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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20230925BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230925BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/082
B23K26/073
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022211277
(22)【出願日】2022-12-28
(62)【分割の表示】P 2022528922の分割
【原出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2023033352
(43)【公開日】2023-03-10
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020097703
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢康
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】寺田 淳
(72)【発明者】
【氏名】尹 大烈
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】菅 紗世
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊明
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161862(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159857(WO,A1)
【文献】特開2004-025284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
C21D 1/02 - 1/84
C21D 7/00 - 8/10
C21D 9/663 - 11/00
C21F 1/00 - 3/02
H01M 50/536
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射し、
前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、1以上10以下である、溶接方法。
【請求項2】
前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、2以上8以下である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られている、請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記金属部材の前記第一方向の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下であり、かつ前記複数の金属箔の層の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下である、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項5】
前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項1~4のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第二面上で、前記レーザ光を複数回掃引する、請求項1~5のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項7】
前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記第二面上での掃引速度を変更する、請求項1~6のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記第二面上で、前記レーザ光を掃引し、前記第二面上での掃引の途中で前記レーザ光のパワーを変更する、請求項1~7のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項9】
前記金属部材は、めっき付き金属板を含む、請求項1~8のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項10】
前記第二面上において、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットは、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットより広い、請求項1~9のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項11】
前記レーザ光は、前記第二面の法線方向が前記第一方向と略平行な状態で、前記第二面上に照射される、請求項1~10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項12】
前記第二面上において、前記レーザ光によって前記第二面上に形成されるスポットの形状は、当該スポットの中心に対する点対称形状を有する、請求項1~11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項13】
前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とが同軸で照射される、請求項1~12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項14】
前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットの中心と、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットの中心とが略一致する、請求項1~13のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項15】
前記第二面上において、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットと、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットとが、互いにずれている、請求項1~11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項16】
レーザ発振器と、
金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、
を備え、金属部材と複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射し、
前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、1以上10以下である、溶接装置。
【請求項17】
前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えた、請求項16に記載の溶接装置。
【請求項18】
前記レーザ光が前記第二面上で前記第一方向と交差した第二方向に沿う掃引方向に移動するよう、前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えた、請求項16または17に記載の溶接装置。
【請求項19】
前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、ウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記第二面に照射する、請求項16~18のうちいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項20】
前記光学ヘッドは、前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とを同軸で照射する、請求項16~19のうちいずれか一つに記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のタブと端子とがレーザ溶接によって接合されている電池が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-4643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の溶接においては、所要の接合強度の確保は勿論のこと、加工対象に対して、例えばスパッタやブローホールのような溶接欠陥を生じさせないことは、重要である。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、複数の金属箔と金属部材とが重なった積層体を溶接することが可能な、より改善された新規な溶接方法および溶接装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の溶接方法にあっては、例えば、金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側からレーザ光を照射することにより、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射する。
