(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/02 20060101AFI20230925BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230925BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20230925BHJP
A21D 2/14 20060101ALN20230925BHJP
A21D 13/16 20170101ALN20230925BHJP
【FI】
A23D7/02 500
A23D9/00 502
A23D9/02
A21D2/14
A21D13/16
(21)【出願番号】P 2018084808
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-04-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-321065(JP,A)
【文献】特開2008-099603(JP,A)
【文献】特開2012-175949(JP,A)
【文献】特開平08-173034(JP,A)
【文献】特開昭52-151759(JP,A)
【文献】特開2008-092833(JP,A)
【文献】特開2008-99603(JP,A)
【文献】国際公開第00/16639(WO,A1)
【文献】マーガリン ショートニング ラード,中澤君敏,株式会社光琳,1979年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D,A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続式掻き取りチューブ冷却機を用いる可塑性油脂組成物の製造方法であって、結晶を析出させる冷却工程と、冷却工程後の品温に対して少なくとも1℃以上8℃以下の昇温となるように、
かつ昇温工程後の油脂組成物のSFCが、昇温工程直前にサンプリングされた油脂組成物のSFCの90~150%となるように、品温を上昇させる昇温工程とを含み、複数の連続式掻き取りチューブ冷却機を直列に配置し、これらを用いて結晶を析出させる冷却工程と、昇温工程とを行う、可塑性油脂組成物の製造方法
(ただし、昇温工程が加圧による昇温によって行われるものを除く)。
【請求項2】
冷却工程が、製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対して、50%以上のSFCとなるように結晶を析出させる冷却工程である、請求項1記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
冷却工程における平均保持温度と、昇温工程における平均保持温度の差が、5℃以上である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された可塑性油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂組成物の製造法は、溶解した油脂組成物を冷却して結晶化を行い、さらに捏和し、可塑性を付与して、製品とするのが一般的である。冷却して結晶化を行い、さらに捏和する装置としては、連続式冷却捏和装置が挙げられ、該装置は冷却を行う連続式掻き取りチューブ冷却機(Aユニット)と、捏和を行う装置(Bユニット)等により構成される。
【0003】
この中でも油脂結晶のサイズや量といった、可塑性油脂組成物の品質を決定する上で、Aユニットは重要である。これまで、クリアランスの変更や変軸タイプの開発等の構造上の改良に加え、複数のAユニットを直列に連結するといった構成上の改良が試みられてきた。
【0004】
可塑性油脂組成物の品質は、このような機器の構成の他、製造時の温度履歴にも大きく左右される。例えば特許文献1の製造方法では、好ましい食感の焼菓子が得られる油脂組成物を製造することが出来るが、緩慢な冷却による製造であるため、該製造方法により得られる油脂組成物は、製造後の後結晶化により、グレーニングが生じ、品質が悪化しやすいという問題があった。
【0005】
このため、製造後の後結晶化に伴う物性悪化を抑制するために、本出願人は製造ライン中で出来るだけ油脂結晶を析出する手法について検討を行い、特許文献2や特許文献3のように急冷可塑化を行う手法を提案している。
【0006】
しかし、これらの結晶の量に着目した製造方法であっても、経日的な結晶の安定化(結晶型の変化等)に伴う品質の悪化を十分に抑制することは難しく、経日的な硬化、グレーニングの発生が十分抑制された可塑性油脂組成物を得ることは容易ではなかった。
【0007】
この結晶の質に着目した油脂組成物の改質方法として、例えば特許文献4に開示されているように、マイクロ波照射による加熱を伴う、油脂結晶の熟成方法が報告されている。しかし、該手法は、油脂組成物の油相の融点近くまで昇温させるため、油脂結晶の融解が顕著であり、後結晶化に伴う品質の悪化が発生しやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-174424号公報
