(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ペルフルオロポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形水電解装置
(51)【国際特許分類】
C08F 8/12 20060101AFI20230926BHJP
C08F 214/26 20060101ALI20230926BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230926BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230926BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20230926BHJP
H01M 8/1041 20160101ALI20230926BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20230926BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230926BHJP
【FI】
C08F8/12
C08F214/26
H01B1/06 A
H01M4/86 H
H01M8/1018
H01M8/1041
H01M8/1067
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020560079
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047943
(87)【国際公開番号】W WO2020116651
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018230213
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019036638
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】上牟田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】民辻 慎哉
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/013533(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012374(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/12
C08F 214/26
H01B 1/06
H01M 4/86
H01M 8/1018
H01M 8/1041
H01M 8/1067
H01M 8/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロモノマー単位を含み、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位を実質的に含まず、環構造を有する単位を実質的に含まず、酸型のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーであって、
前記ペルフルオロモノマー単位が、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位Aを含み、
前記単位Aが、前記ペルフルオロアリルエーテル単位を含み、
前記ペルフルオロアリルエーテル単位が、式A-1で表される単位であり、
イオン交換容量が0.9~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂であり、
120℃における貯蔵弾性率が100MPa以上であることを特徴とする、ペルフルオロポリマー。
【化1】
式A-1中、R
F1
およびR
F2
はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
【請求項2】
温度80℃および相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が、2.7×10
-9cm
3・cm/(s・cm
2・cmHg)以下である、請求項1に記載のペルフルオロポリマー。
【請求項3】
前記酸型のスルホン酸基が前駆体基となっている前駆体ポリマーの前記前駆体基を、前記酸型のスルホン酸基に変換して得られるペルフルオロポリマーであって、
前記前駆体ポリマーの容量流速値が、220℃以上である、請求項1または2に記載のペルフルオロポリマー。
【請求項4】
前記単位Aの含有量が、前記ペルフルオロポリマー中の全単位に対して、4~19モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のペルフルオロポリマー。
【請求項5】
前記ペルフルオロモノマー単位が、テトラフルオロエチレン単位をさらに含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載のペルフルオロポリマー。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のペルフルオロポリマーと、液状媒体と、を含むことを特徴とする、液状組成物。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のペルフルオロポリマーを含むことを特徴とする、固体高分子電解質膜。
【請求項8】
補強材をさらに含む、請求項
7に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項9】
触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するアノードと、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された請求項
7または
8に記載の固体高分子電解質膜と、を含むことを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項10】
前記アノードに含まれる前記イオン交換基を有するポリマー、および、前記カソードに含まれる前記イオン交換基を有するポリマーのうち少なくとも一方が、請求項1~
5のいずれか1項に記載のペルフルオロポリマーである、請求項
9に記載の膜電極接合体。
【請求項11】
請求項
9または
10に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルフルオロポリマー、液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極接合体に含まれる固体高分子電解質膜は、例えば、酸型のスルホン酸基を有するポリマーを膜状にして得られる。このような酸型のスルホン酸基を有するポリマーとして、特許文献1の実施例には、-[CF2-CF(OCF2CF2SO3H)]-で表される単位を有するペルフルオロポリマーが開示されている。
固体高分子電解質膜を含む膜電極接合体は種々の用途に適用でき、例えば、特許文献1に記載の固体高分子形燃料電池の他に、特許文献2に記載の固体高分子形水電解装置にも適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-082749号公報
【文献】特開平11-021687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パワーツーガス、すなわち余剰の電力を気体に変換して貯蔵・利用する観点で、固体高分子形水電解の利用が検討されている。固体高分子形水電解のエネルギー変換効率向上には運転温度の高温化が有効である。またパワーツーガスで生成する水素の有効利用の観点では、固体高分子形水電解装置から生成する水素を高圧化することが求められている。これらの要請より、100℃以上の高温高圧下でも運転可能な水電解装置およびそれを実現できる部材が求められている。特許文献2に記載の固体高分子形水電解装置に用いられる膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池に使用される膜電極接合体と比較して、陽極室と陰極室とに仕切る膜電極接合体に大きな圧力がかかる場合がある。また上述の通り、水電解装置は、加熱した水を用いて運転する場合がある。そのため、膜電極接合体には、高温環境下においても優れた機械的強度が求められる。