【0007】
前記溶接方法では、前記第二レーザ光の波長は、400[nm]以上500[nm]以下であってもよい。
【0008】
前記溶接方法では、前記レーザ光は、前記第二面上で、前記第一方向と交差した第二方向に沿う掃引方向に掃引され、前記第二面上において、前記第二レーザ光によって前記第二面上に形成される第二スポットの少なくとも一部は、前記第一レーザ光によって前記第二面上に形成される第一スポットよりも前記掃引方向の前方に位置してもよい。
【0009】
前記溶接方法では、前記第二面上において、前記第一スポットと前記第二スポットとは少なくとも部分的に重なってもよい。
【0010】
前記溶接方法では、前記第二面上において、前記第二スポットの第二外縁は、前記第一スポットの第一外縁を取り囲んでもよい。
【0011】
前記溶接方法では、前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、1以上10以下であってもよい。
【0012】
前記溶接方法では、前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、2以上8以下であってもよい。
【0013】
前記溶接方法では、前記第二面における前記第二レーザ光の第二エネルギ密度に対する前記第二面における前記第一レーザ光の第一エネルギ密度の比が、1以上10以下であってもよい。
【0014】
前記溶接方法では、前記金属部材および前記複数の金属箔のそれぞれは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つで作られていてもよい。
【0015】
前記溶接方法では、前記金属部材の前記第一方向の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下であり、かつ前記複数の金属箔の層の厚さが0.05[mm]以上2.0[mm]以下であってもよい。
【0016】
本発明の溶接装置にあっては、レーザ発振器と、金属部材の第一面上に第一方向に重ねられた複数の金属箔に対して、前記金属部材の反対側から、前記レーザ発振器からのレーザ光を照射する光学ヘッドと、を備え、金属部材と複数の金属箔とを溶接する溶接装置であって、前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、前記光学ヘッドは、前記レーザ光を、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上に照射する。
【0017】
前記溶接装置は、前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えてもよい。
【0018】
前記溶接装置は、前記レーザ光が前記複数の金属箔のうち前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面上で前記第一方向と交差した第二方向に沿う掃引方向に移動するよう、前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えてもよい。
【0019】
本発明の金属積層体にあっては、例えば、第一面を有した金属部材と前記第一面上に第一方向に重なった複数の金属箔と、前記金属部材と前記複数の金属箔とを溶接した溶接部と、を備え、前記溶接部は、前記複数の金属箔のうち前記第一方向において前記金属部材から最も離れた金属箔の前記金属部材とは反対側の第二面から前記金属部材に向けて延びた、溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、前記溶接金属は、第一部位と、前記第一方向に沿った断面における結晶粒の断面積の平均値が前記第一部位よりも大きい第二部位と、を有する。
【0020】
前記金属積層体では、例えば、前記第二部位に含まれる結晶粒の断面積の平均値は、前記第一部位に含まれる結晶粒の断面積の平均値の1.8倍以上であってもよい。
【0021】
前記金属積層体では、例えば、前記溶接部は、前記第一方向と交差した第二方向に延びてもよい。
【0022】
本発明の金属積層体にあっては、例えば、金属部材と、当該金属部材上に重ねられた複数の金属箔と、を有し、前記金属部材とは反対側の第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属積層体であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、第一粒界数比率を次の式(3-1)
Rb1=N12/N11 ・・・(3-1)
(ここに、Rb1は、第一粒界数比率、N11は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿った所定の長さの直線試験線と交差した粒界数であり、N12は、前記試験断面において、前記第一表面と直交した方向に延びた前記所定の長さの直線試験線と交差した粒界数である。)と表した場合に、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第三部位と、当該第三部位と前記第一表面との間に位置され前記第一粒界数比率が前記第三部位の前記第一粒界数比率よりも低い第四部位と、を有する。
【0023】
本発明の金属積層体にあっては、例えば、金属部材と、当該金属部材上に重ねられた複数の金属箔と、を有し、前記金属部材とは反対側の第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属積層体であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、第二粒界数比率を次の式(3-2)
Rb2=max(N22/N21,N21/N22) ・・・(3-2)
(ここに、Rb2は、第二粒界数比率、N21は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿う方向および前記第一表面と直交する方向の間の第一方向に延びた所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、N22は、前記試験断面おいて、前記第一方向と直交した第二方向に延びた前記所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、max(N22/N21,N21/N22)は、(N22/N21)が(N21/N22)以上である場合は(N22/N21)とし、(N22/N21)が(N21/N22)未満である場合は(N21/N22)とする。)と表した場合に、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第三部位と、当該第三部位と前記第一表面との間に位置され前記第二粒界数比率が前記第三部位の前記第二粒界数比率よりも高い第四部位と、を有する。
【0024】
本発明の金属積層体にあっては、例えば、金属部材と、当該金属部材上に重ねられた複数の金属箔と、を有し、前記金属部材とは反対側の第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属積層体であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、第一粒界数比率を次の式(3-1)
Rb1=N12/N11 ・・・(3-1)
(ここに、Rb1は、第一粒界数比率、N11は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿った所定の長さの直線試験線と交差した粒界数であり、N12は、前記試験断面において、前記第一表面と直交した方向に延びた前記所定の長さの直線試験線と交差した粒界数である。)と表し、かつ、第二粒界数比率Rb2を次の式(3-2)
Rb2=max(N22/N21,N21/N22) ・・・(3-2)
