(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】集束イオンビーム加工装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20230925BHJP
【FI】
H01J37/317 D
(21)【出願番号】P 2020050997
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 安彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 良知
(72)【発明者】
【氏名】永原 幸児
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特許第3531323(JP,B2)
【文献】特開平09-162098(JP,A)
【文献】特開2008-053002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0264477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、
試料を保持する試料ステージと、
イオン源から放出されるイオンを集束イオンビームに集束する集束レンズと、
前記集束レンズで集束された前記集束イオンビームの一部をマスクし、前記試料を所望の形状に加工するための少なくとも一辺が直線状のスリットを有するアパーチャと、
前記アパーチャと前記試料台との間のビーム経路に配置され、前記アパーチャを通過した前記集束イオンビームを、該アパーチャを光源として前記試料の所定位置に合焦させる投射レンズと、
を有し、前記試料に対して前記集束イオンビームの照射方向に平行な断面を加工する集束イオンビーム加工装置であって、
ケーラー照明法により、前記投射レンズの主面に前記集束イオンビームが合焦するときの前記集束レンズの印加電圧を100としたとき、前記集束レンズの前記印加電圧が100未満、80以上に設定され、
前記アパーチャの前記一辺を、前記集束イオンビームの中心より前記一辺が0μmより大きく、500μm以下の距離で該集束イオンビーム
の中心が前記アパーチャにマスクされるよう、前記アパーチャの位置が設定され、
前記投射レンズの印加電圧は前記アパーチャの前記スリットによる像を前記試料表面に合焦させる印加電圧に設定され、
前記集束イオンビームは走査されずに、前記スリットの形状に成形された前記集束イオンビームが前記試料表面に一度に照射され、該スリットの形状が前記試料に転写される転写モードをなすことを特徴とする集束イオンビーム加工装置。
【請求項2】
前記投射レンズの印加電圧を調整することにより前記集束イオンビームのビームサイズを調整可能である請求項1に記載の集束イオンビーム加工装置。
【請求項3】
前記アパーチャの前記スリットは矩形状である請求項1又は2に記載の集束イオンビーム加工装置。
【請求項4】
前記イオン源はプラズマイオン源である請求項1~3のいずれか一項に記載の集束イオンビーム加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の断面加工を行う集束イオンビーム加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集束イオンビーム加工装置で試料の断面加工を行い、この断面の観察が行われている。
断面加工は、
図12に示すようにして行われる。まず、試料200の表面200aに直交するようにして集束イオンビーム20Aを照射する。そして、集束イオンビーム20Aの照射位置を走査し、試料200の表面200aに直交する(集束イオンビーム20Aの照射方向に平行な)断面200cを掘り下げていく。
但し、断面加工後に断面200cを観察すSEM鏡筒の電子ビーム10Aは、集束イオンビーム20Aと角度を持っているため、断面200cから離れたところは断面近傍のように深く穴掘りする必要はない。そこで、エッチングに掛かる時間を短縮させて作業効率を向上させるため、断面200cの底面から所定の角度θ(例えば54度)で表面200a側に立ち上がるスロープ(傾斜)面状に加工する。従来の技術では、現実的な加工時間を考慮すると、断面のサイズは数十μm、広くても100μm以下である。
【0003】
ところで、近年、半導体デバイスや鉱物等の試料において、100μm以上の断面加工をしたいという要望があり、エッチング時間を短縮する観点からは集束イオンビームをなるべく大電流で照射する必要がある。
