(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ブリルアン周波数シフト測定装置及びブリルアン周波数シフト測定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20230922BHJP
G02F 2/02 20060101ALI20230922BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01M11/02 J
G02F2/02
G02F1/01 F
(21)【出願番号】P 2020024536
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴大
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/080415(WO,A1)
【文献】特開2019-203860(JP,A)
【文献】特開2019-203859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0025374(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
G01D 5/26 - G01D 5/38
G02F 1/00 - G02F 1/125
G02F 1/21 - G02F 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源からの光を2つに分岐する分岐部と、
分岐された2つの光のいずれかの光の周波数をシフトする光周波数シフト部と、
分岐された一方の光から第1の光周波数コムを発生する第1光周波数コム発生部と、
分岐された他方の光から、前記第1の光周波数コムと周波数間隔が異なる第2の光周波数コムを発生する第2光周波数コム発生部と、
前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形するスペクトル整形部と、
前記第1の光周波数コムをパルス化してプローブ光を生成する第1光変調部と、
前記第2の光周波数コムをパルス化してポンプ光を生成する第2光変調部と、
測定対象である光ファイバの一端側から前記プローブ光を入射し前記光ファイバの他端側から前記ポンプ光を入射したときに前記光ファイバの他端側から出射される光を検出する光検出部と、
前記光検出部で検出された光強度に基づいて、前記光ファイバ中のブリルアン周波数シフトを求める制御部とを含
み、
前記スペクトル整形部は、
前記ブリルアン周波数シフトと前記光検出部で検出される光強度との関係が所定の関数に当てはまるように、前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形する、ブリルアン周波数シフト測定装置。
【請求項2】
レーザー光源からの光を2つに分岐する分岐ステップと、
分岐された2つの光のいずれかの光の周波数をシフトする光周波数シフトステップと、
分岐された一方の光から第1の光周波数コムを発生する第1光周波数コム発生ステップと、
分岐された他方の光から、前記第1の光周波数コムと周波数間隔が異なる第2の光周波数コムを発生する第2光周波数コム発生ステップと、
前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形するスペクトル整形ステップと、
前記第1の光周波数コムをパルス化してプローブ光を生成する第1光変調ステップと、
前記第2の光周波数コムをパルス化してポンプ光を生成する第2光変調ステップと、
測定対象である光ファイバの一端側から前記プローブ光を入射し前記光ファイバの他端側から前記ポンプ光を入射したときに前記光ファイバの他端側から出射される光を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップで検出された光強度に基づいて、前記光ファイバ中のブリルアン周波数シフトを求める制御ステップとを含
み、
前記スペクトル整形ステップでは、
前記ブリルアン周波数シフトと前記光検出ステップで検出される光強度との関係が所定の関数に当てはまるように、前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形する、ブリルアン周波数シフト測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリルアン周波数シフト測定装置及びブリルアン周波数シフト測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバ内のブリルアン散乱を利用した分布型センサの研究が数多くなされている。初期の研究としては、単一モード光源を用いるものが提案されている(非特許文献1)。また、これまでの研究は、非特許文献2にまとめられている。最近、光周波数コムを利用した手法が、周波数掃引なしでブリルアン利得スペクトルを検出できる手法として提案されている(非特許文献3~6)。一方、単一モード光源を用いた手法であるが、ブリルアン利得スペクトルの変化が線形とみなせる領域を利用して、散乱光の強度変化から、温度や歪みを測定する手法が提案されている(非特許文献7)。また、単一モードのポンプ光に変調をかけることで多モードとし、各モードに対応するブリルアン利得スペクトルが重なるようにすることでブリルアン利得スペクトルを整形し、ブリルアン利得スペクトルの線形とみなせる領域を広くするものが提案されている(非特許文献8、9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】T. Horiguchi, K. Shimizu, T. Kurashima, M. Tateda, and Y. Koyamada, “Development of a distributed sensing technique using Brillouin scattering,” J. Lightwave Technol. 13, 1296-1302 (1995).
【文献】K. Y. Song, K. Hotate, W. Zou, and Z. He, “Applications of Brillouin dynamic grating to distributed fiber sensors,” J. Lightwave Technol. 35, 3268-3280 (2017).
