(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】塩素バイパスダストの処理方法、セメント混和材の製造方法、セメント組成物の製造方法、セメント硬化体の製造方法、塩素バイパスダストの処理装置、および、セメント混和材の製造装置
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20230922BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20230922BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20230922BHJP
【FI】
C04B7/60
C04B18/08 Z
B09B3/40
(21)【出願番号】P 2020050784
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】新杉 匡史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-355531(JP,A)
【文献】特開2006-347831(JP,A)
【文献】特開2018-095534(JP,A)
【文献】特表2013-539410(JP,A)
【文献】特開2008-190019(JP,A)
【文献】特開2009-030883(JP,A)
【文献】特開2004-231479(JP,A)
【文献】特開2016-088767(JP,A)
【文献】国際公開第2009/154088(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B09B 3/00-3/80
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程を備えており、
加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上
500℃以下で加熱する、
塩素バイパスダストの処理方法。
【請求項2】
セメントと共に使用されるセメント混和材の製造方法であって、
セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を得る粉砕工程とを備えており、
加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上
500℃以下で加熱する、
セメント混和材の製造方法。
【請求項3】
セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントとを混合してセメント組成物を形成する混合工程とを備えており、
加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上
500℃以下で加熱する、
セメント組成物の製造方法。
【請求項4】
セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントと水とを混練して混練物を形成する混練工程と、該混練物を打設して硬化させることでセメント硬化体を形成する打設工程とを備えており、
加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上
500℃以下で加熱する、
セメント硬化体の製造方法。
【請求項5】
セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を形成する加熱装置を備えており、
加熱装置では、塩素バイパスダストが400℃以上
500℃以下で加熱される、
塩素バイパスダストの処理装置。
【請求項6】
セメントと混合されるセメント混和材を製造するセメント混和材の製造装置であって、
セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を形成する加熱装置と、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を形成する粉砕装置とを備えており、
加熱装置では、塩素バイパスダストが400℃以上
500℃以下で加熱される、
セメント混和材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造設備で得られる塩素バイパスダストの処理方法および処理装置に関する。
また、本発明は、塩素バイパスダストを用いてセメント混和材を製造するセメント混和材の製造方法および製造装置に関する。
また、本発明は、塩素バイパスダストを用いてセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、塩素バイパスダストを用いてセメント硬化体を製造するセメント硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塩素は、鉄筋コンクリートの塩害の要因となることが知られているが、セメント製造設備においては、セメントキルンやプレヒータ内のコーチング生成の要因となり、閉塞等の問題を引き起こすことも知られている。このため、多くのセメント製造施設には、いわゆる塩素バイパス設備が設けられている。該塩素バイパス設備は、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから抽気し、その抽気したガスから塩素を含むダスト(塩素バイパスダスト)を回収するように構成されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記のように回収された塩素バイパスダストは、廃棄物として処分することも可能であるが、資源を有効利用する観点から、塩素成分の含有が問題とならない用途で利用されることがある。例えば、塩素バイパスダストをセメント組成物の一部(セメント混和材)として使用し、該セメント組成物と水と土壌とを混合して地盤の改質を行う地盤改質方法で、塩素バイパスダストが使用されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特願平3-20906号公報
