(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】アルテミアの養成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/20 20170101AFI20230925BHJP
A23K 10/22 20160101ALI20230925BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20230925BHJP
【FI】
A01K61/20
A23K10/22
A23K10/30
(21)【出願番号】P 2018025390
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2020-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】森島 輝
(72)【発明者】
【氏名】平田 喜郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 量平
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-220155(JP,A)
【文献】特開2002-238396(JP,A)
【文献】特開平7-79659(JP,A)
【文献】イセエビの種苗生産技術の開発(プロジェクト研究成果シリーズ480)、農林水産省農林水産技術会議事務局、2010年2月、第24-38頁、https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2039014663.pdf
【文献】松本雄二 外2名、テトラセルミスによるアルテミアの養成、長崎県水産試験場研究報告第14号、第47-50頁、1988年3月、https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/201045139.pdf
【文献】田中誠 外1名、シオミズツボワムシを餌としたアルテミア・サリーナーの培養I、水産増殖 第26巻第4号、第159頁-161頁、1979年3月、https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010190662.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルテミアを養成する飼育液を入れた養成槽を用いるアルテミアの養成方法であって、前記養成槽に養成水を連続的に供給し、前記養成槽の高さよりも低い高さであり、かつ、上部が開口している、前記養成槽内に設けられた内部配管の前記開口から溢流を排出する工程、を含み、
供給する養成水による前記養成槽内の前記飼育液の換水率(養成槽に供給する養成水の量(L/日)/養成槽の飼育液の充填量(L))が、1日当たり0.7以上10以下であ
り、養成されたアルテミアが平均体長3.0mm以上のアルテミアである、アルテミアの養成方法。
【請求項2】
前記養成槽の前記飼育液に酸素を20体積%以上含む気体を通気する工程、を含む請求項1記載のアルテミアの養成方法。
【請求項3】
前記養成槽の前記飼育液の酸素濃度が、6.5mg/L以上である請求項1または2記載のアルテミアの養成方法。
【請求項4】
前記養成水の塩分濃度が、1~5質量%である請求項1~3のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
【請求項5】
前記養成水の供給を、送液ポンプにより行う請求項1~4のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
【請求項6】
前記養成槽のアルテミアに、微細藻類を餌料として供給することで養成されるアルテミアの成分を調整する工程、を含む請求項1~5のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
【請求項7】
前記微細藻類が、褐藻である請求項6記載のアルテミアの養成方法。
【請求項8】
前記養成槽からの前記飼育液の溢流の流路に前記アルテミアの排出を防止するフィルタを有する請求項1~7のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルテミアの養成方法および養成装置、ならびにアルテミア、アルテミア飼育液に関する。
【背景技術】
【0002】
