(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物、これを含む組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20230926BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C07F7/18 T CSP
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020119087
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入學 武
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-143852(JP,A)
【文献】特開2011-102267(JP,A)
【文献】特開2011-162497(JP,A)
【文献】特開2019-211669(JP,A)
【文献】特開昭61-056187(JP,A)
【文献】特表2012-531537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F7/10-7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、R
2は、置換または非置換の炭素数3~6のアルキレン基を表し、R
3およびR
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、nは、0~2の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物と、下記一般式(2)で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物とを含み、前記式(2)で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物の含有量が30質量%以下である組成物。
【化2】
(式中、R
1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、R
2は、置換または非置換の炭素数3~6のアルキレン基を表し、R
3およびR
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、n’は、0~2の整数を表す。)
【請求項3】
下記一般式(2)
【化3】
(式中、R
1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、R
2は、置換または非置換の炭素数3~6のアルキレン基を表し、R
3およびR
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、n’は、0~2の整数を表す。)
で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物を蒸留する際に、発生するアルコールを留去しながら、触媒の存在下で蒸留する請求項1記載の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留する際の温度が、100~300℃であり、圧力が、0.01~10.0kPaである請求項3記載の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、塩基性化合物または酸性化合物である請求項3または4記載の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項6】
前記塩基性化合物が、アルカリ金属アルコキシド化合物である請求項5記載の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項7】
前記酸性化合物が、スルホン酸化合物またはカルボン酸化合物である請求項5記載の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物、これを含む組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加水分解性シリル基と有機基を有する有機ケイ素化合物は、加水分解性シリル基の加水分解によって生成するシラノール基が、無機材料表面の水酸基と共有結合を形成し、さらに有機基が有機材料と反応することにより、通常では結びつきにくい有機材料と無機材料とを結びつけることを可能にする。これにより、有機-無機複合材料に、耐熱性、耐水性、耐候性、機械的強度の向上、密着性、分散性、疎水性、防錆性等の特性を付与することができる。
これらの特性を利用し、上記有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤、樹脂添加剤、表面処理剤、繊維処理剤、接着剤、塗料添加剤および高分子変性剤等の幅広い分野、用途に用いられる。
【0003】
上記有機ケイ素化合物としては、例えば、3-(n-ブチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するアルコキシシラン化合物(特許文献1)や、2,2-ジメトキシ-1-ブチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン等の環状シラザン構造を有するアルコキシシラン化合物(特許文献2)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許第10140563号明細書
【文献】国際公開第2003/091186号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載のアミノ基を有するアルコキシシラン化合物は、アルコキシシリル基の加水分解によって相当量のアルコールが発生する。近年、地球温暖化や健康問題等に関係の深い環境問題において、揮発性有機化合物の削減が大きなテーマとして挙げられており、上記アルコキシシラン化合物は、アルコールの発生量が多く、環境への負荷が懸念される。
