(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230922BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2022188173
(22)【出願日】2022-11-25
【審査請求日】2023-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】戸井 信二
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-257985(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172193(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/061653(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136760(WO,A1)
【文献】特開2019-165002(JP,A)
【文献】特表2014-528891(JP,A)
【文献】特開2015-156363(JP,A)
【文献】国際公開第2022/044720(WO,A1)
【文献】特開2009-032467(JP,A)
【文献】特開2009-266712(JP,A)
【文献】特開2014-116161(JP,A)
【文献】特開2007-242581(JP,A)
【文献】特表2019-512450(JP,A)
【文献】特開2012-230898(JP,A)
【文献】特開2019-021627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/00 - 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLi、Ni、及びアルカリ土類金属元素である元素M1を含み、下記(1)及び(2)を満たす、リチウム金属複合酸化物。
(1)CuKα線を使用した粉末X線回折から得られる回折ピークをリートベルト解析して求められる、層状岩塩型の結晶構造のLiサイトにおけるMe席占有率が4.0%以下である。
(2)前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度は、100MPaを超え200MPa未満である。
【請求項2】
下記組成式(A)で表される、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物。
Li
aNi
bM1
cM2
(1-b-c)O
2 ・・・(A)
(組成式(A)は、0.98≦a≦1.10、0.60≦b≦0.95、及び0<c≦0.05を満たし、M1は前記元素M1であり、M2はCo、Mn、Fe、Cu、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Mo、Ta、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。)
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物に含まれる前記元素M1の含有割合が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるLi以外の金属元素の総モル数に対して、0mol%より大きく、5mol%以下である、請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項4】
BET比表面積が1.0m
2/g未満である、請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項5】
レーザー回折散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布曲線から得られる、50%累積体積粒度であるD
50が5μmを超え20μm未満である、請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項6】
示差熱-熱重量同時分析において、400℃以上に最大の発熱量を示すピークを有する、請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用正極活物質として、リチウム金属複合酸化物が使用されている。リチウム二次電池の性能向上を目的としてリチウム金属複合酸化物の物性を制御する検討がされている。
【0003】
例えば特許文献1は、さらなる電池特性の向上が可能な正極活物質として、Me席占有率が93.0%以上のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池の応用分野が進む中、リチウム二次電池には、さらなるレート特性の向上が求められる。
本明細書において「レート特性」とは、0.2CAでの放電容量を100%とした場合の3CAでの放電容量の比率をいう。この比率が高ければ高いほど、大電流を流した場合でも放電容量が維持されており、電池性能として好ましい。
【0006】
リチウム二次電池に用いられるリチウム金属複合酸化物には、レート特性を向上させる観点から改良の余地がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、リチウム二次電池のレート特性を向上させることができるリチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の[1]~[9]を包含する。
[1]少なくともLi、Ni、及びアルカリ土類金属元素である元素M1を含み、下記(1)及び(2)を満たす、リチウム金属複合酸化物。
(1)CuKα線を使用した粉末X線回折から得られる回折ピークをリートベルト解析して求められる、層状岩塩型の結晶構造のLiサイトにおけるMe席占有率が4.0%以下である。
(2)前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度は、100MPaを超え200MPa未満である。
[2]下記組成式(A)で表される、[1]に記載のリチウム金属複合酸化物。
LiaNibM1cM2(1-b-c)O2 ・・・(A)
(組成式(A)は、0.98≦a≦1.10、0.60≦b≦0.95、及び0<c≦0.05を満たし、M1は前記元素M1であり、M2はCo、Mn、Fe、Cu、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Mo、Ta、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。)