水産生物の養殖のために、種々の技術が開発されている。特に、稚魚のように水産生物が小さい時期には、その水産生物の大きさに適した生物餌料が必要となる。このような生物餌料の一つとして、小型の甲殻類であるアルテミアが利用されている(非特許文献1、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】田中誠・遠藤和夫、「シオミズツボワムシを餌としたアルテミア・サリーナーの培養」、水産増殖第26巻4号(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルテミアを生物餌料として利用し稚魚を飼育しようとする場合、魚体が大きくなるにつれ、餌料の大きさも大きくしなければならない。しかしながら、非特許文献1にも示されているように、養成日数が経過しアルテミアの体長が大きくなるにつれ、その生残率は著しく低下し生物餌料として安定して入手しにくいといった問題があった。
【0006】
本発明の課題は、大きなサイズのアルテミアを安定して大量に養成する方法およびそのための装置、また大きなサイズのアルテミア、アルテミア飼育液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の発明が前記の目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0008】
(1)アルテミアを養成する飼育液を入れた養成槽を用いるアルテミアの養成方法であって、前記養成槽に養成水を連続的に供給し、前記養成槽の高さよりも低い高さであり、かつ、上部が開口している、前記養成槽内に設けられた内部配管の前記開口から溢流を排出する工程、を含み、供給する養成水による前記養成槽内の前記飼育液の換水率(養成槽に供給する養成水の量(L/日)/養成槽の飼育液の充填量(L))が、1日当たり0.7以上10以下であり、養成されたアルテミアが平均体長3.0mm以上のアルテミアである、アルテミアの養成方法。
(2)前記養成槽の前記飼育液に、酸素を20体積%以上含む気体を通気する工程、を含む(1)記載のアルテミアの養成方法。
(3)前記養成槽の前記飼育液の酸素濃度が、6.5mg/L以上である(1)または(2)記載のアルテミアの養成方法。
(4)前記養成水の塩分濃度が、1~5質量%である(1)~(3)のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
(5)前記養成水の供給を、送液ポンプにより行う(1)~(4)のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
(6)前記養成槽のアルテミアに、微細藻類を餌料として供給することで養成されるアルテミアの成分を調整する工程、を含む(1)~(5)のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
(7)前記微細藻類が、褐藻である(6)記載のアルテミアの養成方法。
(8)前記養成槽からの前記飼育液の溢流の流路に前記アルテミアの排出を防止するフィルタを有する(1)~(7)のいずれかに記載のアルテミアの養成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイズの大きなアルテミアを安定して大量に養成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】アルテミアの体長の測定を説明するための図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る養成装置の概略図である。
【
図3】本発明の第二の実施形態に係る養成装置の概略図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係る養成装置の略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「AからB」又は「A~B」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「Aおよび/またはB」という表現は、「AおよびBのいずれか一方または双方」を意味する。すなわち、「Aおよび/またはB」には、「Aのみ」、「Bのみ」、「AおよびBの双方」が含まれる。
【0015】
本発明のアルテミアの養成方法は、アルテミアを養成する飼育液を入れた養成槽を用いるアルテミアの養成方法であって、前記養成槽に養成水を連続的に供給しながら養成する工程、を含むものである。本発明のアルテミアの養成装置は、アルテミアを養成する飼育液を入れる養成槽と、前記養成槽に養成水を連続的に供給する供給手段とを有する。本発明に係るアルテミアの養成装置は、本発明のアルテミアの養成方法に適した構成を有し、それぞれの構成が関連して使用することができる。