【文献】特開2008-092833号公報
【文献】特開2008-099603号公報
【文献】特開昭59-006841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は経日的な硬化やグレーニングといった品質の悪化の発生が抑制された、良好なコシや伸展性を有する可塑性油脂組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは、可塑性油脂組成物中の結晶の量と結晶の質の双方に着目し、鋭意検討を重ねた結果、連続式掻き取りチューブ冷却機を用いる可塑性油脂組成物の製造の過程において、冷却して結晶を析出させた後に、SFCが一定以上低下しないように、品温を一定範囲で昇温させることにより、従来よりも経日的な品質の悪化が抑制され、且ついっそう良好なコシや伸展性を有する可塑性油脂組成物が得られることを知見した。これは、冷却により出来るだけ多くの油脂結晶を析出させることを重視し、可塑性油脂組成物の経日的な硬化やグレーニングの抑制と、コシや伸展性の付与を図るという従来の知見・手法とは全く異なるものである。
【0011】
本発明はこの知見に基づくものであり、連続式掻き取りチューブ冷却機(Aユニット)を用いる可塑性油脂組成物の製造方法であって、結晶を析出させる冷却工程と、冷却工程後の品温に対して少なくとも1℃以上品温を上昇させる昇温工程とを含むことを特徴とする、可塑性油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、経日的な硬化やグレーニングといった品質の悪化の発生が抑制された、良好なコシや伸展性を有する可塑性油脂組成物を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法について、詳述する。
以下では、Aユニットに送入される前の、油相を含有する融液を、「予備融解液」(予備融解液が水相を含む場合は「予備乳化液」)と記載する場合があり、Aユニットを通過している、油相を含有する組成物を、「油脂組成物」と記載する場合があり、Aユニットを通過した、油相を含有する組成物を、「可塑性油脂組成物」と記載する場合があり、本発明の可塑性油脂組成物の製造方法の各段階において、上記の通り呼称を便宜上区別する。本発明においては、Aユニットの通過後、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用することができ、Aユニットの通過後にこれらの機器を通過したものについても、「可塑性油脂組成物」として記載する場合がある。
【0014】
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、結晶を析出させる冷却工程と、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して少なくとも1℃以上温度を上昇させる昇温工程とを含むことを特徴とし、具体的には油相を融解して融液とし、これを含む予備融解液が、下述する冷却工程と昇温工程を、この順に経ることを特徴とする。
【0015】
<予備融解液の調製>
はじめに、予備融解液の調製について述べる。
予備融解液の調製は、まず、油脂に、必要により下述のその他の成分を添加して油相とし、この油相を加熱融解し予備融解液とする。水相を含む可塑性油脂組成物を製造する場合は、水に、必要により下述のその他の成分を添加した水相を用意する。そして、上記油相と上記水相を混合・乳化し、水相を含む予備融解液である予備乳化液とする。
【0016】
得られた予備融解液は殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また、殺菌温度は好ましくは80~100℃、さらに好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。殺菌を行った予備融解液は、冷却工程に付す前に予備冷却工程を経ることが好ましい。予備冷却は、予備融解液の品温が好ましくは40~60℃、さらに好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃となるように行う。予備冷却は、予備融解液の品温が60℃以下となるように行うことが好ましい。予備冷却工程を経ることにより、殺菌処理を施した直後に冷却工程に付す場合と比較して、得られる可塑性油脂組成物中の粗大な油脂結晶の含有量を低減しやすいため、好ましい。
【0017】
<製造装置>
次に、後述する冷却工程と昇温工程に用いられる製造装置について述べる。
本発明の製造方法においては、密閉型連続式掻き取りチューブ式冷却機(Aユニット)を用いて、上記の予備融解液を冷却し、結晶を析出させ、混練し可塑化させる。このAユニットとしては、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等が挙げられる。
