IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】電気絶縁テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20230926BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20230926BHJP
   C09J 123/20 20060101ALI20230926BHJP
   C09J 191/00 20060101ALI20230926BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20230926BHJP
   H01B 3/50 20060101ALI20230926BHJP
   H01M 10/04 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J153/02
C09J123/20
C09J191/00
H01B17/56 A
H01B3/50
H01M10/04 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019121969
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2020033543
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018159003
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貞治
(72)【発明者】
【氏名】角井 怜王
(72)【発明者】
【氏名】久岡 育司
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/171025(WO,A1)
【文献】特開2000-219860(JP,A)
【文献】特表平08-506603(JP,A)
【文献】特開2016-060825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
H01B 3/30
H01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットメルト粘接着剤組成物と、基材とを備える電気絶縁テープであって、
前記ホットメルト粘接着剤組成物が、ブロック共重合体組成物と、水添炭化水素樹脂とを含有し、
前記ブロック共重合体組成物が、下記一般式(I)で表わされるブロック共重合体Aおよび下記一般式(II)で表されるブロック共重合体Bを含み、
前記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位含有量が、前記ブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位含有量より多く、
前記ブロック共重合体組成物中の前記ブロック共重合体Aの含有量が、35~90質量%であり、
65℃、2時間の条件で加熱した際における、前記ホットメルト粘接着剤組成物のトルエン揮発分量が260μg/m以下、全揮発成分量が15,000μg/m以下であり、
温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、前記ホットメルト粘接着剤組成物の、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が400N/m以上である電気絶縁テープ。
Ar1-D1-Ar2 (I)
Ar3-D2 (II)
(上記一般式(I)、(II)中、Ar1、Ar2およびAr3は、それぞれ芳香族ビニル重合体ブロックであり、D1およびD2は、それぞれ共役ジエン重合体ブロックである。)
【請求項2】
前記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))と、前記ブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロックAr3の重量平均分子量(Mw(Ar3))とが実質的に同一である請求項1に記載の電気絶縁テープ。
【請求項3】
前記ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量(Mw(D1))と、前記ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロックD2の重量平均分子量(Mw(D2))の比(Mw(D2)/Mw(D1))が、0.95~1.05である請求項1または2に記載の電気絶縁テープ。
【請求項4】
前記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2))の、前記芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))に対する比(Mw(Ar2)/Mw(Ar1))が、1~7の範囲である請求項2または3に記載の電気絶縁テープ。
【請求項5】
前記ブロック共重合体Bが、前記ブロック共重合体Aを調製する際に、前記ブロック共重合体Aとともに、調製されたものである請求項2~4のいずれかに記載の電気絶縁テープ。
【請求項6】
前記水添炭化水素樹脂が、
1,3-ペンタジエン単量体単位30質量%~75質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位20質量%~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5質量%~25質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0質量%~10質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0質量%~30質量%を含む炭化水素樹脂を、水添して得られたものである請求項1~5のいずれかに記載の電気絶縁テープ。
【請求項7】
前記水添炭化水素樹脂は、
オレフィンの水添率が10%~80%であり、
芳香族性の単量体単位を含む場合における、芳香環の水添率が1%~30%であり、
重量平均分子量(Mw)が1,000~3,500であり、
Z平均分子量(Mz)が2,000~7,000であり、
重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.5~2.5であり、
軟化点が50℃以上であり、
50質量%トルエン溶液のガードナー色数が3以下である請求項6に記載の電気絶縁テープ。
【請求項8】
軟化剤をさらに含有する請求項1~7のいずれかに記載の電気絶縁テープ。
【請求項9】
前記ブロック共重合体組成物の含有割合が10質量%~70質量%、前記水添炭化水素樹脂の含有割合が20質量%~80質量%、前記軟化剤の含有割合が0.1質量%~30質量%である請求項8に記載の電気絶縁テープ。
【請求項10】
前記ブロック共重合体組成物全体に対して芳香族ビニル単量体単位が占める割合が10質量%~50質量%である請求項1~9のいずれかに記載の電気絶縁テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁テープに関し、さらに詳しくは、臭気が低く、経時による接着力の変化が抑制され、保持力に優れた電気絶縁テープに関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト粘接着剤は、短時間で固化することから、種々の製品を効率的に接着させることが可能であり、しかも、溶剤を必要としないことから、人体への安全性が高い粘接着剤であるので、様々な分野で用いられている。たとえば、食品、衣料、電子機器、化粧品などの紙、ダンボール、フィルムの包装用の封緘用接着剤、紙おむつや生理用品などの衛生用品を製造する際には、それらを構成するための部材を接着させるための接着剤として、また、粘着テープやラベルの粘着層を構成する粘着剤として、ホットメルト粘接着剤が使用されている。
【0003】
ホットメルト粘接着剤として、たとえば、特許文献1では、下記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなるブロック共重合体組成物と、粘着付与樹脂とを含有してなるホットメルト粘接着剤組成物であって、ブロック共重合体組成物におけるブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの重量比(A/B)が10/90~90/10であり、粘着付与樹脂の芳香族単量体単位含有量が1~70重量%である、ホットメルト粘接着剤組成物が提案されている。
Ar1-D-Ar2 (A)
(Ar-D)n-X (B)
(一般式(A)および(B)において、Ar1およびArは、それぞれ、重量平均分子量が6000~20000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が22000~400000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、DおよびDは、それぞれ、ビニル結合含有量が1~20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。)
【0004】
一方、電気絶縁テープの粘接着剤用途にホットメルト粘接着剤組成物を用いる場合、臭気が問題となる場合があり、そのため、保持力を維持し、経時劣化を抑制しつつ、臭気を低減することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-254983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、臭気が低く、経時による接着力の変化が抑制され、保持力に優れた電気絶縁テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、ホットメルト粘接着剤組成物と、基材とを備える電気絶縁テープにおいて、ホットメルト粘接着剤組成物として、芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを含有するホットメルト粘接着剤組成物であって、トルエン揮発分量および全揮発成分量が所定量以下と抑えられており、かつ、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が特定の範囲にあるものを用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ホットメルト粘接着剤組成物と、基材とを備える電気絶縁テープであって、前記ホットメルト粘接着剤組成物が、芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを含有し、65℃、2時間の条件で加熱した際における、前記ホットメルト粘接着剤組成物のトルエン揮発分量が260μg/m以下、全揮発成分量が15,000μg/m以下であり、温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、前記ホットメルト粘接着剤組成物の、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が400N/m以上である電気絶縁テープが提供される。
【0009】
本発明の電気絶縁テープにおけるホットメルト粘接着剤組成物において、前記芳香族ビニルブロック共重合体として、下記一般式(I)で表わされるブロック共重合体Aと、下記一般式(II)で表されるブロック共重合体Bと、を含有することが好ましい。
Ar1-D1-Ar2 (I)
Ar3-D2 (II)
(上記一般式(I)、(II)中、Ar1、Ar2およびAr3は、それぞれ芳香族ビニル重合体ブロックであり、D1およびD2は、それぞれ共役ジエン重合体ブロックである。)
本発明の電気絶縁テープにおけるホットメルト粘接着剤組成物において、前記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位含有量が、前記ブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位含有量より多く、
前記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))と、前記ブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロックAr3の重量平均分子量(Mw(Ar3))とが実質的に同一であることが好ましい。
本発明の電気絶縁テープにおいて、前記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2))の、前記芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))に対する比(Mw(Ar2)/Mw(Ar1))が、1~7の範囲であることが好ましい。
本発明の電気絶縁テープにおいて、前記ブロック共重合体Bが、前記ブロック共重合体Aを調製する際に、前記ブロック共重合体Aとともに、調製されたものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の電気絶縁テープにおけるホットメルト粘接着剤組成物において、前記水添炭化水素樹脂が、
1,3-ペンタジエン単量体単位30質量%~75質量%、
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位20質量%~50質量%、
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5質量%~25質量%、
脂環式ジオレフィン単量体単位0質量%~10質量%、および
芳香族モノオレフィン単量体単位0質量%~30質量%を含む炭化水素樹脂を、水添して得られたものであることが好ましい。
本発明の電気絶縁テープにおいて、前記水添炭化水素樹脂が、水添前の前記炭化水素樹脂として、ジシクロペンタジエン類からなる単量体単位の含有割合が10質量%以下である炭化水素樹脂を、水添して得られたものであることが好ましい。
本発明の電気絶縁テープにおけるホットメルト粘接着剤組成物において、
前記水添炭化水素樹脂は、
オレフィンの水添率が10%~80%であり、
芳香族性の単量体単位を含む場合における、芳香環の水添率が1%~30%であり、
重量平均分子量(Mw)が1,000~3,500であり、
Z平均分子量(Mz)が2,000~7,000であり、
重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が1.5~2.5であり、
軟化点が50℃以上であり、
50質量%トルエン溶液のガードナー色数が3以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の電気絶縁テープにおいて、前記ホットメルト粘接着剤組成物は、軟化剤をさらに含有することが好ましい。
本発明の電気絶縁テープにおいて、前記芳香族ビニルブロック共重合体の含有割合が10質量%~70質量%、前記水添炭化水素樹脂の含有割合が20質量%~80質量%、前記軟化剤の含有割合が0.1質量%~30質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、臭気が低く、経時による接着力の変化が抑制され、保持力に優れた電気絶縁テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電気絶縁テープは、ホットメルト粘接着剤組成物と、基材とを備えるものである。
【0014】
(ホットメルト粘接着剤組成物)
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを含有してなり、65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量が260μg/m以下、全揮発成分量が15,000μg/m以下であり、かつ、温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が400N/m以上に制御されたものである。
【0015】
(芳香族ビニルブロック共重合体)
本発明で用いる芳香族ビニルブロック共重合体としては、特定の芳香族ビニル重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックとを備えるブロック共重合体であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、このような芳香族ビニル重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックとを備えるブロック共重合体として、下記一般式(I)で表わされるブロック共重合体Aと、下記一般式(II)で表されるブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物を好適に用いることができる。
Ar1-D1-Ar2 (I)
Ar3-D2 (II)
(上記一般式(I)、(II)中、Ar1、Ar2およびAr3は、それぞれ芳香族ビニル重合体ブロックであり、D1およびD2は、それぞれ共役ジエン重合体ブロックである。)
【0017】
ブロック共重合体Aは、下記一般式(I)で表わされる2つの芳香族ビニル重合体ブロックと、1つの共役ジエン重合体ブロックとを有するトリブロック共重合体である。
Ar1-D1-Ar2 (I)
