(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】リン酸エステル系難燃剤、(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C09K 21/12 20060101AFI20230922BHJP
C07F 9/09 20060101ALI20230922BHJP
C08F 220/14 20060101ALI20230922BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230922BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C09K21/12
C07F9/09 J
C08F220/14
C08K5/521
C08L33/12
(21)【出願番号】P 2019172196
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正法
(72)【発明者】
【氏名】磯村 学
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-206454(JP,A)
【文献】特開2018-090731(JP,A)
【文献】特開2011-046835(JP,A)
【文献】特開昭48-96649(JP,A)
【文献】特開昭58-109683(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104263(WO,A1)
【文献】特開平11-001612(JP,A)
【文献】特開昭62-15387(JP,A)
【文献】特開2003-277568(JP,A)
【文献】特開平08-259577(JP,A)
【文献】特開平09-124933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00- 21/14
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される
複数の化合物を含有する、
(メタ)アクリル系樹脂組成物用である、リン酸エステル系難燃剤(C1)。
【化1】
[式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH
2)
x-又は-CH
2CH
2-(OCH
2CH
2)
zOCH
2CH
2-を示し、xは3~6の整数であり、zは0~3の整数であり、nは0~8の整数である。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したときに、前記一般式(I)におけるn=0~8の
複数の化合物の含有量から算出される平均重合度Nが2.1~3.3の範囲にある。]
【請求項2】
前記一般式(I)で表される化合物において、平均重合度Nが2.3以上である、請求項1に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
【請求項3】
前記一般式(I)で表される化合物において、平均重合度Nが3.1以下である、請求項1又は2に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物において、25℃における粘度が1500~4500mPa・sである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
【請求項5】
前記一般式(I)において、R
1、R
2、及びR
3がそれぞれ独立に水素原子、メチル、エチル、クロロメチル又はクロロエチル基であり、Yが1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、-CH
2CH
2OCH
2CH
2-又は-CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2-である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
【請求項6】
下記一般式(I)で表される
複数の化合物を含有し、
25℃における粘度が1500~3700mPa・sであ
り、(メタ)アクリル系樹脂組成物用である、リン酸エステル系難燃剤(C2)。
【化2】
[式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH
2)
x-又は-CH
2CH
2-(OCH
2CH
2)
zOCH
2CH
2-を示し、xは3~6の整数であり、zは0~3の整数であり、nは0~8の整数である。]
【請求項7】
前記一般式(I)において、R
1、R
2、及びR
3がそれぞれ独立に水素原子、メチル、エチル、クロロメチル又はクロロエチル基であり、Yが1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、-CH
2CH
2OCH
2CH
2-又は-CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2-である、請求項
6に記載のリン酸エステル系難燃剤(C2)。
【請求項8】
(メタ)アクリル系重合体(P)と、請求項1~
5のいずれか一項のリン酸エステル系難燃剤(C1)及び請求項
6又は7のリン酸エステル系難燃剤(C2)からなる群から選択される少なくとも1種と、を含有する、(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項9】
リン酸エステル系難燃剤(C1)及びリン酸エステル系難燃剤(C2)の合計の含有量が、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下である、請求項
8に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、メタクリル酸メチルの単独重合体、及び前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を85.0質量%以上100質量%未満含む共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
8又は
9に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む、請求項
10に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項12】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を90.0質量%以上98.0質量%以下、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位を2.0質量%以上10.0質量%以下含む共重合体を含む、請求項
8又は
9に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項13】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む、請求項
12に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
【請求項14】
請求項
8~
13のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸エステル系難燃剤、(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチルを主成分とする(メタ)アクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐侯性に優れ、且つ、機械的強度、熱的性質、成形加工性等の樹脂物性においてバランスのとれた性能を有している。そのために、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材、電子機器の面板等の多くの用途に使用されているが、近年これらの用途では火災発生時の延焼防止や避難時間を創出するため、難燃性に優れた(メタ)アクリル系樹脂が求められている。
【0003】
特に、ガソリンスタンドのキャノピー看板の用途では、JIS K6911の耐燃性試験A法における自消性以上の難燃性と、屋外での使用に耐え得る耐熱性、機械的強度とを併せ持った(メタ)アクリル系樹脂が必要とされている。
【0004】
また、パソコンの筐体や排熱ダクト等の電子機器の内部部品の用途では、前記のJIS K6911の耐燃性試験A法よりも高い難燃性が要求されるUL94に規定された垂直燃焼試験において、V-0の難燃性を有することに加えて、熱や外力に対する高い安定性が求められおり、耐熱性、機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂が求められている。
【0005】
(メタ)アクリル系樹脂に難燃性と耐熱性を付与する技術としては、例えば、特許文献1には、耐熱性改良単量体を含有したメタクリル樹脂とハロゲン化リン酸エステルからなる難燃性メタクリル樹脂板が提案されており、耐熱性改良単量体としてジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、メチルメタクリレートとイソボルニル(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリル系重合体と、難燃剤としてリン系化合物を含有する難燃性メタクリル樹脂板が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、リン酸エステルとして特定の構造のものを採用した難燃性メタクリル樹脂板が提案されており、リン酸エステルとして重合度nが1及び2の混合物、すなわち、平均重合度が2未満であるリン酸エステルが開示されている。