[3]前記リチウム金属複合酸化物に含まれる前記元素M1の含有割合が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるLi以外の金属元素の総モル数に対して、0mol%より大きく、5mol%以下である、[1]又は[2]に記載のリチウム金属複合酸化物。
[4]BET比表面積が1.0m2/g未満である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物。
[5]レーザー回折散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布曲線から得られる、50%累積体積粒度であるD50が5μmを超え20μm未満である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物。
[6]示差熱-熱重量同時分析において、400℃以上に最大の発熱量を示すピークを有する[1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物。
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質。
[8][7]に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
[9][8]に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウム二次電池のレート特性を向上させることができるリチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。
金属複合化合物(Metal Composite Compound)を以下「MCC」ともいう。
リチウム金属複合酸化物(Lithium Metal Composite Oxide)を以下「LiMO」ともいう。
リチウム二次電池用正極活物質(Cathode Active Material for lithium secondary batteries)を以下「CAM」ともいう。
「Ni」とは、ニッケル金属単体ではなく、Ni元素であることを示す。Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
数値範囲について、「A~B」とは、「A以上B以下」を意味する。例えば「5~15μm」と記載されている場合、5μm以上15μm以下の範囲を意味し、下限値である5μmと上限値である15μmを含む数値範囲を意味する。
【0011】
本明細書におけるレート特性の測定方法は以下の通りである。
【0012】
[レート特性の測定]
(リチウム二次電池用正極の作製)
本実施形態のLiMOをCAMとして用いる。CAMと導電材とバインダーとを、CAM:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)で混練し、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いる。導電材にはアセチレンブラックを用いる。バインダーには、ポリフッ化ビニリデンを用いる。
【0013】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ20μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得る。このリチウム二次電池用正極の面積は1.65cm2とする。
【0014】
(リチウム二次電池の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
(リチウム二次電池用正極の作製)で作製されるリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置く。ここに電解液を300μl注入する。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなる割合で溶解した溶液を用いる。
【0015】
次に、負極として金属リチウムを用いて、負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032)を作製する。
【0016】
上記の方法で作製されるリチウム二次電池を用いて、以下の方法でレート特性を測定する。
【0017】
(レート特性)
「レート特性が高い」とは、下記の放電レート試験により得られる放電容量の比率が80%以上であることを意味する。
【0018】
(放電レート試験)
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流0.2CAまたは3CA、定電流放電
【0019】
0.2CAで定電流放電させたときの放電容量と3CAで定電流放電させたときの放電容量とを用い、以下の式で求められる3CA/0.2CA放電容量比率を求め、レート特性の指標とする。
3CA/0.2CA放電容量比率(%)
=3CAにおける放電容量/0.2CAにおける放電容量×100 (式)
【0020】
<LiMO>
本発明のLiMOを構成する元素は、少なくともLi、Ni、及び元素M1を含む。LiMOはさらに、元素M2を含んでいてもよい。
元素M1はアルカリ土類金属元素である。具体的には、元素M1は、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群より選択される1種以上の元素である。元素M2は、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Mo、Ta、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。
元素M1は、Mg、Ca、及びBaからなる群より選択される1種以上の元素が好ましく、Mgが好ましい。元素M2は、Co、Mn、Ti、Al、Zr、B、Nb、及びWからなる群より選択される1種以上の元素が好ましい。また、元素M2は、Co、Mn、及びAlからなる群より選択される1種以上の元素と、Fe、Cu、Ti、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Mo、Ta、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素とからなることが好ましい。
【0021】
