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特許7355037酸型スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び水電解用イオン交換膜
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  • 特許-酸型スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び水電解用イオン交換膜 図1
  • 特許-酸型スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び水電解用イオン交換膜 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】酸型スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び水電解用イオン交換膜
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/12 20060101AFI20230926BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20230926BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230926BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20230926BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230926BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230926BHJP
   H01M 8/1023 20160101ALI20230926BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20230926BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20230926BHJP
【FI】
C08F8/12
C08F214/26
C25B13/04 301
C25B13/08 303
H01B1/06 A
H01M8/10 101
H01M8/1023
H01M8/1039
H01M8/1067
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020560076
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047936
(87)【国際公開番号】W WO2020116647
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018230213
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貢
(72)【発明者】
【氏名】渡部 浩行
(72)【発明者】
【氏名】民辻 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】上牟田 大輔
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012374(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/029624(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061838(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221840(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/207325(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/12
C08F 214/26
C25B 13/04
C25B 13/08
H01B 1/06
H01M 8/10
H01M 8/1023
H01M 8/1039
H01M 8/1067
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロモノマー単位を有し、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有さず、かつ酸型のスルホン酸基を有するポリマーであり、
前記ペルフルオロモノマー単位として、少なくとも下式u1で表される単位を有し、
温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が、2.5×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下であり、
120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が、15質量%以下である、酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【化1】
ただし、R F1 及びR F2 は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項2】
イオン交換容量が、1.10~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂である、請求項1に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項3】
前記酸型のスルホン酸基を有するポリマーの前駆体である、フルオロスルホニル基を有するポリマーの容量流速値が、220℃以上である、請求項1又は2に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項4】
スルホン酸基を有するペルフルオロモノマー単位と、スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位とからなるペルフルオロポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項5】
前記スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位として、テトラフルオロエチレン単位を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項6】
下式u1で表される単位を有し、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有しないポリマーであり、
120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が、15質量%以下である、酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【化2】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項7】
イオン交換容量が、1.10~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂である、請求項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項8】
前記式u1で表される単位を有するポリマーの前駆体である、フルオロスルホニル基を有するポリマーの容量流速値が、220℃以上である、請求項又はに記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項9】
温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が、2.5×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である、請求項のいずれか一項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマーと、液状媒体とを含む、液状組成物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマーを含む、固体高分子電解質膜。
【請求項12】
触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された、請求項11に記載の固体高分子電解質膜とを備えた、膜電極接合体。
【請求項13】
請求項12に記載の膜電極接合体を備えた、固体高分子形燃料電池。
【請求項14】
請求項1~のいずれか一項に記載の酸型スルホン酸基含有ポリマーを含む、水電解用イオン交換膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸型スルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び水電解用イオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、例えば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックしたものである。膜電極接合体は、触媒層を有するアノード及びカソードと、アノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えたものである。固体高分子電解質膜は、例えば、酸型のスルホン酸基を有するポリマーを膜状にしたものである。
【0003】
固体高分子形燃料電池において発電を行う際には、固体高分子電解質膜は高温高湿の条件にさらされるため、固体高分子電解質膜を構成する酸型スルホン酸基含有ポリマーには耐熱水性が求められる。
また、固体高分子形燃料電池において発電を行う際には、アノード側に供給された水素ガスが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動しないことが求められる。そのため、固体高分子電解質膜を構成する酸型スルホン酸基含有ポリマーには水素ガスの透過性が低いこと(水素ガスバリア性)が求められる。
【0004】
また、固体高分子形水電解装置は、固体高分子形燃料電池と同様の構成を有する。
固体高分子形水電解装置において電解を行う際には、水電解用イオン交換膜(固体高分子電解質膜)は同様に高温高湿の条件にさらされるため、水電解用イオン交換膜を構成する酸型スルホン酸基含有ポリマーには耐熱水性が求められる。
また、固体高分子形水電解装置において電解を行う際には、アノード側で発生する酸素とカソード側で発生する水素とが水電解用イオン交換膜を透過して混合しないことが求められる。そのため、水電解用イオン交換膜を構成する酸型スルホン酸基含有ポリマーには同様にガスの透過性が低いことが求められる。
【0005】
耐熱水性に優れた酸型スルホン酸基含有ポリマーとしては、下記のものが提案されている。
(1)下式で表される単位と、テトラフルオロエチレン単位とを有し、当量重量EWが400~550g/当量であり、120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が15質量%以下である、酸型スルホン酸基含有ポリマー(特許文献1)。
【0006】
【化1】
【0007】
ただし、Q11は、エーテル性の酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Q12は、単結合、又はエーテル性の酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Yは、フッ素原子又は1価のペルフルオロ有機基であり、sは、0又は1である。
しかし、(1)の酸型スルホン酸基含有ポリマーは、水素ガス透過係数が高い。
【0008】
水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れた酸型スルホン酸基含有ポリマーとしては、下記のものが提案されている。
(2)前記式で表される単位の10~25モル%と、クロロトリフルオロエチレン単位の5~90モル%とを有する、酸型スルホン酸基含有ポリマー(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/221840号
