(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】消臭性構造物
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20230922BHJP
D06M 13/328 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61L9/01 K
D06M13/328
(21)【出願番号】P 2019114363
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018122236
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】平井 憲次
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特公昭50-016677(JP,B1)
【文献】特開2005-233613(JP,A)
【文献】特開2012-224608(JP,A)
【文献】特開2011-173070(JP,A)
【文献】米国特許第5112741(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/14-53/18
B01D 53/02-53/12
D06M 13/00-15/715
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、下記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその
無機酸若しくは有機酸との塩
とを、含有することを特徴とする消臭性構造物。
【化1】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。nは1~6の整数を表す。複数のRは同一又は相異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体において、Rが水素原子であり、nが1~4の整数である
、請求項1に記載の消臭性構造物。
【請求項3】
基材が、繊維状物、シート状物、スポンジ状物、
又はボード状物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の消臭性構造物。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその
無機酸若しくは有機酸との塩を
、基材に担持することを特徴とする請求項1
又は2に記載の消臭性構造物の製造方法。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の消臭性構造物を使用することを特徴とするアルデヒドの除去方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の消臭性構造物からなるカーテン。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の消臭性構造物からなるカーペット。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の消臭性構造物からなる自動車内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類の捕捉に有効な消臭性構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類は、生活環境における代表的な臭気物質であり、臭い閾値が極めて低いために低濃度でも不快臭の原因となる。これらのアルデヒド類は屋内や自動車内において合成樹脂、合板、タバコの煙等から発生し、シックハウス症候群やシックカー症候群の原因となることが知られている。また、これらのアルデヒド類は発癌性も疑われており、人が日常的にこれらに曝されると、健康を害するリスクがある。そのため、厚生労働省により室内濃度指針値として、アセトアルデヒドは0.03ppm、ホルムアルデヒドは0.08ppmと規定されている。したがって、アルデヒド類を速やかに且つ持続的に除去する手段が求められている。
【0003】
アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の低級アルデヒドは沸点が低いため、消臭剤として汎用されるシリカゲルや活性炭等の無機系多孔質材では捕捉効率が低い。そこで、ヒドラジン誘導体、アミン、アミノ酸、又は尿素誘導体等からなるアルデヒド捕捉剤とアルデヒド類を化学反応させることによりアルデヒド類を捕捉する方法が開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
しかしながら、これら特許文献に記載の方法は、捕捉効率が不十分である、捕捉剤自体が臭気源となる、又は一旦アルデヒド類を捕捉しても経時的にアルデヒド類を再放出する等の問題があった。また、これら特許文献に記載のアルデヒドの捕捉剤をシックハウス症候群やシックカー症候群を予防する目的で住居内や自動車内で使用する場合、これらの場所は夏場等に高温になるため、性能が低下する点が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-358536号公報
【文献】特開平11-4879号公報
【文献】特開2012-120708公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる従来技術の背景に鑑み、アルデヒドとの接触時に、優れた捕捉効果を示す消臭性構造物を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定のO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその化学的に許容される塩を1種以上含有することを特徴とする消臭性構造物がアルデヒド類を速やかに且つ持続的に捕捉することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有するものである。
[1]
下記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその化学的に許容される塩を1種以上含有することを特徴とする消臭性構造物。
【0009】
【0010】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。nは1~6の整数を表す。複数のRは同一又は相異なっていてもよい。)
[2]
前記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体において、Rが水素原子であり、nが1~4の整数であるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその化学的に許容される塩を1種以上含有することを特徴とする[1]に記載の消臭性構造物。
[3]
構造物の基材が、繊維状物、シート状物、スポンジ状物、ボード状物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の消臭性構造物。
[4]
構造物の基材が、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維及びこれらの混合繊維からなる織物、編物、不織布、糸、ロープ、紐状の繊維状物;樹脂、天然ゴム、合成ゴムからなるシート状物やスポンジ状物;又は木材、合板、石膏からなるボード状物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の消臭性構造物。
[5]
構造物の基材が、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、フッ素系繊維、アラミド系繊維、サルフォン系繊維等の合成繊維、レーヨン、アセテート繊維等の半合成繊維、木綿、羊毛、絹、麻等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維及びこれらの混合繊維からなる織物、編物、不織布、糸、ロープ、紐状の繊維状物;ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、天然ゴム、合成ゴムからなるシート状物やスポンジ状物;又は木材、合板、石膏等からなるボード状物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の消臭性構造物。
