IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7355230アルデヒドの製造方法及び触媒の製造方法
<>
  • 特許-アルデヒドの製造方法及び触媒の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】アルデヒドの製造方法及び触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/50 20060101AFI20230926BHJP
   C07C 47/02 20060101ALI20230926BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20230926BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022517295
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2022011630
(87)【国際公開番号】W WO2022209855
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021056855
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021192233
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】古城 篤志
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-010624(JP,A)
【文献】特開平10-291996(JP,A)
【文献】特開2006-281211(JP,A)
【文献】特開2006-169131(JP,A)
【文献】特開平03-218333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させるヒドロホルミル化反応によりアルデヒドを製造する方法であって、
下記(1)及び(2)の工程を含む、アルデヒドの製造方法。
(1)長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を、該混合液の液温が95℃以上135℃以下、及び、前記第8~10族遷移金属化合物由来の遷移金属に対する前記有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内で、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程
(2)前記触媒混合液の存在下、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させて前記ヒドロホルミル化反応を行う反応工程
【請求項2】
前記第8~10族遷移金属化合物由来の遷移金属の含有割合が、前記混合液の総質量に対して、40質量ppm以上500質量ppm以下である、請求項1に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項3】
前記第8~10族遷移金属化合物が、一価以上三価以下のロジウム化合物を含む、請求項1又は2に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項4】
前記一価以上三価以下のロジウム化合物が、酢酸ロジウムである、請求項3に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項5】
触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させるヒドロホルミル化反応によりアルデヒドを製造する方法において、
酢酸ロジウム、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程と、該触媒混合液の存在下、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させて前記ヒドロホルミル化反応を行う反応工程とを有し、
該前処理工程において、該水素及び一酸化炭素と接触させる該混合液の液温を95℃以上135℃以下、且つ、酢酸ロジウム由来のロジウムに対する有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内とする、アルデヒドの製造方法。
【請求項6】
酢酸ロジウム由来のロジウムの含有割合が、前記混合液の総質量に対して、40質量ppm以上500質量ppm以下である、請求項4又は5に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項7】
前記混合液を、酢酸ロジウムをアルコールに溶解したアルコール溶液と、有機リン系配位子化合物を芳香族炭化水素溶媒に溶解した芳香族炭化水素溶液とを混合することにより調製する、請求項4~6のいずれか一項に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項8】
前記アルコールがメタノールである請求項7に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項9】
前記アルコール溶液が更に水を含む、請求項7又は8に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項10】
前記有機リン系配位子化合物のリン原子換算の含有割合が、前記混合液の総質量に対して、2.8質量%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項11】
下記(3)及び(4)の工程を含む、触媒の製造方法。
(3)長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を、該混合液の液温が95℃以上135℃以下の範囲内、且つ、酢酸ロジウム由来のロジウムに対する有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内で、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程
(4)前記触媒混合液に貧溶媒を混合した後、前記第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒を晶出させ、晶出した該錯体触媒を前記触媒混合液から回収する回収工程
【請求項12】
前記(3)の工程において、反応系内の圧力を0.5MPaG以上10MPaG以下とする、請求項11に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
前記(4)の工程において、前記貧溶媒として水及びアルコールから選ばれる少なくとも1種を混合した後に、前記触媒混合液を10℃以下まで冷却する、請求項11又は12に記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
前記混合液を、前記第8~10族遷移金属化合物をアルコールに溶解したアルコール溶液と、有機リン系配位子化合物を芳香族炭化水素溶媒に溶解した芳香族炭化水素溶液とを混合することにより調製する、請求項11~13のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項15】
前記第8~10族遷移金属化合物が、一価以上三価以下のロジウム化合物を含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項16】
