IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 愛知製鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図1
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図2
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図3
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図4
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図5
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図6
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図7
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図8
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図9
  • 特許-磁気マーカの診断システム及び診断方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】磁気マーカの診断システム及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/08 20060101AFI20230926BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20230926BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20230926BHJP
【FI】
G01V3/08 A
G01B7/00 101H
G05D1/02 A
G05D1/02 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021502227
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007251
(87)【国際公開番号】W WO2020171232
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019031100
(32)【優先日】2019-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】青山 均
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230423(WO,A1)
【文献】特開2019-2772(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230422(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181053(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141869(WO,A1)
【文献】特開2001-307284(JP,A)
【文献】国際公開第2002/004937(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
G01V 3/08
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両によって磁気的に検出可能なように走路に間隔を空けて敷設された磁気マーカの運用状況を診断する診断システムであって、
前記磁気マーカが周囲に作用する磁気の大きさを計測して1次元あるいは2次元的な磁気分布を取得する磁気計測部と、
磁気マーカを撮像することで1次元あるいは2次元的な画像情報を表すマーカ画像を取得する撮像部と、
磁気マーカの欠陥の有無を判断する診断部と、を備え、
該診断部は、
いずれか一の磁気マーカについて前記磁気計測部により取得された磁気分布の中心を特定すると共に、
前記いずれか一の磁気マーカについて前記撮像部により取得されたマーカ画像のうち磁気マーカの占有領域であるマーカ領域の中心と、前記磁気分布の中心と、の位置的な偏差、及び
前記磁気分布の中心を基準とした前記マーカ画像の対称性あるいは当該マーカ画像中のマーカ領域の対称性を表す指標、
のうちの少なくともいずれかに関する閾値処理によって磁気マーカの欠陥の有無を判断するように構成されている、磁気マーカの診断システム。
