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特許7355226イソブチレンの製造方法、メタクリル酸の製造方法及びメタクリル酸メチルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】イソブチレンの製造方法、メタクリル酸の製造方法及びメタクリル酸メチルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/24 20060101AFI20230926BHJP
   C07C 11/09 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 51/23 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20230926BHJP
   B01J 21/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C07C1/24
C07C11/09
C07C57/05
C07C51/23
C07C69/54 Z
C07C67/08
B01J21/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022512192
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013218
(87)【国際公開番号】W WO2021200795
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020064207
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】二宮 航
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/170686(WO,A1)
【文献】特開2012-219042(JP,A)
【文献】特開昭47-014068(JP,A)
【文献】国際公開第2012/096367(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002649(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブタノールを含む原料ガスを、触媒に接触させて、イソブタノールからイソブチレンを製造するイソブチレンの製造方法であって、
絶対圧として120kPa以上の圧力下で、前記イソブタノールを含む原料ガスを1.20cm/s以上の線速度で触媒に接触させて、イソブタノールからイソブチレンを製造する、イソブチレンの製造方法。
【請求項2】
前記イソブタノールを含む原料ガスに含まれるイソブタノールの濃度が、15体積%以上100体積%以下である、請求項1に記載のイソブチレンの製造方法。
【請求項3】
前記触媒の粒子径が、700μm以上10000μm以下である、請求項1又は2に記載のイソブチレンの製造方法。
【請求項4】
前記触媒が、アルミナを含む触媒である、請求項1から3のいずれか一項に記載のイソブチレンの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のイソブチレンの製造方法によって製造されたイソブチレンからメタクリル酸を製造する、メタクリル酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のイソブチレンの製造方法によって製造されたイソブチレンからtert-ブチルアルコールを得た後、得られたtert-ブチルアルコールからメタクリル酸を製造する、メタクリル酸の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のメタクリル酸の製造方法によって製造されたメタクリル酸とメタノールとからメタクリル酸メチルを製造する、メタクリル酸メチルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブチレンの製造方法、メタクリル酸の製造方法及びメタクリル酸メチルの製造方法に関する。
本願は、2020年3月31日に日本出願された特願2020-064207号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
イソブチレンは、エチルtert-ブチルエーテル、パラキシレン、メタクリル酸メチル等に変換される重要な化学品原料の一つである。例えば、イソブチレン、又はイソブチレンを水和したtert-ブチルアルコールを気相接触酸化してメタクリル酸を得た後、メタノールとエステル化させることでメタクリル酸メチルを製造できる。
【0003】
イソブチレンの製造方法としては、例えば、加圧下でアルミナ等の触媒にイソブタノールを接触させ、イソブタノールを脱水させてイソブチレンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/170686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工業的にイソブタノールの脱水によりイソブチレンを製造するためには、高い転化率でイソブタノールを反応させて、高い選択率でイソブチレンを製造することが望ましい。
しかしながら、加圧下でイソブタノールの脱水を行うと、イソブチレンの選択率は向上する場合があるが、イソブタノールの転化率は低下する傾向があることが判明した。
【0006】
