(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】二色成形用樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230925BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20230925BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20230925BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230925BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230925BHJP
B29C 45/16 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L23/02
C08L51/06
C08L69/00
C08K3/013
B29C45/16
(21)【出願番号】P 2021132253
(22)【出願日】2021-08-16
【審査請求日】2022-08-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅井 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022208(WO,A1)
【文献】特開2014-009326(JP,A)
【文献】特開2011-245633(JP,A)
【文献】特開2009-096892(JP,A)
【文献】特開2005-220238(JP,A)
【文献】特開2020-040401(JP,A)
【文献】国際公開第2000/078867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08L 23/02
C08L 51/06
C08L 69/00
C08K 3/013
B29C 45/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)オレフィン系共重合体と、を含み、
(B)オレフィン系共重合体が、
(B1)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル単量体単位とを含む共重合体;及び
(B2)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位とを含む共重合体を主鎖として含み、及び、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含む重合体を側鎖として含むグラフト共重合体;
から選択される1以上を含み、
(B)オレフィン系共重合体の含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し
11~35質量部であり、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が、樹脂成分全体に対して75質量%以上である、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)オレフィン系共重合体と、を含み、
(B)オレフィン系共重合体が、
(B1)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル単量体単位とを含む共重合体;及び
(B2)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位とを含む共重合体を主鎖として含み、及び、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含む重合体を側鎖として含むグラフト共重合体;
から選択される1以上を含み、
(B)オレフィン系共重合体の含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し
11~35質量部であり、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が、樹脂成分全体に対して50質量%以上であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂がホモポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1~90質量部の(C)ポリカーボネート樹脂をさらに含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(B1)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル単量体単位とを含む共重合体中のグリシジルエステル単量体単位の含有量が、2~15質量%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の、o-クロロフェノール中、温度35℃で測定した固有粘度が0.65~1.15dL/gである、請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0~80質量部の(D)無機充填剤をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
溶融粘度が0.6KPa・s以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂を含む部分と、請求項1から7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む部分とを有し、ポリカーボネート樹脂を含む部分と前記樹脂組成物を含む部分とが少なくとも一部で接して一体化されている、成形品。
【請求項9】
自動車部品である、請求項8に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二色成形用樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
二色成形(Double molding)は、材質や色が異なる複数の樹脂が一体化された成形品を少ない工程で得ることができる射出成形方法であり、それぞれの樹脂の成形品を作製した後にネジ止め、溶着、又は接着させる方法よりも、工程を簡略化できる点で優れた方法である。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、電気的性質、並びにその他の物理的特性及び化学的特性に優れ、かつ加工性が良好である。そのため、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして自動車用部品、電気・電子部品などの広汎な用途に使用されている。自動車部品には多様な特性が求められていることから、部品毎に適した樹脂が使用されており、複数種類の樹脂を組み合わせたモジュールとして使用されることも多い。
特許文献1には、耐アルカリ性に加え、ポリカーボネート樹脂成形品との二重成形品における接合強度にも優れる成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
