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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20230925BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20230925BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20230925BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230925BHJP
   F28D 15/04 20060101ALN20230925BHJP
【FI】
F28D15/02 102H
F28D15/02 101H
F28D15/02 L
F28D15/02 106F
F28D15/02 104D
F28D15/02 102G
F28F21/08 E
F28F21/08 A
F28F21/08 F
F28F21/08 Z
F28F21/08 G
H01L23/46 B
H05K7/20 Q
F28D15/04 E
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022084823
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2020015655の分割
【原出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2022118003
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 義勝
(72)【発明者】
【氏名】川畑 賢也
(72)【発明者】
【氏名】青木 博史
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-544469(JP,A)
【文献】特開2013-174376(JP,A)
【文献】特開平11-237193(JP,A)
【文献】特開2016-035348(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150356(WO,A1)
【文献】特開2019-207076(JP,A)
【文献】特開2017-110891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
F28F 1/00 - 99/00
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の板状体と該一方の板状体と対向する他方の板状体とにより空洞部が形成されたコンテナと、前記空洞部に封入された作動流体と、を有するベーパーチャンバであって、
前記コンテナが、前記作動流体の相変化により熱輸送する熱輸送部と、該熱輸送部から外方へ延出した、熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部と、を備え、
平坦な平面形状の前記他方の板状体における前記延出部が、所定の固定位置に設けられた段差を有する固定部に、前記段差に沿って載置されることで前記ベーパーチャンバの固定用部位となり、
前記空洞部が、前記段差よりも前記他方の板状体の方向へ突出し、基板に搭載された発熱体が前記基板と前記ベーパーチャンバにて挟まれて前記一方の板状体が前記他方の板状体の方向へ押さえられることで、前記延出部の前記段差に沿って載置された部位が、前記固定部に押さえられているベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記コンテナの周縁部に、前記一方の板状体と前記他方の板状体が接合されて前記空洞部が封止された接合部が形成され、前記延出部が、前記接合部の外方に位置する請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記接合部が、ファイバレーザによる溶接にて接合された溶接部である請求項2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記空洞部に、350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない金属が設けられた請求項1乃至3のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記コンテナの材質が、銅、銅合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタンまたはチタン合金である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
前記コンテナの材質が、ステンレス鋼である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項7】
前記金属が、チタン系、パラジウム系、バナジウム系、カルシウム系またはこれらの複合系の合金である請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項8】
前記金属が、チタン系の合金である請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項9】
前記金属が、前記作動流体の凝縮する部位に配置されている請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項10】
前記金属が、前記コンテナまたは前記空洞部に収容されたウィック構造体に固定され、前記金属と前記コンテナまたは前記ウィック構造体との間に合金部が形成された請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項11】