前記一価以上三価以下のロジウム化合物が、酢酸ロジウムである、請求項15に記載の触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素とヒドロホルミル化反応させることによりアルデヒドを製造するための、アルデヒドの製造方法及び触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジウム(Rh)等の長周期型周期表第8~10族遷移金属と有機リン化合物由来の配位子の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを製造するヒドロホルミル化反応は広く知られている。このヒドロホルミル化反応は「オキソ反応」とも称される。反応に使用される水素(H)と一酸化炭素(CO)の混合ガスは「オキソガス」と呼称されている。
【0003】
オキソ反応に使用されるRh錯体触媒等の長周期型周期表第8~10族遷移金属錯体触媒は、反応液中でオキソガスと接触して活性化され、RhH(CO)X(Xはホスフィンやホスファイト等の有機リン系の配位子)となって触媒性能を発揮する。
このため、RhH(CO)Xを形成させるために、ヒドロホルミル化反応に先立ち、ロジウム化合物等の長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物と有機リン系配位子化合物とを混合して予めオキソガスと接触させることでRhH(CO)Xを形成する前処理(プレカルボキシレーション)が行われている。
【0004】
特許文献1には、RhH(CO)(PPhを調製するために、トリフェニルホスフィン(PPh)のアルコール懸濁液と、塩化Rh(III)前駆体とを混合し、この混合物を昇温下で撹拌し、COガスを用いてスパージングする技術が開示されている。
特許文献1において、触媒の前処理は、COガスによるスパージング前の撹拌工程でも高々85℃であり、COガスによるスパージング前に液温は50℃以下に冷却される。
【0005】
しかし、ロジウム化合物として塩化Rh(III)を用いる特許文献1の方法では、以下の問題がある。
・塩化Rh(III)由来のCl成分がプラントを腐食する。
・塩化Rh(III)からRhH(CO)Xを調製した後、沈殿したRhH(CO)Xを分離し、場合によっては更にCl成分を取り除くために洗浄する必要があり、工程が煩雑になる。
【0006】
ロジウム化合物として、酢酸ロジウムを用いることで、このような問題を解消することができる。
【0007】
従来、ロジウム化合物として酢酸ロジウムを用い、Rh錯体触媒の前処理を行うことは既に行われている。
例えば、特許文献2の実施例には、酢酸ロジウム37gをメタノール2.7リットルに溶解した溶液とホスファイト化合物570gをノルマルブチルアルデヒド29kgに溶解し、85℃、0.39MPaGの条件下で一酸化炭素及び水素を含有する合成ガス(一酸化炭素:水素=1:1(モル比))の雰囲気下で2時間カルボニル化させて前処理することが記載されている。
特許文献3の実施例には、窒素置換下の100Lの撹拌機付き反応器に酢酸ロジウム38.8g、トリフェニルホスフィン15kg、トルエン70Lを仕込み、撹拌機強度1kW/mで撹拌させながらオキソガス(H/CO=1.02)で反応器内の圧力を1.7MPaGとして、熱媒などで反応液温度を70℃として前処理することが記載されている。
【0008】
【文献】特表2017-521402号公報
【文献】特開2004-202487号公報
【文献】特開2011-88899号公報
【0009】
特許文献2及び特許文献3に開示されている方法では、Rh錯体触媒を前処理して得られたRhH(CO)Xの活性は不十分である。
アルデヒドの工業的な製造においては、従来技術を更に改良して、Rh錯体触媒の活性をより一層高め、ヒドロホルミル化反応の反応速度及び目的物の収率等を高めて生産効率を向上させることが望まれている。
【発明の概要】
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、Rh錯体触媒等の長周期型周期表第8~10族遷移金属錯体触媒を用いた、原料オレフィンのヒドロホルミル化反応によるアルデヒドの製造において、前処理によるRh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒の活性化効果をより一層高め、アルデヒドを効率的に製造することが可能な、アルデヒドの製造方法及び触媒の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の要旨は、触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させるヒドロホルミル化反応によりアルデヒドを製造する方法であって、下記(1)及び(2)の工程を含む、アルデヒドの製造方法にある。
(1)長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を、該混合液の液温が95℃以上135℃以下、及び、前記第8~10族遷移金属化合物由来の遷移金属に対する前記有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内で、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程
(2)前記触媒混合液を用いて前記ヒドロホルミル化反応を行う反応工程
【0012】
本発明の第2の要旨は、触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させるヒドロホルミル化反応によりアルデヒドを製造する方法において、酢酸ロジウム、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程と、該触媒混合液を用いて前記ヒドロホルミル化反応を行う反応工程とを有し、該前処理工程において、該水素及び一酸化炭素と接触させる該混合液の液温を95~135℃、且つ酢酸ロジウム由来のロジウムに対する有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内とする、アルデヒドの製造方法にある。
【0013】
本発明の第3の要旨は、下記(3)及び(4)の工程を含む、触媒の製造方法にある。
(3)長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を、該混合液の液温が95℃以上135℃以下の範囲内、且つ、酢酸ロジウム由来のロジウムに対する有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内で、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程
(4)前記触媒混合液に貧溶媒を混合した後、前記第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒を晶出させ、晶出した該錯体触媒を前記触媒混合液から回収する回収工程
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原料オレフィンのヒドロホルミル化反応によるアルデヒドの製造において、前処理によるRh錯体触媒等の長周期型周期表第8~10族遷移金属錯体触媒の活性化効果に優れ、アルデヒドを効率的に製造することが可能な、アルデヒドの製造方法及び触媒の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1~4及び比較例2、3の結果を、プレカルボニレーション(前処理)の温度を横軸、プロピレンの量が半分になるまでの時間(半減期)を縦軸(右軸)、及びロジウム錯体触媒の活性率を縦軸(左軸)となるようにプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0017】
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0018】
[アルデヒドの製造方法]
本発明のアルデヒドの製造方法の第一の実施態様は、後述する触媒の存在下に、後述する原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させるヒドロホルミル化反応によりアルデヒドを製造する方法であって、下記(1)及び(2)の工程を含む、アルデヒドの製造方法である。