母材(二色成形品を構成する各樹脂組成物)の成形品の強度が優れている場合であっても、組成が異なる樹脂との二色成形品とした場合は湿熱環境下(つまり、高温多湿の環境下)での使用により強度が低下してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形品の強度低下を抑制することができる二色成形用樹脂組成物及びその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)オレフィン系共重合体と、を含み、
(B)オレフィン系共重合体が、
(B1)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル単量体単位とを含む共重合体;及び
(B2)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位とを含む共重合体を主鎖として含み、及び、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含む重合体を側鎖として含むグラフト共重合体;
から選択される1以上を含み、
(B)オレフィン系共重合体の含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し2~35質量部である、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形用樹脂組成物。
[2](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1~90質量部の(C)ポリカーボネート樹脂をさらに含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3](B1)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル単量体単位とを含む共重合体中のグリシジルエステル単量体単位の含有量が、2~15質量%である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の、o-クロロフェノール中、温度35℃で測定した固有粘度が0.65~1.15dL/gである、[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0~80質量部の(D)無機充填剤をさらに含む、[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]溶融粘度が0.6KPa・s以下である、[1]から[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]ポリカーボネート樹脂を含む部分と、[1]から[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む部分とを有し、ポリカーボネート樹脂を含む部分と前記樹脂組成物を含む部分とが少なくとも一部で接して一体化されている、成形品。
[8]自動車部品である、[7]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形品の強度低下を抑制することができる二色成形用樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例及び比較例の二色成形品の評価に使用した試験片の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
[二色成形用樹脂組成物]
本実施形態に係る二色成形用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形用樹脂組成物であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)オレフィン系共重合体と、を含む。
「ポリカーボネート樹脂部材」は、ポリカーボネート樹脂を含む一次成形品である。ポリカーボネート樹脂部材は、ポリカーボネート樹脂を50質量%以上含むことが好ましい。ポリカーボネート樹脂部材の形状及び大きさは限定されない。例えば、一次成形品の形状は、板状、柱状、又は球状であり得る。
「二色成形用」とは、二色成形法による射出成形により成形品を製造するために用いられることを意味している。
【0011】
((A)ポリブチレンテレフタレート樹脂)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、二色成形品の第1の母材である。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも、炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0012】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、コモノマー成分としてテレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0013】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0014】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0016】
以上説明したコモノマー成分を共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体は、いずれも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂として好適に使用できる。また、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂として、ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体とを組み合わせて使用してもよい。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、成形性を向上させる観点から、0.65~1.15dL/gであることが好ましく、0.67~1.00であることがより好ましい。異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、ウベローデ型粘度計を用いて、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定した値とする。
【0018】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本実施形態において用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、5meq/kg以上30meq/kg以下が好ましく、10meq/kg以上25meq/kg以下がより好ましい。かかる範囲の末端カルボキルシル基量のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることで、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が湿熱環境下での強度低下をより抑制することができる。