【請求項2】
請求項1において、前記磁気計測部による磁気の検出エリアの基準点と、前記撮像部による撮像エリアと、の位置関係を表す情報を記憶する記憶部と、
車両の運動の推定結果、及び前記磁気の検出エリア内の基準点と前記撮像エリアとの位置関係に基づいて、該磁気の検出エリアを該撮像エリアに対応付ける処理部と、を含む磁気マーカの診断システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記マーカ画像において、磁気マーカの占有領域であるマーカ領域と、走路の表面である路面に対応する路面領域と、の境界を特定し、前記マーカ領域の外縁をなす境界の中央に当たる位置を前記マーカ領域の中心と特定する磁気マーカの診断システム。
【請求項4】
請求項1または2において、前記マーカ画像のうち磁気マーカの占有領域であるマーカ領域に属する各画素の画素値を加重して得られる当該各画素の平均位置を前記マーカ領域の中心と特定する磁気マーカの診断システム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項において、前記磁気マーカは、走路の表面をなす路面よりも深い位置に埋設され、前記マーカ画像は、該埋設された磁気マーカに対応して路面に設けられた目印、あるいは磁気マーカを埋設するために路面に穿設された収容穴に蓋をする栓を撮像した画像である磁気マーカの診断システム。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項において、前記磁気マーカは、走路の表面をなす路面に配置されたシート状の磁気マーカであり、前記マーカ画像は、該シート状の磁気マーカを撮像した画像である磁気マーカの診断システム。
【請求項7】
車両によって磁気的に検出可能なように走路に敷設された磁気マーカの運用状況を診断する方法であって、
前記磁気マーカが周囲に作用する磁気の大きさを計測して1次元あるいは2次元的な磁気分布を取得する磁気分布取得処理と、
磁気マーカを撮像することで1次元あるいは2次元的な画像であるマーカ画像を取得する画像取得処理と、
いずれか一の磁気マーカについて前記磁気分布取得処理及び前記画像取得処理により取得された磁気分布と前記マーカ画像との比較に基づいて当該いずれか一の磁気マーカの欠陥の有無を判断する診断処理と、を含み、
当該診断処理は、
いずれか一の磁気マーカについて前記磁気分布取得処理により取得された磁気分布の中心を特定すると共に、
前記いずれか一の磁気マーカについて前記画像取得処理により取得されたマーカ画像のうち磁気マーカの占有領域であるマーカ領域の中心と、前記磁気分布の中心と、の位置的な偏差、及び
前記磁気分布の中心を基準とした前記マーカ画像の対称性あるいは当該マーカ画像中のマーカ領域の対称性を表す指標、
のうちの少なくともいずれかに関する閾値処理によって当該いずれか一の磁気マーカの欠陥の有無を判断する処理である、磁気マーカの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路に敷設された磁気マーカを診断するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路に敷設された磁気マーカを車両制御に利用するためのマーカ検出システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このようなマーカ検出システムを用いて、例えば車線に沿って敷設された磁気マーカを検出すれば、自動操舵制御や車線逸脱警報や自動運転など各種の運転支援を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-202478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のマーカ検出システムでは、次のような問題がある。すなわち、長期に渡る運用中に磁気マーカが損傷し、検出漏れや誤検出が生じるおそれがあるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、磁気マーカの運用状況を診断するためのシステムあるいは方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両によって磁気的に検出可能なように走路に敷設された磁気マーカの運用状況を診断するシステムあるいは方法である。本発明では、磁気分布とマーカ画像との比較に基づいて磁気マーカの欠陥の有無が判断される。
【発明の効果】
【0007】
