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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】エマルジョン、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4422 20060101AFI20230922BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230922BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230922BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230922BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230922BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61K31/4422
A61K9/107
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/44
A61P9/12
A61P43/00 111
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022174346
(22)【出願日】2022-10-31
【審査請求日】2023-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】天野 陽平
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101416942(CN,A)
【文献】特表2000-504334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4422
A61K 9/107
A61K 47/14
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 47/44
A61P 9/12
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニモジピン、リン脂質、中性脂質、トコフェロール、及び水、並びにトリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、エマルジョン。
【請求項2】
前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファジチルグリセロール、ホスファチジルイノシトール及びスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
前記中性脂質が、大豆油、ゴマ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項4】
pHが5以上9以下である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項5】
前記ニモジピンの含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.02重量%以上0.2重量%以下であり、
前記リン脂質の含有量が、エマルジョン全量を基準として、1重量%以上3重量%以下であり、
前記中性脂質の含有量が、エマルジョン全量を基準として、5重量%以上10重量%以下であり、
前記トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.01重量%以上0.2重量%以下であり、
前記トコフェロールの含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.01重量%以上0.2重量%以下である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項6】
注射剤である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項7】
希釈せずに投与されるように使用される、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項8】
a)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、
b)リン脂質、中性脂質、トコフェロール、及びトリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加し、次いで粗乳化するステップ、並びに
c)ステップb)で得られた粗乳化物にステップa)で得られた溶液を滴下しつつ分散した液を更に高圧乳化処理するステップ
を含む、エマルジョンの製造方法。
【請求項9】
A)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、
B)リン脂質、及びトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加して分散するステップ、
C)ステップA)で得られた溶液と中性脂質及びトコフェロールを混和するステップ、並びに
D)ステップB)で得られた分散液にステップC)で得られた溶液を滴下しつつ粗乳化した液を更に高圧乳化処理するステップ
を含む、エマルジョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン、及びその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、ニモジピンを含有する脂質ナノ粒子を含むエマルジョン、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニモジピンは、カルシウムチャネルブロッカーとして知られている。ニモジピンはまた、血液脳関門に容易に浸透し、脳血液供給を改善することが知られている。そのため、ニモジピンは、急性脳血管障害、くも膜下出血後の脳血管れん縮、それによって引き起こされる虚血性神経障害、高血圧、片頭痛などの回復期の血液循環を改善するために臨床的に広く使用されている。
【0003】
市販されているニモジピン製剤として、例えば、ニモトップ(バイエル社)が知られている。また、ニモジピンの乳化組成物としては、例えば、特許文献1には、ニモジピン0.02-0.23質量濃度%、注射用油2-30質量濃度%、乳化剤0.8-3質量濃度%、錯化剤0-0.1質量濃度%、安定剤0-0.3質量濃度%、及び浸透圧調節剤1-3質量濃度%を含むことを特徴とする、ニモジピン注射用組成物が開示されている。また、例えば、特許文献2には、アミノ酸を含有するニモジピンサブミクロン乳注射剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2021-535932号公報