【0019】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、二色成形品においてポリブチレンテレフタレート樹脂が有する機械的性質及び化学的特性等をより発現する観点から、樹脂成分全体に対して50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。
【0020】
((B)オレフィン系共重合体)
樹脂組成物は、所定の構造を有する(B)オレフィン系共重合体を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し2~35質量部含む。
本発明者の研究により、驚くべきことに、所定の構造を有する所定量の(B)オレフィン系共重合体を、二色成形品の一方の母材であるポリブチレンテレフタレート樹脂に添加することで、二色成形品の湿熱処理後の強度の低下を抑制できることが分かった。
【0021】
(B)オレフィン系共重合体は、
(B1)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル単量体単位とを含む共重合体(以下、「共重合体B1」ともいう。);及び
(B2)α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位とを含む共重合体を含む主鎖、及び、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含む共重合体を含む側鎖、を有するグラフト共重合体(以下、「グラフト共重合体B2]ともいう。);
から選択される1以上を含む。
【0022】
共重合体B1及びグラフト共重合体B2から選択される1以上を含むことで、二色成形品の湿熱処理後の強度の低下を抑制できる。
【0023】
(共重合体B1)
共重合体B1は、共重合成分としてα-オレフィン及びα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを用いた共重合体であり、α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル単量体単位とを含む。
【0024】
α-オレフィンとしては、特に限定されないが、炭素数が1~10の直鎖状又は分岐状α-オレフィンが挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。α-オレフィンは、上記から選択される1以上を用いることができる。中でも、エチレンを含むことが好ましい。
【0025】
α-オレフィン単量体単位の含有量は、共重合体B1に対して50~98質量%であることが好ましく、60~96質量%であることがより好ましく、65~94質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、以下の一般式(I):
(但し、R
1は、水素又は炭素数1以上10以下のアルキル基を示す。)
に示される構造を有するものが挙げられる。
【0027】
上記一般式(I)で示される化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル(GMA)、エチルアクリル酸グリシジルエステル等が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。中でも、メタクリル酸グリシジルエステルを含むことが好ましい。
【0028】
共重合体B1が有するα,β-不飽和酸のグリシジルエステル単量体単位の含有量は、共重合体B1中に2~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、3~12質量%であることがさらに好ましい。
樹脂組成物中のグリシジルエステル単量体単位の含有量の測定方法は、共重合体B1を0.2moL/L塩酸-ジオキサン溶液に溶解あるいは分散させてエチレングリコールモノメチルエーテルを添加した溶液に、滴定液として0.1M水酸化カリウム-エタノール溶液を用い、指示薬として0.1%クレゾールレッド-エタノール溶液を用いて測定し、算出することができる。
【0029】
共重合体B1は、さらに(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含有することができる。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-オクチル)、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチル)等が挙げられる。中でも、アクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、例えば、共重合体B1中0質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0031】
共重合体B1の具体例としては、例えば、エチレンを80~95質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを5~20質量%含む共重合体;エチレンを60~80質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを1~8質量%、及びアクリル酸メチルを15~30質量%含む共重合体;等が挙げられる。
【0032】
共重合体B1は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体B1を得ることができる。共重合体B1の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
本実施形態で用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0033】
(グラフト共重合体B2)
グラフト共重合体B2は、α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位とを含む共重合体を主鎖として含み、及び、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位の共重合体を側鎖として含むグラフト共重合体である。
【0034】
主鎖を構成する共重合体は、α-オレフィン単量体単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位とを含む共重合体であり、ランダム共重合体又はブロック共重合体であることが好ましく、その共重合体を不飽和カルボン酸及びその酸無水物及びそれらの誘導体からなる群より選択される1以上で変性したものであってもよい。
【0035】
α-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。中でも、エチレンが好ましい。α-オレフィンは、上記から選択される1以上を用いることができる。
【0036】
