(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】改質剤、該改質剤を含有する改質用組成物、及びこれらを用いた飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料、並びに、これらの製品の改質方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20230925BHJP
C12P 19/16 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230925BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230925BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230925BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20230925BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20230925BHJP
A01G 24/20 20180101ALI20230925BHJP
C05F 11/00 20060101ALI20230925BHJP
C08B 30/18 20060101ALI20230925BHJP
A23L 7/126 20160101ALN20230925BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20230925BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20230925BHJP
A23D 7/005 20060101ALN20230925BHJP
A23G 1/40 20060101ALN20230925BHJP
A23L 27/60 20160101ALN20230925BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20230925BHJP
A23C 9/152 20060101ALN20230925BHJP
A61K 31/702 20060101ALN20230925BHJP
A23L 33/125 20160101ALN20230925BHJP
A23L 27/50 20160101ALN20230925BHJP
A23D 9/007 20060101ALN20230925BHJP
A23L 21/10 20160101ALN20230925BHJP
【FI】
A23L29/30
C12P19/16
A61K47/36
A61K8/73
C12N1/00 F
A23K20/163
A23K10/30
A01G24/20
C05F11/00
C08B30/18
A23L7/126
A23G3/34 105
A23L9/20
A23D7/005
A23G1/40
A23L27/60 A
A21D13/80
A23C9/152
A61K31/702
A23L33/125
A23L27/50 111
A23D9/007
A23L21/10
(21)【出願番号】P 2021519076
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018952
(87)【国際公開番号】W WO2020230238
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】河野 敦
(72)【発明者】
【氏名】山本 智大
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-226988(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136331(WO,A1)
【文献】特開2016-202106(JP,A)
【文献】特開2010-095701(JP,A)
【文献】SHANG, Yaqian et al.,Starch Spherulites Prepared by a Combination of Enzymatic and Acid Hydrolysis of Normal Corn Starch,J. Agric. Food Chem.,2018年06月04日,vol. 66, no. 25,pp. 6357-6363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N
A61K
C08B
A23K
A23G
A23D
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が16%以上30%以下、である澱粉分解物を有し、
該澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化することで該対象製品の品質を改質する、改質剤。
【請求項2】
前記澱粉分解物は、ヨウ素呈色値が0.15以上である、請求項1記載の改質剤。
【請求項3】
前記澱粉分解物は、澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素と枝作り酵素を作用させることにより得られる、請求項1又は2に記載の改
質剤。
【請求項4】
前記澱粉分解物は、酸によって液化された澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素を作用させることにより得られる、請求項1又は2に記載の改
質剤。
【請求項5】
前記対象製品は、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料である、請求項1から4のいずれか一項に記載の改質剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の改質剤を含有する、改質用組成物。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の改質剤、又は、請求項6に記載の改質用組成物が用いられた、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料。
【請求項8】
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が16%以上30%以下、である澱粉分解物の一部又は全部が、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料の原材料と共に結晶化された、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料。
【請求項9】
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が16%以上30%以下、である澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化する結晶化工程を行う、前記対象製品の改質方法。
【請求項10】
澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化することで該対象製品の品質を改質する、改質剤の製造方法であって、
澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素と枝作り酵素を作用させる、
又は、
酸によって液化された澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素を作用させる、ことにより、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が16%以上30%以下、である前記澱粉分解物を得る工程を含む、改
質剤の製造方法。
【請求項11】
澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素と枝作り酵素を作用させる、
又は、