前記金属が、溶接により前記コンテナまたは前記空洞部に収容されたウィック構造体に固定され、前記金属と前記コンテナまたは前記ウィック構造体との間に合金部が形成された請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項12】
前記合金部が、鉄、ニッケル、クロム、チタン及び前記金属のいずれかを含む請求項10または11に記載のベーパーチャンバ。
【請求項13】
前記合金部が、前記金属の2質量%~50質量%である請求項10乃至12のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項14】
前記空洞部の水素ガス量が、作動温度50℃における前記空洞部内の全ガス量の10体積%以下である請求項1乃至13のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項15】
前記ウィック構造体の材質が、チタンまたはチタン合金である請求項10または11に記載のベーパーチャンバ。
【請求項16】
前記合金部が、前記コンテナまたは前記ウィック構造体と前記金属が溶融して一体となって形成された請求項10乃至13のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来の機能である熱輸送機能に加えて、他の機能も備えたベーパーチャンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器に搭載されている半導体素子等の電子部品は、高機能化に伴って発熱量が増大しており、電子部品の誤作動防止等の点から、その冷却がより重要となっている。また、電気・電子機器の小型化や電子部品の高密度搭載等により、電子部品等の発熱体は、狭小空間に配置されることがある。狭小空間に配置された電子部品等の発熱体の冷却方法として、平面型の熱輸送装置であるベーパーチャンバが使用されることがある。
【0003】
また、近年、環境負荷の低減等から、例えば、内燃機関に代えてバッテリを搭載した電気自動車(EV)等の電気を動力とした輸送機器が普及してきている。また、電気を動力とした輸送機器の高性能化に伴って、バッテリの発熱量が増大しており、バッテリの正常な稼働を維持するために、その冷却がより重要となっている。また、電気自動車の乗り心地を向上させるために、座席空間のさらなる拡大が求められていることから、バッテリの設置空間のさらなる低減が要求されている。限られた空間に搭載されたバッテリ等の発熱体の冷却方法として、平面型の熱輸送装置であるベーパーチャンバが使用されることがある。
【0004】
上記から、ベーパーチャンバには、優れた熱輸送特性が要求される。そこで、例えば、コンテナと、コンテナを内側から支持するようにコンテナの内部空間に配置された柱と、コンテナの内部空間に封入された作動流体と、コンテナの内部空間に配置されたウィック構造体とを有し、コンテナの内面の少なくとも一部分が、コンテナの内部空間に露出し、平均深さが10nm以上の細孔を有しているベーパーチャンバが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、細孔に不純物ガスがトラップされることで、ウィック構造体に付着する不純物ガスの量が低減し、作動流体の流通性を向上させるものである。作動流体の流通性が向上することで、ベーパーチャンバの熱輸送特性の向上を図っている。
【0005】
一方で、ベーパーチャンバの冷却対象である発熱体の周辺には、ベーパーチャンバの他に、熱輸送機能以外の機能を備えた他の部品も設置される。また、上記の通り、ベーパーチャンバは狭い空間に設置され、また、輸送機器といった移動体に設置されることが多いので、ベーパーチャンバ及びベーパーチャンバ周辺の他の部品全体として、省スペース化、軽量化が要求されている。しかし、特許文献1のような従来のベーパーチャンバでは、熱輸送特性の向上は図られているものの、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化に寄与する点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-189349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能なベーパーチャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]一方の板状体と該一方の板状体と対向する他方の板状体とにより空洞部が形成されたコンテナと、前記空洞部に封入された作動流体と、を有するベーパーチャンバであって、
前記コンテナが、前記作動流体の相変化により熱輸送する熱輸送部と、該熱輸送部から外方へ延出した、熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部と、を備えるベーパーチャンバ。
[2]前記コンテナの周縁部に、前記一方の板状体と前記他方の板状体が接合されて前記空洞部が封止された接合部が形成され、前記延出部が、前記接合部の外方に位置する[1]に記載のベーパーチャンバ。
[3]前記延出部が、電磁シールド機能を有する[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[4]前記延出部が、該延出部の厚さ方向の曲げ部を有し、該延出部の先端が自由端である[3]に記載のベーパーチャンバ。
[5]前記延出部が、該延出部の厚さ方向の曲げ部を有し、該延出部の先端が他の部材と接している[3]に記載のベーパーチャンバ。