また、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物は、加水分解によって生成するシラノール基同士が縮合してシロキサンを生成するため、基材表面の水酸基との反応性が低下するおそれがある。基材表面の水酸基と十分に反応させるためには、反応温度を高くするか、反応時間を長くする必要があるが、この場合は生産性が低下する。しかも、未反応のシラノール基が存在する場合、シラン処理後の基材表面は、シラノール基とアミノ基が混在した状態になるため、アミノ基に由来する所望の効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0006】
この点、特許文献2記載の環状シラザン構造を有するアルコキシシラン化合物は、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物におけるアミノ基とアルコキシシリル基を分子内で環化反応させ、環状シラザン構造に誘導しているため、アルコールの発生量を削減することができる。また、この環状シラザン構造は、加水分解することなく、基材表面の水酸基と反応して共有結合を形成するため、前述のアミノ基を有するアルコキシシラン化合物における加水分解の問題点を有しないという利点もある。
【0007】
しかし、特許文献2記載の環状シラザン構造を有するアルコキシシラン化合物は、アミノ基の置換基に由来して耐候性や透明性に問題があるため、シラン処理後の基材表面は、通常の環境条件下、外的要因または内的要因によって劣化する。
すなわち、アミノ基の置換基がメチル基、ブチル基、アリル基等の炭化水素基の場合、炭化水素基の炭素-水素結合および炭素-炭素結合の結合エネルギーが紫外線エネルギーより低いため、太陽光あるいはラジカルに曝されるとこれら結合が分解する(自動酸化)。自動酸化が進行すると、基材表面に剥離やクラック等が発生する。また、アミノ基の置換基が水素原子、アミノアルキル基等の場合、シラン処理後の基材表面には一級アミノ基が現れる。この一級アミノ基は、二酸化炭素と反応して炭酸塩を形成する(アミンブラッシング)。アミンブラッシングが発生すると、基材表面が白化して外観が不良になる。
さらに、近年、前述の有機ケイ素化合物の幅広い分野、用途における使用目的の多様化に伴い、シラン処理後の基材表面に防汚性や防曇性等の特性を必要とされる場合がある。これらの特性を達成するためには、基材表面に濡れ性または撥液性を付与する必要があり、上記置換基を有する環状シラザン構造を有するアルコキシシラン化合物では適用できない場合があった。
【0008】
以上のように、シラン処理後の基材表面に耐候性、透明性を付与することができ、さらに、濡れ性または撥液性を付与することができる環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、シラン処理後の基材表面に耐候性、透明性を付与することができ、さらに、濡れ性または撥液性を付与することができる環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物、これを含む組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アミノ基の置換基がヒンダードアミノ基である環状シラザン構造を有するアルコキシシラン化合物が、これを用いて基材のシランカップリング処理または表面処理を行うことにより、シラン処理後の基材表面に耐候性、透明性を付与することができ、さらに、濡れ性または撥液性を付与することを見出し、発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で示される環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物、
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、R
2は、置換または非置換の炭素数3~6のアルキレン基を表し、R
3およびR
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、nは、0~2の整数を表す。)
2. 1の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物と、下記一般式(2)で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物とを含み、前記式(2)で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物の含有量が30質量%以下である組成物、
【化2】
(式中、R
1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、R
2は、置換または非置換の炭素数3~6のアルキレン基を表し、R
3およびR
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、n’は、0~2の整数を表す。)
3. 下記一般式(2)
【化3】
(式中、R
1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、R
2は、置換または非置換の炭素数3~6のアルキレン基を表し、R
3およびR
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、n’は、0~2の整数を表す。)
で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物を蒸留する際に、発生するアルコールを留去しながら、触媒の存在下で蒸留する1の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法、
4. 前記蒸留する際の温度が、100~300℃であり、圧力が、0.01~10.0kPaである3の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法、
5. 前記触媒が、塩基性化合物または酸性化合物である3または4の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法、
6. 前記塩基性化合物が、アルカリ金属アルコキシド化合物である5の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法、