酸によって液化された澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素を作用させる、ことにより、
グルコース重合度(DP)8~19の含有量が40%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が16%以上30%以下、である
澱粉分解物を得る工程と、
前記澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化する結晶化工程と、
を含む、対象製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料等の対象製品の品質を改質する改質剤に関する。より詳しくは、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料等の対象製品の品質を改質する改質剤、該改質剤を含有する改質用組成物、及びこれらを用いた飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料、並びに、これらの製品の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、飲食品分野においては、甘味料、味質調整、浸透圧調整、保湿剤、粉末化基材等の用途に澱粉分解物が利用されている。また、澱粉分解物は、医薬品分野においても、経腸栄養剤の炭水化物源や薬剤の賦形剤等の用途に利用されている。更に化粧品分野において、澱粉分解物は、化粧品を固形化する際の結合剤やクリーム状の化粧品の粘度調整等の用途にも利用されている。
【0003】
このように、澱粉分解物は、その甘味度、味質、浸透圧、粘度、吸湿性等の基本的物性を調整することで、上記のような様々な用途に利用される。例えば、甘味度の高いものは甘味料として用いることに適し、逆に甘味度の低いものは味質調整剤、浸透圧調整剤、粉末化基材等に適する。また、澱粉分解物自体の吸湿性等も用途を選択する上で、重要な要素となる。例えば、澱粉分解物の吸湿性が高すぎると、保存や流通の際に固結したり、べたつきが発生したりすることがあり、粉末食品への利用や粉末化基材等の用途には適さない。
【0004】
また、これらの澱粉分解物を結晶化させた澱粉分解物も、その吸湿性等の特徴を活かして、様々な分野で利用されている。例えば、特許文献1には、シクロデキストリンまたは澱粉を含有する水溶液にシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼを作用させて該水溶液に不溶性のアミロース粒子を生成せしめ、このアミロース粒子を採取することにより、食品分野、医薬品分野、化粧品分野等に用いることができるアミロース粒子の製造技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、1,4-α-D-ポリグルカンまたはポリサッカリドを水中に融解し、その融解生成物を沈殿へ導き、その混合物を冷却し、そして形成された粒子を分離することによって、化粧品のための添加物、薬学的および他の適用における活性物質の担体、食品添加物、生分解性ポリマーまたは工業的ポリマーのための充填材等に用いることができるマイクロスフェアー状クリスタライトを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-85301号公報
【文献】特表2004-512405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本技術では、澱粉分解物の新規な用途を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、既存の澱粉分解物の用途について鋭意研究を行った。その結果、本願発明者らは、オリゴ糖の中でもごく高分子の成分とデキストリンの低分子成分を高含有することを特徴とする澱粉分解物を、対象製品の原材料と共に結晶化することで、対象製品の品質が改質されることを突き止め、本技術を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本技術では、まず、グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物を有し、
該澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化することで該対象製品の品質を改質する、改質剤を提供する。
本技術に係る改質剤に用いる前記澱粉分解物は、そのヨウ素呈色値が0.15以上とすることができる。
本技術に係る改質剤に用いる前記澱粉分解物は、澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素と枝作り酵素を作用させることにより得ることができる。
また、本技術に係る改質剤に用いる前記澱粉分解物は、酸によって液化された澱粉又は澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素を作用させることにより得ることができる。
本技術に係る改質剤が改質可能な対象製品としては、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、及び肥料を挙げることができる。
本技術に係る改質剤は、改質用組成物として流通させることもできる。
【0010】
本技術に係る改質剤及び改質用組成物は、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、及び肥料に用いることができる。
即ち、本技術では、グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物の一部又は全部が、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料の原材料と共に結晶化された、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料を提供する。
【0011】
本技術では、次に、グルコース重合度(DP)8~19の含有量が32%以上、
グルコース重合度(DP)20以上の含有量が30%以下、である澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化する結晶化工程を行う、前記対象製品の改質方法を提供する。
【0012】
ここで、本技術で使用する技術用語を説明する。「枝切り酵素(debranching enzyme)」とは、澱粉の分岐点であるα-1,6-グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素の総称である。例えば、「イソアミラーゼ(Isoamylase, glycogen 6-glucanohydrolase)」、「プルラナーゼ(Pullulanase, pullulan 6-glucan hydrolase)」「アミロ-1,6-グルコシダーゼ/4-αグルカノトランスフェラーゼ(amylo-1,6-glucosidase/4-α glucanotransferase)」が知られている。なお、これらの枝切り酵素を、目的に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0013】
「枝作り酵素(branching enzyme)」とは、α-1,4-グルコシド結合でつながった直鎖グルカンに作用して、α-1,6-グルコシド結合を作る働きを持った酵素の総称である。動物や細菌等に存在しているが、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製することも可能である。
【発明の効果】
【0014】
本技術に係る改質剤に用いる澱粉分解物は、オリゴ糖の高分子成分とデキストリンの低分子成分(グルコース重合度;DP8~19)を多く含有するため、低分子のオリゴ糖では起こらない直鎖状糖分子同士の相互作用が生じて結晶性が高くなり、この性質を利用することで、各種対象製品の品質を改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実験例5のサンプル13のファットスプレッドの材料、および実施例3の澱粉分解物を混合後、0分、10分、30分、180分経過後の顕微鏡写真(400倍)を示す図面代用写真である。
