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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-19
(45)【発行日】2023-09-27
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230920BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230920BHJP
   B29C 48/30 20190101ALI20230920BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20230920BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20230920BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20230920BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20230920BHJP
   B29K 33/00 20060101ALN20230920BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20230920BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B29C45/14
B29C48/30
B29C48/305
B29C48/88
B29C48/21
G01N24/08 510L
B29K33:00
B29L9:00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020520087
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011137
(87)【国際公開番号】W WO2020217767
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019082156
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】隅田 将一
(72)【発明者】
【氏名】小西 翔太
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518277(JP,A)
【文献】米国特許第03676404(US,A)
【文献】国際公開第2016/088667(WO,A1)
【文献】特開2016-079194(JP,A)
【文献】特開2016-008225(JP,A)
【文献】特開2017-186508(JP,A)
【文献】特表2009-541099(JP,A)
【文献】特開2017-114029(JP,A)
【文献】特開2019-042930(JP,A)
【文献】特開2017-020032(JP,A)
【文献】特開平04-339646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B29C 48/00-48/96
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第2アクリル樹脂層をこの順に含み、
前記第1アクリル樹脂層の厚さTと前記第2アクリル樹脂層の厚さTとの比[T:T]は、1:1.9~1:29の範囲内であり、
前記第2アクリル樹脂層は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成される、
積層体。
【請求項2】
前記ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂は、
5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)と前記環構造単位以外の単量体単位(a2)を有する共重合体(A)、
である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)は、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン構造単位からなる群から選択される1またはそれ以上である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂層は、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含む、請求項1~3いずれかに記載の積層体。
【請求項5】
さらに第3アクリル樹脂層を含み、
前記第3アクリル樹脂層は、前記第2アクリル樹脂層と前記熱可塑性樹脂層との間に存在する、
請求項1~4いずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記第1アクリル樹脂層は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成される、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記第1アクリル樹脂層の厚さTと、前記第2アクリル樹脂層の厚さTおよび前記第3アクリル樹脂層の厚さTの和との比[T:(T+T)]は、T:(T+T)=1:2~1:30の範囲内である、請求項5に記載の積層体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体樹脂およびエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される1以上を含む、請求項1~7いずれかに記載の積層体。
【請求項9】
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第3アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層をこの順に含む積層体の製造方法であって、前記方法は、
前記第1アクリル樹脂層、前記熱可塑性樹脂層および前記第3アクリル樹脂層をこの順に含む射出成形用積層体を、金型内に配置する工程、および
金型内に配置された前記射出成形用積層体の前記第3アクリル樹脂層側へ、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)を射出して、第2アクリル樹脂層を成形する工程、
を包含し、
前記(メタ)アクリル樹脂は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下である、
製造方法。
【請求項10】
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第2アクリル樹脂層をこの順に含む積層体の製造方法であって、
前記第1アクリル樹脂層は(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)から形成され、前記熱可塑性樹脂層は熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から形成され、および前記第2アクリル樹脂層は(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)から形成され、
前記方法は、
前記(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)の溶融物、前記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物および前記(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の溶融物を少なくとも含む溶融樹脂積層体をダイから吐出する工程、および
吐出された溶融樹脂積層体を冷却し、積層体を得る工程、
を包含し、
前記樹脂組成物(2)に含まれる(メタ)アクリル樹脂は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下である、
製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂層は、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含む、
請求項9または10記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、特に透明樹脂積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両などの車両などはガラスウインド材を有する。一方で、特に車両などにおいては、燃費改善を目的とした軽量化が強く求められている。そのため、ガラスよりも比重の小さい樹脂を基材とする車両用ウインド材の開発が試みられてきた。
【0003】
例えば車両用ウインド材では、実使用環境で透明性を維持しつつ、耐衝撃性などの物理強度も備えることが重要な課題となる。しかしながら、樹脂製ウインド材は一般に、透明性が高い樹脂を用いると、例えば耐衝撃性などの性能が、ガラスウインド材と比較して十分ではない傾向があるという技術的課題があった。
【0004】
例えば特開2003-201409号公報(特許文献1)には、水酸基と水素結合し得る官能基を有する不飽和単量体(a)と該不飽和単量体(a)と共重合可能な他の単量体(b)との共重合体(A)に、表面に水酸基を有しかつその一部が疎水化処理された酸化化合物(B)を分散させたものである樹脂組成物が記載されている(請求項1)。ここで、上記不飽和単量体(a)として、シラノール基と水素結合し得る官能基を有する不飽和単量体が、上記酸化化合物(B)として、表面にシラノール基を有しかつその一部が疎水化処理されたシリカ化合物が、また上記他の単量体(b)として、メタクリル系単量体および/またはアクリル系単量体が、記載されている(請求項2および3)。そして上記により、透明性や衝撃強度を犠牲にすることなく、耐衝撃性、および剛性の向上を実現できると記載される(例えば[0015]段落など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-201409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の発明では、シリカ化合物などの酸化化合物(B)を配合することによって、耐衝撃性および剛性の向上を図っている。しかしながら、例えば自動車グレージング用プラスチック基材において要求される耐衝撃性などの物理的性能は非常に高いため、耐衝撃性を向上させるさらなる手段もまた求められている。衝撃により飛散する破片形状を制御する手段も求められている。
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、耐衝撃性が良好であり、かつ衝撃時に生成する破片がより小さくなるアクリル樹脂層積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第2アクリル樹脂層をこの順に含み、
上記第1アクリル樹脂層の厚さTと上記第2アクリル樹脂層の厚さTとの比[T:T]は、1:1.9~1:29の範囲内であり、
上記第2アクリル樹脂層は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成される、
積層体。
[2]
上記ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂は、
5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)と上記環構造単位以外の単量体単位(a2)を有する共重合体(A)、
である、上記積層体。
[3]
上記5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)は、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン構造単位からなる群から選択される1またはそれ以上である、上記積層体。
[4]
上記熱可塑性樹脂層は、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含む、上記積層体。
[5]
さらに第3アクリル樹脂層を含み、
上記第3アクリル樹脂層は、上記第2アクリル樹脂層と上記熱可塑性樹脂層との間に存在する、上記積層体。
[6]
上記第1アクリル樹脂層は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成される、上記積層体。
[7]
上記第1アクリル樹脂層の厚さTと、上記第2アクリル樹脂層の厚さTおよび上記第3アクリル樹脂層の厚さTの和との比[T:(T+T)]は、T:(T+T)=1:2~1:30の範囲内である、上記積層体。
[8]
上記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体樹脂およびエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される1以上を含む、上記積層体。
[9]
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第3アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層をこの順に含む積層体の製造方法であって、上記方法は、
上記第1アクリル樹脂層、上記熱可塑性樹脂層および上記第3アクリル樹脂層をこの順に含む射出成形用積層体を、金型内に配置する工程、および
金型内に配置された上記射出成形用積層体の上記第3アクリル樹脂層側へ、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)を射出して、第2アクリル樹脂層を成形する工程、
を包含し、
上記(メタ)アクリル樹脂は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下である、