磁気的に取得される磁気分布と、光学的に取得されるマーカ画像と、の組合せによれば、磁気的な方法のみ、あるいは光学的な方法のみによって磁気マーカを診断する場合と比べて、精度高く磁気マーカを診断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1における、磁気マーカを診断する診断車両を示す説明図。
図2】実施例1における、磁気マーカを示す図。
図3】実施例1における、診断システムの構成を示すブロック図。
図4】実施例1における、磁気マーカを通過する際の進行方向の磁気計測値の時間的な変化を例示する説明図。
図5】実施例1における、車幅方向に配列された磁気センサCnによる車幅方向の磁気計測値の分布曲線を例示する説明図。
図6】実施例1における、マーカ検出処理の流れを示すフロー図。
図7】実施例1における、診断処理の流れを示すフロー図。
図8】実施例1における、マーカ画像を例示するグラフ。
図9】実施例1における、マーカ画像にエッジング処理を施した加工画像を例示するグラフ。
図10】実施例2における、2次元的なマーカ画像を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、車両によって検出可能なように走路に敷設された磁気マーカ10の運用状況を診断する方法及びシステムに関する例である。この内容について、図1図9を用いて説明する。
【0010】
本例の磁気マーカ10の診断方法では、磁気マーカ10(図1)が周囲に作用する磁気の大きさを計測して1次元的な磁気分布が取得されると共に、磁気マーカ10を撮像することで1次元的な画像情報であるマーカ画像が取得される。そして、磁気分布とマーカ画像との比較に基づいて磁気マーカ10の欠陥の有無が判断される。本例では、この診断方法を実行する診断システムの一例として診断車両1を例示する。
【0011】
診断対象である磁気マーカ10は、診断車両1が走行する道路の路面100S(図1参照。)に敷設される道路マーカである。磁気マーカ10は、例えば、左右のレーンマークで区画された走行区分である車線(図示略)の中央に沿って3m間隔で配列されている。
【0012】
磁気マーカ10は、図1及び図2のごとく、直径20mm、高さ28mmの柱状をなしている。磁気マーカ10は、路面100Sに対して上端面が面一をなす状態で、路面100Sに設けた孔に収容されて敷設される。磁気マーカ10が敷設された道路の路面100Sでは、磁気マーカ10の上端面がなす直径20mmの円形状のパターンが現れる。
【0013】
磁気マーカ10をなす磁石は、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料中に分散させたフェライトプラスチックマグネットである。この磁石は、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/mという特性を備えている。
【0014】
本例の磁気マーカ10の仕様の一部を表1に示す。
【表1】
【0015】
診断車両1では、磁気を計測する後述のセンサユニット11の取付け高さとして100~250mmの範囲が想定されている。磁気マーカ10は、この100~250mmの範囲のうちの上限の250mm高さにおいて、8μT(マイクロテスラ)の磁束密度の磁気を作用できる。なお、磁気マーカ10をなす磁石の表面磁束密度Gsは45mT(ミリテスラ)となっている。
【0016】
診断車両1は、図1及び図3のごとく、磁気センサCnを含むセンサユニット11、磁気マーカ10を検出する検出ユニット12、磁気マーカ10を撮像するためのラインセンサカメラ13、及び磁気マーカ10の欠陥の有無を判断する診断ユニット15、等を備えている。以下、診断車両1の各構成について説明する。
【0017】
(センサユニット)
センサユニット11(図3)は、磁気計測部の一例をなす磁気検出ユニットである。センサユニット11は、路面100Sに対面する姿勢で、例えば車両のフロントバンパーの内側に取り付けられる。本例の診断車両1の場合、路面100Sを基準とした取付け高さが200mmとなっている。
【0018】
センサユニット11は、車幅方向に沿って10cm間隔で配列された15個の磁気センサCnと、出力データを生成するデータ生成回路110と、を備えている。センサユニット11は、15個の磁気センサCnのうちの中央の磁気センサC8が、診断車両1の車幅方向の中央に位置するように取り付けられる。
【0019】