(1)長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物(以下、「第8~10族遷移金属化合物」という。)、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液(以下、「混合液(1)」という。)を、該混合液の液温が95℃以上135℃以下、及び、前記混合液(1)中の前記第8~10族遷移金属化合物由来の遷移金属(以下、単に「第8~10族遷移金属」という。)に対する前記有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内で、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程
(2)前記触媒混合液を用いて前記ヒドロホルミル化反応を行う反応工程
【0019】
前記触媒としては、後述する有機リン系配位子化合物を配位子とする第8~10族遷移金属錯体触媒を用いることができる。前記金属錯体触媒を用いることで、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させて、前処理による第8~10族遷移金属錯体触媒の活性化効果をより優れたものにでき、アルデヒドを高い生産効率で製造することができる。
【0020】
前記第8~10族遷移金属化合物としては、好ましくは後述する一価以上三価以下のロジウム化合物を含む金属化合物を用いることができる。前記金属化合物を用いることで、前処理によるRh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒の活性化効果をより優れたものにでき、アルデヒドをより高い生産効率で製造することができる。
【0021】
前記一価以上三価以下のロジウム化合物としては、好ましくは酢酸ロジウムを用いることができる。酢酸ロジウムを用いることで、前処理によるRh錯体触媒の活性化効果をより優れたものにでき、アルデヒドをより高い生産効率で製造することができる。
【0022】
本発明のアルデヒドの製造方法の第二の実施態様は、後述する触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させるヒドロホルミル化反応によりアルデヒドを製造する方法において、酢酸ロジウム、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液(以下、「混合液(2)」という。)を、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程と、該触媒混合液を用いて前記ヒドロホルミル化反応を行う反応工程とを有し、該前処理工程において、該水素及び一酸化炭素と接触させる該混合液(2)の液温を95℃以上135℃以下、且つ、該混合液(2)中の酢酸ロジウム由来のロジウムに対する有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内とすることを特徴とする、アルデヒドの製造方法である。
【0023】
前記触媒としては、有機リン系配位子化合物を配位子とするRh錯体触媒を用いることができる。前記Rh錯体触媒を用いることで、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させて、前処理によるRh錯体触媒の活性化効果をより優れたものにでき、アルデヒドを高い生産効率で製造することができる。
【0024】
[触媒の製造方法]
本発明の触媒の製造方法は、下記(3)及び(4)の工程を含む。
(3)第8~10族遷移金属化合物、有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液(以下、「混合液(3)」という。)を、該混合液(3)の液温が95℃以上135℃以下の範囲内で、該混合液(3)中の酢酸ロジウム由来のロジウムに対する有機リン系配位子化合物のリンのモル比率が200以上400以下の範囲内で、水素及び一酸化炭素と接触させ、触媒混合液を得る前処理工程
(4)前記触媒混合液に貧溶媒を混合した後、第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒を晶出させ、晶出した該錯体触媒を前記触媒混合液から回収する回収工程
【0025】
前記(3)の工程は、前述した前記(1)の工程において挙げた条件と、同様の条件が挙げられる。
【0026】
本発明の触媒の製造方法において、前記第8~10族遷移金属化合物としては、上述した理由と同様の理由により、一価以上三価以下のロジウム化合物を含むことができる。
本発明の触媒の製造方法において、前記一価以上三価以下のロジウム化合物としては、上述した理由と同様の理由により、酢酸ロジウムを用いることができる。
本発明の触媒の製造方法において、前記有機リン系配位子化合物としては、特に限定されず、トリフェニルホスフィンを用いることができる。
【0027】
[前処理工程]
<混合液の調製>
本発明のアルデヒドの製造方法の第一及び第二の実施態様、並びに、本発明の触媒の製造方法(以下、これらをまとめて「本発明」と称す場合がある。)における前処理工程では、まず、酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物と有機リン系配位子化合物及び有機溶媒を含む混合液を調製する。この混合液中の溶質はすべて溶解している必要はなく、一部は溶解せずに分散していてもよい。
【0028】
前記混合液の調製に当っては、酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物をアルコールに溶解したアルコール溶液と、有機リン系配位子化合物を芳香族炭化水素溶媒に溶解した芳香族炭化水素溶液とを混合することが好ましい。
【0029】
酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物のアルコール溶液と有機リン系配位子化合物の芳香族炭化水素溶液とを混合することにより、酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物を高分散することができ、好ましい。
【0030】
本発明において、第8~10族遷移金属とは、長周期型周期表において、第8~10族に属する遷移金属である。なかでも、ルテニウム、コバルト、ロジウム、パラジウム及び白金が触媒にした際に活性が高いため好ましい。特にロジウムが活性が高いためより好ましく用いられる。
【0031】
第8~10族遷移金属化合物としては、例えば塩化ロジウム、塩化パラジウム、塩化ルテニウム、塩化白金、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム、硫酸ロジウム、硝酸ロジウム、硝酸パラジウム、塩化ロジウムアンモニウム及び塩化ロジウムナトリウム等の水溶性の無機塩又は無機錯化合物並びにギ酸ロジウム、酢酸ロジウム、酢酸パラジウム、プロピオン酸ロジウム、プロピオン酸パラジウム及びオクタン酸ロジウム等の水溶性有機酸塩等を挙げることができる。また、それぞれの金属の錯体種を用いてもよい。その中でも反応活性及び触媒コストの観点から、酢酸ロジウムを用いるのが好ましい。
【0032】
酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物の溶解にアルコール以外の溶媒を用いるとオキソ反応生成物と反応し副生成物を生成する可能性があり、好ましくない。
【0033】
酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物の溶解に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2―プロピルヘキサノール等の炭素数1~10の低級アルコール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