[6]発熱体が収容された筐体の一部を構成する[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[7]前記延出部が、発熱体に熱的に接続される前記熱輸送部に冷却風を供給する送風機器のカバーである、[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[8]前記延出部が、前記熱輸送部を所定の位置に固定するための固定用部材の取り付け部を有する[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[9]前記延出部が、前記熱輸送部を所定の位置に位置決めするための位置決め部を有する[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[10]前記延出部が、前記ベーパーチャンバの固定用部位を有する[1]または[2]に記載のベーパーチャンバ。
[11]前記接合部が、ファイバレーザによる溶接にて接合された溶接部である[2]乃至[10]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[12]前記空洞部に、350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない金属が設けられた[1]乃至[11]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[13]前記コンテナの材質が、銅、銅合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタンまたはチタン合金である[1]乃至[12]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[14]前記コンテナの材質が、ステンレス鋼である[1]乃至[13]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[15]前記金属が、チタン系、パラジウム系、バナジウム系、カルシウム系またはこれらの複合系の合金である[12]乃至[14]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[16]前記金属が、チタン系の合金である[12]乃至[15]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[17]前記金属が、前記作動流体の凝縮する部位に配置されている[12]乃至[16]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[18]前記金属が、前記コンテナまたは前記空洞部に収容されたウィック構造体に固定され、前記金属と前記コンテナまたは前記ウィック構造体との間に合金部が形成された[12]乃至[17]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[19]前記金属が、溶接により前記コンテナまたは前記空洞部に収容されたウィック構造体に固定され、前記金属と前記コンテナまたは前記ウィック構造体との間に合金部が形成された[12]乃至[18]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[20]前記合金部が、鉄、ニッケル、クロム、チタン及び前記金属のいずれかを含む[18]または[19]に記載のベーパーチャンバ。
[21]前記合金部が、前記金属の2質量%~50質量%である[18]乃至[20]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[22]前記空洞部の水素ガス量が、作動温度50℃における前記空洞部内の全ガス量の10体積%以下である[1]乃至[21]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[23]前記ウィック構造体の材質が、チタンまたはチタン合金である[18]乃至[22]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
[24]前記合金部が、前記コンテナまたは前記ウィック構造体と前記金属が溶融して一体となって形成された[18]乃至[23]のいずれか1つに記載のベーパーチャンバ。
【0009】
上記[1]のベーパーチャンバの態様では、熱輸送部が、従来のベーパーチャンバの機能である熱輸送機能を発揮する部位であり、冷却対象である発熱体を冷却する。また、延出部は、従来のベーパーチャンバの機能とは異なる他の機能を発揮する部位であり、発熱体を冷却する機能以外の機能を有する。また、熱輸送部と延出部は、連続しており、一体となっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、冷却対象である発熱体を冷却する熱輸送部と熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部とを備えることにより、熱輸送機能だけでなく熱輸送機能以外の機能も有するので、別途、該熱輸送機能以外の機能を備えた他の部品を設置しなくてもよく、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となる。また、別途、該熱輸送機能以外の機能を備えた他の部品を設置しなくてもよいので、ベーパーチャンバが搭載される機器の部品点数を低減できる。
【0011】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、延出部が電磁シールド機能を有することにより、冷却対象である発熱体が電磁波を放出する電子部品であり、発熱体から放出される電磁波をシールドする必要があっても、別途、他の部品として、発熱体から放出される電磁波をシールドする電磁シールド板を設置する必要がない。従って、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0012】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、電磁シールド機能を有する延出部の先端が自由端であることにより、冷却対象である発熱体と熱輸送部との熱的接続性が向上して、熱輸送部は発熱体に対して優れた冷却特性を発揮できる。