そこで、集束イオンビームとして、Gaの金属イオンビームに代えて、プラズマからXeイオンを引き出して集束イオンビームとすることで、Gaイオンビームより大電流でビームを試料に照射できる。
そして、このような大電流の集束イオンビームを、集束モードにより試料に照射して加工する。具体的には、集束モードは、集束レンズと対物レンズの間でビームがクロスしないほぼ平行な軌道とし、集束レンズと対物レンズの間に設置した丸穴のアパーチャでビームの角度広がりを調整して最適なビーム形状とする。このようにして得られるビームをビーム偏向器で走査させることで所望の位置の断面を作製することができる。
【0004】
しかしながら、上記集束モードの場合、大電流ではビーム径が大きくなるため、断面のサンプル上面付近にダレが発生したり、デバイスなどのスパッタリングイールドが異なる物質が含まれるサンプルでは加工筋やステップが残るという問題がある。又、このダレや加工筋を低減するために小電流のビームで仕上げ加工を行うと、結局加工に要する総時間が長くなり、作業効率が低下することになる。特に大電流ビームが要求される断面の深さ(長さ)が大きい場合、小電流ビームでの仕上げ加工にはより多くの時間を要する。
【0005】
一方、FIB鏡筒の集束レンズと対物レンズの間のビーム経路に矩形などの丸穴以外のスリットを有するアパーチャを配置し、そのスリットで集束イオンビームの一部をマスクすることで、スリット形状に成形したビームを照射する転写モードがある。ここで転写モードの場合、対物レンズを投射レンズと呼ぶ。
転写モードは、アパーチャでマスクされた集束イオンビームを用いるので、集束モードよりは加工後の断面をシャープにすることができるという特徴がある。
【0006】
転写モードを用いる技術としては、アパーチャでスリット状に成形したビームを用いて試料を断面加工する技術が開発されている(特許文献1)。
【0007】
特許文献1の技術では、
図13に示すようにしてスロープ200sを持つ断面試料を作製する。つまり、幅の狭い短冊形状のスリット500sを持つアパーチャ500を用い、断面200c側から最も遠い位置に対して、スリット500sを通過させた集束イオンビーム20Aの照射を行い、深さD1の浅い穴をエッチング加工する。次に、イオンビームの照射領域を断面200c側に順次移動させ、エッチング時間を長くしてより深いエッチング加工を実行する。このようにして、徐々に深い穴加工を施し、最後に断面200cを形成するための最も深い深さD2のエッチング加工を行い、
図13の最終形態の断面が得られる。
【0008】
又、転写モードにおいて、試料面に到達するビームは光学軸上が最も歪みが小さく、光学軸から離れるにしたがって像分解能が悪化する。
そこで、試料の断面を形成するマスクの一辺を、イオンビームの光学軸に合わせた技術が開発されている(特許文献2)。
これにより、試料の断面をシャープに加工することができるとされる。
【0009】
なお、転写モードとは異なり、投射レンズを用いないものの、マスクの開口を利用して整形したビームスポット、を試料の断面加工に利用する技術も開発されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5247761号公報(
図1、
図9、段落0025)
【文献】特許第3531323号公報
【文献】特許第5048919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、転写モードを用いる場合、イオンビームの一部がアパーチャ500でマスクされてエッチングに利用されないため、一般に作業効率が低いという問題がある。
又、特許文献1の技術の場合、
図13に示したように、アパーチャー500でマスクした短冊状のイオンビームを用いて複数回のエッチング作業をそれぞれエッチング時間を変化させて行う必要があり、この点でも作業効率が低くなる。
【0012】
又、特許文献2の技術の場合、転写モードでマスクして得られた整形ビームの電流分布が一様(
図6のハッチングR1)であり、試料表面から一様の深さに矩形状にエッチングされてしまう。一方、
図12に示したように、必要とする断面は、断面200cに繋がるスロープ200s状であり、スロープ200sよりも深く無駄に掘るので作業効率が低下する。
さらに、無駄にエッチングした部位のスパッタ生成物が断面に付着するので、シャープな断面を得るための仕上げ加工の量が増加することによっても作業効率が低下する。
【0013】
又、特許文献3の技術の場合、マスクと試料の間に、マスクの開口の形状を試料に向けて射影する投射レンズが用いられていないため、ビーム形状は最大で数μmと小さく、一括で断面加工できる大きさの整形ビームを生成することができない。