酢酸ロジウムのアルコールに対する溶解度はメタノール>エタノール>イソプロパノールの順で大きく、アルコールの炭素数が多くなる程、酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物が溶解し難くなる。このため、アルコール溶媒としてはメタノールを用いることが好ましい。
【0034】
酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物のアルコール溶液中の第8~10族遷移金属化合物濃度には特に制限はないが、前記濃度が過度に高いと結晶が析出する可能性があり、過度に低いと経済性が悪化する。このため、アルコール溶液中の第8~10族遷移金属化合物濃度は0.3~15質量%程度、特に1~5質量%程度であることが好ましい。
【0035】
通常、市販の酢酸ロジウムは水溶液(酢酸ロジウム濃度5~50質量%程度)の形態で提供されている。このため、酢酸ロジウムのアルコール溶液は、酢酸ロジウム水溶液由来の水を含むものとなる。
従って、酢酸ロジウムをアルコールに溶解したアルコール溶液は、水分量1~10質量%のアルコール溶液であることが好ましい。更に好ましくは、水分量3~7質量%のアルコール溶液である事が好ましい。
【0036】
Rh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒を形成するための有機リン系配位子化合物としては、ロジウム等の第8~10族遷移金属に対して単座配位子又は多座配位子として機能する常用の任意の有機リン系化合物を用いることができる。このうち、単座配位子となる有機リン系化合物としては、下記式[I]で表される第三トリオルガノホスフィンが挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
(式[I]中、Rはそれぞれ独立して、置換又は非置換の1価の炭化水素基を表す。)
【0039】
Rで示される1価の炭化水素基としては、通常炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のアリール基、炭素数6~24のアルキルアリール基、炭素数6~24のアリールアルキル基等が挙げられる。即ち、上記トリオルガノホスフィンは、例えばトリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、アルキルアリールホスフィン、シクロアルキルアリールホスフィン、アルキルシクロアルキルホスフィン等である。
【0040】
1価の炭化水素基が有し得る置換基としては、限定されるものではないが、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0041】
トリオルガノホスフィンの具体例としては、例えば、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、モノブチルジフェニルホスフィン、ジプロピルフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィンなどが挙げられる。これらの中でも、活性が低いため化学的に安定で、かつ入手し易いことから、トリフェニルホスフィンが好ましい。
【0042】
有機リン系化合物のその他の例としては、例えば、下記の式(1)~(10)で表される3価のホスファイト化合物を用いることができる。
【0043】
<式(1)で表される3価のホスファイト化合物>
【化2】
【0044】
(式(1)式中、R~Rはそれぞれ独立して、置換されていてもよい1価の炭化水素基を表す。)
【0045】
~Rで示される置換を有してもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。
【0046】
式(1)で示される化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、n-ブチルジエチルホスファイト、トリ-n-ブチルホスファイト、トリ-n-プロピルホスファイト、トリ-n-オクチルホスファイト、トリ-n-ドデシルホスファイト等のトリアルキルホスファイト;トリフェニルホスファイト、トリナフチルホスファイト等のトリアリールホスファイト;ジメチルフェニルホスファイト、ジエチルフェニルホスファイト、エチルジフェニルホスファイト等のアルキルアリールホスファイトなどが挙げられる。また、例えば、特開平6-122642号公報に記載のビス(3,6,8-トリ-t-ブチル-2-ナフチル)フェニルホスファイト、ビス(3,6,8-トリ-t-ブチル-2-ナフチル)(4-ビフェニル)フェニルホスファイトなどを用いてもよい。これらの中で最も好ましいのはトリフェニルホスファイトである。
【0047】
<式(2)で表される3価のホスファイト化合物>
【化3】
【0048】
(式(2)中、Rは置換されていてもよい2価の炭化水素基を表す。Rは置換されていてもよい1価の炭化水素基を表す。)
【0049】
で示される置換を有してもよい2価の炭化水素基としては、炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子などを含んでいてもよいアルキレン基;炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子などを含んでいてもよいシクロアルキレン基;フェニレン、ナフチレンなどの2価の芳香族基;2価の芳香環が直接、又は中間にアルキレン基や酸素、窒素、硫黄などの原子を介して結合した2価の芳香族基;2価の芳香族基とアルキレン基とが直接、又は中間に酸素、窒素、硫黄などの原子を介して結合したものなどが挙げられる。
【0050】
の1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。
【0051】
式(2)で表される化合物としては、例えば、ネオペンチル(2,4,6-t-ブチル-フェニル)ホスファイト、エチレン(2,4,6-t-ブチル-フェニル)ホスファイト等の米国特許第3415906号公報記載の化合物などが挙げられる。
【0052】
<式(3)で表される3価のホスファイト化合物>
【化4】
【0053】
(式(3)中、R10は上記式(2)におけるRと同義である。Ar及びArは、それぞれ独立して、置換されていてもよいアリール基を表す。x及びyは、それぞれ独立して、0又は1を表す。Qは-CR1112-、-O-、-S-、-NR13-、-SiR1415及び-CO-よりなる群から選ばれる架橋基である。R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12のアルキル基、フェニル基、トリル基又はアニシル基を表す。R13、R14およびR15はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。nは0又は1を表す。)
【0054】
式(3)で表される3価のホスファイト化合物としては、具体的には1,1’-ビフェニル-2,2’-ジイル-(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト等の米国特許第4599206号明細書記載の化合物、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル-2,2’-ジイル(2-t-ブチル-4-メトキシフェニル)ホスファイト等の米国特許第4717775号明細書記載の化合物などが挙げられる。
【0055】
<式(4)で表される3価のホスファイト化合物>
【化5】
【0056】
(式(4)中、Rは環状又は非環状の置換されていてもよい3価の炭化水素基を表す。)
【0057】
式(4)で表される化合物としては、例えば、4-エチル-2,6,7-トリオキサ-1-ホスファビシクロ-[2,2,2]-オクタン等の米国特許第4567306号明細書記載の化合物などが挙げられる。
【0058】
<式(5),(6)で表される3価のホスファイト化合物>
【化6】
【0059】
(式(5)中、Rは上記式(3)におけるRと同義である。R及びRはそれぞれ独立して、置換されてもよい炭化水素基を表す。a及びbはそれぞれ0~6の整数を表す。aとbの和は2~6である。Xは(a+b)価の炭化水素基を表す。)