本発明者らが、特許文献1に記載の上記単位を有するペルフルオロポリマーを用いて得られた電解質膜を評価したところ、高温環境下における機械的強度に改善の余地があることを見出した。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、高温環境下における機械的強度に優れる電解質膜を製造できるペルフルオロポリマー、ならびに、これを用いて得られる液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形水電解装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、所定の繰り返し単位を含み、イオン交換容量が所定範囲内にあり、120℃における貯蔵弾性率が100MPa以上であるペルフルオロポリマーを用いれば、高温環境下における機械的強度に優れる電解質膜を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1]ペルフルオロモノマー単位を含み、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位を実質的に含まず、環構造を有する単位を実質的に含まず、酸型のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーであって、上記ペルフルオロモノマー単位が、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位Aを含み、イオン交換容量が0.9~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂であり、120℃における貯蔵弾性率が100MPa以上であることを特徴とする、ペルフルオロポリマー。
[2]温度80℃および相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が、2.7×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下である、[1]のペルフルオロポリマー。
[3]上記酸型のスルホン酸基が前駆体基となっている前駆体ポリマーの上記前駆体基を、上記酸型のスルホン酸基に変換して得られるペルフルオロポリマーであって、
上記前駆体ポリマーの容量流速値が、220℃以上である、[1]または[2]のペルフルオロポリマー。
[4]上記単位Aの含有量が、上記ペルフルオロポリマー中の全単位に対して、4~19モル%である、[1]~[3]のいずれかのペルフルオロポリマー。
[5]上記ペルフルオロアリルエーテル単位が、後述の式A-1で表される単位である、[1]~[4]のいずれかのペルフルオロポリマー。後述の式A-1中、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
[6]上記ペルフルオロモノマー単位が、テトラフルオロエチレン単位をさらに含む、[1]~[5]のいずれかのペルフルオロポリマー。
[7][1]~[6]のいずれかのペルフルオロポリマーと、液状媒体と、を含むことを特徴とする、液状組成物。
[8][1]~[6]のいずれかのペルフルオロポリマーを含むことを特徴とする、固体高分子電解質膜。
[9]補強材をさらに含む、[8]の固体高分子電解質膜。
[10]触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するアノードと、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置された[8]または[9]の固体高分子電解質膜と、を含むことを特徴とする、膜電極接合体。
[11]上記アノードに含まれる上記イオン交換基を有するポリマー、および、上記カソードに含まれる上記イオン交換基を有するポリマーのうち少なくとも一方が、[1]~[6]のいずれかのペルフルオロポリマーである、[10]に記載の膜電極接合体。
[12][10]または[11]の膜電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形水電解装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温環境下における機械的強度に優れる電解質膜を製造できるペルフルオロポリマー、ならびに、これを用いて得られる液状組成物、固体高分子電解質膜、膜電極接合体および固体高分子形水電解装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、特に断りのない限り、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換基」とは、この基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換しうる基であり、例えば、下記のスルホン酸型官能基、カルボン酸型官能基が挙げられる。
「スルホン酸型官能基」とは、酸型のスルホン酸基(-SO3H)、および、塩型のスルホン酸基(-SO3M2。ただし、M2は金属イオンまたは第4級アンモニウムカチオンである。)の総称である。
「カルボン酸型官能基」とは、酸型のカルボン酸基(-COOH)、および、塩型のカルボン酸基(-COOM1。ただし、M1は金属イオンまたは第4級アンモニウムカチオンである。)の総称である。
「単位を実質的に含まない」とは、当該単位を含むポリマーの全単位に対する当該単位の含有量が1モル%以下であることを意味する。
ポリマーの生産性指標(Rp)値は、重合前および重合中に仕込まれたモノマーの合計量100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するポリマー量(g)を示す。
【0011】
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合することによって形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理することによって該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。なお、個々のモノマーに由来する構成単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載する場合がある。
【0012】
式A-1で表される単位を単位A-1と記す。他の式で表される単位も同様に記す。
【0013】
[ペルフルオロポリマー]
本発明のペルフルオロポリマーは、ペルフルオロモノマー単位を含み、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位を実質的に含まず、環構造を有する単位を実質的に含まず、酸型のスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーであって、ペルフルオロモノマー単位が、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位Aを含み、イオン交換容量が0.9~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂であり、120℃における貯蔵弾性率が100MPa以上であるペルフルオロポリマー(以下、「ポリマーH」ともいう。)である。
ポリマーHによれば、高温環境下における機械的強度に優れる電解質膜を製造できる。
【0014】
ペルフルオロモノマー単位は、単位Aを含む。上述した通り、単位Aは、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位を意味する。
【0015】
単位Aは、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位の一方または両方を含んでいてもよいが、合成が容易である点から、ペルフルオロアリルエーテル単位を含むのが好ましく、ペルフルオロアリルエーテル単位であるのが特に好ましい。
【0016】
単位Aは、イオン交換基を有していてもよいし、イオン交換基を有していなくてもよいが、電解質膜のイオン交換容量を後述の範囲にすることが容易になる点から、イオン交換基を有しているのが好ましく、スルホン酸型官能基を有しているのがより好ましく、酸型のスルホン酸基を有するのが特に好ましい。
