(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ジエステル系化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20230926BHJP
C07C 69/82 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/82 A
(21)【出願番号】P 2022514656
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 KR2021011087
(87)【国際公開番号】W WO2022108051
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】10-2020-0154015
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェオン、ジャエ フン
(72)【発明者】
【氏名】チョー、ヨン ウク
(72)【発明者】
【氏名】リー、スン キュ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107935846(CN,A)
【文献】国際公開第2020/204558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反応ユニットから第n反応ユニットまでの総n個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含む連続式工程で行われ、
それぞれの前記反応ユニットはそれぞれの反応器および層分離器を含み、
前記第1反応ユニットの反応器である第1反応器にジカルボン酸およびアルコールを含むフィードストリームを供給し、エステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームを後段反応ユニットの反応器に供給するステップ(S10)と、
前記第1反応器の上部排出ストリームを第1層分離器に供給し、前記第1層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームを前記第1反応器に還流させるステップ(S20)と、
第2反応器~第n反応器のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを各前記反応器に還流させるステップ(S30)と
を含む、ジエステル系化合物の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つ以上の反応器は、前記第2反応器~第n反応器のうち転換率が50~99%に達する反応器である、請求項1に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項3】
前記(S30)ステップは、前記第2反応器~第n反応器のうち転換率が50~99%に達する反応器から、第3反応器~第n反応器のうち何れか1つの反応器まで、各反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させるステップを含む、請求項1または2に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項4】
各前記反応器からアルコールおよび水を含む上部排出ストリームをカラムに供給して気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮させて前記層分離器に供給し、液相は下部排出ストリームとして前記各反応器に供給する、請求項1から3のいずれか一項に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項5】
前記第1反応ユニットの反応器である第1反応器~前記第n-1反応ユニットの反応器である第n-1反応器からアルコールおよび水を含む上部排出ストリームをカラムに供給して気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮させて前記層分離器に供給し、液相は下部排出ストリームとして前記各反応器に供給する、請求項1から3のいずれか一項に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項6】
前記層分離器において水層とアルコール層を分離させ、アルコールを含む下部排出ストリームを前記カラムの上部に供給して通過させた後に前記各反応器に還流させる、請求項4または5に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項7】
前記(S30)ステップは、前記第2反応器~第n反応器のうち転換率が50~99%に達する反応器から第n反応器まで、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させる、請求項3に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項8】
前記フィードストリーム中のジカルボン酸およびアルコールのモル比は1:2~1:10である、請求項1から7のいずれか一項に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項9】
前記(S30)ステップにおいて、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させ、
前記各層分離器の下部排出ストリームのうち残りのストリームは、前記フィードストリームとして再使用する、請求項1に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項10】
前記nは2~8である、請求項1から9のいずれか一項に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【請求項11】