【0016】
この構成により養成槽内の飼育液に新たな養成水が供給されることで、その飼育液の清浄度を維持することができる。また連続供給される養成水により溶存酸素が供給され、さらには成長過程で発生した排泄物等が溢流により養成槽から排出される。このことによりアルテミアの成長が阻害されず、安定した成長を促すことができる。この結果、大きなサイズのアルテミアを高い生残率で養成することができる。
【0017】
<アルテミア>
本発明においてアルテミアとは、節足動物甲殻亜門鰓脚綱サルソストラカ亜綱無甲目ホウネンエビモドキ科の属名であり、Artemia franciscana、Artemia monica、Artemia persimilis、Artemia salina、Artemia sinica、Artemia tibetiana、Artemia urmiana、Artemia parthenogeneticaが例示される。本発明においてアルテミアはいずれか1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。アルテミアは、休眠卵の状態で市販されているものを利用してもよいし、人工的に養成したものを利用してもよい。また天然の環境から分離して使用することもできる。アルテミアはしばしば養成水中で孵化、養成させて、水産生物等の生物餌料として利用されている。本発明を用いることにより、アルテミアの休眠卵から孵化したアルテミアを効率よく安定して養成することにより、体長の大型化や生残率の向上等を達成することができる。
【0018】
<アルテミアの体長>
アルテミアの体長の測定方法を、
図1を用いて具体的に説明する。アルテミア10の体長は、頭部先端11から尾先端12までの長さLをアルテミア10の体長とする。
【0019】
<養成槽>
本発明のアルテミアの養成は養成槽で行われる。本発明において養成槽とは、飼育液が入れられ、アルテミアの養成が行われる槽である。本発明において飼育液とは、養成水にアルテミアの卵、孵化後のアルテミアを含むものである。
【0020】
本発明において養成水とは、塩化ナトリウムを塩の主成分とする水溶液のことを言う。養成水は、アルテミアを養成するという目的から、海水の成分に近いことが望ましい。海水をそのまま又は除菌、殺菌、滅菌等の処理を行ったものを使用することもできる。本発明においてこの養成水は飼育液の液体成分として用いられる。アルテミアを養成することができる濃度であれば任意の塩分濃度の水溶液を使用することができる。例えば海水相当を目安として、塩分濃度が1~5質量%、好ましくは3~4質量%の塩水を使用することができる。養成水の塩には海水を構成する塩化ナトリウムや塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム等の各種塩をアルテミアの養成に適した範囲で利用することができる。養成水には、人工海水、濃縮海水をアルテミア飼育可能な濃度に調製して使用することもできる。本発明において塩分濃度の値は、塩分計によって測定したものを塩分濃度の値とする。
【0021】
<連続供給>
本発明のアルテミアの養成は、養成槽に養成水を連続的に供給することによって行われる。本発明において供給手段とは、養成槽に養成水を連続的に供給する装置をいい、例として送液ポンプがあげられる。この連続的に供給する装置を用いて、本発明のアルテミアの養成方法の、養成槽に養成水を連続的に供給しながら養成する工程を行う。
本発明のアルテミアの養成は連続的に養成水を養成槽に供給することにより行う。養成水を連続供給するため養成槽から余分となる飼育液が溢流として排出される。この溢流によって飼育液中のアルテミアが排出されないためには、フィルタを養成槽と排出路の結合部に設置するとよい。
【0022】
<フィルタ>
本発明においてフィルタとは、飼育液からアルテミアを取り除く作用をするものであり、この能力があるものであれば、材質は限定されない。養成槽から生じる飼育液の溢流の流路に設置されたフィルタは、溢流によるアルテミアの排出を防止するものである。アルテミアは、孵化直後で0.3~0.4mm程度の体長であるため、これよりも目開きが小さいフィルタを用いることが好ましい。フィルタの目開きの目安としては、飼育液中のアルテミアの体長の1/2~1/10程度であることが好ましい。フィルタは養成水と接するため、耐水性・耐塩性を有する素材によるものが好ましい。フィルタの目開きは、アルテミアを養成し体長が大きくなるにつれ、目開きが大きいものに変更しながら養成することも可能である。フィルタは性能が低下した場合に交換できるものが好ましい。
【0023】
<供給量>
