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特許7354578ポリイソシアネート組成物およびそれを用いた塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ポリイソシアネート組成物およびそれを用いた塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/28 20060101AFI20230926BHJP
   C08G 18/02 20060101ALI20230926BHJP
   C08G 18/78 20060101ALI20230926BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20230926BHJP
   C08G 18/16 20060101ALI20230926BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08G18/28 015
C08G18/02 020
C08G18/78 037
C08G18/73
C08G18/16
C09D175/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019085397
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180247
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀口 健二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優
(72)【発明者】
【氏名】喜多 求
(72)【発明者】
【氏名】野口 周人
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-522704(JP,A)
【文献】特開平10-168157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジイソシアネート(A)、変性剤(B)、および触媒(C)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート、およびイソシアヌレート変性ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物であって、脂肪族ジイソシアネート(A)がヘキサメチレンジイソシアネートであり、変性剤(B)がノニオン性親水基含有一官能性アルコールを含み、アロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比が19.3/80.7~65/35であり、
触媒(C)として4級アンモニウム塩、有機酸スズ、および有機酸ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とするポリイソシアネート組成物。
【請求項2】
25℃における粘度が1000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
脂肪族ジイソシアネート(A)、変性剤(B)、および触媒(C)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート、およびイソシアヌレート変性ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物であって、脂肪族ジイソシアネート(A)がヘキサメチレンジイソシアネートであり、変性剤(B)がノニオン性親水基含有一官能性アルコールを含み、アロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比が19.3/80.7~65/35であり、
25℃における粘度が1000mPa・s以下であることを特徴とするポリイソシアネート組成物。
【請求項4】
触媒(C)として4級アンモニウム塩、有機酸スズ、および有機酸ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項3に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項5】
前記ノニオン性親水基含有一官能性アルコールが、下記式1により表されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリイソシアネート組成物。
R-(O-C-OH (式1)
[式中Rは、アルキル基であり、nは、5~22を表す。]
【請求項6】
前記ノニオン性親水基含有一官能性アルコールの数平均分子量が250~1000であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のポリイソシアネート組成物とポリオールとを含む塗料組成物。
【請求項8】
ポリイソシアネート組成物とポリオールとを含む塗料組成物であって、
前記ポリイソシアネート組成物が、脂肪族ジイソシアネート(A)、変性剤(B)、および触媒(C)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート、およびイソシアヌレート変性ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物であって、脂肪族ジイソシアネート(A)がヘキサメチレンジイソシアネートであり、変性剤(B)がノニオン性親水基含有一官能性アルコールを含み、アロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比が19.3/80.7~65/35である塗料組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の塗料組成物から形成された塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソシアネート組成物とそれから得られる塗料組成物及びその塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料・塗装及び接着剤分野においては、1,6-ヘキサメチレンジイソアネート(以下HDIという)などの脂肪族イソシアネートより誘導される無黄変ポリイソシアネートは耐候性に優れているが、その中でもイソシアヌレート結合を含有するポリイソシアネートタイプは化学的、熱的安定性が高く、特に耐候性、耐熱性、耐久性に優れているため、その用途に応じて幅広く使用されており、一層の用途展開が期待されている。