そこで、本発明は、加圧下でイソブタノールの転化率の低下を抑制しつつ、高い選択率でイソブタノールからイソブチレンを製造するイソブチレンの製造方法、並びに前記イソブチレンの製造方法を利用したメタクリル酸の製造方法及びメタクリル酸メチルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]イソブタノールを含む原料ガスを、触媒に接触させて、イソブタノールからイソブチレンを製造するイソブチレンの製造方法であって、絶対圧として120kPa以上の圧力下で、前記イソブタノールを含む原料ガスを1.20cm/s以上の線速度で触媒に接触させて、イソブタノールからイソブチレンを製造する、イソブチレンの製造方法。
[2]前記イソブタノールを含む原料ガスに含まれるイソブタノールの濃度が、15体積%以上100体積%以下である[1]に記載のイソブチレンの製造方法。
[3]前記触媒の粒子径が、700μm以上10000μm以下である[1]又は[2]に記載のイソブチレンの製造方法。
[4]前記触媒が、アルミナを含む触媒である[1]~[3]のいずれか1つに記載のイソブチレンの製造方法。
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載のイソブチレンの製造方法によってイソブチレンを製造し、得られたイソブチレンからメタクリル酸を製造する、メタクリル酸の製造方法。
[6][1]~[4]のいずれか1つに記載のイソブチレンの製造方法によってイソブチレンを製造し、前記イソブチレンからtert-ブチルアルコールを得た後、得られたtert-ブチルアルコールからメタクリル酸を製造する、メタクリル酸の製造方法。
[7][5]又は[6]に記載のメタクリル酸の製造方法によってメタクリル酸を製造し、得られたメタクリル酸とメタノールからメタクリル酸メチルを製造する、メタクリル酸メチルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加圧下でイソブタノールの転化率の低下を抑制しつつ、高い選択率でイソブタノールからイソブチレンを製造するイソブチレンの製造方法を提供できる。本発明によれば、本発明のイソブチレンの製造方法を用いたメタクリル酸の製造方法及びメタクリル酸メチルの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】参考例のイソブタノールの転化率の測定結果を示したグラフである。
図2】実施例1~3及び比較例1のイソブタノールの転化率、及びC4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を示したグラフである。
図3】実施例4~6及び比較例2のイソブタノールの転化率、及びC4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を示したグラフである。
図4】実施例7~9及び比較例3のイソブタノールの転化率、及びC4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を示したグラフである。
図5】実施例10~13及び比較例4のイソブタノールの転化率、及びC4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を示したグラフである。
図6】実施例14~19のイソブタノールの転化率、及びC4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を示したグラフである。
図7】実施例20、21のC4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[イソブチレンの製造方法]
本発明のイソブチレンの製造方法では、イソブタノールを含む原料ガスを触媒に接触させることで、イソブタノールからイソブチレンを製造する。例えば、イソブタノールを含む原料ガスを、触媒を充填して触媒層を形成した反応器に供給することで、イソブタノールを含む原料ガスを触媒に接触させることができる。イソブタノールの脱水の形式としては、特に限定されず、例えば、固定床、流動床を採用できる。
【0011】
本発明では、触媒に対し、イソブタノールを含む原料ガスを線速度1.20cm/s以上で接触させ、絶対圧として120kPa以上の圧力下でイソブタノールを脱水させる。これにより、加圧下でイソブタノールの転化率の低下を抑制しつつ、高い選択率でイソブチレンを製造できる。
本発明において、加圧下で転化率の低下を抑制しつつ、高い選択率でイソブチレンを製造できる要因は、以下のように考えられる。
【0012】
120kPa以上の加圧下でイソブタノールを脱水させると、イソブチレンの選択率は高くなるが、イソブタノールの転化率が低下する傾向がある。これは、加圧下で、イソブタノールを含む原料ガスを触媒に接触させる際、触媒表面の境膜の影響で、本発明で用いられる原料ガスが触媒に接触しにくくなるためだと考えられる。
【0013】
これに対し、原料ガスの線速度を1.20cm/s以上とすることで、この原料ガスを触媒に接触させる際、触媒表面の境膜の影響を受けにくくなり、イソブタノールの転化率が向上すると考えられる。
【0014】
触媒に接触させる原料ガスの線速度は、1.20cm/s以上であり、1.40cm/s以上が好ましく、1.60cm/s以上がより好ましく、1.80cm/s以上がさらに好ましく、2.00cm/s以上が殊更好ましく、2.20cm/s以上が特に好ましく、2.40cm/s以上が最も好ましい。原料ガスの線速度が前記下限値以上であれば、加圧下でのイソブタノールの転化率の低下を抑制でき、かつイソブチレンの選択率が向上する。
一方、上述の理由により、原料ガスの線速度が前記下限値以上であれば転化率は向上する傾向があるために、線速度の上限は特に限定されない。例えば、原料ガスの線速度は5000cm/s以下とすることができる。
【0015】
イソブタノールの脱水における圧力は、絶対圧として、120kPa以上であり、150kPa以上が好ましく、170kPa以上がより好ましく、190kPa以上がさらに好ましく、210kPa以上が特に好ましい。230kPa以上が殊更好ましい。脱水における圧力が前記下限値以上であれば、イソブチレンの選択率が向上する。イソブタノールの脱水における圧力は、100000kPa以下が好ましく、50000kPa以下がより好ましく、10000kPa以下がさらに好ましく、5000kPa以下が殊更好ましく、2500kPa以下が特に好ましく、1000kPa以下が最も好ましい。
