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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】アクリロニトリル二量体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/30 20060101AFI20230921BHJP
   C07C 253/34 20060101ALI20230921BHJP
   C07C 255/09 20060101ALI20230921BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
C07C253/30
C07C253/34
C07C255/09
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022508882
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 KR2021007222
(87)【国際公開番号】W WO2022080621
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0131026
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】アン、ユチン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウォンソク
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヒョンチョル
(72)【発明者】
【氏名】パク、セ-フム
(72)【発明者】
【氏名】オ、ワン-キュ
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-098149(JP,A)
【文献】特開昭61-158953(JP,A)
【文献】特表2015-505304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/30
C07C 253/34
C07C 255/09
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応溶媒、プロトン供与体溶媒およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させてアクリロニトリル二量体を製造する段階(段階1);
前記段階1で製造されたアクリロニトリル二量体を含む反応混合物から、反応溶媒、プロトン供与体溶媒および未反応アクリロニトリルを除去する段階(段階2A):および
前記段階2A反応溶媒、プロトン供与体溶媒および未反応アクリロニトリルが除去されたアクリロニトリル二量体を含む反応混合物にアミン系溶媒を添加して抽出して、アクリロニトリル二量体とリン系触媒を分離する段階(段階2);を含
50℃、760torrで、下記数式1で表されるリン系触媒のアミン系溶媒-アジポニトリルの分配係数(K AM/ADN )は、2.5以上であるアクリロニトリル二量体の製造方法。
[数式1]
AM/ADN =C AM /C ADN
前記数式1中、
AM は、アミン系溶媒中のリン系触媒の質量分率であり、
ADN は、アジポニトリル中のリン系触媒の質量分率である。
【請求項2】
前記反応溶媒は、トルエン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジオキサン、クロロベンゼンおよびキシレンからなる群より選択されるいずれか1つ以上である、請求項1に記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項3】
前記反応溶媒は、トルエンである、請求項1に記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項4】
前記プロトン供与体溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール、ベンジルアルコールおよびシクロヘキサノールからなる群より選択されるいずれか1つ以上である、請求項1~3のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項5】
前記プロトン供与体溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)である、請求項1~4のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項6】
前記リン系触媒は、炭素数1~10のアルキルジフェニルホスフィナイトである、請求項1~5のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項7】
前記リン系触媒は、イソプロピルジフェニルホスフィナイト(isopropyl diphenylphosphinite)、またはエチルジフェニルホスフィナイト(ethyl diphenylphosphinite)である、請求項1~6のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項8】
