を実行する場合において、カンチレバー1と試料Sとの間の距離が第2設定部14で設定された退避距離Lになるまで引離し動作を実行する。制御装置4は、試料表面の形状の測定に係るこの引離し動作中において、離間判定処理を実行してもよい。例えば、制御装置4は、カンチレバー1と試料Sとの間の距離が第2設定部14で設定された退避距離Lになるまで引離し動作を実行した場合において、離間判定処理を実行してもよい。制御装置4は、この離間判定処理において、プローブ1aが試料表面に対して離間していないと判定された場合には、プローブ1aが試料表面に対して離間したと判定されるまで引離し動作を実行してもよい。そして、制御装置4は、第2設定部14で設定された退避距離Lを、プローブ1aが試料表面に対して離間したと判定されたときの引離し距離に更新してもよい。
【0072】
制御装置4は、プロセッサを備える。例えば、プロセッサは、CPU及びMPUである。例えば、制御装置4は、マイクロコントローラであってもよい。制御装置4は、不揮発性の半導体及び揮発性の半導体の少なくともいずれか一方を備えもてよい。制御装置4は、プロセッサがプログラムを実行することによって実現されてもよい。制御装置4の構成要素のうち少なくとも一部は、ハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プロセッサが実行する前記プログラムは、制御装置4を、図1から図6に関連して説明した判定部10、制御部11、測定部12、第1設定部13、第2設定部14及び表示制御部15として機能させる。
【0073】
例えば、上記ハードウェアは、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、及びGPU(Graphics Processing Unit)の少なくともいずれかである。上記プログラムは、予め記憶装置に格納されていてもよい。前記記憶装置は、非一過性の記憶媒体である。例えば、前記記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)及びフラッシュメモリの少なくともいずれかである。前記プログラムは、着脱可能な記憶媒体に格納されてもよい。この場合には、前記プログラムは、記憶媒体がドライブ装置に装着されることによって前記記憶装置にインストールされてもよい。前記記憶媒体は、非一過性の記憶媒体である。例えば、前記記録媒体は、DVD及びCD-ROMのいずれかである。
【符号の説明】
【0074】
A…走査型プローブ顕微鏡、1…カンチレバー、1a…プローブ、2…移動駆動部、4…制御装置、10…判定部、13…第1設定部、14…第2設定部、15…表示制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6