【0014】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、集束イオンビームによる断面加工を行う際、断面形状を改善させるとともに、作業効率を向上させた集束イオンビーム加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の集束イオンビーム加工装置は、イオン源と、試料を保持する試料ステージと、イオン源から放出されるイオンを集束イオンビームに集束する集束レンズと、前記集束レンズで集束された前記集束イオンビームの一部をマスクし、前記試料を所望の形状に加工するための少なくとも一辺が直線状のスリットを有するアパーチャと、前記アパーチャと前記試料台との間のビーム経路に配置され、前記アパーチャを通過した前記集束イオンビームを、該アパーチャを光源として前記試料の所定位置に合焦させる投射レンズと、を有し、前記試料に対して前記集束イオンビームの照射方向に平行な断面を加工する集束イオンビーム加工装置であって、ケーラー照明法により、前記投射レンズの主面に前記集束イオンビームが合焦するときの前記集束レンズの印加電圧を100としたとき、前記集束レンズの前記印加電圧が100未満、80以上に設定され、前記アパーチャの前記一辺を、前記集束イオンビームの中心より前記一辺が0μmより大きく、500μm以下の距離で該集束イオンビームの中心が前記アパーチャにマスクされるよう、前記アパーチャの位置が設定され、前記投射レンズの印加電圧は前記アパーチャの前記スリットによる像を前記試料表面に合焦させる印加電圧に設定され、前記集束イオンビームは走査されずに、前記スリットの形状に成形された前記集束イオンビームが前記試料表面に一度に照射され、該スリットの形状が前記試料に転写される転写モードをなすことを特徴とする。
【0016】
この集束イオンビーム加工装置によれば、集束レンズに印加する電圧の絶対値を小さくするので、試料の中心近傍にプローブ電流が集中する。これにより、集束イオンビームの中心にピークを持ち、中心から離れるにしたがって漸減する電流密度分布のプローブ電流にて試料をエッチングするため、電流密度が高い中心が最も深い形状で掘られる。
一方、必要とする試料断面は、試料表面から垂直に彫られた断面と、断面に繋がるスロープを持つ略V字形状である。そこで、上述の電流密度分布のプローブ電流で試料をエッチングすれば、断面と断面に繋がるスロープによる略V字状に近い輪郭で試料がエッチングされるので、断面加工においてイオンビームを無駄なくエッチングに利用できる。さらに、最も深くエッチングが必要な断面の部分にプローブ電流のピークを合わせれば、追加のエッチングをしなくても断面を深くエッチングできる。これらにより、作業効率が向上する。
又、エッチングにより発生したスパッタ生成物は観察対象となる断面に付着するが、不要な領域のエッチングを少なくできるので、断面へのスパッタ生成物の付着を低減し、作業効率をより一層向上させることができる。
【0017】
又、少なくとも一辺が直線状のスリットを有するアパーチャを用い、この一辺を集束イオンビームの中心からわずかにずらして配置する。
このようにすると、上述のプローブ電流分布のうち、中心より略半分がマスクされ、中心より反対側の略半分のみがプローブ電流として作用する。
その結果、上述のように略V字形状の断面の輪郭に近いプローブ電流分布となるので、イオンビームを無駄なくエッチングに利用できる。
又、このように、アパーチャを通ったプローブ電流は、略V字形状の断面の輪郭に近いエッチングを行うので、集束イオンビームを走査せずに、アパーチャを用いて一度に試料の断面加工の形状を作り込むことができ、作業効率がさらに向上する。
さらに、断面は、アパーチャのスリットのうち直線状の一辺でイオンビームをマスクしてエッチングするので、断面にダレ(ステップ)が生じにくく、断面形状を改善させることができる。
【0018】
本発明の集束イオンビーム加工装置において、前記投射レンズの印加電圧を調整することにより前記集束イオンビームのビームサイズを調整可能としてもよい。
転写モードは集束イオンビームの形状がスリットの形状を反映し、スリット形状を転写する投影倍率はアパーチャ、投射レンズ、及び試料のジオメトリによって一意に決まる。従って、試料の断面加工にて断面の長さを変えるには、アパーチャの形状を変える必要がある。しかしながら、例えば現状のスリットより大きな(例えば10%大きい)断面を作りたい場合に、スリット寸法が大きな別のアパーチャや、1つのアパーチャにさらに別のスリットを設けると作業効率や装置スペース上問題がある。
そこで、投射レンズの印加電圧を変えると、投影倍率が変化するので、断面の長さを容易に変更することができる。