前記アミン系溶媒は、トリエチルアミン(triethylamine)およびトリオクチルアミン(trioctylamine)からなる群より選択されるいずれか1つ以上である、請求項1~のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項9】
前記アミン系溶媒は、トリエチルアミン(triethylamine)、またはトリオクチルアミン(trioctylamine)である、請求項1~のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項10】
前記段階2は、30℃以上80℃以下で行われる、請求項1~のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【請求項11】
前記段階2は、1分以上30分以下で行われる、請求項1~10のいずれかに記載のアクリロニトリル二量体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
本出願は、2020年10月12日付の韓国特許出願第10-2020-0131026号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、アクリロニトリル二量体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2-メチレングルタロニトリル(2-methyleneglutaronitrile、MGN)、1,4-ジシアノブテン(1,4-dicyanobutene、DCB)および/またはアジポニトリル(Adiponitrile、AND)などのアクリロニトリル二量体は、ナイロン66の主要単量体、サビ抑制剤およびゴム材料用硬化促進剤などの製造に使用される前駆体物質で、その他にも多様な方面に有用に使用される。アクリロニトリルの二量体を得る方法としては、リン系触媒の存在下にアクリロニトリルを二量化する方法が一般的である。
【0004】
ただし、前記反応に使用されるリン系触媒は、反応性と選択度に優れているのに対し、均一系触媒システム下で反応が進行して触媒の分離が難しいのが現状である。一般的な触媒回収方法としては蒸留を用いるが、蒸留時、高い温度と圧力によって触媒が分解されたり、生成物である二量体の副反応をもたらす可能性がある。
【0005】
そこで、均一系触媒システムから触媒の分解および副反応なしに効果的に触媒を抽出するために液体-液体抽出(Liquid-liquid Extraction、LLE)を利用することができる。一例として、米国特許登録番号第4639539号では、抽出溶媒としてホルムアミドを用いてホルムアミドと反応溶媒であるトルエンの相分離により、生成物はホルムアミドとして、触媒はトルエンとして抽出する方法を提供した。ホルムアミドとトルエンの相平衡システムは、触媒の分離には悪くない分配係数を有するが、生成物が2つの溶媒ともに均等に溶解して、生成物の回収のためには各溶媒での分離工程が追加的に必要になるというデメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許登録番号第4639539号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明は、液体-液体抽出(Liquid-liquid Extraction、LLE)を利用して触媒の分解および生成物の副反応の可能性を遮断し、触媒だけの抽出に効果的な溶媒を使用するアクリロニトリル二量体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記のアクリロニトリル二量体の製造方法を提供する:
反応溶媒、プロトン供与体溶媒およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させてアクリロニトリル二量体を製造する段階(段階1);および
前記段階1で製造されたアクリロニトリル二量体を含む反応混合物にアミン系溶媒を添加し抽出して、アクリロニトリル二量体とリン系触媒を分離する段階(段階2);を含む、
アクリロニトリル二量体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒の回収過程で触媒が分解されたり、副反応が進行する可能性が顕著に減少し、単一系触媒システムの触媒を効果的に分離してアクリロニトリル二量体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、アクリロニトリルの二量体の製造過程で使用されたリン系触媒を効率的に抽出するために、下記の製造方法を提供する:
反応溶媒、プロトン供与体溶媒およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させてアクリロニトリル二量体を製造する段階(段階1);および
前記段階1で製造されたアクリロニトリル二量体を含む反応混合物にアミン系溶媒を添加し抽出して、アクリロニトリル二量体とリン系触媒を分離する段階(段階2);を含む、
アクリロニトリル二量体の製造方法。
【0011】
以下、本発明を各段階別に詳しく説明する。
【0012】
(段階1:アクリロニトリル二量体の製造段階)