データ生成回路110は、磁気センサCnによる磁気計測値の車幅方向の1次元的な磁気分布を表す磁気分布データを生成して外部出力する回路である。データ生成回路110は、各磁気センサCnを同期して動作させると共に、各磁気センサCnが同じタイミングで計測した磁気計測値を順番に読み出して車幅方向の磁気分布データを生成する。なお、本例のセンサユニット11(データ生成回路110)が磁気分布データを生成する周波数は3kHzである。
【0020】
磁気検出部の一例である磁気センサCnは、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するという公知のMI効果(Magnet Impedance Effect)を利用して磁気を計測するMIセンサである。磁気センサCnは、直交する2方向の磁気成分の大きさを検出可能に構成されている。センサユニット11では、診断車両1の進行方向の磁気成分、及び車幅方向の磁気成分を感知可能なように磁気センサCnが組み込まれている。データ生成回路110は、下記の2種類の車幅方向の磁気分布データを生成可能である。
【0021】
(第1の磁気分布データ)
センサユニット11を構成する各磁気センサCnが計測する進行方向の磁気計測値の分布(車幅方向の分布)である磁気分布データ。
(第2の磁気分布データ)
センサユニット11を構成する各磁気センサCnが計測する車幅方向の磁気計測値の分布(車幅方向の分布)である磁気分布データ。
【0022】
磁気センサCnは、磁束密度の測定レンジが±0.6mTであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02μTという高い感度を実現している。上記のように磁気マーカ10(図1)は、センサユニット11の取付け高さとして想定される範囲の上限である250mmにおいて8μT程度の磁気を作用する。磁束分解能が0.02μTの磁気センサCnであれば、磁気マーカ10の磁気を確実性高く感知できる。
【0023】
磁気センサCnの仕様の一部を表2に示す。
【表2】
【0024】
(検出ユニット)
検出ユニット12(図3)は、センサユニット11から上記の第1及び第2の磁気分布データを取得して各種の演算処理を実行する演算ユニットである。検出ユニット12は、演算処理を実行するCPU(central processing unit)、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子、等を含んで構成されている。
【0025】
検出ユニット12は、第1及び第2の磁気分布データについて各種の演算処理を実施する。演算処理としては、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理等がある。詳しくは後述するが、このマーカ検出処理では、前記第1の磁気分布データを利用して磁気マーカ10が検出され、前記第2の磁気分布データを利用して磁気マーカ10に対する診断車両1の横ずれが計測される。
【0026】
検出ユニット12は、マーカ検出処理の結果を反映したマーカ検出情報のほか、上記の第1及び第2の磁気分布データを診断ユニット15に入力する。マーカ検出情報には、少なくとも、磁気マーカ10が検出された旨、マーカ検出時刻、横ずれ等が含まれている。第1及び第2の磁気分布データは、センサユニット11による磁気分布データの生成周波数である3kHzの頻度で診断ユニット15に入力される。
【0027】
(ラインセンサカメラ)
ラインセンサカメラ13は、磁気マーカ10を撮像する撮像部の一例をなし、例えば、診断車両1の底面に取り付けられる。ラインセンサカメラ13は、撮像素子(図示略)が1列に配列され、撮像領域が1次元である。この点で、撮像素子が2次元的に配列されたエリアセンサカメラとは異なっている。ラインセンサカメラ13は、診断車両1の前後方向においてセンサユニット11に隣接すると共に(図1参照。)、診断車両1の車幅方向の中央に当たる位置に取り付けられている。ラインセンサカメラ13の光軸は、路面100Sを撮像できるように真下を向いている。このラインセンサカメラ13の撮像エリアは、センサユニット11による磁気の検出エリアをカバーしている。ラインセンサカメラ13は、センサユニット11による磁気分布データの生成タイミングと同期して3kHzの周波数で撮像動作を実行し、撮像する毎に1次元的な画像情報をなす1次元画像データを診断ユニット15に入力する。
【0028】
なお、ラインセンサカメラ13と路面100Sとの距離を十分に確保できない場合、1つのカメラのみによってはセンサユニット11の検出エリアの全体をカバーできないこともある。この場合には、例えば、センサユニット11における磁気センサCnと同様、車幅方向に沿って複数のラインセンサカメラを配列することも良い。複数のラインセンサカメラの1次元画像を合成し、車幅方向に長い1次元画像を生成すると良い。