【文献】中国特許出願公開第105796494号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニモトップは、ニモジピンを溶解させるために25%と高濃度のエタノールの他、エタノール以外の有機溶媒(PEG400)も使用されている。また、ニモトップは使用時点で他の希釈液と混合する必要があるが、ニモジピンの析出を抑制するために、投与直前に生理食塩水等の希釈液と混合すること、ニモジピンを可溶化するためにエタノールが希釈されると、徐々にニモジピン結晶の析出が始まるため、三方活栓と注射用ポンプからなる、煩雑な点滴セットを使用すること、点滴速度を非常にゆっくりにすることが必要となり、医療現場への負担が大きい。また患者は、ニモジピン注射剤投与の間(一般的には5時間以上)、ニモジピン注射剤に使用されているエタノールによって引き起こされる血管痛に耐えなければならず、苦痛が強いられる。
【0006】
ニモジピンの薬物キャリアとして、ミセルやエマルジョンを採用すれば、ニモジピンの安定性、及び投与中の患者のコンプライアンスを大幅に改善できると期待される。ニモジピンの乳化組成物は、例えば、特許文献1及び2に開示されるようにいくつか知られてはいるものの、充分な選択肢が提供されているとはいえない状況である。
【0007】
そこで、本発明は、ニモジピンを含有する新たなエマルジョンを提供することを目的とする。本発明はまた、当該エマルジョンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
ニモジピン、リン脂質、中性脂質、トコフェロール、及び水、並びにトリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、エマルジョン。
[2]
前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファジチルグリセロール、ホスファチジルイノシトール及びスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載のエマルジョン。
[3]
前記中性脂質が、大豆油、ゴマ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載のエマルジョン。
[4]
pHが5以上9以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン。
[5]
前記ニモジピンの含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.02重量%以上0.2重量%以下であり、
前記リン脂質の含有量が、エマルジョン全量を基準として、1重量%以上3重量%以下であり、
前記中性脂質の含有量が、エマルジョン全量を基準として、5重量%以上10重量%以下であり、
前記トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.01重量%以上0.2重量%以下であり、
前記トコフェロールの含有量が、エマルジョン全量を基準として、0.01重量%以上0.2重量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のエマルジョン。
[6]
注射剤である、[1]~[5]のいずれかに記載のエマルジョン。
[7]
希釈せずに投与されるように使用される、[1]~[6]のいずれかに記載のエマルジョン。
[8]
a)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、
b)リン脂質、中性脂質、トコフェロール、及びトリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加し、次いで粗乳化するステップ、並びに
c)ステップb)で得られた粗乳化物にステップa)で得られた溶液を滴下しつつ分散した液を更に高圧乳化処理するステップ
を含む、エマルジョンの製造方法。
[9]
A)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、
B)リン脂質、及びトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加して分散するステップ、
C)ステップA)で得られた溶液と中性脂質及びトコフェロールを混和するステップ、並びに
D)ステップB)で得られた分散液にステップC)で得られた溶液を滴下しつつ粗乳化した液を更に高圧乳化処理するステップ
を含む、エマルジョンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ニモジピンを含有する新たなエマルジョンを提供することができる。本発明によればまた、当該エマルジョンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<本発明の特徴>
(エマルジョン)
本発明は、ニモジピン、リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、トコフェロール、及び水を含む、エマルジョンを提供することに特徴を有する。
【0012】
(エマルジョンの製造方法)
本発明は、a)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、b)リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及びトコフェロールを水系溶媒に添加し、次いで粗乳化するステップ、並びにc)ステップb)で得られた粗乳化物にステップa)で得られた溶液を滴下しつつ分散した液を更に高圧乳化処理するステップを含む、エマルジョンの製造方法(第1の製造方法)を提供することに特徴を有する。
【0013】
本発明はまた、A)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、B)リン脂質、及びトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加して分散するステップ、C)ステップA)で得られた溶液と中性脂質及びトコフェロールを混和するステップ、並びにD)ステップB)で得られた分散液にステップC)で得られた溶液を滴下しつつ粗乳化した液を更に高圧乳化処理するステップを含む、エマルジョンの製造方法(第2の製造方法)を提供することに特徴を有する。
【0014】
<エマルジョン>
本実施形態に係るエマルジョンは、ニモジピン、リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、トコフェロール、及び水を含む。
【0015】
本実施形態に係るエマルジョンは、ニモジピンを含有する脂質ナノ粒子が水相に分散している水中油型(O/W型)エマルジョンである。当該脂質ナノ粒子において、ニモジピンは、少なくともリン脂質から構成される外殻に内包されている。
【0016】
(ニモジピン)