【0013】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、電磁シールド機能を有する延出部の先端が他の部材と接していることにより、冷却対象である発熱体の熱が、本発明のベーパーチャンバを介して他の部材へ伝達可能となるので、延出部は、電磁シールド機能だけでなく、発熱体に対する冷却機能も発揮できる。
【0014】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、発熱体が収容された筐体の一部を構成することにより、筐体の外面に、別途、ベーパーチャンバを設置する必要がないので、筐体が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となる。また、ベーパーチャンバが筐体の一部を構成することにより、筐体に収容された発熱体とベーパーチャンバとの熱的接続性が向上するので、発熱体に対して優れた冷却性能を発揮できる。
【0015】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、延出部が熱輸送部に冷却風を供給する送風機器のカバーであることにより、別途、他の部品として、送風機器のカバーを設ける必要がない。従って、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0016】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、延出部が熱輸送部を所定の位置に固定するための固定用部材の取り付け部を有することにより、別途、他の部品として、固定用部材の取り付け部をベーパーチャンバに装着する必要がない。従って、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0017】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、延出部が熱輸送部を所定の位置に固定するための位置決め部を有することにより、別途、他の部品として、位置決め部をベーパーチャンバに装着する必要がない。従って、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0018】
本発明のベーパーチャンバの態様によれば、接合部がファイバレーザによる溶接にて接合された溶接部であることにより、接合部の接合強度が向上してコンテナに優れた封止性を付与でき、また、一方の板状体と他方の板状体の接合時におけるコンテナへの熱負荷を防止できるので、コンテナに優れた機械的強度を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
図2】本発明の第2実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
図3】本発明の第3実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
図4】本発明の第4実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
図5】本発明の第5実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の第1実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。なお、図1は、本発明の第1実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
【0021】
図1に示すように、本発明の第1実施形態例に係るベーパーチャンバ1は、対向する2枚の板状体、すなわち、一方の板状体11と一方の板状体11と対向する他方の板状体12とを重ねることにより空洞部13が形成された、平面型であるコンテナ10と、空洞部13内に封入された作動流体(図示せず)と、を有している。また、空洞部13の内部空間には、毛細管構造を有するウィック構造体15が収容されている。また、コンテナ10の内面とウィック構造体15との間の空間部が、気相の作動流体が流通する蒸気流路18となっている。
【0022】
一方の板状体11は、中央部31と中央部31の周縁に位置する周縁部32を含めて全体が平板状である。他方の板状体12も平板状であるが、中央部41が凸状に塑性変形され、中央部41の周縁に位置する周縁部42は、中央部41に対して段差状に窪んでいる。また、他方の板状体12では、中央部41は平坦な平板状となっている。他方の板状体12の、外側に向かって突出し、凸状に塑性変形された中央部41が、コンテナ10の凸部14であり、凸部14の内部が空洞部13となっている。コンテナ10の凸部14は、所定の厚さにて平面状に延在している。
【0023】
一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42を重ね合わせた状態で、凸部14の外縁に沿って周縁部32、42の全周を接合して接合部23を形成することで、密閉容器であるコンテナ10が形成され、空洞部13が封止される。接合部23の形成方法としては、特に限定されず、例えば、拡散接合、ろう付け、レーザ溶接、超音波溶接、摩擦接合、圧接接合等を挙げることができる。このうち、優れた生産性とコンテナ10の封止性の点から、レーザ溶接が好ましい。また、一方の板状体11と他方の板状体12間の接合強度が向上してコンテナ10に優れた封止性を付与しつつ、一方の板状体11と他方の板状体12の接合時におけるコンテナ10への熱負荷を防止してコンテナ10に優れた機械的強度を付与できる点から、ファイバレーザによるレーザ溶接が特に好ましい。空洞部13は、脱気処理により減圧されている。