【文献】国際公開第2018/012374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、(2)の酸型スルホン酸基含有ポリマーは、クロロトリフルオロエチレン単位を有するため、モノマーを重合してポリマーを製造する際に、クロロトリフルオロエチレンが連鎖移動剤として働き、オリゴマーが多く生成する問題がある。オリゴマーが酸型スルホン酸基含有ポリマーに含まれると、例えば、固体高分子形燃料電池において発電を行う際にポリマーが溶出するおそれがある。そのため、ポリマーの後処理工程において凝集操作や洗浄操作によりポリマーからのオリゴマーの除去、及び凝集溶媒や洗浄溶媒の再利用時にオリゴマーの除去を行う必要があり、製造工程が煩雑となる。またオリゴマーが生成した分、ポリマーの収量が悪化するため、製造コストが増加する。
【0011】
本発明は、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時にオリゴマーの発生量が少ない酸型スルホン酸基含有ポリマー;水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時にオリゴマーの発生量が少ない膜を形成できる液状組成物;水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時にオリゴマーの発生量が少ない固体高分子電解質膜;水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時にオリゴマーの発生量が少ない固体高分子電解質膜を備えた膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池;水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時にオリゴマーの発生量が少ない水電解用イオン交換膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>ペルフルオロモノマー単位を有し、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有さず、かつ酸型のスルホン酸基を有するポリマーであり、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が、2.5×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下であり、120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が、15質量%以下である、酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<2>イオン交換容量が、1.10~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂である、上記<1>の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<3>上記酸型のスルホン酸基を有するポリマーの前駆体である、フルオロスルホニル基を有するポリマーの容量流速値が、220℃以上である、上記<1>又は<2>の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<4>スルホン酸基を有するペルフルオロモノマー単位と、スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位とからなるペルフルオロポリマーである、上記<1>~<3>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<5>上記スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位として、テトラフルオロエチレン単位を有する、上記<1>~<4>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<6>上記ペルフルオロモノマー単位として、少なくとも下式u1で表される単位を有する、上記<1>~<5>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【化2】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
<7>下式u1で表される単位を有するポリマーであり、120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が、15質量%以下である、酸型スルホン酸基含有ポリマー。
【化3】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
<8>イオン交換容量が、1.10~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂である、上記<7>の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<9>上記式u1で表される単位を有するポリマーの前駆体である、フルオロスルホニル基を有するポリマーの容量流速値が、220℃以上である、上記<7>又は<8>の酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<10>温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が、2.5×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である、上記<7>~<9>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマー。
<11>上記<1>~<10>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマーと、液状媒体とを含む、液状組成物。
<12>上記<1>~<10>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマーを含む、固体高分子電解質膜。
<13>触媒層を有するアノードと、触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置された、上記<12>の固体高分子電解質膜とを備えた、膜電極接合体。
<14>上記<13>の膜電極接合体を備えた、固体高分子形燃料電池。
<15>上記<1>~<10>のいずれかの酸型スルホン酸基含有ポリマーを含む、水電解用イオン交換膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸型スルホン酸基含有ポリマーは、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
本発明の液状組成物によれば、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない膜を形成できる。
本発明の固体高分子電解質膜は、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
本発明の膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池は、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない固体高分子電解質膜を備える。
本発明の水電解用イオン交換膜は、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
そのため、本発明のスルホン酸基含有ポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池によって、燃料消費率が低く、高温高湿の条件でも高い耐久性を有し、製造工程が簡便で製造コストが安い固体高分子形燃料電池が実現できる。
また同様に、本発明の水電解用イオン交換膜によって、生成するガス純度が高く、高温高湿の条件でも高い耐久性を有し、製造工程が簡便で製造コストが安い固体高分子形水電解装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の膜電極接合体の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書においては、式1で表される化合物を、化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式u1で表される単位を、単位u1と記す。他の式で表される構成単位も同様に記す。
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「スルホン酸基」は、塩型のスルホン酸基(-SO 。ただし、Mは金属イオン又はアンモニウムイオンである。)及び酸型のスルホン酸基(-SO )の総称である。
「イオン交換基」は、該基に含まれる陽イオンが他の陽イオンに交換し得る基である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマー1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。
「ペルフルオロポリマー」とは、ポリマーを構成するすべてのモノマー単位がペルフルオロモノマーからなることを意味する。
「ペルフルオロモノマー」とは、炭素原子に結合する水素原子の全部がフッ素原子に置換されたモノマーを意味する。
ポリマーの「水素ガス透過係数」は、JIS K 7126-2:2006に準拠して測定される値であり、ポリマーからなる膜を80℃とし、等圧法により10%加湿の水素ガス透過量を測定し、透過量を膜の厚さで割って求められる値である。
ポリマーの「120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「イオン交換容量」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「容量流速値(以下、「TQ値」とも言う。)」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「導電率」は、実施例に記載の方法によって求める。
図1図2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0016】
<酸型スルホン酸基含有ポリマーの第1の態様>
本発明の酸型スルホン酸基含有ポリマーの第1の態様は、ペルフルオロモノマー単位を有し、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有さず、かつ酸型のスルホン酸基(-SO )を有するポリマー(以下、「ポリマーH1」と記す。)である。
【0017】
ポリマーH1の、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数は、2.5×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下であり、2.2×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下が好ましく、2.0×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下がより好ましく、1.8×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下がさらに好ましい。温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH1の水素ガスバリア性に優れる。ポリマーH1の、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数は、ポリマーH1の導電率を高く維持する点から、1.0×10-12cm・cm/(s・cm・cmHg)以上が好ましく、1.0×10-11cm・cm/(s・cm・cmHg)以上がより好ましい。
【0018】
ポリマーH1の、120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率は、15質量%以下であり、12質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH1の耐熱水性に優れる。質量減少率は低ければ低いほどよく、下限は0質量%である。