≪結晶構造≫
LiMOは、層状岩塩型の結晶構造を備える。
層状岩塩型の結晶構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造である。遷移金属層は遷移金属イオンから構成され、酸素の層は酸素イオンから構成される。層状岩塩型の結晶構造は、典型的には、α-NaFeO2型の結晶構造である。
【0022】
LiMOは、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0023】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0024】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0025】
これらのうち、初回放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、LiMOは、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0026】
[結晶構造の確認方法]
LiMOの結晶構造は、粉末X線回折測定装置を用いて観察することにより確認できる。
粉末X線回折測定は、X線回折装置、例えば、株式会社リガク製UltimaIVが使用できる。
【0027】
LiMOは、アルカリ土類金属元素である元素M1を含む。層状岩塩型の結晶構造において、LiMOに含まれる元素M1は、遷移金属層に固溶している。遷移金属層に存在する元素M1は、2価の価数で存在することで、結晶構造中の酸素原子を偏在化させることができる。そのため、遷移金属元素との親和性が向上し、Niが動きにくくなるため、リチウムサイトにニッケルイオンが移行しにくい。このためカチオンミキシングの割合が低減し、上記(1)を満たすLiMOとなる。
【0028】
LiMOは粒子状であり、下記(1)及び(2)を満たす。
【0029】
(1)
LiMOは、CuKα線を使用した粉末X線回折から得られる回折ピークをリートベルト解析して求められる、層状岩塩型の結晶構造のLiサイトにおけるMe席占有率が4.0%以下である。
【0030】
前記Meは、LiMOに含まれるLi以外の金属元素である。具体的にはNi、前述の元素M1及び元素M2である。
【0031】
前記Me席占有率は3.9%以下であることが好ましく、3.6%以下であることがより好ましい。
前記Me席占有率が上記上限値以下であると、カチオンミキシングの割合が小さく、リチウムサイトにリチウムイオンが残っているため、レート特性が高くなりやすい。
【0032】
前記Me席占有率は低い方が好ましいが、下限値の例としては、例えば1.0%以上、2.0%以上、3.0%以上が挙げられる。
【0033】
前記Me席占有率の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、前記Meの占有率は1.0~4.0%、2.0~3.9%、3.0~3.6%が挙げられる。
【0034】
[Me席占有率の測定方法]
LiサイトにおけるMe席占有率は、粉末X線回折から得られる回折ピークに対してリートベルト解析を行うことにより算出できる。リートベルト解析とは、実測の粉末X線回折パターンと結晶構造モデルからのシミュレーションパターンを比較し、両者の差が最小になるよう、結晶構造モデルにおける結晶構造パラメータを最適化する手法である。
【0035】
前記回折ピークは、X線回折装置を用いて粉末X線回折測定を行うことにより取得することができる。X線回折装置は、Bruker社製D8 Advanceを用いる。具体的には、LiMOを専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°~90°、サンプリング幅0.02°の条件にて測定を行い、粉末X線回折パターンを得る。
【0036】
次に、粉末X線回折パターンにおける回折ピークをリートベルト解析して、LiMOを、初期結晶構造モデルである層状岩塩型の結晶構造(Li1-nMen)(Me1-nLin)O2で表示し、Me席占有率であるnの最適化を行う。リートベルト解析はBruker社製粉末X線解析ソフトTOPASを用いる。
【0037】
(2)
LiMOの粒子強度は、100MPaを超え200MPa未満である。
【0038】
[粒子強度の測定方法]
LiMOの粒子強度は、以下の方法で測定する。
まず、後述する方法により測定されるD50(単位:μm)±2μm程度の大きさを持つLiMOの粒子を選択する。選択の際には、極端にいびつな形状の粒子は避ける。具体的には、粒子の短径と長径との比(短径/長径)が、0.7以上1.3以下の粒子を選択する。
【0039】
ここで、「長径」とは、粒子の最も長い径を意味する。「短径」とは粒子の最も短い径を意味する。次に、上記で選択したLiMOの粒子1個に対して試験圧力(負荷)をかけ、LiMOの粒子の変位量を測定する。
【0040】
測定には、株式会社島津製作所製「微小圧縮試験機MCT-510」を用いる。
試験圧力を徐々にあげて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値を試験力(P)(単位:MPa)とする。
得られた試験力(P)から、下記式(X)(日本鉱業会誌,Vol.81,(1965)参照)により、圧壊強度(St)(単位:MPa)を算出する。この操作を計7回行い、圧壊強度の最大値と最小値を省いた5回の平均値を粒子強度として算出する。下記式(X)中、dはLiMOの二次粒子径(単位:μm)である。
St=2.8×P/(π×d×d) ・・・式(X)
【0041】
LiMOの粒子強度は、105MPa以上が好ましく、110MPa以上がより好ましい。
LiMOの粒子強度は、例えば190MPa以下、180MPa以下が挙げられる。
上記粒子強度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、粒子強度は、105~190MPa、110~180MPaが挙げられる。
【0042】
粒子強度が上記範囲であるLiMOをCAMとして用いると、電極を製造する際のプレス工程においてCAMの粒子が割れにくくなる。そのため、抵抗となり得るクラックが生じにくく、レート特性が劣化しにくい。
【0043】
LiMOは、下記組成式(A)で表されることが好ましい。
LiaNibM1cM2(1-b-c)O2 ・・・(A)
(組成式(A)は、0.98≦a≦1.10、0.60≦b≦0.95、及び0<c≦0.05を満たし、M1は前記元素M1であり、M2は前記元素M2である。)
【0044】