前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、イソブタノールの脱水における圧力は、120kPa以上100000kPa以下が好ましく、150kPa以上50000kPa以下がより好ましく、170kPa以上10000kPa以下がさらに好ましく、190kPa以上5000kPa以下がよりさらに好ましく、210kPa以上2500kPa以下が殊更好ましく、230kPa以上1000kPa以下が特に好ましい。
イソブタノールの脱水における圧力が前記上限以下であれば、触媒に接触させる原料ガスの線速度1.20cm/s以上とするのに必要なイソブタノールの供給量を低減でき、プロセスの肥大を防ぐことができる。
脱水における圧力とは、反応器の入口の圧力に対して、圧力損失の影響を無視できる位置に設置した圧力センサーで測定される値である。
【0016】
イソブタノールの脱水における反応温度は、390℃以下が好ましく、380℃以下がより好ましく、370℃以下がさらに好ましく、360℃以下が特に好ましく、350℃以下が最も好ましい。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、異性化反応が抑制されやすく、イソブチレンへの選択性が向上する。
イソブタノールの脱水における反応温度は、240℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、260℃以上がさらに好ましく、270℃以上が特に好ましく、280℃以上が最も好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、触媒の使用量や原料ガスの供給量を低減でき、コストや生産性の点から有利である。
前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、イソブタノールの脱水における反応温度は、240℃以上390℃以下が好ましく、250℃以上380℃以下がより好ましく、260℃以上370℃以下がさらに好ましく、270℃以上360℃以下が殊更好ましく、280℃以上350℃以下が特に好ましい。
【0017】
反応が定常状態になった後に確認できる反応器内の触媒層の温度のうち、最も低い温度を反応温度とする。したがって、触媒層に温度のばらつきがある場合は、測定点を増やしたり、触媒充填方向に連続的に温度を測定したりすることが好ましい。反応温度の制御方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。
【0018】
出発原料として使用するイソブタノールとしては、特に限定されず、環境保護の点から、バイオマス由来のイソブタノールであってもよい。
「バイオマス由来のイソブタノール」とは、バイオマスの発酵性糖を用い、その発酵プロセスを経て得られた有機化合物から精製されたイソブタノール、又は、バイオマスの触媒化学変換、熱化学変換のいずれか1つ以上含むプロセスによって得られたイソブタノールである。
バイオマスは、資源作物に由来するものと、廃棄物に由来するものに大きく分けられる。資源作物に由来するバイオマスとしては、例えば、食用作物、木材、草花が挙げられ、それらの作物の未利用部分も使用できる。廃棄物に由来するバイオマスとしては、例えば、食品廃棄物、下水等の汚泥、家畜糞尿、廃紙が挙げられる。
【0019】
例えば、蒸発器で原料を蒸発させることで、原料ガスとして反応器に供給できる。蒸発器としては、特に限定されず、例えば、ジャケット型、自然循環式水平管型、自然循環式浸管型、自然循環式垂直短管型、垂直長管上昇膜型、水平管下降膜型、強制循環式水平管型、強制循環式垂直管型、コイル型が挙げられる。
【0020】
原料ガスにおいては、イソブタノールを希釈ガスで希釈することによってイソブタノール濃度を調整できる。原料ガスは、イソブタノールのみからなるガスであってもよい。
希釈ガスとしては、イソブタノールの脱水に影響を及ぼさないものであればよく、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素、水蒸気が挙げられる。イソブタノールの脱水に影響しない範囲であれば、酸素や水素を希釈ガスとして使用してもよい。原料ガスに含まれる希釈ガスは、1種でもよく、2種以上でもよい。原料ガス中には、水分が含まれていてもよい。
【0021】
原料ガス中のイソブタノール濃度は、原料ガスの総体積に対して、15.0体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましく、30体積%以上がさらに好ましく、40体積%以上が殊更好ましく、50体積%以上特に好ましく、55体積%以上が最も好ましい。
イソブタノール濃度が前記下限値以上であれば、異性化反応を抑制しやすく、イソブチレンの選択率が向上する。また、反応器を小型化しやすく設備費を低減でき、またイソブチレンの回収に要するエネルギーコストも低減できる。なお、上限は特になく、100体積%以下である。
【0022】
イソブタノールの脱水に使用する触媒としては、イソブタノールの脱水が可能である触媒であれば特に限定されず、例えば、脱水用触媒が挙げられ、なかでも酸触媒が好ましい。
酸触媒としては、例えば、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、固体リン酸、チタニアが挙げられる。触媒としては、イソブチレンの選択率が高い点から、アルミナを含有することが好ましい。