【文献】A. Voskoboinik, J.Wang, B. Shamee, S. R. Nuccio, L. Zhang, M Chitgarha, A. E. Willner, and M. Tur, “SBS-based fiber optical sensing using frequency-domain simultaneous tone interrogation,” J. Lightwave Technol. 29, 1729-1735 (2011).
【文献】C. Jin, L. Wang, Y. Chen, N. Guo, W. Chung, H. Au, Z. Li, H-Y. Tam, and C. Lu, “Single-measurement digital optical frequency comb based phase-detection Brillouin optical time domain analyzer,” Opt. Exp. 25, 9213-9224 (2017).
【文献】Y. Tanaka and Y. Ozaki, “Brillouin frequency shift measurement with virtually controlled sensitivity,” Appl. Phys. Exp. 10, 062504 (2017).
【文献】Y. Tanaka, Y. Ozaki, and Y. So, “Scanless Brillouin gain spectrum measurement based on multi-heterodyne detection,” in Tech. Digest of International Conf. on Optical Fiber Sensors 2018, TuE88 (2018).
【文献】H. Lee, N. Hayashi, Y. Mizuno, and K. Nakamura, “Slope-assisted Brillouin optical correlation-domain reflectometry: proof of concept,” Photon. Jour. 8, 6802807 (2016).
【文献】Guangyao Yang, Xinyu Fan, Bin Wang, and Zuyuan He, "Enhancing strain dynamic range of slope-assisted BOTDA by manipulating Brillouin gain spectrum shape," Opt. Express 26, 32599-32607 (2018)
【文献】J. Marinelarena, J. Urricelqui, and A. Loayssa, IEEE Photonics J. 9,6802710 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の単一モード光源を利用する手法において、プローブ光の周波数掃引を用いる手法では、本質的に測定時間がかかり、また、光源の周波数掃引には複雑な制御が必要となる。また、散乱光とポンプ光(基準となる光)との周波数差を検出する場合、散乱光が微弱で周波数にも揺らぎがある。そのため、大量のデータをとって平均化を行う必要があり、やはり測定時間を要する。
【0005】
光周波数コムを用いてブリルアン利得スペクトルの一括検出を行う従来の手法では、周波数掃引が不要となるものの、スペクトルを再現する際の信号処理が複雑になる。
【0006】
単一モード光源を使用し、光源の変調等によって変形したブリルアン利得スペクトルについて、その変化が周波数軸上で線形とみなせる領域を利用する手法は、測定の短時間化には有効であるが、強度変化と温度・歪み等の変化とを対応付ける事前のキャリブレーションが複雑になる。また、ポンプ光の各モードが作るブリルアン利得スペクトルを重ねることによってブリルアン利得スペクトルを整形する手法は、測定の短時間化には有効であるが、変調の調整は複雑になる。