前記ジカルボン酸はテレフタル酸を含み、前記アルコールは2-エチルヘキサノールを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のジエステル系化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月17日付けの韓国特許出願第10-2020-0154015号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、ジエステル系化合物の製造方法に関し、より詳しくは、連続式工程によりジエステル系化合物を製造する際、装置の大きさおよび反応器に供給されるエネルギー使用量を最小化することができる、ジエステル系化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フタレート系可塑剤は、20世紀まで世界の可塑剤市場の92%を占めており、主にポリ塩化ビニル(PVC)に柔軟性、耐久性、耐寒性などを付与し、溶融粘度を下げて加工性を改善するために用いられる添加物であって、PVCに多様な含量で投入され、硬いパイプのような硬質製品から、柔らかくてよく伸長する食品包装材、血液バッグ、および床材などに使用可能な軟質製品に至るまで、その如何なる材料よりも実生活と密接な関わりを有しており、人体との直接的な接触が不可避な用途として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、フタレート系可塑剤のPVCとの相溶性および優れた軟質付与性にもかかわらず、最近、フタレート系可塑剤が含有されたPVC製品の実生活での使用時、製品の外部に少しずつ流出され、内分泌系障害(環境ホルモン)推定物質および重金属水準の発癌物質として作用し得るという有害性の論難が提起されている。特に、1960年代、米国で、フタレート系可塑剤のうちその使用量が最も多いジ(2-エチルヘキシル)フタレート(di-(2-ethylhexyl)phthalate、DEHP)が、PVC製品の外部に流出されるという報告が発表されて以来、1990年代に入ってからは環境ホルモンに対する関心がさらに増し、フタレート系可塑剤の人体有害性に対する多様な研究が行われ始めた。
【0005】
そこで、多くの研究者らは、ジエステルベースのフタレート系可塑剤、特に、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートの流出による環境ホルモン問題および環境規制に対応するために、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートから代替可能な、環境に優しい可塑剤の開発および工程を改善するために研究を進行しつつある。
【0006】
一方、前記ジエステルベースの可塑剤を製造する工程は、大部分の産業現場では回分式工程が適用されており、回分式工程として、反応器内の未反応物の還流および副反応物の効率的な除去のためのシステムが開発された。しかし、前記回分式工程によりジエステルベースの可塑剤を製造することは、還流量やスチーム量の改善に限界があり、生産性が非常に低く、問題を改善するために適用可能な技術的限界がある状態である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、前記発明の背景となる技術において言及した問題を解決するために、環境に優しい可塑剤としてジエステル系化合物を連続式工程により製造するが、装置の大きさおよび反応器に供給されるエネルギー使用量を最小化することができる、ジエステル系化合物の製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1反応ユニットから第n反応ユニットまでの総n個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含む連続式工程で行われ、それぞれの前記反応ユニットはそれぞれの反応器および層分離器を含み、前記第1反応ユニットの反応器である第1反応器にジカルボン酸およびアルコールを含むフィードストリームを供給し、エステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームを後段反応ユニットの反応器に供給するステップ(S10)と、前記第1反応器の上部排出ストリームを第1層分離器に供給し、前記第1層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームを前記第1反応器に還流させるステップ(S20)と、第2反応器~第n反応器のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを各前記反応器に還流させるステップ(S30)とを含む、ジエステル系化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ジエステル系化合物を連続式工程により製造する際、第2反応器~第n反応器のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させることで、各反応器内のアルコールの過量率を一定に維持することができ、これにより、装置の大きさおよび反応器に供給されるエネルギー使用量を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【
図9】本発明の比較例1に係るジエステル系化合物の製造方法に対する工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の説明および特許請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0012】
本発明において、用語「上部」は、容器内の装置の全体高さから50%以上の高さに該当する部分を意味し、「下部」は、容器内の装置の全体高さから50%未満の高さに該当する部分を意味し得る。
【0013】
本発明において、用語「ストリーム(stream)」は、工程中の流体(fluid)の流れを意味し得るし、また、配管内に流れる流体自体を意味し得る。具体的に、前記「ストリーム」は、各装置を連結する配管内に流れる流体自体および流体の流れを同時に意味し得る。また、前記流体は、気体(gas)または液体(liquid)を意味し得る。前記流体に固体成分(solid)が含まれている場合に対して排除するものではない。
【0014】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明について
図1~
図4を参照してより詳細に説明する。
本発明によると、ジエステル(Diester)系化合物の製造方法が提供される。前記製造方法は、
図1~
図2を参照すると、第1反応ユニット10から第n反応ユニットn0までの総n個の反応ユニット10、20、n0が直列に連結された反応部を含む連続式工程で行われ、前記各反応ユニット10、20、n0は第1反応器11から第n反応器n1までのそれぞれの反応器11、21、n1、および第1層分離器14から第n層分離器n4までのそれぞれの層分離器14、24、n4を含み、前記第1反応器11にジカルボン酸およびアルコールを含むフィードストリームを供給し、エステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームを後段反応ユニットの反応器に供給するステップ(S10)と、前記第1反応器11の上部排出ストリームを第1層分離器に供給し、前記第1層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームを前記第1反応器11に還流させるステップ(S20)と、第2反応器21~第n反応器n1のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させるステップ(S30)とを含むことができる。