(a)
組成式(A)中、aは、0.98≦a≦1.09を満たすことが好ましく、0.99≦a≦1.08を満たすことがより好ましく、1.00≦a≦1.07を満たすことがさらに好ましい。
【0045】
(b)
組成式(A)中、bは、0.65≦b≦0.95を満たすことが好ましく、0.70≦b≦0.95を満たすことがより好ましく、0.75≦b≦0.93を満たすことがさらに好ましい。
【0046】
(c)
組成式(A)中、cは、0.001≦c≦0.05を満たすことが好ましく、0.002≦c≦0.04を満たすことがより好ましい。
【0047】
組成式(A)は、1-b-c>0を満たすことが好ましい。
【0048】
LiMOは、下記組成式(A1)で表されることが好ましい。
LiaNibM1cM2(1-b-c)O2 ・・・(A1)
(組成式(A1)は、1.00≦a≦1.08、0.75≦b≦0.93、及び0.001≦c≦0.05を満たし、M1は、Mg、Ca、及びBaからなる群より選択される1種以上の元素であり、M2は、Co、Mn、及びAlからなる群より選択される1種以上の元素と、Fe、Cu、Ti、Zn、Sn、Zr、B、Si、Nb、W、Mo、Ta、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素とからなる。)
【0049】
LiMO中の元素M1の含有割合は、レート特性を向上させる観点から、LiMOに含まれるLi以外の金属元素(例えば、Niと元素M1と元素M2)の総モル数に対して、0mol%より大きく、5mol%以下であることが好ましく、0mol%より大きく、2mol%以下であることがより好ましい。
【0050】
[組成分析]
LiMOの組成分析(前記組成式(A)、及び前記元素M1の含有割合)は、得られたLiMOの粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定できる。
ICP発光分光分析装置としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000が使用できる。
【0051】
LiMOのBET比表面積は1.0m2/g未満であることが好ましく、0.99m2/g以下がより好ましく、0.98m2/g以下がさらに好ましい。
LiMOのBET比表面積は0.5m2/g以上であることが好ましく、0.6m2/g以上であることがより好ましく、0.7m2/g以上であることがさらに好ましい。
【0052】
BET比表面積の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、BET比表面積は、0.5m2/g以上1.0m2/g未満、0.6~0.99m2/g、0.7~0.98m2/gである。
【0053】
BET比表面積が上記の範囲を満たすと、リチウム二次電池のレート特性が高くなりやすい。
【0054】
[BET比表面積測定]
LiMOのBET比表面積は、BET比表面積測定装置により測定できる。BET比表面積測定装置としては、例えば、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いることができる。前処理として窒素雰囲気中、105℃で30分間、LiMOを乾燥させることが好ましい。
【0055】
LiMOは、D50が5μmを超え20μm未満であることが好ましく、10~15μmがより好ましい。D50は、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布曲線から得られる、LiMOの50%累積体積粒度である。
【0056】
D50が上記の範囲を満たすLiMOは、結晶成長が進んでいることを意味する。このようなLiMOは、リチウムイオンの脱離と挿入が良好に行われる面が多く露出しており、リチウムイオンと脱離と挿入がスムーズに進行するため、レート特性が向上しやすい。
【0057】
[D50の測定方法]
本明細書において、LiMOのD50は、以下の方法により測定できる。
【0058】
まず、2gの粉末状のLiMOを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、LiMOを分散させた分散液を得る。
【0059】
次に、得られた分散液について、レーザー回折粒度分布計により粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。そして、得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値がD50(μm)である。
レーザー回折粒度分布計としては、例えばマルバーン製、MS2000が使用できる。
【0060】
LiMOは、示差熱-熱重量同時分析において、400℃以上に最大の発熱量を示すピークを有することが好ましい。最大の発熱量を示すピーク温度は、400~500℃がより好ましく、400~450℃がさらに好ましい。最大の発熱量を示すピーク温度が上記の範囲であると、リチウム二次電池のレート特性が向上しやすい。なお、最大の発熱量を示すピークとは、後述のDTA曲線におけるピークの高さが最も高いピークである。LiMOの示差熱-熱重量同時分析は、以下の方法により実施する。
【0061】
[示差熱-熱重量同時分析の方法]
示差熱-熱重量同時分析の測定装置は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製、STA7300を用いることができる。
試料の秤量は、STA7300の天秤ビーム上で実施する。
約5mgのLiMOを白金製測定容器に入れて上記測定装置にセットし、5ml/minの窒素気流下、20~700℃まで5℃/minの速度で昇温を行い、DTA曲線を得る。得られたDTA曲線のピークの高さより最大の発熱量を示すピークを特定する。なお、測定量、昇温レート、測定温度範囲を考慮すると、重量減少率に対する粒度の影響はわずかであるため、本実施形態において試料の粒度は限定されない。
【0062】
<LiMOの製造方法>
LiMOの製造方法は、MCCを得る工程と、LiMOを得る工程とを備えることが好ましい。以下、MCCを得る工程、LiMOを得る工程の順に説明する。
【0063】
[MCCの製造工程]
まず、少なくともNiを含むMCCを調製する。
MCCは、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、Ni及び前記元素M2を含む金属複合酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0064】