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、測定時間を短縮化しつつ信号処理を簡便化することが可能なブリルアン周波数シフト測定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、レーザー光源からの光を2つに分岐する分岐部と、分岐された2つの光のいずれかの光の周波数をシフトする光周波数シフト部と、分岐された一方の光から第1の光周波数コムを発生する第1光周波数コム発生部と、分岐された他方の光から、前記第1の光周波数コムと周波数間隔が異なる第2の光周波数コムを発生する第2光周波数コム発生部と、前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形するスペクトル整形部と、前記第1の光周波数コムをパルス化してプローブ光を生成する第1光変調部と、前記第2の光周波数コムをパルス化してポンプ光を生成する第2光変調部と、測定対象である光ファイバの一端側から前記プローブ光を入射し前記光ファイバの他端側から前記ポンプ光を入射したときに前記光ファイバの他端側から出射される光を検出する光検出部と、前記光検出部で検出された光強度に基づいて、前記光ファイバ中のブリルアン周波数シフトを求める制御部とを含むブリルアン周波数シフト測定装置に関する。
【0009】
また本発明は、レーザー光源からの光を2つに分岐する分岐ステップと、分岐された2つの光のいずれかの光の周波数をシフトする光周波数シフトステップと、分岐された一方の光から第1の光周波数コムを発生する第1光周波数コム発生ステップと、分岐された他方の光から、前記第1の光周波数コムと周波数間隔が異なる第2の光周波数コムを発生する第2光周波数コム発生ステップと、前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形するスペクトル整形ステップと、前記第1の光周波数コムをパルス化してプローブ光を生成する第1光変調ステップと、前記第2の光周波数コムをパルス化してポンプ光を生成する第2光変調ステップと、測定対象である光ファイバの一端側から前記プローブ光を入射し前記光ファイバの他端側から前記ポンプ光を入射したときに前記光ファイバの他端側から出射される光を検出する光検出ステップと、前記光検出ステップで検出された光強度に基づいて、前記光ファイバ中のブリルアン周波数シフトを求める制御ステップとを含むブリルアン周波数シフト測定方法に関する。
【0010】
本発明によれば、光周波数コムを用いることで、測定精度を劣化させずに測定時間を短縮化することができる。また、本発明では、光ファイバからの出射光から周波数情報を取
り出すのではなく、出射光の強度からブリルアン周波数シフトを求めるため、信号処理を簡便化することができる。
【0011】
(2)また本発明に係るブリルアン周波数シフト測定装置及びブリルアン周波数シフト測定方法では、前記スペクトル整形部は(前記スペクトル整形ステップでは)、前記ブリルアン周波数シフトと前記光検出部で検出される光強度との関係が所定の関数に当てはまるように、前記第1の光周波数コム及び/又は前記第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係るブリルアン周波数シフト測定装置の構成を示す図。
【
図2】プローブ光、ポンプ光、ブリルアン利得スペクトル及び増幅されたプローブ光の一例を示す図。
【
図3】ブリルアン周波数シフトと増幅されたプローブ光の強度との関係を示す図。
【
図4】合成利得係数が一定の周波数範囲で定数になるときの例を示す図。
【
図5】任意の関数を直線とした場合のブリルアン周波数シフトと増幅されたプローブ光の強度との関係をシミュレーションにより求めた結果を示す図。
【
図6】本実施形態の手法による効果を確認する確認実験の実験系を示す図。
【
図7】30mの被測定ファイバの端5mの部分を暖めたときの、被測定ファイバにおける温度分布の変化を観測した結果を示す図。
【
図8】ポンプ光とプローブ光との相対周波数差を変化させ、増幅されたプローブ光の強度を測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る測定装置(ブリルアン周波数シフト測定装置)の構成を示す図である。測定装置1は、光ファイバ2のセンシング領域SA(測定対象)でのブリルアン周波数シフトを測定する装置であり、単一波長のレーザー光源10と、光分岐器11(分岐部)と、光周波数シフタ20(光周波数シフト部)と、光周波数コム発生器30,31(第1光周波数コム発生部、第2光周波数コム発生部)と、波長フィルタ40,41(スペクトル整形部)と、光変調器50,51(第1光変調部、第2光変調部)と、信号発生器52と、光サーキュレータ60と、光検出器70(光検出部)と、制御装置80(制御部)とを含む。