製造方法。
[10]
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第2アクリル樹脂層をこの順に含む積層体の製造方法であって、
上記第1アクリル樹脂層は(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)から形成され、上記熱可塑性樹脂層は熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から形成され、および上記第2アクリル樹脂層は(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)から形成され、
上記方法は、
上記(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)の溶融物、上記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物および上記(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の溶融物を少なくとも含む溶融樹脂積層体をダイから吐出する工程、および
吐出された溶融樹脂積層体を冷却し、積層体を得る工程、
を包含し、
上記樹脂組成物(2)に含まれる(メタ)アクリル樹脂は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下である、
製造方法。
[11]
上記熱可塑性樹脂層は、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含む、
上記製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上記樹脂積層体は、耐衝撃性、特に低温条件下における耐衝撃性が良好である利点がある。上記樹脂積層体は、例えば、樹脂グレージング材料として好適に用いることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第2アクリル樹脂層を含む積層体の概略説明図である。
図2】第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第3アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層を含む積層体の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、本発明に至った経緯を説明する。本発明においては、透明性に優れ、硬度が比較的高く、また耐候性が良好であるアクリル樹脂を、例えば樹脂グレージング材料として用いることを目的として、実験検討を行った。アクリル樹脂は、透明性、硬度および耐候性などが良好である。その一方でアクリル樹脂は、例えば強靱な樹脂と比較すると割れやすい傾向があることと、割れて飛散した破片が周辺の設備及び/または人体に直撃することにより傷つけられる恐れがあるという技術的課題があった。
【0011】
本発明者らは、上記技術的課題を解決すべく検討を行った。その結果、アクリル樹脂と併せて熱可塑性樹脂を用いること、そして、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第2アクリル樹脂層の順に積層した状態とし、第1アクリル樹脂層の厚さTと前記第2アクリル樹脂層の厚さTとの比と特定の範囲とした上で、第2アクリル樹脂層において耐熱性に優れた(メタ)アクリル樹脂を用いることによって、上記技術的課題を解決することができることを実験により見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記積層体は、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第2アクリル樹脂層をこの順に含む。そして、上記積層体において、第1アクリル樹脂層の厚さTと前記第2アクリル樹脂層の厚さTとの比[T:T]は、1:1.9~1:29の範囲内であり、
前記第2アクリル樹脂層は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成される。以下、各樹脂層について記載する。
【0013】
第1アクリル樹脂層
上記第1アクリル樹脂層は、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂層である。(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリルモノマーの単独重合体、2種以上の(メタ)アクリルモノマーの共重合体、(メタ)アクリルモノマーと(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーとの共重合体などが挙げられる。なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0014】
(メタ)アクリル樹脂は、樹脂積層体の硬度、耐候性、透明性を高めやすい観点から、メタクリル樹脂であることが好ましい。本明細書において、メタクリル樹脂は、メタクリル基を有するモノマーに由来する構成単位を有する重合体である。
【0015】
メタクリル樹脂としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位のみを含むメタクリル単独重合体、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位を80質量%以上100質量%未満と、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルに由来する構成単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位を、0質量%を超えて20質量%以下で有するメタクリル共重合体等が挙げられる。
【0016】
炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとは、
CH=CH(CH)COOR
(上記Rは、炭素数1~4のアルキル基である。)
で表される化合物である。
炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体とは、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルと共重合可能であり、且つビニル基を有する単量体である。
【0017】
炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸イソブチルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチルが特に好ましい。上記例示のメタクリル酸アルキルは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体としては、例えば、
メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのメタクリル酸エステル(但し、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルを除く);
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール等のアクリル酸エステル;
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはこれらの酸無水物;
アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;
アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;
スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体;
などが挙げられる。
これらの中でも、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸またはスチレンが好ましい。
【0019】
メタクリル樹脂としては、樹脂積層体の耐候性、透明性を高めやすい観点から、メタクリル酸メチルに由来する構成単位のみを含むメタクリル単独重合体、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を80質量%以上100質量%未満と、メタクリル酸メチルに由来する構成単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位を、0質量%を超えて20質量%以下で有するメタクリル共重合体が好ましい。
【0020】
第1アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂は、耐熱性が良好となる点から、ビカット軟化温度が100℃以上115℃未満の(メタ)アクリル樹脂から構成されてもよい。
【0021】
メタクリル樹脂の製造方法としては、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルと、必要に応じて、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体とを、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で重合する方法が挙げられる。
【0022】
上記第1アクリル樹脂層は、さらに、以下の詳述する第2アクリル樹脂層を構成する、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成されてもよい。
【0023】
上記第1アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂は、メルトマスフローレイト(以下、MFRと記すことがある。)が、3.80kg荷重、230℃で測定して、0.1~20g/10分であるのが好ましく、0.2~10g/10分であるのがより好ましく、0.5~5g/10分であるのがさらに好ましい。MFRは上記の上限以下である場合は、得られる樹脂層の強度が良好となり、また、樹脂層の形成が容易となるなどの利点がある。MFRは、JIS K 7210:2014「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に規定される方法に準拠して測定することができる。ポリ(メタクリル酸メチル)系の材料については、温度230℃、荷重3.80kg(37.3N)で測定することが、上記JISに規定されている。
【0024】
上記第1アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(以下、Mwと記すことがある。)は50,000~300,000であるのが好ましい。Mwが上記範囲内であることによって、良好な透明性、耐候性、機械強度などを得ることができる利点がある。上記Mwは70,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましい。また上記Mwは250,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により測定される。
【0025】
上記第1アクリル樹脂層は、必要に応じて、(メタ)アクリル樹脂とは異なる他の樹脂をさらに含んでもよい。他の樹脂を含有する場合、樹脂積層体の透明性を著しく損なわない限り、その種類は特に限定されない。樹脂積層体の硬度および耐候性の観点から、他の樹脂の量は、上記第1アクリル樹脂層に含まれる全樹脂に基づいて、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらにより好ましい。他の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アクリルニトリル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。上記第1アクリル樹脂層が他の樹脂をさらに含んでもよいが、透明性などの観点からは、他の樹脂の量は20質量%以下であることが好ましく、第1アクリル樹脂層に含まれる樹脂が(メタ)アクリル樹脂のみであることがより好ましい。
【0026】
上記第1アクリル樹脂層は、本発明の効果を害しない範囲で、一般的に用いられる各種の添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、架橋ゴム粒子、紫外線吸収剤、滑り剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0027】
架橋ゴム粒子としては、例えば、少なくともコア部とコア部を覆う被覆層とを有し、前記コア部および前記被覆層の少なくとも一方が、炭素-炭素不飽和結合を2以上有する多官能単量体に由来する構成単位を有する材料から形成される多層のゴム粒子等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、オキサルアニリド系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0028】
滑り剤としては、例えば、シリコーンオイル、ポリシロキサン系化合物等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。離型剤としては、例えば、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸誘導体等が挙げられ、帯電防止剤としては、導電性無機粒子、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、カチオン系アクリル酸エステル誘導体、カチオン系ビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0029】