【文献】特開2004-231479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塩素バイパスダストには、重金属等(重金属およびフッ素)が含まれることが知られている。このため、塩素バイパスダストを用いて形成された物(以下、塩素バイパスダスト含有物とも記す)が使用される環境によっては、塩素バイパスダスト含有物から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出し、環境を汚染する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、塩素バイパスダストを用いて形成された物から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる塩素バイパスダストの処理方法および処理装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、塩素バイパスダストに由来する重金属等の溶出が抑制されたセメント硬化体を形成することができるセメント混和材を製造するセメント混和材の製造方法および製造装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、塩素バイパスダストに由来する重金属等の溶出が抑制されたセメント硬化体を形成することができるセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、塩素バイパスダストに由来する重金属等の溶出が抑制されたセメント硬化体を製造することができるセメント硬化体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る塩素バイパスダストの処理方法は、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程を備えており、加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上900℃以下で加熱する。
【0008】
これにより、加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制されるため、加熱処理物を含む物から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0009】
本発明に係るセメント混和材の製造方法は、セメントと共に使用されるセメント混和材の製造方法であって、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を得る粉砕工程とを備えており、加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上900℃以下で加熱する。
【0010】
これにより、加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制される。このため、該加熱処理物を用いて形成されるセメント混和材とセメントと水とが混練されて硬化してなるセメント硬化体から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0011】
本発明に係るセメント組成物の製造方法は、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントとを混合してセメント組成物を形成する混合工程とを備えており、加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上900℃以下で加熱する。
【0012】
これにより、加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制される。このため、該加熱処理物を用いて形成されるセメント組成物と水とが混練されて硬化してなるセメント硬化体から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0013】
本発明に係るセメント硬化体の製造方法は、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントと水とを混練して混練物を形成する混練工程と、該混練物を打設して硬化させることでセメント硬化体を形成する打設工程とを備えており、加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上900℃以下で加熱する。
【0014】
これにより、加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制される。このため、該加熱処理物を用いて形成されるセメント硬化体から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0015】
本発明に係る塩素バイパスダストの処理装置は、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を形成する加熱装置を備えており、加熱装置では、塩素バイパスダストが400℃以上900℃以下で加熱される。
【0016】
本発明に係るセメント混和材の製造装置は、セメントと混合されるセメント混和材を製造するセメント混和材の製造装置であって、セメントキルンから排出されてプレヒータの最下段のサイクロンへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を形成する加熱装置と、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を形成する粉砕装置とを備えており、加熱装置では、塩素バイパスダストが400℃以上900℃以下で加熱される。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係る塩素バイパスダストの処理方法および処理装置によれば、塩素バイパスダストを用いて形成された物から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
また、本発明に係るセメント混和材の製造方法および製造装置、セメント組成物の製造方法、および、セメント硬化体の製造方法によれば、塩素バイパスダストに由来する重金属等の溶出が抑制されたセメント硬化体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るセメント製造設備における塩素バイパス設備の周囲の設備を示した概略図、(b)は、同実施形態に係る加熱装置の一例を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、
図1を参照しながら説明する。
なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0020】
本実施形態に係る塩素バイパスダストの処理方法は、
図1(a)に示すように、セメントキルン1から排出されてプレヒータ2の最下段のサイクロン2aへ向けて流れるキルン排ガスから回収される塩素バイパスダストを処理するものである。キルン排ガスを抽気する位置としては、特に限定されるものではなく、例えば、所謂、セメントキルンの窯尻であることが好ましい。
【0021】
ここで、塩素バイパスダストを回収する装置3(以下、塩素バイパス装置3とも記す)の一例について説明する。該塩素バイパス装置3は、セメントキルン1からプレヒータ2の最下段のサイクロン2aへ向けて流れるキルン排ガスの流路に設けられた抽気装置3aと、抽気装置3aの内部に冷風を供給し、抽気ガスに含まれる塩素を凝縮固化させて塩素バイパスダストとする冷却装置3bと、塩素バイパスダストを抽気ガスから分離する分離装置3c(例えば、サイクロンセパレーター等)とを備える。本実施形態では、セメントキルン1から最下段のサイクロン2aへ向けて流れるキルン排ガスの流路に仮焼炉4が設けられているため、抽気装置3aは、仮焼炉4よりもセメントキルン側(具体的には、セメントキルンの窯尻)に設けられる。