[6]
前記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその化学的に許容される塩を1種以上基材に担持することを特徴とする[1]乃至[5]に記載の消臭性構造物の製造方法。
[7]
[1]乃至[5]に記載の消臭性構造物を使用することを特徴とするアルデヒドの除去方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の消臭性構造物は、アルデヒド類を速やかに且つ持続的に捕捉する。その結果、人体に有害なアルデヒド類を低減し、ヒトの生活環境を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の消臭性構造物は、特定のO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその化学的に許容される塩を1種以上含有することをその特徴とする。
【0013】
前記一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体において、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等を例示することができる。nは1~6の整数を表す。アルデヒド捕捉能が高い点で、Rは水素原子が好ましく、nは1~4の整数が好ましい。
【0014】
O-置換ヒドロキシルアミン誘導体(1)は、一部又は全てが無機酸又は有機酸との化学的に許容される塩となっていてもよい。塩の種類としては、特に限定されないが、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、過塩素酸塩、ケイ酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、安価である点で無機酸塩が好ましく、塩酸塩がさらに好ましい。
【0015】
O-置換ヒドロキシルアミン誘導体(1)は、分子内にカルボキシ基を有するため、当該カルボキシ基が分子内のアルコキシアミノ基と分子内塩を形成してもよい。また、当該カルボキシ基の一部又は全てがカルボン酸塩となっていてもよい。カルボン酸塩の種類としては、特に限定されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0016】
本発明において、アルデヒド捕捉剤として用いるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体(1)又はその化学的に許容される塩は一部市販されているが、特許文献(特開平5-86012号公報)記載の方法に従って調製することができる。
【0017】
本発明の消臭性構造物の基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、フッ素系繊維、アラミド系繊維、サルフォン系繊維等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、木綿、羊毛、絹、麻等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等及びこれらの混合繊維からなる織物、編物、不織布、糸、ロープ、紐等の繊維状物、又はポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、天然ゴム、合成ゴム等からなるシート状物やスポンジ状物、又は木材、合板、石膏等からなるボード状物等が挙げられる。
【0018】
本発明の消臭性構造物は、目的、用途に応じて任意の用途で使用することができる。用途は特に限定されないが、例えば、カーテン用、カーペット用、壁装材用、自動車内装材用、家具用等の用途で使用することができる。
【0019】
本発明の消臭性構造物の製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、一般式(1)で表されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体又はその化学的に許容される塩(以下、「O-置換ヒドロキシルアミン類」という。)を基材に担持する方法が挙げられる。O-置換ヒドロキシルアミン類は単独で、又は2種以上混合して担持してもよい。
【0020】
O-置換ヒドロキシルアミン類を基材に担持する方法としては、特に限定されないが、例えば、O-置換ヒドロキシルアミン類を水等の溶媒に溶解させて溶液とし、次いで上記した基材に該溶液を塗布する方法が挙げられる。
【0021】
基材へのO-置換ヒドロキシルアミン類の担持量は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、O-置換ヒドロキシルアミン類が0.1~10g/m2の範囲が好ましく、0.5~5g/m2の範囲がさらに好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0023】
基材は市販のカーペット(ポリエステル・アクリル樹脂製/レック社製)、カーテン(ポリエステル製/シンコール社製)、ゴムスポンジ(天然ゴム製/東京防音社製)、及び壁紙(ポリ塩化ビニル樹脂製/アサヒペン社製)を用いた。
【0024】
実施例1~8
基材(縦10cm、横10cm)に、(アミノオキシ)酢酸を5重量%含有する捕捉剤の水溶液を20g/m2の割合で塗布し((アミノオキシ)酢酸としての塗布量=1g/m2)、室温で24時間乾燥させ、消臭性構造物を得た。この消臭性構造物をテドラーバッグに窒素ガス5Lと共に封入し、アセトアルデヒドガスを加えた。室温で2時間静置後、テドラーバッグ内のガスを2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を担持したカートリッジ(製品名:プレセップ-C DNPH、和光純薬工業製)に吸着させた。このカートリッジからDNPH-アルデヒド縮合体を溶出(溶離液=アセトニトリル)し、溶出液中のDNPH-アルデヒド縮合体を液体クロマトグラフ(装置名:Agilent 1220 Infinity LC、アジレント・テクノロジー製)で定量して残存アルデヒド濃度を算出した。さらに、アルデヒド捕捉率を下式から算出した。
【0025】
アルデヒド捕捉率(%)=[(アセトアルデヒド初濃度-残存アセトアルデヒド濃度)÷アセトアルデヒド初濃度]×100。
【0026】
比較例1,3,5,7
(アミノオキシ)酢酸を用いなかったこと以外は実施例1~4と同様に実施した。
【0027】
比較例2,4,6,8
(アミノオキシ)酢酸に代え、既存のアルデヒド捕捉剤であるケムキャッチH-6000HS(ヒドラジド系、大塚化学製)を用いたこと以外は実施例1~4と同様に実施した。
【0028】
実施例1~8及び比較例1~8の結果を表1に示した。
【0029】
【0030】
表1より明らかなように、本発明の消臭性構造物は、基材のみ、若しくは既存のアルデヒド捕捉剤を含有する基材と比較して高いアセトアルデヒド捕捉性能を示し、さらにホルムアルデヒドに対しても高い捕捉性能を示した。
【0031】
実施例9
アセトアルデヒドガスを加えた後、室温で24時間静置したこと以外は実施例1と同様に実施した結果、アセトアルデヒド捕捉率は99.9%であり、本発明の消臭性構造物は長時間経過後も高いアルデヒド捕捉性能を維持した。
【0032】
実施例10
実施例1でアセトアルデヒドを捕捉した後の消臭性構造物をテドラーバッグに窒素ガス5Lと共に封入し、65℃で2時間静置後、テドラーバッグ内のガスを実施例1~8と同様に定量した結果、アセトアルデヒド濃度は0.01ppm未満であり、本発明の消臭性構造物は高温下でもアルデヒドを再放出しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の消臭性構造物は、アルデヒド類を速やかに且つ持続的に捕捉する。その結果、人体に有害なアルデヒド類を低減し、ヒトの生活環境を改善することができる。