【0015】
光分岐器11は、レーザー光源10からの光(周波数ν0)を、所定の分岐比(例えば、1対1)となるように2つに分岐する。
【0016】
光周波数シフタ20は、光分岐器11で分岐された2つの光のいずれかの光の周波数をシフトする。
図1に示す例では、分岐された2つの光のうち光周波数コム発生器31に入射する光の周波数をシフトしている。光周波数シフタ20による周波数シフト量をν
sとする。
【0017】
光周波数コム発生器30は、分岐された一方の光から光周波数コム(第1の光周波数コム)を発生する。光周波数コムは、周波数軸上に等間隔に並んだ成分(モード)からなる櫛形のスペクトルを持つ光である。光周波数コム発生器31は、分岐された他方の光(光周波数シフタ20から入射する光)から、第1の光周波数コムと周波数間隔(スペクトルにおいて隣り合うモードの周波数間隔)が僅かに異なる光周波数コム(第2の光周波数コ
ム)を発生する。
【0018】
波長フィルタ40は、第1の光周波数コムのスペクトル強度(各モードの強度)を整形する。波長フィルタ41は、第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形する。
図1に示す例では、波長フィルタ40は、第1の光周波数コムのスペクトルにおける各モードの強度が互いに異なるように第1の光周波数コムのスペクトル強度を整形し、波長フィルタ41は、第2の光周波数コムのスペクトルにおける各モードの強度が等しくなるように第2の光周波数コムのスペクトル強度を整形している。
【0019】
光変調器50は、整形された第1の光周波数コムに一定のタイミングで時間ゲートをかけて(周期的なゲートパルスによる強度変調をかけて)パルス化してプローブ光Prを生成する。プローブ光Prは、光ファイバ2のセンシング領域SAの一端側から入射する。光変調器51は、整形された第2の光周波数コムに一定のタイミングで時間ゲートをかけてパルス化してポンプ光Pmを生成する。信号発生器52は、光変調器50,51を駆動するための信号(強度変調信号)を発生する。
【0020】
光サーキュレータ60は、第1のポートに入力するポンプ光Pmを、第2のポートから出力してセンシング領域SAの他端側に導くとともに、センシング領域SAの他端側から出射され第2のポートに入力する光(増幅されたプローブ光AP)を、第3のポートから出力して光検出器70に導く。光検出器70は、増幅されたプローブ光APを検出し、検出した光強度を電気信号として出力する。
【0021】
制御装置80は、プロセッサ(CPU等)と記憶部(RAM、ハードディスク等)とを備えた情報処理装置(例えば、パーソナルコンピュータ)であり、光検出器70からの信号の強度(光検出器70で検出された光強度)に基づいて、光ファイバ2中(センシング領域SA)のブリルアン周波数シフト(ブリルアン利得スペクトルの周波数シフト)を算出する。また、制御装置80は、信号発生器52に制御信号を出力して信号発生器52を制御する。
【0022】
光ファイバ2中では、熱的に誘起された音響波により屈折率分布(動く回折格子)が生じる。光ファイバ2(センシング領域SA)の他端側に入射したポンプ光Pmがこれにより反射され、周波数がダウンシフトしたストローク光が発生し後方に(光ファイバの他端側に)伝搬する。更に、ストローク光とポンプ光Pmのビートにより電歪が生じ、屈折率分布が生じる。この一連の過程が繰り返され、ブリルアン利得スペクトル(BGS:Brillouin Gain Spectrum)が生じる。プローブ光Prがポンプ光Pmと対向して(光ファイバの一端側に)入射すると、ブリルアン利得スペクトルによりプローブ光Prが増幅され、光ファイバの他端側から増幅されたプローブ光APが出射される。
【0023】
図2に、プローブ光Pr、ポンプ光Pm、ブリルアン利得スペクトル(BGS)及び増幅されたプローブ光APの一例を示す。図中の上向き矢印は、光周波数コムの各モードを示している。また、図中のBGS
n(n=1~4)は、ポンプ光Pmのn番目のモードにより発生したブリルアン利得スペクトルを示している。
【0024】