特許文献4には、ヒドロキシル基を有する有機リン化合物及びリン酸エステル単量体含有量を低減した、ポリホスフェートタイプの有機リン化合物を含有する難燃剤が開示されている。
また、特許文献5には、オキシ塩化リンとアルキレングリコールとを1.5~3.0:1.0のモル比で反応させ、その反応生成物にアルキレンオキシドを反応させてなる、含ハロゲン系縮合リン酸エステルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-046835号公報
【文献】国際公開第2016/063898号
【文献】特開2003-277568号公報
【文献】国際公開第2016/104263号
【文献】特開平8-259577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のメタクリル樹脂板では、JIS K6911-1979の耐燃性試験A法において不燃性となる難燃性を得るために多量の難燃剤の添加が必要であり、耐熱性改良単量体の含有量が少ないため、メタクリル樹脂板の耐熱性は十分ではなく、荷重たわみ温度(HDT)90℃以上の耐熱性が要求される用途には使用することができなかった。また、UL94に規定された垂直燃焼試験におけるV-0が必要となる電子機器部品に使用するには難燃性が不十分であった。
また、特許文献2に記載のメタクリル樹脂板では、難燃性と耐熱性を向上させるためにイソボルニル(メタ)アクリレートの添加量を増やすと、機械的強度が低下する傾向があり、一部の用途で求められる外力に対するより高い安定性を満たせないことがあった。そのため、高い難燃性と耐熱性、十分な機械的強度を併せ持った(メタ)アクリル系樹脂板を得ることが困難であった。
また、特許文献3に記載のメタクリル樹脂板では、耐熱性がまだ十分ではなかった。
さらに、特許文献4及び5の難燃剤では、難燃性と耐熱性とがいまだ不十分であった。
このような状況において、耐熱性、難燃性、さらには機械的強度に優れた樹脂成形体、前記樹脂成形体を製造するための(メタ)アクリル系樹脂組成物、及び(メタ)アクリル系樹脂組成物に含めるための難燃剤が求められていた。
【0010】
本発明は、樹脂成形体に対して、優れた難燃性、耐熱性、及び機械的強度を付与できるリン酸エステル系難燃剤、前記難燃剤を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物、及び前記(メタ)アクリル系樹脂組成物からなる樹脂成形体を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 下記一般式(I)で表される化合物を含有する、リン酸エステル系難燃剤(C1)。
【化1】
[式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH
2)
x-又は-CH
2CH
2-(OCH
2CH
2)
zOCH
2CH
2-を示し、xは3~6の整数であり、zは0~3の整数であり、nは0~8の整数である。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したときに、前記一般式(I)におけるn=0~8の各化合物の含有量から算出される平均重合度Nが2.1~3.3の範囲にある。]
[2] 前記一般式(I)で表される化合物において、平均重合度Nが2.3以上である、[1]に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
[3] 前記一般式(I)で表される化合物において、平均重合度Nが3.1以下である、[1]又は[2]に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
[4] 前記一般式(I)で表される化合物において、25℃における粘度が1500~4500mPa・sである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
[5] 前記一般式(I)において、R
1、R
2、及びR
3がそれぞれ独立に水素原子、メチル、エチル、クロロメチル又はクロロエチル基であり、Yが1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、-CH
2CH
2OCH
2CH
2-又は-CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2-である、[1]~[4]のいずれか一項に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
[6] (メタ)アクリル系樹脂組成物用難燃剤である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のリン酸エステル系難燃剤(C1)。
[7] 下記一般式(I)で表される化合物を含有し、
25℃における粘度が1500~3700mPa・sである、リン酸エステル系難燃剤(C2)。
【化2】
[式(I)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH
2)
x-又は-CH
2CH
2-(OCH
2CH
2)
zOCH
2CH
2-を示し、xは3~6の整数であり、zは0~3の整数であり、nは0~8の整数である。]
[8] 前記一般式(I)において、R
1、R
2、及びR
3がそれぞれ独立に水素原子、メチル、エチル、クロロメチル又はクロロエチル基であり、Yが1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、-CH
2CH
2OCH
2CH
2-又は-CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2-である、[7]に記載のリン酸エステル系難燃剤(C2)。
[9] (メタ)アクリル系樹脂組成物用難燃剤である、[7]又は[8]に記載のリン酸エステル系難燃剤(C2)。
[10] (メタ)アクリル系重合体(P)と、[1]~[6]のリン酸エステル系難燃剤(C1)及び[7]~[9]のリン酸エステル系難燃剤(C2)からなる群から選択される少なくとも1種と、を含有する、(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[11] リン酸エステル系難燃剤(C1)及びリン酸エステル系難燃剤(C2)の合計の含有量が、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下である、[10]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[12] 前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、メタクリル酸メチルの単独重合体、及び前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を85.0質量%以上100質量%未満含む共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、[10]又は[11]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[13] 前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む、[12]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[14] 前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を90.0質量%以上98.0質量%以下、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位を2.0質量%以上10.0質量%以下含む共重合体を含む、[10]又は[11]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[15] 前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む、[14]に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物。
[16] [10]~[15]のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、樹脂成形体に対して、優れた難燃性、耐熱性、及び機械的強度を付与できるリン酸エステル系難燃剤、前記難燃剤を含む(メタ)アクリル系樹脂組成物、及び前記(メタ)アクリル系樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体を提供することができる。このような樹脂成形体は、ガソリンスタンドキャノピー看板などの屋外看板や電子機器部品等の高い難燃性、及び耐熱性、機械的強度が要求される用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリル酸」は、各々「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種並びに「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0014】