【0018】
上記のAユニットは、直列に複数配置することができる。Aユニットを直列に配置するときの台数に特に制限はないが、好ましくはAユニットを4本以上、さらに好ましくはAユニットを4~8本配置する。
【0019】
本発明においては、このAユニットを用いて、冷却工程及び昇温工程を行なうことができる。これらの工程は、それぞれ好ましくは1本以上のAユニット、さらに好ましくは2本以上のAユニットを用いて行なうことができる。本発明においては、上記のAユニットのあとに、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)や、レスティングチューブ、ホールディングチューブを使用することができ、これらを用いて昇温工程を行うこともできる。
【0020】
<冷却工程>
次に、本発明における冷却工程について述べる。
本発明の製造方法における冷却工程とは、上述の予備融解液をAユニットで冷却しながら混練し、油脂結晶を析出させるとともに、油脂組成物に可塑性を付与していく工程を指す。
【0021】
冷却工程の終点は油脂組成物に可塑性が付与されていればどの時点でも構わない。例えば、適宜油脂組成物をサンプリングして、指やスパチュラ等で力を加えて変形させ、その変形が維持される状態であれば、可塑性が付与されていると判断することができる。複数のAユニットを直列に配置した場合の終点については、油脂組成物に可塑性が付与される任意の時点、すなわち、任意のAユニットを終点とすることができる。以下、複数のAユニットを直列に配置した場合は、最初のAユニットを、「A1ユニット」と記載する場合があり、A1ユニットから数えて2本目以降を「A2、A3、・・・、Anユニット」と記載する場合がある。
【0022】
上記冷却工程の終点は「製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対する、油脂組成物のSFC」を基準として判断することが、良好なコシと伸展性を有する可塑性油脂組成物を得る観点から好ましい。この場合には、冷却工程終点の油脂組成物のSFCが、製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対して、50%以上のSFCとなるように冷却することが好ましく、55%以上のSFCとなるように冷却することがより好ましく、60%以上のSFCとなるように冷却することが最も好ましい。
【0023】
複数のAユニットを直列に配置した場合であって、上記のように、油脂組成物のSFCを冷却工程の終点として判断する場合には、冷却工程中の油脂組成物のSFCが、製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対して、50%以上のSFCとなるように結晶が析出されていることが確認された任意のAユニットを終点とすることができ、このAユニットに連結された次のAユニットから、後述の昇温工程に移行する。
【0024】
冷却工程終点での油脂組成物のSFCが、製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対して、好ましくは50%以上のSFCとなるまで結晶を析出させることで、製造後の後結晶化による物性悪化が抑制された可塑性油脂組成物が得られ易い。また、良好な伸展性とコシを有する可塑性油脂組成物が得られ易い。冷却工程終点の油脂組成物のSFCは、製造機に過度の負荷をかけない観点や、結晶の安定化を図り、経日的な物性悪化を抑制する観点から、製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対して、95%以下のSFCとなるようにすることが好ましく、90%以下のSFCとなるようにすることがより好ましい。
【0025】
製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対する、冷却工程終点の油脂組成物のSFCの結晶の析出の度合いについては、冷却工程の最後のAユニットの出口からサンプリングした油脂組成物のSFCと、製造された可塑性油脂組成物を5℃で7日間保管した後の5℃におけるSFCから算出することができる。より簡便に行う場合は、冷却工程に用いた最後のAユニットの出口からサンプリングした油脂組成物のSFCと、冷却工程に付す前の予備融解液の5℃のSFCを予備融解液中の油相量で換算した値から推算することができる。冷却工程に付す前の予備融解液の5℃のSFCを予備融解液中の油相量で換算した値とは、水相を含まない試料を測定した場合には測定値そのままであり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量で換算した値である。なお、冷却工程後のサンプリングは、適宜行うことができる。
【0026】
上記のSFC値は常法により測定することが可能であるが、本発明においては、SFCの値は、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料(製造された可塑性油脂組成物、油脂組成物、若しくは予備融解液)を測定した値をそのまま使用する。(以下、SFCの測定について同様である。)