α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-アミル、アクリル酸-n-オクチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-ヘキシル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル)等を用いることができる。
【0037】
変性剤として用いられる不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸メチル、無水メチルマレイン酸、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
主鎖を構成する共重合体の具体例としては、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレンメタクリル酸メチル共重合体等のエチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
なお、後述する比較例に示すように、主鎖を構成する共重合体そのものを(B)オレフィン系共重合体として使用した場合(側鎖を有しない場合)は、二色成形品の湿熱環境下での使用による強度の低下を抑制することができなかった。
【0039】
主鎖を構成する共重合体の含有量は、共重合体B2中、50~90質量%であることが好ましく、65~80質量%であることがより好ましい。
【0040】
主鎖を構成する共重合体の製造方法は、限定されず、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、主鎖を構成する共重合体を得ることができる。
【0041】
側鎖は、α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含み、ランダム共重合体又はブロック共重合体であってもよい。
【0042】
α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-アミル、アクリル酸-n-オクチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-ヘキシル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル)等を用いることができる。
【0043】
これらから選ばれる、組成が異なる2以上のα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位を含むことが好ましい。中でも、アクリル酸エステルから選ばれる1以上と、メタクリル酸エステルから選ばれる1以上と、を用いることが好ましく、アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルとを用いることがより好ましい。
【0044】
側鎖の製造方法は、限定されず従来公知の方法で製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、側鎖を構成する共重合体を得ることができる。
【0045】
グラフト共重合体B2の具体例としては、例えば、エチレンエチルアクリレート共重合体を主鎖として含み、ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体を側鎖として含むグラフト共重合体等が挙げられる。
【0046】
グラフト共重合体B2の製造方法は、連鎖移動法、電離性放射線照射法等などの従来公知の方法で製造することができる。例えば、水中に懸濁させたエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体に、少なくともアクリル酸アルキルエステルを有するビニル系単量体を含むビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物及びラジカル重合開始剤を含浸させ、ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とをエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体中で共重合させて得たグラフト化前駆体を溶融混練することによりグラフト共重合体B2を得てもよい。
【0047】
(B)オレフィン系共重合体の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し2~35質量部であり、好ましくは2.5~33質量部であり、より好ましくは2.8~33質量部であり、さらに好ましくは3~32質量部である。
(B)オレフィン系共重合体の含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して2質量部未満であると、二色成形品を湿熱環境下で使用した場合の強度低下を抑制する効果が十分に得られない。
(B)オレフィン系共重合体の含有量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し35質量部を超えると成形性が低下するため、好ましくない。
【0048】
((C)ポリカーボネート樹脂)
樹脂組成物は、必要に応じて、(C)ポリカーボネート樹脂をさらに含んでいてもよい。(C)ポリカーボネート樹脂を含むことで、ポリカーボネート樹脂部材との初期密着性をより高めることができる。
【0049】
(C)ポリカーボネート樹脂としては、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネート等の炭酸エステルと、の反応により得られる重合体が挙げられる。
【0050】
ジヒドロキシ化合物としては、例えば、脂環族化合物(例えば、脂環式ジオール)及びビスフェノール化合物が挙げられるが、ビスフェノール化合物であることが好ましい。
【0051】
ビスフェノール化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、2,2,2’,2’-テトラヒドロ3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビ-[1H-インデン]-6,6’-ジオールなどのビス(ヒドロキシアリール)C1-10アルカン、好ましくはビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシアリールスルホン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシアリールスルフィド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフォキシド等のジヒドロキシアリールスルフォキシド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルケトン等のジヒドロキシアリールケトンなどが挙げられる。
【0052】
好ましい(C)ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネートが挙げられる。
【0053】