単位Aがイオン交換基を有している場合、単位中のイオン交換基の個数は、電解質膜のイオン交換容量をより高めることが容易になる点から、2個以上が好ましく、合成が容易である点から、2個が特に好ましい。
ポリマーHに含まれる単位Aは、1種でもよく、構造が異なる2種以上であってもよい。
【0017】
ペルフルオロアリルエーテル単位としては、ポリマーHの120℃における貯蔵弾性率がより向上して、高温環境下における機械的強度により優れる電解質膜が得られる点から、単位A-1が好ましい。
【0018】
【0019】
ペルフルオロビニルエーテル単位としては、ポリマーHの120℃における貯蔵弾性率がより向上して、高温環境下における機械的強度により優れる電解質膜が得られる点から、単位A-2または単位A-3が好ましい。
【0020】
【0021】
式A-1~式A-3中、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
RF1およびRF2の具体例としては、-CF2-、-CF2CF2-、-CF(CF3)-、-CF2CF2CF2-、-CF(CF2CF3)-、-CF(CF3)CF2-、-CF2CF(CF3)-、-C(CF3)(CF3)-が挙げられる。
原料が安価である点、製造が容易である点、ポリマーHのイオン交換容量をより高くできる点から、RF1およびRF2はそれぞれ独立に、炭素数1または2のペルフルオロアルキレン基が好ましい。炭素数2の場合は、直鎖が好ましい。具体的には、-CF2-、-CF2CF2-または-CF(CF3)-が好ましく、-CF2-または-CF2CF2-がより好ましく、-CF2-が特に好ましい。
【0022】
式A-2中、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。
RF3の具体例としては、-CF2-、-CF2CF2-、-CF(CF3)-、-CF2CF2CF2-、-CF(CF2CF3)-、-CF(CF3)CF2-、-CF2CF(CF3)-、-C(CF3)(CF3)-、-CF2CF(CF3)OCF2CF(CF3)-が挙げられる。
原料が安価である点、製造が容易である点、ポリマーHのイオン交換容量をより高くできる点から、RF3は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基が好ましい。具体的には、-CF2-、-CF2CF2-または-CF2CF(CF3)-が好ましく、-CF2CF(CF3)-が特に好ましい。
式A-2中、mは、0または1である。
【0023】
ペルフルオロモノマー単位は、単位A以外の単位を含んでいてもよい。単位A以外の単位としては、イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位が挙げられる。
イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位の具体例としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)単位、ヘキサフルオロプロピレン単位が挙げられ、ポリマーHの120℃における貯蔵弾性率がより向上して、高温環境下における機械的強度により優れる電解質膜が得られる点、分子量がより高いポリマーとなり、耐熱水性により優れる電解質膜が得られる点から、TFE単位が好ましい。
【0024】
単位Aの含有量は、ポリマーHの全単位に対して、4~19モル%であることが好ましい。
単位Aの含有量の下限値は、電解質膜のイオン交換容量を後述の範囲にすることが容易になる点から、ポリマーH中の全単位に対して、4モル%が好ましく、4.5モル%がより好ましく、5モル%が特に好ましい。
単位Aの含有量の上限値は、ポリマーHの120℃における貯蔵弾性率がより向上して、高温環境下における機械的強度により優れる電解質膜が得られる点から、ポリマーH中の全単位に対して、19モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%が特に好ましい。
【0025】
イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位を含有する場合、その含有量は、イオン交換容量および120℃における貯蔵弾性率を後述の範囲に設定しやすくなる点から、ポリマーH中の全単位に対して、81~96モル%が好ましく、85~95.5モル%がより好ましく、90~95モル%が特に好ましい。これらの含有量は、ペルフルオロモノマー単位がTFE単位である場合に特に好適である。
【0026】
ポリマーHは、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位(以下、「単位X1」ともいう。)を実質的に含まない。これにより、モノマーを重合してポリマーHを製造する際に連鎖移動反応が起きにくく、製造時のオリゴマーの発生量が少ない。
単位X1の具体例としては、クロロトリフルオロエチレン単位、ブロモトリフルオロエチレン単位、ヨードトリフルオロエチレン単位、ジクロロジフルオロエチレン単位が挙げられる。
ポリマーHは単位X1を含まない(0モル%)のが好ましい。
【0027】
ポリマーHは、環構造を有する単位(以下、「単位X2」ともいう。)を実質的に含まない。これにより、ポリマーHが脆くなることを抑えられ、ポリマーHの靭性が高くなるので、ポリマーHを用いて得られる電解質膜の機械的強度が優れる。
環構造としては、脂肪族炭化水素環、脂肪族複素環、芳香族炭化水素環、芳香族複素環が挙げられる。環構造は、主鎖に存在していてもよく、側鎖に存在していてもよい。
単位X2の具体例としては、特許第4997968号、特許5454592号に記載の環状エーテル構造を有する単位が挙げられる。
ポリマーHは、単位X2を含まない(0モル%)のが好ましい。
【0028】
ポリマーHは、共有結合からなる架橋構造を有する単位(以下、「単位X3」ともいう。)を実質的に含まないことが好ましい。これにより、ポリマーHが液状媒体に溶解または分散しやすくなるので、ポリマーHおよび液状媒体を含む液状組成物を用いて電解質膜を形成する場合、電解質膜を薄膜化できる。
共有結合からなる架橋構造とは、共有結合によって架橋可能な架橋性基(例えば、ビニル基、ペルフルオロビニル基等)を有するモノマーを重合した後に、架橋性基を共有結合によって架橋させた構造、または、共有結合によって架橋可能な架橋性基を有するモノマーを重合反応と同時に架橋させることにより得られる構造を意味する。
単位X3の具体例としては、特開2001-176524号公報に記載の式8~15の化合物(架橋性基を2個有する化合物)を重合した後、重合に使用されなかった架橋性基を共有結合によって架橋させた構造を有する単位が挙げられる。
ポリマーHは、単位X3を含まない(0モル%)のがより好ましい。
【0029】
<物性>
ポリマーHのイオン交換容量は、0.9~1.4ミリ当量/グラム乾燥樹脂であり、1.0~1.35ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、1.05~1.3ミリ当量/グラム乾燥樹脂が特に好ましい。イオン交換容量が上記範囲の下限値以上であれば、固体高分子形水電解装置の固体高分子電解質膜とした際に電解電圧を小さくできる。イオン交換容量が上記範囲の上限値以下であれば、電解質膜とした際に機械的強度が優れる。
ポリマーHの「イオン交換容量」は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0030】
温度80℃および相対湿度50%RHにおけるポリマーHの導電率は、0.03S/cm以上が好ましく、0.04S/cm以上がより好ましく、0.05S/cm以上がさらに好ましい。導電率が上記下限値以上であれば、固体高分子形水電解装置の固体高分子電解質膜とした際に電解電圧をより小さくできる。導電率は高ければ高いほどよく、上限は限定されない。
ポリマーHの「導電率」は、測定対象をポリマーHからなる膜(膜厚25μm)に変える以外は、後述の実施例における導電率の測定方法と同様にして求められる。
【0031】
120℃におけるポリマーHの貯蔵弾性率が高いと、これを用いて得られる電解質膜の高温環境下における機械的強度が優れる。
具体的には、120℃におけるポリマーHの貯蔵弾性率は、高温環境下における機械的強度に優れた電解質膜が得られる点から、100MPa以上であり、120MPa以上が好ましく、140MPa以上がより好ましく、145MPa以上が特に好ましい。