【0003】
このイソシアヌレート結合を有するタイプは硬化剤として使用する場合、粘度が高いために作業が悪く、有機溶剤等で希釈して使用する場合がある。最近では、環境負荷低減の意識が高まり、有機溶剤の使用量を削減するために,硬化剤として使用されるポリイソシアネートの低粘度化が要望されている。ポリイソシアネートを低粘度化することで、塗装時の作業性が向上し塗料組成物に使用される有機溶剤の使用量削減が可能となる。
【0004】
一方、環境負荷低減の観点から、有機溶剤の代わりに水を溶剤として用いた水性塗料も広く使用されている。水性塗料の硬化剤には、イソシアヌレート構造を有する疎水性ポリイソシアネートをノニオン性親水基含有一官能アルコール化合物により変性させ、水に乳化、分散して使用されている(特許文献1)。このような組成物の場合、ポリイソシアネートを水性媒体に均一に組み込むために高速撹拌等による強い剪断力を必要とするといった問題点があった。また、高速撹拌等による強い剪断力をかけない場合、水性媒体にポリイソシアネートを分散する際に、ポリイソシアネートが水に分散する割合が低い、または分散したポリイソシアネートが沈降してしまうといった問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-291613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、有機溶剤での希釈時の作業性に優れ、また、水性塗料用硬化剤として用いる際、水分散時に高速撹拌等による強い剪断力を必要とせず、塗料の水分散度・水分散安定性に優れた、自己乳化性を有する、低粘度なポリイソシアネート組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討を重ねた結果、HDIとノニオン性親水基含有一官能性アルコールとから得られる脂肪族ポリイソシアネートにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の実施形態を含むものである。
【0009】
[1]脂肪族ジイソシアネート(A)、変性剤(B)、および触媒(C)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート、およびイソシアヌレート変性ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物であって、脂肪族ジイソシアネート(A)がHDIであり、変性剤(B)がノニオン性親水基含有一官能性アルコールを含み、アロファネート基とイソシアヌレート基とのモル比が15/85~65/35であることを特徴とするポリイソシアネート組成物。
【0010】
[2]前記ノニオン性親水基含有一官能性アルコールが、下記式1により表されることを特徴とする、上記[1]に記載のポリイソシアネート組成物。
R-(O-C-OH (式1)
[式中Rは、アルキル基であり、nは、5~22を表す。]。
【0011】
[3]前記ノニオン性親水基含有一官能性アルコールの数平均分子量が250~1000であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のポリイソシアネート組成物。
【0012】
[4]触媒(C)として4級アンモニウム塩、有機酸スズ、および有機酸ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のポリイソシアネート組成物。
【0013】
[5]25℃における粘度が1000mPa・s以下であることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリイソシアネート組成物。
【0014】
[6]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のポリイソシアネート組成物とポリオールとを含む塗料組成物。
【0015】
[7]上記[6]に記載の塗料組成物から形成された塗膜。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自己乳化性を有する低粘度なポリイソシアネート組成物を得ることができる。得られるポリイソシアネート組成物は、低粘度という特徴から、水や有機溶剤等での希釈操作が容易になり、また分散安定性に優れることから、作業性が向上する。また、有機溶剤や水を塗料シンナーとして使用する、いわゆる溶剤系塗料や水性塗料双方に適応可能であるため、これを硬化剤とした塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0018】
本発明のポリイソシアネート組成物は、脂肪族ジイソシアネート(A)、変性剤(B)、および触媒(C)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート、およびイソシアヌレート変性ポリイソシアネートを含むものである。
【0019】