【0027】
冷却工程終点における油脂組成物の品温については、13℃以下とすることが好ましく、10℃以下とすることがより好ましい。冷却工程終点における油脂組成物の品温が15℃超である場合、良好なコシと伸展性を有する可塑性油脂組成物を得られない場合があり、また、後述の昇温工程において結晶が溶解し、十分に可塑性を有しない油脂組成物となる場合がある。冷却工程終点における油脂組成物の品温の下限は、予備融解液中の油相の配合や可塑性油脂組成物に求める物性等によっても異なり、限定されないが、一例として5℃を挙げることができる。
【0028】
上記冷却工程においては、効率良く油脂結晶を析出させるために、また、上記範囲の好ましいSFCとするために、-10℃以下の平均保持温度で冷却を行うことが好ましく、-15℃以下の平均保持温度で冷却を行うことがより好ましい。保持温度とは、Aユニットの冷媒の温度を意味し、平均保持温度とは、冷却工程をA1~Anユニットで行った場合、それぞれのユニットの保持温度の和をnで除したものを意味する。後述する昇温工程においても同様である。保持温度の下限は、使用する冷媒の種類によっても異なるが、結晶の安定化を図り、経日的な物性悪化を抑制する観点から、-30℃であることが好ましい。
【0029】
本発明の冷却工程においては、予備融解液をAユニットに送入した後、油脂組成物を緩慢に冷却することも、急速に冷却することもできるが、経日的な硬化やグレーニングの発生が抑制された、好ましいコシと伸展性を有する可塑性油脂組成物を効率よく製造する観点から、急速に冷却することが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法の冷却工程において、複数のAユニットを直列に配置した場合であって、急速に冷却する場合について述べる。(以下、急速に冷却することを、単に「急冷する」と記載する場合がある)
上記冷却工程において急冷する場合、A1ユニットを、油脂組成物が通過する際の平均冷却速度が0.5℃/秒以上となる条件とすることが好ましく、1℃/秒以上となる条件とすることがより好ましい。平均冷却速度の上限は、5℃/秒である。このような条件とすることで、最終的に得られる可塑性油脂組成物に良好なコシと伸展性が付与されやすい。これらの平均冷却速度が得られるように、油脂組成物の流量等の各種条件が適宜調整されるが、好ましくは、少なくとも平均冷却速度が0.1℃/秒超となるように調整される。A1ユニットを油脂組成物が通過する際の平均冷却速度は、A1ユニットに送入される直前の品温とA1ユニットから出た後の品温の差分を、A1ユニットにおける滞留時間で除することにより得られる。
【0031】
上記冷却工程で油脂組成物を緩慢に冷却する場合、その平均冷却速度については特に問われないが、例えばA1ユニットにおいて0.1℃/秒以下の冷却速度で冷却される。
【0032】
冷却工程に用いられるA2ユニット以降のAユニットについては、結晶の析出の促進と、結晶量の低下を抑制する観点から、冷却工程に用いた最後のAユニット出口における油脂組成物の品温が、A1ユニットの出口における油脂組成物の品温から、0.5℃以上低下するように冷却されることが好ましく、1℃以上低下するように冷却されることがより好ましい。このような品温が得られるようにA2ユニット以降の保持温度や流量が適宜調整される。後の昇温工程への影響を鑑み、品温の低下を5℃以下とすることが好ましい。
【0033】
<昇温工程>
次に、昇温工程について述べる。本発明の製造方法において、昇温工程は上記冷却工程の後に行われ、昇温工程終了時点の油脂組成物の品温を、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して少なくとも1℃以上上昇させる。上記の冷却工程の後、昇温工程を経ることにより、経日的な硬化やグレーニングといった品質の低下が抑制され、良好なコシや伸展性を有する可塑性油脂組成物が得られる。
【0034】
その理由としては現段階では明らかとなっていないが、以下の通り推察している。
硬化やグレーニングといった可塑性油脂組成物の経日的な劣化は、特に可塑性油脂組成物中の油脂結晶の経日的な安定化や、後結晶化に起因するものと推測される。本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、上記昇温工程を経て油脂組成物の品温を上昇させることを特徴とし、これにより、上記の経日的に起こる油脂結晶の安定化と結晶の析出が製造ライン内で加速的に生じ、可塑性油脂組成物が得られた段階では、十分安定化された油脂結晶が多く得られているために、経日的な硬化やグレーニングといった品質の低下が抑制されるものと推察している。
【0035】