(C)ポリカーボネート樹脂は、ホモポリカーボネートであってもよいし、コポリカーボネートであってもよい。また、ポリカーボネート樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(C)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形時の密着性をより高める観点から、ISO11443に準拠した、300℃、1000sec-1での溶融粘度として、0.40kPa・s以下であることが好ましく、0.35kPa・s以下であることがより好ましく、0.30kPa・s以下であることがさらに好ましい。
なお、溶融粘度は、東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度300℃、せん断速度1000sec-1で測定した値とする。
【0055】
(C)ポリカーボネート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1~90質量部であることが好ましく、1.5~90質量部であることが好ましく、1.5~88質量部であることがより好ましく、1.6~87質量部であることが更に好ましい。(C)ポリカーボネート樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1~90質量部含有することで、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形時の密着性をより向上することができるとともに、二色成形品の湿熱処理後の強度の低下をより抑制することができる。
【0056】
((D)無機充填剤)
樹脂組成物は、必要に応じて、(D)無機充填剤をさらに含んでいてもよい。(D)無機充填剤をさらに含むことで、二色成形品における二色成形用樹脂組成物を含む部分の剛性をより向上させることができる。
【0057】
(D)無機充填剤としては、例えば、繊維状無機充填剤[例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化珪素繊維、ウィスカー(炭化珪素、アルミナ、窒化珪素などのウィスカー)]、板状無機充填剤[例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイトなど]、粉状無機充填剤[例えば、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ミルドファイバー(ガラスなどのミルドファイバー)、ウォラストナイトなど]が挙げられる。これらの無機充填剤のうち、ガラス系無機充填剤(ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズなど)、タルク、マイカ、ウォラストナイトなどが好ましく、中でもガラス繊維は、入手性や強度及び剛性の面から、好適に使用できる。また、板状や粉状の無機充填剤は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形収縮率や線膨張係数の異方性抑制の面から、好適に使用できる。これらの無機充填剤の使用に際しては、必要に応じ公知の表面処理剤を使用することができる。
【0058】
(D)無機充填剤として繊維状充填剤を用いる場合、その形状は特に限定されないが、例えば平均長さは100μm~5mm、より好ましくは200μm~3mm程度とすることができ、平均直径は例えば1~50μm、より好ましくは3~30μm程度とすることができる。板状充填剤又は粉状充填剤を用いる場合、その平均粒子径も特に限定されないが、例えば0.1~100μm、より好ましくは0.1~50μm程度とすることができる。これらの(D)無機充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
「平均長さ」、「平均直径」、及び「平均粒子径」は、樹脂組成物を600℃で2時間加熱し灰化して灰化残渣を得、この灰化残渣をCCDカメラ(例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3)で撮影した画像を解析し、加重平均により算出することができる。
【0059】
(D)無機充填剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、好ましくは0~80質量部であり、より好ましくは0~75質量部であり、さらに好ましくは0~70質量部であり、よりさらに好ましくは1~65質量部である。(D)無機充填剤を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量部に対して80質量部以下含有することで、二色成形品の湿熱処理後の強度低下の抑制効果を維持したまま二色成形品のポリブチレンテレフタレート樹脂を含む部分の機械的特性をより向上させることができる。
一実施形態において、(D)無機充填剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して30~75質量部とすることができ、34.5~72.5質量部とすることができる。
【0060】
(その他の添加剤)
樹脂組成物は、上記以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤、安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤、赤外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、耐加水分解性向上剤、流動性改良剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.1~20質量部とすることができる。
【0061】
樹脂組成物に(C)ポリカーボネート樹脂を添加する場合は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)ポリカーボネート樹脂との間のエステル交換を抑制するために、リン系の安定剤(第一リン酸カルシウム等のリン酸金属塩など)を添加することが好ましい。その他の添加剤の添加量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01~2質量部とすることができる。
【0062】
(樹脂組成物)
本実施形態に係る二色成形用樹脂組成物の溶融粘度は、ISO11443に準拠した、260℃、1000sec-1での溶融粘度として、成形性の観点から、0.6KPa・s以下であることが好ましく、0.5KPa・s以下であることがより好ましい。
なお、溶融粘度は、東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度260℃、せん断速度1000sec-1で測定した値とする。
【0063】
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法で調製することができる。例えば、各成分を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、樹脂組成物の調製が行われる。
【0064】
本実施形態に係る二色成形用樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形品の、湿熱環境下で使用された場合の強度低下を抑制することができる。