本実施形態の測定装置1では、プローブ光Prである光周波数コムの周波数間隔Δν
probeとポンプ光Pmである光周波数コムの周波数間隔Δν
pumpとが、僅かに異なるようにする。光周波数コムのモード数が多いほど、周波数間隔Δν
probeと周波数間隔Δν
pumpとの差が小さくなるようにする。また、ポンプ光Pmの周波数をプローブ光Prの周波数に対してシフトする。光ファイバ2中では、ポンプ光Pmの光強度が一定以上のとき、ポンプ光Pmの周波数よりも低い一定の周波数範囲にブリルアン利得スペクトルが生じ、その周波数範囲において、ポンプ光Pmと対向伝搬する光(プローブ光P
r)を増幅する。例えば、ポンプ光Pmの周波数が波長1.5μmのとき、約11GHz低い周波数にブリルアン利得スペクトルが生じる。ポンプ光Pmの1つのモードの周波数(スペクトルピークの中心周波数)と、当該モードによって発生したブリルアン利得スペクトルの中心周波数との周波数差を、ブリルアン周波数シフト(BFS:Brillouin Frequency Shift)と呼ぶ。
図2に示すように、プローブ光Prの各モードは、ポンプ光Pmの各モードの周波数よりも低い周波数に生じた各ブリルアン利得スペクトル(BGS
1~BGS
4)により増幅されている。なお、光周波数コムの周波数間隔Δν
pump,Δν
probeは、ブリルアン周波数シフトよりも広くなるようにしている。
【0025】
ブリルアン利得スペクトルの中心周波数は、光ファイバ2に加わる熱や歪みに比例してシフトする。従って、ブリルアン周波数シフトを求めることで、光ファイバ2の温度や歪みを測定することができる。本実施形態の測定装置1では、増幅されたプローブ光APの強度(全パワー)を光検出器70で検出する。プローブ光Prとなる光周波数コムとポンプ光Pmとなる光周波数コムのスペクトル強度を予め適切に設定してスペクトル整形部(波長フィルタ40,41)により整形することで、例えば
図3に示すように、広い周波数範囲にわたって、ブリルアン周波数シフト(BFS)に対して増幅されたプローブ光APの検出強度が比例するようになる。すなわち、スペクトル整形部(波長フィルタ40,41)は、ブリルアン周波数シフトと光検出器70で検出される光強度との関係が、所定の関数に当てはまる(例えば、単調増加や単調減少の関係となる)ように、光周波数コムのスペクトル強度を整形する。これにより、光検出器70で検出された光強度から簡単な計算で一意にブリルアン周波数シフトを求めることができる。
【0026】
また、プローブ光Prの増幅は、ポンプ光Pmとプローブ光Prが衝突する点においてのみ起こる。そして、パルス光であるポンプ光Pmとプローブ光Prの衝突点は、光変調器50,51によるゲートのタイミング(パルスの出射タイミング)で制御することができる。従って、信号発生器52を制御して、センシング領域SAにおける任意の位置に衝突点を設定することで、任意の位置での増幅されたプローブ光APの強度を取得することができる。そして、センシング領域SAにおいて複数の位置に衝突点を設定し、設定した衝突点ごとの増幅されたプローブ光APの強度を取得し、設定した衝突点ごとのブリルアン周波数シフトを求めることで、センシング領域SAにおける熱や歪みの分布を測定することができる。
【0027】
次に、光周波数コムのスペクトル強度の整形手法の一例について説明する。N本のモードからなるポンプ光Pmについては、波長フィルタ41により各モードの強度を等しくする。また、プローブ光PrもN本のモードからなるとして、プローブ光Prの周波数の低い方からk番目のモードの強度をpkとする。ここで、ブリルアン利得スペクトルにより増幅されたプローブ光APの強度Pap(νBFS)は、以下の式(1)により表される。
【0028】
【数1】
ここで、G
0(ν
BFS,νk)は、k番目のモードに対する利得係数であり、ブリルアン周波数シフトν
BFSと、k番目のモードの強度p
kの関数となっている。ここで、合成利得係数G
S(ν
BFS)を、以下の式(2)で定義する。
【0029】
【数2】
合成利得係数G
S(ν
BFS)は、増幅されたプローブ光APの強度P
ap(ν
BFS)のブリルアン周波数シフトν
BFSに対する比である。k番目のモードに対する利得係数G
0(ν
BFS,νk)が予め測定されており、且つプローブ光Prの強度が大きくなくプローブ光Prの影響を受けないとすれば、合成利得係数G