(上記一般式(I)中、Ar1およびAr2は、それぞれ芳香族ビニル重合体ブロックであり、D1は、共役ジエン重合体ブロックである。)
【0018】
ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1は、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックAr1の芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、スチレン;α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等のアルキル置換スチレン類;4-クロロスチレン、2-ブロモスチレン、3,5-ジフルオロスチレン等のハロゲン置換スチレン類;4-メトキシスチレン、3,5-ジメトキシスチレン等のアルコキシ置換スチレン類等が挙げられる。これらのなかでも、ハロゲン不含芳香族ビニル単量体が好ましく、粘接着剤としての接着力をより高めることができるという観点および電気絶縁テープの保持力をより高めることができるという観点より、スチレン、アルキル置換スチレンがより好ましく、スチレンが特に好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
芳香族ビニル重合体ブロックAr1は、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。芳香族ビニル重合体ブロックAr1に含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン,1,3-ペンタジエン等の共役ジエン単量体が例示される。芳香族ビニル重合体ブロックAr1における芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、実質的に0質量%であることが特に好ましい。すなわち、芳香族ビニル重合体ブロックAr1における芳香族ビニル単量体単位の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。
【0020】
芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))は、特に限定されないが、通常、5,000~100,000の範囲内とすることができ、6,000~50,000の範囲内であることが好ましく、7,000~30,000の範囲内であることがより好ましく、10,000~16,000の範囲であることがさらに好ましい。Mw(Ar1)を上記範囲とすることにより、溶融粘度の増加を抑制しながら、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0021】
また、芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1)と数平均分子量(Mn(Ar1))との比である分子量分布(Mw(Ar1)/Mn(Ar1))は、経時による接着力の変化をより小さくすることができるという観点より、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
【0022】
なお、本発明において、各重合体ブロック、ブロック共重合体およびブロック共重合体組成物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めることができる。より具体的には、重量平均分子量および数平均分子量の測定は、テトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めることができる。
【0023】
ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1は、共役ジエン単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。共役ジエン重合体ブロックD1の共役ジエン単量体単位を構成するために用いられる共役ジエン単量体としては、共役ジエン化合物であれば特に限定されないが、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、共役ジエン単量体としては、ハロゲン不含共役ジエン単量体が好ましく、粘接着剤としての接着力をより高めることができるという観点および電気絶縁テープの保持力をより高めることがで きるという観点より、1,3-ブタジエンおよび/またはイソプレンがより好ましく、イソプレンが特に好ましい。これらの共役ジエン単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1は、炭素-炭素不飽和結合の一部について、水素添加反応がされたものであってもよい。
【0024】
共役ジエン重合体ブロックD1は、共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。共役ジエン重合体ブロックD1に含まれ得る共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、α,β-不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。共役ジエン重合体ブロックD1における共役ジエン単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、実質的に0質量%であることが特に好ましい。すなわち、共役ジエン重合体ブロックD1における共役ジエン単量体単位の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。
【0025】
共役ジエン重合体ブロックD1を構成する単量体単位中における、ビニル結合を有する単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常、50質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、なかでも5質量%~10質量%の範囲内であることが好ましい。ビニル結合を有する単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、低温時の接着力をより高めることできる。
【0026】
共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量(Mw(D1))は、特に限定されないが、通常、70,000~190,000の範囲内とすることができ、80,000~160,000の範囲内であることが好ましく、85,000~140,000の範囲内であることがより好ましく、110,000~130,000であることがさらに好ましい。Mw(D1)を上記範囲とすることにより、溶融粘度の増加を抑制しながら、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0027】
また、共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量(Mw(D1)と数平均分子量(Mn(D1))との比である分子量分布(Mw(D1)/Mn(D1))は、経時による接着力の変化をより小さくすることができるという観点より、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
【0028】
ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr2は、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックAr2の芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、上記芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同様のものが挙げられる。
【0029】
また、芳香族ビニル重合体ブロックAr2は、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、芳香族ビニル重合体ブロックAr2に含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、上記芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同様のものが挙げられ、その含有量も同様とすることできる。
【0030】
芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2))は、ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))より大きくてもよく、Mw(Ar1)と同程度であってもよい。本発明においては、芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2))の芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))に対する比(Mw(Ar2)/Mw(Ar1)))が、1~7の範囲内であることが好ましく、1~5の範囲内であることがより好ましく、1.2~4の範囲内であることがさらに好ましく、特に、1.5~3の範囲内であることが特に好ましい。上記重量平均分子量の比を上記範囲とすることにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0031】
芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2))は、特に限定されないが、通常、5,000~120,000の範囲内とすることができ、9,000~100,000の範囲内であることが好ましく、4,000~90,000の範囲内であることがより好ましい。Mw(Ar2)を上記範囲とすることにより、高分子量化に伴う生産性の低下を抑制しながら、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0032】
芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2)と数平均分子量(Mn(Ar2))との比である分子量分布(Mw(Ar2)/Mn(Ar2))は、経時による接着力の変化をより小さくすることができるという観点より、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
【0033】
ブロック共重合体Aは、上述した芳香族ビニル重合体ブロックAr1、共役ジエン重合体ブロックD1および芳香族ビニル重合体ブロックAr2からなるトリブロック共重合体であり、その重量平均分子量(MwA)、すなわち、ブロック共重合体A全体の重量平均分子量は、通常、80,000~400,000の範囲内とすることができ、90,000~300,000の範囲内であることが好ましく、100,000~250,000の範囲内であることがより好ましく、110,000~220,000の範囲内であることがさらに好ましく、150,000~190,000の範囲内であることが特に好ましい。ブロック共重合体Aの重量平均分子量(MwA)を上記範囲とすることにより、溶融粘度の増加を抑制しながら、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0034】
ブロック共重合体Aの分子量分布(Mw/Mn)、すなわち、ブロック共重合体A全体の分子量分布は、経時による接着力の変化をより小さくすることができるという観点より、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
【0035】
ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位含有量(ブロック共重合体Aを構成する全単量体単位に対する、芳香族ビニル単量体単位が占める割合)は、通常、15質量%~75質量%の範囲内であり、17質量%~60質量%の範囲内であることが好ましく、18質量%~50質量%の範囲内であることがより好ましく、20質量%~35質量%の範囲内であることがさらに好ましい。芳香族ビニル単量体単位含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0036】
また、本発明においては、ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位含有量が、後述するブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位含有量より多いものとすることが好ましい。具体的には、ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位含有量の、ブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位含有量に対する比(ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位含有量/ブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位含有量)が、1.1~5の範囲内であることが好ましく、1.5~4の範囲内であることがより好ましく、1.75~3.5の範囲内であることがさらに好ましい。上記比を上記範囲とすることにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0037】
また、ブロック共重合体Aのブロック共重合体組成物中の含有量(ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとを含むブロック共重合体組成物中の、ブロック共重合体Aの含有量)は、通常、10質量%~90質量%の範囲内とすることができ、15質量%~60量%の範囲内であることが好ましく、20質量%~50質量%の範囲内であることがより好ましく、35質量%~45質量%であることがさらに好ましい。ブロック共重合体Aのブロック共重合体組成物中の含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0038】
なお、本発明においては、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aとしては、実質的に単一の構成を有する1種のブロック共重合体Aのみからなるものであってもよいし、実質的に相異なる構成を有する2種以上のブロック共重合体Aによって構成されたものであってもよい。
【0039】
ブロック共重合体Bは、下記一般式(II)で表わされる、1つの芳香族ビニル重合体ブロックと、1つの共役ジエン重合体ブロックとを有するジブロック共重合体である。
Ar3-D2 (II)
(上記一般式(II)中、Ar3は芳香族ビニル重合体ブロックであり、D2は共役ジエン重合体ブロックである。)
【0040】
ブロック共重合体Bを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr3は、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックAr3の芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同様のものが挙げられる。
【0041】
また、芳香族ビニル重合体ブロックAr3は、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、芳香族ビニル重合体ブロックAr3に含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同様のものが挙げられ、その含有量も同様とすることできる。
【0042】
本発明においては、芳香族ビニル重合体ブロックAr3を構成する単量体単位を形成するために用いられる単量体の種類が、上記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr1を構成する単量体単位を形成するために用いられる単量体の種類と同じであることが好ましく、また、芳香族ビニル重合体ブロックAr3を形成する各単量体単位の含有割合が、上記ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr1を構成する各単量体単位の含有割合と実質的に同一であることが好ましい。芳香族ビニル重合体ブロックAr3を構成する単量体単位と、ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr1を構成する単量体単位とが実質的に同一であることにより、ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとの相溶性を高めることができ、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0043】