なお、投射レンズの印加電圧を変えるとビームが歪むので、スリット形状を正確に転写する目的には難があるが、断面を形成する際にはビームのエッジがまっすぐであれば問題がない。
又、「断面の長さ」とは、試料の表面と断面との交線(稜線)の長さである。
【0019】
本発明の集束イオンビーム加工装置において、前記アパーチャの前記スリットは矩形状であってもよい。
この集束イオンビーム加工装置によれば、試料に矩形状のエッチングを施して、適切な断面を得ることができる。
【0020】
本発明の集束イオンビーム加工装置において、前記イオン源はプラズマイオン源であってもよい。
この集束イオンビーム加工装置によれば、Ga等のイオン源に比べて大電流のイオンビームが得られるので作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、集束イオンビームによる断面加工を行う際、断面形状を改善させるとともに、作業効率を向上させた集束イオンビーム加工装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る集束イオンビーム加工装置の全体構成を示す図である。
【
図3】FIB鏡筒における集束レンズ、アパーチャ及び投射レンズの構成を示す図である。
【
図4】集束レンズ22の印加電圧と、集束イオンビームの軌道との関係を示す図である。
【
図5】
図4の各軌道におけるプローブ電流の試料の平面方向の分布を示す図である。
【
図6】
図4の各プローブ電流による試料のエッチング深さを示す図である。
【
図7】一辺が直線状のスリットを有するアパーチャを示す図である。
【
図8】アパーチャの一辺を集束イオンビームの中心一致させたときの、プローブ電流と、それによる試料のエッチング深さを示す図である。
【
図9】アパーチャの一辺の位置の変化による、集束イオンビームの軌道を示す図である。
【
図10】
図9の各軌道におけるプローブ電流の試料の平面方向の分布を示す図である。
【
図11】
図9の各軌道における、試料の断面エッチング後の最終形態の平面輪郭を示す図である。
【
図12】集束イオンビームにより断面加工される試料の形状を示す図である。
【
図13】アパーチャを用いて
図12の試料を断面加工する従来の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る集束イオンビーム加工装置100の全体構成を示すブロック図である。
図1において、集束イオンビーム加工装置100は、電子ビーム鏡筒(SEM鏡筒)10と、集束イオンビーム鏡筒(FIB鏡筒)20と、二次電子検出器4、5と、制御手段6と、表示部7と、入力手段8と、試料ステージ50と、を備え、試料ステージ50上に配置した試料200を集束イオンビームにより加工して、SEMにより観察することができる。
なお、
図1において、FIB鏡筒20が垂直になるよう配置され、SEM鏡筒10は垂直から所定角度で斜めに配置されているが、これに限られない。
集束イオンビーム加工装置100の各構成部分の一部又は全部は真空室40内に配置され、真空室40内は所定の真空度まで減圧されている。
【0024】
上述のように、試料ステージ50上には試料200が載置されている。そして、試料ステージ50は、試料200を5軸で変位させることができる移動機構を有している。
【0025】
制御手段6は、中央演算処理装置としてのCPUと、データやプログラムなどを格納する記憶部(RAMおよびROM)と、外部機器との間で信号の入出力を行う入力ポートおよび出力ポートとを備えるコンピュータで構成することができる。制御手段6は、記憶部に格納されたプログラムに基づいてCPUが各種演算処理を実行し、集束イオンビーム加工装置100の各構成部分を制御する。そして、制御手段6は、電子ビーム鏡筒10、集束イオンビーム鏡筒20、二次電子検出器4、5、及び試料ステージ50の制御配線等と電気的に接続されている。
また制御手段6は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ50を駆動し、試料200の位置や姿勢を調整して試料200表面への電子ビーム10A、イオンビーム20Aの照射位置や照射角度を調整できるようになっている。
なお、制御手段6には、オペレータの入力指示を取得するキーボード等の入力手段8と、試料の画像等を表示する表示部7とが接続されている。
【0026】