本発明において連続的に供給される養成水の量は、養成槽の大きさや飼育液の量、養成されるアルテミアの種類や飼育密度、養成期間等を考慮して適宜設定することができる。供給する養成水による養成槽の換水率が、1日当たり0.5以上10以下であれば、アルテミアは十分に酸素を得ることができ、成育するため、好ましい。本発明の換水率は、1日当たりの「養成増に供給する養成水の量(L/日)/養成増の飼育液の充填量(L)」で計算される。
換水率の下限は、0.7以上、1.0以上、1.2以上、1.5以上とすることができる。換水率の上限は、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下とすることができる。
【0024】
本発明においての連続的な養成水の供給は、アルテミアを大型化させるための養成期間が3日~4週の期間で適宜設定することができる。養成水の供給は1日あたりの換水率として、供給量を管理できればよく、常時供給し続けてもよいし、断続的に供給してもよい。
【0025】
<酸素供給>
本発明においてアルテミアの養成は、通気をして養成することが好ましい。本発明において通気とは、養成槽の飼育液に酸素を含む気体を吹き込むことをいう。本発明のアルテミアの養成方法は、養成槽の飼育液に酸素を20体積%以上含む気体を通気する工程を含むことができる。なお、通気する工程と、前述の養成槽に養成水を連続的に供給しながら養成する工程とは、いずれを先に行ってもよく、双方を行う場合、アルテミアを養成するとき同時に行うことができる。
【0026】
通気は養成槽中の飼育液の任意の深さの位置に通気用の管またはチューブを用いることにより行うことができるが、気体と液体の接触時間を多くするために養成槽の底部または中部の深さにおいてすることが好ましい。通気は0.5L/min以上、1L/min以上、2L/min以上、10L/min以下、8L/min以下、6L/min以下で行うことにより、アルテミアは十分に酸素を得ることができ、成育することができる。通気をすることにより、アルテミアの成育に必要な酸素を飼育液中に供給することができる。
【0027】
本発明において通気手段とは、養成槽に酸素を含む気体を通気するための装置をいう。例えば酸素を含んだ気体を充填したボンベとボンベから気体を養成槽へ供給する配管をあげることができる。またボンベに配管で接続しその配管に開閉弁を設けその開閉弁の開閉量で通気量を調整することができる。また養成槽に通気ポンプで気体を通気することもできる。単に空気と飼育液表面が接して飼育液中に溶解した酸素のみでは十分ではないため、酸素を含む気体を通気することで大型のアルテミアの安定した養成が可能となる。
【0028】
この通気される気体は、酸素濃度が高いことが好ましく、酸素濃度が20体積%以上の気体であることが好ましく、21体積%以上、25体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上、95体積%以上、98体積%以上であればアルテミアは十分酸素を得ることができ、成育することができる。酸素ガスそのものを供給してもよい。アルテミアが成長し大型化するにつれ各個体が必要とする酸素量が増加し、溶存酸素の欠乏が生じるため、大型化と生残率向上が困難となる。供給される酸素の濃度が高くなることで、このような酸素欠乏を抑制することができる。
【0029】
本発明の養成において、養成槽中の飼育液の酸素濃度を管理することが好ましい。この溶存酸素濃度は、6.5mg/L以上、7.0mg/L以上、7.5mg/L以上、8.0mg/L以上、10mg/L以上、12mg/L以上であれば、アルテミアは十分酸素を得ることができ、成育することができる。養成槽の飼育液の酸素濃度を高濃度で管理することが好ましい。このような溶存酸素濃度で養成することで、大型のアルテミアを安定して大量に養成することができる。飼育液中の溶存酸素濃度は、養成期間の各日に1日当たり2回以上測定した濃度の平均値などで管理してもよいが、測定回数は多い方が正確に溶存酸素濃度を調整することができるので安定した飼育環境で養成することができる。溶存酸素濃度の上限は、達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、30mg/L以下、27mg/L以下、25mg/L以下のようにしてもよい。
【0030】
本発明においては、溶存酸素濃度を管理するために、前記養成槽に入れた飼育液の溶存酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段を有することが好ましい。本発明において酸素濃度検出手段とは、液中の溶存酸素濃度を検出することのできる装置をいい、例えば溶存酸素センサー(以下、DOセンサーという)を挙げることができる。