(ここに、Rb2は、第二粒界数比率、N21は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿う方向および前記第一表面と直交する方向の間の第一方向に延びた所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、N22は、前記試験断面おいて、前記第一方向と直交した第二方向に延びた前記所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、max(N22/N21,N21/N22)は、(N22/N21)が(N21/N22)以上である場合は(N22/N21)とし、(N22/N21)が(N21/N22)未満である場合は(N21/N22)とする。)と表した場合に、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第三部位と、当該第三部位と前記第一表面との間に位置され前記第一粒界数比率が前記第三部位の前記第一粒界数比率よりも低くかつ前記第二粒界数比率が前記第三部位の前記第二粒界数比率よりも高い第四部位と、を有する。
【0025】
本発明の電気部品は、例えば、前記金属積層体を、導体として備える。
【0026】
本発明の電気製品は、例えば、前記金属積層体を、導体として備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、例えば、複数の金属箔と金属部材とが重なった積層体を溶接することが可能な、より改善された新規な溶接方法および溶接装置、ならびに当該溶接方法あるいは当該溶接装置によって溶接された、金属積層体、電気部品、および電気製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図2図2は、第1実施形態のレーザ溶接装置の加工対象としての金属積層体の例示的かつ模式的な断面図である。
図3図3は、第1実施形態のレーザ溶接装置の加工対象としての金属積層体を含む電池の例示的かつ模式的な断面図である。
図4図4は、第1実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)を示す例示的な模式図である。
図5図5は、照射するレーザ光の波長に対する各金属材料の光の吸収率を示すグラフである。
図6図6は、実施形態の溶接部の例示的かつ模式的な断面図である。
図7図7は、実施形態の溶接部の一部を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図8図8は、実施形態のレーザ溶接装置による第一レーザ光のパワーに対する第二レーザ光のパワーの比である出力比と、スパッタ抑制率との相関関係を示すグラフである。
図9図9は、図2の一部の拡大図である。
図10図10は、実施形態の溶接部の断面中の一つの位置について、第一基準線を適用した場合を示す説明図である。
図11図11は、実施形態の溶接部の断面中の一つの位置について、第二基準線を適用した場合を示す説明図である。
図12図12は、第2実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図13図13は、第2実施形態のレーザ溶接装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
図14図14は、第3実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図15図15は、第4実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図16図16は、第5実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図17図17は、第5実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)の一例を示す模式図である。
図18図18は、第5実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0030】
以下に示される実施形態は、同様の構成を備えている。よって、各実施形態の構成によれば、当該同様の構成に基づく同様の作用および効果が得られる。また、以下では、それら同様の構成には同様の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。
【0031】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。X方向は、掃引方向SDであり、Y方向は、掃引の幅方向である。また、Z方向は、加工対象Wの表面Wa(加工面、溶接面)の法線方向であり、金属箔12の厚さ方向であり、金属箔12および金属積層体10の積層方向である。
【0032】
また、本明細書において、序数は、部品や、部材、部位、レーザ光、方向等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0033】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置100の概略構成図である。図1に示されるように、レーザ溶接装置100は、レーザ装置111と、レーザ装置112と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、を備えている。レーザ溶接装置100は、溶接装置の一例である。
【0034】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ発振器を有しており、例えば、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置111,112は、380[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長のレーザ光を出射する。レーザ装置111,112は、内部に、例えば、ファイバレーザや、半導体レーザ(素子)、YAGレーザ、ディスクレーザのような、レーザ光源を有している。レーザ装置111,112は、複数の光源の出力の合計として、数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。
【0035】
レーザ装置111は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置の一例である。一例として、レーザ装置111は、レーザ光源として、ファイバレーザかあるいは半導体レーザ(素子)を有する。レーザ装置111が有するレーザ発振器は、第一レーザ発振器の一例である。
【0036】
他方、レーザ装置112は、500[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置の一例である。一例として、レーザ装置112は、レーザ光源として、半導体レーザ(素子)を有する。レーザ装置112は、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力するのが好適である。レーザ装置112が有するレーザ発振器は、第二レーザ発振器の一例である。
【0037】
光ファイバ130は、それぞれ、レーザ装置111,112から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0038】
光学ヘッド120は、レーザ装置111,112から入力されたレーザ光を、加工対象Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、フィルタ124と、を備えている。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、およびフィルタ124は、光学部品とも称されうる。
【0039】
光学ヘッド120は、加工対象Wの表面Wa上でレーザ光Lの照射を行いながらレーザ光Lを掃引するために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に構成されている。光学ヘッド120と加工対象Wとの相対移動は、光学ヘッド120の移動、加工対象Wの移動、または光学ヘッド120および加工対象Wの双方の移動により、実現されうる。
【0040】
なお、光学ヘッド120は、図示しないガルバノスキャナ等を有することにより、表面Wa上でレーザ光Lを掃引可能に構成されてもよい。
【0041】
コリメートレンズ121(121-1,121-2)は、それぞれ、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0042】
ミラー123は、コリメートレンズ121-1で平行光となった第一レーザ光を反射する。ミラー123で反射した第一レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、フィルタ124へ向かう。なお、第一レーザ光が光学ヘッド120においてZ方向の反対方向へ進むように入力される構成にあっては、ミラー123は不要である。
【0043】
フィルタ124は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。第一レーザ光は、フィルタ124を透過してZ方向の反対方向へ進み、集光レンズ122へ向かう。他方、フィルタ124は、コリメートレンズ121-2で平行光となった第二レーザ光を反射する。フィルタ124で反射した第二レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、集光レンズ122へ向かう。
