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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】アニリン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/88 20060101AFI20230926BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C07D209/88
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020506618
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010353
(87)【国際公開番号】W WO2019177049
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2018049629
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 誠弥
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/050253(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/174377(WO,A1)
【文献】ALBRECHT, K. et al.,Chemical Communications,2017年,Vol. 53,pp. 2439-2442, S1-S9
【文献】XIE, G. et al.,ACS Applied Materials & Interfaces,2016年,Vol. 8,pp. 27920-27930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
〔式中、R1~R5は、互いに独立して、水素原子または式(2)
【化2】
(式中、Ar1およびAr2は、互いに独立して、炭素数6~20のアリール基を表し、Ar3は、炭素数6~20のアリーレン基を表すが、Ar1~Ar3のいずれか2つが結合して窒素原子とともに環を形成していてもよい。)
で表される基を表すが、R1~R5の少なくとも1つは、水素原子である。〕
で表されるアミン化合物を、触媒および塩基の存在下、式(3)
【化3】
(式中、Xは、ハロゲン原子または擬ハロゲン基を表し、R6~R8は、Z1で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基または炭素数6~20のアリール基を表し、Z1は、炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表す。)
で表されるカルバゾール化合物とカップリング反応させた後、シリル基を脱保護することを特徴とする式(4)
【化4】
〔式中、R1’~R5’は、互いに独立して、水素原子、式(2)で表される基、または式(5)で表される基を表すが、R1’~R5’の少なくとも1つは、式(5)で表される基である。
【化5】
(式中、Ar1~Ar3は、前記と同じ意味を表す。)〕
で表されるアニリン誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記R6~R8が、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基である請求項1記載のアニリン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記R6~R8の2つがメチル基で、残りの1つがt-ブチル基である請求項2記載のアニリン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記塩基が、t-ブトキシナトリウムである請求項1~3のいずれか1項記載のアニリン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、パラジウム触媒である請求項1~4のいずれか1項記載のアニリン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記カップリング反応が、40~100℃で行われる請求項1~5のいずれか1項記載のアニリン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記脱保護が、フッ化物イオンを用いて行われる請求項1~6のいずれか1項記載のアニリン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記R1~R5が、すべて水素原子である請求項1~7のいずれか1項記載のアニリン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子には、発光層や電荷注入層として、有機化合物からなる電荷輸送性薄膜が用いられる。特に、正孔注入層は、陽極と、正孔輸送層あるいは発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動および高輝度を達成するために重要な機能を果たす。
正孔注入層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスと、スピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別され、これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。
【0003】
このような事情に鑑み、本発明者らは、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与えるアニリン誘導体や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好なアニリン誘導体を開発してきている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
上記特許文献1には、そのようなアニリン誘導体の製造方法の1つとして、例えば、下記スキームに示されるように、アミン化合物(A)と、NH基をベンジル基で保護したハロゲン化カルバゾール化合物(B)とを、触媒存在下でカップリングさせた後、ベンジル基を脱保護する手法が開示されている。
【0005】
【化1】
【0006】
【化2】
【0007】