【0015】
本発明の一実施形態によると、前記ジエステル系化合物の製造は、第1反応ユニット10から第n反応ユニットn0までの総n個の反応ユニット10、20、n0が直列に連結された反応部を含む連続式工程で行われることができる。
【0016】
具体的に、従来は、ジエステル系化合物を製造するにおいて、回分式製造工程が適用された。しかし、前記回分式工程によりジエステル系化合物を製造することは、還流量やスチーム量の改善に限界があり、生産性が非常に低く、問題を改善するために適用可能な技術的限界がある。
【0017】
また、上述した回分式工程の問題を解決するために、ジエステル系化合物の製造時、2器以上の反応器を直列に連結して反応部を構成している連続式製造工程が開発された。しかし、この場合には、反応器内のジカルボン酸と対比してアルコールの過量率を維持して反応性を保障するために、前記各反応器の上部から気化するアルコールを含むストリームを前記各反応器に全量還流させたが、この場合、後段反応器に行くほど、ジカルボン酸の量が減少するのに対し、アルコールの過量率が増加することとなり、各反応器内の過量のアルコールを気化させるためのエネルギー使用量が増加し、かかる過量のアルコールの気化量を処理するための装置の大きさが不可避に増大して設置費用が増加するという問題があった。
【0018】
これに対し、本発明においては、前記ジエステル系化合物を連続式工程により製造する際、第2反応器~第n反応器のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させることで、各反応器内のアルコールの過量率を一定に維持することができ、これにより、装置の大きさおよび反応器に供給されるエネルギー使用量を最小化した。
【0019】
本発明において、用語「過量率」は、反応器内で、化学量論的に必要なジカルボン酸とアルコールのモル比と対比して、反応性を保障するためにアルコールが過量に存在する比率を意味し得る。
【0020】
本発明の一実施形態によると、前記反応ユニットは、第1反応器から第n反応器までの総n個の反応器を含むことができる。具体的な例として、前記反応器は、ジカルボン酸およびアルコールをエステル化反応させる反応器であってもよい。
【0021】
前記エステル化反応は、ジカルボン酸およびアルコールを反応器に供給し、触媒の存在下でジカルボン酸とアルコールが直接エステル化反応することができる。このように、ジカルボン酸とアルコールのエステル化反応により、ジエステル系化合物および副産物として水が生成されることができる。前記直接エステル化反応を行うことができる運転温度、運転圧力、時間、触媒の種類、および含量は、当業界に適用される一般的な条件をそのまま適用するか、または、場合によっては、工程の運営に適切に調節して適用することができる。
【0022】
前記ジカルボン酸およびアルコールは、反応器に供給する前にプレミキサーを介して混合して混合物として一括投入するか、またはそれぞれの別の供給ラインを備えて反応器に一括投入することができる。
【0023】
前記ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの芳香族多価カルボン酸;およびアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸などの飽和または不飽和の脂肪族多価カルボン酸からなる群から選択された1種以上を含むことができる。具体的な例として、前記ジカルボン酸は、テレフタル酸であってもよい。
【0024】
前記アルコールは、例えば、炭素数4~13、5~12、または6~10の1価アルコールであってもよい。例えば、前記1価アルコールは、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、第2級ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、n-ヘプチルアルコール、n-オクチルアルコール、2-エチルヘキサノール、iso-オクチルアルコール、iso-ノニルアルコール、n-ノニルアルコール、iso-デシルアルコール、n-デシルアルコール、ウンデシルアルコール、トリデシルアルコールなどの直鎖または分岐鎖アルコールを含むことができる。具体的な例として、前記アルコールは、2-エチルヘキサノールであってもよい。
【0025】
前記アルコールは、前記ジカルボン酸と反応するのに必要な化学量論量と対比して過剰量で反応器に供給されることができる。例えば、前記エステル化反応において、前記ジカルボン酸とアルコールのモル比は、1:2~1:10、1:2~1:5、または1:2~1:4.5であってもよい。これにより、前記第1反応器11に供給されるフィードストリーム中のジカルボン酸およびアルコールのモル比は、1:2~1:10、1:2~1:5、または1:2~1:4.5であってもよい。前記第1反応器11に反応物としてジカルボン酸とアルコールを前記範囲のモル比で供給することで、スチーム使用量を最小化しつつエステル化反応の正反応速度を制御し、目的とする転換率に容易に達することができる。
【0026】
前記触媒は、例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの酸触媒;テトライソプロピルチタン酸塩、テトラブチルチタン酸塩、テトラ-2-エチルヘキシルチタネートなどのアルキルチタネート触媒;およびジブチル酸化スズ、ブチルスズマレートなどの有機金属触媒からなる群から選択された1種以上を含むことができる。具体的な例として、前記触媒としては、アルキルチタネートに代表される有機チタン化合物を用いることができ、これにより、エステル化反応速度を増加させ、反応時間を短縮させることができる。
【0027】
前記反応器の運転温度は、例えば、130~250℃、140~240℃、または150~230℃であってもよい。この際、前記反応器の運転温度は、第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器の運転温度を個別的に意味し得る。より具体的に、前記第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器は、前記温度範囲内で同一にまたは個別的に制御することができる。