【0044】
集光レンズ122は、平行光としての第一レーザ光および第二レーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wへ照射する。
【0045】
加工対象Wは、金属部材11と、複数の金属箔12とが、Z方向に積層された金属積層体10である。金属積層体10は、積層体の一例である。金属積層体10は、金属部材11と、複数の金属箔12と、溶接部14と、を有している。溶接部14は、金属部材11と複数の金属箔12とを、機械的かつ電気的に接続している。
【0046】
図2は、金属積層体10の断面図である。金属部材11は、一例として、Z方向と交差して広がった板状の形状を有している。ただし、金属部材11は、板状の部材には限定されない。複数の金属箔12は、金属部材11のZ方向の端面11a上に、Z方向に積層されている。
【0047】
金属積層体10は、レーザ溶接装置100によって溶接されるに際し、不図示の固定治具によって上述した積層状態で一体的に仮止めされ、金属箔12の表面Waの法線方向がZ方向と略平行となる姿勢で、セットされる。固定治具は、例えば、Z方向に互いに離間して配置された2枚の金属板である。当該2枚の金属板は、Z方向と交差した姿勢で、積層された金属部材11と複数の金属箔12とをZ方向に挟む。当該2枚の金属板のうち光学ヘッド120と面した金属板には、レーザ光Lが貫通可能な貫通穴が設けられる。当該貫通穴は、掃引方向SD(X方向)に細長く延びたスリット状の形状を有している。
【0048】
表面Waは、金属積層体10のZ方向の端面であり、複数の金属箔12のうち金属部材11から最も離れた金属箔12の、当該金属部材11とは反対側の面である。レーザ光Lは、表面Waに対してZ方向の反対方向に向けて、言い換えると、表面Waに対して金属部材11とは反対側からZ方向に沿って、照射される。なお、金属部材11の端面11aとは反対側の面は、金属積層体10の裏面Wbである。表面Waは、レーザ光Lの照射面であり、光学ヘッド120と面した対向面とも称されうる。Z方向は、第一方向の一例である。端面11aは、第一面の一例であり、表面Waは、第二面の一例である。また、表面Waは、第一表面の一例でもあり、裏面Wbは、第二表面の一例である。
【0049】
このようなレーザ光Lの照射により、溶接部14は、表面Waから、Z方向の反対方向に向けて延びることになる。Z方向の反対方向は、溶接部14の深さ方向とも称されうる。また、レーザ光Lが表面Wa上でX方向(掃引方向SD)に掃引されることにより、溶接部14は、図2と略同様の断面形状で、X方向にも延びることになる。X方向は、第二方向の一例である。溶接部14の長手方向や延び方向とも称されうる。また、Y方向は、溶接部14の幅方向とも称されうる。
【0050】
溶接部14は、溶接金属14aを含んでいる。溶接金属14aは、表面Waから、金属部材11に向けて延びている。溶接金属14aは、第一部位14a1と、第二部位14a2とを有している。第一部位14a1は、主として第一レーザ光の照射によって形成され、第二部位14a2は、主として第二レーザ光の照射によって形成される。図2の例では、第二部位14a2は、表面WaからZ方向の反対方向に延びている。第二部位14a2は、第一部位14a1に対してZ方向に隣接している。すなわち、第一部位14a1は、第二部位14a2に対してZ方向の反対方向に隣接している。第二部位14a2は、少なくとも複数の金属箔12内に形成されている。第一部位14a1は、複数の金属箔12と金属部材11とに渡って延びている。また、溶接金属14aは、全体として、金属積層体10をZ方向に沿って貫通していない。なお、溶接金属14aの形状は、このような形状には限定されない。第一部位14a1および第二部位14a2を含む溶接金属14aの構造は、後に詳しく述べる。
【0051】
図3は、金属積層体10を有した電気製品としての電池1の断面図である。電池1は、金属積層体10の一つの適用例である。この場合、金属積層体10は、導体としての電気部品の一例であり、電気製品に含まれる電気部品の一例である。電気部品は、電気製品の構成部品とも称されうる。
【0052】
図3に示される電池1は、例えば、ラミネート型のリチウムイオン電池セルである。電池1は、フィルム状の二つの外装材20を有している。二つの外装材20の間には収容室20aが形成されている。収容室20a内には、複数の扁平な正極材13p、複数の扁平な負極材13m、および複数の扁平なセパレータ15が、収容されている。収容室20a内では、正極材13pと負極材13mとが、セパレータ15が間に介在した状態で、交互に積層されている。複数の正極材13pおよび複数の負極材13mからは、それぞれ金属箔12が延びている。図3の例では、正極材13pのそれぞれから延びた複数の金属箔12は、電池1のY方向の反対側の端部において金属部材11上に重ねられ、当該端部において金属部材11と複数の金属箔12とが溶接された金属積層体10が設けられている。正極側では、金属部材11の一部のみが外装材20の外に露出し、金属部材11の他の一部、複数の金属箔12、および溶接部14は、外装材20の外には露出していない。金属部材11は、電池1の正極端子を構成している。他方、負極材13mのそれぞれから延びた複数の金属箔12は、電池1のY方向の端部において金属部材11上に重ねられて、当該端部において金属部材11と複数の金属箔12とが溶接された金属積層体10が設けられている。負極側でも、金属部材11の一部のみが外装材20の外に露出し、金属部材11の他の一部、複数の金属箔12、および溶接部14は、外装材20の外には露出していない。金属部材11は、電池1の負極端子を構成している。
【0053】
図3に示されるように、金属積層体10は、それぞれ、二つの外装材20の間に挟まれている。金属積層体10と外装材20との間は、封止材等により気密あるいは液密が確保される。このため、金属積層体10の表面Waおよび裏面Wbは、凹凸ができるだけ小さいか、少ないか、あるいは無い状態であるのが好ましい。この点、本実施形態の溶接方法によれば、後に詳しく述べるように、溶接不良の発生を抑制することができるため、溶接不良による表面Waの凹凸を減らすことができる。よって、本実施形態の溶接方法によって溶接された金属積層体10は、電池1の正極端子および負極端子に好適である。なお、電池1がリチウムイオン電池セルである場合、正極端子としての金属積層体10を構成する金属箔12は、例えば、アルミニウム系金属材料で作られ、負極端子としての金属積層体10を構成する金属箔12は、例えば、銅系金属材料で作られる。正極端子および負極端子は、電気部品の一例である。金属積層体10または金属部材11は、電極タブや、タブとも称されうる。また、金属部材11は、導電部材とも称されうる。
【0054】
図4は、表面Wa上に照射されたレーザ光Lのビーム(スポット)を示す模式図である。ビームB1およびビームB2のそれぞれは、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、たとえばガウシアン形状のパワー分布を有する。ただし、ビームB1およびビームB2のパワー分布はガウシアン形状に限定されない。また、図4のように各ビームB1,B2を円で表している各図において、当該ビームB1,B2を表す円の直径が、各ビームB1,B2のビーム径である。各ビームB1,B2のビーム径は、そのビームのピークを含み、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義する。なお、図示されないが、円形でないビームの場合は、掃引方向SDと垂直方向における、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義できる。また、表面Waにおけるビーム径は、スポット径と称する。
【0055】
図4に示されるように、本実施形態では、一例として、レーザ光Lのビームは、表面Wa上において、第一レーザ光のビームB1と第二レーザ光のビームB2とが重なり、ビームB2がビームB1よりも大きく(広く)、かつ、ビームB2の外縁B2aがビームB1の外縁B1aを取り囲むよう、形成されている。この場合、ビームB2のスポット径D2は、ビームB1のスポット径D1よりも大きい。表面Wa上において、ビームB1は、第一スポットの一例であり、ビームB2は、第二スポットの一例である。
【0056】
また、本実施形態では、図4に示されるように、表面Wa上において、レーザ光Lのビーム(スポット)は、中心点Cに対する点対称形状を有しているため、任意の掃引方向SDについて、スポットの形状は同じになる。よって、レーザ光Lの表面Wa上での掃引のために光学ヘッド120と加工対象Wとを相対的に動かす移動機構を備える場合、当該移動機構は、少なくとも相対的に並進可能な機構を有すればよく、相対的に回転可能な機構は省略できる場合がある。
