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特許7355036積層体及びその製造方法、円偏光板、表示装置並びにタッチパネル
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  • 特許-積層体及びその製造方法、円偏光板、表示装置並びにタッチパネル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法、円偏光板、表示装置並びにタッチパネル
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/023 20190101AFI20230926BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20230926BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20230926BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230926BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20230926BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230926BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20230926BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20230926BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230926BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B7/022
B32B15/082 Z
B32B15/08 D
G02B5/30
H05B33/14 A
H05B33/02
G09F9/30 365
G09F9/30 349E
G09F9/00 366A
G09F9/00 342
G06F3/041 640
G06F3/041 495
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020559839
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044248
(87)【国際公開番号】W WO2020121708
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018230755
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏木 幹文
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003713(WO,A1)
【文献】特開2015-075950(JP,A)
【文献】国際公開第2014/091759(WO,A1)
【文献】特開平08-201791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 5/30
H10K 50/10
H05B 33/02
H10K 59/10
G09F 9/30
G09F 9/00
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層と導電層と基材とをこの順に備え、
前記熱可塑性樹脂層は、透湿度が5g/m・24h以下で、25℃における貯蔵弾性率が1300MPa以下であり、
前記熱可塑性樹脂層が、シリル基を有する重合体を含み、
前記導電層は、Sn、Pb、Ag、Cu及びAuのうちの少なくとも一種の元素を含
前記基材が、融点を有する脂環式構造含有重合体を含む厚み1μm以上100μm以下の重合体フィルムである、積層体。
【請求項2】
前記シリル基を有する重合体が、ブロック共重合体のシリル基変性物である、請求項に記載の積層体。
【請求項3】
前記シリル基を有する重合体が、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のシリル基変性物である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記芳香族ビニル単量体に基づく単位の水素化率が90%以上であり、且つ前記共役ジエン単量体に基づく単位の水素化率が90%以上である、請求項に記載の積層体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂層の-40℃における貯蔵弾性率Eに対する、前記熱可塑性樹脂層の100℃における貯蔵弾性率Eの比(E/E)が、15以下である請求項1~のいずれか1項記載の積層体。
【請求項6】
前記基材の透湿度が、3g/m・24h以下である、請求項1~のいずれか1項記載の積層体。
【請求項7】
前記基材が、長尺状のフィルムであり、当該フィルムの幅方向に対して斜め方向に遅相軸を有する、請求項1~のいずれか1項記載の積層体。
【請求項8】
前記基材の25℃における貯蔵弾性率が、2000~3000MPaである、請求項1~のいずれか1項記載の積層体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂層の、面内方向の位相差が、10nm以下である、請求項1~のいずれか1項記載の積層体。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂層及び前記基材の少なくとも一方の全光線透過率が、80%以上である、請求項1~のいずれか1項記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項記載の積層体と、偏光板と、を備える、円偏光板。
【請求項12】
請求項11記載の円偏光板を備える表示装置。
【請求項13】
前記表示装置が有機エレクトロルミネッセンス装置である請求項12記載の表示装置。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項記載の積層体を備える、タッチパネル。
【請求項15】
前記積層体の前記熱可塑性樹脂層に接して設けた偏光板を備える、請求項14記載のタッチパネル。
【請求項16】
前記積層体と、偏光板とを備え、
前記積層体の前記基材の遅相軸に対する、前記偏光板の吸収軸のなす角が45°である、請求項14または15記載のタッチパネル。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体の製造方法であって、
前記基材上に前記導電層を形成する工程1と、
前記導電層上に前記熱可塑性樹脂層を形成する工程2と、を含み、
前記工程2は、前記熱可塑性樹脂層を熱圧着すること、または熱可塑性樹脂を含む溶液を塗布することを含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法、円偏光板、表示装置並びにタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性部材として、ガラス板上に酸化インジウム薄膜を形成した導電性ガラスが知られている。しかし、導電性ガラスは、基材がガラスであるために、可撓性に劣り、用途によっては適用が困難である。そこで、可撓性に優れる導電性部材として、樹脂を利用した導電性部材が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-65217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、可撓性基材と、この可撓性基材上に形成された導電層と、この導電層上に形成された粘着剤層とを備えた導電性部材が記載されている。このような導電性部材はタッチパネル等に用いることがある。このような場合、その使用環境によっては、導電層に含まれる金属材料がイオン化して移動し再び金属として生成されるマイグレーションという現象が発生することがあった。マイグレーションが発生すると、タッチパネルが正常に駆動しなくなるため、改善が求められている。
【0005】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、優れた可撓性を有し、かつ、優れたマイグレーション防止効果を有する積層体及びその製造方法;前記の積層体を備えた円偏光板及びタッチパネル;並びに前記円偏光板を備えた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、積層体が、所定の透湿度及び所定の貯蔵弾性率を有する熱可塑性樹脂層と、導電層と、基材と、をこの順に備えることにより、当該積層体を、可撓性及びマイグレーション防止効果に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0007】
〔1〕 熱可塑性樹脂層と導電層と基材とをこの順に備え、
前記熱可塑性樹脂層は、透湿度が5g/m・24h以下で、25℃における貯蔵弾性率が1300MPa以下であり、
前記導電層は、Sn、Pb、Ag、Cu及びAuのうちの少なくとも一種の元素を含む、積層体。
〔2〕 前記熱可塑性樹脂層が、シリル基を有する重合体を含む、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕 前記シリル基を有する重合体が、ブロック共重合体のシリル基変性物である、〔2〕に記載の積層体。
〔4〕 前記シリル基を有する重合体が、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のシリル基変性物である、〔2〕又は〔3〕に記載の積層体。
〔5〕 前記芳香族ビニル単量体に基づく単位の水素化率が90%以上であり、且つ前記共役ジエン単量体に基づく単位の水素化率が90%以上である、〔4〕に記載の積層体。
〔6〕 前記熱可塑性樹脂層の-40℃における貯蔵弾性率Eに対する、前記熱可塑性樹脂層の100℃における貯蔵弾性率Eの比(E/E)が、15以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の積層体。
〔7〕 前記基材の透湿度が、3g/m・24h以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の積層体。
〔8〕 前記基材が、重合体を含む重合体フィルムである、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の積層体。
〔9〕 前記基材が、脂環式構造含有重合体を含む、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の積層体。
〔10〕 前記基材が、長尺状のフィルムであり、当該フィルムの幅方向に対して斜め方向に遅相軸を有する、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の積層体。
〔11〕 前記基材の25℃における貯蔵弾性率が、2000~3000MPaである、〔1〕~〔10〕のいずれか1項記載の積層体。
〔12〕 前記熱可塑性樹脂層の、面内方向の位相差が、10nm以下である、〔1〕~〔11〕のいずれか1項記載の積層体。
〔13〕 前記熱可塑性樹脂層及び前記基材の少なくとも一方の全光線透過率が、80%以上である、〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の積層体。
〔14〕 〔1〕~〔13〕のいずれか1項記載の積層体と、偏光板と、を備える、円偏光板。
〔15〕 〔14〕記載の円偏光板を備える表示装置。
〔16〕 前記表示装置が有機エレクトロルミネッセンス装置である〔15〕記載の表示装置。
〔17〕 〔1〕~〔13〕のいずれか1項記載の積層体を備える、タッチパネル。
〔18〕 前記積層体の前記熱可塑性樹脂層に接して設けた偏光板を備える、〔17〕記載のタッチパネル。
〔19〕 前記積層体と、偏光板とを備え、
前記積層体と、偏光板とを備え、
前記積層体の前記基材の遅相軸に対する、前記偏光板の吸収軸のなす角が45°である、〔17〕または〔18〕記載のタッチパネル。
〔20〕 〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載の積層体の製造方法であって、
前記基材上に前記導電層を形成する工程1と、
前記導電層上に前記熱可塑性樹脂層を形成する工程2と、を含み、
前記工程2は、前記熱可塑性樹脂層を熱圧着すること、または熱可塑性樹脂を含む溶液を塗布することを含む、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた可撓性を有し、かつ、優れたマイグレーション防止効果を有する積層体及びその製造方法;前記の積層体を備えた円偏光板及びタッチパネル;並びに前記円偏光板を備えた表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層体を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
本願において、「長尺状」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。フィルムの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0012】