しかしながら、上記ベンジル基で保護したカルバゾール化合物を用いた場合、脱保護の工程で大過剰の塩基と酸素が必要であり、工業的製法としては適していないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/050253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、脱保護の過程で大過剰の塩基および酸素を必要としない、効率的かつ工業的製法に適したアニリン誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アミン化合物と、NH基を所定のシリル基で保護したカルバゾール化合物とをカップリング反応させた後、脱シリル化することで、大過剰の塩基や酸素を必要とせず、効率的にアニリン誘導体が製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)
【化3】
〔式中、R1~R5は、互いに独立して、水素原子または式(2)
【化4】
(式中、Ar1およびAr2は、互いに独立して、炭素数6~20のアリール基を表し、Ar3は、炭素数6~20のアリーレン基を表すが、Ar1~Ar3のいずれか2つが結合して窒素原子とともに環を形成していてもよい。)
で表される基を表すが、R1~R5の少なくとも1つは、水素原子である。〕
で表されるアミン化合物を、触媒および塩基の存在下、式(3)
【化5】
(式中、Xは、ハロゲン原子または擬ハロゲン基を表し、R6~R8は、Z1で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基または炭素数6~20のアリール基を表し、Z1は、炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表す。)
で表されるカルバゾール化合物とカップリング反応させた後、シリル基を脱保護することを特徴とする式(4)
【化6】
〔式中、R1’~R5’は、互いに独立して、水素原子、式(2)で表される基、または式(5)で表される基を表すが、R1’~R5’の少なくとも1つは、式(5)で表される基である。
【化7】
(式中、Ar1~Ar3は、前記と同じ意味を表す。)〕
で表されるアニリン誘導体の製造方法、
2. 前記R6~R8が、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基である1のアニリン誘導体の製造方法、
3. 前記R6~R8の2つがメチル基で、残りの1つがt-ブチル基である2のアニリン誘導体の製造方法、
4. 前記塩基が、t-ブトキシナトリウムである1~3のいずれかのアニリン誘導体の製造方法、
5. 前記触媒が、パラジウム触媒である1~4のいずれかのアニリン誘導体の製造方法、
6. 前記カップリング反応が、40~100℃で行われる1~5のいずれかのアニリン誘導体の製造方法、
7. 前記脱保護が、フッ化物イオンを用いて行われる1~6のいずれかのアニリン誘導体の製造方法、
8. 前記R1~R5が、すべて水素原子である1~7のいずれかのアニリン誘導体の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアニリン誘導体の製造方法では、カルバゾール化合物のNH基をシリル基で保護した原料を用いているため、脱保護の過程で大過剰の塩基および酸素を必要とすることがなく、効率的に目的のアニリン誘導体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたCZ5のHPLCチャートを示す図である。
図2図1において縦軸0~300mAUの範囲を示す拡大図である。
図3】比較例1で得られたCZ5のHPLCチャートを示す図である。
図4図3において縦軸0~300mAUの範囲を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るアニリン誘導体の製造方法は、式(1)で表されるアミン化合物を、触媒および塩基の存在下、式(3)で表されるカルバゾール化合物とカップリング反応させた後、カルバゾール部位の窒素原子上のシリル基を脱保護することを特徴とする。
【0015】
【化8】
【0016】
上記式(1)において、R1~R5は、互いに独立して、水素原子または式(2)で表される基を表すが、式(3)で表されるカルバゾール化合物とカップリング反応させるためには、R1~R5の少なくとも1つが水素原子である必要がある。
【0017】
【化9】
【0018】
式(2)中、Ar1およびAr2は、互いに独立して、炭素数6~20のアリール基を表し、Ar3は、炭素数6~20のアリーレン基を表すが、Ar1~Ar3のいずれか2つが結合して窒素原子とともに環を形成していてもよい。
炭素数6~20のアリール基の具体例としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられる。
炭素数6~20のアリーレン基の具体例としては、ベンゼン-1,2-ジイル(o-フェニレン)基、ベンゼン-1,3-ジイル(m-フェニレン)基、ベンゼン-1,4-ジイル(p-フェニレン)基、ナフタレン-1,2-ジイル基、ナフタレン-1,3-ジイル基、ナフタレン-1,4-ジイル基、ナフタレン-1,5-ジイル基、ナフタレン-1,6-ジイル基、ナフタレン-1,7-ジイル基、ナフタレン-1,8-ジイル基等が挙げられる。
【0019】
また、Ar1~Ar3のいずれか2つが結合して窒素原子とともに形成する環としては、カルバゾール環等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、Ar1およびAr2は、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
また、Ar3は、ベンゼン-1,2-ジイル基、ベンゼン-1,3-ジイル基、ベンゼン-1,4-ジイル基が好ましく、ベンゼン-1,4-ジイル基がより好ましい。
したがって、式(2)で表される基は、式(2A)で表される基が好ましく、式(2A-1)で表される基がより好ましい。
【0021】
【化10】
【0022】
【化11】
【0023】
本発明の製法で好適に用いることができる式(1)で表される化合物としては、上記R1~R5がすべて水素原子である下記式(1A)で示される化合物、R2およびR4が4-ジフェニルアミノフェニル基である下記式(1B)で示される化合物、R1、R2およびR4が4-ジフェニルアミノフェニル基である下記式(1C)で示される化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