本発明の脂肪族イソシアネート(A)としては、耐候性、工業的入手の容易さからHDIを用いるが、エチレンジイソシアネート、プロパンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートの他に、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等に代表される脂環族イソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等に代表される芳香族イソシアネート、キシレンジイソシアネート等に代表される芳香脂肪族イソシアネート等を本発明の主旨を逸脱しない範囲で併用してもよい。
【0020】
本発明の変性剤(B)として好適に用いることができるノニオン性親水基含有一官能性アルコールは、その製造に於いて飽和モノアルコールや芳香族アルコール、芳香脂肪族アルコールを開始物質とし、エチレンオキシドによるアルコキシル化反応により生成したノニオン性親水基含有一官能性アルコールである。ノニオン性親水基含有一官能性アルコールの開始物質としては、飽和モノアルコールが好ましく、炭素数1~3個の飽和モノアルコールがさらに好ましく、メタノールであることが最も好ましい。また、ノニオン性親水基含有一官能性アルコールの数平均分子量は親水性の観点から250~1000が好ましく、300~700がさらに好ましい。数平均分子量が小さいと、親水性に乏しく、水分散性が得られない恐れがある。
【0021】
また、アロファネート変性ポリイソシアネートを得る際に、ノニオン性親水基含有一官能性アルコールの一部代替として、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、イソアミルアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,3,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-トリデカノール、2-トリデカノール、2-オクチルドデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール、2,2,2-トリフルオロエタノール等の一官能性アルコールや、炭素数2~20のジオール類(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール及びその異性体)や、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール等の繰り返しユニットを持つ水酸基含有ポリマー類も本発明の主旨を逸脱しない範囲で併用しても良い。
【0022】
アロファネート反応により生成するアロファネート基とは、上記ノニオン性親水性基含有一官能性アルコールのヒドロキシル基とHDIのイソシアネート基とが反応しウレタン結合を形成した後、ウレタン基にさらに別のイソシアネート基が反応して得られるもので、次式に示される。
【0023】
【化1】
【0024】
[式中Rはヘキサメチレン基を表す。R’はノニオン性親水基を表す。]。
【0025】
本発明におけるポリイソシアネート組成物には、アロファネート基含有ポリイソシアネートと並行して生成するイソシアヌレート基を有するポリイソシアネートも含まれる。本発明におけるイソシアヌレート基とは、ジイソシアネートモノマー同士が環化重合したもので、次式で示される。これは5量化、多量化したイソシアヌレート基を有するポリイソシアネートとなる場合がある。
【0026】
【化2】
【0027】
[式中Rはヘキサメチレン基を表す。]
【0028】
次に、ポリイソシアネート組成物の具体的な製造方法について説明する。
【0029】
第1工程では、有機ジイソシアネートとノニオン性親水基含有一官能性アルコールを、水酸基に対してイソシアネート基が過剰になる量を仕込んで、有機溶剤の存在下または非存在下、20~60℃でウレタン化反応させてイソシアネート基末端プレポリマーIを製造する。ここでウレタン化反応の目安としては、中和滴定法によるイソシアネート基含有量と屈折率上昇値により完結の有無を判断する。
【0030】
第2工程では、イソシアネート基末端プレポリマーIに触媒を仕込み、目的とするイソシアネート基含有量、及び分子量になるまで、50~90℃にて反応しイソシアネート基末端プレポリマーIIを製造する。
【0031】
第3工程では、イソシアネート基末端プレポリマーIIに触媒の失活剤、即ち反応停止剤を添加することによって、反応の停止を行う。
【0032】
これら第1工程~第3工程においては、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス下、若しくは、乾燥空気気流下で反応を進行させる。
【0033】
第4工程は精製工程であり、イソシアネート基末端プレポリマーIIを薄膜蒸留又は溶剤抽出によって、遊離の有機ジイソシアネートの含有量を1質量%未満になるまで除去する。
【0034】
ここで、第1工程における「イソシアネート基が過剰になる量」とは、原料仕込みの際、有機ジイソシアネートのイソシアネート基とモノオールの水酸基とのモル比が、R=イソシアネート基/水酸基で8~600になるように仕込むことが好ましく、R=15~200になるように仕込むことがさらに好ましい。下限未満の場合には、アロファネート反応生成物の重合度が高くなり、粘度が高くなり、水や有機溶剤を用いてポリイソシアネートを希釈する際の作業性が悪化する恐れがある。上限を超える場合には、製品収率が下がり、生産性の低下を招く恐れがある。
【0035】
また、本発明のウレタン化反応の反応温度は、20~70℃が好ましく、30~60℃がさらに好ましい。なお、ウレタン化反応の際、公知のウレタン化触媒を用いることができる。具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩を選択して用いる。これらの触媒は、単独または2種以上併用することができる。
【0036】
ウレタン化反応の反応時間は、触媒の有無、種類、および温度により異なるが、一般には10時間以内、好ましくは1~5時間で十分である。