【0024】
ウィック構造体15は、空洞部13に収容された、毛細管力を生じる部材である。ウィック構造体15は、多孔質であることで毛細管構造を有している。また、ウィック構造体15は、平面状の部材であり、コンテナ10の凸部14の平面に沿って延在している。
【0025】
ベーパーチャンバ1のコンテナ10は、熱輸送機能を有する熱輸送部20と、熱輸送部20から外方へ延出した、熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部21と、を備えている。熱輸送部20と延出部21は、連続しており、一体となっている。熱輸送部20は、一方の板状体11と他方の板状体12を接合した接合部23の内方に位置し、延出部21は、接合部23の外方に位置している。従って、接合部23は、熱輸送部20と延出部21の境界を形成している。
【0026】
熱輸送部20は、コンテナ10の凸部14、すなわち、作動流体が封入された空洞部13に対応する。従って、熱輸送部20は、所定の厚さにて平面状に延在している。後述するように、熱輸送部20は、熱輸送部20の受熱部にて発熱体100から受けた熱を作動流体の相変化によって、受熱部から熱輸送部20の放熱部へ輸送することで、発熱体100を冷却する冷却特性を発揮する。また、熱輸送部20は、受熱部にて発熱体100から受けた熱を作動流体の相変化によって、熱輸送部20全域に拡散させることによって均熱板としての機能を発揮する。
【0027】
熱輸送部20の平面視の形状は、特に限定されず、ベーパーチャンバ1の使用条件等により、円形状、長柵状、多角形状等、適宜選択可能である。なお、「平面視」とは、熱輸送部20の平面に対して鉛直方向から視認した状態を意味する。
【0028】
熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部21は、一方の板状体11の周縁部32が接合部23から外方へ延出して形成されていてもよく、他方の板状体12の周縁部42が接合部23から外方へ延出して形成されていてもよく、また、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42の両方が接合部23から外方へ延出して形成されていてもよい。なお、ベーパーチャンバ1では、熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部21は、他方の板状体12の周縁部42が接合部23から外方へ延出して形成されている。
【0029】
延出部21は、熱輸送部20とは異なる機能を有している。すなわち、延出部21は、熱輸送機能以外の他の機能を有している。従って、ベーパーチャンバ1は、作動流体の相変化による熱輸送機能に加えて、他の機能も備えている。
【0030】
図1に示すように、ベーパーチャンバ1では、延出部21は、冷却対象である発熱体100から放出される電磁波をシールドする電磁シールド板としての機能を有している。例えば、発熱体100が回路基板101に搭載された中央演算処理装置(CPU)の場合、発熱体100から放出される電磁波が回路基板101の周辺に位置する他の部品(図示せず)の動作に悪影響を与えることを防止するために、別途、発熱体100の周囲に電磁シールド板を設置する必要がある。しかし、ベーパーチャンバ1では、延出部21が電磁シールド板としての機能を有していることから、別部品である電磁シールド板を設置する必要がない。
【0031】
ベーパーチャンバ1では、延出部21が、延出部21の厚さ方向に曲げられた曲げ部24を有している。延出部21の曲げ部24から先端25までは、熱輸送部20の平面方向に対して略直交方向に伸延している。延出部21の曲げ部24から先端25までが、電磁シールド板としての機能を有している。
【0032】
延出部21の先端15は、回路基板101と接触していない自由端となっている。延出部21の先端15と回路基板101の表面との間には、若干の隙間が存在している。従って、熱輸送部20は、延出部21に干渉されることなく、冷却対象である発熱体100と接触できるので、発熱体100と熱輸送部20との熱的接続性が向上して、熱輸送部20は発熱体100に対して優れた冷却特性を発揮でき、また、均熱板としての機能も向上する。
【0033】
また、延出部21の先端15は、回路基板101と接触していない自由端に代えて、回路基板101と接している態様としてもよい。延出部21の先端15が回路基板101と接していることにより、冷却対象である発熱体100の熱が、ベーパーチャンバ1を介して回路基板101へ伝達されるので、延出部21は、電磁シールド機能だけでなく、発熱体100に対する冷却機能も発揮できる。
【0034】
延出部21は、熱輸送部20の周方向の全体から外方へ延出していてもよく、熱輸送部20の周方向の一部分から延出していてもよい。例えば、熱輸送部20の平面視の形状が四角形の場合、延出部21は熱輸送部20の四辺から延出していてもよく、一部の辺(例えば、対向する二辺)からのみ延出していてもよい。なお、説明の便宜上、ベーパーチャンバ1では、熱輸送部20の平面視の形状は四角形状であり、延出部21は対向する二辺から延出している。
【0035】
コンテナ10の材質としては、例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、銅合金、アルミニウム合金、チタン合金、鉄合金、ニッケル合金等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、軽量性、機械的強度、曲げ等の加工性のバランスの点から、ステンレス鋼が好ましい。
【0036】
空洞部13に封入される作動流体としては、コンテナ10の材料との適合性に応じて、適宜選択可能であり、例えば、水、代替フロン、フルオロカーボン類、シクロペンタン、エチレングリコール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