【0060】
式(5)で表される化合物のうち、好ましいものとしては、例えば、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。また、特開昭62-116535号公報および特開昭62-116587号公報に記載の化合物が含まれる。
【0061】
【化7】
【0062】
(式(6)中、Xはアルキレン、アリーレンおよび-Ar-(CH)x-Qn-(CH)y-Ar-からなる群から選ばれる2価の基を表す。Ar、Ar、Q、x、y、nは上記式(3)におけるAr、Ar、Q、x、y、nと同義である。)
【0063】
<式(7)で表される3価のホスファイト化合物>
【化8】
【0064】
(式(7)中、X、Ar、Ar、Q、x、y、nは上記式(3)におけるX、Ar、Ar、Q、x、y、nと同義である。R18は上記式(2)におけるRと同義である。)
【0065】
<式(8)で表される3価のホスファイト化合物>
【化9】
【0066】
(式(8)中、R19及びR20はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基を表す。R19及びR20のうちの少なくとも一方の芳香族炭化水素基は、酸素原子が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に炭化水素基を有している。mは2~4の整数を表す。各-O-P(OR19)(OR20)基は互いに異なっていてもよく、Xは置換されていてもよいm価の炭化水素基を表す。)
【0067】
式(8)で表される化合物の中で、例えば、特開平5-178779号公報に記載の化合物が好ましい。
【0068】
<式(9)で表される3価のホスファイト化合物>
【化10】
【0069】
(式(9)中、R21~R24は、それぞれ独立して置換されていてもよい炭化水素基を表す。R21とR22、R23とR24は互いに結合して環を形成していてもよい。Wは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を表す。Lは置換基を有していてもよい飽和又は不飽和の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0070】
式(9)で表される化合物としては、例えば、特開平8-259578号公報に記載のものが用いられる。
【0071】
<式(10)で表される3価のホスファイト化合物>
【化11】
【0072】
(式(10)中、R25~R28は、置換されていてもよい1価の炭化水素基を表す。R25とR26、R27とR28は互いに結合して環を形成していてもよい。A及びBはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。nは0又は1の整数を表す。)
【0073】
25~R28で示される置換基を有してもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。A,Bの置換基を有していてもよい2価の炭化水素基としては、芳香族、脂肪族又は脂環族のいずれであってもよい。
【0074】
これらの有機リン系配位子化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。通常は1種のみが用いられる。
【0075】
有機リン系配位子化合物としては、オキソ反応において、前処理によるRh錯体触媒の活性化効果をより優れたものにでき、アルデヒドをより高い生産効率で製造することができる観点から、前記式(I)で表されるトリオルガノホスフィンが好ましい。特に、耐熱性の高い観点から、トリフェニルホスフィンが好ましい。
【0076】
このような有機リン系配位子化合物を溶解するための芳香族炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
有機リン系配位子化合物の芳香族炭化水素溶液中の有機リン系配位子化合物濃度は、1~90質量%、特に5~50質量%程度が好ましい。
【0078】
本発明においては、上記のような酢酸ロジウムのアルコール溶液と有機リン系配位子化合物の芳香族炭化水素溶液とを混合して混合液とする。
【0079】
この混合液中において、第8~10族遷移金属化合物由来の第8~10族遷移金属の含有割合、又は、酢酸ロジウム由来のロジウムの含有割合の下限は、前記混合液の総質量に対して、40質量ppm以上であることが好ましく、80質量ppm以上がより好ましく、120質量ppm以上がさらに好ましい。一方、第8~10族遷移金属の含有割合の上限は、前記混合液の総質量に対して、500質量ppm以下であることが好ましく、400質量ppm以下がより好ましく、250質量ppm以下がさらに好ましい。ロジウム等の第8~10族遷移金属濃度が低すぎると反応速度が遅くなり、十分な反応が行えない場合があり、高すぎると高沸物をパージする時に同伴して抜き出されるため、高価なロジウム等の第8~10族遷移金属のロスが多くなってしまう。
【0080】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、第8~10族遷移金属化合物由来の第8~10族遷移金属の含有割合、又は、酢酸ロジウム由来のロジウムの含有割合は、前記混合液の総質量に対して、40質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましく、80質量ppm以上400質量ppm以下がより好ましく、120質量ppm以上250質量ppm以下がさらに好ましい。
【0081】
混合液中において、第8~10族遷移金属化合物由来の第8~10族遷移金属に対する有機リン系配位子化合物のリン(P)のモル比率(P/第8~10族遷移金属)、又は、酢酸ロジウム由来のロジウム(Rh)に対する有機リン系配位子化合物のリン(P)のモル比率(P/Rh)の下限は、200以上であり、250以上が好ましく、300以上がより好ましい。一方、前記モル比率の上限は、400以下であり、390以下が好ましく、380以下がより好ましい。有機リン系配位子化合物が少なすぎるとロジウム等の第8~10族遷移金属への配位量が少なくなるため、ロジウム等の第8~10族遷移金属が十分に安定化されず、得られた触媒が十分な活性を示さないことがあり、多すぎると、オキソ化における副生成物の生成が増加する。さらに、前処理(プレカルボニレーション)において、反応系内での濃度が高くなり、高沸物をパージする時に同伴して抜き出されるため、ロスが多くなってしまう。
【0082】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、前記第8~10族遷移金属化合物由来の第8~10族遷移金属に対する有機リン系配位子化合物のリン(P)のモル比率(P/第8~10族遷移金属)、又は、酢酸ロジウム由来のロジウム(Rh)に対する有機リン系配位子化合物のリン(P)のモル比率(P/Rh)は、200以上400以下であり、250以上390以下が好ましく、300以上380以下がより好ましい。
【0083】
前記混合液中において、有機リン系配位子化合物のリン原子換算の含有割合の上限は、該混合液の総質量に対して、2.8質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.2質量%以下がさらに好ましい。一方、前記リン原子換算の含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、該混合液の総質量に対して、0.12質量%以上が好ましく、0.14質量%以上がより好ましく、0.16質量%以上がさらに好ましい。有機リン系配位子化合物が少なすぎるとロジウム等の第8~10族遷移金属への配位量が少なくなるため、ロジウム等の第8~10族遷移金属が十分に安定化されず、得られた触媒が十分な活性を示さないことがあり、多すぎると、オキソ化における副生成物の生成が増加する。さらに、前処理(プレカルボニレーション)において、反応系内での濃度が高くなり、高沸物をパージする時に同伴して抜き出されるため、ロスが多くなってしまう。