ポリマーH1の、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数及び120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率は、例えば、ポリマーH1のモノマー単位の組成、分子量(後述するポリマーF1のTQ値)、イオン交換容量等を制御することによって調整できる。
【0019】
ポリマーH1のイオン交換容量は、1.10~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.70~2.48ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましく、1.91~2.47ミリ当量/g乾燥樹脂がさらに好ましく、1.95~2.46ミリ当量/g乾燥樹脂がとりわけ好ましい。イオン交換容量が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーH1の導電率が高くなるため、固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜とした際に充分な電池出力が得られる。イオン交換容量が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH1が含水した際の膨潤が抑えられ、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。また、液状組成物を得る際のポリマーH1の溶解性を高める観点からは、イオン交換容量は1.50~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.70~2.50ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましく、1.91~2.47ミリ当量/g乾燥樹脂がさらに好ましく、1.95~2.46ミリ当量/g乾燥樹脂がとりわけ好ましい。
【0020】
ポリマーH1の、温度80℃及び相対湿度50%RHにおける導電率は、0.02S/cm以上が好ましく、0.10S/cm以上がより好ましく、0.14S/cm以上がさらに好ましく、0.15S/cm以上がとりわけ好ましい。導電率が上記範囲の下限値以上であれば、固体高分子電解質膜とした際に充分な電池出力が得られる。導電率は高ければ高いほどよく、上限は限定されない。
【0021】
ペルフルオロモノマー単位としては、例えば、イオン交換基及びその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位、イオン交換基を有するペルフルオロモノマー単位が挙げられる。
イオン交換基及びその前駆体基を有しないペルフルオロモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と記す。)、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、国際公開第2011/013578号に記載された5員環を有するペルフルオロモノマーが挙げられる。
イオン交換基を有するペルフルオロモノマー単位としては、例えば、特許文献1、2等に記載された公知のイオン交換基を有するペルフルオロモノマー単位、後述する単位u1が挙げられる。
【0022】
ポリマーH1は、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有しない。
フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーとしては、例えば、クロロトリフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ヨードトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレンが挙げられる。
ポリマーH1がフッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有しないため、モノマーを重合してポリマーを製造する際に連鎖移動反応が起きにくく、製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
【0023】
ポリマーH1は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、ペルフルオロモノマー以外のモノマー(以下、「他のモノマー」と記す。)に基づく単位を有してもよい。
他のモノマーとしては、例えば、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、(ペルフルオロアルキル)エチレン、(ペルフルオロアルキル)プロペンが挙げられる。
【0024】
ポリマーH1としては、導電率、機械的特性及び化学的耐久性に優れる点から、スルホン酸基を有するペルフルオロモノマー単位と、スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位とからなるペルフルオロポリマーが好ましい。スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位としては、TFE単位が特に好ましい。
ポリマーH1としては、水素ガス透過係数が低いポリマーとなりやすい点から、ペルフルオロモノマー単位として少なくとも単位u1を有するものが好ましい。単位u1を有するポリマーH1としては、機械的特性及び化学的耐久性に優れる点から、TFE単位をさらに有するものが好ましい。
【0025】
【化4】
【0026】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。RF1及びRF2は同一であっても異なっていてもよい。
F1及びRF2としては、例えば、-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CFCF)-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-C(CF)(CF)-が挙げられる。原料がより安価であり、後述する化合物7の製造が容易であり、またポリマーH1のイオン交換容量をより高くできる点から、RF1及びRF2は、炭素数1~2のペルフルオロアルキレン基が好ましい。炭素数2の場合は、直鎖が好ましい。具体的には、-CF-、-CFCF-又は-CF(CF)-が好ましく、-CF-がより好ましい。
【0027】
ポリマーH1を構成する全単位のうちの単位u1、TFE単位、単位u1及びTFE単位以外の単位の割合は、ポリマーH1に要求される特性や物性(水素ガス透過性、耐熱水性、イオン交換容量、導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度等)に応じて適宜決定すればよい。
【0028】
ポリマーH1は、例えば、後述するポリマーF1のフルオロスルホニル基(-SOF)を酸型のスルホン酸基(-SO )に変換して得られる。
フルオロスルホニル基を酸型のスルホン酸基に変換する方法としては、ポリマーF1のフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とし、塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。
【0029】
加水分解は、例えば、溶媒中にてポリマーF1と塩基性化合物とを接触させて行う。塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、例えば、水、水と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。極性溶媒としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
酸型化は、例えば、塩型のスルホン酸基を有するポリマーを、塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液に接触させて行う。加水分解及び酸型化における温度は、0~120℃が好ましい。加水分解又は酸型化の後に、ポリマーH1を水洗することが好ましい。
【0030】
ポリマーH1に不純物として含まれる有機物を除去するために、加水分解後の塩型のまま又は酸型化の後に、ポリマーH1を過酸化水素水に浸漬する等の処理により、有機物を分解してもよい。
過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、0.1~30質量%が好ましく、1質量%以上10質量%未満がより好ましい。過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が上記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH1が分解しにくい。
過酸化水素水の温度は、15~90℃が好ましく、40℃以上80℃未満がより好ましい。過酸化水素水の温度が上記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。過酸化水素水の温度が上記範囲の上限値以下であれば、過酸化水素が分解しにくい。
ポリマーH1を過酸化水素水に浸漬する時間は、ポリマーH1の厚さと、含まれる有機物の量にもよるが、例えば、ポリマーH1が厚さ50μmの膜の場合、0.5~100時間が好ましい。浸漬する時間が0.5時間未満では、膜内部の有機物まで分解するのが難しい。100時間を超えて浸漬しても、有機物をそれ以上分解する効果は期待できない。
過酸化水素水に浸漬した後に、ポリマーH1を水洗することが好ましい。水洗に用いる水としては、超純水が好ましい。また、水洗前に酸型化処理を行ってもよい。
上記の処理を終えた最終的なポリマーH1の形状は、粉末状であってもよく、ペレット状であってもよく、膜状であってもよい。
【0031】
(ポリマーF1)
ポリマーH1の前駆体であるポリマーF1は、ペルフルオロモノマー単位を有し、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有さず、かつフルオロスルホニル基(-SOF)を有するポリマーである。
【0032】
ポリマーF1のTQ値は、220℃以上が好ましく、225~360℃がより好ましく、230~350℃がさらに好ましい。TQ値が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーH1が充分な分子量を有し、機械的強度及び耐熱水性がさらに優れる。TQ値が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH1の溶解性又は分散性がよくなり、後述する液状組成物を調製しやすい。TQ値は、ポリマーF1の分子量の指標である。
【0033】
ペルフルオロモノマー単位としては、例えば、イオン交換基及びその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位、イオン交換基の前駆体基を有するペルフルオロモノマー単位が挙げられる。
イオン交換基及びその前駆体基を有しないペルフルオロモノマーとしては、ポリマーH1で説明したイオン交換基及びその前駆体基を有しないペルフルオロモノマーが挙げられる。
イオン交換基の前駆体基を有するペルフルオロモノマー単位としては、例えば、特許文献1、2等に記載された公知のフルオロスルホニル基を有するペルフルオロモノマー単位、後述する単位u2が挙げられる。
【0034】
ポリマーF1は、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有しない。
フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーとしては、ポリマーH1で説明したフッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーが挙げられる。
【0035】
ポリマーF1は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、他のモノマーに基づく単位を有してもよい。
他のモノマーとしては、ポリマーH1で説明した他のモノマーが挙げられる。
【0036】
ポリマーF1としては、導電率、機械的特性及び化学的耐久性に優れるポリマーH1が得られる点から、フルオロスルホニル基を有するペルフルオロモノマー単位と、スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位とからなるものが好ましい。スルホン酸基及びその前駆体基を有さないペルフルオロモノマー単位としては、TFE単位が特に好ましい。