本発明においてアルミナ触媒とは、触媒総質量に対するアルミナの割合が90質量%以上の触媒を意味するものとする。触媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明で用いられるアルミナの結晶形態は特に限定されない。例えば、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、σ-アルミナ、θ-アルミナ、δ-アルミナ、アルミナ水和物が挙げられる。特に活性及び選択性の点から、γ-アルミナを含む触媒が好ましい。これらの結晶形態のアルミナは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、異なる結晶形態のものを用いてもよく、混相の結晶状態をとっていてもよい。
【0024】
本発明の触媒に用いられるアルミナは、例えば、熱分解法、沈殿法、沈着法、混練法、又はこれら方法を併用する方法を含む公知の方法で容易に製造できる。アルミナの原料としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、アルコキシド、硫酸塩、塩化物、アルミン酸アルカリ、ミヨウバン等、加熱又は加水分解によってアルミナあるいはアルミナ水和物を生成する材料が挙げられる。加水分解に使用するアルカリとしては、例えば、苛性アルカリ、炭酸アルカリ、アンモニア水、炭酸アンモニウムが挙げられる。
本発明の触媒に用いられるアルミナは、必要に応じて成形して使用してもよい。
【0025】
本発明で用いられるアルミナ触媒は、アルミナ以外の化合物を含んでいてもよい。イソブチレンの選択率が高い点から、触媒中のアルミナの含有量は、触媒の総質量に対して、95.0質量%以上が好ましく、97.0質量%以上がより好ましく、98.0質量%以上がさらに好ましく、99.0質量%以上が特に好ましく、99.5質量%以上が最も好ましい。
【0026】
アルミナ以外の化合物としては、例えば、SiO及びNaOが挙げられる。
【0027】
アルミナ触媒中のSiOの含有量は、触媒の総質量に対して、1.0質量%以下が好ましく、0.75質量%以下がより好ましく、0.50質量%以下がさらに好ましく、0.40質量%以下がよりさらに好ましく、0.30質量%以下が殊更好ましく、0.20質量%以下が特に好ましい。アルミナ中に、SiOは含まなくてもよい。
【0028】
アルミナ触媒中のNaOの含有量は、触媒の総質量に対して、0.20質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.10質量%以下がさらに好ましく、0.075質量%以下がよりさらに好ましく、0.050質量%以下が殊更好ましく、0.025質量%以下が特に好ましい。アルミナ中に、NaOは含まなくてもよい。
【0029】
触媒中のアルミナ、SiO及びNaOの含有量は、ICP発光分光分析(ICP-AES)により測定される。例えば、Perkin Elmer社製のOptima 8300 ICP-OES Spectrometerによって測定できる。
【0030】
充分な活性が得られやすい点から、触媒のBET比表面積は、40.0m/g以上が好ましく、50.0m/g以上がより好ましく、60.0m/g以上がさらに好ましく、70.0m/g以上が特に好ましく、80.0m/g以上が最も好ましい。アルミナのBET比表面積について、上限は特に限定されないが、350m/g以下であることが好ましい。
触媒のBET比表面積は、N吸脱着等温線から算出される値であり、例えば、トライスター3000(製品名、島津製作所社製)を用いて測定できる。
【0031】
触媒の粒子の大きさは、700μm以上10000μm以下が好ましく、800μm以上9500μm以下がさらに好ましく、1000μm以上9000μm以下が最も好ましい。
触媒の粒子径は、篩などで整粒した場合は篩の目開きの大きさを粒子径と定義する。また、成形した触媒の場合は、例えば、円柱形ペレットの場合は直径を粒子径と定義する。粒子径が小さすぎる場合には、反応器に充填された触媒層での圧力損失が高くなり、反応ガスを流通させるための設備費、エネルギーコストが上昇する。また、粒子径が大きすぎる場合には、触媒有効係数が小さくなり、触媒質量あたりの活性の低下を招き、イソブチレンの選択性が低下する。
【0032】
[メタクリル酸の製造方法]
本発明のメタクリル酸の製造方法は、本発明のイソブチレンの製造方法によって製造したイソブチレンを用いてメタクリル酸を製造する方法である。以下の方法(A)と方法(B)とが挙げられる。方法(A)及び方法(B)によれば、イソブチレンから高い選択率でメタクリル酸を製造できる。
【0033】
(A)本発明のイソブチレンの製造方法によってイソブチレンを製造する工程(a1)と、イソブチレンの気相酸化によりメタクリル酸を製造する工程(a2)と、を含む。
(B)本発明のイソブチレンの製造方法によりイソブチレンを製造する工程(b1)と、イソブチレンを水和してtert-ブチルアルコールを製造する工程(b2)と、イソブチレンを水和して製造したtert-ブチルアルコールの気相酸化によりメタクリル酸を製造する工程(b3)と、を含む。
【0034】
工程(b2)のイソブチレンの水和は、公知の方法で行える。イソブチレンの水和に用いる酸触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸が挙げられる。高い収率でtert-ブチルアルコールを製造できる点から、酸触媒としては、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0035】
工程(a2)のイソブチレンの気相酸化、又は工程(b3)のtert-ブチルアルコールの気相酸化は、一段で行ってもよく、二段で行ってもよい。メタクリル酸の選択率が高い点から、二段の気相酸化が好ましい。
【0036】
気相酸化を二段で実施する場合、一段目の気相酸化(第一段酸化)において第一段酸化用の触媒を用いることが好ましい。用いる触媒は、公知の触媒でよい。少なくともモリブデン及びビスマスを含む触媒が好ましい。