上記第1アクリル樹脂層の厚さは、0.1mm以上1.0mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上0.8mm以下であるのがより好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であるのがさらに好ましい。第1アクリル樹脂層の厚さが上記範囲内であることによって、積層体を構成する熱可塑性樹脂層を良好に保持し、かつ積層体の強度を保つことができるなどの利点がある。
【0030】
第2アクリル樹脂層
第2アクリル樹脂層は、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂層である。そして第2アクリル樹脂層は、ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂から構成される。
【0031】
(メタ)アクリル樹脂のビカット軟化温度は、JIS K 7206:2016「プラスチック-熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)試験方法」に規定のB50法に準拠して測定される。ビカット軟化温度は、ヒートディストーションテスター(例えば、株式会社安田精機製作所製「148-6連型」)を用いて測定することができる。測定は、各原料を3mm厚に射出成形、または、プレス成形した試験片を用いて行ってよい。
【0032】
上記積層体において、第2アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂のビカット軟化温度が上記範囲内であることによって、特に第2アクリル樹脂層面における耐衝撃性評価において、衝撃箇所において割れ・剥がれにより落下する破片の表面積が有意に小さくなる利点がある。破片の表面積そして重量が小さいことによって、例えば樹脂グレージングとして用いられた場合において、衝撃により破片が生じたときに、飛散した破片が周辺の設備および/または人体に直撃することにより、これらが傷つけられる恐れを低減することができる利点がある。さらに、上記積層体が上記第2アクリル樹脂層を有することによって、積層体全体の耐熱性が良好となる利点もある。
【0033】
上記ビカット軟化温度が115℃以上145℃以下の(メタ)アクリル樹脂として、例えば、
5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)と前記環構造単位以外の単量体単位(a2)を有する共重合体(A)、または
メタクリル酸メチルとメタクリル酸との共重合体(B)、
が挙げられる。以下、上記共重合体(A)および(B)について詳述する。
【0034】
5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)と上記環構造単位以外の単量体単位(a2)を有する共重合体(A)
上記共重合体(A)は、主鎖に5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)を有する構造となっており、重合可能なビニル系単量体である2以上の単量体を原料とするものである。「主鎖」とは、2以上の単量体が重合することにより形成されたビニル基由来の炭素鎖である。「単量体」は重合前の原料の状態を指し、「単量体単位」は重合後において連結されている単位毎の状態を指す。「主鎖に5員環または6員環の環構造を有する環構造単位を有する」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの少なくとも2個が環構造を形成する原子群の一部となり、その結果、主鎖の中に5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)が組み込まれていることを意味する。即ち、共重合体(A)は、1またはそれ以上の「5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)」と、1またはそれ以上の「5員環または6員環の環構造を有する環構造単位以外の単量体単位」(以下、「上記環構造単位以外の単量体単位(a2)」と示す。)と、を有する。
【0035】
5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)
共重合体(A)が有する「5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)」は、2つの単量体が重合する際に又は重合した後に閉環して形成され得る、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位であってもよく、又は、環を有している1つの単量体が重合することにより主鎖に環が組み入れられた、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位であってもよい。
5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)は、例えば、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン構造単位からなる群から選択される1またはそれ以上とすることができる。特に、無水グルタル酸構造単位とすることができる。
以下、それぞれの5員環または6員環の環構造を有する環構造単位について説明する。
【0036】
・無水グルタル酸構造単位(a1-1)
以下の式(1)に、無水グルタル酸構造単位を示す。
【0037】
【化1】
[式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0038】
無水グルタル酸構造単位(a1-1)は、例えば、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと、メタクリル酸又はアクリル酸とから得られる重合体を、重合工程の際に又は重合工程後に環化縮合させることにより形成することができる。特に、メタクリル酸、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを環化縮合させることにより形成することができる。
【0039】
・無水マレイン酸構造単位(a1-2)
以下の式(2)に、無水マレイン酸構造単位を示す。
【0040】
【化2】
[式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が6以上20以下の置換又は非置換のアリール基、又は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基又はアリール基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0041】
無水マレイン酸構造単位(a1-2)は、置換又は非置換の無水マレイン酸を重合工程において共重合させることにより形成することができる。置換又は非置換の無水マレイン酸としては例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等が挙げられる。これらの置換基を有していてもよい無水マレイン酸のうち、共重合が容易なことから、無水マレイン酸が好ましい。
【0042】
・マレイミド構造単位(a1-3)
以下の式(3)に、マレイミド構造単位を示す。
【0043】
【化3】
[式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0044】
好ましくは、上記式(3)は次の通りである。
[式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0045】
マレイミド構造単位(a1-3)は、例えば特定の単量体を重合工程において共重合させることにより形成することができる。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-エチルフェニルマレイミド、N-ブチルフェニルマレイミド、N-ジメチルフェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-(o-クロロフェニル)マレイミド、N-(m-クロロフェニル)マレイミド、N-(p-クロロフェニル)マレイミド等のN-アリール基置換マレイミドが挙げられる。
【0046】
・グルタルイミド構造単位(a1-4)
以下の式(4)に、グルタルイミド構造単位を示す。
【0047】
【化4】
[式(4)中、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
12は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0048】
好ましくは、上記式(4)は次の通りである。
[式(4)中、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
12は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0049】
グルタルイミド構造単位(a1-4)は、例えば、メタクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸を共重合させた後、高温下でアンモニア、アミン又は尿素を反応させる方法、又はポリメタクリル酸無水物とアンモニア又はアミンとを反応させる方法等の公知の方法によって得ることができる。
【0050】
・ラクトン構造単位(a1-5)
以下の式(5)に、ラクトン構造単位を示す。
【0051】
【化5】
[式(5)中、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
16は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0052】
好ましくは、上記式(5)は次の通りである。
[式(5)中、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
16は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0053】
ラクトン構造単位(a1-5)を重合体中に導入する方法は、特に限定はされない。ラクトン構造は、例えば、置換基としてヒドロキシ基を有するアクリル酸又はアクリル酸エステルと、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルとを共重合して、分子鎖にヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシ基との間で、脱アルコール又は脱水縮合を生じさせることにより形成することができる。
【0054】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸又はアクリル酸エステルとしては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキルが挙げられる。好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸又は2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルである。2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルとしては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらのうち、特に好ましくは、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル又は2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0055】
上記5員環または6員環の環構造を有する環構造単位は、無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位及びラクトン構造単位からなる群から選択される1またはそれ以上であるのが好ましく、無水グルタル酸構造単位であるのがより好ましい。
【0056】
上記環構造単位以外の単量体単位(a2)および単量体混合物
共重合体(A)は、上記5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)に加えて、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)を有する。上記環構造単位以外の単量体単位(a2)の原料である単量体は、重合可能なビニル系単量体であれば限定されない。
【0057】
上記共重合体(A)は、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)および上記環構造単位以外の単量体単位(a2)の両方をもたらす単量体混合物を重合させることによって調製することができる。ここで、上記単量体混合物に含まれうる単量体の一例として、例えば、単量体同士で閉環して上述の5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)を形成し得るものが挙げられる。また他の一例として、単量体の時点で環構造を有しておりそのまま前述の5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)となって重合し得るものが挙げられる。上記のような、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)となり得る単量体は、得られる共重合体のビカット軟化温度が115℃以上145℃以下となる範囲内で含有するように、単量体混合物中に含まれる。そして、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)とならない単量体は、そのまま共重合体中において、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)として存在することとなる。
【0058】