ポリマーF1としては、水素ガス透過係数が低いポリマーH1を得やすい点から、単位u2を有するものが好ましい。単位u2を有するポリマーF1としては、機械的特性及び化学的耐久性に優れるポリマーH1が得られる点から、TFE単位をさらに有するものが好ましい。
【0037】
【化5】
【0038】
F1及びRF2は、単位u1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0039】
ポリマーF1を構成する全単位のうちの単位u2、TFE単位、単位u2及びTFE単位以外の単位の割合は、ポリマーH1に要求される特性や物性(水素ガス透過性、耐熱水性、イオン交換容量、導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度等)に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
ポリマーF1は、例えば、後述する化合物7、必要に応じてTFE、化合物7及びTFE以外のモノマーを含むモノマー成分を重合して製造できる。
重合法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法が挙げられる。また、液体又は超臨界の二酸化炭素中にて重合してもよい。
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。ラジカルを生起させる方法としては、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法等が挙げられる。重合温度は、80℃以上250℃以下が好ましく、120℃以上230℃以下がより好ましく、140℃以上200℃以下がさらに好ましく、147℃以上168℃以下がとりわけ好ましい。
【0041】
(化合物7)
化合物7は、ポリマーF1の製造に用いられる。
【0042】
【化6】
【0043】
F1及びRF2は、単位u1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0044】
化合物7としては、例えば、化合物7-1が挙げられる。
【0045】
【化7】
【0046】
化合物7は、例えば、以下のようにして製造できる。
化合物1とスルホン化剤とを反応させて化合物2を得る。
化合物2と塩素化剤とを反応させて化合物3を得る。
化合物3とフッ素化剤とを反応させて化合物4を得る。
化合物4をフッ素化処理して化合物5を得る。
化合物5とペルフルオロアリル化剤(例えば、後述する化合物6)とを反応させて化合物7を得る。
【0047】
【化8】
【0048】
ただし、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基である。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
F1及びRF2は、単位u1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
及びRとしては、例えば、-CH-、-CHCH-、-CH(CH)-、-CHCHCH-、-CH(CHCH)-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)-、-C(CH)(CH)-が挙げられる。原料の化合物1がより安価であり、化合物7の製造が容易であり、また、ポリマーH1のイオン交換容量をより高くできる点から、R及びRは、炭素数1~2のアルキレン基が好ましい。炭素数2の場合は、直鎖が好ましい。具体的には、-CH-、-CHCH-又は-CH(CH)-が好ましく、-CH-がより好ましい。
【0049】
化合物1としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、イソプロピルエチルケトン、イソプロピルプロピルケトンが挙げられる。化合物1がより安価であり、化合物7の製造が容易であり、また、単位分子量当たりのポリマーH1のイオン交換容量をより高くできる点から、アセトンが好ましい。
【0050】
スルホン化剤としては、例えば、塩化スルホン酸、フルオロスルホン酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄の錯体、発煙硫酸、濃硫酸が挙げられる。
化合物1とスルホン化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応溶媒は、溶媒自身がスルホン化されにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、シクロヘキサン、ヘキサン、石油エーテル、ペンタン、ヘプタン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジエチルが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
塩素化剤としては、例えば、塩化チオニル、五塩化リン、三塩化リン、塩化ホスホリル、塩化スルホン酸、塩化スルフリル、塩化オキサリル、塩素が挙げられる。
化合物2と塩素化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応温度が上記範囲の上限値以下であれば、化合物3の分解を抑制できることから化合物3の収率が向上する。反応温度が上記範囲の下限値以上であれば、反応速度が上がり生産性が向上する。
【0052】
フッ素化剤としては、例えば、フッ化水素カリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド(テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド等)、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化水素錯体(HF-ピリジン錯体、HF-トリエチルアミン等)が挙げられる。
化合物3とフッ素化剤との反応温度は、-30~100℃が好ましい。反応溶媒は、フッ素化反応を受けにくい極性溶媒又は低極性溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、水が挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
フッ素化処理は、化合物4とフッ素ガス又はフッ素化合物とを接触させて行う。
フッ素化合物としては、例えば、フッ化水素、フッ化ハロゲン(三フッ化塩素、五フッ化ヨウ素等)、ガス状フッ化物(三フッ化ホウ素、三フッ化窒素、五フッ化リン、四フッ化ケイ素、六フッ化硫黄等)、金属フッ化物(フッ化リチウム、フッ化ニッケル(II)等)、ハイポフルオライト化合物(トリフルオロメチルハイポフルオライト、トリフルオロアセチルハイポフルオライト等)、求電子的フッ素化反応試薬(セレクトフルオル(登録商標)、N-フルオロベンゼンスルホンイミド等)が挙げられる。
フッ素化処理としては、取り扱いが容易である点、及び化合物5に含まれる不純物を少なくする点から、化合物4とフッ素ガスとを接触させる処理が好ましい。フッ素ガスは、窒素ガス等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。フッ素化処理の温度は、-20~350℃が好ましい。反応溶媒は、化合物4又は化合物5の溶解性が高く、また溶媒自身がフッ素化処理を受けにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロフルオロメタン、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
なお、化合物5は、フッ化水素(HF)の存在下では、O=C<部分にフッ化水素が付加してHO-CF<となったアルコール体と平衡状態にあるか、アルコール体となっている場合がある。本明細書においては、単に化合物5と記載した場合でも、化合物5及びアルコール体のいずれか一方又は両方を表していることがある。
【0054】
ペルフルオロアリル化剤としては、化合物6が挙げられる。
CF=CFCF-G 式6
ただし、Gは、-OSOF、-OSO、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、Rは炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
【0055】
化合物6としては、原料の入手性、ペルフルオロアリル化剤の反応性、合成の簡便さ、取扱いの容易さの点から、化合物6-1が好ましい。
CF=CFCFOSOF 式6-1
【0056】
化合物6-1は、例えば、三フッ化ホウ素の存在下にヘキサフルオロプロピレンと三酸化硫黄とを反応させて製造できる。三フッ化ホウ素の代わりに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体やトリメトキシボラン等のルイス酸を用いてもよい。
【0057】
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応は、フッ化物塩の存在下に行うことが好ましい。フッ化物塩としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド、フッ化ナトリウムが挙げられる。
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応温度は、-70~40℃が好ましい。反応溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、非プロトン性極性溶媒のみがより好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ニトロエタンが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
<酸型スルホン酸基含有ポリマーの第2の態様>
本発明の酸型スルホン酸基含有ポリマーの第2の態様は、単位u1を有するポリマー(以下、「ポリマーH2」と記す。)である。
ポリマーH2は、単位u1を有するため、水素ガスバリア性に優れる。
【0059】
【化9】
【0060】
F1及びRF2は、ポリマーH1の単位u1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0061】
ポリマーH2の、120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率は、15質量%以下であり、12質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH2の耐熱水性に優れる。質量減少率は低ければ低いほどよく、下限は0質量%である。
【0062】
ポリマーH2の、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数は、ポリマーH1の、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数と同様の範囲が好ましい。
ポリマーH2の、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数及び120℃の熱水に24時間浸漬させたときの質量減少率は、例えば、ポリマーH2のモノマー単位の組成、分子量(後述するポリマーF2のTQ値)、イオン交換容量等を制御することによって調整できる。
【0063】
ポリマーH2のイオン交換容量は、ポリマーH1のイオン交換容量と同様の範囲が好ましい。
ポリマーH2の、温度80℃及び相対湿度50%RHにおける導電率は、ポリマーH1の、温度80℃及び相対湿度50%RHにおける導電率と同様の範囲が好ましい。
【0064】
ポリマーH2は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、単位u1以外の単位を有してもよい。
単位u1以外の単位としては、単位u1以外のペルフルオロモノマー単位、他のモノマーに基づく単位が挙げられる。
ペルフルオロモノマー及び他のモノマーとしては、ポリマーH1で説明したペルフルオロモノマー及び他のモノマーが挙げられる。
ポリマーH2としては、機械的特性及び化学的耐久性に優れる点から、TFE単位をさらに有するものが好ましい。