7. 前記酸性化合物が、スルホン酸化合物またはカルボン酸化合物である5の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物によれば、これを用いて基材のシランカップリング処理または表面処理を行うことにより、シラン処理後の基材表面に耐候性、透明性を付与することができ、さらに、濡れ性または撥液性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られた化合物の
1H-NMRスペクトル図である。
【
図2】実施例1で得られた化合物のIRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の環状シラザン構造を有する有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で示される(以下、一般式(1)で示される有機ケイ素化合物を、「有機ケイ素化合物(1)」という。)。
【0015】
【0016】
式(1)において、R1は、水素原子、オキシラジカル、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1~10のアルコキシ基、または置換もしくは非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表す。
上記アルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ基等の直鎖状のアルコキシ基;sec-プロポキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、sec-ペンチルオキシ、tert-ペンチルオキシ、sec-ヘキシルオキシ、tert-ヘキシルオキシ、sec-ヘプチルオキシ、tert-ヘプチルオキシ、sec-オクチルオキシ、tert-オクチルオキシ、sec-ノニルオキシ、tert-ノニルオキシ、sec-デシルオキシ、tert-デシルオキシ基等の分岐鎖状のアルコキシ基;シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ基等の環状のアルコキシ基;ビニルオキシ、アリルオキシ、ブテニルオキシ、メタリルオキシ基等のアルケニルオキシ基;フェニルオキシ、トリルオキシ、キシリルオキシ基等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基等が挙げられる。
上記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等の直鎖状のアルキル基;sec-プロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、sec-ヘプチル、tert-ヘプチル、sec-オクチル、tert-オクチル、sec-ノニル、tert-ノニル、sec-デシル、tert-デシル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基;ビニル、アリル、ブテニル、メタリル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
なお、これらのアルコキシ基および1価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、その他の置換基で置換されていてもよく、この置換基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、(イソ)プロポキシ基等の炭素数1~3のアルコキシ基;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;フェニル基等の芳香族炭化水素(アリール)基;シアノ基、アミノ基、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アシル基、スルフィド基等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの置換基の置換位置は特に限定されず、置換基数も限定されない。
【0017】
これらの中でも、R1としては、水素原子、オキシラジカル、置換または非置換の、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルコキシ基;アルケニルオキシ基;アリールオキシ基;アラルキルオキシ基、置換または非置換の、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;アルケニル基;アリール基;アラルキル基が好ましく、特に前駆原料の入手容易性の観点から、水素原子、オキシラジカル、非置換の、炭素数1~3の直鎖状アルコキシ基;アルケニルオキシ基、非置換の、炭素数1~3の直鎖状アルキル基;アルケニル基がより好ましく、水素原子、オキシラジカル、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基がより一層好ましい。
【0018】
上記R2は、置換または非置換の、炭素数3~6、好ましくは炭素数3~5、より好ましくは炭素数3または4のアルキレン基を表す。
上記炭素数3~6のアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、イソブチレン、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
なお、これらのアルキレン基の水素原子の一部または全部は、その他の置換基で置換されていてもよく、この置換基としては、上記R1で例示したその他の置換基と同様のものが挙げられる。
また、これらのアルキレン基は、その分子鎖中に、エーテル基、エステル基、カルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基等の1種または2種以上が介在していてもよい。
これらの中でも、R2としては、炭素数3または4の非置換の直鎖状アルキレン基が好ましく、特に前駆原料の入手容易性の観点から、トリメチレン基がより好ましい。
【0019】
上記R3およびR4は、それぞれ独立して置換または非置換の、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基を表す。
上記炭素数1~10の1価炭化水素基としては、上記R1で例示した1価炭化水素基と同様のものが挙げられる。