【0037】
第2工程における反応触媒としては下記に示す触媒が挙げられる。
【0038】
触媒としては、一般に塩基性を有するものが好ましく、例えば酢酸、カプロン酸、オクチル酸、ミリスチン酸等のアルキルカルボン酸やメチル炭酸、エチル炭酸等のアルキル炭酸の4級アルキルアンモニウム塩や、例えば酢酸、カプロン酸、オクチル酸、ミリスチン酸等のアルキルカルボン酸の例えば錫、亜鉛、鉛、ビスマス、ジルコニウム等の金属塩等が挙げられる。これらのうち、反応性の観点から、4級アルキルアンモニウムのカルボン酸塩や炭酸塩、アルキルカルボン酸の錫やジルコニウムが好ましい。また、これらの触媒は、適宜アルコール類、エステル類、エーテル類の有機溶剤で希釈し使用してもよい。
【0039】
触媒の使用量は、有機ジイソシアネートと、モノアルコールとの合計質量に対して0.001~1.0質量%が好ましく、0.005~0.1質量%がより好ましい。
【0040】
下限未満の場合には、反応が十分に進行せず、生産性や収率の低下を招く恐れがある。また、上限値を超える場合には、目的物よりも分子量の高いポリイソシアネートの生成量が多くなり、粘度の上昇、及び反応性制御の低下を招く恐れがある。
【0041】
また、反応温度は40~150℃が好ましく、55~120℃がさらに好ましい。
【0042】
また、ポリイソシアネートの製造においては、有機溶媒等を含まずに反応を行う方法や有機溶媒の存在下で反応を行う方法が適宜選ばれる。
【0043】
有機溶媒の存在下で反応を行う場合には、反応に影響を与えない有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の具体例としては、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類、ジオキサン等のエーテル類、ヨウ化メチレン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの溶媒は、触媒や添加剤に含まれる場合も考えられる。
【0044】
反応で使用した有機溶媒は、第4工程における遊離の有機ジイソシアネートの除去時に同時に除去される。
【0045】
第3工程におけるに反応停止剤としては、触媒を失活させる作用があるものであり、具体的には、リン酸、塩酸等の無機酸、リン酸基、スルホン酸基等を有する有機酸およびこれらのエステル類、アシルハライド等公知の化合物が使用され、取り扱いを容易にする観点から必要に応じ溶媒を使用できる。これらの反応停止剤は、単独または2種以上を併用することができる。尚、添加時期は、反応終了後、速やかな添加が好ましい。
【0046】
また、反応停止剤の添加量としては、反応停止剤や使用した触媒の種類によって異なるが、触媒の0.5~10当量となるのが好ましく、0.8~5.0当量が特に好ましい。反応停止剤が少ない場合には、得られるポリイソシアネート組成物の貯蔵安定性が低下しやすく、多すぎる場合はポリイソシアネート組成物が着色する恐れがある。
【0047】
第4工程の精製工程では、反応混合物中に存在している遊離の未反応の有機ジイソシアネートを、例えば、10~100Paの高真空下、120~150℃で薄膜蒸留による除去法や有機溶剤による抽出法により、遊離の未反応の有機ジイソシアネート残留含有率を1.0質量%以下にする。尚、有機ジイソシアネートの残留含有率が上限値を超える場合は、臭気の発生や貯蔵安定性の低下を招く恐れがある。
【0048】
精製して得られたポリイソシアネート組成物は、25℃での粘度が1000mPa・s以下であることが好ましく、900mPa・s以下であることがさらに好ましく、800以下mPa・sであることが最も好ましい。粘度が1000mPa・sより高いと、水や有機溶剤にて希釈する際に高いせん断力が必要であったり、均一に混合するまでに時間を要するため作業性が低下したりする恐れがある。また、混合が不十分なまま塗料として使用した際に、混合不良が原因となり塗膜性能が低下する恐れがある。
【0049】
また、精製して得られたポリイソシアネート組成物は、アロファネート基/イソシアヌレート基のモル比が15/85~65/35であることが好ましく、20/80~50/50であることがさらに好ましく、26/74~45/55であることが特に好ましい。アロファネート基のモル比が15より小さいと親水性が低く、水分散性が低下する恐れがある。アロファネート基のモル比が65より大きいと、親水性が高くなり、水中でイソシアネート基が短時間で失活してしまい、塗膜性能が低下する恐れがある。
【0050】
精製して得られたポリイソシアネート組成物は、ポットライフの延長や塗料組成物の一液化を目的として、公知のブロック剤を用いてブロックイソシアネートとすることも可能である。これにより、ブロック化されたポリイソシアネートは、常温時は不活性であるが、加熱することでブロック剤が解離し、再びイソシアネート基が活性化することで、活性水素基と反応する潜在的な機能を付加することができる。
【0051】
本発明に用いることができるブロック剤としては、活性水素を分子内に1個有する化合物であり、例えば、アルコール系、アルキルフェノール系、フェノール系、活性メチレン、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、イミド系、ピラゾール系化合物等がある。
【0052】
一連の反応で得られたポリイソシアネート組成物は、市販のイソシアヌレートやアロファネートと混合し使用することができる。
【0053】
また、一連の反応で得られたポリイソシアネート組成物は、適宜水や有機溶媒にて希釈し使用することができる。有機溶媒の具体例としては、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類、ジオキサン等のエーテル類、ヨウ化メチレン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶媒などが挙げられる。これらの水と有機溶媒は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
