(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】鋳物用砂型製造用組成物及び鋳物用砂型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 1/00 20060101AFI20230921BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20230921BHJP
B22C 1/18 20060101ALI20230921BHJP
B22C 5/12 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
B22C1/00 K
B22C1/10 C
B22C1/18 B
B22C1/00 B
B22C5/12
(21)【出願番号】P 2019149860
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】須永 基男
(72)【発明者】
【氏名】合田 龍平
(72)【発明者】
【氏名】岡根 利光
(72)【発明者】
【氏名】小菅 勝典
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第4920794(JP,B1)
【文献】特開2016-209920(JP,A)
【文献】特開2013-233584(JP,A)
【文献】特公昭51-020408(JP,B1)
【文献】特開昭58-100938(JP,A)
【文献】特開昭58-077739(JP,A)
【文献】特開2018-153821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00
B22C 1/10
B22C 1/18
B22C 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量部の鋳物砂と、3質量部以上
5質量部以下の珪酸カリウムと、0.5質量部以上1.2質量部以下の多孔性材料と、を含む鋳物用砂型製造用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳物用砂型製造用組成物であって、
100gあたりの体積が94mL以上である鋳物用砂型製造用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋳物用砂型製造用組成物であって、
前記鋳物用砂型製造用組成物を成型し、200℃で加熱した第1試料の抗折力は2MPa以上であり、前記鋳物用砂型製造用組成物を成型し、200℃で加熱し、さらに500℃で加熱した第2試料の抗折力は、前記第1試料の抗折力より低い鋳物用砂型製造用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳物用砂型製造用組成物であって、
前記多孔性材料は多孔性シリカゲルである鋳物用砂型製造用組成物。
【請求項5】
鋳物用砂型製造用組成物を用い、ブロー工法により鋳物用砂型を製造する鋳物用砂型の製造方法であって、
前記鋳物用砂型製造用組成物は、100質量部の鋳物砂と、3質量部以上
5質量部以下の珪酸カリウムと、0.5質量部以上1.2質量部以下の多孔性材料と、を含む鋳物用砂型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は鋳物用砂型製造用組成物及び鋳物用砂型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に鋳物用砂型製造用組成物が開示されている。鋳物用砂型製造用組成物は、鋳物用砂型を製造するために使用される。鋳物用砂型は、鋳物砂とバインダーとを含む。バインダーとして、無機系バインダーと有機系バインダーとがある。無機系バインダーは、環境や作業員への悪影響が小さいという長所を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無機系バインダーとして、珪酸ナトリウムを用いることが考えられる。珪酸ナトリウムは高粘度であるため、珪酸ナトリウムを含む鋳物用砂型製造用組成物は流動性が低い。流動性が低い鋳物用砂型製造用組成物は、ブロー工法に適用することが困難である。本開示の1つの局面は、流動性が高い鋳物用砂型製造用組成物及び鋳物用砂型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの局面は、100質量部の鋳物砂と、3質量部以上の珪酸カリウムと、0.5質量部以上1.2質量部以下の多孔性材料と、を含む鋳物用砂型製造用組成物である。本開示の1つの局面である鋳物用砂型製造用組成物は流動性が高い。