【0057】
加工対象Wとしての金属部材11および金属箔12は、それぞれ、導電性を有した金属材料で作られ得る。金属材料は、例えば、銅系金属材料や、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、チタン系金属材料などであり、具体的には、銅や、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、錫、ニッケル、ニッケル合金、鉄、ステンレス、チタン、チタン合金等である。金属部材11および金属箔12は、同じ材料で作られてもよいし、異なる材料で作られてもよい。
【0058】
[波長と光の吸収率]
ここで、金属材料の光の吸収率について説明する。図5は、照射するレーザ光Lの波長に対する各金属材料の光の吸収率を示すグラフである。図5のグラフの横軸は波長であり、縦軸は吸収率である。図5には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、およびチタン(Ti)について、波長と吸収率との関係が示されている。
【0059】
材料によって特性が異なるものの、図5に示されている各金属に関しては、一般的な赤外線(IR)のレーザ光(第一レーザ光)を用いるよりも、青や緑のレーザ光(第二レーザ光)を用いた方が、エネルギの吸収率がより高いことが理解できよう。この特徴は、銅(Cu)や、金(Au)等においては顕著となる。
【0060】
使用波長に対して吸収率が比較的低い加工対象Wにレーザ光が照射された場合、大部分の光エネルギは反射され、加工対象Wに熱としての影響を及ぼさない。そのため、十分な深さの溶融領域を得るには比較的高いパワーを与える必要がある。その場合、ビーム中心部は急激にエネルギが投入されることで、昇華が生じ、キーホールが形成される。
【0061】
他方、使用波長に対して吸収率が比較的高い加工対象Wにレーザ光が照射された場合、投入されるエネルギの多くが加工対象Wに吸収され、熱エネルギへと変換される。すなわち、過度なパワーを与える必要はないため、キーホールの形成を伴わず、熱伝導型の溶融となる。
【0062】
本実施形態では、加工対象Wの第二レーザ光に対する吸収率が、第一レーザ光に対する吸収率よりも高くなるよう、第一レーザ光の波長、第二レーザ光の波長、および加工対象Wの材質が、選択される。この場合、掃引方向が図5に示される掃引方向SDである場合、レーザ光Lのスポットの掃引により、加工対象Wの溶接される部位(以下、被溶接部位と称する)には、まずは、第二レーザ光のビームB2の、図5におけるSDの前方に位置する領域B2fによって、第二レーザ光が照射される。その後、被溶接部位には、第一レーザ光のビームB1が照射され、その後、第二レーザ光のビームB2の、掃引方向SDの後方に位置する領域B2bによって、再度第二レーザ光が照射される。
【0063】
したがって、被溶接部位には、まずは、領域B2fにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、熱伝導型の溶融領域が生じる。その後、被溶接部位には、第一レーザ光の照射によって、より深いキーホール型の溶融領域が生じる。この場合、被溶接部位には、予め熱伝導型の溶融領域が形成されているため、当該熱伝導型の溶融領域が形成されない場合に比べて、より低いパワーの第一レーザ光によって所要の深さの溶融領域を形成することができる。さらにその後、被溶接部位には、領域B2bにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、溶融状態が変化する。このような観点から、第二レーザ光の波長は550[nm]以下とするのが好ましく、500[nm]以下とするのがより好ましい。
【0064】
また、発明者らの実験的な研究により、図4のようなビームのレーザ光Lの照射による溶接にあっては、スパッタやブローホールのような溶接欠陥を低減できることが確認されている。これは、ビームB1が到来する前にビームB2の領域B2fによって加工対象Wを予め加熱しておくことにより、ビームB2およびビームB1によって形成される加工対象Wの溶融池がより安定化するためであると推定できる。
【0065】
さらに、発明者らの実験的な研究により、レーザ光Lの照射によって金属箔12の温度が金属部材11の温度よりも高くなると、複数の金属箔12が熱膨張によって伸び金属部材11から離れて膨らむように撓んで座屈し、複数の金属箔12と金属部材11との間に隙間が生じ、複数の金属箔12だけが溶接されたり、複数の金属箔12と金属部材11との間に隙間が開いた状態で溶接されたりする場合があることが判明した。さらに、発明者らは、適切な条件の設定によって、このような隙間が生じた状態での溶接を防止できることを見出した。当該好適な条件については、後述する。
【0066】
[溶接方法]
レーザ溶接装置100を用いた溶接にあっては、まず、保持具によって金属部材11と複数の金属箔12とが一体的に仮止めされた金属積層体10が、レーザ光Lが表面Waに照射されるようにセットされる。そして、ビームB1およびビームB2を含むレーザ光Lが表面Waに照射されている状態で、レーザ光Lと金属積層体10とが相対的に動かされる。これにより、レーザ光Lが表面Wa上に照射されながら当該表面Wa上を掃引方向SDに移動する(掃引する)。レーザ光Lが照射された部分は、溶融し、その後、温度の低下に伴って凝固することにより、金属部材11と複数の金属箔12とが溶接され、金属積層体10が一体化される。
【0067】
[溶接部の断面]
図6は、加工対象Wに形成された溶接部14の断面図である。図6は、掃引方向SD(X方向)と垂直であるとともに厚さ方向(Z方向)に沿う断面図である。溶接部14は、掃引方向SD、すなわち図6の紙面と垂直な方向に、延びている。なお、図6は、厚さ2[mm]の1枚の銅板である加工対象Wに形成された溶接部14の断面を示している。Z方向に重ねられた金属部材11と複数の金属箔12との金属積層体10に形成される溶接部14の形態は、図6に示される1枚の金属材料である加工対象Wに形成された溶接部14の形態と略同等であると推定できる。
【0068】
図6に示されるように、溶接部14は、表面WaからZ方向の反対方向に延びた溶接金属14aと、当該溶接金属14aの周囲に位置される熱影響部14bと、を有している。溶接金属14aは、レーザ光Lの照射によって溶融し、その後凝固した部位である。溶接金属14aは、溶融凝固部とも称されうる。また、熱影響部14bは、加工対象Wの母材が熱影響を受けた部位であって、溶融はしていない部位である。
【0069】
溶接金属14aのY方向に沿う幅は、表面Waから離れるほど狭くなっている。すなわち、溶接金属14aの断面は、Z方向の反対方向に向けて細くなるテーパ形状を有している。
【0070】
また、発明者らによる当該断面の詳細な分析により、溶接金属14aは、表面Waから離れた第一部位14a1と、第一部位14a1と表面Waとの間の第二部位14a2と、を含むことが判明した。
【0071】
第一部位14a1は、第一レーザ光の照射によるキーホール型の溶融によって得られた部位であり、第二部位14a2は、第二レーザ光のビームB2中の掃引方向SDの後方に位置する領域B2bの照射による溶融によって得られた部位である。EBSD法(electron back scattered diffraction pattern、電子線後方散乱回折)による解析により、第一部位14a1と第二部位14a2とでは、結晶粒のサイズが異なっており、具体的には、X方向(掃引方向SD)と直交する断面において、第二部位14a2の結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1の結晶粒の断面積の平均値よりも大きいことが判明した。
【0072】
発明者らは、加工対象Wに、第一レーザ光のビームB1のみが照射された場合、すなわちビームB2中の掃引方向SDの後方に位置する領域B2bの照射が無かった場合には、第二部位14a2が形成されず、第一部位14a1が表面WaからZ方向の反対方向に深く延びていることを確認した。すなわち、本実施形態にあっては、ビームB2中の掃引方向SDの後方に位置する領域B2bの照射によって、表面Waの近くに第二部位14a2が形成されるため、第一部位14a1は、当該第二部位14a2に対して表面Waとは反対側、言い換えると、表面WaからZ方向の反対方向に離れた位置に、形成されていると推定できる。
【0073】
図7は、溶接部14の一部を示す断面図である。図7は、EBSD法によって得られた結晶粒の境界を示している。また、図7中、一例として結晶粒径が13[μm]以下の結晶粒Aは、黒色に塗られている。なお、13[μm]は、物理的特性の閾値ではなく、当該実験結果の分析のために設定した閾値である。また、図7から、結晶粒Aは、第一部位14a1には比較的多く存在し、第二部位14a2には比較的少なく存在していることが明らかである。すなわち、第二部位14a2内の結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1内の結晶粒の断面積の平均値よりも大きい。発明者らは、実験的な分析により、第二部位14a2内の結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1内の結晶粒の断面積の平均値の1.8倍以上であることを確認した。
