(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】揮散装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/12 20060101AFI20230925BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20230925BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
A61L9/12
A61L9/01 H
A61L9/01 Q
C11B9/00 M
C11B9/00 N
C11B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2017224443
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-10-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390019460
【氏名又は名称】稲畑香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 慧記
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-126648(JP,U)
【文献】特開2009-144150(JP,A)
【文献】特開2011-184486(JP,A)
【文献】特開2002-085542(JP,A)
【文献】特開平10-085315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる香料成分を含む複数の香料組成物と、
各香料組成物を保持する保持部を有するとともに各香料組成物を収容するケースと、
各香料組成物からの前記香料成分の揮発を促進させる促進部と、
各香料組成物からの前記香料成分の揮発量が相互に独立して変更されるように前記促進部を制御する制御部と、
各香料組成物から揮発した香料成分同士を混合させる混合空間と、を備え、
各香料組成物の前記香料成分は、トップノート
に分類される成分、ミドルノート
に分類される成分及びボトムノートに分類される成分を含み、
各香料成分の前記ボトムノート
に分類される成分は、ムスクノートに分類される成分を含
み、
各香料組成物の前記香料成分に含まれる前記トップノートに分類される成分、前記ミドルノートに分類される成分及び前記ボトムノートに分類される成分が、各香料組成物間でそれぞれ異なる、揮散装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揮散装置において、
前記ムスクノートに分類される香料成分は、アンブレトン、シクロペンタデカノライド、アンブレットライド、ハバノライド、エチレンブラシレート、ムセノン、エグザルテノン、ゼノライド、グロバノン、コスモン、ムスクケトン、トナライド、セレストライド、ガラクソライド、ヘルベトライド、ロマンドライドからなる群から選択される少なくとも一種を含む、揮散装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の揮散装置において、
前記促進部は、
各香料組成物に向けて風を送る送風機と、
前記送風機の駆動により生じた気流を各香料組成物に導く複数の導風路と、
各導風路に設けられた複数の開度調整弁と、を有し、
前記制御部は、各開度調整弁の開度を相互に独立して調整可能である、揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、香りを揮散させる揮散装置が知られている。例えば、特許文献1には、芳香剤を収容する芳香容器と、送風機と、芳香容器及び送風機を収容するケースと、を備える揮散装置が開示されている。送風機は、芳香容器に空気を送る。これにより、芳香容器から芳香剤を含んだ空気(香り)が流出し、この空気がケースの開口を通じてケース外に揮散する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今日、日常生活の様々なシーン(時間帯や気分など)に応じて異なる香り(香調)が求められている。しかしながら、特許文献1に記載されるような揮散装置では、使用の開始から終了まで一定の香調を有する香りが揮散されるため、上記ニーズを満たすことができない。
【0005】
本発明の目的は、香調を変更することが可能な揮散装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する手段として、本発明は、互いに異なる香料成分を含む複数の香料組成物と、各香料組成物を保持する保持部を有するとともに各香料組成物を収容するケースと、各香料組成物からの前記香料成分の揮発を促進させる促進部と、各香料組成物からの前記香料成分の揮発量が相互に独立して変更されるように前記促進部を制御する制御部と、を備え、各香料組成物の前記香料成分は、トップノート、ミドルノート及びボトムノートに分類される成分を含む、揮散装置を提供する。
【0007】
本揮散装置では、促進部を制御する制御部によって各香料組成物からの香料成分の揮発量が相互に独立して調整されるので、各香料組成物から揮発した香料成分同士の混合により種々の香調を有する香りを揮散させることができ、かつ、各香料組成物が単一の香料成分のみ(例えばトップノートに分類される香調成分のみ)を含む場合に比べ、各香料組成物から揮発する香料成分同士の調和性が高まる。よって、それぞれが3つのノートを含む香料成分同士が混ざり合うことにより、安定的でかつ優れた香りが生成される。
【0008】