本願において、フィルムの面内方向の位相差Reは、式Re=(nx-ny)×dに従って算出する。ここで、nxは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、フィルムの面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、dは、フィルムの厚み(nm)である。測定波長は、別に断らない限り、可視光領域の代表的な波長である590nmとする。
【0013】
[1.積層体の概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体10を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層体10は、熱可塑性樹脂層110と、導電層120と、基材130とを、厚み方向においてこの順に備える。本発明において、熱可塑性樹脂層は、所定の透湿度と、所定の貯蔵弾性率を有し、導電層は、所定の元素を含む。
【0014】
[2.熱可塑性樹脂層]
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂で形成された層である。熱可塑性樹脂層は透湿度が5g/m・24h以下で、25℃における貯蔵弾性率が1300MPa以下の層である。熱可塑性樹脂層の透湿度を前記範囲とし、かつ貯蔵弾性率を前記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂層と導電層との密着度を高めて、マイグレーション防止効果を向上しつつ、積層体の可撓性を向上することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂層の透湿度は5g/m・24h以下、好ましくは4g/m・24h以下、より好ましくは3g/m・24h以下である。熱可塑性樹脂の透湿度の下限値は特に限定はないが、好ましくは、1g/m・24h以上、より好ましくは2g/m・24h以上である。透湿度を上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂層と導電層との密着度を高めて、マイグレーション防止効果を向上することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂層の透湿度は、リッシー法(測定機器L80-5000型(システックイリノイ社製)、温度条件40℃湿度90%)により測定しうる。
【0017】
熱可塑性樹脂層の25℃における貯蔵弾性率は1300MPa以下、好ましくは1100MPa以下であり、好ましくは100MPa以上である。熱可塑性樹脂層の、25℃における貯蔵弾性率を上限値以下とすることにより熱可塑性樹脂層の可撓性を優れたものとすることができる。
【0018】
熱可塑性樹脂層の-40℃における貯蔵弾性率Eに対する、熱可塑性樹脂層の100℃における貯蔵弾性率Eの比(E/E)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは12以下である。E/Eの下限値は、特に限定されないが、好ましくは5以上であり、より好ましくは8以上である。E/Eを上記上限値以下とすることにより、温度差のある環境下において、積層体の可撓性を優れたものとしうる。
【0019】
熱可塑性樹脂層の各貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて、周波数1Hzの条件で、測定しうる。具体的な測定条件は、後述する実施例の条件を採用しうる。
【0020】
熱可塑性樹脂層の面内方向の位相差Reは好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。Reの下限は、0nmとしうる。
【0021】
[2.1.熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、重合体(以下、「重合体X」ともいう)を含み、更に必要に応じて任意の成分を含みうる熱可塑性樹脂を用いることができる。重合体Xは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0022】
熱可塑性樹脂が含む重合体Xとしては、シリル基を有する重合体が好ましい。シリル基を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成した熱可塑性樹脂層は、他の材料に対して高い密着性を示す。よって、シリル基を有する重合体を含む樹脂で形成された熱可塑性樹脂層は、導電層に対する密着性に優れるので、水等の侵入を防止してマイグレーションを有効に防止することができ、積層体全体として、機械的強度を向上させることができる。
【0023】
シリル基を有する重合体としては、ブロック共重合体のシリル基変性物が好ましい。ブロック共重合体のシリル基変性物としては、ブロック共重合体及びその水素化物にシリル基を導入したものが挙げられる。また、シリル基を有する重合体としては、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のシリル基変性物が好ましい。芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のシリル基変性物としては、芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体またはその水素化物に、シリル基を導入したものが挙げられる。ただし、本発明において用いる重合体及び重合体の構成要素は、その製造方法によって限定されない。
【0024】
シリル基を有する重合体としては、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体ブロック[A]と、共役ジエン単量体単位を含有する重合体ブロック[B]とを含むブロック共重合体の水素化物にシリル基を導入したもの、及び、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル単量体単位及び共役ジエン単量体単位を含有する重合体ブロック[C]とを含むブロック共重合体の水素化物にシリル基を導入したものがより好ましい。
【0025】
以下、シリル基を有する重合体として好適な、重合体ブロック[A]と、重合体ブロック[B]または重合体ブロック[C]とを含むブロック共重合体の水素化物にシリル基を導入したものについて、説明するが、本発明はこれに限定されない。以下の説明において、重合体ブロック[A]と、重合体ブロック[B]または重合体ブロック[C]とを含むブロック共重合体を、ブロック共重合体[1]と呼ぶことがある。また、ブロック共重合体[1]の水素化物を水素化物[2]と呼ぶことがある。
【0026】
ブロック共重合体[1]は、ブロック共重合体[1]の1分子当たり2個以上の重合体ブロック[A]と、ブロック共重合体[1]1分子あたり1個以上の重合体ブロック[B]または重合体ブロック[C]とを有することが、特に好ましい。
【0027】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル単量体単位を含有する重合体ブロックである。ここで、芳香族ビニル単量体単位とは、芳香族ビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいい、芳香族ビニル化合物単位ともいう。
【0028】
重合体ブロック[A]が有する芳香族ビニル単量体単位に対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、吸湿性を低くできることから、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的入手のし易さから、スチレンが特に好ましい。
【0029】
重合体ブロック[A]における芳香族ビニル単量体単位の含有率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック[A]において芳香族ビニル単量体単位の量が前記のように多いことにより、熱可塑性樹脂層の硬さ及び耐熱性を高めることができる。
【0030】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル単量体単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[A]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0031】
重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、共役ジエン単量体単位が挙げられる。ここで、共役ジエン単量体単位とは、共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいい、共役ジエン化合物単位ともいう。共役ジエン単量体単位に対応する共役ジエン化合物としては、例えば、重合体ブロック[B]が有する共役ジエン単量体単位に対応する共役ジエン化合物の例として挙げるものと同じ例が挙げられる。
【0032】
また、重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。任意の不飽和化合物としては、例えば、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物等のビニル化合物;不飽和の環状酸無水物;不飽和イミド化合物;等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、又はハロゲン基等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の1分子当たり炭素数2~20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の1分子当たり炭素数5~20の環状オレフィン;等の、極性基を有しないビニル化合物が好ましく、1分子当たり炭素数2~20の鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0033】
重合体ブロック[A]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0034】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[A]の数は、好ましくは2個以上であり、好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、特に好ましくは3個以下である。1分子中に複数個ある重合体ブロック[A]は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
重合体ブロック[B]は、共役ジエン単量体単位を含有する重合体ブロックである。前述のように、共役ジエン単量体単位とは、例えば共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいい、共役ジエン化合物単位ともいう。
【0036】
この重合体ブロック[B]が有する共役ジエン単量体単位に対応する共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の鎖状共役ジエン化合物が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、吸湿性を低くできることから、極性基を含有しない鎖状共役ジエン化合物が好ましく、1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0037】
重合体ブロック[B]における共役ジエン単量体単位の含有率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック[B]において共役ジエン単量体単位の含有率が前記範囲であることにより、熱可塑性樹脂層の可撓性を向上させることができる。
【0038】
重合体ブロック[B]は、共役ジエン単量体単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[B]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0039】
重合体ブロック[B]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物単位、並びに、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物単位、並びに、任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位としては、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものと同じ例が挙げられる。
【0040】
重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率が前記範囲であることにより、熱可塑性樹脂層の可撓性を向上させることができる。
【0041】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[B]の数は、通常1個以上であるが、2個以上であってもよい。ブロック共重合体[1]における重合体ブロック[B]の数が2個以上である場合、それらの重合体ブロック[B]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0042】