【0028】
前記反応器の運転圧力は、0~4kg/cm2G、0~2kg/cm2G、または0~1kg/cm2Gであってもよい。この際、前記反応器の運転圧力は、第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器を個別的に意味し得る。より具体的に、前記第1反応ユニット~第n反応ユニットそれぞれの反応器は、前記圧力範囲内で同一にまたは個別的に制御することができる。
【0029】
本発明の一実施形態によると、前記ジカルボン酸はテレフタル酸であり、前記アルコールは2-エチルヘキサノールであってもよい。このように、テレフタル酸と2-エチルヘキサノールを触媒の存在下で反応器に投入してエステル化反応させる場合、ジエステル系物質としてジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)が製造されることができる。前記ジオクチルテレフタレートは、無毒性の環境に優しい可塑剤として広く用いられている物質であって、PVCなどの高分子材料との相溶性に優れ、低揮発性および電気特性に優れた特徴を有することができる。
【0030】
本発明の一実施形態によると、前記反応部は、総n個の反応ユニットが直列連結されて構成されたものであって、反応の転換率の制御および各反応ユニットでの滞留時間などを考慮し、達成しようとする製品の組成を考慮して設計されることができる。例えば、前記nは、2~8、3~7、または4~6であってもよい。すなわち、前記反応部は、2~8個、3~7個、または4~6個の反応ユニットを含むことができる。
【0031】
本発明の一実施形態によると、前記反応ユニット10、20、30、40、n0は、前記反応器11、21、31、41、n1から、エステル化反応中に気化したアルコールおよび水を含む反応器の上部排出ストリームの供給を受けて気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮器13、23、33、43、n3を通過させて層分離器14、24、34、44、n4に供給し、液相は下部排出ストリームとして反応器11、21、31、41、n1に供給するカラム12、22、32、42、n2と、水層とアルコール層を分離させ、アルコールのみをカラムに還流させ、水は除去する層分離器14、24、34、44、n4とをさらに含むことができる。
また、場合によっては、
図3に示されたように、前記カラムは、第1反応ユニット~第n-1反応ユニットには含まれ、第n反応ユニットには含まれなくてもよい。
【0032】
前記反応器においては、ジカルボン酸とアルコールのエステル化反応により、反応生成物であるジエステル系化合物と、エステル化反応に伴う副産物として水が生成されることができる。例えば、前記エステル化反応の反応生成物は、ジエステル系化合物、水、および未反応物を含むことができる。
【0033】
前記エステル化反応の正反応速度を増加させるためには、副産物である水を効果的に除去させ、水による逆反応および触媒の不活性化を防止しなければならない。これに対し、前記副産物である水を除去させる方法として、水を気化させて排出する方法がある。前記水の気化時、高い反応温度のため、水よりも沸点が高いアルコールもともに気化することになるが、気化するアルコールは回収して再び反応器に還流させて反応器内の反応物の濃度を高く維持し、水は除去することができる。
【0034】
具体的に、前記反応器においては、エステル化反応が行われるにつれ、アルコールの沸点以上にエステル化反応が起こることにより、反応に参加せずに気化するアルコールが必然的に存在し得るとともに、反応生成物であるジエステル系化合物の他に副産物として水が発生し、水はアルコールとともに気化して反応器の上部排出ストリームとして排出されることができる。前記気化した水およびアルコールは、反応器の上部排出ストリームとして排出され、カラムに供給することができる。
【0035】
前記カラムにおいては、反応器から流入された気相のアルコールおよび水が層分離器からカラムの上部に供給される低温の液相アルコールにより液化することができ、大部分の気相アルコールが選択的に液化してカラムの下部排出ストリームとして排出され、前記液相アルコールを含むカラムの下部排出ストリームは再び反応器の上部に投入され、前記液相アルコールはエステル化反応に再び参加することができる。
【0036】
このように、前記反応器の上部排出ストリームをカラムに通過させることにより、反応器の上部排出ストリームに含まれた水が凝縮された後に再び反応器に投入されるのを防止することで、正反応速度を向上させることができる。
【0037】
また、前記反応器から気化していたアルコールは反応器に再び還流させることで、反応器内でジカルボン酸と対比してアルコールの過量率を維持することができ、エステル化反応の副産物である水を反応システムの外部に排出させて除去することで、反応器内に水が還流されるのを防止し、反応器内での反応速度の低下および触媒の性能低下を防止することができる。
【0038】
一方、前記カラムにおいて気相の水および液化していない気相のアルコールは、カラムの上部排出ストリームとして排出され、前記カラムの上部排出ストリームは、凝縮器を通過して層分離器に供給されることができる。具体的に、前記層分離器においてまたは層分離器に投入前に、気相のアルコールおよび水は液化する必要がある。これにより、前記カラムの上部排出ストリームが層分離器に移送されるラインの任意の領域に凝縮器が備えられ、気相のアルコールおよび水の熱を凝縮器を介して除去することで、層分離器に投入前に液化させることができる。
【0039】
前記層分離器内の層分離は、アルコールおよび水の密度差により行われることができる。具体的な例として、前記アルコールの密度は水よりも低いため、層分離器の上部にはアルコール層が形成され、下部には水層が形成されることができる。このように、前記層分離器において水層とアルコール層を分離した後、前記アルコール層からカラムの上部に連結されたラインを介してアルコールのみを選択的に分離し、前記カラムに還流させることができる。また、水層から外部に排出される排出ラインを介して水を除去するか、または多様なルートで再活用することができる。
【0040】
前記カラムにおいて凝縮されて温度が下がったアルコールが反応器に還流されることで、反応器の内部温度が減少するため、反応器の内部温度を維持するために、高圧スチームまたは高温スチームなどのエネルギー供給により反応器内に熱量を別に供給しなければならない。前記高圧スチームは、高い圧力による平衡温度(高温)を有するため、高圧スチームの供給により前記反応器内に熱量を供給することができる。
【0041】