昇温工程終了時点の油脂組成物の品温を、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して1.5℃以上上昇させることが好ましく、2℃以上上昇させることがより好ましい。得られる可塑性油脂組成物の、伸展性やコシといった品質を損ねない範囲で、昇温工程においては、任意に油脂組成物の品温を昇温することができるが、後結晶化による物性悪化の発生を抑制する観点から、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して10℃以下の昇温とすることが好ましく、8℃以下の昇温とすることがより好ましい。また、良好な伸展性やコシを有する可塑性油脂組成物を得る観点から、昇温工程中の油脂組成物の品温が15℃超とならないことが好ましく、油脂組成物中の油脂結晶が完全に溶解する温度より低い温度で行うことが好ましい。
【0036】
昇温工程において、昇温工程終了時点の油脂組成物の品温を、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して、少なくとも1℃以上上昇させることにより、結晶安定化に伴う経日的な物性悪化の発生を、長期に渡って抑止できるようになる。
【0037】
昇温させる手段は、任意の手段を選択することが可能であり、Aユニットや、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)や、レスティングチューブ、ホールディングチューブのいずれを使用しても構わないが、良好な物性を有する可塑性油脂組成物を得る観点から、好ましくは、Aユニットにおける保持温度を冷却工程対比で上昇させて冷却を緩めることにより、昇温させることが好ましい。直接加熱による昇温を行うこともできるが、油脂の融解が顕著となり、後結晶化に伴う物性の悪化が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0038】
次に、Aユニットを用いた昇温工程について述べる。
上記範囲で油脂組成物の品温を上昇させるために、昇温工程における平均保持温度を、冷却工程における平均保持温度より5℃以上高く設定することが好ましく、10℃以上高く設定することがより好ましい。冷却工程で生じた油脂結晶が溶解し後結晶化に伴う可塑性油脂組成物の物性が悪化する場合があるため、昇温工程における平均保持温度と冷却工程における平均保持温度の差分は、20℃以下であることが好ましい。
【0039】
昇温工程後の油脂組成物のSFCは、昇温工程直前にサンプリングされた油脂組成物のSFC(複数のAユニットを直列に複数配置した場合は冷却工程に用いた最後のAユニットの出口からサンプリングされた油脂組成物のSFC)の90~150%となることが好ましく、95~130%となることがより好ましい。昇温工程後の可塑性油脂組成物のSFCを、昇温工程直前に測定されたSFCに対して、90%以上のSFCとすることで、結晶の安定化が図られやすく、経日的な硬化やグレーニング等の品質低下の発生が抑制されやすく、好ましい伸展性とコシを有する可塑性油脂組成物が得られやすい。昇温工程後の可塑性油脂組成物のSFCを、昇温工程直前に測定されたSFCに対して、150%以下とすることで、良好な伸展性とコシを有する可塑性油脂組成物が得られやすい。昇温工程における保持温度や流速を適宜調整することにより、好ましく上記範囲のSFCとすることができる。
【0040】
昇温工程におけるAユニットのクリアランスは、効率よく油脂組成物の品温を上昇させる観点から、好ましくは5mm以上である。また、上限は30mmである。
【0041】
本発明の製造方法において、可塑性油脂組成物を製造する際のいずれかの工程で、窒素又は空気等を含気させることができる。また、得られた可塑性油脂組成物は、包装、エージングを行なうことができる。
【0042】
製造する可塑性油脂組成物の用途によって異なる特性が求められるが、従来の製造方法においては、この要求特性に応じて、加温や冷却、混練等を行い、製造ライン出口における油脂組成物の状態が適宜調整される。本発明の製造方法においても、従来の製造方法と同様に、要求特性に応じた、製造ライン出口における適正な状態が得られるように加温や冷却をすることができ、また同時に混練を行うことができる。例えば、練り込み用の可塑性油脂組成物の製造時に、容器へ流し込み易くするために、ピンマシン等の混和装置(Bユニット)により軟化させる場合や、ロールイン用の可塑性油脂組成物の製造時に、ロールイン適性をもたせるために、冷却する場合等が挙げられる。これらの物性の調整は、上記昇温工程中又は昇温工程の後に、Aユニットや、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)、レスティングチューブ、ホールディングチューブ等により、必要に応じて実施される。
【0043】
次に、本発明の可塑性油脂組成物の製造方法により製造される可塑性油脂組成物(以下、本発明の可塑性油脂組成物ともいう)について説明する。
本発明で用いることのできる油脂としては、食用の油脂であれば特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、微細藻類油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、カカオ脂、シア脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの内から1種又は2種以上を選択することができる。