上記共重合体(A)の調製において、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、アクリル酸エステル、芳香族ビニル、置換又は非置換の無水マレイン酸、及び、置換又は非置換のマレイミドからなる群より選択される2つ以上を含む単量体混合物を用いることができる。上記単量体混合物は、メタクリル酸を含むか、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルの両方を含むのが好ましい。
【0059】
メタクリル酸エステルは、以下の式(6)に示される単量体である。
【0060】
【化6】
[式(6)中、R17はメチル基を表し、
18は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0061】
上記式(6)に示すメタクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。メタクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
アクリル酸エステルは、以下の式(7)に示される単量体である。
【0063】
【化7】
[式(7)中、R19は水素原子を表し、
20は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
アルキル基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0064】
上記式(7)に示すアクリル酸エステルは、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。アクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
芳香族ビニルは、以下の式(8)に示される単量体である。
【0066】
【化8】
[式(8)中、R21は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上20以下の置換又は非置換のアルキル基、好ましくは炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、より好ましくは炭素数が1またはそれ以上8以下の置換又は非置換のアルキル基、更に好ましくは炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
22は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上12以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上18以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
22は全て同じ基であっても、異なる基であってもよく、
22同士で環構造を形成してもよく、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0067】
好ましくは、上記式(8)は次の通りである。
[式(8)中、R21は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基を表し、
nは、0以上5以下の整数を表し、
22は、水素原子、又は、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が1またはそれ以上6以下の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリール基及び炭素数が6以上12以下の置換又は非置換のアリールオキシ基からなる群から選択されるいずれかを表し、
22は全て同じ基であっても、異なる基であってもよく、
22同士で環構造を形成してもよく、
アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアリールオキシ基はヒドロキシ基で置換されていてもよい。]
【0068】
上記式(8)に示す芳香族ビニルは、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等が挙げられる。芳香族ビニルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
特に限定されるものではないが、前述したような単量体混合物から得られる共重合体のうち、例えば、以下のような5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)を有する構造単位を重合体の一部において含むものが挙げられる。なお、式中nは整数を表す。
【0070】
例えば、上記単量体としてメタクリル酸メチル、メタクリル酸及びスチレンを用いることによって、以下のような無水グルタル酸構造単位(a1-1)を有する構造単位(式(9))が形成される。
【0071】
【化9】
【0072】
更に、単量体としてメタクリル酸メチル及びメタクリル酸を用いることによって、以下のような無水グルタル酸構造単位(a1-1)を有する構造単位(式(10))が形成される。
【0073】
【化10】
【0074】
例えば、単量体としてメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン及びα-メチルスチレンを用いることによって、以下のような無水マレイン酸構造単位(a1-2)を有する構造単位(式(11))が形成される。
【0075】
【化11】
【0076】
例えば、単量体としてメタクリル酸メチル、N-シクロヘキシルマレイミド及びスチレンを用いることによって、以下のようなマレイミド構造単位(a1-3)を有する構造単位(式(12))が形成される。
【0077】
【化12】
【0078】
例えば、単量体としてメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及び2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを用いることによって、以下のようなラクトン構造単位(a1-5)を有する構造単位(式(13))が形成される。
【0079】
【化13】
【0080】
例えば、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)は、メタクリル酸に由来する単量体単位(式(14))、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(15))、アクリル酸に由来する単量体単位(式(16))、アクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(17))及び芳香族ビニルに由来する単量体単位(式(18))からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
特に、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)は、メタクリル酸に由来する単量体単位(式(14))、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(15))、アクリル酸に由来する単量体単位(式(16))及びアクリル酸エステルに由来する単量体単位(式(17))の少なくとも1つを含み得る。
式(15)におけるR18は前述の式(6)のR18と同様であり、式(17)におけるR20は前述の式(7)のR20と同様であり、式(18)におけるR21及びR22は前述の式(8)のR21及びR22と同様である。
【0081】
【化14】
【0082】
【化15】
【0083】
【化16】
【0084】
【化17】
【0085】
【化18】
【0086】
例えば、メタクリル酸(若しくはアクリル酸)、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステル(アクリル酸及びアクリル酸エステル)が、原料として単量体の一部又は全部として用いられる場合、得られる共重合体における、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)は、メタクリル酸に由来する単量体単位(若しくはアクリル酸に由来する単量体単位)、又は、メタクリル酸に由来する単量体単位及びメタクリル酸エステルに由来する単量体単位(若しくはアクリル酸に由来する単量体単位及びアクリル酸エステルに由来する単量体単位)を含み得る。メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、好ましくはメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチルである。
【0087】
上記共重合体(A)は、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)を有することによって、115℃以上145℃以下のビカット軟化温度を有することとなる。上記共重合体(A)においては、得られる共重合体のビカット軟化温度が115℃以上145℃以下となるように、適宜5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)の割合を調節することによって調製することができる。
【0088】
共重合体(A)の製造方法
共重合体(A)は、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)および上記環構造単位以外の単量体単位(a2)をもたらす単量体混合物を重合させることによって調製することができる。単量体混合物の重合方法については、特に制限はなく、例えば、懸濁重合、溶液重合、状重合等の公知の重合法を採用することができる。特に、懸濁重合を採用することができる。懸濁重合は、例えば、水、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁安定剤及び必要に応じて他の添加剤等をオートクレーブに仕込み、通常、攪拌下に単量体混合物を供給して加熱することにより実施される。水の使用量は、容量比で、単量体混合物の成分に対して、1~5倍量、特に1~3倍量程度とする。
【0089】
重合開始剤は、特に制限されるものではなく、例えば、ラウリルパーオキサイド、1,1―ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。重合開始剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0090】
連鎖移動剤は、特に制限されないが、例えば、n-ドデシルメルカプタン(特に、1-ドデシルメルカプタン)、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート等のメルカプタン類等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0091】
懸濁安定剤は、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテルが挙げられる。また、部分けん化されたビニルアルコール、アクリル酸重合体及びゼラチン等の水溶性ポリマーを使用することもできる。
【0092】
懸濁重合では、例えば、重合後に得られたスラリー状の反応物を脱水及び必要に応じて洗浄した後、乾燥させる。乾燥後、ビーズ状の共重合体(A)が得られる。ビーズ状の共重合体(A)はそのまま使用してもよいし、更に押出機(例えば脱気押出機)で押出してペレット形状の共重合体(A)としてもよい。適切な重合方法及びその条件を選択することによっても、成形体の黄色度を抑制できる共重合体(A)を製造することができる。例えば、押出機を使用する際の造粒温度を高すぎない適切な温度(例えば190℃以上250℃以下、好ましくは210℃以上220℃以下)に設定する。又は、例えば押出機内での滞留時間を長すぎない適切な時間に設定する。例えば、押出機内での滞留時間毎の組成物処理量に換算すると、押出機のスクリュー回転数が60rpm以上100rpm、好ましくは80rpmの場合、処理量1kg/Hr以上2.0kg/Hr以下、好ましくは処理量1kg/Hr以上1.5kg/Hr以下に設定する。或いは、例えば後処理において高温(例えば290℃程度)で長く加熱しすぎないようにする。このように適宜選択して設定することによって、顕著に閉環縮合してしまうことを防止することができる。その結果、ビカットを前述した所定の範囲内に調整することができる。
【0093】
例えば上記共重合体(A)が、5員環または6員環の環構造を有する環構造単位(a1)として例えば無水グルタル酸構造単位、無水マレイン酸構造単位、マレイミド構造単位、グルタルイミド構造単位、ラクトン構造単位等を有する場合は、上記環構造単位(a1)および上記環構造単位以外の単量体単位(a1)の合計に対して、上記環構造単位(a1)が3~40mol%の範囲内であるのが好ましく、10~30mol%であるのがさらに好ましい。
【0094】
また、メタクリル酸(若しくはアクリル酸)、又は、メタクリル酸及びメタクリル酸エステル(アクリル酸及びアクリル酸エステル)が、原料として単量体の一部又は全部として用いられる場合、得られる共重合体における、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)は、メタクリル酸に由来する単量体単位(若しくはアクリル酸に由来する単量体単位)、又は、メタクリル酸に由来する単量体単位及びメタクリル酸エステルに由来する単量体単位(若しくはアクリル酸に由来する単量体単位及びアクリル酸エステルに由来する単量体単位)を含み得る。メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、好ましくはメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチルである。上記場合の1態様において、樹脂調製時または加工時などの加熱処理(例えば樹脂造粒時など)において、メタクリル酸エステルとメタクリル酸と(又はアクリル酸エステルとアクリル酸と)の一部が環化縮合し、無水グルタル酸構造などの環構造単位が生成することとなる。