120℃におけるポリマーHの貯蔵弾性率の上限値は、固体高分子形水電解装置の固体高分子電解質膜とした際に電解電圧をより小さくできる点から、300MPaが好ましく、260MPaがより好ましく、220MPaが特に好ましい。
ポリマーHの「120℃における貯蔵弾性率」は、測定対象をポリマーHからなる膜(膜厚50μm)に変える以外は、後述の実施例における貯蔵弾性率の測定方法と同様にして求められる。
【0032】
ポリマーHの軟化温度は、140~185℃が好ましく、150~175℃がより好ましく、155~165℃が特に好ましい。上記軟化温度が下限値以上であれば、高温環境下における機械的強度により優れた電解質膜が得られる。
ポリマーHの「軟化温度」は、測定対象をポリマーHからなる膜(膜厚50μm)に変える以外は、後述の実施例における軟化温度の測定方法と同様にして求められる。
【0033】
温度80℃および相対湿度10%の条件におけるポリマーHの水素ガス透過係数は、ポリマーHの水素ガスバリア性に優れる点から、2.7×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下が好ましく、2.0×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下がより好ましく、1.6×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下がさらに好ましく、1.4×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下がさらにより好ましく、1.2×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下がとりわけ好ましく、1.0×10-9cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以下が特に好ましい。
温度80℃および相対湿度10%の条件におけるポリマーHの水素ガス透過係数は、ポリマーHの導電率を高く維持する点から、1.0×10-12cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以上が好ましく、1.0×10-11cm3・cm/(s・cm2・cmHg)以上が特に好ましい。
ポリマーHの「水素ガス透過係数」は、測定対象をポリマーHからなる膜(膜厚100μm)に変える以外は、後述の実施例における水素ガス透過係数の測定方法と同様にして求められる。
【0034】
<ポリマーHの製造方法>
ポリマーHの製造方法の一例としては、ポリマーH中の酸型のスルホン酸基が前駆体基(具体的には-SO2Fで表される基)となっている前駆体ポリマー(以下、「ポリマーF」ともいう。)の前駆体基を、酸型のスルホン酸基(-SO3
-H+)に変換する方法が挙げられる。
前駆体基である-SO2Fで表される基を酸型のスルホン酸基に変換する方法の具体例としては、ポリマーFの-SO2Fで表される基を加水分解して塩型のスルホン酸基とし、塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。
【0035】
(ポリマーF)
ポリマーFは、ペルフルオロモノマー単位を含み、フッ素原子以外のハロゲン原子を有する単位を実質的に含まず、環構造を有する単位を実質的に含まず、-SO2Fで表される基を有するペルフルオロポリマーが好ましい。
また、ポリマーFは、単位X3を実質的に含まないことがより好ましく、単位X3を含まない(0モル%)ことが特に好ましい。
【0036】
ポリマーFに含まれるペルフルオロモノマー単位は、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位aを含むのが好ましい。
単位aは、ペルフルオロビニルエーテル単位およびペルフルオロアリルエーテル単位の一方または両方を含んでいてもよいが、合成が容易である点から、ペルフルオロアリルエーテル単位を含むのが好ましく、ペルフルオロアリルエーテル単位であるのが特に好ましい。
【0037】
単位aに含まれる単位は、イオン交換基の前駆体基を有していてもよいし、イオン交換基の前駆体基を有していなくてもよいが、イオン交換基の前駆体基を有しているのが好ましく、スルホン酸型官能基の前駆体基(具体的には-SO2Fで表される基)を有しているのが特に好ましい。
【0038】
単位aにおけるペルフルオロビニルエーテル単位の具体例としては、上述した単位Aにおけるペルフルオロビニルエーテル単位の酸型のスルホン酸基を、-SO2Fで表される基に変えた単位が挙げられる。
【0039】
単位aにおけるペルフルオロアリルエーテル単位としては、単位a-1が好ましい。
【0040】
【0041】
式a-1中のRF1およびRF2はそれぞれ、式A-1中のRF1およびRF2と同義である。
【0042】
単位aにおけるペルフルオロモノマー単位は、単位a以外の単位を含んでいてもよい。単位a以外の単位の具体例は、イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位が挙げられる。
イオン交換基およびその前駆体基を有しないペルフルオロモノマー単位、環構造を有する単位、および、共有結合からなる架橋構造を有する単位の具体例は、ポリマーHと同様である。
【0043】
ポリマーF中の各単位の含有量は、ポリマーH中の各単位の含有量と同様であるのが好ましい。
【0044】
ポリマーFの容量流速値(以下、「TQ値」ともいう。)は、220℃以上が好ましく、230℃以上がより好ましく、240℃以上が更に好ましい。TQ値が前記下限値以上であれば、充分な分子量を有するポリマーHが得られるので、電解質膜の機械的強度がより優れる。また、ポリマーFのTQ値は、500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。TQ値が前記上限値以下であれば、液状媒体に対するポリマーHの溶解性または分散性が向上するので、液状組成物を調製しやすい。TQ値は、ポリマーFの分子量の指標である。
ポリマーFの「TQ値」は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0045】
本発明のペルフルオロポリマーの製造方法において、重合前および重合中に仕込まれたモノマーの合計量100gあたり、かつ重合時間の1時間あたりに生成するペルフルオロポリマー量であるRp値が、1.0以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、4.5以上であることが特に好ましい。
【0046】
<用途>
ポリマーHの用途の具体例としては、固体高分子形水電解装置や固体高分子形燃料電池等に用いられる固体高分子電解質膜の電解質が挙げられる。この中でも、機械的強度が優れる点、および、イオン交換容量が上記範囲にある点から、固体高分子形水電解装置用の固体高分子電解質膜の電解質として好適である。
また、ポリマーHは、膜電極接合体における触媒層に含まれるイオン交換基を有するポリマーとしても好適に用いられる。
【0047】
[液状組成物]
本発明の液状組成物は、ポリマーHと、液状媒体と、を含む。液状組成物におけるポリマーHは、液状媒体中に分散していてもよいし、液状媒体中に溶解していてもよい。
本発明の液状組成物は上記ポリマーHを含むので、本発明の液状組成物を用いて得られる電解質膜は、高温環境下における機械的強度に優れる。
【0048】
液状媒体の具体例としては、水および有機溶媒が挙げられる。液状媒体には、水のみを用いてもよいし、有機溶媒のみを用いてもよいし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよいが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いるのが好ましい。
液状媒体として水を含む場合、液状媒体に対するポリマーHの分散性または溶解性が向上しやすい。液状媒体として有機溶媒を含む場合、割れにくい電解質膜が得られやすい。
【0049】
有機溶媒としては、割れにくい電解質膜が得られやすい点から、炭素数が1~4のアルコールが好ましい。
炭素数が1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノールが挙げられる。