さらに、上記で得られたポリイソシアネート組成物は、主剤を配合することによって、本発明の塗料組成物を得ることができる。ここで主剤とは、イソシアネート基と反応しうる化合物、例えばポリオールを含み、水や有機溶剤を含んでいても含んでいなくてもよく、必要に応じて添加剤が含まれる。
【0055】
ここで、本発明の塗料組成物に使用される主剤は特に限定されるものではないが、工業的な入手の容易さからポリオールが好ましい。ポリオールとはイソシアネート基との反応基として活性水素基を含有する化合物であり、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、シリコーンポリオール、ヒマシ油系ポリオール、フッ素系ポリオール、2種類以上のポリオールのエステル交換物、及びポリイソシアネートとウレタン化反応した水酸基末端プレポリマー等が好適に用いられ、これらは1種類又は2種類以上の混合物として、無溶剤下又は有機溶剤存在下で使用することもできる。
【0056】
また、水に対して溶解性或いはある程度の親和性を有する水溶性樹脂、又は水系エマルジョンなどの高分子化合物も主剤として好適に使用することが可能である。これらの高分子化合物は分子内にイソシアネート基と反応する水酸基、カルボキシル基又はアミノ基などの活性水素基を含有するものが好ましく、特に一分子あたり2個以上の活性水素基を含有するものが好ましい。また、これらの高分子化合物が、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を含有していない場合、又はわずかしか含有していない場合でも、最終的には本発明の自己乳化性を有するポリイソシアネート組成物が水と反応してポリウレア化合物となり、硬くて強靭な塗膜を得ることができる。また、イソシアネート基が被着材表面に存在する活性水素基と反応するため、被着剤との密着性も向上する。
【0057】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、水溶性エチレン-酢酸ビニル共重合体、水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セルロース誘導体、水溶性ポリエステル、水溶性リグニン誘導体、水溶性フッ素樹脂、水溶性シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0058】
水系エマルジョンとしては、いわゆるラテックス、エマルジョンと表現されるもの全てを包含し、例えば、スチレンブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリルブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタアクリレートブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス、ポリブタジエンラテックス等のゴム系ラテックス、ポリアクリル酸エステルラテックス、ポリ塩化ビニリデンラテックス、ポリブタジエンラテックス、或いはこれらのラテックスをカルボキシル変性したもの、また、ポリ塩化ビニルエマルジョン、ウレタンアクリルエマルジョン、シリコーンアクリルエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、ポリウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン等が挙げられる。
【0059】
これらの主剤うち、光沢、耐候性等の塗膜性能や接着強度の点で、アクリルポリオール、アクリル樹脂、水溶性アクリル樹脂、アクリルエマルジョン、ウレタンアクリルエマルジョン、ポリウレタンエマルジョンを特に好ましく用いることができる。
【0060】
これら主剤としての高分子化合物の数平均分子量は、好ましくは1000~100万であり、さらに好ましくは1万~10万である。
【0061】
また、ポリオールは、1分子中の活性水素基数(平均官能基数)が1.9~10.0であることが好ましい。活性水素基数が下限値未満の場合には、塗膜物性が低下する恐れがある。また、上限値を超える場合には、密着性が低下する恐れがある。
【0062】
<ポリエステルポリオール>
ポリエステルポリオールとしては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、グルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、α-ハイドロムコン酸、β-ハイドロムコン酸、α-ブチル-α-エチルグルタル酸、α,β-ジエチルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸またはこれらの無水物等の1種類以上と、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の分子量500以下の低分子ポリオール類の1種類以上との縮重合反応から得られるもの等を挙げることができる。また、ε-カプロラクトン、アルキル置換ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、アルキル置換δ-バレロラクトン等の環状エステル(いわゆるラクトン)モノマーの開環重合から得られるラクトン系ポリエステルポリオール等を挙げることができる。更に、低分子ポリオールの一部をヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、モノエタノールアミン等の低分子ポリアミンや低分子アミノアルコールに代えて得られるポリエステル-アミドポリオールを使用することもできる。