【0084】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、混合液中の前記有機リン系配位子化合物のリン原子換算の含有割合は、該混合液の総質量100%に対して、0.12質量%以上2.8質量%以下が好ましく、0.14質量%以上2.5質量%以下がより好ましく、0.16質量%以上2.2質量%以下がさらに好ましい。
【0085】
<混合液とオキソガスとの接触>
(前処理工程の液温)
本発明では、上記のようにして調製した混合液をオキソガス(水素及び一酸化炭素)と接触させて触媒混合液を得る。
該混合液とオキソガスとを接触させる際の混合液の液温(以下、「前処理工程の液温」という。)の下限は、触媒の活性化効果が得られ、オキソ化における副生成物の生成を抑制できる観点から、95℃以上であり、100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましい。一方、前処理工程の液温の上限は、触媒の失活が抑制され、触媒の活性化効果が得られる観点から、135℃以下であり、130℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
【0086】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、前処理工程の液温は95℃以上135℃以下であり、好ましくは100℃以上130℃以下、より好ましくは105℃以上125℃以下である。
【0087】
(前処理工程の圧力)
本発明において、前記混合液とオキソガスとを接触させる際の系内の圧力(以下、「前処理工程の圧力」という。)の下限は、特に限定されないが、0.5MPaG以上が好ましい。前処理工程の圧力の下限が0.5MPaG未満では、触媒の活性化効果が不十分となる。前処理工程の圧力は1.0MPaG以上がより好ましく、3.0MPaG以上がさらに好ましい。一方、前処理工程の圧力の上限は、特に限定されないが、圧力が高すぎると、反応器の設計圧が高くなることから、通常10MPaG以下が好ましく、6.0MPaG以下がより好ましく、5.0MPaG以下がさらに好ましい。
【0088】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、前処理工程の圧力は0.5MPaG以上10MPaG以下が好ましく、1.0MPaG以上6.0MPaG以下がより好ましく、3.0MPaG以上5.0MPaG以下がさらに好ましい。
【0089】
本明細書において、例えば「前処理工程の圧力が0.5MPaG以上10MPaG以下」とは、具体的には、混合液をオキソガスに接触させるために、混合液を仕込んだ容器にオキソガスを0.5~10MPaG程度の圧力で圧入し、この容器の全圧が0.5~10MPaGとなる状態のことをいう。「MPaG」とは、ゲージ圧(ゲージ圧力)として計測された圧力の単位である。
【0090】
(前処理工程のメカニズム)
本発明において、前処理工程の液温の下限を95℃以上とすることで、Rh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒の活性化効果を高めることができるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
例えば、Rh(III)を還元してRh(I)錯体に変換する反応には吸熱反応が含まれるため、熱が必要になる。このため、前処理工程の液温度を高くしないと、高活性な錯体が得られない。
本発明では、このような観点から、前処理工程の液温度を高くすることでRh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒の活性化効果を高める。
このように液温を上げる観点から、Rh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒の有機リン系配位子化合物としては、耐熱性の高いもの、例えばトリフェニルホスフィンを用いることが好ましい。
また、上述したように、前処理工程の液温の上限を135℃以下とすることで、Rh錯体触媒等の第8~10族遷移金属錯体触媒の失活を抑制し、活性化効果を良好に維持することができる。
【0091】
(前処理工程の操作)
本発明において、前述のように調製した混合液をオキソガスと接触させるには、上述した理由により、好ましくは混合液を仕込んだ容器にオキソガスを0.5~10MPaG程度の圧力で圧入し、この容器の全圧が0.5~10MPaG、液温95~135℃の範囲となるように維持しながら0.5~5時間程度撹拌すればよい。
【0092】
ここで用いる容器は、前処理用にヒドロホルミル化反応を行う反応器とは別の前処理容器であってもよく、ヒドロホルミル化反応の反応器であってもよい。反応器とは別に設けた前処理用容器を用いる場合は、前処理用容器から、前処理工程終了後の触媒混合液を抜き出して反応器に投入すればよい。ヒドロホルミル化反応の反応器を用いた場合は、前処理工程終了後、そのまま続けてヒドロホルミル化反応を行うことができる。
【0093】
前処理に用いるオキソガスの水素/一酸化炭素モル比は、後述のヒドロホルミル化反応におけるオキソガスの水素/一酸化炭素モル比の範囲内でよい。前処理工程におけるオキソガスとヒドロホルミル化反応工程におけるオキソガスは必ずしも同一組成である必要はない。
【0094】
[触媒の回収工程]
以下に、本発明の触媒の製造方法における(4)の工程、即ち、
(4)前記触媒混合液に貧溶媒を混合した後、第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒を晶出させ、晶出した該錯体触媒を前記触媒混合液から回収する回収工程
について説明する。
本発明の触媒の製造方法における前記(3)の工程は、前述した本発明の前処理工程において挙げた条件と同様の条件で行うことができる。
【0095】
前記(4)の工程においては、前処理工程((3)の工程)からの触媒混合液に貧溶媒、さらに必要に応じて水素を混合した後、RhH(CO)(PPhやRhH(PPh等の第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒を晶出させ、晶出した該錯体触媒を触媒混合液から回収する。
【0096】
貧溶媒とは、前記混合液(3)に含まれる有機溶媒よりも第8~10族遷移金属化合物の溶解度が小さいものをいい、触媒混合液と均一相を保つものであり、かつ反応帯域で反応に関与しないものが好ましい。具体的には、水、アルコール及びケトンから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン及びそれらと水の混合物が挙げられる。
第8~10族遷移金属の回収率の観点から、貧溶媒としては、水と炭素数1~3のアルコールとの混合物が好ましい。その混合比(体積比率)は、水:アルコールが通常5:1~1:5、好ましくは1:1~1:4である。水の比率が少ないと錯体の溶解度の理由から回収率が低下し、逆に水の比率が高すぎても系が油水の2相となり、良好な回収率が得られない。
【0097】
貧溶媒と触媒混合液の質量比率は、貧溶媒の種類、触媒混合液の組成に影響されるため一律には決められないが、貧溶媒:触媒混合液が、通常約10:1~1:2程度であり、好ましくは5:1~1:1である。貧溶媒の割合が少ない方が晶析回収装置を小さくできるが、十分な回収率が得られるような量を選定する。
【0098】
触媒混合液は、そのまま貧溶媒を混合しても、蒸留などにより液中の有機溶媒の少なくとも一部を除去してから貧溶媒と混合してもよい。
【0099】
さらに、触媒混合液に貧溶媒とともに、必要に応じて水素を混合することにより、第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒をRhH(CO)(PPhやRhH(PPh等、晶出しうる形態へと変化させることができる。水素と接触させる際の温度は、通常0~95℃、好ましくは10~30℃である。