また、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0015】
≪リン酸エステル系難燃剤(C)≫
本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)は、以下のリン酸エステル系難燃剤(C1)、及びリン酸エステル系難燃剤(C2)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0016】
本発明の第一の態様において、リン酸エステル系難燃剤(C1)は、下記一般式(I)で表される化合物を含む。
【0017】
【0018】
[式(I)中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH2)x-又は-CH2CH2-(OCH2CH2)zOCH2CH2-を示し、xは3~6の整数であり、zは0~3の整数であり、nは0~8の整数である。]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したときに、前記一般式(I)におけるn=0~8の各化合物の含有量から算出される平均重合度Nが2.1~3.3の範囲にある化合物である。
【0019】
本発明の第二の態様において、リン酸エステル系難燃剤(C2)は、下記一般式(I)で表される化合物を含み、25℃における粘度が1500~3700mPa・sである。
【0020】
【0021】
[式(I)中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH2)x-又は-CH2CH2-(OCH2CH2)zOCH2CH2-を示すし、xは3~6の整数であり、zは0~3の整数であり、nは0~8の整数である。]
【0022】
一般式(I)における置換基R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基もしくはモノクロロアルキル基である。
炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、及びtert-ブチル基などが挙げられる。これらの中でも化合物(I)中のリン含有率が高くなるという点でメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0023】
炭素数1~4のモノクロロアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばクロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、及びクロロブチル基が挙げられる。これらの中でも化合物(I)中のリン含有率が高くなるという点でクロロメチル基又はクロロエチル基が好ましく、クロロメチル基がより好ましい。
置換基R1、R2、及びR3としては、水素原子、メチル基、エチル基、クロロメチル基、及びクロロエチル基が好ましく、水素原子、メチル基、及びクロロメチル基がより好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。置換基R1、R2、及びR3はそれぞれ同一であっても異なってもよく、同一であることが特に好ましい。
【0024】
一般式(I)における置換基Yは、炭素数3~6のアルキレン基又は-CH2CH2(OCH2CH2)zOCH2CH2-(zは0~3の整数)で表される基である。
炭素数3~6のアルキレン基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えば1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、1,2-ブチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブチレン基、2,3-ブチレン基、1,6-ヘキシレン基、2,4-ヘキシレン基、及び2,5-ヘキシレン基が挙げられる。これらの中でも化合物(I)中のリン含有率が高くなるという点で1,2-プロピレン、及び1,3-プロピレン基が好ましい。
【0025】
-CH2CH2(OCH2CH2)zOCH2CH2-(zは0~3の整数)で表される基は、オキシアルキレングリコールの残基であり、具体的には、-CH2CH2OCH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2-、-CH2CH2(OCH2CH2)2OCH2CH2-、及び-CH2CH2(OCH2CH2)3OCH2CH2-が挙げられる。これらの中でも化合物(I)中のリン含有率が高くなるという点で-CH2CH2OCH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2-が好ましく、-CH2CH2OCH2CH2-がより好ましい。
置換基Yとしては、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、及び-CH2CH2OCH2CH2-が特に好ましい。
【0026】
リン酸エステル系難燃剤(C)は、前記一般式(I)において、R1、R2、及びR3がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、クロロメチル基又はクロロエチル基であり、Yが1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、-CH2CH2OCH2CH2-又は-CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2-である化合物が好ましい。また、前記一般式(I)において、R1、R2、及びR3がそれぞれ独立に水素原子、メチル又はクロロメチル基であり、Yが-CH2CH2OCH2CH2-である化合物がより好ましい。さらに、R1、R2、及びR3がそれぞれメチル基であり、Yが-CH2CH2-OCH2CH2-である化合物が特に好ましい。
【0027】
リン酸エステル系難燃剤(C)は、前記一般式(I)において、nが0~8の整数であることが好ましく、nが1~6の整数であることがより好ましく、nが2~5の整数であることがより好ましい。
【0028】
本発明の第一の態様においては、リン酸エステル系難燃剤(C1)の平均重合度Nが2.1~3.3の範囲にあることを特徴とする。
【0029】
これまで、従来のリン酸エステル系難燃剤を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物では、樹脂成形体の難燃性は向上するが、荷重たわみ温度やガラス転移温度等の耐熱性が低下する傾向があった。本発明者らは、その理由について検討を行い、従来のリン酸エステル系難燃剤は、(メタ)アクリル系重合体(P)の分子間に配位して前記分子間力を弱める作用があり、(メタ)アクリル系重合体(P)が本来有している荷重たわみ温度やガラス転移温度が低下して、その結果、得られた樹脂成形体の耐熱性が低下することを見出した。
【0030】
さらに本発明者らは検討を行ない、リン酸エステル系難燃剤として、平均重合度を、従来のリン酸エステル系難燃剤の平均重合度よりも高い特定の数値範囲内に制御したリン酸エステル系難燃剤(C)を用いることにより、得られた樹脂成形体は、(メタ)アクリル系重合体(P)が本来有している耐熱性と同等の又はより優れた耐熱性を有し、且つ、難燃性に優れることを見出した。その理由は定かではないが、(メタ)アクリル系重合体(P)の分子間にリン酸エステル系難燃剤(C)が配位することが抑制されるので、(メタ)アクリル系樹脂組成物の荷重たわみ温度やガラス転移温度の低下を抑制でき、また、リン酸エステル系難燃剤(C)自体のガラス転移温度が高くなるためと推察される。
【0031】
すなわち、従来のリン酸エステル系難燃剤を用いた場合、得られた樹脂成形体の耐熱性と難燃性とは所謂トレードオフの関係にあるが、本発明においては平均重合度を特定の範囲にしたリン酸エステル系難燃剤(C1)又は粘度を特定の範囲にしたリン酸エステル系難燃剤(C2)を用いることで、得られた樹脂成形体において、耐熱性と難燃性という相反する特性を両立することができる。
【0032】
リン酸エステル系難燃剤(C2)も、リン酸エステル系難燃剤(C1)と同様の平均重合度Nを有していてもよい。
【0033】
リン酸エステル系難燃剤(C)の平均重合度Nの下限は、樹脂成形体の耐熱性や耐候性が良好となることから、2.1以上が好ましく、2.3以上がより好ましく2.4以上がさらに好ましい。また、平均重合度Nの上限は、リン酸エステル系難燃剤の平均重合度が高すぎると、リン酸エステル系難燃剤が凝集粒子を形成した状態で(メタ)アクリル系樹脂組成物中に分散してしまい、得られた樹脂成形体の難燃性や透明性が低下することから、3.3以下が好ましく、3.1以下がより好ましく3.0以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)の平均重合度Nは、2.1以上3.3以下が好ましく、2.3以上3.1以下がより好ましく、2.4以上3.0以下がさらに好ましい。リン酸エステル系難燃剤(C)の平均重合度Nは、リン酸エステル系難燃剤(C)を合成するとき原料の比率や反応温度を調整することで、任意に制御できる。
【0034】