また、本発明においては、ブロック共重合体Bを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr3は、その重量平均分子量(Mw(Ar3))が、ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))と実質的に同一であることが好ましい。なお、この際において、Mw(Ar3)と、Mw(Ar1)とが実質的に同じであると判断できるような関係にあればよいが、これらの重量平均分子量の比(Mw(Ar3)/Mw(Ar1))が、0.95~1.05の範囲内であることが好ましく、0.98~1.02の範囲内であることがより好ましく、1.00であることが特に好ましい。Mw(Ar3)と、Mw(Ar1)とが実質的に同一であることにより、ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとの相溶性を高めることができ、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0044】
また、芳香族ビニル重合体ブロックAr3の重量平均分子量(Mw(Ar3)と数平均分子量(Mn(Ar3))との比である分子量分布(Mw(Ar3)/Mn(Ar3))も、ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとの相溶性を高め、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができるという観点より、ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1の分子量分布(Mw(Ar1)/Mn(Ar1))と実質的に同一とすることが好ましい。すなわち、[Mw(Ar3)/Mn(Ar3)]/[Mw(Ar1)/Mn(Ar1)]が、0.95~1.05の範囲内であることが好ましく、0.98~1.02の範囲内であることがより好ましく、1.00であることが特に好ましい。
【0045】
ブロック共重合体Bを構成する共役ジエン重合体ブロックD2は、共役ジエン単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。共役ジエン重合体ブロックD2の共役ジエン単量体単位を構成するために用いられる共役ジエン単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1と同様のものが挙げられる。
【0046】
また、共役ジエン重合体ブロックD2は、共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、共役ジエン重合体ブロックD2に含まれ得る共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1と同様のものが挙げられ、その含有量も同様とすることできる。
【0047】
本発明においては、共役ジエン重合体ブロックD2を構成する単量体単位を形成するために用いられる単量体の種類が、上記ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロックD1を構成する単量体単位を形成するために用いられる単量体の種類と同じであることが好ましく、また、共役ジエン重合体ブロックD2を形成する各単量体単位の含有割合が、上記ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロックD1を構成する各単量体単位の含有割合と実質的に同一であることが好ましい。共役ジエン重合体ブロックD2を構成する単量体単位と、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロックD1を構成する単量体単位とが実質的に同一であることにより、ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとの相溶性を高めることができ、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0048】
また、本発明においては、ブロック共重合体Bを構成する共役ジエン重合体ブロックD2は、その重量平均分子量(Mw(D2))が、ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量(Mw(D1))と実質的に同一であることが好ましい。なお、この際において、Mw(D2)と、Mw(D1)とが実質的に同じであると判断できるような関係にあればよいが、これらの重量平均分子量の比(Mw(D2)/Mw(D1))が、0.95~1.05の範囲内であることが好ましく、0.98~1.02の範囲内であることがより好ましく、1.00であることが特に好ましい。Mw(D2)と、Mw(D1)とが実質的に同一であることにより、ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとの相溶性を高めることができ、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0049】
また、共役ジエン重合体ブロックD2の重量平均分子量(Mw(D2)と数平均分子量(Mn(D2))との比である分子量分布(Mw(D2)/Mn(D2))も、ブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとの相溶性を高め、これにより、粘接着剤としての接着力をより高め、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができるという観点より、ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1の分子量分布(Mw(D1)/Mn(D1))と実質的に同一とすることが好ましい。すなわち、[Mw(D2)/Mn(D2)]/[Mw(D1)/Mn(D1)]が、0.95~1.05の範囲内であることが好ましく、0.98~1.02の範囲内であることがより好ましく、1.00であることが特に好ましい。
【0050】
ブロック共重合体Bは、上述した芳香族ビニル重合体ブロックAr3、および共役ジエン重合体ブロックD2からなるジブロック共重合体であり、その重量平均分子量(MwB)、すなわち、ブロック共重合体B全体の重量平均分子量は、通常、80,000~300,000の範囲内とすることができ、85,000~250,000の範囲内であることが好ましく、90,000~230,000の範囲内であることがより好ましく、95,000~200,000の範囲内であることがさらに好ましく、120,000~150,000の範囲内であることが特に好ましい。ブロック共重合体Bの重量平均分子量(MwB)を上記範囲とすることにより、溶融粘度の増加を抑制しながら、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0051】
ブロック共重合体Bの分子量分布(Mw/Mn)、すなわち、ブロック共重合体B全体の分子量分布は、経時による接着力の変化をより小さくすることができるという観点より、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
【0052】
ブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位含有量(ブロック共重合体Bを構成する全単量体単位に対する、芳香族ビニル単量体単位が占める割合)は、通常、8質量%~50質量%の範囲内であり、10質量%~40質量%の範囲内であることが好ましく、12質量%~30質量%の範囲内であることがより好ましく、12質量%~17質量%であることがさらに好ましい。芳香族ビニル単量体単位含有量を上記範囲とすることにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0053】
なお、本発明においては、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Bとしては、実質的に単一の構成を有する1種のブロック共重合体Bのみからなるものであってもよいし、実質的に相異なる構成を有する2種以上のブロック共重合体Bによって構成されたものであってもよい。
【0054】
また、本発明においては、ブロック共重合体Bが、ブロック共重合体Aを調製する際に、ブロック共重合体Aとともに、調製されたものであることが好ましい。具体的には、後述する製造方法において詳述するように、まず、ブロック共重合体Bを得た後、得られたブロック共重合体Bのうち一部について、さらに芳香族ビニル重合体ブロックAr2を結合させることで、ブロック共重合体Aを得るという方法により、ブロック共重合体Bと、ブロック共重合体Aとが同時に調製されたものとすることが好ましい。
【0055】
なお、本発明においては、芳香族ビニルブロック共重合体として、上述したブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物を用いることが好ましいが、この場合において、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bのみからなるものであってもよいが、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外のブロック共重合体を含んでいてもよい。このようなブロック共重合体の例としては、ブロック共重合体Aと異なる構成を有する芳香族ビニル-共役ジエン-芳香族ビニルトリブロック共重合体や放射状芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ブロック共重合体成分において、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外のブロック共重合体が占める量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
ブロック共重合体A、ブロック共重合体B、および場合によって含有されうるブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外のブロック共重合体からなるブロック共重合体成分において、当該ブロック共重合体成分全体に対して芳香族ビニル単量体単位が占める割合(以下の記載において、「全体の芳香族ビニル単量体単位含有量」という場合がある)は、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができるという観点より、10質量%~50質量%の範囲内であることが好ましく、13質量%~40質量%の範囲内であることがより好ましく、15質量%~37質量%の範囲内であることがさらに好ましく、17質量%~35質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0057】
この全体の芳香族ビニル単量体単位含有量は、ブロック共重合体組成物を構成する各ブロック共重合体の芳香族ビニル単量体単位含有量を勘案し、各ブロック共重合体の配合量を調節することにより、容易に調節することが可能である。なお、ブロック共重合体組成物を構成する全ての重合体成分が、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位のみにより構成されている場合であれば、Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従って、ブロック共重合体をオゾン分解し、次いで水素化リチウムアルミニウムにより還元すれば、共役ジエン単量体単位部分が分解され、芳香族ビニル単量体単位部分のみを取り出せるので、容易に全体の芳香族ビニル単量体単位含有量を測定することができる。
【0058】
本発明で用いる、芳香族ビニルブロック共重合体全体としての重量平均分子量(Mw)、すなわち、上述したブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物を用いる場合においては、ブロック共重合体A、ブロック共重合体B、および場合によって含有されうるブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外のブロック共重合体からなるブロック共重合体成分全体の重量平均分子量は、80,000~400,000の範囲内であることが好ましく、85,000~280,000の範囲内であることがより好ましく、90,000~250,000の範囲内であることがさらに好ましい。
【0059】
上述したブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物の製造方法としては、特に限定されない。たとえば、従来の重合法に従って、それぞれのブロック共重合体を別個に製造し、それらを混練や溶液混合などの常法に従って混合することにより、製造することができる。
【0060】
本発明においては、ブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの相溶性をより高め、これにより、粘接着剤としての接着力をより高め、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができるという観点より、次に述べるような製造方法、具体的には、まず、ブロック共重合体Bを得た後、得られたブロック共重合体Bのうち一部について、さらに芳香族ビニル重合体ブロックAr2を結合させることで、ブロック共重合体Aを得る方法が好ましい。
【0061】
より具体的には、下記の(1)~(5)の工程からなる製造方法を用いて製造することが好ましい。
(1):溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合する工程
(2):上記(1)の工程で得られる活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加する工程
(3):上記(2)の工程で得られる活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、重合停止剤を、活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の活性末端に対して1モル当量未満となるように添加し、ブロック共重合体Bを形成する工程
(4):上記(3)の工程で得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加し、ブロック共重合体Aを形成する工程
(5):上記(4)の工程で得られる溶液から、重合体成分を回収する工程
【0062】
上記の製造方法では、まず、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合する(工程(1))。用いられる重合開始剤としては、一般的に芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とに対し、アニオン重合活性があることが知られている有機アルカリ金属化合物、有機アルカリ土類金属化合物、有機ランタノイド系列希土類金属化合物などを用いることができる。有機アルカリ金属化合物としては、分子中に1個以上のリチウム原子を有する有機リチウム化合物が特に好適に用いられ、その具体例としては、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ジアルキルアミノリチウム、ジフェニルアミノリチウム、ジトリメチルシリルアミノリチウムなどの有機モノリチウム化合物や、メチレンジリチウム、テトラメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、イソプレニルジリチウム、1,4-ジリチオ-エチルシクロヘキサンなどの有機ジリチウム化合物、さらには、1,3,5-トリリチオベンゼンなどの有機トリリチウム化合物などが挙げられる。これらのなかでも、有機モノリチウム化合物が特に好適に用いられる。
【0063】
重合開始剤として用いる有機アルカリ土類金属化合物としては、たとえば、n-ブチルマグネシウムブロミド、n-ヘキシルマグネシウムブロミド、エトキシカルシウム、ステアリン酸カルシウム、t-ブトキシストロンチウム、エトキシバリウム、イソプロポキシバリウム、エチルメルカプトバリウム、t-ブトキシバリウム、フェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ステアリン酸バリウム、エチルバリウムなどが挙げられる。また、他の重合開始剤の具体例としては、ネオジム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むランタノイド系列希土類金属化合物/アルキルアルミニウム/アルキルアルミニウムハライド/アルキルアルミニウムハイドライドからなる複合触媒や、チタン、バナジウム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むメタロセン型触媒などの有機溶媒中で均一系となり、リビング重合性を有するものなどが挙げられる。なお、これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
重合開始剤の使用量は、目的とする各ブロック共重合体の分子量に応じて決定すればよく、特に限定されないが、使用する全単量体100gあたり、通常、0.01ミリモル~20ミリモル、好ましくは、0.05ミリモル~15ミリモル、より好ましくは、0.1ミリモル~10ミリモルである。
【0065】