【
図2】実験例5のサンプル13のファットスプレッドの材料を混合後、180分経過後に、結晶化した実施例3の澱粉分解物を添加した場合の顕微鏡写真(400倍)を示す図面代用写真である。
【
図3】実験例2のサンプル1、3及び4を示す図面代用写真である。
【
図4】実験例3のサンプル5及び6を示す図面代用写真である。
【
図5】実験例4のサンプル9及び11を4℃で24時間保存した後の様子を示す図面代用写真である。
【
図6】実験例5のサンプル13、及び16を示す図面代用写真である。
【
図7】実験例6のサンプル17、及び21を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
<澱粉分解物について>
本技術に用いる澱粉分解物は、澱粉原料、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉等の澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉等のような地下茎または根由来の澱粉(地下系澱粉)、あるいはこれらの加工澱粉等を分解(糖化)することによって得られるものである。使用する澱粉原料は、特に限定されず、あらゆる澱粉原料を用いることができる。
【0018】
本技術に用いる澱粉分解物の組成特性としては、グルコース重合度(以下「DP」と称する)8~19の含有量が32%以上、かつ、DP20以上の含有量が30%以下である。本技術に用いる澱粉分解物は、オリゴ糖の高分子成分とデキストリンの低分子成分(DP8~19)を多く含有するため、一般的なオリゴ糖に比べ、低甘味、低浸透圧、耐吸湿性を示す。また、DP20以上の含有量が少ないため、飲食物等の風味を損なう恐れのあるデキストリン特有の風味が低減される。そのため、甘味を必要としない用途へ、好適に適用することができる。例えば、甘味度の高いオリゴ糖の使用が望ましくない食品添加物や飲食物、及び薬剤にも用いることができる。また、デキストリン特有の風味が強いために、デキストリンの使用が難しかった飲食物等にも、飲食物等の風味を損なうことなく用いることができる。本技術に用いる澱粉分解物は、オリゴ糖の高分子成分とデキストリンの低分子成分(DP8~19)を多く含有するため、低分子のオリゴ糖では起こらない直鎖状糖分子同士の相互作用が生じて結晶化能が高いといった特徴を有する。
【0019】
さらに、本技術に用いる澱粉分解物は、オリゴ糖の高分子成分とデキストリンの低分子成分(DP8~19)を多く含有するため、低分子のオリゴ糖では起こらない直鎖状糖分子同士の相互作用が生じる一方で、DP20以上の含有量が少ない、すなわちDP20以上の直鎖状糖分子も少ないことにより、適度な結晶化能を有する。そのため、製造中や使用中の過度な結晶化が抑制されるため、結晶化を利用した用途に使用可能である。
【0020】
更に、本技術に用いる澱粉分解物は、水に溶けている、または水に可溶な非結晶化澱粉分解物を効率的に製造することや、澱粉分解物を結晶化前に対象製品の原材料と共に均一に混合した後に結晶化させる使い方ができる。
【0021】
本技術に用いる澱粉分解物は、DP8~19の含量が32%以上であれば、その含量は特に限定されないが、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。DP8~19の含量が増加するほど、より結晶性が高く、また、より低粘度、低甘味、低浸透圧、耐吸湿性を示すようになるからである。
【0022】
また、本技術に用いる澱粉分解物は、DP20以上の含量が30%以下であれば、その含量は特に限定されないが、好ましくは28%以下、より好ましくは26%以下、さらに好ましくは25%以下である。DP20以上の含量が少なくなるほど、デキストリン特有の風味がより低減されるからである。
【0023】
本技術に用いる澱粉分解物は、そのヨウ素呈色値が0.15以上であることが好ましい。本技術において、澱粉分解物のヨウ素呈色値は、以下のヨウ素呈色値測定方法によって測定された値である。
(ヨウ素呈色値測定方法)5mlの水を分注した試験管に、試料(澱粉分解物)を固形分として25mg添加して混合し、ヨウ素呈色液(0.2質量/体積%ヨウ素、及び2質量/体積%ヨウ化カリウム)を100μl添加し、撹拌後、30℃で20分間放置後、分光光度計にて、光路長10mmのガラスセルを用いて、660nmの吸光度を測定し、試料を添加しない場合の吸光度測定値との差をヨウ素呈色値とした。
【0024】
ヨウ素による呈色反応は、DP16以上の直鎖状の糖鎖の存在を示すものであり、DP20以上の含量が多い澱粉分解物においてはDP16以上の直鎖状の糖鎖が多く存在するため呈色反応を示すが、DP20以上の含量が少ない澱粉分解物では通常呈色反応を示さないか、示したとしてもヨウ素呈色値は非常に低い値となる。しかしながら、本技術に用いる澱粉分解物は、DP20以上の含量が少ないにも関わらず、ヨウ素呈色の下限付近であるDP8~19が主成分で、また直鎖状成分が多いためにヨウ素による呈色反応を示す。即ち、DP20以上の含量が少ない澱粉分解物において、ヨウ素呈色値は、直鎖状成分の含有量の程度を示す指標となる。
【0025】
本技術において、ヨウ素呈色値が0.15以上の澱粉分解物を用いることで、低分子のオリゴ糖では起こらない直鎖状糖分子同士の相互作用がより生じやすくなり、結晶化能のより高い改質剤を提供することができる。
【0026】
<澱粉分解物の製造方法について>
本技術に用いる澱粉分解物の収得の方法については、本技術の効果を損なわない限り、特に限定されることはない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を、適宜組み合わせて行うことによって澱粉分解物を得ることができる。
【0027】
本技術に用いる澱粉分解物を効率的に得る方法として、澱粉または澱粉分解中間物に、少なくとも枝切り酵素と枝作り酵素を作用させる方法がある。枝切り酵素は、澱粉の分岐鎖の分解に関与する酵素であり、枝作り酵素は、澱粉の分岐鎖の合成に用いる酵素である。従って、両者は通常、一緒に用いられることはない。しかし、全く逆の作用を示す両酵素を組み合わせて用いることにより、本技術に用いる澱粉分解物を確実に製造することができる。この場合、両酵素の作用順序としては、同時又は枝作り酵素作用後に枝切り酵素を作用させる。
【0028】
前記枝切り酵素は、特に限定されない。例えば、プルラナーゼ(Pullulanase, pullulan 6-glucan hydrolase)、アミロ-1,6-グルコシダーゼ/4-αグルカノトランスフェラーゼ(amylo-1,6-glucosidase/4-α glucanotransferase)を挙げることができ、より好適な一例としては、イソアミラーゼ(Isoamylase, glycogen 6-glucanohydrolase)を用いることができる。
【0029】
また、前記枝作り酵素も特に限定されない。例えば、動物や細菌等から精製したもの、又は、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製したもの、市販された酵素製剤等を用いることができる。
【0030】
その他の製造方法の一例としては、澱粉または澱粉分解中間物に酸を加えて液化した後、枝切り酵素を作用させる方法もある。この際、用いることができる酸は、澱粉または澱粉分解中間物を液化可能な酸であって、本技術の効果を損なわない酸であれば、一般的な酸を1種または2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、塩酸、シュウ酸、硫酸等を、甘味を必要としない用途へ、好適に適用することができる。挙げることができる。
【0031】