ニモジピンは、3-(2-メトキシエチル) 5-プロパン-2-イル 2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン-3,5-ジカルボキシレートとも称される化合物である。本実施形態に係るエマルジョンに使用されるニモジピンは、R体であってもよく、S体であってもよく、R体とS体の混合物(例えば、R体とS体が1:1で含まれるラセミ混合物)であってもよい。
【0017】
本実施形態に係るエマルジョン中のニモジピンの含有量は、例えば、エマルジョン全量を基準として、0.001質量%以上1質量%以下であってよく、0.005質量%以上0.8質量%以下であってよく、0.01質量%以上0.5質量%以下であってよく、0.015質量%以上0.3質量%以下であってよく、0.02質量%以上0.2質量%以下であってよい。
【0018】
本実施形態に係るエマルジョン中のニモジピンの含有量は、例えば、40℃1ヶ月相当の条件で保存した後、保存前の含有量を基準として70質量%以上であってよく、75質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0019】
(リン脂質)
本実施形態に係るエマルジョンは、脂質ナノ粒子の構成成分としてリン脂質を含む。リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファジチルグリセロール及びホスファチジルイノシトール等のグリセロリン脂質、並びにスフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質等が挙げられる。リン脂質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
リン脂質としては、例えば、卵黄、大豆又は菜種等の動植物原料由来のリン脂質を特に制限なく使用することができる。
【0021】
本実施形態に係るエマルジョン中のリン脂質の含有量は、前記脂質膜層を形成するのに充分な量であればよく、例えば、エマルジョン全量を基準として、0.5質量%以上10質量%以下であってよく、0.6質量%以上8質量%以下であってよく、0.7質量%以上6質量%以下であってよく、0.8質量%以上5質量%以下であってよく、0.9質量%以上4質量%以下であってよく、1質量%以上3質量%以下であってよい。
【0022】
(中性脂質)
本実施形態に係るエマルジョンは、中性脂質を含む。中性脂質は、例えば、ニモジピンの可溶化を補助するために使用される。中性脂質としては、例えば、大豆油、ゴマ油、ナタネ油、サフラワー油、オリーブ油、ヒマシ油、トウモロコシ油、綿実油、米油、ヒマワリ油、グレープシード油及び小麦胚芽油等の植物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)が挙げられる。中性脂質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本実施形態に係るエマルジョン中の中性脂質の含有量は、例えば、エマルジョン全量を基準として、1質量%以上20質量%以下であってよく、1.2質量%以上18質量%以下であってよく、1.4質量%以上16質量%以下であってよく、1.6質量%以上14質量%以下であってよく、1.8質量%以上12質量%以下であってよく、2質量%以上10質量%以下であってよい。
【0024】
(トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種)
本実施形態に係るエマルジョンは、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む。トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことによって、ニモジピンの分解を抑制し、保存安定性を向上させることができると共に、乳化安定性を向上させることもできる。
【0025】
トリスヒドロキシメチルアミノメタンの塩としては、例えば、塩酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、ホウ酸塩等が挙げられる。トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種は、水系溶媒中でpHが7以上9以下の範囲内になるように使用するのが好ましい。また、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを水に溶解させた後、例えば、塩酸、酢酸、マレイン酸、ホウ酸等の酸でpHを7以上9以下の範囲内に調製した緩衝液を調製した後、当該緩衝液をエマルジョンの原料として用いてもよい。
【0026】
本実施形態に係るエマルジョン中のトリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、ニモジピンの安定性を高めるのに充分な量であればよく、例えば、エマルジョン全量を基準として、0.002質量%以上1質量%以下であってよく、0.004質量%以上0.8質量%以下であってよく、0.006質量%以上0.6質量%以下であってよく、0.008質量%以上0.4質量%以下であってよく、0.01質量%以上0.2質量%以下であってよい。
【0027】
(トコフェロール)
本実施形態に係るエマルジョンは、トコフェロールを含む。トコフェロールは、ニモジピンの分解を抑制し、保存安定性を向上させるために使用される。トコフェロールとしては、例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールが挙げられる。これらのトコフェロールには、それぞれ複数の光学異性体が存在しているが、本実施形態に係るエマルジョンに使用されるトコフェロールは、いずれの光学異性体であってもよく、好ましくはラセミ体(例えば、dl-α-トコフェロール)である。本実施形態に係るエマルジョンにおいて、トコフェロールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本実施形態に係るエマルジョン中のトコフェロールの含有量は、ニモジピンの安定性を高めるのに充分な量であればよく、例えば、エマルジョン全量を基準として、0.002質量%以上1質量%以下であってよく、0.004質量%以上0.8質量%以下であってよく、0.006質量%以上0.6質量%以下であってよく、0.008質量%以上0.4質量%以下であってよく、0.01質量%以上0.2質量%以下であってよい。
【0029】
(水)
本実施形態に係るエマルジョンは、水を含む。水としては、例えば、第十八改正日本薬局方に定義される、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水及び注射用蒸留水等を挙げることができる。水は、ニモジピンを含有する脂質ナノ粒子の外相(水相)を構成する。外相は、例えば、水相を形成する際に使用する水系溶媒(例えば、水、緩衝液)、油相を形成する際に使用する有機溶媒等を含む。
【0030】
本実施形態に係るエマルジョン中の水の含有量は、上述した各成分の残部であってよく、具体的には例えば、エマルジョン全量を基準として、0質量%超100質量%未満であってよい。