【0044】
本発明の製造方法は、特に、結晶の安定化が遅い油脂を含む油相を有する可塑性油脂組成物の製造に効果を発揮する。このような油脂としては、例えば、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パーム中融点部等のパーム系油脂や、これらのパーム系油脂を水素添加した油脂が挙げられる。パーム系油脂は、結晶が密にパッキングすることから、可塑性油脂組成物に良好なコシを付与することができる。一方で、パーム系油脂を主体とする可塑性油脂組成物では、良好な伸展性が得られにくい他、結晶の十分な析出に時間を要するため、経日安定性が劣るものとなりやすかった。本発明の製造方法によれば、これらの油脂を用いた場合であっても、伸展性とコシが両立された可塑性油脂組成物を好ましく得ることができる。
【0045】
本発明の可塑性油脂組成物における、油脂の含有量は、特に制限はないが、好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%、最も好ましくは80~100質量%である。下述するその他成分が油脂を含有する場合は、その他成分中の油脂分も上記の油脂の含有量に含めるものとする。
【0046】
本発明の可塑性油脂組成物における、水分の含有量は、特に制限はないが、本発明の可塑性油脂組成物中、好ましくは0~40質量%、さらに好ましくは0~30質量%、最も好ましくは0~20質量%である。下述するその他成分が水分を含有する場合は、その他成分中の水分についても、上記の水分の含有量に含めるものとする。
【0047】
本発明の可塑性油脂組成物は、必要によりその他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、例えば、糖類、乳化剤、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・脱脂濃縮乳、蛋白質濃縮ホエイ等の乳や乳製品、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0048】
上記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。乳化剤の含有量は、特に制限はないが、本発明の可塑性油脂組成物中、好ましくは0~15質量%、さらに好ましくは0~10質量%、最も好ましくは0~5質量%である。
【0049】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の含有量は、特に制限はないが、本発明の可塑性油脂組成物中、好ましくは0~10質量%、さらに好ましくは0~5質量%である。
【0050】
本発明の可塑性油脂組成物は、マーガリンタイプでもショートニングタイプでもどちらでも構わない。本発明の可塑性油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、いずれの乳化型でも構わないが、油中水型、若しくは二重乳化型が好ましい。
【0051】
本発明の可塑性油脂組成物は、各種食品に使用することができ、特にベーカリー食品のロールイン用や練り込み用、その他、サンド用、トッピング用、フィリング用、スプレッド用として使用できるが、良好なコシと伸展性を有していることから、とりわけロールイン用として用いることが好ましい。
【0052】
本発明の可塑性油脂組成物をロールイン用油脂組成物として用いる場合は、得られた可塑性油脂組成物をシート状、ブロック状、円柱状、直方体等の形状とする。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ1~50mm、ブロック状:縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ50~500mm、円柱状:直径1~25mm、長さ5~100mm、直方体:縦5~50mm、横5~50mm、高さ5~100mmである。
【0053】
本発明の可塑性油脂組成物を練り込み用油脂組成物として用いる場合は、得られた可塑性油脂組成物をケースやカップなどの容器に流し込む。
【実施例】
【0054】
以下、実施例・比較例を挙げて、本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
下記の実施例及び比較例において、SFCは、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、製造された可塑性油脂組成物、油脂組成物、予備乳化液のSFCを測定した値である。
【0055】
(実施例1)
パームオレインのランダムエステル交換油76質量部、液状油(大豆油)20質量部、及びパーム油とパーム極度硬化油とをそれぞれ加熱溶解した状態で65:35の質量比で混合したもののランダムエステル交換油4質量部を混合し、油脂混合物とした。次に、この油脂混合物78.9質量部にレシチン0.1質量部を加え、分散・溶解させたものを油相とした。