ウィック構造体15としては、毛細管力を生じさせる構造であれば、特に限定されず、例えば、金属粉の焼結体、金属短繊維の焼結体、金属製のメッシュ、金属細線の編組体、金属細線の線条体、空洞部13の内面に形成された複数の細溝(グルーブ)等を挙げることができる。なお、ベーパーチャンバ1では、ウィック構造体15として、金属製のメッシュが使用されている。ウィック構造体の材質は、適宜選択可能であり、例えば、チタン、チタン合金、銅、銅合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金等をあげることができる。
【0038】
ベーパーチャンバ1の熱輸送部20の厚さとしては、例えば、0.2mm~1.0mmを挙げることができる。また、一方の板状体11と他方の板状体12の平均厚さは、同じでも異なっていてもよく、例えば、それぞれ、0.05mm~0.1mmを挙げることができる。
【0039】
次に、熱輸送部20の動作について説明する。コンテナ10の熱輸送部20外面のうち、発熱体100と熱的に接続された部位(発熱体100と熱輸送部20外面が接触している部位)が受熱部として機能する。熱輸送部20が発熱体100から受熱すると、空洞部13に封入された液相の作動流体が、受熱部にて液相から気相へ相変化し、相変化した気相の作動流体が、蒸気流路18を流通して熱輸送部20の受熱部から放熱部(発熱体100と熱輸送部20の接触部から所定距離離れた部位)へ移動する。受熱部から放熱部へ移動した気相の作動流体は、放熱部にて潜熱を放熱して、気相から液相へ相変化する。放熱部にて放出された潜熱は、さらにベーパーチャンバ1の外部環境へ放出される。放熱部にて気相から液相へ相変化した作動流体は、熱輸送部20に収容されたウィック構造体15の毛細管力にて、放熱部から受熱部へ還流される。
【0040】
このように、ベーパーチャンバ1の冷却対象である発熱体100が電磁波を放出する電子部品であっても、別途、他の部品として、発熱体100から放出される電磁波をシールドする電磁シールド板を設置する必要がないので、ベーパーチャンバ1が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。また、ベーパーチャンバ1の熱輸送部20を発熱体100に熱的に接続することで、発熱体100の周囲に電磁シールド板も設置できるので、ベーパーチャンバ1が搭載される機器の製造が簡略化される。
【0041】
また、図1に示すように、回路基板101に冷却対象である発熱体100以外の他の電子部品102も搭載されており、他の電子部品102が熱輸送部20と回路基板101の間に位置する場合、延出部21は、他の電子部品102から放出される電磁波もシールドできる。従って、ベーパーチャンバ1では、回路基板101に搭載された電子部品から放出される電磁波に対するシールド性をさらに向上させることができる。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。第2実施形態例に係るベーパーチャンバは、第1実施形態例に係るベーパーチャンバと主要な構成要素は共通するので、同じ構成要素については同じ符号を用いて説明する。なお、図2は、本発明の第2実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
【0043】
図2に示すように、本発明の第2実施形態例に係るベーパーチャンバ2では、発熱体100が収容された筐体200の一部となっている。筐体200の一部を構成する筐体部201とベーパーチャンバ2とで、外部に対して閉鎖された内部空間202が形成され、内部空間202に発熱体100が収容されている。ベーパーチャンバ2の熱輸送部20の外面と延出部21が、筐体200の内面の一部となっている。従って、延出部21は、筐体200の一部としての機能を有している。また、熱輸送部20も、筐体200の一部としての機能を有している。筐体200に収容された発熱体100が、筐体200の内面の一部となっているベーパーチャンバ2の熱輸送部20と熱的に接続されることで、熱輸送部20の熱輸送機能により発熱体100が冷却される。
【0044】
ベーパーチャンバ2では、熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部21は、一方の板状体11の周縁部32が接合部23から外方へ延出して形成されている。また、延出部21の先端25は、筐体200の一部を形成する筐体部201の端部203と接している。
【0045】
ベーパーチャンバ2では、筐体200の外面に、別途、ベーパーチャンバを設置する必要がないので、ベーパーチャンバ2、ひいては、筐体200が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となる。また、ベーパーチャンバ2が筐体200の一部を構成することにより、筐体200に収容された発熱体100とベーパーチャンバ2との熱的接続性が向上するので、発熱体100に対して優れた冷却性能を発揮できる。
【0046】
発熱体100が収容された筐体200としては、例えば、電気自動車のバッテリ(蓄電池)が収容されたシールドケース、中央演算処理装置等の電子部品が収容されたパーソナルコンピュータや携帯用の情報端末の筐体等が挙げられる。なお、図2では、発熱体100は中央演算処理装置等の電子部品であり、筐体200は中央演算処理装置等の電子部品が収容されたパーソナルコンピュータの筐体である。また、中央演算処理装置等の電子部品が収容されたパーソナルコンピュータの筐体としては、例えば、液晶画面を備えた筐体が挙げられる。
【0047】