本開示の別の局面は、鋳物用砂型製造用組成物を用い、ブロー工法により鋳物用砂型を製造する鋳物用砂型の製造方法であって、前記鋳物用砂型製造用組成物は、100質量部の鋳物砂と、3質量部以上の珪酸カリウムと、0.5質量部以上1.2質量部以下の多孔性材料と、を含む鋳物用砂型の製造方法である。本開示の別の局面である鋳物用砂型の製造方法によれば、鋳物用砂型を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】ブロー工法に使用する木型の全体構成を表す写真である。
【
図2】ブロー工法に使用する木型のうち、砂型内周部に接する蓋の部分の構成を表す写真である。
【
図3】ブロー工法に使用する木型のうち、砂型外周部に接する器の部分の構成を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.鋳物用砂型製造用組成物の構成
本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、鋳物砂を含む。鋳物砂として、例えば、天然砂、人工砂等が挙げられる。天然砂として、例えば、フラタリー等が挙げられる。
【0008】
本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、珪酸カリウムを含む。珪酸カリウムの含有量は、100質量部の鋳物砂に対し、3質量部以上である。珪酸カリウムの含有量は、100質量部の鋳物砂に対し、4質量部以上、7質量部以下であることが好ましい。
【0009】
珪酸カリウムの含有量が3質量部以上であることにより、鋳物用砂型の強度が高い。珪酸カリウムの含有量が4質量部以上である場合、鋳物用砂型の強度が一層高い。珪酸カリウムの含有量が7質量部以下である場合、鋳物用砂型組成物の流動性が高い。珪酸カリウムの含有量が5質量部以下である場合、鋳物用砂型組成物の流動性が一層高い。珪酸カリウムはバインダーとして機能する。珪酸カリウムは無機系バインダーである。
【0010】
本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、例えば、有機系バインダーを含まないか、有機系バインダーの含有量が少ない。有機系バインダーを含まないか、有機系バインダーの含有量が少ない場合、本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、環境や作業員への悪影響を抑制できる。
【0011】
本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、多孔性材料を含む。多孔性材料として、例えば、多孔性シリカゲル等が挙げられる。多孔質シリカとして、例えば、MB4B、BW-80、PA610B(いずれも富士シリシア化学株式会社製の商品名)が挙げられる。多孔性材料の含有量は、100質量部の鋳物砂に対し、0.5質量部以上1.2質量部以下である。多孔性材料の含有量が、0.5質量部以上であることにより、鋳物用砂型製造用組成物の流動性が高い。多孔性材料の含有量が1.2質量部以下であることにより、鋳物用砂型の強度が高い。
【0012】
本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、例えば、100gあたりの体積が94mL以上である。100gあたりの体積の測定方法は以下のとおりである。メスシリンダーを用意する。メスシリンダーの形状は円筒形である。メスシリンダーの内径は27.6mmである。メスシリンダーの材質はガラスである。
【0013】
各成分を混練することで鋳物用砂型製造用組成物を製造した直後に、鋳物用砂型製造用組成物をビニール袋に入れ、密封する。密封開始時から3時間後に、100gの鋳物用砂型製造用組成物をビニール袋から取り出し、漏斗を使って、メスシリンダーに流し込む。メスシリンダー内の鋳物用砂型製造用組成物の体積を、100gあたりの体積とする。
【0014】
100gあたりの体積は、未圧縮状態での体積である。100gあたりの体積は、鋳物用砂型製造用組成物の流動性を反映した物性である。鋳物用砂型製造用組成物の流動性が高いほど、100gあたりの体積も大きくなる。本開示の鋳物用砂型製造用組成物は、100gあたりの体積が94mL以上であるので、流動性が高い。
【0015】
本開示の鋳物用砂型製造用組成物を用いて、以下のように製造した試料を第1試料、第2試料とする。