水17質量部に脱脂粉乳3質量部を加えて分散・溶解させたものを水相とした。
上記油相に、水相と香料1質量部を加えて、混合し、乳化して、予備乳化液を得た。得られた予備乳化液を85℃で加熱殺菌した後、45℃まで予備冷却を行った。
【0056】
Aユニットを4本有するコンビネーターにレスティングチューブを接続した連続式冷却混和装置を用いて、上記予備乳化液から可塑性油脂組成物を製造し、これをシート状に成形してロールイン用の可塑性油脂組成物Aを得た。製造条件は下記のとおりである。製造された可塑性油脂組成物Aを5℃で7日間保管した後の5℃におけるSFCは37.4であった。
【0057】
[製造条件]
A1~A4ユニットそれぞれのクリアランスは、A1ユニットから順に、5mm、10mm、10mm、15mmとした。
上記の4本のAユニットのうち、A1及びA2ユニットで冷却工程を、A3及びA4ユニットで昇温工程を行った。
冷却工程では油脂組成物を急冷した。A1及びA2ユニットにおける保持温度はそれぞれ-20℃とし、冷却工程の平均保持温度を-20℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は1.5℃/秒とした。冷却工程終了後(A2ユニット出口)の油脂組成物の品温は9.0℃であった。
冷却工程終了後(A2ユニット出口)の油脂組成物のSFCは23.5%であり、製造された可塑性油脂組成物Aを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して、62.8%のSFCとなっていた。
昇温工程における、A3及びA4ユニットの保持温度はそれぞれ-5℃とし、A3及びA4ユニットの平均保持温度を-5℃とした。昇温工程後の油脂組成物の品温は11.3℃であり、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して2.3℃上昇していた。昇温工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは27.4%であり、冷却工程終了後(A2ユニット出口)の油脂組成物のSFCに対して、116.8%のSFCとなっていた。
【0058】
(比較例1)
昇温工程を行わず、A1~A4ユニットの全てを用い、下記の条件で冷却工程を行った以外は、実施例1と同様にしてロールイン用の可塑性油脂組成物Bを得た。製造された可塑性油脂組成物Bを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCは38.1%であった。
[製造条件]
保持温度は全てのAユニットで-20℃とし、平均保持温度を-20℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は1.5℃/秒とした。冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物の品温は5.7℃であった。
冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは31.2%であり、製造された可塑性油脂組成物Bを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して82.0%のSFCとなっていた。
【0059】
(比較例2)
昇温工程を行わず、A1~A4ユニットの全てを用い、下記の条件で冷却工程を行った以外は、実施例1と同様にしてロールイン用の可塑性油脂組成物Cを得た。製造された可塑性油脂組成物Cを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCは36.3であった。
[製造条件]
保持温度は全てのAユニットで-5℃とし、平均保持温度を-5℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は1.3℃/秒とした。冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物の品温は7.9℃であった。
冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは25.5%であり、製造された可塑性油脂組成物Cを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して70.2%のSFCとなっていた。
【0060】
(比較例3)
昇温工程を行わず、A1~A4ユニットの全てを用い、下記の条件で冷却工程を行った以外は、実施例1と同様にしてロールイン用の可塑性油脂組成物Dを得た。製造された可塑性油脂組成物Dを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCは37.6%であった。
[製造条件]