それらの中でも、R3およびR4としては、炭素数1~6の非置換の直鎖状アルキル基が好ましく、特に前駆原料の入手容易性の観点から、非置換の、炭素数1~3の直鎖状アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより一層好ましい。
【0020】
上記nは、0~2の整数であるが、特にシランカップリング剤や表面処理剤等として用いる場合、基材表面の複数の水酸基と反応して密着性を高める観点から、0または1が好ましい。
【0021】
上記有機ケイ素化合物(1)の具体例としては、2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-1-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-1-(1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-1-(1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-1-(1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、特にシランカップリング剤や表面処理剤等として用いる場合、基材表面の複数の水酸基と反応して密着性を高める観点から、2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンが好ましい。
【0023】
次に、本発明の有機ケイ素化合物(1)の製造方法について説明する。
本発明では、下記一般式(2)で示されるアミノ基を有する有機ケイ素化合物(以下、有機ケイ素化合物(2)という。)を蒸留する際に、発生するアルコールを留去しながら、触媒の存在下で蒸留して製造する。
【0024】
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0025】
一般式(2)において、n’は、0~2の整数であるが、得られる有機ケイ素化合物(1)を、シランカップリング剤や表面処理剤等として用いる場合、基材表面の複数の水酸基と反応して密着性を高める観点から、0または1が好ましい。
【0026】
上記有機ケイ素化合物(2)の具体例としては、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル]-1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル]-1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、特に前駆原料の入手容易性の観点から、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジン、N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-エチル-2,2,6,6-ペンタメチル-4-アミノピペリジンが好ましい。
【0028】
発生するアルコールを蒸留によって留去する際の条件は、アルコールが気化する条件であれば特に制限されない。
蒸留する際の温度は、生産性の観点から、好ましくは100~300℃、より好ましくは100~280℃、より一層好ましくは100~260℃の範囲である。なお、蒸留塔を用いて蒸留する場合には、上記蒸留する際の温度は、蒸留塔上部の温度をいう。
蒸留時間は、生産性の観点から、好ましくは1~50時間、より好ましくは1~40時間、より一層好ましくは1~30時間の範囲である。
蒸留圧力は、生産性の観点から、好ましくは0.01~10.0kPa、より好ましくは0.01~9.0kPa、より一層好ましくは0.01~8.0kPaの範囲である。
【0029】
本発明の製造方法で使用される触媒は、塩基性化合物または酸性化合物から適宜選択することができる。
塩基性化合物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物化合物;カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド化合物等が挙げられる。
これらの中でも、特に入手容易性および反応性の観点から、アルカリ金属アルコキシド化合物が好ましい
なお、これらの塩基性化合物は、水溶液やアルコール溶液等として用いることができる。
【0030】
酸性化合物の具体例としては、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸化合物;酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸化合物;硫酸、リン酸等が挙げられる。
これらの中でも、特に入手容易性および反応性の観点から、スルホン酸化合物、カルボン酸化合物が好ましい。
なお、これらの酸性化合物は、水溶液やアルコール溶液等として用いることができる。
【0031】
触媒の使用量は、環化反応の触媒効果が発現する量であれば特に限定されないが、反応性、生産性の観点から、有機ケイ素化合物(2)1モルに対し、塩基性化合物または酸性化合物として、好ましくは0.0001~10.0モル、より好ましくは0.001~5.0モル、より一層好ましくは0.01~2.0モルの範囲である。
【0032】
なお、上記環化反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、有機ケイ素化合物(2)との相溶性の観点から、特に炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
また、pH調整剤として、酸または塩基を用いてもよい。
【0033】
本発明の有機ケイ素化合物(1)を含むシランカップリング剤または表面処理剤(以下、「処理剤」という。)を用いて基材を処理することにより、処理時のアルコールの発生量を削減することができるうえに、処理後の基材表面に耐候性、透明性を付与することができ、さらに、濡れ性または撥液性を付与することができる。
【0034】
また、上記有機ケイ素化合物(1)と、上記有機ケイ素化合物(2)を含む組成物を処理剤として使用することもでき、この場合、有機ケイ素化合物(2)を単独で用いる場合と比べて、アルコールの発生量を削減することができる。