S(ν
BFS)が一定の周波数範囲で定数になる(すなわち、ν
BFSとP
ap(ν
BFS)との関係が一定の周波数範囲で比例関係となる)ような各モードの強度P
kは、数値計算で容易に求めることができる。
図4は、合成利得係数G
S(ν
BFS)が一定の周波数範囲で定数になるときの例であり、図中点線の各曲線は、増幅されたプローブ光APの各モードの強度とブリルアン周波数シフト(BFS)との関係を示し、図中実線の直線は、増幅されたプローブ光APの強度(全パワー)とブリルアン周波数シフトとの関係を示している。
【0030】
N本のモードからなるポンプ光Pmによって生じた各ブリルアン利得スペクトルは、例えばローレンツ関数で与えられる。そのとき、ブリルアン利得スペクトル全体GBFS(ν)は、以下の式(3)により表される。
【0031】
【数3】
ここで、g
kは、ポンプ光Pmのk番目のモードによって生成したブリルアン利得スペクトルの最大値を決める定数であり、特に、ポンプ光Pmの各モードの強度が等しいとき、g
k=g
0(一定)である。また、ν
pump,kは、ポンプ光Pmのk番目のモードの周波数であり、Δν
pumpは、ポンプ光Pmのスペクトル間隔(隣り合うモードの周波数間隔)であり、Δνは、定数である。
【0032】
また、プローブ光PrのスペクトルPprobe(ν)は、以下の式(4)により表される。
【0033】
【数4】
ここで、ν
probe,kは、プローブ光Prのk番目のモードの周波数であり、Δν
probeは、プローブ光Prのスペクトル間隔である。また、fは、プローブ光Prの各モードのスペクトル形状を与える関数であり、f(ν
probe,k)=1とみなしてよい。
【0034】
ここでは、ポンプ光Pmの各モードの強度が等しいとする。また、ポンプ光Pm、プローブ光Prのスペクトル線幅は十分に狭いものとする(数学的には、近似的にデルタ関数列と考える)。ブリルアン利得スペクトルにより増幅されるプローブ光APの各モードの強度は、pkGBFS(νprobe,k)に比例する。従って、ブリルアン利得スペク
トルにより増幅されるプローブ光APの強度Pap(νBFS)は、以下の式(5)で与えられる。
【0035】
【数5】
ここで、Aは、比例係数である。P
ap(ν
BFS)は、ブリルアン周波数シフトν
BFSの関数となっており、プローブ光Prの各モードの強度p
kを適切に設定することで、任意の関数に近似した関数を合成する(ν
BFSとP
ap(ν
BFS)との関係が所定の関数に当てはまるようにする)ことができる。なお、比例係数Aは、事前に一定のポンプ光(単一波長)に対して、プローブ光(単一波長)の強度とブリルアン利得スペクトルにより増幅されるプローブ光の強度との関係を測定しておくことで求めることができる。
【0036】
例えば、任意の関数として直線を合成すれば、ブリルアン利得スペクトルにより増幅されるプローブ光の強度Pap(νBFS)が、光ファイバの温度や歪みによるブリルアン周波数シフトνBFSの変化に比例した出力となるようにすることができる。任意の関数を直線とする場合、所望の直線(Pap(νBFS)=aνBFS+b)に対して、誤差関数e(νBFS)を以下の式(6)で定義する。
【0037】
【数6】
そして、e(ν
BFS)=0とおき、この関数に対して最小二乗法によりプローブ光Prの各モードの強度p
kを決定する。
図5に、任意の関数を直線とした場合のブリルアン周波数シフトν
BFSと増幅されるプローブ光の強度P
ap(ν
BFS)との関係をシミュレーションにより求めた結果を示す。
【0038】
図6は、本実施形態の手法による効果を確認する確認実験の実験系を示す図である。
図6において、LDは、単一波長レーザー光源であり、SSは、スペクトル整形器であり、IMは、光強度変調器であり、PSは、偏波スクランブラであり、BPFは、光バンドパスフィルタであり、PDは、光検出器であり、LIAは、ロックインアンプであり、FUTは、被測定ファイバ(Fiber Under Test、センシング領域SAに相当)である。
【0039】
単一波長レーザー光源LDの波長は、1553nmとした。実験系の上側の光路は、プローブ光Prを生成する光路であり、光源からの光に、光強度変調器IMにより12.02GHzで深い変調をかけ、周波数間隔(Δνprobe)が12.02GHzの5モードからなる光周波数コム(第1の光周波数コム)を生成した。すなわち、この光強度変調器IMは、第1光周波数コム発生部として機能する。