本発明の段階1は、アクリロニトリルの二量体を製造する段階であって、反応溶媒、プロトン供与体溶媒およびリン系触媒の存在下、アクリロニトリルを反応させる段階である。前記段階1は、リン系触媒の存在下に溶液内でアクリロニトリル二量体を製造する通常の方法であれば、その特別な制限がない。ここで、アクリロニトリル二量体は、2-メチレングルタロニトリル(2-methyleneglutaronitrile、MGN)、1,4-ジシアノブテン(1,4-dicyanobutene、DCB)および/またはアジポニトリル(Adiponitrile、AND)などを含む。
一例として、前記反応溶媒は、不活性反応有機溶媒であることが好ましい。反応に不活性の有機溶媒としては、1,4-ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル溶媒;N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ベンゾニトリルなどの芳香族炭化水素溶媒;オクタン、デカン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタンなどの脂肪族炭化水素溶媒などが挙げられ、トルエン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジオキサン、クロロベンゼン、またはキシレンが好ましいか、これに制限されない。このような反応に不活性の有機溶媒は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。より好ましくは、前記溶媒は、トルエンであってもよい。
【0013】
前記プロトン供与体溶媒は、アクリロニトリルの二量体の製造反応でプロトン供与体の役割(proton donatin)をする物質で、当業界にてアクリロニトリルの二量体化反応に通常使用されるプロトン供与体溶媒であれば、特に制限されない。一例として、水;エチレングリコール、グリセロール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、プロパノール、プロパンジオ-ル、ブタノール、シクロヘキサノール、またはベンジルアルコールなどのアルコール;またはこれらの混合物であってもよいが、これに限定されない。好ましくは、前記プロトン供与体溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール、ベンジルアルコール、およびシクロヘキサノールからなる群より選択されるいずれか1つ以上であってもよく、より好ましくは、イソプロパノール(IPA)であってもよい。
【0014】
前記リン系触媒は、好ましくは、炭素数1~10のアルキルジフェニルホスフィナイトであってもよく、より好ましくは、イソプロピルジフェニルホスフィナイト(isopropyl diphenylphosphinite)、またはエチルジフェニルホスフィナイト(Ethyl diphenylphosphinite)であってもよい。ここで、前記アルキル基は、直鎖または分枝鎖であってもよく、炭素数は1~10である。具体例としては、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、1-メチル-ブチル、1-エチル-ブチル、ペンチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、オクチル、n-オクチル、tert-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、1-エチル-プロピル、1,1-ジメチル-プロピル、イソヘキシル、2-メチルペンチル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシルなどがあるが、これらに限定されない。
【0015】
(段階2:アクリロニトリル二量体とリン系触媒を分離する段階)
本発明の段階2は、段階1で製造されたアクリロニトリル二量体と製造後残留するリン系触媒を液体-液体抽出(Liquid-liquid Extraction、LLE)で分離する段階で、特に反応生成物であるアクリロニトリル二量体とリン系触媒とが混合された反応混合物からリン系触媒だけを効率的に抽出させるために、アミン系溶媒を抽出溶媒として使用する。前記「反応混合物」は、段階1のアクリロニトリル二量体の製造段階を行った混合物で、反応溶媒、プロトン供与体溶媒、リン系触媒、反応生成物であるアクリロニトリル二量体および未反応物質であるアクリロニトリルを含むことができる。
【0016】
前記抽出溶媒は、液体-液体抽出(Liquid-liquid Extraction、LLE)でターゲット物質を抽出するために使用される溶媒である。液体-液体抽出法は、液体試料に混合されたターゲット物質を試料の溶媒よりターゲット物質とさらに親和力の高い溶媒(抽出溶媒)を用いて分配の差で抽出する方法である。この時、ターゲット物質を含む液体試料と抽出溶媒とは互いに混合されてはならず、抽出溶媒は抽出後除去が容易な揮発性の高い溶媒が好ましい。よって、前記段階2では、抽出溶媒としてアミン系溶媒を使用する。
【0017】
前記アミン系溶媒には、段階1の生成物である2-メチレングルタロニトリル(2-methyleneglutaronitrile、MGN)、1,4-ジシアノブテン(1,4-dicyanobutene、DCB)および/またはアジポニトリル(Adiponitrile、AND)などがよく混合されず、抽出溶媒として好ましい。また、一般的なアクリロニトリル二量体の製造工程でリン系触媒の抽出時に使用するアルカン系溶媒に比べて、段階1の生成物に対する分配係数が高く、抽出効率が向上して、リン系触媒の回収率を増加させる。