ポリマーH2としては、導電率、機械的特性及び化学的耐久性に優れる点から、ペルフルオロポリマーが好ましい。
【0065】
ポリマーH2としては、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有しないものが好ましい。
ポリマーH2は、単位u1を有するため、クロロトリフルオロエチレン単位を有しなくても、水素ガスバリア性に優れる。そのため、モノマーを重合してポリマーを製造する際に、クロロトリフルオロエチレン等の、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーを用いる必要がない。その結果、モノマーを重合してポリマーを製造する際に連鎖移動反応が起きにくく、製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーとしては、ポリマーH1で説明したフッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーが挙げられる。
【0066】
ポリマーH2を構成する全単位のうちの単位u1、TFE単位、単位u1及びTFE単位以外の単位の割合は、ポリマーH2に要求される特性や物性(水素ガス透過性、耐熱水性、イオン交換容量、導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度等)に応じて適宜決定すればよい。
【0067】
ポリマーH2は、例えば、後述するポリマーF2のフルオロスルホニル基(-SOF)を酸型のスルホン酸基(-SO )に変換して得られる。
フルオロスルホニル基を酸型のスルホン酸基に変換する方法としては、ポリマーH1で説明した方法と同様の方法が挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0068】
ポリマーH2に不純物として含まれる有機物を除去するために、加水分解後の塩型のまま又は酸型化の後に、ポリマーH2を過酸化水素水に浸漬するなどの処理により、有機物を分解してもよい。
ポリマーH2を処理する方法としては、ポリマーH1で説明した方法と同様の方法が挙げられ、好ましい形態も同様である。
【0069】
(ポリマーF2)
ポリマーH2の前駆体であるポリマーF2は、単位u2を有するポリマーである。
【0070】
【化10】
【0071】
F1及びRF2は、単位u1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0072】
ポリマーF2のTQ値は、220℃以上が好ましく、225~360℃がより好ましく、230~350℃がさらに好ましい。TQ値が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーH2が充分な分子量を有し、機械的強度及び耐熱水性に優れる。TQ値が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーH2の溶解性又は分散性がよくなり、後述する液状組成物を調製しやすい。TQ値は、ポリマーF2の分子量の指標である。
【0073】
ポリマーF2は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、単位u1以外の単位を有してもよい。
他の単位としては、ポリマーH2で説明した他の単位が挙げられる。
ポリマーF2としては、機械的特性及び化学的耐久性に優れるポリマーH2が得られる点から、TFE単位をさらに有するものが好ましい。
【0074】
ポリマーF2としては、フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマー単位を有しないものが好ましい。
フッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーとしては、ポリマーH1で説明したフッ素原子以外のハロゲン原子を有するモノマーが挙げられる。
【0075】
ポリマーF2を構成する全単位のうちの単位u2、TFE単位、単位u2及びTFE単位以外の単位の割合は、ポリマーH2に要求される特性や物性(水素ガス透過性、耐熱水性、イオン交換容量、導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度等)に応じて適宜決定すればよい。
ポリマーF2は、例えば、ポリマーF1と同様の方法によって製造できる。
【0076】
<液状組成物>
本発明の液状組成物は、ポリマーH1又はポリマーH2(以下、これらをまとめて「ポリマーH」と記す。)と、液状媒体とを含む。液状組成物は、液状媒体中にポリマーHが分散したものであってもよく、液状媒体中にポリマーHが溶解したものであってもよい。
【0077】
液状媒体は、水のみであってもよく、有機溶媒のみであってもよく、水と有機溶媒とを含むものであってもよく、水と有機溶媒とを含むものが好ましい。
水は、液状媒体に対するポリマーHの分散性又は溶解性を向上させる。
有機溶媒は、割れにくい固体高分子電解質膜を形成しやすくする。
【0078】
有機溶媒としては、割れにくい固体高分子電解質膜を形成しやすい点から、炭素数が1~4のアルコールの1種以上が好ましい。
炭素数が1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノールが挙げられる。
【0079】
水の割合は、水と有機溶媒との合計のうち、10~99質量%が好ましく、20~99質量%がより好ましい。
有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との合計のうち、1~90質量%が好ましく、1~80質量%がより好ましい。
水及び有機溶媒の割合が上記範囲内であれば、分散媒に対するポリマーHの分散性に優れ、かつ割れにくい固体高分子電解質膜を形成しやすい。
【0080】
液状組成物中のポリマーHの濃度は、1~50質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましい。ポリマーHの濃度が上記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得られる。ポリマーHの濃度が上記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が過度に高くなるのを抑制できる。
【0081】
液状組成物は、液状組成物から作製される固体高分子電解質膜の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0082】
液状組成物は、ポリマーHと液状媒体とを混合して得られる。
混合方法としては、例えば、大気圧下、又はオートクレーブ等で密閉した状態下において、液状媒体中のポリマーHに撹拌等のせん断を加える方法が挙げられる。
撹拌時の温度は、0~250℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。必要に応じて、超音波等のせん断を付与してもよい。
【0083】
以上説明した本発明の液状組成物にあっては、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ないポリマーHを含むため、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない膜を形成できる。
【0084】
<固体高分子電解質膜>
本発明の固体高分子電解質膜は、ポリマーHを含む膜である。
固体高分子電解質膜の厚さは、5~200μmが好ましく、10~130μmがより好ましい。固体高分子電解質膜の厚さが上記範囲の上限値以下であれば、膜抵抗が充分に下げられる。固体高分子電解質膜の厚さが上記範囲の下限値以上であれば、充分な水素ガスバリア性を確保できる。
【0085】
固体高分子電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材としては、例えば、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。補強材の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、TFE-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、TFE-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0086】
固体高分子電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、固体高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する。
固体高分子電解質膜は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカ、又はヘテロポリ酸(リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等)を含んでいてもよい。
【0087】
固体高分子電解質膜は、例えば、本発明の液状組成物を基材フィルム又は触媒層の表面に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)によって形成できる。固体高分子電解質膜が補強材をさらに含む場合、固体高分子電解質膜は、例えば、本発明の液状組成物を補強材に含浸し、乾燥させる方法によって形成できる。
【0088】
固体高分子電解質膜を安定化させるために、熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、ポリマーHの種類にもよるが、130~200℃が好ましい。熱処理の温度が130℃以上であれば、ポリマーHが過度に含水しなくなる。熱処理の温度が200℃以下であれば、スルホン酸基の熱分解が抑えられ、固体高分子電解質膜の導電率の低下が抑えられる。
固体高分子電解質膜は、必要に応じて過酸化水素水で処理してもよい。
【0089】
以上説明した本発明の固体高分子電解質膜にあっては、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ないポリマーHを含むため、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
【0090】
<膜電極接合体>
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11及びガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11及びガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを具備する。
【0091】
触媒層11は、触媒と、イオン交換基を有するポリマーとを含む層である。
触媒としては、例えば、カーボン担体に白金又は白金合金を担持した担持触媒が例示される。
カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が例示される。
イオン交換基を有するポリマーとしては、例えば、ポリマーH、ポリマーH以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーが挙げられる。触媒層11に含まれるポリマーのイオン交換基は、酸型が好ましく、酸型のスルホン酸基が好ましい。
【0092】
ガス拡散層12は、触媒層11に均一にガスを拡散させる機能及び集電体としての機能を有する。ガス拡散層12としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。ガス拡散層12は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0093】
固体高分子電解質膜15は、本発明の固体高分子電解質膜である。
【0094】
図2に示すように、膜電極接合体10は、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有してもよい。
カーボン層16を配置することによって、触媒層11の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電特性が大きく向上する。
カーボン層16は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、例えば、カーボン粒子、カーボンファイバー等が挙げられ、繊維径1~1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。非イオン性含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0095】