有機溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0050】
液状媒体が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、水の含有量は、液状媒体の全質量に対して、10~99質量%が好ましく、20~99質量%が特に好ましい。
液状媒体が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、有機溶媒の含有量は、1~90質量%が好ましく、1~80質量%が特に好ましい。
水および有機溶媒の含有量が上記範囲内であれば、液状媒体に対するポリマーHの分散性または溶解性に優れ、かつ、割れにくい固体高分子電解質膜が得られやすい。
【0051】
ポリマーHの含有量は、液状組成物の全質量に対して、1~50質量%が好ましく、3~30質量%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得られる。上記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が適切となる。
【0052】
液状組成物は、液状組成物から作製される電解質膜の耐久性をより向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群より選択される1種以上の金属、金属化合物または金属イオンを含んでいてもよい。
【0053】
[固体高分子電解質膜]
本発明の固体高分子電解質膜は、ポリマーHを含む。
本発明の固体高分子電解質膜は上記ポリマーHを含むので、高温環境下における機械的強度に優れる。
【0054】
固体高分子電解質膜の膜厚は、5~200μmが好ましく、10~130μmが特に好ましい。上記範囲の下限値以上であれば、充分な水素ガスバリア性を確保できる。上記範囲の上限値以下であれば、膜抵抗を充分に小さくできる。
【0055】
固体高分子電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材の具体例としては、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。
補強材は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう。)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」ともいう。)、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」ともいう。)、および、ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」ともいう。)からなる群から選択される材料から構成されるのが好ましい。
【0056】
固体高分子電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群より選択される1種以上の金属、金属化合物または金属イオンを含んでいてもよい。セリウムおよびマンガンは、固体高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素またはヒドロキシルラジカルやヒドロペルオキシルラジカルを分解する。
固体高分子電解質膜は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカまたはヘテロポリ酸(例えば、リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸)を含んでいてもよい。
【0057】
固体高分子電解質膜の製造方法の一例としては、上述の液状組成物を基材フィルムまたは触媒層の表面に塗布し、乾燥する方法(キャスト法)が挙げられる。
固体高分子電解質膜が補強材を含む場合の製造方法の一例としては、上述の液状組成物を補強材に含浸し、乾燥する方法が挙げられる。
【0058】
固体高分子電解質膜を安定化するために、熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、ポリマーHの種類にもよるが、130~200℃が好ましい。熱処理の温度が130℃以上であれば、ポリマーHの含水量が適切となる。熱処理の温度が200℃以下であれば、スルホン酸基の熱分解が抑えられ、固体高分子電解質膜の優れた導電性を維持できる。
固体高分子電解質膜は、必要に応じて過酸化水素水で処理してもよい。
【0059】
[膜電極接合体]
本発明の膜電極接合体は、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するアノードと、触媒およびイオン交換基を有するポリマーを含む触媒層を有するカソードと、上記アノードと上記カソードとの間に配置された上記固体高分子電解質膜と、を含む。
以下において、本発明の膜電極接合体の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0060】
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを含む。
【0061】
触媒層11に含まれる触媒の具体例としては、カーボン担体に、白金、白金合金またはコアシェル構造を有する白金を含む触媒を担持した担持触媒、酸化イリジウム触媒、酸化イリジウムを含有する合金、コアシェル構造を有する酸化イリジウムを含有する触媒が挙げられる。カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。
触媒層11に含まれるイオン交換基を有するポリマーとしては、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーが挙げられ、上述のポリマーHを用いることも好ましい。
触媒層11に含まれるイオン交換基を有するポリマーとして上述のポリマーHを用いる場合、アノードの触媒層に含まれるイオン交換基を有するポリマー、および、カソードの触媒層に含まれるイオン交換基を有するポリマーのうち少なくとも一方がポリマーHであればよい。
【0062】
ガス拡散層12は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。ガス拡散層の具体例としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、チタン製の多孔体(具体的にはチタン粒子または繊維の焼結体等)が挙げられる。
ガス拡散層は、生成するガスの付着を防止するために、PTFE等によって撥水化または親水化処理したり、イオン交換基を有するポリマー等によって親水化してもよい。
図1の膜電極接合体においてはガス拡散層12が含まれるが、ガス拡散層は任意の部材であり、膜電極接合体に含まれていなくてもよい。
【0063】
固体高分子電解質膜15は、上述したポリマーHを含む固体高分子電解質膜である。
【0064】
膜電極接合体の製造方法としては、例えば、固体高分子電解質膜上に触媒層を形成して、得られた接合体をさらにガス拡散層で挟み込む方法、および、ガス拡散層上に触媒層を形成して電極(アノード、カソード)とし、固体高分子電解質膜をこの電極で挟み込む方法が挙げられる。
なお、触媒層の製造方法は、触媒層形成用塗工液を所定の位置に塗布して、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。
【0065】
[固体高分子形水電解装置]
本発明の固体高分子形水電解装置は、上述の膜電極接合体を含む。
本発明の固体高分子形水電解装置は、上述の膜電極接合体を含むため、耐久性に優れる。
固体高分子形水電解装置は、上述の膜電極接合体を用いる以外は、公知の構成を有していればよく、例えば、膜電極接合体を設置するための電解槽、アノード側に水を供給するための水供給手段、余剰の水を回収するための水回収手段、発生した水素ガス等を回収するガス回収手段、電圧を印加するための電源部等を有する態様が挙げられる。
固体高分子形水電解装置では、膜電極接合体のアノードおよびカソード間に電圧が印加されるとともに、アノード側に水が供給される。アノード側に供給された水は分解して、水素イオンと酸素が生成する。生成した水素イオンは固体高分子電解質膜を介してカソード側に移動して、カソード側で電子と結合して水素が発生する。
【実施例】