【0031】
<その他成分>
本実施形態に係るエマルジョンは、本発明による効果を阻害しない範囲で、医薬品として許容されるその他成分を更に含んでいてもよい。その他成分としては、例えば、溶剤又は可溶化剤、乳化補助剤、浸透圧調整剤、pH調整剤が挙げられる。
【0032】
(溶剤又は可溶化剤)
溶剤又は可溶化剤は、例えば、ニモジピンの可溶化を補助するために使用される。溶剤又は可溶化剤として、例えば、有機溶媒や界面活性剤を用いることができる。
【0033】
有機溶媒としては、例えば、エタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、プロピレングリコール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリジノン、テトラヒドロフラン、等が挙げられる。
【0034】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0035】
(乳化補助剤)
乳化補助剤は、エマルジョンの乳化安定性を高めるために使用される。乳化補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸又はその塩、疎水化ヒアルロン酸又はその塩等のヒアルロン酸誘導体(例えば、「ヒアロリペア」、キユーピー(株)製)等が挙げられる。
【0036】
(浸透圧調整剤)
浸透圧調整剤は、エマルジョンの浸透圧比を所望の値に調節するために使用される。浸透圧調整剤としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、グルコース、トレハロース、マルトース、スクロース、ラフィノース、ラクトース、デキストラン等の糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩類、濃グリセリンが挙げられる。
【0037】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、例えば、塩酸等の強酸、水酸化ナトリウム等の強塩基が挙げられる。
【0038】
本実施形態に係るエマルジョンは、ニモジピン、リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、トコフェロール、及び水を組み合わせて使用しているため、ニモジピンの保存安定性に優れ、かつ乳化安定性に優れている。そのため、本実施形態に係るエマルジョンは、有機溶媒(例えば、エタノール)、合成界面活性剤及びアミノ酸等を実質的に含有しないか、又は従来と比べて低い含有量にすることができる。
【0039】
本実施形態に係るエマルジョン中の有機溶媒の含有量は、例えば、エマルジョン全量を基準として、5質量%以下であってよく、4質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、2.5質量%以下であってよい。また、本実施形態に係るエマルジョン中のエタノールの含有量は、例えば、エマルジョン全量を基準として、5質量%以下であってよく、4質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、2.5質量%以下であってよい。本実施形態に係るエマルジョン中の合成界面活性剤の含有量は、例えば、エマルジョン全量を基準として、5質量%以下であってよく、4質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、2質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0質量%であってよい。本実施形態に係るエマルジョン中のアミノ酸の含有量は、例えば、エマルジョン全量を基準として、5質量%以下であってよく、4質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、2質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0質量%であってよい。
【0040】
本実施形態に係るエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の粒子径は、0nm超400nm以下であることが好ましい。これにより、注射剤として使用するのに適したエマルジョンになる。本明細書において「粒子径」とは、動的光散乱法により測定される平均粒子径を意味する。粒子径は、動的光散乱法を利用した粒子径測定装置(例えば、ゼータサイザーナノ,マルバーン・パナリティカル株式会社製)により測定することができる。本実施形態に係るエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の粒子径は、乳化力に優れ、かつ注射剤として使用するのに適するものである観点から、0nm超350nm以下、10nm超300nm以下、15nm以上250nm以下、20nm以上200nm以下であってよい。さらに、本実施形態に係るエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の調製直後の平均粒子径と40℃1ヶ月保存後の平均粒子径の変化が80nm以内であり、70nm以内であるとよく、さらに60nm以内、50nm以内、40nm以内、35nm以内であるとよい。なお、本実施形態に係るエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の保存後の平均粒子径は、上述した範囲内となる。
【0041】
本実施形態に係るエマルジョンは、ニモジピンの保存安定性に優れており、調製直後のニモジピンの含有量と40℃1ヶ月保存後のニモジピンの含有量の比(40℃1ヶ月保存後/調製直後)が、95%以上105%以下の範囲内であってよい。
【0042】
本実施形態に係るエマルジョンのpHは特に制限はなく、例えば、3以上11以下であってよい。本実施形態に係るエマルジョンのpHは、ニモジピンの分解を抑制し、保存安定性を向上させるという観点からは、4以上10以下であることが好ましく、5以上9以下であることがより好ましく、6以上9以下であることが更に好ましく、7以上9以下であることが更により好ましい。
【0043】
本実施形態に係るエマルジョンは、例えば、医薬用組成物として好適に使用することができる。また、本実施形態に係るエマルジョンは、ニモジピンを含有しているため、急性脳血管障害、くも膜下出血後の脳血管れん縮、それによって引き起こされる虚血性神経障害、高血圧、片頭痛などの回復期の血液循環を改善することができることから、高血圧症、脳卒中、片頭痛、くも膜下出血などの脳出血性疾患の治療用組成物として好適に使用することができる。
【0044】
本実施形態に係るエマルジョンは、例えば、注射剤、脂肪乳剤等として使用できる。
【0045】
本実施形態に係るエマルジョンを投与する対象は、例えば、ヒト等の哺乳動物であってよい。
【0046】
本実施形態に係るエマルジョンの投与量、投与タイミング、投与期間は、対象疾患、投与対象の属性(性別、年齢等)等に応じて、適宜設定することができる。