【0037】
このような触媒としては、式(1)で表される組成を有する触媒が好ましい。
Mo12Bia1Fea2a3a4a5a6a7 ・・・(1)
ただし、式(1)中、Mo、Bi、Fe及びOはそれぞれモリブテン、ビスマス、鉄及び酸素を示す。Mは、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。Xは、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。Yは、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。Zは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a1~a7は各元素の原子比率を表し、a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7はMo12原子に対する各元素の原子比を示し、a1=0.01~3、a2=0.01~5、a3=1.0~12、a4=0~8.0、a5=0~5.0、a6=0.001~2.0であり、a7は各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0038】
第一段酸化は固定床で行うことができる。第一段酸化の触媒層の態様は、特に限定されず、第一段酸化用の触媒のみの無希釈層でもよく、さらに不活性担体を含んだ希釈層でもよい。第一段酸化の触媒層は、単一層でもよく、複数の層からなる混合層でもよい。
【0039】
第一段酸化の原料ガス中のイソブチレン又はtert-ブチルアルコールの濃度は、1.0体積%以上が好ましく、3.0体積%以上がより好ましい。第一段酸化の原料ガス中のイソブチレン又はtert-ブチルアルコールの濃度は、20.0体積%以下が好ましく、10.0体積%以下がより好ましい。
前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第一段酸化の原料ガス中のイソブチレン又はtert-ブチルアルコールの濃度は、1.0体積%以上20.0体積%以下が好ましく、3.0体積%以上20.0体積%以下がより好ましく、3.0体積%以上10.0体積%以下がさらに好ましい。
【0040】
第一段酸化の分子状酸素源としては、空気を用いることが経済的であるが、必要に応じて純酸素で富化した空気を用いることもできる。反応ガス中のイソブチレン又はtert-ブチルアルコールと分子状酸素とのモル比(体積比)はイソブチレン又はtert-ブチルアルコール:分子状酸素=1:0.1~1:5の範囲が好ましく、1:0.5~1:3の範囲がより好ましい。
【0041】
反応ガスは、イソブチレン又はtert-ブチルアルコールと分子状酸素以外に、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス、水蒸気等で希釈して用いることが経済的である。
【0042】
第一段酸化の反応温度は、200℃以上450℃以下が好ましく、250℃以上400℃以下がより好ましい。
第一段酸化におけるイソブチレンと分子状酸素の接触時間は、0.5秒以上が好ましく、1.0秒以上がより好ましい。第一段酸化におけるイソブチレンと分子状酸素の接触時間は、10.0秒以下が好ましく、6.0秒以下がより好ましい。前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第一段酸化におけるイソブチレンと分子状酸素の接触時間は、0.5秒以上10.0秒以下が好ましく、0.5秒以上6.0秒以下がより好ましく、1.0秒以上6.0秒以下がさらに好ましい。
【0043】
第一段酸化により、メタクロレイン及びメタクリル酸が得られる。メタクロレインは二段目の気相酸化(第二段酸化)によってメタクリル酸に転化される。
【0044】
第二段酸化で用いる第二段酸化用の触媒としては、公知の触媒を用いることができる。用いる触媒としては、少なくともモリブデン及びリンを含有する触媒が好ましい。
【0045】
このような触媒としては式(2)で表される組成を有する触媒が好ましい。
a8Moa9a10Cua11a12a13Ga14a15 ・・・(2)
式(2)中、P、Mo、V、Cu及びOはそれぞれリン、モリブテン、バナジウム、銅及び酸素を示す。Aはアンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Eはカリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム、マグネシウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Gは鉄、亜鉛、クロム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、チタン、スズ、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。a8~a15は各元素の原子比率を表し、a9=12のとき、a8=0.5~3、a10=0.01~3、a11=0.01~2、a12=0~3、好ましくは0.01~3、a13=0.01~3、a14=0~4であり、a15は各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0046】
第二段酸化は固定床で行うことができる。第二段酸化の触媒層は、特に限定されず、第二段酸化用の触媒のみの無希釈層でもよく、不活性担体を含んだ希釈層でもよい。第二段酸化の触媒層は、単一層でもよく、複数の層からなる混合層でもよい。
【0047】