【0100】
水素を混合する方法としては、まず触媒混合液と貧溶媒を混合し、得られた混合液を水素ガスと接触させる方法、水素雰囲気下において触媒混合液と貧溶媒を混合する方法などがある。この場合の水素分圧は通常0.1~10MPaG、水素ガスの接触時間は通常数分~数時間である。
【0101】
次いで、触媒混合液と貧溶媒との混合液の温度を0~95℃、好ましくは10℃以下に保持し、第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒を晶出させる。晶析温度が高すぎても低すぎても触媒の回収率が不十分となるので、この温度範囲に保持することが好ましい。晶析操作の際の圧力は、通常常圧~10MPaGの範囲で行われる。晶析時間は通常数分~数時間である。
【0102】
晶出した第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒は、通常用いられる固液分離の方法で液体と分離される。具体的には、デカンテーション、遠心分離及び濾過等の方法がある。工業的には遠心濾過が使われることが多い。該錯体触媒の回収も混合液(触媒混合液と貧溶媒との混合液)の温度を0~95℃に保持して行うのが好ましい。
【0103】
このようにして回収された第8~10族遷移金属-有機リン系錯体触媒は、通常反応媒体に溶解して、ヒドロホルミル化反応等の反応帯域に供給される。
【0104】
[ヒドロホルミル化反応工程]
本発明のアルデヒドの製造方法の第一の実施の形態および第二の実施の形態では、上記前処理工程後のヒドロホルミル化反応工程において、前処理を経た触媒混合液の存在下、反応器に、原料オレフィンとオキソガスを供給して、ヒドロホルミル化反応を行うことによりアルデヒドを得る。
【0105】
本発明で用いる原料オレフィンとしては、通常、直鎖又は分岐鎖状のα-オレフィン又は内部オレフィンが用いられる。好ましくは炭素数2~20のオレフィンである。具体的にはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ドデセン、1-テトラデセン等のα-オレフィン、2-ブテン、2-ペンテン、3-ヘキセン、4-オクテン等の内部オレフィンが挙げられる。より好ましくはエチレン、プロピレン、又は、1-ブテンである。特に好ましいオレフィンはプロピレンである。
【0106】
オキソガスの水素と一酸化炭素は、別々に反応器に供給しても反応器に供給する前に、予め混合されたオキソガスとして、反応器に一緒に供給してもよい。例えば、改質炉などによって発生するガスや、これらのガスから水素と一酸化炭素を分離して反応器に供給してもよい。
【0107】
ヒドロホルミル化の反応条件としては、水素分圧は通常0.0001MPaG以上、好ましくは0.01MPaG以上、より好ましくは0.1MPaG以上であり、通常20MPaG以下、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下である。水素分圧が低すぎると反応速度が低下してしまい、高すぎると副生物の生成が増えてしまう。
【0108】
一酸化炭素分圧は通常0.0001MPaG以上、好ましくは0.01MPaG以上、より好ましくは0.1MPaG以上であり、通常20MPaG以下、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下である。一酸化炭素分圧が低すぎると反応が進行しなくなってしまい、高すぎるとオレフィンの分圧が下がるため、反応が進行しなくなってしまう。
【0109】
全圧は通常0.0001MPaG以上、好ましくは0.01MPaG以上、より好ましくは0.2MPaG以上であり、通常50MPaG以下、好ましくは30MPaG以下、より好ましくは20MPaG以下である。全圧が低すぎると反応速度が遅くなり、十分な反応が行えず、また高すぎると反応器の設計圧力が高くなり、装置の価格が高くなってしまう。
【0110】
水素分圧/一酸化炭素分圧比、即ち、水素/一酸化炭素のモル比は、通常0.1~100、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.5~6であり、さらに好ましくは0.8~1.2である。この比が小さすぎると反応が十分に進まなくなってしまい、大きすぎても反応が十分に進まなくなったり、副生物の生成が増えたりする。
【0111】
ヒドロホルミル化反応の反応温度は通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。反応温度が低すぎると反応が十分に進行せず、高すぎると副生物の生成が増えたり、触媒が失活したりする場合がある。
【0112】
反応液のRh等の第8~10族遷移金属の濃度の下限は、特に限定されるものではなく、前述の混合液の第8~10族遷移金属濃度でよい。反応液のRh等の第8~10族遷移金属の濃度は、通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、通常10質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは1000質量ppm以下である。Rh等の第8~10族遷移金属の濃度が低すぎると反応速度が遅くなり、十分な反応が行えず、高すぎると高沸物をパージする際に同伴して抜き出されるため、高価なロジウム等の第8~10族遷移金属のロスが多くなってしまい経済的でない。
【0113】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、触媒混合液中の第8~10族遷移金属の濃度は、通常1質量ppm~10質量%であり、好ましくは10質量ppm~1質量%であり、より好ましくは50~1000質量ppmである。
【0114】
反応液の有機リン系配位子化合物のリン(P)と第8~10族遷移金属とのモル比率(=P/第8~10族遷移金属)、第8~10族遷移金属がRhである場合の、有機リン系配位子化合物のリン(P)とRhとのモル比率(P/Rh)についても、前述の触媒混合液と同様でよく、通常0.1~10000、好ましくは0.1~1000、より好ましくは1~100である。この比が低すぎるとロジウム等の第8~10族遷移金属が十分に安定化されず、失活する恐れがあり、高すぎると反応系内での濃度が高くなり、高沸物をパージする時に同伴して抜き出されるため、ロスが多くなってしまう。
【0115】
ヒドロホルミル化反応の反応時間は通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上であり、通常24時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。反応時間が短すぎると反応が十分に進行せず、長すぎると高沸化が進んでしまう。
【0116】
ヒドロホルミル化反応の反応媒体としては、通常原料オレフィン及び触媒を溶解し、反応で生成するアルデヒドより高沸点で、反応阻害作用のない溶媒が好ましい。ヒドロホルミル化反応で使用できる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ブタノール、オクタノール、ポリエチレングリコール等のアルコール類、トリグライム等のエーテル類、酢酸ブチル、酪酸ブチル、ジオクチルフタレート等のエステル類あるいはケトン類などが挙げられる。
また、反応媒体としては、反応で生成するアルデヒドや、その三量体や四量体などのアルデヒド縮合物を用いることもできる。さらに、原料オレフィンと同炭素数を有するパラフィン類を用いることもできる。例えば、プロピレンのヒドロホルミル化であれば、トルエンやブチルアルデヒド又は3量体や4量体などのアルデヒド縮合物との混合物を用いるのが好ましい。
【0117】
ヒドロホルミル化反応に用いる反応器の種類は特に限定されず、撹拌槽型、気泡塔型、棚段塔型、管型又はガスストリッピング型等を用いることができる。通常連続式の反応器に原料であるオレフィン、オキソガスおよび触媒混合液を連続的に供給し、上記ヒドロホルミル化反応条件下で実施されるが、回分式の反応器を使用することもできる。反応の温度を一定に保つために、内部コイルやジャケット、外部熱交換器などを設けてもよい。