重合体ブロック[C]は、芳香族ビニル単量体単位及び共役ジエン単量体単位を含有する重合体ブロックである。前述のように、共役ジエン単量体単位とは、例えば共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいい、共役ジエン化合物単位ともいう。芳香族ビニル単量体単位とは、例えば芳香族ビニル単量体単位を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいい、芳香族ビニル化合物単位ともいう。
【0043】
重合体ブロック[C]が有する芳香族ビニル単量体単位に対応する芳香族ビニル化合物としては、重合体ブロック[A]が有する芳香族ビニル単量体単位に対応する芳香族ビニル化合物として例示したものが挙げられる。重合体ブロック[C]が有する共役ジエン単量体単位に対応する共役ジエン化合物としては、重合体ブロック[B]が有する共役ジエン単量体単位に対応する共役ジエン化合物として例示したものが挙げられる。
【0044】
重合体ブロック[C]における、芳香族ビニル単量体単位の含有率は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上であり、好ましくは76重量%以下、より好ましくは60重量%以下、特に好ましくは55重量%以下である。重合体ブロック[C]において芳香族ビニル単量体単位の含有率が前記範囲であることにより、熱可塑性樹脂層の硬さ及び耐熱性を高めることができる。
【0045】
重合体ブロック[C]における共役ジエン単量体単位の含有率は、好ましくは24重量%以上、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは45重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。重合体ブロック[C]において共役ジエン単量体単位の含有率が前記範囲であることにより、熱可塑性樹脂層の可撓性を向上させることができる。
【0046】
重合体ブロック[C]は、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[C]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0047】
重合体ブロック[C]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位としては、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものと同じ例が挙げられる。
【0048】
重合体ブロック[C]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。重合体ブロック[C]における任意の構造単位の含有率が前記範囲であることにより、熱可塑性樹脂層の可撓性を向上させることができる。
【0049】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[C]の数は、通常1個以上であるが、2個以上であってもよい。ブロック共重合体[1]における重合体ブロック[C]の数が2個以上である場合、それらの重合体ブロック[C]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0050】
ブロック共重合体[1]のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもよく、ラジアル型ブロックでもよい。中でも、鎖状型ブロックが、機械的強度に優れ、好ましい。ブロック共重合体[1]が鎖状型ブロックの形態を有する場合、ブロック共重合体[1]の分子鎖の両端が重合体ブロック[A]であることにより、熱可塑性樹脂層のベタツキを所望の低い値に抑えることができる。
【0051】
ブロック共重合体[1]の特に好ましいブロックの形態は、[A]-[B]-[A]及び[A]-[C]-[A]で表されるように、重合体ブロック[B]または[C]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;[A]-[B]-[A]-[B]-[A]及び[A]-[C]-[A]-[C]-[A]で表されるように、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]または[C]が結合し、更に該両重合体ブロック[B]または[C]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体;である。特に、[A]-[B]-[A]及び[A]-[C]-[A]のトリブロック共重合体であることが、製造が容易であり且つ物性を所望の範囲に容易に収めることができるため、特に好ましい。
【0052】
ブロック共重合体[1]において、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[A]の重量分率wAと、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[B]の重量分率wBとの比(wA/wB)は、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の比(wA/wB)は、好ましくは30/70以上、更に好ましくは40/60以上、特に好ましくは45/55以上であり、好ましくは85/15以下、更に好ましくは70/30以下、特に好ましくは55/45以下である。前記の比wA/wBが前記範囲の下限値以上であることにより、熱可塑性樹脂層の剛性及び耐熱性を向上させたり、複屈折を小さくしたりすることができる。また、前記の比wA/wBが前記範囲の上限値以下であることにより、熱可塑性樹脂層の可撓性を向上させることができる。ここで、重合体ブロック[A]の重量分率wAは、重合体ブロック[A]全体の重量分率を示し、重合体ブロック[B]の重量分率wBは、重合体ブロック[B]全体の重量分率を示す。
【0053】
ブロック共重合体[1]において、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[A]の重量分率wAと、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[C]の重量分率wCとの比(wA/wC)は、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の比(wA/wC)は、好ましくは30/70以上、更に好ましくは40/60以上、特に好ましくは45/55以上であり、好ましくは85/15以下、更に好ましくは70/30以下、特に好ましくは55/45以下である。前記の比wA/wCが前記範囲の下限値以上であることにより、熱可塑性樹脂層の剛性及び耐熱性を向上させたり、複屈折を小さくしたりすることができる。また、前記の比wA/wCが前記範囲の上限値以下であることにより、熱可塑性樹脂層の可撓性を向上させることができる。ここで、重合体ブロック[A]の重量分率wAは、重合体ブロック[A]全体の重量分率を示し、重合体ブロック[C]の重量分率wCは、重合体ブロック[C]全体の重量分率を示す。
【0054】
前記のブロック共重合体[1]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、特に好ましくは50,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、特に好ましくは100,000以下である。
また、ブロック共重合体[1]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下であり、好ましくは1.0以上である。
前記ブロック共重合体[1]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0055】
ブロック共重合体[1]の製造方法としては、例えば、国際公開第2015/099079号、特開2016-204217号公報に記載の方法を採用しうる。
【0056】
水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の不飽和結合を水素化して得られる重合体である。ここで、水素化されるブロック共重合体[1]の不飽和結合には、ブロック共重合体[1]の主鎖及び側鎖の、芳香族性及び非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合を、いずれも含む。
【0057】
水素化物[2]の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。また、水素化物[2]において、芳香族ビニル単量体単位の水素化率が90%以上であり、且つ共役ジエン単量体単位の水素化率が90%以上であることが好ましい。水素化物[2]の水素化率は、別に断らない限り、ブロック共重合体[1]の主鎖及び側鎖の、芳香族性及び非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合のうちの、水素化された結合の割合である。水素化率が高いほど、熱可塑性樹脂層の透明性、耐熱性及び耐候性を良好にでき、更には熱可塑性樹脂層の複屈折を小さくし易い。ここで、水素化物[2]の水素化率は、H-NMRによる測定により求めうる。水素化率の上限は、100%としうる。
【0058】
特に、非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、熱可塑性樹脂層の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
【0059】
また、芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、重合体ブロック[A]を水素化して得られる重合体ブロックのガラス転移温度が高くなるので、熱可塑性樹脂層の耐熱性を効果的に高めることができる。さらに、熱可塑性樹脂の光弾性係数を下げることができる。
【0060】
水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、さらにより好ましくは45,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらにより好ましくは100,000以下である。水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)が前記の範囲に収まることにより、熱可塑性樹脂層の機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には熱可塑性樹脂層の複屈折を小さくし易い。
【0061】
水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.8以下であり、好ましくは1.0以上である。水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)が前記の範囲に収まることにより、熱可塑性樹脂層の機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には熱可塑性樹脂層の複屈折を小さくし易い。
【0062】
水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0063】
前述した水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]を水素化することにより、製造しうる。水素化方法としては、水素化率を高くでき、ブロック共重合体[1]の鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような水素化方法としては、例えば、国際公開第2015/099079号、特開2016-204217号公報に記載された方法が挙げられる。
【0064】
前記水素化物[2]としては、シリル基が導入されたものが好ましい。水素化物[2]の中でも特にシリル基を導入されたものを、以下、適宜「シリル基変性物[3]」と呼ぶことがある。シリル基が導入されたことにより、シリル基変性物[3]は、他の材料に対して高い密着性を示す。よって、シリル基変性物[3]を含む熱可塑性樹脂で形成された熱可塑性樹脂層は、導電層に対する密着性に優れるので、積層体の全体として機械的強度を向上させることができる。
【0065】
ブロック共重合体のシリル変性物(シリル基変性物[3])は、上述したブロック共重合体の水素化物(水素化物[2])にシリル基を導入することにより得られる重合体である。ブロック共重合体に導入されるシリル基としては、アルコキシシリル基が挙げられる。ブロック共重合体に導入されるシリル基は、上述した水素化物[2]に直接結合していてもよく、例えばアルキレン基などの2価の有機基を介して間接的に結合していてもよい。
【0066】
シリル基変性物[3]におけるシリル基の導入量は、シリル基の導入前の水素化物[2]100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。シリル基の導入量を前記範囲に収めると、水分等で分解されたシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを抑制できるので、熱可塑性樹脂層の密着性を高く維持することができる。
シリル基の導入量は、H-NMRスペクトルにて計測しうる。また、シリル基の導入量の計測の際、導入量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0067】
シリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)は、導入されるシリル基の量が少ないため、通常は、シリル基を導入する前の水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)から大きく変化しない。ただし、シリル基を導入する際には、通常は過酸化物の存在下で水素化物[2]を変性反応させるので、その水素化物[2]の架橋反応及び切断反応が進行し、分子量分布は大きく変化する傾向がある。シリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、さらにより好ましくは45,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらにより好ましくは100,000以下である。また、シリル基変性物[3]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下であり、好ましくは1.0以上である。シリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)がこの範囲であると、熱可塑性樹脂層の良好な機械強度及び引張り伸びが維持できる。
シリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0068】
シリル基変性物[3]は、前述したブロック共重合体[1]の水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入することにより、製造しうる。水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入する方法としては、例えば、国際公開第2015/099079号、特開2016-204217号公報に記載された方法が挙げられる。
【0069】
熱可塑性樹脂中の水素化物[2](シリル基変性物[3]を含む)等の重合体Xの割合は、好ましくは80重量%~100重量%、より好ましくは90重量%~100重量%、特に好ましくは95重量%~100重量%である。樹脂Bにおける重合体の割合が前記範囲に収まることにより、樹脂Bの貯蔵弾性率を上述した範囲に収めやすい。
【0070】
熱可塑性樹脂層は、上述した重合体Xに組み合わせて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの任意の成分としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。本発明の効果を顕著に発揮させる観点からは、任意の成分の含有割合は少ないことが好ましい。
【0071】
熱可塑性樹脂層は、通常、高い透明性を有する。熱可塑性樹脂層の具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。全光線透過率の上限は、100%であることが好ましいが、100%未満の値としうる。
【0072】
熱可塑性樹脂層の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下である。熱可塑性樹脂層の厚みが前記範囲の下限値以上であることにより、熱可塑性樹脂層によって導電層への水分の浸入を抑制し、マイグレーションを効果的に防止することができる。他方、熱可塑性樹脂層の厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより、可撓性を効果的に高めることができる。
【0073】
熱可塑性樹脂層の製造方法に制限は無い。熱可塑性樹脂層の製造方法としては、例えば、溶融成形法、溶液流延法などが挙げられる。中でも、溶媒等の揮発性成分の熱可塑性樹脂層への残留を抑制できることから、溶融成形法が好ましい。さらには、機械強度及び表面精度に優れた熱可塑性樹脂層を得るために、溶融成形法の中でも、押出成形法、インフレーション成形法及びプレス成形法が好ましく、効率よく簡単に熱可塑性樹脂層を製造できる観点から、押出成形法が特に好ましい。
【0074】
[3.導電層]
本発明において、導電層は、Sn(スズ)、Pb(鉛)、Ag(銀)、Cu(銅)及びAu(金)のうちの少なくとも一種の元素を含む。前記元素は、マイグレーションを発生しうる材料であるが、本発明では、所定の透湿度と所定の貯蔵弾性率を有する熱可塑性樹脂層を備えることにより、マイグレーションの発生を防止し得る。
【0075】
前記元素のうち、好ましくはAg、Cu及びAuであり、より好ましくはAgである。これらの金属は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの金属によって導電層を形成する場合、導電層を細い線状に形成することによって、透明な導電層を得ることができる。例えば、格子状に形成された金属メッシュ層として導電層を形成することにより、透明な導電層を得ることができる。
【0076】
導電層は、前記元素を含む材料(以下「導電材料」ともいう)により形成される。このような導電材料としては、金属材料が挙げられる。ここでいう金属材料とは、所謂金属酸化物とは異なり、金属原子同士が金属結合することにより形成された材料である。このような金属材料としては、金属粒子及び金属ナノワイヤなどが挙げられる。導電材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0077】
導電層は、例えば、金属粒子を含む導電層形成用組成物を塗布することを含む形成方法によって、形成できる。このとき、前記の導電層形成用組成物を所定の格子パターンに印刷することによって、金属メッシュ層としての導電層を得ることができる。さらに、例えば、銀塩及び銀ナノ粒子等の金属粒子を含む導電層形成用組成物を塗布し、露光処理及び現像処理によって金属細線を所定の格子パターンに形成することにより、導電層を金属メッシュ層として形成できる。このような導電層及びその形成方法の詳細については、特開2012-18634号公報、特開2003-331654号公報を参照しうる。
【0078】
金属ナノワイヤとは、形状が針状または糸状であり、径がナノメートルサイズの導電性物質をいう。金属ナノワイヤは直線状であってもよく、曲線状であってもよい。このような金属ナノワイヤは、金属ナノワイヤ同士が隙間を形成して網の目状となることにより、少量の金属ナノワイヤであっても良好な電気伝導経路を形成することができ、電気抵抗の小さい導電層を実現できる。また、金属ワイヤは、網の目状となることにより、網の目の隙間に開口部を形成するので、光透過率の高い導電層を得ることができる。
【0079】
金属ナノワイヤの太さdと長さLとの比(アスペクト比:L/d)は、好ましくは10~100,000であり、より好ましくは50~100,000であり、特に好ましくは100~10,000である。このようにアスペクト比の大きい金属ナノワイヤを用いれば、金属ナノワイヤが良好に交差して、少量の金属ナノワイヤにより高い導電性を発現させることができる。その結果、透明性に優れる積層体を得ることができる。ここで、「金属ナノワイヤの太さ」とは、金属ナノワイヤの断面が円状である場合はその直径を意味し、楕円状である場合はその短径を意味し、多角形である場合は最も長い対角線を意味する。金属ナノワイヤの太さおよび長さは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって測定しうる。
【0080】
金属ナノワイヤの太さは、好ましくは500nm未満であり、より好ましくは200nm未満であり、更に好ましくは10nm~100nmであり、特に好ましくは10nm~50nmである。これにより、導電層の透明性を高めることができる。
【0081】
金属ナノワイヤの長さは、好ましくは2.5μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~500μmであり、特に好ましくは20μm~100μmである。これにより、導電層の導電性を高めることができる。
【0082】
金属ナノワイヤに含まれる金属としては、導電性の高い金属が好ましい。好適な金属の例としては、金、銀及び銅が挙げられ、より好ましくは銀である。また、上記金属にメッキ処理(例えば、金メッキ処理)を行った材料を用いてもよい。さらに、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0083】
金属ナノワイヤの製造方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、溶液中で硝酸銀を還元する方法;前駆体表面にプローブの先端部から印可電圧又は電流を作用させ、プローブ先端部で金属ナノワイヤを引き出し、該金属ナノワイヤを連続的に形成する方法;等が挙げられる。溶液中で硝酸銀を還元する方法においては、エチレングリコール等のポリオール、およびポリビニルピロリドンの存在下で、硝酸銀等の銀塩の液相還元をすることによりにより、銀ナノワイヤが合成され得る。均一サイズの銀ナノワイヤは、例えば、Xia, Y.etal., Chem.Mater.(2002)、14、4736-4745、 Xia, Y.etal., Nano letters(2003)3(7)、955-960に記載される方法に準じて、大量生産が可能である。
【0084】
金属ナノワイヤを含む導電層は、例えば、金属ナノワイヤを溶媒に分散させて得られた金属ナノワイヤ分散液を塗布及び乾燥させることを含む形成方法により、形成できる。
【0085】
金属ナノワイヤ分散液に含まれる溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒等が挙げられ、中でも、環境負荷低減の観点から、水を用いることが好ましい。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0086】
金属ナノワイヤ分散液における金属ナノワイヤの濃度は、好ましくは0.1重量%~1重量%である。これにより、導電性および透明性に優れる導電層を形成することができる。
【0087】
金属ナノワイヤ分散液は、金属ナノワイヤ及び溶媒に組み合わせて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、金属ナノワイヤの腐食を抑制する腐食抑制剤、導電性ナノワイヤの凝集を抑制する界面活性剤、導電性ナノワイヤを導電層に保持するためのバインダーポリマー等が挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0088】
金属ナノワイヤ分散液の塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ダイコート法、インクジェットコート法、スクリーンコート法、ディップコート法、スロットダイコート法、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法等が挙げられる。乾燥方法としては、任意の適切な乾燥方法(例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)が採用されうる。例えば、加熱乾燥の場合には、乾燥温度は100℃~200℃であり、乾燥時間は1分~10分としうる。
【0089】
導電層における金属ナノワイヤの割合は、導電層の全重量に対して、好ましくは80重量%~100重量%であり、より好ましくは85重量%~99重量%である。これにより、導電性および光透過性に優れる導電層を得ることができる。
【0090】
導電層は、上記導電材料とともに、上記以外の任意の導電材料を含んでいてもよい。任意の導電材料としては、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー等が挙げられる。
【0091】
カーボンナノチューブとしては、例えば、直径が0.3nm~100nm、長さ0.1μm~20μm程度の、いわゆる多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ等が用いられる。なかでも、導電性が高い点から、直径10nm以下、長さ1μm~10μmの単層もしくは二層カーボンナノチューブが好ましい。また、カーボンナノチューブの集合体には、アモルファスカーボン及び触媒金属などの不純物は、含まないことが好ましい。カーボンナノチューブの製造方法としては、任意の適切な方法が採用されうる。好ましくは、アーク放電法で作製されたカーボンナノチューブが用いられる。アーク放電法で作製されたカーボンナノチューブは結晶性に優れるため好ましい。
【0092】
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリパラフェニレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリパラフェニレンビニレン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、アクリル系ポリマーで変性されたポリエステル系ポリマー等が挙げられる。中でも、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリパラフェニレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリパラフェニレンビニレン系ポリマーおよびポリピロール系ポリマーが好ましい。
【0093】