【化12】
【0025】
一方、式(3)におけるXは、ハロゲン原子または擬ハロゲン基を表し、R6~R8は、Z1で置換されてもよい、炭素数1~20のアルキル基または炭素数6~20のアリール基を表し、Z1は、炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基を表す。
【0026】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
擬ハロゲン基としては、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基等の(フルオロ)アルキルスルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等の芳香族スルホニルオキシ基などが挙げられる。
これらの中でも、原料の入手性や反応性等を考慮すると、Xは、ハロゲン原子が好ましく、臭素原子、ヨウ素原子がより好ましい。
また、Xの置換位置は特に限定されるものではないが、カルバゾールの窒素原子に対してパラ位が好ましい。
【0027】
炭素数1~20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基などが挙げられる。
炭素数6~20のアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0028】
炭素数1~20のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状のアルコキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3~20の環状アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、R6~R8は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましい。
より具体的には、R6~R8の2つがメチル基で、残りの1つがt-ブチル基の組み合わせ、R6~R8の2つがフェニル基で、残りの1つがt-ブチル基の組み合わせ、R6~R8がすべてイソプロピル基のものが好ましく、R6~R8の2つがメチル基で、残りの1つがt-ブチル基の組み合わせがより好ましい。
【0030】
本発明の製法に好適に用いることができる式(3)で示される化合物としては、下記式(3A)で表される化合物、特に、式(3A-1)で示される化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、式(3)で表される化合物は、対応するカルバゾールを、NaH等の塩基存在下、トリアルキルシリルクロライド等のトリオルガノハライドと反応させる公知の手法によって得ることができる。
【0031】
【化13】
(式中、R6~R8およびXは、上記と同じ意味を表す。)
【0032】
【化14】
【0033】
上記式(1)で表されるアミン化合物と式(3)で表されるカルバゾール化合物とのカップリング反応において、式(1)で表されるアミン化合物と、式(3)で表されるカルバゾール化合物との仕込み比は、物質量(mol)比で、アミン化合物の反応させたい目的とするNH基1に対して、カルバゾール化合物1~5程度が好ましく、1.1~2程度がより好ましい。
【0034】
上記反応に用いられる触媒としては、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等の銅触媒;Pd(PPh34(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)、Pd(PPh32Cl2(ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム)、Pd(dba)2(ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム)、Pd2(dba)3(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)、Pd(P-t-Bu32(ビス(トリ(t-ブチルホスフィン))パラジウム)、Pd(OAc)2(酢酸パラジウム)等のパラジウム触媒などが挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、これらの触媒は、公知の適切な配位子とともに使用してもよい。
このような配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルフォスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、ジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィン、ジ-t-ブチル(4-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等の3級ホスフィン、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3級ホスファイトなどが挙げられるが、本発明では、ジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィンが好適に用いられる。
【0036】
触媒の使用量は、それぞれ式(1)で表されるアミン化合物の反応させたい目的とするNH基1molに対して、0.1~100mol%程度とすることができるが、1~10mol%程度が好ましく2~5mol%程度がより好ましく、2mol%程度がより一層好ましい。
また、配位子を用いる場合、その使用量は、使用する金属錯体に対し0.1~5当量とすることができるが、1~2当量が好適である。
【0037】
また、塩基としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、t-ブトキシリチウム、t-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属単体、水酸化アルカリ金属、アルコキシアルカリ金属、炭酸アルカリ金属、炭酸水素アルカリ金属;炭酸カルシウム等の炭酸アルカリ土類金属などが挙げられるが、カップリング反応を効率的に進行させることを考慮すると、t-ブトキシナトリウムが好ましい。
【0038】
塩基の使用量は、それぞれ、式(1)で表されるアミン化合物の反応させたい目的とするNH基に対して1~2当量程度が好ましく、1.2~1.5当量程度がより好ましい。