本技術に用いる澱粉分解物の製造方法では、前記酵素反応の後に、不純物を除去する工程を行うことも可能である。不純物の除去方法としては、特に限定されず、公知の方法を1種又は2種以上自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ろ過、活性炭脱色、イオン精製等の方法を挙げることができる。
【0032】
更に、本技術に用いる澱粉分解物は、酵素反応後の澱粉分解物を含む液状品として用いることも可能であるが、真空乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等により脱水乾燥し、粉末化することも可能である。また、クロマトグラフィーや膜分離によって一部成分を分画して用いることも可能である。
【0033】
<澱粉分解物を含む改質剤及び改質用組成物について>
本技術に係る改質剤及び改質用組成物は、前述した澱粉分解物を有し、該澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化することで該対象製品の品質を改質するものである。本技術に用いる澱粉分解物は、例えば、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料等の対象製品の原材料と共に結晶化することで、これらの対象製品の耐吸湿性、固形化性、ゲル化性、保形性、可塑性、白色性、耐離水性、耐離油性、食感、触感、後味、クリーム化性、耐熱性、増粘性、耐老化性等の品質を改質することができる。
【0034】
本技術に係る改質剤及び改質用組成物の改質のメカニズムは明らかではないが、前述した澱粉分解物が、時間経過とともに微細な結晶を形成し、対象製品の間隙を埋め尽くしていくことで、対象製品の物性の改変が起こると推測される。
【0035】
一例として、後述する実験例5のサンプル13のファットスプレッドの材料を混合後、0分、10分、30分、180分経過後の顕微鏡写真(400倍)を
図1に示す。
図1に示す通り、前述した澱粉分解物が、時間経過とともに微細な結晶を形成し、油滴の間隙を埋め尽くしていくことが確認された。製造されたファットスプレッドは、クリーム状に固まり、保形性があり、滑らかでパンに塗りやすく、滑らかな食感を示していた。
【0036】
一方、実験例5のサンプル13のファットスプレッドの材料を混合後、180経過後に、結晶化した澱粉分解物を添加した場合の顕微鏡写真(400倍)を
図2に示す。
図2に示す通り、既に結晶化した澱粉分解物をファットスプレッド製造後に添加しても、
図1に比べて、結晶が大きいことが確認された。製造されたファットスプレッドは、クリーム化せず、ざらついた食感を示していた。
【0037】
これらの顕微鏡写真に示すように、本技術に係る改質剤及び改質用組成物は、対象製品の原材料と共に結晶化が起きることで該対象製品の品質を改質すると考えられる。
【0038】
本発明に係る改質剤及び改質用組成物は、有効成分として本技術に用いる澱粉分解物を含んでいれば、前述した澱粉分解物のみで構成されていてもよいし、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を1種又は2種以上、自由に選択して含有させることもできる。他の成分としては、例えば、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、乳化剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される機能を有する成分を、適宜目的に応じて併用することも可能である。前述した澱粉分解物は、食品に分類されるため、当該澱粉分解物以外の成分の選択次第では、本発明に係る改質剤及び改質用組成物を食品として取り扱うことも可能である。
【0039】
本技術に係る改質剤及び改質用組成物の各製品への適用方法は、特に限定されない。例えば、本技術に係る改質剤及び改質用組成物を各製品へそのまま配合した後、澱粉分解物の一部又は全部を対象製品の原材料と共に結晶化する方法、本技術に係る改質剤を任意の溶媒に溶解又は分散させた状態で各製品へ含有させた後、澱粉分解物の一部又は全部を対象製品の原材料と共に結晶化する方法等を挙げることができる。
【0040】
<澱粉分解物を用いた改質方法について>
本技術に用いる澱粉分解物は、前述の通り、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料等の対象製品の原材料と共に結晶化することにより、これらの対象製品の品質を改質することができる。即ち、本技術に係る改質方法は、前述した澱粉分解物の一部又は全部を、対象製品の原材料と共に結晶化する結晶化工程を行う方法である。
【0041】
結晶化工程における結晶化の方法は特に限定されず、公知の結晶化方法を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。本技術では、例えば、前記澱粉分解物と対象製品の原材料との混合物、混合溶液又は分散液を、所定の条件下で保持、蒸し、燻し、冷却等を行うことで、前記澱粉分解物と共に結晶化することができる。
【0042】
<飲食品について>
本技術に用いる澱粉分解物は、飲食品の原材料と共に結晶化することで、飲食品の品質を改質することができる。具体的には、飲食品の耐吸湿性、固形化性、ゲル化性、保形性、可塑性、白色性、耐離水性、耐離油性、食感、触感、後味、クリーム化性、耐熱性、増粘性、耐老化性等の品質を改質することができる。
【0043】
本技術を用いることができる飲食品としては、特に限定されず、例えば、ジュース、スポーツ飲料、お茶、コーヒー、紅茶等の飲料、醤油、ソース等の調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリーム等の冷菓、各種粉末食品(飲料を含む)、保存用食品、冷凍食品、パン類、菓子類、米飯、麺類、水練り製品、畜肉製品等の加工食品等を挙げることができる。また、保健機能飲食品(特定保健機能食品、機能性表示食品、栄養機能食品を含む)や、いわゆる健康食品(飲料を含む)、流動食、乳児・幼児食、ダイエット食品、糖尿病用食品等にも本技術を用いることができる。
【0044】
<医薬品について>
本技術に用いる澱粉分解物は、医薬品の原材料と共に結晶化することで、医薬品の品質を改質することができる。具体的には、医薬品の耐吸湿性、固形化性、ゲル化性、保形性、可塑性、白色性、耐離水性、耐離油性、食感、触感、後味、クリーム化性、耐熱性、増粘性、耐老化性等の品質を改質することができる。
【0045】
本技術は、例えば、散剤、顆粒剤等の粉末化基材、錠剤等のための賦形剤、液状製剤、半固形製剤、軟膏製剤等のための懸濁化剤、浸透圧調整剤、着色料、経腸栄養剤等の炭水化物源(カロリー源)等を目的とした、医薬品に適用することが可能である。
【0046】
<化粧品について>
技術に用いる澱粉分解物は、化粧品の原材料と共に結晶化することで、化粧品の品質を改質することができる。具体的には、化粧品の耐吸湿性、固形化性、ゲル化性、保形性、可塑性、白色性、耐離水性、耐離油性、触感、クリーム化性、耐熱性、増粘性、耐老化性等の品質を改質することができる。
【0047】
本技術は、例えば、粉状化粧品、固形状化粧品等の粉末化基材や賦形剤、液状、乳状、ゲル状、クリーム状等の化粧品のための懸濁化剤、浸透圧調整剤、着色料等を目的とした、化粧品に適用することが可能である。
【0048】
<工業製品について>
本技術に用いる澱粉分解物は、工業製品の原材料と共に結晶化することで、工業製品の品質を改質することができる。具体的には、工業製品の耐吸湿性、固形化性、ゲル化性、保形性、可塑性、白色性、耐離水性、耐離油性、触感、クリーム化性、耐熱性、増粘性、耐老化性等の品質を改質することができる。
【0049】
本技術が適用可能な工業製品としては、例えば、担体、各種フィルム、繊維、カプセル、接着剤、離型剤、付着防止剤、増量剤、研磨剤、賦形剤等を挙げることができる。
【0050】
<飼料、培地、肥料について>
本技術に用いる澱粉分解物は、飼料や培地、肥料の原材料と共に結晶化することで、飼料や培地、肥料の品質を改質することができる。具体的には、飼料や培地、肥料の耐吸湿性、固形化性、ゲル化性、保形性、可塑性、白色性、耐離水性、耐離油性、食感、触感、後味、クリーム化性、耐熱性、増粘性、耐老化性等の品質を改質することができる。