前記反応器での反応生成物は反応器の下部排出ストリームを介して分離され、前記第1反応ユニット~第n-1反応ユニットの反応器それぞれの下部排出ストリームはそれぞれの反応ユニットの後段反応ユニットの反応器に供給することができ、最後段反応ユニットである第n反応ユニットの反応器の下部排出ストリームは分離精製して製品化することができる。具体的に、前記第1反応ユニットの反応器である第1反応器~第n-1反応ユニットの反応器である第n-1反応器それぞれの下部排出ストリームをそれぞれの反応ユニットの後段反応ユニットの反応器に供給することができ、最後段反応ユニット(第n反応ユニット)の反応器である第n反応器の下部排出ストリームは分離精製して製品化することができる。
【0042】
例えば、
図4のように、4個の反応ユニットが直列に連結された反応部を含んでジエステル系化合物を製造する際、第1反応ユニット10の反応器である第1反応器11の下部排出ストリームは第2反応ユニット20の反応器である第2反応器21に、第2反応器21の下部排出ストリームは第3反応ユニット30の反応器である第3反応器31に、第3反応器31の下部排出ストリームは第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41に供給し、第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41の下部排出ストリームは分離精製して製品化することができる。
【0043】
本発明の一実施形態によると、前記反応ユニット10、20、30、40、n0それぞれの反応器の下部排出ストリームを後段反応ユニットの反応器に移送するか、または後続の分離精製工程に移送するために、それぞれの反応器の下部に下部排出ラインが備えられることができ、さらに、前記それぞれの下部排出ラインには、ポンプ(図示せず)が備えられることができる。
【0044】
前記最後段反応ユニットの反応器である第n反応器の下部排出ストリームに含まれたジエステル系化合物は、公知の方法により精製することができる。例えば、有機チタン化合物を触媒としてエステル化反応を行った場合には、得られたジエステル系化合物に水を加えて触媒を不活性化させた後に水蒸気で蒸留し、残留している未反応アルコールを蒸発除去することができる。また、アルカリ性物質で処理して残留ジカルボン酸を中和することができる。また、濾過により固形物を除去することで、高純度のジエステル系化合物を得ることができる。
【0045】
本発明の一実施形態によると、前記ジエステル系化合物の製造方法は、前記第1反応器11にジカルボン酸およびアルコールを含むフィードストリームを供給し、エステル化反応させて反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む下部排出ストリームは後段反応ユニットの反応器に供給するステップ(S10)と、前記第1反応器11の上部排出ストリームを第1層分離器に供給し、前記第1層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームを前記第1反応器11に還流させるステップ(S20)と、第2反応器21~第n反応器n1のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器(第2層分離器24~第n層分離器n4)に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させるステップ(S30)とを含むことができる。
【0046】
本発明の一実施形態によると、前記各反応器からアルコールおよび水を含む上部排出ストリームをカラム12、22、32、42、n2に供給して気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮器13、23、33、43、n3を通過させて凝縮させた後に層分離器14、24、34、44、n4に供給し、液相は下部排出ストリームとして前記各反応器に供給することができる。
【0047】
本発明の一実施形態によると、前記第1反応器~第n-1反応器からアルコールおよび水を含む上部排出ストリームをカラムに供給して気液分離を行い、気相は上部排出ストリームとして凝縮させて前記層分離器に供給し、液相は下部排出ストリームとして前記各反応器に供給することができる。
【0048】
本発明の一実施形態によると、前記層分離器において水層とアルコール層を分離させ、アルコールを含む下部排出ストリームを前記カラムの上部に供給して通過させた後に前記各反応器に還流させ、水は除去するかまたは多様なルートで再活用することができる。
【0049】
前述したように、従来の通常のジエステル系化合物の連続式製造工程においては、反応器内のジカルボン酸と対比してアルコールの過量率を維持して反応性を保障するために、前記各反応器の上部から気化するアルコールを含むストリームを前記各反応器に全量還流させたが、この場合、後段反応器に行くほど、反応物の量が減少するのに対し、アルコールの過量率が増加することとなり、各反応器内の過量のアルコールを気化させるためのエネルギー使用量が増加し、かかる過量のアルコールの気化量を処理するための装置の大きさが不可避に増大して設置費用が増加するという問題があった。
【0050】
これに対し、本発明においては、第1反応器11の上部排出ストリームを第1層分離器に供給し、前記第1層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームを前記第1反応器11に全量還流させ、第2反応器21~第n反応器n1のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させることで、各反応器内のアルコールの過量率を一定に維持することができ、これにより、装置の大きさおよび反応器に供給されるエネルギー使用量を最小化することができる。
【0051】
前記(S30)ステップにおいて、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させた後、前記各反応器内のジカルボン酸およびアルコールのモル比は、1:2~1:10、1:2~1:5、または1:2~1:4.5であってもよい。すなわち、上述したように、前記層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームを各反応器に全量還流させず、分岐した一部のストリームのみを還流させるが、各反応器内のジカルボン酸およびアルコールのモル比が前記範囲となるように還流させることができる。
【0052】
この場合、フィードストリーム中に含まれるジカルボン酸と対比してアルコールの過量率が反応器の後段に行くほど増加することなく一定に維持されることができるため、各反応器に供給されるスチーム量を最小化するとともに、最後段反応器である第n反応器n1において目的とする転換率に容易に達することができる。