【0074】
図7中の領域I内に示されているように、このような比較的サイズが小さい結晶粒Aは、表面WaからZ方向に離れた位置で、Z方向に細長く延びた状態で密集している。また、X方向(掃引方向SD)の位置が異なる複数箇所での分析から、結晶粒Aが密集した領域は、掃引方向SDにも延びていることが確認されている。掃引しながらの溶接であるため、掃引方向SDには結晶が同様の形態に形成されることが推定できる。
【0075】
断面における外観あるいは硬度分布等からは第一部位14a1と第二部位14a2とを判別し難い場合にあっては、図6,7のような、溶接金属14aの表面Waにおける位置および幅wbから幾何学的に定めた第一領域Z1および第二領域Z2を、それぞれ、第一部位14a1および第二部位14a2としてもよい。一例として、第一領域Z1および第二領域Z2は、掃引方向SDと直交する断面において、幅wm(Y方向における等幅)で、Z方向に延びた四角形状の領域であり、第二領域Z2は、表面WaからZ方向に深さdまでの領域とし、第一領域Z1は、深さdよりもさらに深い領域、言い換えると深さdの位置に対して表面Waとは反対側の領域とすることができる。幅wmは、例えば、溶接金属14aの表面Waでの幅wb(ビード幅の平均値)の1/3とし、第二領域Z2の深さd(高さ、厚さ)は、例えば、幅wbの1/2とすることができる。また、第一領域Z1の深さは、例えば、第二領域Z2の深さdの3倍とすることができる。発明者らは、複数サンプルに対する実験的な分析により、このような第一領域Z1および第二領域Z2の設定において、第二領域Z2における結晶粒の断面積の平均値は、第一領域Z1における結晶粒の断面積の平均値よりも大きく、かつ、1.8倍以上となっていたことを確認した。このような判別も、溶接により、溶接金属14aにおいて第一部位14a1と第二部位14a2とが形成されていることの証拠となりうる。
【0076】
また、発明者らは、第一レーザ光の表面Waにおけるエネルギ密度と、第二レーザ光の表面Waにおけるエネルギ密度との比について、実験的に解析を行った。ここでは、各レーザ光について、表面Waにおける実効エネルギ密度Eを、以下の式(1)で定義する。
=Am×P/(D×V) ・・・ (1)
ここに、Eは、実効エネルギ密度[J/mm]、Amは、加工対象Wの材料の吸収率、Pは、レーザ装置によるレーザ光の出力[W]、Dは、表面Waにおけるスポット径[mm]、Vは、掃引速度[mm/s]である。ここでは、下付のnにより、各パラメータを区別しており、n=1は、第一レーザ光のパラメータ、n=2は、第二レーザ光のパラメータを示す。
【0077】
これにより、表面Waにおける、第一レーザ光の実効エネルギ密度Eの、第二レーザ光の実効エネルギ密度Eに対する比Rは、次の式(2)で表せる。
R=E/E ・・・ (2)
なお、比Rは、無次元数である。実効エネルギ密度Eは、第一エネルギ密度の一例であり、実効エネルギ密度Eは、第二エネルギ密度の一例である。
【0078】
発明者らは、比Rが2以上47以下、ならびに、それぞれ第一レーザ光のみの照射、および第二レーザ光のみの照射の各条件において、実験を実施した。発明者らの実験的解析によれば、スパッタの抑制、金属箔12におけるブローホールの抑制、および溶接部14の閾値以上の溶け込み深さという観点で、比Rは、1以上10以下が好適であり、2以上8以下でより一層好適であることが判明した。また、複数の金属箔12と金属部材11との間の隙間に関しては、比Rが1未満のように低い場合に、第二レーザ光の照射によって複数の金属箔12に与えられた熱が金属部材11に届かず、複数の金属箔12が主に加熱されてしまい、これにより当該金属箔12が伸びて撓んで座屈し、当該隙間が生じることが判明した。すなわち、発明者らは、比Rを1以上とすることで複数の金属箔12と金属部材11との間に隙間が生じるのを防止できることを、見出した。
【0079】
比Rについては、具体的に、厚さ8[μm]の無酸素銅製の金属箔12を50枚重ねて金属部材11に溶接する場合にあっては、第一レーザ光のビームB1の出力が500[W]以上であり、第二レーザ光のビームB2が100[W]以上であり、かつ比Rが略6である場合に、スパッタやブローホールが最少となる最良の溶接状態が得られた。また、厚さ8[μm]の無酸素銅製の金属箔12を100枚重ねて金属部材11に溶接する場合にあっては、第一レーザ光のビームB1の出力が1000[W]以上であり、第二レーザ光のビームB2が400[W]以上であり、かつ比Rが略3.7である場合に、スパッタやブローホールが最少となる最良の溶接状態が得られた。
【0080】
また、発明者らは、金属部材11のZ方向の厚さが実用上想定される範囲である0.05[mm]以上2.0[mm]以下であり、かつ複数の金属箔12の層のZ方向の厚さが実用上想定される範囲である0.05[mm]以上2.0[mm]以下である場合について、実験的な解析を行った。金属部材11および複数の金属箔12の層は、厚さが薄いと、熱の拡散が抑制されるため、レーザ光が照射された際に、急激な温度上昇による材料の昇華が生じ、ひいては切断されてしまう虞がある。この点、発明者らは、当該実験的な解析により、金属部材11および複数の金属箔12の層については、Z方向の厚さが0.05[mm]以上であれば、そのような切断が生じないことを確認した。
【0081】
[第一レーザ光と第二レーザ光の出力比によるスパッタの抑制]
図8は、第一レーザ光のパワー(Pw1)に対する第二レーザ光のパワー(Pw2)の比である出力比(Rp=Pw2/Pw1)と、スパッタ抑制率との相関関係を示すグラフである。ここで、スパッタ抑制率Rsは、以下の式(3)のように定義する。
Rs=1-Nh/Nir ・・・(3)
ここに、Nhは、第一レーザ光と第二レーザ光との双方を照射した場合に所定エリア内に生じたスパッタ数であり、Nirは、Nhの計測時と同じパワーで第一レーザ光のみを照射した場合に所定エリア内に生じたスパッタ数である。また、図8は、各出力比において複数回実験を行った結果を示している。出力比に対応した線分は当該出力比における複数サンプル(少なくとも3サンプル以上)の実験結果におけるスパッタ抑制率のばらつきの範囲を示し、□は、出力比毎のスパッタ抑制率の中央値を示している。
【0082】
図8に示されるように、発明者らの実験的な研究により、出力比Rpは、0.1以上かつ0.18未満である場合が好ましく(○)、0.18以上かつ0.3未満である場合により好ましく(◎)、0.3以上かつ2以下である場合により一層好ましい(◎◎)ことが判明した。
【0083】
[結晶粒の向きによる部位の区別]
図9は、図2の一部の拡大図である。発明者らの実験的な研究により、図9に示されるように、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射により形成された溶接部14にあっては、表面Waからの深さに応じて結晶粒の向き(長手方向、成長方向)が異なることが判明した。これは、第一レーザ光の照射によるキーホール型の溶融によって得られた第三部位14a3と、第二レーザ光のビームB2中の掃引方向の後方に位置する領域B2bの照射による溶融によって得られた第四部位14a4とで、凝固時の結晶粒の成長の状況が異なることに起因するものと考えられる。ここで、第三部位14a3は、表面Waから離れて位置された部位であって、上述した第一部位14a1に相当する部位である。また、第四部位14a4は、第三部位14a3と表面Waとの間に位置した部位であって、上述した第二部位14a2に相当する部位である。
【0084】
このような構成を数値的に表すため、発明者らは、JIS G 0551:2020のA.2:切断法に準拠し、溶接部14内の各部における結晶粒の向き(長手方向)を表す指標を定義した。
【0085】
具体的には、図9に示されるように、断面の画像において、互いに直交した2本の直線試験線を含む二種類の第一基準線R1および第二基準線R2を用いる。図9において、第一基準線R1は、実線で示されており、第二基準線R2は、破線で示されている。第一基準線R1は、直線試験線L11,L12として、基準円R0の互いに直交する2本の直径を有しており、一つの直線試験線L11は、表面Waに沿うX方向(掃引方向)に延びており、もう一つの直線試験線L12は、表面Waと直交するZ方向に延びている。また、第二基準線R2は、直線試験線L21,L22として、第一基準線R1と同じ基準円R0の互いに直交する2本の直径を有しており、一つの直線試験線L21は、X方向とZ方向との間の方向に延びており、もう一つの直線試験線L12は、X方向の反対方向とZ方向の間の方向、あるいはZ方向の反対方向とX方向の間の方向に、延びている。直線試験線L11と直線試験線L21との間の角度差は45°または135°であり、直線試験線L12と直線試験線L22との間の角度差は45°または135°である。基準円R0の直径の長さ、すなわち、直線試験線L11,L12,L21,L22の長さは、一例としては、200[μm]に対応する長さ(所定の長さ、の一例)であるが、結晶粒の大きさに応じて、適宜に設定することができる。