【0022】
本実施形態に係る塩素バイパスダストの処理方法は、塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程を備える。つまり、本実施形態に係る塩素バイパスダストの処理装置(図示せず)は、塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を形成する(即ち、加熱工程を行う)加熱装置を備える。
【0023】
加熱工程では、塩素バイパスダストを400℃以上で加熱する。また、加熱工程では、塩素バイパスダストを900℃以下、好ましくは700℃以下で加熱する。また、塩素バイパスダストを上記の温度範囲で加熱する時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、5分以上であるであることが好ましく、15分以上であるであることがより好ましく、60分以上であることが更に好ましい。上記の加熱工程を行うことで、塩素バイパスダストを上記の温度に加熱する。
【0024】
塩素バイパスダストの加熱は、加熱装置を用いて行うことができる。該加熱装置としては、特に限定されるものではなく、例えば、熱源から熱を供給する熱供給手段を備えるものであってもよく、熱供給手段を備えないものであってもよい。
熱供給手段を備える加熱装置(即ち、熱源を備える加熱装置)としては、例えば、電気ヒーター、オイルヒーター、セメントキルン廃熱を用いたヒーター、又は、高周波によって加熱される熱源を備える加熱装置(被加熱物を間接的に加熱するもの)であってもよく、ガスバーナー等の火で被加熱物を直接的に加熱する加熱装置であってもよい。
熱供給手段を備えない加熱装置(熱源を備えない加熱装置)としては、例えば、誘電加熱(電子加熱、無線周波数加熱、高周波加熱、マイクロ波加熱等)によって被加熱物自体を加熱させる加熱装置であってもよく、アーク炉のように放電によって被加熱物自体を加熱する加熱装置であってよい。
【0025】
本実施形態では、加熱装置として、
図1(b)に示すように、間接的に塩素バイパスダストを加熱する加熱装置5が用いられる。該加熱装置5は、塩素バイパスダストを収容する収容部5aと、該収容部5aの外側に配置されて収容部5aの内側に熱を供給する熱供給手段5b(例えば、電気ヒーター、オイルヒーター、又は、セメントキルン廃熱を用いたヒーター等)とを備える。収容部5aとしては、特に限定されるものではなく、例えば、筒状に形成されて軸線を中心に回転可能なもの(所謂、ドラム式の撹拌機)等が挙げられる。これにより、収容された塩素バイパスダストが撹拌されつつ加熱される。
【0026】
上記のように構成される塩素バイパスダストの処理方法で得られる加熱処理物の用途としては、特に限定されるものではなく、例えば、セメントと共に使用されるセメント混和材が挙げられる。該セメント混和材を製造する際には、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を得る粉砕工程を行うことが好ましい。
つまり、本実施形態に係るセメント混和材の製造方法は、上記の加熱工程と、上記の粉砕工程とを備える。また、本実施形態に係るセメント混和材の製造装置は、上記の加熱工程を行う加熱装置(例えば、加熱装置5)と、上記の粉砕工程を行う粉砕装置(図示せず)とを備える。
なお、粉砕処理物(セメント混和材)の粒度としては、特に限定されるものではなく、例えば、200μm以下であることが好ましい。また、加熱処理物を粉砕する粉砕装置としては、特に限定されるものではなく、例えば、チューブミルや竪型ローラーミル等を用いることができる。
【0027】
上記のように製造されるセメント混和材と共に使用されるセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS R 5210に規定された各種のポルトランドセメント、JIS R 5211に規定される各種の高炉セメント、JIS R 5212に規定された各種のシリカセメン卜、および、JIS R 5213に規定された各種のフライアッシュセメントから選択される少なくとも一つを用いることができる。前記ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、および、上記各種のポルトランドセメントの低アルカリ形が挙げられる。また、前記高炉セメントとしては、高炉セメントA種、B種、および、C種が挙げられる。また、前記シリカセメン卜としては、シリカセメントA種、B種、および、C種が挙げられる。また、前記フライアッシュセメントとしては、フライアッシュセメントA種、B種、および、C種が挙げられる。
【0028】
また、上記のように構成される塩素バイパスダストの処理方法で得られる加熱処理物は、セメントと混合されてセメント組成物を製造する際に使用されてもよい。該セメント組成物を製造する際には、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントとを混合する混合工程とを行うことが好ましい。粉砕処理物は、混合工程の前に、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を得る粉砕工程を行うことで得られるものであってもよく、加熱処理物とセメントクリンカーとを混合した状態で粉砕することで得られるものであってもよい。
セメント組成物には、セメントおよび加熱処理物(粉砕処理物)以外に、各種の混和剤が含有されてもよい。該混和剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、AE剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を使用することができる。
【0029】
また、上記のように構成される塩素バイパスダストの処理方法で得られる加熱処理物は、セメントと水と混練されてセメント硬化体を製造する際に使用されてもよい。該セメント硬化体を製造する際には、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントと水とを混練して混練物を形成する混練工程と、該混練物を打設して硬化させることでセメント硬化体を形成する打設工程とを行うことが好ましい。粉砕処理物は、混合工程の前に、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を得る粉砕工程を行うことで得られるものであってもよく、加熱処理物とセメントクリンカーとを混合した状態で粉砕することで得られるものであってもよい。
セメント硬化体は、加熱処理物、セメント、水、および、他の材料(例えば、土壌等)が混練されて硬化したものであってもよく、他の材料を含まず、加熱処理物、セメント、および、水が混練されて硬化したものであってもよい
【0030】
以上のように、本発明に係る塩素バイパスダストの処理方法および処理装置によれば、塩素バイパスダストを用いて形成された物から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