【0095】
かかる場合、上記環構造単位以外の単量体単位(a2)は、環構造単位(a1)と上記環構造単位以外の単量体単位(a2)との合計に対して、メタクリル酸エステルに由来する単量体単位(又はアクリル酸エステルに由来する単量体単位)を60mol%以上98.99mol%以下、好ましくは74.64mol%以上98.98mol%以下含み得る。
更に、同合計に対して、メタクリル酸に由来する単量体単位(又はアクリル酸に由来する単量体単位)を1mol%以上30mol%以下、好ましくは1mol%以上26mol%以下、より好ましくは6mol%以上26mol%以下、更に好ましくは7.48mol%以上25.2mol%以下、より更に好ましくは10mol%以上25.2mol%以下含み得る。
更に、同合計に対して、メタクリル酸エステルとメタクリル酸と(又はアクリル酸エステルとアクリル酸と)が環化縮合した無水グルタル酸構造を0.01mol%以上10mol%以下、好ましくは0.02mol%以上9mol%以下、より好ましくは0.02mol%以上8mol%以下、更に好ましくは0.02mol%以上5mol%以下、より更に好ましくは0.02mol%以上4.1mol%以下、また更に好ましくは0.02mol%以上3mol%未満、より更に好ましくは0.02mol%以上2.5mol%以下、また更に好ましくは0.02mol%以上0.16mol%以下含み得る。
【0096】
上記態様において、メタクリル酸エステル(又はアクリル酸エステル)と比較して、メタクリル酸に由来する単量体単位(又はアクリル酸に由来する単量体単位)をかかる所定の範囲内の割合(mol%)で含ませることによって、ビカット軟化温度を好適な数値とすることができる。更に、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステル(特にメタクリル酸メチル又はアクリル酸メチル)に由来する単量体単位を多く含むことによって、重合体の耐候性や光学特性を高めることができる。
【0097】
上記第2アクリル樹脂層の厚さは、積層体の用途に応じて適宜選択することができる。第2アクリル樹脂層の厚さは、0.1mm以上30mm以下であるのが好ましい。第2アクリル樹脂層が上記範囲内であることによって、積層体の物理的強度を用途に応じた良好な範囲に設計することができるなどの利点がある。例えば上記積層体が、樹脂グレージング材料として用いられる場合は、第2アクリル樹脂層の厚さは0.5mm以上10mm以下であるのが好ましく、1.0mm以上8mm以下であるのがより好ましい。
【0098】
上記第1アクリル樹脂層の厚さT1と、上記第2アクリル樹脂層の厚さT2との比[T1:T2]は、T1:T2=1:1.9~1:29の範囲内である。この比[T1:T2]がこの範囲内であることによって、積層体全体としての耐衝撃性および物理的強度がより良好な範囲となるなどの利点がある。例えば上記積層体を、車両用、建材用樹脂グレージングとして用いる場合は、第2アクリル樹脂層側を屋外側となるように設置することで、より強い衝撃にも耐えうる等の利点がある。
【0099】
第3アクリル樹脂層
上記積層体は、第3アクリル樹脂層を必要に応じて有してもよい。上記積層体が第3アクリル樹脂層を有する場合において、第3アクリル樹脂層は、上記第2アクリル樹脂層と、以下に詳述する熱可塑性樹脂層との間に存在する層となる。
【0100】
上記第3アクリル樹脂層は、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂層である。第3アクリル樹脂層は、上記第1アクリル樹脂層と同様の組成であってよく、異なる組成であってもよい。
【0101】
第3アクリル樹脂層は、上記第2アクリル樹脂層と同様の組成であってよく、異なる組成であってもよい。
【0102】
第3アクリル樹脂層を構成する(メタ)アクリル樹脂のビカット軟化温度は、90℃以上145℃以下であってもよい。
【0103】
上記第3アクリル樹脂層は、透明性、耐候性を損なわない範囲で、例えば、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位を50質量%以上100質量%未満と、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸エステルに由来する構成単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位を、0質量%を超えて50質量%以下で有するメタクリル共重合体としてもよい。
【0104】
上記第3アクリル樹脂層は、必要に応じて、(メタ)アクリル樹脂とは異なる他の樹脂をさらに含んでもよい。他の樹脂を含有する場合、樹脂積層体の透明性を著しく損なわない限り、その種類は特に限定されない。樹脂積層体の透明性および耐候性の観点から、他の樹脂の量は、上記第3アクリル樹脂層に含まれる全樹脂に基づいて、40質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらにより好ましい。他の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アクリルニトリル-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0105】
第3アクリル樹脂層は例えば、積層体の製造方法に応じて形成され得る。例えば上記積層体の製造を、樹脂組成物の溶融物をダイから吐出する押出成形により製造する場合は、第3アクリル樹脂層は存在しなくてもよい。また例えば、上記積層体の製造において、まず、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第3アクリル樹脂層をこの順に含む射出成形用積層体を製造し、得られた射出成形用積層体を金型内に配置し、そして、金型内に配置された射出成形用積層体の第3アクリル樹脂層側へ、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)を射出して、第2アクリル樹脂層を成形することによって、積層体を製造する場合は、得られる積層体は第3アクリル樹脂を含むこととなる。この場合において、第2アクリル樹脂層および第3アクリル樹脂層がほぼ同様の組成を有する場合は、得られた積層体において、これらの樹脂層の明確な組成上の境界は存在しない状態であってもよい。
【0106】
上記積層体が第3アクリル樹脂層を有する場合において、第3アクリル樹脂層の厚さは、0.01mm以上1.0mm以下であるのが好ましい。上記厚さは0.03mm以上0.5mm以下であるのがより好ましく、0.05mm以上0.4mm以下であるのがさらに好ましい。第3アクリル樹脂層の厚さが上記範囲内であることによって、上記射出成形用積層体において、例えば射出成形時に熱可塑性樹脂層を良好に保持することができるなどの利点がある。
【0107】
また、上記積層体が第3アクリル樹脂層を含む場合は、第1アクリル樹脂層の厚さTと、第2アクリル樹脂層の厚さTおよび第3アクリル樹脂層の厚さTの和との比[T:(T+T)]は、T:(T+T)=1:2~1:30の範囲内であるのが好ましい。上記比[T:(T+T)]が上記範囲内であることによって、積層体全体としての耐衝撃性および物理的強度がより良好な範囲となるなどの利点がある。例えば上記積層体を、車両用、建材用樹脂グレージングとして用いる場合は、第2アクリル樹脂層側を屋外側となるように設置することで、より強い衝撃にも耐えうる等の利点がある。
【0108】
熱可塑性樹脂層
熱可塑性樹脂層は、第1アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層の間に存在する層である。上記熱可塑性樹脂層は、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含むのが好ましい。上記積層体において、熱可塑性樹脂層がパルスNMR測定におけるプロトン核のスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含むことによって、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が良好となる利点がある。
【0109】
好ましくは、スピン-スピン緩和時間T は、0.03ms以上1.0ms以下である成分を71%以上含むことによって、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が良好となる。
【0110】
熱可塑性樹脂層は、樹脂積層体の成形加工の観点から、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を99%以下含むことが好ましく、95%以下含むことがより好ましい。
【0111】
パルスNMR法におけるスピン-スピン緩和時間T とは、縦磁化ベクトルが静磁場に垂直な方向へと倒された直後の磁気共鳴信号が1/eまで減少するのに要する時間を意味する。このスピン-スピン緩和時間T が長い場合は、運動性の高い成分であり非晶相ということができる。また、スピン-スピン緩和時間T が短い場合は、運動性の低い成分であり結晶相ということができ、中間の成分は界面相であるということができる。
【0112】
本明細書における「パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時T が0.03ms以上である成分」は、上記のうち、スピン-スピン緩和時間T が長い成分およびスピン-スピン緩和時間T が中間の成分を意味することとなる。
【0113】
上記熱可塑性樹脂層におけるスピン-スピン緩和時間T は、水素1の緩和時間T2、および成分分率Rとして、パルスNMR装置を用いてSolid Echo法でのパルスシーケンスにおける待ち時間τの値を変化させるにより得られる信号強度I(τ)の減衰から算出する。
【0114】
Solid Echo法による信号強度I(τ)の減衰は、J.G. Powles, J.H. Strange, Proc. Phys. Soc., 82, 6-15(1963)で説明される方法で取得する。
【0115】
得られる信号強度I(τ)は、時間τがτ=0の時の信号強度I(τ)で規格化した値であるI(τ)として表す。I(τ)を時間τに対してプロットし、式(F1)で計算される計算曲線I(τ)を用いたフィッティングからT 、Rが算出され、単位はそれぞれミリ秒、成分分率である。
【0116】
【数1】
[式中、Rは、フィッティングにより式(F1)中の項の和が、測定により取得する規格化された信号強度I(τ)と同値になるように算出する成分分率を表し、
2n , aは、それぞれフィッティングにより算出する緩和時間、形状係数を表す。]
【0117】
前記フィッティングにおいてRn、T2n 、anは、式(F2)で表す二乗平均平方根sが0.01未満となる値である。
【0118】
【数2】
[式中、τは前記I(τ)が十分に減衰する時間を表し、I(τ)/ I(τ)が0.01未満となる時の値である。kは時間τがτからτの間で取得する信号強度I(τ)のデータ点数を表す。]
【0119】
上記パルスNMR測定において、熱可塑性樹脂層の測定試料形態は粉体試料または成型試料であってよい。
【0120】
パルスNMR装置としては、例えば、20MHz パルスNMR装置(ブルカー社製)が挙げられる。
【0121】
上記熱可塑性樹脂層は、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上である成分を71%以上含むことを条件として、種々の樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂層に含まれる樹脂として、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体樹脂およびエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂などが挙げられる。
【0122】
熱可塑性樹脂として用いることができるポリウレタン樹脂は、例えば、ポリイソシアネート、ポリオールおよび鎖伸長剤を反応させることにより調製することができる。
【0123】
ポリイソシアネートの具体例として、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレン2,4-ジイソシアネート、トリレン2,6-ジイソシアネートあるいはそれらの混合物、1,5-ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン2,2’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン2,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネートあるいはそれらの混合物、1-メチルシクロヘキサン2,4-ジイソシアネート、1-メチルシクロヘキサン-2,6-ジイソシアネートあるいはそれらの混合物などが挙げられる。上記ポリイソシアネートのうち、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いるのがより好ましい。
【0124】
ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ラクトン系ポリオール等が挙げられる。
【0125】
ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸とジオールの重縮合反応により得られる。ジオールの具体例として、例えば、エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。ジカルボン酸は、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0126】