【0031】
本発明においては、前記酸素濃度検出手段により測定した前記飼育液の溶存酸素濃度に基づいて前記溶存酸素濃度を所定の濃度となるように前記通気手段により通気量を調整する調整手段を有することが好ましい。
【0032】
本発明において調整手段とは、溶存酸素濃度に基づいて通気量を調整する装置をいい、手動によるバルブを使用してもよいが、他にコンピューター制御された電動バルブをあげることができる。
【0033】
本発明におけるアルテミアの養成では、他の諸条件は適宜公知の範囲内で設定してよい。例えば飼育液の温度は10~30℃程度に設定することが好ましく、20℃~30℃がより好ましく、26℃~28℃がさらに好ましい。飼育液のpHとしてはpH7~pH9が好ましく、pH8~pH8.5がより好ましい。
【0034】
本発明におけるアルテミアの養成期間は、そのアルテミアの使用時の需要に応じて変更し、目的とする体長となるまでの期間としてもよい。本発明によれば、アルテミアを大型化させて、かつ高い生残率を達成することができる。例えば2.5mm以上の体長となる5日以上養成することができる。養成期間は7日以上、8日以上、9日以上、10日以上とすることもできる。例えば、7日養成したとき、体長5~6mm程度を達成することもできる。養成期間の上限は死滅等しない範囲で任意である。一方で必要以上に長期間養成する必要性はないことから、30日以内や、25日以内、20日以内、18日以内、16日以内、14日以内としてもよい。
【0035】
(アルテミア飼育液)
本発明を実施することにより、平均体長が3.0mm以上であり、1mLあたり1個体以上のアルテミアを含む、アルテミア飼育液を得ることができる。アルテミア飼育液1mLあたりの個体数の下限は2個体以上、3個体以上とすることもでき、上限は1000個体以下、500個体以下、100個体以下とすることもできる。平均体長は、100mLのアルテミア飼育液を採取し、前記アルテミア飼育液中に含まれる個体数をカウントし、それぞれの個体のアルテミアの体長を測定したものを合計した値を個体数で割ることにより求めることができる。本明細書において、アルテミア飼育液とは、養成槽で養成したアルテミアをそのまま含む飼育液をいう。平均体長は、3.5mm以上、3.5mm以上、4.0mm以上、4.5mm以上、5.0mm以上、6.0mm以上、7.0mm以上、8.0mm以上とすることができる。一方、その平均体長の上限は達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、現実的には20mm以下が好ましい。平均体長の上限は、19mm以下、18mm以下、17mm以下、16mm以下、15mm以下としてもよい。平均体長は、無作為に50検体をサンプリングして、その平均値をその群のアルテミアの平均体長としてもよい。
【0036】
<アルテミアの餌料>
本発明においてアルテミアの餌料としては、公知のものを適宜利用することができる。本発明におけるアルテミアの養成は、養成槽のアルテミアに微細藻類を餌料として給餌することで養成されることが好ましい。本発明のアルテミアの養成方法は、養成槽のアルテミアに、微細藻類を餌料として供給することで養成されるアルテミアの成分を調整する工程を含むことができる。
【0037】
本発明でアルテミアの餌料として用いられるものとしては、褐藻、紅藻、緑藻が好ましい。これらをアルテミアが摂餌しやすいように、これらの微細藻類を適宜粉砕等して大きさを調整して使用することができるし、微細藻類をそのまま餌料として使用することもできる。本発明において褐藻とは、褐藻綱・褐色藻であり、例えば、コンブ、ワカメの属するコンブ目、ヒジキの属するヒバマタ目などがあげられる。本発明において紅藻とは、紅藻綱Rhodophyceae1綱であり、例えば、アサクサノリ、テングサ、オゴノリ、イギスなどがあげられる。本発明において緑藻とは、車軸藻類、ハネモ類、接合藻類、サヤミドロ類、プラシノ藻類および真正緑藻類が含まれ、例えば、アオノリ、アオサ、ミル、ホシミドロ、アオミドロなどがあげられる。本発明において、アルテミアの餌料としては褐藻が特に好ましい。
【0038】
本発明のアルテミアは、体長が3.0mm以上のアルテミアとすることができる。本発明によれば、アルテミアを3.0mm以上の体長にも安定して養成することができる。本発明によって得られた大型化したアルテミアは、従来のアルテミアとは異なる成分を有するアルテミアとすることが可能となる。このようなアルテミアを魚介類等の水産生物の生物餌料として利用することができる。このアルテミアを餌料として用いることにより魚の稚魚等に対して有効な餌料とすることができる。