図2に示すように、ベーパーチャンバ2は、筐体200の蓋部でもあり、筐体200の蓋部の中央部に熱輸送部20が位置し、筐体200の蓋部の周縁部に延出部21が位置している。また、コンテナ10の凸部14が、筐体200の蓋部の外面に位置している。発熱体100である中央演算処理装置等の電子部品が筐体200の蓋部の中央部に接触することで、ベーパーチャンバ2の熱輸送部20と熱的に接続される。
【0048】
次に、本発明の第3実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。第3実施形態例に係るベーパーチャンバは、第1、第2実施形態例に係るベーパーチャンバと主要な構成要素は共通するので、同じ構成要素については同じ符号を用いて説明する。なお、図3は、本発明の第3実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
【0049】
図3に示すように、本発明の第3実施形態例に係るベーパーチャンバ3では、延出部21が、発熱体100に熱的に接続される熱輸送部20に冷却風Fを供給する送風機器(図示せず)のカバーとなっている。図3では、延出部21は、送風機器の上面と両側面を覆っている。また、送風機器のうち、発熱体100と対向した部位が開放され、送風機器の設置空間と発熱体100の搭載された空間は連通している。ベーパーチャンバ3では、熱輸送部20がその熱輸送機能によって発熱体100を冷却し、送風機器のカバーとして機能する延出部21に沿って、送風機器からの冷却風Fが熱輸送部20の方向へ流通する。発熱体100としては、例えば、回路基板101に搭載された電子部品が挙げられ、送風機器としては、例えば、送風ファンが挙げられる。
【0050】
ベーパーチャンバ3では、延出部21が熱輸送部20に冷却風Fを供給する送風機器のカバーであることにより、別途、他の部品として、送風機器のカバーを設ける必要がない。従って、ベーパーチャンバ3が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0051】
次に、本発明の第4実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。第4実施形態例に係るベーパーチャンバは、第1~第3実施形態例に係るベーパーチャンバと主要な構成要素は共通するので、同じ構成要素については同じ符号を用いて説明する。なお、図4は、本発明の第4実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
【0052】
図4に示すように、本発明の第4実施形態例に係るベーパーチャンバ4では、延出部21が、熱輸送部20を所定の位置に固定するための固定用部材の取り付け部50を有している。従って、ベーパーチャンバ4の延出部21は、熱輸送部20の固定機能を有している。ベーパーチャンバ4では、延出部21に形成された複数箇所の切り欠きが、固定用部材の取り付け部50となっている。なお、図4では、4箇所に固定用部材の取り付け部50が設けられている。また、説明の便宜上、図4では、平面視四角形状のベーパーチャンバ4の各辺に、1つずつの固定用部材の取り付け部50が設けられている。また、ベーパーチャンバ4では、延出部21には、厚さ方向の曲げ部は設けられておらず、平坦となっている。
【0053】
固定用部材の取り付け部50に、ネジ等の固定用部材(図示せず)を挿入することで、ベーパーチャンバ4を所定位置にネジ止め等にて固定することができる。延出部21が固定用部材の取り付け部50を有することにより、別途、他の部品として、固定用部材の取り付け部材をベーパーチャンバに装着する必要がない。従って、ベーパーチャンバ4が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0054】
また、ベーパーチャンバ4の固定用部材の取り付け部50は、ピン等の位置決め部材を挿入することで、熱輸送部20を所定の位置に位置決めするための位置決め部として機能する。従って、ベーパーチャンバ4の延出部21は、熱輸送部20の位置決め機能を有することができる。
【0055】
延出部21が熱輸送部20を所定の位置に固定するための位置決め部を有することにより、別途、他の部品として、位置決め部材をベーパーチャンバに装着する必要がない。従って、ベーパーチャンバ4が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0056】
次に、本発明の第5実施形態例に係るベーパーチャンバについて、図面を用いながら説明する。第5実施形態例に係るベーパーチャンバは、第1~第4実施形態例に係るベーパーチャンバと主要な構成要素は共通するので、同じ構成要素については同じ符号を用いて説明する。なお、図5は、本発明の第5実施形態例に係るベーパーチャンバの概要を示す説明図である。
【0057】
図5に示すように、本発明の第5実施形態例に係るベーパーチャンバ5では、延出部21が、ベーパーチャンバ5の固定用部位として機能する。図5では、平坦な平面形状の延出部21が、所望の固定位置に設けられた段差401を有する固定部400に、段差401に沿って載置されることで固定される。従って、ベーパーチャンバ5の延出部21は、熱輸送部20の所定の位置に固定する固定機能を有している。ベーパーチャンバ5では、一方の板状体11の周縁部32と他方の板状体12の周縁部42の両方が、接合部23から外方へ面接触した状態で延出して形成されている。また、ベーパーチャンバ5では、延出部21には、厚さ方向の曲げ部は設けられておらず、平坦となっている。なお、ベーパーチャンバ5では、重力方向上方に位置する発熱体100と熱的に接続されている。
【0058】
延出部21がベーパーチャンバ5を所定の位置に固定する固定機能を有することにより、別途、他の部品として、固定部材をベーパーチャンバに装着する必要がない。従って、ベーパーチャンバ5が搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となり、また、部品点数を低減できる。
【0059】