その中でも、特に、ポリチオフェン系ポリマーが好ましい。ポリチオフェン系ポリマーを用いることにより、透明性及び化学的安定性に優れる導電層を得ることができる。ポリチオフェン系ポリマーの具体例としては、ポリチオフェン;ポリ(3-ヘキシルチオフェン)等のポリ(3-C1-8アルキル-チオフェン);ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ[3,4-(1,2-シクロヘキシレン)ジオキシチオフェン]等のポリ(3,4-(シクロ)アルキレンジオキシチオフェン);ポリチエニレンビニレン等が挙げられる。ここで、「C1-8アルキル」とは、炭素原子数が1~8のアルキル基を示す。また、前記の導電性ポリマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0094】
導電性ポリマーは、好ましくは、アニオン性ポリマーの存在下で重合される。例えば、ポリチオフェン系ポリマーは、アニオン性ポリマーの存在下で酸化重合させることが好ましい。アニオン性ポリマーとしては、カルボキシル基、スルホン酸基、又はその塩を有する重合体が挙げられる。好ましくは、ポリスチレンスルホン酸等のスルホン酸基を有するアニオン性ポリマーが用いられる。
【0095】
導電層は、前記のような導電材料で形成されているので、導電性を有する。導電層の導電性は、例えば、表面抵抗値で表すことができる。導電層の具体的な表面抵抗値は、積層体の用途に応じて設定しうる。ある実施形態において、導電層の表面抵抗値は、好ましくは1000Ω/sq.以下、より好ましくは900Ω/sq.以下、特に好ましくは800Ω/sq.以下である。導電層の表面抵抗値の下限に特段の制限は無いが、製造が容易であることから、好ましくは1Ω/sq.以上、より好ましくは2.5Ω/sq.以上、特に好ましくは5Ω/sq.以上である。
【0096】
導電層は、熱可塑性樹脂層及び基材の間の全体に形成されていてもよく、一部に形成されていてもよい。例えば、導電層は、所定の平面形状を有するパターンにパターン化されて形成されていてもよい。ここで平面形状とは、層の厚み方向から見た場合の形状を言う。導電層のパターンの平面形状は、積層体の用途に応じて設定しうる。例えば、積層体を回路基板として用いる場合、導電層の平面形状は、回路の配線形状に対応したパターンに形成してもよい。また、例えば、積層体をタッチパネル用のセンサフィルムとして用いる場合、導電層の平面形状は、タッチパネル(例えば、静電容量方式タッチパネル)として良好に動作するパターンが好ましく、具体例を挙げると、特表2011-511357号公報、特開2010-164938号公報、特開2008-310550号公報、特表2003-511799号公報、特表2010-541109号公報に記載のパターンが挙げられる。
【0097】
導電層は、通常、高い透明性を有する。よって、可視光線は、通常、この導電層を透過することができる。導電層の具体的な透明性は、積層体の用途に応じて調整しうる。導電層の具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0098】
導電層の1層当たりの厚みは、好ましくは0.01μm~10μm、より好ましくは0.05μm~3μm、特に好ましくは0.1μm~1μmである。
【0099】
[4.基材]
基材としては、重合体(以下、「重合体Y」ともいう)を含む重合体フィルムを用いうる。重合体フィルムとしては、重合体Yを含み、更に必要に応じて任意の成分を含む樹脂で形成されたフィルムを用いることができる。重合体Yは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
重合体Yとしては、脂環式構造を含有する重合体が好ましい。以下、脂環式構造を含有する重合体を、適宜「脂環式構造含有重合体」ということがある。
【0101】
脂環式構造含有重合体は、機械的強度に優れる。また、脂環式構造含有重合体は、通常、透明性、低吸水性、耐湿性、寸法安定性及び軽量性に優れる。
【0102】
脂環式構造含有重合体は、繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体であり、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物などが挙げられる。また、前記の脂環式構造含有重合体としては、主鎖中に脂環式構造を含有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を含有する重合体のいずれも用いることができる。中でも、脂環式構造含有重合体は、主鎖に脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造等が挙げられるが、熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。
【0103】
1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、より好ましくは6個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0104】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。
また、脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0105】
脂環式構造含有重合体としては、結晶性を有するもの、及び、結晶性を有さないもののいずれを用いてもよく、両者を組み合わせて用いてもよい。ここで、結晶性を有する重合体とは、融点Mpを有する重合体をいう。また、融点Mpを有する重合体とは、すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点Mpを観測することができる重合体をいう。結晶性を有する脂環式構造含有重合体は耐溶剤性であるので、基材の材料として用いることにより、熱可塑性樹脂層を、溶剤に溶解した熱可塑性樹脂を塗布することにより形成することができる。また、基材の材料として結晶性を有する脂環式構造含有重合体を用いることにより、積層体の機械的強度を特に効果的に高めることができる。基材の材料として結晶性を有さない脂環式構造含有重合体を用いた場合には、積層体の製造コストを下げることができる。
【0106】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる積層体が得られ易いことから、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物等であって、結晶性を有するもの。
【0107】
具体的には、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0108】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、積層体を製造するよりも前においては、結晶化していなくてもよい。しかし、積層体が製造された後においては、当該積層体に含まれる結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、通常、結晶化していることにより、高い結晶化度を有することができる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。積層体に含まれる脂環式構造含有重合体の結晶化度を前記範囲の下限値以上にすることにより、積層体に高い耐熱性及び耐薬品性を付与することができる。結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0109】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体の融点Mpは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Mpを有する結晶性を有する脂環式構造含有重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた積層体を得ることができる。
【0110】
前記のような結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、例えば、国際公開第2016/067893号に記載の方法により、製造しうる。
【0111】
他方、結晶性を有さない脂環式構造含有重合体は、例えば、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物などが挙げられる。これらの中でも、透明性及び成形性の観点から、ノルボルネン系重合体及びこの水素化物がより好ましい。
【0112】
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素化物;ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物が特に好ましい。
上記の脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002-321302号公報に開示されている重合体から選ばれる。
【0113】
結晶性を有さない脂環式構造含有重合体を含む樹脂としては、様々な商品が市販されているので、それらのうち、所望の特性を有するものを適宜選択し、使用しうる。かかる市販品の例としては、商品名「ZEONOR」(日本ゼオン株式会社製)、「アートン」(JSR株式会社製)、「アペル」(三井化学株式会社製)、「TOPAS」(ポリプラスチックス社製)の製品群が挙げられる。
【0114】
基材に含まれる重合体Yの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。このような重量平均分子量を有する重合体Yは、機械的強度、成形加工性及び耐熱性のバランスに優れる。
【0115】
基材に含まれる重合体Yの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.4以下、特に好ましくは3.3以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上であることにより、重合体Yの生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下であることにより、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、積層体の安定性を高めることができる。
【0116】
重合体Yの重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、溶媒としてシクロヘキサン(樹脂が溶解しない場合にはトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)により、ポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の値で測定しうる。
【0117】
基材における重合体Yの割合は、耐熱性及び耐折れ曲げ性に特に優れた積層体を得る観点から、好ましくは80重量%~100重量%、より好ましくは90重量%~100重量%、更に好ましは95重量%~100重量%、特に好ましくは98重量%~100重量%である。
【0118】
基材は、上述した重合体Yに組み合わせて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、熱可塑性樹脂層が含みうる任意の成分と例示したものと同様の例が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0119】
重合体Yを含む樹脂(「樹脂Y」ともいう)のガラス転移温度Tgは、好ましくは130℃以上である。樹脂Yが前記のように高いガラス転移温度Tgを有することにより、樹脂Yの耐熱性を高められるので、高温環境における基材の寸法変化を抑制できる。基材が前記のように優れた耐熱性を有することにより、導電層の形成を適切に行うことが可能である。特に、基材が優れた耐熱性を有することは、微細なパターン形状を有する導電層を形成したい場合に、有用である。樹脂Yのガラス転移温度の上限は、樹脂Yの入手を容易にする観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、特に好ましくは180℃以下である。ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。
【0120】
基材は、通常、高い透明性を有する。基材の具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。本発明においては、熱可塑性樹脂層及び基材層の少なくとも一方の全光線透過率が80%以上であるのが好ましく、双方の全光線透過率が80%以上であるとより好ましい。少なくとも一方の層の全光線透過率が80%以上であれば、積層体が高い透明性を有するので、表示装置等に用いる場合に好適である。
【0121】
基材の透湿度は、好ましくは3g/m・24h以下、より好ましくは2g/m・24h以下である。基材の透湿度の下限値は特に限定はないが、好ましくは、0g/m・24h以上である。基材の透湿度を、上限値以下とすることにより、基材と導電層との密着度を高めて、マイグレーション防止効果を向上することができる。基材の透湿度は、リッシー法(測定機器L80-5000型(システックイリノイ社製)、温度条件40℃湿度90%)により測定しうる。
【0122】
基材の25℃における貯蔵弾性率は、好ましくは2000MPa以上、より好ましくは2500MPa以上であり、好ましくは3000MPa以下である。基材の貯蔵弾性率を上限値以下とすることにより、積層体の可撓性を優れたものとすることができる。基材の貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて、周波数1Hzの条件で、測定しうる。