【0029】
路面100Sとの距離を確保できるよう、診断車両1の前面あるいは後端面の上部(例えば屋根の近く)にラインセンサカメラ等の撮像部を取り付けることも良い。この場合、ラインセンサカメラ等の撮像部は、センサユニットと異なる位置に配設されていても良い。ただし、この場合には、撮像部による撮像エリアと、センサユニットによる検出エリア内の基準点と、の位置関係を表す情報を記憶する記憶部を設けると良い。
【0030】
センサユニットによる磁気的な検出エリアは、領域の外縁が不明確である。そこで、検出エリアの基準点として、センサユニットの中心に対応する位置や、特定の磁気センサCnの直下の位置などを設定すると良い。一方、撮像エリアは、センサユニットによる検出エリアとは相違し、領域の外縁が明確である。検出エリアの基準点に対する撮像エリアの位置関係は、検出エリアの基準点と撮像エリアの中心との位置関係であっても良く、検出エリアの基準点と撮像エリアとの距離であっても良い。位置関係を表す情報は、車両の進行方向(前後方向)及び車幅方向における位置的なずれの情報などがある。
【0031】
撮像部が特定のエリアを撮像する時点と、センサユニットがそのエリアの磁気分布を取得する時点と、の間の車両(診断車両など)の運動を推定する処理部を設けると良い。移動ベクトルや回頭角等で表される車両の運動は、車速やステアリング操舵角やヨーレートなどから推定可能である。さらに、センサユニットによる検出エリア内の基準点と、撮像部の撮像エリアと、の位置関係、及び車両運動の推定結果に基づき、センサユニットによる検出エリアを撮像エリアに対応付ける処理を実行する処理部を設けると良い。このような構成を採用すれば、撮像部とセンサユニットとが異なる位置に配設されている車両であっても、磁気分布とマーカ画像との比較を精度高く実行できる。これにより、撮像部及びセンサユニットの設置自由度を向上できる。
【0032】
(診断ユニット)
診断ユニット15は、磁気マーカ10の欠陥の有無を判断する機能を備える診断部の一例をなすユニットである。診断ユニット15は、センサユニット11による磁気分布と、ラインセンサカメラ13によるマーカ画像と、の比較に基づいて磁気マーカ10の欠陥の有無を判断する。診断ユニット15は、演算処理を実行するCPU、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子、等を含んで構成されている。
【0033】
診断ユニット15は、検出ユニット12からマーカ検出情報及び磁気分布データを取得すると共に、ラインセンサカメラ13による1次元画像データを取得する。診断ユニット15は、過去の所定期間に渡る磁気分布データ及び1次元画像データを記憶可能である。診断ユニット15は、新たな磁気分布データあるいは1次元画像データを取得すると、最古のデータを消去してデータの空き領域を確保し、新たな磁気分布データあるいは1次元画像データを記憶する。これにより診断ユニット15は、最新の時点(現在)を基準として過去の所定期間に渡る磁気分布データあるいは1次元画像データを記憶している状態を保持する。
【0034】
次に、以上のように構成された診断車両1が磁気マーカ10を診断する手順について説明する。まず、磁気マーカ10を検出するための(1)マーカ検出方法を説明した後、(2)マーカ検出処理、及び(3)磁気マーカの診断処理の内容を説明する。
【0035】
(1)マーカ検出方法
上記のごとく、センサユニット11の磁気センサCnは、診断車両1の進行方向及び車幅方向の磁気成分を計測できる。例えばいずれかの磁気センサCnが、進行方向に移動して磁気マーカ10の真上を通過するとき、いずれかの磁気センサCnの進行方向の磁気計測値は、図4のごとく磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。したがって、診断車両1の走行中では、いずれかの磁気センサCnが検出する進行方向の磁気について、その正負が反転するゼロクロスX1が生じたとき、センサユニット11が磁気マーカ10の真上に位置すると判断できる。
【0036】
また例えば、磁気センサCnと同じ仕様の磁気センサについて、磁気マーカ10の真上を通過する車幅方向の仮想線に沿う移動を想定してみる。この磁気センサによる車幅方向の磁気計測値は、磁気マーカ10を挟んだ両側で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。15個の磁気センサCnを車幅方向に配列したセンサユニット11の場合には、図5のごとく、磁気マーカ10を介してどちらの側にあるかによって磁気センサCnが検出する車幅方向の磁気の正負が異なってくる。