【0047】
本実施形態に係るエマルジョンは、希釈せずに投与することもできる。
【0048】
<エマルジョンの製造方法>
本実施形態に係るエマルジョンは、a)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、b)リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及びトコフェロールを水系溶媒に添加し、次いで粗乳化するステップ、並びにc)ステップb)で得られた粗乳化物にステップa)で得られた溶液を滴下しつつ分散した液を更に高圧乳化処理するステップを含む製造方法(第1の製造方法)により得ることができる。
【0049】
本実施形態に係るエマルジョンはまた、A)ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解するステップ、B)リン脂質、及びトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加して分散するステップ、C)ステップA)で得られた溶液と中性脂質及びトコフェロールを混和するステップ、並びにD)ステップB)で得られた分散液にステップC)で得られた溶液を滴下しつつ粗乳化した液を更に高圧乳化処理するステップを含む製造方法(第2の製造方法)により得ることもできる。
【0050】
(第1の製造方法)
(ステップa))
ステップa)では、ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解する。使用する有機溶媒は、ニモジピンを溶解可能なものであればよく、例えば、エタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、プロピレングリコール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリジノン、テトラヒドロフラン、等が挙げられる。
【0051】
ステップa)での加熱溶解の際の温度は、例えば、40~80℃の範囲内で設定してよい。加熱溶解の際の温度は、好ましくは50~70℃の範囲内であり、55~65℃の範囲内である。
【0052】
ステップa)では、必要に応じて、ニモジピン以外の成分も一緒に有機溶媒に溶解させてもよいが、ニモジピンの分解を抑制するという観点から、リン脂質及び中性脂質は、一緒に有機溶媒に溶解させないことが好ましい。言い換えると、ステップa)で得られる溶液は、リン脂質及び中性脂質を含まないことが好ましい。なお、他の成分として乳化補助剤を使用する場合、乳化補助剤も一緒に有機溶媒に溶解させないことが好ましく、ステップa)で得られる溶液は、乳化補助剤を含まないことが好ましい。
【0053】
ステップb)では、リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及びトコフェロールを水系溶媒に添加し、次いで粗乳化する。水系溶媒としては、例えば、第十八改正日本薬局方に定義される、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水及び注射用蒸留水等が挙げられる。ステップb)で添加する緩衝剤は、緩衝液の状態で添加してもよい。
【0054】
ステップb)では、リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及びトコフェロールを水系溶媒に添加した後、例えば、撹拌等により溶解させてもよい。また、必要に応じて、40~80℃に加熱して溶解させてもよい。
【0055】
第1の製造方法において、ステップa)とステップb)を実施する順序は任意であり、例えば、ステップa)を先に実施してもよく、ステップb)を先に実施してもよく、ステップa)とステップb)を同時に実施してもよい。
【0056】
(ステップc))
ステップc)では、ステップb)で得られた粗乳化物にステップa)で得られた溶液を滴下しつつ分散した液を更に高圧乳化処理する。ステップc)の実施により、本実施形態に係るエマルジョンが得られる。高圧乳化処理前の分散は、例えば、ステップa)で得られた溶液をステップb)で得られた粗乳化物に一定の速度で緩やかに滴下し、次いで50~70℃にて5,000~15,000rpmで1~30分間加熱及び攪拌することで実施することができる。高圧乳化処理前の分散で得られるエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の粒子径は、通常1nm~500nmの範囲である。
【0057】
高圧乳化処理は、例えば、高圧乳化機を使用して実施することができる。高圧乳化処理は、例えば、50~70℃の温度条件下、50~200MPaの圧力で3~30回通液を行うことで実施することができる。高圧乳化機としては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、スターバースト((株)スギノマシン製)等のチャンバー型高圧ホモジナイザー、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等の均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられる。高圧乳化処理で得られるエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の粒子径は、通常1nm~250nmの範囲である。
【0058】
(その他ステップ)
第1の製造方法は、必要に応じて、上記各ステップに加えてエマルジョンを滅菌するステップを更に含んでいてもよい。
【0059】
滅菌するステップでは、ステップc)で得られたエマルジョンを滅菌する。エマルジョンの滅菌は、常法に従って実施することができる。具体的には、例えば、エマルジョンを孔径0.2~0.5μmのメンブレンフィルター(例えば、ナイロンシリンジフィルター)を通過させることで滅菌することができる。また、例えば、エマルジョンを湿熱式滅菌機にて加熱加圧処理(例えば、121℃、20分間)することで滅菌することができる。
【0060】
(第2の製造方法)
(ステップA))
ステップA)では、ニモジピンを有機溶媒に加熱溶解する。ステップA)は、第1の製造方法のステップa)と同様に実施することができる。
【0061】
(ステップB))
ステップB)では、リン脂質、及びトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加して分散する。水系溶媒としては、例えば、第十八改正日本薬局方に定義される、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水及び注射用蒸留水等が挙げられる。ステップB)で添加するトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種は、緩衝液の状態で添加してもよい。
【0062】