【0123】
基材の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下である。基材の厚みが前記範囲の下限値以上であることにより、基材により導電層への水分の浸入を抑制できる。よって、マイグレーションの発生を効果的に抑制することができる。他方、基材の厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより、積層体の可撓性を効果的に高めることができる。
【0124】
基材の面内方向の位相差Reは、積層体の用途に応じて任意に設定できる。特に、直線偏光板と組み合わせて円偏光板として用いる場合には、1/4波長板として機能できる面内方向の位相差Reを有することが望ましい。その場合の面内方向の位相差Reは、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上であり、好ましくは180nm以下、より好ましくは170nm以下である。その他の用途の場合は、特に制限されないが、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。
【0125】
基材の製造方法に制限は無い。基材の製造方法としては、例えば、溶融成形法、溶液流延法などが挙げられる。中でも、溶媒等の揮発性成分の基材への残留を抑制できることから、溶融成形法が好ましい。溶融成形法は、さらに詳細には、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの方法の中でも、機械強度及び表面精度に優れた基材を得るために、押出成形法、インフレーション成形法及びプレス成形法が好ましく、効率よく簡単に基材を製造できる観点から、押出成形法が特に好ましい。
【0126】
基材の形状は特に限定されないが、長尺状のフィルムであることが好ましい。また、基材は、長尺状のフィルムであって、その幅方向に対して斜め方向に、遅相軸を有しているフィルムであることが好ましい。斜め方向とは、フィルムの面内方向であって、フィルムの長手方向及びフィルムの幅方向のいずれとも非平行な方向をいう。斜め方向に遅相軸を有するフィルムは、長尺状のフィルムを、幅方向に対して斜め方向に延伸することにより得ることができる。斜め延伸したフィルムでは、光軸の向きがフィルムの幅方向に対して傾斜した方向になるので、基材として斜め方向に遅相軸を有するフィルム(斜め延伸フィルム)を使用すると、本発明の積層体をロール・トゥ・ロールで容易に製造することができ、好適である。
【0127】
斜め延伸の方法及び斜め延伸に用いる延伸機は特に制限されず、従来公知のテンター式延伸機を使用することができる。また、テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機などがあるが、長尺のフィルムを連続的に斜め延伸できるものであれば、特に制限されず、種々のタイプの延伸機を使用することができる。
【0128】
[5.任意の層]
積層体は、熱可塑性樹脂層、導電層及び基材以外に、任意の層を含みうる。例えば、積層体は、熱可塑性樹脂層の導電層とは反対側、基材の導電層とは反対側、などの位置に任意の層を備えていてもよい。任意の層としては、例えば、支持体層、ハードコート層、インデックスマッチング層、接着層、位相差層、偏光子層、光学補償層などが挙げられる。
【0129】
積層体において、基材と導電層とは、直接に接していることが好ましい。また、導電層と熱可塑性樹脂層とは、直接に接していることが好ましい。ここで、ある2層が接する態様が「直接」とは、それら2層の間に他の層が無いことを言う。更には、積層体は、基材、導電層及び熱可塑性樹脂層のみを備える3層構造のフィルムであることが特に好ましい。
【0130】
[6.積層体の物性及び厚み]
積層体の全光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。積層体の全光線透過率が下限値以上であると、光学部材の用途において好適である。
また、積層体のヘイズは、積層体を組み込んだ画像表示装置の画像鮮明性を高める観点から、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下であり、理想的には0%である。
【0131】
積層体の厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7.5μm以上、特に好ましくは10μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは175μm以下、特に好ましくは150μm以下である。積層体の厚みが、前記範囲の下限値以上であることにより、積層体の機械的強度を高め、導電層を形成する際にしわを防ぐことができる。また、積層体の厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより、積層体の可撓性性を良好にすることができ、更には積層体の薄膜化が可能である。
【0132】
[7.本発明の作用・効果]
本発明において、熱可塑性樹脂層は透湿度が5g/m・24h以下で、25℃における貯蔵弾性率が1300MPa以下の層である。つまり、本発明において、熱可塑性樹脂層は適切な範囲の透湿度を有するので、導電層との密着性を高くし、これによりマイグレーション防止効果を高めることができる。また、本発明において、熱可塑性樹脂フィルムは、適切な範囲の貯蔵弾性率を有するので、積層体の可撓性を優れたものとすることができる。その結果、本発明によれば、優れた可撓性と、優れたマイグレーション防止効果を有する積層体を提供することができる。
【0133】
また、本発明において、積層体は、導電層を支持するための層として可撓性を有する基材及び熱可塑性樹脂層を備えるので、導電性ガラスに比べて、通常は、耐衝撃性及び加工性に優れる。さらに、積層体は、通常、導電性ガラスよりも、軽量である。
【0134】
[8.積層体の製造方法]
積層体の製造方法に制限は無いが、上述の積層体は、例えば、基材上に導電層を形成する工程1と、導電層上に熱可塑性樹脂層を形成する工程2と、を含む製造方法により、製造し得る。このような製造方法によれば、熱可塑性樹脂層の形成を容易に行うことができるので、製造方法の簡素化が可能である。
【0135】
(工程1)
工程1は、基材上に導電層を形成する工程である。
工程1で用いる基材は、例えば、前述した基材の製造方法により、樹脂Yから形成しうる。基材として斜め延伸フィルムを用いる場合、工程1を行う前に延伸工程を行う。
【0136】
工程1では、例えば、前述した導電層の形成方法により、基材上に導電層を形成する。導電層は、基材上に、任意の層を介して間接的に形成してもよい。ただし、導電層は、基材上に直接に形成することが好ましい。
【0137】
(工程2)
工程2は、導電層上に熱可塑性樹脂層を形成する工程である。
工程2では、基材に形成した導電層の上に、熱可塑性樹脂層を形成する。熱可塑性樹脂層は、導電層上に、任意の層を介して間接的に形成してもよい。例えば、上記の熱可塑性樹脂層の製造方法により製造した熱可塑性樹脂層を、粘着剤又は接着剤を介して導電層に貼り合わせることに形成してもよい。ただし、熱可塑性樹脂層は、導電層上に直接に形成することが好ましい。
【0138】
工程2は、熱可塑性樹脂層を熱圧着すること、または熱可塑性樹脂を含む溶液を塗布することを含むことが好ましい。当該方法によれば、製造方法を簡素化することができる。
【0139】
熱可塑樹脂層を熱圧着する方法は、上述の熱可塑性樹脂層の製造方法により製造した熱可塑性樹脂層を、必要に応じて加熱しながら導電層の表面に圧着する方法である。
熱可塑性樹脂を含む溶液を塗布する方法は、熱可塑性樹脂を含む溶液を導電層上に塗布し、必要に応じて乾燥させることによって、導電層上に直接に熱可塑性樹脂層を形成する方法である。基材の材料が耐溶剤性である場合は、この方法を採ることにより容易に熱可塑性樹脂層を形成することができる。熱可塑性樹脂を含む溶液は、熱可塑性樹脂を溶剤に溶解または分散させることにより得ることができる。
【0140】
積層体の製造方法は、前述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
【0141】
[9.積層体の用途]
本発明の積層体は、優れた可撓性を有し、かつ、優れたマイグレーション防止効果を有するので、例えば、円偏光板、タッチパネル等の光学用途や、回路基板等の用途に好適に用い得る。
【0142】
[10.円偏光板]
本発明の円偏光板は、上記の本発明の積層体と、偏光板と、を備える。円偏光板は、例えば、基材の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角θ1が45°となるように、偏光板を積層体に積層することにより得ることができる。基材の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角θ1は、例えば±5°、±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。このような態様とすると、例えば円偏光板を表示装置に用いた場合に、入射外光の反射光により表示内容が視認しづらくなるのを防止しうる。偏光板は長尺方向または幅方向に吸収軸を有する長尺のフィルムであると、基材の遅相軸の方向と偏光板の吸収軸の方向とを適切な角度に設定しやすく、円偏光板の製造を容易なものとすることができ、好ましい。
【0143】
偏光板として長尺の偏光フィルムを用いる場合、当該偏光フィルムは、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、例えば、グリッド偏光板、多層偏光板などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光フィルムを用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光フィルムが好ましい。偏光フィルムの偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
【0144】
偏光板と積層体とを積層する場合、接着剤を用いてもよい。接着剤としては、光学的に透明であれば特に限定されず、例えば、水性接着剤、溶剤型接着剤、二液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、感圧性接着剤などが挙げられる。この中でも、水性接着剤が好ましく、特にポリビニルアルコール系の水性接着剤が好ましい。なお、接着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0145】
接着剤により形成される層(接着層)の平均厚みは、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0146】
偏光板に積層体を積層する方法に制限は無いが、偏光板の一方の面に接着剤を塗布した後、ロールラミネーターを用いて偏光板と積層体とを貼り合せ、乾燥させる方法が好ましい。貼り合せの前に、積層体の表面に、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。乾燥時間及び乾燥温度は、接着剤の種類に応じて適宜選択される。
【0147】
得られた円偏光板は、必要に応じ適宜な大きさに裁断して、有機エレクトロルミネッセンス表示素子(以下、適宜「有機EL表示素子」ということがある。)の反射防止フィルムとして用いうる。
【0148】
[11.表示装置]
本発明の表示装置は、本発明の円偏光板を備える。本発明の表示装置としては有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、適宜「有機EL表示装置」ということがある。)が好ましい。このような有機EL表示装置において、本発明の円偏光板は反射防止フィルムとして用いうる。
【0149】
本発明の円偏光板を反射防止フィルムとして用いる場合、有機EL表示装置の表面に、上述の円偏光板を、偏光板側の面が視認側に向くように設けることにより、装置外部から入射した光が装置内で反射して装置外部へ出射することを抑制することができ、その結果、有機EL表示装置の表示面のぎらつきなどの不所望な現象を抑制しうる。
【0150】
[12.タッチパネル]
本発明のタッチパネルは、本発明の積層体を備える。
タッチパネルにおいて、積層体の配置方向は限定されないが、視認側から順に、熱可塑性樹脂層、導電層及び基材の順に排されるように設けられていることが好ましい。
【0151】
本発明のタッチパネルは、積層体と、積層体の熱可塑性樹脂層に接して設けた偏光板を備えていてもよい。この場合、積層体の基材の遅相軸に対して偏光板の吸収軸がなす角θ2が45°となるように、偏光板を設けるのが好ましい。このような態様とすることにより、入射外光の反射光により表示内容が視認しづらくなるのを防止することが可能となる。積層体の基材の遅相軸に対する偏光板の吸収軸の角度θ2は、例えば±5°、±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0152】
タッチパネルは、通常、積層体に組み合わせて、画像表示素子を備える。画像表示素子としては、例えば、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス表示素子(以下、適宜「有機EL表示素子」ということがある。)が挙げられる。通常、積層体は、前記の画像表示素子の視認側に設けられる。