【0066】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。例3-1は実施例であり、例5-1~例5-2は比較例である。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
以下において、「ポリマーH」とは、実施例に係るペルフルオロポリマーの総称であり、その前駆体ポリマーを「ポリマーF」と総称する。また、「ポリマーH’」とは、比較例に係るペルフルオロポリマーの総称であり、その前駆体ポリマーを「ポリマーF’」と総称する。
【0067】
[1H-NMR]
1H-NMRは、周波数:300.4MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、特に付記のない限りCD3CNを用いた。生成物の定量は、1H-NMRの分析結果および内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0068】
[19F-NMR]
19F-NMRは、周波数:282.7MHz、溶媒:CD3CN、化学シフト基準:CFCl3の条件にて測定した。生成物の定量は、19F-NMRの分析結果および内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0069】
[13C-NMR]
13C-NMRは、周波数:75.5MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒は、特に付記のない限りCD3CNを用いた。
【0070】
[収率]
収率は、反応工程の収率×精製工程の収率を意味する。反応収率は、目的物を精製する前の反応工程の収率のみの、精製工程のロスが含まれない収率を意味する。
【0071】
[イオン交換容量]
ポリマーFまたはポリマーF’の膜を120℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のポリマーの膜の質量を測定した後、ポリマーの膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に60℃で72時間以上浸漬して、-SO2Fで表される基を加水分解した。加水分解後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定することによってポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量を求めた。本明細書においては、ポリマーHまたはポリマーH’のイオン交換容量は、前駆体であるポリマーFまたはポリマーF’を用いて測定されるイオン交換容量と同じであるとして記載した。
【0072】
[各単位の割合]
ポリマーFまたはポリマーF’における各単位の割合は、ポリマーFまたはポリマーF’のイオン交換容量から算出した。
ポリマーHまたはポリマーH’における各単位の割合は、ポリマーFまたはポリマーF’における対応する各単位の割合と同じである。
【0073】
[貯蔵弾性率、軟化温度]
固体高分子電解質膜(膜厚50μm)について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-225)を用いて試料幅:5.0mm、つかみ間長:15mm、測定周波数:1Hz、昇温速度:2℃/分、引張モードの条件にて、動的粘弾性測定を実施した。損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)からtanδ(損失正接)を算出し、tanδ-温度曲線を作成した。tanδ-温度曲線から-100~200℃の間のピーク温度を読み取った値をポリマーHまたはポリマーH’の軟化温度とした。また、貯蔵弾性率E’-温度曲線を作成し、120℃における貯蔵弾性率を読み取った値をポリマーHまたはポリマーH’の120℃における貯蔵弾性率とした。なお、算出に用いた膜の基準寸法および膜厚は、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。 なお、実施例における固体高分子電解質膜は、ポリマーHまたはポリマーH’からなる膜である。そのため、実施例で測定した固体高分子電解質膜の貯蔵弾性率および軟化温度は、ポリマーHまたはポリマーH’からなる膜を用いて測定した貯蔵弾性率および軟化温度と同じ値である。
【0074】
[TQ値]
長さ1mm、内径1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製、CFT-500A)を用い、2.94MPa(ゲージ圧)の押出し圧力の条件で温度を変えながらポリマーFまたはポリマーF’を溶融押出した。ポリマーFまたはポリマーF’の押出し量が100mm3/秒となる温度(TQ値)を求めた。なおTQ値が300℃を上回る場合は、300℃以下の押出量の測定値から外挿することによりTQ値を求めた。外挿は絶対温度の逆数に対する押出量の相関を対数近似した近似式により行った。TQ値が高いほどポリマーの分子量は大きい。
【0075】
[導電率]
幅5mmの固体高分子電解質膜(膜厚25μm)に、5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法によって、温度:80℃、相対湿度:50%の恒温恒湿条件下にて交流:10kHz、電圧:1VでポリマーHまたはポリマーH’の膜の抵抗を測定し、導電率を算出した。なお、算出に用いた膜の基準寸法および膜厚は、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
なお、実施例における固体高分子電解質膜は、ポリマーHまたはポリマーH’からなる膜である。そのため、実施例で測定した固体高分子電解質膜の導電率は、ポリマーHまたはポリマーH’からなる膜を用いて測定した導電率と同じ値である。
【0076】
[水素ガス透過係数]
固体高分子電解質膜(膜厚100μm)について、JIS K 7126-2:2006に準拠して水素ガス透過係数を測定した。測定装置としてはガス透過率測定装置(GTRテック社製、GTR-100XFAG)を用いた。
有効透過面積が9.62cm2の固体高分子電解質膜を80℃に保ち、第1の面に、相対湿度を10%に調湿した水素ガスを30mL/分で流し、第2の面に、相対湿度を10%に調湿したアルゴンガスを30mL/分で流した。アルゴンガスに透過してくる水素ガスをガスクロマトグラフィーで検出し、25℃、1気圧の体積に換算した水素ガス透過量を求めた。得られた水素ガス透過量を用いて、膜面積1cm2、透過ガスの圧力差1cmHgあたり、1秒間に透過するガスの透過度を求め、膜厚1cmの膜に換算した値を水素ガス透過係数とした。なお、算出に用いた膜の基準寸法および膜厚は、温度:23℃、相対湿度:50%RHの条件にて測定した。
なお、実施例における固体高分子電解質膜は、ポリマーHまたはポリマーH’からなる膜である。そのため、実施例で測定した固体高分子電解質膜の水素ガス透過係数は、ポリマーHまたはH’からなる膜を用いて測定した水素ガス透過係数と同じ値である。
【0077】
[略号]
TFE:テトラフルオロエチレン、
sPSVE:CF2=CFOCF2CF2SO2F、
PSAE:CF2=CFCF2OCF2CF2SO2F、
PFtBPO:(CF3)3COOC(CF3)3、
IPP:(CH3)2CHOC(O)OOC(O)OCH(CH3)2、
HFC-52-13p:CF3(CF2)5H、
HFE-347pc-f:CF3CH2OCF2CF2H、
HCFC-225cb:CClF2CF2CHClF、
HCFC-141b:CH3CCl2F。
【0078】
[例1]
<例1-1>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた2Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、塩化スルホン酸の560gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、内温を20℃以下に保ったまま化合物1-1の139.5gとジクロロメタンの478.7gの混合液を20分かけて滴下した。滴下時は発熱とガスの発生が見られた。滴下完了後、フラスコをオイルバスにセットし、内温を30~40℃に保ったまま7時間反応させた。反応はガスの発生を伴いながら進行し、白色の固体が析出した。反応後、フラスコ内を減圧にしてジクロロメタンを留去した。フラスコ内には黄色味を帯びた白色固体が残った。固体を1H-NMRで分析したところ、化合物2-1が生成していることを確認した。