ポリエーテルポリオールは、例えば、アルキレンオキシドを開環重合させることによって調製することができる。ポリエーテルポリオールの具体例として、例えば、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。中でもポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。数平均分子量は500~10000で好ましくは、1000~4000である。
【0127】
ラクトン系ポリオールは、例えば、上記ジオールおよび/または上記グリコールを開始剤として、ラクトンモノマー(例えば、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、β-メチル-ε-カプロラクトン、γ-メチル-ε-カプロラクトン、β,δ-ジメチル-ε-カプロラクトン、3,3,5-トリメチル-ε-カプロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン等)を開環重合させることによって、調製することができる。
【0128】
鎖伸長剤としては、例えば、エタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの炭素原子数が2~6の脂肪族直鎖ジオール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等が挙げられる。ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トリレンジアミン、モノエタノールアミン等のアミン類も一部併用して用いることができる。これらのうち、炭素原子数が2~6の脂肪族直鎖ジオールが好ましい。
【0129】
熱可塑性樹脂として用いることができるポリウレタン樹脂の具体例として、ポリオールとポリイソシアネートの反応によってできたソフトセグメントと、鎖伸長剤とポリイソシアネートの反応によりできたハードセグメントとからなるブロックコポリマーが挙げられる。ここで、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms未満の成分は、運動性の低い結晶相成分でありハードセグメントに該当する。また、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上の成分は、ソフトセグメントに該当する。ポリウレタン樹脂において、ハードセグメントおよびソフトセグメントの比率は、調製に用いるポリイソシアネート、ポリオールおよび鎖伸長剤の比率を調節することや、相分離構造、結晶構造の大きさなどによって調整することができる。
【0130】
熱可塑性樹脂として用いることができるポリウレタン樹脂として、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、DICコベストロポリマー製のパンデックスT-1185N、T-8185N、T-1180N、T-8180N、T-8175Nなど、およびBASF製エラストラン1180A、NY80Aなどが挙げられる。
【0131】
熱可塑性樹脂として用いることができるエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、エチレンに基づく単量体単位と、酢酸ビニルに基づく単量体単位とを有する共重合体樹脂である。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、例えば、エチレンと酢酸ビニルを、ラジカル重合開始剤を用いて、ラジカル重合反応させることにより製造することができる。
【0132】
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体に含まれる酢酸ビニルに基づく単量体単位の含有量である酢酸ビニル含有量が20~40質量%であるのが好ましく、25~35質量%であるのがより好ましい。なお、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂における酢酸ビニルの含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の質量を100質量%とするときの値である。
【0133】
酢酸ビニルの含有量が上記範囲内であることによって、得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂において、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上の成分を71%以上含むように好適に設計することができる。酢酸ビニルの含有量が上記範囲内であることによってさらに、良好な透明性および柔軟性を確保することができる利点がある。
【0134】
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂として、市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、住友化学製スミテートKA-30、KA-40などが挙げられる。
【0135】
熱可塑性樹脂として用いることができるエチレン-メタクリル酸エステル共重合体樹脂としては、エチレンとメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルへキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートの中から選ばれた1種または2種以上の単量体との共重合体が挙げられる。上記単量体のうち、メチルメタクリレートを用いるのが特に好ましい。
【0136】
上記エチレン-メタクリル酸エステル共重合体樹脂は、メタクリル酸エステルの含有量を調節することによって、得られるエチレン-メタクリル酸エステル共重合体樹脂において、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上の成分比率が71%以上となるように調整することができる。メタクリル酸エステルの含有量は、15質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、18質量%以上30質量%以下であるのがより好ましい。メタクリル酸エステルの量が15質量%以上であることによって、良好な透明性、そして第1アクリル樹脂層、第2アクリル樹脂層などとの良好な密着性を得ることができる利点がある。また、メタクリル酸エステルの量が40質量%以下であることによって、良好な耐衝撃性を得ることができる利点がある。
【0137】
エチレン-メタクリル酸エステル共重合体樹脂として、市販品を用いてもよい。市販品として、例えば住友化学製アクリフトWK307、WK402、WH206-Fなどが挙げられる。
【0138】
熱可塑性樹脂として用いることができるポリビニルアセタール樹脂として、例えば、ポリビニルアルコールの水酸基の一部または全てをアセタール化した樹脂が挙げられる。
【0139】
ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、例えば、ポリビニルアルコールを温水に溶解し、得られたポリビニルアルコール水溶液を0~90℃、好ましくは10~20℃に保持しておいて、酸触媒とアルデヒドとを加え、攪拌しながらアセタール化反応を進行させ、反応温度を70℃に上げて熟成し反応を完結させ、その後、中和、水洗および乾燥を行ってポリビニルアセタール樹脂の粉末を得る方法等が挙げられる。
【0140】
アルデヒドとしては特に限定されず、例えば、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の脂肪族、芳香族、脂環族アルデヒド等が挙げられる。好ましくは、炭素数4~8のn-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒドである。炭素数4のn-ブチルアルデヒドは、得られるポリビニルアセタール樹脂の使用により、耐候性に優れ、しかも樹脂の製造も容易となるので、より好ましい。これらは、単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。ポリビニルアセタール樹脂は、架橋されてないものであってもよく、また、架橋されたものであってもよい。
【0141】
ポリビニルアセタール樹脂として、アセタール化度が60~85mol%のものが好適に用いることができる。上記アセタール化度は65~80mol%であるのがより好ましい。アセタール化度が上記範囲内であることによって、得られるポリビニルアセタール樹脂において、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T が0.03ms以上の成分比率が71%以上となるように好適に調整することができる。
【0142】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体樹脂などを用いるのが好ましく、ポリウレタン樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0143】
上記熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0144】
上記熱可塑性樹脂層の厚さは、0.05mm以上2.5mm以下であるのが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.2mm以上1.8mm以下であるのがさらに好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さが上記範囲内であることによって、積層体の耐衝撃性を有意に向上させることができ、さらに、飛散防止性能を向上させることができる利点がある。
【0145】
積層体の製造方法
上記積層体の製造方法の1態様として、例えば、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第3アクリル樹脂層をこの順に含む射出成形用積層体を予め製造し、この射出成形用積層体を金型内に配置し、そして、金型内に配置された射出成形用積層体の第3アクリル樹脂層側へ、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)を射出して、第2アクリル樹脂層を成形することによって、積層体を製造する方法が挙げられる。この積層体を製造する場合は、得られる積層体は第3アクリル樹脂を含むこととなる。この場合において、第2アクリル樹脂層および第3アクリル樹脂層がほぼ同様の組成を有する場合は、得られた積層体において、これらの樹脂層の明確な組成上の境界は存在しない状態であってもよい。
【0146】
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第3アクリル樹脂層をこの順に含む射出成形用積層体は、公知の成形機(例えば、押出成形機、カレンダーロール成形機、プレス成形機、インジェクション成形機、トランスファー成形機など)を用いて、当業者において通常用いられる条件により製造することができる。射出成形用積層体は好ましくは、厚さが0.1~3.0mmの範囲内であるのが好ましく、0.3~2.5mmの範囲内であるのがより好ましい。射出成形用積層体の厚さが上記範囲内であることによって、良好な射出成形加工性が得られるなどの利点がある。
【0147】
上記射出成形用積層体において、第1アクリル樹脂層の厚さは0.1mm以上1.0mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上0.8mm以下であるのがより好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であるのがさらに好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さは0.05mm以上2.5mm以下であるのが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.2mm以上1.8mm以下であるのがさらに好ましい。第3アクリル樹脂層の厚さは0.01mm以上1.0mm以下であるのが好ましく、0.03mm以上0.5mm以下であるのがより好ましく、0.05mm以上0.4mm以下であるのがさらに好ましい。
【0148】
次いで、上記射出成形用積層体を金型内に配置する。射出成形用積層体を金型内に配置する際において、射出成形用積層体を金型内で仮固定してもよい。仮固定を行うことによって、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の射出成形を良好に行うことができる利点がある。
【0149】
そして、金型内に配置された上記射出成形用積層体の第3アクリル樹脂層側へ、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)を射出して、第2アクリル樹脂層を成形する。樹脂組成物(2)は、第2アクリル樹脂層を形成する樹脂組成物であり、上記第2アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物である。
【0150】
射出成形法としては、通常の射出成形法の他に、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法などを用いることができる。射出成形条件は、各射出成形法に応じて適宜選択することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)を溶融させ、シリンダー温度200~280℃、金型温度35~85℃の条件で、樹脂組成物(2)を金型内へ射出することによって、第2アクリル樹脂層を成形することができる。
【0151】
上記により成形される第2アクリル樹脂層の厚さは0.1mm以上30mm以下であるのが好ましく、0.5mm以上10mm以下であるのがより好ましい。
【0152】
上記射出成形によって製造することができる積層体の概略説明図を図2に示す。本発明において、上記積層体の構成(例えば各層の厚みの比率など)は図2に示される態様に限定されるものではない。