ステップB)では、リン脂質、及びトリヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を水系溶媒に添加した後、例えば、撹拌等により分散させてもよい。
【0063】
ステップC)では、ステップA)で得られた溶液と中性脂質及びトコフェロールを混和する。ステップC)では、中性脂質及びトコフェロールをステップA)で得られた溶液に添加した後、例えば、撹拌等により混和させてもよい。
【0064】
第2の製造方法において、ステップA)及びステップB)を実施する順序は任意であり、例えば、ステップA)を先に実施してもよく、ステップB)を先に実施してもよく、ステップA)及びステップB)を同時に実施してもよい。ステップC)は長時間に及ぶとニモジピンの分解を促進する恐れがあるため、極力短時間とするのが好ましい。つまり、ステップA)及びステップB)を実施した後にステップC)を実施することが好ましい。
【0065】
ステップD)では、ステップB)で得られた分散液にステップC)で得られた溶液を滴下しつつ粗乳化した液を更に高圧乳化処理する。ステップD)の実施により、本実施形態に係るエマルジョンが得られる。高圧乳化処理前の粗乳化は、例えば、ステップC)で得られた溶液をステップB)で得られた分散液に一定の速度で緩やかに滴下し、次いで50~70℃にて5,000~15,000rpmで1~30分間加熱及び攪拌することで実施することができる。高圧乳化処理前の粗乳化で得られるエマルジョンに含まれる脂質ナノ粒子の粒子径は、通常1nm~500nmの範囲である。
【0066】
高圧乳化処理は、第1の製造方法のステップc)と同様に実施することができる。
【0067】
(その他ステップ)
第2の製造方法は、必要に応じて、上記各ステップに加えてエマルジョンを滅菌するステップを更に含んでいてもよい。滅菌するステップは、第1の製造方法で説明した方法と同様に実施することができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例等に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例で使用した成分と略号との対応は以下に示すとおりである。
NP:ニモジピン,東京化成工業株式会社製
PC:PC-98T(商品名),キユーピー株式会社製(ホスファチジルコリン含有量98%以上に精製した卵黄レシチン)
PL:PL-100M(商品名),キユーピー株式会社(ホスファチジルコリン80%、ホスファチジルエタノールアミン20%を含んだ卵黄レシチン)
MCT:ココナードRK(商品名),花王株式会社製(トリカプリル酸グリセリル)
LCT:日局ダイズ油,カネダ株式会社製(脂肪酸の炭素数が主に18の長鎖脂肪酸トリグリセリド)
HA:ヒアロリペア(商品名),キユーピー株式会社製(加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12-13)グリセリル)
Tris:2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール999(商品名)(トリスヒドロキシメチルアミノメタン),富士フィルム和光株式会社製
VE:ビタミンE,dl-α-トコフェロール特級(商品名),関東化学株式会社製(dl-α-トコフェロール)
【0070】
〔試験例1:ニモジピンを分解する因子の調査〕
<ニモジピン含有エタノール製剤の調製及び安定性評価>
ニモジピンを0.2質量%となるようにエタノールに溶解し、0.2質量%NPエタノール溶液を調製した。表1に示す組成となるように10mLバイアル瓶に各成分を添加した後、容器を密閉して撹拌し、ニモジピン含有エタノール製剤を調製した。調製したニモジピン含有エタノール製剤を60℃で保存し、適時ニモジピンの定量を行った。結果を併せて表1に示す。
【0071】
<ニモジピンの定量>
ニモジピンの定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、以下の条件で行った。
移動相:水:メタノール:アセトニトリル(27:35:38)の混合溶液
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲルカラム(内径4.6mm、長さ250mm、粒径5μm)
温度:30℃
検出方法:紫外線(UV)検出器(検出波長237nm)
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すとおり、エタノール又は水によりニモジピンの分解が促進されることはなかった。一方、リン脂質(PL、PC)、又は中性脂質(MCT)によりニモジピンの分解が促進されることが明らかとなった。
【0074】
〔試験例2:リン脂質に起因するニモジピンの分解を抑制する物質の探索〕
試験例1で明らかとなったリン脂質に起因するニモジピンの分解を抑制し得る物質の探索を実施した。探索の結果を抜粋して記載する。
【0075】
<ニモジピン含有エタノール製剤の調製及び安定性評価>
0.2質量%NPエタノール溶液は試験例1と同様に調製した。クエン酸及びクエン酸三ナトリウム(無水物、いずれも富士フィルム和光株式会社製)をそれぞれ0.5質量%になるように水に溶解した後、それらをpH5.0になるように混和して、0.5質量%クエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。リン酸二水素ナトリウム(無水物、富士フィルム和光株式会社製)及びリン酸水素二ナトリウム(無水物、関東化学株式会社製)をそれぞれ0.5質量%になるように水に溶解した後、それらをpH7.0になるように混和して、0.5質量%リン酸緩衝液(pH7.0)を調製した。Trisを0.5質量%になるように水に溶解した後、1M塩酸でpH9.0に調整して、0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)を調製した。VEを1質量%になるようにエタノールに溶解して、1%VEエタノール溶液を調製した。
【0076】
表2に示す組成となるように10mLバイアル瓶に各成分を添加した後、容器を密閉して撹拌し、ニモジピン含有エタノール製剤を調製した。調製したニモジピン含有エタノール製剤を60℃で保存し、適時ニモジピンの定量を行った。ニモジピンの定量は、試験例1と同様の方法で行った。結果を併せて表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示すとおり、リン脂質に起因するニモジピンの分解は、緩衝剤又はトコフェロールの添加により、抑制されることが明らかとなった。
【0079】
〔試験例3:トコフェロール含有量によるニモジピンの分解抑制効果の確認〕
試験例2で明らかとなったリン脂質に起因するニモジピンの分解を抑制し得る物質であるトコフェロールについて、トコフェロール含有量とニモジピンの分解抑制効果との関係を確認した。
【0080】
<ニモジピン含有エタノール製剤の調製及び安定性評価>
0.2質量%NPエタノール溶液及び1質量%VEエタノール溶液は試験例2と同様に調製した。
【0081】