重合に用いる溶媒は、重合開始剤に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、たとえば、鎖状炭化水素溶媒、環式炭化水素溶媒またはこれらの混合溶媒が使用される。鎖状炭化水素溶媒としてはn-ブタン、イソブタン、1-ブテン、イソブチレン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、トランス-2-ペンテン、シス-2-ペンテン、n-ペンタン、イソペンタン、neo-ペンタン、n-ヘキサンなどの、炭素数4~6の鎖状アルカンおよびアルケンを例示することができる。また、環式炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物;を挙げることができる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0066】
重合に用いる溶媒の量は、特に限定されないが、重合反応後の溶液における全ブロック共重合体の濃度が、通常、5質量%~60質量%、好ましくは10質量%~55質量%、より好ましくは20質量%~50質量%になるように設定する。
【0067】
各ブロック共重合体の各重合体ブロックの構造を制御するために、重合に用いる反応器にルイス塩基化合物を添加してもよい。このルイス塩基化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジンなどの第三級アミン類;カリウム-t-アミルオキシド、カリウム-t-ブチルオキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類などが挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0068】
また、重合反応時にルイス塩基化合物を添加する時期は特に限定されず、目的とする各ブロック共重合体の構造に応じて適宜決定すればよい。たとえば、重合を開始する前に予め添加してもよいし、一部の重合体ブロックを重合してから添加してもよく、さらには、重合を開始する前に予め添加した上で一部の重合体ブロックを重合した後さらに添加してもよい。
【0069】
重合反応温度は、通常10℃~150℃、好ましくは30℃~130℃、より好ましくは40℃~90℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常、48時間以内、好ましくは0.5時間~10時間である。重合圧力は、上記重合温度範囲で単量体および溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されない。
【0070】
以上のような条件で、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合することにより、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液を得ることができる。この活性末端を有する芳香族ビニル重合体は、ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr1およびブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロックAr3を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、これらの重合体ブロックの目的とする重量平均分子量に応じて決定される。
【0071】
次の工程は、以上のようにして得られる活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加する工程である(工程(2))。この共役ジエン単量体の添加により、活性末端から共役ジエン重合体鎖が形成され、活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液が得られる。この際用いる共役ジエン単量体の量は、得られる共役ジエン重合体鎖が、目的とするブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロックD1およびブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロックD2の重量平均分子量を有するように決定される。
【0072】
次の工程では、以上のようにして得られる活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、重合停止剤を、活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の活性末端に対して1モル当量未満となるように添加する(工程(3))。活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に重合停止剤と添加すると、活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の活性末端が失活し、その結果、芳香族ビニル-共役ジエンジブロック共重合体であるブロック共重合体Bが形成される。
【0073】
この工程で添加される重合停止剤は、特に限定されず、従来公知の重合停止剤を特に制限無く用いることができる。特に好適に用いられる重合停止剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノールなどのアルコールが挙げられる。
【0074】
この工程で添加される重合停止剤の量は、活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の活性末端に対して、1モル当量未満となる量とするものであり、これにより、次の工程であるブロック共重合体Aを形成する工程を行なうために、溶液中に活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体が残存させることができる。重合停止剤の量は、重合体の活性末端に対して0.10モル当量~0.90モル当量であることが好ましく、0.15モル当量~0.70モル当量であることがより好ましい。なお、この工程で添加される重合停止剤の量は、ブロック共重合体Bの量を決定するものであるので、重合停止剤の量は、目的とするブロック共重合体成分の組成に応じて決定すればよい。
【0075】
重合停止反応の反応条件は特に限定されず、通常は前述の重合反応条件と同様の範囲で設定すればよい。
【0076】
次の工程では、以上のようにして得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加する(工程(4))。溶液に芳香族ビニル単量体を添加すると、重合停止剤と反応せずに残った活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の末端から、芳香族ビニル重合体鎖が形成される。この芳香族ビニル重合体鎖は、ブロック共重合体Aの芳香族ビニル重合体ブロックAr2を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、芳香族ビニル重合体ブロックAr2の目的とする重量平均分子量に応じて決定される。この芳香族ビニル単量体を添加する工程により、ブロック共重合体Aを構成することとなる、芳香族ビニル-共役ジエン-芳香族ビニルトリブロック共重合体が形成され、その結果、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを含有する溶液が得られる。なお、この芳香族ビニル単量体を添加する工程の前に、重合停止剤と反応しなかった活性末端を有する芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を含む溶液に、共役ジエン単量体を添加してもよい。このように共役ジエン単量体を添加すると、添加しない場合に比べて、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量を大きくすることができる。
【0077】
次の工程では、以上のようにして得られる溶液から、目的とする重合体成分を回収する(工程(5))。回収の方法は、常法に従えばよく、特に限定されない。例えば、反応終了後に、必要に応じて、水、メタノール、エタノール、プロパノール、塩酸、クエン酸などの重合停止剤を添加し、さらに必要に応じて、酸化防止剤などの添加剤を添加してから、溶液に直接乾燥法やスチームストリッピングなどの公知の方法を適用することにより、回収することができる。スチームストリッピングなどを適用して、重合体成分がスラリーとして回収される場合は、押出機型スクイザーなどの任意の脱水機を用いて脱水して、所定値以下の含水率を有するクラムとし、さらにそのクラムをバンドドライヤーあるいはエクスパンション押出乾燥機などの任意の乾燥機を用いて乾燥すればよい。
【0078】
以上のようにして、上述したブロック共重合体Aと、ブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0079】
また、本発明においては、芳香族ビニルブロック共重合体として、上記一般式(II)で表わされるブロック共重合体Bと、下記一般式(III)で表されるブロック共重合体Cとを含有するブロック共重合体組成物を使用してもよい。
(Ar4-D3)-X (III)
(上記一般式(III)中、Ar4は、芳香族ビニル重合体ブロックであり、D3は、共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。)
【0080】
ブロック共重合体Cを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr4は、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックAr4の芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同様のものが挙げられる。
【0081】
また、芳香族ビニル重合体ブロックAr4は、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、芳香族ビニル重合体ブロックAr4に含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同様のものが挙げられ、その含有量も同様とすることできる。
【0082】
ブロック共重合体Cを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr4は、その重量平均分子量(Mw(Ar4))としては、特に限定されないが、ブロック共重合体Aを構成する芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))と同様の範囲において、適宜調整することができる。
【0083】
ブロック共重合体Cを構成する共役ジエン重合体ブロックD3は、共役ジエン単量体単位を主たる構成単位とする重合体ブロックである。共役ジエン重合体ブロックD3の共役ジエン単量体単位を構成するために用いられる共役ジエン単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1と同様のものが挙げられる。
【0084】
また、共役ジエン重合体ブロックD3は、共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、共役ジエン重合体ブロックD3に含まれ得る共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、上記ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1と同様のものが挙げられ、その含有量も同様とすることできる。
【0085】
ブロック共重合体Cを構成する共役ジエン重合体ブロックD3は、その重量平均分子量(Mw(D3))としては、特に限定されないが、ブロック共重合体Aを構成する共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量(Mw(D1))と同様の範囲において、適宜調整することができる。
【0086】
ブロック共重合体Bとブロック共重合体Cとを含有するブロック共重合体組成物の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、上述したブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物の製造方法における、工程(3)において、重合停止剤の一部に代えて、一部カップリング剤を使用する方法などが挙げられる。
【0087】
カップリング剤としては、特に限定されず、2官能以上の任意のカップリング剤を用いることができる。2官能のカップリング剤としては、たとえば、ジクロロシラン、モノメチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシランなどの2官能性ハロゲン化シラン;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどの2官能性アルコキシシラン;ジクロロエタン、ジブロモエタン、メチレンクロライド、ジブロモメタンなどの2官能性ハロゲン化アルカン;ジクロロスズ、モノメチルジクロロスズ、ジメチルジクロロスズ、モノエチルジクロロスズ、ジエチルジクロロスズ、モノブチルジクロロスズ、ジブチルジクロロスズなどの2官能性ハロゲン化スズ;ジブロモベンゼン、安息香酸、CO、2―クロロプロペンなどが挙げられる。3官能のカップリング剤としては、たとえば、トリクロロエタン、トリクロロプロパンなどの3官能性ハロゲン化アルカン;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなどの3官能性ハロゲン化シラン;メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン;などが挙げられる。4官能のカップリング剤としては、たとえば、四塩化炭素、四臭化炭素、テトラクロロエタンなどの4官能性ハロゲン化アルカン;テトラクロロシラン、テトラブロモシランなどの4官能性ハロゲン化シラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの4官能性アルコキシシラン;テトラクロロスズ、テトラブロモスズなどの4官能性ハロゲン化スズ;などが挙げられる。5官能以上のカップリング剤としては、例えば、1,1,1,2,2-ペンタクロロエタン,パークロロエタン、ペンタクロロベンゼン、パークロロベンゼン、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらのカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0088】
なお、工程(3)において、カップリング剤とともに、重合停止剤を併用する方法などにより、ブロック共重合体Bと、ブロック共重合体Cとに加えて、上記一般式(I)で表わされるブロック共重合体Aをさらに含有するものとすることができる。あるいは、上記一般式(I)で表わされるブロック共重合体Aを含有するブロック共重合体組成物と混合することにより、ブロック共重合体Aをさらに含有するものとしてもよい。
【0089】
(水添炭化水素樹脂)
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、上述した芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを含有してなるものである。
【0090】
本発明で用いる水添炭化水素樹脂は、水添前の炭化水素樹脂として、1,3-ペンタジエン単量体単位30質量%~75質量%、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位20質量%~50質量%、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位5質量%~25質量%、脂環式ジオレフィン単量体単位0質量%~10質量%、および芳香族モノオレフィン単量体単位0質量%~30質量%を含むものを用い、これを水添して得られたものであることが好ましい。
【0091】
水添前の炭化水素樹脂中における、1,3-ペンタジエン単量体単位の含有量は、30質量%~75質量%の範囲内であり、25質量%~65質量%の範囲内であることが好ましく、30質量%~60質量%の範囲内であることがより好ましく、35質量%~55質量%の範囲内であることがさらに好ましく、43質量%~53質量%の範囲内であることが特に好ましい。1,3-ペンタジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、電気絶縁テープの保持力を高く保ちつつ、経時による接着力の変化を有効に抑制しながら、臭気をより低減することができる。
【0092】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を1つと非芳香族性の環構造とを有する炭素数が4~6の炭化水素化合物である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンなどが挙げられる。
【0093】
水添前の炭化水素樹脂中における、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量は、20質量%~50質量%の範囲内であり、20質量%~45質量%の範囲内であることが好ましく、25質量%~40質量%の範囲内であることがより好ましい。炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、電気絶縁テープの保持力を高く保ちつつ、経時による接着力の変化を有効に抑制しながら、臭気をより低減することができる。
【0094】