【0063】
<ポリエーテルポリオール>
また、ポリエーテルポリオールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等の低分子ポリアミン類等の活性水素基を2個以上、好ましくは2~3個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるポリエーテルポリオール、或いはメチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテルモノマーを開環重合することで得られるポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0064】
<ポリカーボネートポリオール>
また、ポリカーボネートポリオールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオールの1種類以上と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジアントリルカーボネート、ジフェナントリルカーボネート、ジインダニルカーボネート、テトラヒドロナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート類との脱アルコール反応や脱フェノール反応から得られるものを挙げることができる。
【0065】
また、ポリカーボネートポリオールとポリエステルポリオールと低分子ポリオールのエステル交換反応により得られたポリオールも好適に用いることができる。
【0066】
<ポリオレフィンポリオール>
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン等を挙げることができる。
【0067】
<アクリルポリオール>
アクリルポリオールとしては、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル〔以下(メタ)アクリル酸エステルという〕と、反応点となりうる少なくとも分子内に1個以上の水酸基を有するアクリル酸ヒドロキシ化合物及び/又はメタクリル酸ヒドロキシ化合物〔以下(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物という〕と、重合開始剤とを熱エネルギーや紫外線または電子線などの光エネルギー等を使用し、アクリルモノマーを共重合したものを挙げることができる。
【0068】
<(メタ)アクリル酸エステル>
(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1~20のアルキルエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の脂環属アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルは単独または2種類以上組み合わせたものを挙げることができる。
【0069】
<(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物>
(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物としては、ポリイソシアネートとの反応点となりうる少なくとも分子内に1個以上の水酸基を有しており、具体的には、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のアクリル酸ヒドロキシ化合物が挙げられる。また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等のメタクリル酸ヒドロキシ化合物が挙げられる。これら(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物は、単独または2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
【0070】
<シリコーンポリオール>
シリコーンポリオールとしては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを重合したビニル基含有シリコーン化合物、及び分子中に少なくとも1個の末端水酸基を有する、α,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン、α,ω-ジヒドロキシポリジフェニルシロキサン等のポリシロキサンを挙げることができる。
【0071】
<ヒマシ油系ポリオール>
ヒマシ油系ポリオールとしては、例えばヒマシ油脂肪酸とポリオールとの反応により得られる線状または分岐状ポリエステルポリオールが挙げられる。また、脱水ヒマシ油、一部分を脱水した部分脱水ヒマシ油、水素を付加させた水添ヒマシ油も使用することができる。
【0072】
<フッ素系ポリオール>
フッ素系ポリオールとしては、例えば含フッ素モノマーとヒドロキシ基を有するモノマーとを必須成分として共重合反応により得られる線状または分岐状のポリオールを挙げることができる。ここで、含フッ素モノマーとしては、フルオロオレフィンであることが好ましく、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロメチルトリフルオロエチレンが挙げられる。また、ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルクロトン酸ビニル等のヒドロキシル基含有カルボン酸ビニル又はアリルエステル等のヒドロキシル基を有するモノマーが挙げられる。
【0073】