一実施形態において、二色成形用樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形品の、湿熱処理後の強度低下を抑制することができる。「湿熱処理」は、温度121℃、湿度100%の環境下で203kPaの水蒸気環境下で24時間処理し、温度23℃、湿度50%の環境下で24時間放置する処理を意味している。
【0065】
二色成形用樹脂組成物は、自動車部品、電気・電子部品等の製造時に使用することができる。特に、二色成形用樹脂組成物は、湿熱環境下で使用された場合の強度低下を抑制することができるので、自動車部品の製造用として好ましく用いることができる。
【0066】
[成形品]
本実施形態に係る成形品は、ポリカーボネート樹脂を含む部分と、上記した(二色成形用)樹脂組成物を含む部分とを有し、ポリカーボネート樹脂を含む部分と前記樹脂組成物を含む部分とは少なくとも一部で接して一体化されている。二色成形用樹脂組成物については、上記のとおりであるからここでは記載を省略する。
【0067】
「一体化されている」とは、ポリカーボネート樹脂を含む部分と前記樹脂組成物を含む部分とが、接着剤等を介さずに、少なくとも一部が直接接して一体的に形成されていることを意味している。
【0068】
(ポリカーボネート樹脂を含む部分)
ポリカーボネート樹脂を含む部分は、ポリカーボネート樹脂を射出成形して得ることができる。ポリカーボネート樹脂を含む部分は、二色成形に先立って成形される、ポリカーボネート樹脂の一次成形品であってよい。ポリカーボネート樹脂を含む部分は、インサート部材であってもよい。
【0069】
ポリカーボネート樹脂を含む部分は、ポリカーボネート樹脂の含有量が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%であることがよりさらに好ましい。
【0070】
ポリカーボネート樹脂としては、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネート等の炭酸エステルと、の反応により得られる重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物、並びに、ホスゲン又はジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、上記した二色成形用樹脂組成物に加えることができる(C)ポリカーボネート樹脂で説明したものから選択して用いることができる。
【0071】
ポリカーボネート樹脂は、二色成形用樹脂組成物に加えることができる(C)ポリカーボネート樹脂と同じ組成のものを使用することができ、異なる組成のものを使用することもできる。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量、及び溶融粘度(ISO11443に準拠した、300℃、1000sec-1での溶融粘度)は、特に限定されず、例えば上記した樹脂組成物に加えることができる(C)ポリカーボネート樹脂で説明したものと同様にすることができる。
【0072】
ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて、無機充填剤、エラストマーを含有してもよく、さらに酸化防止剤、安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤、赤外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、耐加水分解性向上剤、流動性改良剤等の添加剤を含有してもよい。添加剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.1~20質量部とすることができる。
【0073】
ポリカーボネート樹脂を含む部分は、二色成形用樹脂組成物との二色成形時の密着性をより高めるために、表面の少なくとも一部にアンカー構造を有していることが好ましい。
アンカー構造は、ポリカーボネート樹脂成形品表面の突起、孔、くぼみなどのアンダーカットにより形成することができる。
【0074】
ポリカーボネート樹脂を含む部分、二色成形用樹脂組成物を含む部分、及び二色成形品全体の大きさ及び形状は、限定されず、用途に応じた大きさ及び形状とすることができる。
ポリカーボネート樹脂を含む部分と前記樹脂組成物を含む部分とが板状である場合、ポリカーボネート樹脂を含む部分の一辺と樹脂組成物を含む部分の一辺とが接していてもよい。樹脂組成物を含む部分がポリカーボネートを含む部分の周囲の少なくとも一部(又は全体)を取り囲んでいてもよい。
【0075】
一実施形態において、成形品は、二色成形品である。「二色成形品」は、ここでは、ポリカーボネート樹脂と上記した二色成形用樹脂組成物とが二色成形法により射出成形された成形品のことを意味している。二色成形品であることは、二色成形品における樹脂組成物を含む部分とポリカーボネート樹脂を含む部分とが、接着層やねじ等を介さずに、少なくとも一部が接するように一体的に成形されていることで区別することができる。また、二色成形品は、接合面に超音波溶着や振動溶着などによる摺動跡や摩耗粉又はバリがないことや、レーザー溶着などによる溶融プール跡などがないことにより区別することができる。
【0076】
成形品の製法は、二色成形であることが好ましく、例えば、予めポリカーボネート樹脂を射出成形して得た一次成形品(ポリカーボネート樹脂成形品)を金型キャビティ内に配置した状態で、当該ポリカーボネート樹脂成形品の少なくとも一部に接するように二色成形用樹脂組成物を射出成形して成形品を得ることができる。
【0077】
一実施形態において、成形品は、さらに金属(合金)及び/又は無機固体からなるインサート部材とともに射出成形して得られるインサート成形品とすることもできる。金属(合金)及び/又は無機固体の材質は限定されない。
インサート成形品の製法は特に限定されない。例えば、予めポリカーボネート樹脂を射出成形して得た一次成形品(ポリカーボネート樹脂部材)を、金属及び/又は無機固体からなるインサート部材とともに金型キャビティ内に配置した状態で、当該ポリカーボネート樹脂成形品及びインサート部材上にポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して二色成形品を得ることができる。
また、ポリカーボネート樹脂成形品を射出成形する際に金型キャビティ内に金属及び/又は無機固体からなるインサート部材を配置してインサート部材上にポリカーボネート樹脂を射出成形することにより、インサート部材を有するポリカーボネート樹脂成形品を得た後、当該インサート部材を有するポリカーボネート樹脂成形品を金型キャビティ内に配置した状態で、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形することにより二色成形品を得ることもできる。
【0078】
一実施形態において、二色成形品の接合強度(初期強度)が、20MPaを超えていることが好ましく、20.6MPa以上であることがより好ましい。初期強度が20MPaを超えていると、接合強度に優れた二色成形品とすることができる。
【0079】