SEM鏡筒10は、図示はしないが、電子を放出する電子源と、電子源から放出された電子をビーム状に成形するとともに走査する電子光学系とを備えている。電子ビーム鏡筒10から射出される電子ビーム10Aを試料200に照射することによって、試料200からは二次電子が発生する。この発生した二次電子を、鏡筒内の二次電子検出器5、又は鏡筒外の二次電子検出器4で検出して試料200の像を取得することができる。又、鏡筒内の反射電子検出器で反射電子を検出して試料200の像を取得することができる。
電子光学系は、例えば、電子ビーム10Aを集束するコンデンサーレンズと、電子ビーム10Aを絞り込む絞りと、電子ビーム10Aの光軸を調整するアライナと、電子ビーム10Aを試料200に対して集束する対物レンズと、試料200上で電子ビーム10Aを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0027】
FIB鏡筒20は、後述するように、イオンを発生させるイオン源と、イオン源から放出したイオンを集束イオンビームに成形するとともに走査させるイオン光学系とを備えている。FIB鏡筒20から荷電粒子ビームである集束イオンビーム20Aを、試料200に照射してエッチング加工することで、試料200の断面200c(
図12参照)を加工する。
【0028】
図2に示すように、FIB鏡筒20は、イオン源21側から対物レンズ28に向かって以下の順に、イオンを発生させるイオン源21と、イオン源から放出したイオンを集束イオンビーム20Aに集束する集束レンズ22と、イオンビームをオン/オフするブランカ23と、アパーチャ(可動絞り)24と、アライメント25と、スティグメータ26と、走査電極27と、集束イオンビーム20Aを試料200の所定位置に合焦させる対物レンズ28と、を備える。又、対物レンズ28の周囲には、二次電子検出器29aとガス銃29bが配置されている。
アライメント25は、イオンビームが対物レンズ28の中心軸を通過するようにビームの軌道を調整する。スティグメータ26、走査電極27は、それぞれ非点収差補正する機能、ビームを試料上で走査する機能を有する。
ブランカ23と走査電極27は偏向器をなす。
【0029】
図7に示すように、アパーチャ24は、集束レンズ22で集束された集束イオンビーム20Aの一部をマスクし、試料200を所望の形状に加工するための少なくとも一辺24tが直線状のスリット24sを有する。本願発明は、スリット24sによりイオンビームの一部をマスクしてスリット形状に成形したビームを照射する転写モードを採用する。
なお、
図7に示すように、集束モードによりイオンビームを走査することによっても試料の観察、加工ができるように、アパーチャ24は集束モード用の丸穴24hも有する。丸穴24hは、イオンビームの角度広がりを調整するものであり、アパーチャ24を図示しない駆動部にてアパーチャ平面内を移動させることにより所望のスリット24s又は丸穴24hを選択し、転写モードと集束モードとを切り替えできる。
【0030】
図3は、FIB鏡筒20における集束レンズ22、アパーチャ24及び投射(対物)
レンズ28を示す。
集束レンズ22は、2つのレンズ22a、22bからなり、これにより、アパーチャ24のスリット24sを通過するプローブ電流を調整することが可能である。プローブ電流を増やすとアパーチャ24を通過するビームの開き角が大きくなるため収差が大きくなり、鋭いビーム形状が得られない事がある。そこで、所望のビーム形状に応じて最適なスリット24sの寸法が設定される。
なお、
図3では集束レンズは22a、22bの2段からなるが、これに限らず一段でも構わない。
集束レンズ22及び投射レンズ28は静電レンズからなる。
なお、転写モードを採用する場合、アパーチャ24の投影倍率はアパーチャ24と投射レンズ28と試料200との距離の関係で決まる。
【0031】
そして、本発明で用いる転写モードでは、集束レンズ22により投射レンズ28主面にビームが集束(合焦)するように集束レンズ22の電圧を設定する。集束レンズ22と投射レンズ28の間に上述のアパーチャ24が設置され、アパーチャ24のスリット24sの開口形状が試料200上に転写されるように投射レンズ28の電圧が決定される。
これにより、
図3のアパーチャ20から試料200に向かう軌道(太い実線で図示)のように、開口形に成形されたビームが試料上に照射され、アパーチャ形状が試料に転写される。
ここで、転写モードでは、アパーチャ24の開口形状を試料200に投射するため、アパーチャ24のスリット24sを光源として投射レンズ28で試料200に光源を結像する必要がある。したがって、投射レンズ28の印加電圧は幾何的に一意に決まる。
【0032】
次に、
図4~
図11を参照し、本発明の特徴部分について説明する。