膜電極接合体10がカーボン層16を有しない場合、膜電極接合体10は、例えば、下記の方法にて製造される。
・固体高分子電解質膜15上に触媒層11を形成して膜触媒層接合体とし、膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
・ガス拡散層12上に触媒層11を形成して電極(アノード13、カソード14)とし、固体高分子電解質膜15を電極で挟み込む方法。
【0096】
膜電極接合体10がカーボン層16を有する場合、膜電極接合体10は、例えば、下記の方法にて製造される。
・基材フィルム上に、カーボン及び非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層16を形成し、カーボン層上に触媒層11を形成し、触媒層11と固体高分子電解質膜15とを貼り合わせ、基材フィルムを剥離して、カーボン層16を有する膜触媒層接合体とし、膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
・ガス拡散層上12に、カーボン及び非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層16を形成し、固体高分子電解質膜15上に触媒層11を形成した膜触媒層接合体を、カーボン層16を有するガス拡散層12で挟み込む方法。
【0097】
触媒層11の形成方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
・触媒層形成用塗工液を、固体高分子電解質膜15、ガス拡散層12、又はカーボン層16上に塗布し、乾燥させる方法。
・触媒層形成用塗工液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させて触媒層11を形成し、触媒層11を固体高分子電解質膜15上に転写する方法。
【0098】
触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマー及び触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用塗工液は、例えば、イオン交換基を有するポリマーを含む液状組成物と、触媒の分散液とを混合することによって調製できる。触媒層形成用塗工液は、触媒層11の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0099】
以上説明した膜電極接合体10にあっては、固体高分子電解質膜15が、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ないポリマーHを含むため、固体高分子電解質膜15が、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
【0100】
<固体高分子形燃料電池>
本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の膜電極接合体を備える。
本発明の固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを配置したものであってもよい。セパレータとしては、例えば、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給して発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、膜電極接合体を適用できる。
【0101】
本発明の固体高分子形燃料電池にあっては、膜電極接合体の固体高分子電解質膜が、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ないポリマーHを含むため、固体高分子電解質膜が、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
【0102】
<水電解用イオン交換膜>
本発明の水電解用イオン交換膜は、ポリマーHを含む膜である。
本発明の水電解用イオン交換膜は、ポリマーHを含む層を有し、アルカリ水電解用イオン交換膜、固体高分子形水電解用イオン交換膜のいずれにも使用できる。ポリマーHにおけるスルホン酸基は、固体高分子形水電解用の場合は酸型のままが好ましく、アルカリ水電解用の場合は塩型に変換して用いることが好ましい。すなわち、固体高分子形水電解用の場合はポリマーHを含む膜をそのまま用いることができる。アルカリ水電解用の場合には、ポリマーHを含む膜における酸型スルホン酸基を塩型スルホン酸基に変換してから用いてもよく、又は運転中に塩型スルホン酸基に変換可能なことからポリマーHを含む膜をそのまま用いてもよい。
【0103】
以上説明した本発明の水電解用イオン交換膜にあっては、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ないポリマーHを含むため、水素ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、かつ製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
【実施例
【0104】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1、例2、例4、例6は製造例であり、例3、例8は実施例であり、例5、例7、例9、例10は比較例である。
以下、ポリマーF1及びポリマーF2をまとめて「ポリマーF」と記す。また、比較例に係る酸型スルホン酸基含有ポリマーを「ポリマーH’」と記す。また、比較例に係るフルオロスルホニル基含有ポリマーを「ポリマーF’」と記す。
【0105】
H-NMR)
H-NMRは、周波数:300.4MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、特に付記のない限りCDCNを用いた。生成物の定量は、H-NMRの分析結果及び内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0106】
19F-NMR)
19F-NMRは、周波数:282.7MHz、溶媒:CDCN、化学シフト基準:CFClの条件にて測定した。生成物の定量は、19F-NMRの分析結果及び内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0107】
13C-NMR)
13C-NMRは、周波数:75.5MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒は、特に付記のない限りCDCNを用いた。
【0108】
(収率)
収率は、反応工程の収率×精製工程の収率を意味する。反応収率は、目的物を精製する前の反応工程の収率のみの、精製工程のロスが含まれない収率を意味する。
【0109】
(イオン交換容量)
ポリマーF又はポリマーF’の膜を120℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のポリマーの膜の質量を測定した後、ポリマーの膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に60℃で72時間以上浸漬して、フルオロスルホニル基を加水分解した。加水分解後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定することによってポリマーF又はポリマーF’のイオン交換容量を求めた。本明細書においては、ポリマーH又はポリマーH’のイオン交換容量は、前駆体であるポリマーF又はポリマーF’のイオン交換容量と同じであるとして記載した。
【0110】
(各単位の割合)
ポリマーF又はポリマーF’における各単位の割合は、ポリマーF又はポリマーF’のイオン交換容量から算出した。
ポリマーH又はポリマーH’における各単位の割合は、ポリマーF又はポリマーF’における各単位の割合に対応しているため、省略する。
【0111】
(TQ値)
長さ1mm、内径1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製、CFT-500A)を用い、2.94MPa(ゲージ圧)の押出し圧力の条件で温度を変えながらポリマーF又はポリマーF’を溶融押出した。ポリマーF又はポリマーF’の押出し量が100mm/秒となる温度(TQ値)を求めた。なおTQ値が300℃を上回る場合は、300℃以下の押出量の測定値から外挿することによりTQ値を求めた。外挿は絶対温度の逆数に対する押出量の相関を対数近似した近似式により行った。TQ値が高いほどポリマーの分子量は大きい。
【0112】
(導電率)
幅5mmのポリマーH又はポリマーH’の膜に、5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法によって、温度:80℃、相対湿度:50%の恒温恒湿条件下にて交流:10kHz、電圧:1VでポリマーH又はポリマーH’の膜の抵抗を測定し、導電率を算出した。なお、算出に用いた膜の基準寸法及び厚さは、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
【0113】
(耐熱水性)
ポリマーH又はポリマーH’の膜を、窒素を流通させたグローブボックスに入れ、室温(約15~25℃)で40時間以上乾燥させた後、質量(W1)を測定した。120mLの密封容器に膜が充分に浸る量の超純水とポリマーH又はポリマーH’の膜を入れ、密封容器を120℃のオーブンに入れた。24時間後、加熱を止めて水冷した後、密封容器からポリマーH又はポリマーH’の膜を抜き取り、表面の水分をろ紙(アドバンテック社製、No.2)で拭き取った。ポリマーH又はポリマーH’の膜を窒素シールされたグローブボックスに入れ、室温(約15~25℃)で40時間以上乾燥させた後、質量(W2)を測定した。質量減少率(質量%)を下式から算出した。
質量減少率={(W1-W2)/W1}×100
【0114】
(オリゴマー含有量)
重合で発生したオリゴマー成分は凝集及び再凝集の操作でろ別した凝集溶媒に溶解していることから、凝集溶媒を乾固して得られる残存固形分の質量を測定することでオリゴマー成分の含有量を定量することができる。オリゴマー含有量(質量%)を下式から算出し、下記基準にて評価した。
オリゴマー含有量=(乾固により得られた固形分の質量)/{(乾固により得られた固形分の質量)+(ポリマー収量)}×100
○:オリゴマー含有量が30質量%未満。
×:オリゴマー含有量が30質量%以上。
【0115】
(水素ガス透過係数)
固体高分子電解質膜について、JIS K 7126-2:2006に準拠して水素ガス透過係数を測定した。測定装置としてはガス透過率測定装置(GTRテック社製、GTR-100XFAG)を用いた。
有効透過面積が9.62cmの固体高分子電解質膜を80℃に保ち、第1の面に、相対湿度を10%に調湿した水素ガスを30mL/分で流し、第2の面に、相対湿度を10%に調湿したアルゴンガスを30mL/分で流した。アルゴンガスに透過してくる水素ガスをガスクロマトグラフィーで検出し、25℃、1気圧の体積に換算した水素ガス透過量を求めた。得られた水素ガス透過量を用いて、膜面積1cm、透過ガスの圧力差1cmHgあたり、1秒間に透過するガスの透過度を求め、厚さ1cmの膜に換算した値を水素ガス透過係数とした。なお、算出に用いた膜の基準寸法及び厚さは、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
【0116】
(略号)
TFE:テトラフルオロエチレン、
CTFE:クロロトリフルオロエチレン、
PSVE:CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、
P2SVE:CF=CFOCFCF(CFOCFCFSOF)OCFCFSOF、
sPSVE:CF=CFOCFCFSOF、
PSAE:CF=CFCFOCFCFSOF、
PFtBPO:(CFCOOC(CF
AIBN:(CHC(CN)N=NC(CH(CN)、
IPP:(CHCHOC(O)OOC(O)OCH(CH
V-601:CHOC(O)C(CH-N=N-C(CHC(O)OCH
tBPO:(CHCOOC(CH
PFB:CFCFCFC(O)OOC(O)CFCFCF
HFC-52-13p:CF(CFH、
HFE-347pc-f:CFCHOCFCFH、