【0153】
可撓性を有するタッチパネルを得るためには、画像表示素子として、可撓性を有する画像表示素子(フレキシブルディスプレイ素子)を採用することが好ましい。このように可撓性を有する画像表示素子としては、例えば、有機EL表示素子が挙げられる。
【0154】
有機EL表示素子は、通常、基板上に、第一電極層、発光層及び第二電極層をこの順に備え、第一電極層及び第二電極層から電圧を印加されることにより発光層が光を生じうる。有機発光層を構成する材料の例としては、ポリパラフェニレンビニレン系、ポリフルオレン系、およびポリビニルカルバゾール系の材料を挙げることができる。また、発光層は、複数の発光色が異なる層の積層体、あるいはある色素の層に異なる色素がドーピングされた混合層を有していてもよい。さらに、有機EL表示素子は、バリア層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、等電位面形成層、電荷発生層等の機能層を備えていてもよい。
【実施例
【0155】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0156】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0157】
[評価方法]
〔分子量の測定方法〕
重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算値として38℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用いた。
【0158】
〔水素化率の測定方法〕
重合体の水素化率は、H-NMR測定により測定した。
【0159】
〔ガラス転移温度Tgの測定方法〕
示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して試料のガラス転移温度Tgを求めた。
【0160】
〔面内位相差Reの測定方法〕
実施例および比較例(以下「各例」ともいう)で用いた基材及び熱可塑性樹脂層のReは、波長590nmで位相差測定装置(Axometric社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定した。
【0161】
〔全光線透過率の測定〕
熱可塑性樹脂層及び基材の全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定した。
【0162】
〔貯蔵弾性率の測定方法〕
各例で用いた熱可塑性樹脂層及び基材の貯蔵弾性率は、動的粘弾性装置(SII社製「DMS6100」)を用いて、25℃、周波数1Hzの条件で測定した。熱可塑性樹脂層については、25℃における貯蔵弾性率に加えて、-40℃及び100℃における貯蔵弾性率を測定した。これらの測定結果を用いて、-40℃における貯蔵弾性率Eに対する100℃における貯蔵弾性率Eの比(E/E)を算出した。
【0163】
〔透湿度の測定方法〕
各例で用いた熱可塑性樹脂層及び基材の透湿度は、それぞれ、リッシー法により、測定した(測定機器L80-5000型(システックイリノイ社製)、温度条件40℃湿度90%)。
【0164】
〔密着性評価試験(碁盤目剥離試験)〕
各例で製造した積層体の熱可塑性樹脂層側に刻みを付けて1mm×1mmの大きさの区画を100個、碁盤目状に形成した。セロハンテープ(ニチバン社製、幅24mm)を100個の前記区画上に貼り付け1秒以内に剥がし、剥がれた基材の区画個数を計数し、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
A:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が3個以下である。
B:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が4個以上10個以下である。
C:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が11個以上である。
【0165】
〔マイグレーション防止効果の評価〕
<実施例1~6および比較例2~6の評価用基板の作製>
櫛状の導電層を有する積層体を製造し評価用基板とした。具体的には各例で用いる基材の上に、バーコーターを用いて、銀インク(シグマ-アルドリッチ ジャパン製「Silver Nanoparticle Ink」)を塗布し、120℃で60秒間乾燥させた。これにより、基材上に厚み0.7μmの銀粒子を含む層が形成された。この上にポジ型フォトレジスト(日本ゼオン(株)製「ZPP1700」)を用いて塗布、乾燥、露光及び現像を行いレジストパターンを形成した。その後、酸性のエッチング液によりエッチング処理を行い、櫛状の電極パターンを作成し導電層を得た。各電極のライン幅は400μmであり、電極相互間の間隙は100μmであった。次に、各例で用いる熱可塑性樹脂層の材料及び形成方法に従い、導電層が形成された基材の上に熱可塑性樹脂層を形成して評価用基板を製造した。
【0166】
<比較例1の評価用基板の作製>
比較例1の積層体の製造の際に、ITO層を櫛状に形成したものについて、評価用基板とした。
【0167】
<評価方法>
各例の評価用基板を、85℃、90%RHの湿熱条件下に静置し、この状態で電極間に50Vの電圧を印加し、マイグレーション試験を行った。櫛形電極の抵抗値を測定し急激に抵抗値が下がるまでの時間(時間)を測定した。ここで「急激に抵抗値が下がる」とは抵抗値が4桁以上、下がる(通電してしまう)ことをいう。前記時間は、長いほうが、マイグレーション防止効果が高い。
【0168】
〔折り返し試験による表面変化の評価〕
各例で製造した積層体について、折り返し試験を行った。この折り返し試験では、屈曲試験機(ユアサシステム機器社製「TCDM111LH」)を用いて、積層体に対して、曲率半径5mmでの折り返し操作を行い、導電層の断線及び各層の剥離現象のうちの少なくとも一方が起きたときの、折り曲げの回数を測定した。折り曲げの回数が多いほど耐折り曲げ性が高い。
【0169】
[製造例1.熱可塑性樹脂層Aの製造]
(A-1.ブロック共重合体の水素化物の製造)
国際公開2014/077267号に記載された方法を参考にして、スチレン25部、スチレン26部及びイソプレン24部の混合物、ならびにスチレン25部をこの順に重合して、トリブロック共重合体水素化物(ia1)(重量平均分子量Mw=81,000;分子量分布Mw/Mn=1.11;主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率≒100%)を製造した。
【0170】
(A-2.シリル基変性物の製造)
さらに、前記国際公開2014/077267号に記載された方法を参考にして、前記のトリブロック共重合体水素化物(ia1)100部に、ビニルトリメトキシシラン1.8部を結合させて、トリブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル変性物(ia1-s)のペレットを製造した。
【0171】
(A-3.熱可塑性樹脂層の製造)
サイドフィーダー及び幅400mmのTダイを備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)、並びに、キャストロール及び離形フィルム供給装置を備えたシート引取機を使用し、下記の方法で、熱可塑性樹脂層Aを製造した。
【0172】
アルコキシシリル変性物(ia1-s)を、二軸押出機に供給し溶融状態とした。この溶融状態のアルコキシシリル変性物(ia1-s)(溶融樹脂)をTダイからキャストロール上に押し出し、フィルム状に成形した。この押し出しは、溶融樹脂温度180℃、Tダイ温度180℃、キャストロール温度40℃の成形条件にて行った。押し出された溶融樹脂はキャストロールによって冷却されて、厚み50μmの熱可塑性樹脂層が得られた。
このキャストロール上に押し出した熱可塑性樹脂層の片面に、離形用のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)を供給し、熱可塑性樹脂層とPETフィルムとを重ねてロール状に巻き取り、回収した。これにより、熱可塑性樹脂層及びPETフィルムを備える複層フィルムのフィルムロールを得た。
複層フィルムのフィルムロールから複層フィルムを引き出し、PETフィルムを剥離して、熱可塑性樹脂層Aを得た。この熱可塑性樹脂層Aの透湿度は2g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は、1000MPa、E/Eは10であった。熱可塑性樹脂層Aの全光線透過率は92%、面内位相差Reは10nmであった。
【0173】
[製造例2.熱可塑性樹脂層Bの製造]
(B-1.ブロック共重合体の水素化物の製造)
国際公開第2014/077267号に記載された方法を参考にして、スチレン25部、イソプレン50部及びスチレン25部をこの順に重合して、トリブロック共重合体水素化物(ib1)(重量平均分子量Mw=48,200;分子量分布Mw/Mn=1.04;主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率≒100%)を製造した。
【0174】
(B-2.シリル基変性物の製造)
さらに、前記国際公開2014/077267号に記載された方法を参考にして、前記のトリブロック共重合体水素化物(ib1)100部に、ビニルトリメトキシシラン1.8部を結合させて、トリブロック共重合体水素化物のアルコキシシリル変性物(ib1-s)のペレットを製造した。
【0175】
(B-3.熱可塑性樹脂層の製造)
製造例1の(A-3)で使用したシート引取機を使用し、下記の方法で、熱可塑性樹脂層Bを製造した。
【0176】
アルコキシシリル変性物(ib1-s)を、二軸押出機に供給した。このアルコキシシリル変性物(ib1-s)100部に対して水素化ポリブテン(日油社製「パールリーム(登録商標)24」)20部の割合となるように、サイドフィーダーから水素化ポリブテンを連続的に供給して、前記のアルコキシシリル変性物(ib1-s)及び水素化ポリブテンを含む溶融樹脂を得た。そして、この溶融樹脂をTダイからキャストロール上に押し出し、フィルム状に成形した。この押し出しは、溶融樹脂温度180℃、Tダイ温度180℃、キャストロール温度40℃の成形条件にて行った。押し出された溶融樹脂はキャストロールによって冷却されて、厚み50μmの熱可塑性樹脂層が得られた。
このキャストロール上に押し出した熱可塑性樹脂層の片面に、離形用のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)を供給し、熱可塑性樹脂層とPETフィルムとを重ねてロール状に巻き取り、回収した。これにより、熱可塑性樹脂層及びPETフィルムを備える複層フィルムのフィルムロールを得た。
複層フィルムのフィルムロールから複層フィルムを引き出し、PETフィルムを剥離して、熱可塑性樹脂層Bを得た。この熱可塑性樹脂層Bの透湿度は5g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は、128MPa、E/Eは10であった。熱可塑性樹脂層Bの全光線透過率は92%であった。
以下の方法により熱可塑性樹脂層Bを製造した。
上述の方法により得られた熱可塑性樹脂層及びPETフィルムを備える複層フィルムのフィルムロールから複層フィルムを引き出し、PETフィルムを剥離して、熱可塑性樹脂層Bを得た。この熱可塑性樹脂層Bの透湿度は5g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は、12.8MPa、E/Eは10であった。熱可塑性樹脂層Bの全光線透過率は90%、面内位相差Reは10nmであった。
【0177】
[製造例3.熱可塑性樹脂層Cの製造]
製造例2の(B-1)で得られたトリブロック共重合体水素化物(ib1)(シリル化前の重合体)を用いて、以下の方法により熱可塑性樹脂層Cを製造した。
【0178】
(C-3)熱可塑性樹脂層Cの製造
製造例1の(A-3)で用いたシート引取機を使用して熱可塑性樹脂層Cを製造した。
製造例1の(A-3)においてアルコキシシリル変性物(ia1-s)に代えて、トリブロック共重合体水素化物(ib1)を、二軸押出機に供給したこと以外は、製造例1の(A-3)と同じ操作を行い、厚み50μmの熱可塑性樹脂層を得た。
キャストロール上に押し出した熱可塑性樹脂層の片面に、離形用のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)を供給し、熱可塑性樹脂層とPETフィルムとを重ねてロール状に巻き取り、回収した。これにより、熱可塑性樹脂層及びPETフィルムを備える複層フィルムのフィルムロールを得た。
複層フィルムのフィルムロールから複層フィルムを引き出し、PETフィルムを剥離して、熱可塑性樹脂層Cを得た。この熱可塑性樹脂層Cの透湿度は10g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は128MPa、E/Eは10であった。熱可塑性樹脂層Cの全光線透過率は92%、面内位相差Reは10nmであった。
【0179】
[製造例4.熱可塑性樹脂層Dの製造]
製造例2の(B-1)で得られたトリブロック共重合体水素化物(ib1)(シリル化前の重合体)と、シランカップリング剤とを用いて、以下の方法により熱可塑性樹脂層Dを製造した。
【0180】
(D-3)熱可塑性樹脂層Dの製造
製造例1の(A-3)で用いたシート引取機を使用して熱可塑性樹脂層Dを製造した。