具体的に、各香料成分の前記ボトムノートは、ムスクノートに分類される成分を含むことが好ましい。
【0009】
このようにすれば、各香料組成物から揮発する香料成分同士の調和性がさらに高まる。
【0010】
また、前記ムスクノートに分類される香料成分は、アンブレトン、シクロペンタデカノライド、アンブレットライド、ハバノライド、エチレンブラシレート、ムセノン、エグザルテノン、ゼノライド、グロバノン、コスモン、ムスクケトン、トナライド、セレストライド、ガラクソライド、ヘルベトライド、ロマンドライドからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0011】
また、前記揮散装置において、前記促進部は、各香料組成物に向けて風を送る送風機と、前記送風機の駆動により生じた気流を各香料組成物に導く複数の導風路と、各導風路に設けられた複数の開度調整弁と、を有し、前記制御部は、各開度調整弁の開度を相互に独立して調整可能であってもよい。
【0012】
この態様では、制御部が各開度調整弁の開度を相互に独立して調整することにより、各香料組成物からの香料成分の揮発量が調整される。
【0013】
また、本発明は、前記揮散装置のケースの保持部に保持されることが可能な形状を有する香料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、香調を変更することが可能な揮散装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の揮散装置の概略図である。
【
図2】本発明の実施例の試験に用いた揮散装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態の揮散装置1について、
図1を参照しながら説明する。この揮散装置1は、それぞれが互いに異なる香料成分を含む複数の香料組成物10と、各香料組成物10から香料成分を揮散させるための揮散ユニット20と、を備えている。
【0017】
各香料組成物10は、例えば、シトラス系、グリーン系、フルーティ系、フローラル系、オリエンタル系、ハーバル系、マリン系、スパイシー系、ウッディ系、アルデハイディック系、ミント系、アロマティック系、アーシー系、モッシー系、ハニー系、レザー系、アニマリック系、アンバー系、ムスク系、グルマン系、パウダリー系に分類される香料成分を含む。各香料組成物10は、それぞれ、前記香料成分として、トップノート、ミドルノート及びボトムノートに分類される成分を含む。トップノートは、25℃において、0.02mmHg以上の蒸気圧を有する成分とする。ミドルノートは、25℃において、0.02mmHg未満かつ0.002mmHg以上の蒸気圧を有する成分とする。ボトムノートは、25℃において、0.002mmHg未満の蒸気圧を有する成分とする。
【0018】
本実施形態において、各香料組成物10は、トップノートとしては上記の蒸気圧範囲に該当する成分であれば特に限定されないが、例えば、リモネン、トリプラール、オクタナール、シス-3-ヘキセノール、ヘキシルアセテート、エチル2-メチルブチレート、リナロール、リナリルアセテート、ターピネオール、ローズオキサイドなどから選択される少なくとも一種を含む。また、各香料組成物10は、ミドルノートとしては上記の蒸気圧範囲に該当する成分であれば特に限定されないが、例えば、エチルリナロール、ダイナスコン10、γ-ウンデカラクトン、リリアール、シトロネロール、ゲラニオール、γ-メチルイオノン、ダマセノン、ヘリオナール、ウンデカベルトール、ジメチルベンジルカービニルアセテートなどから選択される少なくとも一種を含む。そして、各香料組成物10は、ボトムノートとして、ムスクノートに分類される成分を含む。具体的に、各香料組成物10は、ムスクノートに分類される香料成分として、アンブレトン、シクロペンタデカノライド、アンブレットライド、ハバノライド、エチレンブラシレート、ムセノン、エグザルテノン、ゼノライド、グロバノン、コスモン、ムスクケトン、トナライド、セレストライド、ガラクソライド、ヘルベトライド、ロマンドライドからなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0019】
揮散ユニット20は、各香料組成物10からの香料成分の揮発量を相互に独立して変更(調整)可能であり、かつ、各香料組成物10から揮発した香料成分同士を混合させることが可能なユニットである。具体的に、揮散ユニット20は、ケース30と、促進部40と、制御部50と、を有している。
【0020】
ケース30は、各香料組成物10を収容する。このケース30は、各香料組成物10を保持する保持部32と、各香料組成物10から揮発した香料成分同士を混合させる混合空間Sと、を有している。また、このケース30には、互いに混合された複数の香料成分を含む空気(香り)を外部に揮散させる揮散口30hが形成されている。
【0021】
促進部40は、各香料組成物10からの香料成分の揮発を促進させる。本実施形態では、促進部40は、各香料組成物10に向けて風を送る送風機42と、送風機42の駆動により生じた気流を各香料組成物10に導く複数の導風路44と、各導風路44に設けられた複数の開度調整弁46と、を有している。
【0022】
制御部50は、各香料組成物10からの香料成分の揮発量が相互に独立して変更されるように促進部40を制御する。具体的に、制御部50は、入力信号を受信する受信部52と、促進部40に調整信号を送信する送信部54と、を有する。
【0023】
受信部52は、外部(スマートホン等の電子デバイス)から前記入力信号を受信する。この入力信号は、例えば各香料組成物10からの香料成分の揮発量を指示する信号である。
【0024】