なお、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、2種以上を組み合わせて用いる場合における、各化合物の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくともシクロペンテンが含まれることが好ましく、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中における、シクロペンテンの占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0095】
炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4~8の鎖状炭化水素化合物である。炭素数4~8の非環式モノオレフィンの具体例としては、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン(2-メチルプロペン)などのブテン類;1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンなどのペンテン類;1-ヘキセン、2-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテンなどのヘキセン類;1-ヘプテン、2-ヘプテン、2-メチル-1-ヘキセンなどのヘプテン類;1-オクテン、2-オクテン、2-メチル-1-ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン)などのオクテン類;などが挙げられる。
【0096】
水添前の炭化水素樹脂中における、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量は、5質量%~25質量%の範囲内であり、6質量%~25質量%の範囲内であることが好ましく、7量%~25質量%の範囲内であることがより好ましく、7質量%~12質量%の範囲内であることがさらに好ましい。炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、電気絶縁テープの保持力を高く保ちつつ、経時による接着力の変化を有効に抑制しながら、臭気をより低減することができる。
【0097】
なお、炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、2種以上を組み合わせて用いる場合における、各化合物の割合は任意の割合でよく、特に限定されないが、少なくとも2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも一種が含まれることが好ましく、炭素数4~8の非環式モノオレフィン中に2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンの合計量が占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0098】
また、本発明で用いる水添前の炭化水素樹脂は、脂環式ジオレフィンを含むものであってもよい。脂環式ジオレフィンは、その分子構造中に、2つ以上のエチレン性不飽和結合と非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物である。脂環式ジオレフィンの具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体などが挙げられる。
【0099】
水添前の炭化水素樹脂中における、脂環式ジオレフィン単量体単位の含有量は、0質量%~10質量%の範囲内であり、0.5質量%~4質量%の範囲内であることが好ましく、0.7質量%~3質量%の範囲内であることがより好ましく、0.8質量%~2.6質量%の範囲内であることがさらに好ましい。脂環式ジオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、電気絶縁テープの保持力を高く保ちつつ、経時による接着力の変化を有効に抑制しながら、臭気をより低減することができる。
【0100】
さらに、本発明で用いる水添前の炭化水素樹脂は、芳香族モノオレフィンを含むものであってもよい。芳香族モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有する芳香族化合物である。芳香族モノオレフィンの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、クマロンなどが挙げられる。
【0101】
水添前の炭化水素樹脂中における、芳香族モノオレフィン単量体単位の含有量は、0質量%~30質量%の範囲内であり、0質量%~28質量%の範囲内であることが好ましく、0質量%~26質量%の範囲内であることがより好ましく、0質量%~18質量%の範囲内であることがさらに好ましい。芳香族モノオレフィン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、電気絶縁テープの保持力を高く保ちつつ、経時による接着力の変化を有効に抑制しながら、臭気をより低減することができる。
【0102】
また、水添前の炭化水素樹脂としては、1,3-ペンタジエン単量体単位、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位、脂環式ジオレフィン単量体単位、および芳香族モノオレフィン単量体単位以外に、本発明の作用効果を損なわない範囲で、その他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0103】
このようなその他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体は、1,3-ペンタジエンなどと付加共重合され得る付加重合性を有する化合物であれば、特に限定されない。このようなその他の単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、イソプレン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ペンタジエンなどの1,3-ペンタジエン以外の炭素数4~6の不飽和炭化水素;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数4~8以外の非環式モノオレフィン;等が挙げられる。
【0104】
水添前の炭化水素樹脂中における、その他の単量体単位の含有量は、通常、0質量%~30質量%の範囲内であり、0質量%~25質量%の範囲内であることが好ましく、0質量%~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0105】
水添前の炭化水素樹脂を製造する方法としては、特に限定されないが、たとえば、上記した単量体単位を形成する単量体を含有する単量体混合物を、付加重合する方法などが挙げられ、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合による方法が好ましい。
【0106】
フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合による方法としては、たとえば、以下に説明する、ハロゲン化アルミニウム(A)と、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)および炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)からなる群より選ばれるハロゲン化炭化水素(B)とを組み合わせて用い、単量体混合物を付加重合させる方法などが挙げられる。
【0107】
ハロゲン化アルミニウム(A)の具体例としては、塩化アルミニウム(AlCl)、臭化アルミニウム(AlBr)などが挙げられる。これらのなかでも、汎用性などの観点から、塩化アルミニウムが好適に用いられる。ハロゲン化アルミニウム(A)の使用量は、特に限定されないが、単量体混合物100質量部に対し、好ましくは0.05質量部~10質量部、より好ましくは0.1質量部~5質量部である。
【0108】
3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)および炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)からなる群より選ばれるハロゲン化炭化水素(B)は、ハロゲン化アルミニウム(A)と併用することにより、重合触媒の活性をより高める効果がある。
【0109】
3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)の具体例としては、t-ブチルクロライド、t-ブチルブロマイド、2-クロロ-2-メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドなどが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、t-ブチルクロライドが好ましい。
【0110】
炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)における不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合および炭素-炭素三重結合が挙げられ、芳香族環などにおける炭素-炭素共役二重結合も含むものである。このような化合物の具体例としては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1-クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3-クロロ-1-プロピン、3-クロロ-1-ブテン、3-クロロ-1-ブチン、ケイ皮クロライドなどが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、ベンジルクロライドが好ましい。
【0111】
ハロゲン化炭化水素(B)は、1種類で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 ハロゲン化炭化水素(B)の使用量は、ハロゲン化アルミニウム(A)に対するモル比で、好ましくは0.05~50の範囲、より好ましくは0.1~10の範囲である。
【0112】
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御するという観点から、単量体混合物を構成する単量体成分の一部と、ハロゲン化アルミニウム(A)とを予め重合反応器に添加し、単量体混合物を構成する単量体成分の一部と、ハロゲン化アルミニウム(A)とを予め接触させた後に、単量体混合物を構成する単量体成分の残部を重合反応器に添加して、重合反応を開始することが好ましい。この際においては、単量体混合物を構成する単量体成分の一部として、少なくとも、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンを用い、ハロゲン化アルミニウム(A)と予め重合反応器に添加し、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンと、ハロゲン化アルミニウム(A)とを予め接触させて、これらの混合物を得た後に、単量体混合物を構成する単量体成分の残部を重合反応器に添加して、重合反応を開始することがより好ましい。
【0113】
ハロゲン化アルミニウム(A)と予め接触させる、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンの量は、ハロゲン化アルミニウム(A)の量の少なくとも5倍(質量比)が好ましく、「炭素数4~6の脂環式モノオレフィン:ハロゲン化アルミニウム(A)」の質量比で、好ましくは5:1~120:1の範囲、より好ましくは10:1~100:1の範囲、さらに好ましくは15:1~80:1の範囲である。質量比を上記範囲とすることで、触媒活性をより高めることができる。
【0114】
ハロゲン化アルミニウム(A)と炭素数4~6の脂環式モノオレフィンとを予め接触させるに際し、これらの投入順序は特に制限されず、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中にハロゲン化アルミニウム(A)を投入してもよいし、逆に、ハロゲン化アルミニウム(A)中に炭素数4~6の脂環式モノオレフィンを投入してもよい。混合は通常、発熱をともなうので、適当な希釈剤を用いることもできる。希釈剤としては後述する溶媒を用いることができる。
【0115】
上記のようにして、ハロゲン化アルミニウム(A)と炭素数4~6の脂環式モノオレフィンとを予め接触させ、混合物を調製した後、単量体混合物を構成する単量体成分の残部を添加する。また、単量体混合物を構成する単量体成分の残部とともに、ハロゲン化炭化水素(B)をさらに混合することが好ましく、これらの投入順序は特に制限されない。
【0116】
重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。溶媒として用いられる飽和脂肪族炭化水素としては、たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、2,2,4-トリメチルペンタンなどの炭素数5~10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5~10の範囲内の環状飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6~10の範囲内の芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。溶媒の使用量は、特に限定されないが、単量体混合物100質量部に対して、10質量部~1,000質量部の範囲内であることが好ましく、50質量部~500質量部の範囲内であることがより好ましい。なお、たとえば、C5留分に由来するシクロペンタンとシクロペンテンとの混合物のような、付加重合性成分と非付加重合性成分との混合物を重合反応系に添加して、付加重合性成分は単量体混合物の成分として用い、非付加重合性成分は溶媒として用いてもよい。
【0117】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、-20℃~100℃の範囲内であることが好ましく、10℃~70℃の範囲内であることが好ましい。重合温度が低すぎると重合活性が低下して生産性が劣る可能性があり、重合温度が高すぎると得られる変性前樹脂の色相に劣るおそれがある。重合反応を行う際の圧力は、大気圧下でも加圧下でもよい。重合反応時間は、適宜選択できるが、通常10分間~12時間、好ましくは30分間~6時間の範囲で選択される。
【0118】
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することができる。
【0119】
また、水添前の炭化水素樹脂の製造方法においては、上記重合工程に加えて、必要に応じて、その他の工程を有するものであってもよい。その他の工程としては、たとえば、重合工程後に、重合工程において重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣を濾過などにより除去する触媒残渣除去工程や、重合工程による重合反応停止後、未反応の単量体と溶媒とを除去し、さらに水蒸気蒸留などにより低分子量のオリゴマー成分を除去し、冷却することにより、水添前の炭化水素樹脂を固体状態として得る回収工程等が挙げられる。
【0120】
また、その他の工程として、触媒残渣除去工程後、かつ、回収工程前に、溶媒に不溶な触媒残渣を除去した後の触媒残渣除去混合物を吸着剤と接触させて、吸着剤処理混合物を得る接触処理工程を採用してもよい。接触処理工程を有することにより、電気絶縁テープとした際における、臭気をより低減することができる。
【0121】
接触処理工程において用いる吸着剤としては、特に限定されず、化学吸着剤であってもよいし、物理吸着剤であってもよい。化学吸着剤としては、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛などの亜鉛系吸着剤、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウムなどのジルコニウム系吸着剤、二酸化マンガンなどのマンガン系吸着剤、塩化コバルトなどのコバルト系吸着剤、塩化銅、酸化銅などの銅系吸着剤、ポリアミン化合物などのアミン系吸着剤などが挙げられる。
【0122】
物理吸着剤としては、ケイ酸アルミニウムナトリウムなどの含水アルミノケイ酸塩鉱物群で総称されるゼオライト系吸着剤、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート、活性アルミナ、酸性白土、活性白土、ドーソナイト類化合物、ハイドロタルサイト類化合物などが挙げられる。
【0123】
吸着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、2種以上の吸着剤を併用する場合は、2種以上の化学吸着剤を併用してもよいし、2種以上の物理吸着剤を併用してもよいし、1種以上の化学吸着剤と1種以上の物理吸着剤とを併用してもよく、たとえば、物理吸着剤に化学吸着剤を担持させてもよい。電気絶縁テープとした際における、臭気をより低減するという観点より、化学吸着剤を用いることが好ましく、亜鉛系吸着剤を用いることがより好ましく、塩基性炭酸亜鉛を用いることが特に好ましい。