ここで、本明細書におけるリン酸エステル系難燃剤(C)の平均重合度Nの算出方法について説明する。平均重合度Nは、GPC測定におけるn=0~8の各成分のGPC面積分率(An)を用いて次式により求めることができる。
N=Σ(n・An)/Σ(An)
なお、GPCは後述の方法に従って測定される。
【0035】
リン酸エステル系難燃剤(C)の粘度の下限は特に限定されないが、樹脂成形体の耐熱性が高くなる点から、25℃において1500mPa・s以上が好ましく、2000mPa・s以上がさらに好ましい。また、粘度の上限は特に限定されないが、樹脂成形体の難燃性や透明性が良好となる点から4500mPa・s以下が好ましく、3700mPa・s以下がさらに好ましく、3000mPa・s以下が特に好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)の粘度は、25℃において1500mPa・s以上4500mPa・s以下が好ましく、1500mPa・s以上3700mPa・s以下がより好ましく、2000mPa・s以上3000mPa・s以下がさらに好ましい。リン酸エステル系難燃剤(C)の粘度は、リン酸エステル系難燃剤(C)を合成するときに原料の比率や反応温度を調整することで、任意に制御できる。
尚、本明細書において、リン酸エステル系難燃剤(C)の粘度は、後述する方法に従って測定される。
【0036】
≪リン酸エステル系難燃剤(C)の合成方法≫
本発明におけるリン酸エステル系難燃剤(C)は、例えば次のような2段反応の製造方法によって得ることができる。
【0037】
(1)第1反応工程
オキシ塩化リンとアルキレングリコール又はオキシアルキレングリコールとを反応させて、下記一般式(II)のように、対応するクロロリン酸エステルを得る。
【0038】
【0039】
(一般式(II)中、Y及びnは一般式(I)と同義である。)
【0040】
ここで、第1反応工程にて、オキシ塩化リンとアルキレングリコール又はオキシアルキレングリコールを1.30~1.70:1のモル比で連続的に反応槽に供給して反応させる。前記モル比は1.35~1.60:1が好ましい。上記範囲内のモル比でオキシ塩化リンとアルキレングリコール又はオキシアルキレングリコールを反応させることによって、一般式(II)で表されるクロロリン酸エステルが得られる。これにより、平均重合度Nが所望の範囲内にある一般式(I)の化合物を得ることができる。
【0041】
反応温度は0~50℃、好ましくは15~20℃で、生成する熱は反応槽に付属したジャケット又はコイルに冷媒を通し除去する。
【0042】
反応に使用されるアルキレングリコールとしては、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、及び2,5-ヘキサンジオールなどが挙げられるが、これのみに限定されるものではない。アルキレングリコールとしては、1,2-プロピレングリコール、及び1,3-プロピレングリコールが好ましい。
オキシアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコールなどが挙げられるが、これのみに限定されるものではない。オキシアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコールが好ましく、ジエチレングリコールがより好ましい。
アルキレングリコール又はオキシアルキレングリコールとしては1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、及びジエチレングリコールが特に好ましい。
【0043】
(2)第2反応工程
第1反応工程で得たクロロリン酸エステルとアルキレンオキシド又はクロロアルキレンオキシドとを反応させて、前記一般式(I)に記載のリン酸エステル系難燃剤(C)を得る。
【0044】
【0045】
(一般式(III)中、R1、R2、R3、Y及びnは一般式(I)と同義であり、Rは置換基R1、R2又はR3を表す)
【0046】
反応に使用されるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、1,2-ペンチレンオキシド、及び1,2-ヘキシレンオキシドなどが挙げられるが、これのみに限定されるものではない。これらの中でもエチレンオキシド、及びプロピレンオキシドが好ましく、プロピレンオキシドがより好ましい。
クロロアルキレンオキシドとしては、エピクロロヒドリンなどが挙げられるが、これのみに限定されるものではない。
【0047】
反応温度は30~100℃、好ましくは40~90℃である。30℃以下の温度では、反応の進行が非常に遅くなり実用的でなくなり、100℃を超える温度では、反応液の着色や副反応物の増加などの現象が起き、高品位の製品を得ることができなくなる。
【0048】
(3)洗浄・脱水工程
反応混合物を反応器から排出し、精製工程として洗浄及び脱水工程を経て製品化する。
洗浄工程は一般に公知の方法で行われ、回分法、連続法いずれの方法でも行うことができる。具体的には、反応混合物を硫酸、塩酸などの鉱酸溶液で洗浄した後、アルカリ洗浄及び水洗浄して減圧下にて脱水する。あるいは、反応混合物を鉱酸で洗浄することなく、アルカリ洗浄し、生成した水に不溶のチタン化合物(触媒成分)を濾過あるいは遠心分離で除去し、水洗浄し減圧下で脱水する。
【0049】
洗浄工程の温度は95℃以下、好ましくは85℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは55~65℃である。
脱水工程は減圧下で行うのが好ましい。脱水工程の温度は120℃以下、好ましくは110℃以下、より好ましくは95~105℃であり、圧力は10kPa以下、好ましくは1~5kPaである。
【0050】
本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)は、樹脂に添加したときの難燃性に優れる。また、従来公知の難燃剤を添加した場合と比べて、樹脂の耐熱性を向上させることができる。本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)は、(メタ)アクリル系樹脂組成物に配合したときの難燃性に優れ、従来公知の難燃剤を添加した場合と比べて、耐熱性を向上させることができることから、(メタ)アクリル系樹脂組成物用難燃剤として特に好ましい。
【0051】
≪(メタ)アクリル系樹脂組成物≫
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)と、本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)とを含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物である。
前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位と、後述するビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位を含む重合体を例示することができる。
【0052】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物に含まれるリン酸エステル系難燃剤(C)の含有量の下限は、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を含有する樹脂成形体(以下、「得られた樹脂成形体」又は「樹脂成形体」という。)の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、6質量部以上がより好ましく、7質量部以上がさらに好ましい。一方、リン酸エステル系難燃剤(C)の含有量の上限は、得られる樹脂成形体の耐熱性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、19質量部以下がより好ましく、18質量部以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物に含まれるリン酸エステル系難燃剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂組成物100質量部に対して、5量部以上20質量部以下が好ましく、6質量部以上19質量部以下がより好ましく、7質量部以上18質量部以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体(P)の含有量の下限は、得られる樹脂成形体の耐熱性及び機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系樹脂組成物100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、81質量%以上がより好ましく、82質量%以上がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル系重合体(P)の含有量の上限は、得られる樹脂成形体の難燃性を良好に維持できる観点から、(メタ)アクリル系樹脂組成物100質量%に対して、95質量%以下であることが好ましく、94質量%以下がより好ましく、93質量%以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体(P)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂組成物100質量%に対して、80質量%以上95質量%以下が好ましく、81質量%以上94質量%以下がより好ましく、82質量%以上93質量%以下がさらに好ましい。