また、塗料組成物のポリイソシアネート組成物とポリオールとの配合割合は、特に限定するものではないが、イソシアネート組成物中のイソシアネート基とポリオール中の水酸基のモル比が、R=イソシアネート基/水酸基で好ましくは0.5~3.5となるように、さらに好ましくは0.9~3.0となるように配合することが好ましい。下限値未満の場合には水酸基が過剰になり、密着性の低下を招く恐れがある。また、架橋密度が低下し耐久性の低下や塗膜の機械的強度が低下する恐れがある。上限値を超える場合にはイソシアネート基が過剰になり、空気中の水分と反応し、塗膜の膨れやこれに伴う密着性の低下を生じる恐れがある。
【0074】
また、希釈溶剤として使用する有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類等からなる群から、目的及び用途に応じて適宜選択して使用することができる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
また、塗料組成物は、ポットライフ、硬化条件、及び作業条件等を考慮し、適宜公知のウレタン化触媒を用いることができる。具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、カルボン酸ビスマス等の有機金属化合物、スズ、ビスマス等の無機金属化合物、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩を選択して用いる。これらの触媒は、単独または2種以上併用することができる。
【0076】
また、塗料組成物の硬化条件としては、特に限定されるものではないが、硬化温度が-5~120℃、湿度が10~95%RH、養生時間が0.5~168時間であることが好ましい。
【0077】
本発明によって得られた塗料組成物には、必要に応じて、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、溶剤、難燃剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、可塑剤、充填材、帯電防止剤、分散剤、触媒、貯蔵安定剤、界面活性剤、レベリング剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0078】
また、本発明によって得られた塗料組成物は、スプレー、刷毛、浸漬、コーター等の公知の方法により被着体の表面上に塗布され、塗膜を形成する。
【0079】
ここで被着体は特に限定されるものではなく、ステンレス、リン酸処理鋼、亜鉛鋼、鉄、銅、アルミニウム、真鍮、ガラス、スレート、アスファルト、コンクリート、木材、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート-ABS樹脂、6-ナイロン樹脂、6,6-ナイロン樹脂、MXD6ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、NBR樹脂、クロロプレン樹脂、SBR樹脂、SEBS樹脂などの素材で成形された被着体、コロナ放電処理やその他表面処理を施されたポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、または前記被着体表面に中間形成となりうる塗膜層が形成された被着体を用いることができる。
【0080】
被着体表層に形成される塗膜の膜厚は、リコート性や耐久性に優れるため、被着体に少なくとも10μmの膜厚を形成すれば良い。膜厚が10μm未満である場合には耐久性が低下し、衝撃により塗膜の破れ等を生じる恐れがある。
【0081】
本発明のポリイソシアネート組成物は、非常に低粘度であるため、塗料組成物とした場合、高固形分化が可能となり、有機溶剤の削減ができる。また、容易に水に乳化するため、水性塗料へも適用した場合、作業性の向上とVOCの大幅な削減が可能となる。
【0082】
また、本発明のポリイソシアネート組成物、及び塗料組成物は自動車塗料用途、建築塗料用途、工業用塗料用途へ好適に用いることができる。
【実施例
【0083】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に示す実施例のうち、実施例4,6,13,15は本発明の範囲外である参考例としての試験例であり、実施例における%表記は特に断りのない限り質量基準である。
【0084】
<ポリイソシアネート組成物の合成>
表1、表2に示す配合に従い、攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDI(東ソー社製、NCO含量:49.9質量%)、モノオールを仕込み、これらを撹拌しながら40℃に加熱し、1時間ウレタン化反応を行った。その後60℃に昇温し、この反応液中に触媒を添加し、65℃にて所定の反応転化率に達するまで反応させた後、反応停止剤であるリン酸エステル(JP-508、城北化学工業製)を添加し、60℃で1時間停止反応を行った。ここで反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、表1、表2に記載のポリイソシアネート組成物C-1~C-16を得た。
【0085】
ここで、モノオールには、ノニオン性親水基含有一官能性アルコールとしてメトキシポリエチレングリコール(分子量400、東邦化学製)、ノニオン性親水基非含有一官能性アルコールとして1-プロパノール(東京化成工業製)をそれぞれ用いた。触媒には、20%トリメチルオクチルアンモニウムメチル炭酸塩、オクチル酸スズ(日本化学産業製)、オクチル酸ジルコニウム(日本化学産業製)をそれぞれ用いた。
【0086】
上記操作にて得られたポリイソシアネート組成物をH-NMR測定したところ、アロファネート基に由来する水素原子のシグナルを観測したことから、アロファネート基を含むポリイソシアネートの生成を確認した。
【0087】
<NMR測定>
(1)測定装置:ECX400M(日本電子社製、H-NMR)
(2)測定温度:23℃
(3)試料濃度:0.1g/1ml
(4)積算回数:16
(5)緩和時間:5秒
(6)溶剤:重水素ジメチルスルホキシド
(7)化学シフト基準:重水素ジメチルスルホキシド中のメチル基の水素原子シグナル(2.5ppm)