【0051】
<飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料の製造方法について>
前述した本技術に係る改質方法における前記結晶化工程を、飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料の製造方法の一工程で行うことで、改質された飲食品、医薬品、化粧品、工業製品、飼料、培地、又は肥料を製造することができる。
【0052】
各製品の製造方法における結晶化工程を行うタイミングは、本発明の効果を損なわない限り、各製品の製造工程に応じて、自由に設定することができる。例えば、各製品の製造過程の任意のタイミングで、澱粉分解物を各半製品へ含有させた後、澱粉分解物を各製品の原材料と共に結晶化させる方法、澱粉分解物を各製品の原材料へ配合した後、各製品の製造工程の任意のタイミングにおいて澱粉分解物を各製品と共に結晶化させる方法、等を挙げることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0054】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、対象製品の改質性にどのように影響するかを検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物の糖組成及びヨウ素呈色値を測定した。
【0055】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、Eur. J. Biochem. 59, p615-625 (1975)の方法に則って、精製した馬鈴薯由来の酵素(以下「馬鈴薯由来枝作り酵素」とする)と、Branchzyme(ノボザイムズ株式会社製、以下「細菌由来枝作り酵素」とする)を用いた。
【0056】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸緩衝液(pH5.2)にアミロース(シグマ アルドリッチ社製、A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素-6mMヨウ化カリウム-3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0057】
[DP8~19及びDP20以上の含有量]
下記の表1に示す条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析を行い、検出されたピーク面積比率に基づいて、DP8~19及びDP20以上の含有量を測定した。
【0058】
【0059】
[ヨウ素呈色値測定]
5mlの水を分注した試験管に、試料(澱粉分解物)を固形分として25mg添加して混合した。これに、ヨウ素呈色液(0.2質量/体積%ヨウ素、及び2質量/体積%ヨウ化カリウム)を100μl添加し、撹拌後、30℃で20分間放置後、分光光度計にて、光路長10mmのガラスセルを用いて、660nmの吸光度を測定し、試料を添加しない場合の吸光度測定値との差をヨウ素呈色値とした。
【0060】
(2)実施例・比較例の製法
[実施例1]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE8になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり1000ユニット添加し、50℃で24時間反応させた。その後枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.5質量%添加し、50℃で24時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し実施例1の澱粉分解物を得た。
【0061】
[実施例2]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE9になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり800ユニット添加し、65℃で30時間反応させた。その後、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、50℃で30時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し実施例2の澱粉分解物を得た。
【0062】
[実施例3]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE8になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で15時間反応させた。その後枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり0.5質量%添加し、50℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度45質量%に濃縮した。該濃縮液を、スプレードライヤーで粉末化し実施例3の澱粉分解物を得た。
【0063】
[実施例4]
10%塩酸にてpH2に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、130℃の温度条件でDE13まで分解した。常圧に戻した後、10%水酸化ナトリウムを用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり400ユニット添加し、65℃で48時間反応させた。その後枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、50℃で60時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、スプレードライヤーで粉末化し実施例4の澱粉分解物を得た。
【0064】
[参考例5]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のタピオカ粉末スラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE15になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、馬鈴薯由来枝作り酵素を固形分(g)当たり2000ユニット添加し、35℃で30時間反応させた。その後pHを4.2に調整し、枝切り酵素(イソアミラーゼ、シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、45℃で30時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。該濃縮液を、スプレードライヤーで粉末化し参考例5の澱粉分解物を得た。
【0065】
[実施例6]
10%塩酸にてpH2に調整した30質量%のワキシーコーンスターチスラリーを、130℃の温度条件でDE6まで分解した。常圧に戻した後、10%水酸化ナトリウムを用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり0.5質量%添加し、50℃で72時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液を、スプレードライヤーで粉末化し実施例6の澱粉分解物を得た。
【0066】
[参考例7]
10%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE16になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、細菌由来枝作り酵素を固形分(g)当たり1500ユニット添加し、65℃で24時間反応させた後、煮沸して反応を停止した。その後枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり1.5質量%添加し、50℃で24時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度55質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し参考例7の澱粉分解物を得た。