【0124】
接触処理工程において触媒残渣除去混合物に吸着剤に接触させる方法は、特に限定されない。たとえば、適宜選択される容器に触媒残渣除去混合物と吸着剤とを共存させて、必要に応じて攪拌して、接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に吸着剤を充填しておき、これに触媒残渣除去混合物を流通して接触させる連続処理法が挙げられる。
【0125】
触媒残渣除去混合物と吸着剤とをバッチ処理法で接触させる場合の吸着剤の使用量は、特に限定されないが、触媒残渣除去混合物に含まれる水添前の炭化水素樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~5.0質量部、より好ましくは0.03質量部~3.0質量部、さらに好ましくは0.05質量部~2.0質量部である。
【0126】
触媒残渣除去混合物と吸着剤と接触させる際の温度は、特に限定されないが、通常10℃~70℃の範囲内で選択され、また、処理時間も、特に限定されないが、通常0.1時間~2時間の範囲内で選択される。
【0127】
触媒残渣除去混合物と吸着剤とをバッチ処理法で接触させた場合、必要に応じて、ろ過などにより触媒残渣除去混合物から吸着剤を除去してもよいし、あるいは、触媒残渣除去混合物から吸着剤を除去せずに次の工程に供してもよい。
【0128】
本発明で用いる水添炭化水素樹脂は、上記した水添前の炭化水素樹脂を水添して得られるものである。
【0129】
水添炭化水素樹脂は、オレフィンの水添率(以下、単に水添率と称する場合がある。)が、好ましくは10%~80%であり、より好ましくは30%~80%、さらに好ましくは30%~70%、特に好ましくは40%~60%である。オレフィンの水添率とは、水添前の炭化水素樹脂の全非芳香族性炭素-炭素二重結合のうち、水素化された非芳香族性炭素-炭素二重結合の割合を意味する。水添率を上記範囲とすることにより、電気絶縁テープの保持力を高く保ちつつ、経時による接着力の変化を有効に抑制しながら、臭気をより低減することができる。
【0130】
また、水添炭化水素樹脂が、芳香族性の単量体単位を含む場合、芳香環の水添率は、好ましくは1%~30%であり、より好ましくは6%~18%、さらに好ましくは7%~15%である。芳香環の水添率とは、水添前の炭化水素樹脂の全芳香環のうち、水素化された芳香環の割合を意味する。
【0131】
なお、上述したオレフィン、または芳香環の水添率は、水添前の炭化水素樹脂および水添後の水添炭化水素樹脂のそれぞれに含まれる、オレフィン量または芳香環量の差から求めることができ、これらは、H-NMRスペクトル測定により求めることができる。
【0132】
水添炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~3,500であり、より好ましくは1,500~3,400、さらに好ましくは1,800~3,300、特に好ましくは2,100~2,800である。重量平均分子量(Mw)を上記範囲とすることにより、芳香族ビニルブロック共重合体との相溶性をより高めることでき、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0133】
また、水添炭化水素樹脂のZ平均分子量(Mz)は、好ましくは2,000~7,000であり、より好ましくは3,200~6,800、さらに好ましくは3,900~6,600であり、特に好ましくは4,300~5,700である。Z平均分子量(Mz)を上記範囲とすることにより、芳香族ビニルブロック共重合体との相溶性をより高めることでき、これにより、電気絶縁テープの接着力をより高めることができる。
【0134】
なお、本発明において、水添炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めることができる。より具体的には、重量平均分子量およびZ平均分子量の測定は、テトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めることができる。
【0135】
水添炭化水素樹脂の重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)は、好ましくは1.5~2.5、より好ましくは1.6~2.4、さらに好ましくは1.65~2.35である。重量平均分子量に対するZ平均分子量の比を上記範囲とすることにより、芳香族ビニルブロック共重合体との相溶性をより高めることでき、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0136】
水添炭化水素樹脂の50質量%トルエン溶液のガードナー色数は、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下である。ガードナー色数がこの範囲にあると、ホットメルト粘接着剤組成物を色相に優れたものとすることができる。ガードナー色数の測定方法としては、試料となる水添炭化水素樹脂について50質量%トルエン溶液を調製し、調製したトルエン溶液のガードナー色数をJIS K 0071-2に従い測定する方法が挙げられる。
【0137】
また、水添炭化水素樹脂の軟化点は、特に限定されないが、芳香族ビニルブロック共重合体との相溶性をより高めることができるという点より、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは50℃~125℃、さらに好ましくは60℃~115℃の範囲内であり、特に好ましくは80℃~110℃である。水添炭化水素樹脂の軟化点は、JIS K 6863に従い測定することができる。
【0138】
水添炭化水素樹脂の水添前後の混合アニリン点(MMAP)の差、すなわち、水添炭化水素樹脂の混合アニリン点から、水添前の炭化水素樹脂の混合アニリン点を差し引くことで得られる、混合アニリン点の差は、好ましくは5℃以下であり、より好ましくは4℃以下、さらに好ましくは3.5℃以下である。混合アニリン点の差を上記範囲とすることにより、芳香族ビニルブロック共重合体との相溶性をより高めることでき、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0139】
なお、混合アニリン点の差の下限については、粘接着剤としての接着力をより一層高めるという観点より、低いほど好ましいが、たとえば、0℃以上とすることができる。ここで、混合アニリン点は、アニリン、測定試料およびメチルシクロヘキサンの混合液(体積比2:1:1)が均一な溶液として存在する最低温度のことである。混合アニリン点の測定は、JIS K 2256に準じて、ヘプタンに替えてメチルシクロヘキサンを用いて行うことができる。
【0140】
なお、水添炭化水素樹脂の混合アニリン点は、好ましくは40℃~120℃であり、より好ましくは45℃~110℃、さらに好ましくは50℃~100℃である。混合アニリン点を上記範囲とすることにより、芳香族ビニルブロック共重合体との相溶性をより高めることでき、これにより、粘接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができる。
【0141】
水添炭化水素樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、水添前の炭化水素樹脂を水添する方法が挙げられる。水添前の炭化水素樹脂の水添は、水素化触媒の存在下において、水添前の炭化水素樹脂を水素と接触させることにより行うことができる。
【0142】
水素化触媒としては、特開昭58-43412号公報、特開昭60-26024号公報、特開昭64-24826号公報、特開平1-138257号公報、特開平7-41550号公報等に記載されているものを使用することができ、均一系触媒でも不均一系触媒でもよい。
【0143】
均一系触媒としては、たとえば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n-ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec-ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
【0144】
不均一系触媒としては、Ni、Pd等の水素添加触媒金属を担体に担持させたもの等が挙げられる。担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、ケイソウ土等が挙げられる。これらのなかでも、シリカに担持したNi触媒が好ましい。
【0145】
水素化反応は、水添前の炭化水素樹脂に対し直接行っても、あるいは、水添前の炭化水素樹脂を有機溶媒に溶解し、有機溶媒中で行ってもよい。操作容易性の観点から、水添前の炭化水素樹脂に対し直接行う方法が好ましい。なお、水添前の炭化水素樹脂の溶解に用いる有機溶媒としては、触媒に不活性なものであれば格別な限定はないが、生成する水素添加物の溶解性に優れていることから、炭化水素系溶媒が好適に用いられる。
【0146】
炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;n-ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素類;等を挙げることができ、これらの中でも、環状の芳香族炭化水素類や脂環族炭化水素類が好ましい。これらの有機溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、有機溶媒としては、水添前の炭化水素樹脂の重合に用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0147】
水素化触媒の存在下に、水添前の炭化水素樹脂を水素と接触させる方法は、特に限定されないが、たとえば、適宜選択される容器に水添前の炭化水素樹脂と水素化触媒とを共存させて、必要に応じて攪拌して、水素と接触させるバッチ処理法や、予め充填塔中に水素化触媒を充填しておき、これに水添前の炭化水素樹脂を流通しながら、水素と接触させる連続処理法が挙げられる。
【0148】
水素化反応は、常法に従って行うことができ、水素化触媒の種類や反応温度等の反応条件を適宜調整することにより、水添前の炭化水素樹脂の水素化の割合を調整することができる。たとえば、水素化触媒として均一系触媒を用いることにより、得られる水添炭化水素樹脂の水素化の割合を比較的高くすることができ、この際においては、均一系触媒としてはルテニウム均一系触媒が好適に用いられる。反応温度は、好ましくは100℃~200℃であり、より好ましくは130℃~195℃である。
【0149】
また、水素化触媒として不均一系触媒を用いることにより、得られる水添炭化水素樹脂の割合を比較的低くすることができ、この際においては、不均一系触媒としてはニッケル不均一系触媒が好適に用いられる。反応温度は、好ましくは150℃~300℃であり、より好ましくは180℃~260℃である。
【0150】
なお、水素化反応における水素圧は、絶対圧力で、通常0.01MPa~10MPaの範囲であり、好ましくは0.05MPa~6MPaの範囲、さらに好ましくは0.1MPa~5MPaの範囲である。
【0151】
水素化反応終了後においては、必要に応じて反応液から、遠心分離やろ過等により水素化触媒を除去する。遠心分離方法やろ過方法は、用いた触媒が除去できる条件であれば、特に限定されない。ろ過する場合、加圧ろ過しても、吸引ろ過してもよく、また、効率の点から、ケイソウ土、パーライト等のろ過助剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、水やアルコール等の触媒不活性化剤を利用したり、活性白土やアルミナ等の吸着剤を添加することができる。
【0152】
なお、水添炭化水素樹脂のオレフィンの水添率、芳香環の水添率、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)、軟化点、ガードナー色数、水添前後の混合アニリン点(MMAP)の差等は、上述の通りの配合および製造方法において、製造条件等を適宜調整することにより、調整することができる。
【0153】
(ホットメルト粘接着剤組成物)
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、上述した芳香族ビニルブロック共重合体と、上述した水添炭化水素樹脂とを含有してなるものである。
【0154】
また、本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量が260μg/m以下であり、全揮発成分量が15,000μg/m以下に制御されたものである。65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量は、好ましくは240μg/m以下、より好ましくは200μg/m以下であり、より好ましくは180μg/m以下であり、その下限は特に限定されないが、通常、1μg/m以上である。また、65℃、2時間の条件で加熱した際における、全揮発成分量は、好ましくは15,000μg/m以下、さらに好ましくは14,000μg/m以下であり、その下限は特に限定されないが、通常、1,000μg/m以上である。65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量、および、全揮発成分量は、たとえば、JASO(日本自動車技術会規格) M902(2007)「自動車部品-内装材-揮発性有機化合物放散測定法」に準拠して測定することができる。
【0155】
さらに、本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が400N/m以上に制御されたものである。温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、ステンレス鋼板に対する剥離接着力は、たとえば、PSTC-101(米国粘着テープ委員会による180°剥離接着試験)に準じて測定することができる。温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、ステンレス鋼板に対する剥離接着力は、好ましくは450N/m以上であり、より好ましくは500N/m以上であり、さらに好ましくは530N/m以上であり、その上限は特に限定されないが、通常、700N/m以下である。
【0156】
本発明によれば、65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量、および全揮発成分量が上記範囲に制御されたものであり、かつ、温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が400N/m以上に制御されたホットメルト粘接着剤組成物を用いることにより、電気絶縁テープを、臭気が低く、高い接着力を有し、経時による接着力の変化が抑制されたものとすることができるものである。なお、65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量、および全揮発成分量を上記範囲とする方法としては、熱劣化による揮発成分を抑制するための水添炭化水素樹脂として、上述した特定の組成範囲を有する水添前の炭化水素樹脂を水添して得られるものを用い、水添炭化水素樹脂のオレフィンの水添率を上述した好適な範囲とする方法および、ホットメルト法によって製造可能で優れた粘接着性能を得るために芳香族ビニルブロック共重合体として、上述したブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとを含有するブロック共重合体組成物を用いる方法とを用いることによって達成される。
【0157】
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物中における、芳香族ビニルブロック共重合体および水添炭化水素樹脂の含有割合は、特に限定されないが、芳香族ビニルブロック共重合体100質量部に対する、水添炭化水素樹脂の含有割合が、好ましくは50質量部~500質量部、より好ましくは80質量部~400質量部、さらに好ましくは100質量部~300質量部である。芳香族ビニルブロック共重合体に対する、水添炭化水素樹脂の含有割合を上記範囲とすることにより、ホットメルト粘接着剤組成物を、接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができるとともに、経時による接着力の変化をより効果的に抑制することができる。
【0158】
また、本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、軟化剤をさらに含有していることが好ましく、軟化剤としては、ホットメルト粘接着剤組成物に添加される、従来公知の軟化剤が使用できる。具体的には、芳香族系、パラフィン系またはナフテン系のプロセスオイル;ポリブテン、ポリイソブチレンなどの液状重合体;等が挙げられる。軟化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物中における、軟化剤の含有割合は、芳香族ビニルブロック共重合体100質量部に対して、500質量部以下であり、好ましくは10質量部~350質量部であり、より好ましくは30質量部~250質量部である。軟化剤を上記含有割合で含有させることにより、ホットメルト粘接着剤組成物を、比較的に低温での塗工が容易なものとすることができるため、電気絶縁テープの製造をより容易なものとすることができる。