組成物として用いる場合、有機ケイ素化合物(2)の含有量は、アルコールの発生量の削減の観点から、組成物中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、より一層好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0035】
本発明の有機ケイ素化合物(1)を含む処理剤を用いて基材のシランカップリング処理または表面処理を行う場合、処理剤をそのまま使用しても問題ないが、溶媒で希釈して用いてもよい。
この場合の溶媒の具体例としては、環化反応で使用する溶媒で例示した溶媒と同様の溶媒を用いることができる。
【0036】
処理剤の濃度は特に限定されないが、反応性、生産性の観点から、有機ケイ素化合物(1)が、好ましくは0.001~50質量%、より好ましくは0.1~20質量%、より一層好ましくは0.1~10質量%の範囲となるように上記溶媒に希釈して用いるとよい。
【0037】
次に、本発明の有機ケイ素化合物(1)を含む処理剤を用いた基材のシランカップリング処理または表面処理方法について説明する。
有機ケイ素化合物(1)を含む処理剤を用いて基材のシランカップリング処理または表面処理を行う方法としては、特に制限はなく、基材に処理剤を塗布する方法、不活性ガスにて処理剤を同伴させ、この同伴ガスに基材を接触させる方法、基材と共に処理剤を直接ミキサーやミルで混合する方法等が挙げられる。これらの中でも、簡便性の観点から、処理剤を塗布する方法が好ましい。
処理剤を塗布する方法としては、例えば、刷毛塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤーバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等が挙げられる。
【0038】
有機ケイ素化合物(1)を含む処理剤を、基材に塗布、接触または混合して処理する際の条件は、有機ケイ素化合物(1)が基材表面の水酸基と反応する条件であれば特に制限されない。
処理温度は、生産性の観点から、好ましくは0~100℃、より好ましくは10~50℃、より一層好ましくは20~30℃の範囲である。
処理時間は、生産性の観点から、好ましくは1分~50時間、より好ましくは1分~30時間、より一層好ましくは1分~20時間の範囲であるが、上記処理温度との関係において、適宜設定すればよい。
【0039】
シランカップリング処理または表面処理が施される基材は、無機材料と有機材料のどちらでもよい。
無機材料としては、ガラス板、ガラス繊維、珪藻土、珪酸カルシウム、シリカ、シリコン、タルク、マイカ等のケイ素化合物;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム等の金属酸化物;塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化チタン、塩化鉄、塩化マグネシウム等の金属塩化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これらの中でも、有機ケイ素化合物(1)との反応性の観点から、特にケイ素化合物、金属酸化物が好ましい。
有機材料としては、ゴム、紙、セルロース等の天然高分子;アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成高分子;油脂、界面活性剤、液晶等が挙げられる。
これらの中でも、有機ケイ素化合物(1)との反応性の観点から、特に天然高分子、合成高分子が好ましい。
【0040】
本発明の有機ケイ素化合物(1)を含む処理剤を用いて基材のシランカップリング処理または表面処理を行った後は、洗浄、乾燥等により余剰の処理剤を除去する。なお、洗浄と乾燥による後処理は、単独で行っても、組み合わせて行ってもよい。
洗浄溶媒としては、特に制限はないが、前述の有機ケイ素化合物(1)を希釈する溶媒で例示した溶媒と同じものを使用することができる。
洗浄方法としては、特に制限はないが、シラン処理後の基材に対して、洗浄溶媒中に浸漬する方法、洗浄溶媒をスプレーする方法等を採用することができる。
洗浄、乾燥の条件は、シラン処理後の基材に悪影響を与えない限り特に限定されない。
洗浄温度は、生産性の観点から、好ましくは0~300℃、より好ましくは0~200℃、より一層好ましくは0~100℃の範囲である。
洗浄時間は、生産性の観点から、好ましくは1分~10時間、より好ましくは1分~5時間、より一層好ましくは1分~2時間の範囲であるが、上記洗浄温度との関係において、適宜設定すればよい。
乾燥温度は、生産性の観点から、好ましくは0~300℃、より好ましくは0~200℃、より一層好ましくは0~100℃の範囲である。
乾燥時間は、生産性の観点から、好ましくは1分~10時間、より好ましくは1分~5時間、より一層好ましくは1分~2時間の範囲であるが、上記乾燥温度との関係において、適宜設定すればよい。
【0041】
余剰の処理剤を除去した後の基材は、湿気雰囲気に曝して残りのアルコキシシリル基を加水分解する。
湿気雰囲気に曝す方法としては、特に制限はないが、イオン交換水や蒸留水等の純水中に浸漬する方法、恒温恒湿装置を使用して所定の湿度で処理する方法等を採用することができる。
湿気雰囲気に曝す温度は、シラン処理後の基材に悪影響を与えない限り特に限定されないが、生産性の観点から、好ましくは0~100℃、より好ましくは10~80℃、より一層好ましくは20~60℃の範囲である。
湿気雰囲気に曝す時間は、シラン処理後の基材に悪影響を与えない限り特に限定されないが、生産性の観点から、好ましくは1分~4時間、より好ましくは1分~3時間、より一層好ましくは1分~2時間の範囲であるが、上記湿気雰囲気に曝す温度との関係において、適宜設定すればよい。
【0042】
なお、本発明の有機ケイ素化合物(1)を含む処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、界面活性剤、染料等から選択されるその他の添加剤の1種以上を含んでいてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および応用例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下の蒸留で得られた留分の純度は、以下の条件によるガスクロマトグラフィー測定により行ったものである。