【0039】
原料化合物が全て固体である場合や、目的とするカップリング生成物を効率よく得る観点から、上記反応は溶媒中で行う。溶媒を使用する場合、その種類は、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。その具体例としては、脂肪族炭化水素類(ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、デカリン等)、ハロゲン化脂肪族炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ラクタムおよびラクトン類(N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン等)、尿素類(N,N-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等)などが挙げられ、これらの溶媒は単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
これらの中でも、特に、芳香族炭化水素類が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0040】
反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよいが、特に、0~200℃程度が好ましく、20~150℃程度がより好ましく、カップリング生成物の収率をより高めることを考慮すると、40~100℃程度がより一層好ましい。
反応終了後は、常法にしたがって後処理をし、カップリング生成物を得ることができる。
【0041】
続いて、得られたカップリング生成物におけるカルバゾール部位の窒素原子上のシリル基を脱保護する。
脱保護は公知の手法から適宜選択して行うことができるが、本発明では、フッ化物イオンによって脱保護することが好ましい。
フッ化物イオン源となる脱シリル化剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF),テトラエチルアンモニウムフルオライド,テトラメチルアンモニウムフルオライドおよびそれらの水和物、フッ化水素ピリジンコンプレックス、フッ化セシウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等が挙げられるが、これらの中でも、TBAFが好適である。
脱シリル化剤の使用量は、カップリング生成物中の全N-Si結合に対し、1~5当量程度とすることができるが、1.2~2当量程度が好ましい。
【0042】
この反応の際も溶媒を用いることができ、使用可能な溶媒の具体例としては上述のとおりであるが、エーテル類が好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
反応温度は、溶媒の融点から沸点まで可能だが、0~100℃程度が好ましく、0~30℃程度がより好ましく、25℃程度の室温がより一層好ましい。
反応終了後は、常法にしたがって後処理をし、目的の下記式(4)で表されるアニリン誘導体が得られる。
【0043】
【化15】
【0044】
式中、R1’~R5’は、互いに独立して、水素原子、上記式(2)で表される基、または下記式(5)で表される基を表すが、R1’~R5’の少なくとも1つは、式(5)で表される基である。
【化16】
【0045】
本発明の製法で得られる好適なアニリン誘導体としては、下記式(4A)~(4D)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
【化17】
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、1H-NMRは、ブルカー・バイオスピン(株)製 核磁気共鳴分光計 AVANCE III HD 500MHzを用いて測定した。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、(株)島津製作所製 Prominenceを用いて以下に示す測定条件で測定した。
溶離液A:0.05体積%トリフルオロ酢酸水溶液
溶離液B:アセトニトリル/テトラヒドロフラン(1対1体積換算、0.05体積%トリフルオロ酢酸添加)
流速:0.5mL/min
カラム:Poroshell 120 EC-C8(2.7μm、3.0×50mm、アジレント・テクノロジー(株)
グラデーション条件:溶離液B:30%(0-0.01min)→30-100%(0.01-10min)→100%(10-30min)
【0048】
[実施例1]アニリン誘導体Cz5の合成
(1)TBSCZ5の合成
【化18】
【0049】
フラスコ内に、DADPA4.78g、TBSCZ-Br47.6g、Pd(dba)21.38gおよびt-ブトキシナトリウム16.6gを入れた後、フラスコ内を窒素置換した。次にトルエン240mL、予め調製しておいたジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィンのトルエン溶液20mL(濃度:55g/L)を加え、90℃で撹拌した。2.5時間後、反応液を室温まで冷却し、イオン交換水240mLを混合して分液処理を行った。さらに有機層をイオン交換水、飽和食塩水で分液洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。得られた粗物をトルエン200mLに溶解させ、白鷺P活性炭(大阪ガスケミカル(株)製)3.5gを加え、室温で2時間撹拌後にシリカゲル濾過を行い、トルエンでケーキ洗浄を行った。濾液を240gまで濃縮後、濃縮液をN,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物7.02g、メタノール1.20L、酢酸エチル0.40Lの予混合溶液中に滴下し、得られたスラリーを室温で撹拌した。18時間後、スラリーを濾過し、濾物をメタノールで洗浄後、乾燥してTBSCZ5を得た(収量:36.3g、収率:95%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0050】
1H-NMR(500MHz,THF-d8)δ[ppm]:7.88-7.98(m,10H),7.55-7.61(m,10H),7.19-7.30(m,10H),7.12(t,J=7.3Hz,1H),7.05(t,J=7.3Hz,4H),6.96-7.00(m,8H),1.05(s,36H),1.04(s,9H),0.74(s,30H).