送信部54は、受信部52が受信した受信信号に基づいて、各開度調整弁46に前記調整信号(開度調整弁46の開度を指示する信号)を送信する。送信部54は、各開度調整弁46に対して相互に独立した調整信号を送信可能である。
【0025】
以上に説明したように、本実施形態の揮散装置1では、促進部40を制御する制御部50によって各香料組成物10からの香料成分の揮発量が相互に独立して調整されるので、各香料組成物10から揮発した香料成分同士の混合により種々の香調を有する香りを揮散させることができる。
【0026】
また、各香料組成物10の香料成分は、トップノート、ミドルノート及びボトムノートに分類される成分を含むため各香料組成物10が単一の香料成分のみ(例えばトップノートに分類される香調成分のみ)を含む場合に比べ、各香料組成物10から揮発する香料成分同士の調和性が高まる。よって、それぞれが3つのノートを含む香料成分同士が混ざり合うことにより、安定的でかつ優れた香りが生成される。
【0027】
さらに、各香料成分のボトムノートは、ムスクノートに分類される成分を含むため、各香料組成物10から揮発する香料成分同士の調和性がさらに高まる。
【0028】
なお、今回開示された上記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0029】
例えば、促進部40は、それぞれが各香料組成物10に向けて風を送る複数の送風機を有していてもよい。この場合、各開度調整弁46は省略され、制御部50は、各送風機の回転数を調整する。あるいは、促進部40は、各香料組成物10を加熱する加熱部(電熱線等)を有し、制御部50は、各加熱部に供給する電流の値を調整してもよい。あるいは、促進部40は、それぞれが各香料組成物10に取り付けられた複数の超音波振動子を有し、制御部50は、各超音波振動子の周波数(振動数)を調整してもよい。あるいは、促進部40は、それぞれが各香料組成物10に取り付けられた複数のスプレーコントローラーを有し、制御部50は、各スプレーコントローラーの単位時間あたりの噴霧回数を調整してもよい。
【0030】
また、各香料組成物10の香料成分に含まれるボトムノートは、ムスクノートに分類される成分以外の成分を含んでいてもよい。
【0031】
また、揮散ユニット20は、受信部52に対して入力信号を送信可能な操作部(各香料組成物10からの香料成分の揮発量を調整可能な摘み等)を有していてもよい。
【実施例】
【0032】
次に、上記実施形態の実施例について説明する。この実施例では、揮散ユニット20として、
図2に示される試験装置を用い、香調の調和性の評価試験を行った。なお、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0033】
この試験では、香料組成物10として、表1に示される9つの処方のいずれか1つを1g含浸させたPET製の吸液芯を用いた。なお、表1において、リモネン及びトリプラールは、トップノートに分類される成分であり、エチルリナロール及びダイナスコンは、ミドルノートに分類される成分であり、ヘキシルサリシレート及びヘキシルシンナミックアルデヒドは、ムスクノートに分類されないボトムノートに分類される成分であり、ガラクソライド、ハバノライド及びエチレンブラシレートは、ムスクノートかつボトムノートに分類される成分である。
【0034】
【0035】
図2の試験装置では、保持部32として、それぞれがポリプロピレンからなる2つのシリンジ(それぞれ、内径13mm、長さ118mm)を用い、導風路44として、塩化ビニル製のチューブ(内径4mm)を用い、送風機42として、エアポンプを用いた。具体的に、この試験装置を用いた試験では、互いに異なる2つの香料組成物(吸液芯)を各シリンジに収容し、それらのシリンジに対してエアポンプから流速673mL/minで空気を送った。そして、チューブの下流側の端部である揮散口30hから流出した複数の香料成分を含む空気(香り)を5名の調香師が嗅ぐことにより、香調の調和性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0036】
(評価基準)
5:互いの香調が非常に良く調和している。
4:互いの香調が良く調和している。
3:互いの香調が調和している。
2:互いの香調があまり調和していない。
1:互いの香調がほとんど調和していない。
【0037】
また、各吸液芯に含浸されている香料組成物10の組み合わせ及びその評価結果は、表2のとおりである。なお、表2の評価結果には、5名の調香師による評価の平均値が示されている。
【0038】
【0039】
表2に示されるように、ボトムノートを含まない組み合わせである比較例1と、ミドルノート及びボトムノートを含まない組み合わせである比較例2とは、香調の調和性が良くないことが確認された。
【0040】
一方、トップノート、ミドルノート及びボトムノートの全てを含む組み合わせである実施例1~3は、いずれも評価結果が3以上であることから、ボトムノートの存在が互いの調和性を良くしていることが確認された。特に、ムスクノートに分類されるボトムノートを含む組み合わせである実施例2及び実施例3は、ムスクノートに分類されないボトムノートを含む組み合わせである実施例1よりも評価結果が高いことから、ムスクノートは、ボトムノートに分類される成分の中でも、より調和性の向上に寄与することが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 揮散装置
10 香料組成物
20 揮散ユニット
30 ケース
30h 揮散口
32 保持部
40 促進部
42 送風機
44 導風路
46 開度調整弁
50 制御部
52 受信部
54 送信部
S 混合空間