ここで、集束レンズ22に印加する電圧の絶対値を小さくする度合として、ケーラー照明法により、投射レンズ28の主面に集束イオンビーム20Aが合焦するときの集束レンズ22に印加する電圧を100としたとき、集束レンズ22の印加電圧が100未満、80以上に設定される。なお、アパーチャ24は、ケーラー照明法における「視野絞り」に相当する。
【0033】
そして、
図4において、ケーラー照明法による上記条件にて、集束レンズ22の印加電圧が100のときのイオンビームの軌道LAに対し、それぞれ印加電圧が89、85のときのイオンビームの軌道LB、LCは、LAよりも試料200の中心により集中している。
又、
図5において、軌道LAにおけるプローブ電流は試料200の表面の中心Oから半径方向(面方向外側)に向かい、一様(矩形)である。
一方、軌道LB、LCにおけるプローブ電流は試料200の表面の中心Oが最も強く、半径方向(面方向外側)に向かい低下している。
以上から、集束レンズ22の印加電圧を100未満、80以上に設定した。
【0034】
以上のように、集束レンズ22に印加する電圧の絶対値を小さくして試料200の中心近傍にプローブ電流を集中させることにより、断面試料を作製する際、作業効率を向上させることができる。
つまり、
図6に示すように、集束レンズ22の印加電圧が100の軌道LAにおけるプローブ電流は一様(矩形)であるので、この軌道LAのプローブ電流にて試料200をエッチングすると、矩形状を反転させた一様の深さに掘られる。
【0035】
これに対し、
図12に示したように、必要とする断面試料は、試料表面から垂直に彫られた断面200cと、断面200cに繋がるスロープ200sを持つ形状であり、一様の深さにエッチングすると、
図6のハッチングR1で示したようにスロープ200sよりも深く掘ることになり、R1の部位のエッチングが無駄になって作業効率が低下する。一方で、一様の深さにエッチングすると、断面200cの部分ではエッチングが不足し追加のエッチング時間を要するので、この点でも作業効率が低下する。
【0036】
そこで、軌道LBの中心Oにピークを持ち、中心から離れるにしたがって漸減する電流密度分布のプローブ電流にて試料200をエッチングすると、電流密度が高い中心Oが最も深い形状で掘られる。
その結果、断面200cと断面200cに繋がる略V字状に近い輪郭で試料200がエッチングされるので、イオンビームを無駄なくエッチングに利用できる。さらに、最も深くエッチングが必要な断面200cの部分にプローブ電流のピークを合わせれば、追加のエッチングをしなくても断面200cを深くエッチングできる。
これらにより、作業効率が向上する。
又、エッチングにより発生したスパッタ生成物は観察対象となる断面に付着するが、不要な領域のエッチングを少なくできるので、断面へのスパッタ生成物の付着を低減し、作業効率をより一層向上させることができる。
【0037】
又、
図7に示すように、本発明においては、少なくとも一辺24tが直線状(
図6では全体として矩形状)のスリット24sを有するアパーチャ24を用いる。そして、
図8に示すように、アパーチャ24の一辺を集束イオンビーム20Aの中心Oと略一致させる。
つまり、
図8において、イオンビームの軌道LBにおけるプローブ電流は、中心Oで電流密度が大きく、中心から離れるにしたがって漸減する分布であるため、この軌道LBのプローブ電流にて試料200をエッチングすると、電流密度分布を反転させた中心Oが最も深い形状で掘られる。
【0038】
これに対し、
図12に示したように、必要とする試料断面は、試料表面から垂直に彫られた断面200cと、断面200cに繋がるスロープ200sを持つ形状である。そこで、アパーチャ24の一辺14tを集束イオンビーム20Aの中心Oと一致させると、軌道LBにおけるプローブ電流分布のうち、中心Oより半分(
図8の左側)がマスクされ、中心Oより反対側の半分のみがプローブ電流LMとして作用する。
その結果、断面200cと断面200cに繋がる略V字状の試料200がエッチングされ、これは断面200c及びスロープ200sの輪郭に近いので、イオンビームを無駄なくエッチングに利用できる。
【0039】
又、このように、アパーチャ24を通ったプローブ電流は、断面200c及びスロープ200sの輪郭に近いエッチングを行うので、集束イオンビームを走査せずに、アパーチャ24を用いて一括で試料200の断面加工の形状を作り込むことができ、作業効率がさらに向上する。
さらに、断面200cは、アパーチャ24のスリット24sのうち直線状の一辺24tでイオンビームをマスクしてエッチングするので、断面にダレ(ステップ)が生じにくく、断面形状を改善させることができる。
【0040】