【0054】
<(メタ)アクリル系重合体(P)>
本発明における(メタ)アクリル系樹脂組成物は、下記の(メタ)アクリル系重合体(P)を構成成分の1つとして含む。
前記(メタ)アクリル系重合体(P)を構成成分の1つとして含むことにより、後述する他の構成成分との相乗効果により、難燃性、耐熱性、及び機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂成形体を得ることが可能となる。
【0055】
本発明において、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、メタクリル酸メチルの単独重合体、又は、メタクリル酸メチル(MMA)由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」という。)を含む重合体を用いることができる。
【0056】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるMMA単位の含有割合の下限は特に限定されるものではないが、得られた樹脂成形体の耐衝撃性や機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、85.0質量%以上が好ましく、90.0質量%以上がより好ましく、95.0質量%以上がさらに好ましい。一方、MMA単位の含有割合の上限は特に限定されるものではないが、樹脂成形体の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、100質量%未満が好ましく、98.0質量%以下がより好ましく、96.4質量%以下がさらに好ましい。或いは又、100質量%とすることもできる。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるMMA単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、85.0質量%以上100質量%未満が好ましく、90.0質量%以上98.0質量%以下がより好ましく、95.0質量%以上96.4質量%以下がさらに好ましい。
【0057】
但し、前記MMA単位の含有割合の下限値と上限値は、後述する単量体(B)由来の繰り返し単位の含有割合を考慮しない値であり、実質的には前記下限値と前記上限値から、実際に含ませる単量体(B)由来の繰り返し単位の含有割合を減じた値をそれぞれ前記MMA単位の下限値、上限値とすることが好ましい。即ち、前記MMA単位の含有割合の実質的な下限は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、84.95質量%以上が好ましく、89.95質量%以上がより好ましく、94.95質量%以上がさらに好ましい。一方、実質的な上限は、99.95質量%以下が好ましく、97.95質量%以下がより好ましく、96.35質量%以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるMMA単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、84.95質量%以上99.95質量%以下が好ましく、89.95質量%以上97.95質量%以下がより好ましく、94.95質量%以上96.35質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル(M)単位」という。)を含むことができる。
【0059】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル(M)単位の含有割合の下限は特に限定されないが、得られた樹脂成形体の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、3.6質量%以上がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位の含有割合の上限は、樹脂成形体の耐衝撃性や機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、10.0量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル(M)単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、2.0質量%以上10.0量%以下が好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましく、3.6質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。尚、具体的な(メタ)アクリル酸エステル(M)については後述する。
【0060】
さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位(以下、「単量体(B)単位」という。)を含むことができる。
【0061】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる前記単量体(B)単位の含有割合の下限は特に限定されないが、得られた樹脂成形体の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましい。一方、単量体(B)単位の含有割合の上限は特に限定されないが、樹脂成形体の耐衝撃性や機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、0.40質量%以下が好ましく、0.36質量%以下がより好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる前記単量体(B)単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、0.05質量%以上0.40質量%以下が好ましく、0.10質量%以上0.36質量%以下がより好ましい。尚、具体的な単量体(B)については後述する。
【0062】
上述した前記(メタ)アクリル系重合体(P)としては、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、MMA単位、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位、単量体(B)単位を下記(a)~(d)の含有割合で含む重合体を挙げることができる。
(a)MMA単位を85.00質量%以上100質量%未満含む共重合体、又は、MMAの単独重合体。
(b)MMA単位を99.60質量%以上99.95質量%以下、及び単量体(B)単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む共重合体。
(c)MMA単位を90.00質量%以上98.00質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を2.00質量%以上10.00質量%以下含む共重合体。
(d)MMA単位を89.95質量%以上97.95質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を2.00質量%以上10.00質量%以下、及び単量体(B)単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む共重合体。
ただし、各単量体単位の合計は、100質量%を超えない。
【0063】
<(メタ)アクリル酸エステル(M)>
(メタ)アクリル酸エステル(M)は、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステルである。
本発明において(メタ)アクリル系重合体(P)は、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を構成成分の一つとして含むことができる。
(メタ)アクリル系重合体(P)が(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を含むことにより、得られた樹脂成形体の難燃性はより良好となる。
【0064】
(メタ)アクリル酸エステル(M)としては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル、及びそれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0065】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる前記(メタ)アクリル酸エステル(M)単位は、熱が加わると側鎖が脱離し、メタクリル酸構造単位に転化する。このメタクリル酸構造単位、リン酸エステル系難燃剤(C)が作用し、その相乗効果により、得られた樹脂成形体が燃焼するときの炭化物の生成量が増大する。また、(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらにビニル基を2個以上有する単量体(B)単位を含むことで、得られた樹脂成形体が燃焼するときの炭化物の生成が更に促進される。炭化物は樹脂組成物への輻射熱の伝達を妨げるバリア層として機能し、得られた樹脂成形体の難燃性を高める。一方、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)単位から脱離した側鎖は、酸素を消費して、燃焼場が酸欠状態になるため、樹脂組成物の難燃性を更に高める。