第二段酸化の反応ガス中のメタクロレインの濃度には制限はなく、任意の濃度に設定できるが、1.0体積%以上が好ましく、3.0体積%以上がより好ましい。また、第二段酸化の反応ガス中のメタクロレインの濃度は、20.0体積%以下が好ましく、10.0体積%以下がより好ましい。前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第二段酸化の反応ガス中のメタクロレインの濃度は、1.0体積%以上20.0体積%以下が好ましく、1.0体積%以上10.0体積%以下がより好ましく、3.0体積%以上10.0体積%以下がさらに好ましい。
【0048】
第二段酸化の分子状酸素源としては、空気を用いることが経済的であるが、必要に応じて純酸素で富化した空気を用いることもできる。
第二段酸化の反応ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1.0molに対して、0.5mol以上が好ましく、1.0mol以上がより好ましい。また、第二段酸化の反応ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1.0molに対して、4.0mol以下が好ましく、3.0mol以下がより好ましい。前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第二段酸化の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1.0molに対して、0.5mol以上4.0mol以下が好ましく、1.0mol以上4.0mol以下がより好ましく、1.0mol以上3.0mol以下がさらに好ましい。
【0049】
第二段酸化の反応ガスは、メタクロレインと分子状酸素以外に、水(水蒸気)を加えてもよい。
【0050】
第二段酸化の反応ガスは低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、第二段酸化の反応ガスは窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0051】
第二段酸化の反応圧力は、大気圧から数百kPaGまでの範囲で設定されることができる。第二段酸化の反応温度は、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、第二段酸化の反応温度は、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、第二段酸化の反応温度は、230℃以上400℃以下が好ましく、250℃以上450℃以下がより好ましく、250℃以上400℃以下がさらに好ましい。
【0052】
[メタクリル酸メチルの製造方法]
本発明のメタクリル酸メチルの製造方法は、本発明のメタクリル酸を用いてメタクリル酸メチルを製造する方法である。
本発明のメタクリル酸メチルの製造方法は、本発明のメタクリル酸を製造する工程と、メタクリル酸をメタノールとエステル化させることによりメタクリル酸メチルを製造する工程と、を含む。本発明の方法によれば、イソブチレンから高い選択率でメタクリル酸メチルを製造できる。
【0053】
例えば、本発明の製造方法によって製造されたメタクリル酸を、抽出、蒸留操作等によって回収し、酸触媒存在下、メタノールとエステル化させる。
エステル化には、触媒を用いることが好ましい。用いる触媒としては、酸触媒であることが好ましく、例えば、硫酸やイオン交換樹脂を用いることができる。イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂の具体例としては、例えば、ダイヤイオン(登録商標)、PK216、RCP12H(三菱化学社製)、レバチット(登録商標)、K2431(バイエル社製)、アンバーリスト(登録商標)15WET(ロームアンドハースジャパン社製)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
エステル化における反応流体の流れ方向は、鉛直上向き、鉛直下向きのどちらでもよく、適宜選択できる。エステル化の酸触媒として用いるイオン交換樹脂の膨潤が大きい場合は、反応流体の流れ方向は鉛直上向きが好ましい。反応流体が不均一相を形成する場合は、反応流体の流れ方向は鉛直下向きが好ましい。
【0055】
固定床型反応器にイオン交換樹脂を充填してエステル化を行う場合、メタクリル酸及びメタノールを含む原料の通液量は、イオン交換樹脂量に対する質量比で、0.10倍以上が好ましく、0.20倍以上がより好ましい。また、原料の通液量は、イオン交換樹脂量に対する質量比で、10.0倍以下が好ましく、5.0倍以下がより好ましい。前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、メタクリル酸及びメタノールを含む原料の通液量は、イオン交換樹脂量に対する質量比で、0.10倍以上10.0倍以下が好ましく、0.20倍以上10.0倍以下がより好ましく、0.20倍以上5.0倍以下がさらに好ましい。
【0056】
酸触媒として強酸性陽イオン交換樹脂を用いる場合、エステル化の反応温度は、40℃以上130℃以下が好ましい。
反応温度が40℃以上であれば、反応速度が大きく、効率的にエステル化が実施できる。
反応温度が130℃以下であれば、イオン交換樹脂の劣化速度が小さくなり、長時間連続的にエステル化できる。エステル化の反応温度は、化学平衡の観点から、適宜最適な温度に決定できる。
【0057】
原料組成は、化学平衡の観点から、メタクリル酸及びメタノールのいずれか一方の濃度を高くし、濃度の低い方の原料の転化率を高くすることによって、回収、精製工程のプロセスを簡略化できる。
【実施例
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0059】
原料ガス及び生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。イソブタノールの転化率、及び、各生成物の選択率はそれぞれ以下のように定義される。
イソブタノールの転化率(%)=(b/a)×100