まず共沈殿法、特にJP-A-2002-201028に記載された連続共沈殿法により、ニッケル塩溶液、元素M2を含む金属塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NibM2(1-b)(OH)2(式中、bは、前記組成式(A)のbと同様)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0065】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種以上を使用することができる。
【0066】
元素M2を含む金属塩溶液の溶質である金属塩としては、元素M2の硫酸塩、塩化物、酢酸塩、水酸化物塩等が挙げられる。
【0067】
例えば、コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種以上を使用することができる。
【0068】
マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種以上を使用することができる。
【0069】
アルミニウム塩溶液の溶質であるアルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウムやアルミン酸ソーダ等が使用できる。
【0070】
以上の金属塩は、上記NibM2(1-b)(OH)2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0071】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、及び元素M2のイオンと錯体を形成可能な化合物である。例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0072】
アンモニウムイオン供給体としては、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
【0073】
錯化剤は含まれていなくてもよく、錯化剤が含まれる場合、ニッケル塩溶液、元素M2を含む金属塩溶液及び錯化剤を含む溶液に含まれる錯化剤の量は、例えば、溶液に含まれる金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0074】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、元素M2を含む金属塩溶液及び錯化剤を含む溶液のpH値を調整するため、溶液のpHがアルカリ性から中性になる前に、溶液にアルカリ性水溶液を添加する。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用できる。
【0075】
なお、本明細書におけるpHの値は、溶液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。反応槽からサンプリングした混合液の温度が40℃よりも高い又は低い場合、溶液のpHは、混合液を加熱又は冷却して40℃になったときに測定する。
【0076】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20~80℃、好ましくは30~70℃の範囲内で制御する。
【0077】
また、反応に際しては、反応槽内の溶液のpH値を、例えばpH9~13、好ましくはpH11~13の範囲内で制御する。
【0078】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽としては、形成された反応沈殿物を分離するため、オーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0079】
反応槽内は、目的とする雰囲気に制御するため、所定のガスを反応槽内に通気するか、反応液を直接バブリングすればよい。
【0080】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄し、乾燥すると、金属複合水酸化物が得られる。また、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。
金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0081】
得られた金属複合水酸化物を酸化し(酸化工程)、金属複合酸化物であるMCCが得られる。金属複合酸化物を用いることで、得られるLiMOのMe席占有率を本実施形態の範囲に調整することができる。
【0082】
酸化時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を2~10時間とすることが好ましい。
酸化温度は、500~800℃とすることが好ましい。
【0083】
酸化工程では、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、またはそれらの混合ガス等の各種気体を反応槽内に供給し、金属複合酸化物の酸化状態を制御してもよい。
【0084】
また、酸化工程において、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどの酸化剤を使用してもよい。
【0085】
MCCの製造条件を適宜調整することにより、得られるLiMOのD50を本実施形態の範囲に調整することができる。
【0086】
[LiMOを得る工程]
LiMOを得る工程は、MCCと、リチウム化合物と、元素M1を含む化合物とを混合する混合工程と、得られた混合物を焼成する焼成工程と、を含む。
【0087】
・混合工程
MCCと、リチウム化合物と、元素M1を含む化合物とを混合する。
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウム、塩化リチウム及びフッ化リチウムの少なくとも何れか一つを使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、及び炭酸リチウムのいずれか一方又はその混合物が好ましい。
【0088】
元素M1を含む化合物は、水酸化物が好ましく、例えば水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、及び水酸化ラジウムの少なくとも一つを使用することができる。
【0089】
元素M1を含む化合物は、BET比表面積から算出される粒径が2000nm以下を満たすことが好ましい。