【0086】
そして、溶接部14内の各点Pにおいて、第一基準線R1および第二基準線R2を適用し、次の式(3-1),(3-2)により、第一粒界数比率Rb1および第二粒界数比率Rb2を求める。
Rb1=N12/N11 ・・・(3-1)
Rb2=max(N22/N21,N21/N22) ・・・(3-2)
ここに、N11は、直線試験線L11と交差する結晶粒の数であり、N12は、直線試験線L12と交差する結晶粒の数である。N21は、直線試験線L21と交差する結晶粒の数であり、N22は、直線試験線L22と交差する結晶粒の数である。結晶粒の数は、粒界数とも称されうる。また、式(3-2)において、(N22/N21)が(N21/N22)以上である場合、max(N22/N21,N21/N22)は(N22/N21)であり、(N22/N21)が(N21/N22)未満である場合、max(N22/N21,N21/N22)は(N21/N22)である。実際の測定では、50倍で撮影されたX-Z断面の顕微鏡写真において、任意の所定箇所以上、例えば10箇所以上で上記の測定を行い、その平均値をそれぞれRb1,Rb2とすることができる。尚、溶接部14内のある点PにおいてN11,N12,N21,N22のいずれかが0となる場合、当該点Pでの粒界数はRb1,Rb2の算出に用いなくてよい。
【0087】
図10,11は、溶接部14の断面内の一つの点Pについて、第一基準線R1を適用した場合(図10)、および第二基準線R2を適用した場合(図11)を示す模式的な説明図である。図10,11に示されるように、結晶粒A(粒界)が直線試験線L11,L12,L21,L22と交差する数は、それぞれ異なっている。図10,11の例では、直線試験線L21と結晶粒Aとの角度差が比較的小さいため、粒界数N21が、他の粒界数N11,N12,N22よりも小さくなる。よって、図10,11の例に示す点Pは、第二粒界数比率Rb2が第一粒界数比率Rb1よりも高い点Pということになる。同様に、上述した定義においては、基準円R0内において結晶粒Aの長手方向とX方向との角度差が比較的小さい点Pでは、第一粒界数比率Rb1が比較的高くなるとともに第二粒界数比率Rb2よりも大きくなる。また、結晶粒Aの長手方向とX方向およびZ方向の間の方向(45°方向)との角度差が比較的小さい点Pにおいては、第二粒界数比率Rb2が比較的高くなるとともに第一粒界数比率Rb1よりも大きくなる。
【0088】
発明者らの実験的な研究により、第四部位14a4内の各点Pにおける第一粒界数比率Rb1は、第三部位14a3内の各点Pにおける第一粒界数比率Rb1よりも低いことが判明した。また、第四部位14a4内の各点Pにおける第二粒界数比率Rb2は、第三部位14a3内の各点Pにおける第二粒界数比率Rb2よりも高いことが判明した。また、第三部位14a3内の各点Pにおいては、第一粒界数比率Rb1が第二粒界数比率Rb2よりも高く、第四部位14a4内の各点Pにおいては、第二粒界数比率Rb2が第一粒界数比率Rb1よりも高いことが判明した。溶接部14内にこのような第一粒界数比率Rb1および第二粒界数比率Rb2の異なる部位が存在していることは、加工対象Wにおいて強固な溶接強度を実現する要因と考えられるとともに、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射による溶接が行われたことの証拠となりうる。
【0089】
以上、説明したように、本実施形態の溶接方法にあっては、例えば、金属部材11の端面11a(第一面)上に複数の金属箔12がZ方向(第一方向)に重なった金属積層体10(積層体)に、複数の金属箔12に対して金属部材11の反対側からZ方向に沿って、言い換えると、Z方向の反対方向にレーザ光Lを照射する。これにより、金属部材11と複数の金属箔12とが溶接部14を介して溶接された金属積層体10が得られる。
【0090】
仮に、金属部材11に照射したレーザ光Lによって金属部材11および複数の金属箔12の全てを溶接する場合には、溶接部14を形成する溶融領域(溶融池)が金属部材11から複数の金属箔12の全てを貫通する必要がある。この場合、レーザ光Lの出力が小さ過ぎる場合には、金属部材11から遠い金属箔12には溶接部14が届かず当該金属箔12が接合されなかったり、逆にレーザ光Lの出力が大きすぎる場合には、金属部材11から遠い金属箔12が破れたり、といった、溶接不良が生じる虞がある。この点、本実施形態の構成および方法によれば、上述したように、金属部材11の反対側から金属箔12にレーザ光Lを照射することにより溶接部14を形成するため、複数の金属箔12を貫通するとともに金属部材11に届く溶接部14をより容易に形成することができるとともに、金属部材11にレーザ光Lを照射した場合に生じる上述した不都合な事象を回避できる。また、複数の金属箔12の層においてレーザ光の照射当初からキーホール型の溶融状態が生じた場合には、金属箔12のブローホール等の溶接不良が生じる虞がある。この点、本実施形態では、複数の金属箔12に対するレーザ光の照射当初から、当該複数の金属箔12の層において、第二レーザ光の作用による熱伝導型の溶融状態が得られるため、金属箔12のブローホールのような溶接不良を回避することができる。
【0091】
また、本実施形態では、例えば、第二レーザ光の波長は、400[nm]以上500[nm]以下である。
【0092】
このような構成および方法によれば、例えば、よりスパッタが少ないかあるいは無くかつ金属箔12のブローホールが生じていないより高品質な金属積層体10を得ることができる。
【0093】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、第二レーザ光のビームB2(第二スポット)の少なくとも一部は、第一レーザ光のビームB1(第一スポット)よりも掃引方向SDの前方に位置している。
【0094】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、ビームB1とビームB2とは少なくとも部分的に重なっている。
【0095】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、ビームB2は、ビームB1よりも広い。
【0096】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、ビームB2の外縁B2a(第二外縁)は、ビームB1の外縁B1a(第一外縁)を取り囲んでいる。
【0097】
上述したように、発明者らは、表面Wa上にこのようなビームB1,B2を形成するレーザ光Lのビームの照射による溶接にあっては、スパッタやブローホールをより一層低減できることを確認した。これは、上述したように、ビームB1が到来する前にビームB2の領域B2fによって加工対象Wを予め加熱しておくことにより、ビームB2およびビームB1によって形成される加工対象Wの溶融池がより安定化するためであると推定できる。よって、このようなビームB1,B2を有したレーザ光Lによれば、例えば、よりスパッタやブローホールの少ないより溶接品質の高い溶接を実行することができる。また、このようなビームB1,B2の設定によれば、例えば、第一レーザ光のパワーをより低くすることができるという利点も得られる。また、ビームB1とビームB2とが同軸で照射される場合にあっては、光学ヘッド120と加工対象Wとの相対的な回転が不要となるという利点も得られる。
【0098】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa(第二面)における第二レーザ光の実効エネルギ密度E(第一エネルギ密度)に対する表面Waにおける第一レーザ光の実効エネルギ密度E(第一エネルギ密度)の比が、1以上10以下である。
【0099】
このような構成および方法によれば、例えば、より一層高品質な金属積層体10を得ることができる。
【0100】
また、本実施形態では、例えば、加工対象Wは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれかで作られる。
【0101】
本実施形態の溶接方法による効果は、加工対象Wが上記材料のうちのいずれかで作られている場合に、得られる。
【0102】
[第2実施形態]
図12は、第2実施形態のレーザ溶接装置100Aの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-1とミラー123との間に、DOE125を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Aは、第1実施形態のレーザ溶接装置100と同様の構成を備えている。
【0103】