【0079】
【0080】
化合物2-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(溶媒:D2O):4.27ppm(-CH2-、4H、s)。
13C-NMR(溶媒:D2O):62.6ppm(-CH2-)、195.3ppm(C=O)。
【0081】
<例1-2>
例1-1で得た化合物2-1は単離せずに、次の反応にそのまま用いた。例1-1のフラスコ内に塩化チオニルの2049gを加えた。フラスコを80℃に加熱して15時間還流した。反応の進行に伴い、還流温度は52℃から72℃まで上昇した。反応中はガスの発生が確認された。化合物2-1がすべて溶解し、ガスの発生が収まった点を反応終点とした。反応液を2Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら9時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に黒褐色の固体が析出した。デカンテーションで未反応の塩化チオニルを除去した。トルエンを添加して析出固体を洗浄し、再びデカンテーションでトルエンを除去した。トルエン洗浄は合計3回実施し、トルエンの使用量は合計1207gだった。析出固体を窒素ガス気流下、25℃にて71時間乾燥した。乾燥後の固体を回収し、1H-NMRで分析したところ、純度96.2%の化合物3-1の356.5gが得られたことを確認した。化合物1-1基準の収率は56.0%となった。
【0082】
【0083】
化合物3-1のNMRスペクトル;
1H-NMR:5.20ppm(-CH2-、4H、s)。
13C-NMR:72.3ppm(-CH2-)、184.6ppm(C=O)。
【0084】
<例1-3>
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、化合物3-1の90.0gとアセトニトリルの750mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌しながらフッ化水素カリウムの110.3gを加えた。添加に伴う発熱はわずかだった。氷浴を水浴に変え、内温を15~25℃に保ったまま62時間反応させた。反応に伴い、細かい白色の固体が生成した。反応液を加圧ろ過器へ移し、未反応のフッ化水素カリウムと生成物をろ別した。ろ過器にアセトニトリルを加え、ろ液が透明になるまでろ別した固体を洗浄し、洗浄液を回収した。ろ液と洗浄液をエバポレーターにかけてアセトニトリルを留去した。乾固して残った固体にトルエンの950mLを添加し、100℃に加熱して固体をトルエンに溶解させた。溶解液を自然ろ過して未溶解分を除去した。ろ液を1Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら14時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に薄茶色の針状結晶が析出した。トルエンで結晶を洗浄し、窒素ガス気流下、25℃にて30時間乾燥させた。乾燥後の固体を回収し1H-NMRおよび19F-NMRで分析したところ、純度97.6%の化合物4-1の58.1gが得られたことを確認した。化合物3-1基準の収率は72.3%となった。
【0085】
【0086】
化合物4-1のNMRスペクトル;
1H-NMR:4.97ppm(-CH2-、4H、d、J=3.1Hz)。
19F-NMR:62.4ppm(-SO2F、2F、t、J=3.1Hz)。
13C-NMR:60.7ppm(-CH2-)、184.9ppm(C=O)。
【0087】
<例1-4>
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の9.93gとアセトニトリルの89.7gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を6.7L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから反応液の103.2gを回収した。反応液を19F-NMRで定量分析したところ、化合物5-1が8.4質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は66%となった。
【0088】
【0089】
化合物5-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-104.1ppm(-CF2-、4F、s)、45.8ppm(-SO2F、2F、s)。
【0090】
<例1-5>
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の19.9gとアセトニトリルの85.6gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を16.4L/hrの流量で6.5時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の109.6gを回収した。
【0091】
<例1-6>
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の20.1gとアセトニトリルの80.1gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=20.0モル%/80.0モル%)を8.4L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の107.1gを回収した。
【0092】
<例1-7>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの1.65gとジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)の7.8mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-4で得た反応液の8.43gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には15分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、15~20℃で1時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の6.56gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて20~25℃で3.5時間反応させた。吸引ろ過により反応液から副生固体を除去し、ろ液を回収した。ろ過残固体は適当量のアセトニトリルで洗浄し、洗浄液はろ液と混合した。ろ液の37.1gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が2.04質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は46.6%となった。
【0093】
【0094】
化合物7-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-191.5ppm(CF2=CF-、1F、ddt、J=116、38、14Hz)、-133.8ppm(-O-CF-、1F、tt、J=21.3、6.1Hz)、-103.1ppm(-CF2-SO2F、4F、m)、-101.5ppm(CF2=CF-、1F、ddt、J=116、49、27Hz)、-87.6ppm(CF2=CF-、1F、ddt、J=49、38、7Hz)、-67.5ppm(-CF2-O-、2F、m)、46.8ppm(-SO2F、2F、s)。
【0095】