BET比表面積から算出される粒径は、以下の方法で求めることができる。
まず、窒素雰囲気中、105℃で30分間、元素M1を含む化合物を乾燥させた後、BET比表面積測定装置を用いて測定できる。BET比表面積測定装置としては、例えば、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いることができる。
得られたBET比表面積から以下の式を用いて、粒径を算出する。
粒径(nm)=6/(S×P) (式)
式中、Pは元素M1を含む化合物の密度(g/m3)、Sは元素M1を含む化合物のBET比表面積(m2/g)である。
【0090】
リチウム化合物とMCCとを、最終目的物の組成比を勘案して混合し、リチウム化合物とMCCとの混合物を得る。MCCに含まれる金属元素の合計量1に対するLiの量(モル比)は、0.9~1.1が好ましく、0.91~1.10がより好ましく、0.92~1.10がさらに好ましい。
【0091】
元素M1を含む化合物は、MCCに含まれる金属元素(例えば、Niと元素M1と元素M2)の総モル数に対する、元素M1の割合が、好ましくは0モル%を超え5モル%以下、より好ましくは0モル%を超え2モル%以下となる割合で混合する。元素M1の割合は、周期表の元素番号が大きくなるほど、少ない方が好ましい。
【0092】
元素M1を含む化合物がMgを含む化合物である場合、MCCに対する、元素M1の割合が、好ましくは0.3モル%以上1モル%未満、より好ましくは0.3-0.9モル%以下となる割合で混合する。
【0093】
元素M1を含む化合物がCaを含む化合物である場合、MCCに対する、元素M1の割合が、好ましくは0.1-2モル%以下、より好ましくは0.3-1.5モル%以下となる割合で混合する。
【0094】
元素M1を含む化合物がBaを含む化合物である場合、MCCに対する、元素M1の割合が、好ましくは0.5モル%を超え5モル%以下、より好ましくは0.6-5モル%以下となる割合で混合する。
【0095】
本発明は、元素M1を含む化合物の粒径、元素M1を含む化合物の添加量、リチウム化合物の添加量、及び後述の焼成条件を制御することで、(1)及び(2)を満たすLiMOを製造することができる。さらにこれらの条件を制御することで、示差熱-熱重量同時分析において、400℃以上に最大の発熱量を示すピークを有するLiMOを製造することができる。
【0096】
・焼成工程
MCCとリチウム化合物と元素M1を含む化合物との混合物を焼成し、LiMOが得られる。元素M1を含む化合物の存在下で焼成すると、焼結が促進され、(2)を満たすLiMOが得られる。焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられる。本実施形態においては酸素雰囲気で焼成することが好ましい。
【0097】
焼成工程は、1回のみの焼成であってもよく、複数回の焼成段階を有していてもよい。
複数回の焼成段階を有する場合、最も高い温度で焼成する工程を本焼成と記載する。本焼成の前には、本焼成よりも低い温度で焼成する仮焼成を行ってもよい。
【0098】
本実施形態においてはまず仮焼成し、次に本焼成することが好ましい。また、仮焼成と本焼成は、ともに酸素雰囲気下で焼成することが好ましい。
【0099】
仮焼成の焼成温度は、例えば600~900℃であることが好ましく、610~850℃であることがより好ましく、620℃以上700℃未満であることがさらに好ましい。焼成温度が上記範囲であると、(1)と(2)を満たすLiMOを製造することができる。
【0100】
本焼成の焼成温度は、例えば600~900℃であることが好ましく、650~850℃であることがより好ましく、700~820℃であることがさらに好ましい。焼成温度が上記範囲であると、(1)と(2)を満たすLiMOを製造することができる。
【0101】
仮焼成と本焼成のそれぞれの保持時間は、1~50時間が好ましく、2~20時間がより好ましい。焼成における保持時間が上記範囲であると、(1)と(2)を満たすLiMOを製造することができる。
【0102】
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内の雰囲気の温度であって、最高温度を意味する。
【0103】
焼成工程における焼成条件を調整することによって、LiMOのBET比表面積を本実施形態の範囲に調整することができる。
【0104】
以上の工程により、LiMOが得られる。
【0105】
<CAM>
本実施形態のCAMは、上述の方法で製造されたLiMOを含有する。本実施形態のCAMにおいて、CAMの総質量(100質量%)に対するLiMOの含有割合は、70-99質量%が好ましく、80-98質量%がより好ましい。
【0106】
本実施形態において、CAMの総質量に対するLiMOの含有割合は、CAMを、SEM(例えば日本電子株式会社製JSM-5510)を用いて、加速電圧が20kVの電子線を照射してSEM観察を行うことにより求める。SEM写真の倍率は、SEM写真に対象となるCAMの粒子が200-400個存在するよう拡大倍率を調整する。一例として、拡大倍率は、1000-30000倍でもよい。
【0107】
<リチウム二次電池>
本実施形態のLiMOをCAMとして用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極について説明する。以下、リチウム二次電池用正極を正極と称することがある。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0108】
本実施形態のLiMOをCAMとして用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0109】
図1は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。例えば円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0110】
まず、
図1の部分拡大図に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0111】
正極2は、一例として、CAMを含む正極活物質層2aと、正極活物質層2aが一面に形成された正極集電体2bとを有する。このような正極2は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体2bの一面に担持させて正極活物質層2aを形成することで製造できる。
【0112】