【0051】
なお、下記式で示されるTBSCZ-Brは、Chemistry of Materials (2015), 27(19), 6535-6542.に従って合成した(以下、同様)。
【0052】
【化19】
【0053】
(2)CZ5の合成
【化20】
【0054】
フラスコ内にTHF178mL、TBSCZ5 33.5gを入れた後、氷浴で冷却しながら撹拌し、TBAFのTHF溶液(濃度:1M)158mLを滴下した。滴下終了後に氷浴を外し、室温で1.5時間撹拌した後に反応液をイオン交換水670mL中に滴下してクエンチした。得られた析出物は、濾取後、130gのTHF溶液にし、メタノール1L中に滴下することで再び析出させた。この濾取から晶析までの操作をさらに2回繰り返した後、析出物を濾取・乾燥してCZ5を得た(収量:18.6g、収率:87%)。
得られたCZ5のHPLCチャートを図1,2に示す。
【0055】
[実施例2]アニリン誘導体3Cz-TRI3の合成
(1)3TBSCz-TRI3の合成
【化21】
【0056】
フラスコ内に、TRI3 55.1g、TBSCZ-Br95.4g、Pd(dba)22.77gおよびt-ブトキシナトリウム32.4gを入れた後、フラスコ内を窒素置換した。次にトルエン550mL、予め調製しておいたジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィンのトルエン溶液22mL(濃度:96g/L)を加え、90℃で撹拌した。1.5時間、反応液を室温まで冷却し、イオン交換水550mLを混合して分液処理を行った。得られた有機層に白鷺P活性炭(大阪ガスケミカル(株)製)11.0gを加え、室温で1時間撹拌後、シリカゲル濾過を行い、トルエンでケーキ洗浄を行った。濾液を660gまで濃縮し、濃縮液をN,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物22.0g、メタノール3.30L、酢酸エチル1.10Lの予混合溶液中に滴下し、得られたスラリーを室温で撹拌した。1時間後、スラリーを濾過し、濾物をメタノールで洗浄後、乾燥して3TBSCZ-TRI3を得た(収量:112g、収率:92%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0057】
1H-NMR(500MHz,THF-d8)δ[ppm]:7.93-7.95(m,3H),7.89(d,J=2.1Hz,3H),7.57-7.62(m,6H),7.26-7.30(m,3H),7.15-7.21(m,11H),7.06-7.13(m,3H),6.96-7.03(m,20H),6.88-6.94(m,8H),1.05(s,18H),1.04(s,9H),0.75(s,12H),0.74(s,6H).
【0058】
(3)3Cz-TRI3の合成
【化22】
【0059】
フラスコ内にTHF315mL、3TBSCZ-TRI3 105gを入れた後、氷浴で冷却しながら撹拌し、TBAFのTHF溶液(濃度:1M)310mLを滴下した。滴下終了後に氷浴を外し、室温で3時間撹拌した後、反応液を735gとなるまでTHFで希釈し、これをメタノール1.57L中に滴下してクエンチした。得られた析出物は室温で1時間撹拌後に濾取し、メタノールでケーキ洗浄後、さらにメタノール1.05Lで2時間スラリー洗浄した。これを濾取して、メタノールでケーキ洗浄後、乾燥して3CZ-TRI3を得た(収量:75.4g、収率:93%)。
【0060】
[実施例3]アニリン誘導体3TPA-CZ3の合成
(1)TBSCZ3の合成
【化23】
【0061】
フラスコ内に、DADPA1.99g、TBSCZ-Br7.22g、Pd(dba)2233mgおよびt-ブトキシナトリウム2.69gを入れた後、フラスコ内を窒素置換した。次にトルエン100mL、予め調製しておいたジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィンのトルエン溶液3.7mL(濃度:49g/L)を加え、90℃で撹拌した。2時間後、反応液を室温まで冷却し、イオン交換水100mLを混合した後、これを濾過した。得られた濾物を熱トルエンで溶解させ、熱時濾過を行い、濾液を室温で撹拌した。18時間後、析出物を濾取し、これをメタノールで洗浄後、乾燥してTBSCZ3を得た(収量:3.87g、収率:51%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0062】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6)δ[ppm]:7.99(d,J=7.6Hz,2H),7.68(d,J=2.1Hz,2H),7.63(s,2H),7.59(d,J=8.5Hz,2H),7.52(d,J=8.9Hz,2H),7.49(s,1H),7.30-7.33(m,2H),7.12-7.15(m,2H),7.07(dd,J=8.9,2.1Hz,2H),6.94-7.02(m,8H),0.98(s,18H),0.73(s,12H).