【0066】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物において、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)には、得られた樹脂成形体の難燃性の向上効果に優れる観点から、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及び(メタ)アクリル酸イソボルニルから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0067】
<単量体(B)>
単量体(B)は、ビニル基を2個以上有する単量体であり、単量体(B)単位は前記(メタ)アクリル系重合体(P)の構成成分の一つである。(メタ)アクリル系重合体(P)が単量体(B)単位を含むことにより、得られた樹脂成形体の難燃性をより向上することができる。
【0068】
単量体(B)としては、二官能(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0069】
上述した単量体(B)の中でも、炭素数10~18の単量体は、原料の取り扱い性が良好であることから、(メタ)アクリル系樹脂組成物を製造するときの作業性を向上できる。
【0070】
さらに、上述した単量体(B)の中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種は、原料の取り扱い性が優れることに加え、樹脂成形体の難燃性をより優れたものとできる点から好ましい。
【0071】
<共重合可能な単量体>
本発明においては、必要に応じて、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エステル(M)と共重合可能な単量体を、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量%に対して、0~12質量%、好ましくは0.8~9.0質量%の範囲で、(メタ)アクリル系重合体(P)に含有させることができる。
【0072】
前記共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸I-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン及びそれらの誘導体;メタクリルアミド、アクリロニトリル等の窒素含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジルアクリレート等のエポキシ基含有単量体;並びにスチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。
【0073】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物は、必要に応じて、一般の配合剤を含有させることができる。配合剤としては、例えば、溶剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、艶消剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体等を挙げることができる。
【0074】
≪(メタ)アクリル系樹脂組成物の製造方法≫
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を得る方法としては、例えば、以下に示す単量体組成物(S1)にリン酸エステル系難燃剤(C)を含有させた重合性組成物(S2)を重合して得る方法が挙げられる。
【0075】
重合性組成物(S2)に含有されるリン酸エステル系難燃剤(C)の含有量は、前記重合性組成物(S2)の100質量部に対して、リン酸エステル系難燃剤(C)5質量部以上20質量部以下とすることで、得られた樹脂成形体の難燃性や耐熱性、機械的強度を良好なものとすることができる。
【0076】
<単量体組成物(S1)>
単量体組成物(S1)は、(メタ)アクリル系樹脂組成物を得るための原料の一実施態様であり、メタクリル酸メチルを含有する組成物である。
【0077】
前記単量体組成物(S1)に含有されるメタクリル酸メチルの含有割合は特に制限されるものではないが、前記単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、メタクリル酸メチル85.0質量%以上100質量%以下を含有することにより、得られた樹脂成形体の透明性や機械的強度を良好なものとすることができる。
【0078】
また、前記単量体組成物(S1)は、前記単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、前記単量体(B)0.05質量%以上0.40質量%以下を含むことにより、得られた樹脂成形体の難燃性を良好なものとすることができる。
【0079】
さらに、前記単量体組成物(S1)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)を含むことにより、上述した理由により、得られた樹脂成形体の難燃性をより良好にできる。
前記単量体組成物(S1)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)を、前記単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、2.0質量%以上10.0質量%以下を含有することにより、得られた樹脂成形体の難燃性と機械的強度を良好なものとすることができる。
【0080】
さらに、前記単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、メタクリル酸メチルを90.0質量%以上98.0質量%以下、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル(M)を2.0質量%以上10.0質量%以下を含有することにより、得られた樹脂成形体の透明性や機械的強度を良好なものとすることができる。
【0081】
前記単量体組成物(S1)は、予めMMA単位を主成分として含む重合体(P1)を含むことができる。
ここで、「主成分として含む」とは、前記重合体(P1)が、前記重合体(P1)の総質量を100質量%として、前記MMA単位を85.0質量%以上含むことをいう。
前記重合体(P1)は、メタクリル酸メチルの単独重合体、若しくは、前記重合体(P1)の総質量に対して、MMA単位85.0質量%以上100質量%未満と、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体由来の繰り返し単位0質量%を超えて15.0質量%以下を含む(共)重合体である。
前記メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体とは、上述した「共重合可能な単量体」及び「(メタ)アクリル酸エステル(M)」と同じ単量体を用いることができる。
【0082】
前記重合体(P1)を含むことにより、重合性組成物(S2)は粘性を有する液体(以下、「シラップ」という)となるため、重合時間を短縮でき、生産性を向上することができる。
【0083】
上述したシラップを得る方法としては、例えば、以下の2つの方法を挙げることができる。
(方法1)メタクリル酸メチル、前記メタクリル酸エステル(M)及び前記単量体(B)を含む単量体混合物に、重合体(P1)を溶解させる方法
(方法2)メタクリル酸メチル(MMA)の単独物、又は、MMA85.0質量%以上100質量%未満とMMAと共重合可能な単量体0質量%を超えて15.0質量%以下を含む単量体混合物に公知のラジカル重合開始剤を添加して、その一部を重合させ、次いで、前記メタクリル酸エステル(M)、前記単量体(B)、メタクリル酸メチル及びMMAと共重合可能な単量体から選ばれる少なくとも一種類を所定量だけ添加する方法。
【0084】
前記単量体混合物を重合して重合性組成物(S2)のシラップを得る際に使用されるラジカル重合開始剤、及び、前記重合性組成物(S2)を重合して(メタ)アクリル系樹脂組成物を得る際に使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;及びベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。本発明においては、必要に応じて、ラジカル重合開始剤と共にアミン、メルカプタン等の促進剤を併用することができる。
【0085】
ラジカル重合開始剤の添加量は目的に応じて適宜決めることができるが、通常、重合性組成物(S2)中の単量体100質量部に対して0.01質量部以上0.50質量部以下である。
【0086】
ラジカル重合する際の重合温度は、通常、使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて10~150℃の範囲で適宜設定される。また、重合性組成物(S2)は必要に応じて多段階の温度条件で重合を行うことができる。
【0087】
ラジカル重合法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び分散重合法が挙げられるが、これらの中で、生産性の点で、塊状重合法が好ましく、塊状重合法の中でもキャスト重合(注型重合)法がより好ましい。
【0088】