【0018】
一例として、50℃、760torrで、下記数式1で表されるリン系触媒のアミン系溶媒-アジポニトリルの分配係数(KAM/ADN)は、2.5以上、2.6以上、2.7以上、または2.8以上であってもよい。前記分配係数の上限は特に制限されないが、一例として6.0以下、5.0以下、または4.0以下であってもよい。
【0019】
[数式1]
AM/ADN=CAM/CADN
前記数式1中、
AMは、アミン系溶媒中のリン系触媒の質量分率であり、
ADNは、アジポニトリル中のリン系触媒の質量分率である。
【0020】
また、前記アミン系溶媒は、リン系触媒だけを選択的に抽出できるように、アクリロニトリル二量体と混和性(miscibility)が低くなければならない。
【0021】
前記アミン系溶媒は、密度が0.950g/cm3以下、または0.930g/cm3以下であることが好ましい。アクリロニトリルの二量化反応で生成される二量体は、大部分密度が1.0g/cm3水準である1,4-ジシアノブテンであるので、前記C4-10の不飽和炭化水素が前記密度範囲を満足する時、抽出段階でアクリロニトリル二量体と相分離が円滑に起こり得る。
【0022】
前記アミン系溶媒としては特別な制限はないが、3級アミンが好ましく、一例として、前記アミン系溶媒は、トリエチルアミン(triethylamine)およびトリオクチルアミン(trioctylamine)からなる群より選択されるいずれか1つ以上であってもよく、より好ましくは、トリエチルアミン(trimethylamine)、またはトリオクチルアミン(trioctylamine)などが使用できる。最も好ましくは、前記アミン系溶媒は、トリエチルアミンであってもよい。
【0023】
段階2で、前記アミン系溶媒の使用量は、抽出対象である反応混合物の量に応じて調節可能である。一例として、段階1で得られた反応混合物100重量部に対して、前記アミン系溶媒は、80~150重量部、または90~130重量部、または100~120重量部の範囲で使用できる。
【0024】
万一、アミン系溶媒の使用量が過度に少なければ、リン系触媒が十分に抽出できず、アクリロニトリル二量体相に触媒成分が残留することがあり、逆に、アミン系溶媒を過度に使用する場合、アクリロニトリル二量体が共に抽出されたり、アクリロニトリル二量体と相分離が困難になりうるので、前記範囲を満足することが好ましい。
【0025】
一方、好ましくは、前記段階2は、30℃以上80℃以下で行われる。段階2の実施温度が30℃に至らなかった場合、ターゲット物質の抽出効率が低くなる問題があり、80℃を超える場合、抽出溶媒が揮発する問題がある。
【0026】
好ましくは、前記段階2は、30分以下で行われる。30分以上抽出が行われる場合、工程効率が減少する可能性が存在する。また、前記段階2は、1分以上、2分以上、または3分以上進行できる。段階2の進行時間が1分未満の場合、リン系触媒が触媒溶媒として十分に抽出されないことがある。
【0027】
よって、前記温度および時間範囲内で反応アミン系溶媒を十分に混合した後、混合物を静置して相分離させ、上層液と下層液を分離して抽出を完了する。
【0028】
この時、上層液は、アミン系溶媒およびリン系触媒を含み、下層液は、アクリロニトリル二量体を含む。
【0029】
下層液と分離された上層液は、アミン系溶媒を除去し、純粋なリン系触媒を回収するために、減圧蒸留過程をさらに経ることができる。
【0030】
下層液、つまり、アクリロニトリル二量体相は、大部分1,4-ジシアノブテン(DCB)からなっており、メチレングルタロニトリル(MGN)を少量含むことができる。よって、前記MGNを除去するためにアクリロニトリル二量体相を追加的に精製し、部分水添反応を経て、ヘキサメチレンジアミンの前駆体であるアジポニトリルを製造することができる。
【0031】
一方、前記段階1で蒸留された反応溶媒、プロトン供与体溶媒および未反応アクリロニトリルと、段階2で分離されたリン系触媒は、反応容器に回収されて再使用できる。このように反応の溶媒および原料物質を再循環させることによって、製造費用を節減し、工程効率性を高めることができる。
【0032】
一方、前記段階2は、アミン系溶媒の添加前、前記アクリロニトリル二量体を含む反応混合物から低沸点物質を除去する段階(段階2A)をさらに含むことができる。前記段階2Aで除去される低沸点物質は、一例として、反応溶媒、プロトン供与体溶媒および/または未反応アクリロニトリルを含むことができる。前記段階2Aが追加的に含まれる場合、反応混合物は、アクリロニトリル二量体およびリン系触媒から構成されて、後に行われるリン系触媒の抽出効率がより増加できる。
【0033】
以下、本発明の理解のためにより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0034】
下記の実施例および比較例では、本発明の一実施例である抽出溶媒の抽出効率を確認するために、触媒と生成物だけを含む任意の反応混合物で液体-液体抽出を行った。
【0035】
(実験例1:触媒の分配係数評価)
抽出溶媒およびアクリロニトリル二量体に対するリン系触媒の分配係数を知るために、第1精製過程により反応混合物中の炭化水素系溶媒、アルコールおよび未反応アクリロニトリルは除去された状況を仮定して、下記の実験を行った。