【0037】
つまり、図5の磁気計測値の分布曲線では、ゼロクロスX2の位置が磁気マーカ10の真上の位置を示している。例えば同図の場合、磁気センサC9とC10との中間辺りのC9.5のゼロクロスX2の位置が磁気マーカ10の真上の位置(以下、磁気マーカ10の位置という。)となっている。ここで、上記のごとくセンサユニット11では、隣り合う磁気センサCnの間隔が10cmであると共に、磁気センサC8が診断車両1の車幅方向の中心となっている。したがって、図5の場合であれば、診断車両1の車幅方向の中心を基準として右側に(9.5-8)×10cm=15cmずれた位置が磁気マーカ10の位置となる。なお、この磁気マーカ10の位置は、後述する診断処理において、磁気分布の分布中心の位置LTxとして取り扱われる。
【0038】
例えば車幅方向において診断車両1が左側に寄って走行すると、センサユニット11に相対して磁気マーカ10が右側にずれて、例えば図5のごとくゼロクロスX2の位置が磁気センサC8よりも右側の正値となる。診断車両1が右側に寄ったときの横ずれを正側とし左側に寄ったときの横ずれを負側とすると、例えば図5の場合には、磁気マーカ10の位置である上記の(9.5-8)×10cm=15cmの正負を反転した(-15)cmが診断車両1の横ずれとなる。
【0039】
(2)マーカ検出処理
図6のマーカ検出処理は、検出ユニット12による磁気マーカ10の検出処理である。検出ユニット12は、センサユニット11から取得した前記第1及び第2の磁気分布データについて、上記(1)のマーカ検出方法を適用することでマーカ検出処理を実行する。
【0040】
検出ユニット12は、上記第1の磁気分布データを構成する磁気センサCnの進行方向の磁気計測値を取得する(S101)。そして、少なくともいずれかの磁気センサCnの進行方向の磁気計測値の経時変化につき、図4のX1に相当するゼロクロスの検出を試みる(S102)。検出ユニット12は、このゼロクロスを検出するまで(S102:NO)、磁気センサCnの進行方向の磁気計測値(第1の磁気分布データ)を繰り返し取得する(S101)。
【0041】
検出ユニット12は、進行方向の磁気計測値の経時変化につき図4のX1に相当するゼロクロスを検出できたとき(S102:YES)、磁気マーカ10の真上にセンサユニット11が位置していると判断し、マーカ検出時刻として現在時刻を記憶する。なお、磁気マーカ10の検出判断については、図4のX1に相当するゼロクロスの検出に加えて、進行方向の磁気計測値の経時変化の割合、すなわち磁気計測値の微分値(差分値)の大きさが所定の閾値以上であるという条件を設定することも良い。
【0042】
検出ユニット12は、図4のX1に相当するゼロクロスの検出に応じて磁気マーカ10を検出できたとき、マーカ検出時刻における磁気センサCnの車幅方向の磁気計測値の分布を表す上記の第2の磁気分布データを取得する(S103、磁気分布取得処理)。検出ユニット12は、磁気センサCnの車幅方向の磁気計測値の分布(第2の磁気分布データが表す磁気分布)について、図5のX2に相当するゼロクロスの車幅方向の位置を特定する(S104)。そして、このゼロクロスの車幅方向の位置に基づいて、磁気マーカ10に対する診断車両1の車幅方向の横ずれを特定する(S105)。具体的には、検出ユニット12は、図5のX2に相当するゼロクロスの車幅方向の位置LTxを示す値の正負を反転し、車幅方向の横ずれとする。
【0043】
(3)磁気マーカの診断処理
診断ユニット15による磁気マーカ10の診断処理の内容について、図7を参照して説明する。診断ユニット15は、検出ユニット12によって磁気マーカ10が検出されたとき(S201:YES)、ステップS202に移行し磁気マーカ10の診断処理を実行する。なお、診断ユニット15は、検出ユニット12から取得するマーカ検出情報に基づいて、磁気マーカ10が検出されたことを把握できる。上記のごとくこのマーカ検出情報には、磁気マーカ10が検出された旨のほか、マーカ検出時刻、横ずれが含まれている。
【0044】
診断ユニット15は、過去の所定期間に渡る磁気分布データの記憶領域を参照し、磁気マーカ10が検出された時点(マーカ検出時刻)の第2の磁気分布データを読み込む(S202)。そして診断ユニット15は、第2の磁気分布データが表す磁気分布のゼロクロスX2(図5参照)の車幅方向の位置LTxを、磁気分布における分布中心の位置として特定する。なお、車幅方向の分布中心位置LTxは、例えば、診断車両1の車幅方向の中央を基準とした位置であると良い。なお、マーカ検出情報に含まれる横ずれの正負を反転した値を分布中心位置LTxとしても良い。
【0045】