【0040】
実験系の下側の光路は、ポンプ光Pmを生成する光路であり、光源からの光に、最初の光強度変調器IMにより10.86GHzで浅い変調をかけ、周波数軸上で元の光周波数スペクトルの両側に生じる側波帯のうち、高周波側のスペクトルを光バンドパスフィルタBPFで切り出した。これに2番目の光強度変調器IMにより12.00GHzで深い変調をかけ、周波数間隔(Δνpump)が12.00GHzの5モードからなる光周波数
コム(第2の光周波数コム)を生成した。すなわち、最初の光強度変調器IM、光バンドパスフィルタBPF及び2番目の光強度変調器IMは、光周波数シフト部及び第2光周波数コム発生部として機能する。
【0041】
また、実験系の上側の光路及び下側の光路のそれぞれにおいて、スペクトル整形器SSにより、増幅されるプローブ光APの強度がブリルアン周波数シフトに比例するように光周波数コムを整形した。ここでは、スペクトル整形器SSとして、入射光を分光して、異なる波長の光を空間上に並べ、それぞれの光の強度を可変減衰器で調整したのち、再び合波するもの(例えば、導波路型のスペクトル整形器)を使用した。なお、スペクトル整形器SSとして、空間型液晶光変調器を用いたものを使用することもできる。また、光強度変調器IMによって、周期的なゲートパルスによりそれぞれの光周波数コムに強度変調をかけてパルス化して、プローブ光Pr、ポンプ光Pmを生成した。このゲートパルスは、空間に変換すると幅3m(15ns)、周期30m(150ns)であり、空間分解能3m、測定レンジ30mを与える。
【0042】
30mの被測定ファイバFUTの端5mの部分(図中(b)で示す部分)を暖め、被測定ファイバFUTの各測定点(パルスの衝突点)での増幅されたプローブ光APの強度を時系列で取得して各測定点でのブリルアン周波数シフトの変化を測定し、被測定ファイバFUTにおける温度分布の変化を観測した。結果を
図7に示す。
図7のグラフは、被測定ファイバFUTの端から3mずつ温度(ブリルアン周波数シフト(BFS))の変化を測定した結果であり、上から、0~3m区間の結果、3~6m区間の結果、6~30m区間の結果を示す。被測定ファイバFUTの暖めた部分に近い区間ほどブリルアン周波数シフトが大きく変化しており、暖めた部分から遠い区間ではブリルアン周波数シフトが変化していない。この結果から、光ファイバの温度分布の変化を精度良く測定できることが確認された。
【0043】
また、本実験系において、ポンプ光Pmとプローブ光Prとの相対周波数差(ブリルアン周波数シフトと等価)を変化させ、増幅されたプローブ光APの強度を測定した。結果を
図8に示す(図中黒塗り点)。この結果から、100MHz(100度の温度変化に相当)の広い周波数範囲にわたり、相対周波数差の変化に対して増幅されたプローブ光APの強度が線形に変化していることが確認された。
【0044】
本実施形態のブリルアン周波数シフト測定装置によれば、光周波数コムを用いることで、測定精度を劣化させずに測定時間を短縮化することができる。また、光ファイバからの出射光から周波数情報を取り出すのではなく、出射光の強度からブリルアン周波数シフトを求めるため、信号処理を簡便化することができる。また、光周波数コムのスペクトル強度(各モードの強度)を予め設計したフィルタで整形すればよいため、キャリブレーションが容易である。
【0045】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0046】
例えば、上記実施形態では、プローブ光となる光周波数コムのスペクトル強度と、ポンプ光となる光周波数コムのスペクトル強度とを整形する場合について説明したが、プローブ光となる光周波数コムのスペクトル強度のみを整形するようにしてもよいし、ポンプ光
となる光周波数コムのスペクトル強度のみを整形するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…測定装置(ブリルアン周波数シフト測定装置)、2…光ファイバ、10…レーザー光源、11…光分岐器、20…光周波数シフタ、30,31…光周波数コム発生器、40,41…波長フィルタ、50,51…光変調器、52…信号発生器、60…光サーキュレータ、70…光検出器、80…制御装置