C4ガスの選択率(%)=(j/b)×100
ジイソブチルエーテルの選択率(%)=(h/b)×2×100
イソブチルアルデヒドの選択率(%)=(i/b)×100
C4ガス中のイソブチレンの選択率(%)=(c/j)×100
C4ガス中のイソブタンの選択率(%)=(d/j)×100
C4ガス中の1-ブテンの選択率(%)=(e/j)×100
C4ガス中のtrans-2-ブテンの選択率(%)=(f/j)×100
C4ガス中のcis-2-ブテンの選択率(%)=(g/j)×100
a:供給したイソブタノールのモル数
b:反応したイソブタノールのモル数
c:生成したイソブチレンのモル数
d:生成したイソブタンのモル数
e:生成した1-ブテンのモル数
f:生成したtrans-2-ブテンのモル数
g:生成したcis-2-ブテンのモル数
h:生成したジイソブチルエーテルのモル数
i:生成したイソブチルアルデヒドのモル数
j:生成したC4ガス(イソブテン、イソブタン、1-ブテン、trans-2-ブテン、cis-2-ブテン)のモル数
【0060】
原料ガスの単位時間当たりの質量空間速度(WHSV)は、以下の式(3)のように定義される。
WHSV(h-1)=W1/W2・・・(3)
ただし、式(3)中、W1は、イソブタノールの単位時間当たりの供給量(g/h)である。W2は、使用した触媒量(g)である。
【0061】
触媒層に供給される原料ガス流量と線速度は、以下のように定義される。なお、下記の原料ガス流量(L/h)は、原料であるイソブタノールと希釈ガスからなる混合ガスの総流量である。
原料ガス流量(L/h)=標準状態で測定される原料ガス流量(NL/h)×101.3(kPa)/反応圧力(kPa)×反応温度(K)/273(K)
原料ガスの線速度(cm/s)=原料ガス流量(L/h)×1000/3600÷反応管の断面積(cm
【0062】
[参考例]
内径0.75cm、長さ40cmの縦型管状反応管に脱水用触媒(円柱形ペレット状、直径:3.0mmに成形されたアルミナの破砕体、γ-アルミナ相を結晶相の主成分とするアルミナ、粒子径:800~1190μm、BET比表面積:243m/g、NaO含有量:0.0500質量%未満、SiO含有量:0.100質量%未満、以後「触媒A」と称す。)0.192gを充填し、触媒層を形成した。反応器については、触媒層温度が所定温度となるように、反応管用の電気炉の設定温度を調整した。また、反応圧力が所定圧力となるように背圧弁を用いて反応圧力を調整した。次に、イソブタノール(ナカライテスク社製、カールフィッシャー法によって測定された水の量:411ppm)をダブルプランジャーポンプで0.263ml/分、200℃で加熱された気化器に導入し、蒸発させた。希釈ガスとしての窒素ガスはマスフローメーターを用いて流量16ml(標準状態)/分として当該蒸発器内に供給し、蒸発したイソブタノールと共に反応器に供給した。触媒層に供給した原料ガス中のイソブタノール濃度は79.9体積%、反応中の触媒層の温度(反応温度)は340℃であった。
【0063】
触媒層温度と反応圧力が、それぞれ所定温度±0.5℃以内、所定圧力±0.5kPa以内の変動で安定してから5分経過後、反応評価を開始した。反応が定常状態に達した後、反応器出側のガスを採取し、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-8A)でイソブチレン、イソブタン、1-ブテン、cis-2-ブテン、trans-2-ブテンの定量を行った。また、反応器出側から排出される反応ガスを、氷冷したアセトニトリル中にトラップし、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-2014)で未反応のイソブタノール、ジイソブチルエーテル及びイソブチルアルデヒドの定量を行った。反応圧力を測定するための圧力計は、蒸発器と反応器入り口の間に設置した。なお、本参考例を含めて、実施例1~19、比較例1~6の条件下のあらゆる流量範囲において、蒸発器から反応器入口までの圧力損失は無視できる程度に小さいことを確認した。各反応圧力におけるイソブタノールの転化率、生成物中のC4ガス(イソブチレン、イソブタン、1-ブテン、cis-2-ブテン、trans-2-ブテン)の選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表1及び図1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1及び図1に示すように、反応圧力が高いと、イソブチルアルコールの転化率は低下する傾向がある。
【0066】
[実施例1]
脱水用触媒として、円柱形ペレット状(直径:3.00m)に成形されたアルミナの破砕体(γ、θ、α-アルミナ相の結晶相からなるアルミナ、粒子径:800~1190μm、BET比表面積:105m/g、NaO含有量:0.0500質量%未満、SiO含有量:0.160質量%、以後「触媒B」と称す。)0.232gを内径1.0cm、長さ40cmの縦型管状反応管に充填し、反応温度と反応圧力をそれぞれ340℃、250kPaに保った。次に、イソブタノール(原料ガス中の濃度:49.8体積%)と窒素からなる原料ガスを、線速度が1.57cm/sとなるように触媒Bを0.232g充填した固定床反応器に供給し、イソブタノールとアルミナとを接触させ、生成物を得た。原料ガス流量は2.50L/h、WHSVは19.5h-1であった。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表2及び図2に示す。
【0067】
[実施例2、3及び比較例1]
反応条件を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表2及び図2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2及び図2に示すように、同じ加圧条件下の場合、原料ガスの線速度が高いほど、イソブタノール転化率とイソブチレン選択率が高まる。原料ガスの線速度と反応圧力を適切に制御した実施例1~3では、比較例1に比べて、イソブタノールの転化率の低下を抑制しつつ高い選択率でイソブチレンを製造できる。