上記各実施形態例のように、本発明のベーパーチャンバでは、冷却対象である発熱体を冷却する熱輸送部と熱輸送機能以外の他の機能を有する延出部とを備えることにより、熱輸送機能だけでなく熱輸送機能以外の機能も有するので、別途、該熱輸送機能以外の機能を備えた他の部品を設置しなくてもよく、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能となる。また、別途、該熱輸送機能以外の機能を備えた他の部品を設置しなくてもよいので、ベーパーチャンバが搭載される機器の部品点数を低減できる。
【0060】
また、本発明のベーパーチャンバでは、コンテナの空洞部に、350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない金属(図示せず)が配置されていてもよい。空洞部に350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない金属が設けられることにより、前記金属が、水素ガス等の非凝縮性ガスを吸収するため、長期にわたって、優れた熱輸送特性を発揮するベーパーチャンバを得ることができる。
【0061】
350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない金属(以下、「水素吸収金属」ということがある。)の配置部位、配置数は、特に限定されない。水素ガス等の非凝縮性ガスは、コンテナの凝縮部においても凝縮せず気相のまま存在するので、熱輸送部の放熱部(すなわち、作動流体の凝縮部)から熱輸送部の受熱部(すなわち、作動流体の蒸発部)へ還流せずに凝縮部に溜まる傾向にある。従って、効率的に水素ガス等の非凝縮性ガスを吸収する点から、水素吸収金属は、作動流体の凝縮部の少なくとも一部に配置されることが好ましい。
【0062】
また、水素吸収金属は、コンテナの内面に溶接されることで、コンテナに固定されている。さらに、水素吸収金属がコンテナの内面に溶接されることで、コンテナと水素吸収金属の内面に、水素吸収金属の成分とコンテナの成分とを含む合金部が形成されている。
【0063】
合金部は、コンテナと水素吸収金属が溶融して一体となった部位である。一方で、合金部の形成に寄与していない水素吸収金属の部位は、当初の水素吸収金属の成分のままとなっている。
【0064】
上記から、合金部及び合金部の形成に寄与していない水素吸収金属の部位は、いずれも、コンテナの内面上に、コンテナの空洞部に対して露出した状態で配置されており、直接、作動流体と接する態様となっている。
【0065】
コンテナの内部に配置された水素吸収金属のうち、コンテナと合金部を形成する割合は、特に限定されないが、その下限値は、合金部を形成していない水素吸収金属へ円滑に水素を導入する点から2質量%が好ましく、発生した水素ガスを迅速かつ確実に捕捉する点から5質量%がより好ましく、8質量%が特に好ましい。一方で、コンテナの内部に仕込まれた水素吸収金属のうち、コンテナと合金部を形成する割合の上限値は、350℃以下における水素の吸収能力の低下を確実に防止する点から50質量%が好ましく、350℃以下において優れた水素の吸収能力を得る点から40質量%がより好ましく、30質量%が特に好ましい。
【0066】
水素吸収金属の材質としては、特に限定されないが、例えば、チタン合金系、パラジウム合金系、バナジウム合金系、カルシウム合金系またはこれら合金の複合系等を挙げることができる。また、合金部は、例えば、鉄、ニッケル、クロム、チタン及び前記金属のいずれかを含む。
【0067】
水素吸収金属の少なくとも一部が、コンテナと合金部を形成することで、水素吸収金属の、350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない能力、すなわち、350℃以下における水素の吸収能力が向上するので、コンテナの空洞部に水素ガス等の非凝縮性ガスが溜まって真空状態が低下することを防止する。従って、優れた熱輸送特性を有するベーパーチャンバを得ることができる。また、ベーパーチャンバの製造工程における半田付けや溶接等の加工で300℃近くの温度に達しても、350℃以下で水素を吸収し且つ350℃以下で水素を放出しない金属が設けられているので、上記加工工程における水素ガス等の非凝縮性ガス発生に対しても、水素等の非凝縮性ガスを空洞部に放出されることを防止できる。よって、上記加工工程を経ても、優れた熱輸送特性を有するベーパーチャンバを得ることができる。なお、コンテナの空洞部に水素吸収金属が設けられた熱輸送部の場合、コンテナの空洞部に溜まる水素ガス量としては、作動温度50℃における空洞部内の全ガス量の10体積%以下である。
【0068】
上記態様では、コンテナの内面に水素吸収金属が溶接されることで水素吸収金属がコンテナに固定されていたが、これに代えて、水素吸収金属は、ウィック構造体の表面に溶接されており、従って、ウィック構造体に固定されていてもよい。水素吸収金属がウィック構造体の表面に溶接されることで、ウィック構造体と水素吸収金属の表面に、水素吸収金属の成分とウィック構造体の成分とを含む合金部が形成される。
【0069】
上記態様のベーパーチャンバでも、水素吸収金属の、350℃以下における水素ガス等の非凝縮性ガスに対する吸収能力が向上し、ひいては、優れた熱輸送特性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のベーパーチャンバでは、ベーパーチャンバが搭載される機器の省スペース化と軽量化が可能なので、上記各実施形態例の分野に限らず、広汎な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1、2、3、4、5 ベーパーチャンバ
10 コンテナ
11 一方の板状体
12 他方の板状体
13 空洞部
20 熱輸送部
21 延出部
23 接合部
図1
図2
図3
図4
図5