DOE125は、第一レーザ光のビームB1の形状(以下、ビーム形状と称する)を成形する。図13に概念的に例示されるよう、DOE125は、例えば、周期の異なる複数の回折格子125aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE125は、平行光を、各回折格子125aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、ビーム形状を成形することができる。DOE125は、ビームシェイパとも称されうる。
【0104】
なお、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-2の後段に設けられ第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパや、フィルタ124の後段に設けられ第一レーザ光および第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパ等を有してもよい。ビームシェイパによってレーザ光Lのビーム形状を適宜に整えることにより、溶接においてスパッタやブローホールの発生をより一層抑制することができる。
【0105】
[第3実施形態]
図14は、第3実施形態のレーザ溶接装置100Bの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、フィルタ124と集光レンズ122との間に、ガルバノスキャナ126を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Bは、第1実施形態のレーザ溶接装置100と同様の構成を備えている。
【0106】
ガルバノスキャナ126は、2枚のミラー126a,126bを有しており、当該2枚のミラー126a,126bの角度を制御することで、光学ヘッド120を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させ、レーザ光Lを掃引することができる装置である。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば不図示のモータによって変更される。このような構成によれば、光学ヘッド120と加工対象Wとを相対的に移動する機構が不要になり、例えば、装置構成を小型化できるという利点が得られる。
【0107】
[第4実施形態]
図15は、第4実施形態のレーザ溶接装置100Cの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-2とフィルタ124との間に、DOE125(ビームシェイパ)を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Cは、第3実施形態のレーザ溶接装置100Bと同様の構成を備えている。このような構成によれば、ガルバノスキャナ126を有することによる第3実施形態と同様の効果、およびDOE125(ビームシェイパ)を有することによる第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0108】
なお、本実施形態においても、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-1の後段に設けられ第一レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパや、フィルタ124の後段に設けられ第一レーザ光および第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパ等を有してもよい。
【0109】
[第5実施形態]
図16は、第5実施形態のレーザ溶接装置100Dの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、それぞれ別のボディ(ハウジング)によって構成された、第一レーザ光L1を照射する第一部位120-1と、第二レーザ光L2を照射する第二部位120-2と、を備えている。このような構成によっても、上記実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0110】
図17,18は、レーザ溶接装置100Dによって表面Wa上に形成されたレーザ光のビームB1,B2の例を示している。図17,18に示されるように、レーザ溶接装置100Dによれば、第一部位120-1と第二部位120-2との相対位置や姿勢の設定により、ビームB1,B2の相対位置を、任意に設定することができる。発明者らの研究により、表面Wa上において、図17,18のように、ビームB2(第二スポット)の少なくとも一部がビームB1(第一スポット)よりも掃引方向SDの前方に位置している場合、およびビームB1とビームB2とが互いに接するかあるいは少なくとも部分的に重なっている場合においては、ビームB2の予熱効果による第1実施形態と同様の効果が得られることが判明している。また、ビームB2の少なくとも一部がビームB1よりも掃引方向SDの前方に位置している場合にあっては、ビームB1とビームB2とは微少距離離間していてもよいことも判明している。なお、図17,18は、それぞれ一例に過ぎず、レーザ溶接装置100Dによって得られるビームB1,B2の配置や各ビームB1,B2のサイズは、図17,18の例には限定されない。
【0111】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0112】
例えば、本発明は、上記実施形態とは異なる構成のリチウムイオン電池セルにも適用可能であるし、リチウムイオン電池セル以外の電池にも適用可能である。また、電池は電気製品の一例であって、本発明の電気製品は、電池には限定されない。また、電池の端子は、電気部品の一例であって、本発明の電気部品は、電池の端子には限定されない。
【0113】
また、加工対象に対してレーザ光を掃引する際に、公知のウォブリングやウィービングや出力変調等により掃引を行い、溶融池の表面積を調節するようにしてもよい。
【0114】
また、加工対象に対してレーザ光を複数回掃引してもよい。この場合に、[1]後の掃引におけるレーザ光のパワーを、前の掃引におけるレーザ光のパワーよりも低くまたは高くしたり、[2]後の掃引における掃引速度を、前の掃引における掃引速度よりも速くまたは遅くしたり、[3]後の掃引におけるレーザ光のパワーを、前の掃引におけるレーザ光のパワーよりも高くするとともに、後の掃引における掃引速度を、前の掃引における掃引速度よりも速くしたりしてもよい。
【0115】
また、加工対象は、めっき付き金属板のように、金属の表面に薄い他の金属の層が存在するものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、溶接方法、溶接装置、金属積層体、電気部品、および電気製品に、利用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1…電池(電気製品)
10…金属積層体(積層体、電気部品)
11…金属部材
11a…端面(第一面)
12…金属箔
13p…正極材
13m…負極材
14…溶接部
14a…溶接金属
14a1…第一部位
14a2…第二部位
14a3…第三部位
14a4…第四部位
14b…熱影響部
15…セパレータ
20…外装材
20a…収容室
100,100A~100D…レーザ溶接装置(溶接装置)
111…レーザ装置(第一レーザ発振器)
112…レーザ装置(第二レーザ発振器)
120…光学ヘッド
120-1…第一部位
120-2…第二部位
121,121-1,121-2…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
124…フィルタ
125…DOE(回折光学素子)
125a…回折格子
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
A…結晶粒
Am…吸収率
B1…ビーム(第一スポット)
B1a…外縁
B2…ビーム(第二スポット)
B2a…外縁
B2b…領域
B2f…領域
C…中心点
D1…スポット径(外径)
D2…スポット径(外径)
…スポット径
d…深さ
E…実効エネルギ密度
…実効エネルギ密度(第一エネルギ密度)
…実効エネルギ密度(第二エネルギ密度)
I…領域
L…レーザ光
L1…第一レーザ光
L2…第二レーザ光
L11,L12,L21,L22…直線試験線
N11,N12,N21,N22…粒界数
P…点
…出力
R…比
R0…基準円
R1…第一基準線
R2…第二基準線
Rb1…第一粒界数比率
Rb2…第二粒界数比率
SD…掃引方向
V…掃引速度
W…加工対象
Wa…表面(第二面)
Wb…裏面
wb…(溶接金属の表面での)幅
wm…(第一領域および第二領域の)幅
X…方向(第二方向)
Y…方向
Z…方向(第一方向)
Z1…第一領域(第一部位)
Z2…第二領域(第二部位)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18