図9は、アパーチャ24の一辺24tの位置の変化による、集束イオンビーム20Aの軌道LD~LFを示す。
アパーチャ24のスリット24sの中心を集束イオンビーム20Aの中心Oに合わせた軌道をLDとし、アパーチャ24の一辺14tを集束イオンビーム20Aの中心Oに合わせた軌道をLEとする。又、アパーチャ24の一辺14tを集束イオンビーム20Aの中心Oよりも内側に合わせた(つまり、集束イオンビーム20Aの中心Oが一辺24tよりもアパーチャ24にマスクされる位置とした)軌道をLFとする。
ここで、軌道LFにおいて、集束イオンビーム20Aの中心Oが一辺24tよりもアパーチャ24にマスクされる幅(距離)をSとする。
【0041】
図10に示すように、アパーチャ24の一辺14tが集束イオンビーム20Aの中心Oら離れた軌道LDにおけるプローブ電流は、中心Oが最も高いピークとなっている。
これに対し、アパーチャ24の一辺を集束イオンビーム20Aの中心Oと略一致させた軌道LE,LFにおけるプローブ電流は、模式
図8で示したように、中心Oから右半分のみの形状となっているとともに、中心Oよりも右半分で半径方向外側に軌道LDよりも広がっている。
これにより、アパーチャ24の一辺24tを集束イオンビーム20Aの中心Oと略一致させることで、断面にダレ(ステップ)が生じにくく、断面形状を改善させるとともに、プローブ電流がスロープ200sの輪郭に近くなって、イオンビームを無駄なくエッチングに利用できることがわかる。
【0042】
図11は、各軌道LD~LFにおける、試料200の断面エッチング後の最終形態の平面輪郭(集束イオンビームの照射方向から見た試料200のエッチング凹部の平面形状)である。
理想的な光学系では、アパーチャ24の一辺24tを集束イオンビーム20Aの中心Oと一致させた軌道LEでは、一辺24tに沿って断面200cの照射部位に直線ビーム形状が得られる。しかし、通常は理想的な条件にはならず、
図11に示すように集束イオンビーム20Aの中心Oが一辺24tよりもアパーチャ24にマスクされるように設定する軌道LFの方が、一辺24tに沿った断面200cの照射部位(
図11の破線LFのX方向に沿う直線部分)において直線ビーム形状が得られる傾向にある。
そこで、集束イオンビーム20Aの中心Oが一辺24tよりも500μm以下の距離でアパーチャ24にマスクされるよう(つまり、
図9の距離S<500μmとなるよう)、アパーチャ24の位置を設定するとよい。
ここで、
図12に示すように、試料200の表面200aと断面200cとの交線(稜線)200dの長さは10μm以上1mm以下であると好ましい。この稜線200dの長さを作成するために、アパーチャ24の一辺24tの長さは、アパーチャ24の投影倍率によっても変わるが、通常1μm以上、1mmである。
【0043】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
本発明の集束イオンビーム加工装置は、少なくとも集束イオンビーム鏡筒を備えていればよく、電子ビーム鏡筒は必須の構成ではない。
【0044】
本発明の集束イオンビーム加工装置において、投射レンズの印加電圧を調整することにより集束イオンビームのビームサイズを調整可能としてもよい。
転写モードは集束イオンビームの形状がスリットの形状を反映し、スリット形状を転写する投影倍率はアパーチャ、投射レンズ、及び試料のジオメトリによって一意に決まる。従って、試料の断面加工にて断面の長さを変えるには、アパーチャの形状を変える必要がある。しかしながら、例えば現状のスリットより大きな(例えば10%大きい)断面を作りたい場合に、スリット寸法が大きな別のアパーチャや、1つのアパーチャにさらに別のスリットを設けると作業効率や装置スペース上問題がある。
そこで、投射レンズの印加電圧を変えると、投影倍率が変化するので、断面の長さを容易に変更することができる。
なお、投射レンズの印加電圧を変えるとビームが歪むので、スリット形状を正確に転写する目的には難があるが、断面を形成する際にはビームのエッジがまっすぐであれば問題がない。
【0045】
又、イオン源がプラズマイオン源であると、Ga等のイオン源に比べて大電流のイオンビームが得られるので作業効率が向上する。
【符号の説明】
【0046】
20 集束イオンビーム鏡筒
20A 集束イオンビーム
21 イオン源
22 集束レンズ
24 アパーチャ
24s スリットを有する
24t スリットの直線状の一辺
28 投射レンズ
50 試料ステージ
100 集束イオンビーム加工装置
200 試料
200c 試料の断面
S 集束イオンビームの中心が一辺よりもアパーチャにマスクされる距離