【0063】
(2)3TPA-TBSCZ3の合成
【化24】
【0064】
フラスコ内に、TBSCZ3 2.65g、TPA-Br3.74g、Pd(dba)2121mgおよびt-ブトキシナトリウム1.42gを入れた後、フラスコ内を窒素置換した。次にトルエン80mL、予め調製しておいたジ-t-ブチル(フェニル)ホスフィンのトルエン溶液1.6mL(濃度:60g/L)を加え、90℃で撹拌した。4時間後、反応液を室温まで冷却し、イオン交換水100mLを混合して分液処理を行った。さらに有機層を5%N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物の水溶液、イオン交換水、飽和食塩水で洗浄後、白鷺P活性炭(大阪ガスケミカル(株))0.1gを加え、室温で1時間撹拌後にシリカゲル濾過を行い、トルエンでケーキ洗浄を行った。濾液を濃縮後、得られた粗物をトルエン50mLに溶解し、メタノール375mL、酢酸エチル125mLの予混合液に滴下し、得られたスラリーを室温で撹拌した。3日後、スラリーを濾過し、濾物を乾燥して3TPA-TBSCZ3を得た(収量:4.80g、収率:92%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0065】
1H-NMR(500MHz,THF-d8)δ[ppm]:7.94(d,J=7.3Hz,2H),7.89(d,J=1.8Hz,2H),7.61(t,J=8.2Hz,4H),7.29(t,J=7.3Hz,2H),7.16-7.20(m,14H),7.10(t,J=7.3Hz,2H),6.98-7.04(m,26H),6.89-6.94(m,12H).
【0066】
(3)3TPA-CZ3の合成
【化25】
【0067】
フラスコ内にTHF22.5mL、3TPA-TBSCZ3 3.72gを入れた後、撹拌しながらTBAFのTHF溶液(濃度:1M)7.5mLを滴下した。滴下終了から1時間後、反応液をメタノール300mL中に滴下してクエンチし、得られた析出物を濾取した。これをトルエン90mL、1,4-ジオキサン10mLの混合液に加熱溶解し、熱時濾過を行った後、再結晶した。この結晶をさらにメタノール50mLでスラリー洗浄し、濾取後、乾燥することで3TPA-CZ3を得た(収量:1.78g、収率:57%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0068】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6)δ[ppm]:11.26(s,2H),8.03(d,J=7.6Hz,2H),7.95(d,J=1.5Hz,2H),7.47(t,J=8.9Hz,4H),7.36(t,J=7.6Hz,2H),7.17-7.26(m,14H),7.08(t,J=7.6Hz,2H),6.88-6.97(m,38H).
【0069】
[比較例1]
国際公開第2015/050253号(特許文献1)に従ってCz5を合成した。得られたCZ5のHPLCチャートを図3,4に示す。
【0070】
図1~4に示されるように、実施例1で合成したCz5(図1,2)と比較例1で合成したCz5(図3,4)とを比較すると、実施例1で合成したCz5のHPLC面積百分率は99.9%に対して比較例1で合成したCz5は93.5%であった。
得られたCz5のHPLC面積百分率の違いから、本発明は大量製造に適した効率良いアニリン誘導体の製法を与えると同時に高純度な化合物を与えることがわかった。
図1
図2
図3
図4