【0053】
本発明の一実施形態によると、例えば、前記少なくとも1つ以上の反応器は、前記第2反応器~第n反応器のうち転換率が50~99%に達する反応器であってもよく、これに限定されるものではない。
【0054】
また、各反応器の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全体流量に対する、各反応器に還流されずに外部に排出(draw-off)される層分離器の下部排出ストリームの流量の比率(draw-off比率)は、前記第2反応器~第n反応器のうちdraw-offが始まる反応器の転換率とともに、反応器の温度、圧力、および反応物の滞留時間などの反応条件に応じて調節することができ、draw-offを行わない場合に比べて工程中のエネルギー使用量を最小化することができる。
【0055】
本発明の一実施形態によると、例えば、前記(S30)ステップは、前記第2反応器21~第n反応器n1のうち転換率が50~99%に達する反応器から第n反応器n1まで、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させることができる。例えば、
図8に示されたように、第1層分離器14の下部排出ストリームは、前記第1カラム12を通過させた後に前記第1反応器11に全量還流させ、転換率が50~99%に達する第2反応器21から第4反応器41まで、各層分離器24,34,44からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させることができる。この際、それぞれの層分離器24,34,44から下部排出ストリームの分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させ、残りのストリームは外部に排出(draw-off)させることができる。
【0056】
前記第2反応器21~第n反応器n1のうち転換率が50~99%に達する反応器は、エステル化反応の開始条件などに応じて異なり得るし、第2反応器21に限定されるものではない。
【0057】
具体的に、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを各反応器に還流させる時点(すなわち、draw-off時点)が、転換率50%以上である場合には、最後段反応器である第n反応器において目的とする転換率に容易に達するという効果がある。一方、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを各反応器に還流させる時点が、転換率99%以下である場合には、全体工程で用いられるスチーム量が減少し、エネルギー使用量を減少させるという効果がある。
【0058】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップにおいて、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを前記各反応器に還流させ、前記各層分離器の下部排出ストリームのうち残りのストリームは、前記フィードストリームとして再使用することができる。また、前記層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全量を外部に排出させる場合には、前記層分離器の下部排出ストリームの全量を前記フィードストリームとして再使用することができる。
【0059】
本発明の一実施形態によると、ジエステル系化合物の製造方法においては、必要な場合、蒸留カラム、コンデンサ、リボイラ、バルブ、ポンプ、分離器、および混合器などの装置を追加的にさらに設けることができる。
【0060】
以上、本発明に係るジエステル系化合物の製造方法を記載および図面に図示したが、上記の記載および図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成のみを記載および図示したものであって、前記記載および図面に図示した工程および装置の他に、別に記載および図示していない工程および装置は、本発明に係るジエステル系化合物の製造方法を実施するために適切に応用して利用することができる。
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明しようとする。但し、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは通常の技術者にとって明らかであり、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0062】
<実施例>
実施例1-1~1-4
図4に示された工程フローチャートに従い、商用プロセスシミュレーションプログラムであるアスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションした。
【0063】
具体的に、テレフタル酸(TPA)と2-エチルヘキサノール(2-EH)を1:2~4.5のモル比で含むフィードストリームを第1反応ユニット10の反応器である第1反応器11に供給し、触媒の存在下でエステル化反応させ、前記第1反応器11において気化する上部排出ストリームは、カラム12、凝縮器13、および層分離器14を用い、層分離器14からアルコールを含む下部排出ストリームは反応器11に全量還流させ、水は除去した。また、前記第1反応器11において反応生成物を含む下部排出ストリームは、第2反応ユニット20の反応器である第2反応器21に供給した。
【0064】
前記第1反応ユニット10において運転される流れのように、第2反応ユニット20、第3反応ユニット30、および第4反応ユニット40を経て連続式(Continuous Stirred Tank Reactor、CSTR)で運転し、最後段の第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41の下部排出ストリームは分離精製してジオクチルテレフタレートを得た。
【0065】
この際、前記第4反応ユニット40の第4反応器41の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを第4カラム42の上部に供給して通過させた後に第4反応器41に還流させ、前記第4反応器41に還流されずに外部に排出(draw-off)された層分離器の下部排出ストリームの残りを前記第1反応器11のフィードストリームとして再使用した。
【0066】
特に、実施例1-4において、前記第4反応ユニット40は、