表3に示す組成となるように10mLバイアル瓶に各成分を添加した後、容器を密閉して撹拌し、ニモジピン含有エタノール製剤を調製した。調製したニモジピン含有エタノール製剤を60℃で保存し、適時ニモジピンの定量を行った。ニモジピンの定量は、試験例1と同様の方法で行った。結果を併せて表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示すとおり、リン脂質に起因するニモジピンの分解はトコフェロール添加によって抑制されること、及びトコフェロール添加量が0.01質量%でも抑制効果があることが明らかとなった。
【0084】
〔試験例4:緩衝剤による乳化安定化の評価〕
ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製し、緩衝剤の乳化への影響を評価した。
【0085】
<ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの製造>
以下の方法により、ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した。
【0086】
NPをエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、NPエタノール溶液を調製した。MCT、LCT及びVEを混和し、60℃に加温して溶解し、油相を調製した。60℃に加温した純水中にPL及び各種緩衝液(0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)、0.5質量%クエン酸緩衝液(pH6.0)、0.5質量%リン酸緩衝液(pH7.0))を添加し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(1)を得た。60℃に加温した粗乳化物(1)を撹拌しながら、直前で油相と混和したNPエタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(2)を得た。粗乳化物(2)を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて150MPaで5回処理した後、バイアル瓶に充填した。次いで、加圧加熱滅菌機にて121℃、20分間滅菌処理を行って、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した。各成分は、表4に示す組成となるように使用した。
【0087】
<粒子径の評価>
各脂質ナノ粒子の粒子径を加圧加熱滅菌機における滅菌前及び滅菌後に測定した。粒子径は、粒子径測定装置(ゼータサイザーナノ,マルバーン・パナリティカル株式会社製)を使用して動的光散乱法にて測定した。結果を表4に併せて示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示すとおり、緩衝剤の添加によりニモジピンの安定化効果が得られるものの、緩衝剤の種類によって、エマルジョンの乳化安定性が大きく異なることが明らかとなった。比較例4-1及び比較例4-2に示すとおり、クエン酸緩衝剤及びリン酸緩衝剤は、滅菌前後で脂質ナノ粒子の粒子径が増大しており、エマルジョンの乳化を不安定化することが明らかとなった。一方、実施例4-1~4-3に示すとおり、Tris緩衝剤は、脂質ナノ粒子の粒子経の増大が抑制されており、乳化安定性が向上することが明らかとなった。
【0090】
〔試験例5:ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び評価〕
<ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び安定性評価>
以下の方法により、ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した。
【0091】
NPをエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、NPエタノール溶液を調製した。60℃に加温した純水中にPL、MCT、LCT、VE、濃グリセリン及び0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)を添加し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(1)を得た。60℃に加温した粗乳化物(1)を撹拌しながらNPエタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(2)を得た。粗乳化物(2)を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて150MPaで5回処理した後、処理物をバイアル瓶に充填し、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した(実施例5-1)。各成分は、表5に示す組成となるように使用した。
【0092】
NPをPL、MCT及びエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、脂質エタノール溶液を調製した。60℃に加温した純水中に乳化補助剤としてHAを添加し、5分間撹拌して水相とした。60℃に加温した水相を撹拌しながら脂質エタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物を得た。粗乳化物を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて150MPaで5回処理した後、処理物をバイアル瓶に充填し、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した(比較例5-1)。各成分は、表5に示す組成となるように使用した。
【0093】
各エマルジョンについて、調製直後及び60℃で2週間保存した後、試験例1と同様の方法でニモジピンの定量を行った。結果を表5に併せて示す。
【0094】
【表5】
【0095】
表5に示したとおり、ニモジピンを脂質と共に加温溶解するとニモジピンの分解が促進するため、調製直後の定量値が低くなることが明らかとなった(実施例5-1は95%に対し、比較例5-1は74%)。また、Tris緩衝剤及びトコフェロールを含まない比較例5-1のエマルジョンは、ニモジピンの保存安定性が低いことが明らかとなった(実施例5-1は保存前後の差分が-2%に対し、比較例5-1は-20%)。
【0096】
〔試験例6:ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び評価〕
<ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び安定性評価>
以下の方法により、ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した。
【0097】
NPをエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、NPエタノール溶液を調製した。60℃に加温した純水中にPL、MCT、LCT、VE、濃グリセリン及び0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)を添加し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(1)を得た。60℃に加温した粗乳化物(1)を撹拌しながらNPエタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(2)を得た。粗乳化物(2)を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて150MPaで5回処理した後、処理物を0.2μmメンブレンフィルターを通過させてからバイアル瓶に充填し、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した(実施例6-1)。各成分は、表6に示す組成となるように使用した。
【0098】
NPをエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、NPエタノール溶液を調製した。60℃に加温した純水中にHA、PL、MCT、LCT、濃グリセリン及び0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)を添加し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(1)を得た。60℃に加温した粗乳化物(1)を撹拌しながらNPエタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(2)を得た。粗乳化物(2)を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて150MPaで5回処理した後、処理物をバイアル瓶に充填し、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した(比較例6-1)。各成分は、表6に示す組成となるように使用した。
【0099】
各エマルジョンについて、調製直後及び40℃で1ヶ月保存した後、試験例1と同様の方法でニモジピンの定量を行った。また、各エマルジョンについて、調製直後及び40℃で1ヶ月保存した後、試験例4と同様の方法で粒子径の評価を行った。結果を表6に併せて示す。
【0100】
【表6】
【0101】
表6に示すとおり、トコフェロールを含む実施例6-1のエマルジョンの方がニモジピンの保存安定性に優れることが明らかとなった。
【0102】
〔試験例7:ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び評価〕
<ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び安定性評価>
以下の方法により、ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した。
【0103】
NPをエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、NPエタノール溶液を調製した。60℃に加温した純水中にHA、PL、MCT、LCT、VE、オレイン酸ナトリウム、濃グリセリン及び0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)を添加し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(1)を得た。60℃に加温した粗乳化物(1)を撹拌しながらNPエタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(2)を得た。粗乳化物(2)を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて120MPaで10回処理した後、処理物を0.2μmメンブレンフィルターを通過させてからバイアル瓶に充填し、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した(実施例7-1~7-4)。各成分は、表7に示す組成となるように使用した。
【0104】
各エマルジョンについて、調製直後及び60℃で2週間又は4週間保存した後、試験例1と同様の方法でニモジピンの定量を行った。また、各エマルジョンについて、調製直後及び60℃で2週間又は4週間保存した後、試験例4と同様の方法で粒子径の評価を行った。結果を表7に併せて示す。
【0105】
【表7】
【0106】
本発明の構成を充足する実施例7-1~7-4のエマルジョンは、いずれもニモジピンの保存安定性及び乳化安定性に優れることが明らかとなった。
【0107】
〔試験例8:ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び評価〕
<ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンの調製及び安定性評価>
以下の方法により、ニモジピン含有脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した。
【0108】
NPをエタノールと混和し、60℃に加温して溶解し、NPエタノール溶液を調製した。60℃に加温した純水中にHA、PL、MCT、LCT、VE、濃グリセリン及び0.5質量%Tris緩衝液(pH9.0)を添加し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(1)を得た。60℃に加温した粗乳化物(1)を撹拌しながらNPエタノール溶液を滴下し、5分間粗乳化を行い、粗乳化物(2)を得た。粗乳化物(2)を高圧乳化機(マイクロフルイダイザー,マイクロフルイディクス社製)にて120MPaで10回処理した後、処理物を0.2μmメンブレンフィルターを通過させてからバイアル瓶に充填し、NPを内包する脂質ナノ粒子を含むエマルジョンを調製した(実施例8-1~8-2)。各成分は、表8に示す組成となるように使用した。
【0109】
各エマルジョンについて、調製直後及び60℃で1週間保存した後、試験例1と同様の方法でニモジピンの定量を行った。また、各エマルジョンについて、調製直後及び60℃で1週間保存した後、試験例4と同様の方法で粒子径の評価を行った。結果を表8に併せて示す。
【0110】
【表8】
【0111】
本発明の構成を充足する実施例8-1~8-2のエマルジョンは、いずれもニモジピンの保存安定性及び乳化安定性に優れることが明らかとなった。
【要約】
【課題】ニモジピンを含有する新たなエマルジョンを提供すること。
【解決手段】ニモジピン、リン脂質、中性脂質、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、トコフェロール、及び水を含む、エマルジョン。
【選択図】なし