【0067】
[実施例8]
10%塩酸にてpH2に調整した20質量%のコーンスターチスラリーを、130℃の温度条件でDE15まで分解した。常圧に戻した後、10%水酸化ナトリウムを用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、枝切り酵素(イソアミラーゼ、シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を固形分(g)当たり1.0質量%添加し、45℃で50時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度45質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し比較例3の澱粉分解物を得た。
【0068】
[比較例1]
10質量%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE13になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し比較例1の澱粉分解物を得た。
【0069】
[比較例2]
10質量%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE17になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し比較例2の澱粉分解物を得た。
【0070】
[比較例3]
10質量%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.3質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE30になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し比較例3の澱粉分解物を得た。
【0071】
[比較例4]
10質量%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE10になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり0.3質量%添加し、50℃で24時間反応させた。その後αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、80℃に昇温後、継時的にDEを測定し、DE18になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。該濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し比較例4の澱粉分解物を得た。
【0072】
[比較例5]
10質量%水酸化カルシウムにてpH5.8に調整した10質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液を95℃で保温し、継時的にDEを測定し、DE6になった時点で、10%塩酸でpH4に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、枝切り酵素(GODO-FIA、合同酒精株式会社製)を固形分(g)当たり2.0質量%添加し、50℃で24時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、スプレードライヤーで粉末化し比較例5の澱粉分解物を得た。
【0073】
(3)測定
前記で得られた実施例1~8及び比較例1~5の澱粉分解物について、DP8~19及びDP20以上の含有量、並びにヨウ素呈色値を、前述した方法で測定した。結果を下記の表2に示す。
【0074】
【0075】
<実験例2>
実験例2では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、固形化性、及び耐吸湿性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、グラノーラバーのバインダーとして用いた場合の固形化性、及び耐吸湿性について、検証した。
【0076】
(1)グラノーラバーの製造
下記の表3に示す配合で混合し、混錬した。これを、それぞれグラノーラ3gとからめ、型に充填して、室温にて8時間静置し、グラノーラバーを製造した。
【0077】
(2)評価
固形化性、及び耐吸湿性について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0078】
[固形化性]
◎:固形化し、非常に好ましい
○:やや固形化し、好ましい
×:固形化せず、好ましくない
【0079】
[耐吸湿性]
25℃、相対湿度90%で、15時間保存した後の耐吸湿性
◎:吸湿せず、べたつきがなく、非常に好ましい
○:やや吸湿し、べたつきを感じるが、好ましい
×:潮解し、好ましくない
【0080】
(3)結果
結果を表3に示す。また、サンプル1、3及び4の写真を
図3に示す。サンプル3及び4は、固まらず、半固体状あるいは液体状であった。
【0081】
【0082】
表3に示すように、実施例1の澱粉分解物を用いたサンプル1及び2は、通常固形化しないオリゴ糖を固形化してグラノーラを結着し、吸湿しやすいオリゴ糖を含むにも関わらず、耐吸湿性が付与されることが分かった。一方、比較例2の澱粉分解物を用いたサンプル3では、固形化することができなかった(
図3参照)。
【0083】
<実験例3>
実験例3では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、保形性、白色性、及び触感改良性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、ういろうに適用した場合の保形性、白色性、触感改良性(べたつき)、及び食感(歯切れの良さ)について、検証した。
【0084】
(1)ういろうの製造
下記表4に示す材料に、水20質量部を加え、よく撹拌した。これを型に充填し、20分間蒸した。その後4℃で1時間保存後、型から外して、ういろうを製造した。
【0085】
(2)評価
保形性、白色性、触感改良性(べたつき)、及び食感(歯切れの良さ)について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0086】
[保形性]
◎:硬さがあり、保形性が維持される
○:やや硬さがあり、保形性がある
×:やわらかく、保形性がない
【0087】
[白色性]
◎:白い
○:やや白い
×:白くない
【0088】
[触感改良性(べたつき)]
◎:べたつきがなく、非常に好ましい
○:ややべたつきがあるが、好ましい
×:べたつき、好ましくない
【0089】
[食感(歯切れの良さ)]
◎:歯切れが良く、非常に好ましい
○:やや歯切れが良く、好ましい
×:歯切れが悪く、好ましくない
【0090】
(3)結果
結果を表4に示す。また、サンプル5及び6の写真を
図4に示す。
【0091】
【0092】
表4及び
図4に示すように、実施例3の澱粉分解物をういろうに用いることで、切断しても崩れない保形性、着色料が良く映える白色性が付与され、弾力が良く歯切れのよい食感が得られることが分かった。
【0093】
<実験例4>
実験例4では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、保形性、及び耐離水性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、ホイップクリームに適用した場合の保形性、及び耐離水性について、検証した。
【0094】
(1)ホイップクリームの製造
氷水で冷やしたボールを用いて、生クリーム200gと、下記表5に示す材料をそれぞれ20g混合した後、電動泡だて器を用いて、角が立つまで撹拌し、ホイップクリームを製造した。製造した各ホイップクリームを、絞り器を用いて成形した。