HCFC-225cb:CClFCFCHClF、
HCFC-141b:CHCClF。
【0117】
[例1]
(例1-1)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた2Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、塩化スルホン酸の560gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、内温を20℃以下に保ったまま化合物1-1の139.5gとジクロロメタンの478.7gの混合液を20分かけて滴下した。滴下時は発熱とガスの発生が見られた。滴下完了後、フラスコをオイルバスにセットし、内温を30~40℃に保ったまま7時間反応させた。反応はガスの発生を伴いながら進行し、白色の固体が析出した。反応後、フラスコ内を減圧にしてジクロロメタンを留去した。フラスコ内には黄色味を帯びた白色固体が残った。固体をH-NMRで分析したところ、化合物2-1が生成していることを確認した。
【0118】
【化11】
【0119】
化合物2-1のNMRスペクトル;
H-NMR(溶媒:DO):4.27ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR(溶媒:DO):62.6ppm(-CH-)、195.3ppm(C=O)。
【0120】
(例1-2)
例1-1で得た化合物2-1は単離せずに、次の反応にそのまま用いた。例1-1のフラスコ内に塩化チオニルの2049gを加えた。フラスコを80℃に加熱して15時間還流した。反応の進行に伴い、還流温度は52℃から72℃まで上昇した。反応中はガスの発生が確認された。化合物2-1がすべて溶解し、ガスの発生が収まった点を反応終点とした。反応液を2Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら9時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に黒褐色の固体が析出した。デカンテーションで未反応の塩化チオニルを除去した。トルエンを添加して析出固体を洗浄し、再びデカンテーションでトルエンを除去した。トルエン洗浄は合計3回実施し、トルエンの使用量は合計1207gだった。析出固体を窒素ガス気流下、25℃にて71時間乾燥した。乾燥後の固体を回収し、H-NMRで分析したところ、純度96.2%の化合物3-1の356.5gが得られたことを確認した。化合物1-1基準の収率は56.0%となった。
【0121】
【化12】
【0122】
化合物3-1のNMRスペクトル;
H-NMR:5.20ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR:72.3ppm(-CH-)、184.6ppm(C=O)。
【0123】
(例1-3)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、化合物3-1の90.0gとアセトニトリルの750mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌しながらフッ化水素カリウムの110.3gを加えた。添加に伴う発熱はわずかだった。氷浴を水浴に変え、内温を15~25℃に保ったまま62時間反応させた。反応に伴い、細かい白色の固体が生成した。反応液を加圧ろ過器へ移し、未反応のフッ化水素カリウムと生成物をろ別した。ろ過器にアセトニトリルを加え、ろ液が透明になるまでろ別した固体を洗浄し、洗浄液を回収した。ろ液と洗浄液をエバポレーターにかけてアセトニトリルを留去した。乾固して残った固体にトルエンの950mLを添加し、100℃に加熱して固体をトルエンに溶解させた。溶解液を自然ろ過して未溶解分を除去した。ろ液を1Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら14時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に薄茶色の針状結晶が析出した。トルエンで結晶を洗浄し、窒素ガス気流下、25℃にて30時間乾燥させた。乾燥後の固体を回収しH-NMR及び19F-NMRで分析したところ、純度97.6%の化合物4-1の58.1gが得られたことを確認した。化合物3-1基準の収率は72.3%となった。
【0124】
【化13】
【0125】
化合物4-1のNMRスペクトル;
H-NMR:4.97ppm(-CH-、4H、d、J=3.1Hz)。
19F-NMR:62.4ppm(-SOF、2F、t、J=3.1Hz)。
13C-NMR:60.7ppm(-CH-)、184.9ppm(C=O)。
【0126】
(例1-4)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の9.93gとアセトニトリルの89.7gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を6.7L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから反応液の103.2gを回収した。反応液を19F-NMRで定量分析したところ、化合物5-1が8.4質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は66%となった。
【0127】
【化14】
【0128】
化合物5-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-104.1ppm(-CF-、4F、s)、45.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0129】
(例1-5)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の19.9gとアセトニトリルの85.6gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を16.4L/hrの流量で6.5時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の109.6gを回収した。
【0130】
(例1-6)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の20.1gとアセトニトリルの80.1gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=20.0モル%/80.0モル%)を8.4L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の107.1gを回収した。
【0131】
(例1-7)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの1.65gとジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)の7.8mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-4で得た反応液の8.43gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には15分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、15~20℃で1時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の6.56gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて20~25℃で3.5時間反応させた。吸引ろ過により反応液から副生固体を除去し、ろ液を回収した。ろ過残固体は適当量のアセトニトリルで洗浄し、洗浄液はろ液と混合した。ろ液の37.1gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が2.04質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は46.6%となった。
【0132】
【化15】
【0133】
化合物7-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-191.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、38、14Hz)、-133.8ppm(-O-CF-、1F、tt、J=21.3、6.1Hz)、-103.1ppm(-CF-SOF、4F、m)、-101.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、49、27Hz)、-87.6ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=49、38、7Hz)、-67.5ppm(-CF-O-、2F、m)、46.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0134】
(例1-8)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの36.6gとアセトニトリルの125.6gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-5で得た反応液の79.8gを、プラスチック製滴下ロートを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には23分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で5.5時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の146.0gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で16時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の412.3gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が3.93質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は55.9%となった。ろ液を減圧蒸留することにより、沸点97.2℃/10kPa留分として化合物7-1を単離した。ガスクロマトグラフィー純度は98.0%であった。
【0135】
(例1-9)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの3.70gとアセトニトリルの10.9gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-6で得た反応液の10.2gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には8分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で3時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の14.6gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で17時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の55.9gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が4.77質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は69.6%となった。また、化合物1-1基準の反応収率(モノマー合成工程全体での反応収率)は、28.2%となった。
【0136】
[例2]
(例2-1)