一実施形態において、二色成形品の、温度121℃、湿度100%、203kPaの水蒸気環境下で24時間処理し、温度23℃、湿度50%で24時間放置する湿熱処理後の接合強度が、前記湿熱処理前の接合強度に対して、20%を超えることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることがよりさらに好ましい。成形品は、湿熱処理前の引張強さに対する湿熱処理後の引張強さの割合(引張強さの保持率)が20%を超えるので、湿熱環境で使用された場合の強度の低下を抑制することができる。
【0080】
本実施形態に係る成形品は、自動車部品、電気・電子部品等の種々の用途において使用することができる。特に、この二色成形品は、湿熱環境下で使用されても強度が低下することを抑制することができるので、自動車部品として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0082】
[使用原料]
実施例及び比較例で使用した原料を以下に示す。
A:ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、固有粘度(IV):0.88dL/g)
B-1:住友化学株式会社製「ボンドファースト(登録商標)7L」、共重合成分として、エチレンを70質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを3質量%、及びアクリル酸メチルを27質量%含む。
B-2:住友化学株式会社製「ボンドファースト(登録商標)2C」、共重合成分として、エチレンを94質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを6質量%含む。
B-3:住友化学株式会社製「ボンドファースト(登録商標)E」、共重合成分として、エチレンを88質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを12質量%含む。
B-4:日油株式会社製、エチレンエチルアクリレート(主鎖)とブチルアクリレート-メチルメタクリレート(側鎖)のグラフト共重合体
B-5:ENEOS NUC社製、エチレンエチルアクリレート共重合体、「NUC(登録商標)-6570」
C:ポリカーボネート樹脂(帝人株式会社製、溶融粘度:0.27kPa・s)
D:ガラス繊維(日本電気硝子株式会社製、ECS03T-127)
E:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 1004K)
【0083】
[実施例1~11、比較例1~5]
(二色成形用樹脂組成物の作製)
表1、2に示す割合で原料を混合し、二軸押出機(日本製鋼所製TEX30)を用いて、シリンダー温度260℃、スクリュ回転130rpmで溶融混練して押出し、実施例1~11、比較例1~5の樹脂組成物(二色成形用樹脂組成物)を作製した。
【0084】
(ポリカーボネート樹脂部材の作製)
ポリカーボネート樹脂を120℃で5時間乾燥させた後、シリンダー温度285℃、金型温度90℃の条件で短冊状試験片(50mm×10mm×厚さ2mm)を作製し、その後23℃、50%RHで24時間放置した。
【0085】
(二色成形品の試験片の作製)
上記で得られたポリカーボネート樹脂の短冊状試験片(ポリカーボネート樹脂部材)をインサート部材として金型内に配し、上記で得られた二色成形用樹脂組成物を用いてシリンダー温度285℃、金型温度90℃にてインサート成形し、
図1に示す形状を有する二色成形品の試験片を作製した。
図1に示すように、試験片10は、ポリカーボネート樹脂を含む部分1の大きさが50mm×10mm×厚さ2mmであり、二色成形用樹脂組成物を含む部分2の大きさが50mm×10mm×厚さ2mmであり、ポリカーボネート樹脂を含む部分と二色成形用樹脂組成物を含む部分とが一つの接合面で接して一体的に形成されている。試験片10の全体の大きさは、100mm×10mm×厚さ2mmである。
【0086】
[評価]
上記で得られた二色成形用樹脂組成物、及び二色成形品について、以下の評価を行った。結果を表1,2に示す。
【0087】
(樹脂組成物の溶融粘度)
二色成形用樹脂組成物を、東洋精機製キャピログラフを用い、φ1mm×20mmのフラットダイのキャピラリーを用いて、バレル温度260℃、滞留時間9分にて、せん断速度1000sec-1での溶融粘度を測定した。
【0088】
(二色成形品の初期強度)
上記で得られた二色成形品の試験片を、万能試験機を用いて、つかみ具間距離50mm、速度5mm/minで引張試験を行い、破断時の最大応力を接合強度として測定し初期強度とした。
【0089】
(二色成形品の湿熱処理後の強度)
上記試験片を、滅菌機を用いて121℃、100%RH、203kPaの水蒸気環境で24時間湿熱処理し、温度23℃、湿度50%で24時間放置した(湿熱処理)。その後、万能試験機を用いて、つかみ具間距離50mm、速度5mm/minで引張試験を行い、破断時の最大応力を接合強度として測定した。初期強度に対する前記接合強度の割合を算出し、湿熱処理後の強度保持率(%)とした。
【0090】
【0091】
表1に示すように、(B)オレフィン系共重合体としての組成を満たす共重合体B-1~B-4を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し2~35質量部含む実施例1~11の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂部材との二色成形品とした場合に、初期強度に対する湿熱処理後の強度の保持率が20%を超えており、湿熱処理後の強度の低下を抑制することができる。また、この二色成形品は、初期強度が20MPaを超えており高い接合強度を実現できている。
【0092】
表2に示すように、オレフィン系共重合体を含まない比較例1の樹脂組成物は、二色成形品の初期強度は20MPaを超えているものの、初期強度に対する湿熱処理後の強度の保持率が0%(湿熱処理後の二色成形品が既に剥離している、もしくは引張試験においてチャッキング時に剥離、または接合強度が0MPaのことをいう)であり、湿熱処理後の強度の低下を抑制することができない。
オレフィン系共重合体としてエチレンエチルアクリレート共重合体を使用した比較例2,4では、二色成形品の初期強度が20MPa未満であるとともに、初期強度に対する湿熱処理後の強度の保持率が0%であり湿熱処理後の強度の低下を抑制することができない。ポリエステル樹脂の加水分解抑制に効果のあるエポキシ樹脂Eを添加してもその傾向を改善することができなかった(比較例4)。
(B)オレフィン系共重合体に替えてエポキシ樹脂を用いた比較例3の樹脂組成物は、初期強度は20MPaを超えているものの、初期強度に対する湿熱処理後の強度の保持率が0%であり、湿熱処理後の強度の低下を抑制することができない。
(B)オレフィン系共重合体としての組成を満たす共重合体B-3を用いた場合でも、その含有量が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し2質量部未満であると、初期強度は20MPaを超えているものの、初期強度に対する湿熱処理後の強度の保持率が0%であり、湿熱処理後の強度の低下を抑制することができない。
【符号の説明】
【0093】
10 試験片
1 ポリカーボネート樹脂を含む部分
2 二色成形用樹脂組成物を含む部分