負極3は、一例として、不図示の負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができ、正極2と同様の方法で製造できる。
【0113】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0114】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0115】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0116】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0117】
リチウム二次電池を構成する正極、セパレータ、負極及び電解液については、例えば、WO2022/113904A1の[0113]~[0140]に記載の構成、材料及び製造方法を用いることが出来る。
【0118】
<全固体リチウム二次電池>
本実施形態のLiMOは、全固体リチウム二次電池のCAMとして用いることができる。
【0119】
図2は、全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図2に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にCAMと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。
【0120】
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。正極活物質層111は、上述したCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0121】
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。
【0122】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0123】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0124】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0125】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0126】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0127】
全固体リチウム二次電池については、例えば、WO2022/113904A1の[0141]~[0181]に記載の構成、材料及び製造方法を用いることができる。
【0128】
本発明は、以下の[10]~[19]を包含していてもよい。
[10]少なくともLi、Ni、及びアルカリ土類金属元素である元素M1を含み、下記(1)及び(2)を満たす、LiMO。
(1)前記Me席占有率が1.0~4.0%である。
(2)前記リチウム金属複合酸化物の粒子の粒子強度は、110~180MPaである。
[11]前記組成式(A)を満たす、[10]に記載のLiMO。
[12]前記LiMOに含まれる元素M1の含有割合が、前記LiMOの総モル数に対して、0~2mol%である、[10]又は[11]に記載のLiMO。
[13]BET比表面積が0.5m2/g以上1.0m2/g未満である、[10]~[12]のいずれか1つに記載のLiMO。
[14]D50が10~15μmである、[10]~[13]のいずれか1つに記載のLiMO。
[15]示差熱-熱重量同時分析において、400~600℃に、最大の発熱量を示すピークを有する、[10]~[14]のいずれか1つに記載のLiMO。
[16]前記組成式(A1)を満たす、[10]~[15]のいずれか1つに記載のLiMO。
[17][10]~[16]のいずれか1つに記載のLiMOを含有するCAM。
[18][17]に記載のCAMを含むリチウム二次電池用正極。
[19][18]に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【実施例】
【0129】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0130】
<各種パラメータの測定>
後述の方法で製造されるLiMOの各種パラメータの測定は、上述の[Me席占有率の測定方法]、[組成分析]、[粒子強度の測定方法]、[BET比表面積測定]、[示差熱-熱重量同時分析の方法]、及び[D50の測定方法]で説明した測定方法等により行った。
【0131】
<レート特性の測定方法>
リチウム二次電池のレート特性の評価は、後述する製造方法で得られるLiMOをCAMとして用いて、上述の[レート特性の測定]で説明した測定方法により行った。
【0132】
<実施例1>
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温(反応槽の温度)を70℃に保持した。
【0133】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸マンガン水溶液、及び硫酸アルミニウム水溶液をNi:Mn:Alのモル比が93:3.5:3.5となる割合で混合して、混合液1を調製した。
【0134】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合液1及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが10.7(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、反応沈殿物1を得た。
【0135】
反応沈殿物1の質量に対して、20倍の質量の5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応沈殿物1の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Mn、及びAlを含む金属複合水酸化物1を得た。
【0136】
金属複合水酸化物1を大気雰囲気下、650℃で5時間酸化させ、金属複合酸化物であるMCC-1を得た。
【0137】
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1に対するBaの量が5.0モル%となる割合で水酸化バリウムを秤量した。