【0039】
特に体長が3.0mm以上のアルテミアのとき、微細藻類を摂餌しやすくなる点からも、その体長は3.0mm以上とすることが有効である。その体長は、3.5mm以上、4.0mm以上、4.5mm以上、5.0mm以上、6.0mm以上、7.0mm以上、8.0mm以上とすることができる。一方、その体長の上限は達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、現実的には20mm以下が好ましい。体長の上限は、19mm以下、18mm以下、17mm以下、16mm以下、15mm以下としてもよい。アルテミアの個体を多数含む群として利用しその群の大きさを求める場合、その群から無作為に10検体をサンプリングして、その平均値をその群のアルテミアの体長とする。
【0040】
本発明のアルテミアは、α-アミノ-n-ブチル酸(ABA)濃度が0.020質量%以上、および/またはシスチン(Cys)濃度が0.010質量%以上であるアルテミアとすることができる。アミノ酸の分析は既存の方法を用いることができる。例えば測定には、高速アミノ酸分析計L-8900形(株式会社日立ハイテクサイエンス)を使用する。測定用試料の調製及び測定方法については、後述する実施例に記載したものを適用する。これらの濃度の質量%は、個体あたりの質量(100g)に対する、アミノ酸の質量(g)に基づく算出が可能である。このABA濃度やCys濃度を有するアルテミアは、水産生物の生物餌料としたときいわゆる栄養強化された餌料となる。よって、これらを生物餌料として摂餌する稚魚等の成長促進や歩留まり向上などの効果を得ることができる。
【0041】
本発明のアルテミアのABA濃度は、0.030質量%以上、0.040質量%以上、0.050質量%以上、0.060質量%以上、0.070質量%以上、0.080質量%以上、0.090質量%以上、0.100質量%以上とすることができる。ABA濃度の上限は達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、極端に高くするためのアルテミアの餌料調整が困難な場合があり、例えば、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下としてもよい。
【0042】
本発明のアルテミアのCys濃度は、0.015質量%以上、0.020質量%以上、0.025質量%以上、0.030質量%以上とすることができる。Cys濃度の上限もABA濃度と同様に達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、例えば、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下としてもよい。
【0043】
このようなABA濃度やCys濃度は、体長3.0mm未満のアルテミアでは達成が難しい範囲である。本発明のアルテミアの養成方法は微細藻類を給餌することでアルテミアの成分を調整することができる。給餌する微細藻類を選択や調整することでこのようなABA濃度やCys濃度を達成することが可能となる。具体的には、褐藻を給餌することが特に有効となる。
【0044】
本発明のアルテミア飼育液は、α-アミノ-n-ブチル酸(ABA)濃度が0.020質量%以上、および/またはシスチン(Cys)濃度が0.010質量%以上であるアルテミアを含む。アミノ酸の分析は既存の方法を用いることができる。例えば測定には、高速アミノ酸分析計L-8900形(株式会社日立ハイテクサイエンス)を使用する。測定用試料の調製及び測定方法については、後述する実施例に記載したものを適用する。これらの濃度の質量%は、個体あたりの質量(100g)に対する、アミノ酸の質量(g)に基づく算出が可能である。このABA濃度やCys濃度を有するアルテミアを含むアルテミア飼育液は、水産生物の生物餌料としたときいわゆる栄養強化された餌料となる。よって、これらを生物餌料として摂餌する稚魚等の成長促進や歩留まり向上などの効果を得ることができる。ここでアルテミア飼育液のABA濃度及びCys濃度の測定は、アルテミアをろ過で分離後体長3.0mm以上の個体を使用する。アミノ酸分析が可能な量であればよいが、たとえば前記体長3.0mm以上のアルテミア2gを用いて、実施例に記載した測定方法により求めることができる。
【0045】