また、診断ユニット15は、過去の所定期間に渡って記憶している1次元画像データの記憶領域を参照し、マーカ画像の元データとしてマーカ検出時刻の1次元画像データを読み込む(S204、画像取得処理)。そして、輪郭を強調するエッジング処理や2値化処理等の画像処理をマーカ画像に施して、磁気マーカ10と路面100Sとの境界であるエッジを抽出する。例えば図8のマーカ画像において隣り合う画素の値(画素値)の差分を求めれば(エッジング処理の一例)、マーカ領域と路面領域(路面に対応する画像領域)との境界で差分値(絶対値)が大きくなっている図9の加工画像を生成できる。診断ユニット15は、この加工画像の画素値である差分値について、2値化処理(閾値処理)を施すことでエッジを抽出する(S205)。
【0046】
例えば図8のごとく路面領域よりもマーカ領域の方が明るく画素値が大きい場合には、路面領域からマーカ領域に至る境界に当たる位置で、差分値が正側の閾値を上回るアップエッジが抽出される(図9)。また、マーカ領域から路面領域に至る境界に当たる位置で、差分値が負側の閾値を下回るダウンエッジが抽出される(図9)。
【0047】
診断ユニット15は、アップエッジの車幅方向の位置LTuと、ダウンエッジの車幅方向の位置LTdと、の中点に当たる位置を、図9のマーカ画像におけるマーカ領域の車幅方向の中心である中心位置LTcとして特定する(S206)。このとき、図5の磁気分布における分布中心位置LTxと同様、診断車両1の車幅方向の中央を基準とした中心位置LTcを求めると良い。
【0048】
診断ユニット15は、第2の磁気分布データが表す磁気分布の分布中心位置LTx(図5)と、マーカ画像におけるマーカ領域の車幅方向の中心位置LTc(図9)と、の差分の大きさ(位置的な偏差)に関する閾値処理を実行する(S207、閾値処理部)。診断ユニット15は、分布中心位置LTxと中心位置LTcとの差分の大きさが閾値未満であれば(S207:YES)、磁気マーカ10の周辺に磁気分布が形成されていると判断する。そしてこの場合には、診断ユニット15は、欠陥がない正常な磁気マーカ10であると判断する(S208)。
【0049】
一方、分布中心位置LTxと中心位置LTcとの差分の大きさが閾値以上であるときには(S207:NO)、診断ユニット15は、磁気マーカ10を中心として磁気分布が形成されていないと判断する。そして診断ユニット15は、磁気マーカ10に生じた何らかの欠陥に起因して、磁気分布が乱れていると判断する(S218)。
【0050】
以上のように本例の磁気マーカの診断方法は、磁気マーカの磁気分布と、磁気マーカの撮像画像であるマーカ画像と、を比較することで、磁気マーカの欠陥の有無を判断する方法である。この診断方法では、磁気分布の分布中心位置LTxと、マーカ画像中のマーカ領域の中心位置LTcと、の位置的な偏差に着目して、磁気分布とマーカ画像とを比較している。例えば、磁気マーカに割れなどの欠陥があれば、磁気分布に乱れやアンバランスが生じる可能性が高い。このような場合、磁気分布における分布中心位置LTxが、マーカ画像におけるマーカ領域の中心位置LTcからずれる可能性が高い。このように本例の診断方法によれば、欠陥が生じ始めているものの、まだ車両側で検出可能な磁気を発生できているという比較的早期の段階で、磁気マーカの欠陥を発見できる。磁気マーカの欠陥を早期に診断できれば、欠陥の疑いのある磁気マーカについてメンテナンスあるいは点検を要する旨の情報を早期に生成できる。
【0051】
本例では、輪郭を強調するエッジング処理をマーカ画像に施して得られた図9の加工画像について、マーカ領域と路面領域との境界であるアップエッジおよびダウンエッジを特定している。そして、マーカ領域の外縁をなすアップエッジの位置LTuとダウンエッジの位置LTdとの中点(中央の位置)を、マーカ領域の中心位置LTcとして取り扱っている。この中点は、マーカ領域の領域的な重心でもある。アップエッジの位置LTuからダウンエッジの位置LTdまでのマーカ領域について輝度的な重心を求め、マーカ領域の中心として取り扱うことも良い。この場合、輝度的な重心と、磁気分布の分布中心(図5参照。)と、の位置的なずれに応じて磁気マーカの欠陥の有無を判断できる。ここで、領域的な重心とは、マーカ領域に属する各画素の重みの違いを考慮することなく求まる各画素の平均位置である。輝度的な重心は、マーカ領域に属する各画素の画素値(輝度値)を加重して得られる各画素の平均位置である。
【0052】
また、図5中の分布中心位置LTxに対応する位置を基準としたマーカ画像の対称性を調べ、対称性が十分でない場合に欠陥の疑いがあると診断することも良い。対称性の指標としては、例えば、基準となる位置の両側の画素値の積分値の差分などを採用できる。この差分の大きさが閾値よりも小さい場合には、磁気マーカに欠陥がないと診断する一方、閾値を超える場合には欠陥の疑いがあると診断できる。