キャスト重合法により(メタ)アクリル系樹脂組成物を得る場合、例えば重合性組成物(S2)を鋳型に注入して重合させることにより(メタ)アクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0089】
≪樹脂成形体≫
本発明の樹脂成形体は、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物を成形してなる成形体である。
樹脂組成物からなる成形体の耐熱性は、一般には難燃性の向上に伴い低下する傾向にあるという、難燃性と所謂トレードオフの関係にある。すなわち、本発明の樹脂成形体は、相反する特性である難燃性と耐熱性とを両立させているという顕著な特性を有した樹脂成形体である。
【0090】
前記樹脂成形体の形状としては、例えば、板状の成形体(樹脂板)が挙げられる。樹脂板の厚みは、一般的には1mm以上30mm以下である。上述したキャスト法を用いる場合、ガスケットの太さ(直径)を適宜調して、所望の厚みの樹脂板を得ることができる。
【0091】
≪樹脂成形体の製造方法≫
本発明の(メタ)アクリル系樹脂成形体を製造する方法は特定に限定されるものではなく、例えば、周辺を軟質樹脂チューブ等のガスケットでシールして対向させた2枚の無機ガラス板又は金属板(SUS板)からなる鋳型に前記重合性組成物(S2)を注入して加熱するセルキャスト法、又は同一方向に同一速度で進行する片面鏡面研磨された2枚のステンレス製エンドレスベルトとガスケットでシールされた空間を鋳型として上流から連続的に前記重合性組成物(S2)を注入して加熱することによって連続的に重合する連続キャスト法により樹脂成形体を得る方法が挙げられる。鋳型の空隙の間隔は所望の厚さの樹脂板が得られるように適宜調整されるが、一般的には1~30mmである。
【実施例】
【0092】
以下に本発明を、実施例を用いて説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0093】
また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル
IBXMA:メタクリル酸イソボルニル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
難燃剤A:後述する合成例1で合成した難燃剤(平均重合度N=2.4、粘度(25℃)2100mPa・s)
難燃剤B:後述する合成例2で合成した難燃剤(平均重合度N=2.6、粘度(25℃)2300mPa・s)
難燃剤C:後述する合成例3で合成した難燃剤(平均重合度N=2.9、粘度(25℃)2800mPa・s)
難燃剤D:後述する比較合成例1で合成した難燃剤(平均重合度N=3.4、粘度(25℃)11000mPa・s)
難燃剤E:後述する比較合成例2で合成した難燃剤(平均重合度N=1.5、粘度(25℃)900mPa・s)
難燃剤F:後述する比較合成例3で合成した難燃剤(平均重合度N=1.7、粘度(25℃)3800mPa・s)
難燃剤G:トリメチルホスフェート(商品名:TMP、大八化学工業(株)製、粘度(25℃)2mPa・s)
【0094】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0095】
(1)重合度
平均重合度Nは、GPC測定におけるn=0~8の各成分のGPC面積分率(An)を用いて次式により求めた。
N=Σ(n・An)/Σ(An)
GPC測定による有機リン化合物(I)のn=0~8の各化合物(成分)の含有量は、例えば、次のようにして分析(測定)した。
具体的には、試料0.05gにテトラヒドロフラン(THF)10mlを添加し、試料溶液とし、下記の機器及び分析条件で分析し、RI検出器の面積%を各化合物の含有量(組成)とした。n=0~8の各化合物(成分)の含有量を各化合物のGPC面積分率(An)とし、上記式から平均重合度Nを求めた。
(機器)
GPC分析装置(東ソー株式会社製、型式:HLC-8220又は相当品)
データ分析装置(東ソー株式会社製、型式:SC-8010又は相当品)
(カラム)
ガードカラム
(東ソー株式会社製、型式:TSKguardcolumnSuperHZ-L 4.6mmI.D.×2.0cm)1本
サンプルカラム
(東ソー株式会社製、型式:TSKGEL SuperHZ1000
6.0mmI.D.×15cm)3本
(分析条件)
INLET温度 40℃
カラム温度 40℃
RI温度 40℃
溶媒流量 0.35ml/分
検出器 RI(RefractIve Index:屈折率)
試料溶液注入量 10μl(ループ管)
(データ処理条件)
START TIME (分) 8.00
STOP TIME (分) 18.00
【0096】
(2)粘度
粘度測定には、ウベローデ粘度計(株式会社相互理化学硝子製作所製、規格:3C)を使用し、以下に示す式を用いて25℃のときの動粘度及び粘度を求めた。
ν(動粘度)=C×t
粘度(mPa・s)=ν×ρ
このとき、Cはウベローデ粘度計定数、tは流下秒数(sec.)、ρは25℃のときの密度(kg/m3)を示す。
【0097】
(3)難燃性(JIS)
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体の難燃性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3mm)について、JIS K 6911-1995の耐燃性試験A法に準拠して、前記試験片が自消するまでに要する時間(自消時間)を測定した。さらに、以下の判定基準を用いて難燃性(JIS)を判定した。
AA:試験片の自消時間が1分未満。
A:試験片の自消時間が1分以上3分未満。
B:試験片の自消時間が3分以上又は自消しない。
【0098】
(4)難燃性(UL94)
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体の難燃性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ125mm×幅13mm×厚さ3mm)について、UL94に規定される垂直焼試験法に準拠して、表1に示す判定基準を用いて難燃性を判定した。
【0099】
【0100】
(5)耐熱性(HDT)
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体の耐熱性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3mm)について、JIS K 7191に準拠して、荷重たわみ温度(以下、「HDT」と示す)(℃)を測定した。
【0101】
さらに、表2に示す判定基準を用いて難燃性(JIS)自消時間と耐熱性の総合性能を判定した。
【0102】
【0103】
(6)曲げ応力
本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体の機械的強度の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ60mm×幅25mm×厚さ3mm)について、JIS K 7171に準拠して、支点間距離48mmにおける曲げ応力(MPa)を測定した。さらに、以下の判定基準を用いて機械的強度を判定した。
AA:曲げ応力が100MPa以上
A:曲げ応力が93MPa以上100MPa未満
B:曲げ応力が93MPa未満
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
[合成例1]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン1609.7g(10.5モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール742.7g(7.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル1846.5g得た。さらに別の四つ口フラスコにトルエン835.4gと四塩化チタン10.5g(0.055モル)を仕込み、前に得られたクロロリン酸エステル1750.0gと酸化プロピレン1024.1g(17.6モル)を60℃以下の温度で追加し反応させた。得られた有機層は酸価が2.05KOHmg/gであり、10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱溶剤及び脱水を難燃剤A(平均重合度N=2.4、粘度=2100mPa・s)を得た。
【0106】
[合成例2]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン2360.8g(15.4モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール1167.1g(11.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル2720.1g得た。さらに別の四つ口フラスコに前のクロロリン酸エステル400.0gと四塩化チタン1.2g(0.0063モル)を仕込み、酸化プロピレン227.5g(3.9モル)を60℃以下の温度で追加し、75℃まで昇温させ反応を終了させた。得られた有機層は酸価が1.40KOHmg/gであり、10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱水を行い難燃剤B(平均重合度N=2.6、粘度=2300mPa・s)を得た。
【0107】