【0095】
(2)評価
保形性、及び耐離水性について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0096】
[保形性]
成型したホイップクリームを、4℃で24時間保存した後の保形性
◎:保形性があり、非常に好ましい
△:やや保形性に欠け、やや好ましくない
×:保形性がなく、好ましくない
【0097】
[耐離水性]
成型したホイップクリームを、4℃で24時間保存した後の耐離水性
◎:離水せず、非常に好ましい
△:一部に離水がみられ、やや好ましくない
×:離水がみられ、好ましくない
【0098】
(3)結果
結果を表5に示す。また、4℃で24時間保存した後のサンプル9及び11の写真を
図5に示す。
【0099】
【0100】
表5及び
図5に示すように、実施例3の澱粉分解物をホイップクリームに用いることで、保存しても崩れない保形性、耐離水性が付与されることが分かった。
【0101】
<実験例5>
実験例5では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、クリーム化性、及び保形性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、ファットスプレッドに適用した場合の可塑性、及びクリーム化性について、検証した。
【0102】
(1)ファットスプレッドの製造
実施例2ないし4、及び参考例5の澱粉分解物(サンプル12ないし15)又は比較例2の澱粉分解物(サンプル16)を8質量部、キャノーラ油25質量部、砂糖4質量部、ココアパウダー1質量部、脱脂粉乳2質量部、水10質量部を量りとり、撹拌機で溶解、撹拌し、容器に移して4℃で24時間保存し、ファットスプレッドを製造した。
【0103】
(2)評価
可塑性について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0104】
[可塑性]
◎:可塑性があり、非常に好ましい
○:やや可塑性があり、好ましい
×:可塑性がなく、好ましくない
【0105】
(3)結果
可塑性の評価結果を表6に示す。製造したサンプル13及びサンプル16のファットスプレッドの写真を
図6に示す。
【0106】
【0107】
表6に示す通り、実施例2ないし4、及び参考例5の澱粉分解物を用いたサンプル12ないし15は、可塑性があったが、比較例2の澱粉分解物を用いたサンプル16は可塑性を有さなかった。実施例2ないし4、及び参考例5の澱粉分解物を用いたサンプル12ないし15の中で比較すると、ヨウ素呈色値が高い方が、優れた可塑性を示すことが分かった。
【0108】
また、
図6に示す通り、実施例3の澱粉分解物を用いたサンプル13は、クリーム状に固まり、保形性があり、滑らかでパンに塗りやすく、好ましい可塑性のファットスプレッドであった。一方、比較例2の澱粉分解物を用いたサンプル16は、固まらず、液状であった。
【0109】
この結果から、本技術を用いることで、あらゆる液状油(例えば、オメガ3系脂肪酸含有油、ごま油、オリーブ油等)をスプレッドにすることが可能で、多量摂取が好ましくないとされる硬化油脂や飽和脂肪酸主体の油を用いることなく、低カロリーで、使用感・食感に優れたスプレッドを、容易に製造できることが分かった。
【0110】
<実験例6>
実験例6では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、固形化性、及び耐熱性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、チョコレート様菓子に適用した場合の固形化性、及び耐熱性について、検証した。
【0111】
(1)チョコレート様菓子の製造
ボールに、実施例1,4,参考例7,実施例8の澱粉分解物(サンプル17ないし20)又は比較例1及び4の澱粉分解物(サンプル21及び22)を22質量部、キャノーラ油4質量部、砂糖3質量部、ココアパウダー1質量部、脱脂粉乳2質量部、水8質量部を量りとり、ゴムべらを用いてよく溶かし、型に移して室温で24時間保存し、チョコレート様菓子を製造した。
【0112】
(2)評価
硬さ(固形化性)について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0113】
[硬さ(固形化性)]
◎:硬さがあり、非常に好ましい
○:やや硬さがあり、好ましい
×:液状であり、好ましくない
【0114】
(3)結果
硬さ(固形化性)の評価結果を下記の表7に示す。また、製造したサンプル17及び21の各チョコレート様菓子の写真を
図7に示す。
【0115】
【0116】
表7及び
図7に示す通り、実施例1,4,
参考例7,
実施例8の澱粉分解物を用いたサンプル17ないし20は、固形状になり、チョコレートに近い硬さ、食感の菓子になった。また、サンプル17ないし20は、250℃のオーブンで5分加熱を行っても、変化しなかった。一方、比較例1及び4の澱粉分解物を用いたサンプル21及び22は、固まらず、液状であった。
【0117】
この結果から、本技術を用いることで、あらゆる液状油(例えば、オメガ3系脂肪酸含有油、ごま油、オリーブ油等)を固形化することが可能で、カカオマスやココアバターを使うことなく、低脂肪、低カロリーで、耐熱性の高いチョコレート様菓子を、容易に製造できることが分かった。
【0118】
<実験例7>
実験例7では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、増粘性、及び耐老化性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、ごまドレッシングに適用した場合の白色性、甘味性(甘み)、後味、増粘性(粘度)、耐離油性(油浮き)、及び耐老化性について、検証した。
【0119】
(1)ごまドレッシングの製造
実施例1または6の澱粉分解物(サンプル23及び24)又は比較例1,3,5の澱粉分解物(サンプル25ないし27)9質量部と、砂糖3質量部、すりごま2質量部、酢1質量部、醤油1質量部、水9質量部、ごま油6質量部を量りとり、撹拌機で溶解、撹拌し、容器に移して4℃で24時間保存し、ごまドレッシングを製造した。
【0120】
(2)評価
白色性、甘味性(甘み)、後味、増粘性(粘度)、耐離油性(油浮き)、及び耐老化性について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0121】
[白色性]
◎:白い
○:やや白い
×:白くない
【0122】
[甘味性(甘み)]
◎:非常に好ましい
○:好ましい
×:甘すぎる
【0123】
[後味]
◎:非常に好ましい
○:好ましい
×:好ましくない
【0124】
[増粘性(粘度)]
◎:非常に好ましい
○:好ましい
×:好ましくない
【0125】
[耐離油性(油浮き)]
◎:油浮きがない
○:やや油浮きがある
×:油浮きがある
【0126】
[耐老化性]
ごまドレッシングを、25℃で1週間保存した後の耐老化性
◎:粘度が維持される
×:粘度が維持されない
【0127】
(3)結果
白色性、甘味性(甘み)、後味、増粘性(粘度)、耐離油性(油浮き)、及び耐老化性の評価結果を表8に示す。
【0128】
【0129】
表8に示す通り、実施例1又は6の澱粉分解物を用いたサンプル23及び24のごまドレッシングは、いずれも粘度のある白色で好ましい甘味・後味になり、滑らかな食感であった。また、サンプル23及び24のごまドレッシングは、よく振り混ぜてから、30分間静置した後に油浮きはみられなかった。さらに、25℃で1週間保存した後も、粘度が維持され、食感の変化はなかった。一方、比較例1,3の澱粉分解物を用いたサンプル25及び26のごまドレッシングは、いずれも粘度のない液状であった。また、よく振り混ぜてから、30分間静置した後に油浮きがみられた。さらに、サンプル25は後味が悪く、雑味が感じられた。また、比較例5を用いたサンプル27は白色で粘度があり、25℃で1週間保存した後も、粘度が維持されていた。さらに、サンプル27は、よく振り混ぜてから、30分間静置した後に油浮きはみられなかったものの、後味が悪かった。