MCC-1、水酸化リチウム一水和物及び水酸化バリウムを混合し、混合物1を得た。使用した水酸化バリウムのBET比表面積から算出される粒径は1202nmであった。
【0138】
次いで、得られた混合物1を、酸素雰囲気下、650℃で5時間仮焼成した。その後、酸素雰囲気下、770℃、5時間で本焼成し、粉末状のLiMO-1を得た。
【0139】
<実施例2>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.03となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1に対するCaの量が1.0モル%となる割合で水酸化カルシウムを秤量した。
MCC-1、水酸化リチウム一水和物及び水酸化カルシウムを混合し、混合物2を得た。使用した水酸化カルシウムのBET比表面積から算出される粒径は690nmであった。
【0140】
混合物2を酸素雰囲気下、650℃で5時間仮焼成した。その後、酸素雰囲気下、750℃、5時間で本焼成し、粉末状のLiMO-2を得た。
【0141】
<実施例3>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.03となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1に対するMgの量が0.3モル%となる割合で水酸化マグネシウムを秤量した。
MCC-1、水酸化リチウム一水和物及び水酸化マグネシウムを混合し、混合物3を得た。使用した水酸化マグネシウムのBET比表面積から算出される粒径は980nmであった。
【0142】
実施例2と同様の焼成条件で混合物3を焼成し、粉末状のLiMO-3を得た。
【0143】
<比較例1>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1、及び水酸化リチウム一水和物を混合し、混合物4を得た。
【0144】
混合物4を酸素雰囲気下、650℃で5時間仮焼成した。その後、酸素雰囲気下、770℃、5時間で本焼成し、粉末状のLiMO-4を得た。
【0145】
<比較例2>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1に対するBaの量が0.5モル%となる割合で水酸化バリウムを秤量した。
MCC-1、水酸化リチウム一水和物及び水酸化バリウムを混合し、混合物5を得た。使用した水酸化バリウムのBET比表面積から算出される粒径は1202nmであった。
【0146】
実施例1と同様の条件で混合物5を焼成し、粉末状のLiMO-5を得た。
【0147】
<比較例3>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1に対するMgの量が1.0モル%となる割合で水酸化マグネシウムを秤量した。
MCC-1、水酸化リチウム一水和物及び水酸化マグネシウムを混合し、混合物6を得た。使用した水酸化マグネシウムのBET比表面積から算出される粒径は980nmであった。
【0148】
実施例2と同様の条件で混合物6を焼成し、粉末状のLiMO-6を得た。
【0149】
<比較例4>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.09となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1、及び水酸化リチウム一水和物を混合し、混合物7を得た。
【0150】
実施例2と同様の条件で混合物7を焼成し、粉末状のLiMO-7を得た。
【0151】
<比較例5>
実施例1と同様にMCC-1を製造した。
MCC-1に含まれるNi、Mn及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となる割合で水酸化リチウム一水和物を秤量した。
MCC-1に対するBaの量が5.0モル%となる割合で水酸化バリウムを秤量した。
MCC-1、水酸化リチウム一水和物及び水酸化バリウムを混合し、混合物8を得た。使用した水酸化バリウムのBET比表面積から算出される粒径は2106nmであった。
【0152】
実施例2と同様の条件で混合物8を焼成し、粉末状のLiMO-8を得た。
【0153】
実施例1~3、比較例1~5で得られたLiMOの各種パラメータを表1に示す。また、実施例1~3、比較例1~5で得られたLiMOを用いたリチウム二次電池のレート特性の結果を表1に示す。下記表1中、「元素M1の含有割合(%)」は、LiMOの総モル数に対する元素M1の含有割合である。
【0154】
【0155】
(1)及び(2)を満たす実施例1~3のLiMOを用いたリチウム二次電池のレート特性は、80%以上であった。これは、電極製造時にクラックが生じにくくなり、かつ十分な容量が維持されたためと考えられる。
【0156】
比較例1は元素M1を含んでおらず、Me席占有率が4.0%を超えるため容量が低下しやすく、粒子強度が100MPa以下であるため、電極製造時にクラックが発生したため、レート特性が低い結果であったと考えられる。
比較例2~3及び5は、(2)を満たすものの、Me席占有率が4.0%を超えるため、容量が低下しやすく、レート特性が低い結果であったと考えられる。
比較例4は、(2)を満たすものの、元素M1を含んでおらず、粒子強度も100MPa以下であるため電極製造時にクラックが生じ、レート特性が低い結果であったと考えられる。
【符号の説明】
【0157】
1:セパレータ、2…正極、2a…正極活物質層、2b…正極集電体、3:負極、4:電極群、5:電池缶、6:電解液、7:トップインシュレーター、8:封口体、10:リチウム二次電池、21:正極リード、100:積層体、110:正極、111:正極活物質層、112:正極集電体、113:外部端子、120:負極、121:負極活物質層、122:負極集電体、123:外部端子、130:固体電解質層、200:外装体、200a:開口部、1000:全固体リチウム二次電池
【要約】
【課題】リチウム二次電池のレート特性を向上させることができるリチウム金属複合酸化物の提供。
【解決手段】少なくともLi、Ni、及びアルカリ土類金属元素である元素M1を含み、(1)、(2)を満たす、リチウム金属複合酸化物。(1)CuKα線を使用した粉末X線回折から得られる回折ピークをリートベルト解析法で解析して求められる、層状岩塩型の結晶構造のLiサイトにおけるMe席占有率が4.0%以下である(2)前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度は、100MPaを超え200MPa未満である。
【選択図】なし