保持温度はA1及びA2ユニットでそれぞれ-5℃、A3及びA4ユニットでそれぞれ-20℃とし、平均保持温度は-12.5℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は-1.3℃/秒とした。冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物の品温は6.1℃であった。
冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは30.1%であり、製造された可塑性油脂組成物Dを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して80.1%のSFCとなっていた。
【0061】
<評価>
得られたロールイン用の可塑性油脂組成物A~Dを用いて、下記配合と製法によりデニッシュA~Dをそれぞれ製造した。デニッシュ生地を調製する際のロールイン用の可塑性油脂組成物のコシと伸展性を下記評価基準により評価した。その結果を表1に示す。また、経日安定性の評価として、得られたロールイン用の可塑性油脂組成物を製造後5℃で保存し、7日目の表面の状態を下記基準で評価した。結果を表2に示した。経日安定性の評価においては、○のみを合格品とした。
【0062】
<デニッシュ生地の配合>
強力粉100質量部
イースト4質量部
イーストフード0.1質量部
上白糖15質量部
食塩2質量部
全卵5質量部
ショートニング((株)ADEKA製プレミアムショートCF)5質量部
ロールイン用の可塑性油脂組成物A~D35質量部
水45質量部
【0063】
<デニッシュ生地の製法>
可塑性油脂組成物A~D以外の原料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにて低速3分、中速5分にてミキシングを行い、生地(以下、「ベース生地」と記載する場合がある)を調製した。フロアタイムを20分とった後、このベース生地を-5℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。この生地に、15℃に調温しておいた可塑性油脂組成物A~Dをのせ、常法により、ロールイン(3つ折り3回)し、成型(縦10センチ、横10センチ、厚さ3ミリ)した。そしてホイロ(34℃、60分、80%RH)をとり、200℃15分にて焼成し、デニッシュA~Dを得た。
【0064】
<作業性評価(コシ)>
◎:ロールイン用の可塑性油脂組成物がベース生地に練り込まれず、ヒビ・割れが生じることなく折り込まれており、非常に良好である。
○:ロールイン用の可塑性油脂組成物がベース生地にほとんど練り込まれず、ヒビ・割れが生じることなく折り込まれ、良好である。
△:ロールイン用の可塑性油脂組成物が一部ベース生地に練り込まれる部分、若しくはヒビ・割れが生じる部分があり、やや不良である。
×:ロールイン用の可塑性油脂組成物がベース生地に練り込まれる部分、若しくは割れが確認される部分があり、不良である。
【0065】
<作業性評価(伸展性)>
◎:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展が均一であり、非常に良好である。
○:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展にわずかな違いが見られるものの、耳が殆ど見られず、良好である。
△:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展に部分的な差が見られ、耳が散見され、やや不良である。
×:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展に明確な差が見られ、耳が多数確認されており、不良である。
尚、上記の「耳」とはデニッシュ生地を調製する際、デニッシュ生地の端に見られる、ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展性の差に起因するベース生地の余分を指す。
【0066】
<経日安定性>
○:ロールイン用の可塑性油脂組成物の表面に触れてもザラつきを感じず、油にじみを全く起こしていない。
△:ロールイン用の可塑性油脂組成物の表面に触れると僅かにザラつきを感じる、或いは油にじみを僅かに起こしている。
×:ロールイン用の可塑性油脂組成物の表面に触れると非常にザラつきを感じる、又は強い油にじみを起こしている。
【0067】
【0068】
【0069】
実施例で製造された可塑性油脂組成物Aは、経日的な物性の悪化が抑制されていた。また、デニッシュ生地Aの調製時、ロールインの際に、折りたたまれた生地の端部分でひび割れることはなかった。また、練りこまれることなく隅まできちんとロールインされており、本発明の製造方法で調製された可塑性油脂組成物は良好なコシ・伸展性を有していることが確認された。
他方、可塑性油脂組成物B~Dは、コシや伸展性が乏しく、経日的な物性の悪化が見受けられた。このことからも、製造工程中に油脂組成物の品温を上昇させることにより、得られる可塑性油脂組成物の物性が向上することが確認された。