【0130】
この結果から、本技術を用いることで、食品添加物に分類される増粘多糖類を用いることなく、タレやドレッシングの増粘が可能となることが分かった。また、本技術を用いれば、澱粉類を使用する際に通常必要な加熱が不要で、保存中の老化も防止できることが分かった。さらに、本技術を用いれば、耐離油性を付与することができ、油浮きを抑制できることが分かった。
【0131】
<実験例8>
実験例8では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、固形化性、及び食感改良性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、レアチーズケーキに適用した場合の固形化性、及び食感改良性について、検証した。
【0132】
(1)レアチーズケーキの製造
ボールに、澱粉分解物(実施例3又は比較例1)18質量部と、生クリーム30質量部、砂糖4質量部、粉チーズ2質量部を量りとり、ゴムべらを用いてよく溶かした。これを容器に移し、4℃で24時間保存し、サンプル28及び29のレアチーズケーキを製造した。
【0133】
また、澱粉分解物(実施例3)20質量部と、牛乳20質量部、サラダ油4質量部、砂糖4質量部、粉チーズ2質量部を量りとり、ゴムべらを用いてよく溶かした。これを容器に移し、4℃で24時間保存し、サンプル30のレアチーズケーキを製造した。
【0134】
(2)結果
実施例3の澱粉分解物を用いたサンプル28及び30のレアチーズケーキは、いずれも固形化し、滑らかな食感であった。一方、比較例1の澱粉分解物を用いたサンプル29のレアチーズケーキは液状のままであった。
【0135】
この結果から、本技術を用いることで、ゼラチン等の固形化剤を用いることなく、生地を固形化可能で、クリームチーズ等を用いることなく、滑らかな食感にできることが分かった。
【0136】
<実験例9>
実験例9では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、クリーム化性、食感改良性、及び耐老化性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、ミルクフィリングに適用した場合のクリーム化性、食感改良性、及び耐老化性について、検証した。
【0137】
(1)ミルクフィリングの製造
ボールに、澱粉分解物(実施例1又は比較例2)5質量部と、砂糖2.5質量部、脱脂粉乳2.5質量部、サラダ油4質量部、水6質量部を量りとり、撹拌機で溶解、撹拌した。これを容器に移し、4℃で24時間保存し、サンプル31及び32のミルクフィリングを製造した。
【0138】
(2)結果
実施例1の澱粉分解物を用いたサンプル31のミルクフィリングは、クリーム状で、滑らかな食感であった。一方、比較例2の澱粉分解物を用いたサンプル32のミルクフィリングは液状のままであった。
【0139】
この結果から、本技術を用いることで、フィリングをクリーム化することが可能で、一般的なフラワーペースト製造では糊化のために必要となる加熱がないため、風味の劣化がなく、老化しないために低温保存が可能となり、衛生上も貢献できることが分かった。
【0140】
<実験例10>
実験例10では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、固形化性、及び耐吸湿性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、粉末化基材に適用した場合の固形化性、及び耐吸湿性について、検証した。
【0141】
(1)粉末製品の製造1
ボールに、下記表9に示す材料を量りとり、混錬した。これを容器に移し、60℃で12時間保存して結晶化し、固形化したものをミルで粉砕して、サンプル33ないし36の各粉末製品を製造した。なお、比較例2の澱粉分解物を用いたサンプル36は、固形化せず、粉末製品を製造することができなかった。
【0142】
【0143】
(2)粉末製品の製造2
実施例1の澱粉分解物25g、水25g、0.1Nヨウ素液500μLをバイアル瓶にとり、スターラ―を用いて室温にて3日間撹拌し、沈殿させた。沈殿を含む溶液を希釈してろ過し、得られたろ物を水洗、風乾した後、粉砕して、サンプル37の粉末製品を製造した。粉末は紫色で、ヨウ素が取り込まれていることが確認された。
【0144】
(3)結果
実施例1又は3の澱粉分解物を用いたサンプル33ないし35及び37について、粉末化することができた。各粉末製品は、25℃相対湿度94%の高湿度下で24時間保存しても、全ての製品が吸湿することなく、粉末状を維持していた。
【0145】
この結果から、本技術を用いることで、幅広いものを粉末化できることが分かった。具体的に、オリゴ糖や醤油など粉末化基材とともに噴霧乾燥して粉末を作った場合に、非常に吸湿しやすい物質に関しても、耐吸湿性を有する粉末が得られることが分かった。また、油など乾燥には通常乳化処理後の噴霧乾燥が必要になるものに関しても、簡易的に粉末化できることが分かった。更に、ヨウ素、脂肪酸などアミロースによる包接が知られている物質を、包接作用で取り込んで粉末化できることも分かった。
【0146】
<実験例11>
実験例11では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、保形性、白色性、及び後味について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、杏仁豆腐に適用した場合の保形性、白色性、及び後味について、検証した。
【0147】
(1)杏仁豆腐の製造
下記表10に示す材料を65℃で撹拌、溶解し、型に移して4℃で固めて杏仁豆腐を得た。
【0148】
(2)評価
保形性、白色性、及び後味について、5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0149】
[保形性]
◎:保形性があり、非常に好ましい
○:やや保形性があり、好ましい
×:保形性がなく、好ましくない
【0150】
[白色性]
◎:白い
○:やや白い
×:白くない
【0151】
[後味]
◎:非常に好ましい
○:好ましい
×:好ましくない
【0152】
(3)結果
保形性、白色性、及び後味の評価結果を下記表10に示す。
【0153】
【0154】
表10に示す通り、実施例2又は参考例7の澱粉分解物を用いたサンプル38及び39は、保形性、白色性も良好で、後味の良い杏仁豆腐が得られた。一方、比較例2の澱粉分解物を用いたサンプル40は、全ての評価が不良であった。また比較例5の澱粉分解物を用いたサンプル41は、保形性及び白色性は良好であったが、後味が好ましくなかった。
【0155】
この結果から、ヨウ素呈色値が高い方が、優れた保形性及び白色性を示すこと、DP20以上の含有量が低い方が、優れた後味を示すことが分かった。
【0156】
<実験例12>
実験例12では、本技術に用いる澱粉分解物の改質効果のうち、固形化性について、検討した。具体的には、本技術に用いる澱粉分解物を、介護食に適用した場合の固形化性について、検証した。
【0157】
(1)介護食の製造・評価
茹でた野菜(さといも、にんじん、いんげん、ごぼう)、鶏肉各20質量部、澱粉分解物(実施例3又は比較例1)12質量部、サラダ油1質量部、だし汁5質量部を入れ、均一に混ざるまでミキサーで破砕し、容器に移して4℃で4時間保持し、サンプル42及び43の介護食を製造した。その結果、実施例3の澱粉分解物を用いたサンプル42は固形化によって成形可能になった一方で、比較例1の澱粉分解物を用いたサンプル43は液状のままであった。
【0158】
サンプル42を各野菜、鶏肉の形に再成形して皿に盛り付け、40℃程度の温かい調味液をかけ、煮物の再成形食を製造したところ、再成形した各具材は固形状で安定でありながら、食すると繊維感がほとんど感じられず、容易に咀嚼できた。
【0159】
この結果から、本技術を用いることで、加熱などをせず具材とともに破砕しながら混合するだけで咀嚼しやすい再成形食が製造可能で、炭水化物の補給も同時にできることが分かった。