【0159】
なお、本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物が、芳香族ビニルブロック共重合体および水添炭化水素樹脂に加えて、軟化剤をさらに含有するものである場合には、これらの含有割合は、以下の通りであることが好ましい。すなわち、芳香族ビニルブロック共重合体の含有割合が、好ましくは10質量%~60質量%であり、より好ましくは20質量%~57.5質量%、さらに好ましくは30質量%~55質量%である。また、水添炭化水素樹脂の含有割合は、好ましくは20質量%~80質量%であり、より好ましくは20質量%~65質量%、さらに好ましくは30質量%~60質量%である。軟化剤の含有割合は、好ましくは0.1質量%~30質量%であり、より好ましくは0.1質量%~25質量%、さらに好ましくは5質量%~20質量%である。芳香族ビニルブロック共重合体の含有割合、水添炭化水素樹脂の含有割合、および軟化剤の含有割合を上記範囲とすることにより、ホットメルト粘接着剤組成物を、接着剤としての接着力をより高めることができ、また、電気絶縁テープの保持力をより高めることができるとともに、経時による接着力の変化をより効果的に抑制することができる。
【0160】
また、本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、ワックス、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤など、その他の配合剤を添加することができる。なお、本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物は、溶剤を含まない、無溶剤の組成物であることが好ましい。
【0161】
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物に配合され得るワックスは、特に限定されず、たとえば、ポリエチレンワックス、エチレン酢酸ビニル共重合体ワックス、酸化ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、Fischer-Tropshワックス、酸化Fischer-Tropshワックス、水素添加ひまし油ワックス、ポリプロピレンワックス、副産ポリエチレンワックス、水酸化ステアラミドワックスなどを用いることができる。ワックスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ホットメルト粘接着剤組成物におけるワックスの含有量は、特に限定されないが、芳香族ビニルブロック共重合体100質量部に対し、好ましくは10~200質量部であり、より好ましくは20~150質量部である。ワックスの含有量がこの範囲であることにより、得られるホットメルト粘接着剤組成物が、塗工容易性に特に優れたものとなるため、電気絶縁テープの製造がより容易なものとなる。
【0162】
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物に配合され得る酸化防止剤は、特に限定されず、たとえば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどのヒンダードフェノール系化合物;ジラウリルチオプロピオネートなどのチオジカルボキシレートエステル類;トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどの亜燐酸塩類;などが挙げられる。酸化防止剤の使用量は、特に限定されないが、芳香族ビニルブロック共重合体100質量部に対し、通常10質量部以下であり、好ましくは0.5~5質量部である。なお、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0163】
本発明で用いるホットメルト粘接着剤組成物を調製するにあたり、芳香族ビニルブロック共重合体および水添炭化水素樹脂に加えて、ならびに、必要に応じて添加される軟化剤およびその他の成分を混合する方法は特に限定されないが、混合をより効率的に行うという観点、ならびに、トルエン揮発分量および全揮発成分量を上記範囲に制御するという観点より、溶剤を使用せず、各成分をニーダーなどで溶融混合する方法が好ましい。溶融混合を行う際の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下で溶融混合を行うことが好ましく、このような温度で溶融混合を行うことにより、トルエン揮発分量および全揮発成分量を上記範囲に適切に制御することができる。また、混合方法としては、トルエン揮発分量および全揮発成分量をより適切に制御するという観点より、芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを、芳香族ビニルブロック共重合体100質量部に対し、水添炭化水素樹脂50~100質量部の割合で溶融混合した後に、水添炭化水素樹脂を含む残りの成分(軟化剤などの揮発成分を比較的多く含む成分を除いた、残りの成分)を添加して溶融混合し、最後に、揮発成分を比較的多く含む成分(たとえば、軟化剤)を添加して溶融混合する方法が好ましい。また、溶融混合に際しては、トルエン揮発分量および全揮発成分量をより適切に制御するという観点より、二軸押し出し機を用いた溶融混合が好ましい。二軸押し出し機を用いた溶融混合においては、二軸押し出し機の前半部において、芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを、芳香族ビニルブロック共重合体100質量部に対し、水添炭化水素樹脂50~100質量部の割合で添加し、これらを溶融混合し、二軸押し出し機の中間部において、水添炭化水素樹脂を含む残りの成分(軟化剤などの揮発成分を比較的多く含む成分を除いた、残りの成分)を添加して溶融混合し、二軸押し出し機の後半部において、揮発成分を比較的多く含む成分(たとえば、軟化剤)を添加して溶融混合する方法が好ましい。
【0164】
(基材)
本発明で用いる基材としては、特に限定されないが、たとえば、有機系繊維製布、無機系繊維製布、有機・無機系繊維製布等の繊維製布;有機系繊維製不織布、無機系繊維製不織布、有機・無機系繊維製不織布等の不織布;、PVC、ポリエステル、ポリプロピンレン等のプラスチック製フィルムなどが挙げられる。基材の厚みは、特に限定されず、電気絶縁テープの用途に応じて適宜決定すればよいが、通常、1μm~1000μm程度である。
【0165】
(電気絶縁テープ)
本発明の電気絶縁テープは、ホットメルト粘接着剤組成物と、基材とを備える。
本発明の電気絶縁テープとしては、ホットメルト粘接着剤組成物と、基材とを備えるものであればよく、特に限定されないが、たとえば、基材の片面または両面の少なくとも一部に、ホットメルト粘接着剤組成物からなる粘着剤層が形成されてなるものなどが挙げられる。また、基材として、繊維製布、不織布などを用いる場合には、ホットメルト粘接着剤組成物からなる粘着剤層が、基材の表面に形成されたものであればよく、必ずしも、ホットメルト粘接着剤組成物からなる粘着剤層が、このような基材中に、ホットメルト粘接着剤組成物が含侵されてなるものである必要はない。あるいは、ホットメルト粘接着剤組成物が、繊維製布や不織布中に含侵されている一方で、ホットメルト粘接着剤組成物からなる粘着剤層が表面に形成されていないようなものであってもよい。
【0166】
本発明の電気絶縁テープの製造方法としては、特に限定されず、たとえば、溶融したホットメルト粘接着剤組成物を基材表面の少なくとも一部に塗工する方法や、溶媒に溶解または分散させたホットメルト粘接着剤組成物を基材表面の少なくとも一部に塗工した後に、溶媒を加熱等により除去する方法が挙げられる。あるいは、基材として、繊維製布や不織布等を用いる場合には、溶融したホットメルト粘接着剤組成物を基材の少なくとも一部に含侵させる方法や、溶媒に溶解または分散させたホットメルト粘接着剤組成物を基材の少なくとも一部に含侵させた後に、溶媒を加熱等により除去する方法によっても、本発明の電気絶縁テープを製造することができる。
【0167】
本発明の電気絶縁テープは、臭気が低く、経時による接着力の変化が抑制され、保持力に優れたものであるため、このような特性を活かし、電気絶縁性が必要とされる種々の部材に適用することが可能であり、たとえば、ワイヤーハーネス、変圧器および電気・電子機器、自動車用駆動モーター、産業用モーター、電池等の用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0168】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0169】
〔ブロック共重合体組成物およびブロック共重合体組成物中の各ブロック共重合体の重量平均分子量〕
流速0.35mL/分のテトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めた。装置は、東ソー社製HLC8220、カラムは昭和電工社製Shodex(登録商標)KF-404HQを3本連結したもの(カラム温度40℃)を用い、検出器は示差屈折計および紫外検出器を用い、分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施した。
【0170】
〔ブロック共重合体組成物中の各ブロック共重合体の含有量〕
上記の高速液体クロマトグラフィにより得られたチャートの各ブロック共重合体に対応するピークの面積比から求めた。
【0171】
〔ブロック共重合体のスチレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従い、ブロック共重合体をオゾンと反応させ、水素化リチウムアルミニウムで還元することにより、ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックを分解した。具体的には、以下の手順で行なった。すなわち、モレキュラーシーブで処理したジクロロメタン100mLを入れた反応容器に、試料を300mg溶解した。この反応容器を冷却槽に入れ-25℃としてから、反応容器に170mL/minの流量で酸素を流しながら、オゾン発生器により発生させたオゾンを導入した。反応開始から30分経過後、反応容器から流出する気体をヨウ化カリウム水溶液に導入することにより、反応が完了したことを確認した。次いで、窒素置換した別の反応容器に、ジエチルエーテル50mLと水素化リチウムアルミニウム470mgを仕込み、氷水で反応容器を冷却しながら、この反応容器にオゾンと反応させた溶液をゆっくり滴下した。そして、反応容器を水浴に入れ、徐々に昇温して、40℃で30分間還流させた。その後、溶液を撹拌しながら、反応容器に希塩酸を少量ずつ滴下し、水素の発生がほとんど認められなくなるまで滴下を続けた。この反応の後、溶液に生じた固形の生成物をろ別し、固形の生成物を、100mLのジエチルエーテルで10分間抽出した。この抽出液と、ろ別した際のろ液とをあわせ、溶媒を留去することにより、固形の試料を得た。このようにして得られた試料につき、上記の重量平均分子量の測定法に従い、重量平均分子量を測定し、その値をスチレン重合体ブロックの重量平均分子量とした。
【0172】
〔ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
上記のようにしてそれぞれ求められた、ブロック共重合体の重量平均分子量から、対応するスチレン重合体ブロックの重量平均分子量を引き、その計算値に基づいて、イソプレン重合体ブロックの重量平均分子量を求めた。
【0173】
〔ブロック共重合体のスチレン単位含有量〕
上記の高速液体クロマトグラフィの測定における、示差屈折計と紫外検出器との検出強度比に基づいて求めた。なお、予め、異なるスチレン単位含有量を有する共重合体を用意し、それらを用いて、検量線を作製した。
【0174】
〔ブロック共重合体組成物(全体)のスチレン単位含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0175】
〔水添炭化水素樹脂の重量平均分子量、Z平均分子量および分子量分布(Mz/Mw)〕
水添炭化水素樹脂について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)を求め、分子量分布はMz/Mwの比で示した。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC-8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0mL/minの流量で測定した。
【0176】
〔水添炭化水素樹脂の50質量%トルエン溶液のガードナー色数〕
水添炭化水素樹脂について、50質量%トルエン溶液を調製し、当該溶液のガードナー色数をJIS K 0071-2に従い測定した。値が小さいものほど、色相に優れる。
【0177】
〔水添炭化水素樹脂の軟化点(℃)〕
水添炭化水素樹脂について、JIS K 6863に従い測定した。
【0178】
〔水添炭化水素樹脂のオレフィン水添率(%)〕
水添前の炭化水素樹脂および水添後の水添炭化水素樹脂について、H-NMRスペクトル測定により各々のオレフィン量を求め、水添前後のオレフィン量の差に基づいてオレフィン水添率(%)を算出した。なお、H-NMRスペクトル測定においては、溶媒に重クロロホルムを用い、NMR測定装置としてJMN-AL seriesAL400(JEOL社製)を用いた。
【0179】
〔ホットメルト粘接着剤組成物のトルエン揮発成分量、全揮発成分量〕
約100mm×100mm×0.04mmとしたホットメルト粘接着剤組成物について、JASO M902(2007)「自動車部品-内装材-揮発性有機化合物放散測定法」に準拠して、65℃、2時間の条件で加熱した際のトルエン揮発成分量、および全揮発成分量を測定した。
【0180】
〔ホットメルト粘接着剤組成物の臭気評価試験〕
ホットメルト粘接着剤組成物についての官能試験を、臭気対策研究協会発行の臭気の嗅覚測定法における臭気強度表示法に従って行った。具体的には、まず、1粒の大きさを約10mm×5mm×5mmとしたホットメルト粘接着剤組成物10gを120mLの耐熱性容器に入れて、アルミ箔でフタをした。そして、このホットメルト粘接着剤組成物の入った耐熱性容器を、オーブンに入れて、温度150℃、30分間の条件で加熱し、加熱後の臭気の確認を行った。
臭気の確認は、石油樹脂の臭気に慣れていない(すなわち、普段の生活において、石油樹脂の臭気に触れることのない)6人のパネルにより行った。本試験においては、嗅覚疲労を防ぐため、6人のパネルを3人ずつの2班に分けて、1班ずつ臭気を嗅ぐという方法を採用した。また、臭気を嗅ぐサンプルの順番は、無作為とした。
1:やっと認知できる臭い(検知閾値濃度)
2:何の臭いであるか判る弱い臭い(認知閾値濃度)
3:楽に感知できる臭い
4:強い臭い
5:強烈な臭い
なお、官能試験の結果は、6人のパネルの判定値のうち、最大値と最小値をそれぞれ除き、残りの4人の判定値を平均することにより求めた。官能試験の値は、小さいほうが好ましい。
【0181】
〔ホットメルト粘接着剤組成物の剥離接着力(初期)〕
得られたホットメルト粘接着剤組成物を、180℃にて溶融させて、厚さ50μm のポリエステルフィルムに30μmの厚さで塗工することによりホットメルト粘接着剤組成物からなる粘接着剤層を形成したサンプルを調製した。これを23℃、引張速度300mm/minで、被着体としてステンレス鋼板を使用してPSTC-101(米国粘着テープ委員会による180°剥離接着試験)に準じて測定することにより、常温での剥離接着力(N/m)を評価した。値が大きいものほど、接着力に優れる。
【0182】
〔ホットメルト粘接着剤組成物の経時後の剥離接着力〕
上記で調製した粘着剤層を形成したサンプルを、65℃、2週間の条件で経時させ、この経時後のサンプルについて、23℃、引張速度300mm/minで、被着体としてステンレス鋼板を使用してPSTC-101(米国粘着テープ委員会による180°剥離接着試験)に準じて測定することにより、65℃、2週間の条件で経時させた後の剥離接着力(N/m)を評価した。剥離接着力(初期)からの値の変化が小さいものほど、経時による接着力の変化が抑制されており、望ましい。
【0183】
〔ホットメルト粘接着剤組成物の保持力〕
上記で調製した粘着剤層を形成したサンプルを、被着体としてステンレス鋼板を使用して、PSTC-107 Procedure A(米国粘着テープ委員会による保持力試験法)に準じ、接着部10×25mm、負荷3.92×10Pa、温度50℃にて、剥がれるまでの時間(分)により、保持力を評価した。値が大きいものほど、保持力に優れる。
【0184】
〔製造例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する)2.57ミリモルおよびスチレン1.10kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n-ブチルリチウム85.7ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン7.00kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、この後、反応器に重合停止剤としてメタノールを60.0ミリモル添加して1時間重合停止反応を行い、活性末端を有するスチレン-イソプレンブロック共重合体の一部の活性末端を失活させることにより、ブロック共重合体Bとなるスチレン-イソプレンジブロック共重合体を形成させた。この後、50~60℃を保つように温度制御しながら、スチレン1.90kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、ブロック共重合体Aとなるスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール171.4ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。