[ガスクロマトグラフィー測定条件]
ガスクロマトグラフ:GC-2014((株)島津製作所製)
パックドカラム:SiliconeSE-30(ジーエルサイエンス(株)製)
検出器:TCD
検出器温度:300℃
注入口温度:300℃
昇温プログラム:70℃(0分)→10℃/分→300℃(10分)
キャリアガス:ヘリウム(50ml/分)
注入量:1μl
【0044】
[実施例1]2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン625.1g(4.000モル)を仕込み、150℃に加熱した。内温が安定した後、クロロプロピルトリメトキシシラン198.7g(1.000モル)を10時間かけて滴下し、その温度で50時間撹拌した。室温に冷却した後、反応で生じた4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン塩酸塩を濾過により除去し、前駆体反応液611.7gを得た。
次いで、撹拌機、還流器、分留頭および温度計を備えたフラスコに、上記前駆体反応液611.7g、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(28質量%ナトリウムメトキシド)7.6g(0.040モル)を仕込み、発生するメタノールを留去しながら蒸留することで、沸点178~179℃/5.0kPaの無色透明留分を229.2g得た。
得られた留分について、
1H-NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)およびIRスペクトルを測定した。それらの結果を
図1,2にそれぞれ示す。
以上の結果より、得られた留分は、2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンであることが確認された。また、ガスクロマトグラフィーにて分析することにより、2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの純度は99.6%であることが確認された。
【0045】
[実施例2]2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの合成
撹拌機、還流器、分留頭および温度計を備えたフラスコに、室温下、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン159.3g(0.500モル)、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(28質量%ナトリウムメトキシド)3.8g(0.020モル)を仕込み、発生するメタノールを留去しながら蒸留することで、沸点178~179℃/5.0kPaの無色透明留分を104.9g得た。
得られた留分について、ガスクロマトグラフィーにて分析することにより、2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの純度は99.6%であることが確認された。
【0046】
[実施例3]2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンとN-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジンの混合物の製造
撹拌機、還流器、分留頭および温度計を備えたフラスコに、室温下、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジン159.3g(0.500モル)、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(28質量%ナトリウムメトキシド)0.9g(0.005モル)を仕込み、発生するメタノールを留去しながら蒸留することで、沸点183~184℃/5.0kPaの無色透明留分を129.4g得た。
得られた留分について、ガスクロマトグラフィーにて分析することにより、2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンとN-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-アミノピペリジンの面積%の比は、72:28であることが確認された。
【0047】
[応用例1]2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンによる基材の処理
実施例1で得られた2,2-ジメトキシ-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンを1質量%になるようにトルエン100mLに添加した。この溶液に、予めUVオゾン洗浄したガラス板(松浪硝子工業(株)製;スライドグラス、白緑磨フロストNo.1、サイズ76mm*26mm、厚み0.8~1.0mm、フロスト巾15mm*26mm)を25℃で24時間浸漬して処理した。
ガラス板を溶液から引き揚げ、新たにトルエン100mLに浸漬して超音波洗浄機(本多電子(株)製;W-221)にて25℃で1時間超音波洗浄した後、50℃で1時間乾燥した。その後、ガラス板を恒温恒湿機(ヤマト科学(株)製;IW243)にて相対湿度90%の条件に25℃で1時間暴露して後処理を行った。
【0048】
[性能評価]
応用例1で処理したガラス板を、協和界面科学(株)製の接触角計(DMs-401、解析ソフトウェアFAMAS)を用い、25℃、50%RHの条件で、処理表面の任意の10箇所に対する純水の接触角(1μL)および転落角(20μL)、テトラデカンの接触角(5μL)を測定したところ、純水の接触角(1μL)は平均51.5°を示し、標準偏差は1.9°だった。純水の転落角(20μL)は平均44.0°を示し、標準偏差は1.7°だった。テトラデカンの接触角(5μL)は平均7.0°を示し、標準偏差は1.1°だった。
以上の結果より、本発明の有機ケイ素化合物(1)の環状シラザン構造が、基材表面の水酸基と容易に反応して共有結合を形成することがわかった。また、ヒンダードアミノ基に由来する効果により、処理表面が親水親油の濡れ性を示すことがわかった。
さらに、このガラス板を、室温で3ヶ月以上放置しても、基材表面に剥離やクラックは発生せず、外観は無色透明なままであり、耐候性と透明性に優れることがわかった。