【0153】
上記積層体の製造方法の他の1態様として、例えば、樹脂組成物の溶融物をダイから吐出する押出成形により製造する方法が挙げられる。この方法で積層体を製造する場合は、上記第3アクリル樹脂層は存在しなくてもよい。
【0154】
ダイから吐出する押出成形により、積層体を製造する方法として、例えば下記工程による方法が挙げられる。
上記(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)の溶融物、上記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物および上記(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の溶融物を少なくとも含む溶融樹脂積層体をダイから吐出する工程、および
吐出された溶融樹脂積層体を冷却し、積層体を得る工程。
【0155】
ここで、上記第1アクリル樹脂層は(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)から形成され、上記熱可塑性樹脂層は熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から形成され、および上記第2アクリル樹脂層は(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)から形成される。上記工程により、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第2アクリル樹脂層をこの順に含む積層体を製造することができる。
【0156】
第1アクリル樹脂層を形成する、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)、および、第2アクリル樹脂層を形成する、(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の吐出温度は、樹脂組成および成形する積層体の大きさなどに応じて適宜選択することができる。上記吐出温度は、例えば180~300℃であってよく、200~290℃であるのがより好ましく、220~280℃であるのがさらに好ましい。なお吐出温度は、ダイの吐出口(または吐出直後)における樹脂組成物の溶融物の温度を意味する。
【0157】
上記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物は、必要に応じて加熱した状態でダイから吐出することができる。吐出温度は、例えば130~250℃であってよく、140~230℃であるのがより好ましく、150~200℃であるのがさらに好ましい。
【0158】
(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(1)の溶融物、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物および(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の溶融物を少なくとも含む溶融樹脂積層体をダイから吐出する方法として、例えば、樹脂組成物(1)の溶融物、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物および樹脂組成物(2)の溶融物を、それぞれ、3種3層分配型フィードブロックに供給して3層構成となるように分配した後、マルチマニホールド型ダイのダイリップから、樹脂組成物(1)の溶融物、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融物、および(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)の溶融物から形成された溶融樹脂積層体を吐出する。吐出した溶融積層体は、必要に応じて、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間、さらに、第2冷却ロールと第3冷却ロールに挟み込むことによって冷却してもよい。
【0159】
上記押出成形によって製造することができる積層体において、第1アクリル樹脂層の厚さは0.1mm以上1.0mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であるのがより好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さは0.05mm以上2.5mm以下であるのが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であるのがより好ましい。第2アクリル樹脂層の厚さは0.1mm以上30mm以下であるのが好ましく、0.5mm以上10mm以下であるのがより好ましい。
【0160】
上記押出成形によって製造することができる積層体の概略説明図を図1に示す。本発明において、上記積層体の構成(例えば各層の厚みの比率など)は図1に示される態様に限定されるものではない。
【0161】
上記積層体は、用途に応じて所望の形状に加工することができる。上記積層体は、例えば、電子光学材料(ディスプレイ等の前面板、カバー材料、導光板などの材料)、車両用材料(グレージングやランプカバー、エンブレムなどの外装材料、メーターパネルカバーなどの内装材料)、建材用材料(樹脂製グレージング材料)、各種樹脂基材の材料などとして有用である。
【実施例
【0162】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0163】
下記の実施例および比較例で用いられた、下記表中の第1アクリル樹脂層、第2アクリル樹脂層、第3アクリル樹脂層の各表記の内容は以下の通りである。

・S000:住友化学社製、商品名テクノロイS000、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位を100質量%含むメタクリル共重合体から構成される、メタクリル樹脂フィルム
【0164】
下記の実施例および比較例で用いられた、下記表中の熱可塑性樹脂層の各表記の内容は以下の通りである。

・1185N:DICコベストロポリマー製パンデックスT-1185N(ポリウレタン樹脂、T が0.03ms以上の成分78%)
・8185N:DICコベストロポリマー製パンデックスT-8185N(ポリウレタン樹脂、T が0.03ms以上の成分78%)
・NY80A:BASF製エラストランNY80A10クリヤー(ポリウレタン樹脂、T2Hが0.03ms以上の成分84%)
【0165】
製造例1 メタクリル樹脂の製造
攪拌器を備えた重合反応器に、メタクリル酸メチル97.5質量部およびアクリル酸メチル2.5質量部の混合物と、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.016質量部と、n-オクチルメルカプタン0.16質量部とを、それぞれ連続的に供給し、175℃、平均滞留時間43分で重合反応を行った。次いで、重合反応器から出る反応液(部分重合体)を予熱した後、脱揮押出機に供給し、未反応の単量体成分を気化して回収するとともに、ペレット状のメタクリル樹脂Aを得た。得られたメタクリル樹脂Aの、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位が97.5質量%であり、アクリル酸メチルに由来する単量体単位の含有量が2.5質量%であり、MFRは2g/10分であった。ビカット軟化温度は109℃であった。ビカット軟化温度の測定手順は後記する。
【0166】
製造例2
攪拌機の備わった5Lオートクレーブ内において、メタクリル酸(以下MAAと記す、(株)日本触媒製)とメタクリル酸メチル(以下MMAと記す)とを3:97で混合して単量体成分を得た。この単量体成分に、単量体成分の総和100質量部に対し、重合開始剤としてラウリルパーオキサイド(化薬アクゾ(株)製「ラウロックスK」)を0.4質量部及び連鎖移動剤として1-ドデシルメルカプタンを0.4質量部添加し、これらを溶解させた。更に、単量体成分の総和100質量部に対し、懸濁安定剤としてヒドロキシエチルセルロース(以下HECと記す、三昌(株)製「SANHEC H」)0.060質量部をイオン交換水に溶解させて懸濁重合水相としたうえで、前述の単量体成分の総和100質量部に対し水相150質量部を添加し、懸濁重合を行った。得られたスラリー状の反応液を脱水機((株)コクサン製「遠心機 H-122」)を使用して、脱水及び40Lのイオン交換水を用いて2回洗浄した後、乾燥させ、ビーズ状のメタクリル系重合体組成物を得た。このビーズ状のメタクリル系重合体組成物を、20mmベント付き押出機(東洋精機社製のME型ラボプラストミル)を用いて、スクリュー回転数80rpm、重合体組成物温度220℃で処理量1.5kg/Hr造粒を行い、ペレット形状のメタクリル系重合体組成物を得た。MFRは2g/10分であった。ビカット軟化温度は120℃であった。ビカット軟化温度の測定手順は後記する。
【0167】
製造例3
製造例1で得られたメタクリル樹脂50重量%とスチレン-メチルメタクリレート-無水マレイン酸共重合体樹脂(デンカ(株)製レジスファイR200)50重量%とを混合した後、スクリュー径40mmの単軸押出機(田辺プラスチックス機械株式会社製「VS40」)を使用し、下記の混練条件で溶融混練してストランド状に押出し、水冷してストランドカッターでカッティングすることにより、ペレット状のメタクリル樹脂を得た。MFRは2g/10分であった。ビカット軟化温度は118℃であった。ビカット軟化温度の測定手順は後記する。
(混練条件)
押出機温度:原料投入口から出口までの5つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ220℃、240℃、245℃、245℃、245℃に設定した。
回転数:75rpm
【0168】
製造例4
製造例1で得られたメタクリル樹脂30重量%とスチレン-メチルメタクリレート-無水マレイン酸共重合体樹脂(デンカ(株)製レジスファイR310)70重量%とを混合した後、スクリュー径40mmの単軸押出機(田辺プラスチックス機械株式会社製「VS40」)を使用し、下記の混練条件で溶融混練してストランド状に押出し、水冷してストランドカッターでカッティングすることにより、ペレット状のメタクリル樹脂を得た。MFRは2g/10分であった。ビカット軟化温度は131℃であった。ビカット軟化温度の測定手順は後記する。
(混練条件)
押出機温度:原料投入口から出口までの5つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ220℃、240℃、245℃、245℃、245℃に設定した。
回転数:75rpm
【0169】
製造例5
攪拌機の備わった5Lオートクレーブ内において、メタクリル酸(以下MAAと記す、(株)日本触媒製)とメタクリル酸メチル(以下MMAと記す)とを7.5:92.5で混合して単量体成分を得た。この単量体成分に、単量体成分の総和100質量部に対し、重合開始剤としてラウリルパーオキサイド(化薬アクゾ(株)製「ラウロックスK」)を0.65質量部及び連鎖移動剤として1-ドデシルメルカプタンを0.5質量部添加し、これらを溶解させた。更に、単量体成分の総和100質量部に対し、懸濁安定剤としてヒドロキシエチルセルロース(以下HECと記す、三昌(株)製「SANHEC H」)0.060質量部をイオン交換水に溶解させて懸濁重合水相としたうえで、前述の単量体成分の総和100質量部に対し水相150質量部を添加し、懸濁重合を行った。得られたスラリー状の反応液を脱水機((株)コクサン製「遠心機 H-122」)を使用して、脱水及び40Lのイオン交換水を用いて2回洗浄した後、乾燥させ、ビーズ状のメタクリル系重合体組成物を得た。このビーズ状のメタクリル系重合体組成物を、20mmベント付き押出機(東洋精機社製のME型ラボプラストミル)を用いて、スクリュー回転数80rpm、重合体組成物温度220℃で処理量1.5kg/Hr造粒を行い、ペレット形状のメタクリル系重合体組成物を得た。MFRは5g/10分であった。ビカット軟化温度は121℃であった。ビカット軟化温度の測定手順は後記する。
【0170】
実施例1 積層体の製造
第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層および第3アクリル樹脂層を有する射出成形用積層体の製造
厚さ1mmの枠型に、熱可塑性樹脂である1185Nを入れ、温度180℃で5分間予熱した。次いで2MPaの圧力で3分間プレスし、さらに12MPaの圧力で1分間プレスし、熱可塑性樹脂層を成形した。その後、常温で2MPaの圧力で1分間冷却し、シート状の熱可塑性樹脂層を得た。
【0171】
上記より得られた、シート状の熱可塑性樹脂層を、
0.3mm厚さのメタクリル樹脂フィルム(住友化学社製、商品名テクノロイS000、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位を100質量%含むメタクリル共重合体、第1アクリル樹脂層を構成する)および、
0.1mm厚さのメタクリル樹脂フィルム(住友化学社製、商品名テクノロイS000、樹脂組成は上記と同じ、第3アクリル樹脂層を構成する)との間に介在させた。
温度145℃で30秒予熱した後、1MPaの圧力で30秒間プレスし、次いで2MPaの圧力で1分間プレスし、さらに12MPaの圧力で1分間プレスし成形した。
その後、常温で2MPaの圧力で1分間冷却し、射出成形用積層体を得た。
得られた射出成形用積層体は、第1アクリル樹脂層の厚さが0.3mmであり、熱可塑性樹脂層の厚さが0.6mmであり、第3アクリル樹脂層の厚さが0.1mmであった。
【0172】
積層体の製造
上記より得られた、射出成形用積層体を、105mm×95mmの長方形に切削した。得られた試料の第1アクリル樹脂層側の面を、両面テープを介して120mm×100mm×3mm厚さの金型に貼り付けた。