本発明のアルテミア飼育液に含まれるアルテミアのABA濃度は、0.030質量%以上、0.040質量%以上、0.050質量%以上、0.060質量%以上、0.070質量%以上、0.080質量%以上、0.090質量%以上、0.100質量%以上とすることができる。ABA濃度の上限は達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、極端に高くするためのアルテミアの餌料調整が困難な場合があり、例えば、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下としてもよい。
【0046】
本発明のアルテミア飼育液に含まれるアルテミアのCys濃度は、0.015質量%以上、0.020質量%以上、0.025質量%以上、0.030質量%以上とすることができる。Cys濃度の上限もABA濃度と同様に達成可能な範囲で任意のものとしてよいが、例えば、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下としてもよい。
【0047】
本発明のアルテミア飼育液に含まれるアルテミアは微細藻類を給餌することでアルテミアの成分を調整することができる。給餌する微細藻類を選択や調整することでこのようなABA濃度やCys濃度を達成することが可能となる。具体的には、褐藻を給餌することが特に有効となる。
【0048】
本発明によって養成されたアルテミアは、水産生物の生物餌料として利用することができる。本発明において生物餌料とは、水産生物の餌料となる生きたプランクトンである。生物餌料として使用するとき、アルテミア飼育液をそのまま給餌対象となる水産生物の養殖槽等に給餌してもよい。飼育液中のアルテミアは遠心分離により、または濾過により回収し、水産生物に対する生物餌料として使用することもできる。本発明のアルテミアは適宜、他の餌料や調整材等と混合して使用することもできる。
【0049】
本発明のアルテミア、およびアルテミア飼育液の具体的な給餌対象となる水産生物は特に限定されないが、例えば、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マダイ、スマ、カツオ、マグロ、サケ、サバ、マス、カニ、エビ、タコ、イカなどの生物餌料として利用可能である。特に本発明のアルテミアは、稚魚などの各種水産生物の幼生期に近い時期の生物餌料として有用である。
【0050】
<第一の実施形態>
図2に本発明の養成装置に係る第一の実施形態の概要図を示す。
図2はアルテミアの養成装置100を示す図である。養成装置100は、アルテミアを養成する飼育液1を入れる養成槽20を有している。養成槽20には、養成水タンク31の養成水32が、養成水送液ポンプ33により送液され、この構成は養成槽20に養成水32を連続的に供給する供給手段となる。そして、養成水32が供給されることで養成槽20からの溢流の流路OFにはフィルタ41が設けられている。フィルタ41は、飼育液1内のアルテミアの排出を防止する目開きのものである。さらに、養成装置100においては、通気手段である通気ポンプ5が設けられており、空気や、所定の酸素濃度の気体を通気することもできる。
【0051】
<第二の実施形態>
図3および
図4に本発明の養成装置に係る第二の実施形態の概要図を示す。第二の実施形態に係るアルテミアの養成装置101は、第一の実施形態に準じる構成の養成装置である。養成装置101に関して
図3に略断面図を示し
図4に略平面図を示すが、養成槽21の内側には溢流の流路となる内部配管211が設けられている。内部配管211は、養成槽21の槽の高さよりも低い高さであり、その上部は開口となっており、この開口から溢流は排出される。内部配管211の開口部に、フィルタ42を配置することで、飼育液1のアルテミアの排出は防止される。このように、養成槽の内側(例えば中央付近)に溢流の流路を設ける構成であれば、内部配管211を囲む養成槽21の液は内部配管211の周方向で比較的均一な循環流となりやすく、より均一な養成を行いやすい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[試験装置]
図3に示す第2の実施形態に準じた構成の養成装置を準備し、養成試験を行った。主な養成試験装置の構成は以下のものである。
[養成槽]
養成槽:プラスチック製容器 最大容量220L
養成槽内の飼育液容量:飼育液の充填量が200Lとなるように、養成槽に溢流の流路を設けてオーバーフローする水は排出する構成とした。
フィルタ:ポリエチレン製、目開き114~408μmのメッシュのフィルタを、養成槽の溢流の流路に配置して使用した。目開きはアルテミアの養成期に応じて、適宜目開きを選択して利用した。
溶存酸素濃度計:養成槽の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度計によりモニタリング可能とした。