【0070】
[実施例4]
触媒A0.232gを固定床反応器に充填し、340℃、400kPaに保った。次に、イソブタノール(原料ガス中の濃度:80.3体積%)と窒素からなる原料ガスを、線速度が2.07cm/sとなるように触媒A0.232gを充填した固定床反応器に供給し、イソブタノールとアルミナとを接触させ、生成物を得た。原料ガス流量は3.29L/h、WHSVは66.3h-1であった。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表3及び図3に示す。
【0071】
[実施例5、6及び比較例2]
反応条件を表3に示すとおりに変更した以外は、実施例4と同様にして生成物を得た。
イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表3及び図3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3及び図3に示すように、同じ加圧条件下の場合、原料ガスの線速度が高いほど、イソブタノール転化率とイソブチレン選択率が高まる。原料ガスの線速度と反応圧力を適切に制御した実施例4~6では、比較例2に比べて、イソブタノールの転化率の低下を抑制しつつ高い選択率でイソブチレンを製造できる。
【0074】
[実施例7]
触媒A0.132gを固定床反応器に充填し、340℃、200kPaに保った。次に、イソブタノール(原料ガス中の濃度:79.4体積%)と窒素とからなる原料ガスを、線速度が4.57cm/sとなるように触媒Aを0.132g充填した固定床反応器に供給し、イソブタノールとアルミナとを接触させ、生成物を得た。原料ガス流量は7.27L/h、WHSVは127h-1であった。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表4及び図4に示す。
【0075】
[実施例8、9及び比較例3]
反応条件を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例7と同様にして生成物を得た。
イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表4及び図4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4及び図4に示すように、同じ反応温度において、原料ガスの線速度と反応圧力を適切に制御した実施例7~9では、比較例3に比べて、イソブタノールの転化率の低下を抑制しつつ高い選択率でイソブチレンを製造できる。
【0078】
[実施例10]
触媒B0.591gを固定床反応器に充填し、340℃、200kPaに保った。次に、イソブタノール(原料ガス中の濃度:80.1体積%)と窒素とからなる原料ガスを、線速度が4.53cm/sとなるように前記固定床反応器に供給し、イソブタノールとアルミナとを接触させ、生成物を得た。原料ガス流量は7.21L/h、WHSVは28.4h-1であった。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表5及び図5に示す。
【0079】
[実施例11~13及び比較例4]
反応条件を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例10と同様にして生成物を得た。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表5及び図5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5及び図5に示すように、原料ガスの線速度と反応圧力を適切に制御した実施例10~13では、比較例4に比べて、転化率の低下を抑制しつつ高い選択率でイソブチレンを製造できる。
【0082】
[実施例14]
触媒B0.903gを固定床反応器に充填し、360℃、450kPaに保った。次に、イソブタノール(原料ガス中の濃度:79.9体積%)と窒素とからなる原料ガスを、線速度が1.57cm/sとなるように触媒Bを0.903g充填した固定床反応器に供給し、イソブタノールとアルミナとを接触させ、生成物を得た。原料ガス流量は2.50L/h、WHSVは14.0h-1であった。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表6及び図6に示す。
【0083】
[実施例15~19]
反応条件を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例14と同様にして生成物を得た。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表6及び図6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
表6及び図6に示すように、反応温度が高いほど転化率が高く、反応温度が低いほどイソブチレンの選択率が高くなる。
【0086】
[実施例20~21]
反応条件を表7に示すとおりに変更した以外は、実施例3と同様にして生成物を得た。イソブタノールの転化率、生成物中のC4ガスの選択率、及び、C4ガス中のイソブチレンの選択率の測定結果を表7及び図7に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
表7及び図7に示すように、反応温度が高いほど転化率が高く、反応温度が低いほどイソブチレンの選択率が高くなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7