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、化合物7-1の70.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。オートクレーブにTFEの2.53gを導入し、内温が100℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.29MPa(ゲージ圧)であった。重合開始剤であるPFtBPOの36.3mgとHFC-52-13pの2.58gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.56MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.56MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し重合を行った。9.5時間でTFEの添加量が4.03gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEと化合物7-1とのコポリマーであるポリマーF-1の6.4gを得た。結果を表1に示す。なお、凝集に用いたHFC-52-13pとHFE-347pc-fを乾固したところ、0.1gのオリゴマー成分が抽出された。すなわち、オリゴマー含有量は2質量%以下であった。
【0137】
(例2-2~例2-10)
例2-1の各条件を表1のように変更した。ただし、例2-2~例2-10ではTFEの初期仕込みを行わず、代わりに重合温度に加温しながら表1に記載の窒素ガス希釈前圧力までTFEを張りこむことによりTFEを仕込んだ。例2-2ではHFC-52-13pの36.1gを化合物7-1とともに仕込み、重合開始剤との混合液の調製に5.0gを用いた。例2-6~例2-10では重合開始剤を初期一括で圧入する代わりに、所定の重合圧力まで窒素ガス希釈を行ったのち、化合物7-1に溶解したtBPOの0.20質量%溶液(例2-10は0.05質量%溶液)を重合開始時及び30分毎に圧入ラインから間欠添加させた(重合開始剤及び化合物7-1の合計添加量を表1に示した)。それ以外は、例2-1と同様にしてポリマーF-2~ポリマーF-10を得た。結果を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
[例3]
(例3-1~例3-10)
例2で得たポリマーF-1~ポリマーF-10を用い、下記の方法にてポリマーH-1~ポリマーH-10の膜を得た。
ポリマーFを、TQ値より10℃高い温度又は260℃のうち、どちらか低い方の温度、及び4MPa(ゲージ圧)で加圧プレス成形し、ポリマーFの膜(厚さ100~250μm)を得た。表2に示すアルカリ水溶液中に、80℃にてポリマーFの膜を16時間浸漬させ、ポリマーFの-SOFを加水分解し、-SOKに変換した。さらにポリマーの膜を、3モル/Lの塩酸水溶液に50℃で30分間浸漬した後、80℃の超純水に30分間浸漬した。塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、ポリマーの-SOKを-SOHに変換した。ポリマーの膜を浸漬している水のpHが7となるまで超純水による洗浄を繰り返した。ポリマーの膜をろ紙に挟んで風乾し、ポリマーHの膜を得た。結果を表2に示す。
【0140】
【表2】
【0141】
表2中、水溶液Aは、水酸化カリウム/水=20/80(質量比)であり、水溶液Bは、水酸化カリウム/ジメチルスルホキシド/水=15/30/55(質量比)であり、水溶液Cは、水酸化カリウム/メタノール/水=15/20/65(質量比)である。なお、この定義は、表4、表8、表9においても同じである。
【0142】
[例4]
(例4-1~例4-4)
例2-1の各条件を表3のように変更した。ただし、例4-1~例4-4ではTFEの初期仕込みを行わず、代わりに重合温度まで加温してから表3に記載の窒素ガス希釈前圧力までTFEを張りこんだ。それ以外は、例2-1と同様にしてポリマーF’-1~ポリマーF’-4を得た。結果を表3に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
[例5]
(例5-1~例5-4)
例3と同様にしてポリマーF’-1~F’-4を処理し、ポリマーH’-1~H’-4の膜を得た。結果を表4に示す。
【0145】
【表4】
【0146】
[例6]
(例6-1)
内容積230mLのハステロイ製オートクレーブに、PSVEの123.8g、HCFC-225cbの35.2g、AIBNの63.6mgを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。70℃に昇温してTFEを系内に導入し、圧力を1.14MPa(ゲージ圧)に保持した。圧力が1.14MPa(ゲージ圧)で一定になるように、TFEを連続的に添加した。7.9時間経過後、TFEの添加量が12.4gとなったところでオートクレーブを冷却して、系内のガスをパージして反応を終了させた。ポリマー溶液をHCFC-225cbで希釈してから、HCFC-141bを添加して、凝集した。HCFC-225cb及びHCFC-141bを用いて洗浄を行った後、乾燥して、TFEとPSVEとのコポリマーであるポリマーF’-5の25.1gを得た。結果を表5に示す。
【0147】
(例6-2~例6-9)
例6-1の各条件を表5又は表6のように変更した以外は、例6-1と同様にしてTFEと、PSVE、P2SVE又はsPSVEとを共重合し、ポリマーF’-6~F’-13を得た。結果を表5又は表6に示す。
【0148】
(例6-10)
オートクレーブ(内容積230mL、ステンレス製)に、PSAEの175.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。内温が110℃になるまでオイルバスにて加温し、TFEを系内に導入して圧力を0.27MPa(ゲージ圧)に保持した。
重合開始剤であるPFtBPOの55.3mgとHFC-52-13pの8.45gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.68MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.68MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し重合を行った。5.0時間でTFEの添加量が11.25gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとPSAEとのコポリマーであるポリマーF’-14を得た。結果を表7に示す。
【0149】
(例6-11)
例6-10の各条件を表7のように変更した。ただし、例6-11では重合開始剤を初期一括で圧入する代わりに、所定の重合圧力まで窒素ガス希釈を行ったのち、PSAEに溶解したPFtBPOの0.50質量%溶液を重合開始時及び60分毎に圧入ラインから間欠添加させた(重合開始剤及びPSAEの合計添加量を表7に示した)。それ以外は、例6-10と同様にしてポリマーF’-15得た。結果を表7に示す。
【0150】
(例6-12)
内容積495mLのステンレス製オートクレーブに、P2SVEの400.1gを仕込み、液体窒素を用いて凍結脱気を2回実施した。減圧のままCTFEの14.96gを仕込んだ。25℃に昇温した後、TFEを0.295MPa(ゲージ圧)になるまで導入した。圧力が変化しないことを確認した後、HCFC-225cbに溶解したPFBの2.8質量%溶液の3.02gを窒素ガスで加圧添加して、HCFC-225cbの4.02gで添加ラインを洗浄した。温度と圧力を一定に保持しながら、TFEを連続的に供給して重合させた。重合開始から6.5時間後にオートクレーブを冷却して重合反応を停止し、系内のガスをパージしてポリマーF’-16の溶液を得た。
ポリマーF’-16の溶液と-25℃のHFE-347pc-fの1100gを混合して、ポリマーF’-16を凝集させてろ過した。その後HFE-347pc-f中でポリマーを撹拌してろ過する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとCTFEとP2SVEとのコポリマーであるポリマーF’-16の14.1gを得た。結果を表6に示す。なお、凝集に用いたHFE-347pc-fを乾固したところ、8.6gのオリゴマー成分が抽出された。すなわち、オリゴマー含有量は38質量%であった。
【0151】
【表5】
【0152】
【表6】
【0153】
【表7】
【0154】
[例7]
(例7-1~例7-12)
例3と同様にしてポリマーF’-5~F’-16を処理し、ポリマーH’-5~H’-16の膜を得た。結果を表8又は表9に示す。
【0155】
【表8】
【0156】
【表9】
【0157】
[例8]
(例8-1)
100mLのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の容器に、細かく切断したポリマーH-1の膜の4.3g、超純水の75gを加え、200℃で24時間加温した。内容物をPTFE製バットに移し、窒素雰囲気下30℃で64時間かけて風乾させた。乾固したポリマーH-1を200mLのガラス製オートクレーブに移し、超純水/エタノールの混合溶媒(50/50(質量比))の21.4gを加えた。110℃で25時間撹拌した後、超純水の3.87gを加えて希釈した。90℃で5時間撹拌した後、放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-1が混合溶媒に13.5質量%で分散した液状組成物S-1の31.9gを得た。
液状組成物S-1を100μmのエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー製シート上に、ダイコータ-にて塗工して製膜し、これを80℃で15分乾燥し、さらに185℃で30分の熱処理を施し、ポリマーHの膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表10に示す。
【0158】
(例8-2~例8-10)
各成分の仕込み量を変更した以外は、例8-1と同様にして、表10に示す固形分濃度の液状組成物S-2~S-10を得た。
液状組成物を変更した以外は、例8-1と同様にして、ポリマーHの膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表10に示す。
【0159】
【表10】
【0160】
[例9]
(例9-1~例9-4)
各成分の仕込み量を変更した以外は、例8-1と同様にして、表11に示す固形分濃度の液状組成物S’-1~S’-4を得た。
液状組成物を変更した以外は、例8-1と同様にして、ポリマーH’の膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表11に示す。
H’-1~H’-4のいずれのポリマーを使用した膜についても、膜強度が低いために水素ガス透過係数の測定中に膜が破れてしまい、水素ガス透過係数の測定はできなかった。
【0161】
【表11】
【0162】
[例10]
(例10-1)
オートクレーブ(内容積200mL、ガラス製)に、細かく切断したポリマーH’-5の膜の20g、エタノール/水の混合溶媒(60/40(質量比))の56.9gを加え、撹拌しながらオートクレーブを加熱した。115℃で16時間撹拌した後に放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH’-5が混合溶媒に分散した液状組成物S’-5の76.5gを得た。
液状組成物S’-5を用いた以外は、例8-1と同様にしてポリマーH’-5の膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表12に示す。
【0163】
(例10-2~例10-12)
各成分の仕込み量を変更した以外は、例10-1と同様にして、表12又は表13に示す固形分濃度の液状組成物S’-6~S’-16を得た。
液状組成物を変更した以外は、例10-1と同様にして、ポリマーH’の膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表12又は表13に示す。
【0164】
【表12】
【0165】
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の酸型スルホン酸基含有ポリマーは、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における固体高分子電解質膜等として有用である。
なお、2018年12月07日に出願された日本特許出願2018-230213号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0167】
10 膜電極接合体、11 触媒層、12 ガス拡散層、13 アノード、14 カソード、15 固体高分子電解質膜、16 カーボン層。
図1
図2