第1試料:各成分を混練することで鋳物用砂型製造用組成物を製造した直後に、鋳物用砂型製造用組成物をビニール袋に入れ、密封する。密封開始時から3時間後に、鋳物用砂型製造用組成物をビニール袋から取り出し、木型に手込めし、砂型を成型する。室温で15分間放置した後、砂型を木型から取り出す。砂型を200℃の電気炉に入れ、15分間加熱する。加熱後の砂型を第1試料とする。
【0016】
第2試料:まず、第1試料を製造する。次に、第1試料を500℃の電気炉に入れ、15分間加熱する。加熱後の砂型を第2試料とする。
第1試料の抗折力は、2MPa以上であることが好ましい。第1試料の抗折力が2MPa以上である場合、本開示の鋳物用砂型製造用組成物を用いて製造した鋳物用砂型の強度が高い。第2試料の抗折力は、第1試料の抗折力より低いことが好ましい。第2試料の抗折力が第1試料の抗折力より低い場合、本開示の鋳物用砂型製造用組成物を用いて製造した鋳物用砂型の崩壊性が優れている。抗折力の測定に使用する装置はSHIMADZU AG-X plus SLBL-5kNである。抗折力の測定方法は、矩形試験体を使用した3点曲げ抗折試験である。抗折力の測定方法は、詳しくは以下のとおりである。試験片の支点距離を40mmとする。圧子の直径を10mmとする。降下速度を1mm/minとする。試験片の寸法は、50×16×10mmとする。なお、使用する試験機は本来プラスチック用の試験機であるが、厚さ3mm以上の試験片であれば、砂型の測定も可能である。測定方法は、JIS K7171に準拠する。
2.鋳物用砂型の製造方法
本開示の鋳物用砂型の製造方法では、前記「1.鋳物用砂型製造用組成物の構成」で述べた鋳物用砂型製造用組成物を用いる。本開示の鋳物用砂型の製造方法では、ブロー工法により鋳物用砂型を製造する。ブロー工法には、例えば、
図1~
図3に示す木型を使用することができる。
本開示の鋳物用砂型製造用組成物は流動性が高いため、ブロー工法を使用することができる。本開示の鋳物用砂型の製造方法により製造した鋳物用砂型は強度が高い。
本開示の鋳物用砂型の製造方法は、例えば、以下のように行うことができる。鋳物砂にPA610Bを添加し、撹拌機を用いて十分混合することで、混合物を作製する。この混合物に、1号珪酸カリウム(モル比:2.1 比重1.558)を添加し、充分混合することで、鋳物用砂型製造用組成物を作製する。
次に、ブロー装置に鋳物用砂型製造用組成物を投入し、密閉する。次に、コンプレッサーによって空気圧をかけ、吹き込み圧力1.0MPaの条件で、鋳物用砂型製造用組成物を木型に吹き込む。次に、振動台で振動をかける。次に、50℃の乾燥機で3時間乾燥硬化させ、鋳物用砂型を取り出す。
【0017】
3.実施例
(3-1)鋳物用砂型製造用組成物S1~S10の製造
表1に示す配合成分を含む鋳物用砂型製造用組成物S1~S10を製造した。鋳物用砂型製造用組成物S1~S10の製造方法は、まず、鋳物砂に多孔性シリカを加えて1分間攪拌した後、珪酸カリウムを加えてさらに3分間攪拌する方法であった。
【0018】
【表1】
表1における鋳物砂は、フラタリーであった。表1における多孔性シリカは、PA610B(富士シリシア化学社製)であった。珪酸カリウムの比重は1.558であった。
【0019】
(3-2)鋳物用砂型製造用組成物S1~S10の評価
鋳物用砂型製造用組成物S1~S10のそれぞれについて、100gあたりの体積、第1試料の抗折力、及び第2試料の抗折力を測定した。測定方法は上述したとおりである。測定結果を表1に示す。
【0020】
表1に低下率も示す。低下率とは、((A1-A2)/A1)×100で表される値である。A1は第1試料の抗折力である。A2は第2試料の抗折力である。
鋳物用砂型製造用組成物S3、S5~S7、S9、S10では、100gあたりの体積が大きく、流動性が高かった。また、鋳物用砂型製造用組成物S3、S5~S7、S9、S10では、第1試料の抗折力が大きく、低下率が大きかった。
【0021】
4.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0022】
(1)鋳物用砂型製造用組成物は、鋳物砂、珪酸カリウム、及び多孔性材料以外に加えて、他の成分をさらに含んでいてもよい。
(2)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0023】
(3)上述した鋳物用砂型製造用組成物の他、当該鋳物用砂型製造用組成物を構成要素とするシステム、鋳物用砂型製造用組成物の製造方法、鋳物用砂型の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。