また、本発明に係るセメント混和材の製造方法および製造装置、セメント組成物の製造方法、および、セメント硬化体の製造方法によれば、塩素バイパスダストに由来する重金属等の溶出が抑制されたセメント硬化体を形成することができる。
【0031】
即ち、本実施形態に係る塩素バイパスダストの処理方法および処理装置は、塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程を備える。そして、加熱工程では、塩素バイパスダストを上記の温度範囲で加熱する。これにより、加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制されるため、加熱処理物を含む物から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0032】
本実施形態に係るセメント混和材の製造方法および製造装置は、塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物を粉砕して粉砕処理物を得る粉砕工程とを備える。そして、加熱工程では、塩素バイパスダストを上記の温度範囲で加熱する。これにより、加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制される。このため、該加熱処理物を用いて形成されるセメント混和材とセメントと水とが混練されて硬化してなるセメント硬化体から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0033】
本実施形態に係るセメント組成物の製造方法は、塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントとを混合してセメント組成物を形成する混合工程とを備える。そして、加熱工程では、塩素バイパスダストを上記の温度範囲で加熱する。これにより、加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制される。このため、該加熱処理物を用いて形成されるセメント組成物と水とが混練されて硬化してなるセメント硬化体から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0034】
本実施形態に係るセメント硬化体の製造方法は、塩素バイパスダストを加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物が粉砕されてなる粉砕処理物とセメントと水とを混練して混練物を形成する混練工程と、該混練物を打設して硬化させることでセメント硬化体を形成する打設工程とを備える。そして、加熱工程では、塩素バイパスダストを上記の温度範囲で加熱する。これにより、加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのが抑制される。このため、該加熱処理物を用いて形成されるセメント硬化体から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【0035】
なお、本発明に係る塩素バイパスダストの処理方法、セメント混和材の製造方法、セメント組成物の製造方法、セメント硬化体の製造方法、塩素バイパスダストの処理装置、および、セメント混和材の製造装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記および下記の複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよい(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい)ことは勿論である。
【0036】
例えば、上記実施形態では、塩素バイパスダストの処理方法で得らえる処理ダスト(加熱処理物)は、セメント混和材、セメント組成物、または、セメント硬化体を構成する材料として使用されているが、これに限定されるものではなく、例えば、セメント系固化材等の用途で使用することできる。
【0037】
また、上記実施形態によれば、塩素バイパスダストは、セメントキルンの窯尻から抽気されたキルン排ガスから分離されたものであるが、これに限定されるものではない。例えば、セメントキルンの窯尻よりも最下段のサイクロン2a側(上記実施形態では、窯尻と仮焼炉4との間、または、仮焼炉4と最下段のサイクロン2aとの間)の位置からキルン排ガス抽気され、その抽気ガスから塩素バイパスダストが分離されてもよい。
【0038】
また、上記実施形態におけるセメント組成物の製造方法において、上記実施形態のセメント混和材の製造方法で得られるセメント混和材を用いるように構成してもよい。
【0039】
また、上記実施形態におけるセメント硬化体の製造方法において、上記実施形態のセメント組成物の製造方法で得られるセメント組成物を用いるように構成してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例、および、比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<使用材料>
・塩素バイパスダスト
【0042】
<加熱工程>
上記の塩素バイパスダストを、熱供給手段を備える加熱装置(株式会社リガク製 品名:卓上型高周波ビードサンプラー)を用いて加熱して加熱処理物を得た。具体的には、上記の塩素バイパスダスト(3g)を、白金るつぼに入れ、該白金るつぼを高周波加熱して熱源とすることで、該熱源から塩素バイパスダストに熱を供給して加熱し、加熱処理物を得た。加熱温度および加熱時間は、下記表1に示す。
【0043】
<溶出試験>
加熱処理物(5g)に対して、溶出試験を環境庁告示46号に基づいて行った。ただし、加熱処理物はセメント混和材などとしての使用を想定しており、セメント混和材などとの混錬時のpHを模擬するため、溶出試験時の溶媒は水酸化カルシウム飽和溶液を用いた。
【0044】
<溶出量の測定>
上記の溶出試験で得られた溶出液に対して、溶出量の測定を、環境庁告示46号に基づいて行った。重金属等の溶出量については、下記表1に示す。
【0045】
【0046】
<まとめ>
表1を見ると、重金属等であるPb(鉛)やF(フッ素)において、各実施例の方が各比較例よりも溶出量が少ないことが認められる。つまり、本発明の塩素バイパスダストの処理方法のように、塩素バイパスダストを所定の温度で加熱する加熱工程を備えることで、該加熱工程で得られる加熱処理物から重金属等が溶出するのを抑制することができる。これにより、本発明の塩素バイパスダストの処理方法で得られる処理ダストを含む物(例えば、セメント硬化体)から塩素バイパスダストに由来する重金属等が溶出するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…セメントキルン、2…プレヒータ、2a…サイクロン、3…塩素バイパス装置、3a…抽気装置、3b…冷却装置、3c…分離装置、4…仮焼炉、5…加熱装置、5a…収容部、5b…熱供給手段