製造例1の(A-3)において、アルコキシシリル変性物(ia1-s)に代えて、トリブロック共重合体水素化物(ib1)及びトリブロック共重合体水素化物100部に対して5部のシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエオキシシラン(KE903信越化学社製))を、二軸押出機に供給したこと以外は、製造例1の(A-3)と同じ操作を行い、厚み50μmの熱可塑性樹脂層を得た。
キャストロール上に押し出した熱可塑性樹脂層の片面に、離形用のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)を供給し、熱可塑性樹脂層とPETフィルムとを重ねてロール状に巻き取り、回収した。これにより、熱可塑性樹脂層及びPETフィルムを備える複層フィルムのフィルムロールを得た。
複層フィルムのフィルムロールから複層フィルムを引き出し、PETフィルムを剥離して、熱可塑性樹脂層Dを得た。この熱可塑性樹脂層Dの透湿度は10g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は、128MPa、E/Eは10であった。熱可塑性樹脂層Dの全光線透過率は90%、面内位相差Reは10nmであった。
【0181】
[実施例1]
(1-1)基材Aの用意
基材として、結晶性を有さない脂環式構造含有重合体としてのノルボルネン系重合体で形成された樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製、「ゼオノアフィルム ZF16」;厚み50μm;樹脂のガラス転移温度160℃、以下「基材A」ともいう)を用意した。基材Aの25℃における貯蔵弾性率を測定したところ、2300MPaであった。また、基材Aの透湿度は2g/m・24h、面内位相差Reは5nmであった。基材Aの全光線透過率は90%であった。
【0182】
この基材Aの表面をプラズマ処理した。窒素及び乾燥空気を、窒素流量0.5NL/分、乾燥空気流量0.1NL/分で流しながら、25kHzの共振周波数で、基材Aに対し5cm/分の移動速度でプラズマを照射した。プラズマ発生源とフィルムとの距離は5mmとした。
【0183】
(1-2)導電層の形成
金属粒子として銀ナノ粒子を含む導電層形成用組成物としての銀インク(シグマ-アルドリッチ ジャパン製「Silver Nanoparticle Ink」)を用意した。
プラズマ処理を行った基材Aの上に、バーコーターを用いて、前記の銀インクを塗布し、120℃で60秒間乾燥させた。これにより、基材Aの上に厚み0.7μmの銀粒子を含む層が形成された。この上にポジ型フォトレジスト(日本ゼオン(株)製、「ZPP1700」)を用いて塗布、乾燥、露光、現像しパターンを形成後、酸性のエッチング液によりエッチング処理を行い、基材Aの上に導電層を形成した。これにより導電層を備える基材Aを得た。
【0184】
(1-3)積層体の製造
熱可塑性樹脂層として製造例1で製造した熱可塑性樹脂層Aを用い積層体を製造した。
導電層を備える基材Aを、ホットプレート上で約100℃に加熱したのち、熱可塑樹脂層Aを導電層の上に載せ、0.3MPaの圧力で熱圧着処理を行った。これにより、導電層の上に熱可塑性樹脂層が熱圧着させた積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表1に示した。
【0185】
[実施例2]
本例では、基材Aに代えて、以下の方法により製造した結晶性樹脂フィルム(基材B)を用い、導電層上に熱可塑性樹脂層を形成する工程を、熱可塑性樹脂を含む溶液を塗布する方法により行って積層体を得た。以下に本例の積層体の製造方法について説明する。
【0186】
(2-1)基材Bの用意
(2-1-1)結晶性樹脂:ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む結晶性COP樹脂(y1)の製造
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び、1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0187】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750及び28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0188】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0189】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間、水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0190】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点Mpは262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合した後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。二軸押出機を用いた熱溶融押出し成形により、樹脂をストランド状の成形体にした後、ストランドカッターにて細断して、結晶性の脂環式構造含有重合体を含む樹脂(結晶性COP樹脂)(y1)のペレットを得た。この結晶性COP樹脂(y1)は、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としてジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む樹脂である。
前記の二軸押出機の運転条件は、以下のとおりであった。
・バレル設定温度=270℃~280℃。
・ダイ設定温度=250℃。
・スクリュー回転数=145rpm。
・フイーダー回転数=50rpm。
【0191】
(2-1-2)結晶性樹脂フィルムの製造
2.1.1.で得られた結晶性COP樹脂(y1)を、押出しスクリュー温度280℃でTダイに供給し、ダイス押出温度280℃でTダイから吐出させ、60℃に温度調整された冷却ロールにキャストし、結晶性COP樹脂からなる厚み15μmのフィルムを製造した。当該フィルムを、170℃のオーブン中で30秒間アニールして、結晶性樹脂フィルム(基材B)を得た。
基材Bの25℃における貯蔵弾性率は2500MPa、透湿度は2g/m・24h、面内位相差Reは5nmであった。基材Bの全光線透過率は90%であった。
【0192】
(2-1-3)基材Bのプラズマ処理
基材Bについて、実施例1の(1-1)の基材Aのプラズマ処理と同じ操作を行い、プラズマ処理を行った。
【0193】
(2-2)導電層の形成
基材Aに代えて基材Bを用いたこと以外は、実施例1の(2-1)と同じ操作を行い、基材Bの上に導電層を形成した。これにより導電層を備える基材Bを得た。
【0194】
(2-3)積層体の製造
製造例1で製造した熱可塑性樹脂層Aをシクロヘキサンに溶解して、熱可塑性樹脂を20重量%含む溶液(樹脂溶液)を調製した。この樹脂溶液を、導電層を備える基材Bの上にスリットコートした後、90℃のホットプレート上で、60秒間加熱し、厚みが35μmの熱可塑性樹脂層Aを備える積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表1に示した。
【0195】
[実施例3]
基材Aに代えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人製、PETフィルム、「基材C」)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表1に示した。
基材Cの25℃における貯蔵弾性率は2300MPa、透湿度は10g/m・24h、面内位相差Reは150nmであった。基材Cの全光線透過率は88%であった。
【0196】
[実施例4]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、製造例2で製造した熱可塑性樹脂層Bを用いたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表1に示した。
【0197】
[実施例5]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、製造例2で製造した熱可塑性樹脂層Bを用いたこと、基材Aに代えて基材Bを用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表1に示した。
【0198】
[実施例6]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、製造例2で製造した熱可塑性樹脂層Bを用いたこと、基材Aに代えて、長手方向に対して45°の方向に遅相軸を有する結晶性を有さない脂環式構造含有重合体を含むフィルム(ゼオノアフィルム ZDシリーズ、厚み80μm、「基材D」)を用いたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表1に示した。基材Dの25℃における貯蔵弾性率は2000MPa、透湿度は2g/m・24h、面内位相差Reは140nmであった。基材Dの全光線透過率は92%であった。
【0199】
[比較例1]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、エチレン酢酸ビニル共重合体を含む樹脂のフィルム(宇部丸善ポリエチレン社製、UBEポリエチレンV115、EVAフィルム、厚み100μm)を用いたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表2に示した。
EVAフィルムの透湿度は50g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は15MPa、E/Eは250であった。EVAフィルムの全光線透過率は89%で、面内位相差Reは10nmあった。
【0200】
[比較例2]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、EVAフィルムを用いたこと、基材Aに代えて基材Cを用いたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表2に示した。EVAフィルムは比較例1で用いたものと同じものを用いた。
【0201】
[比較例3]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、製造例3により製造した熱可塑性樹脂層C(シリル化前のトリブロック共重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂層)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表2に示した。
【0202】
[比較例4]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、製造例4により製造した熱可塑性樹脂層D(シリル化前のトリブロック共重合体水素化物とシランカップリング剤とを含む熱可塑性樹脂層)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表2に示した。
【0203】
[比較例5]
熱可塑性樹脂層Aに代えて、テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体を含む樹脂フィルム(AGC社製「Fluon」、ETFEフィルム、厚み100μm)を用いたこと以外は実施例1と同じ操作を行い、積層体を得た。得られた積層体について、折り返し試験を行い、結果を表2に示した。
ETFEフィルムの透湿度は3g/m・24hであり、25℃における貯蔵弾性率は2400MPa、E/Eは30であった。ETFEフィルムの全光線透過率は90%、面内位相差Reは100nmであった。
【0204】
[実施例7]
円偏光板が最表面に配置されている市販の表示装置(有機EL表示素子)の円偏光板を剥がし、実施例6の積層体を、熱可塑性樹脂層が最表面になるように実装して、積層体を備える表示装置を得た。表示装置の表示面に積層体を実装する前後における反射率を大塚電子(株)製、反射率測定用分光器MCP-9800により測定したところ、表示装置の外光からの反射率を95%抑制することができた。
【0205】
前記の実施例1~6及び比較例1~5の物性値及び評価試験の結果を、下記の表1及び2に示す。下記の表において、略称の意味は、下記の通りである。
「HSISシリル変性物」:ブロック共重合体水素化物シリル変性物。
「Ag-NW」:銀ナノワイヤ。
「EVA」:EVAフィルム。
「HSIS」:ブロック共重合体水素化物。
「ETFE」:ETFEフィルム。
「HSISシリル変性物」:ブロック共重合体水素化物シリル変性物。
「1000<」:1000回超。
「100000<」:100000時間超。
【0206】
【表1】
【0207】
【表2】
【0208】
[結果]
表1および表2に示すように、本発明の要件を満たす実施例の積層体は、マイグレーション防止効果に優れ、耐折り曲げ性に優れていた。その結果、本発明の要件を満たす実施例の積層体は、マイグレーション防止効果に優れ、且つ可撓性に優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0209】
10…積層体
110…熱可塑性樹脂層
120…導電層
130…基材
図1