温度計:養成槽の温度を測定する温度計によりモニタリング可能とした。
ヒーター:養成槽の温度を制御するヒーターを取り付けた。
[養成水供給手段]
・海水をろ過し、連続供給するための養成水として養成水タンクに溜めて使用した。養成水は送液ポンプにより、養成槽に送液する流量を調整しながら使用した。
[通気ポンプ]
・通気する気体は、空気または酸素ガス(O
2)を切り替えて、通気可能な通気ポンプを使用した。
【0054】
[実施例1]前述した養成装置を使用した養成条件を以下に示す。養成は20日間行った。
・飼育液組成
アルテミア:マリンテック社ブラインシュリンプ卵(原産地:北米ソルトレイク産)を使用した。
養成水:連続供給する養成水と同様の海水を使用した。
養成開始時のアルテミア濃度は、養成槽の容積において15個体/mL(300万個体/200L水槽)となるように調整した。
・アルテミア用餌料
基本餌料:マリンオメガA(マリンテック社製)を孵化後以降の餌料として給餌した。なお、養成開始から15日目以降は、褐藻を粉砕した微細海藻を餌料として給餌した。
・養成水供給量
養成槽の飼育液の充填量200Lに対して、養成槽に供給する養成水の量は、920L/日として連続供給した。この養成水供給量による換水率は、「養成増に供給する養成水の量(L/日)/養成増の飼育液の充填量(L)」から、920(L/日)÷200(L)のため、4.6(日-1)である。
・気体供給
酸素ガス(O2)を、1日当たりの酸素ガス供給量/飼育液容量が、2L/L程度となるように供給して養成を行った。このとき、飼育液中の溶存酸素濃度は、養成日数により多少変動が生じる場合があったが、酸素濃度が高いガスを供給しているため、約10mg/L以上を維持することができた。
【0055】
[養成試験結果]
養成開始から7日で、10個体をサンプリングした平均体長2.5mmのアルテミアとなった。この時の生残率は、70%であった。密度は1mL中およそ7個体であった。
養成開始から20日で、10個体をサンプリングした平均体長6.0mmのアルテミアとなった。この時の生残率は、30%であった。密度は1mL中およそ3個体であった。
【0056】
養成開始から7日のアルテミアのα-アミノ-n-ブチル酸(ABA)濃度、シスチン(Cys)濃度をそれぞれ測定した。フードプロセッサーで均一化した試料を耐圧容器に採取し、10倍量の20%塩酸を加え、減圧脱気後、110℃24時間加水分解を行った。加水分解後、窒素気流下で80℃に加温して塩酸を除去後、クエン酸リチウム緩衝液(pH 2.2)で容器を洗浄しながら試料をメスフラスコに回収し、クエン酸リチウム緩衝液(pH 2.2)で定容した。定容後の試料溶液を0.45μm及び0.2μmのフィルターでろ過したものを分析試料とし、自動アミノ酸分析計(日立高速アミノ酸分析計、L-8900)でアミノ酸組成を分析した。
アルテミアの個体重量当たり、ABA濃度は0.047g/100gであり、Cys濃度は0.111g/100gであった。これは、後述する比較例1によるアルテミアの場合、それぞれABAが0.004g/100g、Cysが0.004g/100gのため、大きく上昇していることが確認された。
【0057】
[比較例1]前述した養成装置を使用して、実施例1に準じて、養成水供給を停止した状態で養成を行った。養成は、10日間行った。
【0058】
[養成試験結果]
養成開始から7日で、10個体をサンプリングした平均体長2.5mmのアルテミアとなった。この時の生残率は、50%であった。
養成開始から10日目で、生残率は、0%となった。
【0059】
以上のように本発明に係る実施例の養成を行ったアルテミアは、従来のように養成水の供給を行わない養成と比較して、特にアルテミアが大型化したときの体長や生残率が優れたものであった。また本発明によるアルテミアは餌料変更による影響を反映させたアルテミアとなり、これは稚魚等の餌料として優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る養成方法によれば、稚魚の養殖等に利用されるアルテミアを効率よく安定して製造することができる。また、本発明に係る養成装置はこの養成方法の実施に適した装置である。また、これらにより養成されるアルテミアは、従来よりも大型のアルテミアとすることができ、生物餌料として優れたものであり産業上有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 飼育液
10 アルテミア
11 頭部先端
12 尾先端
100、101 養成装置
20、21 養成槽
211 内部配管
31 養成水タンク
32 養成水
33 養成水送液ポンプ
41、42 フィルタ
5 通気ポンプ