【0185】
以上のようにして得られた反応液100部(重合体成分を30部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85~95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、製造例1に係るブロック共重合体組成物(α1)を回収した。また、得られた反応液の一部を取り出し、含有される各重合体の重量平均分子量、重合体成分中の各重合体の重量比、各ブロック共重合体のスチレン重合体ブロックの重量平均分子量、各ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックの重量平均分子量、各ブロック共重合体のスチレン単位含有量、重合体成分(全体)のスチレン単位含有量ならびに各ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量を求めた。結果を表1に示す。
【0186】
〔製造例2〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、TMEDA2.36ミリモルおよびスチレン2.40kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n-ブチルリチウム154,1ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100重量%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン7.60kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、カップリング剤としてジメチルジクロロシラン25.4ミリモルを添加して2時間カップリング反応を行い、ブロック共重合体Cとなるスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を形成させた。この後、重合停止剤としてメタノール308.2ミリモルを添加してよく混合し反応を停止することで、ブロック共重合体Bとなるスチレン-イソプレンジブロック共重合体を形成させた。
【0187】
以上のようにして得られた反応液100部(重合体成分を30部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85~95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、製造例2に係るブロック共重合体組成物(α2)を回収した。また、得られた反応液の一部を取り出し、製造例1と同様にして、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0188】
〔製造例3〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、TMEDA1.27ミリモルおよびスチレン0.90kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n-ブチルリチウム84.5ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン8.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。この後、50~60℃を保つように温度制御しながら、スチレン0.90kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を得た。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール169.0ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。
【0189】
以上のようにして得られた反応液100部(重合体成分を30部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85~95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、製造例3に係るスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(α3)を回収した。また、得られた反応液の一部を取り出し、製造例1と同様にして、各測定を行った。結果を表1に示す。なお、表1においては、製造例3に係るスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(α3)は、ブロック共重合体Aとして記載した。
【0190】
【表1】
【0191】
〔製造例4〕
重合反応器にシクロペンタン50.3部およびシクロペンテン37.2部の混合物を重合反応器に仕込み、60℃に昇温した後、塩化アルミニウム1.0部を添加し、混合物M1を得た。引き続き、1,3-ペンタジエン49.5部、イソブチレン9.2部、C4-C6不飽和炭化水素0.6部、ジシクロペンタジエン2.1部、シクロペンタジエン0.1部、およびC4-C6飽和炭化水素12.0部からなる混合物M2と、ベンジルブチルクロライド0.2部とを、それぞれ、別のラインを通して、60分間に亘り温度(60℃)を維持して、上記にて得られた混合物M1を含む重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加して、重合反応を停止した。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類および量を表2にまとめて示した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去し、変性前樹脂および未反応単量体等を含む重合体溶液を得た。
また、得られた重合体溶液の一部を取り出し、これを蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去することで、水添前の炭化水素樹脂をサンプリングした。
【0192】
そして、多管式熱交換型水素添加反応装置に、原料として、上記にて得られた重合体溶液を供給し、水添前の炭化水素樹脂を水素添加することで、水添炭化水素樹脂を製造した。水素添加反応は、水素化触媒としてニッケルシリカ触媒(日揮触媒化成株式会社製、N108F)を使用し、水素圧1.5MPa、反応温度220℃、水素量2部(水添前の炭化水素樹脂100部に対する量)とし、反応管内の滞留時間30分間の条件で行った。次いで、得られた水添炭化水素樹脂を含む重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。これに続いて、200℃以上で、飽和水蒸気を吹き込みながら、低分子量のオリゴマー成分を留去し、蒸留釜から溶融樹脂を取り出し、室温まで放冷することで、製造例4の水添炭化水素樹脂(β1)を得た。
【0193】
得られた製造例4の水添炭化水素樹脂(β1)について、重量平均分子量、Z平均分子量、Mz/Mw、ガードナー色数、軟化点、およびオレフィン水添率を求めた。測定結果を表2に示す。
【0194】
〔製造例5〕
重合反応器にシクロペンタン34.5部およびシクロペンテン28.8部の混合物を重合反応器に仕込み、60℃に昇温した後、塩化アルミニウム0.7部を添加し、混合物M3を得た。引き続き、1,3-ペンタジエン46.1部、イソブチレン7.3部、C4-C6不飽和炭化水素0.6部、ジシクロペンタジエン1.1部、シクロペンタジエン0.1部、スチレン14.0部、およびC4-C6飽和炭化水素8.5部からなる混合物M4と、t-ブチルクロライド0.5部とを、それぞれ、別のラインを通して、60分間に亘り温度(80℃)を維持して、上記にて得られた混合物M3を含む重合反応器に連続的に添加しながら重合を行った。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加して、重合反応を停止した。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類および量を表2にまとめて示した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去し、変性前樹脂および未反応単量体等を含む重合体溶液を得た。
また、得られた重合体溶液の一部を取り出し、これを蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去することで、水添前の炭化水素樹脂をサンプリングした。
【0195】
そして、多管式熱交換型水素添加反応装置に、原料として、上記にて得られた重合体溶液を供給し、水添前の炭化水素樹脂を水素添加することで、水添炭化水素樹脂を製造した。水素添加反応は、水素化触媒としてニッケルシリカ触媒(日揮触媒化成株式会社製、N108F)を使用し、水素圧0.5MPa、反応温度180℃、水素量1部(水添前の炭化水素樹脂100部に対する量)とし、反応管内の滞留時間30分間の条件で行った。次いで、得られた水添炭化水素樹脂を含む重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。これに続いて、200℃以上で、飽和水蒸気を吹き込みながら、低分子量のオリゴマー成分を留去し、蒸留釜から溶融樹脂を取り出し、室温まで放冷することで、製造例5の水添炭化水素樹脂(β2)を得た。
【0196】
得られた製造例5の水添炭化水素樹脂(β2)について、重量平均分子量、Z平均分子量、Mz/Mw、ガードナー色数、軟化点、およびオレフィン水添率を求めた。測定結果を表2に示す。
【0197】
【表2】
【0198】
〔実施例1〕
製造例1で得られたブロック共重合体組成物(α1)100部を攪拌翼型混練機に投入し、これに製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)100部、ナフテン系プロセスオイル(商品名「ダイアナプロセスオイルNS-90S」、出光興産社製)10部、および酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、BASF社製)1部を添加して系内を窒素ガスで置換したのち、160~180℃で1時間混練することにより、実施例1のホットメルト粘接着剤組成物を調製した。混錬に際しては、まず、ブロック共重合体組成物(α1)と、水添炭化水素樹脂(β1)と、酸化防止剤を160~180℃で溶融混合し、最後に、溶融混合の後期において、ナフテン系プロセスオイルを添加して、160~180℃にて溶融混合を継続することで、実施例1のホットメルト粘接着剤組成物を調製した(後述する各実施例、比較例においても同様。)。そして、得られたホットメルト粘接着剤組成物について、トルエン揮発成分量および全揮発成分量の測定、臭気評価試験、剥離接着力(初期)、経時後の剥離接着力および保持力の測定を行った。結果を表3に示す。
【0199】
〔実施例2〕
製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)の使用量を100部から150部に、ナフテン系プロセスオイルの使用量を10部から20部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0200】
〔実施例3〕
製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)の使用量を100部から90部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0201】
〔実施例4〕
製造例1で得られたブロック共重合体組成物(α1)100部に代えて、製造例2で得られたブロック共重合体組成物(α2)100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例4のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0202】
〔実施例5〕
製造例1で得られたブロック共重合体組成物(α1)の使用量を100部から50部に変更し、かつ、製造例2で得られたブロック共重合体組成物(α2)50部をさらに使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例5のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0203】
〔実施例6〕
製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)100部に代えて、製造例5で得られた水添炭化水素樹脂(β2)120部を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例6のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0204】
〔比較例1〕
製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)100部に代えて、非水添炭化水素樹脂(商品名「クイントンR100」、日本ゼオン社製)100部を使用し、かつ、ナフテン系プロセスオイルを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0205】
〔比較例2〕
製造例1で得られたブロック共重合体組成物(α1)100部に代えて、製造例3で得られたスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(α3)100部を使用した以外は、比較例1と同様にして、比較例2のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0206】
〔比較例3〕
製造例3で得られたスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(α3)100部を攪拌翼型混練機に投入し、これに製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)100部、ナフテン系プロセスオイル(商品名「ダイアナプロセスオイルNS-90S」、出光興産社製)10部、酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、BASF社製)1部、および溶剤としてのトルエン316.5部を添加して系内を窒素ガスで置換したのち、1時間攪拌し、次いで、乾燥することによりトルエンを除去することで、比較例3のホットメルト粘接着剤組成物を調製した。そして、得られたホットメルト粘接着剤組成物について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0207】
〔比較例4〕
製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)100部に代えて、シクロペンタジエン類由来の水添樹脂(商品名「アイマーブP100」、出光興産社製)100部を使用し、かつ、ナフテン系プロセスオイルを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例4のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0208】
〔比較例5〕
製造例4で得られた水添炭化水素樹脂(β1)100部に代えて、シクロペンタジエン類由来の水添樹脂(商品名「エスコレッツ5300」、ExxonMobil Chemical社製)100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例5のホットメルト粘接着剤組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0209】
【表3】
【0210】
表3より、芳香族ビニルブロック共重合体と、水添炭化水素樹脂とを含有し、65℃、2時間の条件で加熱した際における、トルエン揮発分量が260μg/m以下であり、全揮発成分量が15,000μg/m以下であり、温度23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/minの条件で測定される、ステンレス鋼板に対する剥離接着力が400N/m以上であるホットメルト粘接着剤組成物によれば、臭気が低く、高い接着力を有し、経時による接着力の変化が抑制されたものであった(実施例1~6)。
そして、このようなホットメルト粘接着剤組成物によれば、基材と組み合わせることで、臭気が低く、高い接着力を有し、経時による接着力の変化が抑制された電気絶縁テープを提供できるものといえる。
一方、トルエン揮発分量が260μg/mを超える場合や、全揮発成分量が15,000μg/mを超える場合には、いずれも臭気が強く、また、経時による接着力の変化が大きく、安定性に劣るものであった(比較例1~4)。
また、剥離接着力が400N/m未満である場合には、保持力に劣るものであった(比較例5)。