射出成形用積層体の第3アクリル樹脂層側に、製造例2で得られたメタクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)をシリンダー温度250℃で射出成形し、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第3アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層を有する総厚み3mmの積層体を得た。
【0173】
第2アクリル樹脂層を構成する(メタ)アクリル樹脂のビカット軟化温度は、下記手順に従い行った。

<ビカット軟化温度の測定>
製造例1、製造例2で得られたメタクリル樹脂をシリンダー温度250℃にて射出成形し、厚み3mm、5cm角の成形片を作製した。得られた試験片を製造例1のメタクリル樹脂は83℃で、製造例2のメタクリル樹脂は91℃でそれぞれ16時間アニールしたのち、JIS K 7206:2016「プラスチック-熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)試験方法」に規定のB50法に準拠して、ビカット軟化温度を測定した。
【0174】
熱可塑性樹脂層の、パルスNMR測定におけるスピン-スピン緩和時間T の測定は、下記手順に従い行った。

<水素1パルスNMRの測定>
緩和時間T および成分分率RはパルスNMR装置を用いて得られる信号強度I(τ)に対し、式(F1)によるフィッティングにより算出した。パルスNMR測定はSolid Echo法を用い、測定条件は次の通りである。試料は、シート状の熱可塑性樹脂を用いた。
【0175】
測定装置:minispec mq20(ブルカー社製)
核種:水素1(20MHz)
静磁場強度:0.47テスラ
繰り返し時間:3s
積算回数:128回
温度:23.5℃
【0176】
実施例2
実施例1で得られた射出成形用積層体を120mm×100mm×5mmの金型に貼り付け、総厚さ5mmの積層体を得たこと以外は、実施例1と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0177】
実施例3
射出成形用積層体の調製において、熱可塑性樹脂として8185Nを用いたこと、および、得られた射出成形用積層体を120mm×100mm×4mmの金型に貼り付け、総厚さ4mmの積層体を得たこと以外は、実施例1と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0178】
実施例4
厚さ2mmの枠型に、熱可塑性樹脂である1185Nを入れ、温度180℃で5分間予熱した。次いで2MPaの圧力で3分間プレスし、さらに12MPaの圧力で1分間プレスし、熱可塑性樹脂層を成形した。その後、常温で2MPaの圧力で1分間冷却し、シート状の熱可塑性樹脂層を得た。
上記より得られた、シート状の熱可塑性樹脂層を、
0.3mm厚さのメタクリル樹脂フィルム(住友化学社製、商品名テクノロイS000、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位を100質量%含むメタクリル共重合体、第1アクリル樹脂層を構成する)および、
0.1mm厚さのメタクリル樹脂フィルム(住友化学社製、商品名テクノロイS000、樹脂組成は上記と同じ、第3アクリル樹脂層を構成する)との間に介在させた。
温度145℃で30秒予熱した後、1MPaの圧力で30秒間プレスし、次いで2MPaの圧力で1分間プレスし、さらに12MPaの圧力で1分間プレスし成形した。
その後、常温で2MPaの圧力で1分間冷却し、射出成形用積層体を得た。
上記より得られた、射出成形用積層体を、105mm×95mmの長方形に切削した。得られた試料の第1アクリル樹脂層側の面を、両面テープを介して120mm×100mm×4mm厚さの金型に貼り付けた。
射出成形用積層体の第3アクリル樹脂層側に、製造例2で得られたメタクリル樹脂を含む樹脂組成物(2)をシリンダー温度250℃で射出成形し、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第3アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層を有する総厚み4mmの積層体を得た。各層の厚みは下記表に記す。
【0179】
実施例5
実施例4で得られた射出成形用積層体を120mm×100mm×5mmの金型に貼り付け、総厚さ5mmの積層体を得たこと以外は、実施例4と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0180】
実施例6
厚さ2mmの枠型に、熱可塑性樹脂である8185Nを入れ、温度180℃で5分間予熱した。次いで2MPaの圧力で3分間プレスし、さらに12MPaの圧力で1分間プレスし、熱可塑性樹脂層を成形した。その後、常温で2MPaの圧力で1分間冷却し、シート状の熱可塑性樹脂層を得た。
上記より得られた、シート状の熱可塑性樹脂層を、
0.3mm厚さのメタクリル樹脂フィルム(住友化学社製、商品名テクノロイS000、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する構成単位を100質量%含むメタクリル共重合体、第1アクリル樹脂層を構成する)および、
0.1mm厚さのメタクリル樹脂フィルム(住友化学社製、商品名テクノロイS000、樹脂組成は上記と同じ、第3アクリル樹脂層を構成する)との間に介在させた。
温度145℃で30秒予熱した後、1MPaの圧力で30秒間プレスし、次いで2MPaの圧力で1分間プレスし、さらに12MPaの圧力で1分間プレスし成形した。
その後、常温で2MPaの圧力で1分間冷却し、射出成形用積層体を得た。
上記より得られた、射出成形用積層体を、105mm×95mmの長方形に切削した。得られた試料の第1アクリル樹脂層側の面を、両面テープを介して120mm×100mm×4mm厚さの金型に貼り付けた。
射出成形用積層体の第3アクリル樹脂層側に、製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物をシリンダー温度250℃で射出成形し、第1アクリル樹脂層、熱可塑性樹脂層、第3アクリル樹脂層および第2アクリル樹脂層を有する総厚み4mmの積層体を得た。各層の厚みは下記表に記す。
【0181】
実施例7
実施例3に準じて、熱可塑性樹脂として8185Nを用いて射出成形用積層体を調製した。得られた射出成形用積層体は、第1アクリル樹脂層の厚さが0.3mmであり、熱可塑性樹脂層の厚さが1.0mmであり、第3アクリル樹脂層の厚さが0.1mmであった。
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例3で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例3と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0182】
実施例8
製造例3で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例4で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例7と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0183】
比較例1
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例1で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例1と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0184】
比較例2
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例1で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形し、第2アクリル樹脂層の厚さを3mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0185】
比較例3
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例1で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例2と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0186】
比較例4
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例1で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例3と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0187】
比較例5
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例1で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例4と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0188】
比較例6
製造例2で得られたメタクリル樹脂組成物の代わりに、製造例1で得られたメタクリル樹脂組成物を用いて射出成形した以外は、実施例6と同様にして積層体を調製した。各層の厚みは下記表に記す。
【0189】
実施例9
ポリウレタン樹脂(NY80A)を、スクリュー径40mmの一軸押出機を用いて170℃で溶融混練し、製造例5で得られたメタクリル樹脂を、スクリュー径25mmの一軸押出機を用いて230℃で溶融混練した。両溶融物を、210℃に設定したTダイを介して両表層がメタクリル樹脂となるように3層化し、押し出してポリシングロールに両面が完全に接するようにして冷却して、ポリウレタン樹脂の両面にメタクリル樹脂層が積層された2種3層の樹脂シートを得た。該樹脂シートの全体の厚さは2.9mmであり、熱可塑性樹脂層の厚さは1.0mmであり、第1アクリル樹脂層の厚さは0.3mmであり、第2アクリル樹脂層の厚さは1.6mmであった。
【0190】
比較例7
ポリウレタン樹脂(NY80A)を、スクリュー径40mmの一軸押出機を用いて170℃で溶融混練し、メタクリル樹脂(住友化学株式会社製、スミペックスMH5、MFR:5g/10分、ビカット軟化温度:111℃)を、スクリュー径25mmの一軸押出機を用いて230℃で溶融混練した。両溶融物を、210℃に設定したTダイを介して両表層がメタクリル樹脂となるように3層化し、押し出してポリシングロールに両面が完全に接するようにして冷却して、ポリウレタン樹脂の両面にメタクリル樹脂層が積層された2種3層の樹脂シートを得た。該樹脂シートの全体の厚さは2.4mmであり、熱可塑性樹脂層の厚さは0.4mmであり、第1アクリル樹脂層の厚さは0.5mmであり、第2アクリル樹脂層の厚さは1.5mmであった。
【0191】
上記実施例および比較例により得られた積層体を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0192】
耐衝撃性評価(-30℃)
実施例および比較例より得られた積層体を、10cm×10cmの大きさに切断し、平板状の試験片を調製した。
直径3cmの孔が開いた試験片支持台に対して、直径3cmの孔の中心に、調製した試験片の中央部が位置するように、押え板で挟んで、試験片を固定した。
固定した試験片を、温度-30℃の条件下で3時間静置した。その後、ASTM-D3763に準拠して、直径1/2インチの半球状の先端を有するストライカーを用いて、打ち抜き速度は、5m/秒を参考速度として選定し、試験片の第2アクリル樹脂層側の中央部に衝撃を与えた。
衝撃試験後の試験片(衝撃箇所)の状態を、下記基準に基づき目視評価した。

○:衝撃箇所が割れたものの、ストライカーは貫通せず、衝撃面に穴が開くことは無かった。
×:衝撃箇所が割れ、ストライカーが貫通し、衝撃面に穴が開いた。

さらに、衝撃箇所から脱離した破片の個数をカウントし、また、破片の平均重量(g)を求めた。結果を下記表に記す。

○:衝撃箇所から割れたおよび/または剥がれた破片の表面積が小さく、平均重量が0.05g以下であった。
×:衝撃箇所から割れたおよび/または剥がれた破片の平均重量が0.05gを上回った。
【0193】
【表1】
【0194】
【表2】
【0195】
【表3】
【0196】
上記実施例で得られた積層体は、いずれも、低温条件下であっても良好な耐衝撃性を有していることが確認された。特に、第2アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂のビカット軟化温度が115℃以上145℃以下であることによって、耐衝撃性評価において、衝撃箇所において割れ・剥がれにより落下する破片の表面積が有意に小さくなることが確認された。破片の表面積そして重量が小さいことによって、例えば樹脂グレージングとして用いられた場合において、衝撃により破片が生じたときに、飛散した破片が周辺の設備および/または人体に直撃することにより、これらが傷つけられる恐れを低減することができる利点がある。
比較例1~7は、第2アクリル樹脂層に含まれる(メタ)アクリル樹脂のビカット軟化温度が115℃未満である例である。これらの例においては、衝撃面に穴が開くことは無かったものの、脱離破片の重量が0.05gを超えていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0197】
上記樹脂積層体は、耐衝撃性、特に低温条件下における耐衝撃性が良好である利点がある。上記樹脂積層体は、例えば、樹脂グレージング材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0198】
1:積層体、
10:第1アクリル樹脂層、
12:第2アクリル樹脂層、
14:熱可塑性樹脂層、
16:第3アクリル樹脂層。
図1
図2