【0053】
本例では、磁気マーカ10の上端面が路面100Sと面一になるように磁気マーカ10を敷設することで、路面100Sに磁気マーカ10を露出させて撮像可能としている。これに代えて、磁気マーカ10を埋設する一方、例えば、ペイント等によるマークや樹脂製のマーカ等を目印として磁気マーカ10の真上に配設することも良い。路面100Sに設けた孔に磁気マーカ10を収容した後、マーカとなる樹脂製の栓で蓋をすることも良い。この場合には栓が磁気マーカの目印となり得る。また、本例の柱状の磁気マーカ10に代えて、シート状の磁気マーカを採用し、路面100Sに貼り付けることも良い。路面100Sに配置された磁気マーカは、カメラ等によって撮像可能である。
【0054】
(実施例2)
本例は、実施例1の構成に基づいて、磁気マーカの欠陥の有無を判断する方法を変更した例である。この内容について図10を参照して説明する。
実施例1では、1次元画像データであるマーカ画像と磁気分布とを比較して磁気マーカ10の欠陥の有無を判断している。本例は、1次元画像データに基づいて2次元的なマーカ画像を生成し、磁気マーカが占有するマーカ領域10Rの中心Cを利用して欠陥の有無を判断する。
【0055】
実施例1で参照した図7中のステップS204に代えて、本例の診断ユニットは、マーカ検出時刻を中央の時点とした所定時間に渡る複数の1次元画像データを読み込む。なお、この所定時間は、磁気マーカの直径である20mmを診断車両が通過するのに要する時間が設定される。例えば、所定時間は、診断車両の走行速度によって、40mm(直径20mmに余裕を持たせた長さ)を除算することで算出可能である。
【0056】
診断ユニットは、読み込んだ複数の1次元画像データに基づいて2次元的なマーカ画像を生成する。例えば複数の1次元画像データを進行方向(時間方向)に積み上げれば、図10のような2次元的なマーカ画像を生成できる。なお、同図は、車幅方向の位置が横軸に規定され、進行方向の位置が縦軸に規定されたグラフである。同図の原点O(オー)は、マーカ検出時刻における分布中心位置(図5中のLTx)に対応している。磁気マーカを中心として理想的な磁気分布が形成されていれば、マーカ画像における磁気マーカの中心が原点Oに位置することになる。
【0057】
診断ユニットは、図10のマーカ画像に画像処理を施し、磁気マーカの占有領域であるマーカ領域10Rを抽出する。そして診断ユニットは、マーカ領域10Rの中心Cを特定し、さらに中心Cの車幅方向の位置LTc、進行方向の位置LGcを特定する。例えば、車幅方向の位置LTc、進行方向の位置LGcがいずれも閾値未満であれば、磁気マーカに欠陥がないと判断し、いずれかが閾値以上であれば、磁気マーカに欠陥のおそれがあると判断しても良い。
【0058】
なお、原点Oから中心Cまでの距離に関する閾値処理により欠陥の有無を判断することも良い。原点Oから中心Cまでの距離は、例えば三角法の定理等により算出できる。
マーカ領域10Rの中心(中央の位置)Cは、領域的な重心であっても良く、輝度的な重心であっても良い。さらには、車幅方向におけるマーカ領域10Rの分布範囲の中点と、進行方向におけるマーカ領域10Rの分布範囲の中点と、により規定される位置を、中心(中央の位置)として取り扱っても良い。
【0059】
ラインセンサカメラに代えて、2次元的な画像を取得するエリアセンサカメラを採用することも良い。エリアセンサカメラによれば、図10と同様の2次元的なマーカ画像を取得できる。1次元的に磁気センサを配列したセンサユニットに代えて、2次元的に磁気センサを配列したセンサユニットを採用しても良い。このセンサユニットを磁気計測部として採用すれば、2次元的な磁気分布を取得できる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0060】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して上記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0061】
1 診断車両
10 磁気マーカ
11 センサユニット(磁気計測部)
110 データ生成回路
12 検出ユニット(ユニット)
13 ラインセンサカメラ(撮像部)
15 診断ユニット(診断部)
Cn 磁気センサ(nは1~15の整数)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10