[合成例3]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン1073.1g(7.0モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール530.4g(5.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル1251.9g得た。さらに別の四つ口フラスコに前のクロロリン酸エステル1247.3gと四塩化チタン3.7g(0.020モル)を仕込み、酸化プロピレン686.5g(11.8モル)を40℃以下の温度で追加し、80℃まで昇温させ反応を終了させた。得られた有機層は酸価が2.58KOHmg/gであり、10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱水を行い難燃剤C(平均重合度N=2.9、粘度=2800mPa・s)を得た。
【0108】
[比較合成例1]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン690.0g(4.5モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール382.0g(3.6モル)をフラスコ内の温度が20℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル795.3g得た。さらに別の四つ口フラスコに前のクロロリン酸エステル795.3gと四塩化チタン3.0g(0.016モル)を仕込み、酸化プロピレン385.5g(6.6モル)を50℃以下の温度で追加し、80℃まで昇温させ反応を終了させた。得られた有機層は酸価が2.76KOHmg/gであり、10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱水を行い難燃剤D(平均重合度N=3.4、粘度=11000mPa・s)を得た。
【0109】
[比較合成例2]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン282.4g(1.8モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール106g(1.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル307.1g得た。さらに別の四つ口フラスコに前のクロロリン酸エステル307.1gと四塩化チタン2.1g(0.011モル)を仕込み、酸化プロピレン197.2g(3.4モル)を40℃以下の温度で追加し、80℃まで昇温させ反応を終了させた。得られた有機層は酸価が0.80KOHmg/gであり、10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱水を行い難燃剤E(平均重合度N=1.5、粘度=900mPa・s)を得た。
【0110】
[比較合成例3]
(反応工程)
撹拌棒、温度計、吹き込み管、コンデンサー付き1000mLフラスコに、三塩化リン275g(2.0モル)、トリエチルアミン0.55g及びエチレンクロルヒドリン0.65gを仕込んだ。次いで、40~50℃でプロピレンオキシド278g(5モル)をボンベより流量計及び吹き込み管を通してガス状で吹き込んだ。反応時間は4時間であった。その後、50~60℃で1時間熟成した。反応混合物の活性塩素濃度は6.9%(理論値7.1%)であった。
この反応混合物に滴下ロートよりアセトアルデヒド56g(1.1モル)を30~40℃、30分で添加した。その後、徐々に反応温度を上げ、80~90℃で4時間反応させた。反応混合物の酸価は1.5であった。
その後、この反応混合物に5~10℃で、滴下ロートより30%水酸化ナトリウム水溶液6gを20分で添加した。反応混合物のpHは10.5であった。次いで、35%過酸化水素水溶液90g(1.0モル)を10~20℃、4時間で添加した。過酸化水素水溶液を添加している間は、反応混合物のpHが9.5~10.5になるよう、適宜30%水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら調節した。30%水酸化ナトリウム水溶液の全使用量は25gであった。過酸化水素水溶液添加終了後、30~40℃、2時間反応を継続した。
(後処理工程)
反応混合物に30%水酸化ナトリウム水溶液10gを添加し、50~60℃で1時間撹拌した。次いで、分液ロートに静置し、水層と有機層に分離した。得られた有機層を、60~70℃にて温水200mLで2回洗浄した後、1~3kPaの減圧化、90~100℃で低沸分を除去し、難燃剤Fを(平均重合度N=1.7、粘度=3800mPa・s)得た。
難燃剤Fは、主に合成樹脂の可塑剤、難燃剤及び安定剤等として使用される公知の有機リン化合物である。例えば、特開平11-100391号公報の実施例3に記載の方法を応用して得ることができる(同公報の式(IV)でR=メチル基、Z=水素原子、nの平均重合度N=1.7、粘度=3800mPa・s)。
【0111】
[実施例1]
(1)シラップの製造
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)にMMA100部を供給し、撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。内温が60℃になった時点で、ラジカル重合開始剤である2,2'-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1部を添加し、更に内温100℃まで加熱した後、13分間保持した。次いで、反応器を室温まで冷却して、重合体30質量%と単量体70質量%からなるシラップ(A)を得た。
【0112】
(2)注型重合
上記のシラップ(A)100質量部、単量体(B)としてEDMA0.15質量部及びリン酸エステル系難燃剤(C)として合成例1で得られた難燃剤A8.7質量部を混合し、さらに重合開始剤としてt-ヘキシルパーオキシピバレート0.05質量部を添加して、重合性組成物(S2)を得た。対向して配置した2枚のSUS板の間の周縁部に、2枚のSUS板の空隙間隔が4.1mmとなるように軟質樹脂製ガスケットを設置して、鋳型を作製した。上記の鋳型の中に、前記重合性組成物(S2)を流し込み、軟質樹脂製ガスケットで完全に封止した後、82℃まで昇温して30分間保持し、次いで130℃まで昇温して30分間保持して、重合性組成物(S2)を重合させた。その後、室温まで冷却し、SUS板を取り除いて厚さ3mmの板状の樹脂成形体を得た。
【0113】
得られた樹脂成形体から、切断機を用いて各試験片を切り出した後に、試験片の切り出した面をフライス盤で研磨した。得られた樹脂成形体の評価結果を表5に示す。
【0114】
[実施例2~9]
重合性組成物(S2)の組成を表3に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表5に示す。
【0115】
[比較例1~3、及び5~9]
リン酸エステル系難燃剤(C)の代わりに比較用難燃剤として表3記載の難燃剤を表3記載の配合量で使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表5に示す。
なお、表5において比較例5及び9の難燃剤の平均重合度が「-」となっているのは、使用したリン酸エステル系難燃剤(G)が重合物ではないためである。
【0116】
[比較例4]
リン酸エステル系難燃剤(C)の代わりに比較用難燃剤として難燃剤F、(メタ)アクリル酸エステル(M)としてIBXMA5部を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表5に示す。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
実施例1~9で得られた樹脂成形体は、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量部と、リン酸エステル系難燃剤(C)5質量部以上20質量部以下を含有するので、いずれも難燃性(JIS)は不燃性、耐熱性90℃以上、曲げ応力100MPa以上であるか、或いは難燃性(UL)はV-0、耐熱性70℃以上、曲げ応力90MPa以上であり、難燃性と耐熱性、機械的強度に優れていた。
【0121】
比較例1で得られた樹脂成形体は、比較用難燃剤の平均重合度が高いため、難燃性が不十分であった。
【0122】
比較例2で得られた樹脂成形体は、比較用難燃剤の平均重合度と粘度が低いため、耐熱性が不十分であった。
【0123】
比較例3及び4で得られた樹脂成形体は、比較用難燃剤の平均重合度と粘度が低いため、難燃性が不十分であった。
【0124】
比較例5及び8で得られた樹脂成形体は、比較用難燃剤が重合体でないことから、平均重合度と粘度が低いため、難燃性と耐熱性が不十分であった。
【0125】
比較例6で得られた樹脂成形体は、比較用難燃剤の平均重合度と粘度が高いため、難燃性が不十分であった。
【0126】
比較例7及び9で得られた樹脂成形体は、比較用難燃剤の平均重合度と粘度が低いため、耐熱性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のリン酸エステル系難燃剤(C)は、(メタ)アクリル系樹脂組成物に添加することで耐熱性を維持しつつ、難燃性を付与することができる。また、本発明の(メタ)アクリル系樹脂組成物及び樹脂成形体は、透明性、難燃性、耐熱性、機械的強度、及び耐候性に優れているので、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の用途に好適に用いることができる。