【0036】
触媒であるイソプロピルジフェニルホスフィナイト(isopropyl diphenylphosphinite、0.634g)と生成物アジポニトリル(adiponitrile、1.902g)とを混合してイソプロピルジフェニルホスフィナイト25wt%溶液を製造した。製造された溶液に抽出溶媒としてトリエチルアミン(triethylamine)2mlを投入し、50℃に加熱後、約3~5分間撹拌した後、層分離が起こるまで待った。層が分離されると、抽出溶媒層である上層液(Extractd)とアジポニトリル層である下層液(Raffinate)からそれぞれ0.25mlを抽出して、GC(GC2030、Shimadzu社)で成分分析をした。この時、ディテクタはFIDであり、350℃に設定し、カラムはHP-5MSを使用し、40-280℃に設定した。Injection portの温度は260℃であり、移動相はN2を使用した。
【0037】
(比較実験例1)
抽出溶媒としてヘキサン(Hexane)を用いたことを除けば、前記実施例1と同様の方法で層分離を進行させた。
【0038】
前記実験例1および比較実験例1で抽出した上層液と下層液それぞれをGas Chromatography(GC)で成分分析をして、各層に含まれている触媒の分率を50℃、760torrで確認した。以後、下記数式1により分配係数を計算して表1に示した。
【0039】
[数式1]
AM/ADN=CAM/CADN
前記数式1中、
AMは、アミン系溶媒中のリン系触媒の質量分率であり、
ADNは、アジポニトリル中のリン系触媒の質量分率である。
【0040】
【表1】
【0041】
前記表1に示されているように、通常使用されるヘキサンを抽出溶媒として用いた比較例1に比べて、トリエチルアミンを用いた実施例1の触媒の分配係数が約1.5倍大きい。つまり、ヘキサンに比べてトリエチルアミンにリン系触媒がより良く溶解してトリエチルアミンを抽出溶媒として用いる場合、リン系触媒の抽出効率がより大きいことを確認することができる。
【0042】
(実施例1)
1Lの反応器にトルエン220ml、アクリロニトリル66ml、およびイソプロピルアルコール22mlを投入し、エチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)を前記アクリロニトリルに対して3モル%投入した。前記混合物を60℃で3時間撹拌して反応させた。
【0043】
反応が終了した後、反応混合物を温度80℃、圧力50torr下で蒸留して、トルエン、イソプロパノール、および未反応アクリロニトリルを反応混合物から除去した。
【0044】
その後、反応混合物にトリエチルアミンを27ml投入し、50℃で5分間撹拌した。撹拌を止めて相分離が起こるように静置した後、上層液と下層液を分離し、ガスクロマトグラフィー(GC/FID、Shimadzu、FID:350℃、Column:HP-5MS、40-280℃、Injection port temperature:260℃、移動相:N2)を用いて上層液と下層液の成分を分析した。
【0045】
分析の結果、下層液は1,4-ジシアノブテン(DCB)79.76重量%、メチレングルタロニトリル(MGN)3.74重量%、エチルジフェニルホスフィナイト8.186重量%およびトリエチルアミン8.30重量%を含むことが確認され、上層液はトリエチルアミン73.17重量%、エチルジフェニルホスフィナイト24.38重量%、1,4-ジシアノブテン(DCB)2.331重量%、メチレングルタロニトリル(MGN)0.109重量%を含むことが確認された。
【0046】
(比較例1)
1Lの反応器にトルエン220ml、アクリロニトリル66ml、およびイソプロピルアルコール22mlを投入し、エチルジフェニルホスフィナイト(Ph2POEt)を前記アクリロニトリルに対して3モル%投入した。前記混合物を60℃で3時間撹拌して反応させた。
【0047】
反応が終了した後、反応混合物を温度80℃、圧力50torr下で蒸留して、トルエン、イソプロパノール、および未反応アクリロニトリルを反応混合物から除去した。
【0048】
その後、反応混合物にn-ヘキサンを27ml投入し、50℃で5分間撹拌した。撹拌を止めて相分離が起こるように静置した後、上層液と下層液を分離し、ガスクロマトグラフィー(GC/FID、Shimadzu、FID:350℃、Column:HP-5MS、40-280℃、Injection port temperature:260℃、移動相:N2)を用いて上層液と下層液の成分を分析した。
【0049】
分析の結果、下層液は1,4-ジシアノブテン(DCB)83.9重量%、メチレングルタロニトリル(MGN)3.8重量%、エチルジフェニルホスフィナイト9.73重量%およびn-ヘキサン2.48重量%を含むことが確認され、上層液はn-ヘキサン78.71重量%、エチルジフェニルホスフィナイト20.39重量%、1,4-ジシアノブテン(DCB)0.8528重量%、メチレングルタロニトリル(MGN)0.039重量%を含むことが確認された。
【0050】
前記実施例1および比較例1によれば、実施例1の触媒の分配係数は約2.98であり、比較例1の触媒の分配係数は約2.09で、アミン系溶媒を抽出溶媒として用いる時、触媒が上層液により良く分離されることを確認することができた。