<例1-8>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの36.6gとアセトニトリルの125.6gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-5で得た反応液の79.8gを、プラスチック製滴下ロートを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には23分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で5.5時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の146.0gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で16時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の412.3gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が3.93質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は55.9%となった。ろ液を減圧蒸留することにより、沸点97.2℃/10kPa留分として化合物7-1を単離した。ガスクロマトグラフィー純度は98.0%であった。
【0096】
<例1-9>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの3.70gとアセトニトリルの10.9gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-6で得た反応液の10.2gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には8分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で3時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の14.6gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で17時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の55.9gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が4.77質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は69.6%となった。また、化合物1-1基準の反応収率(モノマー合成工程全体での反応収率)は、28.2%となった。
【0097】
[例2]
<例2-1>
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、化合物7-1の35.0gと、HFC-52-13pの37.0gとを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。内温が100℃になるまでオートクレーブをオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.02MPa(ゲージ圧)であった。オートクレーブにTFEを導入し、圧力は0.32MPa(ゲージ圧)とした。TFE分圧は0.30MPaとなった。重合開始剤であるPFtBPOの76.0mgとHFC-52-13pの4.1gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.60MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.60MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し重合を行った。7.0時間でTFEの添加量が10.29gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEと化合物7-1とのコポリマーであるポリマーF-1の12.9gを得た。結果を表1に示す。なお、凝集に用いたHFC-52-13pとHFE-347pc-fを乾固したところ、0.1gのオリゴマー成分が抽出された。すなわち、オリゴマー含有量は1質量%以下であった。
得られたポリマーF-1を用いて上述の各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
[例3]
<例3-1>
例2で得たポリマーF-1を用い、下記の方法にてポリマーH-1の膜(膜厚25、50、および100μm)を得た。
ポリマーFを、TQ値より10℃高い温度または260℃のうち、どちらか低い方の温度、および、4MPa(ゲージ圧)で加圧プレス成形し、ポリマーFの膜を得た。アルカリ水溶液B(水酸化カリウム/ジメチルスルホキシド/水=15/30/55(質量比))中に、80℃にてポリマーFの膜を16時間浸漬させ、ポリマーFの-SO2Fを加水分解し、-SO3Kに変換した。さらにポリマーの膜を、3モル/Lの塩酸水溶液に50℃で30分間浸漬した後、80℃の超純水に30分間浸漬した。塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、ポリマーの-SO3Kを-SO3Hに変換した。ポリマーの膜を浸漬している水のpHが7となるまで超純水による洗浄を繰り返した。ポリマーの膜をろ紙に挟んで風乾し、ポリマーHの膜を得た。得られたポリマーHの膜を固体高分子電解質膜として使用して、上述の各種の物性値を測定した。結果を表2に示す。
なお、表2中、「単位A-1」とは、化合物7-1単位における-SO2Fで表される基を-SO3Hに変換した単位を意味する。
【0100】
【0101】
[例4]
<例4-1>
内容積230mLのハステロイ製オートクレーブに、sPSVEの90.0g、HCFC-225cbの1.00g、IPPの90.5mgを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。40℃に昇温してTFEを系内に導入し、圧力を0.90MPa(ゲージ圧)に保持した。圧力が0.90MPa(ゲージ圧)で一定になるように、TFEを連続的に添加した。4.5時間経過後、TFEの添加量が14.5gとなったところでオートクレーブを冷却して、系内のガスをパージして反応を終了させた。ポリマー溶液をHCFC-225cbで希釈してから、HCFC-141bを添加して、凝集した。HCFC-225cbおよびHCFC-141bを用いて洗浄を行った後、乾燥して、TFEとPSVEとのコポリマーであるポリマーF’-1の22.2gを得た。結果を表3に示す。
【0102】
<例4-2>
オートクレーブ(内容積230mL、ステンレス製)に、PSAEの175.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。内温が110℃になるまでオイルバスにて加温し、TFEを系内に導入して圧力を0.27MPa(ゲージ圧)に保持した。
重合開始剤であるPFtBPOの55.3mgとHFC-52-13pの8.45gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.68MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.68MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加し重合を行った。5.0時間でTFEの添加量が11.25gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEとPSAEとのコポリマーであるポリマーF’-2を得た。結果を表3に示す。
【0103】
【0104】
[例5]
<例5-1~例5-2)
例3と同様にしてポリマーF’-1~F’-2を処理し、ポリマーH’-1~H’-2の膜を得た。得られたポリマーH’の膜を固体高分子電解質膜として使用して、上述の各種の物性値を測定した。結果を表4に示す。
【0105】
【0106】
表2に示す通り、ポリマーHを用いて得られた電解質膜(固体高分子電解質膜)は、120℃における貯蔵弾性率が100MPa以上であることから、表4に示す120℃における貯蔵弾性率が上記値未満のポリマーH’を用いて得られた電解質と比較して、高温環境下における機械的強度に優れるといえる。
なお、2018年12月07日に出願された日本特許出願2018-230213号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容および2019年02月28日に出願された日本特許出願2019-036638号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0107】
10 膜電極接合体
11 触媒層
12 ガス拡散層
13 アノード
14 カソード
15 固体高分子電解質膜