(8)評価方法:8.5ppm付近のシグナルをアロファネート基の窒素原子に結合した水素原子として、3.7ppm付近のシグナルをイソシアヌレート基の窒素原子に隣接したメチレン基の水素原子としてそれぞれ同定し、それらの面積比から結合基の含有量を算出した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
<C-17>
ポリイソシアヌレートであるコロネートHXLV(商品名、東ソー社製、NCO含量23.2%、25℃における粘度1100mPa・s)を用いた。
【0091】
<C-18>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、コロネートHXLV900gと、ノニオン性親水基含有一官能性アルコールとしてメトキシポリエチレングリコール(分子量400、東邦化学社製)100gを仕込み、これらを撹拌しながら80℃に昇温し、6時間反応させた。得られたポリイソシアネートはNCO含量21.5%、25℃における粘度1050mPa・sであった。
【0092】
【表3】
【0093】
<粘度評価>
25℃条件下、B型粘度計を用いて、ポリイソシアネートの粘度を測定した。評価A、またはBであれば、わずかな量の有機溶剤による希釈、さらには有機溶剤で希釈せずとも十分に作業性を確保でき、良好といえる。
・800mPa・s以下:A
・1000mPa・s以下:B
・1000mPa・s超:C。
【0094】
<水分散性評価>
ポリイソシアネートC-1~C-18について、ポリイソシアネート10g、蒸留水90gを順に200mlビーカーに仕込み、電動攪拌機に接続された40mm径の3枚翼プロペラ羽根を用い、1分間あたり250回転の速度で混合し、撹拌開始から一定時間経過後に3枚翼プロペラ羽根を取り除き1分静置後、上澄み液を取り除き、ビーカーの底のポリイソシアネート残渣が質量で10%未満となるまでの時間を測定し評価した。評価A、またはBであれば水分散性は良好といえる。
・5分未満:A
・10分未満:B
・10分以上:C
・分散せず(水層と油層に分離):D。
【0095】
<分散安定性評価>
ポリイソシアネートC-1~C-18について、ポリイソシアネート10g、蒸留水90gを順に200mlビーカーに仕込み、電動攪拌機に接続された40mm径の3枚翼プロペラ羽根を用い、1分間あたり250回転の速度で混合し、撹拌開始から10分経過後に3枚翼プロペラ羽根を取り除き1時間静置後、上澄み液を取り除き、ビーカーの底に沈降したポリイソシアネート残渣の質量を測定し評価した。評価A、またはBであれば分散安定性は良好といえる。
・残渣5wt%未満:A
・残渣10wt%未満:B
・残渣10wt%以上:C
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
<溶剤系塗料組成物および試験片の作製>
表6、表7に示す配合に従い、ポリオール、ポリイソシアネート、有機溶剤の順に200mlビーカーに仕込み、電動攪拌機に接続された40mm径の3枚翼プロペラ羽根を用い、1分間あたり250回転の速度で5分間混合し、塗料組成物(SB-1~SB-18)を調製した。ここでは、ポリオールとポリイソシアネートはR(イソシアネート基/水酸基のモル比)=1.0になるように配合し、有機溶剤を加え固形分が50質量%になるように調製した。また、ポリオールには、アクリルポリオール(商品名:アクリディックA-801、水酸基価:50mgKOH/g、固形分:50質量%、DIC社製)を使用し、有機溶剤には、酢酸ブチルを使用し調製した。
【0099】
調製した塗料組成物を、それぞれメチルエチルケトンで脱脂した鋼板(JIS G3141、商品名:SPCC-SB、処理方法:PF-1077、パルテック社製)にアプリケーターを用い、任意の膜厚になるように塗布した。その後、室温で30分予備乾燥した後、温度80℃の乾燥機中で10時間加熱処理を行い、コーティング塗膜(SB-1~SB-18)を得た。
【0100】
【表6】
【0101】
【表7】
【0102】
<水性塗料組成物および試験片の作製>
表8、表9に示す配合に従い、ポリイソシアネート組成物、蒸留水の順に200mlビーカーに仕込み、電動攪拌機に接続された40mm径の3枚翼プロペラ羽根を用い、1分間あたり250回転の速度で5分間混合し、さらにポリオールを仕込み5分間混合し、塗料組成物(WB-1~WB-18)を調製した。ここでは、ポリオールとポリイソシアネート組成物は、R(イソシアネート基/水酸基のモル比)=1.5になるように配合し、蒸留水を加え固形分が40質量%になるように調製した。
ポリオールには、アクリルエマルション(商品名:バーノックWE-303、水酸基価:固形分として84mgKOH/g、固形分:45質量%、DIC社製)を使用した。
調製した塗料組成物を、それぞれメチルエチルケトンで脱脂した白色カラー鋼板(ユタカパネルサービス製)にアプリケーターを用い、任意の膜厚になるように塗布した。その後、室温で30分予備乾燥した後、温度80℃の乾燥機中で10時間加熱処理を行い、コーティング塗膜(WB-1~WB-18)を得た。
【0103】
【表8】
【0104】
【表9】
【0105】
<耐溶剤性>
メチルエチルケトンを含ませた脱脂綿で塗膜を擦るラビング試験にて耐溶剤性を評価した。上記塗料組成物の配合条件に於いて、ポリイソシアネートの溶剤溶解性や水分散性が不十分の場合、ポリオールとポリイソシアネートとの比率が設定通りとならず、不均一な塗膜となってしまい、耐溶剤性は著しく低下する。
【0106】
<評価基準>
メチルエチルケトンを含ませた脱脂綿を用い、0.5kg/cm荷重にてラビング100往復後の塗膜外観を観察した。評価A、またはBであれば耐溶剤性良好といえる。
・外観変化なし:A
・すり傷程度の外観変化:B
・一部塗膜剥離:C
・塗膜完全剥離:D
【0107】
【表10】
【0108】
【表11】