【0118】
ヒドロホルミル化反応で生成したアルデヒドを含む反応液は反応器から抜き出される。
反応器から抜き出された反応液からの生成アルデヒドの分離は、蒸留、蒸発、ガスストリッピング、ガス吸収又は抽出等の任意の分離操作及び装置を選んで行うことができる。これらの中でも、好ましくは蒸留による分離である。この場合、蒸留塔を用いて、塔頂より生成アルデヒドを主成分として含む成分を留出させて分離することができる。蒸留の条件としては、特に限定されないが、通常は、塔底温度が50~150℃であることが好ましい。塔内の圧力は、特に限定されないが、通常0.01~0.1MPaであることが好ましい。
【0119】
生成アルデヒドの分離工程では、反応液から未反応オレフィンを回収する任意の手段と装置を付加してもよい。その際は、好ましくは向流接触塔等が用いられる。各装置間には適宜気液分離器等を設けてもよい。
【0120】
上記のように反応液から生成アルデヒドを分離した残渣である触媒液は、オキソ反応器に戻され循環される。
【実施例
【0121】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0122】
実施例及び比較例で使用した化合物は以下のとおりである。
酢酸ロジウム水溶液(酢酸ロジウム濃度28質量%)(商品名:酢酸ロジウムL、エヌ・イーケムキャット株式会社製)
トリフェニルホスフィン(商品名:TPP、北興化学工業株式会社製)
【0123】
[実施例1]
<混合液の調製>
内部を窒素置換した0.5Lの撹拌機付き反応器に、第8~10族遷移金属化合物として酢酸ロジウムの水溶液(酢酸ロジウム濃度28質量%)にメタノールを混合した溶液3.63g(酢酸ロジウム濃度2.12質量%、水分量5.45質量%)と、有機リン系配位子化合物としてトリフェニルホスフィン(TPP)をトルエンに溶解した溶液159.44g(トリフェニルホスフィン濃度0.54mol/L)を仕込み、反応器内の液を、上下撹拌機を用いて撹拌した。
【0124】
<プレカルボニレーション(触媒混合液の調製)>
次いで、オキソガス(水素/一酸化炭素=1(モル比))を該ガスの圧力が1.5MPaとなるように反応器内の液(混合液)に圧入し、昇温を開始した。反応器内の液の温度が120℃になったところで反応器内の全圧が2.0MPaとなった。反応器内の液の温度を120℃に維持しながら2時間撹拌を行った。
【0125】
<ヒドロホルミル化反応>
次いで、反応器内の内液を室温(25℃)まで冷却し、オキソガスを脱圧した後、反応器へプロピレンを10g供給した後、反応器内の液の温度を110℃まで昇温した。オキソガス(水素/一酸化炭素=1(モル比))を反応器中での該ガスの圧力が2.0MPaとなるように圧入した後、この圧力及び温度を維持したまま、1.5時間ヒドロホルミル化反応を行った。
ヒドロホルミル化反応中に、オキソガスの減少量からプロピレンの減少量を求めた。更にプロピレンの量が半分になるまでの時間(半減期)を求めたところ、11.85分であった。この半減期は触媒活性の指標であり、この値が小さいほど、ロジウム錯体触媒の触媒活性が高い傾向にある。
【0126】
さらに、ヒドロホルミル化反応終了後に、ガスクロマトグラフィー法を用いて、前記高圧反応器中の気相部、液相部のオキソガスの減少量からプロピレンの減少量を求めた。更にプロピレンの量が半分になるまでの時間(半減期)よりヒドロホルミル化反応のRh単位当りの反応速度を算出した。
次いで、算出した反応速度を用いて、下記式(1)を用いて算出したロジウム錯体触媒の活性率は、95.0%であった。ロジウム錯体触媒の活性率は触媒活性のもう一つの指標であり、この値が大きいほど、ロジウム錯体の触媒活性が高い傾向にある。
【0127】
【数1】
【0128】
前記式(1)において、「市販のロジウム錯体触媒」には、OMG社のロジウム錯体触媒(商品名:カルボニルヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I))を用いた。「市販のロジウム錯体触媒を用いて、ヒドロホルミル化反応を行った」とは、前記ロジウム錯体触媒を用いて、実施例1のヒドロホルミル化反応のみを行ったことを意味する。
【0129】
さらに、ヒドロホルミル化反応終了後に、前記高圧反応器中の気相部のガス及び反応液を抜き取り、それぞれプロパンの含有割合をガスクロマトグラフィー法にて分析した。更にそれぞれの含有割合より気相部及び液相部のプロパン物質量を算出した。次いで、供給したプロピレンの物質量と生成したプロパンの物質量より、下記式(2)を用いて算出したプロパン化率は、0.418%であった。プロパン化率は副生成物(不純物)であるプロパンの生成割合を示す指標であり、この値が小さいほど、プロピレン製品の不純物は少ないといえる。
【0130】
【数2】
【0131】
[比較例1]
実施例1において、プレカルボニレーションを行わなかったこと以外は実施例1と同様の条件で、ヒドロホルミル化反応を行って半減期及びロジウム錯体触媒の活性率を求めた。結果を表2に記載した。
【0132】
[実施例2~4、比較例2,3]
プレカルボニレーション(前処理)の温度を、実施例1における120℃から、表1記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様の条件で、ヒドロホルミル化反応を行ってプロピレン量の半減期、ロジウム錯体触媒の活性率及びプロパン化率を求めた。結果を表2に記載した。
【0133】
[比較例4]
プレカルボニレーション(前処理)に供する混合液の組成と、圧力、温度、時間を、表1記載のとおりに変更すると共に、ヒドロホルミル化反応条件を表2記載のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に行って、プロピレン量の半減期、ロジウム錯体触媒の活性率及びプロパン化率を求めた。結果を表2に記載した。
【0134】
表2においてヒドロホルミル化反応結果の評価基準は以下の通りである。
(プロピレン量の半減期)
A:12.3分以下
B:12.3分を超え14.0分以下
C:14.0分超
(ロジウム錯体触媒の活性率)
A:90.0%以上
B:80.0%以上90.0%未満
C:80.0%未満
(プロパン化率)
A:0.420%以下
B:0.420%を超え0.500%以下
C:0.500%超
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
実施例1~4及び比較例2、3の結果を、プレカルボニレーション(前処理)の温度を横軸、プロピレンの量が半分になるまでの時間(半減期)を縦軸(右軸)、及びロジウム錯体触媒の活性率を縦軸(左軸)となるようにプロットして図1に掲載した。
【0138】
実施例1~4の条件では、プレカルボニレーション処理を実施したため、ロジウム錯体触媒の触媒活性が高くなり、反応速度が向上したことが解る。
特に、図1に示されるように、実施例2~4の条件では、ロジウム錯体触媒の触媒活性が特に優れていた。
【0139】
比較例1の製造条件では、プレカルボニレーション処理を行わなかったため、ロジウム錯体触媒の触媒活性が不十分であった。
【0140】
比較例2、3の製造条件では、プレカルボニレーションにおける温度が95℃より低いか、または135℃より高いため、ロジウム錯体触媒の触媒活性が不十分であった。
【0141】
比較例4の製造条件では、プレカルボニレーションに供する混合液のP/Rhモル比率が400を超えるため、ロジウム錯体触媒の活性率は比較的高いがプロピレン量の半減期、プロパン化率が悪く、プロピレンの不純物量が多かった。
【0142】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2021年3月30日付で出願された日本特許出願2021-056855及び2021年11月26日付で出願された日本特許出願2021-192233に基づいており、その全体が引用により援用される。

図1