図5に示されたように、第4反応器41において気化する上部排出ストリームは、カラムに供給せず、凝縮器43および層分離器44を用い、層分離器44からアルコールを含む下部排出ストリームは外部に全量排出(draw-off)させた後に前記第1反応器11のフィードストリームとして再使用し、水は除去した。
【0067】
下記表1には、前記第4反応器41の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全体流量に対する、第4反応器41に還流されずに外部に排出される層分離器の下部排出ストリームの流量の比率である、draw-off比率に応じた最終転換率および工程全体で用いられるスチーム使用量を示した。この際、前記スチーム使用量は、下記比較例1で測定されたスチーム使用量(100.0%)と対比して相対的な量で示した。
【0068】
実施例2-1~2-6
図6に示された工程フローチャートに従い、商用プロセスシミュレーションプログラムであるアスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションした。
【0069】
具体的に、テレフタル酸(TPA)と2-エチルヘキサノール(2-EH)を1:2~4.5のモル比で含むフィードストリームを第1反応ユニット10の反応器である第1反応器11に供給し、触媒の存在下でエステル化反応させ、前記第1反応器11において気化する上部排出ストリームは、カラム12、凝縮器13、および層分離器14を用い、層分離器14からアルコールを含む下部排出ストリームは反応器11に全量還流させ、水は除去した。また、前記第1反応器11において反応生成物を含む下部排出ストリームは、第2反応ユニット20の反応器である第2反応器21に供給した。
【0070】
前記第1反応ユニット10において運転される流れのように、第2反応ユニット20、第3反応ユニット30、および第4反応ユニット40を経て連続式(Continuous Stirred Tank Reactor、CSTR)で運転し、最後段の第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41の下部排出ストリームは分離精製してジオクチルテレフタレートを得た。
【0071】
この際、前記第3反応ユニット30の第3反応器31の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを第3カラム32の上部に供給して通過させた後に第3反応器31に還流させ、前記第3反応器31に還流されずに外部に排出(draw-off)された層分離器の下部排出ストリームの残りを前記第1反応器11のフィードストリームとして再使用した。
【0072】
下記表2には、前記第3反応器31の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全体流量に対する、第3反応器31に還流されずに外部に排出される層分離器の下部排出ストリームの流量の比率である、draw-off比率に応じた最終転換率および工程全体で用いられるスチーム使用量を示した。この際、前記スチーム使用量は、下記比較例1で測定されたスチーム使用量(100.0%)と対比して相対的な量で示した。
【0073】
実施例3-1~3-4
図7に示された工程フローチャートに従い、商用プロセスシミュレーションプログラムであるアスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションした。
【0074】
具体的に、テレフタル酸(TPA)と2-エチルヘキサノール(2-EH)を1:2~4.5のモル比で含むフィードストリームを第1反応ユニット10の反応器である第1反応器11に供給し、触媒の存在下でエステル化反応させ、前記第1反応器11において気化する上部排出ストリームは、カラム12、凝縮器13、および層分離器14を用い、層分離器14からアルコールを含む下部排出ストリームは反応器11に全量還流させ、水は除去した。また、前記第1反応器11において反応生成物を含む下部排出ストリームは、第2反応ユニット20の反応器である第2反応器21に供給した。
【0075】
前記第1反応ユニット10において運転される流れのように、第2反応ユニット20、第3反応ユニット30、および第4反応ユニット40を経て連続式(Continuous Stirred Tank Reactor、CSTR)で運転し、最後段の第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41の下部排出ストリームは分離精製してジオクチルテレフタレートを得た。
【0076】
この際、前記第2反応ユニット20の第2反応器21の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを第2カラム22の上部に供給して通過させた後に第2反応器21に還流させ、前記第2反応器21に還流されずに外部に排出(draw-off)された層分離器の下部排出ストリームの残りを前記第1反応器11のフィードストリームとして再使用した。
【0077】
下記表3には、前記第2反応器21の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全体流量に対する、第2反応器21に還流されずに外部に排出される層分離器の下部排出ストリームの流量の比率である、draw-off比率に応じた最終転換率および工程全体で用いられるスチーム使用量を示した。この際、前記スチーム使用量は、下記比較例1で測定されたスチーム使用量(100.0%)と対比して相対的な量で示した。
【0078】
実施例4-1~4-4
図8に示された工程フローチャートに従い、商用プロセスシミュレーションプログラムであるアスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションした。
【0079】
具体的に、テレフタル酸(TPA)と2-エチルヘキサノール(2-EH)を1:2~4.5のモル比で含むフィードストリームを第1反応ユニット10の反応器である第1反応器11に供給し、触媒の存在下でエステル化反応させ、前記第1反応器11において気化する上部排出ストリームは、カラム12、凝縮器13、および層分離器14を用い、層分離器14からアルコールを含む下部排出ストリームは反応器11に全量還流させ、水は除去した。また、前記第1反応器11において反応生成物を含む下部排出ストリームは、第2反応ユニット20の反応器である第2反応器21に供給した。
【0080】
前記第1反応ユニット10において運転される流れのように、第2反応ユニット20、第3反応ユニット30、および第4反応ユニット40を経て連続式(Continuous Stirred Tank Reactor、CSTR)で運転し、最後段の第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41の下部排出ストリームは分離精製してジオクチルテレフタレートを得た。
【0081】
この際、前記第2反応ユニット20の第2反応器21から第4反応ユニット40の第4反応器41まで、各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐し、分岐した一部のストリームのみを各カラムの上部に供給して通過させた後に各反応器に還流させ、前記各反応器に還流されずに外部に排出(draw-off)された各層分離器の下部排出ストリームの残りを前記第1反応器11のフィードストリームとして再使用した。
【0082】
下記表4には、前記各反応器の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全体流量に対する、各反応器に還流されずに外部に排出される層分離器の下部排出ストリームの流量の比率である、draw-off比率に応じた最終転換率および工程全体で用いられるスチーム使用量を示した。この際、前記スチーム使用量は、下記比較例1で測定されたスチーム使用量(100.0%)と対比して相対的な量で示した。
【0083】
比較例1
図9に示された工程フローチャートに従い、商用プロセスシミュレーションプログラムであるアスペン社製のアスペンプラス(ASPEN PLUS)を用いて、ジオクチルテレフタレート(Dioctyl terephthalate、DOTP)の製造工程をシミュレーションした。
【0084】
具体的に、テレフタル酸(TPA)と2-エチルヘキサノール(2-EH)を1:2~4.5のモル比で含むフィードストリームを第1反応ユニット10の反応器である第1反応器11に供給し、触媒の存在下でエステル化反応させ、前記第1反応器11において気化する上部排出ストリームは、カラム12、凝縮器13、および層分離器14を用い、層分離器14からアルコールを含む下部排出ストリームは反応器11に全量還流させ、水は除去した。また、前記第1反応器11において反応生成物を含む下部排出ストリームは、第2反応ユニット20の反応器である第2反応器21に供給した。
【0085】
前記第1反応ユニット10において運転される流れのように、第2反応ユニット20、第3反応ユニット30、および第4反応ユニット40を経て連続式(Continuous Stirred Tank Reactor、CSTR)で運転し、最後段の第4反応ユニット40の反応器である第4反応器41の下部排出ストリームは分離精製してジオクチルテレフタレートを得た。
【0086】
下記表4には、最終転換率および工程全体で用いられるスチーム使用量を示した。この際、前記スチーム使用量は、前記実施例で用いられたスチーム使用量に対する基準(100.0%)として示した。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
*draw-off比率:各反応器の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの全体流量に対する、各反応器に還流されずに外部に排出(draw-off)される層分離器の下部排出ストリームの流量の比率
【0092】
前記表1~表4を参照すると、前記実施例は、何れも、第1反応器~第4反応器の層分離器からアルコールを含む下部排出ストリーム全体を各反応器に還流させ、draw-offを行っていない比較例1のスチーム使用量100.0%と対比して減少したスチーム使用量を示しており、全体工程中に用いられた総エネルギー使用量が低減したことを確認することができる。
【0093】
具体的に、表1の実施例1-1~1-4、および表2の実施例2-1~2-4を参照すると、後段反応器(第3反応器~第4反応器)においては転換率が既に保障された状態であるため、draw-off比率が大きくなっても、最終転換率の変動がないことを確認することができる。すなわち、実施例1-1~1-4は、draw-off比率が100%となっても、最終転換率が99%を維持し、実施例2-1~2-4は、draw-off比率が78%となっても、最終転換率が99%を維持することを確認することができ、最終転換率を99%に維持する条件で、スチーム使用量は、比較例1と対比して最大93%まで低減可能であることを確認することができる。
【0094】
しかしながら、表2の実施例2-5および2-6を参照すると、draw-off比率が88%以上に過量である場合には、スチーム使用量は減少するが、最終転換率もまた減少しており、製品原単位および製品仕様が低下するという短所があった。
【0095】
また、第1反応器においてdraw-offを行う場合は表に示されていないが、第1反応器においてdraw-offを行う場合、反応器内のジカルボン酸と対比してアルコールの過量率を維持して反応性を保障する効果が足りなくなるため、工程中の全体反応器でのジカルボン酸と対比したアルコールの過量率の低下による反応性が低下し得る。これにより、最終転換率が低下するという問題があることを確認した。この際、例えば、第1反応器での転換率は50%未満であってもよく、これに限定されるものではない。
【0096】
一方、表3の実施例3-1~3-4を参照すると、第2反応器においてdraw-offを行う場合、後続の反応器(第3反応器~第4反応器)においてアルコールの過量率が変わるため、最終転換率に影響を及ぼすことを確認することができる。すなわち、実施例3-1~3-4においては、draw-off比率が34%である場合まで最終転換率が99%を維持し、draw-off比率が45%である場合には、最終転換率が98%に減少することを確認することができ、最終転換率を99%に維持する条件で、スチーム使用量は、比較例1と対比して最大93%まで低減可能であることを確認することができる。
【0097】
また、表4を参照すると、第2反応器~第4反応器において何れもdraw-offを行った実施例4-1~4-4も、最終転換率を99%に維持する条件で、スチーム使用量は、比較例1と対比して最大93%まで低減可能であることを確認することができる。
【0098】
これにより、本発明においては、第2反応器~第n反応器のうち少なくとも1つ以上の反応器の上部排出ストリームを各層分離器に供給し、前記各層分離器からアルコールを含む下部排出ストリームの一部を分岐して還流させ、残りは外部に排出(draw-off)させるが、反応器の温度、圧力、および反応物の滞留時間などの反応条件に応じてdraw-off比率を調節することで、draw-offを行っていない比較例1と対比して工程中の総エネルギー使用量を低減可能であることを確認した。